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「多重債務者問題」調査結果について

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「多重債務者問題」調査結果について
[特別調査]
平成 11 年 6 月 21 日
国民生活センター
「多重債務者問題」調査結果について(概要)
「多重債務者問題調査」のねらい
長引く不況の中で、自己破産件数が 96 年以降顕著な増加を見せ、それと共に多重債務者にかか
るトラブルが激増し、社会問題化した。多重債務に関する相談件数も 96 年度以降大幅に増加した。
国民生活センターは、この事態を重要と考え、98 年度の特別調査のテーマの一つとして、多重債
務の問題を取り上げることとした。
調査のポイントは、長引く不況の中での「今までの多重債務者問題との違い」「貸金業者の高
金利と過剰貸付けの現状把握」「各地消費生活センターは多重債務者問題にどう対応すべきか」
等に絞られる。
本特別調査は、国民生活センターのプロジェクトチームが担当し、以下の個別調査の結果を総
合的に把握し、概要として取りまとめた。実施した調査は、「PIO−NET(全国消費生活情
報ネットワークシステム)から多重債務者に関する相談の実情調査」「多重債務者に対するアン
ケート調査」「事業者に対するアンケート調査」「各地消費生活センターに対するアンケート調
査」「多重債務者の借金歴の把握」「個人信用情報機関に対するヒヤリング」等である。この他
「多重債務 110 番」「弁護士特別相談」「消費者ローンに関する広告の実情把握」を行った
注:
「多重債務者」とは、消費者金融業者、信販会社、銀行等からの借入やクレジットカード
の利用など複数の事業者と取引(多重債務)を行っているうちに、借金が返済能力を超えた
り、借金の返済に窮して借金の返済のため借金を重ねている人のこと。
Ⅰ.最近における「多重債務者」の特徴―PIO−NET、多重債務者調査から
1.多重債務に関する消費者からの相談が急増
各地消費生活センターに寄せられた多重債務に関する相談件数は、96 年度以降増加し続け、
98 年度は 16,710 件に急増した(図1)。
図1
件数
多重債務の年度別相談件数
(99年4月30日までの入力分)
20000
16,710
14,283
15000
10,414
10000
3,571
5000
615
6,398
6,141 5,258
4,878
1,263
0
1
9
98
年
度
1
0
99
年
度
1
1
99
年
度
1
2
99
年
度
1
3
99
年
度
1
4
99
年
度
1
5
99
年
度
1
1
6
99
年
度
1
7
99
年
度
1
8
99
年
度
年度
98 年の自己破産申立者は、103,803 件となり、88 年の同件数 9415 件の 10 倍以上となった。自
己破産者の増加が社会問題となっている。
2.中高年の多重債務者が増加
2.中高年の多重債務者が増加
PIO−NET に見る多重債務者は、98 年度で、依然として「20 歳代」が最も多い(人数も増えて
いる)が、年齢構成は、「30 歳代」以上が増え、特に、ここ数年は生計の中心的な担い手である
「40 歳代」「50 歳代」の中高年の多重債務者が 3 割台を占めるようになった。また、「60 歳代
以上」も増えて、98 年度はほぼ 1 割に達した(表1)。
性別はここ数年、「女性」より「男性」の割合が多くなっている(表2)。「多重債務者調査」
性別
でも「男性」の方が多く、30 歳代や 50 歳代の「男性」が特に多かった。
職業は、やはり、給与生活者が多いが、ここ数年は「無職」や「パート・臨時・アルバイト」
職業
「自由・自営業」が増えている(表3)。(多重債務者調査でも同様な傾向である。)
3.無職など低収入の多重債務者は消費者金融業者の利用が多い
「多重債務者調査」(注)では、半数強が「世帯年収(以下、年収)400 万円未満」であり、そ
の中の半分は「年収 200 万円未満」であった。平均年収は 362 万円。
また、「年収 200 万円未満」や「主婦」「無職」の多重債務者を見ると、ほとんどの人が多重
債務のきっかけになった借入先として消費者金融業者を上げている(8 割∼9割)。消費者金融
業者の中には年収が 450 万円以上の人には金利を幾らか安くし、優遇している業者が見られる。
社会的弱者がより高金利のものを利用せざるを得ない状態に置かれていると思われる。
注:弁護士相談に訪れた多重債務者に対して、面接により、アンケート調査を行った。アンケートに回答し
た多重債務者は 225 名である。前回の多重債務者調査(1993 年 11 月実施)との比較を適宜行った。
4.多重債務に陥った要因―「収入減」にシフト。また、借入れの目的が「贅沢
品の購入」から「生活費の補填」にシフト
品の購
入」から「生活費の補填」にシフト
①多重債務者があげた多重債務に陥った要因
PIO−NET では、多重債務に陥った要因として「リストラ、失業」「収入の減少」など「経済状
況の悪化」が上げられている。「収入減」には、「病気、出産等で働けなくなった」や「もとも
と低収入」も見られる(表4)。
「多重債務者調査」でもほとんどの人(76.4%)が「収入減」をあげた。「収入減」のその内
容は残業の減少や事業の不振による「毎月の収入の減少」の他、「失業」「倒産」などがあげら
れている。この他に、住宅ローンの返済の行き詰まりや車の購入費用や教育費、入院費などのま
とまった費用支出(以上「支出が原因」)や高金利等の「経済環境に原因」をあげた人も多い。
「消費生活に問題」(34.2%)をあげた人も見られた。「支出が原因」や「消費生活に問題」を
あげた人も他に「収入減」をあげている人が多かった。(複数回答)(図2)
2
表1 当事者年齢の年度別推移
(PIO−NET)(%)
年度 89年度 90年度 91年度 92年度 93年度 94年度 95年度 96年度 97年度 98年度 平 均
平均年齢(歳)
20歳代の割合(%)
30歳代の割合(%)
40歳代の割合(%)
50歳代の割合(%)
32.9
47.9
18.7
15.9
7.7
33.7
45.0
20.9
14.8
9.6
34.6
40.3
24.2
17.7
11.0
35.3
36.6
28.2
18.1
10.9
36.4
33.9
28.0
19.5
11.8
36.9
32.9
27.8
20.4
12.0
37.0
32.4
28.4
19.9
11.9
37.2
32.7
27.3
20.3
12.0
38.2
30.4
28.4
19.3
13.4
38.5
29.5
28.1
19.3
13.4
37.2
32.6
27.6
19.3
12.3
5.9
6.7
5.4
5.6
6.3
6.5
7.1
7.3
8.5
9.2
7.6
60歳代以上の割合(%)
(注)表1、表2、表3及び表6の 98 年度件数は、98 年4月 30 日までに入力されたものである。
表2
当事者性別の年度別推移
(PIO−NET)(%)
年度 89年度 90年度 91年度 92年度 93年度 94年度 95年度 96年度 97年度 98年度 平 均
男
女
性
性
46.9
53.1
表3
51.3
48.7
49.7
50.3
52.4
47.6
54.0
46.0
56.4
43.6
57.4
42.6
当事者職業別の年度別推移
56.4
43.6
56.7
43.3
58.5
41.5
56.0
44.0
(PIO−NET) (%)
年度 89年度 90年度 91年度 92年度 93年度 94年度 95年度 96年度 97年度 98年度 平 均
給与生活者
無職
家事従事者
自営・自由業
学生
59.8
16.3
18.1
4.2
1.6
58.0
18.0
16.4
5.9
1.6
62.2
14.5
16.2
6.1
0.9
62.4
14.0
16.2
6.8
0.6
62.2
15.4
15.2
6.6
0.6
62.3
15.5
14.7
7.0
0.4
表4 多重債務に陥るそもそもの原因について
61.7
15.5
15.6
6.7
0.5
61.4
16.3
14.8
6.7
0.7
61.7
17.4
13.0
7.4
0.6
60.1
18.7
12.4
7.9
0.8
(PIO−NET)
そもそもの原因について
そもそもの原因がわかっているもの
2,717件
経済状況の悪化によると思われるもの
リストラ、失業、首切りにあって収入がなくなった
収入が減った(営業不振、仕事のノルマがこなせないため等)
自分が営む事業に失敗した
勤務先が倒産した
もともと家計が苦しいと思われるもの
年金生活で収入が少ない
母子家庭で収入が少ない
生活保護を受けて収入が少ない
その他
病気になったため、収入が減った・なくなった
浪費した
1,801件
808件
666件
253件
74件
174件
104件
40件
30件
802件
496件
181件
3
59.3
16.1
13.7
6.8
0.7
表 4 の(注 1)件数はマルチカウント
(注 2)クレジットカード、キャッシュカード、ローンカードなどのカードの使い過ぎによる、いわ
ゆるカード破産は、データからは把握できなかった。
(注 3)98 年 9 月 9 日までに入力された 97 年度分データ(14,023 件)の分析。表5、7も同様であ
る。
表5
多重債務に陥ったきっかけ
(PIO−NET)
97年度
*
%
6,040
100.0
100.0
生活費を借りたため
1,561
遊興費(パチンコ、ギャンブル、遊ぶための費用等)を借りたため
1,031
悪質商法により商品・サービスを契約させられたため
957
ぜいたく品・生活必需品以外の購入のため(アクセサリー、洋服、呉服等)
780
事業資金を借りたため
608
業者や知人に自分の名義を貸したため
587
借金の返済のため
561
自動車購入のため
482
借金の保証人になったため
449
土地・自宅の購入、自宅の新築工事などの契約のため
379
25.8
17.1
15.8
12.9
10.1
9.7
9.3
8.0
7.4
6.3
16.7
12.2
9.2
28.9
6.7
−
−
10.5
10.7
−
多重債務に陥ったきっかけ
「きっかけ」がわかっているもの
増 減
91年度
(%) (ポイント)
9.1
4.9
6.6
▲16.0
3.4
−
−
▲2.5
▲3.3
−
(注)件数はマルチカウント。91 年度「−」は調査項目なし。
表6
年度 89年度
90年度
負債額の年度別推移
91年度
92年度
(PIO−NET)
93年度
94年度
95年度
96年度
97年度
98年度
平均
平 均
390万円 400万円 530万円 510万円 540万円 430万円 400万円 380万円 430万円 410万円 440万円
(概算)
表7 どこから借りたか(借入れ機関別件数)
債務の相手先
借入れ機関がわかっているもの
サラ金
97年度
(*)
%
91年度(%)
12,985
100.0
100.0
86.9
(86.1)
28.5
(27.5)
7.0
(6.1)
0.9
(0.7)
1.0
63.5
−
53.0
−
9.0
−
−
−
−
11,290
(うち複数社利用のケース)
(11,186)
クレジット会社
3,695
(うち複数社利用のケース)
(3,573)
銀行
907
(うち複数社利用のケース)
(796)
個人
119
(うち複数の人から借りたケース)
(95)
その他(会社・農協等)
133
(注)件数はマルチカウント。
4
(PIO−NET)
200
母数:225名
単位:人
は主項目で、
180
172
等はその内訳である。
複数回答
160
140
120
101
100
80
80
77
74
69
58
60
50
45
41 41 40 41
40
19
20
27
24
23
20
22
21
18
15
13
11
10
4
2
0
④
住
宅
ロ
⑤
そ
の
他
5
③ ④
友 そ
人 の
他
知
人
へ
の
名
義
貸
し
た
①
無
計
画
な
買
い
物
②③
贅そ
沢の
な他
遊
び
安
易
な
借
金
ン
ブ
ル
等
ャ
た
②
他
者
の
借
金
の
肩
代
わ
り
、
ン
の
支
払
が
困
た 難
①
保
証
債
務
、
③
悪
質
商
法
の
被
害
に
あ
消
費
生
活
に
問
題
が
あ
っっっっ
②
副
業
の
た
め
の
商
品
購
入
保
証
債
務
や
名
義
貸
し
等
、
た
っ
っ
② ③ ④ ⑤ ⑥
病 失 予 も そ
気 業 定 と の
出
し も 他
産
た と
等
収 低
で
入 収
働
が 入
け
入
な
ら
く
な
な
か
1
っ
①
毎
月
の
収
入
の
減
少
支
出
が ①
原 不
因 意
の
支
出
ー
収
入
が
原
因
ギ
経
済
環
境
に
原
因
①
事
業
資
金
の
調
達
が
困
難
に
②
借
り
た
金
が
高
金
利
③
財
テ
ク
の
失
敗
④
そ
の
他
表8.
職業別に見た消費者金融業者の利用状況 (多重債務者調査)
項 目 人数 ①(注1)残存の
債務総額の
合計(万円)
職業
②の
①の
②債務総額に占める
残存債務
消費者金融業者の
平均額
平均額 の借入総
債務額の割合(%)
(万円)
(万円) 件数の
合計(件)
③借入総件数に占める
消費者金融業者の
借入件数の割合(%)
③の
平均
件数
全体
225
157,331
728
42.6
315
2,251
57.0
6.0
1∼4の平均
194
75,137
484
52.5
254
1,841
57.6
5.7
1.専業主婦
15
8,335
595
59.6
355
137
78.8
7.2
2. パ ー ト ・
臨時アルバイト
3.無職
36
17,188
477
49.5
243
353
62.0
6.3
41
15,170
399
48.9
190
335
56.4
5.3
4.給与生活者
96
48,040
511
53.6
280
985
53.0
6.1
自営業
31
66,806
2,304
29.9(19.2)
713
(321)
410
53.9
8.8
注1:この欄の債務総額は、住宅ローンの借入額を除いて算出した。
注2:自営業者の( )内は、多額債務(2億円)と消費者金融者からの多額借入(1億1千万円)を除いて算出した。
注3:職業の内、自由業とその他の職業は該当件数が少数のため、割愛した。
注4:不明を除いた件数を母数にしているので、各平均値は若干誤差が生じている。
②借入れ金の使途
PIO−NET によると、借入れ金の使途は、97 年度は 91 年度と比べ、「生活費の補填」や「悪質
商法により、商品等を契約させられた」が増加した反面、「贅沢品の購入」が大幅に減少してい
る(表5)。
一方、「多重債務者調査」でも同様な傾向で、多重債務のきっかけになった借入の使途は「生
活費の補填」が最も多い(36.9%)。現存債務、最後の借入は、「借金返済のため」にシフトして
いるが、今回調査は、6年前(1993 年 11 月実施)に行った多重債務者調査と比べ、現存債務、
最後の借入で「生活費の補填」が増えた。
このように、多重債務者問題は、若者の無計画な買い物等による浪費型から、生活苦や長引く
不況を反映したものに様変わりしたことが窺える。
5.借入先は消費者金融業者にシフト
①債務額
PIO−NET で把握した、サラ金・クレジット会社・銀行等から「借金をした」ケース 44,673
件(89 年度∼98 年度まで)について、その額をみると、平均は約 440 万円である(商品・サービ
ス等の購入による債務額は不明)。 年度別の平均金額(概算)は、91年度から93年度までは、
500 万円台となり、その後は、ほぼ 400 万円台の中で増減を繰り返している(表6)。
6
「多重債務者調査」では、借入れ金額元金の残額は平均 728 万円、債務額では「300 万円台」
が最も多い。自営業を除いた主婦等の債務額の平均は、484 万円である(表8)。
②借入れ先
PIO−NET では、消費者金融業者、クレジット会社、銀行等の中で 97 年度は 91 年度に比べ「消
費者金融業者」が増加し、ほとんど(86.9%)の相談者が「消費者金融業者」を利用していた。
「信販会社」は減少(24.5 ポイント減の 28.5%)した(表7)。
「多重債務者調査」でも多重債務のきっかけ、現存債務、最後借入のいずれの場合も消費者金融
業者から借りる人が増えている。現存債務では、ほとんどの人(94.7%)が消費者金融業者から
の債務を1件以上抱えていた。また、現存債務の全借入れ件数のうち、消費者金融業者からの借
り入れ件数が 57%を占めた。特に、「主婦」や「パート・臨時・アルバイト」「無職」では、消
費者金融業者からの借入れ件数の割合が多い(表8)。給与生活者も債務額は多く、「年収 200
万円未満」も消費者金融業者からの借入れ件数の割合が多い。
「多重債務者調査」
・現存債務の借入先
225 名中1件以上
借入れがある人
借入総件数に
平均
占める割合
①「消費者金融業者」
94.7%(213)
5.9 件
57.5%
②「クレジット会社(カードローン)」
59.6%(134)
2.0 件
19.4%
③「銀行、信用金庫、労金等の民間金融機関」
44.0%(99)
0.9 件
9.1%
④「クレジットカード・個品割賦での商品購入」
32.0%(72)
0.9 件
8.6%
⑤「その他」
23.5%(53)
0.5 件
5.3%
多重債務のきっかけとなった借入先
前回調査
①「消費者金融業者」
65.8%(148)
47.2%(92)
②「クレジット会社(カードローン)」
16.9%(38)
29.2%(57)
③「銀行(カードローンを含む)」
15.1%(34)
26.2%(51)
④「クレジットカード・個品割賦での商品購入」 12.9%(29)
8.2%(16)
⑤「その他」
7.6%(17)
5.6%(11)
⑥「親族、友人、知人」
3.6%(8)
5.1%(10)
③多重債務のきっかけになった借入れ時期
「多重債務者調査」では、多重債務のきっかけになった借金をした時期は9年以上前が2割強で
前回調査のほぼ倍に増えている。今まで細々と返金してきたり、借金でつないできた多重債務者
が収入減での返済の行き詰まり等によって、破綻を来したものと思われる。
6.多重債務のために「生活全般の切りつめ」「医者にかかるのを控える」「保
険の解約」
「多重債務者調査」で調べた多重債務に陥ってからの生活変化は、「生活全般を非常にきりつ
7
める」(80.0%)に加えて、60 歳代では「保険の解約」や「医者にかかるのを控える」、年収 400
万円未満では、「医者にかかるのを控える」「安い家賃のところに引っ越す」「車を手放す」な
どの対策が多い。「離婚」「転職」などを余儀なくされている人も見られた。多重債務者の多く
は、もともと生活に余裕がない中での借金であり、毎月の収入のほとんどあるいは収入を上回る
額を借金返済にあて、債務整理や自己破産をする金を工面できない、相談に行く交通費もないな
ど、身動きがとれないほどの深みにはまってしまうまで借金を払い続けている。
7.違法な取り立ての経験が約7割
「多重債務者調査」では、多重債務者の約7割が消費者金融業者等から違法な取り立てを受け
たと訴えた。この中には、「日賦業者による事務所への監禁」「車に乗せて親戚を回り現金を調
達させたり保証人を捜させられた」「妻の職場に行って妻を保証人にした」「家を占拠された」
等非常に悪質な例も報告されている。違法な取り立てがあったという指摘は「60 歳代」(82.6%)
「無職」(80.5%)「年収 400 万円未満」(78.3%)の人から特に多くあげられた。
8. 多重債務者の消費生活等の問題も
「多重債務者調査」では、計画的な消費生活が営めないとか、金利にうとい、ギャンブルには
まったり、買い物のし過ぎなど全ての多重債務者ではないが消費生活等に問題も見られた。
Ⅱ.消費者金融業者の貸付実態の特徴―事業者に対する調査から
1.金利について―ノンバンク業者のほとんどは 20%を上回る高金利
20%を上回る高金利
小口(貸付け額 30 万円の場合)の貸付け金利について、「最も利用が多い金利」として聞いた。
利息制限法で規制している 30 万円を貸付けた場合の上限金利は、現在 18%である。この 18%以
内に収めている事業者は、銀行の 39 行(40 行の内、不明1)とクレジット会社 57 社(不明 6 社)
のうちの 13 社(22.8%)に限られ、消費者金融業者の 28 社(29 社の内、不明1社)とクレジッ
ト会社の約7割は 18%を上回った。クレジット会社は、最高 37.5%、最低 9.6%、平均 21.9%で
あった。消費者金融業者は平均 33.1%であり、約 6 割が 30%以上で、最も低利でも 25.5%、最
高は、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(以下、出資法)の上限金利
に近い 39.9%であった。銀行では最高でも 13.9%、最も低利は 7.6%と、利息制限法の上限金利
に近い金利は見られず、平均は 10.7%であった(表9)。
8
表9.
30万円貸付けた場合の業種別の金利
30万円貸付けた場合の業種別の金利
項 目
業者数
業種
消費者金融業者
29(不明1)
クレジット 信販系 40(不明5)
会 社
銀行系 17(不明1)
銀
行 40(不明1)
計
126(不明8)
18%以下 18%超∼ 20%超∼ 25 % ∼ 30 % ∼ 35%以上 最 高 最 低 平 均
20%以下 25%未満 30%未満 35%未満
(%) (%) (%)
0
6
7
39
52
0
6
9
0
15
0
7
0
0
7
11
10
0
0
21
4
3
0
0
7
13
3
0
0
16
39.9
37.5
18.0
13.9
−
25.5
9.6
13.8
7.6
−
33.1
24.1
17.1
10.7
−
また、返済期日に遅れると残元金に対して約定の遅延損害金の金利が適用されるが、この遅延
損害金の金利も銀行以外はいずれも 18%を上回っていた。特に消費者金融業者の場合、ほとんど
が 35%以上であり、最も低利でも 29.2%、最高は出資法の上限金利とほぼ同じの 40.0%であっ
た。平均は 37.2%。
高金利の業者が多い消費者金融業者について、貸付け額 30 万円の場合の業者規模別年利と遅延
損害金(下記)を見ると、大手業者(資本金 100 億円以上)とそれ以外の業者の金利差が歴然と
している。大手7社(外資系 2 社)のほとんどが 30%未満だったのに対し、7社以外では7割強
(72.7%)が 30%以上であった。外資系 2 社を除く 5 社の平均は、27.70%、遅延損害金の平均
は 34.29%である。
消費者金融業者における貸付け額 30 万円の場合の年利と遅延損害金
資本金 100 憶円以上の消費者金融業者 7 社
7 社以外の場合(22 社)
金利(%) 遅延損害金(%)
(% )
金利
遅延損害金
A社
27.375
32.85
18 以下
−
−
B〃
27.375
36.5
18 超∼20.0 以下
−
−
C〃
25.55
29.2
20 超∼25.0 未満
−
−
D〃
29.2
39.931
25 以上∼30.0 未満
5社
−
E〃
29.0
33.0
30 以上∼35.0 未満
4社
1社
F〃
29.2
36.5
35 以上∼
12 社
20 社
G〃
39.8
39.8
不明
1社
1社
平均
29.64
35.33
平均
34.7
38.0
(参考)
(参考)
具体的な借金例を基に利息額の概算を算出して見る。別紙の事例 3 の場合、同額を借りたとし
て、返済期間を 3 年、元利均等の 36 回・月払いとし、金利 18%(利息制限法の制限金利)の場
合の利息と債務者の約定金利の場合の利息額を概算すると、金利 18%の場合、利息は約 85 万円。
約定の金利での利息は約 169 万円で、これは借り入れ総額 278 万円の約 6 割ほどに当たり、1991
年∼2000 年までの 10 年間に利息だけで年平均約 17 万円支払うことになる。金利が 18%だと約半
分ですむ。
事例 2 について同様な条件で利息を概算すると、金利 18%の場合の利息は約 165 万円。債務者
9
の約定金利の場合は約 382 万円で、借り入れ総額 537 万円の 7 割ほどに当たり、1989 年∼2000 年
までの 12 年間に利息だけで年平均 31.8 万円の支払いとなる。この事例では、98 年は前年分の利
息と合わせて、約 86 万円の利息を支払うことになる。
金利 18%の場合でも利息額は決して低い金額ではないが、それにしても現在の金利はべらぼう
に高い。
30 万円を元利均等の 36 回・月払いで借りた場合の年利別の返済額
1か月の返済額
1年間の返済額
返済額の総額
利息相当額
18%
10,846 円
130,152 円
390,401 円
90,401 円
20%
11,150 円
133,800 円
401,305 円
101,305 円
25%
11,928 円
143,136 円
429,328 円
129,328 円
30%
12,736 円
152,832 円
458,383 円
158,383 円
35%
13,571 円
162,852 円
488,435 円
188,435 円
40%
14,434 円
173,208 円
519,407 円
219,407 円
2.貸付け−申し込みの段階で十分な調査をせずに過剰な貸付けが行われていた
借りる側も自分の返済能力を超えた借入をしたことについて責任は免れない。しかし、基本的
には、事業者が十分な調査をせずに過剰な貸付け(返済能力を超えると認められる貸付け)が行
われていたところに問題がある。「貸金業の規制等に関する法律」(以下、貸金業規制法)第 13
条(過剰貸付け等の禁止)関連のガイドラインでは、貸金業者の取るべき措置として「信用情報
機関を利用して、顧客の借入状況、既往借入額の返済状況等を調査」することを定めている。
過剰貸付けについては、多重債務者の借金歴(別紙)が参考になる。この 5 例のうち①②③⑤の
4 例は、いずれも初期の段階で返済を延滞していることが読み取れる。信用情報機関(注)に
10
(別紙) 過剰貸付けと高金利の実例
事例①(男性・30歳代)
NO. 種別 借入年月日
1 債組 1987. 9.24
2 基金 1987.11.16
3 信販 1987.11.25
4 基金 1988. 3.11
5 債組 1989. 2. 3
6 信販 1990. 8
7 信販 1990. 9. 7
8 貸金 1991
9 信金 1992
10 信販 1992. 9. 18
11 貸金 1993
12 貸金 1993
13 貸金 1993
14 貸金 1994. 5
15 貸金 1994
16 貸金 1994
17 信販 1994. 7. 8
18 貸金 1994.11.11
19 貸金 1995. 6.23
20 貸金 1995
21 貸金 1996
22 貸金 1996
23 貸金 1996
24 個人 1997
25 その他 1998
26 共済
合計
借入金額
残 高
利
323,429
549,922
500,000
722,259
346,122
562,208
1,750,000
302,758
480,000
400,064
377,147
718,951
1,139,297 1,429,854
500,000
500,000
300,000
300,000
85,490
99,141
200,000
78,665
200,000
98,488
500,000
435,051
300,000
227,117
300,000
199,561
500,000
377,669
735,813
410,197
600,000
600,000
700,000
700,000
250,000
110,000
200,000
113,000
250,000
250,000
230,000
170,000
1,800,000 1,800,000
163,200
230,000
1,632,000
率
月々の支払額
9,000
6,000
3,000
15,000
13,000
3,000
3,000
13,000
10,000
2,000
10,000
10,000
20,000
15,000
15,000
20,000
15,000
25,000
35,000
18,600
9,000
7,000
15,870
500,000 生活費・債務返済 ・その他(医療費)
12,730,498 13,016,905
事例②(男性・40歳代)
NO. 種別 借入年月日
1 貸金 1989
2 貸金 1996. 1. 8
3 貸金 1997.11
4 貸金 1997
5 貸金 1997
6 貸金 1997
7 貸金 1998. 2. 6
8 貸金 1998. 3. 2
9 貸金 1998. 7
10 貸金 1998. 7
11 貸金 1998
12 貸金
13 信販
借入金額
500,000
500,000
730,000
230,000
500,000
230,000
500,000
300,000
700,000
429,000
50,000
500,000
200,000
合計
5,369,000 3,930,600
使
途
遊興費
生活費
生活費
その他(車購入)
生活費
生活費
遊興費・生活費・債務返済
生活費
生活費
冷蔵庫
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済
債務返済・ その他(結婚費用他 )
その他(車の修理代金)
792,470(不明除き)
残 高
利 率
500,000 40.004
450,000 40.004
630,000
37.18
120,000 40.004
120,000 40.004
560,000 40.004
390,000 40.004
250,000 40.004
630,000 40.004
171,600 40.004
43,000 40.004
48,000
30.7
18,000 40.004
月々の支払額
25,000
25,000
40,000
13,500
30,000
26,000
25,000
21,500
35,000
42,900
2,000
50,000
20,000
355,900
- 1 -
使
途
事例③(女性・60歳代)
NO. 種別 借入年月日
1 貸金 1991. 4.24
2 信販 1991. 6.22
3 貸金 1991.11.27
4 貸金 1994.1
5 貸金 1997. 2. 3
6 貸金 1997.10.24
7 貸金 1998. 5.26
8 貸金 1998. 7. 3
9 貸金 1998.10. 1
10 貸金 1998.11.27
借入金額
200,000
350,000
200,000
500,000
400,000
100,000
150,000
80,000
300,000
500,000
合計
2,780,000 2,127,000
事例④(男性・40歳代)
NO. 種別 借入年月日
1 貸金 1998. 6. 1
2 貸金 1998. 6. 1
3 貸金 1998. 6. 3
4 貸金 1998. 6. 3
5 貸金 1998. 8.31
6 貸金 1998. 8.31
7 信販 1998. 8
8 信販 1998. 8
9 信販 1998. 8
10 信販 1998. 9.30
11 信販 1998. 9
12 銀行 1998. 9
13 貸金 1998.10.28
14 信販 1998.1
借入金額
残 高
利 率
500,000
499,501
29.2
300,000
288,023 27.375
100,000
99,567 27.375
200,000
183,041 25.550
200,000
199,167 39.931
300,000
297,375 35.500
934,278
934,278
918,756
918,756
817,692
817,692 29.600
371,000
371,000
1,386,785 1,324,800
6.0
911,809
911,809
16.5
200,000
200,000 39.931
200,000
200,000
16.8
計
事例⑤(女性・50歳代)
NO. 種別 借入年月日
1 信販 1980. 4. 1
2 信販 1982. 7.10
3 信販 1985. 3. 1
4 貸金 1985. 3.10
5 信販 1987. 1.27
6 銀行 1987.10. 1
7 貸金 1990. 4.10
8 貸金 1990. 7. 3
9 貸金 1992. 2.28
10 貸金 1992. 3.17
11 信販 1994. 3.28
12 信販 1994. 8. 7
13 貸金 1996.12.10
14 信販 1998. 7.28
15 貸金 1998. 9. 8
16 貸金 1998. 9. 8
計
残
高
利 率
71,000 39.931
350,000
28.8
53,000
36.5
500,000
25.6
190,000 39.931
61,000 39.9675
84,000 40.004
44,000 39.785
280,000 39.785
494,000
30.7
残 高
利
626,591
379,000
690,000
499,568
525,583
520,491
454,758
473,978
305,220
250,000
400,000
122,400
429,128
350,000
302,382
146,430
6,704,000 6,475,529
使
途
152,330
7,140,320 7,045,009
借入金額
500,000
400,000
500,000
500,000
500,000
600,000
500,000
500,000
350,000
300,000
300,000
414,000
500,000
390,000
300,000
150,000
月々の支払額
10,000 生活の為
20,000 生活の為
4,000 生活の為
25,000
20,000
10,000
13,100
9,530
20,700
20,000
月々の支払額
23,389
13,000
3,000
9,000
11,437
20,122
使
途
借金返済
借金返済
借金返済
借金返済
買い取り屋の被害
買い取り屋の被害
67万円が買い取り屋の被害
65万円が買い取り屋の被害
52.5万円が買い取り屋の被害
20万円借金(17万チケット)
28,800 車の購入で買い取り屋の被害
買い取り屋の被害
10,000 借金返済
借金返済
118,748(不明除き)
率
月々の支払額
21,520
20,000
21,520
20,000
一括払 220,000
一括払 102,700
17,000
22,000
16,830
30,000
10,000
13,600
21,000
47,000
19,910
8,000
288,380+一括332,700
- 2 -
使
借入金返済
借入金返済
借入金返済
生活費
借入金返済
借入金返済
借入金返済
借入金返済
借入金返済
借入金返済
借入金返済
喪服購入
借入金返済
借入金返済
途
延滞の事故情報として登録(信販系のCICは7年間、貸金業系のJICは5年間)されるケー
スと考えられるが、にも拘わらずかなり長期間に亘っていろいろな事業者から借り続けている。
また、同一業種内でも多数の業者から連続して借りている。このような借り方が行えるのも、延
滞事故が信用情報機関に登録されていなかったか、借入れの申込みがあった段階で業者が信用情
報機関を利用しなかったか、信用情報機関に延滞情報があっても無視したか、のいずれかが考え
られる。
事例のような過剰貸付けの他に、「30 万円希望したのに 50 万円振込まれた」等の押付け融資
もあとを絶たない。
(注)信用情報機関は、業界単位で設立されている。JIC(貸金業系)、CIC(信販会社系)、全銀連
(銀行系)があるが、JIC(貸金系)のみは、貸し金業規制法で業界団体である貸金業協会にその設置
が義務づけられている。この 3 個人信用情報機関の登録情報のうち、事故情報(延滞情報、代位弁済、自
己破産、債務整理等)については、3個人信用情報機関相互の情報の交流を図り、業種を横断して共通利
用できるようになっている。交流情報の名称をCRINとしている。
3.事故情報の登録−“3
3.事故情報の登録−“3 か月延滞”していても信用情報機関の事故情報に登録し
ない業種がある。
信用情報機関の事故情報の一つに“3 か月延滞情報” (“重度延滞”と言っている 信用情報
機関もある)がある。信用情報機関によれば、“3 か月延滞”とは、返済期日に返済されず、そ
の延滞状態が 3 か月間解消されない場合の事で、各信用情報機関は、このような延滞を事故情報
として登録するという。この“3 か月延滞”の事故情報は、返済が困難になり始めたことを示す
バロメーターである。ところが、この延滞を「契約書に定めがある延滞」と捉えている信用情報
機関と、そうではなく、「全く入金がない場合を延滞」としている信用情報機関(JIC)があ
り、信用情報機関によって“延滞”の捉え方が異なっている。後者では、小額でも入金があれば、
例えば利子のみを支払っている限りその状態が長期に亘って続いても事故情報として登録しない
という。しかし、約定上は延滞なので延滞料金は払ってもらうという。
元金が減らず、利子のみを支払っていると思われる例は、消費者金融業者の大手業者、中小業
者やクレジット会社、銀行等いろいろある。消費者金融業者から借りていて、元金が全く減って
いない例は、過剰貸付けと高金利の実例としての5例(別紙)のうち、①②③の 3 例に見られる
が、JICでは利子のみの支払いは延滞として捉えないので事故情報として登録されない。同一
の債務者に何件このような例が発生しても事故情報として信用情報機関に反映されない仕組みに
なっている。このようなことが、自転車操業に陥りながらも長期間に亘って借り続けることがで
き、多重債務の深みに陥っていく大きな要因と考えられよう。
また、リボルビング返済の場合も、返済に行き詰まって1回の返済額を低くするよう組み直し
ても、業者が決めた最低額以上の返済を続けている限り事故情報に反映されない。また、契約期
間内に完済できなくても自動継続扱いになって、この場合も事故情報に反映されない。このよう
に返済困難な状態が事故情報として信用情報機関に反映されない仕組みになっている。
13
貸金業規制法は第 13 条で過剰貸付け等の禁止を規定し、関連のガイドラインでは、貸金業者の
取るべき措置として信用情報機関を利用することを定めている(前出)。しかし、この 5 事例の
ような返済の困難なケースが借り入れの申し込みの段階でチエックできないようでは、なんのた
めの信用情報機関かを改めて問いなおす必要があろう。
4.事故情報の利用―業者によって大きく異なる
今回調査で、消費者金融業者の大手7社はすべてがCRINを常時利用し、うち 4 社は事故情
報があれば貸さないと回答した(多重債務者の借金歴事例の中には大手7社の名前も見られた)。
一方、中小の消費者金融業者の多く(6 割)は、CRINを常時利用せず、他業種の事故情報に
対して注視しない傾向が見られる。また、約四分の一は信用情報機関に事故情報が登録されてい
た場合でも貸付けを行わないとは限らないという。
また、高齢者に対して年金を担保に貸し付ける行為が中小の消費者金融業者の一部で行われて
いる。広告にも中小の消費者金融業者の“年金で即融”“年金迄お手伝い”など年金までの融資
を謳い文句にしたものが氾濫している。また、多重債務者の借金歴には大手の消費者金融業者か
ら全く借りていないケースが多数見られた。
年金担保融資など大手の消費者金融業者が貸さないケースでも中小の消費者金融業者が貸すな
ど、与信(信用貸し)の棲みわけが容易に行われるのも制度上の高金利があるためであろう。
信販会社もCRINを常時利用している業者は半数以下、事故情報が登録されていても貸付け
を行わないとは限らないという回答が 3 割もあった。買取屋の被害も多発していることなので、
事故情報に対する認識を新たにしてもらいたい。
Ⅲ.多重債務者問題解決に向けての緊急課題
今回の調査で、①多重債務に関する相談件数の増加や自己破産者の増加など、多重債務者の量
的変化の他に、②多重債務者の中での中高年齢層の増加、③借入金の目的が贅沢品の購入から生
活費の補填へ変化、④取引先がクレジット会社から消費者金融業者へのシフト、等の質的な変化
が見られた。消費者金融業者の利用者には主婦やパート・臨時・アルバイト、無職など、収入の
少ない層での多さが目立った。また、高金利と安易に貸す与信の甘さが、多重債務をより深刻に
している。
多重債務者側の問題は、ギャンブルや無計画な買い物、返済困難であるにもかかわらず借り入
れを繰り返す等の弱さが見られた。
1. 高金利の是正― 小口貸付けの関連法規(利息制限法と出資法、貸金業規制法)
の抜本的な見直し
例えば、「利息制限法と出資法の上限金利のグレーゾーンをなくす」「貸金業規制法第 43
条のみなし弁済規定を廃止する」「利息制限法の制限金利を引下げる」
我が国における貸付け金利関連の法律は、罰則規定のない利息制限法と罰則規定のある出資法
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の2本立てである。利息制限法の上限金利(10 万円未満 20%以下。10 万∼100 万円未満は 18%
以下)と出資法の上限金利(現行 40.004%)との間には所謂グレーゾーンがある。小口貸付けに
ついて支払った利息制限法を超える金利は、貸金業規制法第 43 条(任意に支払った場合のみなし
弁済)で認められている。
多重債務者問題の原因は、消費者金融業者の貸付け金利が極めて高利であることに求められる。
今回の「多重債務者調査」では、多重債務者自身も多重債務に陥った原因を「借りたお金が高
金利」(30.7%)(「毎月の収入の減少」(32.9%)に次いであげている)であることを認識し
ている。すなわち、高金利なので利子返済が負担になっている。しかも、この高金利は「無職」
や「専業主婦」等の社会的弱者が他の金融機関に比べてより高金利な消費者金融業者を利用して
いるという実態が明らかになった。
ところで、消費者金融業者の調達金利は昨年3月末で年利 2.80%(金融監督庁調べ)で、これ
は経済情勢を反映して低利となっている。消費者金融業者は、低金利で調達しているが、貸付金
利は出資法の上限金利の範囲内とは言え現在の金利水準からかけ離れた高利の貸付金利で運営さ
れている。大手の消費者金融業者の多くは、今春成立したノンバンク社債法により、更に低利で
の大量の資金調達が可能となろう。
消費者金融業者やクレジット会社等は、5 年前との比較で、金利を引下げたと言う事業者が 3
割ほど見られたが(消費者金融業者の引下幅の平均は 2.88%。大半が 2%未満)、今後引下げる
と言う業者は 1 割にも満たない。業者側の発意による大幅な金利引下げはほとんど期待できない
と思われる。
小口貸付けの金利が、そのリスク性からある程度の高金利になるのはやむをえない面もあると
思うが、少なくとも前述の法律の枠組みと問題がある条項(貸金業規制法第 43 条の見なし弁済規
定)を基に高金利が適用されているとしたら、極めて問題であり、早急に改めるべきである。
欧米諸国では小口貸付けの金利に預金金利との連動制をとりいれている国(米国、独)もあり、
これらの国では小口貸付けの金利は預金金利の約4倍となっている。
少なくとも多重債務者の深刻な立場を救済するためには、罰則がある出資法と罰則のない利息
制限法及び貸金業規制法第 43 条(任意に支払った場合のみなし弁済)の規定を抜本的に見直すこ
とが必要である。
例えば、まず、100 万円未満の小口貸付けに関して、出資法の上限金利を利息制限法の制限金
利まで引下げ、グレーゾーンをなくす。グレーゾーンが解消されない場合は、貸金業規制法第 43
条−任意に支払った場合のみなし弁済−は廃止する。また、利息制限法の制限金利も現在の金利
水準を反映したものに引下げる。
割賦販売の手数料については、現在、法規制は全くないが、小口貸付けの金利と同様に法規制
をする必要があろう。
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2. 過剰貸付けの防止―信用情報機関の利用の制度化。同時に事故情報の充実
個人信用情報の管理や利用の仕方は、消費者信用において非常に重要である。
相談事例の中には、明らかに返済能力を超えていると考えられる貸付けが多数見られたが、個
人信用情報の管理や利用の仕方次第で、過剰貸付けが防げることもあれば、容認してしまうこと
もある。
過剰貸付けを防ぐため、業界単位で、JIC(貸金系)、CIC(信販系)、全銀連(銀行系)
の個人信用情報機関が設立されている。この中で、JIC(貸金系)は、貸金業規制法において
業界団体でその設置を義務づけている。この 3 個人信用情報機関の登録情報のうち、3 か月延滞
等の事故情報は、業種を横断して共通利用できるようになっている(交流情報の名称はCRIN)。
今回の「多重債務者調査」で多くの事業者が多重債務を減らす対策として、「信用情報の充実」
(83.3%)や「信用情報機関の一本化」(77.0%)が必要と答えている。
ところが、多重債務者の借金歴を見ると、明らかに延滞していると分かるのに多数の業者が貸
している例、同業種内の残高情報から明らかに支払能力を超えていると分かるのに貸している例
が多数見られた。加えて、事業者に対するアンケートでも、信用情報機関に「事故情報の登録を
即座に行っている」業者は 71.4%、「CRINを必ず利用する」は 54.0%、「事故情報が登録さ
れていたら一切信用供与しない」は 67.5%ほどに止まった。
既述のように、利子のみの支払が長期間続いてもそれは組み直しで新たな契約だからと延滞と
は考えず、事故情報としての登録はしないという信用情報機関がある。また、リボルビング方式
による返済の場合も、返済が困難なために返済額の組み直しを行った場合やあるいは返済が困難
なために契約期間中に返済できなくて自動継続扱いとしても事故情報に反映されない。このよう
な状態があれば、「CRINを利用しない」理由の一つに「CRINはヒット率が低い」という
ことがあげられる(31.3%)のも当然の帰結であろう。
このように約定上の延滞等が事故情報として信用情報機関に反映されない仕組みが見られる。
貸金業規制法第 13 条(過剰貸付け等の禁止)では、「顧客又は保証人となる者の資力又は信用、
借入状況、返済計画等を調査し、その者の返済能力を超える貸付け契約を禁止」しており、更に
具体的に、関連のガイドラインでは、貸金業者の取るべき措置として「信用情報機関を利用して、
顧客の借入状況、既往借入額の返済状況等を調査」することを定めている。過剰貸付け等の禁止
を実効性あるものにするために、ガイドラインのこの内容等を法律で規定し、違反には、行政罰
等を付すことも検討課題と言えよう。
同時に、債務者の返済困難な状態を反映させるためには、現在、各信用情報機関がそれぞれ登
録している事故情報以外に、前記のような、利息しか払わない返済の組み直しについても、一定
の条件のもとで信用情報機関の事故情報に登録するような方策が必要と考えられる。
この他、個人信用情報機関の個人情報を保護する立法措置が必要と考えられる。
一方、販売信用に対しては、現在、割賦販売法で過剰与信に関する防止条項(第 42 条の3)
はあるが、禁止条項はない。販売信用においても金銭信用と同じように禁止条項とすることが必
要であろう。
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3. 多重債務者の救済・支援―多重債務のより早い段階での対処と多重債務者の
多重債務者の救済・支援―多重債務のより早い段階での対処と多重債務者の
相談機関の拡充
多重債務者が相談できる主な機関は、下記のとおりである。
「(財)クレジットカウンセリング協会」
「各地消費生活センター」
「各地の弁護士会」「各地の司法書士会」
「地裁」「簡易裁判所」等がある。
これらのなかで、「(財)クレジットカウンセリング協会」と「各地消費生活センターの一部」
では、弁護士が多重債務者から直接相談を受けている(相談料は無料)。さらに、「(財)クレ
ジットカウンセリング協会」では、信販会社と取り引きがあるケースの任意整理は無料で受任し
ている(自己破産は受任しない)。「弁護士会」の相談は概ね 30 分 5000 円、任意整理と自己破
産の受任は勿論有料である。「各地の司法書士会」は自己破産の手続きのみを有料で受けている。
各地消費生活センターの多重債務者問題への取組みは、多重債務者からの相談に対して債務整
理等多重債務を具体的に対処している「弁護士会等他の機関の紹介や情報提供」及びより積極的
な対応として「弁護士相談を実施」している消費生活センターも数年前よりは増えているがその
数は多くない。しかし、多重債務者問題での今後の各地消費生活センターの係わり方として、「消
費者啓発」や「他の機関の紹介や情報提供」の他に、「弁護士相談」や「債務整理やカウンセリ
ング」の必要性など、より積極的な対応の必要性を多くの各地消費生活センターが指摘した
(42.5%)。「消費生活センターの介入によって取りたてをやめさせる」「多重債務専門の弁護
士の配置」などの意見もあった。
今回の「多重債務者調査」では、「あと1回返済したらもう一円もない。どうしたら良いか」
「相談に行く交通費もない」「返せる見通しがないので自殺したい」等の切羽詰まった相談が寄
せられた。また、紹介屋や整理屋の被害にあったという多重債務者が 14%見られたが、紹介屋や
整理屋を見抜けない多重債務者も多く、被害者はもっと多いと考えられる。また、生活をおびや
かすような違法な取りたてにあったという多重債務者が多数見られた。
このような多重債務者の実態を鑑みると、多重債務のより早い段階での対処がなによりも大事
であると考えられる。利子だけ払ってくれれば良いなどという業者の甘い誘いに乗ってずるずる
と解決を引き延ばしてはならない。
事業者の多くも「相談機関やカウンセリング機関の充実」を求めている(73.8%)が、多重債
務者の相談機関は多重債務者の増加や置かれている現状に比し、圧倒的に少ない。「(財)クレ
ジットカウンセリング協会」など、民間での多重債務問題での取り組みの強化及び公的な相談機
関として、消費生活センターの役割を重視し、現在実施している「多重債務に陥らないための消
費者啓発」や「相談機関の紹介」に加え、弁護士の指導のもとに返済計画書の作成等の指導、比
較的簡単な債務整理、独自に行える自己破産書の書き方の指導等、今までより一歩ふみこんだ対
応が求められている。
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なお、多重債務状態解決の選択肢の一つとして、自己破産の他に、多重債務者の生活再建が可
能な手続き(収入等を弁済原資として債務の一部を弁済することにより残債務の弁済を免れる制
度)を含む、個人を対象とする倒産法の早期制定が必要であろう。
4. 消費者教育―消費者への啓発及び消費者教育の充実
今回の「多重債務者調査」では、「年会費にも金利にも注意を払わない」という多重債務者の
回答が過半数を占め、また、「カードを発行してくれるならどこでも良い」が 3 割を占めるなど
(複数回答)。利用者は金利等について比較的無頓着で安易な行動の一面が見受けられた。
また、ギャンブルにはまるとか買い物のし過ぎなど、自己責任が求められる多重債務者も見ら
れる。若い年代の多重債務者に、消費生活のコントロールが苦手の人が比較的多く、自動契約機
や自動貸出機の利用も他の年代よりは多い。収入を得るために悪質商法にはまり、多重債務が更
に深刻になった人もいる。事態の深刻さを認識できないで、返済できる見込みのない借金をし続
けている多重債務者も見られる。整理屋や買取り屋、紹介屋等の被害にあう多重債務者が後を絶
たず、また、多重債務者の多くは身動きがとれなくなってしまうまで借金を払い続けている。
一方、消費生活センターや事業者には、多重債務者の発生防止対策の一つとして、消費者に「家
計管理の消費者教育を充実させる必要がある」とするものが、消費生活センターでは 68%、事業
者でも 60.0%(複数回答)がこれを指摘している。
このようなことから、小口貸付けの利用者等消費者に対して、多重債務者の発生防止と併せて、
啓発と消費者教育の充実を積極的に図る必要がある。
5. 金融機関での小口貸付けの積極化―銀行等金融機関での小口貸付けの積極的
な業務展開
今後の業務として何を重視するを各業者に聞いたところ、「小口の消費者ローンについて重視
する」をあげた銀行は、40.0%(16)しかなく、このことについて消極的な銀行が多かった。
小
口貸付について他業種との競争促進のためにも、銀行等の金融機関が小口貸付けを積極的に行う
ことが望まれる。
6.取り締まりの強化―違法な取りたて行為等の取り締まり等の強化
今回調査で、業者による違法な取りたてや違法な日賦貸付けが見られた。関係行政機関に対し
て、違反者に対する行政指導や取り締まりの強化及び被害の訴えに対しては速やかな対応を求め
たい。
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Ⅳ.多重債務に関する他の問題点等
1.事業者に関して
(1)新規貸付や新規のカード発行時の本人確認が健康保険証など写真入りでない書類でも可
能なため、健康保険証が不正使用される怖れがある。
(2)金融機関が消費者向け小口融資に消極的。
(3)未成年者の信用供与を成人と同じやり方で行っている業者がある。
(4)事業者でない者に日賦貸し付けを行っている消費者金融業者がある。
(5)年金を担保にした貸付けを行っている消費者金融業者がある。
(6)DMや折込広告に貸金業法第 16 条の誇大広告の禁止に抵触する怖れがあるものがある。
2.多重債務者に関して
(1)世帯年収 200 万円未満の極めて収入が少ない人でも消費者金融業者等から借りて多重債
務に陥っている。生活費の補填のために借金を余儀なくされている側面がある。
(2)多重債務に陥っていることを家族に話せず、悶々としている多重債務者が多い。
3.法制に関して
(1)延滞金利等債務不履行による損害賠償額の予定は利息制限法により、貸し付け利率の 2
倍まで認められているが、貸し付け金利によっては延滞金利が高くなり過ぎる。倍率
の検討が必要。
(2)現行の破産法は、破産宣告から免責決定までにタイムラグがあり、破産宣告を受けても
免責決定までに事業者による強制執行が合法的に行われる余地がある。
4.その他
(1)多重債務者には生活困窮者が多く、破産宣告等の多重債務の法的措置後の生活の道が困
難なケースが多数見られる。低所得者に対する生活扶助や貸し付け制度などの社会的施
策の拡充、強化が望まれている。
(2)法律扶助協会の予算が少なく、生活困窮者の自己破産等の弁護士費用や訴訟費用の立替
えは、生活保護者に限定せざるを得ない状況のため、充分な機能を果たしていない。
(3)CMなど小口の消費者ローンに関する事業者側からの広告・宣伝が増え、氾濫している
が、反面、消費者信用に関する消費者啓発的なCMなどの広告・宣伝は非常に少ない。
(4)学校教育現場での消費者信用に関する教育が十分行われていない。
(5)自己破産者を深く分析した公的な統計がない。
本件の連絡先
国民生活センター相談部
電話番号 03-3443-1774・8359
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資料
多重債務者からの相談事例
事例1.
サラ金 11 社から夫婦で 800 万円、
住宅ローン 2,600 万円、車のローン等 210 万円の借金がある。
夫はトラックの運転手だったが、3月に事故を起こし失業中。私も求職中で収入はない。
住宅ローンも3月から支払っていない。銀行から代位弁済するという通知がきた。車のローン(140
万円)も払えず信販会社が車をもって行った。夫はヤケを起こし、借金はほっておけばいいと言
う。私は、弁護士相談を受けたが自己破産するより方法はないと言われた。夫は住宅ローンも車
のローン(140 万円)も連帯保証人がいるので破産できないと言う。私は、弁護士から 55 万円用
意するように言われ、困っている。(30 歳代、女性、主婦)
事例2.
サラ金 6 社から約 250 万円借金している。年金の年額 110 万円で生活できず借金したが、返済
できない。10 年前から生活費が足りない時借りては返していたが、70 歳になったら仕事もなく、
90 歳の母親をかかえて生活できなくなった。任意整理したい。(70 歳代、男性、無職)
事例3.
住宅を購入後、収入が半減したのでサラ金から 30 万円借りた。半年後、業者が借入限度額を
50 万円にすると勧められ、最初は断ったが、ズルズルと応じた。これを機に債務が増え、返済困
難。現在、住宅ローンの返済の他、サラ金とクレジットで計 13 件、240 万円、住宅ローンを含め
月 39 万円の返済がある。家を手放したくはないので自己破産はさけたい。(47 歳、男性、給与)
事例4.
サラ金 20 数社から総額 320 万円の借金がある。毎月支払ってきたが、滞ってきて、2,3 社から、
自宅に大声で取りたてにきたり、屋上から突き落としてやる死ねと言われたり、娘の会社へ行っ
て母親の借金のことを言いふらすと脅かされている。(女性、50 歳代、給与生活者)
事例5.
6 年前にサラ金で 30 万円借りたのが始まりで現在、サラ金 5 社、信販 2 社、銀行のキャッシン
グ等 560 万円の借金がある。病気、失業で無収入のため、今月返済分 25 万円を支払うと無一文に
なる。自己破産したい(44 歳、男性、無職)。
事例6.
新聞の折り込み広告を見て宅配業の代理店契約を 2 件行った。クレジットとサラ金で計 280 万
円の契約を行ったが、収入がなく返済できない。
最初の契約では 225 万円の契約金をサラ金 2 社から借りた。月約 40 万円の収入があると言われ
ていたが、収入がなく苦しかったので、2 件目は別の業者と契約した。契約金 60 万円はクレジッ
トとサラ金から借りた。これも月 2 万円位にしかならない。(女性)
<title>「多重債務者問題」調査結果について(概要)</title>
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