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親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣言

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親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣言
 Title
Author(s)
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣言 : 児童相談所長の申
立により認容された事例の考察
許斐, 有; 白石, 孝
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
社會問題研究. 1993, 42(2), p.47-75
1993-03-31
http://hdl.handle.net/10466/6661
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
親権の消極的濫用を理由とする
親権喪失宣告
一一児童相談所長の申立により認容された事例の考察一一
許斐
有
白石
孝
(神戸市児童相談所)
はじめに
最近日本でも、親による子どもの人権侵害としての児童虐待が、世間の
耳目を集めるようになった O 児童虐待といえば、以前はイギリスやアメリ
カなどの欧米先進諸国特有の社会現象と見られがちであったが、日本でも
このところ深刻な社会問題として注目され始めているのである。この数か
月に限っても、いくつかの書物が出版され、社会的関心の強さを伺わせる 。
1ノ
児童虐待に関しては、多方面からさまざまな問題が指摘されているが、
法的な課題としては、まず第一に親権問題をあげることができる。親(親
権者)による児童虐待行為は、明らかに親権の濫用であり、したがって過
度の虐待に対しては、親権の制限が考慮されることになる。
子どもを虐待するような親からは、親権を取り上げればよいではないか、
そんな親がなぜ、いつまでも親権をもっているのか、というのが世間一般の
素朴な疑問ではないかと思?。しかし、現行法とその運用においては、虐
待をしている親の親権を一時的に停止させたり、親権を喪失させたりする
のはきわめて困難である。もちろん、親権という親にとってのみならず子
どもにとっても重大な権利を、国家が安易に剥奪するのは、けっして容認
されることではない。また、親の親権を取り上げれば問題が解決し、子ど
もの人権は保障できると考えるのも早計である。だが、子どもの人権を侵
害している親をただ手をこまねいて見ていなければならないというのも、
-47-
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おかしな話である。なぜなら、子どもは親の所有物ではなく、一個の独立
した人格だからである。細心の配慮、と適正な手続きを前提として、何らか
の的確な手立てがとられる必要があるということについては、おそらく異
論はないのではないだろうか。
ところで、児童虐待といってもいろんな形態があり、その概念はきわめ
て暖昧である。日本でも、このところ次のような定義が定着してきている O
つまり、児童虐待とは、
「親、または、親に代わる保護者により、非偶発的
に(単なる事故で、はない、故意を含む)、児童に加えられた、次の行為を
いう Jとして、①「身体的暴行J、②「保護の怠慢ないし拒否j 、③「性的
暴行j 、④「心理的虐待j があげられている 2)O おおよそこのような行為を
児童虐待と捉えることについてはさほど問題はないと思われるが、細かく
検討していけば、いろんな次元での定義が可能である。また、どの程度の
行為を児童虐待とするかについても、一義的に定めるのはむつかしい。
「定義の目的に応じて相対的に判断j すべきだと考える 3)O ただし、法の適
用を前提とする定義はより厳密になされる必要があるので、その際は「児
童虐待j という用語は使用しない方がいいのかもしれない。
上記の 4類型のうち、
「身体的暴行j は、軽度のものを除けば日本でも
ようやく児童虐待と認知され、親権濫用と認められるようになった O また、
「性的虐待j についても、実態が少しずつ解明され、児童虐待としての認
識がなされるようになってきている 4)O これに対し、
「保護の怠慢ないし拒
否J (ネグレクト /
n
e
g
l
e
c
t
) については、なかなか児童虐待とは認知され
ず、一般には親権濫用とも意識されないできている。しかし、親としての
子どもに対する最低限の義務すら果たさず子どもを放置しているのは、ど
う考えても親権の濫用(消極的濫用)であり、親権喪失宣告の事由となる
はずである。
本稿では、親権の不行使を理由として児童相談所長が親権喪失宣告の申
立をした事例を紹介し、親権濫用と親権喪失宣告をめぐる児童福祉法上の
課題について考察してみたい。
-48-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
I 児童相談所長により「親権の不行使」を理由として親権喪失
宣告の申立がなされた事例について
民法8
3
4
条は「父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるとき
は、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失
を宣告することができる j と定め、児童福祉法 3
3条の 5によって、その請
求権を児童相談所長にも認めている O 過去に明らかにされているものとし
ては、親権者たる父の虐待に耐えられずに家出した未成年の女子を一時保
護した児童相談所長が親権喪失宣告を求めた事案について、親権者の職務
執行を停止し、親権職務代行者を児童相談所長とする仮処分をしたうえ、
親権喪失の宣告をした事例がある(東京家庭裁判所八王子支部昭和 5
4年 5
月1
6日審判勺。
ところで、親権喪失の実質的要件である「親権の濫用 j とは、親権の内
容である子に対する監護教育の権利を不当に行使したり(身上監護権の積
極的濫用)、また不当に行使せず放置して(身上監護権の消極的濫用)、
子の福祉を著しく害することである。具体的には、懲戒権の範囲を超え暴
行罪を構成する場合、全く放置して生命を危険にさらし遺棄罪の適用をみ
る場合、義務教育を受けさせず就労させたり、その就労先が風俗営業等で
あって、職業許可権を親の利益のために悪用する場合などが該当する。さ
らに、子の財産を不当に処分したり、子に不当に債務を負わせたりすれば
財産管理権の濫用となる O また「著しく不行跡であるとき J とは、親権者
の行為が道徳的倫理的非難を受けるばかりでなく、子の教育上重大な害を
与え、心身ともに子の発達を著しく阻害する場合をいう O
これらの実質的要件が明白重大な場合に、公権力をもって親権の行使を
制限し剥奪して、子を社会的に擁護しようとするのが「親権喪失宣告 j の
意味するところで、ある O
上記事例は身上監護権の積極的濫用一一一懲戒権の濫用に該当すると考え
るが、ここで紹介するのは「親権の不行使 j が身上監護権の消極的濫用と
して、親権喪失の要件に該当するか否かを問うた事例である。
-49-
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)
1.家庭裁判所への申立に至る経緯と審判および戸籍編製
1)ケース概要
K
A子
N
F
r
o=x=ム一一×0 0
│円
ム ム 企
S子
O
(0は男、ムは女、 Aは当該児童、
=ーは婚姻関係、一一ーは内縁関係、
×は婚姻関係・内縁関係の解消を示す)
9
年 1月に K (国籍韓国)と婚姻し二人の
実母 A子(国籍日本)は、昭和4
間で長女および二女を出産したが、昭和5
3年 3月に別居し、その後 W市内
4
のスナックに勤めるうちに客としてきた N (国籍日本)と知り合い、昭和 5
年 4月に Nとともに神戸市内に移り住み、同年 5月頃からNと同棲するに至っ
た
。
A子は Nとの聞に当該児童S子を懐妊したが、 Nは妊娠の事実を知りなが
5
年 1月頃出奔して所在不明となったため、 A子は Nとの同棲を解
ら、昭和5
消し、生活や住居に困って同年 2月に神戸市 H福祉事務所婦人相談員の指
4日神戸市立助産所で S子を出産
導で婦人保護施設 B寮に入寮し、同年 4月2
子は同月 3
0日C乳児院に入所した O
し
、 S
A子は S子を出産すると、一旦B寮に帰ったもののほとんど落ち着かず所
在不明の状態が続き、同年 5月 1
3日B寮を出て神戸市内の友人宅を転々とし
ていた O
その後、 A子は昭和5
6
年 4月Kと協議離婚し、同年 7月W市に転居し、こ
8年 3
の頃からピンクサロンのホステスとして稼働するようになり、昭和 5
月Fと婚姻し、昭和6
3
年 8月Fとの問で長男を出産し、平成 3年 8月 W市内
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
の現住所に転居した O
A子は、昭和5
5
年S
子を出産後一週間でC乳児院に入所させた後、1, 2図
面会に行っただけでS
子とはほとんど接触なく、 S子養育の意志を示さず、
7年 5月に S子の里親委託について電話で同意したのみで、その後 S子
昭和5
との交渉は全くない。
A子は、昭和5
5
年 4月3
0日に S子出生の届出をしたものの届出に過誤があっ
たために、 3子の戸籍が編製されないまま現在に至っているが、これまで児
子と Kの親子関係不存在確
童相談所から再三再四 A子に働きかけを行い、 S
認の申立及び出生届の追完届をなすよう指導してきたが、 A子は児童相談
所からの連絡に何ら反応を示さず、これに応じない状態で、ある O
2
) 児童相談所における措置経過
5年 4月2
1日 相談受理(婦人相談員に伴われて実母 A子来所)
昭和5
5
年 4月3
0日 当該児童S子
、 C乳児院入所
昭和5
7
年 9月2
5日 S子
、 Mへ一時保護委託(里親登録まで)
昭和5
8
年 8月2
5日 里親委託(里親M)
昭和5
3
) 申立に至る経緯
(1)申立の決断まで
まずなぜ親権喪失の申立を行ったのかについて説明しておく必要があろ
うO 当ケースについては相談受理の段階で次のことを考えた O
①
出生の届出を行った後に親子関係不存在確認調停の申立を行う O
②
親子関係不存在確認の調停が成立した後に出生届を提出する。
出生届提出の法定期限が 1
4日以内ということで調停を行うとその期限を
オーバーすることから、当ケースについては①を選択した。だが、実母A子
の希望は S子について日本国籍を取得させたいということであり、しかも S
子は Nとの間に生まれた子であるという実態を直視するなら、むしろ②を
選択すべきであった o S子出生時の国籍法によれば S子は嫡出子として届け
出れば当然に韓国籍を取得するニとになる O そこでS子に日本国籍を取得さ
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せるためには、 S子と Kとの聞には親子関係が存在しないことを求める調停
もしくは審判の申立を行わなければならないので、 A子に対しその手続き
を行うよう指導した O しかし、それをなさないままに A子は所在不明になっ
ている。
次に、出生届の記載事項に過誤があった(前記調停がなされないままに
出生の届出をしているので、 S子は Kとの間の子となり、当然に韓国籍を取
得するのであるが、 A子は S子を非嫡出子として届け出ようとした) 0 この
過誤に対し、追完届を行うようにと指導するも前述のように A子は所在不
明となり、それもなされないままになってしまった O
その後、実母A子の所在をっきとめ、戸籍法5
2条は父母を第一次的届出義
務者としていることから、出生届の追完届を行うように、また親子関係不
存在確認の申立を行うようにと、 A子に対し再三再四働きかけを行うも、 A
子はそれらを完全に無視し、何の動きもなさない。児童相談所の意思がA子
に伝わっていることが配達証明付郵便を受領していることで明らかになっ
ているにもかかわらず何の応答もなし 1。そればかりか、 A子の戸籍謄本を再
請求してみると、 A子本人は S子出生後に Kとは離婚し、その後 Fと再婚し
一児をもうけていることが明らかになった O
このように再三再四の児童相談所からの働きかけにも応じない A子に対
し、児童相談所としては見切りをつけ、 A子本人の手によらないで S子の就
籍ができないものかと検討に入ったのである。
法定の届出義務者が追完届を行わないのであれば、届出義務者・資格者
以外の者(出生子自身を含む)から出生の届出がなされた場合には、職権
により戸籍の記載がなされるという規定(戸籍法4
4
条 3項、昭2
6
.9
.2
0民事
甲1
8
5
1回答二)が適用できないものかと考え、戸籍事務管掌者と協議を行
うも、 S子出生時の国籍法では S子は当然に韓国籍を取得することになり、 S
子は日本国籍を取得しないため、提出された出生届をもとに戸籍の職権記
載は行えないことが判明した O
また、児童福祉法4
7条は児童福祉施設の長の親権代行権を定めているが、
里親は児童福祉施設の長には含まれないとするのが現行の行政解釈であり、
-52-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
親権代行者とはなりえず、里親が里親としての資格では法定代理人として
出生届の追完届及び親子関係不存在確認の申立を行うことができない。
そうすると、児童福祉法に基づいてなしうる手だては児童相談所長によ
る親権喪失宣告の申立と後見人選任の請求が残るのみであり、ここではじ
めて親権者たる母親が何の手続きも行わないのであれば「親権の不行使 j
という親権の消極的濫用に該当するのではないか、 A子の親権を喪失させ
ることができるのではないかとの結論に達した O このことから、
① A子の親権喪失→②後見人選任→③後見人による親子関係不存在確認
申立→④後見人による出生届の追完届→⑤S子の戸籍編製
という一連の手順を思い描いたのである。つまり、児童相談所としては昭
5年に提出された S子の出生届をいかに「生きた Jものとするか、このこ
和5
とのための第一歩として親権喪失の申立を考えたのである O
平成 3年 5月2
2日、実母 A子の住所地を管轄する和歌山家庭裁判所に、神
戸市児童相談所長を申立人として、親権喪失宣告の申立を行った O 同時に
親権喪失宣告審判後に備えて里親Mを後見人に選任する旨の後見人選任の
申立も行った。
(
2
) 申立の趣旨
子に対する親権の喪失宣告審判を求める O
事件本人 A子の未成年者S
(
3
) 申立の実情
子は実母A子が養育できないため、昭和5
5年 4月3
0日付で C乳
未成年者S
児院に入所措置がとられた後、昭和5
8年 8月 2
5日付で里親 Mへ里親委託の
措置がとられ現在に至っている O
事件本人A子は、未成年者の出生届等就籍にかかわる手続きについて、親
として当然なすべき行為を果しておらず、親権の不行使状態にある。
事件本人A子は未成年者S
子の未就籍の事情を知りながら、神戸市児童相
談所の働きかけにもかかわらず全然応答がないまま現在に至っている。
-53ー
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1
)
4
)親権喪失宣告の審判
親権喪失宣告申立事件
7
3
号 平 3・
1
2・3審 判 認 容 )
( 和 歌 山 家 平 3 (家)6
申立人
神戸市児童相談所長
事件本人
A子
未成年者
S子
主文
子に対する親権を喪失させる O
事件本人A子の未成年者S
理由[前掲ケース概要と同趣旨なので省略する]
以上認定の事実に基づき判断するに、未成年者の親権者である事件本人
は、その親権を濫用して未成年者の福祉を著しく損なっているといわなけ
ればならないので、未成年者を事件本人の親権に服させることは不相当で
ある O
よって、本件申立ては理由があるので、主文のとおり審判する。
2月 3日
平成 3年 1
和歌山家庭裁判所
家事審判官
0 0 00
5
)8
子の戸籍編製まで
和歌山家庭裁判所の審判では、 A子は家庭裁判所の出頭命令にも応じず、
また家庭裁判所調査官による実地調査にも応じず、事件本人の陳述はなかっ
たO また近所に住むA子の母親 (
8子の祖母にあたる)は家庭裁判所調査官
に対し、一切何も関わってくれるな等申し述べたということで、和歌山家
庭裁判所は結局は児童相談所の提出した資料に基づき親権喪失の要件を満
たすとして、その旨審判を行ったのである O その後、審判書送付のため、
特別送達、簡易書留等を繰り返したが、受領を拒否された。そこで、最終
的には、普通郵便で審判書を受領するよう催告をしたうえで再度書留郵便
-54一
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
に付して送付し(民事訴訟法 1
7
2条「郵便に付する送達 J
、
) A子に送達しに
7
3
条)、抗告なきものとして平成 4年 1月 2
9日審判確定し
とみなし(同法 1
たのである。
親権喪失宣告審判の確定を受けて、平成 4年 2月 6日里親M を後見人に
選任する審判があった O 翌 3月 6日、後見人 Mを申立人として親子関係不
子出生時に A子と婚姻関係にあった Kの住
存在確認の申立を行う。これも S
所地を管轄する和歌山家庭裁判所に対してであった o 4月 1
7日調停が行わ
れ
、 KはS
子出生時にはすでに A子とは別居し性交渉はなかったと証言し、 S
子は Kの子ではないとして、後見人MとKとの間で調停成立し、同月 2
3日親
5月 1
3日間審判確定。一連の審判が確定したこと
0日S子の単
により、 6月 4日後見人Mによる出生届の追完届を行い、同月 1
. 参照)。
独戸籍が編製された(後掲資料 1
子関係不存在確認審判。
親権喪失宣告の申立から一年間の作業であった O ただ親権喪失宣告の申
立、親子関係不存在確認の申立ともに管轄が和歌山家庭裁判所であり、し
かも担当判事、担当調査官の大部分が同一人であったことは幸運であった。
2
. 本事例の考察
この一年間を振り返刃てみれば、実母 A子は、そこにいかなる事情がある
子に関する諸手続きを一切拒否したことがわかる C 穿った
かしれないが、 S
見方をすれば、 A子自身の生活を守らんがために S子の存在を現夫の Fに知
られたくなかったのかもしれなし h しかし、し 1かなる事情があるにせよ、 A
子には S
子の人権に対する配慮のかけらも見られないのである O
そもそも親権の喪失宣告ということは、国家が親としてふさわしくない
親から親権を取り上げるということであり、その根底に流れているのは
「親が親権を濫用するのを放置しておけば子の人権が侵害されるおそれがあ
6
) という
り、子の利益を保護するとしヴ親権の目的自体を逸脱してしまう J
考えである。
I
子どもの権利条約Jは、その第 7条に「子どもは、出生の後直ちに登
録される。子どもは、出生の時から名前をもっ権利および国籍を取得する
-55ー
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)
権利を有し、かっ、できるかぎりその親を知る権利および親によって養育
される権利を有する
)
rとして、子どもの名前・国籍を得る権利、親を知り
養育される権利を宣言している。さらに、その第 2項で子どもが無国籍に
なる場合には、国は国内法および自国の義務にしたがい、これらの権利の
実施を確保すると定めている O
子どもの出生届をするというその子どもが生を受け成長発達していく上
で最低限必要な手続きをすることは、親としての最低限の義務である。そ
の親としての義務を果さないことは、子どもの利益を保護するという親権
の目的自体を逸脱することになり、親権喪失の事由に該当する。そうした
場合には、親に代わって国家の責任において子どもの名前及び国籍を得る
権利を保障する必要がある。
当ケースのみならず無戸籍の子どもは少なからず存在しているといわれ
るO 最近では 1
9
8
8
年に起きた東京巣鴨の四児置き去り事件8)が記憶に新しい。
どこの児童相談所においても無戸籍の子どもを一人、二人とかかえている
と聞く
O
そうした子どもの戸籍をつくるために、今回のようにその第一歩
として親権喪失宣告を求める事例はきわめて稀であろう。児童相談所の実
務上の手続き的視点からの解決策の一方策として、この事例を紹介するの
も無益なことではあるまい。
3
. 問題点と課題
児童福祉法において、親権の制限に関する規定は、親権喪失の申立のほ
かに、親の同意が得られない場合の家庭裁判所の承認による児童福祉施設
入所措置 (
2
8
条)、児童福祉施設の長の親権代行規定 (
4
7条)がある。この
2
8条
、 4
7
条の規定が有効でない場合に、子どもの人権を守る最後の砦とし
ての意味をもつのが親権喪失の申立で、ある O しかし、児童相談所長による
親権喪失の申立はきわめて少なく(後掲資料・表 2
.参照)、実務上有効に
機能しえないでいる O
この申立が少ない理由としては、
①家庭裁判所も事実関係の認定、法による実効性、戸籍の記載等をめぐっ
-56-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
て親権喪失にはより慎重になる傾向があり、児童相談所として審判につ
いての確証がえにくい(特に当ケースの場合、管轄が遠隔地の和歌山家
庭裁判所であり、審判の進展状況がわからなかった)。
②親とケースワーカーとの信頼関係が申立によって対立関係になってしま
い、今後の親指導に困難をきたすことになるという危倶をもってしまう
(もっとも当ケースについては、当初から親との信頼関係はなく拒否的関
係にあった)。
③親権喪失の後には後見人の選任がなされるが、後見人は一私人(自然、人)
としての資格であるため、親との個人的なトラブルが懸念される。また、
公職者である児童相談所長が後見人に就職した場合には、転勤等による
責務履行の問題から、長期にわたる後見人としてはふさわしくない(当
ケースの場合、実母A子は里親委託に同意しており、現に S子を監護教育
している里親Mが後見人となるのもやむをえなかったと考える)。
④両親が揃った家庭の場合、父母揃っての親権喪失はできにくいという実
情がある(とくに児童虐待のケースにおいては、往々にして一方が虐待
の加害者、残りの一方が虐待の黙認者で、ある場合が多い)。
⑤最後にこれが最大の理由であると想像するが、過去に申立の実績が少な
く、先例のないことを行うことに対する跨跨あるいは司法に頼らず行政
の枠の中で解決すべきだという行政官的発想がきわめて強いヘ
などが考えられるが、その根底には、わが国においては親権というものが
強すぎて、国家一社会一公的機関が介入しがたいという考えが流れており、
さらには、それを言い訳として介入しなさすぎるというのが現状であろう。
たしかに民法においても、私的自治あるいは私法自治ということで、従
来から親子関係には本来的には国家(社会)は介入できないといわれてい
るO しかし、それはあくまでも基本原則であって、現に子どもの権利(人
権)が侵害されてし kるような場合には、もう少し何らかの法的対応が必要
であろう。その手がかりとなるのが「子どもの権利条約」である。日本政
府は権利条約の批准に際し国内法に抵触しないとして圏内法には手をつけ
ないと明言している O しかし、親権喪失の規定についてみると、民法の文
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)
面は、
「悪いj 親に対する「懲罰j という色彩が濃く、子どもの利益保護と
いう側面が弱いといえる O 子どもの権利・福祉を守る視点から、わが国に
おいても、
「長期にわたる行方不明 j 、 「放任による監護不在J、 「虐待に
よる監護不適当Jなどを親の監護義務違反として具体的に例示すべきでは
ないかと考える川。
権利条約にいう「子ども-親一国(社会) Jの三者の関係を正確に把握
し、それを日本の国内法制に反映させることが、今、求められている課題
であろう O
E 親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告申立事件の
法学的検討
親権の不行使を理由とする児童相談所長の申立により親権喪失の宣告が
なされた貴重な事例について、くわしく紹介してきた O 以下では、本事例
の意義と今後の検討課題について、法学的な視点から若干の考察を試みた
い。本事例に関しては、大きくは、親権の不行使、すなわち親権の消極的
濫用にかかわる問題と、児童福祉法によって付与された児童相談所長の親
権喪失宣告の請求権にかかわる問題の二つがあると思われる。
1
. 親権の消極的濫用と親権喪失宣告
児童虐待問題は、児童福祉のきわめて今日的な課題の一つである。また、
法学の観点からいっても、
「親権j という私法上の権利に対する社会法的
介入という児童福祉法のもっとも根幹にかかわる問題を提起する重要な課
題である O
児童虐待といえば、かつては子どもに対する大人の不当な取り扱いや搾
取の全体を指す用語であった。たとえば、戦前の児童虐待防止法 (
1
9
3
3年)
7条では、
「軽業、曲馬又ハ戸戸ニ就キ若ハ道路ニ於テ行フ諸芸ノ演出若
ハ物品ノ販売其ノ他ノ業務及行為ニシテ児童ノ虐待ニ渉リ又ハ之ヲ誘発ス
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
ル虞アルモノ j については、地方長官は「児童ヲ用フルコトヲ禁止シ又ハ
制限スルコトヲ得J として、虐待されている児童を保護すべき規定を置い
ていた U)O
これに対し、現在児童虐待といわれるのは、主として養育の過程でなさ
れる親による子どもの人権侵害であり、先にも述べたように、①身体的虐
待 (
p
h
y
s
i
c
a
la
b
u
s
e
)、②保護の怠慢・拒否(ネグレクト /neglect) 、③
性的虐待 (
s
e
x
u
a
la
b
u
s
e
) 、④心理的虐待 (psychological/emotional
a
b
u
s
e
)の 4種類の虐待行為が含まれる。これらの虐待行為は、程度の差が
あるにしても、観念的にはすべて親権の濫用になるといえるが、法律論と
しては、どの程度のどういう行為が親権喪失宣告の事由になる親権の濫用
にあたるか、より厳密な検討が必要であろうへ
以下この項では、本事例に即して、②のネグレクトに対応する親権の消
極的濫用の問題に限定して、若干の考察を試みる O
1)親権の消極的濫用をめぐる審判例
まず最初に、親権の消極的濫用によって親権喪失の宣告がなされた審判
例を概観しておきたい。
①大津家庭裁判所昭和3
4
年ロ
1
2月2
3日
;
審
審
判
臼
親権の消極的濫用を理由として親権喪失を宣告した事件としては、古
くは大津家庭裁判所が、 1
9
5
9年に、
「親権者の責を果たさないのは、親
権の消極的な濫用に当る j として親権者である母親の親権を喪失させた
事例がある。この事件の申立人は未成年者の祖父であり、事実上の養育
者である。裁判所は、事件本人である母親が、夫死亡後、 1
9
5
8
年(昭和3
3
年) 3月(未成年者 5歳)から審判時(同 7歳)まで「長期間に亘り未
成年者に対する実質上の養育責任を申立人に委ね自己の責任を放榔して
親権不行使の状態を継続している Jと認定し、したがって「これにより
未成年者の福祉を害すること著しいものがあるとすべく親権の消極的な
濫用に当るものと認めるのが相当であるから右の事由の解消に至るまで
事件本人の親権を喪失せしめることも止むを得ないといわなければなら
-59-
社会問題研究・第4
2巻 第2
号(
'
9
3
.3
.3
1
)
ない」と判断している。
②千葉家庭裁判所松戸支部昭和4
6年1
0月 5日審判 ω
また、 1
9
7
1年には、千葉家庭裁判所松戸支部が、未成年者の養育を親
権者以外のものに委ねていた事案において、親権喪失宣告を承認した事
例がある。この事件の申立人は、未成年者の異母姉(父の先妻の子)で
あり、父から未成年者の養育を頼まれ、 1
9
6
5
年(昭和4
0年) 5月(未成年
者生後 1
1か月)以来未成年者を養育している者である O 申立人夫婦には
子どもがないため未成年者を養子にしたいと考えており、父の同意も得
たが、事件本人である母が承諾をしなかったため養子縁組はできなかっ
たO 裁判所は、
「未成年者にとって最も晴育育成を必要として生後 1
1か
月余で、あった昭和4
0
年 5月1
0日前後のころから今日に至るまで、未成年
者の養子縁組に反対しながら同人に対する積極的な監護教育を何らなそ
うとせず、申立入ら夫婦にその全責任を委ねて六年余の長期間を黙過し
て親権不行使の状態を継続し、結果として自己の親権者としての責任を
放棄していることは、そのこと自体未成年者の福祉を害すること著しい
ものであって親権の消極的な濫用にあたると認めるのが相当である j と
判示している O 裁判所は、
(申立人が主張するように)養子縁組に同意
しないことが親権の濫用にあたるとは解していないが、申立人らとの養
子縁組を前提として親権喪失を認容した点が興味深い。
③神戸家庭裁判所昭和5
5
年 9月2
9日審判凶
さらに、比較的最近では、 1
9
8
0年に、神戸家庭裁判所が、妻との別居
後二人の子ども(一人は養子)の養育をまったく放棄して、妻と妻の母
に全面的に委ねていた父親の親権を喪失させた事例がある。この事件で
は、妻が夫と別居後、 1
9
7
9年(昭和5
4
年)に死亡し、その後は申立人であ
る妻の母(未成年者の祖母)が一人で未成年者の養育にあたっていた O
裁判所は、次のように判示している O
I[妻と]別居後 7年間にわたり、未成年者の養育監護は、事件本人
により一顧だにされることなく、・・…・未成年者と事件本人との間には
親子としての形式的な交流さえもなかったことは明らかであり、未成
-60-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
年者両名は長年にわたり親権者である事件本人から遺棄されてきたも
のと言わざるを得ず、結果的に事件本人により未成年者両名の福祉が
害されていたものであり、右は親権の消極的な濫用にあたるものと認
められる。j
以上 3つの事例はすべて、申立人が未成年者の事実上の養育者であり、
親権者の親権が喪失した後も申立人が養育を継続することが約束されてい
る(養子縁組、場合によっては申立人が後見人に就任することすら予想さ
れる) 0 したがって、これらの事例では、親権喪失によっても子どもの利
益が損なわれることはほとんど考えられない。
④大阪家庭裁判所昭和4
7年 5月 6日審判
大阪市中央児童相談所からは、児童相談所長の申立による次のような
親権喪失宣告事例が報告されている附 O 本事例は、児童相談所長の請求
により親権喪失宣告が承認された先駆的な審判例であり、かっ、親権の
消極的濫用を理由とする点でも、重要な先例であるといえる。これまで
埋もれていたきわめて貴重な審判例なので、全文引用しておきたい。
児童
母
A夫 O歳 6ヵ月
B子 2
9歳 住 所 不 定
母B子は路上で産気づき、救急車で入院し出産したが、 1週間後に A夫
を置去りにし行方不明になってしまった o A夫は福祉事務所からの通告
で、退院と同時に乳児院へ措置された。福祉事務所のケースワーカーが
入院中に母から聴取した内容によると、
「強姦され妊娠した O 当初は妊
娠の自覚がなく 9ヵ月目になってやっと気づいた。生まれた子は育てる
気持ちがなし、。何で育てなならんのや!Jと述べていたと云う。
その後母の所在につき、残された情報をもとに調査したところ、繁華
街の密集地区において野宿状態で生活していることが判明したが、身元、
戸籍については詳細がわからず、 A夫の養育も望むべくもないことがわ
かった O
従って当所としては、 A夫の将来的処遇方針を、養子里親に委託する
-61ー
社会問題研究・第4
2巻第2
号(
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9
3
.3
.3
1
)
ことが適当と判断したが、母が養子縁組の手続に協力的でないこと、加
えていつ所在が不明になるかもしれないので、先に親権喪失を行なった
上で養子縁組をすすめることを決定した O
上記決定により、家庭裁判所へ下記親権喪失の申立と、かっ就籍の申
立を同時に行なった O
申立年月日
昭和4
6
年1
0月 1
5日
9歳
事件本人 B子 2
本
籍不詳
住
所
O町O番地路上
未成年者 A夫
O歳 6ヵ月
申立の趣旨
親権者B子は親権を濫用する状態にあるので、親権喪失の請求を申立て
るO
申立の実情
1.未成年者は C施設に入所中である。母は身分を明らかにせず本籍不明
である。母は未成年者を分娩後無断外出したが、前居住地付近に戻っ
たO 未成年者が施設へ入っている事は知っているが、面会には全く行
かなし、。母と面接を行なった児童福祉司にも「子どもはいらなしリと
云い、未成年者の話に触れると激しい口調になり、面接も困難である。
以上の言動から未成年者に対する養育の意志は全くないと云える O
2
. 母はO区O町O番地付近で寝起きしている。近隣者は母の状態を次
の様に述べている O
①
母は未成年者を「自分の子どもではなし ¥0 夫がないのに子どもが
できる訳がなしリと主張している O
②
母は昼間近所の飲食庖の手伝いや按摩に出かけ、その収入で生活
している O この地区は立退きが予定され、すでに立退きのため空地
となっている場所に母は戸板等を集めて寝ている O 水道蛇口もあり
生活はできている。近隣者は母から直接迷惑を受けていないので大
目にみており、むしろ衣類等を与える者もある。売春行為は以前あっ
-62-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
たらしいが、現在その様な行為はない。
3
. 本年 4月福祉事務所のケースワーカーが母の収容保護に努力したが、
母はそれを拒否しワーカーを罵倒した O
この様に母は浮浪状態であり、今後の居住地をいっ変えるかも判ら
ない。
本申立を受けた家庭裁判所の調査により、母の本籍が判明、よって就
籍については病院長からの届出と後に施設長からの追完届によって就籍
命名され、母B子の非嫡出子として戸籍記載された。又、親権喪失につい
ては昭和4
7
年 5月 6日の審判で下記のような決定を得た。
主文
事件本人B子の未成年者A夫に対する親権を喪失せしめる O
理由
申立人は主文と同旨の審判を求め、その実情として次のとおり述べた。
(申立趣旨と同じの為略)
調査によれば、事件本人の未成年者に対する監護の心構えおよび監護
の実情は、申立の実情記載のとおりの事実が認められるほか、事件本人
は痴愚級の精神薄弱者であって、精神病質者であることも認めることが
できる O そうすると事件本人は未成年者の親権者としての適格を有しな
いのみならず、親権者としての責務を全く果たさないもので、これは消
極的な親権の濫用に当るものというべきである。
よって、事件本人の未成年者に対する親権を喪失させることとし、主
文のとおり審判する。
この審判を得て、 A夫の後見人に児童相談所長が就任、以降ただちに A
夫は養子を希望する里親の許へ委託され、翌年には正式の養子縁組が成
立した O
nhU
社会問題研究・第4
2巻第2
号(
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9
3
.3
.3
1
)
2
) 親権の消極的濫用による親権喪失宣告
親権の消極的濫用による親権喪失宣告の事例は、以上のような審判例が
あるものの、報告されているのはごくわずかである。そういう意味では、
ネグレクトを含む児童虐待が深刻な問題として浮上してきている今日、本
稿で取り上げたような審判が下されたことは注目に値する。本事例が児童
相談所長の申立によるものであることを考え合わせれば、きわめて重要な
意味をもっ審判であり、今後の実務に影響を及ぼすことは必至だといえる。
何をもって親権の消極的濫用とするかは、一般論では論じえないむつか
しい問題である。それだけに、今後裁判所がどういうケースについて親権
喪失宣告を承認するのか、注意深く見守る必要がある。ただ、少なくとも、
本件のように親権者にまったく養育・監護の意思がなく、親権を放棄して
いる状態であり、親権者としてそのままにしておくことの方がかえって子
どもの権利が擁護できない(侵害するおそれがある)ような場合には、親
権の喪失を考慮すべきであろう O とくに親に代わって子どもを養育してい
る者あるいは養育しようとする者(親族、里親、事実上の養親、養親希望
の者など)があり、その者が子どもの権利と福祉を十分に保障しうるとい
う確証が得られるときには、親権を喪失させて、その後後見人の選任、あ
るいは養子縁組等を追求した方が、明らかに子どもの利益ははかられる
(本事例では、申立以前に里親に委託されており、審判確定後里親が後見人
に就任している) 0 また、もしそういう者が現にいない場合でも、児童相
談所長は社会的養護(里親委託、施設養護等)と親権喪失宣告の申立を同
時並行的に追求してもよい場合があるのではないだろうか(④では、当該
未成年者は審判時には児童福祉施設に入所しており、審判確定後養子縁組
が成立している)。本事例のようなケースについては、親権喪失後の子ど
もの権利保障に十分な配慮をすることを前提に、社会的養護の視点から、
より積極的に親権喪失宣告制度を活用する方向で検討すべきだと考える O
3
)親権者の陳述権
なお、大阪市中央児童相談所からは、親権者の所在が不明となったため
-64-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
取り下げざるをえなかった最近の事例も報告されている川。家庭裁判所か
6
条により審理ができないという理由で取り下げの要詰
ら、家事審判規則 7
があったと記されている O 同規則 7
6条は、
f
家庭裁判所は、親権又は管引
権の喪失を宣告するには、本人の陳述を聴かなければならない o J と定め
ている O 親権喪失宣告の手続きにおいては、子どもの権利条約 9条の趣旨
からいっても、適正手続きの保障はきわめて重要である O ただ、親権者
(事件本人)の陳述権と子どもの人権擁護とをどう折り合いをつけるかはむ
つかしい問題である O 本稿で取り上げた事例では、親権者の出頭がないま
6
条の趣旨は、親権者に陳述の機会を与える
まに審判が下されている O 本7
ことであるので、少なくとも「呼出状を出して陳述の機会を与えて、出頭
しない場合は、同人の陳述を聴かないで審判しても差し支えなしリと解釈
ヘ
すべきであろう 1
2
. 児童相談所長の申立による親権喪失宣告一一一児童福祉法の課題
児童福祉法研究という視点から見ると、本件の重要性は、児童相談所長
が申し立てることによって親権の喪失が宣告されたという点にある O
すでに述べたように、児童福祉法は、その第 3
3条の 5で親権喪失宣告の
請求権を児童相談所長に付与している O これは、民法8
3
4
条の親権喪失宣告
規定を補完するものとなっている O 児童福祉法のこの条項が制定されたの
は
、 1
9
5
1年 6月の児童福祉法第 5次改正においてであり、その意義は次の
ように説明されている ω。
「従来、民法は、親権の喪失は子の親族又は検察官の請求によって家庭
裁判所が決定し、宣告するという建前をとってきたが、親権喪失の請求
を公益代表としての検察官のみに認めていることは、児童福祉の専門機
関が設けられている今日、やや時代遅れの感があるというので、第 5次
改正のとき本規定が設けられたのである。本条により、児童相談所長は
児童に対する公益代表として、ひろく一般児童の福祉に関与し、その基
本的権利の擁護に当ることになったのである。けだし、本条の意義は極
めて大なりということができょう o J
-65ー
社会問題研究・第4
2巻第2
号(
'
9
3
.3
.3
1
)
このように重要な意味をもって登場した児童福祉法の親権喪失宣告規定
であったが、この規定が使われるのは最近まできわめて例外的であった。
たとえば、最近の 1
0
年間(昭和5
6年度から平成 2年度まで)をとってみる
と、請求件数の合計が 1
0件で、そのうち承認されたのは 4件にすぎない
(後掲資料・表 2
.参照)。
児童虐待のケースにこの親権喪失宣告申立制度を活用するについては、
前述したように、たしかに実務上いくつかの課題がある。たとえば、津崎
哲郎は、ある児童相談所と家庭裁判所との協議を引用して、次のように指
摘している制。
「①親権喪失については、性的暴行や暴力による虐待を問題にした場合、
事実関係の成立が微妙であり、難しい展開が予測される。
②審判は、父の理性に訴えた話し合いになるので、親権喪失の有無にか
かわらず、父が攻撃を加えたとき、児童の生活を守りきれない。
③親権喪失は一時的には子の福祉にかなっても戸籍に記載されるだけに、
長期的に見れば子のハンディになる O
以上は親権喪失を行ううえでクリヤーしなければならない課題といえる
が、ほかにも、
④親権喪失後の後見人の選任
⑤親から切り離された児童の代替養育者の確保
なども実務上の大きな課題といってよい。 J
また、吉田恒雄は、問題点を次のように整理している。重複する点もあ
るが、要約して引用しておきたい 2九
①現に虐待行為が行われているときには、家庭裁判所の審判を待ってい
たのでは、被虐待児の保護が間に合わない。
②親権者の同意を得ずに児童福祉施設入所等の措置を採るには、必ずし
も親権喪失は必要ではなく、児童福祉法2
8条審判による入所措置で足
りる O
③親権喪失を申し立てると、児童相談所がその要件事実の主張・立証を
行わなければならず、しかも認容審判が得られない場合もありうる O
-66ー
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
④親権者が現に被虐待児と同居している場合には、法的に親権を剥奪し
ても、生活の実態が変わらなければ意味がない。
⑤親権剥奪という強権的な手段では、親の反発を招き、親と児童相談所
との信頼関係を損なうことになる O
⑥親権喪失宣告は戸籍に記載されることになるので、親のみならず子ど
もにとってもハンディになるおそれがある O
⑦親権者の変更、親権の辞任など、他の代わりうる手段を採ることがで
きる場合には、その方が望ましい。
以上のような問題が現場サイドからも指摘されているが、児童虐待が増
加し、深刻化してきている現状にあっては、児童相談所長による親権喪失
宣告制度の意義も大いに変わってこざるをえないであろう。実際にも、こ
こ 1・2年、児童相談所長の申立による親権喪失宣告事件が増えているよ
うにも聞くへ今後は、子どもの権利条約を手がかりとして新たな立法を模
索することも一方では重要であるお)が、それとともに、現に発生している
具体的な問題に対しては、現行法をいかに利用するかという観点も必要で
ある。実務上の課題は運用の仕方や児童相談所と家庭裁判所との協力・連
携により克服できることも多いはずである羽)。本事例のような具体的なケー
スの検討を通じて、より効果的な方途を探る努力をすべきであろう O
結びにかえて
これまで、児童福祉法を実際に運用する実践現場と法研究者との共同研
究は非常に少なかったのではないだろうか。とくに具体的な事例を通じて
意見交換をし、それを実務に反映させるということはほとんどなかったと
いえる O しかし、このところ児童福祉現場の抱える問題が複雑になってき
ており、現場でも法研究の必要性が自覚されるようになった O とくに児童
虐待問題に関しては、これまで、法制度についての細かい検討がなされてこ
なかったため、現場での混乱が生じており、具体的な問題に即した法研究
が差し迫った課題となっているぺ
本稿は、具体的な事案についての法研究者と児童福祉実践家の論稿をさ
-67-
社会問題研究・第4
2巻第2号 (
'
9
3
.3
. 31
)
しあたり並べたにすぎず、十分な考察をするまでには至らなかった O した
がって、残念ながら「共同研究j といえるものにはなりえていない。しか
し、児童福祉法の運用の実態を明らかにして、問題点を整理するためには、
今後こうした協同作業が是非とも必要である。そして、それこそが児童福
祉の法社会学的研究だと考えるヘ本稿を一つのステップとして、現場と研
究者の共同研究をさらに推進する努力をしたいと思う。
[付記]
本稿は、白石から提出された論稿(1の部分)を前提に、許斐が法学的な視点より解説
はじめにJおよび Eの部分と「結びにかえて J)ものである。現場の実践家
を加えた( r
と法研究者とは、立場も視点も異なるので、あえて調整はしなかった。重複する点がある
のはそのためである。ご了承いただきたい。
本事例のように具体的なケースを公表するについては慎重な配慮、を要することはいうま
でもない。しかし、本事例を紹介することが、講学上も実務上もきわめて有意義であるこ
とを鑑み、また本誌が学術専門誌であって一般に配布されないことも考慮に入れて、この
ような形での掲載に踏み切った。掲載にあたっては、
『家庭裁判月報』および『児童相談
9
3
.2
.1
2
.
)
事例集.JJ ( 厚 生 省 児 童 家 庭 局 監 修 ) を 参 考 に さ せ て い た だ い た 。 ( 19
【
註
】
1)①津崎哲郎『子どもの虐待一ーその実態と援助』朱鷺書房 .
1
9
9
2年 1
2月、②川名紀美
『親になれない一一ルポ・子ども虐待』朝日新聞社、 1
9
9
2年 1
2月、③橘由子『子ども
9
9
2年 1
2月、④斎
に手を上げたくなるとき一一子育てに悩むママたちへ』学陽書房、 1
藤学『子供の愛し方がわからない親たち一一児童虐待、何が起こっているか、どうす
9
9
2年 1
0月、⑤椎名篤子『親になるほど難しいことはない』講談社、
べきか』講談社、 1
1
9
9
3
年 1月、⑤千田夏光『幼児虐待』汐文社、 1
9
9
2年1
2月、など。①は、児童虐待に
実際に対応している児童相談所の職員によって書かれたものであるが、著者はケース
ワークのみならず法律・制度にも精通しており、必読の文献である o ②は、以前に朝
日新聞に連載された記事に加筆したものであるが、アメリカの現状や対応策などが丁
寧に紹介されており、参考になる。③は、実際に子どもを「虐待」した母親自身によ
る手記と解決への提言であり、大変興味深い。④の著者は、精神科医で、東京の子ど
-68-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
も虐待防止センターのメンバーである。⑤は、ルポライターによる「症例報告」であ
るが、上出弘之・前東京都児童相談センター所長が監修している。
2)児童虐待調査研究会『児童虐待』日本児童問題調査会、 1
9
8
5
年
、 1頁(なお、① ④
の説明と具体例は省略した)。
3)樋口範雄「アメリカにおける児童保護の法システムと日本の法制度への示唆J r
ケ←
ス研究~
2
2
7号、家庭事件研究会、 1
9
9
1年
、 5頁
。
4)池田由子『汝、わが子を犯すなかれ一一一日本の近親姦と性的虐待』弘文堂、 1
9
9
1年。
また、子どものときに「性暴力」を受けた女性たちの手記を中心に編集した書物とし
て、森田ゆり編著『沈黙をやぶって一一子ども時代に性暴力を受けた女性たちの証
9
9
2年、がある O 同書で、森田は、
言+心を癒す教本』築地書館、 1
「被害者の視点の
確立」の重要性を指摘している(14
頁) 0 法学的視点から書かれたものとしては、桑
原洋子「児童に対する性的虐待とその制度的対応j 阪井敏郎編『福祉と家族の接点』
9
9
2年
、 2
5
9
2
7
8
頁、がある。
(明山和夫先生追悼論集)法律文化社、 1
性的虐待を理由として父親の親権喪失を認めた有名な事件として、東京家庭裁判所
4年 5月 1
6日審判がある(註 5参照) 0 なお、刑法の尊属殺重罰規定
八王子支部昭和5
(
2
0
0条)が違憲との最高裁判所判決(最高裁大法廷判決昭和 4
8年 4月 4 日刑集
2
7巻 3号2
6
5頁)を引き出した有名な尊属殺事件も、実父による長年にわたる性的虐
待が背景にあった。その経緯を詳しく紹介したルポルタージュとして、谷口優子『尊
属殺人罪が消えた日』筑摩書房、 1
9
8
7
年、がある。
5)
r家庭裁判月報~
3
2巻 1号
、 1
6
6
1
6
9頁、および厚生省児童家庭局監修『児童相談事
3
集) ~日本児童福祉協会、 1981 年、 175-189頁 O なお、本事件に関する研
例集(第 1
究としては、許斐・鈴木博人・薮本知二「子どもを養育する親の法的責任」山根常男
9
8
7年
,8
7-94頁、来本笑子「児童相
監修『家族と福祉の未来』全国社会福祉協議会, 1
r
談所長の申立による親権喪失の宣告J 家族法判例百選(第四版)I
J有斐閣、 1
9
邸年、
1
2
4
1
2
5頁、などがある。また、谷口・前掲書2
2
3
2
2
7頁も本事件に言及している。な
お、同事件にかかわった立場から最近書かれたものとして、梅津文治「性的虐待ケー
3巻 l号
、 1
9
9
2年
、 2
5
2
9
ス一一子どもたちが安心できる社会環境を J r 児童養護~ 2
頁、がある c 同レポートには、同事件の未成年者が現在養護施設の保母として(動いて
いることが記されている O
-69-
社会問題研究・第4
2巻第2
号(
'
9
3
.3
.3
1
)
6)全国社会福祉協議会養護施設協議会『親権と子どもの人権』全国社会福祉協議会、
1
9
8
0
年
、 2
5頁(シンポジウムにおける稲子宣子の発言) 0
7)国際教育法研究会の訳による(国際教育法研究会編『子どもの権利条約』子どもの人
権連、 1
9
8
9年) 0
8)朝日新聞 1
9
8
8
年 7月2
3日(朝・夕刊)、および AERANo.
121
9
8
8年 8月 9日号、
1
82
0頁、など。また、 『ジュリストjJ9
2
3号 (
1
9
8
8
年1
2月 1日号)は、
・
「子供置き去
り事件を考える Jとして、この事件を特集している O また、兼松左知子・福島瑞穂、・
9
8
9年
、 9
2
若穂井透『少年事件を考える一一「女・子供Jの視点から』朝日新聞社、 1
頁以下、および、小笠原和彦『少年「犯罪」シンドローム』現代書館、 1
9
8
9年、 1
4
1
頁以下、でもこの事件を取り上げている。
9)この発想は親権喪失の申立に限らず、児童福祉法 2
8条の申立にも見られる O 例えば、
厚生省児童家庭局育成課の児童福祉専門官である山本保は「一部には、児童虐待の場
合などにおいて、親の了解が得られないときに、児童の福祉のため親権を一時的にス
トップするように法を改正すべきだという論がある。しかし、児童福祉の立場からは、
その前に親権者等の了解をとるための方策を制度的に確立することを主張すべきであ
るO 現状では親権者等の同意を得るための効果的、組織的な対応がなされていないよ
非行問題jJ 1
9
8号
、
うに思われる J (山本保「教護院の復権一一入所と処遇の課題J r
全国教護院協議会、 1
9
9
2年、 1
8
1
9頁)として、児童相談所は児童の施設入所につい
てその親の同意を得るようにもっと努力をすべきであると述べている。しかし、本文
中の理由②で触れたように親とケースワーカーの信頼関係が対立関係になってしまう
という危倶をもちながらも、子どもの福祉を守る視点から、施設入所あるいは親権喪
失の申立の決断を行うわけであり、そのプロセスにおいて、山本のいうように「効果
的、組織的対応」を怠っているのではない。その努力の結果として、やむをえず先例
の少ない家庭裁判所への申立を行うのである。司法に頼らず行政の枠の中で解決しよ
うとする考え方は、行政官的発想ではないだろうか。
1
0)例えばフランス民法典は、
「あるいは劣悪な待遇によって、あるいは常習酪町、公知
の不行跡又は非行の悪質な事例によって、あるいは配慮の欠如又は指導の不足によっ
て子の安全、健康又は精神を明らかに危険にさらす父母は、すべての刑事有罪判決の
ほかに、親権を失権とすることができる」と具体的に示している (
3
7
8
条 の い 1項
、
-70-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
前掲『親権と子どもの人権J] 2
8
6頁参照) 0
1
1
)r
児童虐待防止法第七条ニ依ル業務及行為ノ種類指定ノ件J (昭和 8年内務省令第2
1
号)では、より具体的に虐待行為を定めている O たとえば、
「
ー
不具崎形ヲ観覧ニ
供スル行為j 、 「二乞食J、 「六芸妓、酌婦、女給其ノ他酒間ノ斡旋ヲ為ス業務 l
などがあげられている。これらの内容は、現行の児童福祉法3
4
条の禁止行為に引き紺
P
がれている。
1
2)①身体的虐待については、刑法の傷害罪(
2
0
4条)や暴行罪(
2
0
8
条)を構成するかどう
かが一つの目安になると思われる(筆者は、基本的には、他人に対する傷害罪・暴行
罪と自分の子どもに対する傷害罪・暴行罪は同一に見られるべきであると考えている
が、ただ長い目でみたときに養育者である親を訴追しない方が結果的には子どもの利
益につながるような場合には、必ずしも常に加害者である親を告訴しなければならな
いというものでもないであろう C ただ、起訴されない場合でも、親権喪失宣告の事由
になることはあると思われる。) 0 ただ、親権の濫用という場合には、 1回 1回の行
為が問題となるのではなく、親が子に対して継続的にどのような態度で臨んでいるか
が問題となる。しかし、どちらにしても、家庭内での傷害や暴行の事実を立証するこ
とは困難が予想される。
②ネグレクトに関しては、身体的虐待以上にむつかしい問題がある。刑法では、遺
棄罪 (
2
1
7
条)や保護責任者遺棄罪 (
2
1
8
条)のように極端な場合しか想定されておら
ず、必ずしも親権喪失宣告の基準とはなりえない。
家庭裁判月報J]1
2巻 3号
、 1
4
1
1
4
6頁O
1
3
)r
1
4
)r
家庭裁判月報J]2
4巻 9号
、 1
6
51
7
3頁
。
・
家庭裁判月報J]3
3巻 8号
、 68・7
3頁O
1
5
)r
r
1
6
)津崎哲郎「養子縁組を考慮するために親権喪失申立を行なった 2事例 J 大阪市中央
児童相談所・紀要1
9
9
2
里親制度の現状と課題』大阪市中央児童相談所、 1992年
、
5
3頁
。
1
5
1・1
1
7)津崎・向上論文1
5
3
1
5
4頁
。
1
8
)斎藤秀夫・菊池信男編『注解家事審判規則[改訂]J]青林書院、 1
9
9
2年
、 315頁。同
書は、さらに「出頭しない場合でも、場合により、家裁調査官に調査させ、その意向
を確かめることが必要であろう」と述べている。向感である。
-71-
社会問題研究・第4
2巻第2
号(
'
9
3
.3
.3
1
)
1
9
)網野智「児童福祉法J小山進次郎編『社会保障関係法([) ~日本評論新社、
19日年、
2
2
0頁。詳しくは許斐「児童福祉法上の親権規定の成立・展開過程J r
淑徳大学研究
紀要~
2
2号、淑徳大学、 1
9
8
8
年
、 4
3
6
2頁を参照されたい。
2
0)津崎哲郎・前掲『子どもの虐待~ 2
0
4頁。前掲『児童相談事例集(第 1
3集) ~ 4
7頁参
日7]
ハ.~o
2
1)吉田恒雄「児童相談所長による親権喪失の申立J r 明星大学経済学研究紀要~ 2
1巻 1
号
、 1
9
8
9
年
、 9
1
0頁。なお、吉田の整理のほか、親権喪失後に後見人が選任される必
要が生じるが、その後見人に対して虐待者が私的に攻撃を加える危険性があることな
ども指摘されている(児玉勇二・泉薫・木下淳博『児童の虐待について一一我々は何
をなすべきか~
(小冊子) 1
9
9
1年
、 2
4頁)。
2
2
)平成 3年度の児童相談所長による親権喪失宣告の請求件数は 2件、承認件数は 3件で
r
あ る ( 社会福祉行政業務報告』平成 3年度版) 0 この 3件のうちの 1件が、本稿で
取り上げた事例であり、別の 1件は、大阪市中央児童相談所のケースで、父母による
2歳男児への身体的虐待により親権喪失宜告が承認された事例である(津崎・前掲書
2
0
5頁)。また、神戸市児童相談所では、父親の度重なる身体的虐待に対して親権喪
0月2
0日審判
失宣告の申立をし、認容された事例がある(神戸家庭裁判所平成 4年 1
一本件は、現在抗告中である) 0
2
3
)近畿弁護士連合会は、 1
9
9
1年大会で、児童虐待に関して、
「国は、児童虐待の予防・
発見・通告・調査・援助・処遇のための統一的な法律を制定し、具体的諸制度ならび
に諸機関を整備・確立しなければならなし ¥0 Jなどの決議を採択し、親権に関しては、
「①親権の規定を子どもの人権保護の視点から見直し、特にやむを得ない場合の親子
分離について、親権の一時停止、一部(監護権等)喪失等、弾力的な制度の導入を検
討すること、②親や子の意思に反して、一時的・長期的に分離される場合の手続規定
を整備し、司法審査手続における子の特別代理人制度や、親子の告知聴聞等の手続的
権利の保障を強化すること、③分離後の関係者の実力行使に対して有効な阻止手段を
0回近畿弁護士連合会大会シンポジウム報告書『子
講じること Jを提言している(第2
9
9
1年
、7
1
1頁)0
どもの権利条約と児童虐待』近畿弁護士連合会少年問題対策委員会、 1
また、日本弁護士連合会「親権をめぐる法的諸問題と提言一一親による子どもの人権
9
8
9年 9月、がある。
侵害防止のために J1
-72-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
2
4)津崎・前掲『子どもの虐待~ 2
0
4
2
0
5頁、参照。
2
5
) こうした課題にこたえるため、大阪で 1
9
9
0
年1
0月に児童虐待防止制度研究会が発足し
た。同研究会は、児童福祉関係者(児童相談所の児童福祉司や施設職員等)、小児科・
精神科の医師、臨床心理士と弁護士および法学者を含む研究者らが情報交換、意見交
換・討論を行う場としてきわめて有意義であった D 現在その成果の一部を本として出
版する準備を進めている。なお、前掲・近弁連報告書『子どもの権利条約と児童虐待』
も、同研究会の成果を取り入れてある。
2
6
)児童福祉(法)の法社会学的研究については、未だ試行錯誤の段階である。児童福祉
の分野では、法の理念と実態および法の運用の聞には大きなギャップがあるだけに、
法社会学的研究の必要性を痛感している O
-73-
社会問題研究・第4
2巻第2
号(
'
9
3
.3
.3
1
)
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子
女
-74-
親権の消極的濫用を理由とする親権喪失宣告(許斐・白石)
2
. 親権喪失宣告事件数
表1.親権または管理権の喪失の宣告及びその取り消し事件数(全家庭裁判所)
年(昭和) 2
4 2
6 2
3 2
7 2
82
93
0 3
1!
3
2 3
43
6 3
1 4
5 2
3 3
5 3
7 3
3 44
2 4
8 39 40 4
4
62
5
82
6
14
0
53
9
43
8
2:
2
2
52
4
41
8
21
3
81
9 9
2
2
92
3
85
9
52
5
61
3
51
4
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1
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5
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4
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1
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3
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19
61
1
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1
3
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1
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4
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15
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6
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9
16
5 日 5
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4
18
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5
16
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4
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15
3 5
5 4
9
14
9 4
2
14
7
0 4
5 6
4
16
2 4
9
17
3 7
43
1
15
0 4
6
13
33
9
16
5
15
2
資料"最高裁判所編「司法統計年報・家事編 J(各年版)
表2
. 児童相談所長による親権・後見人関係請求・承認件数(全児童相談所)
7
平
面
l
i
1
J4
9 50151 5
2 5
3 5
4 5
5 5
6 5
7 5
8 5
9 6
0 6
1 6
2 回 フ
ロ 2 13
法第2
8条第 l項第 l 請求件数 1
4 1
0 915 815 2
1 2 614 1
4 31- 5
16 3
11
9 1
0
号・第2
号による措置 承認件数 1
0 21 6 517 41 1 2
1 3 4113 3
1 1 513
1
5 9
請求件数 514
113
2
1 1
21 2
親権喪失宣告の請求
承認件数
- 12
-13
請求件数 7
0 5
1 訂 4
9 3
2 4
0 訂 2
1 2
3 お 2
1 2
5 1
4 1
1 91 8 81
1
5
後見人選任の請求
承認件数 5
74
6 2
6 5
0 3
0 お 4
0お 2
1 2
6 1
7 1
9 1
8 1
1 8I8 4I1
3
請求件数 21- 1
! 2 21 1
後見人解任の請求
承認件数 2
1- 112
資料:厚生省編『社会福祉行政業務報告』厚生繕十協会、各年版による。
注:昭和4
8
年度以前については、向上書に報告がない。
堕置
・
請求の種
年
類
度 (
1
附
-75ー
Fly UP