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マッチ売りの少女

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マッチ売りの少女
マッチ売りの少女
原作
脚本
画
アンデルセン
川崎大治
藤沢友一
①
それは雪の降る寒い日のことでした。
「マッチは要りませんか。マッチを買ってください」
細い声で呼びながら、一人の女の子が街の中を歩いていました。明日は楽しいクリス
マスなので、その支度に忙しいのでしょう。だれもかれも、見向きもしてくれません。
「マッチは要りませんか。マッチを買ってください」
②
突然、後ろから1台の馬車がやってきました。
「あっ!」
女の子は驚いて、飛びのきました。
カラ、カラ、カラ
立派な馬車。中にはお金持ちがオーバーにくるまって、暖かそうに乗っています。
「おお、寒い ...」
③
寒いはずです。女の子ははだしでした。履くくつもなかったのです。足は凍りついて、
ズキズキ痛みました。
「マッチは要りませんか。マッチを買ってください」
④
もう、夕方でした。どこの家にも、暖かそうな明かりがともり、ツリーの飾りや料理
を作るにぎやかな音がしていました。
「マッチは要りませんか」
女の子の声なんか、だれも聞いてはいません。女の子はおなかがすいていました。朝、
パンを一切れ食べただけで、お昼は何も食べていませんでした。
⑤
「ああ、寒い ...」
女の子は風と雪を避けて、大きな柱のかげに隠れました。
女の子は一人ぼっちでした。お父さんもお母さんも早くなくなり、優しいおばあさん
に育てられました。ところが、そのおばあさんも年をとり、なくなってしまったのです。
「おお、寒い。とても、我慢できないわ」
女の子は震える指先でマッチを1本取り出すと、
シューッ
⑥
ボーっと、マッチは燃えあがりました。女の子は顔を寄せました。炎のそばに手をか
ざしました。
「ああ、いい気持ち。まるで、大きなストーブにあたっているみたい」
女の子には、その小さな炎もストーブのように思われました。でも、マッチはすぐ、
消えてしまいます。
「我慢できないわ。もう1本燃そう」
シューッ
⑦
「ああ、目に見えるわ。去年のクリスマスのごちそう。おいしかったわ」
去年のクリスマスにおばあさんの作ってくれた語ちそうが、目の前に浮かび出るよう
でした。
「おばあさん、なんておいしそう。くりすます、おめでとう ...」
マッチはたちまち、燃えつきました。
シューッ
⑧
女の子はまた、マッチをすりました。
「ああ、おばあさん、すばらしいわ。クリスマスツリー、きれいだこと」
ツリーにはたくさん、お星さまがキラキラ光り、ろうそくやプレゼントが下げられて
いました。
「ああ、うれしい。こんな立派なツリー、見たことないわ」
⑨
女の子は夢中で手を伸ばしました。すると、マッチは消え、たくさんの星はどんどん
空へ昇っていきました。
「お星さま、お星さま、おばあさんはお空のお星さまになったのね。おばあさん、
なぜ死んだの。どうして、わたしを残していったの。わたし、おばあさんに会
いたい」
女の子は急いで、マッチをすりました。
⑩
「おばあさん! 会いたかったわ。いつまでも、わたしのそばにいてね。いつま
でもよ。おねがいよ」
女の子は優しいおばあさんがはっきり見えました。おばあさんは優しく微笑んでいま
した。
「わたしは、いつもおまえと一緒だよ。マッチもなくなったね。さ、おいで」
⑪
おばあさんの両腕に女の子は優しく抱えられました。
「さあ、行こうね、わたしと一緒にね。もう寒くもない、つらくもない、それは
静かなところへね」
女の子は抱きかかえられて、高い空へ、広い空へ、きれいに澄んだ空へ昇っていきま
した。
⑫
寒い寒い夜が明けて、クリスマスの朝になりました。通りかかった人々は、女の子が
凍え死んでいるのを見ました。
「かわいそうに、女の子が死んでいるよ」
「いつもマッチを売っていた子じゃない?」
柱のかげに座り込んだ女の子のほほにはうれしそうな微笑が浮かんでいました。きっ
と、喜びの微笑だったのでしょう。クリスマスの朝の光が、その顔を優しく照らしてい
ました。
(おわり)
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