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栄養塩標準を使用したこの 11 年間の「みらい」航海の高精度

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栄養塩標準を使用したこの 11 年間の「みらい」航海の高精度
栄養塩標準を使用したこの 11 年間の「みらい」航海の高精度で比較可能
性が確保されたデータを基準とした全球栄養塩データセット
○青山道夫(気象研)
,村田昌彦、熊本雄一郎、河野健、内田裕、西野茂人、本多牧生、勝又 勝郎(海
洋研究開発機構)
はじめに
海水中の栄養塩についてその測定結果のコンパラビリテイ(比較可能性)を確保することは、海洋
学や地球温暖化の研究にとって基礎的基盤的な事項である。それを担保するための栄養塩標準につい
ての開発の必要性はすでに国際的な規模でたびたび指摘されてきた(IOC-IAEA-UNEP, 1995 等)が実
現できず、IPCC2007 でも指摘されたように過去の栄養塩データのコンパラビリテイ(比較可能性)を
確保することは困難であった。全海洋における 120 の交点での解析からも 1990 年台から最近まで行わ
れた WOCE および CLIVAR 観測で得られた栄養塩についてさえもプラスマイナス 10%以上に及ぶ系統
的な差が見出されている。従って、過去の栄養塩データに基づく栄養塩の分布や窒素やりんの海水中
総量の見積もりには大きな不確かさがあるといわざるを得ない。それは、現在の気候予測モデルの初
期値として使用されている栄養塩濃度の分布についてのデータセットには過去の観測の比較可能性が
低いことに起因する大きな不確かさを含んでいるということを意味している。これらのことを解決す
るために著者等を含む国際的なグループによる国際的な努力が続けられてきた結果、海洋における栄
養塩測定のための標準は作成できるようになっていた(Aoyama et al., 2002; 2010; 2012, Ota et al., 2002;
2010)
。また、2007 年 10 月(つくば)
、2009 年 2 月(パリ)、2010 年 3 月(パリ)の 3 回の国際 workshop
(Aoyama et al., 2008, 2010)および 4 回の栄養塩標準についての国際共同実験(2003, 2006,2008 および
2012 年、Aoyama, 2006; Aoyama et al., 2008, 2009)により国際協力がすでに始まり、IOC-UNESCO の下
で栄養塩標準に関する専門委員会も設置された(Aoyama et al., 2010)
。さらに、海水中の栄養塩の標準
物質を使用した高精度観測は「みらい」航海等一部の観測ではすでに実施され栄養塩データのコンパ
ラビリティの向上が始まっているが、依然として全海洋をカバーするには至っていなかった。地球温
暖化の研究の観点から見ると、海洋表面から海洋内部に入り海洋循環によって内部輸送された CO2 の
量を精度よく把握することが、地球温暖化予測にとっては重要な課題(IPCC2007)となっている。し
かしながら、海洋内部での人為起源の炭酸物質濃度(CO2 濃度変化)を知るには、生物活動によって
引き起こされている非人為起源の CO2 濃度変動を分離する必要がある(Tahnua, 2010)
。そのためには
海水中の CO2 濃度の高精度観測と共に、非人為起源の CO2 濃度の変動を引き起こしている生物活動の
大きさに比例している海水中の栄養塩濃度および溶存酸素量の高精度観測が必要である。特に人為起
源 CO2 が徐々に中深層にまで蓄積されつつある現在においては栄養塩濃度の正確な計測が必要である
(Heuven, 2013)。
「海洋での栄養塩の正確な空間分布を明らかにする。
」ための基礎となるデータセット作成を行った。
栄養塩標準を用い分析の不確かさが 0.2%より良い測点間の比較可能性が確保されている航海を「みら
い」等によりこの 11 年間行ってきた
(表 1 参照)。
また複数のデータセット
(CCHDO、WGHC、
CARINA、
PACIFICA、気象庁)から栄養塩データが存在している航海を抽出し、データセットに組み込んだ。
表1
年
航海一覧
航海名
船舶名
海域
2003
BEAGLE2003
みらい
南太平洋 南緯 30 度 P6
2005
MR0502
みらい
北太平洋 東経 149 度 P10
2005
MR0505
みらい
北太平洋 北緯 24 度 P3
2007
MR0704&0706
みらい
南北太平洋
東経 179
2009
MR0901
2009
北緯 47 度
P1、
P14
みらい
南太平洋 南緯 24 度 P21
Melville
南太平洋 南緯 30 度 P6
2010
MR1005
みらい
北極
2010
MR1006
みらい
時系列
2011
MR1102
みらい
時系列
2011
MR1103
みらい
時系列
2011
MR1105
みらい
時系列
2012
MR1202
みらい
時系列
2012
MR1108
みらい
北太平洋 東経 149 度 P10
2012
MR12E03
みらい
北極
Atlantis
西部北大西洋
みらい
南大洋
2012
2013
MR1205
A20,22
S4
これらのデータから、栄養塩標準を使用し比較可能性が明示的に確保されている航海を基準として、
全球 243 点で交点での解析をおこない、各種のパラメーター毎に得られている栄養塩濃度を補正し、
比較可能性を明示的に確保された値とするためのファクターを計算した。
得られたファクターはほぼ 1.00+-0.12(硝酸塩の場合)となり、陸上での国際共同実験で評価された
比較可能性の程度と一致した。この得られたファクターを使用し、栄養塩濃度を補正した後に、深度
面で整合性のある 0.5 度メッシュ、平均 50m 厚み 136 層の格子点データセットを作成した。
海洋内部での人為起源の CO2 蓄積量を正確に見積もるための準備を開始した。比較可能性を確保し
補正された栄養塩濃度のデータセットに対して、全炭酸とアルカリ度のデータを統合し、解析のため
の予備的データセットも作成した。溶存酸素量のデータについても栄養塩データと同様な処理を行い、
データセットに組み込んでいる。これにより、海洋での炭素:窒素:りん:酸素(C:N:P:O)比の挙動
の検討も可能となった。
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