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高付加価値を低コストで生み出す 微細・精密加工技術

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高付加価値を低コストで生み出す 微細・精密加工技術
高付加価値を低コストで生み出す
微細・精密加工技術
Precise Micro Machining Technologies
あらまし
56, 6, 11,2005
情報処理機器では半導体デバイスとともに多くの精密機構部品を使用している。とくに,
ユビキタスコンピューティング時代のツールとして,その利用分野の拡大を目指して小型・
高機能化を進めている携帯電話,小型情報処理端末や通信機器に用いる機構部品,次世代の
高機能デバイスでは微細化,高精度化,高品質化が不可欠となっている。富士通では,これ
らの高付加価値を低コストで製造するための加工技術を「ものづくり」の基盤技術ととらえ
て開発を推進している。
本稿では,精密機構部品や次世代デバイスの加工技術開発として取り組んでいる,超精
ち
密ラップ加工技術,マイクロレーザ加工技術,精密射出成形技術,および精緻プレス技術開
発の取組み状況について製品製造への適用事例を中心に,その概要を説明する。
Abstract
IT equipment contains many different precision-machined parts, such as semiconductor
devices. Therefore, developing the next generation of compact mobile phones, IT terminals,
and other highly advanced devices for the ubiquitous computing era requires parts of fine
detail, high precision, and high quality. Fujitsu’s advanced processing technologies allow us
to manufacture high-quality, highly value-added precision-machined microcomponents at
low cost.
This paper introduces four practical examples of these precise processing
technologies: super-precision lap processing, micro-laser machining, precise injection
molding, and fine-detail metal pressing.
558
松下直久(まつした なおひさ)
柳田芳明(やなぎだ よしあき)
塚原 亨(つかはら とおる)
ものづくり推進本部 所属
現在,ナノメータ生産技術の開発に
従事。
生産技術開発統括部 所属
現在,精密加工技術および設備の開
発に従事。
ネットワークローコスト推進統括部
機構センター 所属
現在,微細プレス加工技術の開発に
従事。
FUJITSU.56, 6, p.558-564 (11,2005)
高付加価値を低コストで生み出す微細・精密加工技術
ま え が き
下,ELG素子)と呼ぶ抵抗素子を形成しており,
この素子の抵抗変化をモニタリングしながら個々の
「ものづくり」とは付加価値を生み出す行為であ
ヘッド部における加工圧力を個別に制御してロウ
り,その基本になるものが加工技術である。ものづ
バー内での圧力分布を発生させてそれぞれの磁気
くりが中国中心になってしまった現在,日本でのも
ヘッド素子加工量の最適化を行うものである。個々
のづくりの復権のために,ものづくりのためのより
の磁気ヘッド部での加工圧力制御には電空レギュ
高度な技術開発が必要と考えている。とくに,小
レータで空気圧を制御したマイクロシリンダとリン
型・高機能化を進めている情報処理機器や通信機器
クによる駆動力伝達機構の組合せによる多点アクチ
に用いる電子デバイスや機構部品では微細化,高精
エータを開発し,分解能1 nmの制御を実現した
度化,高品質化が不可欠となっており,富士通は,
これらを低コストで製造するための加工技術開発を
進めている。
(図-1)
。
本ラップ加工では各ELG素子の抵抗値が同一と
なるように多点アクチエータを個々に制御するので
本稿では,精密機構部品の加工技術として,超精
あるが,前述のように複数のヘッド素子が一列に並
密ラップ加工技術,マイクロレーザ加工技術,精密
んだロウバーでの加工のため,複数のアクチエータ
ち
射出成形技術,および精緻プレス技術の取組みにつ
による加工圧力変化が相互に干渉し合い,特定の素
いて製品製造への適用事例を含めて,その概要を説
子部の加工圧力を変化させると他素子部の加工圧力
明する。
が変化することになる。これに対して複数個の
超精密ラップ加工技術
ELG素子の抵抗変化からそれぞれの磁気ヘッド素
子部での最適加工圧力を制御する方法として最小二
富士通は,磁気ディスク装置製造において重要な
乗法を応用した多点制御アルゴリズムを考案した。
加工技術として超精密ラップ加工技術の開発に取り
具体的にはそれぞれのELG素子の抵抗値から予測
組んでいる。本章では,大容量の画像,音声データ
したロウバーの形状と線対称となる曲線を加工目標
を扱うモバイル機器やデジタル家電の高機能化に向
形状とし,この目標形状から現在の形状を減じたも
けて小型・大容量化を進めている磁気ディスク装置
のからそれぞれの変形曲線の組合せにより偏差を最
用の磁気ヘッドスライダ製造における超精密ラップ
小にする方法である。これにより多点アクチエータ
加工技術の適用について説明する。
制御による各磁気ヘッド素子部での最適な加工圧力
アルミナチタンカーバイト(Al2O3-TiC)基板上
に形成された磁気ヘッド薄膜の磁気抵抗層やギャッ
プの高さをナノメータレベルの精度で一定にする工
と
程に,微細ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工を
制御を実現した。
● シミュレーションを活用したラップ制御技術の
開発
ラップ加工における単位時間あたりの材料除去量
適用している。富士通では,ダイヤモンド砥粒や
ラップ定盤のコンディション管理技術といったラッ
多連エア
シリンダ
プ加工技術の開発と同時に,加工品質をリアルタイ
長リンク
×3
ムに確認しながら自動制御するラッピングマシンの
機構開発や制御技術を開発し,高い加工精度を実現
している。
● 多点加工圧力制御ラップ加工機構および制御技
術開発
磁気ヘッド素子が形成された基板から複数の磁気
ヘッド素子が一列に並んだ状態のバー(以下,ロウ
バー)に切り出し,このロウバー単位でラップ加工
をするものである。ロウバー内のそれぞれの磁気
ヘッド素子部間にはElectrical Lapping Guide(以
FUJITSU.56, 6, (11,2005)
短リンク
×4
長リンク
回転軸
短リンク
回転軸
図-1 多点アクチエータの構造
Fig.1-Structure of multi points actuator.
559
高付加価値を低コストで生み出す微細・精密加工技術
(以下,ラップレート)は,加工圧力と,ラップ定
の自動化を行ったものであった。この実用化から
盤と被加工物の相対速度の積に比例する特性をラッ
レーザ溶接の高い品質と接合信頼性を確認し,その
プ制御技術に適用した。ここでは構造解析ツールを
後ハードディスク装置用磁気ヘッドサスペンション
活用して得られたラップ加工中におけるロウバーと
のスポット溶接組立や光通信用デバイスやモジュー
ラップ定盤間に生じる圧力分布やロウバーとラップ
ルの調芯 組立などへと活用を拡大してきた。それ
定盤との相対速度とからロウバー内のラップレート
ぞれ,使用部材の薄箔 化に伴う微細スポット化や
分布をシミュレーションする方式を確立した(図-2)
。
設備投資を最小限にするための高速加工化,レーザ
ここで得られたラップレート分布を前述の相互干渉
照射時に発生する熱 歪 や凝固収縮による変形量の
を考慮した加工圧力制御手法に加味することで,よ
(1) 図-3は突合せ溶接時
制御などを実現してきている。
り一層の高精度加工を実現した。
の変形挙動をモニタリングするための6軸力覚セン
しん
はく
ひずみ
以上,磁気ヘッドスライダ製造への超精密ラップ
サを組み込んだレーザ溶接機の例であり,リアルタ
加工技術の適用について説明した。今後は,この磁
イムで変形力の大きさと変形方向のモニタリングが
気ヘッドスライダの製造で築き上げた制御技術やシ
できる。このような結果から変形を最小限にする部
ミュレーション技術の一層の高度化を進め,次世代
品形状や製造設備構造などの最適化やレーザ照射条
の高機能デバイス製造への展開を図る予定である。
件の最適化を実現してきている。最近では,低コス
マイクロレーザ加工技術
トのレーザ溶接技術として高輝度レーザダイオード
を使用した樹脂部品のマイクロ溶接技術を開発し,
精密機械加工と同様に数多くの製造ラインの中で
携帯電話に使用する小型カメラ部品のレンズ固定工
レーザ加工を行っている。本章では,精密機構部品
程への適用を図った。これにより,従来からの接着
やデバイス製造のためのレーザ加工技術開発と製品
剤による固定に代わる組立方式を確立し,製造時間
製造への適用状況について説明する。
の大幅な短縮と製造設備の低コスト化を実現した。
● 溶接技術開発と応用
● フォーミング,ベンディング技術開発と応用
富士通におけるレーザ加工技術の本格的な取組み
一方,溶接以外の応用として,金属薄板のフォー
は,1980年代初期にワイヤドットプリンタ用のプ
ミング,セラミック材のベンディングといった変形
リントヘッドの組立工程にパルス発振YAGレーザ
(2) 金属薄板の
加工の応用技術開発を進めている。
を利用したスポット溶接技術を適用したことに始ま
フォーミング技術の応用では,磁気ディスク装置用
る。これは,ほかの溶接方法と比較して変形が少な
磁気ヘッドサスペンションのロール角およびピッチ
く高強度の溶接ができる,非接触で特殊な雰囲気が
角修正に適用し,プレス成形加工のみでは精度維持
不要とういうレーザ加工の特徴を活用して組立加工
が困難であるとか,組立工程を経る中で変形してし
まうといった極薄箔製機構部品を振動特性の劣化を
発生させることなく±0.01°の精度で形状修正する
技術を確立し量産製造に適用してきた。また,セラ
ミック材のベンディング技術の応用では,磁気ヘッ
ドスライダ浮上面形状修正に適用した。磁気ヘッド
スライダの製造では,研削やラップといった砥粒加
工工程を経る中で材料表面近傍に残留した加工歪み
がスライダの変形を誘発し,要求される形状精度を
得ることが大変難しい部品の形状をナノメータレベ
ルで修正を行うものである。具体的には,スライダ
(a)2次元シミュレー
ション
(b)3次元シミュレー
ション
図-2 ラップレートシミュレーション
Fig.2-Simulation of lap rates.
560
の浮上面形状測定結果からレーザ照射スポット位置
を自動算出する方式を開発し,±3 nmの精度での
形状修正を実現した。
FUJITSU.56, 6, (11,2005)
高付加価値を低コストで生み出す微細・精密加工技術
Fx
Mx
Fy
My
Fz
Mz
0.60
0.1
0.40
0.08
0.20
0.06
0.00
0.04
- 0.20
0.02
- 0.40
0
- 0.60
-0.02
- 0.80
-0.04
- 1.00
-0.06
- 1.20
-0.08
- 1.40
7,40 0
7,42 0
7,4 40
7,46 0
7,48 0
7,500
7,52 0
7,54 0
7,560
7,58 0
モーメント (kgcm)
変形力 (kgf)
3点 同 時 溶 接 時 の 変 形 (サ ン プ リ ン グ 周 期:1 ms)
-0.1
7,60 0
時 間 (ms)
図-3 溶接変形のインプロセスモニタリング
Fig.3-In-process monitoring of deformation at laser welding.
●
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)
デバイス製造への応用
さらに,市場が急速に拡大してきているMEMS
デバイスの製造でもレーザ加工を重要な技術として
位置付け,積極的な技術開発と量産展開を推進して
いる。これらのデバイスではシリコンやガラスと
いった材料が主要材料として使われており,従来か
らの機械加工では微細化が難しい,加工効率が低い,
加工時の振動や衝撃で素子が破壊してしまうといっ
た欠点を有していた。これに対して,非接触で加工
が可能,波長を適宜選択することで幅広い材料の加
サポートビーム切断状態拡大
工が可能というレーザ加工の特徴を有効活用してい
る。図-4はMEMS光スイッチの製造にレーザ加工
を適用した例である。シリコンマイクロマシニング
図-4 MEMS光スイッチ・サポートビーム切断
Fig.4-Laser cutting of support-beam in MEMS device.
手法で形成されたMEMS素子部はパッケージング
工程中で衝撃により破壊してしまう場合がある。こ
長:355 nm)を使用しており,幅4∼5μmの微細
れに対してサポートビームと呼ぶMEMS素子部固
切断を実現した。
定用の補強梁を形成し,これを最終工程で切り離す
また,MEMSパッケージ材料としての活用が注
という製造方法で素子破壊を防止している。このサ
目されている陽極接合したガラス,シリコン2層積
ポートビーム切断には第3高調波YAGレーザ(波
層基板およびガラス,シリコン,ガラス3層積層基
FUJITSU.56, 6, (11,2005)
561
高付加価値を低コストで生み出す微細・精密加工技術
板のダイシング技術として,ガラス基板とシリコン
基板の接合面の切断線上に数百μmの空間を設け,
ガラス基板側からシリコン基板表面に焦点を合わせ
た状態で基本波YAGレーザ(波長:1.064μm)を
照射することで積層状態の基板を一括切断する技術
(3) これにより低衝撃のダイシングが可
を開発した。
能となり,従来からの砥石を用いたダイシングに代
わるダメージレスダイシングを実現した。
以上,富士通におけるレーザ加工技術の取組み状
況について概要を説明した。今後,さらなる微細化,
高機能化を進めているデバイスを高品質,低コスト
で製造するための技術確立に向けて更なるマイクロ
レーザ加工技術の開発を推進していく。
精密射出成形技術
図-5 導光板成形用金型の外観とプリズムパターン
Fig.5-Injection mold of light guide plate and prism
pattern of mold surface.
情報処理機器では前述の各種精密機構部品加工に
加えてパソコンや携帯電話のケース類や液晶ディス
板成形用金型の場合には切削長さは1 kmを超える
プレイ(LCD:Liquid Crystal Display)用のバッ
場合もあり,快削性を持たせた特殊な無電解ニッケ
クライト導光板を代表とする精密光学部品といった
ルメッキを開発することでダイヤモンドバイトの長
プラスチックス製部品も多用している。本章では,
寿命化を図り,大型導光板の成形用金型の製造を実
これらのプラスチック部品を大量生産する生産技術
現した。
として取り組んでいる超精密金型加工技術開発と
さらに,ユビキタスコンピューティングの拡大に
してLCD用バックライトユニット導光板成形用
伴いLCDバックライトでも低消費電力化を進めて
超精密金型加工を紹介し,さらに射出成形CAE
おり,この実現に向けて導光板の出射効率向上や輝
(Computer Aided Engineering)の精密成形への
度分布の均一化に向けて,より一層の微細・高精度
適用について紹介する。
化や自由曲面を有するプリズムパターン金型加工の
● 超精密金型加工技術の開発
開発に取り組んでいる。
LCDバックライト導光板はアクリル樹脂などの
なお,このような光学部品の射出成形における微
透明プラスチックスを材料として,液晶パネルに向
細パターンの精密転写,光学的透明性の確保などの
かい合う面に導光板内を伝播する光の内部反射や出
ため,より高度な金型温度コントロール技術や材料
射角度をコントロールするための深さ数μm∼30μm,
ペレットへの異物混入対策など一般成形条件以外の
ピッチ数十μm∼200μmの微細なプリズムパター
製造条件の見極めや対策技術の開発を平行して推進
ンを施している。この微細プリズムパターンを射出
している。
成形するための金型では表面粗さがRa2 nm∼5 nm
● 射出成形CAEの精密成形への適用
以下の平滑鏡面を有するプリズム面の加工技術開発
を行っている(図-5)
。
前述の精密光学部品の金型加工技術や精密射出成
形技術と平行して射出成形CAM(Computer Aided
富士通では,高硬度のステンレス鋼表面に無電解
Manufacturing)システム(以下,MOLDEST)
ニッケルメッキを数百μm形成し,プリズム断面形
(4) MOLDESTは,3次元CAD(Computer
を開発した。
状に成形した単結晶ダイヤモンドバイトを使用して
Aided Design)システムで設計された製品形状
シェーピング加工することで,精密な形状精度と表
データから量産成形時に必要な射出成形の最適条件
面粗さを有しながら成形時の温度や熱分解ガスに耐
を導き出すソフトウェアである。これにより量産製
える金型を実現している。とくにノートパソコンに
造開始時期に行う試打ち作業の低減を実現すると同
搭載される10インチ以上のLCDバックライト導光
時に,金型を成作する前から成形条件の適否を検討
562
FUJITSU.56, 6, (11,2005)
高付加価値を低コストで生み出す微細・精密加工技術
することを可能とした。これは,金型内に組み込ん
士通シンター(株){現在,駿河精機(株)}と共同
だ圧力センサと射出成形機内に組み込まれた圧力セ
で量産化したものである。ノズルプレートは燃料噴
ンサを用いて射出成形状況をモニタしている中で,
射ノズルの先端に組み込まれるもので,板厚0.1 mm
溶融樹脂の粘度特性値の精度を向上させれば射出成
以下のステンレス鋼板に髪の毛ほどの穴を約20°の
形CAEツールである樹脂流動解析の解析精度を大
傾斜で2方向に多数個の穴を設けた構造をしており,
幅に向上できることが可能であることを見出したこ
規定の流量と噴射角度を確保するために高い加工精
とが基本となっている(図-6)。富士通ではこの粘
度が求められる。
度特性値の測定方法として量産製造に使用する射出
● 斜め穴抜き加工技術開発
成形機を使用する手法を確立し,より実際に近い状
金属シートに斜め穴を抜くプレス加工では,量産
態における高い精度の粘度特性値を得ることを可能
時の良好な作業性を確保するため,カムによりプレ
としてきた。これにより,これまで定性的製造性検
スの上下動に連動してパンチを斜めに出し入れする
証ツールとしての活用しかできなかった射出成形
構造を開発し,金型も材料も斜めにせずに加工でき
CAEシステムを定量的な評価ツールとして活用で
る製造方法を確立した。
きるようにした。さらに,このようにして求めた粘
通常のプレス抜きではクリアランス(ギャップ)
度特性値を用いて最適な射出圧力プロファイルが得
を均一にするが,燃料噴射ノズルプレートの場合,
られるため,この結果を圧力波形追従型の射出成形
噴射性能を安定させるため燃料出口鋭角側は破断面
機に転送するだけで高品質の成形を行うことを可能
を極力少なくし,エッジに近い状態を確保する必要
としてきた。
がありクリアランスを偏芯させている。具体的には,
ベテラン技能者の腕によるサブミクロンオーダのパ
精緻プレス技術
ンチとダイの位置調整により,せん断面と破断面の
富士通では磁気ディスク装置用磁気ヘッドサスペ
発生位置との最適な割合調整を実施し,機械加工の
ンションやインクジェットプリンタ用インクジェッ
みでは実現不可能な高品質の加工を実現した。
トノズルの加工など情報処理機器の使用される高精
● テープラップバリ取り技術開発
度のプレス部品製造を通して精緻プレス技術を培っ
斜め穴をプレス加工したときに生じる数ミクロン
てきている。最近では,この精緻プレス技術をソ
の微小な抜きバリを除去する工法として,ピッチ送
リューションビジネスの柱として位置付け,情報処
りされるフープ材を研磨テープが微動送りされなが
理機器のみならず,それ以外の部品製造へも展開を
ら回転・旋回するテーブルに一定時間加圧し,抜き
図っている。本章で紹介する自動車燃料噴射ノズル
バリを除去するテープラップによるバリ取り技術を
プレート製造への適用は展開の一事例であり,旧富
開発した。これにより,穴エッジを崩すことなくバ
リのみを取ることができるようになった。
本技術で加工した自動車用燃料噴射ノズルプレー
シリンダ230℃-金型60℃-射出速度40 mm/s-保圧50 MPa-保圧時間5 s
圧力(MPa),速度(mm/s),位置(mm)
80
トの外観を図-7に示す。
70
● フープ対応プレス量産ライン構築
ロードセル圧力
60
前述の開発技術を盛り込み,フープ材に斜め穴を
スプル圧力
50
連続して加工する全長約8 mのコンパクトな量産ラ
射出速度
40
インを構築した(図-8)
。
30
第1工程(基準穴抜き)では,材料のうねりを取
キャピティ内
1圧力
20
キャピティ内
3圧力
るサイドカットと,ガイド穴開けを行う。
スクリュウ位置
10
第2工程(斜め穴抜き1)では,多数個取り金型
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
時間(s)
図-6 射出成形状況のモニタリング
Fig.6-Monitoring of injection molding process.
FUJITSU.56, 6, (11,2005)
1.4
を搭載してXYステージにより材料を移動させ片方
向の傾斜穴を一穴ずつ開ける。金型の出口ではパン
チ折れを監視し異常時にはラインを自動停止させる。
第3工程(斜め穴抜き2)では,同様に対向する
563
高付加価値を低コストで生み出す微細・精密加工技術
穴部拡大
穴部断面
図-7 自動車用燃料噴射ノズルプレート
Fig.7-Fuel injection nozzle plate.
図-8 自動車用燃料噴射ノズルプレート量産加工ライン
Fig.8-Mass-production line of fuel injection nozzle
plate.
傾斜穴を開ける。
む
第4工程(不良抜き)では,まれに生じるプッ
シュバックを検出し,不良部はラインを稼働させた
まま抜き落としている。
す
び
以上,富士通における微細・精密加工技術への取
組み状況の概要を説明した。「ものづくり」が中国
また,これらの状況の常時モニタリングとスタッ
を中心とした方向に進む中,日本国内での「ものづ
フの携帯電話への不良内容のメール転送機能の付加
くり」をこれまで以上に強いものにするため,より
により,金型やラインメンテナンスへの迅速な
高い付加価値を低コストで生み出すための微細・精
フィードバック体制を構築した。
密加工技術の更なる追求を進めている。とくにナノ
なお,本ラインは月産80万個の生産能力を持ち,
最長約80時間の連続自動運転を実現した。
現在,燃料噴射性能の更なる安定化に向けて破断
テクノロジを活用した生産技術,製造技術を重要分
野と位置付けプロセス開発,設備開発を推進して
いく。
面を出さないオールせん断面ノズルの加工法や,燃
料流入側あるいは出側テーパ形状を持つテーパ穴
オールせん断面ノズルの製造技術開発や大きい傾斜
角度,多方向ノズルの加工技術開発を進めている。
以上,精緻プレス技術のソリューションビジネス
参 考 文 献
(1) 松下直久ほか:情報家電における精密・微細加工.溶
接技術,Vol.52,第10号,p.67-71(2004)
.
(2) N. Matsushita:Laser Micro-Bending for precise
展開の一例として自動車用燃料噴射ノズルプレート
micro-fabrication of magnetic disk-drive components.
製造への適用を説明したが,燃料噴射ノズルには燃
Forth International Symposium on Laser Precision
費の向上と排ガスのクリーン化のますますの要求に
Microfabrication,SPIE Vol.5063,2003,p.24-29.
従って加工の難易度は高まる一方である。これを実
(3) 古井寿一ほか:YAGレーザによるガラス・シリコ
現すべく更なる精緻プレス加工技術の開発を推進し
ン積層材料の一括切断加工.第62回レーザ加工学会論
ていく計画である。またこれらの製造から得られた
文集,2004,p.145,ISBN 4-947684-54-2.
技術をMEMSデバイスなどの情報処理機器に使用
(4) 宮 澤 秋 彦 ほ か : 射 出 成 形 支 援 統 合 シ ス テ ム :
される微細機構部品製造などへの応用も推進する計
MOLDEST . FUJITSU , Vol.51 , No.5 , p.308-313
画である。
564
(2000)
.
FUJITSU.56, 6, (11,2005)
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