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低品位炭の高効率輸送技術の開発

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低品位炭の高効率輸送技術の開発
オーストラリアの露天堀り炭田
低品位炭の高効率輸送技術の開発
―― CWMのコスト低減に向けて ――
■
■
■
●
石炭を効率よく取り扱うために
高濃度化には微粉炭の角取りが有効
低品位炭CWMでも高濃度化を達成
ひとこと 横須賀研究所 エネルギー化学部 主任研究員 小野 哲夫
石炭を効率よく取り扱うために
現在わが国の石炭火力発電では、石炭を貯炭場からベルトコンベアでバーナ前の粉砕機に送り、
細かい粉末状にしバーナから噴出させて燃焼する、微粉炭火力方式が採用されています。しかし、
この方法では輸送効率や貯炭効率が低く、炭じんの飛散や貯炭中の温度上昇などの問題があり、
今後使用が増える低品位炭では一層重要な課題になります。その解決法の一つとして、石炭を微
粉末にし水と混合し流体として扱う「流体化法」がありますが、流体中の石炭の割合の向上(高
濃度化)が課題となっていました。
そこで電力中央研究所は、従来の湿式製造法と比べ、粉砕コストが安く、高効率化が期待でき
る乾式製造法に、初めてコロイドの性質を利用して、安価に高濃度にする方法を開発しました。
■ CWMのメリット
■ コロイド科学を初めて導入
石炭の流体化では、石炭粉末と水を「7:3」
CWMの乾式製造法では、粉砕後に水と添加剤
で混合したものを、CWM(Coal Water Mixture)
を混合しますが、石炭の水をはじくはっ水性が
と呼んでいます。従来の湿式製造では、石炭を
強いために、混練に界面活性剤と時間を多く要
水中で平均粒径を20から40ミクロンに粉砕する
することが難点でした。そこで当研究所は、
とともに、重量比で0.1から0.5%の界面活性剤を
CWM製造に初めてコロイド科学を応用してはっ
混合して固体と液体の分離を防いでいます。こ
水性の解消に成功しました。
れにより、輸送、貯蔵時に石炭の自然発火や炭
一般に、1000分の1ミリ(1ミクロン)以下
じん飛散の問題がなく、流体として扱うことが
の超微粒子が多く分散したものをコロイドと呼
でき、設備が簡略化できます。また、燃料系統
びます。石炭のように、はっ水性の強い微粒子
が重油の場合とほぼ同じになるので、負荷変動
が分散している疎水コロイドに親水コロイドを
にも速やかに追随できる利点があります。
加えると、固体と液体の分離が起きず、安定性
当研究所は、このCWMのコスト低減のために、
が増します。このような作用を生じさせる物質
高濃度化技術をまず瀝青(れきせい)炭で開発
を保護コロイドといい、10億分の1(1ppb)と
し、次いで低品位炭にも有効であることを明ら
いうわずかな量ではっ水性を解消し、界面活性
かにしました。
剤の量を半減しても十分な流動性を得ることに
成功しました。
主蒸気(過熱蒸気)
5000
CWM濃度(%) 70.6 69.3
保護コロイド利用
4000
界面活性剤のみ
注)測定温度 25℃
ボイラ
給水
石炭バンカ
バーナ
集じん器
外気
一次 強圧
通風機 通風機
フライアッシュ
クリン力
ホッパ
粘 度(mPa・s)
微粉炭機へ
空気
予熱器
再燃蒸気
3000
2000
1000
微粉
炭機
クリン力
微粉炭焚きボイラ発電システム
0
CWM濃度
70.6%
69.3%
管理基準
900±300
0.2
0.3
0.4
0.1
界面活性剤添加量(%)
現行の添加量
保護コロイド利用による界面活性剤の削減
高濃度化には微粉炭の角取りが有効
■ 角取り球状化の方法
■ 角取り装置の開発
CWMの石炭濃度を高くするには、石炭の大き
微粉炭の角取り球状化を行い、CWM用の粒径
い粒子の間に細かい粒子が入るように混ぜるこ
分布が容易に得られる自己研磨装置を試作しま
とが大切だといわれています。このためには、
した。この試作装置は回転運動方式とし、微粉
超微粒子を多く含んだ粒径分布とすることが必
炭を円盤中心部にスクリューフィーダーにより
要になりますが、微粉炭には細かな粒子が足り
押し込みます。また、円盤中心部に保護コロイ
ません。
ドを極微量含んだ水を注入し、粉砕と同時に混
そこで石炭火力発電所で使用している大型縦
練ができるようにしました。回転盤と固定盤に
型ミルで粉砕した微粉炭を電子顕微鏡によって
は、石炭粒子が押し合いもみ合う運動がしやす
詳しく観察すると、角が鋭くとがった粒子が多
いように、粉砕歯と呼ばれる突起または溝がつ
いことから、この角を利用して細かな粒子を造
けてあります。石炭は回転盤と固定盤の間を遠
ることを考えました。石炭粒子の尖った角を削
心力で外周方向に移動しながら粉砕歯の効果に
り球形に近づけ、さらに削られた角の角が削ら
よって角が取られ、超微粒子を多く含んだ微粉
れるようにして、細かい粒子とする方法が効果
炭が短時間で生成できました。
的です。
この装置で製造した微粉炭の粒径分布は、角
そして、このような粉砕法には、平板または
取り前に比べ1ミクロン以下の超微粒子成分が
円盤の往復運動、または回転運動によって、石
増加し、広範囲の粒径分布を示しています。こ
炭粒子が互いに押し合い、もみ合う「自己研磨
の角取り装置で製造したCWMは、濃度70%で流
法」が適している事を明らかにしました。
動性の良いものが得られ、目的どおりの効果を
確認しました。
0.1
0.5
微粉炭
質量基準
10
積算ふるい上残留率 R(%)
保護コロイド入り水
50
60
70
80
湿式製造
CWMの一例
90
95
97
98
99
99.5
99.9
0.1
角取り球状化装置の概要
角取り後
角取り前
1
10
粒 径 Dp(μm)
「角取り球状化」前後の粒径分布
100
低品位炭CWMでも高濃度化を達成
褐炭や亜瀝青(あれきせい)炭などの低品位炭は、埋蔵量が多く、灰分や硫黄分が少ないもの
が多く、値段も安いなどのメリットがありますが、水分が多く発熱量が小さいため、あまり利用
されていません。このため、脱水して発熱量を高めて利用しようとしていますが、この場合の炭
じん飛散や自然発火の問題を今回開発した高濃度・低コストCWM化技術で解決しました。
効果が出るため、その価格はほとんど無視でき
■ 低品位炭CWMの高濃度化に成功
従来、脱水した低品位炭を湿式法で製造した
CWMの濃度は65%までしか高めることができま
せんでした。しかし、当研究所が瀝青炭で開発
した保護コロイドの利用と、角取り球状化技術
ます。一方、界面活性剤の使用量は従来法の半
分以下にできるので、単位発熱量あたりで比較
すると、湿式製造の場合より約20%のコスト低
減が可能との試算結果となりました。
で製造した低品位炭のCWMの濃度は、瀝青炭と
脱水低品位炭のCWM性状
同等の70%を達成し、界面活性剤の使用量も瀝
湿式製造
角取り球状化
64.5
69.4
瀝青炭
青炭の場合の半分以下と大幅に減らすことが可
石炭濃度
wt%
能なことを明らかにしました。
粘 度
mPa・s
1000
800
8.9
4500
低品位炭(角取り球状化方式、濃度:69.7wt%)
低品位炭(湿式ボールミル方式、濃度:64.8wt%)
瀝青炭(角取り球状化方式、濃度:69.3wt%)
粘度(mPa・s)
4000
3500
3000
69.0
灰 分
%/coal
4.37
硫 黄 分
%/coal
0.20
発 熱 量
Kcal/kg/coal
4,500
4,860
5,180
備 考;
界面活性剤使用量
%/CWM
0.8
0.13
0.4
0.5
2500
2000
● ひとこと
1500
1000
500
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
界面活性剤使用量(%)
1.2
脱水低品位炭CWMの粘度
■ 保護コロイドは経済的
この低品位炭CWMの1キログラムあたりの発
熱量も湿式製造したCWMの4,500から4,860キロカ
ロリーに増加し、瀝青炭と同程度になりました。
保護コロイドは、1ppbというわずかな添加量で
■ 既刊「電中研ニュース」ご案内
No.338 ライフサイクルのCO2排出量を電源別に求める
No.337 ヒューマンエラーを防ぐために
Central Research Institute of
Electric Power Industry
現在わが国の石炭火力発
電所では、品質の良い瀝青
炭を使用しています。しか
し、今後は品質の劣る亜瀝
青炭や褐炭などの低品位炭
の利用が拡大される状況に
あります。これらの石炭に、
今回開発した角取り球状化
横須賀研究所
と保護コロイドの技術を適
主任研究員
用すると、CWMコストの
小野 哲夫
低減が可能となり、低品位
炭の利用が拡大すると考えています。今後とも
この手法の大規模化など、実用化に向けて努力
していきます。
No.336 原子力発電所の長寿命化に向けて
No.335 ヒートアイランドの実態に迫る
2001年 1 月 3 0 日発行
〒100-8126(財)電力中央研究所 広報部
東京都千代田区大手町1-6-1(大手町ビル7階) TEL.(03)3201-6601 FAX.(03)3287-2863
http : //criepi. denken. or. jp/index-j. html E-mail : www-pc-ml@criepi. denken. or. jp
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