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言命 文 内 容 の 要 旨

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言命 文 内 容 の 要 旨
別紙4
報告番号
※甲
タ3231号
主 論
文 の
要 旨
磁束オプザーバを用いた誘導電動機の
論文題目
ベクトル制御に関する研究
氏 名
道木慎二
論文内容の要旨
電動機は、現代社会において欠《ことのできない基本的なエネルギー変換要素であ
る。中でも、かご形誘導電動機(以下、誘導電動機と記す)は、堅牢、安価、軽量、
ならびに高い保守性などの多くの長所を持ち、電動機の主流として、家庭用から産業
用まで幅広い分野で数多く使用されている。しかし、誘導電動機は、発生トルクを直
接制御することが容易ではなく、加減速制御を伴う速度制御や位設制御を必要とする
サーボモータとしての用途においては、直流電動機にその座を譲らざるを得ないのが
実情であった。
近年、高精度化、省エネルギー化など、高度化する市場からの要求に応えるため、
従来、サーポモータの必要がなかった用途においてもサーボモータ化の要求が高まっ
ている。そのような要求に応えるために開発されたベクトル制御は、誘導電動機の適
用範囲をサーポモータの分野にまで広げる革新的技術であり、内外で実用化に向けた
活発な研究、開発が行なわれ、現在に至っている。
本研究では、既に、実用化が進められているベクトル制御技術において、高性能化
を実現するに当たり解決しなけれぱならない問題として次の点を取り上げた。
1.現在の主流ではないが、高性能化が期待できる磁束フィードパック(以下、FB
と記す)形ベクトル制御の実用化に不可欠なロバスト磁束オプザーパの設計と実
装
2.ベクトル制御の幅広い普及のための速度センサレス化
3.ベクトル制御の二つの実装法であるすべり周波数形と磁束FB形の比較換肘
4.電力変換器を中心にして検肘されるため、制御系設計のための見通しが良《ない
ベクトル制御の構成の再検討
本論文は、これらの問題に対し、磁束オブザーパをペクトル制御の高性能化、ロバ
スト化に欠かせない技術と位置付けたうえで、ベクトル制御のあるべき姿を検肘した
//
Qリ
1λ
談
38字×23行
ものであり、誘導電動機による高性能サーボシステムの実用化を支える研究として位
貴付けることができる。
本論文では、得られた成果を第2章から第6章までの5章構成で述べた。以下で各
章の内容をまとめて述べる。
第1章は序論であり、本論文の背景、目的、概要を述べた。はじめに、電動機制御
を取り巻《社会的な背景について述べ、誘導電動機のベクトル制御の位貴付けを明ら
かにした。さらに、ベクトル制御の基本原理を述べ、従来の研究、およびその問題点
を明らかにするとともに、本研究の目的と概要について述べた。
第2章では、磁束FB形の実現の鍵を握る誘導電動機の二次磁束推定オプザーバに
ついて、スライディングオプザーバの使用を提案し、その構成を示した。加えて、本
研究では、誘導電動機のパラメータ変動に対するロパスト性を考慮したオプザーバの
新たな設計法を提案した。提案する手法は、次のような特徹を持つものであった。
(a)パラメータ変動を外乱とみなし、外乱から二次磁束推定誤差への伝達関数行
列を考え、その#。。ノルムをロバスト性の尺度として導人し、オプザーバの
外乱抑制能力、すなわち、パラメータ変動に対するロバスト性を定量的に評
価した。
(b)パラメータ変動ごとに、磁束推定誤差を発生させる伝達関数行列の構造が異
なる点に着目し、考慮するパラメータ変動ごとに、定量的に与えた望ましい
特性一設計仕様を満たす極配貴を明らかにした。
提案する設計法は、磁束オプザーバにとって重要な設計仕様である、速応性とパラ
メータ変動に対する外乱抑制能力を満たす極配貴を求めるものであった。
さらに、スライディングオプザーバの実機実装を行い、スライディングオプザーバ
の特性、および設計の有効性を実機実験により確認した。また、設計した磁束オプザ
ーバを用いて、磁束FB形ベクトル制御を実現し、十分な速度制御特性とロパスト性
を持つことを検証した。
第3章では、第2章で提案したスライディングオプザーパにパラメータ同定機能を
付加した適応スライディングオプザーバの構成法を提案した。次に、リアプノフの安
定論を用い、パラメータ同定に用いる一般的な適応同定則を2種類導出した。そして、
速度センサレス化と二次抵抗同定のそれぞれを目的とした場合の適応則を具体的に示
し、同定可能条件の検討を行ない、通常の誘導電動機の駆動状態において、条件が満
たされることを示した。さらに、コンピュータシミュレーションと実機実験4より、
提案する適応スライディングオプザーバによる速度センサレスペクトル制御が良好な
特性を持つこと、およぴペクトル制御が二次抵抗変動に対するロパスト性を持つこと
確認した。
2/3
第4章では、まず、すべり周波数形と磁束FB形との比較を行ない、すべり周波数
演算は、極座標表現で二次磁束を推定していることに相当することを示し、すべり周
波数形と磁束FB形の差異は、磁束推定に用いる状態方程式の状態変数のとり方であ
ることを示した。
その結果を用いて、第2章で磁束FB形用にロバスト設計を行なった磁束オプザー
バから、すべり周波数形用の磁束オプザーバを導出した。そして、導出した磁束オプ
ザーバを使用したすべり周波数形ベクトル制御は、従来のすべり周波数形に比べロバ
スト性が改善され、導出に用いたオプザーバを用いた磁束FB形ベクトル制御と同等
のロバスト性を示すことをシミュレーションにより検証した。
本手法では、両制御法の関係を用いて、磁束FB形用に設計した磁束オプザーバか
らすべり周波数形用の磁束オプザーバを導出する。このため、すべり周波数形の非線
形性に煩わされることな《、設計解析の容易な磁束FB形で培ってきたさまざまな研
究成果を実装実績の多いすべり周波数形に適用することが可能となった。
第5章では、第2章で提案した磁束FB形用の適応オプザーバから、すべり周波数
形の適応オプザーバを導出した。そして、すぺり周波数形で磁束オプザーバを持つ速
度センサレスベクトル制御を提案し、シミュレーションで良好な特性が得られること
を確認した。
第6章では、第4章で行なった両制御法の比較をさらに進め、両ベクトル制御法の
構成の相違点を子細に検討した。その比較結果をもとに、両制御法を区別せずに、極
めて一般的にベクトル制御を取り扱うことが可能となる考え方を提案した。つまり、
一般的にベクトル制御とは、誘導電動機に座標変換という非線形フィードバック、非
干渉化という状態フィードバック、ならびに電流制御を施す制御系で構成されると考
えることができ、各ベクトル制御の差異は、各フィードバックに必要な状態の獲得法
に集約されることを明らかにした。
提案する考え方は、ベクトル制御において一般的に語られているさまざまな特性に
対して、制御理論的な説明を与えることが可能であり、ベクトル制御における制御器
の構成を検討する際に、制御理論の導入に適していることを示した。そして、ベクト
ル制御の理想形として、磁束オプザーバを用いたペクトル制御の構成について述ぺた。
本研究で得られた成果は、次のようにまとめることができる。すなわち、今後、ます
ます高度化する要求に対処するため、積極的な制御理論の導入が余儀なくされるベク
トル制御において、制御理論を受け人れるための新しい下地を整えたのであ&。そし
て、その下地の上で豊かな実りが得られるかどうかが今後の研究の課題である。
高性能電力変換器と高速演算可能なコンピュータを載せた一枚の基板を付加するこ
とにより、誘導電動機でありながらあたかも直流電動機の様に取り扱うことのできる、
そのようなドライプシステムの実現が本研究の究極の目的である。
3/3
磁束オプザーバを用いた
誘導電動機のベクトル制御に関する研究
道木
慎
-g
4-4i●1
=。-。。一轟
目次
1 序論
L1
1
本研究の背景・・・・・・・・・‥・・・・・・・・・・・・・・・・・. 1
1土1
電動機駆動システムにおける誘導電動機の位置付け‥。1
1圭2 ベクトル制御の原理とその実用化技術 ・・・・・・・・・. 3
1y1.3 ベクトル制御に関する研究の動向と問題・・・・・・・・. 5
1.2 本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・‥・・・・・・・. 13
L3 本研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.16
2 二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法 19
2.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 19
2.2 誘導電動機の状態方程式
20
2.3 スライディングオブザーバの構成と推定誤差方程式・・・・・・. 22
2.4 スライディングオブザーバの特性・・・・・・・・・・・・・・・・.22
2.5 パラメータ変動に対するロバスト設計法・・・・・・・・・・・・.26
オブザーバに求められる特性とその定量的評価 ‥‥。26
2.5.2 オブザーバの設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 28
2.5.1
2.6実験‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥31
2.6.1
実験装置の構成‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥31
2.6.2
スライディングオプザーバの磁束推定能力と提案する極
配蓋の有効性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.33
2.6.3 スライディングオブザーバを用いた磁束FBベクトル制
御系‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥35
匍 詔
2.7 結言
3 適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
3.1緒言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥43
3.2 誘導電動機用適応スライディングオプザーバの構成・・・・・・.45
3ユ1 二次磁束推定用スライディングオプザーバ
3.2.2 スライディングオプザーバと適応同定 ・・・・・・・・‥47
・ 學 蕃 ●
● i t 爺
3.2.3 可変フィードバックゲイン凡によるチヤタリングの低減47
1
45
ーー
肇噛ー
目次
3.3 適応パラメータ回定則の導出と安定性 ・・・・・・・・・・・・・.50
3洛1 適応則の導出と同定可能条件 ・・・・・・・・・・・・・・.50
3.3.2 適応則I‥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 53
3.3.3 適応則H‥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 54
3.4 適応スライディングオブザーバによる速度推定・・・・・・・・・.56
3.4.1 速度推定のための同定可能条件・・・・・・・・・・・・・.56
3.4.2 適応則Hこよる速度推定・・・・・・・・・・・・・・・・・.56
3.4.3 適応則Hによる速度推定・・・・・・・・・・・・・・・・・.57
3.4.4 適応則Hによる過渡時における安定性と推定誤差の評価 57
3.4.5 磁束フィードバック形ベクトル制御への適用・・・・・・.58
3.5 適応スライディングオブザーバによる二次抵抗同定・・・・・・.59
3.5.1 二次磁束同定のための同定可能条件・・・・・・・・・・・.59
3.5.2 適応則Iによる二次抵抗同定・・・・・・・・・・・・・・・.59
3ふ3 適応則IIによる二次抵抗同定・・・・・・・・・・・・・・.60
3.6 シミユレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 60
3t1 シミユレーション条件・・・・・・・・・・・・・・・・‥.60
3t2 速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御系 63
3.6.3 速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御系
(可変フィードバックゲインの場合)
3.6.4 二次抵抗同定機能を有する磁束フィードバック形ベクト
ル制御系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.67
63
3.7実験‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥67
3.7j 実験装養の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.70
3.7.2 誘導電動機のパラメータ誤差と極配雅 ・・・・・・・・・. 72
3よ3 磁束推定と速度推定特性の実験結果・・・・・・・・・・・. 72
3.7.4 速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御系
における速度制御特性の実験結果・・・・・・・・・・・・. 74
3.7.5 二次抵抗同定機能付ベクトル制御系のロバスト特性の実
験結果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥74
3.8結言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥80
4 磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御 85
-
4.1 緒百・・・・・・・・.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.85
4.2 磁束推定とすべり周波数演算 ・・・・・・・・・・・・・・・・‥。85
4.3 電流人力形における両制御法の比較・・・・・・・‥・・・・・・・. 87
4.3j モデルを用いた場合の比較・・・・・・・・・・・・・・・・. 87
4.3.2 オブザーバを用いた場合の比較検討・・・・・・・・・・・.89
4j 電圧人力形における両制御法の比較・・・・・・・・・・・・・・・.91
4才1 モデルを用いた場合の比較・・・・・・・・・・・・・・・・.91
●●参
目次
III
4丑2
4.4.3
オブザーバを用いた場合の比較・・・・・・・・・・・・・.93
オブザーバを用いた電圧人力形すべり周波数形ベクトル
制御の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 94
4.5 シミユレーション結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.96
4五1 電流人力形における比較・・・・・・・・・・・・・・・・・.96
4ふ2 電圧人力形における比較・・・・・・・・・・・・・・・・・.101
4.6結百‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥102
5 磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレ
ス化
103
緒言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥i,03
5.2
すべり周波数形における磁束オプザーバの構成・・・・・・・・・.103
5.2j すべり周波数形用磁束ブザーバの導出 ・・・・・・・・・.103
5.2.2 すべり周波数制御における磁束オプザーバの役割‥‥104
5.2.3 誤差方程式と提案するスライディングオブザーバの設計 105
5.3 速度推定のための適応磁束オブザーバの構成と速度センサレス
5.1
制御系の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・‥│、06
5.3.1 適応オブザーバ化による速度推定のための適応同定機能 106
5洛2 適応則の導出とその検肘へ・・・・・・・・・・・・・・・・.107
5.3.3 二次抵抗変動の速度推定に及ぽす影響
5.4 シミユレーション
109
111
5.4.1 速度センサレスベクトル制御系の構成 ・・・・・・・・・.1H
5.4.2 提案する速度センサレス制御系の加減速応答一適応U行
の場合-‥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.1H
5え3 提案する速度センサレス制御系の加減速応答一適応則7'
の場合-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.H4
5.4.4 シミュレーション結果の検討
H4
5.5結言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥114
6 ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
6.1緒言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥119
6.2 すべり周波数形と磁束FB形の関係・・・・・・・・・・・・・・・.120
6急1 両制御法に対する認識・・・・・・・・・・・・・・・・・・.120
6.2.2 すべり周波数演算と磁束推定の関係・・・・・・・・・・・.120
6.2.3 両制御法の共通点と相違点・・・・・・・・・・・・・・・・.124
6.2.4 磁束推定部における刃制御法の差とその特性の差‥‥126
6.3 ベクトル制御系の構成の再考 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・.127
6.3j 取り扱うベクトル制御の定義と目的・・・・・・・・・・・.127
6.3.2 制御対象の定義・・・・・・・・・・・・.‥‥‥‥‥‥128
6ユ3 ベクトル制御を実現する制御系の構成 ・・・・・・・・・.129
119
IV
目次
6.3.4 ベクトル制御系における状態推定(磁束推定) ‥‥パ36
良4結言‥‥‥‥‥‥‥‥‥,‥‥‥‥‥‥‥‥‥138
7結論
7.1 本研究で得られた成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.143
7.2 今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.146
143
第1章
序論
1.1 本研究の背景
1.1.1 電動機駆勤システムにおける誘導電動機の位置付け
現代社会において電動機の果たす役割は、実に多岐に渡る。CDプレーヤ、
エアコンのコンプレッサのような家庭電化製品から、鉄道、エレベータなどの
輪送機械、鉄鋼、製紙業界等における産業機械まで、極めて多数の電動機が今
日の我々の社会を支えている。そして、その様々な用途に応じるため、実にさ
まざまな特徹を持つ数多くの種類の電動機の研究開発が行なわれ、実用に供さ
れている[11・
数ある電動機の中でも、かご形誘導電動機(以下、誘導電動機と記す)は、
堅牢・安価・軽量かつ、高い保守性等、多《の長所を持ち、家庭用から産業用
まで幅広い分野で、数多く使用されており、単に電動機といえぱ、誘導電動機
を指していると考えても、差し支えないほどである。
電動機の主流と位債付けることできる誘導電動機ではあるが、界磁束と電
機子電流が、可制御量である固定子電流により決定される構造となるため、発
生トルクを直接制御することは容易ではない。このため、加減速制御を伴う速
度制御、位置制御を必要とするサーボモータとしての用途においては、他の
モータにその座を譲らざるを得ないのが実情であった(図LI)。
そのサーボモータの分野においては、主流の座を直流電動機が占ている。
直流機は、プラシという機械的消耗部品、および界磁機構を内蔵し、保守性、
重量、コストの面での欠点はあるが、他の回転機にはない高い制御性を有する
点を特徴とする。ゆえに、サーボモータとしては、保守性、コスト、耐環境性
等の問題を抱えながらも、その高い制御性ゆえに、直流竜動機が用いられてき
たのである。
西ドイツのHasse【21、Blaschke[3]らにより、誘導篭動機のペクトル制徊が
提案されることにより事態は一変する。この制御法によれぱ、誘導電動機で
1
2
第1章序論
旧来の誘導電動機の認識
○堅牢、安価
×低い制御性
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呂:ベグ〕ド:ル制御技衛め発展士<二×
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直流機を凌駕する士寸士
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高い制御性の実現二二し
・●Sj1・
電力変換器の高性能化
・墨●●4・
半導体の進歩
(パワーデバイス、コンピュータ)
誘導電動機の適用分野拡大
・直流機の誘導機への養き換えによる
低コスト化.、保守性の向上
・誘導機の高性能化、高効率化、低コスト化
図L1:誘導電動機の利用分野拡大とベクトル制御
LL本研究の背景
3
あっても、直流機同様、発生トルクを直接制御することが可能となる。このこ
とは、理論上、誘導電動機が直流機と同等の制御性を持つこと意昧する。
特に、近年、高精度化、省エネルギー化など、高度化する市場からの要求
に応えるため、電動機を始めとするアクチュエータレベルにおいて、一層きめ
細かな制御が要求されるようになってきている。その結果、従来、誘潭電勣機
等の非サーボモータの使用で差し支えなかった用途においても、サーボモータ
化の要求が高まっている。ベクトル制御ぱ、数多くの長所を持つ誘扉電動機の
適用範囲をサーボモータの分野にまで広げる革新的技術として、内外で実用化
に向けた活発な研究、開発が行なわれ、現在に至っているのである。
1.1.2 ベクトル制御の原理とその実用化技術
電動機は、界磁束の中で、電機子に電流を流すことにより、トルクを発生
させる。これは、電動機の種類によらない基本原理である。
直流電動機の場合、この界磁束を発生させるための界磁機構と、竜機子が
電気的に独立している上、ブラシという機械的な構造が、常時、界磁束と竜機
子電流を直交させるため、瞬時発生トルクの大きさが竜機子電流により決定さ
れる。
これに対し、誘導電動機は、図1.2に示すように、囚定子奄流硝こより、回
転磁界を発生させ、この回転磁界の角速度とロータ(電機子)角速度ら汰の
差により、ロータに誘導された起電力が電機子電流礼を発生させる。すなわ
ち、界磁束、電機子電流の双方が固定子電流のみから決定される。しかも、界
磁束と電機子電流の位相関係は、過渡時においては、直交する保証はない。ゆ
えに、その瞬時発生トルクフを制御することは容易ではない。
Hasse、Blaschkeらは、誘導電動機の過渡状態を検肘した結果、二次鎖交
磁束石の位相に応じ、界磁束を発生する励磁電流分ioと電機子電流となるトル
ク分電流分抒に固定子電流を分解し、独立に制御することにより、界砿束と電
機子電流を独立、かつ直交するように制御可能であることを示した。このこと
は、直流電動機同様、瞬時発生トルク制御が可能であることを意昧する。これ
がベクトル制御である。
無論、その提案された制御法を実用化し、直流電動機に匹敵する制御性を
得るに至るまでには、次のような技術的課題が存在する。
L瞬時に任意の交流電流を発生させる高性能電力変換器(インバータ)の
実用化
2.高性能電力変換器を実現する高速スッチング素子、そして、それを制御
しうる高速演算可能なディジタルコンピュータなど、高性能半導体(パ
ワー素子、高速演算可能なCPU)の実用化
3.実装を考慮したベクトル制御の理論展開などベクトル制御技術の発展
第1章序論
4
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図L2:ベクトル制御の原理
・¥‘a411x
Cヾy
φ6●g
1.L本碩究の背景
5
実際、高速スイッチング素子による高性能電力変換器を使用し、それに対
応可能な高速演算可能なディジタルコンピユータを用い、ベクトル制御を実装
することにより実現される誘導電動機駆動システムは、比較的大規模な産業シ
ステムにおいて、実用化が進み、その性能は直流機を凌駕するに至っている[41
【8】.
1.1.3 ベクトル制御に関する研突の動向と問題
誘導電動機により、直流機と同等の制御性を実現するという、ベクトル制
御は、特に産業ドライブの分野において、研究、実用化が積極的に進められ、
現在、実用化レベルに達しつつあるといえる。しかしながら、未だ成熟された
技術とはいえず、未解決の問題も多い。また、単に直流機の漑換という立場を
越えて、直流機では実現できなかった性能領域への挑戦も試みられており、今
なお、内外で、さまざま研究、開発が活発に行なわれている。以下では、その
動向と問題点について触れる。
図L3にベクトル制御系の構成を示す。ベクトル制御器は、上位の制御器
より与えられる励磁電流指令値とトルク電流指令値から、誘導機の内部状態
(ロータの角速度と二次鎖交磁束)に応じて、電力変換器(インバータ)への
指令値を生成する。したがって、ベクトル制御を行なうためには、二次鎖交磁
束の位相情報が不可欠である。しかしながら、この位相情報は、通常、測定困
難な状態量であり、ベクトル制御実現の大きな問題となった。
そして、実装に際し、この問題に対する対処法により、二種類の異なるア
プローチのベクトル制御が存在する。すぺり周波数形と磁束フィードバック形
(もしくは、磁束オリエンテーション形、以後、磁束FB形と記す)である問。
Lすべり周波数形
回転磁界とロータの回転速度の差であるすべり周波数をという概念を導
入することにより、二次鎖交磁束の位相を陽に取り扱うことを回避する。
すなわち、電圧、もしくは電流という測定可能な状態量を用いたすべり
周波数の制御に問題を転換する。電圧入力形のインバータと組み合わせ
る場合のすべり周波数形のベクトル制御器の構成例を図L4に示す。な
お、電流入力形のインパータと組み合わせる場合は、非干渉化部を除い
た構成となる。
電流制御部では、二次磁束座標上で与えられた二次磁束指令値λ*および
トルク分電流指令値仔*より、二次磁束座標上での一次電流指令値i'*が
求められる。一次電流指令値i'゛から、非干渉制御器により二次磁東座標
上での電圧指令値♂が得られる。同時にすべり周波数演算部で求められ
たすべり周波数ω。とロータの角速度ω。より、二次磁束の位相に相当する
6
第1章序論
TOROE
CURRET
COMMAND
FLUX
COMMAN,D
図L3:ベクトル制御系の構成
7
1土 本研究の背景
㈹゛求められ、これを用いて、二次磁束座標上での電圧指令値ぐは、固
定子座標上での電圧指令値がへと変換され、出力される。
メーカを中心に研究、開発が進められており、現在、実用化されている
ものは、すべてこの形であると言っても過言ではない。しかし、磁束推
定を回避するために用いるすべり周波数制御部において二次抵抗をはじ
めとする誘導機のパラメータを使用するため、誘導機のパラメータの変
動に対するロバスト性に問題を残し、現在も引続きさまざまな対策が研
究されている[1o口11012].また、制櫛系の設計、解析に際して、非線
形制御のレベルに足を踏み入れる必要がある。多くの場合、線形近似で
回避した上で、検討を行なうが、このことが、系全体の見通しを懇化さ
せ、最新の線形制御理論の導人を拒んでいる。
2.磁束FB形
二次鎖交磁束を陽に取り扱うベクトル制御である。電圧人力形のインバー
タを使用する場合の磁東FB形のベクトル制御器の構成を図L5に示す。
なお、電流入力形のインバータと組み合わせる場合は、非干渉部を除い
た構成となる。
磁束λが求められることを前提に構成されるため、すべり周波数形の制御
器に比べ、極めて簡単な構成となる。また、図L5より明らかなように、
磁束が確保されさえすれぱ、パラメータ変動に対して完全にロバストな
ベクトル制御が実現される点が最大の長所である。
無論、二次鎖交磁束情報をどのように獲得するかという問題が付いて回
る。誘導竜動機のロータに新たにセンサを付加し、測定を行なう手法[13]
も検肘されてはいるが、その誘導機内の温度変化、機械的振動の中での
高精度の測定は容易ではない上、堅牢性という誘導機の特徴を多少なり
とも損なう、既設の誘導機に対処できない、等の問題を持つため、渕定可
能な状態量である電圧、電流から数式モデルを用いて二次鎖交磁束の推
定を行なう手法が事実上の主流である。そして、その磁束推定部を図1.5
のベクトル制御器の外部に付加することにより、磁束FB形を構成する。
この磁束推定そのものは、線形制御の枠に収まるため、大学を中心に、
積極的な制御理論の導人が計られている。なかでも、磁束推定への状態
オプザーバの応用に関しては、さまざまな構成法が提案され、活発な研
究が行なわれている。状態オプザーバは、その構成法により、幾種類か
の型が提案[14]されているが、磁束FB形のための磁束推定のためのオ
ブザーバとしては、同一次元オプザーバ、穀小次元オプザーバなどの適
用が提案されている。
同一次元オプザーバ{15]は、入力量として一次篭圧、内部状態として、
一次電流、二次磁束、出力量として一次電流を考える。一次電流の推定
第1章序論
8
図1.4:すべり周波数形ベクトル制御器の構成
図L5:磁束FB形ベクトル制御器の構成
LL本研究の背景
9
誤差により、誤差フィードバックを施し、オブザーバを構成し、二次磁
束を推定する。
穀小次元オブザーバ[16]
[201は、誘導篭動機の内部状態には、観測可
能な状態量である一次電流を含むまれるため、この分、次元を減じてオ
プザーバを構成するものである。すなわち、人力量として一次電流、内
部状態として二次磁束を取り、一次電流微分値により、誤差フィードバッ
クを行なう。実装時には、電流測定値の微分の使用を嫌って変数変換を
行なうので、一次電圧と一次電流から、図L7の様に構成される。
さて、誘導電動機の二次磁束推定用のオブザーパを考えた場合、重要な
特性としては、次の二つが挙げられる。
(a) 誤差の滅衰特性
(b) パラメータ変動に対するロバスト性
オブザーバにおいては、誤差フィードバックのゲインの設計、すなわち、
極配萱問題によって、これらの特性を決定する。
しかし、同一次元オプザーバにおいては、その極配置問題の設計指針が
明らかにされてない。このため、状態(磁束)推定の安定性は保証され
ているが、極配貴による特性改善の可能性を有効に活用してないと思わ
れる。
一方、最小次元オブザーバの場合、低次元化されていることもあり、極
配貴問題について解析が容易である。このため、特性改善のための極配
貴法が提案されている。いずれも、パラメータ変動に対するロバスト性
の改善を計るという観点で、極配雅決定法が提案されている。
(a)渡辺ら[181は、低速時に推定誤差が大きくなることに着目して、低
速時にオブザーバの即応性を抑えて推定誤差を小さくする設計法を
提案している。しかし、これは直観的に過ぎ、明礦な設計指針とな
り得ない。
(b)梅野ら[19H2o]は、二次抵抗変動に対する感度行列を考え、その£2
ノルムを最小化する最適レギュレータ問題を解いて、二次抵抗変動
に対して低感度なオブザーバを実現する方法を提案している。これ
は、感度を押えるという点で推定誤差が小さくなることが期待でき
るが、オプザーバの外乱抑制能力が問題設定に組み込まれておらず、
明確な定量的評価が示されていない。
結局のところ、磁束FB形のロバスト性は、ロバストな二次磁束推定に
立脚するものである。このため、誘導機定数の変動に対してロバスト性
第1章序論
10
図L6:同一次元オブザーバの構成
図1.7:最小次元オプザーバの構成
LL 本研究の背景
11
を持つ磁束オブザーバを実現することが求められている。磁束FB形の
成否は、磁束オプサーバの食否にかかっていると言える。
ベクトル制御に関する研究で注目すべき点は、それぞれのベクトル制御法
が独立して研究が進められている点にある。すなわち、すべり周波数形と磁束
FB形は、まったく異なる制御法であるとの扱いをうけており、一方での研究
結果が他方で利用されるようなことは、まずあり得ないのである。そもそも両
制御法は、基本原理を同じくするものではあるが、実装形態での関係が明確に
されてはおらず、まれに性能、および長短所比較が行なわれ、異なる性質を持
つとの報告[91がなされてはいるが、両制御法の関係白体を明らかにしようと
試みた報告は皆無である。そして、この現状が、お互いの研究成果を融通し合
うことのできない状態を生じているものと思われる。
さて、ベクトル制御の実用化に伴い、現在、急速に高まっている要求の一
つに「速度センサレス化」がある[211[22].ベクトル制御を行なうには、ロー
タの角速度情報が不可欠であり、通常のベクトル制御においては、速度センサ
を用いて、速度情報を獲得する。ベクトル制御の速度センサレス化の要求が高
まってる理由としては、その実現が、次のような異なる二つの面において期待
されていることが挙げられる。
Lベクトル制御の適用範囲の拡大
ベクトル制御は、電動機駆動システムの中でも比較的複雑な構成となり、
ある程度の規模のシステムでないと採用しにくい面がある。速度センサ
レス化により、構成の簡易化、堅牢性の向上が期待できる。また、速度
センサの使用が許されない電動機駆動システムに対しても、ベクトル制
御を採用することが可能となる。このように、速度センサレス化は、ベ
クトル制御の適用範囲を大幅に広げるのである。
2, V/f制御の高性能化
従来の誘導電動機の速度センサレス制御の代表的手法にV/f制御がある。
このV/f制御においては、低速時の発生トルクの低下が問題とされてお
り[23】、速度センサレスベクトル制御は、このV/f制御の高性能化とし
ての期待がかけられている。
このような背景ゆえに、ベクトル制御の速度センサレス化は、現在、もっ
とも実用化が待たれる技術である。すべり周波数形、磁束FB形、それぞれの
ベクトル制御を基本にそれぞれの速度センサレス化が活発に研究され、数多く
の手法が検肘されはじめている。
すべり周波数形を基本にしたもの[241
[281は、その多《が鴬圧方程式に
より推定磁束が得られることを前提に、軸ずれを検出して速度推定を行なうよ
12
第1傘序論
うに構成されており、低速時での性能に問題を残している[211.また、その非
線形性ゆえ、局所的な安定性の議論しか行なわれていない。同定可能条件につ
いても、同様な理由により、十分な議論がなされておらず、どのような条件で
同定が可能であるかが明確ではない。
MRAS(Model Reference Adaptive Sytem)を適用した速度推定法も提案さ
れている[29030H31].この場合、適応制御におけるMRASに関する研究成果
叫H祠にしたがって、速度推定の安定性、同定可能性についての検討を行な
うことが可能となる。しかし、MRASを構成する場合、ベクトル制御自体の
ために必要な数式モデル(すべり周波数演算、磁束オブザーバ)に加えて、新
たに数式モデルを用意する必要があり、構成が復親にならざるをえない。
また、磁束推定オブザーバを基本に、適応同定機能を付加して、適応オプ
ザーバを構成する場合もある[340351[36].同一次元オブザーバの適応オプ
ザーバ化については、速度センサレス化のみならず、パラメータ同定にも応用
した例が報告されている[37][38]。ただし、綬小次元オブザーバは、最小次元化
されているために、適応オプザーバ化できないことに注意されたい。(故に、磁
束FB形で、讃小次元オプザーバを使用する場合、MRASと組合わされる[311.)
最後にベクトル制御に関する研究全般の動向について、日頃著者が感じて
いることにについて述べておく。誘導電動機に限らず電動機駆動システムにお
いては、その構成上、制御器と電力変換器とは、切り離すことができない。し
たがって、ベクトル制御は、電動機駆動のための電力変換器制御法の一稜であ
るとの観点が誘導電動機制御に関する研究の根本にある。むろん、電力変換器
なくして電動機駆動システムは成立せず、この電力変換器主導の観点を否定す
るつもりはないが、電力変換器の存在が、制御系設計に際して、全体の見通し
を悪くしている事実も否めない。
実際、ベクトル制御の分類においても、電力変換器の構成上の都合により、
電圧源を使用する電圧形、電流源による電流形として分類されるのがよい例で
ある。誘導電動機の制御という、観点から見れぱ、本来、電力変換器の制御入
力量により、電圧入力形(誘導電動機の電圧が指令値)、電流入力形(誘導電
動機の電流が指令値)として分類されるのが筋である。
半導体、制御技術の発展を受けて、近年の電力変換器の高性能化は目覚し
いものがあり、電動機の制御という観点から見た場合の電圧、電流の制御性能
という点では、理想的とはいえないまでも、それに近いものが実現されつつあ
る。一方で、電動機制御の分野においても、高度な制御を求めて、制御理論を
導入していくことは、時代の趨勢であり、今後、ますます増加していくものと
思われる。このような状況下においては、現在の電力変換器主導の観点でなく、
制御主導の観点から、ベクトル制御を検討していくことも必要と思われる。
1.2.本碩究の目的
13
1.2 本薪究の目的
先に、誘導電動機のベクトル制御を巡る現在の研究動向を鑑み、制御主導
の観点の果たす役割について著者の考えるところを述べた。本研究の目的は、
この観点にもとづいてベクトル制御を再考し、必要な要素技術について提案を
行なうことである。すなわち、磁束オブザーバをベクトル制御の高性能化、口
バスト化に欠かせない技術と位置付けたうえで、磁束オブザーバの使用を前提
としたベクトル制御のあるべき姿について検肘したものである。本研究で明ら
かにしていくことは、具体的には、以下の通りである(図L8)・
L磁束FB形における磁束オブザーバの構成と設計
2.磁束オプザーバの高機能化
(速度センサレス化、パラメータ同定)
3.すべり周波数形での磁束オプザーバの適用
4.ベクトル制御の再考と磁束オブザーバの使用を前提としたベクトル制御
の構成
本論文では、まず磁束FB形の実現の鍵を握る磁束オブザーバに関して、
スライディングオブザーバの使用を提案し、その構成を示す。
本研究において提案するスライディングオプザーバは、基本構成は同一次
元オブザーバと同じであるが、ハイゲイン誤差フィードバックにより、一部状
態推定にスライディングモード制御を施して、状態推定の低次元化を行なうオ
ブザーバである。電流推定へのスライディングモード制御により、同一次元オ
ブザーバに比べ、推定誤差収束特性の改善が期待できるうえ、スライディング
モード発生以降の推定特性は、最小次元オブザーバと同一になるため、オプ
ザーバの設計法に関しては、最小次元オプザーバと共有することが可能という
特徴を持つ。
加えて、本研究では、誘導機のパラメータ変動に対するロバスト性を考慮
したオプザーバの新たな設計法を提案する。提案する手法の特徹は次の通りで
ある。
(a)パラメータ変動を外乱とみなしヽ外乱から二次磁束推定誤差`の伝
達関数行列を考え、そのフミなノルムをロバスト性の尺度として導人
し、オブザーバの外乱抑制能力、すなわち、パラメータ変動に対す
るロバスト性を定量的に評価する。
(b)パラメータ変動ごとに、磁束推定誤差を発生させる伝達関数行列の
構造が異なる点に着目し、考慮するパラメータ変動毎に、定量的に
与えた望ましい特性一設計仕様を満たす極配置を明らかにする。
第1章序論
14
図1.8:本研究の目的
L2.本研究の目的
15
すなわち、提案する設計法は、磁束オブザーバにとって、重要な設計仕様
である、パラメータ変動に対する即応性、外乱抑制能力を満たす極配貴を求め
るものである。
さらに、本研究では、磁束推定用であるスライディングオブザーバに適応
同定機能を付加することを試みる。この適応同定能力は、誘導電動機の速度速
度推定、二次抵抗などの定数同定を可能とし、ベクトル制御の速度センサレス
化、また、パラメータ変動に対するロバスト性の改善等を実現することが可能
となる。
提案する適応オプザーバでは、磁束推定オブザーバに、その内部信号から、
パラメータ同定を実現する適応同定則を付加することで構成される。また適
応同定則は、リアプノフの安定論を用いて、安定性の保証されたものを導出す
る.さらに、適応制衛理論[321を適用することにより、適応則が定数同定を達
成する同定可能条件を明らかにする。
さて、これらの磁束オブザーバに関する研究とその成果は、磁束FB形ベ
クトル制御を構成する場合に生かされるものである。しかし、実用化の主流
は、すぺり周波数形であるため、ベクトル制御の実用化に際しては、なんら影
響を与えるには至らないのが現実である。
そこで、本研究では、すべり周波数形と磁束FB形の構成を比較検肘し、
両制御法の関係を明らかにする。そして、明らかにされた両制御法の関係を用
いて、磁束FB形用に設計された磁束オプザーバをすべり周波数形で使用する
方法を提案する。
すべり周波数形において、磁束オブザーバを構成し、使用する方法は、既
に、辻ら[39][401により、提案されている.しかし、そのオブザーバは、両制
御法の関係に立脚して導出されたものでなく、すべり周波数形用として、新規
に構成されたものである。すでに述べているように、すべり周波数形では、そ
の非線形性ゆえ、解析、設計は容易ではなく、オプザーバを構成する場合もそ
の例外ではない。これに対し、本手法では、両制御法の関係を用いて、磁束F
B形用に設計したものから、導出する手法をとるため、すべり周波数形の非線
形性に煩わされることはなく、設計解析の容易な磁束FB形で培ってきたさま
ざまな研究成果を実装実績の多いすべり周波数形で適用することが可能である。
さらに、磁束FB形用に提案した適応オブザーバに対し、この方法の適用
を試みる。そして、すべり周波数形用の適応オプザーバを導出し、先に提案し
た磁束オプザーバを持つすべり周波数形の速度センサレス化を行なう。
最後に、本研究では、制御系設計の観点から、ベクトル制御の構成につい
て再検討する。従来のベクトル制御の観点は、すべり周波数形と磁束FB形
16
第1章序論
という、本質的には同じではあるが、一見異なる構成をとる二穫類のベクトル
制御が存在することに惑わされている感があり、個々のベクトル制御について
は、良く理解されているが、両形に共通のベクトル制御の本質が何であり、両
形に固有の本質は何であるかが、明確ではない。そして、このことが、両制御
法を直接比較することの困難さを生じさせていたといえる。
本研究では、先に述べたように、すべり周波数形と磁束FB形との比較を
行ない、その関係を明らかにする。そして、この結果を用い、両制御法を区別
することなく、極めて一般的にベクトル制御を扱うことが可能となる捉え方を
提案する。そして、その観点より、従来のベクトル制御を振り返り、それぞれ
の持つ特性の差異に制御理論的な説明を与える。その上で、磁束オブザーバの
果たす役割を確認し、磁束オブザーバを持つベクトル制御のあるべき姿ににつ
いて検討する。
1.3 本研究の概要
本研究は、ベクトル制御に関する新たな観点を与えつつ、高性能ベクトル
制御としての磁束オブザーバを用いた誘導電動機のベクトル制御を実現するす
るための基礎的研究であり、前述のベクトル制御の実用化を支える技術の柱の
一つであるベクトル制御技術の発展を支える研究に相当する。本論文は、次の
5章から構成される。
第2章では、誘導電動機の二次磁束推定用スライディングオブザーバの構
成法について述べる。パラメータ変動にロバストな磁束推定を実現する極配最
設計について、問題の定式化を行ない、その解を与える。次に、DSP(Digitj
Signj Processor)を用いて、スライディングオブザーバを実機実装する.スラ
イディングオブザーバの特性および設計の有効性を実機実験により検証する。
さらに設計した磁束オブザーバを用いて、磁束FB形ベクトル制御を実現し、
速度制御特性およびロバスト性を検証する。
第3章では、第2章で提案したスライディングオプザーバにパラメータ同定
機能を付加した適応スライディングオブザーバの構成法を提案する。リアプノ
フの安定論を用い、パラメータ同定に用いる一般的な適応同定則を二積類導出
する。次に、速度センサレス化および二次抵抗同定を目的とした場合の適応則
を具体的に示し、同定可能条件の検肘を行ない、通常の誘導電動機の駆動状態
において問題なく同定力i行なえることを示す。さらに、コンピュータシミュレー
ションおよび実機実験により、提案する適応スライディングオブザーパによる
速度センサレス制御の特性および二次抵抗変動に対するロバスト性を確認する。
第4傘では、まず、すべり周波数形と磁束FB形との比較を行ない、すベ
1.3.本研究の概要
17
り周波数演算は、極座標表現で二次磁束を推定していることに相当することを
示し、すべり周波数形と磁束FB形の差異ぱ、結局、磁束推定に用いる状態方
程式の状態変数のとり方であることを示す。
その結果を用いて、第2章で磁束FB形用にロバスト設計されたオブザー
バより、すべり周波数形用の磁束オブザーバを導出する。そして、その磁束オ
ブザーバを使用したすべり周波数形ペクトル制御は、従来のすべり周波数形に
比べ、ロパスト性が改善され、導出のもととなった磁束オブザーバを使用する
磁束FB形ペクトル制御と同等のロバスト性を示すことをコンピュータシミュ
レーションにより検証する。
第5章では、第3章で提案した磁束FB形用の適応オブザーバをもとに、第
4章と同様の手法を用いて、すべり周波数形用の適応オブザーバを導出する。
そして、すべり周波数形で磁束オブザーバを持つ速度センサレスベクトル制御
系の構成を提案し、コンピュータシミュレーションでその特性を確認する。
第6章では、第4章で行なった両制御法の比較をさらに進め、両ベクトル
制御法の構成の相違点を検肘していく。その上で、両制御法を区別することな
《、極めて一般的にベクトル制御を取り扱うことが可能となる解釈法を提案す
る。つまり、ベクトル制御は、誘導電動機に、座標変換という非線形フィード
バック、非干渉化という状態フィードバック、電流制御を施す制御系で構成さ
れると考えることができ、各ベクトル制御の差異は、各フィードバックに必要
な状態の獲得法に集約されると解釈できることを示す。
さらに、その枠組の中で、従来のさまざまなペクトル制御における制御器
の構成を検討し、磁束FB形に比べ、すべり周波数形がロバスト性において
劣ること、すべり周波数形がフィードフォワード的特性を示し、磁束FB形が
フィードバック的特性を示すことなど、従来、一般的に諮られている特性につ
いて、制御理論的な意味での説明を与える。
そして、ベクトル制御の理想形として、磁束オプザーバを用いたベクトル
制御の構成について述べる。
最後に、第7章では、本研究で得られた成果をまとめ、今後の課題につい
て述べる。
18
第1章序論
第2章
二次磁束推定用スライディングオブ
ザーパの構成とロバスト設計法
2.1 緒言
磁束FB形ベクトル制御は、ベクトル制御器臼体は、パラメータ変動の影
響を受けないという長所を持つ。しかし、二次磁東座椋上で求められた制御器
出力を固定子座標系に変換する必要があるため、測定困難な状態量である二
次磁束の情報を必要とする。このため磁束オブザーバの併用が一般的である。
この場合、パラメータ変動に対しロバストな二次磁束推定を達成する磁束オブ
ザーパの実現が、磁束FB形ベクトル制御の必要条件になる。
本章では、二次磁束推定にスライディングオブザーバの適用を提案する。
スライディングオブザーバは、次のような特徹を持つ[411.
L適応フィルタ的能力を持ち、ノイズに対する特性に優れている。
2.最小次元オブザーバと同様な手法で設計が可能である。
3.適応オプザーバヘの拡張が可能である。
さらに、パラメータ変動による外乱から二次磁束崔定誤差への伝達関数の
万足ノルムを考慮した設計法を提案する。この設計法は、外乱抑制能力を定
量的に設計問題に組み込むとともに、変動するパラメータに応じて望ましい
フィードバックゲインを決定するため、従来、提案されてる手法[181[19]に較
べ、きめ細かい設計が可能である。スライディングオブザーバは二次磁束推定
について、最小次元オプザーバと同じ誤差方程式を持ので本設計法は、鍛小次
元オプザーバに対しても使用可能である。
さらに、本設計法ぱ、すべり周波数形のパラメータ変動に対するロバスト
性の改善に適用することも可能である。すなわち、本ロバスト設計法は、第4
19
20
第2章二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
章で述べるすべり周波数形ベクトル制御で用いられる磁束オブザーバの設計に
対しても適用可能である。
最後に、DSPを用いることにより、提案するスライディングオプザーバを
実現し、実機実験により提案する設計法の効果を検証する。そして、本設計法
にもとづき設計されたスライディングオブザーバを用いて構成された磁束FB
形ベクトル制御系が、パラメーダ変動に対してロバストな特性を示すことを二
次抵抗変動の場合を例にとり、実機により検証する。
2.2
誘導電動機の状態方程式
誘導電動機は定常状態でしかも電圧・電流波形が正弦波の場合は1相分の
等価回路を用いて比較的簡単に解析を行なうことができるが、ベクトル制御な
どにより、電圧・電流が過渡時に変化する場合はそれらの瞬時値を考えなけれ
ぱならない。なお、3相誘導電動機は電源が3相平衡しているとき、3相≒2
相変換を行ない2相誘導電動機としてみなすことが可能であり、本論文では2
相誘導電動機として考える。
座標軸を固定子直交座標(各軸をd軸、q軸と記す)上にとると、2相誘導
電動機の基本式は2ユ式で与えられる。
(凡十£譜)7 訂か7
馬0
か7-訂沁扁J(凡十£譜)匹(仙
1
―
ただし、
一次電圧ベクトル
=[む心 1ノ卵】T
馬
ち
r
‘4'り
゜[i心 仙]T
ー次電流ベクトル
゜[ねr i詞T
二次電流ベクトル
極数
pら凡拓瓦島訂
回転速度
一次抵抗
二次抵抗
一次自己インダクタンス
二次白己インダクタンス
相互インダクタンス
-1
0
Xーーノ/
/fx、
ny ll
0 1
J
/jtヽ、
-
`X-ノ
一
=
1 0
7
(2巾
21
2.2.誘導電勧橋の状態方程式
また、二次磁束は次式で表される。
沁=Λj八十£バr (2.2)
状態変数を一次電流仏二次磁束石、出力変数を仏ならびに人力変数を
一次電圧む。とすると、誘導電動機の固定子座標上の状態方程式及び出力方程
式は、固定子直交座標上で以下のような方程式で表現される。ただし、誘導定
動機のパラメータの公称値に対する誤差を外乱として扱い、公称値により構成
される状態方程式から分離した形で記述している。
八y
崇」 ljA21
-
一
―
l1
[70]
-
召 0
j4 1 1
一
(2郊
け4)
ただし、
= = =
H □
j j
-(凡十拓豺2/£j)/(託ボ=訂
(凡訂/兄。μ)7-御。訂/(屍エヤ
c7十訂
趾 2 1
j λ 召
(訂拓μポ=訂
-
-(凡/£ボ十卸ノ=d十戸
(1/託ボ (ァ=匹訂2/(£ム)
-
-
また、パラメータ変動に起因する外乱の項p
£)
一
-
匹
副
切
・ま、以下のように取り扱う。
外乱の構造を表す行列
外乱ペクトル
ここで、回転速度ω。を定数として考えることにより、(2.3)式は、線形状
態方程式として取り扱うことが可能となる点に注意されたい。むろん、ωJよ
系の状態であり、本来なら状態変数として扱うべきである。しかし、他の状態
(電圧・電流・磁束)が電気系の状態であるのに対して、回転速度は機械系の
状態であり、その時宛数は他の状態に較べて十分に大きいと思われる。このた
め、本章のように電圧・電流・磁束の制御や推定を問題とするような場合にお
いては、回転速度を定数として取り扱うことが可能であると思われる。ゆえに
以後、(2,3)式は、線形の状態方程式として取り扱うことにする.
第2章二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
否し
スライディングオブザーバの構成と推定誤差方
2.3
程式
(2,3)式に対し、スライディングオプザーバ[42]を次のように構成する(図
2,1).
j
lAjリ& l大
= y1117s十λ12År十召1ち十Klsジn(7s一礼)
(2.5)
沁 = メ121礼十j22λΓ -£Kls尹l(礼一八) (2・6)
スライディングオブザーバは、出力誤差の符号関数s卯にフィードバック
ゲインK≡[凡 -£K1げをかけた項Kリn(e1)≡匪1 -£凡]巧卯(7ご礼)
を誘導電動機のモデルにフィードバックして構成する。
このとき、この系の推定誤差方程式は、以下に示す通りとなる。
IAI
e1
ら -ち
-
メ111e1十メ112e2十瓦1sgn(ね-ら)十72)1扨
一
e2
-
λ21e1十y122e2 - £瓦1印可lj一八)十£)2切 (2,8)
一
`ツ・
Q。
勿s
Q
(2.7)
λΓ-λ『
一
で、スライディング平面を次のように設定する。
戸`‘
防い
1
?C‘
=
2]T=[Ql e91]T=八一ね゜0
(2,9)
スライディングモード[43H44目45]を発生するためには次式が満たされれぱ
よい。
証1≪0 ,ぐゐ≪O (2,10)
フィードバックゲインK1=た17とし、誘導電動機の運転条件、パラメータ誤
差の最大値を考慮し、十分大きなた1を選ぶことにより式(2.10)を満たすこと
ができる【42].
2.4
スライディングオブザーバの特性
スライディングモード制御は、その仮定として切替周波数が無限大の切替
器を用いる。しかし、実際のプラントにおいて、そのような切替器は実現不
可能であり、その結果、完全なスライディングモードは発生せず、その近傍で
チヤタリングが発生することになる。良く知られているように、このチヤタリ
ングは系に悪影響を与え、スライディングモード制御の実用化の大きな問題で
あり、さまざまなチャタリング防止策が提案されている[46]・
2尤 スライディングオプザーバの特性
r
e
v
r-
e
S
9
h}
S
書,0
--
n
23
│
│
㎜●
図2j:スライディングオプザーバの構成
24
第2章二次磁束推定用スライディングオプザーバの構成とロバスト設計法
しかし、本章で取り扱うスライディングオブザーバにおいては、次のよう
な理由により、チャタリングノイズは本質的な問題とならない。
L本スライディングオブザーバにおいて、チャタリングが重畳し、問題と
なるのは一次電流推定値であるが、この値を直接、制御に用いるわけで
はない。
2.本スライディングオブザーパの目的は、二次磁束推定値の出力である。
一次電流推定値はチャタリングノイズを持つが、二次磁束推定値を求め
る際には、この一次電流推定値を積分して用いるため、二次磁束推定値
自体にはチヤタリングノイズの影響はあまり問題とならない。
ゆえに、本章では基本的なs卯関数を用いてスライディングオブザーバを
構成することにする。
さて、スライディングモードが発生したとき、等価制御入力法を用いれぱ、
誤差空間上で、図2ぷこ示す軌跡を経て、
e1=ど1=O (2,11)
となり、軌跡はスライディング平面に拘束される。この結果、推定誤差方程式
は、スライディング平面上のみで考えれぱ良く(すなわち、低次元化され)、
二次磁束沁のみに対して次式となる。
e2
-
ル2十Fuノ==(ー訂十βj)e2十FIむ (a≫O)
(212)
ただし、フr=λ22十£凡2
-a士jβ
y=[£ 爪)
閉ループ系の極
外乱の入力行列
スライディング平面まで、誤差空間で高々1/2周である上、スライディングモー
ド発生に際してハイゲインフィードバックが施されているため、スライディン
グ平面への到達時間はスライディング平面上における収束時間に較べて十分に
短いと考えてよい。このため、この誤差方程式の極がオブザーバの収束速度を
支配することとなる。
また、この誤差方程式は最小次元オブザーバと同一のものである【18][191
[20].したがって以後の議論は殿小次元オブザーバに対しても成立する.
パラメータミスマッチが推定磁束誤差へ及ぽす影響は(2j2)式で示され
る。この閉ループの極は次に示すようにフィードバックゲイン£を選ぶこと
により任意に決めることができる。
.422+£j12=(£一d)λ12こ= 一 「+βJ
(2,13)
2え スライディングオブザーバの特性
25
「
e2
Slidin9 Hyperplane
図2.2:スライディングオブザーバの推定誤差軌跡
26
第2傘二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
ただし、
一以12=Å22 (2λ4)
ここで、フィードパックゲイン£、すなわち閉ループの極、(-a,陶は、磁
束推定誤差が収束するように複素平面の左半平面に選ぶ必要があるが、この選
び方により、パラメータミスマッチの項が推定磁束誤差へ及ぽす影響を選択的
に抑制することができる。次節ではその極配貴の選び方について述べる。
2.5 パラメータ変動に対するロバスト設計法
ここでは、電流をスライディングモード制御することにより低次元化され
た誤差方程式(2.12)について考察し、磁束オブザーバのロバスト設計法につ
いて考える。
誤差方程式(2.12)における設計パラメータは、フィードバックゲイン£で
ある。通常のオブザーバの場合、フィードバックゲインは、誤差方程式にお
ける極を決定し、誤差収束の過渡応答を左右する。しかし、この誤差方程式
(2j2)の場合、設計パラメータ£は、誤差収束の過渡応答を決定するのみなら
ず、パラメータ変動に起因して発生する外乱が閉ループ系へ入力される際の入
力ゲインをも左右する点に往目するjご要がある。ゆえに、こごむ城勁鵠心束特
性のみならず、パラメータ変動に起因する二次磁束の定常推定誤差も考慮した
ロバスト磁束オプザーバの設計法を提案する。
2.5.1 オブザーバに求められる特性とその定量的評価
まず、誘導電動機の磁束オブザーバに求められる特性を考慮してみると次
の2点が挙げられる。
1.外乱抑制能力:パラメータ変動が二次磁束推定に及ぽす影響の抑圧能力
2,誤差の収束性:初期誤差の素早い収束性
これらの能力を評価し、設計に反映するために、次の2種類の伝達関数と
そのノルムを定義する。
パラメータ変動による外乱から二次磁束の推定誤差への伝達関数行列を
T(s)と定栽する。
TO)=(訂-ズ)-IF
(2,15)
27
2ふ パラメータ変動に対するロバスト設計法
∧
λΓ-λr
図2.3:誤差方程式のブロック図
28
第2傘二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
T(s)は外乱の推定誤差への影響を表す感度関数であるので、そのノルム
を抑えることは外乱の影響を抑えることになる。ここでは、様々に変化
するであろう誘導電動機の運転速度を考慮し、ワーストケースデザイン
に対応する誤差伝達関数T(s)の丑。ノルム瞎レを評価する.
瞎│に=supらl川几沁)│=H斜2/α (2j6)
パラメータ変動に対する感度を抑えるためには、げH2ノルムの大きさを
抑える、もしくはaを大きくとれぱ良い。しかし、式(2j2)に見られる
ように、外乱の入力行列Fは、外乱の構造Dと、フィードバックゲイ
ン£を含む.つまり、││別2ノルムの大きさは、変動するパラメータの種
類に依存する上、フィードバックゲイン(オブザーバの極)に左右され
る。ゆえに、低感度化のためには、変動するパラメータごとにオブザー
バの極のげH2ノルムの大きさへ及ぼす影響を考慮して、極を選ぶ必要
がある。
・胴
一方、初期誤差に対する応答は次式のインパルス応答で与えられる。
eか) =G(巾2(O)
= 回-λ) ̄‰(O)
(2 17)
(2 18)
この減衰特性は、閉ループ伝達関数行列G(s)の適当なノルムを用いて
評価することができる.ここでは馬ノルムを考える.G(s)の馬ノルム
はインパルス応答の二乗積分値であり、次式で与えられる。
銅胎
一
加Eぶ(づω)砧'(加)心
=1/a (2,19)
ゆえに、aを大きくとれぱ良いという、いわぱ当然の結果が導かれる。し
かし、実際には前述の外乱抑制能力との何らかの妥協を図る必要がある。
2.5.2 オブザーバの設計
以上の定義に より、設計問題を定式化することが可能となる。
29
2.5.パラメータ変勣に対するロバスト設計法
L匪礁慰]
一定の誤差の収東性を確保した上で、外乱抑制能力を最適化する
2嘔回胆]
一定の外乱抑制能力を確保した上で、誤差の収束性を最適化する
げレ
≦守(y given)
-→ nlln
│IGIIお2
これら設計問題のノルムには、設計パラメータのフィードバックゲイン仏
すなわちオプザーパの極が含まれる。ゆえに、この値を適切に選ぶことによ
り、設計仕様を満たす磁束オプザーバを実現する。
実際には、先に触れたように外乱の入力行列パこおける外乱の構造£)が、
変動するパラメータごとに異なるため、各設計問題が満たすべき伝達関数T(s)
は、変動を考慮するパラメータにより、分類される。外乱の構造川ま、次の2
つに分類される。
L一次抵抗の変動ヽ一次電圧の測宛誤差:£)=[7 017
げレ
1
-
 ̄フマ
a
(2.20)
2,二次抵抗の変動、回転数の測定誤差:£)=[7-d]7
│円に
1
べ尽つ
(2.21)
故に、各設計問題ごとの最適なフィードバックゲイン(極配饅)は、変動
するパラメータに応じ、異なった値を持つことになる。
本論文では、後に実験により検証を試みる設計問越2に対して、変動する
パラメータごとに最適な極配貴を示す。なお、設計問題Hこ関する場合も含
め、これらの設計問題の一般化された最適解、およびその導出法については、
文献[絹を参照されたい.
30
第2章二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
L一次抵抗の変動、一次電圧の測定誤差:
a*士丿抑。 (2,22)
。 拓/£。
1-?石n可戸
この場合、最適な極配貴は、回転翫ら、また回転数ω。を含む誘導機の
パラメータ利こ依存する。このため、フィードバックゲイン£を誘導機
の回転数に応じて変化させることになる。
2.二次抵抗の変動、回転数の測定誤差:
-a*士O (2.23)
この場合、極を実軸上に配養すれぱ良いことになる。しかし、a'につい
ては、一意に決まらない。そこで、さらに、次の条件を導入して、a‘の
最適解を求める。
げH2≦lノ (y : given) (2.24)
これは推定誤差の振幅を、過渡時を含めて、ある値以下に抑えることに
相当する。 a‘は、以下のように定まる。
a*=£ノ石F石戸 (2.25)
この場合も、回転数ω,。を含む誘導機のパラメータdを含むため、フィー
ドバックゲイン£を誘導機の回転数に応じて変化させることになる。
ここでは、本設計法の効果の検証を目的とするため、各外乱のクラスを明
確に区別し、個別にその最適解を示した。実際、誘導機の場合、一次抵抗と二
次抵抗、いずれの場合も温度依存性のあるパラメータであり、両パラメータの
変動に対しての考慮が必要となる。この場合にも、パラメータ変動による外乱
が複数存在するとして、本設計法を適用すれば、両パラメータ変動が存在する
場合の穀適なフィードバックゲイン£を求めることが可能である[47].しか
し、そのフィードバックゲイン(極配貴)は、要求する外乱抑制能力にも依
存するが、一般的に誘導機の定格速度域全域をカバーさせた場合、実装に際し
て現実的な値とはならない。
このため、両変動に対応させる場合は、要求される極配置を考慮しながら、
速度域によって外乱抑制能力の条件を緩める、もしくは、高速域では二次抵抗
変動のみ考慮し、低速城で両変動を考慮するなど、実装法をさらに検討する必
要がある。
31
2孔 実験
表2士system const迂nts
一一次抵抗 沁Oj00[91
0.101
二次抵抗
Rr
0石90
二次インダクタンス
Lr
0、093
相互インダクタンス
極対数
M
0.093
P
2
1 11
Ls
仔咽井丑
EEEL
2.6
一次インダクタンス
実験
2.6.1 実験装置の構成
提案するスライディングオブザーバに関する実験を行うため、実験装漑を
製作した.その構成を図2ポこ示す.基本的には、DSP(μPD77230)がスライ
ディングオブザーバを構成し、MPU68000が磁束FB形、またはすべり周波数
形ベクトル制御器を構成する。
DSPはRAMと共にボード化されたものをパソコン(PC-9801VX)の拡張
スロットに着装し、パソコンによりフィードバックゲインをはじめとする各梗
定数の設定、また、タイマ割り込みにより演算周期の制御が行われる。一次竜
流は、CTで検出し、アナログ3相-2相変換回路(回中では「3/2」と記す)を
通した値を12bitA/D変換器を通じて取り込む.電圧は、LEM電圧モジュー
ルを通じて取り込んだ線間電圧をアナログ回路にて構成された二次のローパ
スフィルタ(遮断周波数 8oo匝巾、アナログ回路で3相-2相変換を行なっ
た後に12bit A/D 変換器を通して取り込む.誘導機の回転数は、パルスエン
コーダ(PE)により計測し、MPU経由でディジタル値として取り込む.また、
DSPによって演算された推定磁束、電流は、12bitD/A変換器、または16bit
ディジタルバスから出力が可能である。
MPU68000は、DSPの出力する16bitディジタル値を3チャネル分、円A
を通じて取り込むとが可能である。同様に、パルスエンコーダで計測された誘
導機の回転数をPIAを通じて取り込むとともに、DSPに対して引き渡してい
る。 MPUは、これらの値を用いて、ベクトル制御碁、速度制御器を構成し、
12bitD/A変換器から、アナログ2相-3相変換回路(図中では「2/3」と記す)
を通し、インバータヘの電流指令値を出力する。
誘導機は2,2[た剛の3相巻線形電動機を用い、冤流瞬時値比較形インバー
タにより駆動する。この誘導機の各パラメータを表2ぷこ示す。これらの値は、
一次側、二次側に直流、商用周波数の交流を印加した場合の出力値を測定し、
等価回路から算出したものである。
32
第2章二次磁束推定用スライディングオプザーバの構成とロバスト設計法
3Φ
200 V
2.2KW
図2.4:実験装景の構成
2.6.実験
33
また、本実験装煮においては巻線形誘導電動機を用いているので、一次電
流、二次電流ともに測定可能であり、次式により、二次磁束を計算し、推定二
次磁東との比較に用いる。
λ。=訂八十£よ (2.26)
なお、誘導機には負荷として直流発電機がカッブリングされている。スライ
ディングオブザーバは式(2.5) 膳6)のオイラ近似により離散化し、これを
DSP上で実現している。フィードバックゲイン£は、想定するパラメータ変動
に対して、提案する設計法により設計された極配價を実現するように、速度の
値ごとに各種パラメータの公称値よりオフラインで計算しておき、やはり、各
種パラメータの公称値等から計算したオブザーバ方程式の係数と共にDSP上
のRAMにテープルとして持たせ、計算量の軽減を図っている。これにより、
電流、電圧をはじめとする各種測定値のA/D変換器からのサンプリング、オ
プザーバによる二次磁束推定、および、推定値のベクトル制御器への出力をお
よそ35[副で実現している.このため、上述のオイラ近似で十分な精度が得
られると思われる。また、スライディングモードが発生するチャタリング周
波数は3o[たどz]弱に達し、二次側の時定数に比`十分高くなるためヽ推定値に
及ぼす影響は少ないと推定される。
ベクトル制御器は、スライディングオブザーバより得られた推定磁束をも
とに、磁束FB形ベクトル制御をMPU上で実現し、インバータヘの電流指令
値を出力する.制御周期は、35oLμs]である.
2.6.2 スライディングオブザーバの磁束推定能力と提案する極
配置の有効性
まず、提案するスライディングオプザーバの磁束推定能力、およぴ視案す
る極配質の有効性を検証するため、すべり周波数形で駆動される誘導電動機の
二次磁束を、提案するスライディングオブザーバで推定した。
図2jは、誘導篭動機のパラメータとして公称値を用いた場合のi00[即m]
駆動時における電流・磁束推定波形である(極対数が2であること、すべりが
1割程度存在する状態であるために、各波形の角速度白体は、220[rP列程度
となる点に注意)。スライディングモードの発生により、一次電流が良好に推
定されている.この演算周期(35[面)では、スライディングモードによるチヤ
タリングの影響はほとんど見られない。この結果、良好な二次磁束波形が得ら
れている。
また、図2.6、2.7は、パラメータ変動に起因する二次磁束の推定誤差とオプ
ザーバの極配貴の関係を示している。図2.6は、一次抵抗変動(△凡=50%)
の存在している場合である。上段は、一次抵抗変動に対して感度の高い極配
置を選び、誘導電動機をすべり周波数形ベクトル制御によって定速運転した
場合の推定二次磁束である。一方、下段は、前章で述べた設計問題において、
34
第2章二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロパスト設計法
0
0
0
0
0
0
0
0
Cァ剔7e耐:]じO.0レ1/直む]
T沁
図2.5:スライディングオブザーバによる二次磁束推定
35
2石。実験
げレ=L5×10-4を満たすように設計したフィードバックゲイン(極)を用
いた場合の結果である。
図2.7は、二次抵抗変動(△拓=50%)が存在している場合である。上段
は、二次抵抗変動に対して感度の高い極配着を選び、誘専電動機を定速運転し
た場合の推定二次磁束である。下段ぱ、やはり、前章で述べた設計問題におい
て、げH2=5,0×1o-3を満たすように設計したフィードバックゲインを用い
た場合の結果である。
これらの結果は、二次磁束推定誤差のパラメータ誤差に対する感度が、極
配質により、大きく影響を受けることを示している。すなわち、オブザーバの
極配價ぱ、過渡時のみならず、定常時においても、二次磁束の推定誤差に大き
な影響を与える。逆に、極配貴によって、パラメータ誤差に起因する外乱を抑
圧することが可能であり、事実、提案する極配置が、良好な外乱抑圧特性を持
つものであることが確認できる。
2.6.3
スライディングオプザーバを用いた磁束FBベクトル制
御系
次に、提案するスライディングオプザーバにより推定した二次磁束を用い
た磁束FB形ベクトル制御系を構成した(図2.8)。その基本特性を検証する
ため、速度制御特性を示す。また、提案する極配貴がパラメータ変動に対して
ロパストな二次磁束推定の実現に有効であることを検証するため、本制御系に
おいてパラメータ変動に対するトルク制御特性を示す。
図2jは、スライディングオブザーバで推定された二次磁束を用いる磁束
FB形ベクトル制御系で、-1000【rpmト→+1000【rp刈間でo.185[ル│の方形
波状の速度指令値を加えて、加減速運転をおこなった場合の各波形である。定
常時はもとより、過渡時においても、良好な二次磁束推定が達成され、その結
果、良好な加減速特性を示していることがわかる。
また、図2.10は、同様の磁束FB形ベクトル制御系で、トルク制御を行
い、二次抵抗の変動に対する発生トルクを測定した絡果である。極配置は、
げH2=5.0×1o-1oの粂件のもと、設計問題2に従い、二次抵抗変動に対して
ロバストな二次磁束推定を実現する様に設計したものを用いた。また、比較の
ため、極配薇(a,β)=ド凡/仙抑。)を用い、同様にトルク測定を行った場
合の結果も示した。
後者の極配菱を用いることは、オプザーバではなくモデルによる推定二次
磁束を用いた制御系に相当する。ゆえに、二次抵抗の変動に従い、二次磁束に
推定誤差を生じ、その結果、発生トルクが減少することが、実験結果よりわ
かる。
これに対し、提案する設計法にしたがった極配置の場合は、50%程度の二
次抵抗変動に対して発生トルクにほとんど変化がないことが、実験結果からわ
36
第2章二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
pole : (-5,0)
0.25[Wb/D岡
pole ; (-10,pωm)│
o,25仰b/D岡
△凡=50%ら:500〔7祠LOAD: 2.00【Nmlごユ
図2.6:極配置による二次磁束推定のロバスト性一一次抵抗変動時
37
2£,実験
pole : (-10け5}
Oj5[Wb/D岡
poleづ-a,0)
H瓦││≦5.0*1o-3
(),25[Wb/肺司
△鳥=50%4:50肋)m]LOAD:2加[Nml
図2.7:極配置による二次磁束推定のロバスト性一二次抵抗変動時
38
第2章二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
図2.8:スライディングオブザーバを用いた磁束FB形ベクトル制御系の構成
39
2.6.実験
1㈲0{・1祠
£JmO{rPntl
ぺ四【rpml
251ノtl
-
な 吻│
な
例λl
λみolll4】
,レ‥,七で‥‥‥‥ レ
一
ほG匪測イrK CU炉
11
λみ叩哺
-I柿哺
0.00
to
2.0
Timc
図2.9:スライディングオプザーバを用いた磁束FB形ペクトル制御系の速度
制御特性
6.0{jet
40 第2章二次磁束推定用スライディングオプザーバの構成とロバスト設計法
かる。
このことは、提案する極配慨を施したスライディングオプザーバは二次抵
抗変動に対してロバストな二次磁束推定を実現しており、その推定磁束を用い
た磁束FB形ベクトル制御系も、二次抵抗変動に対してロバストな特性を有す
ることを示している。
2.7
本章では、二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成法について述
べた。誤差の収秉性、パラメータ変動による外乱抑制能力を陽に設計仕様とす
ることが可能な設計法を示し、各パラメター変動の場合における最適な極配雅
を解析的に明らかにした。
次に、実際に、二次磁束推定用スライディングオプザーバ、ならびにその
推定二次磁束を用いた誘導電動機の磁束FB形ベクトル制御系を製作し、実機
実験により、そのロバスト設計法の検肘を行なった。その結果、提案するオブ
ザーバの設計法がパラメータ誤差に起因する二次磁束推定誤差の抑制に対し
て、過渡状態のみならず定常状態においても、有効であることを確認した。
さらに、本ベクトル制御系は、良好な特性を持つとともに、提案するオブ
ザーバの設計法にもとづく適切な極配澱により、パラメータ変動に対して高い
ロバスト性を有することを検証した。
2.7.結言
41
ls““`¶
18
・=。=.』
か命ヱ
e、
e
4
e
--
--
1.4
なバ
1.2
度一
1
をもつオ
鐙抗変動に
感ザ
低プ
二極
O。8
次配
2
MODEL
1 ゛6 Rr/Rr゛
図2.10:提案する極配貴にもとづくオプザーパを用いたベクトル制御系による
トルク制御特性
42
第2傘二次磁束推定用スライディングオブザーバの構成とロバスト設計法
第3章
適応オブザーパによる速度センサレ
ス化と二次抵抗同定
3.1
緒言
前章では、磁束オブザーバによる磁束推定のロバスト化の手法として、極
配貴の検肘によりオプザーバを低感度化する手法を提案したが、異なるアプ
ローチとして、パラメータの調整機能の付加により積極的にロバスト化を計る
手法が考えるられる。
このパラメータの調整機能を付加する手法は、そのまま、速度センサレス
化に生かすことができる。そもそも、速度は、機械系の時定数に従う状態量で
あるが、電気系の時定数に従う他の状態量(電圧、電流)に比べ、一桁以上、
時定数が大きい。この結果、誘導電動機の数式モデル内において、速度は二次
抵抗などと同様に一つのパラメータと見なすことができる。ゆえに、速度セン
サレス化は、パラメータ変動に対するロパスト化と本質的に同じパラメータ調
整問題として提えることができるのである。
これらのパラメータ調整問題を解決するためため、適応制御の手法を用いた
ノ抒メータの同定機能を持つ制御系力倣々提案されている[24]
[34]
[281[29ト[31]
[361.その多くは、図M和)のような構成を待つが、これらの制獅系に
は、共通する問題点力専在する。それは、誘導電動機の竜圧モデルから二次磁
束が正しく演算できることを前提にしていることである。その前提のもと、人
出力間の誤差がすべてパラメータの誤差に依存していると見なし、速度推定、
″ラメータ同定をおこなう[24]
[30].このため、他のパラメータ変動や低速
域などでの電圧積分誤差に起因する二次磁束の推定誤差が、目的のパラメータ
同定へ及ぽす影響が問題となる。さらに、パラメータ変動に弱いすべり周波数
形を基本に構成され、非線系となる制御部と線系となる同定部を一体化して取
り扱うため、パラメータ同定自体の大域的安定性の解析が困難であり、明らか
にされていない。
43
44
第3輩適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
(a)従来の制御系
(b)提案する制御系
図3j:誘導電動機制御用適応制御系の構成
45
3忍誘導電動襖用適応スライディングオブザーバの構成
これに対して、本章では、誘導電動機駆動システムとして、第2章で提案し
た二次磁束推定用スライディングオブザーバに適応機能を付加した適応スライ
ディングオプザーバを適用した制御系を提案する(図3土(印.この制御系の
特徴は、制御器と同定器が分離しており、同定器の大域的安定性の解析が容易
となることである。また、速度あるいはパラメータ同宛とともに、スライディ
ングオプザーバによる安定で精度の良い二次磁束推定が行なえる。
さらに本章では、この適応スライディングオプザーバの構成法を示し、リ
アプノフの安定論を用い、安定なパラメータ同定のための適応則を二権類導出
する。また、適応制御理論に従い、同定可能条件を明らかにする。そして、そ
のパラメータ同定則を具体的に速度推定、二次抵抗同定に適用し、回定可能条
件を検討すると共に、速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御系
と二次抵抗同定機能付ベクトル制御系を提案する。そして、シミュレーション
によりその有用性を示す。
最後に、制御理論にもとづき設計された制御系を、実機において検証するた
めに、DSP(Diがtal Signj Processor)を用いて実現された適応スライディング
オブザーバを組み込んだ実験装置を製作し、提案した制御系の検証を行なう。
3.2 誘導電動機用適応スライディングオブザーバの
構成
この節では、誘導電動機の二次磁束推定用スライディングオブザーバを基
本とした適応スライディングオブザーバの構成法を示す。そして、観測可能情
報からパラメータ誤差に関する情報を抽出する方法について述ぺる。
3.2.1 二次磁束推定用スライディングオブザーバ
かご形誘導電動機の状態方程式、出力方程式は、固定子直交座標(各軸をd
軸、q軸と記す)上で状態変数zを一次篭流″クトル礼判仙 らポと二次磁
束ベクトルλ,=t厄 λ9ボからなるとしてヽ次のように表すことができる.
召0
1
tl xA
一
副
j r
ぶ&
j
一
λj
=
/121
―
1
―
ち石
d一冶
メ111
17ノき
(3,1)
(3.2)
1
46
第3章適応オプザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
メ111
メ112
j21
メ122
召1
-
一
-
一
-
-
-
川
一
一
J
i
-1
{U‘I
7
-(凡十拓M2/£。2)/(此よ7
(拓訂/託ム2)ゴー抑。訂/(託ム)づ
(訂拓/仙)J
-(凡/仙)づ+Pらづ
(1/どア£。)‘7 、 び=1-jJ2/(£j£r)
-
」
0
I
ωぷま回転速度、戸ま極対数、凡仙訂は慣用に従う。また、添え字のyは回転
子側、ツは固定子側の変数を表す。
この制御対象に対し、スライディングオブザーバを次のように構成する(図
2j)。
八 = j11八十メ112え十召1ち十Xlsタn(e1)(3,3)
ん=凡ヱ十疋Å-£凡s卯(e1)φ
(3,4)
このとき、誤差方程式は次式となる。
ざ1 = 八-{,=jlle1十凡2e2十凡s仰(e1)十£)タφ
(3句
応 = λΓ-λΓ=メ121e1十j422e2 - £亙1リn(e1)十p2彷φ
(3,6)
=
乖泰
泰申
汐
x41//
/!lx
ハ礼{叙
峯一
ハぴ
λぴ
`!S-
Q。
叫・=[礼一札]
一
=
//lx、 φ
八-リ
召召
£)uノφ
(3.7)
パラメータミスマッチの項
パラメータ誤差
パラメータ真値
こで、スライディング平面を次のように設定する。
ぐ=[ぐ1 ぐ217バ。-ね=o (3,8)
スライディングモードを発生するためには、前章と同様に(2.10)式が満たされ
ればよ《、具体的には、フィードバックゲイン凡=た17とし、誘導電動機の
運転条件とパラメータ誤差の最大値を考慮し、十分大きなた1を選ぶことによ
り、スライディングモードが発生する。
スライディングモード発生後は、誤差空間上で、図2ぷこ示す軌跡を経て、
e1=ざ1=O (3剖
となり、軌道はスライディング平面に拘束される。等価制御人力法を用いれぱ、
スライディング平面上の誤差方程式は
心 = Å12(£一d)e2+F叶 (3.10)
3.2,誘導電勧機用適応スライディングオブザーバの構成
47
= =
F ぞ
[£7頂
ぴ札仁
訂
となる。パラメータミスマッチが推定磁束誤差へ及ぼす影響はぽ10)式で示
される。したがって、フィードバックゲイン£により、このループ系の極が
決定されること、この選び方により、パラメータミスマッチの項が推定磁束誤
差へ及ぼす影響を選択的に抑制することが可能であることなど、磁束推定特性
に関しては前章で述べたスライディングオブサーバと同様の取扱いを行なえば
良い。
3.2.2 スライディングオブザーバと適応同定
スライディングオプザーバのスイッチング信号Kls卯(el)をローパスフィ
ルタを通して得られる信号zを汪H)式で定義すると、ぽ10)式はぽ12)
式となる。これらの式が適応動作の基本式となる。
z ≡ -K1リn(el)=出2e2+炳tφ 昨H)
心 =(£一巾こ+(d)1+D2加φ (3,12)
信号zは、(3.H)式に見られるように、一次電流誤差e1にスライディングオブ
ザーバの特徴であるスイッチング動作凡s卯(e1)を経ることにより得られる信
号である。しかし、実際にスライディングオブザーバを構成する場合には、ス
イッチング周波数が有限であるためチャタリングノイズが信号パこ重畏する。
このチャタリングノイズを除去するため、先に述べたように清導電動機の運転
速度域を考慮して選んだ遮断周波数を持つローパスフィルタを通したものを信
号zとして用いる。この様子を図3ぷこ示す。
さて、適応制御ではパラメータ誤差の影響が検出可能な量に現れることを
利用して、パラメータの同定を行う.しかし、通常の適応オブザーバ[34H祠
では、パラメータ誤差の影響は系のダイナミクスを経て検出可能な状態量に現
れるため、パラメータの同定は一般に困難である。しかし、スライディングオ
ブザーバにおいては(3.11)式に見られるように、信号パこパラメータ誤差φ
の直達項が含まれている。このため、この検出可能な信号zを用いてパラメー
タの同定を比較的容易に行うことが可能となる。パラメータ同定を実現する適
応スライディングオブザーバは図3jのように構成することになる。
信号zから、パラメータ誤差についての情報を抽出し、安定なパラメータ
回定を実現する適応則の導出については次節で述べる。
3.2.3 可変フィードバックゲインKIによるチャタリングの低減
3.2j項で触れたように、フィードバックゲインKIの選び方は、運転条
件やパラメータ誤差の最大値を考慮して定めるものである。しかし、ひとたび
48
第3章遺応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
, .1 ゛j y………
'1. 。『`尹 ` ゜
1r ・ U
図3恋チャタリングノイズに含まれる信号の導出
3.2,誘導電勤機用適応スライディングオブザーバの構成
図3.3:適応スライディングオブザーバの構成
49
50
第3童適応オプザーバによる速度センサレス化と二次抵杭同定
スライディングモードが発生すれば、信号パこは、パラメータ誤差についての
情報が含まれているので、これを用いてより適切なフィードバックゲインを逐
次、設定することが可能である。
スライディングモード発生時、誤差方程式は信号zを用いて、次のように
書き換えられる。
ど1=礼一八 = 玉1e1十Å12e2+瓦1邨n(e1)十DI切φ
= メ11 1 e1 十z十瓦1sgn(e1) (31
このとき、スライディングモード発生の条件は、(2jO)式より、
ぐ'`‘
1
と1=づド白ぽ12十べ1十り卯(ぐ1)ぐ1≪o
j _ │1 4 目,・2 i 。。 ? l l_ ___/戸 `4戸 。n
ぐ2 ぐ2=づド白│ジ十縦2十り卯拙)ぐ2<0
(3 14)
(3 15)
となり、フィードバックゲイン瓦1=回は、
た1=min[ぐ1 ,ぐ2] (3j6)
ぐ1≪一(肩 (3.17)
G〈-(副 (n>1) (3j8)
と選べぱ良い。ただし、z=【zl z2]である。nは、スライディングモード発
生に対する安全率であり、n=2程度にとれぱ十分である。このようにk1を
選ぶことにより、フィードバックゲインとしてスライディングモードを発生す
るために必要最小限な値を取ることができ、信号パこ重畳するスイッチングノ
イズを減らすことが可能となる。この結果、次節以降に示されるパラメータ同
定の精度が向上する。
3.3 適応パラメータ同定則の導出と安定性
この節では、前節に示したパラメータ誤差に関する情報を含む、スライディ
ングオプサーバのスイッチング動作後の信号zを用いてパラメータの同定を行
う適応則の導出について述べる。そして、実際に適応則を2種類導出する。ま
たこの過程で、パラメータ同定の安定収束が保証されるための条件である同定
可能条件を示す。
3.3.1 適応則の導出と同定可能条件
まず、パラメータの変動の時定数が、電気系の時定数に比べ十分小さいと
して、次式を仮定する。
{U ハU
Å12
= =
タ
(3 19)
(3 20)
3.3.適応パラメータ同定則の導出と安定性
51
さらに、式(3.7)のパラメータミスマッチの項の仙,烏について次式が成り
立つとする。
炳十(D2=O (321)
後に示すように、
立する。この時、
この条件はパラメータ誤差が速度、または二次抵抗の時に成
前節で述べた適応動作の基本式ぽH)(3j2)は、次式と
なる。
Z Ξ
―瓦1卵n(c1)=j12c2+刀1柚φ
(3 川
心=(£-d)こ (3ぶ)
さて、以上の仮定のもとヽリアプノフの安宛理論【481を用い、以下に示す
手順でパラメータを回定する適応則、および同定可能条件をを導出し、その安
定性を示す(図3.4)。
まず、収東性の証明を望む変数を用いた正定な関数をリアプノフ関数とし
て選ぶ。そして、このリアプノフ関数の時間微分の負定または、準負定を導く。
この時、必要な条件式が適応則となる。しかし、準負定である場合、びが零と
なり、収束が止まってしまう場合が考えられ、この場合、パラメータ同定誤差
の収束も止まってしまう。ここでジ=Oの時にF=Oを保証する条件(同定
可能条件)が存在し、その条件が成立する場合、リアプノフの安定理論にもと
づき、パラメータの安定収束が保証される。
この場合の同定可能条件について考える。リアプノフ関数が収束を期待す
る変数(今の場合、z、φ,e2等)の正定関数であることと、ly=Oの時にド=o
を保証する灸件であることから、同定可能条件とは、結局、推定パラメータが
真値に達する前に、適応則が停止してしまわないための条件と言い替えること
ができ、φ≠Oの際にz≠0であることを示せぱよい.すなわち、パラメータ
誤差φの影響が測定可能量パこ現れるための条件であり、これは、適応制御で
いうところのPE条件に相当する。
ここでは、次の条件が同定可能条件が満たされるための必要十分条件である。
u,≠constant (3.24)
まず、条件(3.24)が満たされていれぱ、「z=Oが成立する場合にφ=0
である』ことを鉦明する。この結果、その逆であるΓφ≠Oの場合にz≠O」
も成立し、条件(3.24)が同定可能条件であることの証明が終る。
証明
z=Oが成立すると、汪22)休23)式から、次式が導かれる。
52
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
図3.4:リアブノフの安定理論による適応則の導出
53
3.3.適応パラメータ同定則の導出と安定性
Ξ Ξ
り 0
C1,
G
CI
(3 25)
.412e2+£)1扨が=C2十£)1籾や
(3 26)
constant
今、(3.26)式の左辺および右辺第一項が定数であるため、汪26)
式が成立するためには、少なくとも右辺第二項は定数でなけれぱな
らない。ここで1む≠constantであることを考慮するとφエOでな
くてはならない。
なお、同定可能条件を満たし、ド=Oを満たした場合、パラメータφの収
束はもちろんのこと、汪26)式より、二次磁束の推定誤差e2の収束も保証さ
れてる点に注意されたい。
3.3.2 適応則I
リアプノフ関数を
ド=1/2ぺz巧+!7φ2)
(タ≫O)
昨27)
とし、適応則を
(3,28)
=φ=-レジ[△12(£-d)z十仙刈
タ
&>
│lp1利レ│け7△12(£-d)z+ダpl・剛│
祠□││
(3,29)
とするとき、ぴは次式となる。
y
=z与十妙φ
≦つ│lz H2
≪0
-
ただし、
4
j412(£-d)
'㎜・W
一
-訂+βJ
4
△12φ
7
Å12-メ112
一
一
一
-
a-
│ゆ1引レH F△12 £-(7)z十z7炳引│
0l z ll
よって、z≠Oである限りはyは減少する。z=Oが成立するとV=Oとなり
Fの減少が止まってしまうが、(3.24)式が満たされれぱ、推定磁東と推定パ
ラメータが共に真値に収束する。
(3,30)
54
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
3.3.3 適応則II
まず簡単のため、二次磁束の誤差e2に対して、
││(仙伺7j12e2 11≪H(炳詞石坤││
(3,31)
が成立すると仮定して考える。次のようなリアプノフ関数
び=1/2呻2
(3,32)
と、適応則として汪33)式を考えると、
φ=づ印タ)巧 (g≫o)
(3,33)
Fは
ド = φφ
= -φリバ£)タ)几/112e2十u/φ)
≦ O (3,34)
となり、信号zが零になるまでFは減少する。その時、適応則Iと同様、同定
可能の条件が成立すれぱ、誤差の収東が保証される。
この適応則の物理的意昧を図3ぷこ示す。信号zベクトルはオブザーバから
得ることができるベクトル、また信号tベクトルについても、以下の章で示
されるようにオプザーバ内部で得ることができるベクトルである。(3.31)式
では、この二つの既知のベクトルの内積を取ること、すなわち、zベクトルの
uJベクトル方向成分が、φすなわちパラメータ誤差の大きさを示していること
になる。ここで、必要条件の(3.31)式の成立は、二つのベクトルzと£)1gφ
のなす角度が90度以内であるということである。ゆえに、ベクトルz,gから
パラメータ誤差φの正負について、一意的に決めることができるわけである。
この方法では(3.31)式の条件の妥当性が問題となってくる。しかし、二
次磁束の初期誤差が極めて大きい等の場合を除いて、実際の運転状態のほとん
どに対して(3.31)式は成立する。
以上で述べた方法のどちらも、二次磁束とパラメータとの両方を正しく推
定するが、その特性が異なる。適応則Iでは同定器の安定性が完全に保証され
ているが、その構成は適応則Hに比べてやや複雑である。一方、適応則IIの
同定器の安定性は、厳密にはある条件のもとでしか保証されないが、実際上、
その条件は満たされる上、きわめて簡単にパラメータ同定が行える。さらに、
次節で示すように適応則IIでは、パラメータ変動の過渡時における安定性、そ
の推定誤差を容易に評価できる。以下では、これらの適応則を、速度推定、二
次抵抗同定に適用する場合を考える。
3ふ遺応パラメータ同定則の導出と安定性
Z°Ajタ2十Z)琳'Ψ
図3.5:適応則IIの物理的意味
55
隻_
3.4
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
適応スライディングオブザーバによる速度推定
この節では、前節で導出した適応則、同定可能条件を誘導電動機の速度推
定に適用する。また、過渡時の推定誤差についても検討し、適応ゲインの速度
推定誤差に及ぼす影響について、定量的評価を与える。
3.4.1 速度推定のための同定可能条件
4=,ハ=Oを仮定する。さらに、状態方程式汪1)
(3、6)より、速度
推定誤差によるパラメータミスマッチの項は以下のように表すことができる。
づ所
= =
(3 35)
(必m-ωm)
(3 36)
(3 37)
J 7
= =
扨 φ 2 1
かD
λ『
£)2=
c汀
(3 38)
また、同定可能条件は(3,24)式より、
λポ)≠c匹sz (3.39)
と導くことができる。これは、誘導電動機の一次側入力が直流であるなら、相
互インダクタンスで結合された二次側、すなわち、回転速度についての情報は
一次佃から得られないことを意昧している。
ここで、(3,39)式は回転速度は零の時に同定が不可能になることを意昧す
るのではない点に注意されたい。回転子が機械的に拘束され、回転速度が零の
場合でも、速度指令値が零でない、すなわち、すべりが生じている場合は、電
圧・電流ベクトルが静止しないため、同定可能条件を満たすのである。このた
め、停止時からの始動には、何ら問題とならない。
とはいうものの実装時には、低速かつ軽負荷時など、電圧・電流値の精度
の良い測定が困難な場合においては、同定信号のS/N比が悪化し、低速性能
の限界を生じさせることになる。
3.4.2 適応則Iによる速度推定
(3.28),(3.29),(3.36)
(3.38)式より、速度推定のための適応則は次のよ
うになる。
6
1
= =
ωm
丁一
!7 p
z7J£z一之TJλ。]
,ドJ
区21,十λ22剔
(3.40)
57
3.4.適応スライディングオブザーバによる遼度推定
I
a ≫
』λd』£こ一訓!
-
g
1
≫
いdづド2記十Å2Å││
=4
g
(3j1)
3.4.3 適応則IIによる速度推定
適応則IIの(3.33)式より、次式が導かれる。
弼
-
ωm
-
之T
-驀
-
(3.42)
Jλ『
p
この場合、速度の推定誤差の収東の速さは、汪42)式から、│ト│12=い川内こ
比例することになる。しかし、二次磁束の大きさが一定であるとは言えないた
め、収東の速さが変動する。そこで収束が一定の速さを保つために、定数の積
分ゲイン均を用いてゲイン!7を
_ K7
g
(3,43)
-
=い
い川12
のように害き換えると、(3.42)、(3j3)式は、次式となる。
ごド
均
6一nr
・{ω
J
3.4.4
町ドドづん
昨44)
適応則IIによる過渡時における安定性と推定誤差の評価
ここまでは、j=山。=oを仮定し、適応則を考えてきたが、実際問題とし
て誘導電動機は、加減速制御をする場合が多いので、この項ではこの仮定を取
り除いて考える。またここでは、従来の速度推定法がすべり誤差をもとに積
分一比例動作で推定を行っていることを考慮し、前述の適応則の積分要素に加
えて、比例ゲインKrを付加し、汪44)式を次のように害き換える。
・(z7・ハ。)十尽こ
11
剛匯刊│
「││
―
ニp
づ
気
幻
d 1
1
(3i45)
そして、3.3節と同様な手順で、加減速時の安定性、推定誤差について考える。
まず、リアプノフ関数を(3j6)式とする。
F=1/2呻2
(3,46)
このとき、(3.45)式を用いて、白ま次式となる。
妙
幻
〃
IP.
φ一 一‘‘--ωm
瓦パ
xーノ
φ1-KP
/ーーx
= 一一
y
(3.47)
第3傘適応オプザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
58
-
ここ で
均
-
(安定条件)
< 0
1-瓦F
(3 48)
(3 49)
岫詞<7
と仮定するとき
-
│則
となり、推定誤差のUltimate bound は
巾づ貢
″ぐ、
│幻│
│匹心│
xlノ
F≪-
(3.50)
け(引→ゴyト
と導《ことができる。推定誤差のUltimate bound は積分ゲイン幻のみで決
まり、比例ゲインX畑よ無関係であることがわかる。一方、比例ゲインKμま
、汪51)式に見られるように推定誤差のUltimate boundへの収東の速さのみ
を支配するために、初期誤差がUltimate bound より小さい場合は、比例ゲイ
ンKrを用いることはあまり意昧がない。比例ゲインKrを用いることは理論
上は問題ないが、本スライディングオプザーバにおいては、ローパスフィルタ
で除ききれないスライディングオブザーバのスイッチングノイズが、直接推定
値に現れるので好ましくない。したがって、収束性をあげるには、比例ゲイン
Xrを用いずに積分ゲイン幻を上げることが望まれる。また、この積分ゲイ
ン沁を大きく取ることによって推定誤差をほぼ零にすることができるが、実
際問題としては離散化誤差や雑音等により積分ゲイン沁は上限を持つため、
加減速時には推定誤差が存在することになる。
3.4.5 磁束フィードバック形ベクトル制御への適用
速度検出器より得た速度情報の代わりに、適応同定により得られた速度
推定値を用いてベクトル制御を行う。この場合、定速運転時は速度が誤差なく
推定されるため問題が生じないが、加減速時において、例えぱ適応則Hにお
ける(3.51)式で示す程度の誤差が発生する。また、定速運転時でも外乱が力n
わり速度誤差が発生し得る。このとき、一次電流ベクトルの指令値を回転速度
から算出するすべり周波数形ベクトル制御を行った場合、速度の推定誤差が積
算され正しい一次t流ベクトル指令値が得られずベクトル制御の特性が劣化
する。本適応スライディングオブザーバにおいては、速度域によらずに、かな
り正確な二次磁束推宛値が得られるので、この値をもとに一次電流ベクトル指
令値を算出する磁束フィードバック形ベクトル制御を用いてベクトル制御を行
うことが可能であり、先の問題点を避けることができる。また、他のパラメー
タ変動に対するロバスト性を考えると、磁東フィードバック形のほうが好まし
く、本章では磁東フィードバック形ベクトル制御を用いる。
59
3.5.適応スライディングオプザーバによる二次抵抗同定
3.5
適応スライディングオブザーパによる二次抵抗
同定
本節では、3.3節で述べたパラメータ同定則を、二次抵抗同定に適用する場
合について検討する。そして、同定可能条件、適応則を具体的に示す。
3.5.1 二次磁束同定のための同定可能条件
まず、jエ瓦=oを仮定する。厳密にはj=岳≠oであっても、二次抵抗
変動は極めて遅いので速度推定の場合と異なり、この仮定は成り立つと考えて
もよい。このとき、状態方程式(3川 (3句式よりパラメータミスマッチの
項は以下のように表すことができる。
= =
かp
切 φ 9} 1
一
一
-
-(i,一石/豺)=抒
(3 頌
AJ/c£バ(沢r一沢r)
-1/訂ゴ
(3 川
(3 川
フ, £)2=-d
(3 川
また、同定可能条件は、
浪一沁/訂)(o=仔(o≠coむりΞ玩 (3ゐ6)
で与えられる。ただし、£2はエネルギ有限の信号のクラスを表す。すなわち、
焦負荷かつ定速運転時などのトルク電流が存在しない場合、もしくはトルク分
電流が直流成分しか持たない場合には、二次抵抗回定を行うことができないこ
とを意昧する。
3.5.2 適応則Iによる二次抵抗同定
(3.53)
(3.55)式を汪28)
6£r 7
拓
一
-
-----‥Z
9 Af2
汪29)式に伐入して、適応則Iは、
【(訂十巾
刊凡1-訂凡1)礼十(メ122 - 訂Å12)λ,一訂柘ち] (3,57)
&≫{ズみ│││,一辰/訂│レ││(訂十巾
刊疋1-訂凡1)礼+い22 - Mj412)y一訂馬ち││ (3j8)
となる。しかし、(3.57)式,(3.58)式で用いる信号zや一次電流ぷこはノイ
ズが重畳し、推定値の低周波変動を生む恐れがある。そのため一次篭流値とし
第3傘適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
60
て、ノイズの影響の少ないインバータヘの一次電流指令値i。*を用いることと
する。この結果、次式により二次抵抗同定を行うこととする。
拓
一
{奈内(訂十巾
十(メ121 - 訂/111)ね*十(Å22-封j412)λΓ-ルf召1ち│
(3.59)
a ≫
レレ』ね*-Å,/MrH(訂十巾
十G421-Af/111)ij十(Å22-封し412)λΓ‐封'召lち││
(3,60)
3.5.3 適応則11による二次抵抗同定
この場合(3.33)式の適応則IIは次のように表される。
化=釦心/訂y(ぐバ,/訂) (3j1)
ただし、速度推定の場合と同様に適応ゲインタを││肩12に反比例させることも
できる。
3.6 シミュレーション
本節では、前章の適応スライディングオプザーバを用いた誘導電動機の速
度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御のシミュレーションを行う。
同様に、二次抵抗同定機能を有する適応スライディングオプザーバを用いた磁
束フィードバック形ベクトル制御のシミュレーションを行う。
3.6.1 シミュレーション条件
シミュレーション結果においては、誘導篭動機の定格回転数30[#ご]を考慮
し、信号zを得るためのローパスフィルタの遮断周波数は100田zlとした.ま
た、オブザーバのサンプリング周期を、25[μs]としているが、これはDSPを用
いた場合に十分実現可能と考えられる。オプザーバの極については、パラメー
タ変動が存在する場合、第2章で、最適な極配貴が明らかにされている。しか
し、シミュレーションにおいては、適応同定を行なうパラメータ以外にはパラ
メータ誤差がないものとしており、適応同定の検証が目的であるので、極は単
に実軸上に配薇する.すなわち、適応則Iにおいては-a十jO(a≫30)匝d/s州、
適応則IIでは、-20+川r
gclとする.速度センサレス・磁束フィードバッ
ク形ベクトル制御系の構成を図3別こ示す。また、二次抵抗同定機能を有する
磁束フィードバック形ベクトル制御系の構成を図3刹こ示す。
61
3.6.シミュレーション
柘sg4G8 - i8リ
図3.6:適応スライディングオプザーバを用いた速度センサレス・磁束フィー
ドバック形ベクトル制御系の構成の構成
62
第3傘適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
∧
蜀俘雇ね-6リ
図3.7:二次抵抗同定機能を有する適応スライディングオブザーバを用いた磁
束フィードバック形ベクトル制御系の構成
3j。シミュレーション
63
3.6.2 速度センサレス・磁束フィードパック形ベクトル制御系
まず、誘導竜動機を5oO[呼列とloOo[呼伺の間で加減速する場合の速度セ
ンサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御のシミュレーション結果を示す。
図3.8は適応則Iを用いた結果である。速度推定は正し《行なわれ、加減速時
において実速度に対し時間遅れを持つ。3え5項で述べたように、すべり周波数
ベクトル制御を用いるとこの遅れが問題となる。しかし、磁束フィードバック
形ベクトル制御を用いた本シミユレーションでは、二次磁束が十分正催に推定
されている結果、良好な速度制御が行なわれている。適応ゲインを上げること
により、この加減速時の推定誤差を減少させることが可能であるが、現在のサ
ンプリングタイムにおいてこれ以上の適応ゲインの増加はノイズの影響を大き
くし、推定精度の低下を招く。このため精度と推定誤差のトレードオフを考え
る必要がある。図3.9は、適応則Hによる結果である。二次磁束は正しく推定
され、推定速度は実速度に対し遅れな《追従し、良好な速度制御が行われた。
加減速時に推定誤差がほとんど存在しないのは、適応則Hこ比べ適応ゲインを
あげても推定誤差への悪影響が出ないために、適応ゲインを十分大きく取って
あることによる.速度推定に適応則IIを用い、O【印刈と15匹刈間で加減速
を行なった結果を図3.10に示す。従来の推定法では二次磁束が積分演算で得ら
れるために磁束の推定誤差が大きくなる低速域では速度推定が困難とされてい
るが、本方法では磁束誤差を考慮した上で速度推定を行っているので、推定値
そのものにはスイッチングノイズによる高周波が重畳しているが、速度制御は
低速域でも良好に行われている。
なお、本シミュレーションにおいては、無負荷であるため、停止時において
同定可能条件を満たさず、速度の適応同定機能が停止する。しかし、誘導機も
停止しているため、結果的に誘導電動機の速度推定誤差は発散しない。このた
め停止時においても、磁束オブザーバにより安定な磁束推定が行なわれている
様子がわかる。したがって、再始動時においても、素早い始勣が可能である。
3.6.3 速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御系
(可変フィードバックゲインの場合)
3.2.3項で述べたように、スライディングオプザーバのフィードバックゲイ
ンKIを可変とした場合の速度センサレスベクトル制御のシミュレーションを
行った.速度推定に適応則liを用い、O[rpm]と川印列間で加減速を行なっ
た結果を図3j1に示す。固定フィードバックゲインを用いた場合に比べ、低速
域において速度推定値へ重畳していた高周波ノイズが低減されている。その結
果、速度制御精度の向上が見られる。
64
第3章遺応オプザーパによる速度センサレス化と二次抵杭同定
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適応則Iによる速度推定(十500汁刈←+1000冷列)
図3,8:シミュレーション結果一速度センサレス・磁束フィードバック形ベク
トル制御(I)
3丑 シミュレーション
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適応則IIによる速度推定(十500[印列←→+1000隔列)
図3j:シミユレーション結果一速度センサレス・磁束フィードバック形ペク
トル制御(II)
66
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
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適応則Hによる速度推定(O冷列←→+1抑p伺)
図3.10:シミュレーション結果,速度センサレス・磁束フィードバック形ベク
トル制御(m)
3ふ 実験
67
なお、速度制御精度については、シミユレーションにおいて用いた定格回
転数1720冷列の誘導窺勣機に対して、レ100の速度域で、定格回転数に対
してOj%以内の速度制御精度を実現している。
3.6.4
二次抵抗同定機能を有する磁束フィードバック形ベクト
ル制御系
図3.12は、オブザーパに初期値として真値の90%の大きさの二次抵抗値が
与えてある状態で、誘導篭動機を500[即列と1000隔列との間で加咸速を行
なった場合の適応則IIによる二次抵抗同定の結果である。
加減速区間においてはトルク電流が流れるため、同定可能条件が満たされ
る。その結果、加減速区間において安定な二次抵抗同定が行われていることが
わかる。定速運転中はトルク電流が流れていないため、同定可能条件が満たさ
れず、二次抵抗同定機能は停止してことも確認できる。つまり、トルク定流が
流れている状態でなければ、二次抵抗についての情報は何も得られないわけで
ある。
しかし、この点はあまり問題にならない。実際、実験結果からもわかるよ
うに、二次抵抗誤差が存在するにも係わらず、安定な二次磁束崔定、加減速運
転が行なわれていることが確認できる。良く知られているように、二次抵抗誤
差が磁束位相(すべり周波数)の推定誤差を生じさせ、ベクトル制御に悪影響
を与えるのは、トルク電流が流れている場合のみである。人出力から、何も情
報が得られない状態というのは、制御にとっても、何ら影響を与えないことに
他ならない。
ゆえに、負荷をかけた状態で予備運転を行ない、あらかじめ真値を同定し
ておけぱ良い。その後は、二次抵抗変動は温度に依存した変動であるため、変
動の時定数は極めて小さいうえに、変動が制御性能を劣化させる(トルク電流
が存在する)場合には、同定機能が働き真値を同定する。このため同定可能条
件の制約は、制御系に影響を及ぼさないと思われる。
3.7 実験
これまでに提案し、シミュレーションを通じ検証してきた適応スライディ
ングオプザーバを実機において検証するために、実験装置を製作した。そこ
で適応オプザーバを速度推定に用いた速度センサレス・磁束フィードバック形
ベクトル制御系について速度制御、および二次抵抗同定に用いた磁束フィード
バック形のロバスト性の実験を行なう。
68
第3童適応オプザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
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適応則IIによる速度推定(O【呼列←→十1冷匹D
スライディングオブザーバのフィードバックゲインKI力何変の場合,
図3肌:シミュレーション結果,速度センサレス・磁束フィードパック形ベク
トル制御(IV)
3、7.実験
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適応則Hによる二次抵抗同定
図3.12:シミュレーション結果ベ二次抵抗同定機能を有する磁束フィードパッ
ク形ベクトル制御
70
第3童適応オプザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
-
3.7.1
実験装置の構成
ハードウエアの構成を図3j3に示す.DSP(μPD77230)が適応スライディ
ングオブザーバを構成し、MPU68000がベクトル制御器を構成する。
適応スライディングオプザーバは汪3)
昨4)式のオイラ近似により離散
化し、DSP上のソフトウエアにて実現している。ここでは、計算量の軽減の
ため、速度推定は適応則IIを用い、フィードバックゲイン£は任意の極配麦
から速度に応じた値を事前にオフラインで計算しておき、各種パラメータ等か
ら計算したオプザーバ方程式の係数と共にDSP上のRAMにテーブルとして
持たせている。これにより、電流、電圧をはじめとする各種測定値のA/D変
換器からのサンプリング、適応オブザーバによる二次磁束推定とパラメータ同
定、および推定値の出力をおよそ50[μs]で実現している.このため、上述の
オイラ近似で十分な精度が得られると思われる。また、スライディングモード
が発生するチャタリング周波数も川釘伺に達し、二次側の時定数に比`十
分高いため、推定値に及ぽす影響も少ないと推定される。なお、信号zを得る
ためのローパスフィルタの遮断周波数は、100[ル]とした.
DSP(μPD77230)はRAMと共にボード化されたものをパソコン(PC9801VX)の拡張スロットに着装し、パソコンによりフィードバックゲインを
はじめとする各種定数の設定、また、タイマ割り込みにより演算周期の制御
が行われる。一次電流は、CTで検出し、アナログ3相-2相変換回路(図中で
は「3/2」と記す)を通した値を12bitA/D変換器を通じて取り込む。電圧は、
LEM電圧モジュールを通じて取り込んだ線間電圧をアナログ回路にて構成さ
れた二次のローパスフィルタ(遮断周波数 8oo匝巾、アナログ3相-2相変
換回路を通したのちに12bit A/D変換器を通じて取り込む.また、DSPによっ
て演算された推定磁束、電流、速度は、16bitディジタルバスにより、DSPヘ
出力する。また、観測のため12bitD/A変換器から出力が可能である。
ベクトル制御器は、MPU68000上でソフトウエアにて構成する。制御周期
は、350[同である.
MPU68000は、PIAを通じて、DSPの出力する16bitディジタル値を取り
込むとが可能である。また、12bitD/A変換器から、2相-3相変換回路(図中
では「3/2」と記す)を通し、インバータヘの電流指令値を出力する。
誘導機は3相巻線形電動機を用い篭圧型インバータにより駆動する。電動
機の回転速度はパルスエンコーダ(PE)によって測定力呵能である。速度セン
サレス運転時は、この値はモニタ用として用いるだけであり、実際に制御で用
いる速度は、適応オブザーバによる推定値である。この時の構成図を図3j3
に示す。なお、適応オブザーバを二次抵抗同定に用いた場合の実験装置の構成
は、図2.4と同様である。
なお、推定磁束沁との比較のため、検出した一次電流と二次電流を用い磁
71
3ヱ 実験
3φ
■2KW
200 V
図3.13:速度センサレス磁束FB形ベクトル制御実験装漑の構成図
72
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
表3土
一次抵抗
tem constants
Rs Oj08
Ls O{)9785
二次抵抗
Kr L082
二次インダクタンス
Lr Oj091
相互インダクタンス
M O。0982
極対数
P 2
1 11
剔刄則丑井
LELLE
一次インダクタンス
束λ。を求めている。
y
一
一
訂八十£ユ
(3,62)
3.7.2 誘導電動機のパラメータ誤差と極配置
実験に用いた誘導電動機の定数を表3ぷこ示す。これらの値は、通常行なわ
れるように、拘束試験・無負荷試験によって得られた値である。しかし、第1
章でも述べたように、この値は真値であるとは言い難い。
特に、二次抵抗値については精度に問題がある。本実験装貴においては、
二次電流観渕のため巻線形誘導電動機を用いているが、パラメータ測定の際、
ロータ位置により、二次抵抗値にかなりのばらつきが観測された。
ゆえに、パラメータ誤差を考慮し、速度センサレス時は、シミュレーショ
ンとは異なり、第2章で示したオブザーバの極配質を二次抵抗変動の及ぽす影
響を低感度化する極配麓(トa,0)a≫0,ただしaは、回転数によって変化
する。)として実験を行なう。
3.7.3 磁束推定と速度推定特性の実験結果
まず、適応スライディングオブザーバの磁束、速度推定機能の検証のため、
MPU68000を用いてすぺり周波数形ベクトル制御を行ない、その時、適応ス
ライディングオブザーバを用いて、磁束推定、速度推定を行う。その構成を回
3.14に示す。
図3,15は100[即列で定速運転中に時刻い=oにおいて、適応スライディン
グオブザーバを動作させた場合の波形である。スライディングモードの発生に
より、電流が正し《計算されると共に、推定磁束、推定速度の初期誤差が収束
する様子が分かる。
図3.16は500[即刈←→1000㈲列間で方形波状の速度指今値を加えて加減
速運転をおこなった場合の波形である。スライディングモードが発生し、電流
が正しく計算されると共に、磁束、速度とも良好に推定されている様子が分か
3.71 実験
73
蜀s辞りs-6j
図3.14:適応スライディングオプザーバの機能検証のためのすべり周波数形ベ
クトル制御系
74
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
る.図3j7は-50[印列←→十50[印m]間での加咸速運輯の様子である.速度
推定値自体には電流ベクトルに同期する振動成分が重畳しているが、制御系の
時定数に対して十分に高いため懇影響を及ぼすことはない。この時の定常誤差
は、5[呼列程度である.
なお、ここには示さなかったが、o[rpm]に近づくにつれ、速度推定は、安
定ではあるものの、真値に収東しなる様子も観測された。これは、3.4j項で
述べたように、同定可能条件は満たされているので、安定性は確保されている
ものの、同定信号のS/N比が悪化したため、同定精度が悪化したものと思わ
れる。
3.7.4
速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御系
における速度制御特性の実験結果
次に、適応スライディングオブザーバにより推定される磁束、速度を用い
て、提案する速度センサレス・磁束フィードパック形ベクトル制御系を構成し、
速度制御を行なう。 MPU68000は、DSPから推定磁束、推定速度を受けとり、
速度センサレスの磁束フィードバック形ベクトル制御器を構成し、速度制御を
行なう。その構成は前章の図3ぷこ示したとおりである。
図3j8は-1ooo[rpm]←→十1ooo[rp列間でo,185[丑z]の方形波状の速度指
令値を加えて、加減速運輯をおこなった場合の各波形である。良好な速度制御
が行なわれていることが分かる。図3.19は従来、困難とされてきた低速域、
-50[即m】←→十50[印列間での加減速転運転の様子である.速度推定値には電
流ベクトルに同期する振動成分が重畳しているが、シミュレーション通り、速度
制徊自体は良好に行なわれている様子がわかる。この時の定常誤差は、5[即m]
程度である。
なお、より低速域、すなわちO[r戸nl付近では、速度推定は真値に収束しな
くなり、速度制御に定常誤差が生じる。3え1項で述べたように、同定可能条
件を満たし、安定性は確保されているものの、同定信号自体のS/N比が悪化
したため、速度同定精度の悪化したことによるものと思われる。しかし、その
場合、誘導機白体が停止し、崔定値はO[rm刈に収束する様子が観測された.
したがって、極低速域での定常運転を含まない限り、O[7m]を含んだ加減速運
転も可能である。
3.7.5
二次抵抗同定機能付ベクトル制御系のロバスト特性の実
験結果
まず、適応スライディングオブザーバの二次抵抗同定機能の検証ため、す
べり周波数形で運転時に適応スライディングオブザーバの二次抵抗同定機能を
動作させ、二次抵抗の推定値の推移を測定した。回3.20、3.2iは、7oO㈲列で
75
3ふ 実験
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図3ごL5:実験結果,適応スライディングオプザーバによる二次磁束・速度推定
特性(初期誤差収束)
76
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
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Jm ?20レ
叫り回
翁凶
な o【冽
同凶
訪部
な 叫川
-25μ1
1坤咽
λみ呻机}
-LO【ぼみ】
LO匪あ│
λ必・o匪6]
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0、帥
4.0
10
ぶi緋e
6,0114ぐ
(5oo[ゆm】←→10oo【即列)
図3.16:実験結果一適応スライディングオプザーバによる二次磁束・速度推定
特性(高速域)
77
3見 実験
1祠巾41
仙柘,0ひ戸n】
必iQ叶同
な(柄
詣
な olA】
-25{刈
L叫t4/M
λ心 o{wゐl
J
-1
λ&olwM
-Lo{肘I
0,帥
to
2刄
7ime
6神司
(-50【呼列←‥ト50[即列)
図317:実験結果,適応スライディングオプザーバによる二次磁束・速度推定
特性(低速域)
78
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
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(-1ooo[rpm]←→十1oOo冷列)
図3.18:実験結果,速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御(高
速域)
79
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10
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6,0{gむl
(-5o[rp列←→+5o匝列)
図3j9:実験結果一速度センサレス・磁束フィードバック形ベクトル制御(低
速域)
80
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
定速運転中に、時刻f=Oにおいて、適応スライディングオブザーバを動作さ
せた場合の二次抵抗推定値の推移波形である。いずれの場合も、二次抵抗が安
定に収秉している様子がわかる。また、測定値の所々にインパルス状のノイズ
が付加している。しかし、現在、適応ゲインが小さい状態であるにもかかわら
ず、そのノイズがインパルス状にしか加わらない点を考えると、実際の内部状
態にノイズが加わっているとは考え難く、D/A出力以降のノイズであると判
断するのが妥当であると思われる。
収束に要する時間は適応ゲインにより異なるが、2倍弱の抵抗変動に対し
て、巾]程度の収束を実現することが可能である.速度推定の場合と異なり、
抵抗変動は極めて遅い変動であるため、この程度の収束速度で実用上の問題は
ないと思われる。
もっとも、収束した二次抵抗推定値自体が真値であるかどうかが問題であ
る。図3.20、3.21、いずれの結果の収東値もほぽ事前の測定値と一致している
が、3.7.2項でも述べたように、この測定値が真値であるかどうかは、判断がつ
きかねるところがある。むしろ、ベクトル制御系にとって、二次抵抗の真値と
は、トルク制御を行なった際に、正しくトルクを発生することのできる値であ
ると考える方が都合が良い。
そこで、実際に、同定した二次抵抗を用いた磁束フィードバック形を構成
し、トルク制御を行なった。その結果を図3.22に示す。何らロバスト化の対策
を施すことな《、単に誘導機の数式モデルにより磁束推定を行なう磁束フィー
ドバック形ベクトル制御を行なった場合、二次抵抗変動の影響により、二次磁
束推定に誤差が発生し、その結果、発生トルクが減少していく様子がわかる。
なお、次章に示すが、この場合は、すべり周波数形ベクトル制御の実験結果に
相当する。これに対し、提案する適応オブザーバを用いた場合、二次抵抗変動
時においても、発生トルクの減少が見られず、二次抵抗の適応同定により二次
磁束のロバストな推定が実現されていることがわかる。このことは、先の意昧
による真値の同定が実現されていることを意昧している。
以上の結果を合わせ考えることにより、提案する適応オプザーバは、二次
抵抗の適応同定を実現し、磁束フィードバック形ベクトル制御のロバスト化を
実現していると判断することができる。
3.8
本章では、誘導電動機のベクトル制御による可変速制御系の問題点を解決
するため、二次磁束推定用スライディングオブザーバに適応機能を付加した適
応スライディングオブザーバの構成を示すとともに、これを用いた磁束フード
バック形ベクトル制御系を提案した。同時に、従来行われてきたパラメータ同
定のための適応制御の問題点を指摘し、本制御系が、これらの問題を解決して
いることを示した。また、二次磁束推定と同時に回転速度を含んだパラメータ
3.8.結言
81
na
1.6
0.8
0
0
o。4
0.8
実験条件
極
(-10,0)
サンプリングタイム
75[同
L8o[n]
二次抵抗の初期値
二次抵抗の測定値
負荷
回転数
o,96[n]
7.26[ym]
7oo【rpm】
図320:実験結果一適応オプザーバによる二次抵抗同定(初期値が大きな場合)
82
第3章遺応オプザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
n
2.0
6
L
0,8
0
0
o。4
o。8
S
実験条件
極 (-10,0)
サンプリングタイム 75[同
二次抵抗の初期値 o,5o[n]
二次抵抗の測定値 O.96[Ω】
負荷 7,26[yvm〕
回転数 7oo[rpm]
ト5o[ァp列←→十5o[即刈)
図3.21:実験結果一適応オプザーバによる二次抵抗同定(初期値が小さな場合)
83
3X結言
かぶヱ
Rr/
図3.22:実験結果一適応オプザーバのによる二次抵抗同定機能を持つ磁束フィー
ドバック形ベクトル制御のロバスト性
84
第3章適応オブザーバによる速度センサレス化と二次抵抗同定
の同定を実現する適応則を導出し、その大域安定性を証明した。
適応スライディングオプザーバの速度推定への適用においては、速度推定
可能な条件、過渡時の推定誤差の安定性を明らかにした。また、この適応スラ
イディングオブザーバを用いた速度センサレス・磁束フィードバック形ベクト
ル制御系を提案し、この制御系が、従来、困難と言われてきた低速域で高い制
御精度を示すとをシミユレーションにより検証した。
次に、二次抵抗同定にも適用し、二次抵抗同定が可能な条件を明らかにし
た。そして、適応スライディングオブザーバによる二次抵抗同定機能を持つ磁
束フィードバック形ベクトル制御系を提案し、シミュレーションによりその有
用性を示した。
さらに、制御理論に基づいて設計された制御系の有用性を実機において検
証するため、DSPを用いて適応スライディングオブザーバを構成し、その二
次磁束推定値、速度推定値を用いる速度センサレス・磁束フィードバック形ベ
クトル制御系を製作した。そして、速度制御の実験を行なった結果、理論、シ
ミュレーションを通じて有効性を示してきた制御系が、実機においても有効で
あることを確認した。
現在、速度推定の定常誤差は定格回転数のO,3%程度、整定時間狛O[ms]
程度の応答性を得ており、低速域においても良好な速度制御特性を示すことを
確認した。定量的に見ても、この結果は既存の技術レペルを上回っていると言
える。
また、速度の適応同定同様、適応オブザーバの二次抵抗同定機能について
も実機において、検証を行ない、1[s]程度で安定な同定が実現可能であること
を確認し、この適応オブザーバの推定二次磁束を用いた磁束フィードバック形
ベクトル制御は、二次抵抗変動に対して発生トルクの変動はなく、高いロバス
ト性を示すことを示した。
第4章
磁束オブザーバをもつすべり周波数
形ベクトル制御
4.1
緒言
前章までに、制御理論を導人することにより、磁束オプザーバに関して、さ
まざまな提案を行なった。通常、このような磁束FB形に関する成果は、すベ
り周波数形において生かされ、ることはない。
この現状を踏まえ、本章では、「磁束FB形における磁束推定」と「すべり
周波数形におけるすべり周波数演算」の関係に注目し、両制御法の比較検肘を
行ない、その関係を明らかにする。この過程で、従来の磁束FB形は構成上、
従来のすべり周波数形に比べてパラメータ変動に対するロバスト性を有するこ
とを明らかにする。
次に、この両者の関係を利用し、磁束FB形で得られたロバスト磁束オプ
ザーバに関する研究成果を、すべり周波数形に対して適用する方法を示し、オ
ブザーバを用いた磁束FB形ベクトル制御と等価なオプザーバを用いたすべり
周波数形ベクトル制御を提案する。本章で提案するすべり周波数形ベクトル制
御は、両者の等価性にもとづき磁束FB形より導出したものである。故に、磁
束FB形において提案されているパラメータ変動に対してロバストな磁束推定
を実現しているオブザーバの設計法の適用が可能であり、それと同等のロバス
ト性を有するものである。
最後に、以上の内容についてシミユレーションにより検証する。
4.2 磁束推定とすべり周波数演算
磁束FB形は、通常、磁束オプザーバとベクトル制御器から構成される(図
4土(a)).これに対し、すべり周波数形ベクトル制御は制御器内部においてす
85
86
第4章磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御
F冶xyθθ必a(汝帥)θ四clor con㈲//θr
(a)磁束FB形
S池他2eS泣2e ,/ecl・r・n㈲//er
--㎜㎜四WWWW㎜==-WW㎜㎜-=㎜=㎜=㎜=--=㎜=W㎜==愕
(b)すべり周波数形
図4.1:両ベクトル制御の構成比較
87
4.3.電流入力形における両制御法の比較
`り周波数を演算しヽその値を用9て電流O捉圧)指令値を作る(図4土(b)).
すべり周波数形では、ベクトル制御器内部ですべり周波数演算を行なうことに
より、磁束推定を陽に行なわない点を特長としている。すべり周波数形ベクト
ル制御器内部で磁束推定と指令値生成が混然一体として行われているのであ
る。この構成は、磁束推定という厄介な問題は回避することができるものの、
ベクトル制御器(指令値生成)に磁束オプザーバ(磁束推定)を加えて、極め
て明確な構成をとる磁束FB形に比ぺると、系全体の見通しが悪くなり、結果
的に磁束FB形に比べ、制御理論による問題解決を困難にしている。
すべり周波数形においても、すべり周波数演算により磁束情報を獲得して
いることは間違いなく、「オブザーバによる磁束推定」と「すべり周波数演算」
の関係を検討することが両制御法の関係のを明解にするために重要な意昧があ
るはずである。
そこで、以下では、すべり周波数形ベクトル制御の制御碁から、すべり周
波数の演算部分(正確には速度を加算し、積分して位相とするところまで)を
切り離し、電流(電圧)指令値演算部分と区別して扱う。この結果、以下の章
において、すべり周波数の演算部が極座標表現での二次磁束推定に相当するこ
とを示すことができる。
なお以下では、電流を人力指令値として用いるインバータで駆勅されるI
Mをモデル化して用いる場合を電流人力形、電圧を指令値として用いるイン
バータで駆動されるIMを用いる場合を電圧人力形として分類し、話しを進め
ていく。
4.3 電流入力形における両制御法の比較
4.3.1 モデルを用いた場合の比較
説明の都合上、オブザーバでなくモデルを用いて二次磁束の推定を行なう
磁束FB形ベクトル制御を考える。そして、従来のすべり周波数形ベクトル制
御がモデルを用いた磁束FB形ベクトル制御と等価であることを示す。
4.3.1.1 磁束FB形
二次磁束λ。を固定子直交座標上で表現する。この時、電流モデルは以下
の式で与えられる。
一
(4,1)
7+叫J
ハU‘I
に
1
(U I↓
j
ぐ
7=
凡石
しL
-
訓
88
第4傘磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御
凡£などの記号は慣例に従っている。電流制御により電流指令値ね*は実
際の電流がこ等しいので、次式により、電流指令値を用いての二次磁束の推定
が可能である。
訂拓。
7十叫J」ん十
一
一
*
推定値
島
奮兼
j
拓石
ぐ
しL
以『
(4句
指令値
磁束FB形ベクトル制御を行なう場合、ここで得られた推定二次磁束を用
い、二次磁束座標上で設定した電流指令値を固定子座標上の値に変換すること
になる。
4.3.1.2
すべり周波数形
二次磁束λ,を大きさ匹│と位相紅を成分とする固定子極座標上で表現す
ることを考える。ここで、この固定子上で表現されたIMのモデル(4.2)式
に次式のように変数変換を施すこと考える。つまり、
= =
z λ
j r
T㈲べ
T(町焉
(4,3)
ただし、
7石9 - cos(らj sin(似。)
( )  ̄ レーsin(収) cos(
aノ外=今:二次磁束角速度
ぺ =[io 詞7:二次磁束軸直交座標上一次篭流
焉 =[│伺 O]7:二次磁束直交座標上二次磁束
札扁の微分に注意して、(4,3)式を(4.2)式へ代入すると、二次磁束の極
座標表現のIMのモデルが得られる。
一
-
ぐ
ぐ
凡石
-
仄
=
で和
{‥ぴ
鴫)
叫十荒抒゛
(4,4)
げ5)
固定子直交座標上での電流モデルの(4.2)式を固定子極座標上に変換し
たぽ4)(4j)式は、すべり周波数制御則と等価である。すなわち、すべり周
波数制御則は固定子直交座標上での電流モデルの極座標表現に相当する。
すぺり周波数形ベクトル制御を行なう場合、ここで得られた推定二次磁束
の位相を用い、二次磁束座標上で設定した電流指令値を固定子座標上の値に座
標変換することになる。
89
4.3.電流入力形における両制御法の比較
4.3.1.3 両制御法の比較検討
磁束FB形ベクトル制御の場合、二次磁束を直交成分で扱う。これに対し、
すべり周波数形ベクトル制御はその大きさと位相で扱うことを示した。両制御
法の差異はこの二次磁束の取り扱いにあり、それぞれの磁束推定を用いた電流
指令値の取り扱い等に差異はない。
以上の議論により従来のすべり周波数形ベクトル制御は磁束推定にモデル
を用いた磁束FB形に相当してることがわかる。故に、制御系の安定性、ロバ
スト性などは、本項のはじめに述べた磁束推定にモデルを用いた磁束FB形と
同じ特性を示すことになる。
一般に提案されている磁束FB形では磁束推定にモデルでなくオプザーバ
が用いられる。この場合、既に提案されているように、適切なフィードバック
ゲイン(極配置)の選択により、パラメータ変動に対してロバストな磁束推定、
ひいては制御系を構成することが可能である。これに対し、従来のすべり周波
数形ではオブザーバでなくモデルにより二次磁束推定(すべり周波数演算)を
行なう。故に二次磁束推定はパラメータ変動を受けやすく、磁束FB形に比ベ
てロバスト性において劣ることになる。
4.3.2 オブザーバを用いた場合の比較検討
4j.1項の比較から、すべり周波数形におけるすべり周波数演算は、磁束F
B形における磁束推定に相当していることが明らかになった。これは、パラ
メータ変動に対してロバストなすべり周波数形を実現するには、(4,2)式によ
る磁束推定(すべり周波数演算)をロバスト化すれぱ良いことを意昧してい
る。本項では、すべり周波数形における磁束推定(すぺり周波数演算)のオプ
ザーバ化を考える。
前項で示した両制御法の関係に着目すれぱオプザーバを用いた磁束FB形
ベクトル制御法に対応するオプザーバを用いたすべり周波数形ベクトル制御法
が存在するはずである。本項では両制御法の間の関係を利用してオプザーバを
用いた磁束FB形ベクトル制御を出発点に、それと対応するすべり周波数形ベ
クトル制御を導出する。
4.3.2.1 磁束FB形
電流入力モデルをベースに磁束オプザーバの構成を考えた場合、最小次元
オプザーバを構成することになる。鑑流モデルの(4.2)式にK(紀一玩)な
る予測誤差による修正フィードバックを加えることにより、固定子直交座標上
での殿小次元オプザーバの構成力何能であることが堀ら[㈲18]より提案され
ている。
90
第4傘磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御
実装に際しては、電流の微分項が問題となるが、電圧モデル、状態変数変
換を用いることにより回避する。
以『
=レ(ダラ)7十叫J」ん十廿i,*
十租凪 一瓦)
`9・
U。
(4,6)
こで
K=た17+鮑J
4.3.2.2 すべり周波数形
磁束FB形の場合同様に、(4.2)式に対し、何らかの誤差フィードパック
を施し、磁束推定のオプザーバ化を図ることにより、磁束推定(すべり周波数
演算)のオプザーバ化が可能である.この構成の一例が、辻ら[391[401より提
案されてる。
しかし、(4.2)式が、非線形状態方程式であるため、オブザーバの解析、設
計等に非線形制御理論を必要とする。これが、これまでに提案されたすべり周
波数形用のオプザーバにおいて、解析、設計問題が十分検討されなかった理由
であろう。
そこで、本項では先に明らかにした両制御法の関係を利用し、磁束FB形
用に固定子上の線形モデルを用いて、線形制御理論で設計された磁束オブザー
バ(4.2)式より、すぺり周波数形用の磁束オブザーバを導出する。 4.3.1項と同
様に(4.2)式に固定子極座標上への座標変換を施すことにより、次式となる。
-(ダラ)│斜十芒io*
slλΓ│ =
+(り-た2ωo)(ら-io)
-
Jλ
(り+沁ノo)(斤一仔)
(4,7)
訂Rr 。 。
一
ωΓ+-7--Z
 ̄7 ̄ ̄ ̄i7
1乙 ・__
匹匹
+犬((り+た1ωo)(jo→o)
+(り一た2祠(ふ一を)) (4.8)
(4.7),(4.8)式を用いることにより、最小次元オプザーバを用いた磁束
FB形ベクトル制御と等価なすべり周波数形ベクトル制御が構成できる。これ
らの式は、4よL項の場合と同様に、磁束FB形では直交座標上で取り扱ってい
た二次磁束を極座標上で取り扱うようにしたものと理解することができる。
4丸電圧入力形における両制御法の比較
91
本手法により導出された磁束オプザーバは、フィードバックゲインの設定
を除き、基本的な構成は辻らより提案されてるものと同様の構成をとる。しか
し、ここで提案した手法は、いわば線形領域で設計した磁束才ブザーバを両制
御法の関係を用いて、非線形領域へ移すことに相当し、オブザーバ利用時の最
大の問題であるフィードバックゲインの選択等の設計、解析問題を線形領域で
行なうことができる。
既に、第2章で磁東FB形用の最小次元及びスライディングオブザーバの
ためのロバスト設計法が明らかになっている。これは、磁束推定に及ぽすパ
ラメータ変動の影響を評価する量として、外乱としてのパラメータ変勣から
磁東推定誤差への伝達閉数を考えた上で、その丑。。ノルムを採用することを提
案し、パラメータ変動の存在する条件下で、一定の収束速度を催保した上で、
もっともパラメータ変動に対してロバストなフィードバックゲイン(極配漑)
の設計法を明らかにしたものである。この設計法に従い、フィードバックゲイ
ンKを適切に選ぶことにより、モデルによる磁束推定(すべり周波数演算)に
比べ、ロバストな磁束推定を実現すること力行f能である。その結果、系全体の
ロパスト性も改善される。
しかし、休8)式は、電流の微分値と二次磁束の積を含むため、ぽ2)式の
場合のように電流の微分項が回避できず、電流人力形での実際の構成は困難で
あると思われる。
4.4 電圧入力形における両制御法の比較
4.4.1 モデルを用いた場合の比較
電圧人力形においても両制御法の間には電流入力形と同様の関係が成り立
つ。以下では電流入力形と同様の手法により電圧人力形における両制御法の関
係を示す。
4.4.1.1 磁束FB形
固定子直交座標上の誘導電動機の状態方程式は次式となる。
一
-
冶
ー
dλ『
一
冶
凡石
ぐ
ト
-
凡(匹○
汗
づルj- jl沁+土ち
か
//'ーx
直。
び玩
時訂
←
ぴ玩玩
げ9)
(4jO)
)7十ωΓJI匁+廿ハ
第4傘磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御
92
電圧制御によりぐ=ちが実現されるので、次式を用いることにより入力
電圧から一次電流と磁束を推定することが可能である。
凡(匹妁
凡
斤
づルj- j」ん十ぷ
-
(ア玩
ぴ鳥
―
/くx
Sち
/ーーーx、
sλ『
-
―
4.4.1.2 すべり周波数形
叫訂
1
-
び玩仙
1ノj*
玩
げ巾
(4j2)
ダシ)7十4J]ん+廿ハ
二次磁束yを固定子極座標上で表し、一次電流を八を二次磁束座標上で表
すことを考える。つまり、次式のように変数変換を施す。
=T(θ)べ
=T(θ)ス
ち
S
jl
(4j3)
= T(19卜λ″『
λ『
ただし、
T㈲
ωλt
一
-
一
cos(収)sin(収)
│-31n(収) cos(収)」
今:二次磁束角速度
[むo ≒]7:二次磁束直交座標上一次竜圧
i2
[io 仔]7:二次磁束直交座標上一次電流
入≒ = H伺 o斤二次磁束直交座標上二次磁束
む≒
-
-
私扁の微分に注意して、(4,13)式を(4,11),(412)式へ代入すると、 二次
磁束座標上のIMのモデルが得られる。
-
/CX
び玩
I
+
│
扁び
_立生
び£s£『
昶λ、,
ぴ鳥
」
㈲+
-
10
島
む≒*
び玩
庁)│翔十
一
/
S
一
訂r『
一
7-ωoデト
八
-
訂R『
s匹│
凡(匹○
xーーノ
凡
SZ'j
(4.14)
げ15)
=4十笠仔 (4λ6)
(416)式より入力電圧を用いて励磁分電流、トルク分
電流、二次磁束の大きさ、及び位相(すべり周波数)を推定することが可能で
(414ハ(415)
ある。
93
4才 電圧入力形における両制御法の比較
これらの式は電圧入力形の場合のすべり周波数制御則に相当する。ここで
注意したいのは、電流入力形の場合同様、これらの式ぱ誘専電動機のモデルか
ら導出されたものである点である。したがって適切に設計されたオブザーバを
持いた磁束FB形に比べ、パラメータ変動に対してロバスト性が欠けることに
なる。
4.4.2 オブザーバを用いた場合の比較
電圧人力形の場合において、両制御法の等価な関係を利用してオブザーバ
を用いた磁束FB形ベクトル制御と対応するすべり周波数形ベクトル制御を導
出し考察する。
4.4.2.1 磁束FB形
電圧人力形のモデルをペースにした磁束オプザーバとしてはレフルオーダ
オプザーバ、およびスライディングオプザーバが提案されている。本論文で
は、最小次元オブザーバとともに、ロバスト設計法が明らかにされているスラ
イディングオプザーバを用いる。
磁束推定のためにスライディングオブザーパを用いた場合、固定子直交
座標上でのスライディングオブザーバは(4j1),(4j2)式にKIリn(jL 八)工ど1s卯(yレ八)なる修正フィードバックを加えた次式によって構成できる.
Sら
-
凡
拓(匹妁
レ洽
斤
レ訃j- j」ん+よ
ぴμ
叫訂
+
双9*
び瓦島
十K1砂べね一礼]
(07)
レ(ダラ)/+4jlえ+言
ふ
sλ『
-
ち
十£心s卯[iレ伺
(4j8)
where x1 = たμ十柘j
£K1 == たμ+た4J
先に述べたように、第2章でフィードバックゲイン凡,£の設計法は明ら
かになっており、これに従い、各パラメータ変動に対して最適な値を用いるこ
とにより系をロバストに構成することができる。電流人力形においては最小次
元オプザーバを用いた場合と同様の議論ができる。
94 第4傘磁束オブザーバをもつすべり周、波数形ベクトル制御
== = ==r %
4.4.2.2 すべり周波数形
ここでは、前章同様の理由により、直接、(4.11),(4j2)式のオプザー
バ化を考えるのではなく、両制御法の関係を用いて、すべり周波数形用のオブ
ザーバを導出する。
4.4.1項と同様に、(4j7)式を二次磁束直交座標上に、(4.18)式を固定子
極座標上にそれぞれ座標変換すると次式となる。
凡
SZ‰
凡(1-○
-
び玩
XJ'
レ使
7-ωoデ│氏
づ 」面十
一
む/s*
一
び玩
+瓦1リベ八一絹
】
/1-ーーX
=
s㈲
(4.19)
訂7ヽ『
ダでテ)面
+
ZO
島
刊1 0]£瓦1りべ尚一汽]
ぐ
J
'匁.
祠
(4,20)
訂双r.,
-
叫+j叉Tご行
-
1
+
剛
[01】£K1[八一八]
げ川
(4JL9)、(4.20)
(4.21)式により、スライディングオプザーバによる磁
束FB形ベクトル制御系と等価であるすべり周波数形ベクトル制御系を構成す
ることができる。
以上の結果、両制御法の相違がIMのモデリングの違いであることがわか
る。つまり、磁束FB形は入出力を固定子座標上で、二次磁束を固定子直交座
標上で取り扱う。一方、すべり周波数形は人出力を二次磁束座標上で、二次磁
束を固定子極座標上で取り扱うのである。
注意すべきは、ここで用いられるフィードバックゲイン、(4.19),(4.20),
(4.21)式の柘は、(4j7ハ(4j8)式のそれと同じものを用いることが可能
である点である。したがって、磁束FB形におけるフィードバックゲインの設
計問題に関する様々な研究結果を適用することが可能である。この結果、磁束
推定(すべり周波数演算)をパラメータ変動に対してロバスト化することが可
能となり、系全体のロバスト性も改善される。
4.4.3
オブザーバを用いた電圧入力形すべり周=波数形ベクトル
制御の構成
4ふ 電圧入力形における両制御法の比較
。。。j励la歿g2弦LどS!2C。ど凱些き。。。。
│一--一一一一一-一一一一-一一-----一一一一一一一一--j
図4.2:オプザーバを用いたすぺり周波数形ベクトル制御系の構成
95
96
第4章磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御
電圧人力形の場合に、オプザーバを用いて磁束推定(すべり周波数演算)
を行なうすべり周波数形ベクトル制御系の構成を示す。電圧入力形の場合、す
べり周波数形ベクトル制御に用いるオブザーバは4.4.2項で導出した。それを
用いた電圧入力形すぺり周波数形ベクトル制御系の構成を図4.2に示す。イン
バータが電圧人力形であるため二次磁束座標上での電流指令値ぐ,衿を電圧指
令値ぬ*,嗚*に変換する必要がある.このための非干渉制御則に9いては様々
な報告がなされている149H5ol.
従来のすべり周波数形と比較した場合、実際の電流を測定し、その値を
フィードバックして二次磁束(すべり周波数)の推定に用いる点が異なる。
また、磁束FB形と条件を揃えるため、磁束推定(すべり周波数演算)は、
電流制御部に対して、十分速い速度(通常10倍程度)を確保し、離散化して
構成している。
4.5 シミュレーション結果
本論文ではこれまでにすべり周波数形と磁束FB形の等価性について述ベ
た。またその等価性についての考察の中で従来のすべり周波数形は、オブザー
バでなくモデルによる磁束推定を行なっている磁束FB形と等価であることを
示した。また、オブザーバを用いた磁束FB形ベクトル制御系と等価なすべり
周波数形ペクトル制御系を提案した。本節ではシミユレーションにより、以上
の点を検証する。
以下のシミユレーション結果において二次磁束と電流の値は二次磁束石の
座標系での値である。また、シミュレーションに用いた供試誘導電動機の定格
出力はヽ22匪明、定格回転数は1720[rP列である.
4.5.1 電流入力形における比較
4.3.1項で述べた電流人力形において、モデルによる磁東推定値を用いる磁
束FB形ベクトル制御とすべり周波数形ベクトル制御を比較したシミユレー
ション結果を図4.3と図4ポこ示す。
両制御法ともパラメータ誤差がない場合(図亀3)とパラメータ誤差(二
次抵抗が公称値のL5倍)がある場合(図4.4)の二通りについて、無負荷で
可変速運転した結果を示す。細線が目標値である。パラメータ誤差がない場合
は、両制御法共に、指令値通りの良好な制御が行なわれている。また図4.4の
パラメータ誤差がある場合、従来のすべり周波数形ベクトル制御は、二次抵抗
の変動の影響を受けるために、二次磁束と電流が正しく制御されていない。オ
プザーバを用いない磁束FB形ベクトル制御も、同様に二次磁束抵抗の変動の
影智を受けている。
97
4.1 シミュレーション結果
oい一山″`{w
Q耀御貸w。貸w鄭
`t``ぼ}
j{F覆}9一脚轟・仰.
臓}4{{
雙w'{i偶6o.p'x.{wQ'Q肇歯Q9.Q鰐f ao.Q″
TINE{MSEC3
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{z} の2
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TIMEU¶SEC}
{江〕 のa{
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} 11 4,゛
6 ゛loひ'1如'4aが i醇'looi i和l i4酋d
T肺£{MSECI
{めZ}oーX`ゴh`
4 3
dl M,j'一に4・l j ' │ …… ご
匈墟″o 啼今″0
n唄;{1¶sEc}
(&)Fiux feedback type
図
OQi噛'90・瞼
S.ゆ a.e ゆ¥,o 霖&
{'低切○{ '' ……… 篇94Rが.ド………
T蔓ME{MSEC)
TIMr哺SEC}
TM£{n5Ec)
(b)SliP frequency type
シミュレーション結果(電流入力形、モデルを使用、パラメータ誤差
第4章磁束オブザーパをもつすべり周波数形ベクトル制御
98
{Z‘`″'}
雌p。o嫌蜘`蓄.吻岬哺
ロWωt卿
i.Q君辱零葡辱
ilヤ磨t瀞{
TlnE{1¶SECj
1111E{片SEC}
{″`w 碑a{
{席{‘・こぃめ9岬
TXヤIE t躬SECI
TIliE{MSECI
笛} 価Q`
8.櫛
{S} 御{}`
TIME{閤tC}
TI糾E(MSEC}
{酔Z}Q18『'が一
{焔X}`}ーX`}J‘`
↑t削1 1HStC)
(a)Flux feedback type
図4 4
あ り)
TlilE(MSEC}
(b)Slip frequency type
シミュレーション結果(電流人力形、モデルを使用、パラメータ誤差
4.5.シミュレーション結果
99
4ー必唸{Sり吟}
洽?讐 GGぶ Q0.?p{て67
tふ″″`のさcの一
Qoj‘ 6?f p?aむ?瞥
で'-?4“'¥¨-‘r…″t-`T'゛゛`T゛-i
400 6{○
0
6汝} 吝OQ t匈0 4404)
ぶ7 ̄石八¨ぶ一石yス泌「石JてJ
nHE fMSECj
り?o孵籾砕9む白紡穏今杓4始e'0,Qめり
{t軋叱` o紅湛
Q9G庶一eりλ6勧む誓ね哺葡{妬.e.t? e警奪り
堺仰Q,軸'0‘?吋E?
t‘ いo}
7`tt‘ otJ
(jf4i・・●yr.W心・心・V41q?ャg4S94ムν
ず゛一‘マー-“t‘“““6ダー゛'y`‘タ心〃'・“¨-r‘‘ ̄4i““4`す“-゛゛¥゛4jsr゛t″-“`蛍乙“゛`l
2む○ 禰Oa SOO
100 1な60 ほ○{}1400
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““・r`¨-‘`-t゛``゛'゛`や゛'j″や゛-゛f`゛'゛‘9゛゛゛呼″″゛゛'V゛゛゛^゛i
10a sOeG
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ひS,081りg4J宕9き
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11nt□蛎Ec}
(a)Flux feedback type
ン
a9りぶりo?o
XコJ昿
aひ 卵む 皐{廸 1創}0 12aひ 140む
ロ'む`,ね
WJ-゛g・f'''゛ずiタ・4JT¨-T‘七茄4・j・'りr‘“¨r‘“‘゛吻
図 4 5
あ り)
纏aO SOaO に息o 14tx)
nM[
哨S[白
1印C IHSE{D
〃亀
zむa 薦aO s{}6
-がヴヴμ〃メyr゛゛″ダ゛″¨・i
2㈲ 40 60a 咎卯 lo㈲ 俘oo s40£
n例e lHsEc}
(b)Slip frequency type
ミュレーション結果(電圧人力形、モデルを使用、パラメータ誤差
第4傘磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御
100
{石'匈J Oり。嗜e6.嗜ー{yQ応{
tit昿帥コo仰}
r・'9゛r″゛゛゛゛ぎ7fφfぞJi“^'“穿^‘'-TA‘‘^‘r‘゛ ̄^1 ̄ ̄ ̄7' ̄ ̄'1
4t璋 梢りり お今(1 爽㈲0 12ひC μ00
l哨E MSECI
rIME哨託い
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Q9p脚吻o9り{笏60,9喩りQ‘りや埼aひ.‐啼s
{g軋邨} Ot凍ヽ
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6`ダ邨Q心つ0帥{
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゜y″゛゛``fya゛φ心之J14rt4訊zヤー″り'・'一j4-‘吟fヾj〃44,r゛″“?‘
ひ
4r4゛゛゛r“゛゛t^“ ̄?`゛“-・
才りつ 4りG む99 鰐梢1 をaUり lアGO 14{珀
H吋e{糾SEtt
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6偽9oo7,一四Q仰抑谷 父乙J
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白Q愉,Qり祭1り8?a9りひ,り
{飾凛・ XコJ吐
11MF U¶SECI
“r-¨が‘‘“y“‘ヴ吋“゛゛994゛sr
-4
4參○ ●0命 戮10‘ 14X双}12ひ{j 14{}{
HME{MSECI
(a)Flux feedback type (b)Shp frequency type
図4.6:シミュレーション結果(電圧入力形、オブザーバを使用、パラメータ
誤差あり)
101
4.5.シミュレーション結果
これらの結果は、電流人力形においてモデルによる磁束推定値を用いる両
制御法の特性が同じであることを示している。
4.5.2 電圧入力形における比較
4.4j項で述べた電圧人力形において、モデルのみによる磁束推定値を用い
る磁束FB形ベクトル制御とすべり周波数形ベクトル制御を比較したシミユ
レーション結果を図4ぷこ示す。
電圧指令値は次の非干渉制御則を用いて得ている。
= 一】
/む Jじ
*書α * 9
瓦io一鴫託游十K叫一仙)
(4j2)
沢jo+ωo£jo十X(i; 一衿)
(4,23)
この構成は回4ぷこ示した通りである。両制御法ともにパラメータ誤差(二
次抵抗値が公称値の1.5倍)がある場合を考え、無負荷で可変速運転をした。
従来のすべり周波数形ベクトル制御は、二次抵抗の変動の影響を受けるため、
二次磁東と電流が正しく制御されていない。オプザーパを用いない磁束FB形
ベクトル制御も、同様に二次抵抗の変動の影響を受けている。この結果より、
電圧入力形の場合にもモデルによる磁束推定値を用いる両制御法はほぼ同じ特
性を示すことがわかる。厳密には、各状態は微小の推定誤差を生じている。こ
れは、離散化と座標変換に依存する問題と思われる。座標変換が巡統かつ理想
的に行われる場合、両制御法のモデルヘの人力誤差フィードパック、非干渉制
御に差は生じないが、実際には離散化して実装し、過渡時をなどにおいても多
少の位相の推定誤差を生じる。このため、座標変換を介するか介しないかによ
り、それぞれが同じ値ではなくなるためと思われる。
次いで、4.4.2項で述べたオブザーバによる磁束推定値を用いる磁束FB形
ペクトル制御とすべり周波数形ベクトル制御を比較するためのシミュレーショ
ン結果を図4ぷこ示す。磁束FB形ベクトル制御はオブザーバを用いているの
で4.4.1項のモデルのみの制御に比べて二次抵抗の変動の影響が小さくなって
いることがわかる。ここで、(4.20),は21)式のオブザーパのフィードバッ
クゲインは、二次抵抗の変動に対してロバストなものを用いた。磁束オプザー
バを用いたすべり周波数形ベクトル制御もオブザーバを用いた磁束FB形ベク
トル制御と同様に二次抵抗が変動しているにも関わらず、磁束FB形ペクトル
制御と同じ良好な特性が得られている。なお、すべり周波数形ベクトル制御の
(4.19),(4.20),(4.21)式のフィードバックゲインは磁束FB形のそれと同
じ値である。
以上の結果、今回提案した磁束オプザーバを用いたすぺり周波数形ベクト
ル制御系は磁束FB形ベクトル制御と等価であり、従来用いられているそれよ
りもパラメータ変動に対してロバストであることを示している。
惣孔
第4傘磁束オブザーバをもつすべり周波数形ベクトル制御
4.6
本章では、磁束FB形ベクトル制御とすべり周波数形ベクトル制御は誘導
電動機の座標表現上の相違であり、本質的に同じモデルを用いていることを電
流入力形、電圧入力形のそれぞれの場合について示し、シミュレーションで確
認した。従来のすべり周波数形ベクトル制御は、オプザーバでなくモデルによ
り磁束推定を行なっている磁束FB形に相当する。そこでオプザーバを用いた
通常の磁束FB形に比べロバストでないことを示した。さらにこの両制御法の
関係を用いて、電圧入力形において磁束FB形ベクトル制御と等価な磁束オブ
ザーバを用いたすべり周波数形ベクトル制御法を導出し、その構成を示した。
そしてシミュレーションにより、本システムは磁束FB形ベクトル制御法と同
様に、従来のすぺり周波数形ベクトル制御に比ベロバストな特性を示すことを
確認した。
本章で提案するすべり周波数形ベクトル制御は、従来、主流となっている
すべり周波数形に対し、様々な制御理論的考察のなされている磁束FB形の成
果を利用することを可能とするものある。したがって、理論面においては、磁
束FB形の制御理論によるロバスト化の成果を、実装面において、従来のすベ
り周波数形の蓄積されたノウハウを、有効に利用することができるベクトル制
御と言える。
第5傘
磁束オブザーバを持つすべり周波数
形ベクトル制御系の速度センサレ
ス化
5.1 緒言
本章では、第4章まで示した両制御法の関係を用いることにより、第3章で
磁束FB形用として提案した適応スライディングオプザーバをもとに、すべり
周波数形用の適応スライディングオプザーバを導出する。さらに、リアプノフ
の安定論を用いて、速度推定のための適応則を導出し、提案するオプザーバを
用いたすべり周波数形ベースの速度センサレスベクトル制御の構成を示す。ま
た、従来のすべり周波数形の速度センサレス制御と比較し、二次抵抗変動の影
響についても考察を行なう。
最後に、コンピユータシミュレーションにより、もととなった適応オプザー
バを用いた磁束FB形の速度センサレス制御系と比較を行ない、同等の特性が
得られていることを確認する。
5.2
すべり周波数形における磁束オブザーバの構成
5.2.1 すべり周波数形用磁束ブザーバの導出
すぺり周波数形の特徴は、トルク電流、励磁電流等の(推定)二次磁束座
標上で表現された量を用いて、二次磁東情報を位相(回転子角速度とすべり周
波数の和の積分)という形で求めることにある。
そこで、誘導電動機(IM)のモデルである昨1)式・を、推定二次磁束上直
交座標表現の一次電流、一次電圧、固定子極座標表現の二次磁束を状態変数と
103
104
第5章磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
するような変数変換を施すと、次のような非線形の方程式として表すことがで
きる(第4章参照)・
シー
[a7-必λ,プ]汽十[d+dJ]心十召1tへ
(5,1)
偏・r =
eλd'r十&ね'j十(必λ。.一ωΓ)λ必
(5,2)
1 .。
。
らj≒ω沁)゜
わ
ωΓe+
一
らり十(一pλ必+cλ9'r)/λ9'『 (5,3)
λd・『
べ =【恂・,勾了:♂-y軸上一次電圧
べ =【ね・,ら]7 :d'-が軸上一次電流
昌 =【λお ≒ポ:♂-ゲ軸上二次磁束
「'」は、推定二次磁束座標上で取り扱われる量を示す。固定子上のモデ
ルを推定二次磁束座標上へ座標変換しているため、式中に、現れる二次磁束角
速度は推定値となる。
この方程式に対して、線形のオブザーバを直接構成することは、困難であ
るため、(4,17),(4,18)式に示した線形で設計されたオブザーバをもとに、第4
章と同様な変数変換を行ないすべり周波数形のオブザーバを導出する。
j,= 匝-jンい/]八に卜ぉ→玖
ね仔
十瓦I卵斑%)
(5,4)
= 以丿仔十戻ぶj ̄[1嘔1Kls仰(以)
(5.5)
紅( ゜必λ,)゜゜ωΓむ十土1φ-[01]£1瓦lsgn(ら0
(5句
ね,『
推定二次磁束上での構成ゆえに、今度は磁束のゲ軸成分は存在しない点に
注意されたい・昨4) (5句式は、固定子直交座標上で磁束を含めて状態量を
扱う通常の磁束オブザーバと異なり、二次磁束座標上で表現された、電流、電
圧を用いて、二次磁束を大きさ、位相という形で求める構成になっている。
5.2.2 すべり周波数制御における磁束オブザーバの役割
前項では、二次磁束を極座標表現で推定する磁束オプザーバを示した。こ
のオブザーバによる推定二次磁束位相を用いたベクトル制御系を構成すること
は、磁束オブザーバをもつすべり周波数形制御系を構成することになる。本節
では、導出した磁束オブザーバがすべり周波数形制御において果たす役割につ
いて述べる。
105
5.2.すべり周波数形における磁束オブザーバの構成
導出した(5,3)式は、極座標表現された二次磁束の推定式となるが、実はす
べり周波数形制御則そのものである。一般的なすべり周波数制御においては、
この式を用いて、指令値を人力として、フィードフォワード(以後、FF的と
示す。)に二次磁束を極座標表現(大きさ、位相)で推定をしていると捉える
ことができる。そして、ベクトル制御器は、この位相を用いて、固定子上での
電流、または電圧指令値を得る。
これに対し、提案する磁束オブザーバの構成は、すべり周波数制御則に電
流の推定誤差フィードバックを施した昨6)式、及び(5,4),(5j)式を用いて、
電圧、電流の両測定値から、磁束(大き凱位相)を推定を行なう。これは、
従来のすべり周波数形が(い)式を用いて、指令値よりFF的に二次磁束の位
桧を得ていたのに対して、同じモデル(すべり周波数制御則)をもとにしては
いるが、制御対象の入出力量を用いてオプザーバを構成し二次磁束を推定して
いることに相当している。そして、オブザーバの設計によっては、単にモデル
による磁束推定(すべり周波数演算)に比べ、パラメータ変動に対してロバス
トな磁東推定(すべり周波数演算)を実現することが可能である。
すなわち、従来のすべり周波数演算部を提案する磁束オプザーバに漑き変
えることにより、磁束FB.形と同等のロバスト性が期待できるすべり周波数制
御を実現することが可能である。
5.2.3 誤差方程式と提案するスライディングオブザーバの設計
5.2.1項で構成を示したスライディングオプザーバの誤差方程式と設計法に
ついて述べる。
まず、誤差方程式を求める.(5j)
(5,3)式と(5,4)
(5.6)式の差から、
誤差方程式が求まる。非線形である第四行に相当する沢こ関する誤差方程式を
除いた誤差方程式は次式となる。
咬 =ミーハ=dら吋H叫。+。/り9(め
昨7)
λd'r' ̄λd″r ° ceλj9十屍り。 ̄£X1リn(%)十£)3
(5,8)
eλd'r =
7〕)=[D1£)2£)317は、パラメータ誤差により発生する項である.
圀 [レバづレか、-ぼ示 一
-
p3
一
[匹c]心,十[に巾6-(紅-ら)λ9り (5jo)
ここで、本来ならぱ、スライディングモードを発生させるために、適切な
フィードバックゲインK1を設計し、スライディングモード発生後の低次元化
106
第5章磁束オプザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
された誤差方程式に対して、フィードバックゲイン£を設計することにより
オブザーバの特性を決定する。
しかし、この先の設計問題に関しては、先に述べたように、誤差方程式の
一部が非線形となるため、直接、解析、設計を行なうことは、困難である。
幸いなことに、二次磁束座標上で構成されるオブザーバ((5,4),(5,5)式)は、
固定子上で構成されるオプザーパ((4.17),(4.18)式)より、状態変数の変換に
より導出されたものである.したがって、その特性は、本来、(4.17),(4,18)式
によるオプザーバと全く同じ特性となる上、フィードバックゲイン等は、固定
子上でのオブザーバのものをそのまま使用している点にも注意されたい。こ
のことは、固定子上での磁束オプザーバにおける解析、設計に関するこれまで
の結果をそのまま生かすことが可能であることを意味する。したがって、実際
は、従来の固定子で設計を行ない、そのK1,£をそのまま使用することにする。
5.3
速度推定のための適応磁束オプザーバの構成と
速度センサレス制御系の構成
本節では、前章で示したオプザーバに速度推定のために適応同定を付加し
た適応スライディングオプザーバの構成と、それを用いた速度センサレスベク
トル制御系について述ぺる。
5.3.1
適応オブザーバ化による速度推定のための適応同定機能
その基本構成は昨4)
(5.6)式である.しかし、速度センサレスゆえ、式
中の回転子角速度は推定値を用いることになる。また、誤差方程式もやはり、
(5マ),(5,8)式で、回転子角速度に推定値を用いたものとなる.
ここで、速度をはじめとするパラメータ誤差が存在する場合、誤差ベクト
ルが発生する。以下に、速度、及び二次抵抗誤差が存在する場合の誤差項£)を
示す。
Lパラメータ誤差が速度の場合
一
一
―
D3
]
1こC
回
一
一
-(ふλ。一叫e)'λ抑)
(5,11)
(5j2)
2.パラメータ誤差が二次抵抗の場合
召p
一
5,13)
Q゛j
l
。1‘ り心‘
炳
士 巾 ケレいづ言」
j ̄
一
一
λ心)'△凡-(気。一叫.卜句,(5,14)
六(訂仏-
107
5.3、速度推定のための遺応磁束オブザーバの構成と速度センサレス制御系の構成
さて、前節で述べたように、適切なフィードバックゲインK1を設定する
と、スライディングモードが発生する。スライディング平面ぱ、
j
jt
ぐ=に1 伺7=
(5j5)
礼=0
と与えられており、スライディングモード発生の結果、誤差軌跡は誤差空間上
のスライディング平面に拘束される.すなわちヽe・。=(=e礼=映=Oとな
ることを意昧する。
ここで、スライディングオブザーバの特徴的な内部信号であるスイッチング
信号Klsβ(ら;)を゜-パスフィルタを通して得られる信号Z'と名付けヽ(H6)
式と定義する。スライディングモード発生時にぱ、信号Z'、及び、誤差方程
式(5.17)は、等価的に次のように導くことができる。これらの式が適応動作
の基本式となる。
=
―
1
(d一訂)叫十Wφ
(£-0[1 01Z+(J1+仙)
-
eλd
1引│.&.,
Z″≡ 一瓦1卯n(らj・。)
一
-
(5j6)
(5j7)
沓一
φW
パラメータ誤差
パラメータ誤差ごとに異なるベクトル
具体的なWの構造は以下の通りである。
1.パラメータ誤差が速度の場合
Iて
W
(5j8)
2.パラメータ誤差が二次抵抗の場合
い寸几六」 パラメータ誤差、及び磁束推定誤差自体を知ることはできないが、両者の
ベクトル和である信号Z″は、スライディングオブザーバの内部信号として得
ることができる。次節では、この信号Z/をもとに、速度推定を実現する適応
同定則をリアプノフ直接法を用いての安定性を考慮しながら導く。
5.3.2 適応則の導出とその検討
まずはじめに、リアプノフ関数の候補を次のように選ぶ。
108
第5傘磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
=
φ
1}2
F
昨20)
ここで、適応則として(5.21)式を使用することを提案する。
この適応則
は、二次磁束座標上での電流推定誤差の微分に相当する信号Z'とゲインペク
トルPとの内積により構成される。
-
P,Z
=一[pl 祠〕
Z Z
-
/‘l/り″
φ
1
このリアプノフ関数の時間微分は、次のように導かれる
○
`sJ/
(d一訂)十W
/ぐx、
I一φ'
y=かφ=-が・㈲ p2]
昨川
(5.22)
(5,22)式が、桓等的に負となる様に、P1,p2を選ぶことにより、誤差収束の
安定性が保証される。速度同定を目的とする場合、パラメータ誤差として速度
のみを考える。その結果、PI、p2が次式を満たすことが安定条件となる。
フデ十(plc-p2か背十(p2c十斑ぐ
しかし、(5,23)式は、見てわかるように、第2、3項の符合が推定誤差に
依存して決まるため、どのようなPを選んでも、その符合を確定することが
できない。そのため、大城的な安定性を保証することは困難である。
そこで、次のような方針により、戸を決定することにした。すなわち、d'
軸の推定誤差は、磁束オブザーパによりある程度押えられると考え、ゲ軸の磁
束推定誤差の影響を打ち消すように7)を決めた。速度同定のための適応則、
および川よ次のように定まる。
ωΓむ
2 -[7)l p2]
回」
p1 =コ ーpy c/dp2
(5,24)
1
凡
-
●㎜-- ●
-
-
一
玩
ωΓe
p2 : glven
(5,25)
(5,26)
すなわち、g/軸のゲインは一定値であるが、d軸のゲインは速度に反比例す
る値をとることにする。実際は、低速時にゲインが過大にならないように制限
をかける。また、式中の速度は、推定値で代用する。この適応則を適応則7と
呼ぷ。
適応則7の場合、二次磁束の推定値の誤差と速度の推定値の誤差の速度誤差
のみが一方的に収束するのではなく、お互いの関係が一定の関係を保ち、(5,23)
式を満しつつ収束してい《場合においては、安定であることを意昧する。
109
5.3.遼度推定のための遺応磁束オブザーバの構成と速度センサレス制御系の構成
次に、適応則μこおいて、PI=Oとした適応則を考える。
剱e゛一μ*Z2=p1*瓦Jダ徨(ねj-jい) (5・27)
この適応則を適応則7'と呼ぶことにする。この適応則ぱ、きちんとした根
拠があって導いたものではないが、適応則μこ比べて可変ゲインの項が省略さ
れ実装が簡易である。また、これまでにすべり周波数形の速度センサレス形ベ
クトル制御で良く用いられている調整則にかなり類似しているとの理由で適応
則7からの類推で導いた{51]・
電流誤差は、二次磁束座標上で求める必要があるが、従来のすべり周波数
形では、電圧の積分等により二次磁束位相を求めている。提案する手法では、
オブザーパにより二次磁束位相を推定するため、ロバスト性と速応性において
優位に立つことができると思われる。
実は、適応則川よ、すべり周波数形における信号Z'と、磁束FB形におけ
る信号Zとの座標系の違いを考慮するならぱ、磁束FB形の適応オブザーバの
際に用いた適応則のすべり周波数版に相当する巾。42)式).このことからも、
適応則Fぱ、一般的なIMの運転においては良好な動作が期待できる。
適応スライディングオブザーバの最終的な構成を図5ぷこ示す。
5.3.3 二次抵抗変動の速度推定に及ぼす影響
速度センサレス運転時において、二次抵抗誤差が生じた場合、速度同定に
誤差が発生する。このことに関しては、既にさまざまな文献で述べられている
田口52].本手法もその例外ではない.その影饗の現れ方と回避法について検
肘してみる。
例えぱ、速度の推定誤差と二次抵抗の誤差力拵在する場合、(5j8),(5j8)式
から、誤差ベクトルWは、次のように表される。
--
C
]
―
O ぷ
{λ
1
W
1
△叫e十
-
玩
泣プ
(5,28)
特にゲ軸成分に注目すると、速度の推定誤差と二次抵抗の誤差を分離する
ことができないため、9'軸のみに注目した適応則は、速度誤差による誤差情報
と二次抵抗による誤差情報を区別することができず、速度の定常誤差を生むこ
とになる。
次に了軸成分に注目すると、二次抵抗のみに依存する項であり、この値を
考慮した適応則を導出すれぱ、速度と抵抗の同時同定が可能となる可能性があ
る。しかし、この♂軸成分は、励磁電流一定制御を施すと、定常的には現れな
い項である。
110
第5章磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
=回
()zz心or尹叫斤a
七〇4放z紬r芦回e
図51:磁束オプザーバを持つ速度センサレスすぺり周波数形ベクトル制御系
の構成
111
5点 シミュレーション
このことは、新中ら[硝が指摘するように、訪磁篭流一定制備]では、速度
と二次抵抗の一斉同定が不可能であることを示している。
そして、固定子上で構成された適応オブザーバにおいて、久保mら[37口冽
が励磁電流に複数に周波数を重畳することにより、一斉同定を実現する手法を
提案している。この手法を採り人れることにより、本すべり周波数形用適応オ
ブザーバでも、一斉同定が可能である。
ゝ
5.4
ン
ヘ
ヘ
ヘ
ュレーション
5・。4.1 速度センサレスベクトル制御系の構成
提案する適応スライディングオブザーバを用いた速度センサレスベクトル
制御系のコンピュータシミュレーションを行なった。その構成を図51に示す。
シミュレーションに用いたIMの諸定数を表5ぷこ示す。IMを駆動するイン
バータとしては、ヒステリシスコンパレータによる三相竜流瞬時値比較形P
WMインパータを用い、穀大スイッチング周波数は上限川り川となるよう
に制限した.速度制絢系は、演算周期250[測で離散化したPI制御器を用い
た.また、適応オブザーバは、(M)
(5句式をオイラー次近似により皺散化
し、演算周期川測でシミュレーションを行なった.
今回、オブザーバの極は、ロバスト化等を考慮ぜず、単に(a,β)=(-10,0)
の固定極を用いた。また、スライディングオプザーバの誤差フィードバック信
号より、適応則の入力信号Z'を求める際に用いるLPFの遮断周波数は300[㈲
とした。
5.4.2 提案する速度センサレス制御系の加減速応答一適応則7
の場合 適応則7を用いた適応スライディングオプザーバにより推定された二次磁
束、速度を用いて、ペクトル制御を行なった結果を結果を示す。
図5,2は、500け刈
1ooOけm】の加減速遅転を行なった結果である.淮定
二次磁束、推定速度とも、加減速時を含めて良好に真値に追従しており、良好な
加減速運転が行なわれていることがわかる.図□は、20[印刈
100冷列と比
較的低速域での加減速運転の結果である。なお、いずれのシミュレーションも、
適応ゲインは、p2=-2.0である。また、可変ゲインp1は、鍛大値㈲=20.0
で制限した。
信号Z'を求めるLPFの遮断周波数は、今回300【ぬ│に設定したが、この
周波数の最適値は速度に応じて動く。この設定を誤ると、高速域で速度の推定
遅れが発生し振動的な挙動を示したり、低速域において、実際の機械系は追従
しないものの高周波が重畳した推定となる。今回の値は、幅広い運転範囲を考
112
第5傘磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
T£j
90Q励 90りf
oQ。a匈oo,Q匈!
{こ≒々 a}
Qo″e oo.,0
マ}j
/な'
' \iダ・゛
0 2a0 400 S00 S00 1000 t200 t400
Qo・{} ロQ″aー
一一ilべ
/λ゛
t瓦4べ
{wてo o90
rime匝s祠
図5.2:適応則7を用いた場合の加減速特性一高速域-
113
&4.シミュレーション
マ一j
o9Qoo″eマ
90
T£誓3
o6の
マーj
o9e 'Q?o
t決}、々
Q?e o9o蓋
i‘】4ベ
o寸.a {5.0
7沁t叫丿硝
図5.3:適応則7を用いた場合の加減速特性一低速域-
114
第5傘磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
慮して設定したものである。ゲインと併せて可変とすることにより、更なる改
善が期待できる。
5.4.3
提案する速度センサレス制御系の加減速応答一適応則7'
の場合-
適応則7'を用いた適応スライディングオブザーバを用いて、前項と同様な
シミユレーションを行なった結果を示す。
図5,4は、500[rPm]
1000妙列の加減速を行なった結果である.やはり、
推定二次磁束、推定速度とも、加減速時を含めて良好に真値に追従しており、良
好な加減速運転が行なわれていることがわかる.図5,5は、2o[印列 100[rpm】
と低速域での加減速運転の結果である。
適応ゲインは、p2=-2,0で行なった。適応則Pは、適応則μこ比べ簡易
な手法として用意したが、この程度の加減速運転時には、適応則7と大差ない
結果が得られた。
5.4.4 シミュレーション結果の検討
本制御系は、磁束FB用として提案した適応スライディングオブザーバを
元に、すべり周波数用として導出したものである。当然ではあるが、第3章で
提案した磁束FB形の場合と、ほぼ同等の性能を示している。
また、提案する制御系は、従来のすべり周波数形の速度センサレス制御系
に比べて、次の点の改善による優位性を持つものと思われる。
第一に、磁束(位相)推定のオブザーバ化である。この結果、磁束推定(す
べり周波数演算)の即応性、及び二次抵抗以外のパラメータ誤差に対するロバ
スト性を、極配貴により操作することが可能である。
第二に、すべり周波数演算(オプザーパ)の演算周期の高速化である。こ
れは、ある意昧では当たり前のことであるが、実際、オブザーバとして実装す
る場合、速度制御系に比べ、ある程度速い演算周期を確保することの効果は大
きく現れる。
5.5 結言
本章では、磁束オプザーバを持つすぺり周波数形ベクトル制御系に適応同
定機能を付加したすべり周波数形用の適応スライディングオプザーバの構成を
示すとともに、速度同定が可能な適応則をリアプノフの安定論を考慮しつつ
導出した。そして、提案する適応スライディングオプザーバの推定磁束、推定
速度を用いる速度センサレスベクトル制御系を提案し、シミュレーションによ
り、その基本動作を検証した。
5豆結言
115
{E4£艦3
99}心 d.ocf
{笠喩'J
只一,o蜘e守oNー
i2 /4・
j: 匈 ゛… ……, .・・・.. ・・・. ・,
苓 iわ
o 0 2Ga 400 6{io 的0 `t000 12a0 140
QQ。O 09Qー
F£tベ
λf。
{M一″c
万泌}、々
む寸。O
・.‘4泌ぷぷ4
7im吟丸昶c】
図5.4:適応則7'を持ちいた場合の加減速特性一高速域-
116
第5章磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
百亜j
?{一の 9.0
{笠角洽
090Q9吻マ
0
00
0
200 1400
昶4ね喊{ぬ '' .・・・.・・ .・゛ -'″/ljり
£3゛, -゛,・・ヽ・ ら'‥・・ `・-``. '
F『1 ニレ
゛“呂│
6 o ioo 二10y lむ(F 10o 1000 1200 1 4ao
万k一恥々
o0,0 aの″Qi
/4'
t、辱々
{}f。O QQ,0
Tim嶮れs祠
図5.5:適応則7'を用いた場合の加減速特性一低速城-
117
5ふ結言
表5土system constan.ts
0.600
一次インダクタンス
Ls
0j01
二次抵抗
Rr
0.690
二次インダクタンス
Lr
0.093
相互インダクタンス
M
04093
極対数
P
2
問
問
問
囲
本制御系は、以前、提案した磁束FB形ベクトル制御用適応スライディン
グオブザーバのすべり周波数版を導出し、それを用いて速度センサレス制御系
を構成したものである。すなわち、線形であった磁束FBの場合に比べ、非線
形となるすべり周波数形においては、様々な点で直接設計をするには困難が伴
うが、今回は、両制御法の関係を積極的に利用し、磁東FB形での手法を用い
ることにより、その導出が可能となったものである。
118 第5傘磁束オブザーバを持つすべり周波数形ベクトル制御系の速度センサレス化
第6章
ベクトル制御の構成に関する制御理
論的考察
6.1 緒言
磁束FB形とすべり周波数形の両制御法の関係については、IMモデル、オ
プザーバによる推定磁束を用いる磁束FB形と、すべり周波数形とは、いずれ
も電流・電圧を測定し、インバータの指令値を生成することから、その相違
点は測定電圧・電流の信号処理の差であり、本質的に差はないという漠然とし
た認識がある。しかし、これまでに両制御法の性能比較が行われることはあっ
ても、両制御法を比較し、具体的に両制御法の関係を明らかにしようという試
みは十分なされて来なかった。
第4章では、この両御法の関係について検肘を加え、両制御法の差は、制
御対象としてのIMをどの座標上でモデル化しておくかの差であることを明ら
かにした。そして、その考えにもとづき、磁束FB形用として用意された磁束
オブザーバから、すべり周波数形に用いる磁束オプザーバのを導出する手法を
示した。
本章では、両制御法の関係を再確認し、その結果をさらに進めて、共通点、
相違点を明らかにするとともに、従来、漠然と語られてきた両制御法の特性の
差について検討する。
そして、その結果を踏まえて、すべり周波数形、磁束FB形と区別するこ
となく、一般化した見地からベクトル制御系の構成を検肘する。すなわち、ベ
クトル制御が複数の制御器により構成されることを示し、各制御器の制御理論
的な位貴付けを明確にする。これは、系全体に対する制御理論的なアプローチ
に対する指針を与える。さらに、すべり周波数形、磁束FB形の各ペクトル制
御系の位置付けを確認し、捉来、述べられてきたそれぞれの特性の差カ1何に起
因するものなのか、その優劣はどの様に決定されるかを検肘する。
本章での検討は、従来磁束FB形に比べ、制御論的なアプローチが困難で
119
120
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
あったすべり周波数形に対して、磁束FB形で得られた様々な制御理論の成果
の適用による性能改善を可能とするものである。
6.2
すべり周波数形と磁束FB形の関係
両制御法は、異なる制御法として取り扱われ、それぞれ研究・開発が進め
られている。また、両制御法の関係も明確にはされておらず、それぞれの研究
成果を他方の制御法で用いることは困難であった。本章では、両制御法の関係
を明らかにする。
6.2.1 両制御法に対する認識
はじめに、従来、両制御法がどの様に認識されてきたかを示す。第4章で
も述べたように、磁束FB形は、図4j(a)の様に捉えられる.磁束FB形の場
合、制御器の外部に磁束演算器を用意し、測定値より磁束を演算するベクトル
制御器は、そこで得られた磁束の位柑│青報をもとに、二次磁束座標上で求めら
れた指令値を固定子座標上へ変換する。
これに対し、すべり周波数形は、図4.1(b)に示す様に捉えられる。つまり、
電流指令値にもとづき、すぺり周波数演算で求められるすべり周波数と回転子
速度から、電源周波数を求め、その積分(位相)により7-δ軸上で求められ
た指令値を、固定子座標上へと座標変換を行い、固定子座標上での指令値ベク
トルにする。これらがすべてベクトル制御器内部で行われる。
その結果、すべり周波数形の場合、制御器のみで指令値を求めるところか
らFF制御であり、磁束FBは、推定した磁束を制御器に戻して用いるところ
からFB制御であるとされる。
また、磁束FB形の場合、その構成から明らかなように、制御器内部に誘
導電動機のパラメータを含まないため、正確な磁束推定が可能ならは、パラ
メータ変動の影響を受ないロバストな制御系が実現できる。一方、すべり周波
数形の場合、制御器そのものにパラメータを含むため、パラメータ変動の影響
を受けるとされている。
6.2.2 すべり周波数演算と磁束推定の関係
両者の関係を明らかにする鍵は、すべり周波数形の制御器の分割と磁束F
B形が磁束推定のために用いるIMモデルの座標変換にある。すべり周波数制
御器を図6.1に示すように、すべり周波数演算部(ここでは、広義に解釈して、
座標軸位柏9を演算する部分まで含める)と、7-ぶ軸上での指令値生成部とに
切り放して考える。その上で、図4j(a)と図4.1(b)を比較すると、『磁東推定
部」と「すべり周波数演算部」との対応が問題となる。
6恋 すべり周波数形と磁束FB形の関係
-----一一-一一-一一--
1 〃│
図6.1:すべり周波数演算部を切り離したすべり周波数形
121
122
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
そこでまず、磁束FB形における「磁束推定部」について考える。ここで
は、IMモデルを用いて磁束推定を行なう。 IMを固定子直交座標(d-9軸)
上でモデル化すると次式となる。
芭趾二公包十P£
刈7 -誓y7十茫らJ 八
(ド巾-4J』に
£「
一
-
訂左7
£『
昨1)
ただし、
微分演算子
回転子電気角速度
7):
ωm :
-1
I
ハU II
川
7 =
,」
む,=[匈,り]7 :d-9軸上一次電圧
ね =[仙ら]7 :d-9軸上一次電流
叙 =[厄‥λΓ]7:d-g軸上二次磁束
磁束FB形の場合、この式を用いて、固定子上で得た測定電圧、又は測定
電流より二次磁束を推定する。
ここで、この固定子上で表現されたIMのモデルを二次磁束座標上(♂-ゲ
軸)へ座標変換すること考える。つまり、次式のように変数変換を施す。
= =
馬 ら
λ『
一
一
T㈲・べ
T(θ)べ
昨2)
芦θ)僕。
ただし、
T(の
一
cos(似。)sin(ら。)
sin(紅)cos(収)」
= = = =
叫がly
r j /j r
:二次磁束角速度
々芦:d'-が軸上一次電圧
ら・,17:♂-9'軸上一次電流
o]7:d'-ゲ軸上二次磁束
礼仙の微分に注意して、(6,2)式を昨1)式へ代入すると、二次磁束座標
上のIMのモデルが得られる。
_ (凡+を‰立瓦)7十叫y十£,(アフ)
E」 ̄lj y脊7 一啓7十芒らJ べ
汐+(ヘーら)J+j)7」に」
昨3)
123
6ご2.すべり周波数形と磁束FB形の関係
q
q
q
d
d
d
outPut
state
lnput
」↓L
[固定子座標上から、二次磁束座標上へ】
電圧、電流:固定子座標上から二次磁束座標上ヘ
二次磁束:直交座標表現から極座標表現ヘ
、しL
---一一---一一---一一一一-一一一-
│
-
_ 。---、│
│
寸“→'
│
J y'
q
output
state
inPut
q
図6.2:誘導電動機の座標変換
q
124
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
(6.3)式は、通常の7-&軸上とは異なり、二次磁束座標(♂-y軸)上で
あることに注意して、3行目、4行目を抜き出すと、以下のようになる。
利伺
-
jりλ。(=ωλ。)
-
-
-Ξ│剔十
島
ωm+
訂Rr.
島
Zdj
訂凡。
悶回自
(6,4)
(6,5)
ここで、注意すべきは、この(6.4)、(6.5)式が、すべり周波数形におけ
るすべり周波数演算に相当していることである。このことは、すべり周波数形
といえ、陰に磁束推定を行っており、それが、固定子上の極座標表現に過ぎな
いことを意昧する。回4j(b)、図6ぷこおけるすべり周波数演算部は、二次磁
束座標上で表現されるIMモデルにもとづく、固定子上での極座標表現の二次
磁束の推定に相当するのである。
通常、すべり周波数制御の場合、ここで扱った二次磁東座標上でなく、?-ざ
軸座標上で、IMがモデル化され検肘される場合が多い。この座標系は、すペ
り周波数演算を施すことにより、その7軸が、二次磁束に一致する。先に示し
たすべり周波数演算が極座標表現での二次磁束推定である事実を考えるなら
ぱ、このすべり周波数演算により求められた位相を持つ7-δ軸こそが、推定
二次磁束座標系に相当することが解る。
6.2.3 両制御法の共通点と相違点
すべり周波数演算部と、磁束推定部の対応が明らかになったところで、両
制御法の構成を振り返ってみる。すべり周波数制御の場合、指令値は推定二次
磁束座標上で生成され、固定子座標表へ座標変換される。一方で、磁束FB形
とはいえ、推定磁束を用いるタイプでは、二次磁束座標上で指令値を生成して
も推定磁束を用いて座標変換を行う以上、実際は推定二次磁束座標上で指令値
生成を行っているにすぎない。
いずれの制御法も、二次磁束座標上で用意した指令値を、なんらかの手法
で得られた二次磁束の推定値を用いて固定子上の指令値に変換する構成なので
ある。
一方で、磁束FB形とすべり周波数形における構成上の違いは、どの様な
量から、どのIMのモデルを用いて二次磁束を行うかである。つまり、すべり
周波数形では、二次磁束座標上のモデルによる極座標上での推定磁束を用い、
磁束FB形においては、固定子座標上のモデルによる直交座標上での推定磁束
を用いている。
この点を考慮するならぱ、ベクトル制御系は、一般に図6.3のように見な
すことが出来る。
すべり周波数演算が極座標表現の磁束推定であると考えること、磁束推定
(すべり周波数演算)を励磁、トルク電流制御部から切り放して考えることが
125
6.2.すべり周波数形と磁束FB形の関係
-
Some F71jxθsがmal/on mθ治むd
・
Command or MeasUredvalue
図6.3:提案するベクトル制御の捉え方
126
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
鍵である。このように考えることにより、両ベクトル制御法の差異は、この磁
束推定(すべり周波数演算)部に凝縮され、その比較、検討に極めて良好な見
通しを与える。どの指令値、測定値から、どのモデルで磁束推定を行うかが、
両制御法の構成上の差となり、制御特性の差となる。
6.2.4 磁束推定部における両制御法の差とその特性の差
両制御法の差異を生む磁束推定部に注目し、両制御法の待つ特性について
検討する。
磁束推定部を電流・磁束制御部から、切り放して考えるためには、次のよ
うな条件が必要である。
・実装にあたり、磁束推定部は、電流・磁束制御部に比べ十分速い演算周
期を確保する。
この条件は、磁束FB形では、通常、考慮されて実現されていることであ
るが、すぺり周波数形では、両者とも同じ演算周期で実装されている場合が多
《、この点もすべり周波数形と磁束FBの実装上の柑違点であるともいえる。
すべり周波数形においても、電流・磁束制御系の演算周期が一定の場合、磁束
推定部の演算周期が速いほど、良好な過渡制御特性を示すことが報告されてい
る[531.従って、同一の演算周期を用いる一般のすべり周波数形の場合は、さ
らに不利な条件を背負っている場合と見なし、考察を進める。
まず、磁束推定に用いるモデルという観点から、制御法の位蓋付けは次の
ように述べることが出来る。
・二次磁束座標のモデルで推定した磁束(すべり周波数)を用いるのがすベ
り周波数形
・固定子座標のモデルで推定した磁束を用いるのが磁束FB形
両制御法については、ロバスト性はじめ、様々な特性の差が報告されてい
る。その特性の差はここに示した様な磁束推定に使用するモデルの差によるも
のではなく、次に述べるような磁束推定法の差によるのである。
基本的なすぺり周波数形ベクトル制御は、二次磁束座標上でのモデルによ
る磁束推定(すべり周波数演算)を行っている。パラメータ誤差時など磁束の
推定誤差(すべり周波数の演算誤差)が発生し、推定二次磁束座標軸は、二次
磁束座標軸と一致しない。この結果、指令値は固定子上では意図するものとな
らない。これが軸ずれとされる現象である。
これに対し、多くの磁束FB形は、固定子上でのモデルを基本とした磁束
オブザーバを構成し、磁束推定を実現している[511.このため、オブザーバの
設計によっては、モデルによる磁束推定よりもロバストな磁束推定が実現でき
6.3.べ参トル制御系の構成の再考
127
る。磁束FB形が、すべり周波数形よりもロバストな制御系を実現するとの報
告はここに由来するものである。いわば、モデルによる磁束崔定値を用いた制
御系と、ロバスト設計を施した磁束オブザーバによる磁束崔定値を用いた制御
系の比較であり、第4章で示したように、その差は胚然としている。
さらに、両制御法を特徴付け、その差とされてている点に、「すべり周波数
形はFF制御的」であり、「磁束FB形は、FB制御的」という認識がある。こ
れを説明する為には、このモデル、磁束オブザーバヘの人力量という、観点か
ら両制御法の位貴付けを考える必要がある。
・ すべり周波数形の場合、モデルの人力量は二次磁束座標上の指令値(制
御対象への制御人力量)
・磁束FB形の場合、モデルの入力量は固定子座標上の測定値(制御対象
の出力量)
モデルヘの入力量として、制御対象の人力量と制御対象の出力量のどちら
を用いるかかが、両制御法におけるFF、FB性を支配している。つまり、す
べり周波数形であるのでFF制御、磁束FB形であるのでFB制御なのでは
ない。本来は、制御対象の制御入力量をモデルの人力にすると、FF制御であ
り、制御対象の出力量をモデルの入力量にするので、FB制御なのである。従
来の両制御法は、獲得することのできる信号の都合や座標変換を最小限に済ま
すために、このような構成を取っている。
以上の考察の結果、両制御法の構成上の相違点は磁束情報取得に集約され
ることが明らかになった。両制御法は、ベクトル制御を構成する「磁束崔定部」
にそれぞれ別の磁束情報取得法を用いたものなのである。このことは、ベクト
ル制御において磁束推定部を切り離せぱ両制御法は区別することなく、同様に
取り扱うことが可能である事を意昧している。
6.3 ベクトル制御系の構成の再考
前節の結果によれぱ、両制御法を区別することなく、ベクトル制御系を取
り扱うことができる。本章では、この結果を受け、ベクトル制御系の構成を再
考する。
以下では、まずベクトル制御の目的、制御対象の定義を行う。そして、磁束
推定を切り放したペクトル制御における制御器の構成、次に磁束推定を含め、
各制御器に制御対象の状態を供給する状態推定部の構成について考察する。
6.3.1 取り扱うベクトル制御の定義と目的
「ベクトル制御」といっても、実に様々な方式がある。本章で取り扱うも
のについて確認する。
128
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
まず、二次磁束鎖交磁束ベクトルを制御する形式のベクトル制御とする。
また、磁束センサを用いるタイプの磁束検出形の磁束FB形は、取り扱わな
い。つまり、本稿で取り扱う磁束FB形は、測定電圧、電流により、二次磁束
を推定する磁束推定形のものを指す。
そして、ベクトル制御の目的を次のように定義する。
・誘導電動機の二次磁束座標上で、二次磁束(励磁電流)、トルク電流を制
御すること
二次磁束を一定に保ち、トルク電流のみを変更するような制御を施すことによ
り、直流篭動機と同等の制御性が確保されるのである。次節で定義する制御対
象に対して、制御器を付加することにより、ここで述べたような制御を実現す
るのがベクトル制御であり、その制御対象と制御器をあわせたものがベクトル
制御系である。
6.3.2 制御対象の定義
ベクトル制御系についての考察をおこなう前に、制御対象を明らかにして
おく必嬰がある。
ベクトル制御をおこなう場合、誘導電動機(IM)は、必ずインバータに
より駆動されることになる。しかし、駆動するインバータのタイプにより、誘
導電動機は異なる入出力量を持つことになるため、異なる制御対象として考
える必要がある。このため制御対象は、インバータとセットで考える必要があ
り、使用するインバータによって、相異なる二つの制御対象を考える必要があ
る。具体的には以下の通りとなる。
・ 電流入力形の制御対象(ハ)
篭流が指令値となる電流人力形のインパータでIMを駆動する場合が、
これに相当する。制御対象(INV十IM)の制御入力は電流となり、出力
は電圧となる。IMのパラメータ変動の結果は、制御対象の出力である
電圧、もしくは二次磁束に現れることになる。
・電圧入力形の制御対象(几)
電圧が指令値となる電圧入力形のインバータでIMを駆動する場合が、
相当する。制御対象(INV+iM)の制御入力は電圧であり、出力は電流
となる。IMのパラメータ変動の情報は出力である電流に灰映される。
次に、制御対象の数値モデル化を考える。インバータの制御遅れがない
として、三相二相変換後の固定子直交座標上でのIMの数値モデルを出発点に
する。
63.ペクトル制御系の構成の再考
129、
この式は前章で述べたように、(6j)式として表される。
これを状態方程
式に書き直すと次式となる。
一
凡
拓(匹妁
礼筈
/ーーx、
評,
づルj- JIλΓ+土ら
―
yけ
aノm訂
び玩私
凡石
一
レL
昨7)
7十QノmjlλΓ+廿礼
j
ぐ
冶
(6祁
一
dλ『
-
び仁
このモデルを出発点にとる理由は、IMの制御入力値、測定憤が固定子座標上
で取り扱われるからである。実際に、インバータヘの制御人力指令値は、固定
子座標上で受け付けられ、センサのm力は、固定子座椋上で得られる。その意
昧で、固定子座標上の値を入出力変数とする事のできるこのモデを選択するこ
とは、極めて自然であると思われる。
6.3.3 ベクトル制御を実現する制御系の構成
ここでは、磁東推定部を切り放し、前項で定義した制御対象に対して、ペ
クトル制御を実現する制御系について考察する。以下では、磁束を含めた状
態変数が、状態(磁束)オブザーバなどで正しく得られるものとして話を進め
る。二次磁束を含めた制御対象の状態獲得法である状態オブザーバについては
次項で触れる。
6.3.3.1 非線形フィードパックによる座標変換
制御対象は、先に述べたように固定子直交座標(J-9軸)上で表現された状
態を持ち、入出力量もd-,7軸上で表現される。つまり、被制御量である二次
磁束座標上の直交座標(dしゲ軸)で表現される量を陽に状態として持たない。
したがって、二次磁束座標上の量が陽になるように、(6.7)式に対し、前節回
様、変数変換を施す。
この結果、制御対象(八,八)は、二次磁束座標上の量を陽に状態に持つ制
御対象(P≒,P≒)に補償される。これは、(6.7)式に対し、二次磁束位相分の
回転行列による非線形フィードバックを施すことに相当する。この様子を図
6ぷこ示す。その結果、制御対象は、次式と見なすことが可能となる。
誓゜レ(恋+がサルサタよ)7 ̄
」叫│+土他
昨8)
+
dl伺
一
-
一
一
冶
⑤│巾言
Z♂・
昨9)
130
第6童ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
Rz東volta9e input type Plant
Current input type Plant
IM plant on rotor flux frame
図6.5:らパこよる座標変換後の二次磁束座標上で表現された誘導電動機
ノ
‰
図6.4:インバータとIMを組合わせた制御対象の定義
131
6.3.ベクトル制御系の構成の再考
面知
一
冶
(=ω辰)= 恥n+
訂凡。
(6jO)
「ズレ『£ミT≒‰
制御対象の一次電流ベクトルと一次電圧ベクトルは二次磁束座標上の直交座
標表現で、二次磁束ベクトルは固定子上の極座標表現で取り扱われることと
なる。
ベクトル制御が、一次電流指令値を励磁分とトルク分に分けて取り扱う制
御である以上、結局、なんらかの形で制御対象にこの非線形FBを施している
ことになる。例えぱ、二次磁束座標上の指令値を固定子上へ座標変換するため
に制御器内部で行っている磁束推定値(すべり周波数)を用いた座標変換、ま
たは、固定子座標上で得られる測定値を二次磁束座標上へ移すための磁束推定
値(すべり周波数)を用いて行われる座標変換などが、この非線形FBに相当
している。
6.3.3.2 状態フィードバックによる制御対象の非干渉制御
電圧入力形の制御対象几の場合は、6よ3jの非線形FBによる袖償で制御
対象は(6.8) (6jO)式げ‰)となる。この制御対象戸jま、削御人力が
二次磁束座標上の電圧である.被制御量は、d″軸上の磁束匹│、が軸上の巡流
ら・,でありヽこれらを二次磁束座標上の電圧む'=[勾へり1で、それぞれ独立に
制御するには、P≒をd'軸、が軸間で非干渉化する必要がある。
ここではヽ状態フィードバックFJ'=月仙バ抑匹│収げによる実現を考
える。後に述べるように、多くの非干渉制御は、以下の状態フィードバックの
簡易化されたものと考えることができる。非干渉化のための、状態フィード
バックを以下のように定義する。
=
り り
d gハU
む む
1
―
-
:」
〕士4
十Fy
1 6
A;17 -ωλj
恣フヘ
乞d/s
│」
i白
昨H)
匹│
0 0 1 0
1 1
この結果、制御対象芦jま、♂軸、が軸間が非干渉化された制御対象戸。として
補償される。
d一冶
│ _ 一包土今タダ匹己+た1びね ゴた9ド+た2
㈹
づ 翌を £r £,。
132
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
尚 」
一
冶
扮j+
一
(6j2)
粘Z″j乖
(ア玩
(6,13)
制御対象戸jま、♂軸、ゲ軸間で独立であり、制御入力である二次磁束座標上の
電圧が=[勾ろ・,〕で、♂軸上の磁束│伺、ゲ軸上の電流仏を独立に制御でき
るのである。
なお、(6j1)式の状態フィードバックには、非干渉化を行った後に残され
た自由度(た1沙2)が存在する.この自由度を用いることにより、制御対象の各
軸の応答性、安定性などの特性改善を図る事が可能と思われる。
一方、電流入力形の制御対象乃の場合は、前節の非線形FBによる補償で
制御対象は(6.9) (6jO)式(汽)となる。この制御対象爪は、制御人
力が二次磁束座標上の電流であるので、d'軸上の磁束匹│、ゲ軸上の電流仏を
それぞれ独立に制御することが可能である。電圧入力形の場合のように非干渉
制御が必要ないのである。ベクトル制御系の場合、電流人力形のインバータが
多用されるのはこのためである。
6.3.3.3 制御系の実現における問題点と従来の制御系との対応
これまでに6洛1項で定義したベクトル制御の目的を実現する制御系の構成
を示した。それは、制御対象几,八に対し、状態 ・の非線形FBと線形FBを
施し、制御対象の補償を行ない、♂軸、ゲ軸独立な制御対象斤むj)≒を実現す
るものであった。この様子を図6ぷこ示す。
この制御対象に対し、二次磁東沁を一定に保ち、トルク指令値に応じてト
ルク分電流裕9*を指令する制御系を外付けすることによりヽ直流機と同等の特
性が得られる。これがベクトル制御である。
この制御系構成のカギは、状態z'の掌握にある。しかし、この状態
・は、
二次磁束はもちろんのこと、一次電流についても、固定子上でしか測定でき
ず、実際には何一つ得ることのできない状態なのである。
この観測できない状態を如何にして獲得するかによって、「すべり周波数
形」、「磁束FB形」などのベクトル制御系の構成、特性の差が生まれる。実
際、従来のベクトル制御系では、次に述べるような様々な手法でこの問題を回
避し、ベクトル制御を実現している。
1.指令値での代用
二次磁束座標上の電流i6j9・,を直接測定することはできない.しかしヽ
電流指令値裕∴らぐは二次磁束座標上で与えられるためヽこれを持って
状態のね・バ9・,の代用とすることがある.
6.3.ベクトル制御系の構成の再考
IM plant on rotor flux frame with decouplin9
図吼6:非干渉後の二次磁束座標上での誘導電動機
IM p4anton rotorflux frame wilh decouplin9
図6.7:ベクトル制御の構成と構成する制御器
133
134
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
2.ダイナミクスの無視による状態の省略
良く行なわれるのが、二次磁束のダイナミクスの省略である。つまり、
匹│=訂・裕。と見なす.この結果、
・の状態│伺を仏で代用すること
が可能である。
3.推定
IMの数式モデル、もしくは状態オブザーバを用いて状態を推定する。
状態
・=[裕バ9引伺収]の推定に゜いては様々な手法が考えられる.
その手法については次章で取り扱う。
また、他の手法と組み合わせ、J″の状態の一部の崔定で済ます場合も多
い.ただしヽ
・=[裕八が,匹│ら』のうち、似。だけは他の手法で代用がき
かず推定せざるをえない。つまり、ベクトル制御系を構成する場合、収
だけは必ず系の中に存在する状態なのである。磁束FB形の磁束推定と
すべり周波数形のすべり周波数演算がこれに相当する。唯一の例外は、
磁束センサによる磁束の測定を行なう場合のみである。
4.測定値の座標変換
先に述べたように紅だけは、必ず推定を行なう。このため、推定二次磁
束座標上と固定子座標上の間については、測定値の座標変換を行なうこ
とができる.つまりヽ[裕バの]7=T(絞)吊心ら17としてヽ固定子座標
上での電流測定値仙ヽ仏に対しヽ信号処理を施すことによりヽ二次磁束
座標上の電流(厳密にはヽ推定二次磁束座標上での電流)裕,,らを得る
ことができる。
当然ながら、直接、状態の測定ができない以上、パラメータ変動に対して
ロパストかつ精度の良い、良質な状態推定が実現できれば、その推定値を用い
るのが好ましい。ただ、二次磁束が良好に推定される場合は、測定値の座標変
換も問題はないと思われる。
その他の手法は実装の都合上の簡易策(妥協策)である。以下では、従来
のベクトル制御系を例に、実際にどの様に状態j'を用意しているかを振り返っ
てみる。
・すべり周波数形の場合
すべり周波数形にも、様々なものが存在するが、基本的なものでは、各
状態は次のように用意される。
-
似。
すべり周波数演算から求める。これまで述べてきたとおり、これぱ
モデルによる極座標表現の二次磁束の位相を推定していることに相
6.3.ベクトル制御系の構成の再考
135
当する。ここで注意すべきは、すべり周波数演算の入力として他の
状態である│伺,仏を必要とすることである。これらの状態につい
ては以下で述べる。
づ伺
二次磁束のダイナミクスを省略し川糾=財jわとして仏で代用
するものが多い。
 ̄ Zd″jμ9″j
指令値で代用する。他の二つの状態と合わせて考えれば、結局、全
ての状態が裕パゲjこ帰結する.
この結果は、座標変換の非線形フイードバックも、非干渉制御の状態フィー
ドバックも、電流指令値からのフィードフォワードで代用されているこ
とを意昧している。
・磁束FB形の場合
磁束FB形の場合、多《は磁束オプザーバを構成し、その推定磁束を用
いることになる。さらに、ほぽすぺてが鴬流人力形の制御対象であるた
め、非干渉制御を必要としない点に注意するぺきである。
一紅,│伺
磁束オブザーバにより、固定子上で二次磁束の推定値が得られるの
で、これから大きさと位相を得ることができる。しかし、ほとんど
が制御対象が電流人力形の場合であり、非干渉制御に際して二次磁
束の大きさを必要としない。
ここで、磁束推定には電圧人力形のモデルを用いている点に注意し
ておく必要がある。つまり、ここで用いられる磁束は、制御対象の
出力変数である電圧から求められるものである。
 ̄Zj″ぷ1 1g″j
実現されている系のほとんどが制御対象が電流入力形の場合であ
るため、非干渉制御を必要としない。このため、これらの値は必要
ない。
従来形の磁束FB形は、非干渉制御則の必要のない電流入力形のインバー
タで駆動されているものがほとんどである。このため、磁東オブザーバ
のみで必嬰な状態を得ることができる。
つまり、すべり周波数形では、必要な状態は全て、指令値からFF的に求
められた値を代用している。これに対し、従来の磁束FB形では、必要な状態
136
第6傘ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
は二次磁束のみであり、その状態は、制御対象の出力変数である電圧から推定
されたものである。
こうして両制御法を比較してみると、従来のすべり周波数形がFF的な性
質を持ち、磁束FB形がFB的な性質を持つ理由は、この状態変数の獲得法に
あると言える。
6.3.4 ベクトル制御系における状態推定(磁束推定)
これまで述べてきた考え方によれば、磁束推定を含めた状態推定の優劣は、
直接、ベクトル制御系の優劣となる。前項での考え方は、ベクトル制御系内部
で、磁束(状態)推定を切り放して考える構成をとるため、磁束(状態)推定
の方法自体は自由に選択することが可能である(図6.8)。本項では、様々な状
態推定法の比較、検討を行なう。
6.3,4.1 モデルによる状態推定の比較検討
状態推定に用いるモデルには、前章で述べたように、固定子上の(6.7)式、
二次磁束座標上の(6.10)式などが考えられる。すべり周波数形は二次磁束座
標上のモデル、磁束FB形は固定子上のモデルを基本とする。しかし、基本的
にぱ同じモデルであり、モデルの選択により、状態推定に優劣は生じないこと
は既に第4章で述べた。
注意すべきは、モデルの人力量と、その人力量の表現される座標系の関係
である。例えぱ、二次磁束座標上のモデル(すべり周波数形)の場合なら指令
値を、固定子座標上のモデル(磁束FB形)の場合ならば測定値を、それぞれ
のモデルヘの入力量として用いている。この組み合せによれぱ、座標変換を経
ることなく、直接、モデルヘの入力とすることが可能である。
モデルによる磁束推定の場合、パラメータ変動など状態推定の精度を劣化
させる要因は多く、従来行われている構成、すなわち、座標変換を極力避ける
構成は理にかなっていると思われる。そして、この選択が、結果的に両制御法
のFF、FB的性格を決定していることは、既に述べた通りである。
6.3.4.2 オブザーバによる状態推定の比較検討
前項では、状態推宛に関してモデルによる差はないとしたが、オブザーバ
化、ロバスト設計などを考慮すると、線形のモデルである固定子上のモデルの
方が有利であると言える。
実際、磁束推定に固定子上でのモデルを用いる磁束FB形においては、状
態(磁束)オプザーバについての研究が盛んに行われている。そして、第2章
で示した様に、当然、モデルによる状態(磁束)推定に比べ、適切な設計の施
されたオブザーバによる状態推定の方が良好な結果が得られている。電圧入力
6.3.ベクトル制御系の構成の再考
137
督stateくx'=[ij心洵slλΓ10{]
irlptJt lM model(state observer〉otJt ut
図6.8:ペクトル制御における状態推定部の分離
138
第6童ペクトル制御の構成に関する制御理論的考察
形のインバータに駆動される場合を例に、固定子上のモデルをもとに構成され
た状態オブザーバを用いたベクトル制御系の構成を図6刈こ示す。
一方の二次磁束座標上のモデルを用いるすべり周波数形であるが、そもそ
も、二次磁束を陽にしない点をその制御法の特色としている。したがって、す
べり周波数演算が、二次磁束座標上で表されたIMモデルによる、極座標表
現での二次磁束推定に相当することを陽に取り扱われる事もなかった。このた
め、制御系全体の見通しが悪化し、磁束推定(すべり周波数演算)のオブザー
バ化という認識が生まれにくかったと言える。
また、二次磁束座標上でのモデルは、非線形であるために、真っ向から磁
束オブザーバの構成を考える事は容易ではない。そこで、第4章では、両モデ
ルの座標変換関係を用いて、固定子上で設計されたオプザーバを二次磁束座標
表へ変換して用いる手法を示した。この結果、様々な線形制御理論による設計
結果を二次磁束座標上で構成されるオブザーバに対して適用することが可能
となった。この手法を用いて、固定子上のオブザーパ用に、二次抵抗変動に対
して低感度化を実現するように設計行ったフィードバックゲインを、二次磁束
座標上で構成されるオブザーバに適用した結果、良好な結果が得られている。
電圧人力形のインバータに駆動される場合を例に、二次磁束座標上のモデルを
もとに構成された状態オブザーバを用いたベクトル制御系の構成を図610に
示す。
モデルによる状態推定を考えたときに問題になったモデルの入力量とその
入力量の表される座標系の組み合せの関係については、精度の良い座標変換さ
え実現できれぱ、指今値を固定子上で用意したり、測定値を二次磁束座標上で
得たりすることが可能である。つまり、ロバスト設計されたオプザーバにより
状態推定を行う場合、構成上の繁雑さを考えなけれぱ、モデルとその入力量の
組み合せは白由であると思われる。例えば、指令値を固定子上のモデルの入力
として磁束推定を行なうFF的磁束FB形、観測量からすべり周波数演算を行
なうFB的すべり周波数形など、従来あり得なかった組み合せによる状態推定
(ベクトル制御)もあり得る事になる。しかし、実装を考慮した場合、使用す
るインバータにより、良質な測定値が得られるかなどの点で組合せが限定され
たり、優劣が決定されることになる。
6.4 結言
本章では、ベクトル制御の双壁である、すべり周波数形と磁束FB形の両
制御法の共通点、相違点を明らかにした。両制御法の比較から、磁束FB形同
様、すべり周波数形も、「すべり周波数演算」という形で、極座標表現の二次
磁束推定を行なってることを確認し、この磁束情報の棲得の相違こそが両制御
法の特性の差を生むことを明らかにした。これは同時に、ベクトル制御系を構
成するその他の制御は、両制御法とも共通であることを意昧する。
6.4.結言
139
これらの結果を踏まえて、すぺり周波数形、磁束FB形とを区別すること
な《、より一般化した見地からベクトル制御系の構成を検討した。そして、ベ
クトル制御系が、座標変換という非線形フィードバック、非干渉化という状態
フィードバック、そしてそれらを実現するための状態推定から構成されること
を示した。ベクトル制御系の差異は磁束を含めたIMの内部状態をいかにして
獲得するかに集約されている。 さらに、すべり周波数形、磁束FB形の各ペ
クトル制御系の位貴付けを確認し、それそれの特性の差が何に起因するものな
のか、その優劣はどの様に決定されるかを明らかにした。以上の検肘の結果、
従来、磁束FB形に比べ、制御論的なアプローチが困難であったすべり周波数
形に対して、磁束FB形で得られた様々な制御理論の成果の適用による性能改
善が可能であることを示した。
本章は、従来、立て割り的であり、相亙の見通しの悪かったベクトル制御
に新たな視点を与えるものである。この視点の導人により、従来、部分的、付
加的な導入であった制御理論を本格的に導人したベクトル制御系を構成するこ
とが可能となる。
140
第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論釣考察
C£j/79耐
command
θzzr心)r y7a 升・2mE--→│・--θz
図6.9:固定子座標上で構成される状態(磁束)オプザーバを持つ電圧入力形
インバータで駆動のベクトル制御系
141
6点結言
θ17roな)Γβ心:升a斑ど
θz15・越帥r升a謂ど--
図6.10:二次磁束座標上で構成される状態(磁束)オプザーパを用いた電圧人
力形インバータ駆動のベクトル制御系
142 第6章ベクトル制御の構成に関する制御理論的考察
第7傘
結論
7.1
本研究で得られた成果
電動機は、現代社会において欠くことのできない基本的な要素部品である。
故に、電動機制御は、比較的早くから様々な研究が行なわれ、技術的には完成
の域に達しつつあると思われていた感があった。しかし、現代の高度化した杜
会においては、市場の要求は日々高度化の一途をたどり、技術開発は立ち止ま
ることが許されない。ある技術の開発が、全《異なる分野の技術を新しい次元
に昇華させるのである。
電動機制御もその例外ではない。高性能電力変換器、コンピュータ、ベク
トル制御の発展が、誘導電動機制御に従来の考えもられなかった新たな可能性
を与えた。本研究で取り扱った誘導電動機によるサーボシステムぱ、まさにそ
の具体例である。
本研究では、既に、実用化が進められているベクトル制御技術の現状を振
り返り、より高度なベクトル制御を実現するに当たり、解決しなけれぱならな
い問題として次の点を取り上げた。
1.現在の実用化の主流ではないが、高性能化が期待される磁束FB形ベク
トル制御の実用化に不可欠なロバスト磁束オプザーバの設計と実装
2.ベクトル制御の幅広い分野での普及のための速度センサレス化
3.ベクトル制御に存在する二つの実装法、すべり周波数形と磁束FB形の
比較検討
4.電力変換器主導であり、見通しの良くない従来のベクトル制御の再考
本論文では、磁束オプザーバをベクトル制御の高性能化、ロバスト化に欠
かせない技術と佼麗付けたうえで、これらの問題に対し、ペクトル制御のある
143
144
第7童結論
べき姿を検討したものであり、誘導電動機による高性能サーボシステムーベク
トル制御系の実用化を支える技術の三つ柱の内、特に「ベクトル制御技術の発
展」を支える研究として位貴付けることができる。本研究で得られた結果は以
下の通りである。
1.磁束FB形における磁束オプザーバとしてのスライディングオプザーバ
の構成、ロバスト設計の提案、およびその実装
2.適応磁束オプザーバによるベクトル制御の高機能化
(速度センサレス化、パラメータ同定)
3.すべり周波数形と磁束FB形の相違点の比較検討と、すぺり周波数形で
の磁束オプザーバの適用
4.制御理論の導入を前提としたベクトル制御の再考とその構成についての
提案
これらの提案については、第2章から、第6章までの5章構成で述べた。以
下では、本研究で得られた成果を章ごとにまとめて述べる。
第2章では、磁束FB形の実現の鍵を握る誘導電動機の二次磁束推定オブ
ザーバについて、スライディングオプザーバの使用を提案し、その構成を示し
た。加えて、本研究では、誘導機のパラメータ変動に対するロバスト性を考慮
したオプザーバの新たな設計法を提案した。提案する手法の特徴は、次のよう
な特徴を持つものであった。
(a)パラメータ変動を外乱とみなし、外乱から二次磁束推定誤差への伝
達関数行列を考え、そのj靫ノルムをロバスト性の尺度として導入
し、オプザーバの外乱抑制能力、すなわち、パラメータ変動に対す
るロバスト性を定量的に評価する。
(b)パラメータ変動ごとに、磁束推定誤差を発生させる伝達関数行列の
構造が異なる点に着目し、考慮するパラメータ変動毎に、定量的に
与えた望ましい特性一設計仕様を満たす極配穀を明らかにする。
すなわち、提案する設計法は、磁束オプザーバにとって、重要な設計仕様
である、パラメータ変動に対する即応性、外乱抑制能力を満たす極配置を求め
るものである。
さらに、DSPを用いて、スライディングオプザーバの実機実装を行なった。
そして、スライディングオプザーバの特性、および、設計の有効性を実機実
験により確認した。また、設計した磁束オプザーバを用いて、磁束FB形ペ
7よ本研究で得られた成果
145
クトル制御を実現し、速度制御特性、およびロバスト性を持つことを検証した。
第3章では、第2章で提案したスライディングオプザーバにパラメータ同定
機能を付加した適応スライディングオプザーバの構成法を提案した。また、リ
アプノフの安定論を用い、パラメータ同定に用いる一般的な適応同定則を二種
類導出した。そして、速度センサレス化、および、二次抵抗同定を目的とした
場合の適応則を具体的に示し、同定可能条件の検肘を行ない、通常の誘導電動
機の駆動状態において、問題にならないことを示した。そして、コンピユータ
シミユレーション、および、実機実験により、提案する適応スライディングオ
プザーバによる速度センサレス制御の特性、および二次抵抗変動に対するロバ
スト性を確認した。
第4章では、まず、すべり周波数形と磁束FB,形との比較を行ない、すベ
り周波数演算は、極座標表現で二次磁束を推宛していることに相当しているこ
とを示し、すべり周波数形と磁束FB形の差異は、結局、磁束推定に用いる状
態方程式の状態変数のとり方であることを示した。
その結果を用いて、第2章で磁束フィードバック形用として、磁束FB形
用にロバスト設計されたオプザーバより、すべり周波数形用の磁束オプザーバ
を導出した。そして、従来のすべり周波数形に比ぺ、ロバスト性が改善され、
導出に用いたオプザーバを用いた磁束FB形ベクトル制御と同等のロバスト性
を示すことをコンピュータシミュレーションにより検証した。
本手法では、両制御法の関係を用いて、磁束FB形用に設計したものから
導出する手法をとるため、すべり周波数形の非線形性に煩わされることはな
く、設計解析の容易な磁束FB形で培ってきたさまざまな研究成果を実装実績
の多いすべり周波数形で適用することが可能である。
第5章では、同様に、第3章で提案した磁東FB形用の適応オプザーバか
ら、すべり周波数形の適応オブザーバを導出した。そして、すべり周波数形で
磁束オプザーバを持つ速度センサレスベクトル制御を提案し、コンピュータシ
ミユレーションでその特性を確認した。
第6章では、第4章で行なった両制御法の比較を、さらに進め、両ペクトル
制御法の構成の相違点を子細に検肘した。その上で、両制御法を区別すること
なく、極めて一般的にペクトル制御を取り扱うことが可能となる提え方を提案
した。つまり、一般的にベクトル制御とは、誘導電動機に、座標変換という非
線形フィードバック、非干渉化という状態フィードバック、電流制御を施す制
御系で構成されると考えることができ、各ペクトル制御の差異は、各フィード
バックに必要な状態の獲得法に集約されると解釈できることを明らかにした。
提案するペクトル制御の捉え方が、従来のベクトル制御における制御器の
146
第7章結論
構成を検討した際に、一般的に語られている特性について制御理論的に説明を
与えることができ、制御理論の適用に適していることを示した。そして、提案
する捉え方の中で、ベクトル制御のひとつの理想形として、磁束オブザーバを
用いたベクトル制御の構成について述べた。
以上が、本研究で得られた成果であり、今後、ますます高度化するであろ
う性能要求に対処するため、一層、積極的な制御理論の導人が余煥なくされる
であろうベクトル制御に対して、新たな基礎的な知見を与えたものである。
7.2 今後の課題
本研究の成果により、ベクトル制御が制御理論を受け入れるための新しい
下地が整ったということができる。しかし、その下地の上で、明らかにされて
いるものは、その中核であるロバスト磁束オプザーバの構成、および設計法の
みであるのが現状である。新たな下地の上で、豊かな実りが得られるかどうか
は今後の研究による。今後の課題について以下に述ぺる。
Lより高度かつ、現実的なロバスト化
現段階で提案している磁束オプザーバのロバスト設計法は、各パラメー
タの変動ごとに最適な極配貴を求めることにより、磁束の推定誤差を抑
圧するものである。しかし、実際は、複数のパラメータが同時に変動す
る。このような場合、複数の排反する設計条件を満たさなけれぱならな
い場合が多い。このような場合にどのような評価で妥協点を求めるかが
問題となる。
2.パラメータのオートチューニング
磁束オブザーバをロバスト化は、パラメータ変動のロバスト化に有効で
あるが、実際には、その磁束オブザーバを構成するために、ある程度の
正確さでパラメータを把握する必要がある。序論でも述べたように、パ
ラメータ測定は容易ではない。誘導機制御を手軽なものにするためにも、
オフラインでのパラメータ測定も自動で行なう機能が望まれる。さらに、
変動の幅が広いなどのロバスト化で対処できない場合でも、ロバスト性
を確保するため、オンラインで複数パラメータのオートチューニング機
能を実現する手法を確立する必要がある。
3.速度センサレス時のパラメータ変動に対する速度推定のロバスト性の問
題
パラメータ変動時における磁束推定のロバスト性について、既に述べた
通りであるが、速度センサレス時には、速度推定のロバスト性も問題と
なる。特に、速度センサレス時の二次抵抗変動は、速度推定の誤差を生
7.2.今後の課題
147
じ、通常運転時においては、その影饗を除去することは、原理的にほぽ
不可能であることが明らかにされている[52口朔.しかし、この問題を
回避するために、久保EHら[37038]は、励磁錐流を変動させることによ
り、速度の推定誤差を二次抵抗の変動の影響から分離させる手法を、上
町ら[55]は、数式上では演算できない量が、実機上では測定外乱の影響
で問題なく演算できる点に着目した手法を提案しており、何らかの工夫
で回避できる可能性が皆無とはいえない。いずれにしても、本問題は実
用化の際に避けて通れない問題であり、何らかの対策を立てねぱならな
い研究課題である。
4.ベクトル制御を構成する各制御器の設計
本研究で、ベクトル制御を構成する各制御器の構成を明らかにした。し
かし、それぞれの制御器のうち、具体的に設計法を示したのは、状態オ
プザーバとしての磁束オプザーバのみである。他の制御器については、
現在のベクトル制御でどのように扱われているかについて言及したが、
具体的な設計方針についは、今後の課題である。
高性能電力変換器、高速演算可能なコンピュータを載せた一枚の翁板を付加す
ることにより、誘導電動機でありながら、あたかも直流機の様に取り扱うこと
のできる、そのようなドライプシステムの実現こそが本研究の究極の目的なの
である。
148 第7章結論
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謝辞
本研究の遂行ならびに本論文の作成に際し、終始並々ならぬ御指導と御鞭
捷を賜わりました名古厘大学工学部電気学科教授工学博士大熊繁先生に心よ
り御礼申し上げます。本研究に対して数々の御指導を賜わりました名古凰大学
工学部電子賛服工学科教授工学博士内川嘉樹先生に御礼申し上げます。本論
文をまとめるにあたり、貴重な御助言を賜わった名古屋大学大学院工学研究科
電子機械工学専攻教授工学博士末桧良一先生に深く感謝致します。
本研究の遂行に際して、数々の御助言、御援助を下さいました束北大学工
学部機械電子工学科教授工学博士羽根一博先生に心から感謝致します。ま
た、特に研究の初期において、熱心に御肘論頂き、数々の御助言を頂きました
名古屋大学工学部電子肯報工学科助教授工学博士古橋武先生に心より感謝致
します。
本研究は、タイ国Dept .of EledricaI Eng, ,Faculty of En1,Chulalogkorn university,Dr、Somboon Sangwongwanich先生の御指導に負う所が大であります。
在日中はもちろん、帰国後に至りましても多大な御指導を頂きました。深く御
礼申し上げます。また、名古屋大学工学部電気学科助手工学博士鈴木達也光
生には、日頃より熱心に御討論頂き、有益な御助言を頂きました。深《感謝致
します。
本論文の第2章、および実験装置の製作に関しては、(株)東芝米本剛氏
に、第3章、ならびに実験装萱の保守については、名古屋大学大学院工学研究
科博士課程前期課程2年高橋和孝氏に、また第4章につきましては、三菱電
機(株)金原義彦氏に、それぞれ多大な御協力を頂きました。ここに厚《御
礼申し上げます。
本研究を進めるに当たり、物質的にも精神的にも恵まれた環境を用意して
頂きました。諸先生方の御尽力は言うに及ぱず、名古屋大学工学部奄気学科技
官藤原文治氏を始め、筆者と同時代に内川研究室、大熊研究室に所属した諸
氏の公私に渡る御協力の賜であります。深《感謝致します。
筆者が研究に専念することができたのは、両親始め家族の理解と協力があっ
たれぱこそです。末筆ながら、家族、特に両親に対して心よりの感謝の意をもっ
て、この論文の締めくくりとさせていただきます。
155
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