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自己意識がセルフ-ハンディキャッピング方略の選択に及ぼす

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自己意識がセルフ-ハンディキャッピング方略の選択に及ぼす
加藤典子
自己意識がセルフ- ハンディキャッピング方略の選択に及ぼす影響
Effect of Self-consciousness on Choice of Self-handicapping Strategy
1. 問題
自己意識とは、Duval & Wicklund(1972)の定義によれば「自分自身に対して注意が向
かっている状態」である。これが強まると、現実の自己と理想の自己像とが比較され、そ
のギャップが強く意識され、一時的に自己評価が低下し不快感が生じるため、その低減の
ための行動が動機づけられることになる。
この自己意識の個人差を Fenigstein ら(1975)が見出している。それは、自分の内面に
注意を向けやすい傾向である私的自己意識と、自分の外的、対人的側面に注意を向けやす
い公的自己意識の 2 つに分けられる。
また、公的自己意識の高い人には、「他者から賞賛されたい欲求」と「他者から拒否され
たくない欲求」の、2つの対人的欲求の強い人がいることが見出されている。(菅原 1986)
ある課題を遂行する際に、その結果の評価をあいまいにするために、課題遂行の妨害とな
る障害を自ら作り出す行為、または障害があることを主張する行為をセルフ-ハンディキャ
ッピングと呼ぶ。
Arkin & Baumgardner(1985)はこれを、言語で主張されるもの(主張的)と、実際に獲
得されるもの(獲得的)という次元に分類した。また、成功したときに自己評価を高めよ
うとするものを向上的、失敗したときに自己評価を維持しようとするものを防衛的セル
フ・ハンディキャッピングと呼んで、両者を区別している。
このような、セルフ-ハンディキャッピングを行う際の方法・動機に影響する個人的差異を、
自己意識特性などに注目して検証する。
<仮説>
① 公的自己意識の高い人は低い人に比べ、他者から見た自己像に注意が向き易いので、実
際に自らにハンディキャップを与える獲得的セルフ-ハンディキャッピングでなく、他者に
対して主張する主張的セルフ-ハンディキャッピングを選択しやすい。
② 私的自己意識の高い人は低い人に比べ、自分から見た自己像に注意が向き易いので、他
者に主張するのではなく、実際に自らにハンディキャップを与える獲得的セルフ-ハンディ
キャッピングを選択しやすい。
③ 賞賛されたい欲求の強い人は弱い人に比べ、他者から賞賛されることに対する欲求が強
いので、他者からの自分の評価を上げることを目的とした、向上的セルフ-ハンディキャッ
ピングを選択しやすい。
④ 拒否されたくない欲求の強い人は弱い人に比べ、他者から自分の評価下げられるのを恐
れるため、他者からの自己に対する評価が下がるのを防ぐことを目的とした、防衛的セル
フ-ハンディキャッピングを選択しやすい。
⑤ 自尊心の高い人は向上的動機により、低い人は防衛的動機により、セルフ-ハンディキャ
ッピングを採用しやすいという報告があり(Baumeister et al, 1989 ; Tice 1991)、日本で
は男性が女性より高い自尊心を持っているとの研究結果がある(井上 1981)ので、そこか
ら判断し、男性は女性に比べて、向上的セルフ-ハンディキャッピングを選択しやすい。
⑥ 仮説⑤と同じ理由から、女性は男性に比べて、防衛的動機によるセルフ-ハンディキャッ
ピングを選択しやすい。
2.
方法
被験者:2000 年 10 月 6 日(金)の社会心理学を受講している関西大学社会学部の学生 205
名(男 83 名 女 122 名)
手続き:「大学生の意識調査」と題する質問紙を配布した。質問紙は、自意識尺度日本語版
21 項目(菅原 1984)、他者からの評価に対する欲求についての 9 項目(菅原 1986)、日本
語版セルフ-ハンディキャッピングスケール(沼口、小口
1990)から 16 項目、自作のセ
ルフ-ハンディキャッピングスケール 13 項目から構成した。
3. 結果
それぞれの尺度を主因子法で因子分析し、プロマックス回転をかけ、全ての尺度で 2 因
子を抽出した。
・自意識尺度−私的自己意識因子、公的自己意識因子
・他者からの評価に対する欲求についての項目
−賞賛されたい欲求因子、拒否されたくない欲求因子
・日本語版セルフ-ハンディキャッピングスケール−主張的セルフ-ハンディキャッピング因子、反獲得的セルフ-ハンディキャッ
ピング因子
・自作のセルフ-ハンディキャッピングスケール−防衛的セルフ-ハンディキャッピング因子、向上的セルフ-ハンディキャッピング
因子
各因子得点を中央値で得点の高い群と低い群に分け、各群の人数でカイ二乗検定を用いて
仮説の検証を行った。
①公的自己意識−主張的 SHC χ2=9.476
②私的自己意識−反獲得的 SHC
χ2=3.791
p<0.05
p<0.1
③賞賛欲求−向上的 SHC
χ2=35.993
p<0.001
④拒否欲求−防衛的 SHC
χ2=12.888
p<0.001
⑤性別−向上的 SHC
⑥性別−防衛的 SHC
χ2=3.474
χ2=4.387
p<0.1
p<0.05
4. 考察
仮説①③④⑥に関しては、有意差がみられ仮説は支持された。仮説②⑤に関して有意差は
みられなかったが、有意傾向がみられた。
これらの結果から、セルフ-ハンディキャッピングを行うにあたって、自己意識特性や性
別などにより、それぞれ選択する方法や、その動機などが異なっていることが明らかにな
ったと言える。
また、従来セルフ-ハンディキャッピングには影響を与えていないと考えられていた私的自
己意識の高さが、獲得的セルフ-ハンディキャッピング、向上的動機によるセルフ-ハンディ
キャッピングに影響しているという結果が得られたことが今回の研究における収穫であっ
たと考える。
5. 引用文献
小口孝司 1990
沼崎誠
押見輝男
1992
Shpperd&Arkin
大学生のセルフ-ハンディキャッピングの二次元
自分を見つめる自分
1989
社会心理学研究,5,42-49
自己フォーカスの社会心理学
Self-Handicapping:
The
サイエンス社
Moderating
Roles
of
Public
Self-Consciousness and Task Importance
菅原健介
1986
賞賛されたい欲求と拒否されたくない欲求
心理学研究,57,134-140
[転載・引用をご希望の場合は必ず事前に下記までご連絡ください。]
著作責任者: 土田昭司[関西大学]
連絡先:
[email protected]
最終更新日:
2001年8月19日
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