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社会環境の変化に対応する女性の事業活動 - 中小企業庁

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社会環境の変化に対応する女性の事業活動 - 中小企業庁
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
事 例
2-2-14
日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、
米国・アジア市場を開拓する企業
北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員 210 名、
資本金 2,460 万円)は、ラーメン店等の飲食店の運営・
フランチャイズ等を行う企業である。
海外市場の拡大を見据え、10 年前に「らーめん山頭火」
の海外展開を開始した。現在、米国、カナダ、香港、シ
チャイズでの 3 号店を出店し、業績も順調である。
同社の店舗開発の責任者である植田昌紀取締役は、
「香
港出店の教訓として、いかに問題を早く食い止め解決する
かが重要と痛感した。リスクの高い海外展開は、撤退の期
限を区切り、事業の継続性を見極めることも必要だ。
」との
ンガポール、マレーシアに展開しており、今後も海外出
考えで、現地政府の規制や商慣習等の壁に直面しながら
店を加速する計画である。日本のラーメン専門店として、
も、世界各国を飛び回り、
「山頭火」ラーメンが心から好
ぶれずに味にこだわり、海外でも、「山頭火」のファンを
きで信頼できるパートナーの発掘と育成に取り組んでいる。
着実に増やしている。
しかし、同社も、初めての海外事業となる2003 年の香
港への出店では、苦い思いをした。現地のパートナーを
見付け、1 号店からフランチャイズで任せてみたが、同社
が求める味やサービスの水準を守ることができず、出店
から2 年で一度撤退をした。その後、必ず信頼と評判を
取り戻すという同社の菊田伸一社長の強い意気込みのも
と、2008 年に、香港への再挑戦となる独資の直営店を出
店した。徹底した店舗管理を行った結果、現地で受け入
れられ、直営店をもう1 店増やしている。直近では、以前
に日系の大手流通企業から紹介された、現地市場や雇用
慣行等に精通している日系のパートナーにより、フラン
香港店舗内観
以上、中小企業の輸出及び直接投資について概
短期的に急増するとは考えにくい。しかし、国内
観してきたが、グローバル化の著しい進展にもか
市場と海外市場の成長性の差は明白であり、成長
かわらず、大半の中小企業が、輸出及び直接投資
を追い求める企業と海外との結びつきは、今後、
を行っていないことが分かった。
より強くなっていくであろう。
国内経済は低迷しているが、今も世界第 3 位の
我が国経済の屋台骨を支える中小企業が、国外
経済規模を誇っており、国内で活動していくこと
に羽ばたいていくことによって発展を遂げ、現在
を選択する中小企業は多い。また、海外に踏み出
の我が国の停滞を打破していくことが期待され
す際の障壁や、現地での課題・リスクもあること
る。
から、我が国の中小企業の輸出及び直接投資が、
第
114
2 節
社会環境の変化に対応する女性の事業活動
前節では、海外需要の取り込みによる国内事業
しかし、人口減少に伴う内需減少が見込まれる
の活性化の観点から、輸出及び直接投資の動向を
我が国において、中小企業が成長するためには、
示した上で、我が国の中小企業が、海外展開を行
海外需要を取り込むことだけでなく、新たな視点
う際に直面する様々な課題やリスクを分析した。
から、潜在している内需を掘り起こすことも、有
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
が、個人の生活を充実させるだけでなく、家事・
効な取組の一つである。
育児を負担する女性が就業する際の課題解決につ
が増加傾向にある中で、個人向けサービス分野
ながり、女性の社会参加や更なる課題解決サービ
で、需要を掘り起こしている女性の起業に着目
スの拡大という好循環をもたらす可能性があるこ
し、女性の起業の現状及び課題について分析を行
とを示す。なお、本節の概念図については、第
い、課題を乗り越えた女性起業家等を紹介する。
2-2-42 図を参照されたい。
第2 節
そこで、本節では、個人向けサービスへの需要
また、女性の起業による新たなサービスの提供
第 2-2-42 図
社会環境の変化に対応する女性の事業活動(概念図)
<社会環境の趨勢>
・個人向けサービスや女性顧客を対象とした
商品・サービスのニーズの高まり
・医療・介護分野等での女性雇用の拡大
女性の柔軟な対応力
女性の潜在労働力
(342 万人)
起業・就業
<効果>
・新たな需要の掘り起こし
・女性雇用ニーズへの対応
ハードル:家事・育児、経験不足等
収入・雇用
政策支援、課題解決型事業による対応
社会の活力
1
女性起業の特長
中小企業白書(2011 年版)では、起業30 の意義
る。これを見ると、家計消費支出に占める個人向
として、①経済の新陳代謝と新規企業の高い成長
けサービス分野への支出の割合は、上昇傾向にあ
力、②雇用創出、③起業が生み出す社会の多様
ることが分かる。また、第 2-2-44 図は、総務省
性、が存在することを指摘した31 が、女性の起業
「就業構造基本調査33」を用いて、起業家の起業
には、どのような特長があるのだろうか。
分野を男女別に比較したものである。女性起業家
の起業分野を見ると、飲食店・宿泊業、教育・学
■ニーズに応じた身近なサービスの創出
第 2-2-43 図は、家計における、個人向けサー
32
ビス 分野の支出割合の推移を示したものであ
習支援業、生活関連サービス業を含む個人向けの
身近なサービス分野での起業の割合が、40.0% と
高くなっている。これらの分野は、今後、社会が
30 起業の動向については、付注 2-2-13~2-2-17 図を参照。
31 中小企業白書(2011 年版)p.186 を参照。
32 本節では、おおむね、第 2-2-44 図で個人向けサービス業として示している業種で提供されるサービスをいうこととする。
33 同調査は、全国から抽出した世帯の 15 歳以上の世帯員を対象に実施している。数値結果は、実際の対象となった約 45 万世帯の約 100 万人(平成 19 年)の調査
に基づき、母集団推計により調査の範囲となる人口全体について算出したものである。
中小企業白書 2012
115
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
更に成熟化していく中で、成長が期待される、個
いえる。
人の生活を充足させるのに寄与する分野であると
第 2-2-43 図
家計(勤労者世帯)における個人向けサービス分野の支出割合の推移
(%)
16.0
15.1
14.9
15.0
14.8 14.9
14.8
14.5
14.6
14.1
14.0
13.6
13.5
13.6
13.3 13.4
13.5
14.4
13.6 13.6 13.7 13.6
13.7
13.0
13.0
12.0
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
(年)
資料:総務省「家計調査」
(1 世帯当たり年平均 1 か月間の収入と支出
(勤労者世帯)
−全国)
(注)
1.2 人以上の非農林漁家世帯が対象。
2.ここでは、
「家事サービス」
、
「被服関連サービス」
、
「保健医療サービス」
、
「授業料等」
、
「補習教育」
、
「教養娯楽サービス」
及び「理美容サービス」を「個人向けサービス」とする。
第 2-2-44 図
男女別の起業家の起業分野
個人向けサービス業
(40.0%)
0.3
0.3 0.3
女性
(7.8 万人)
21.9
21.9
2.3
3.9
小売業
3.0
4.9
11.3
3.2
15.9
医療,福祉
教育,学習支援業
飲食店,宿泊業
4.5
5.1
23.1
その他サービス業
生活関連サービス業
洗濯・理容・美容・浴場業
男性
(14.3 万人)
14.6
建設業
4.1
6.0
4.8
製造業
3.0
情報通信業
11.0
4.8
12.0
6.7
運輸業
卸売業
0
金融・保険業,不動産業
4.5
2.1
1.8
1.9
22.6
専門サービス業
100
(%)
資料:総務省「平成 19 年就業構造基本調査」再編加工
(注) 1.ここでいう起業家とは、過去 1 年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含ま
ない。)となっている者をいう。なお、ここでは非一次産業を集計している。
2.「その他サービス業」には、他に分類されないサービス業及び不明が分類されている。
「飲食店,宿泊業」、
「医療,福祉」、
「教育,学習支援業」、
「洗濯・理容・美容・浴場業」及び「生活関連サー
3.ここでは、
ビス業」を「個人向けサービス業」とする。
116
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
し、今後、女性の社会進出が更に進めば、女性の
及び給与総額の推移を示したものである。給与所
視点による商品やサービスの企画力や開発力が、
得者数及び給与総額は、男性ではいずれも減少傾
より重視されるようになると推察される。女性の
向にあるのに対し、女性は、いずれも増加傾向に
起業は、これらの分野のニーズに対応すること
ある。女性の所得拡大に伴い、女性顧客を対象と
で、新たな需要を掘り起こす可能性があると考え
した新たな商品やサービスに対する需要が増加
られる。
第 2-2-45 図
男女別の給与所得者数及び給与総額の推移
女性
男性
(兆円)
50
47
46.5
46.5
46.3
46
45
165
47.7
48
46.6
46.1
46.5
46.9
18.0
47.1
47.0
45.7
17.5
45.6
17.0
160
28.5
154.1
152.6
155
150.8
148.1
149.4
148.9
145
28.0
147.9
27.5
138.4
140
16.5
43
16.6
16.5
17.2
18.2
16.0
41
40
165.0 164.5
161.1
160.8
158.2
161.3
150
44
42
(百万人)
29.0
(百万人) (兆円)
170
18.5
49.1
48.9
49
給与所得者数(右軸)
給与総額(左軸)
給与所得者数(右軸)
給与総額(左軸)
46.7
第2 節
第 2-2-45 図は、男女別に見た、給与所得者数
27.0
135
130
135.9
28.4
28.4
27.3
27.7
26.5
125
96 97 98 99
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
15.5
120
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
(年)
07
08
09
10
26.0
(年)
資料:国税庁「民間給与実態調査」
(注) 給与所得者とは、各年 12 月 31 日現在で民間の事業所に勤務している従業員(パート、アルバイトを含む。)及び役員を対象
としている。
事 例
2-2-15
子どもに夢と職業意識を与えるため、地域の大人達との出会いを提供する女性起業家
神奈川県川崎市の特定非営利活動法人キーパーソン21
い原動力のようなものを探し出し、自分に素直に生きて
(事務局スタッフ 8 名)は、キャリア教育プログラム「夢
いってほしい。
」と語る朝山代表理事は、同プログラムを
発見プログラム」を開発し、これまで 2 万人以上の子ども
経験した子ども達が夢や職業意識を獲得し、次世代の子
達にキャリア教育を行っている法人である。同プログラム
ども達に社会への憧れや希望を与えられるようなキーパー
は、社会人に仕事内容等を取材する「かっこいい大人
ソンになってもらいたいと考えている。
ニュース」等のワークショップを通じて、子ども達が、普
段は簡単に接することができない大人の仕事に触れ、生
き方や職業観を学べるように構成されている。
同法人の朝山あつこ代表理事は、長男の「高校に進学
しない。
」という言葉を契機に、「現代の子ども達は、地
域や家庭における明確な役割がなく、大人と接する機会
も少ない。そのため、自分達が何のために勉強をするの
かが分からなくなっている。」と考えるようになり、「子ど
も達には、働く大人と出会い、夢や職業意識を持っても
らいたい。」との思いから2000 年に同法人を設立した。
「子ども達には、わくわくして動き出さずにはいられな
夢発見プログラムの実施風景
中小企業白書 2012
117
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
事 例
2-2-16
プロボノ 34 支援を受け、エシカル 35 ジュエリーのパイオニアとなった女性起業家
支援を受けた。同社のプロボノ登録者は、当初 5 名前後
東京都港区の株式会社 HASUNA(従業員 10 名、資本
金 950 万円)は、エシカルジュエリーの制作・販売を行
であったが、現在では 60 名にも及ぶ。
「起業時はプロボノ元年と呼ばれていた。仕事の傍ら社
う企業である。同社は、素材調達から生産・流通までの
過程を可視化することにより、「一生に一度の結婚指輪に
会的事業に関わりたいという人が増えてきており、非常に多
は、誰かの不幸の上に成り立つものを使いたくない。」と
くの人に助けられた。
」と語る白木社長は、プロボノの支援
いう社会的意識の強い女性を中心とした、若い世代の需
を受け、事業継続と社会的課題解決の両立を目指している。
要を掘り起こしている。
同社の白木夏子社長は、2006 年に金融業界に就職し
たものの、リーマン・ショックで業界全体に危機感を抱
き、働きながらの起業準備期間を経て、2009 年に同社を
立ち上げた。学生時代に訪れたインドの鉱山での劣悪な
労働環境に疑問を抱いていた白木社長にとって、ジュエ
リーの分野は前職とは無関係であったが、ジュエリー制作
の学校で作り方を学び、技術を身につけた。また、テレ
ビや雑誌、新聞等プレス向けの広報業務や顧客管理・在
庫管理のシステム構築といった専門的な業務については、
SNS(Social Networking Service)や友人の紹介で知り
合った、各分野の専門家であるプロボノの方から多くの
事 例
HASUNA 社員・インターン・プロボノメンバー
2-2-17
地元の宿泊施設と生産者をつなぐ女性起業家
福島県会津若松市の特定非営利活動法人素材広場(従
材全てが福島産となることが、究極の目標。
」と語る横田
業員 5 名)は、県内の旅館・ホテル等の宿泊施設と農作
理事長は、宿と生産者をつなぐことが、観光産業を中心と
物・工芸品等の生産者を交流会やインターネットを介し
した地域振興に不可欠と考え、精力的に取り組んでいる。
てつなぐことで、県内の地産地消を推進する法人である。
同法人の横田純子理事長は、大手旅行情報誌で営業兼
ライターとして10 年間勤務した後、2005 年に独立し、県
内の旅館に対して、集客や顧客満足度を高めるためのコ
ンサルティングを始めた。「当時、旅館等の料理長は、県
外から来ている方が多かったため、福島の食材に関する
情報が不足しており、福島の食材が手に入りにくい状況で
あった。」と語る横田理事長は、料理長と生産者をつなぐ
取組として、交流会を実施する福島県宿泊施設地産地消
推進委員会を立ち上げ、この委員会を母体として2009 年
に同法人を設立した。
「福島の素材を観光客に楽しんでもらうことが目的であ
り、食材だけでなく、お箸やお皿等テーブルの上にある素
地産地消イベント「会津・麗(うるわし)の食スタイル」の準備風景
34 プロボノ(pro bono)とは、
「pro bono publico」を略した英単語で「公益のために」という意味。実際には、「公益のために無償で仕事を行う」ことを指して
おり、ソーシャルビジネス推進研究会報告書(2011 年 3 月)では、
「企業人材や士業等の専門家によるスキルを活かした社会貢献活動」としている。
35 直訳すると、“ 倫理的な ”、“ 道徳的な ” という意味。エシカルジュエリーとは、環境や社会に配慮をした素材・フェアトレードやリサイクルの素材を使用した
ジュエリーのことを指している。
118
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
2
女性起業の現状と課題
前項では、女性起業家は、個人向けサービス等
の暮らしを充実させる分野での事業展開が多いと
に、男性の起業と比較しながら、女性の起業の現
状を見ていく。
まず、男女別に起業家の年齢層を見ると、男性
起業の動向について概観した上で、女性が起業す
起業家は 30 歳代と 60 歳代において人数が多く
る上での課題について分析する。
なっており、年代による差があることが分かる。
第2 節
いう特長があることを示した。本項では、女性の
一方で、女性起業家は 30 歳代の人数が多いもの
の、他はどの年代でもほぼ同数で横ばいとなって
■女性起業の現状
ここでは、総務省「就業構造基本調査」及び
「女性起業家に関するアンケート調査 」をもと
36
第 2-2-46 図
おり、女性の起業は、男性と比べて少ないことが
分かる(第 2-2-46 図)。
男女別・年代別の起業家数
男性
女性
(千人)
30
27.7
25
20.5
20
15.5
15
11.9
10
5
0
23.0
23.4
6.9
3.2
10.4
12.1
8.2
13.2
11.1
9.9
6.1
7.7
13.4
4.8
5.2
6.5
6.1
1.7
15∼19歳
20∼24歳
25∼29歳
30∼34歳
35∼39歳
40∼44歳
45∼49歳
50∼54歳
55∼59歳
60∼64歳
65 歳以上
資料:総務省「平成 19 年就業構造基本調査」再編加工
(注) ここでいう起業家とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含まない。)となっ
ている者をいう。
男女別に起業家の企業規模を見ると、女性起業
用せずに起業している(第 2-2-48 図)
。このこと
家の個人所得は 7 割が 100 万円未満となっている
から、男性と比べて、女性の起業は、比較的小規
(第 2-2-47 図)。また、起業家の企業規模を従業
模な起業が多いことが分かる。
者数で見ると、女性起業家は、9 割が従業員を雇
36 経済産業省の委託により三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(株)が、2011 年 3 月に、20 歳以上で、起業して 10 年未満の者(インターネット調査会社に登録
されているモニターに対して事前調査を行い、調査対象に該当する男女を抽出。)を対象に実施した、インターネットによるアンケート調査。回答者数は、618
人(男性 309 人、女性 309 人)。
中小企業白書 2012
119
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
第 2-2-47 図
男女別の起業家の個人所得
0.6
0.9 0.0
2.8
女性
(7.6 万人)
69.1
18.0
8.7
平均
93.1 万円
100 万円以上
200 万円未満
100 万円未満
男性
(14.1 万人)
31.9
16.8
16.0
平均
272.7 万円
200 万円以上
300 万円未満
13.1
8.0
11.4
2.8
300 万円以上 400 万円以上 500 万円以上
400 万円未満 500 万円未満 1,000 万円未満 1,000 万円以上
0
100
(%)
資料:総務省「平成 19 年就業構造基本調査」再編加工
(注) 1.ここでいう起業家とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含まない。)
となっている者をいう。なお、ここでは、非一次産業を集計している。
2.個人所得について回答した者を集計している。
3.所得平均は、
「収入なし、50万円未満」を25万円、
「50 ∼ 99万円」を75万円、同様に他の階層についても両端の平均を
用いて推計している。ただし、「1,500 万円以上」は 1,500 万円とみなしている。
第 2-2-48 図
男女別の起業家が経営する企業の従業者数
1.0
女性
(7.8 万人)
89.5
9.4
1人
男性
(14.2 万人)
72.6
0.1
2 ∼ 4人
20.4
4.9 2.1
5 ∼ 9 人 10 人以上
0
100
(%)
資料:総務省「平成 19 年就業構造基本調査」再編加工
(注) ここでいう起業家とは、過去 1 年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含まない。)
となっている者をいう。なお、ここでは非一次産業を集計している。
120
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
起業時の年齢を見ると、女性は男性と比較し
50 図)
。就業経験の短い女性は、資金や経験を得
て、平均年齢が 4.5 歳低く、低い年代で起業する
る機会が少なく、相対的に起業を実現しにくい環
割合が高い(第 2-2-49 図)
。また、起業前の就業
境に置かれていると考えられる。
経験年数も、女性の方が短い傾向にある(第 2-2-
女性
(n=309)
第2 節
第 2-2-49 図
男女別の起業時の年齢
21.0
23.0
21.0
15.9
12.3
4.5
0.3
1.9
平均
36.5 歳
30 歳未満
男性
(n=309)
30 ∼ 34 歳
12.0
13.6
35 ∼ 39 歳
21.7
40 ∼ 44 歳
20.1
45 ∼ 49 歳
11.7
50∼54歳
11.0
7.4
2.6
平均
41.0 歳
55 ∼ 59 歳
0
60 歳以上
100
(%)
資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」(2011 年 3 月、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
(株))
第 2-2-50 図
女性(n=309) 3.6
男女別の起業家の起業前の就業経験年数
16.5
24.9
21.0
34.0
就業経験なし
5 年未満
男性(n=309)
13.9
5 年以上 10 年未満
20.1
10 年以上 15 年未満
14.9
15 年以上
49.5
1.6
0
100
(%)
資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」
(2011 年 3 月、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(株))
(注) 複数の職場や業種を経験した場合は、その合計年数を就業経験年数としている。
中小企業白書 2012
121
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
えられる。他方、
「開業資金の調達」という課題
■女性起業の課題
こうした起業時の年齢や就業経験についての男
は、男性においては最も多く回答されているもの
女の違いは、起業時における課題にどのような影
の、女性においては最多となっていない。これ
響を与えているだろうか。
は、男性の起業と比べると、女性の起業は、比較
起業時の課題を男女別に見てみると、女性が起
的小規模であり、自己資金のみで起業する割合が
業する際の課題は、男性と比べて「経営に関する
高い傾向にある37 ため、資金ニーズに関する回答
知識・ノウハウ不足」
、
「事業に必要な専門知識・
が、最多となっていないのではないかと推察され
ノウハウ不足」と回答する割合が高い(第 2-2-
る。さらに、
「家事・育児・介護との両立」とい
51 図)
。これは、就業経験の短さから、経営や事
う課題については、他の項目における回答に比べ
業に関する知識や経験を得る機会が少なく、ま
れば、割合は低いものの、男性と比べると約 4 倍
た、これらの知識・ノウハウを与えてくれる助言
の開きがあり、女性が起業する際に留意しなけれ
者に出会う機会も乏しいことが、要因であると考
ばならない課題の一つといえる。
第 2-2-51 図
男女別の起業時の課題(複数回答)
女性(n=309)
男性(n=309)
41.7
経営に関する知識・ノウハウ不足
36.6
38.2
事業に必要な専門知識・ノウハウ不足
32.0
35.9
開業資金の調達
44.0
30.4
販売先の確保
36.9
18.1
家事・育児・介護との両立
4.9
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
(%)
資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」
(2011 年 3 月、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
(株)
)
(注)
女性が回答した割合が高い 5 項目を抜粋。
以上、我が国の女性起業の現状及び課題につい
少なく、ビジネスにおける知識や経験が不足して
て分析してきたが、女性の起業活動を促進するた
いる女性起業家には、相談に乗り、助言を与えて
めには、どのような支援が必要だろうか。
くれるメンターの存在やロールモデルを提供して
第 2-2-52 図によると、女性が起業時に欲しかっ
くれる同じ立場の人の存在が、重要と考えられ
た支援は、
「同じような立場の人(経営者等)と
る。このため、これらの人々との交流や意見交換
の交流の場」
、
「経営に関するセミナーや講演会」
ができる場は、女性が起業の課題を克服する上
と回答する割合が男性と比べて高い。就業経験が
で、重要な役割を果たすといえる。
37 借入をして起業する女性起業家の状況については、コラム 2-2-8 で述べる。
122
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
第 2-2-52 図
男女別の起業時に欲しかった支援(複数回答)
女性(n=309)
男性(n=309)
同じような立場の人(経営者等)との交流の場
35.0
22.3
23.0
低金利融資制度や税制面の優遇措置
経営に関するセミナーや講演会
35.6
27.5
16.5
10.7
保育施設や家事支援、介護支援等のサービスの拡充
第2 節
29.1
仕入先や販売先の紹介
5.2
2.3
24.3
24.6
特になし
0
5
10
15
20
25
30
35
40
(%)
資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」(2011 年 3 月、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
(株))
(注) 男女差の大きい回答及び「特になし」の回答を抜粋。
事 例
2-2-18
様々なつながりの支援を受けて起業した女性起業家
東京都千代田区の株式会社コラボラボ(従業員 5 名、
起業後の事業継続支援も重要。」と語る横田社長は、女
資本金 1,500 万円)は、大手企業からのマーケティング
性起業家 300 名が一同に集結する「J300」を企画するな
事業等の受託及び女性起業家を会員とするポータルサイト
どして、高い専門性を持ちながらもビジネス経験や人脈
「女性社長 .net」の運営を行っている。同ポータルサイト
内では、女性社長の紹介や女性社長と大手企業とのビジ
に乏しい女性経営者が、より強みを活かせるようサポート
したいと考えている。
ネスマッチング等が行われている。
同社の横田響子社長は、前職の大手人材関連会社で、
事業企画等に携わっていた。しかし、やりたいことを自分
でしたいという気持ちが強くなったため退職し、フリーラ
ンスとして活動した後、2006 年に起業した。
「女性の起業には、事業面で支援してくれる人と精神面
で支援してくれる人が必要。」と語る横田社長自身、起業
時に様々な人に助けられた。事業面では、女性社長にイ
ンターンシップの形で、仕事と収入の機会を提供してもら
うとともに、精神面では、前職の先輩や学生時代の友人
に、ビジネスモデルの相談に乗ってもらい、起業の後押
しをしてもらった。
「女性の起業については、立ち上げ支援だけでなく、
J300 に参加する女性起業家
中小企業白書 2012
123
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
事 例
2-2-19
支え合いにより家事・育児の課題を乗り越えて起業した主婦グループ
長野県松川村の有限責任事業組合こめのこ工房なごみ
ではなく、負担のない範囲で、お小遣い程度に稼げれば
や(組合員 6 名、従業員 6 名)は、地元信州安曇野産の
良いという考えを皆で共有していることが、うまくいってい
米粉を使用したパンやケーキを製造し、地元の道の駅・
る大きな要因。
」と考えており、子育てをしながら働ける場
農協直売所やネットで販売している。
所という意識を、全員で共有することの重要性を指摘する。
同組合の組合員及び従業員は全て、松川村の郷土料理
講習会に集まった子育て世代の主婦である。そのため、
家計に影響が及ばないよう、起業時に必要であった設備
を中古で購入し、設備投資を自己資金の範囲内に抑えた。
また、就業形態についても、土日・祝祭日、夏休み・冬
休みを休業とするだけでなく、出勤日を週 3日程度、勤務
時間を午前か午後と設定することで、家事・育児をしな
がらでも、働きやすいような環境を整備している。
「母親でも事業はできる。しかし、一人で起業することは
困難であり、複数人で支え合ってやることが大事。
」と語る
同組合の吉森里和組合員は、
「売上を拡大するという考え
事 例
信州安曇野産の米粉を使用したパン
2-2-20
地元企業の支援により農産加工品の商品化やブランド化に取り組む女性グループ
山口県山口市内の 5 つの地域では、国の施策を活用し
同社は、主力製品として葉たばこ乾燥機を製造・販売する
て、女性グループ等が主体となり、地域の特産品を活か
国内有数の企業であるが、木原康博氏が 4 代目として2008
した新しい乾燥食品の開発が、進められている。
その一つである阿東地域長門峡「実り会」は、篠生農
年に社長に就任して以来、時代の変化に応じた新たな事業
の柱として食品乾燥機に力を入れ、コンピュータ制御によ
業協同組合婦人部若妻会の OG が集まった 10 名の女性グ
る燃費を大幅に改善した製品の開発やホームページを利用
ループで、特産品の梨を使ったドライフルーツの商品開
した販路開拓に取り組んできた。同社は、山口市の仲介で、
発を行っている。同会のメンバーは、地域に愛着を持ち、
地域の活性化を進める各グループとつながり、乾燥技術の
地域を元気にしたいという思いから、これまでは梨ジャム
提供や商品の試作に加え、商品パッケージや販売戦略を提
を作ってきた。しかし、地域の魅力をより強く発信するた
案し、各グループの思いを実現する後押しをしてきた。
めには、他の地域にはない画期的な新商品が必要ではな
実り会メンバーは、「パッケージデザイン等も提案して
いかと感じ、試行錯誤を行っていたが、思うような新商品
もらったので商品として完成できたが、それがなければこ
を開発できずに悩んでいた。
こまでたどり着けなかった。」と語る。地域のつながりの
そこで、助けとなったのが、同市に本社を置く株式会社
木原製作所(従業員70 名、資本金 4,500 万円)であった。
中で、地域を活性化したいという思いの実現に向けた取
組が進められている。
商品開発に取り組む実り会メンバー
124
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
コラム
(株)日本政策金融公庫総合研究所
38
に見る女性起業家の現状
「新規開業実態調査」
2-2-8
第2 節
本コラムでは、
(株)
日本政策金融公庫総合研究所が行っている「新規開業実態調査」により、女性起業家の現状を見る。
コラム 2-2-8 図①は、起業家全体に占める女性起業家の割合の推移である。同調査では、女性割合は 15% 前後を示
しており、総務省「就業構造基本調査」の同割合(32.3%)39 と比較するとかなり低い。女性が起業した企業は男性と比
較して小規模であり40、自己資金のみで起業する割合が、男性起業家より高い傾向にあるため、同調査における女性割
合が、低くなっていると考えられる。
コラム 2-2-8 図① 起業家全体に占める女性起業家の割合の推移
(%)
50
45
40
35
30
25
20
15.3 14.0 13.8 16.1 16.5 16.5 15.5 15.5 14.5 15.5
14.7 13.4 13.1 14.9 13.6
12.5 14.4
15 12.4 12.9 12.9
10
5
0
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
10(年度)
09
資料:(株)日本政策金融公庫総合研究所「新規開業実態調査」
次に、起業家の起業分野を男女別に見たのが、コラム 2-2-8 図②である。女性は、個人向けの身近なサービス等で起
業が多く、前掲第 2-2-44 図と同様の結果となっているが、同調査では医療・福祉の分野での起業の割合が男性よりも高
くなっているという特徴がある。
コラム 2-2-8 図② 男女別の起業家の起業分野
0.4
女性
(n=268)
0.4
2.6
個人向けサービス業
(64.2%)
1.9
18.3
4.1
3.4
小売業
1.9
18.3
20.1
飲食店,宿泊業
医療,福祉
19.4
4.9
1.6
男性
(n=1,463)
建設業
5.0
製造業
2.7
2.9
運輸業
9.1
卸売業
情報通信業
0
13.1
5.1
金融・保険業,
不動産業
7.8
11.8
専門サービス業
3.0
0.0
生活関連
サービス業
教育,学習支援業
10.1
1.5
洗濯・理容・
美容・浴場業
14.8
1.2
6.4
その他サービス業
7.7
0.8
その他
100(%)
資料:(株)日本政策金融公庫総合研究所「2010 年度新規開業実態調査」
(注) ここでは、
「飲食店,宿泊業」、
「医療,福祉」、
「教育,学習支援業」、
「洗濯・理容・美容・浴場業」及び「生活関連サービス業」
を「個人向けサービス業」とする。
38 1991 年度以降、
(株)日本政策金融公庫の取引先を対象に実施しているアンケート調査。毎年ほぼ同様の要領で継続的に実施しており、2010 年度調査では、
1,738 社が回答。
39 中小企業白書(2011 年版)p.185 を参照。
40 前掲第 2-2-47 図、前掲第 2-2-48 図を参照。
中小企業白書 2012
125
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
起業時の年齢については、前掲第 2-2-49 図では、女性は比較的若い年代の割合が高かったものの、同調査では、女
性の平均年齢が 43.7 歳であるのに対し、男性が 42.4 歳となっており、ほとんど男女差は見られない。また、起業前の就
業経験年数を男女別に見たのが、コラム 2-2-8 図③である。前掲第 2-2-50 図では、女性は男性に比べて就業経験が少
ない傾向にあり、同調査でも同様の傾向となっているものの、それほど大きな差は見られない。
コラム 2-2-8 図③ 男女別の起業家の起業前の就業経験年数
女性
4.6 4.2
(n=261)
13.8
5 年以上
10 年未満
男性
(n=1,424) 2.9
1.8
19.5
10 年以上
15 年未満
15 年以上
19.3
63.1
12.9
就業経験なし
57.9
1 年以上 5 年未満
0
100(%)
資料:(株)日本政策金融公庫総合研究所「2010 年度新規開業実態調査」
これらのことから、借入を行った起業家に限って見れば、女性起業家と男性起業家は、起業分野は大きく異なるもの
の、起業前の就業経験年数や起業時の年齢は、大きな差が見られないことが分かる 41。
コラム
2-2-9
起業活動の促進施策
2010 年 6月に閣議決定された中小企業憲章42 において、政府は、「起業を増やす」ことを中小企業政策の基本原則と
しており、「起業・新事業展開のしやすい環境を整える」という行動指針を定めている。これに基づき、政府は、事業環
境の整備、金融環境の整備、マッチングの場の提供といった起業家支援を行っている。
また、女性に限らず、休廃業した倒産企業の経営者の多くが、経済的負担や精神的負担から再起業・再チャレンジを
希望していないとの指摘があるが43、こうした負担を軽くし、起業のリスクを低減させることで、起業・再チャレンジしや
すい環境を整えることが重要である。
起業支援策
【事業環境の整備】
● Japan Venture Awards
今後、起業を目指す人々にとってモデルとなる起業家の表彰。
●ベンチャーSPIRITS
セミナー等を通じて創業を啓発するとともに、創業に役立つ情報を提供。
41 他方、起業直前の職業については、「会社や団体の常勤役員」又は「正社員(管理職)」であった割合は、男性が 62.9%であるのに対し、女性は 31.9%となって
いる。これが、起業前の経験内容の差となっている可能性がある。
42 中小企業憲章は、中小企業の意義、役割の重要性、そして中小企業への期待が益々高まっていることを踏まえ、制定された。全文は、付注 2-2-18 を参照。
43 中小企業白書(2003 年版)p.130 を参照。
126
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
【金融環境の整備】
①融資環境の整備
●新創業融資制度
新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、
(株)日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という)
(国民事業)
が 1,500 万円までを無担保・無保証人で貸付。
第2 節
●新規開業支援資金
新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、日本公庫(国民事業)が低利貸付。
●再チャレンジ支援融資(再挑戦支援資金)
廃業歴などを有し、新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、日本公庫が低利貸付。
●女性、若者/シニア起業家支援資金
新たに事業を始める又は事業を開始して間もない女性又は若者(30 歳未満)、高齢者(55 歳以上)へ、日本公庫が低利
(
貸付。
多様な担い手による新規事業や雇用の創出を図ることを目的とし、2011 年度(2012 年 1 月末時点)においては、6,374
件、約 302 億円の融資を行っている。
)
②保証環境の整備
●創業関連保証・創業等関連保証
新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家に対して、信用保証協会が 2,500 万円までを無担保で保証。
③出資環境の整備
●起業支援ファンド・中小企業成長支援ファンド
民間のベンチャーキャピタルや投資会社が運営するファンドへ、(独)中小企業基盤整備機構がファンド総額の 2 分の 1 以
内を出資。
④税制優遇
●ベンチャー企業投資促進税制(エンジェル税制)
一定の要件を満たすベンチャー企業に対する個人投資家への減税措置。
【マッチングの場の提供】
●ベンチャープラザ
資金調達を目指す中小・ベンチャー企業に対して、ベンチャーキャピタル等の投資家等へビジネスプランのプレゼンテー
ションを行う機会を提供。
●販路ナビゲーター創出支援事業
ベンチャー企業の販路開拓について、豊富な経験とネットワークを有する販路ナビゲーターが商品・サービス等の評価及
び販路候補先に係る情報を提供。
3
女性の就業
中小企業白書(2011 年版)では、女性の起業
■女性就業の重要性
と就業の関係の一例として、我が国の雇用慣行に
内閣府によれば、求職活動をしていないが、就
おいて、必ずしも就業や能力発揮の機会に恵まれ
業を希望している女性の非労働力人口は、約 342
てこなかった女性が、起業という選択によって、
万人存在すると推計されている(第 2-2-53 図)
。
44
自らの活躍の場を創出していることを示した 。
女性の就業を後押しし、女性と地域や社会との関
女性が就業する上で、女性の起業はどのような役
わりを深めることは、生産年齢人口が減少傾向に
割を果たすのであろうか。本項では、女性の起業
ある我が国の労働力の確保という面だけでなく、
と就業の関係を、事例をもとに探っていく。
世帯所得の増加に伴う消費活動の活発化という面
でも重要である。
44 中小企業白書(2011 年版)p.200 を参照。
中小企業白書 2012
127
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
第 2-2-53 図
M 字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算
(1)労働力率(実績)
(4)潜在的労働力率(M 字カーブ解消の場合)
(2)労働力率(M 字カーブ解消の場合)
(5)労働力率がスウェーデンと同じ場合
(3)潜在的労働力率
(%)
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
342 万人
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
15 ∼ 19 歳 20 ∼ 24 歳 25 ∼ 29 歳 30 ∼ 34 歳 35 ∼ 39 歳 40 ∼ 44 歳 45 ∼ 49 歳 50 ∼ 54 歳 55 ∼ 59 歳 60 ∼ 64 歳 65 歳以上
(年齢)
資料:内閣府「平成 23 年版 男女共同参画白書」
(注) 1.総務省「労働力調査(詳細集計)」(平成 22 年)、ILO“LABORSTA”から作成。
2.「M 字カーブ解消の場合」は、30 ∼ 34 歳、35 ∼ 39 歳、40 ∼ 44 歳の労働力率を 25 ∼ 29 歳と同じ数値と仮定したもの。
3.潜在的労働力率=(労働力人口+非労働力人口のうち就業希望の者)
/15 歳以上人口
4.労働力人口男女計:6,581 万人、男性 3,814 万人(平成 22 年)
5.労働力人口の試算は、年齢階級別の人口にそれぞれのケースの年齢階級別労働力率を乗じ、合計したもの。
128
第 2-2-54 図は、2002 年から 2010 年までの間の
就業を促進することは、今後の重要な課題の一つ
男女雇用者数の増減を示している。その間、男性
と位置付けられる。また、女性就労の「量的拡
雇用者が約 41 万人減少している一方、女性雇用
大」のみを求めるのではなく、女性の就業促進と
者は約 87 万人増加しており、産業別に見ると、
併行して、女性本人の働き方の選択を尊重しなが
医療・福祉、教育・学習支援業、宿泊業・飲食
らも、女性が持てる能力を発揮し、適正な処遇の
サービス業の分野で、女性の雇用が大きく増加し
もとで就労できるよう、非正規雇用から正規雇用
ている。女性の雇用増が大きいこれらの分野は、
への雇用形態間の転換促進や、企業における女性
家事・育児・介護等のニーズに対応した、今後も
のキャリア開発、女性管理職比率の向上等を図
成長が期待される分野であることから、女性の就
り、女性就業の質的向上を目指すことも重要であ
業が果たす役割は、更に高まるであろう。女性の
る。
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
第 2-2-54 図
2002~2010 年における男女別・産業別の雇用者数の増減
女性
男性
(万人)
200.0
第2 節
41.5
150.0
100.0
50.0
35.1
86.6
27.4
15.2
27.9
0.0
▲40.7
▲19.7
2.8
15.0
▲74.1
▲50.0
▲26.6
1.4
44.6
▲5.7
▲10.9
▲24.5
▲17.5
▲1.4
▲26.5
▲81.5
▲37.7
▲100.0
▲150.0
129.5
10.0
全産業
建設業
製造業
情報通信業
運輸業,
郵便業
卸売業,
小売業
宿泊業,
生活関連
教育,
飲食
サービス業, 学習支援業
サービス業
娯楽業
医療,
福祉
複合サービス サービス業
事業
(他に分類さ
れないもの)
資料:総務省「労働力調査」再編加工
(注) 1.ここでいう雇用者には、家族従業者を含み、有給役員を含まない。
2.同調査の個票データを用いて、年平均した数値を用いている。
3.内閣府「平成 23 年版 男女共同参画白書」第 1-2-5 図を参考に作成している。
事 例
2-2-21
女性の職域拡大により、社内の活性化に取り組むものづくり企業
滋賀県東近江市の株式会社寺嶋製作所(従業員 130 名、
資本金 1,800 万円)は、炊飯ジャーの内釜や電気機械器
具等の板金プレス加工を行う企業である。
の運転のような、これまで、女性がいなかった業務分野
でも、女性が責任を持って自分の役割を果たせるように
なり、自信が生まれた。一方、男性も、自分の職域にと
女性の職域拡大に取り組む前の同社の工場は、他のプ
どまることなく、他の仕事でも職場を良くしたいという意
レス工場と同様に、男性中心の職場であった。しかし、
識に変化した。」と語っており、女性の職域拡大による相
「ひたむきな努力」、「常にチャレンジ」を社是に掲げる同
乗効果が、社内に活気をもたらしている。
社の寺嶋嘉孝社長は、約 10 年前から安全性の高い機械
設備を導入することにより、生産ラインでも女性が活躍で
きるよう、職場環境を整備した。また、2007 年には職場
の風土改革に取り組み、就業規則の見直しにより、パー
トから正規への転換を可能にした。
現在、同社の工場では 20 名近くの女性が生産ラインに
配属されている。また、生産ラインの改善提案において
も、表彰される提案の多くが女性によるものとなっており、
これらの提案は「省スペースでも生産効率を維持すると
いう視点が明確。」と、寺嶋社長は語っている。さらに、
プレス工場で必須となっているフォークリフトの運転につ
いても、2 名の女性が資格を取得した。
寺嶋社長は、「女性の職域拡大により、フォークリフト
生産ラインに従事する女性従業員
中小企業白書 2012
129
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
コラム
女性の労働参加率と出生率
2-2-10
コラム 2-2-10 図①は、2009 年の OECD 加盟 24 か国における女性労働力率と、合計特殊出生率の関係を示している。
また、コラム 2-2-10 図②は、都道府県別に見た共働き率と、合計特殊出生率の関係を示している。それぞれ、両者の
関係は固定的なものでなく、仕事と育児の両立支援のための環境整備等の状況により、変化し得るものであるが、最近
では、所得要因も背景に、両者の間に正の相関があり、女性の社会進出が進んでいる国及び地域ほど、合計特殊出生
率も高い傾向にある、との指摘もある。
コラム 2-2-10 図① OECD 加盟 24 か国における女性労働力率と合計特殊出生率(2009 年)
2.40
アイスランド
2.20
ニュージーランド
アイルランド
米国
2.00
合計特殊出生率
フランス
ベルギー
1.80
ノルウェー
英国
オーストラリア
スウェーデン
フィンランド
デンマーク
オランダ
OECD 平均
カナダ
ルクセンブルク
1.60
ギリシア
スイス
イタリア
1.40
スペイン
日本
1.20
1.00
オーストリア
ドイツ
ポルトガル
韓国
40
45
50
55
60
65
70
女性の労働参加率(%)
75
80
85
90
資料:内閣府「男女共同参画会議 基本問題・影響調査専門調査会報告書」(2012 年 2 月)
(注) 1.女性の労働参加率については、OECDジェンダーイニシアチブレポートp.58、合計特殊出生率については、OECD
デ ー タ ベ ー ス(http://www.oecd.org/document/0,3746,en_2649_201185_46462759_1_1_1_1,00.html)を
もとに、内閣府男女共同参画局が作成。
2.「少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書」(2005 年 9 月)を参考に、同報告書が分析対象と
した 24 か国(OECD 加盟国(30 か国:当時)のうちで、2000 年の 1 人当たり GDP が 1 万ドル以上となって
いる 24 か国。)を対象に作成。
3.合計特殊出生率とは、15 歳から 49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1 人の女性が仮にその年次
の年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子ども数に相当する。
130
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
コラム 2-2-10 図② 都道府県別の共働き率と合計特殊出生率(2010 年)
1.90
31/47 都道府県
(66.0%)
5/47 都道府県
(10.6%)
1.80
合計特殊出生率
第2 節
1.70
福井県
1.60
1.50
石川県
富山県
1.40
全国平均
1.30
1.20
7/47 都道府県
(14.9%)
1.10
40.0
45.0
4/47 都道府県
(8.5%)
50.0
55.0
60.0
65.0
70.0
75.0
共働き率(%)
資料:総務省「平成 22 年労働力調査」再編加工、厚生労働省「平成 22 年人口動態統計」
(注) 1.共働き率については、総務省「平成 22 年労働力調査」、合計特殊出生率については、「平成 22 年人口動態統計」
をもとに作成。
2.49 歳以下の既婚女性で続柄が「世帯主」、「世帯主の配偶者」、「子」、「子の配偶者」について集計している。
3.ここでいう共働き率とは、既婚女性のうち、夫・妻いずれも働いている割合をいう。
4.合計特殊出生率とは、15 歳から 49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1 人の女性が仮にその年次
の年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子ども数に相当する。
5.労働力調査は標本規模が小さく、都道府県別の集計結果は全国の結果に比べ標本誤差が大きくなるため、注意が
必要である。
共働き率、合計特殊出生率のいずれもが全国平均を上回っている北陸 3 県(福井県、石川県、富山県)では、企業
は付加価値を高めた経営により家計に正社員雇用を提供し、家計は企業に質の高い労働を提供し、双方を高め合う好循
環を構築している。また、行政・自治体は、企業の研究開発、家計の子育てをサポートし、好循環を更に加速させてい
る(コラム 2-2-10 図③)。
コラム 2-2-10 図③ 北陸地方におけるダブルインカムによる価値創造モデル
産学連携
による
共同研究開発
行政・自治体
安定した正社員雇用
保育施設
整備
企業
家計
差別化された製品
による安定経営
同居、近居する両親世代
による子育てサポート
正社員労働者と技術力強化による
付加価値創造
正社員従業員による
質の高い労働力
正社員共働きによる
ダブルインカム
資料:産業構造審議会第 5 回新産業構造部会(2012 年 2 月)配布資料
中小企業白書 2012
131
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
半には達していない(第 2-2-56 図)
。さらに、育
■女性の起業による課題の解決
女性の就業を阻む課題として、総務省「労働力
児の分担割合を見ると、末子の年齢が低いほど、
調査」により、就業希望の女性が求職しない理由
妻の育児分担割合が高く、末子が 1 歳未満である
を見ると、その約 3 割が「家事・育児のため仕事
場合、大半の家庭において、妻の育児分担割合が
が続けられそうにない」と回答している(第 2-2-
8 割以上と回答していることが分かる(第 2-2-57
55 図)
。また、国立社会保障・人口問題研究所が
図)
。これらのことから、女性の就業を阻む要因
実施している「全国家庭動向調査」から、夫の家
として、家庭生活において家事・育児の負担が女
事・育児実施状況を見てみる。これによると、夫
性に偏っており、女性の就業の大きな課題となっ
の家事遂行割合は、どの項目についても、2003
ていることが、見て取れる。
年から 2008 年にかけて上昇しているものの、過
第 2-2-55 図
男女別の求職しない理由
女性(342 万人)
男性(126 万人)
家事・育児のため仕事が
続けられそうにない
0.8%
健康上の理由
6.3%
3.5
%
近くに仕事がありそうにない
18.3%
17.8%
自分の知識・能力にあう
仕事がありそうにない
32.7%
5.0%
36.5%
4.4%
13.7%
勤務時間・賃金などが希望に
あう仕事がありそうにない
6.3%
今の景気や季節では仕事が
ありそうにない
その他適当な仕事が
ありそうにない
7.9%
11.7%
3.5
%
6.3%
7.6%
9.5%
その他
7.9%
非求職理由不詳
資料:総務省「平成 22 年労働力調査」
(注) 非労働力人口における就業希望者が対象。
第 2-2-56 図
妻から見た夫の家事遂行の割合
03 年(n=5,808)
(%)
100
08 年(n=5,597)
90
80
70
60
50
40
36.4
42.1
30
39.9
31.9
16.7
20
20.7
25.3
17.7
15.7
19.4
24.7
29.3
30.7
23.1
10
0
ゴミ出し
日常の買い物
部屋の掃除
洗濯
炊事
資料:国立社会保障・人口問題研究所「第 4 回全国家庭動向調査」(2008 年 7 月)
(注) 1.表中の数値は、各項目に対して「週 1 ∼ 2 回以上」と回答したケースの割合。
2.全ての項目に対して有効回答したケースを対象に集計している。
3.妻の年齢 69 歳以下を対象に集計している。
132
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
風呂洗い
食後の後片付け
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
第 2-2-57 図
(%)
100
末子年齢別の妻の育児分担の割合
1.0 1.9
90
14.0
2.6
2.9
5.3
6.6
60 ∼ 79%
40% 未満
17.9
70
31.4
40 ∼ 59%
19.9
第2 節
80
80 ∼ 89%
25.5
60
27.0
50
40
妻の育児分担
割合が80%以上
90 ∼ 99%
30
45.4
43.7
34.3
20
10
0
100%
9.3
6.3
5.0
1 歳未満(n=207)
3 歳未満(n=357)
6 歳未満(n=408)
資料:国立社会保障・人口問題研究所「第 4 回全国家庭動向調査」(2008 年 7 月)
(注) 妻の年齢 49 歳以下を対象に集計している。
かかる状況のもと、前掲事例 2-2-18(株式会社
なると考えられる。事例 2-2-22(株式会社アク
コラボラボ)や事例 2-2-22(株式会社アクション
ションパワー)や事例 2-2-24(ふじ内科クリニッ
パワー)
、事例 2-2-23(株式会社キャリア・マム)
ク)のように、女性起業家自身が結婚や出産等の
のように、女性起業家は、自身が抱えていた課題
ライフステージに応じた課題を乗り越えている場
から、新たな需要を掘り起こし、これらの課題を
合、女性従業員が同様の課題に直面しても、柔軟
解決するためのサービスを提供する分野で起業す
な対応により、就業を継続しやすい環境を提供す
ることがあると推察される。女性の起業が活発に
ることが、可能ではないかと考えられる。
なり、これらの分野に新たな企業が生まれれば、
一方、女性の起業により、女性の就業が促進さ
これらの企業が提供するサービスにより、家事・
れれば、家事・育児等の課題解決サービス分野に
育児を負担する女性が就業する際の課題が解決さ
おける需要の高まりや世帯所得の増加により、女
れ、女性の社会進出の促進につながるであろう。
性の起業が多い個人向けサービス分野の市場拡大
また、女性が出産後、再就職した際に出てくる
が予想される。同時に、女性が就業しやすい環境
解決困難な課題には、子どもの病気等の日常の突
が整備されることにより、女性が男性と同等の就
発的な出来事による急な遅刻や休暇があるといわ
業経験を積むようになれば、就業経験の短さに起
れている。これらの課題に対しては、育児休業制
因する経営や事業に関する知識・ノウハウ不足等
度の整備等による支援では対応しきれないという
の、これまで女性の起業を阻んでいた課題が解決
現状があり、職場の雰囲気づくりや上司の理解・
され、就業経験を有した女性起業家の増加へとつ
協力等の、明文化されていないサポートが必要に
ながるであろう。
中小企業白書 2012
133
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
事 例
2-2-22
働く女性の支援と女性の働く場の提供を目指す女性起業家
愛知県名古屋市の株式会社アクションパワー(従業員 9
解できる環境にあることから、子育て等で大変なときには
名、資本金 300 万円)は、家事代行、ハウスクリーニン
他の社員にカバーしてもらえ、働きやすい環境となってい
グ、整理収納等のサービスを提供する企業である。
る。」と語る。このメイトシステムは、女性特有のライフ
同社の大津たまみ社長は、「働く女性として自分が欲し
ステージや個別事情に応じた柔軟な雇用調整をしやすく
かったサービスをシンプルにビジネス化した。」と語り、
しており、女性が働きやすい環境を提供することにも寄与
サービスを提供することで働く女性の負担を軽くするとと
している。
もに、プロとして代行サービスができる女性を育成するこ
とで女性が働ける場所を広げようと考えている。
同社では、自立して働ける女性を育成・支援するため、
「お部屋のおそうじお片付けセミナー」、「整理収納おそう
じ研究会」等の各種セミナー・講座を開催し、そうしたセ
ミナー受講者を対象に「メイトシステム」と呼ぶ独自の業
務委託システムを導入している。これは、メイトとして登
録した受講者が将来的に代行サービス業者として独立し、
同社の業務の一部を委託するシステムである。
大津社長は、「社員もメイトも、思いを共有する女性が
集まっている。全員が、それぞれの立場を身にしみて理
事 例
ハウスクリーニングの様子
2-2-23
女性の起業・就業・社会参加をサポートする女性起業家
東京都多摩市の株式会社キャリア・マム(従業員15 名、
資本金 3,875 万円)は、全国10 万人の主婦会員を抱える自
社サイトを活用し、企業・行政に消費者の声を届けることで、
宅周辺でできる仕事を紹介することにより、主婦会員の起
業・就業・社会参加をサポートしている。
堤社長は、女性の起業に関して、「世の中に対して何か
本当に売れる商品・サービスづくりを支援する企業である。
しらの不満があったが、女性ということで実現できなかっ
同社の堤香苗社長は、起業前はフリーアナウンサーとし
た人が大勢いる。そこに仲間がいればうまく起業・事業
て活動していた。しかし、出産後は育児に大半の時間が割
継続できる。
」と考えている。そのためには「女性起業家
かれるようになり、思うように動けなくなった。そのような
に対して併走してアドバイスができるコーディネーターの
経験から、主婦が主役になれる場所を創りたいと考え、育
存在が重要であり、起業に苦労している話を聞いて適切
児サークル「PAO」を設立し、2000 年同社を起業した。
な助言ができる実際の創業者のネットワークを形成するこ
同社は、会員だけでなく、働きたい女性等を応援する
とが必要。」と語り、意欲がありながらも、育児に追われ
「就労支援セミナー」の実施によりキャリア教育を行うとと
社会から隔絶されている女性の特徴と経験を社会に還元
もに、研修を終えた SOHOワーカーに対しても自宅や自
できる仕組みの創出を目指している。
就労支援セミナーで話す堤社長
134
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第
2部
潜在力の発揮と中小企業の役割
事 例
2-2-24
女性のライフサイクルに配慮し、女性が働きやすい職場を目指す女性院長
理解しているため、女性従業員が家庭や人生で困ってい
ることが理解でき、それを解決するための的確なアドバイ
う診療所である。
スや勤務体系の整備等が可能になる。」と語る内藤院長
同診療所の内藤いづみ院長は、大学卒業後勤務医とし
て働いていたが、医師が患者より力を持っている関係に
第2 節
山梨県甲府市のふじ内科クリニック(従業員 7 名)は、
がん患者等の終末期患者に対する在宅ホスピスケアを行
は、女性が働きやすい職場環境を作ることができるのが
女性経営者のメリットであると考えている。
違和感を抱えていた。このため、夫の転勤を機に渡英し、
ホスピスで研修を受け、帰国後に同診療所を開業した。
内藤院長自身、子育てをしながらの起業であったため、
「命に向き合う仕事である以上、働く側の人間も身体を大
事にしなければならず、スタッフには家庭を犠牲にして欲
しくない。
」と考えている。このため、勤務している看護
師、保健師、事務員等の従業員が全員女性である同診療
所では、子どもの容態が急変した際等には臨機応変に対
応できるよう、人員に余裕を持ったワークシェアの勤務体
系を構築している。
「経営者である自分自身が、女性のライフサイクルにお
ける家事・出産・育児・介護等の仕事を女性の立場から
■女性の起業と就業の好循環
以上、女性の起業と女性の就業の関係について
言及してきたが、この関係を図示すれば第 2-258 図となる。
訪問診療を行う内藤院長
対しても柔軟に対応し得る。女性の起業によって
女性が就業しやすい環境が提供されれば、就業経
験を活かした起業も更に増加するであろう。
さらに、これらのサイクルが機能することによっ
女性起業家は、柔軟な対応力で新たな需要を掘
て女性の就業促進が進み、世帯所得の増加が進め
り起こし、女性の負担となっている家事・育児等
ば、女性起業家の事業展開が多い個人向けサービ
の課題を取り除くことで、女性の就業を促進す
スの分野の市場拡大につながる可能性がある。
る。そして、女性の社会進出が進み、これらの
長期にわたって低成長が続いている我が国にお
サービスに対する需要が増加すれば、新たな女性
いては、かかる好循環を発生させることが、女性
起業家が呼び込まれる。
の能力を発揮させることにより、新たな需要を掘
また、女性特有の課題を乗り越えて起業した女
性起業家は、女性従業員が直面する特有の課題に
り起こし、元気な日本を取り戻すための重要な鍵
となるであろう。
中小企業白書 2012
135
第2章
需要の創出・獲得に挑む事業活動
第 2-2-58 図
女性の起業と就業の関係
○暮らしや社会を充実させるサービス
○女性の社会参加の課題解決サービス
・女性起業等のサポートビジネス
・家事・育児等サービス
等
女性の起業
新たな需要の掘り起こし
促進(循環)
就業促進/需要増
所得
女性の就業
就業しやすい環境の提供/就業経験を活かした起業の増加
136
以上、本節では、現状における女性の起業の傾
うのではなく、新たな内需を掘り起こすことが有
向や課題を分析した後、個人向けサービスの分野
用な取組となると考えられる。その際には、従来
における女性の起業が生み出す好循環について言
の男性社会の常識を打ち破り、多様化するニーズ
及した。今後、生産年齢人口の減少により、更な
をすくい上げることで、需要を生み出す女性起業
る内需の減少が懸念される中で、我が国の中小企
家の柔軟な姿勢は、新市場の創出を目指す全ての
業が成長を続けるためには、既存の内需を奪い合
中小企業にとって、良い手引きとなるであろう。
2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
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