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静注剤から内服剤への移行
. . ( . ): ∼ シンポジウム Ⅴ <致死性不整脈に対するアミオダロンの位置づけ> 静注剤から内服剤への移行 ―血中濃度からのアプローチ― 志 賀 剛* 表1 アミオダロンおよびデスエチルアミオダロンの 組織内濃度 はじめに AMD (μg/g) DEA (μg/g) AMD/DEA アミオダロン静注剤は生物学的利用率が10 0%と極 めて高く,集中治療や緊急治療が必要な患者に対する 確実な薬物投与を可能にした有用な薬剤である.しか し,アミオダロンは脂溶性で分布容量が大きく,その ほとんどが脂肪に沈着し,薬物動態が複雑である. アミオダロンの静注後にはしばしば内服剤投与への 切り替えが行われるが,内服剤の生物学的利用率は3 1 ∼6 5%とされ,消化管における吸収効率が悪い.この ような背景から,静注剤による抗不整脈効果を維持し たまま,どの時点で内服剤に移行すべきか,そして投 与量をどの程度に設定すべきかといった問題について は,未だ一定の見解がない. 脂 肪 心 臓 心 室 骨 髄 肺 肝 臓 脾 臓 腎 臓 副 腎 甲状腺 リンパ節 骨格筋 精 巣 57 04 . 1 477 . 38 .6 5 13 . 23 33 . 10 66 . 23 24 . 11 69 . 8 85 . 12 19 . 2 80 . 44 66 . 2 13 . 7 91 . 1 111 . 1 139 . 5 239 . 8 813 . 4 511 . 1 538 . 3 536 . 982 . 1 825 . 386 . 2 236 . 04 .6 20 .5 02 .0 02 .6 02 .6 05 .8 03 .5 02 .9 24 .5 05 .5 03 .5 AMD:アミオダロン,DEA:デスエチルアミオダロン. (文献2より引用) デスエチル体の重要性 アミオダロンの分布容量は66 L/kgと報告されてお り,循環血中に入った薬物の大半は血管外の組織に分 このような経過から,デスエチル体の血中濃度は, 布してしまう.前述のとおりアミオダロンは脂溶性が アミオダロンの効果発現に大きな役割を果たすことが 高く,多くが脂肪の豊富な組織に取り込まれるため, 推察される.アミオダロン内服中に死亡した患者の剖 心臓への分布は十分なのかという疑問が生じる.経口 検において,未変化体およびデスエチル体の組織内濃 投与では,初期負荷量4 0 0 mg/日の投与を開始した場 度を測定したところ,脂肪組織にはアミオダロンが豊 合に,心拍数低下やQT延長などの心電図変化がすぐ 富に含有されており,デスエチル体はその1/4程度で に認められず,活性代謝物であるデスエチル体の血中 あった.しかし,心臓などの脂肪の比較的少ない組織 濃度が開始後7日目あたりで検出されるようになるこ では,逆にデスエチル体の濃度が高く,心室では未変 とを経験する.一方,心疾患集中治療室 (CCU)などで 2) 化体の約2倍に達した (表1) . 8 00 mg/日の初期負荷投与を行うと,心拍数低下やQT 1) 延長とともに,デスエチル体検出の時期が早まる . 健常人に対してアミオダロン単回静注を施行した国 内第Ⅰ相臨床試験では,静注終了直後に測定したデス エチル体の血中濃度が5 0 ng/mL (00 . 5μg/mL) にも満 * T. Shiga:東京女子医科大学循環器内科 たなかった3).しかし,長期的にはデスエチル体の分 ― ( 760)― 第1 4回アミオダロン研究会講演集 持続静注 0.5 mç/kç/時 200 mç/日 内服 血中濃度(μç/mL) 2.0 1.5 1.0 0.5 アミオダロン デスエチル体 0 Pre 4d 5d 6d 7d 8d 9d 20d 図1 アミオダロン静注(96時間)から内服20 0 mç/日へ移行した症例の経過 され,症例によっては効果の発現に1 0時間程度を要す 布様式も考慮する必要がある. ることもある4).しかし,デスエチル体の血中濃度は, 静注から内服への移行に伴う問題点 投与開始後4 8時間でも検出されないことが多い.この アミオダロン静注剤は生物学的利用率が10 0%であ 状況で20 0 mg/日の内服剤投与に切り替えると,アミ り,体格が異なっても,体重換算を行えば薬物動態に オダロンの血中濃度が低下する一方でデスエチル体の は差異が生じない.そこで当院では,輸液負荷が困難 濃度もなかなか上がらず,抗不整脈効果の低下が危惧 なCCU入室例などへの静注施行時に体重換算を行っ される.持続静注から内服剤投与への移行はかくのご ている.日本人の平均体重を6 0 kgとすれば,初期急速 とく難しい. 投与量の12 5 mgはおよそ2∼25 . mg/kg,維持投与時 の750 mg/500 mL, 1 7 mL/時はおよそ05 . mg/kg/時と 移行前の累積投与量に着目したアプローチ 換算できる. そこでヒントとなったのが,持続静注を比較的長時 この投与法を適用された急性心筋梗塞患者の経過を 間にわたり継続した当院の事例である.本症例では9 6 例に挙げる.持続性心室頻拍に対して電気的除細動を 時間のアミオダロン持続静注を行ったが,3日後の時 行い,再発予防のためにアミオダロン静注を開始した. 点でデスエチル体の血中濃度が検出可能となった.4 初期急速投与は25 . mg/kg/1 0分,持続静注は05 . mg/ 日間の静注を経て2 0 0 mg/日の内服に切り替えたとこ kg/時で行った.新たに出現した心房頻拍には,10 . ろ,アミオダロンの血中濃度は急激な低下を示さず, mg/kg/時への増量で対処した.こうして急性期の不 デスエチル体の血中濃度もある程度のレベルで維持さ 整脈を抑制できたことから,アミオダロン静注を2日 れ,不整脈の再発もなく内服剤投与に移行できた (図 間で中止した.その際, アミオダロン静注を4 8時間で中 .本症例の経過から,内服移行後の血中濃度は持続 1) 止すると,未変化体の血中濃度は1日で半分以下まで 静注の継続期間に左右されることが示唆される. 低下し,中止後3日目にはほとんど検出されなくなる. アミオダロンの内服剤投与において推奨される400 一方,不整脈の難治例では,心室頻拍や心室性期外 mg/日×14日の初期負荷投与を行った場合,生物学的 収縮の抑制効果を維持しつつ,持続静注から内服剤投 利用率を5 0%と仮定すれば,体内に取り込まれる総量 与への切り替えを図る.持続静注中のアミオダロン血 は28 , 00 mgである.一方,持続静注を2日で中止した 中濃度は,同一用量であっても一定にはならず安定し 場合の累積投与量は約15 , 00 mgであり,体内に取り込 ない.特に静注開始直後には,循環血中に入った薬物 まれた総量は内服剤による初期負荷投与時の1/2程度 が脂肪組織へと取り込まれ,組織と循環血中がある程 にすぎない.それに対し,4∼5日の持続静注を行え 度平衡状態に至った時点で血中濃度が安定すると想定 ば,単純計算すると負荷投与時とほぼ同じ量に達し, ― ( 761)― . 持続静注 0.5 mç/kç/時 血中濃度(μç/mL) 400 mç/日× 7 日間 内服 200 mç/日 内服 2.0 1.5 1.0 0.5 アミオダロン デスエチル体 0 Pre 48h 3d 4d 5d 6d 7d 8d 16d 図2 アミオダロン静注 (4 8時間)から内服40 0 mç/日×7日間を経て2 0 0 mç/日へ移行した 症例の経過 100 mç/日 内服 200 mç/日 内服 持続静注 0.5 mç/kç/時 血中濃度(μç/mL) 2.5 mç/kç 2.0 1.5 アミオダロン 1.0 0.5 デスエチル体 0 Pre 1h 2h 6h 12h 24h 48h 3d 4d 5d 図3 アミオダロン静注(72時間)から内服200 mç/日へ移行した症例の経過 −長期治療例に静注を追加した場合− 内服剤維持投与への円滑な移行が可能になると考えら 服剤への移行では,それまでの累積投与量が成否を左 れる. 右すると考えられる. このような経験から,持続静注を2日で中止する場 合には4 00 mg/日で内服剤を開始し,7日間の負荷投 おわりに 与を経て2 0 0 mg/日に減量するのも方法である.その アミオダロン静注剤から内服剤への移行について, 結果,アミオダロンとデスエチル体の血中濃度は治療 薬物動態の面から考察した.4 8時間のアミオダロン持 域で維持され,不整脈の再発もなく内服剤による維持 続静注から経口維持量2 00 mg/日に移行した場合は, 投与への移行が可能となった (図2) .一方,静注開始 未変化体およびデスエチル体の血中濃度が低下し,治 前からアミオダロン内服剤による治療を受けていた症 療域の濃度を維持できなかった.しかし,持続静注を 例の場合は,数日で持続静注を中止して20 0 mg/日の 4∼5日以上にわたって継続すると,維持量の内服剤 内服剤による投与に切り替えても,デスエチル体の血 投与へ移行しても血中濃度をある程度保てる可能性が 中濃度を維持することが可能であり,内服剤への移行 ある. に支障はなかった (図3) .このように,静注剤から内 持続静注期間が短いときは,7日程度にわたり内服 ― ( 762)― 第1 4回アミオダロン研究会講演集 剤400 mgの負荷投与を施行してから維持量に移行す る方が望ましい.このような切り替えを行う際には, 未変化体の血中濃度のみならず,活性代謝物デスエチ ル体の動態も参考になると考えられる. 文 献 1)志賀 剛,若海美智,松田直樹ほか:アミオダロン経 口投与導入時の初期負荷量と薬物動態.Prog Med 20 0 1;2 1 (Suppl 1):1081―1085. 2)Hosaka F, Shiga T, Sakomura Y, et al:Amiodarone distribution in human tissues after long―term therapy:a case of arrhythmogenic right ventricular car6. diomyopathy. Heart Vessels 20 02;16:154―15 3)志賀 剛,笠貫 宏,田中孝典ほか:日本人における 体内薬物動態―国内第Ⅰ相臨床試験―.Prog Med 0. 200 8;2 8 (Suppl 1):66 7―67 4)志賀 剛,高橋 敦,長嶋道貴ほか:アミオダロン静 注時の薬物動態と抗不整脈効果について―自験例から 57. の考察―.Prog Med 20 09;2 9 (Suppl 1):6 52―6 ― ( 763)― . 質疑応答 (日本医科大学内科学講座教授) 座長/加藤 貴雄 (名古屋大学環境医学研究所心・血管分野(循環器)教授) 児玉 逸雄 (東京女子医科大学循環器内科) 演者/志賀 剛 児玉(座長) どうもありがとうございました.先生 度は保つべきだということですね. のお考えを確認したいのですが,アミオダロンに期待 志賀 そうです. される抗不整脈作用を得るため,あるいは催不整脈作 児玉 ほかにご質問やコメントはありますか. 用を回避するためには,アミオダロンや代謝物の血中 渡邉 (藤田保健衛生大) 心臓ではデスエチルアミオ 濃度をある程度のレベルに保つことが必要だとお考え ダロンの濃度が高かったという剖検例のデータをご紹 でしょうか. 介いただきましたが,この症例の血中濃度はどの程度 志賀(演者) 臨床での経験に基づく印象なのですが, だったのでしょうか. 私にはデスエチル体が重要であるように思われます. 志賀 10年ほど前に経験したARVC (催不整脈性右 心電図の経過を追っていても,何らかの変化が生じた 室心筋症)の患者さんで,亡くなる直前のデータでは ときにはデスエチル体濃度が動いていますし,肺毒性 05 . μg/mL前後です. などの副作用に関しても,デスエチル体の影響はアミ 渡邉 生前の血中濃度はかなり低かったにもかかわ オダロンそのものより強いほどです.良い面でも悪い らず,長期間の内服継続で心臓には蓄積していたとい 面でも,デスエチル体が重要ではないかと考えていま うことでしょうか. す. 志賀 はい,そうです. 児玉 いまのところ,血中濃度と有効性や安全性の 渡邉 どうもありがとうございました. 関連については,はっきりとしたエビデンスが報告さ 児玉 ほかにはありませんか.では志賀先生,あり れていませんが,先生のご経験から考えれば,血中濃 がとうございました. ― ( 764)―