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実使用を考慮したエアコンのCOP変動特性
15 実使用を考慮したエアコンの COP 変動特性 ~異なる機種の比較と COP の基準化~ 0442015 小濱 美奈子 1. はじめに 既報1)においてエアコンの運転効率を表す COP は、様々 ほど、暖房では外気温度が高いほど処理熱量が大きくなる な要因によって変動し、実使用時の COP はカタログに表記 4. 外気温度が COP に与える影響 4.1 冷房モード 傾向が確認できる。 される定格値と大きく異なる事を明らかにした。本研究で は、まず昨年と異なる機種の計測結果をもとに、外気温度 図2,3に示す外気温度別の処理熱と消費電力の近似式 や負荷率に対する COP の変動特性を検証する。次に負荷か を f(E)とする。f(E)により任意の消費電力に対する負荷率と らエネルギー消費を算出するための COP 変動特性の基準化 COP を算出することができる。このとき,処理熱を La を試みる。 〔kW〕 ,消費電力を Ea〔kW〕 ,定格能力を Lc〔kW〕 ,とす 2. 測定概要 測定は熊本県立大学の人工気候室で行った。測定状況を ると,任意の Ea に対する負荷率 RL〔%〕は, RL = 図 1 に、測定条件を表 1 に示す。室外側を再現するA室と 室内側を再現するB室を、それぞれ表1(斜体は JIS B8615-1 の測定条件に基づく実験条件)に設定し、温湿度 100 ⋅ La 100 ⋅ f ( Ea ) = Lc Lc (1) 本方法による COP,COP’ は, が安定した後にエアコンの運転を開始した。エアコンの仕 表1 測定条件 室外機 ・吸込/吹出温湿度 ・送風ファン回転数 ・消費電力 ・室内温湿度 室外側(A室)室内側(B室) 温度 湿度 温度 湿度 (℃) (%) (℃) (%) ・室内温湿度 ・冷媒温度 B室(室内側) A室(室外側) 冷房 条件1 25 条件2 30 40 40 27 27 50 50 条件3 35 40 27 50 暖房 条件4 -3 条件5 2 50 50 20 20 60 60 条件6 50 20 60 50 20 60 図1 測定状況 表2 エアコンの仕様 7 条件7 12 冷房 暖房 定格能力 2.2kW 2.5kW 定格COP 5.57 6.17 定格消費電力 0.395kW 0.405kW COP(-) 室内機 ※1 温度は±0.5℃、湿度は ±10%の変動を許容した y = 2074.5Ln(x) - 8744.1 4000 y = 1580.4Ln(x) - 6871.6 3000 2000 y = 1148.3Ln(x) - 4738.7 1000 0 0 200 400 600 消費電力(W) 800 3. 外気温度別の処理 熱と消費電力の関 係 外気温度別の処理熱 と消費電力の関係を図 2、図3に示す。消費 電力の増加に伴い処理 図2 冷房消費電力と処理熱の関係 熱は増加するが、正比 COP(-) 5000 5000 = = = = 2428.1Ln(x) - 12140 2441.2Ln(x) - 12623 2236.9Ln(x) - 11689 2218Ln(x) - 11909 加率が徐々に減少して いる。これは高負荷領 4000 3000 室外側12℃ 室外側7℃ 室外側2℃ 室外側-3℃ 2000 1000 0 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 消費電力(W) 図3 暖房消費電力と処理熱の関係 8 6 4 2 0 35℃COP 35℃断続 30℃COP 30℃断続 25℃COP 25℃断続 COP′ = La f ( Ea ) = Ea Ea (2) 定格 冷房運転時の実測 COP を図4に示す。図には (2)式による COP’を併 図4 冷房実測COP 記する。実測 COP は処理 熱と消費電力の 10 分平均から算出した値である。断続運転 時注 1)は区別して表記する。 図4より、室外機側室内温度すなわち外気温度が低いほ ど COP は高くなり、負荷率 100%近傍で外気温度 35℃と 25℃を比較すると最大6の差が生じた。これを1℃あたり に換算すると外気温度1℃の低下に対し、COP が 0.7 向上 する。一方、50%以下の低負荷領域では外気温度に対する COP の差が減少する傾向があった。これは低負荷領域では 処理熱に対するベース消費電力注 2)の割合が相対的に大きく -3℃断続 定格 なり、処理熱の差が COP の差 7 12℃COP 7℃COP 6 に反映されないためである 1)。 7℃断続 5 2℃COP 4 2℃断続 4.2 暖房モード -3℃COP 例はせずに処理熱の増 y y y y 6000 処理熱(W) 処理熱(W) 室外側35℃ 室外側30℃ 室外側25℃ 近似式‐(2) 0 様を表2に示す。 6000 16 14 12 10 域で COP が悪化する事 を示している。外気温 度の影響に着目すると 同じ消費電力に対し冷 房では外気温度が低い - 31 - 3 2 1 0 50 100 150 200 負荷率(%) 250 300 暖房時の実測 COP 並びに 近似結果を図5に示す。図 0 50 100 150 200 250 負荷率(%) より、暖房の場合は外気温 図5 暖房実測COP 度の低下と共に COP は減少 し、最大3の差が生じる。これを冷房と同様に1℃あたり に換算すると、外気温度 表3 温度補正係数の比較 1℃の上昇に対し、COP が A社 B社 冷房 0.5/℃ 0.6/℃ 0.2 向上する。昨年の機種 暖房 0.3/℃ 0.2/℃ の結果との比較を表3に示 す。両機種ともほぼ同じ値となった。 近似式‐(2) 8 A社(定格COP:5.37) A社(定格COP:5.81) B社(定格COP:6.17) B社(定格COP:5.57) 温 度 (℃ ) 処 理 熱 /消 費 電 力 (W) 温 度 (℃ ) 処 理 熱 /消 費 電 力 (W) 吹き出し温度の関係 - 32 - COP(-) COP(-) 熱負荷(MJ) 熱負荷(MJ) COP(-) COP(-) 分減少量は約 480g、 図8のB社では 145gであった。室 内環境に応じて除湿量が自動制御されることが望ましいが、 7 6 現段階では負荷率に対する COP 変動係数としてはA社の値 5 4 4 3 3 を採用すべきであろう。 2 近似式‐(2) 近似式‐(2) 2 1 1 5.2 暖房モード 0 0 0 30 60 90 120 150 180 0 50 100 150 200 250 暖房時のエアコン定格能力試験に準ずる外気温度 7℃に 負荷率(%) 負荷率(%) 図6 異なる機種の冷房COP比較 図9 異なる機種の暖房COP比較 おける、異なるメーカーの実測結果を図9に示す。図9と 表5の 100%基準 COP 比より、暖房時は2社の COP 変動傾 表4 負荷率別冷房COPの比 負荷率 40 60 80 100 120 140 160 向が一致していることがわかる。暖房に関しては機種によ A社 0.7 0.8 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 定格基準 B社 1.2 1.2 1.1 0.9 0.8 0.6 0.5 らず負荷率に対する COP の変動係数を基準化できる可能性 A社 0.9 1.0 1.0 1.0 0.9 0.8 0.7 100%基準 B社 1.3 1.3 1.2 1.0 0.8 0.7 0.5 が示唆される。 表5 負荷率別暖房COPの比 6. 年間エネルギー消費量の試算 負荷率 40 60 80 100 120 140 160 180 200 A社 0.8 0.9 1.0 1.0 1.0 1.0 0.9 0.8 0.8 定格基準 B社 0.6 0.7 0.8 0.8 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 今回実測した COP(基準 COP)を用い、九州地域の6畳間に A社 0.7 0.9 1.0 1.0 1.0 0.9 0.9 0.8 0.7 100%基準 B社 0.7 0.9 1.0 1.0 1.0 0.9 0.9 0.8 0.7 対する年間暖冷房エネルギー消費量の試算を行った。結果 5. 負荷率が COP に与える影響 を表6に示す。冷房では期間エネルギー消費量の推定結果 5.1 冷房モード に大きな差はないが、暖房では基準 COP による方法は定格 エアコン定格能力試験に準ずる外気温度 35℃における、 COP による方法の約 2 倍の値となった。 異なるメーカーの COP 実測結果を図6に示す。図より、A 一方、図10、11には住宅の居間の熱負荷と COP の、 社は 100%近傍で COP は最大となり、それ以下では低下し 負荷率に対する分布を示す。冷房時は COP が高くなる負荷 ている。一方、B社は 50%近傍で COP は最大となっている。 率と熱負荷の山が近似するが、暖房では COP が悪化する領 また最大能力付近の COP は同程度であるが 75%近傍で約 域の熱負荷が多い。熱負荷と COP 変動特性の不一致が期間 2.8 の差がある。表4は各負荷率の COP を定格 COP(上段)お COP を低下させる要因といえる。 表6 年間冷暖房エネルギー消費量 よび 100%の COP(下段)で基準化した値である。負荷率に対 エネルギー消費量(MJ) 期間COP(-) する COP 変動を標準化して利用するためには、機種によら 冷房 暖房 冷房 暖房 定格COPによる場合 230.3 787.7 5.57 6.17 ず表の数値がほぼ一致する事が望ましいが、実際の機種で 基準COPによる場合 211.9 1478.2 6.06 3.29 は差が見られる。 20 10 6 16 熱負荷 熱負荷 14 5 COP 8 COP 15 一方、図7、8に外気温度 35℃条件の消費電力と処理熱、 12 4 6 10 10 3 8 吹き出し温度を示す。図7より、A社の吹き出し温度はほ 4 6 2 5 4 2 1 ぼ一定で 15℃以下を保っているが、図8のB社は運転開始 2 0 0 0 0 0 50 100 150 200 250 から一時間程度は 15℃以下となり、それ以後はA社の吹き 0 50 100 150 200 250 負荷率(%) 負荷率(%) 出し温度より約 3℃高い状態で運転している。室内機側の 図10 冷房時の住宅熱負荷と 図11 暖房時の住宅熱負荷と 部分負荷を考慮したCOP 部分負荷を考慮したCOP 測定条件において、除湿可能な露点温度は 15℃であり,吹 き出し温度が 15℃を上回る間、B社のエアコンは除湿を行 7. まとめ っていないことになる。吹き出し温度を高めに制御すると ・ 外気温度に対する COP 補正係数は機種によらずほぼ一 蒸発温度を高く設定できるので、COP は向上する。 定であった。 このような制御の差が 消費電力 ・ 負荷率に対する変動系数は暖房でほぼ一致し、冷房で 3500 30 処理熱 COP に影響を及ぼしてい 吹出口 3000 25 は低負荷領域で大きく異なった。これは吹き出し温度 2500 るのだが、B社の場合は 20 2000 の制御が原因であり、除湿能力を考慮すればA社を基 15 除湿能力を低下させて 1500 10 1000 準とすべきと考えられる。 COP を向上しており、冷 5 500 ・ エネルギー消費量の試算の結果、定格 COP による方法 0 0 房として望ましいかは疑 0:00 0:30 1:00 1:30 2:00 経過時間(h) では暖房時の推定量がかなり小さくなり、COP の変動 問が残る。実使用を想定 図7 A社の消費電力,処理熱, 特性を考慮する必要性が示された。 すると、一時間当たり、 吹き出し温度の関係 注釈 人 間 1 人 50 g 、 外 気 消費電力 4000 30 処理熱 注1)断続運転とは、エアコンのインバータの能力絞り限界以下の低負荷領域に 3500 吹出口 25 170g、さらに調理を行っ 3000 おいて、コンプレッサーのON/OFFを繰り返す運転である。 20 2500 注2)ベース消費電力とは、ファンや制御のために使用される電力である。 た場合、料理は 100g、 2000 15 1500 10 レンジフードの換気で 1000 参考文献 5 500 1)吉田光子 実使用を考慮したエアコンの COP 変動特性,平成 18 年度熊本県立大 0 0 5630g の水分を除湿する 0:00 0:30 1:00 1:30 2:00 2:30 3:00 3:30 4:00 学卒業論文 必要がある。図7におけ 2) 細井昭憲ら 他 2 名,人工気候室における測定結果に基づく冷暖房 COP の部分 経過時間(h) 負荷,日本建築学会環境系論文集,2007 図8 B社の消費電力,処理熱, るA社 1 時間あたりの水 8 7 6 5