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Kobe University Repository : Thesis

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Kobe University Repository : Thesis
Kobe University Repository : Thesis
学位論文題目
Title
航空輸送の規制緩和、民営化の効果と、そのベトナムへ
の応用
氏名
Author
NGUYEN THI THANH AN
専攻分野
Degree
博士(学術)
学位授与の日付
Date of Degree
2008-03-25
資源タイプ
Resource Type
Thesis or Dissertation / 学位論文
報告番号
Report Number
甲4157
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D1004157
※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。
著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。
Create Date: 2017-04-01
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
目次
目次
謝辞
第 1章
イ ン ト ロ ダ ク シ ョ ン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 1
1.1. イ ン ト ロ ダ ク シ ョ ン
1.1.1. 研 究 の 必 要 性
1.1.2. 研 究 目 的
1
1
3
1.1.3. 研 究 対 象 と 研 究 範 囲
1.1.4. 研 究 方 法
3
1.2. 論 文 の 内 容
4
1.3. 論 文 の 貢 献 の 予 測
第 2章
3
5
航 空 輸 送 に つ い て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 6
2.1. 航 空 輸 送 サ ー ビ ス の 特 徴
2.2. 航 空 輸 送 の 費 用
2.2.1. 費 用 構 造
6
8
8
2.2.2. 費 用 へ 影 響 を 与 え る 要 因
9
2.3. 航 空 輸 送 サ ー ビ ス の 需 要 分 析
2.3.1. 航 空 輸 送 の 需 要
10
10
2.3.2. 航 空 輸 送 需 要 と 経 済 成 長
11
2.4. 第 2 次 世 界 大 戦 後 の 世 界 の 航 空 輸 送 の 発 展
2.4.1. 戦 後 ~ 1978 年
11
2.4.2. シ カ ゴ 条 約 と バ ミ ュ ー ダ 協 定
2.4.3. ICAO と IATA
16
17
2.4.6. 将 来 の 航 空 ビ ジ ネ ス
第 3章
13
15
2.4.4. 1978 年 ~ 1991 年
2.4.5. 1992 年 以 降
11
18
ア メ リ カ の 航 空 輸 送 に お け る 規 制 緩 和( デ ィ レ ギ ュ レ ー シ ョ ン )
と そ の 影 響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
3.1. 規 制 緩 和 の 背 景
21
3.2. 規 制 緩 和 の 理 論 的 支 柱 と し て の 理 論
3.3. 規 制 緩 和 の 効 果
25
26
3.3.1. 規 制 緩 和 の 世 界 的 影 響
26
i
グエン
ティ
3.3.2. 規 制 緩 和 後 の ア メ リ カ 市 場 に つ い て の 評 価
3.4. 結 論
第 4章
アン/博士論文
目次
27
35
日 本 航 空 会 社 ( JAL)の 民 営 化 と そ の 影 響 ・・ ・・・・・ ・ ・ ・ 37
4.1. 日 本 の 航 空 輸 送 業 に つ い て
37
4.1.1. 第 2 次 世 界 大 戦 後 ~ 1970 年
37
4.1.2. 45- 47 体 制 の 確 立 ( 1970 年 ~ )
4.1.3. 規 制 緩 和 後 ( 1986 年 ~ )
4.2. 日 本 航 空 の 民 営 化
4.2.1. 経 営 実 態
38
39
43
43
4.2.2. 実 証 分 析 の 結 果 に よ る 民 営 化 の 影 響
4.3. 結 論
47
49
4.3.1. 日 本 航 空 の 民 営 化 か ら 学 ぶ
4.3.2. ベ ト ナ ム 航 空 へ の 応 用
第 5章
タイン
49
50
ベ ト ナ ム の 航 空 輸 送 の 自 由 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 54
5.1. ベ ト ナ ム の 航 空 輸 送 の 歴 史
5.1.1. 1956年 ま で
54
―フランス植民地と対フランス戦争―
54
5.1.2. 1956年 か ら 1975年 ま で
―対アメリカ戦争―
5.1.3. 1975年 か ら 1989年 ま で
― 国 防 省 に 管 理 さ れ る 民 間 航 空 輸 送 ― 55
5.1.4. 1990年 か ら 1995年 ま で
55
5.2. 航 空 輸 送 の 現 実 と 問 題 ( 1995年 ~ 2005年 )
5.2.1. 航 空 輸 送 の 現 実
57
5.3. ベ ト ナ ム の 航 空 輸 送 の 自 由 化 の 重 要 性
5.4.「 チ ャ ー タ ー 」 と の 競 争
61
62
62
5.4.2. 不 定 期 航 空 ・ チ ャ ー タ ー の 性 質
63
5.4.3. 不 定 期 航 空 ・ チ ャ ー タ ー の 発 展 過 程
5.4.4. 定 期 航 空 と の 競 争 に お け る 不 定 期 航 空
5.4.4.1. ク ー ル ノ ー 競 争 モ デ ル
65
5.4.4.2. ベ ル ト ラ ン 競 争 モ デ ル
77
5.4.5. 結 論
64
65
82
5.5. 日 本 の 航 空 輸 送 市 場 へ の 不 定 期 航 空 の 影 響
5.6. 結 論
56
56
5.2.2. ベ ト ナ ム の 航 空 会 社
5.4.1. は じ め に
54
82
86
ii
グエン
第 6章
ティ
タイン
ベ ト ナ ム に お け る 空 港 の 発 展 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 88
6.1. 空 港 と は
88
6.2. ダ ラ ス ・ ラ ブ ・ フ ィ ー ル ド 空 港 と サ ウ ス ウ エ ス ト 航 空
6.3. セ カ ン ダ リ ー 空 港 の 役 割
6.4.1. 直 接 的 な 競 争
92
6.4.2. 間 接 的 な 競 争
93
6.5. ピ ー ク 時 の 空 港
94
6.6. 日 本 の 空 港 状 態
95
6.6.1. 首 都 圏 の 空 港
95
6.6.2. 関 西 圏 の 空 港
98
6.6.3. む す び
91
100
6.7. ベ ト ナ ム 空 港 の 状 態
101
6.7.1. ベ ト ナ ム の 空 港 の 実 態
101
6.7.2. Noi Bai国 際 空 港 の 実 態
103
6.7.2.1. 空 港 の 実 態
103
6.7.2.2. 地 域 の 航 空 需 要
105
6.7.3. 混 雑 に な る Noi Bai国 際 空 港
6.8. ハ ノ イ 首 都 圏 第 2空 港 開 発
6.8.1. Gia Lam空 港 の 現 状
106
107
107
6.8.2. Gia Lam空 港 の 開 発 可 能 性
108
6.8.3. Gia Lam空 港 再 供 用 に よ る 影 響
6.9. 結 論
89
91
6.4. 空 港 に お け る 航 空 会 社 間 競 争
第 7章
アン/博士論文
目次
108
110
結 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 112
参考文献
114
付録資料
表と図の目次
第 2章
表 2- 1
営業費用の構造
表 2- 2
旅客需要の水準と伸びに影響を与える要因
表 2- 3
航空の自由
8
10
14
iii
グエン
表 2- 4
ティ
IATA の 国 際 定 期 航 空 サ ー ビ ス 1998~ 2002
タイン
アン/博士論文
目次
18
第 3章
表 3- 1
1977~ 1978 年 に 承 認 さ れ た 国 内 割 引 運 賃 ( 一 部 ) 23
表 3- 2
1978 年 当 時 の ア メ リ カ の 幹 線 会 社 と 国 内 総 有 償 旅 客 マ イ ル に
占めるシェア
24
表 3- 3
アメリカ航空業の年間の売り上げと利潤
表 3- 4
アメリカの幹線航空会社数の変化
表 3- 5
メ ガ キ ャ リ ア の 市 場 シ ェ ア ( 1990 年 1 月 時 点 )
表 3- 6
1988 年 の 世 界 の 大 手 航 空 会 社 の ラ ン キ ン グ
表 3- 7
航空事故による死亡者(合計)
図 3- 1
旅客・マイル当たりの収入(イールド)
図 3- 2
有償トン・マイル(旅客と貨物を合わせる)当たりの収入
図 3- 3
アメリカの定期航空の有償トン・マイル
図 3- 4
ハ ブ ・ ア ン ド ・ ス ポ ー ク の 模 型 34
30
31
31
32
33
28
29
33
第 4章
表 4- 1
JAL と ANA の 1966 年 ~ 1976 年 の 輸 送 実 績
表 4― 2
全日空の財務資料(連結)
表 4- 3
全日空の輸送実績
表 4- 4
日本の航空会社による国内定期航空輸送量の累年表
表 4- 5
日本の航空会社による国際航空輸送量の累年表
表 4- 6
JAL の 資 本 金 の 推 移
表 4- 7
JAL の 営 業 収 益 の 変 化 1976 年 ~ 1998 年 ( JAL 単 体 ) 44
表 4- 8
JAL の 連 結 損 益 計 算 書 ( 年 度 )
表 4- 9
JAL の 機 材 数 の 推 移
表 4- 10
38
40
40
41
42
43
45
46
民営化の影響を分析する結果
48
第 5章
表 5- 1
ベトナム市場の航空輸送実態
(旅客)
58
表 5- 2
ベトナム市場の航空輸送実態
(貨物)
60
表 5- 3、 表 5- 4
チャーターの市場参入の影響を分析する結果
83,84
図 5- 1
逆需要曲線・限界収入曲線・限界費用曲線(独占の場合)
図 5- 2
総費用曲線・平均費用曲線(競争の場合)
66
68
iv
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
目次
第 6章
表 6- 1
乗 降 客 が 多 い 日 本 の 空 港 の ラ ン キ ン グ ( 2005 年 度 )
表 6- 2
成田空港運用状況
表 6- 3
東京国際空港の輸送実績
表 6- 4
関空の輸送実績
表 6- 5
大阪国際空港の輸送実績
表 6- 6
ベ ト ナ ム の 民 用 空 港 ( 2005 年 時 点 )
表 6- 7
地域空港管理機関の航空実績
表 6- 8
1988 年 か ら 2005 年 ま で Noi Bai 空 港 の 旅 客 輸 送 の 成 長 率
表 6- 9
GDP 成 長 率 と 航 空 旅 客 輸 送 成 長 率 と の 関 係 を 分 析 し た 結 果 106
96
97
98
99
100
101,102
103
表 6- 10 2000m 以 下 の 滑 走 路 で 発 着 陸 で き る 航 空 機 の 例
表 6- 11 ベ ト ナ ム の 騒 音 基 準
104
108
109
図 6- 1
両社の同じ空港における競争
92
図 6- 2
両社の違う空港における競争
93
v
謝辞
本論文は多くの方々からのご指導、ご協力、ご支援によって完成されたもの
である。
学習面では、
まず、指導教官である神戸大学大学院国際協力研究科の駿河輝和教授には、
論文のご指導、学習の中の激励をして頂き、心から御礼を申し上げる。
研究生から 3 年間にわたってご指導をしてくださった共立女子大学国際学部
の仁科克己教授に厚く御礼を申し上げる。
2006 年 4 月 か ら 9 月 ま で ご 指 導 し て く だ さ っ た 神 戸 大 学 大 学 院 国 際 協 力 研 究
科の松永宣明教授に御礼を申し上げる。
航空輸送について貴重なアドバイスをしてくださった神戸大学経営学部の村
上英樹准教授に厚く御礼を申し上げる。
本論文の日本語の訂正をしてくださった神戸市立兵庫中学校北分校の黒坂文
男先生に心から御礼を申し上げる。
資 料 提 供 面 で は 、 ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 の Dinh Xuan Huong 副 局 長 、 ベ ト ナ ム
民 間 航 空 局 投 資 計 画 部 の Dinh Viet Thang 部 長 に ご 協 力 を 感 謝 す る 。
日本での留学生活面では、
ま ず 、国 費 留 学 生 と し て 、日 本 に 来 ら れ る チ ャ ン ス 及 び 、2004 年 4 月 か ら 2008
年 3 月までの奨学金を与えてくださった日本文部科学省、在ベトナム日本国大
使館、ベトナム教育訓練省に厚く御礼を申し上げる。
また、日本での生活と学習をサポートしてくださった国際協力研究科の先生
方とスタッフに御礼を申し上げる。
最 後 に 、離 れ て も 苦 労 を 越 え ら れ る 力 を く だ さ っ た 家 族 、主 人 の Duong Hoai
Nam と 愛 娘 の Duong Hoai Nam Phuong に 心 か ら 御 礼 を 申 し 上 げ る 。
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 1 章 イントロダクション
第 1 章.イントロダクション
1.1. イ ン ト ロ ダ ク シ ョ ン
1.1.1. 研 究 の 必 要 性
20 世 紀 の は じ め に 、ベ ト ナ ム か ら 大 勢 の 優 秀 な 青 年 が 日 本 に 船 で 留 学 に 来 た 。
そ の 当 時 、ベ ト ナ ム か ら 日 本 に 来 る に は 数 ヶ 月 か ら 半 年 も か か っ た 。21 世 紀 の
はじめの現在では、ベトナムの留学生は飛行機に乗ればわずか 4 時間半で日本
に 来 る こ と が で き る 。1986 年 ご ろ 、ハ ノ イ か ら ホ ー チ ミ ン 市 へ 行 く 交 通 手 段 は
バスか汽車しかなかった。バスで行くと、三日間かかり、汽車で行くと、1 週
間 ぐ ら い か か っ た 。1996 年 に は 、ハ ノ イ か ら ホ ー チ ミ ン 市 ま で 飛 行 機 を 使 う と
1 時 間 半 で 行 け る よ う に な っ た 。ハ ノ イ と ホ ー チ ミ ン の 間 を 朝 、早 く 出 発 し て 、
夕方に帰るという短い出張ですむようになったことは、昔のベトナム人にとっ
て奇跡的なことである。このような奇跡が可能になったのは、飛行機を利用す
る航空輸送業の発達のおかげである。日常生活で航空輸送が果した役割は本当
に大きい。経済全体で見れば、国内及び国際における旅客の移動需要や貨物輸
送需要に応じるとともに、税金を通じて国の予算に貢献した。そして、天災が
起こった時には、航空輸送は救助活動に役立つ。国民的な視点で見れば、航空
輸送により、遠い地方や外国の商品が簡単に手に入れるようになった。
世 界 の 航 空 輸 送 は 20 世 紀 の 初 期 に 誕 生 し た 後 、 進 歩 、 発 展 し て き た 。 特 に 、
第 2 次世界大戦後、世界経済の成長とともに、航空輸送は輸送量でもサービス
の 質・多 様 化 で も 急 速 に 成 長 し た 。現 在 の 成 果 が 達 成 さ れ た 一 つ の 要 因 は 、1978
年にアメリカで始まった航空輸送規制緩和及び、それによって広がった自由化
であると言われている。自由化の動きとともに、元々フラッグ・キャリアーで
ある国営航空企業の民営化も行われている。民営化後にうまく発展する会社も
数多くあるが、民営化により失敗を経験した会社も珍しくない。
航空輸送の規制緩和と民営化は先進国だけで行われているわけではなく、発
展途上国にも波及してきている。東南アジア諸国の航空会社は民営化と規制緩
和の過程を完了しつつある。フィリピンでは、政府は航空業界の活性化と株式
売 却 を 目 的 と し て 、 国 営 で あ っ た フ ィ リ ピ ン 航 空 ( PAL)を 1992 年 に 民 営 化 し
た 。さ ら に 、1995 年 に ラ モ ス 大 統 領 は 同 国 の 航 空 業 界 を 自 由 化 し 、フ ィ リ ピ ン
航 空 の 事 実 上 の 独 占 体 制 を 崩 し 、ラ イ バ ル 企 業 の 新 規 参 入 を 促 す こ と に よ っ て 、
航空業界の活性化を図ろうとした。具体的には、フィリピン発着の国際線につ
いて、フィリピン航空以外の国内航空会社の新規進出を奨励した。国際線の運
航権と運航ルートの変更については民間航空委員会の承認を必要とするものの、
国内線の運賃については複数の航空会社が運航する路線では原則自由化がなさ
1
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 1 章 イントロダクション
れ、自由な価格競争を奨励している。
タ イ 国 際 航 空 は 1992 年 に 増 資 を 行 い 、 株 式 を タ イ 証 券 取 引 所 に 上 場 し 、 7%
を民間に放出した。マレーシアでは、マレーシア航空に次ぐ第 2 の航空会社が
設立され、国際線市場に参入した。国内線についても、マレーシア航空のほか
に 、民 営 の ペ ラ ン ギ 航 空 、ベ ル ジ ャ ヤ 航 空 の 2 社( 1995 年 時 点 )が 営 業 し て い
る 。ま た 、 イ ン ド ネ シ ア で は 、ガ ル ー ダ ・ イ ン ド ネ シ ア 航 空 が 、株 式 の 25% を
市 場 に 放 出 す る 予 定 で あ る 。同 時 に 、従 来 国 内 線 専 用 で あ っ た セ ン パ チ 航 空 が 、
国際路線の開設を進めている。
ASEAN 諸 国 の み な ら ず 、ベ ト ナ ム と よ く 似 た 体 制 移 行 を 進 め て い る 中 国 に お
い て も 、 民 営 化 と 規 則 緩 和 が 活 発 に 行 わ れ 、 1984 年 か ら 90 年 に か け て 、 中 国
民航から 6 つの航空会社を分離独立させた。この分離は競争原理の導入による
効率化とサービスの向上をねらったものであり、各社は独立採算で自主的な運
航を行っている。6 社のうち、国際線の運航は国際航空と南方航空の 2 社が行
っ て い る 。こ の 他 に も 上 海 航 空 や ア モ イ 航 空 の よ う な 省 レ ベ ル の 航 空 会 社 な ど 、
50 あ ま り の 航 空 会 社 が 設 立 さ れ た 。中 国 政 府 は 民 間 航 空 分 野 の 対 外 開 放 を 打 ち
出 し 、90 年 代 半 ば に は 同 分 野 へ の 外 資 導 入 に 向 け て 、中 国 南 方 航 空 公 司( 広 東
省)と中国東方航空公司(上海市)の株式を香港か米国の市場に上場すること
を 決 め た 。( 戸 崎
肇 ( 1995)『 航 空 の 規 制 緩 和 』、 第 6 章 )
ベ ト ナ ム に お い て は 、1986 年 か ら 始 ま っ た ド イ モ イ 政 策 に よ っ て 、ベ ト ナ ム
経済は年々発展し、輸出入は増加し、その品目も変化している。貿易発展政策
において、輸入を徐々に減少させると同時に、輸出を拡大する方針が決定され
ている。輸出品目の中では一次製品の輸出を減少させ、付加価値のある製品の
輸 出 を 増 加 さ せ る と い う こ と も 明 確 に 示 さ れ た 。 2010 年 の 輸 出 構 成 は 鉱 物 が
3.5% 、農 林 水 産 が 17.2% 、加 工 製 品 が 41.2% 、知 識 集 約 的 な 製 品 が 14.0% に な
るという予測されている。農林水産物は短時間で輸送されなければならず、加
工製品、知識集約製品も短納期の商品のため、輸送時間が長くかかることは許
されない。従って、一番適切な輸送方法は航空である。
ベトナムの航空輸送市場は国営航空会社の独占という現状であり、開放され
ていない。ベトナムの航空会社は近隣地域の各国の航空会社と比べると、競争
力が弱く、輸送量も劣っている。従って、経済発展に寄与できるように、ベト
ナムの航空業の改革を進めなければならない。どのような方法で改革するべき
か、先進国の航空輸送における発展の経験を学ぶ必要がある。従って、この論
文では、航空輸送の規制緩和と民営化についての知見をまとめ、規制緩和と民
営化を行った各国の経験を分析して、ベトナムにとって適切と考えられる道筋
を提案することを目指している。
2
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 1 章 イントロダクション
1.1.2. 研 究 目 的
研究の目的はアメリカにおける航空輸送の規制緩和と日本における航空輸送
の規制緩和・民営化の航空輸送発展への影響を分析することにより、ベトナム
における航空輸送の発展経路や民営化政策について含意を得ることである。ま
た、本研究は、規制緩和と民営化の経験をベトナムに応用することを目的とし
ているので、経済的な背景に関するデータ及び、発展過程の数量的な把握やモ
デル分析も必要不可欠である。
1.1.3. 研 究 対 象 と 研 究 範 囲
研究対象は世界の航空輸送の発展過程、アメリカ航空輸送業の規制緩和の効
果、日本航空輸送業の規制緩和・民営化の効果と、ベトナムの航空輸送の発展
過程である。現在、世界の航空輸送は自由化が広がっているが、この自由化の
起 源 は 1978 年 に 行 わ れ た ア メ リ カ 航 空 輸 送 の 規 制 緩 和 で あ る 。従 っ て 、ア メ リ
カの規制緩和の航空輸送発展への効果を分析する。しかし、アメリカの航空輸
送市場には国営航空会社がないという特徴があるので、民営化の効果を分析で
き な い 。 従 っ て 、 日 本 航 空 JAL の 民 営 化 を 分 析 す る こ と に し た 。 日 本 航 空 JAL
の 民 営 化 を 選 ん だ 理 由 は 、民 営 化 後 、日 本 航 空 会 社 JAL が 好 調 な 業 績 が 上 げ ら
れなかったからである。日本航空の経験からベトナム航空の民営化の対策を提
案する。
研究対象の中に、空港の発展という問題も入っている。なぜならば、いくら
航空輸送発展政策を施行しても、空港の容量が足りない場合には、無意味であ
る。空港の発展は航空輸送の発展と密接関係を持ち、相互に補い合っている。
研 究 範 囲 に つ い て は 、 ア メ リ カ 航 空 輸 送 は 1959 年 ~ 1998 年 の 時 期 の 時 系 列
デ ー タ を 利 用 し て 分 析 す る 。 日 本 航 空 輸 送 は 1983 年 ~ 2005 年 の 輸 送 量 の 時 系
列 デ ー タ を 、 日 本 航 空 は 1966 年 ~ 2005 年 の 業 績 の 時 系 列 デ ー タ を 利 用 し て 分
析する。変化を分析するデータは収入金額、運賃、収入の伸び率、旅客・貨物
の輸送量、旅客・貨物の輸送量の伸び率である。この分析した結果は規制緩和
と 民 営 化 の 効 果 や 影 響 を 示 す 。 ベ ト ナ ム の Noi Bai 空 港 の 旅 客 数 の 伸 び 率 を 測
定 す る 時 、 Noi Bai 空 港 の 1986 年 ~ 2005 年 の 旅 客 輸 送 の 成 長 率 を 利 用 し た 。
1.1.4. 研 究 方 法
研究方法は歴史的な動向、過去の文献のまとめ、実際のデータによる分析を
行っている。実際の時系列データを利用し、その動向により規制緩和と民営化
の効果・影響を判断する。同時に、正しい傾向を把握するために、自由化後の
ベトナム航空輸送市場の競争モデルを使って理論的に分析している。また、空
3
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 1 章 イントロダクション
港における航空会社間競争を検討する時、図形方法を使って、説明する。
1.2. 論 文 の 内 容
論文は 7 つの部分に分かれている。
第 1章
イントロダクション
第 2章
航空輸送について
第 3章
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とそ
の影響
第 4章
日 本 航 空 会 社 ( JAL) の 民 営 化 と そ の 影 響
第 5章
ベトナムの航空輸送の自由化
第 6章
ベトナムにおける空港の発展
第 7章
結論
内容は、次のようなものである。
第 2 章は、航空輸送の特徴、航空輸送サービスの費用、需要、航空輸送需要
と経済成長との関係、混雑費用と空港のピーク時との関係など、航空輸送の一
般 的 な 知 識 を 説 明 す る と と も に 、世 界 航 空 輸 送 の 発 展 過 程 に つ い て も 説 明 す る 。
第 3 章は、アメリカの航空輸送規制緩和の効果を分析して、自由化の優れた
成果及び、世界航空輸送の発展への貢献について説明する。
第 4 章は、日本の航空輸送業と、航空輸送業の規制緩和過程について分析す
ると同時に、日本航空の民営化の失敗点を検討して、ベトナム航空の民営化の
対策を提案する。
第 5 章は、まず、ベトナム航空輸送業の発展過程、長所・短所について分析
する。次に、ベトナム航空輸送が自由化になったと仮定して、ベトナムの航空
輸送市場がどのように変化するか、競争はどうなるか、を検討する。得られた
結果は、もしベトナム航空輸送市場が自由化になったとすると、全市場の輸送
量が増大すると同時に、運賃が安くなるということである。つまり、自由化に
より、消費者は利益が獲得できることを示している。
しかし、自由化されたベトナム市場で輸送量が増大してきた時、空港の容量
が十分に応じられるかという問題が生じる。この問題は第 6 章で検討する。
第 6 章はベトナムにおける空港の発展について検討している。空港の容量が
足りない場合には、新しい空港を建設する、あるいは既存の空港をセカンダリ
エアポート(サテライト空港)として利用することが考えられる。ベトナムと
同 じ よ う な 途 上 国 に 対 し て セ カ ン ダ リ・エ ア ポ ー ト の 開 発 が 勧 め ら れ て い る が 、
ベトナムでは、この種類の空港の開発が必要か、必要であるならその可能性は
4
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 1 章 イントロダクション
どうか、という問題を第 6 章で検討する。
1.3. 論 文 の 貢 献
現在、ベトナムでは、航空輸送についての研究は非常に少ない。ほとんどの
研究は定性方法で進められているため、現実的に説得力がある研究にはなって
いない。従って、この論文は実際のデータを使った分析であるので、ベトナム
の航空輸送発展に役に立つと考えられる。分析で終わるだけでなく、将来、研
究 し た 結 果 を ベ ト ナ ム の 航 空 輸 送 業( 空 港 の 問 題 も 含 め る )に 実 際 に 応 用 し て 、
ベ ト ナ ム 航 空 輸 送 の 発 展 に 貢 献 で き る よ う に 、研 究 を 続 け て い く つ も り で あ る 。
5
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
第 2 章.航空輸送について
2.1. 航 空 輸 送 サ ー ビ ス の 特 徴
航空輸送サービスはどんな特徴があるのか、先行研究の成果をこの節でまと
めてみる
1)
。航空輸送サービスは交通手段の 1 つであるので、まず、交通サー
ビスとしての特徴がある。交通サービスは場所的に移動させるサービスである
ので、サービスの成立のためには、その対象となる人または物が必ず存在しな
ければならない。この人または物を媒体あるいは仕掛け品と呼ぶ。交通サービ
ス を 供 給 す る に は 、 ① 通 路 ( 路 線 )、 ② 運 搬 具 ( 車 両 、 飛 行 機 )、 ③ 動 力 、 ④ タ
ーミナルという交通機関の 4 要素が必要である。交通サービスには次の特性が
ある。
*高必需性
交通需要は本源的需要と派生需要の二つに分類されている。本源需要として
の交通サービスは、これを消費することこそが最終の目的となる場合である。
例えば、飛行機が大好きな人は気分転換するために飛行機に乗るとかという場
合である。この種類の需要は実際にはめったに起こらない。ほとんどの交通サ
ービスはそのサービスの利用が最終目的ではなく、他の最終目的を達成するた
めに必要な交通サービスの需要で、これを派生的需要と呼ぶ。旅客輸送の場合
に交通需要を発生させるのは、通学、通勤、業務、娯楽など各種の旅行目的の
社会経済活動であるため、交通需要は高い必需性をもっている。
*投資が大きい
交通サービスを提供するために、設備や機材を購入しなければならない。例
えば、滑走路、ターミナル、関連設備を投資する空港を経営する場合とか、道
路を経営する場合とか、巨大な投資金額が必要である。この特性があるため、
交通サービス業においては、自然独占が起こりやすいし、規模経済性が存在し
ている。
*即時性
交通サービスは即時財と呼ばれ、サービスを提供する過程とそのサービスを
消費する過程は同一である。交通サービスは貯蔵不可能性をもっている、貯蔵
不可能財である。
*ピーク(オフピーク)問題
交通サービスを発生させるのは社会経済活動であるから、ピーク需要とオフ
ピーク需要がある。例えば、電車のピーク時は朝 9 時まで及び夕方 5 時から 9
時までであり、海外旅行のピーク時はゴールデン・ウィークである。ピーク時
の交通施設は混雑するため、社会的費用が生じる。その時、交通サービスは外
6
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
部不経済性が生じる。
*利用可能性
早 朝 や 深 夜 の バ ス や 電 車 は 、場 合 に よ っ て 、乗 客 が だ れ も い な い 時 も あ る が 、
時刻表通りに運行する。航空輸送の場合は、乗客が少ない時でも、1 便を飛ば
さなければならない。交通サービスの需要はほとんど派生的需要であるから、
交 通 サ ー ビ ス が 遅 く な る と 、最 終 目 的 を 達 成 す る こ と に 影 響 を 与 え る 。従 っ て 、
交通サービスを提供する企業は満席になるまで乗客を待たせることができない。
*公共財性
交通サービスには、交通混雑のない一般道路のように消費の非競合性と利用
者に対する非排除性といった公共財のような性質が存在している。
航 空 輸 送 は 以 上 の 交 通 サ ー ビ ス の 特 性 が あ り 、さ ら に 航 空 業 の 独 自 性 が あ る 。
① 高速性
航空輸送が日常的交通手段の中で一番速いということは言うまでもないが、
ジェット機の登場により、一層決定的となった。例えば、東京から沖縄まで行
く場合、船あるいは飛行機による交通サービスを利用しなければならない。船
で行くと、何日間もかかるが、飛行機で行けば、4 時間ぐらいで行くことが可
能である。
② 安全性
初期の段階では、航空輸送の安全性は天気や気候によって影響を受けたが、
飛行機の技術進歩によって、安全性は確保された。もちろん、たまには航空輸
送事故が起こったが、他の交通手段と比べると、確率はずっと低い。
③ 快適性
短時間で目的地に到着できるし、振動や騒音が少ない。さらに機内のサービ
スが充実しているから、航空輸送サービスは乗客に快適感をもたらす。
④ 応需性
航空輸送は鉄道のように線路や駅を必要としないため、空港さえあれば、ど
こにでも路線を開設できるという自由性をもっている。その上、需要に応じて
便数の増減・機種の選定など供給を弾力的に調整できるという性質を持ってい
る。
⑤ 経済性
経済性は運賃が安いということではなく、時間が節約できるところにある。
あまり出張に出ていない人は経済性が感じられないが、出張によく出る忙しい
人にとっては短時間で移動できる航空便が最も経済的な交通手段である。
航空輸送は公共交通機関としての公共性を持つと共に、①地方都市の情報技
能を向上させること、②工業の地方分散化の促進効果、③商業及び流通の合理
7
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
化に与える効果、④地方観光開発に与える効果、⑤天災の時に行われる救難活
動に貢献することを通じて、経済・社会・文化の各面に数々の社会的便益をも
たらす。
2.2. 航 空 輸 送 サ ー ビ ス の 費 用
この節では、航空輸送サービスを供給する費用構造と費用へ影響を与える要
因について説明する
2)
。
2.2.1. 費 用 構 造
航空会社の勘定項目は、通常、営業項目と営業外項目に分かれる。営業外項
目は、航空会社の航空サービスの運営と直接に結びつかない費用と収入の全て
を含めている。営業勘定項目は営業収入と営業費用に分類され、営業費用はさ
らに直接費用と間接費用とに分かれる。直接費用は、現在、稼動中の航空機の
機 種 に 依 存 し 、そ れ に 加 え て 機 種 変 更 に 応 じ て 変 化 す る 費 用 の 全 て が 含 ま れ る 。
間接営業費用は航空機の運航に直接結びつかない費用で、使用機種の変更によ
っ て 影 響 を 受 け る こ と が な い 費 用 の 全 て で あ る 。表 2- 1 は 直 接 費 用 と 間 接 費 用
はどんな項目を含めているかを示している。
表 2- 1
営業費用の構成
直接費用
1. 運 航 費
*運航乗務員の給与・諸手当
*燃料・潤滑油
*空港・運航援助施設使用量
*航空機保険料
*航空機材と乗務員の双方またはいずれかのリース料・賃借料
2.
整備・分解検査費
*整備士費用
*予備部品
*整備管理(間接費用に算入可)
3. 減 価 償 却 ・ 年 賦 償 還 費
*運航機材
*地上の機材と施設(間接費用に算入可)
*特別減価償却(収得原価超過分)
*開発費および乗務員訓練費の償却
間接費用
4. 空 港 事 業 所 経 費 ・ 地 上 費
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グエン
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第 2 章 航空輸送について
*地上職員
*建物・施設・運搬
*地上取引費の他社への支払分
5. 乗 客 サ ー ビ ス 費
*客室乗務員の給与・諸手当(直接費用に算入可)
*その他の乗客サービス費
*旅客保険料
6. 発 券 ・ 販 売 促 進 費
7. 一 般 管 理 費
8. そ の 他 の 営 業 費
出 典 :『 国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』( 1995)、 P100
2.2.2. 費 用 へ 影 響 を 与 え る 要 因
表 2- 1 を 見 て 分 か る よ う に 、航 空 会 社 の 費 用 に 影 響 を 与 え る 要 素 は か な り 多
いが、ここでは重要な要素だけについて分析する。
*一般的な賃金費用
他の産業と同じように、労働力は航空サービスを供給するのに欠かせない要
素である。賃金は、総費用のうちの大きな割合を占めているので、平均的な支
払賃金の変動が航空会社の総費用に直接的な影響を与え、全体として、航空会
社 間 で か な り の 費 用 の 格 差 を 引 き 起 こ し て い る 。 Fischer and Kamerschen (2003)
の研究によると、人件費が1%増加すると、アメリカの航空会社の総費用は約
0.34% 増 加 す る 。 航 空 会 社 は 費 用 削 減 し よ う と す る と 、 第 1 に 考 慮 す べ く 問 題
は人件費削減である。
*航空燃料の価格
燃料は航空輸送サービスを提供する投入財の一つであるから、燃料の価格は
航空会社の費用に影響を明白に与える。燃料の価格が上がると、ほとんどの航
空 会 社 の 利 益 が 減 少 す る 。 Fischer and Kamerschen( 2003) に よ れ ば 、 燃 料 費 用
が 1 % 上 が る と 、 航 空 会 社 の 総 費 用 は 約 0.15% 上 が る 。 航 空 会 社 は 、 燃 料 の 価
格を調整できないので、燃料価格の上昇によって生じた損失を補うために臨時
対応策をすることしかできない。運賃に追加燃料費を加える対策がよく使われ
ているが、結局、運賃が高くなるため、輸送量に影響を与えると考えられる。
*規模の経済性
航空輸送では、通常、他の産業の規模の経済性に相当する「輸送密度の経済
性 」 が は た ら く 。 航 空 サ ー ビ ス に お い て は 、 一 人 の 旅 客 を 運 ぶ に も 300 人 を 運
ぶにも一つの機体と一定数の運転・サービス要員が必要である。従って、旅客
輸送を追加的に一人増やすことの費用(限界費用)は小さく、平均費用は逓減
9
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
す る 。 こ こ で は 、「 輸 送 密 度 の 経 済 性 」 と い う 概 念 に 、「 ネ ッ ト ワ ー ク サ イ ズ の
経済性」という概念を加わえた。ネットワークサイズが大きい航空会社は 1 便
の輸送量をできる限り増やすことができ、平均費用がより低くなり、より低い
料金で航空サービスを提供することができる。
*混雑の費用
「混雑」とは、一定の限られた空間に一定限度を超える人間や乗り物が投入
されるとき、一人当たりあるいは乗り物の 1 台当たりの空間が小さくなり、自
由な行動が制約される現象である。混雑現象は収容力と利用量の相対的な大き
さの関係によって発生するが、具体的に現れる交通混雑の現象は交通手段によ
って異なる。航空輸送の場合は、混雑現象は飛行機内で発生するのではなく、
空港で発生する。混雑が生じる場合には、乗客の快適度が減少し、搭乗するま
での時間がよりかかる
3)
。これは経済的な費用ではなく、社会的な費用だとさ
れている。混雑時の空港を利用するときの利用料金はより高くなるため、費用
が上がる。
2.3. 航 空 輸 送 サ ー ビ ス の 需 要 分 析
消費者は、交通手段を選択する時、①確実性、②経済性、③利用頻度、④機
動性、⑤快適性、⑥起点・終点に対する近接性、⑦安全性、⑧高速性、などに
基づいて選ぶので、上記の各要因は交通サービスの需要に影響を与えると考え
られる。次に、航空輸送の需要にどんな要因が影響を与えるかを分析した先行
研究をまとめる
4)
。
2.3.1. 航 空 輸 送 の 需 要
航空需要は、他の交通手段の需要と同様、派生需要であるため、自己価格と
所得の変動による変化以外に、競争相手となる交通機関の運賃の影響を受け、
また補完関係にある交通機関の運賃や本源需要の価格などの影響も受けている。
航空輸送の需要に影響を与える運賃と所得以外の要因として、運航時間帯、季
節 、安 全 性( 事 故 )、飛 行 時 間 、空 港 ま で の ア ク セ ス の 便 利 性 、戦 争 、テ ロ 、疫
病などが挙げられる。
表 2- 2
旅客需要の水準と伸びに影響を与える要因
全ての市場に影響を与えるもの
1 人当たりの可処分所得
供給の条件
特定の市場に影響を与えるもの
観光上の魅力度
景観・気候・歴史・宗教上の特質
料金水準
観光基礎施設の条件
航空トリップの速度
相対価格
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グエン
航空トリップの便宜性
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第 2 章 航空輸送について
為替相場の変動
経済活動・貿易水準
旅行制限
社会環境
歴史的・文化的な結びつき
休暇の長さ
移動労働者の流れ
旅行に対する姿勢
経済活動の性質
出 典 : 出 典 :『 国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』( 1995)、 P195
一般的な経済状況も輸送量の伸びに影響を与える。世界の経済環境及び、特
定国・特定地域の経済成長率は、様々に入り組んだ経路を通じて、需要に影響
を与えるとともに、そうした経済状況は各国の産業・経済活動の水準、国際貿
易水準と性質を決定付け、ビジネス・トリップの需要の伸びに直接影響を及ぼ
す。
2.3.2. 航 空 輸 送 需 要 と 経 済 成 長
航 空 輸 送 需 要 へ の 経 済 成 長 の 影 響 に 関 し て 研 究 し た 石 田 信 博( 2002、2006 5 ))
に よ る と 、 GDP( 国 内 総 生 産 ) の 変 化 分 に は 数 量 と 価 格 の 変 化 を 一 緒 に 含 ん で
い る 。従 っ て 、需 要 へ の 影 響 を 分 析 す る 時 、実 質 GDP を 使 う と 、価 格 の 変 化 を
除 き 、 実 質 所 得 の 変 化 の み を 扱 う こ と が で き る 。 つ ま り 、 実 質 GDP の 変 化 は 、
実 質 所 得 の 変 化 の 代 わ り と し て 、影 響 を 分 析 す る の に 使 え る と い う こ と で あ る 。
航 空 輸 送 需 要 を 予 測 す る 回 帰 モ デ ル に は 、実 質 GNP( 国 民 総 生 産 )は 外 生 変
数(説明変数)として使われている。太田
正 樹 ( 1981)、 山 内 ・ 増 井 ( 1994)
の 需 要 予 測 モ デ ル に は 、 所 得 の 代 わ り に 、 GNP の 成 長 率 や GNP の 対 数 を 外 生
変 数 と し て 利 用 し た 。 GDP は GNP よ り 経 済 状 況 を 正 し く 表 し て い る の で 、 現
在 、 実 質 GDP は 所 得 の 代 わ り に よ く 使 わ れ て い る
6)
。
2.4. 第 2 次 世 界 大 戦 後 の 世 界 の 航 空 輸 送 の 発 展
2.4.1. 戦 後 ~ 1978 年
世 界 の 航 空 輸 送 は 1903 年 に 開 始 さ れ た が 、戦 争 が 続 い た た め 、ア メ リ カ 以 外
ではほとんど民間航空輸送が発展していなかった。従って、第 2 次世界大戦後
の 民 間 航 空 輸 送 の 発 展 は 目 覚 し い も の が あ る 。ま ず 、戦 争 終 結 間 近 の 1944 年 に
は、アメリカ政府が、連合国及び中立国の代表をアメリカのシカゴに招集し、
合議により、シカゴ条約が結ばれ、戦後の国際航空秩序の枠組みが作られた。
そ の 後 、や が て ア メ リ カ で は 、国 内 航 空 の 発 展 に 加 え 、大 型 の DC6 機 を 使 っ て
大西洋や太平洋の横断ルートの運航も始まった。ヨーロッパでも、各国の政府
は航空事業の再建に乗り出し、イギリスは、ヨーロッパ域内及び国内だけを運
航 す る BEA 社 を 設 立 し 、フ ラ ン ス は エ ー ル・フ ラ ン ス 社 を 改 組 し て 、ヨ ー ロ ッ
パと大西洋横断ルートに就航させた。イタリアのアリタリア社、オランダの
11
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
KLM 社 、 北 欧 3 国 の 所 有 で あ る SAS 社 、 ス イ ス の ス イ ス ・ エ ア 社 も 路 線 の 拡
充 に 全 力 を あ げ た 。1955 年 に 、ド イ ツ の 新 生 ル フ ト ・ ハ ン ザ 社 が 、運 航 を 許 さ
れ、戦列に加わり急成長し、ソ連では、アエロフロートがまず国内路線を整備
し 、間 も な く 国 際 線 へ の 進 出 を 始 め た 。そ し て 、1952 年 に お け る ジ ェ ッ ト 機 の
登場によって、航空輸送が本格的に発展し、経済発展と技術の進歩、市場競争
の展開が今日の「航空時代」を作り出した
7)
。
当 時 、 世 界 の 航 空 市 場 は 北 ア メ リ カ と ヨ ー ロ ッ パ 地 域 が 中 心 で あ っ た 。 1960
年 に お け る 定 期 航 空 会 社 の 輸 送 シ ェ ア は 北 ア メ リ カ 59.6% 、ヨ ー ロ ッ パ 22.6%
で 、こ の 両 地 域 は 世 界 全 体 の 82% 以 上 を 占 め て い た 。1970 年 に は ソ 連 の 輸 送 量
も 含 め る と 、ヨ ー ロ ッ パ の シ ェ ア は 35% に 増 大 し た 。一 方 、北 ア メ リ カ の シ ェ
ア は 次 第 に 減 っ て 、 1977 年 に 北 ア メ リ カ の シ ェ ア は 41% に 減 少 し た 。
1947 年 か ら 1965 年 に か け て 、 73 ヶ 国 が 国 の 威 信 の た め に 、 フ ラ ッ グ ・ キ ャ
リアーを育成した。航空後進地域において新しくフラッグ・キャリアーとして
設立された航空会社は、国際航空に進出し、アメリカ、イギリスなどの先進地
域の航空会社のシェアを低下させるとともに、自国の航空需要を開発する役割
も果した。そして、この時期には、アジア及び太平洋地域における航空輸送の
成 長 が 注 目 さ れ た 。 1960 年 か ら 1977 年 ま で の 世 界 全 体 の 平 均 成 長 率 が 13.1%
で あ る の に 対 し て 、 ア ジ ア ・ 太 平 洋 地 域 の 成 長 率 は 17.3% で あ り 、 世 界 全 体 の
輸 送 量 に 占 め る 割 合 も 1960 年 の 7% か ら 1977 年 に 13% に 上 が っ た 。 日 本 航 空
は こ の 成 長 に 大 き な 役 割 を 果 し た 。IATA 加 盟 会 社 の 国 際 線 定 期 輸 送 量 の 順 位 に
お い て 、日 本 航 空 は 1960 年 に 15 位 で あ っ た が 、1978 年 は 4 位 に 上 昇 し た 。他
に、中近東・アフリカなどの地域も航空輸送量の成長率が目覚ましかった。
航空輸送市場が拡大した要因として、需要側の要因と供給側の要因がある。
*需要側の要因
①第 2 次世界大戦後、局所的紛争を別にすれば、長期的に平和が維持され、世
界経済が成長し続け、国際的交流が活発化したため、航空輸送の需要が成長
した。さらに、経済成長と国際貿易の拡大は、ビジネス・トリップを増大さ
せ、貿易量の増加は航空貨物需要を増大させた。
②経済が成長し、所得が増加し、生活に余裕ができてくると、人々は旅行、ス
ポーツ、などを楽しむため、観光旅客が増大した。特に、若者や定年になっ
た老年層の海外旅行への需要が高まった。
③所得の上昇とともに、時間価値も高くなるため、多少運賃が高くても、より
速い飛行機を利用することになる。また、観光旅客にとっても、限られた休
暇日数内で多くの時間を観光にあてるためには、より速い交通機関を選択す
る こ と に な る 。1959 年 に 誕 生 し た ジ ェ ッ ト 機 は 消 費 者 の こ の よ う な 欲 求 を 満
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グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
たした。
*供給側の要因
①プロペラ機からジェット機への変化は輸送時間を短くするとともに、快適性
を増加させた。急速なジェット化はスピード・アップと快適性を増大し、そ
のことによって需要を誘発した。また、ジェット機の高速性と大型化は航空
輸送の生産性を高め、航空運賃を長期間安定させ続けた。
② 航 空 機 の 技 術 革 新 と 、航 空 保 安 施 設 の 充 実 に よ る 安 全 性 の 向 上 が 確 保 さ れ た 。
いかに高速な交通機関であっても安全性が確保されない限り、交通機関とし
て の 役 割 が 果 せ な い 。航 空 輸 送 の 事 故 が 起 こ る と 、死 亡 者 が 多 数 に な る た め 、
航空輸送にとって安全性は生命線である。飛行機の技術革新により、航空輸
送の事故率は年々減少し、航空輸送の安全性が消費者に認められ、需要が急
速に伸びた。
③航空輸送サービスの向上と多様化により、市場が拡大された。観光旅客の増
加につれて、回遊運賃など各種の割引運賃が導入された。安い運賃は多くの
観光旅客を誘発した。さらに、太平洋・ヨーロッパ地域を中心にしたチャー
ター便の発達により航空会社間のサービス競争は一段と激しくなり、サービ
スの多様化が進んだ。
④発展途上国の航空会社の新規参入があった。こういった航空会社が国威発揚
をかけて、いわば採算性を無視してまで、国際線に進出したことは、その国
の消費者の航空に対する認識を深め、量的には問題外としても、需要の増大
に貢献したことは事実である
8)
。
2.4.2. シ カ ゴ 条 約 と バ ミ ュ ー ダ 協 定
9)
1944 年 11 月 1 日 か ら 12 月 7 日 に ア メ リ カ の シ カ ゴ で 「 国 際 民 間 航 空 会 議 」
が開かれた。この会議の目的は国際民間航空のための管理組織の設立と商業航
空権の確立であり、そのため、①民間航空のための恒久的な国際組織の基礎付
け、②目前の戦後問題に対処する臨時機関の設立、③安全と航行面での規制、
④経済面での規制、について、関係国の間で意見をとりまとめようというもの
であった。この会議では、伝統的な産業自由主義の考え方をもつアメリカ合衆
国と、計画された空の秩序を主張するイギリスを中心とするヨーロッパ諸国と
の間に、鋭い意見の対立がみられた。結局、シカゴ会議では、国際航空の実際
の運営に必要な路線権・運輸権・輸送力に関して多国間の合意を得ることがで
き な か っ た 。シ カ ゴ 条 約 と し て ま と め ら れ た 内 容 は 、ま ず 、
「 条 約 国 は 、各 国 が
その領域上の空間において、完全かつ排他的な主権を有することを承認する」
( 第 1 条 )と し 、従 っ て 、
「定期国際航空業務は締約国の特別な許可その他の許
可を受け、かつ、その許可の条件に従う場合を除く外、その締約国の領域の上
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グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
空 を 通 っ て 、ま た は そ の 領 域 に 乗 入 れ る こ と が で き な い 」
( 第 6 条 )と す る 。つ
まり、定期国際航空業務については、相手国政府の許可が必要である。国際航
空の開始は、この条約に加盟している国相互の間においてさえも、あらためて
二国間協定が締結されないと、行えないわけである。
シカゴ会議では、
「 国 際 航 空 業 務 通 過 協 定 」が 作 成 さ れ 、締 約 国 の 航 空 会 社 に
上 空 通 過 と 技 術 着 陸 の 権 利 ( 第 1、 第 2 の 自 由 ) を 相 互 に 与 え る こ と が 認 め ら
れた。しかし、商業運輸権の相互交換については、いかなる協定の締結も実現
しなかった。この権利は、二国間協定でそれぞれの国の航空会社が旅客、貨物
の 積 み 降 ろ し が で き る と い う 運 輸 権 の 相 互 交 換 を 認 め る ( 第 3、 第 4 の 自 由 )
ものである。
表 2- 3
航空の自由
*二国間協定における交渉事項
第 1 の自由:着陸せずに他の国の上空を運航する権利
第 2 の 自 由:収 入 を 伴 う 旅 客 と 貨 物 を 積 み 降 ろ し し な い で 、相 手 国 に 技 術 的
理由(例えば、燃料補給)で着陸する権利
第 3 の 自 由 : 自 国( A)か ら 協 定 の パ ー ト ナ ー で あ る 相 手 国( B)へ 、収 入 を
伴う旅客と貨物を運ぶ権利
第 4 の 自 由:相 手 国 B か ら 帰 路 の 自 国 A へ 、収 入 を 伴 う 旅 客 と 貨 物 を 運 ぶ 権
利
第 5 の自由:自国 A の航空会社が相手国 B とその他の国 C あるいは D の間
に ま た が っ て 、自 国 を 起 点 、も し く は 到 着 点 と す る 収 入 を 伴 う
旅 客 と 貨 物 を 運 ぶ 権 利( こ の 自 由 は 、C ま た は D が 重 ね て 同 意
しない限り、用いることができない)。
*追加の権利
第 6 の 自 由:あ る 国 A の 航 空 会 社 が 、他 の 二 国 間 で 通 過 地 点 と し て 自 国 A の
基 地 を 用 い て 、「 旅 客 と 貨 物 を 運 ぶ 2 組 」 の 第 3 と 第 4 の 自 由
権利を用いること。
第 7 の自 由:ある 航 空会社 が、自国か らま ったく 離れ た二国 の地 点間で 収 入
を伴う旅客と貨物を運ぶ権利
第 8 の自 由ある いは カボタ ージ ュ:ある 航 空会社 が、自国を 起点 とする 航 空
サ ー ビ ス で 、別 の 国 の 国 内 の 2 地 点 間 で 旅 客 と 貨 物 を 積 み 降 ろ
しする権利
(第 7 と第 8 の自由は、極めてまれにしか認められない)
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グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
シカゴ条約に決められた内容は、主に、国際航空輸送の市場秩序を規定する
一連の多数国間協定であるが、この市場秩序を規定するのにはもう一つの枠組
みがあり、それは二国間協定である。シカゴ会議で主張を通せなかったアメリ
カ は 1946 年 に 大 西 洋 上 の バ ミ ュ ー ダ 島 で 、 イ ギ リ ス と 二 国 間 協 定 を 締 結 し た 。
この二国間協定はバミューダ協定、またはバミューダⅠと呼ばれた。この協定
は、形の上では、イギリスとアメリカとの間の航空協定に過ぎないが、それが
輸送ルートや輸送力の条項、運賃条項などを含めて、二国間の定期航空につい
ての実質的な取決めであったから、その後、多くの二国間協定が、この形を、
大体において踏襲することになった。
2.4.3. ICAO と IATA
シカゴ条約により、
「 国 際 航 空 の 原 則 お よ び 技 術 を 発 達 さ せ 、並 び に 国 際 航 空
運送の計画及び発達を助成する」ための機関として、国際民間航空機関
( International Civil Aviation Organization、 ICAO) が 設 立 さ れ 、 2002 年 時 点 で
188 ヶ 国 が 加 盟 し て い る 。ICAO は 、国 連 の 専 門 機 関 の ひ と つ と し て 、主 に 、国
際航空の技術面及び法律面にかかわる仕事をしてきた。技術面では、とくに、
国際航空安全、正確さ、効率化のために望ましい国際標準を定めたり、また、
加盟各国に各種の勧告をするという形で、航空機の耐空性、航空従事者の技能
証明など、航空の安全にかかわること、さらに、航空機の騒音などという様々
な問題に取り組んできた。法律面では、国際航空に関する国際法の統一や法典
化という仕事をしてきた。
国 際 航 空 運 送 協 会 ( International Air Transport Association, IATA) は 、 ICAO
と異なって私的な組織、つまり、国際定期航空に従事する航空会社によって自
発的に構成されている組織である。シカゴ会議への参加諸国が、多角航空協定
の 限 界 を 知 り 、会 議 直 後 に 別 の 会 合 を 持 ち 、そ の 結 果 、1945 年 の ハ バ ナ 会 議 に
お い て IATA の 創 設 が 合 意 さ れ た 。 IATA は 重 要 な 機 能 が 二 つ あ る 。 第 1 は 、 運
賃 調 節 機 能 で あ る 。こ の 機 能 は 、1970 年 代 の 前 半 ま で は 、円 滑 に 行 わ れ て き た
が 、そ の 後 、チ ャ ー タ ー 航 空 の 発 展 を き っ か け と し て 市 場 競 争 が 激 化 し た た め 、
協定運賃の維持が困難になった。また、アメリカ政府は、航空輸送の規制緩和
を 行 い 、IATA の 運 賃 調 整 は ま さ に カ ル テ ル 行 為 で あ り 、ア メ リ カ の 独 占 禁 止 法
に 違 反 す る と 批 判 し た た め 、IATA の 組 織 と そ の 運 営 の 仕 方 の 改 革 が 必 要 に な っ
た 。 現 在 、 IATA の 運 賃 調 整 機 能 は 緩 和 さ れ た 。
第 2 は、国際定期航空に携わる企業の同業組合活動という側面である。例え
ば 、IATA は 多 角 的 連 帯 輸 送 契 約 を 媒 介 す る と と も に 、連 帯 輸 送 に か か る 収 入 金
の清算のために相互決済清算所を運営する。調査・統計や技術、環境、安全、
金融、法制などの諸側面での助力提供もその活動の内である。また、運送約款
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グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
は じ め 諸 手 続 の 標 準 化 な ど を 進 め る こ と で 、 IATA は 、 IATA に 加 盟 し て い な い
( non-IATA) 航 空 会 社 に も 恩 恵 を も た ら し て い る 。
2.4.4. 1978 年 ~ 1991 年
世 界 の 航 空 輸 送 は 1978 年 か ら 自 由 化 の 段 階 に 入 っ た 。航 空 輸 送 の 自 由 化 の 起
源 は 1978 年 に ア メ リ カ で 行 わ れ た 航 空 輸 送 の 規 制 緩 和 で あ る
10)
。 1978 年 夏 、
カーター大統領は「国際航空運送交渉」という文書に署名した。その文書で、
アメリカの目的は「公正な市場において航空会社間の競争の維持と拡大を通じ
て消費者の便益を最大にすること」であると述べた。アメリカは、二国間航空
協定の交渉あるいは再交渉を通じて、この目的を実現した。
航空輸送の自由化はアメリカだけでなく、全世界に影響を与えた。アメリカ
より遅れたが、欧州も伝統的な二国間協定の改定を始めた。自由化政策への支
持 が 広 が る に つ れ て 、イ ギ リ ス も 1984 年 か ら 主 要 な 欧 州 諸 国 と の 二 国 間 協 定 に
ついて再交渉するようになった
11 )
。
イギリスが中心となって改定を行ってきたが、他の欧州諸国もこの時期に二
国間協定の改定のための交渉を開始した。また、いくつかの欧州諸国は、自由
化の考え方を持つ非欧州諸国と自由化された航空協定を交渉するようになった。
こ う し て 、 1989 年 7 月 の イ ギ リ ス と シ ン ガ ポ ー ル 間 の 二 国 間 協 定 の 改 定 で は 、
複数航空会社の指定、運賃について二重不承認制度が導入された。シンガポー
ルの指定航空会社には、欧州の地点とイギリスの間で第 5 の自由が完全に認め
られた。
1980 年 代 後 半 ま で に 一 部 の 国 や 航 空 会 社 は 、1980 年 代 前 半 に お い て 調 印 さ れ
た「 オ ー プ ン・マ ー ケ ッ ト 」二 国 間 協 定 の 影 響 を 益 々 敏 感 に 感 じ る よ う に な り 、
改 定 作 業 を 開 始 し た 。 例 え ば 、 1990 年 12 月 、 ア メ リ カ と シ ン ガ ポ ー ル 間 の 協
定 が 改 定 さ れ た 。他 方 、1980 年 代 、多 く の 国 の 内 部 で は 航 空 の 自 由 化 が 徐 々 に
進展していった。この発展の原因は、公共的な圧力、政治姿勢の変化、激しい
競争は公共の便益になるという見解であった。また、一方で、国際競争を促進
する「オープン・マーケット」二国間協定に調印しながら、他方で指定航空会
社であるナショナル・フラッグ・キャリアーのみを国際線で運航させることは
国家にとって、あまり意味がないことになり、多くの国はこの時期に、国内線
のみの事業者である航空会社に国際線市場に参入することを認めた。日本の全
日 空 、韓 国 の ア シ ア ナ 、台 湾 の エ ヴ ァ な ど が そ の 例 で あ る 。さ ら に 、フ ラ ッ グ ・
キャリアーの効率性を求め、平等な競争市場を作るため、多くの国は国営フラ
ッ グ ・ キ ャ リ ア ー の 民 営 化 を 行 っ た 。例 と し て 、1984 年 の マ レ ー シ ア 航 空 の 民
営 化 と 1985 年 の 日 本 航 空 の 民 営 化 が あ る 。 国 際 航 空 ビ ジ ネ ス は 1992 年 ま で 完
全には自由化されず、いくつかの規制が存在していたが、多くの国際航空市場
16
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
は新しい航空会社に開放された。新規参入のない多くの路線でも、頻度、サー
ビス、そして、運賃について航空会社間で激しい競争が展開されるようになっ
た。
航空輸送の自由化の成果については、様々な意見があるが、自由化により、
航 空 輸 送 量 が 増 大 す る と 同 時 に 、運 賃 が 低 下 す る 、と い う 事 実 が 認 め ら れ る
12)
。
つまり、消費者は自由化を通じて、より安い運賃で航空サービスを利用できる
ようになった。しかし、規制緩和・自由化による激化した競争は空港の混雑を
13)
起 こ し 、消 費 者 の 便 益 が 減 少 す る と 、主 張 す る 経 済 学 者 が い る
た需要に対して、空港のキャパシティの容量が問題になる
14)
。急 増 し て き
。
国営航空会社の民営化の効果については、場合によって効果が異なるが、民
営化が行われた後、市場が益々成長し、同国の他の航空会社もよく成長してい
る、という事実は認められている
15)
。
2.4.5. 1992 年 以 降
1992 年 か ら の 段 階 で は 、 世 界 の 航 空 輸 送 に お い て 、 自 由 化 が 普 及 し 、「 オ ー
プン・マーケット」から「オープン・スカイ」に展開してきた。国際航空市場
がより開放され、経済・文化交流活動に関する航空輸送の需要が増大した。し
か し 、 1991 年 と 1992 年 は 、 航 空 業 が 、 低 迷 し た 時 期 で あ る 。 1990 年 8 月 2 日
の ク ウ ェ ー ト 侵 入 と 1991 年 1 月 の そ れ に 続 く 短 期 の 戦 争 は 、多 く の 航 空 会 社 を
危機的な状況から悲惨な状況へと変えた。北大西洋市場のような多くの市場に
おいて、輸送需要のわずかな増加のなかでの自由化の結果、航空会社間での市
場 シ ェ ア の 争 奪 戦 も あ り 、過 剰 な 輸 送 力 と イ ー ル ド の 低 下 が も た ら さ れ た 。1992
年 の 財 務 業 績 は 1991 年 の そ れ よ り 一 層 悪 化 し 、 1993 年 に は 、 少 し 良 好 に な っ
た 。世 界 の 上 位 20 位 の 航 空 会 社 の う ち で 、英 国 航 空 、キ ャ セ イ 、シ ン ガ ポ ー ル
航 空 、 ス イ ス エ ア の み が 、 1991 年 か ら 1993 年 の 3 年 間 の 各 年 度 で の 純 益 を 計
上 し た 。こ の 期 間 で 最 大 の 損 失 を 計 上 し た の は ノ ー ス ア メ リ カ ン 航 空 で あ っ た 。
この危機の時代に着手されたコスト削減のための措置が一つのインパクトと
な っ て 需 要 増 加 が 回 復 し 始 め 、1994 年 以 降 、多 く の 航 空 会 社 が 利 益 を 計 上 す る
よ う に な っ た 。こ の 改 善 傾 向 は 1997 年 ま で 継 続 し た 。し か し 、大 手 の 日 本 の 航
空会社数社と南欧の政府所有企業がかなり低い経営業績に陥り、日本航空やア
リタリアのような数社が継続的に損失を計上した。
1997 年 の 後 半 期 に 東 ア ジ ア に 影 響 を 与 え 始 め た 経 済 の 危 機 と 崩 壊 は 、ア ジ ア
の 航 空 会 社 を 厳 し く 襲 っ た 。1998 年 半 ば ま で に 、多 く の 東 ア ジ ア の 航 空 会 社 が
苦 難 に 陥 り 、1997 年 の 会 計 年 度 に お い て 多 大 な 損 失 を 記 録 し た
16)
。そ し て 、2001
年 9 月 11 日 に 起 こ っ た 航 空 多 発 テ ロ の 後 、世 界 の 航 空 業 が 再 び 過 酷 な 状 況 に 陥
った。
17
グエン
表 2- 4
IATA の 国 際 定 期 航 空 サ ー ビ ス
10 億
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
1998- 2002
1998
1999
2000
2001
2002
営業売り上げ
142.7
147.1
155.4
147.4
151.7
営業費用
136.4
141.2
149.2
155.1
152.8
3.1
2.4
2.8
-10.3
-3.8
USD
純利益
出 典 : IATA Annual Report 2003
苦難に陥った多くの航空会社は、収益性を改善するために、コスト削減に努
めた。そして、低コスト航空会社が出現した後、コスト削減がより重要になっ
た 。低 コ ス ト 航 空 会 社 は 1970 年 代 の 初 期 に ア メ リ カ で 誕 生 し た が 、こ の 航 空 ビ
ジネスモデルの発展した地域はヨーロッパであった。現在、低コスト航空会社
は全世界で普及している。
2.4.6. 将 来 の 航 空 ビ ジ ネ ス
「 21 世 紀 に お け る 航 空 ビ ジ ネ ス は ど う 発 展 し て い く か 」と い う 質 問 に 答 え る
た め に 、航 空 輸 送 経 済 学 の 専 門 家 で あ る R.ド ガ ニ ス は 、以 下 の 予 測 を 示 し た
17)
。
① 全 体 と し て 、2010 年 ま で の 期 間 に お け る 長 期 的 需 要 の 増 加 率 は 、平 均 年 率 で
5% に 近 付 く が 、 主 要 な 市 場 間 で は 成 長 率 に 著 し い 差 異 が 生 じ る 。
②これまで国際航空サービスの運営に対してなされてきた規制を自由化し撤廃
する動きが、過去にその影響を受けなかった地域と市場へと拡大する。真正
の「 オ ー プ ン・ス カ イ 」は 全 面 的 な「 ク リ ア・ス カ イ 」に と っ て 代 わ ら れ る 。
航空産業は、真の意味でグローバルなビジネスになる。
③全般的な自由化は、従来より政府所有の航空会社の民営化と外資制限の廃棄
をもたらし、それとともにグローバル・アライアンスのなかでの産業集中を
促進する。
④ 年 率 約 5% の 航 空 輸 送 量 の 継 続 的 な 増 加 に よ っ て 、 現 行 の キ ャ パ シ テ ィ は 既
に、多くの空港と運航地域で不十分であるため、空港と航空輸送システムは
極めて大きな圧力下に置かれる。新滑走路が現行の空港で建設できないとこ
ろでは、空港のキャパシティの十分な利用可能性を確保するためにサテライ
ト空港の一層多くの使用が促進される。
(注)
1) 2.1.節 を 書 く た め に 、 次 の 文 献 を 参 考 し た 。
*土井
正幸、坂下
昇 ( 2002)『 交 通 経 済 学 』、 第 1 章
18
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
* ド ガ ニ ス ( 1989)『 国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』、 第 1 章
*山内
弘 隆 ( 2004)『 交 通 経 済 学 』 の 第 1 章
*岡野
行秀、山田
*太田
正 樹 ( 1981)『 航 空 輸 送 の 経 済 学 』、 第 1 章
*増井
健一、山内
浩 之 ( 1974)『 交 通 経 済 学 講 義 』、 第 1 章
弘 隆 ( 1994)『 航 空 輸 送 』、 Ⅰ
2) 2.2.節 を 書 く た め に 、 次 の 文 献 を 参 考 し た 。
*土井
正幸、坂下
昇 ( 2002)、 第 2 章
* ド ガ ニ ス ( 1995)『 新 訂
*岡野
行秀、山田
*村上
英樹
国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』、 第 5 章
浩 之 ( 1974)、 第 4 章
他 ( 2006)『 航 空 の 経 済 学 』、 第 2 章
* 奥 野 正 寛 、篠 原 総 一 、金 本 良 嗣( 1991)
『 交 通 政 策 の 経 済 学 』、P99~ P101
* Thorsten Fischer and David R. Kamerschen (2003), “Price – Cost Margin in
the US Airline Industry using a Conjectural Variation Approach”, Journal of
Transport Economics and Policy, Volume 37, Part 2, May 2003, P.227-259
3) 混 雑 の 費 用 に つ い て は 第 6 章 で 詳 し く 分 析 す る 。
4) 2.3.節 を 書 く た め に 、 次 の 文 献 を 参 考 し た 。
*増井
健一、山内
*太田
正 樹 ( 1981)、 第 2 章 、 第 7 章
*村上英樹
弘 隆 ( 1994) P81~ P89
他 ( 2006)、 第 3 章
*岡野
行秀、山田
浩 之 ( 1974)、 第 2 章
*土井
正幸、坂下
昇 ( 2002)、 第 3 章
* ド ガ ニ ス ( 1995)、 第 8 章 、 第 9 章
*石田
信 博 ( 2002)「 ア ジ ア ・ 太 平 洋 地 域 の 航 空 貨 物 輸 送 と GDP」、
『 航 空 と 空 港 の 経 済 学 』 P31~ P44
5) 村 上
英樹
他 ( 2006)『 航 空 の 経 済 学 』、 P64~ P69
6) 大 橋 忠 弘 、 宅 間 文 夫 、 土 谷 和 之 、 山 口 勝 弘 ( 2002) は 、「 日 本 に お け る 国 内
航空政策の効果計測に関する実証分析」で、輸送量の変化を分析した時に、
GDP の 対 数 を 内 生 変 数 と し て 利 用 し た 。 航 空 輸 送 だ け で な く 、 他 の 交 通 手
段 の 輸 送 量 を 測 定 す る 時 、 GDP の 対 数 で あ る 内 生 変 数 が 使 わ れ た 。 土 井 正
幸 、坂 下 昇( 2002)P40 に は 、タ イ 国 鉄 の 旅 客 輸 送 需 要 弾 力 性 を 測 定 す る 内
生 変 数 の 中 で 、 GDP の 対 数 の 変 数 が あ る 。
7) 増 井
健一、山内
弘 隆 ( 1994)、 P2,P3
8) 太 田
正 樹 ( 1981)、 P11~ P14
9) こ の 部 分 を 書 く た め に 、 次 の 文 献 を 参 考 し た 。
*村上
英樹
他 ( 2006)、 P138~ P151
19
グエン
ティ タイン アン/博士論文
第 2 章 航空輸送について
* ド ガ ニ ス ( 1995)、 第 2 章
* 増 井 健 一 、 山 口 弘 隆 ( 1994)、 Ⅳ
* ド ガ ニ ス ( 2003)『 21 世 紀 の 航 空 ビ ジ ネ ス 』、 P297
10) ア メ リ カ の 航 空 輸 送 の 規 制 緩 和 に つ い て は 、 第 3 章 で 詳 し く 分 析 す る 。
11) 2.4.4.,2.4.5,2.4.6 を 書 く た め に 、 ド ガ ニ ス ( 2003)、 第 1 章 、 第 2 章 を 参 考
した。
12) Anming Zhang, Yimin Zhang (2002), “A model of air cargo liberalization:
passenger vs. all-cargo carriers”, Transportation Research Part E 38 (2002),
P175-191
Youdi Schipper, Piet Rietveld, Peter Nijkamp (2003), “Airlines deregulation and
external cost: a welfare analysis”, Transportation Research Part B 37 (2003)
P699-718
David Gillen, Richard Harris, Tae Hoon Oum (2002), “Measuring the economic
effects of bilateral liberalization air transport”, Transportation Research Part E
38 (2002), P155-174
13) Jolian McHardy, Stephen Trotter (2006), “Competition and deregulation: Do air
passengers get the benefit?”, Transportation Research Part A 40 (2006) P74-93
14) 空 港 の 問 題 に つ い て は 、 第 6 章 で 分 析 す る 。
15) Mattijs Backx, Michael Carney, Eric Gedajlovic (2002), “Public, private and
mixed ownership and the performance of international airlines”, Journal of Air
Transport Management 8 (2002) P213-220
Claude
Laurin,
Yves
Bozec
(2001),
“Privatization
and
productivity
improvement: the case of Canadian National”, Transportation Research Part E
37 (2001) P355-374
16) ド ガ ニ ス ( 2003)、 第 1 章
17) ド ガ ニ ス ( 2003)、 第 1 章
20
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
第 3 章 . アメリカの航空輸送における規制緩和
(ディレギュレーション)とその影響
3.1. 規 制 緩 和 の 背 景
鳥 の よ う に 空 を 飛 ぶ と い う 人 類 の 夢 は 1903 年 に ア メ リ カ で ラ イ ト 兄 弟 に よ
っ て 叶 え ら れ た 。1913 年 に は 、ア メ リ カ の フ ロ リ ダ 州 タ ン パ 湾 で 、飛 行 艇 の 定
期運航が行われた。そして、第 1 次世界大戦後、アメリカの郵政庁が先駆して
定 期 航 空 を 開 発 し た 。1930 年 代 に 入 る と 、ア メ リ カ に お け る 航 空 輸 送 の 発 達 が
著しく、アメリカン、ユナイテッド、イースタン、トランス・ワールドなどと
い っ た 航 空 会 社 が 設 立 さ れ た 。 1938 年 に は 、 航 空 輸 送 活 動 を 管 理 す る た め に 、
ア メ リ カ 民 間 航 空 委 員 会 ( CAB) が 誕 生 し た 。 民 間 航 空 の 経 済 的 規 制 の 根 拠 は
基 本 的 法 規 で あ る 1938 年 の 民 間 航 空 法 と 1958 年 の 連 邦 航 空 法 で あ る 。
1938 年 法 に は 航 空 産 業 に 対 す る 規 制 の 基 本 的 理 由 と し て 、民 間 航 空 に 対 す る
政 府 補 助 の 合 理 性 と 航 空 産 業 の 振 興 が 打 ち 出 さ れ た 。ま た 、1887 年 商 業 規 制 法
に代表される、
「 規 制 の 経 済 的 基 礎 は 自 然 独 占 概 念 か ら 生 じ る 」と の 考 え 方 を そ
の ま ま 受 け 継 い だ 。そ の 後 、1957 年 の 2 件 の 空 中 衝 突 事 故 が き っ か け と な っ て
成 立 し た 1958 年 法 に お け る 航 空 産 業 に 対 す る 経 済 的 な 規 制 の 根 拠 は 、「 合 衆 国
の対外及び国内通商、郵便事業、国防の現在及び将来のニーズに適合した航空
輸 送 シ ス テ ム の 発 展 」 に 関 す る 国 民 的 関 心 で あ る 。 1938 年 法 と 1958 年 法 に は
経済・社会条件が異なるが、共通の「政策宣言」の内容がある

1)
。
合衆国の対外及び国内通商、郵便事業、国防の現在及び将来のニーズに適
切に適合した航空輸送システムの育成と発展。

航空輸送に固有の優位性を認識・確保し、その高度の安全性を保証し、健
全な経済条件を助長し、航空企業間の関係を改善し、輸送の調整を行う方
向で航空輸送の規制を行うこと。

不当な差別・不公平な選別ないし破滅的な競争を行うことなく、妥当な料
金で、企業が適切・経済的かつ効率的なサービスを行うことを促進するこ
と。

合衆国の対外及び国内通商、郵便事業、国防のニーズに適切に適合した航
空輸送システムの健全な発展を確保するに必要な程度の競争。

航空通商における安全性の促進

民間航空の振興、奨励、発展
こ の 政 策 宣 言 は 十 分 に 幅 広 い 裁 量 権 を CAB に 与 え る こ と を 意 味 し て い た 。
1938 年 か ら 40 年 間 に わ た っ て 、ア メ リ カ に お い て は CAB に よ る 規 制 が 行 わ れ
て い た 。CAB は 新 規 参 入 に 消 極 的 な 態 度 を と り 、幹 線 へ の 参 入 は 、1930 年 代 に
21
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
免許を受けた事業者以外は認められなかった。また、既存事業者の新規路線へ
の 参 入 も 制 限 的 で あ り 、1969 年 以 降 は 事 実 上 不 可 能 で あ っ た 。あ る 航 空 会 社 が
一定の路線で運航を営む唯一の会社である場合、事業上の判断に基づいて自由
に そ の 市 場 か ら 撤 退 す る こ と は 許 容 さ れ な か っ た 。ま た 、CAB は 全 て の 運 賃 を
認可の対象としていた上に、一般的には差別的だと考えられる割引運賃を排除
した。価格競争も認められておらず、州際航空は州内航空よりはるかに高い運
賃水準で運航したため、高い運賃水準に対して批判が続いた。競争は、便数を
増 や す な ど の 非 価 格 競 争 で の み 行 わ れ た 。こ の た め 、1930 年 代 に 運 航 免 許 を 有
する航空会社は、経営も魅力的になり、また米国国内航空市場で重要な位置を
占める、需要が多い大都市間の路線を優先的に占有することが可能になった。
そ し て 、1940 年 代 に は 、主 要 都 市 に 乗 り 入 れ る こ れ ら の 会 社 は「 幹 線 企 業 」と
呼ばれ、アメリカ航空輸送のいわゆるビッグ・フォア(アメリカン、ユナイテ
ッ ド 、イ ー ス タ ン 、ト ラ ン ス ・ワ ー ル ド )が 出 現 し て き た 。1950 年 ~ 1970 年 代
の 時 期 、航 空 業 界 は「 2 倍 の ゲ ー ム 」と 呼 ば れ る 状 況 の 下 で 運 営 さ れ て い た
2)
。
つ ま り 、 ア メ リ カ の GDP が 1% 成 長 す れ ば 、 航 空 会 社 の 収 入 は 2% 伸 び た 。 需
要が多く、運賃と航空路線は政府が規制していたため、競争はなく、費用を消
費者に押し付けることが容易だったためである。
他 方 で 、 国 際 路 線 で の 輸 送 業 は ICAO、 IATA の 規 制 及 び 、 二 国 間 協 定 の 規 定
によって、統制された
3)
。統制の第 1 は、航空会社はいかなる市場にも参入で
きず、その参入を政府の行動と支持に依存している点である。即ち、国際路線
を開設する時、政府は外国と二国間協定を交わし、これらの路線で運航サービ
スを提供する地点を交渉する。航空会社は直接に交渉して、路線を形成できな
かった。第 2 は、航空会社の輸送量(産出量)はその会社の能力や生産水準で
決められないことである。輸送量は、輸送力の統制や輸送量の平等な配分をめ
ぐる二国間協定、あるいは航空会社間の協定を通して制限される。第 3 に、航
空 会 社 は 価 格 形 成 を 制 限 さ れ る 。 ほ と ん ど の 運 賃 は 伝 統 的 に IATA の 運 送 会 議
によって設定された。それだけでなく、政府が最終的にすべての運賃を承認し
なければならないこともあった。航空会社は自分の運賃を自分で設定すること
ができなかった。それが原因で価格競争がなかった。
規制は航空産業に重要な影響を与えた。規制、特に運賃に関する規制は航空
業 の 成 長 を 抑 制 し た 。し か し な が ら 、1970 年 代 ま で 世 界 航 空 産 業 を 統 治 し て い
た理論はほとんど規制の正当化を主張している。規制は結果として誰に利益を
与えることになったのか。その受益者は規制を受ける航空会社とその従業員で
あるということは、経済学者の間で幅広い合意があった

4)
。
競争がないため、航空会社は競争費用がかからなくて、便益を享受した。
22
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響

従業員は団体交渉により高い賃金・特別給与を得ることができる。

高い運賃水準が維持され、競争回避ができ、超過利潤が獲得できる。

小都会向けの航空輸送が補助金で運航される。
1972 年 か ら 1974 年 の 石 油 危 機 以 後 、 定 期 航 空 会 社 の 損 失 が 増 大 し た 時 、 多
く の 政 府 は 自 国 の 定 期 航 空 会 社 の 保 護 に 着 手 し 、こ の 保 護 主 義 は 1972 年 以 降 拡
大していった。多くの政府は自国の会社が特定市場で全体輸送量のより均等な
シェア配分の獲得ができるようにはかった。これらの航空会社は、アメリカ向
けの路線でアメリカ人の旅客が輸送旅客の半分以上を担っているが、輸送旅客
の 50% 以 上 を 大 幅 に 上 回 る 輸 送 量 を 占 め て い た 。外 国 の 航 空 輸 送 保 護 主 義 に 対
し て 、国 内 の 指 摘 が 高 ま っ た た め 、CAB の 手 続 き や 統 制 の 改 革 が 必 要 に な っ た 。
1974 年 の 後 半 に は 、
『 規 制 改 革 に 関 す る CAB の 特 別 ス タ ッ フ ・ レ ポ ー ト 』が ア
メリカ政府に提出された。このレポートは、現行の航空輸送規制システムの特
徴や欠点について、以下の点を分析して指摘した
5)
。
1.
新規航空会社の長距離幹線市場からの事実上の排除
2.
相対的に非効率な会社の保護
3.
過 度 に 高 い 労 働 コ ス ト 及 び 、過 度 の コ ス ト を も た ら す タ イ プ の サ ー ビ ス
4.
消費者の選好にそった価格競争と価格・サービスの質のバリエーショ
ン・ミックスの軽視
このレポート及び、規制緩和に関する様々な議論に基づいて、アメリカ政府
は 1976 年 に 規 制 緩 和 法 案 を 導 入 し た 。 1977 年 2 月 に 、 カ ー タ ー 大 統 領 は ア メ
リカの国内会社間での競争の拡大を可能にする新しい法案を議会に導入すると
議 会 に 宣 言 し た 。CAB は 、こ の 法 案 を き っ か け と し て 、航 空 輸 送 の 規 制 を 緩 和
し 始 め た 。1977 年 初 め に 、CAB は 各 航 空 会 社 の 割 引 運 賃 を 承 認 す る こ と に よ っ
て、価格競争の促進を着手した。
表 3- 1
1977~ 1978 年 に 承 認 さ れ た 国 内 割 引 運 賃 ( 一 部 )
運賃名
会社名
実施日
割引率
Peanuts
Texas International
1977/2/1
50%
Super Saver
American, United
1977/4/25
35% ~ 45%
Super Coach
American
1977/9/1
30%
Night Super
Eastern
1978/5/15
40% ~ 50%
Unlimited milage
Eastern
1977/9/11
大 人 229 ド ル 、子 供 197 ド ル
Super Non-frills
Eastern
1977/12/1
13% ~ 50%
Group-50
United
1978/1/1
25% ~ 38%
出 典 :『 米 国 航 空 規 制 緩 和 を め ぐ る 諸 議 論 の 展 開 』( 1999 年 ) よ り
23
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
し か し 、こ の 規 制 緩 和 に 対 し て 、反 論 も で て き た 。
「規制を伴わない競争市場
諸 力 に よ っ て 、 公 衆 の 利 益 に 反 す る 結 果 が も た ら さ れ る で あ ろ う 」、「 運 賃 競 争
は 全 て の 参 加 者 の 利 益 と 相 反 す る 結 果 を 招 く で あ ろ う 」、「 民 間 航 空 輸 送 は 大 き
な外部便益を生み出しており、それを損わぬようにするため、航空輸送業に対
する規制が要請される」と主張する経済学者がいた。しかし、規制緩和支持論
を 展 開 し て い た ア ル フ レ ッ ド ・ カ ー ン 氏 が 1977 年 に CAB の 委 員 長 に 就 任 し た
後、規制緩和の動きが急速に展開することとなった
6)
。
1978 年 10 月 24 日 に 、航 空 規 制 緩 和 法 が 立 法 と し て 署 名 さ れ た 。同 法 は 、路
線 と 運 賃 に 対 す る 全 て の 統 制 を 撤 廃 し 、1985 年 ま で に 民 間 航 空 委 員 会 の 完 全 な
廃止を規定した。この委員会が従来担っていた責任は、連邦政府の他の部門に
よ っ て 継 承 さ れ る こ と と な っ た 。 規 制 緩 和 法 は 、 1978 年 か ら 1985 年 の 間 に 不
採算路線からの撤退と新規路線の獲得の促進に基づく段階的な緩和措置がその
内 容 で あ る 。 CAB は 、 運 賃 が 完 全 に 規 制 緩 和 さ れ る 1982 年 ま で 、 最 低 及 び 最
高運賃に対する規制権限を保持した
表 3- 2
7)
。
1978 年当時のアメリカの幹線会社と国内総有償旅客マイルに占めるシェア
順位
会社名
シェア
1
United Airlines
21.1%
2
American
13.5%
3
Delta Airlines
12.0%
4
Eastern Airlines
11.1%
5
Trans World Airlines
9.4%
6
Western Airlines
5.0%
7
Continental Airlines
4.5%
8
Braniff International
3.8%
9
National Airlines
3.6%
10
Northwest Airlines
2.6%
Airlines
出 典 :『 米 国 航 空 規 制 緩 和 を め ぐ る 諸 議 論 の 展 開 』( 1999 年 ) よ り
1978 年 航 空 規 制 緩 和 法 ( ADA) の 具 体 的 な 内 容 は 次 の 通 り で あ る
1.
8)
。
挙証責任の転換
新 規 参 入 を 申 請 す る 場 合 、従 来 は そ の 参 入 が「 公 共 の 便 宜 と 必 要 性 」
を 満 た す こ と を 申 請 者 が 実 証 す る 必 要 が あ っ た が 、今 後 は そ の 参 入
に 反 対 す る 会 社 あ る い は 人 が あ れ ば 、反 対 者 が そ の 参 入 が「 公 共 便
宜と必要性」に矛盾するものであることを示さなければならない、
24
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
という規則に転換した。
2.
自動参入の一定限度までの認可
1981 年 ま で 州 際 航 空 会 社・州 内 航 空 会 社 と も 自 由 に 新 規 路 線 権 を 獲
得 で き る 。し か し 、既 存 の 州 際 会 社 は こ の 自 動 参 入 が 不 適 当 で あ る
ことを指摘することによって、1 年に付き 1 路線については参入を
拒否できる。
3.
休眠路線権の免許申請の認可
26 週 の 内 少 な く と も 13 週 に つ い て は 週 5 便 の サ ー ビ ス 水 準 を 下 回
る い わ ゆ る 休 眠 路 線 は 、 CAB に よ る と 、 1978 年 時 点 で 2 万 2 千 に
も 上 っ て い る が 、こ れ ら の 休 眠 路 線 の 運 航 権 は サ ー ビ ス 提 供 の「 意
思 が あ り 能 力 が あ る 」こ と を 表 明 し た 会 社 が 獲 得 で き る 。CAB が 休
眠 路 線 で あ る と 認 定 し た 場 合 に は 、最 初 に 申 請 し た 会 社 に そ の 運 航
権が割り当てられる。そのため、急激な参入を可能にする。
4.
運賃弾力化のゾーンを法令により設定
会 社 側 か ら の 報 告 に 応 じ て CAB が 半 期 毎 に 改 定 す る 標 準 産 業 運 賃
水 準 に つ い て 、 年 上 方 5% ・ 下 方 50% の 変 更 が CAB の 認 可 な し に
自由に行うことができる。
5.
ロ ー カ ル ・ サ ー ビ ス 会 社 に 対 す る 補 助 に 代 え て 、新 し い 規 定 を 設 定
す る 共 に 、 退 出 は 90 日 前 の 事 前 通 告 だ け で で き る こ と と す る 。
1984 年 12 月 31 日 に ア メ リ カ の 民 間 航 空 委 員 会 は 廃 止 さ れ た 。国 際 航 空 に 関
する権限は運輸省に、州際・国際航空郵便の運賃決定権は郵政公社に移管され
ることになったのである。
3.2. 規 制 緩 和 の 理 論 的 支 柱 と し て の 理 論
ア メ リ カ に お け る 規 制 緩 和 政 策 の 基 本 と な っ た 理 論 は 、 Baumol, Panzar, and
Willig( 1982) な ど に よ っ て 提 唱 さ れ た 「 コ ン テ ス タ ビ リ テ ィ の 理 論 」 で あ る
9)
。
コ ン テ ス タ ビ リ テ ィ の 理 論 の エ ッ セ ン ス は 「 ひ き 逃 げ 戦 略 」 (hit-and-run
policy) に あ る 。 参 入 と 退 出 が 自 由 で 参 入 ・ 退 出 の 費 用 も ゼ ロ で あ り 、 し か も 、
既存の会社は現在消費者に課している料金・運賃を一定期間変更できないと仮
定する。もし、規模の経済性が働いても既存会社の料金・運賃が非効率的であ
り、何らかの無駄があるなら、参入が自由であるかぎり、より効率的で無駄の
少ない料金・運賃で新規会社が参入して利潤を得ることができる。退出も自由
で退出の費用がゼロであるなら、新規参入に直面した既存の会社が料金・運賃
を変更すると同時に、参入会社は利潤を獲得できなくなり、市場から退出でき
25
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
る。したがって、参入・退出が自由である限り、既存の会社は効率的な料金・
運賃を設定せざるを得ないので、独占の料金・運賃は市場の均衡として成り立
つことができない。市場がコンテスタビリティであれば、政策的介入がなくて
も、参入・退出を含めた自由な競争に任せることによって望ましい資源配分を
達成することができる。
この理論が成り立つためには、次のいくつかの諸前提が確立されていなけれ
ばならない。
① 潜在的新規参入会社と既存会社との間には技術要件の格差がない。つまり、
生産技術が標準化されているような産業である。
② 潜在的新規会社と既存会社は完全に同質な財を生産する。
③ 各会社は線形料金しか実行できない。既存会社が非線形料金を採用すれば、
潜在的新規参入会社によるひき逃げ戦略の脅威を回避できる。
④ 潜 在 的 新 規 参 入 会 社 は 、参 入 後 も 既 存 会 社 が 現 行 の 価 格 戦 略 を 維 持 す る と 予
想する。
⑤ 市 場 は コ ン テ ス タ ブ ル( 潜 在 的 競 争 可 能 )で あ る 。即 ち 、参 入 ・退 出 に は 何
かのサンク・コストが発生しない。
この理論に賛同した経済学者は政府による市場介入政策や規制を批判した。
結果として、この考え方の下に、アメリカ政府は徹底的な規制の撤廃に取り組
んだ。航空輸送市場は自由市場環境が形成された。しかし、理論の前提条件の
妥当性は疑問視されていた。例えば、⑤の内容については、航空輸送は固定費
用が高いため、簡単に参入・退出することはかなり難しい。参入する時、飛行
機や設備を購入するのに多額の投資金が必要である上、サービスを販売するの
にも費用がかかる。利潤が獲得できない時でも、簡単に市場から退出しない。
つまり、サンクコストが著しく大きいからである。既存の航空会社の長所はネ
ッ ト ワ ー ク を 持 っ て い る こ と で あ る 。ネ ッ ト ワ ー ク の 例 と し て 、共 同 運 航 、FFP
(Frequent Flyers Programme)、CRS (Computer Reservation System)が 取 り 上 げ ら れ
る 。 特 に 、 CRS は 膨 大 な サ ン ク ・ コ ス ト で あ り 、 情 報 技 術 を 独 占 す る と い う 事
実がある。このネットワークは参入の障壁である
10)
。
基本的な理論については、妥当性が疑問視されているが、実際の航空輸送活
動はどのように行われたか、どのような変化があったか、次に検討してみる。
3.3. 規 制 緩 和 の 効 果
3.3.1. 規 制 緩 和 の 世 界 的 影 響
アメリカの航空輸送規制緩和が全世界の航空輸送業に波及したことは否定で
きない。そして、この規制緩和が現在、航空輸送の自由化やオープン・スカイ
26
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
の起源であると考えられている。
ア メ リ カ は 1978 年 か ら 1985 年 ま で の 期 間 に 二 国 間 協 定 の 再 交 渉 を 行 い 、 ア
メリカ国内を起点とする路線において規制緩和の政策手段を導入した
11 )
。そ の
結果、新規の市場参入、輸送力や便数や運賃、チャーター・サービスについて
国際間あるいは二国間の統制・規制は緩和されるか廃止された。アメリカの規
制緩和の圧力は、カナダやイギリスなどの他の国に影響を及ぼし、これらの国
の 航 空 政 策 に 自 由 化 の 方 向 を 与 え た 。例 え ば 、1982 年 に カ ナ ダ と ド イ ツ は 新 し
い二国間協定に調印した。この新しい協定により二国間で運航される航空会社
の 便 数 と 輸 送 力 の 制 限 が 取 り 除 か れ た 。さ ら に 、1987 年 に イ ギ リ ス と カ ナ ダ は
航空サービス協定に調印した。この協定には、いかなる輸送力の統制もなく、
路線毎の指定航空会社の数にも限度がなく、輸送サービスが提供される路線や
地点にも制限がない。
1980 年 代 後 半 、規 制 緩 和 の 焦 点 は ヨ ー ロ ッ パ に 移 っ た 。最 初 の 大 き な 躍 進 は 、
1984 年 6 月 に イ ギ リ ス と オ ラ ン ダ が 両 国 の 間 の 航 空 輸 送 を 効 果 的 に 規 制 緩 和 す
る 新 し い 二 国 間 協 定 に 調 印 し た こ と で あ っ た 。1984 年 の 後 半 に 、イ ギ リ ス は ド
イ ツ と 新 し い 協 定 に サ イ ン し 、翌 年 に は ル ク セ ン ブ ル グ 、フ ラ ン ス 、ベ ル ギ ー 、
スイス、アイルランドと協定を結んだ。その後、ヨーロッパ諸国もそれぞれの
二国間航空輸送協定の再交渉を行って、新しい協定を結んだ。
規 制 緩 和 は さ ら に ア ジ ア ま で 波 及 し て い っ た 。日 本 で は 、1986 年 以 降 、国 内
航空業であった全日本空輸(全日空)あるいは日本エアシステムが多くの主要
な 国 際 路 線 で 第 2 の 日 本 の 航 空 会 社 と し て 指 定 さ れ 、 JAL の 国 際 航 空 サ ー ビ ス
の実質的な独占が崩れた。他のアジア諸国にも新規航空が設立され、その新規
会社が航空サービスの提供への参加を認められ、既存の国内航空会社と直接的
競 争 関 係 に 立 つ ケ ー ス が よ く 見 ら れ た 。例 え ば 、韓 国 で は 、1988 年 2 月 に ア シ
ア ナ 航 空 が 設 立 さ れ 、 1988 年 の 年 末 に 国 内 線 の 運 航 を 開 始 し た 。
以上で分かるように、アメリカの航空輸送規制緩和は世界の各国の航空輸送
政策に影響を及ぼした。経済的効果について、色々な考え方があるが、航空輸
送の市場が活発になり、サービスもバラエティに富むようになった。多くの国
は、規制緩和によって航空輸送の 1 社独占の体制を廃止し、少なくとも競争的
な市場を作り出すことが可能となった。
3.3.2. 規 制 緩 和 後 の ア メ リ カ 市 場 に つ い て の 評 価
ア メ リ カ の 航 空 業 に 与 え た 規 制 緩 和 の 影 響 に つ い て 、 Paul Stephen Dempsy &
Andrew R.Goetz (1996)、 Steven A.Morrison and Clifford Winston (1997)、 Rigas
Doganis (1989, 1995)、 戸 崎
肇 (1995)、 高 橋
望 (1999) な ど 、 多 く の 経 済 学
研究者が分析して、結論を出した。出された結論は規制緩和が航空輸送の発展
27
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
に貢献したというもの、規制緩和が失敗して不幸な結末になったというものな
ど、様々なので、ここで一般的、客観的にまとめてみる。
(ア ) 単 位 収 入 の 変 化
規制緩和法の内容によって、運賃を統制する規定が廃止されたので、航空会
社 間 の 運 賃 競 争 が 認 め ら れ る よ う に な っ た 。1977 年 か ら 、ア メ リ カ の 航 空 会 社
は一斉に運賃の割引を実行したため、旅客・マイル当たりの収入が下がった。
こ の 傾 向 が 1979 年 ま で 続 い た が 、 1980 年 代 に 入 っ て か ら 、 石 油 危 機 が お こ っ
た た め 石 油 コ ス ト の 増 加 に つ れ て 運 賃 も 上 が っ た 。そ の 後 、1982 年 か ら 、運 賃
競争によって、イールドが下がっていく傾向が見られた。しかしながら、図 3
-1 を見て分かるように、イールドの低減する傾向は規制緩和後から始まった
わ け で は な い 。 こ の 傾 向 は 1960 年 代 に 入 っ て か ら 、 著 し く 見 ら れ た 。 従 っ て 、
規制緩和後、運賃競争によって、単位収入が低下したとは必ずしも言えない。
図 3- 1
旅客・マイル当たりの収入(イールド)
16
14
1978 cents
12
10
8
6
4
2
0
データの出典:Air Transport Association, Economics and Energy
http://www.airlines.org/economics/finance/PaPricesYield.htm
次に、旅客と貨物を合わせた単位収入について、検討してみる。アメリカの
航 空 業 の 統 計 で よ く 使 わ れ る 、 い わ ゆ る RevenueTon-mile で 旅 客 と 貨 物 の 輸 送
量をまとめて、その総輸送量とアメリカの総収入から有償トン・マイルの単位
収 入 を 計 算 す る 。( 有 償 旅 客 ト ン ・ マ イ ル は 体 重 が 200 ポ ン ド ( 約 90 キ ロ グ ラ
ム)あると規定する有償旅客一人が 1 マイルを移動する単位である)
図 3- 2 を 見 て 分 か る よ う に 、旅 客 も 貨 物 も 含 め た ア メ リ カ の 航 空 市 場 全 体 の 単
28
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
位 収 入 は 低 下 す る 傾 向 が 見 ら れ な い 。特 に 、規 制 緩 和 後 、1970 年 代 の 後 半 に は
この単位収入が急に増加する傾向もあった。
即ち、規制緩和による運賃競争により、航空業の単位収入が低下するという
結論は正しいとは言えない。
図 3- 2
有償トン・マイル(旅客と貨物を合わせる)当たりの収入
1.4
1.2
USD
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
デ ー タ の 出 典 : U.S. Department of Transportation, RITA, Bureau of Transportation Statistic
(イ ) 収 益 性
規制緩和後、アメリカの航空業の収入はどのように変化したか、検討してみ
る 。表 3- 3 は 航 空 業 の 年 間 の 売 り 上 げ と 利 潤 を 示 し て い る 。売 り 上 げ は 時 間 が
経つにつれて、増加してきた一方、航空輸送事業の利潤はマイナスになる年も
あ っ た 。利 潤 が マ イ ナ ス に な っ た 時 期 は 1980~ 1982 年 と 1990 年 ~ 1992 年 で あ
る。世界の航空輸送の背景を見ると、これらの時期は石油危機時期と湾岸危機
時 期 ( イ ラ ク に よ る ク ウ エ ー ト 侵 攻 の 1990 年 と 湾 岸 戦 争 の 1991 年 ) な の で 、
アメリカの航空業をはじめ、全世界の航空輸送は損害を受けた。これらの時期
以外、アメリカの航空輸送事業の利潤はすべて正である。特に、規制緩和後、
1978 年 に 利 潤 が 急 に 増 加 し た 。そ し て 、1993 年 か ら 利 潤 が 安 定 的 に 増 大 し て き
た。このことは、規制緩和によって航空業の利益にマイナス影響を与えると主
張 す る 考 え が 正 し い と は 限 ら な い こ と を 示 し て い る 。2001 年 に 、飛 行 機 の テ ロ
に よ っ て 、ア メ リ カ の 航 空 業 は 巨 大 な 損 害 を 被 り 、2001 年 か ら の 時 期 は 航 空 輸
送の損失が甚大になったが、規制緩和とは関係がないと思われる。
29
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
表 3- 3
アメリカ航空業の年間の売り上げと利潤
年
運航輸送事業の
年 間 利 潤 ($000)
売 り 上 げ ($000)
運航輸送事業の利潤
純益
1970
9,289,658
43,031
-200,503
1971
10,045,577
328,475
28,007
1972
11,163,271
584,470
214,851
1973
12,418,777
585,266
226,693
1974
14,699,125
725,740
321,641
1975
15,355,921
127,879
-84,204
1976
17,501,215
721,933
563,354
1977
19,924,800
908,040
752,536
1978
22,883,955
1,364,863
1,196,537
1979
27,226,665
199,055
346,845
1980
33,727,806
-221,615
17,414
1981
36,662,555
-454,770
-300,826
1982
36,407,635
-733,435
-915,814
1983
38,953,672
310,410
-188,051
1984
43,825,047
2,151,511
824,668
1985
46,664,414
1,426,264
862,715
1986
50,524,933
1,323,101
-234,909
1987
56,985,709
2,468,889
593,398
1988
63,748,886
3,436,503
1,685,599
1989
69,315,854
1,811,267
127,902
1990
76,141,739
-1,912,335
-3,921,002
1991
75,234,234
-1,784,741
-1,940,157
1992
78,357,040
-2,444,460
-4,791,284
1993
85,298,379
1,438,172
-2,135,626
1994
89,036,582
2,713,455
-344,115
1995
95,117,473
5,859,518
2,313,591
1996
102,443,738
6,209,069
2,803,915
1997
109,917,304
8,586,794
5,167,657
1998
113,810,206
9,327,810
4,903,203
出 典 : Air Transport Association, Economics and Energy, Annual Earning: U.S. Airlines
http://www.airlines.org/economics/finance/Annual+US+Financial+Results.htm
30
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
(ウ ) 航 空 会 社 の 数
市場参入の規制の廃止によって、新規航空会社が参入してきた。退出も自由
に な っ た の で 、利 潤 が 獲 得 で き な い 航 空 会 社 は 破 産 し 、市 場 か ら 追 い 出 さ れ る 。
表 3- 4 の よ う に 、 1970 年 代 と 比 べ て 、 1980 年 代 に 入 っ て か ら 、 幹 線 航 空 会 社
の 数 が 増 え て き た 。 特 に 、 1996 年 に 、 幹 線 航 空 会 社 は 90 社 に 達 し た 。 規 制 緩
和後、航空会社間の競争が激しくなり、会社が破産し買収されたり、合併され
た り す る ケ ー ス が よ く あ っ た 。例 と し て 、Air Cal が 1987 年 に American 航 空 に
合 併 さ れ 、 Western が 1986 年 に Delta 航 空 に 合 併 さ れ た 。 1989 年 に 、 American
は Eastern の ラ テ ン ア メ リ カ ン 路 線 を 買 収 し た 。こ れ ら の 買 収・合 併 に よ っ て 、
アメリカの航空業のメガキャリアが誕生した。
表 3- 4
アメリカの幹線航空会社数の変化
年
1970
1980
1990
1994
1995
1996
1997
1998
会社数
39
66
59
80
89
90
82
80
1999
2000
2001
82
76
69
デ ー タ の 出 典 : U.S. Department of Transportation, RITA, Bureau of Transportation Statistic
http://www.bts.gov/publications/national_transportation_statistics/2002/html/table_air_carrier_profile.html
表 3- 5
メ ガ キ ャ リ ア の 市 場 シ ェ ア ( 1990 年 1 月 時 点 )
有 償 旅 客 マ イ ル (百 万 )
市場シェア(%)
American
5,676,675
16.72
United
5,428,222
15.988
Delta
4,418,700
13.015
Northwest
3,935,990
11.593
Continental
2,988,344
8.802
USAir
2,522,339
7.429
Trans World Airlines TWA
2,423,400
7.138
Pan American
2,342,000
6.898
Eastern
1,520,000
4.477
出 典 :『 規 制 緩 和 の 神 話 』( 1996)
中小会社の吸収・合併が進んだので、統合化や再寡占化の方向に進んでいく
の で は な い か と い う 恐 れ が あ っ た が 、表 3- 5 の 1990 年 の 市 場 シ ェ ア を 表 3- 2
の 1978 年 の 市 場 シ ェ ア と 比 べ る と 、 American、 Northwest と Delta の シ ェ ア は
増 大 し た が 、United、Eastern と TWA の シ ェ ア は 低 下 し て い る 。Eastern は 1991
31
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
年に破産し、運航を休止した。航空業の特徴を見ると、メガキャリアが存在す
ることは必然なのである。市場参入が自由になり、新規の会社が次第に参入し
てきたので、大手航空会社は競争で生き残れるように、競争力の強化が必要に
なる。そして、大手航空会社に対しても、新規の航空会社に対しても、生き残
れ る 機 会 は 平 等 に 配 分 さ れ る と 考 え ら れ る 。1970 年 代 か ら 誕 生 し た 低 コ ス ト 航
空会社の成功はこのことを証明した。
国 際 市 場 に お い て は 、1970 年 代 に 入 っ て か ら 市 場 シ ェ ア が 落 下 し た ア メ リ カ
の航空会社は規制緩和後、世界の大手航空会社のランキングの中に数多く入っ
た 。 表 3- 6 の よ う に 、 規 制 緩 和 の 10 年 後 で あ る 1986 年 に 、 10 大 手 航 空 会 社
の う ち 、ア メ リ カ の 会 社 は 7 社 を 占 め 、ア メ リ カ の 航 空 業 は 強 い 勢 い を 見 せ た 。
表 3- 6
1988 年 の 世 界 の 大 手 航 空 会 社 の ラ ン キ ン グ
(有償旅客キロメートル)
順位
航空会社
1
Aeroflot
2
United
3
American
4
Delta
5
Qantas
6
Continental
7
Northwest
8
British Airway
9
TWA
10
Pan American
出 典 :『 規 制 緩 和 の 神 話 』( 1996)
(エ ) 輸 送 量 の 変 化
航 空 輸 送 の 旅 客 有 償 ト ン・マ イ ル は 1977 年 に 206 億 812.9 万 、1978 年 に 236
億 9976.2 万 、 1979 年 に 269 億 7104 万 を 達 成 し た 。 そ の 後 、 石 油 危 機 の 影 響 で
1980 年 に 267 億 7229.8 万 、 1981 年 に 260 億 630.4 万 ま で 落 下 し た 。 1982 年 に
再 び 272 億 4353.5 万 に 上 っ た 後 、 1982 年 か ら 1990 年 ま で 安 定 的 に 増 大 し た 。
貨 物 有 償 ト ン ・ マ イ ル は 1977 年 に 69 億 7424.2 万 、 1978 年 に 73 億 9542.3 万 、
1979 年 に 75 億 7988.3 万 、1980 年 に 78 億 8322.9 万 を 達 成 し 、1990 年 ま で 増 大
してきた。
図 3- 3 は 定 期 航 空 の 輸 送 量 の 変 化 を 示 す 。 不 定 期 航 空 の 輸 送 旅 客 マ イ ル は 、
32
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
1978 年 と 1979 年 の 定 期 航 空 の 発 展 に よ る 影 響 が あ り 、 1979 年 の 輸 送 旅 客 数 が
急に落下したが、この時期以外は著しい変動がなかった。
図 3- 3
アメリカの定期航空の有償トン・マイル
90000000
有償トン・マイル(千)
80000000
70000000
60000000
定期有償旅客
トン・マイル
50000000
40000000
定期有償貨物
トン・マイル
30000000
20000000
10000000
0
デ ー タ の 出 典 : U.S. Department of Transportation, RITA, Bureau of Transportation Statistic
http://www.bts.gov/programs/airline_information/air_carrier_traffic_statistics/
(オ ) 安 全 性
表 3- 7
航空事故による死亡者(合計)
年
死亡者合計(人)
1960
499
1970
146
1980
0
1990
96
1994
0
1995
229
1996
457
1997
93
1998
46
1999
62
2000
168
出 典 : Air Carrier Profile of Reporting U.S. Carriers;
http://www.bts.gov/publications/national_transportation_statistics/2002/html/table_air_carrier_profile.html
33
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
航空輸送の規制緩和法が有効になり、運賃競争が認められた当時、この競争
は サ ー ビ ス の 質 を 保 て る の か 、安 全 性 が 保 証 さ れ る の か 、と い う 疑 問 が あ っ た 。
特に、安全性を保つのに規制は必要なものであると主張する理論が数多くあっ
た 。し か し 、表 3- 7 の よ う に 、規 制 緩 和 後 、航 空 事 故 に よ る 死 亡 者 が 全 く 増 加
し て い な い こ と が 分 か っ た 。2001 年 の 航 空 事 故 死 亡 者 が 604 人 に な っ た が 、ほ
とんどテロ事件の被害者であった。飛行機の技術が進歩し、飛行機の安全性が
保持されることにより、飛行機事故による死亡者は規制緩和以前より確実に減
少している。
(カ)ハブ・アンド・スポークと低コスト戦略
12)
航空輸送市場が競争的になったので、各航空会社は営業で様々な工夫をして
き た 。以 上 で 説 明 し た よ う に 、既 存 の 航 空 会 社 が CRS や FFP と い う 経 営 手 段 を
生かすことによって、サンク・コストが生ずる。その上、コストを削減するた
めに、ハブ・アンド・スポークという合理的な路線ネットワークを形成した。
一方、新規航空会社も負けずに、低コスト航空会社として最初から理念を設定
し運航する会社が多くなった。ハブ・アンド・スポークと低コスト戦略につい
て検討する。
図 3- 4
ハブ・アンド・スポークの模型
規制緩和後、アメリカの幹線航空会社は、ある特定の空港をハブ空港と位置
づけ、そこから放射状に路線を展開する、いわゆるハブ・アンド・スポーク・
ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 し 始 め た 。1980 年 代 の 後 期 に は 、ほ と ん ど の 幹 線 航 空 会 社
に ハ ブ ・ ア ン ド ・ ス ポ ー ク が 形 成 さ れ た 。 American 航 空 は ハ ブ が ダ ラ ス ・ フ ォ
ートワース、シカゴ、ナッシュビルとローリーダーラムであり、ミニハブがマ
イ ア ミ 、サ ン フ ァ ン 、サ ン ノ ゼ で あ る 。Delta 航 空 は ハ ブ が ア ト ラ ン タ 、ソ ル ト
レイクシティ、シンシナティであり、ミニハブがダラス・フォートワース、ロ
サ ン ジ ェ ル ス 、 オ ー ラ ン ド で あ る 。 United 航 空 は ハ ブ が シ カ ゴ 、 デ ン バ ー 、 サ
ンフランシスコ、ワシントン・ダレス空港である。ハブ空港とハブ空港との間
の路線は常に輸送密度が高く、航空会社はこの輸送密度を向上させることがで
きる。ハブ・アンド・スポークはより少ない機材の投資で運航地点を増加する
ことによって、収入増加、費用削減を同時に達成できる路線戦略である。
34
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
ハブ・アンド・スポークは幹線航空会社の運賃競争戦略であると同時に、市
場参入を妨げる障壁であると思われる。新規の航空会社は、幹線会社のハブを
避けられれば、成功する可能性が高い。そして、運賃を安くするため、低コス
ト戦略はよく使われた。
低コスト戦略に始めて成功した航空会社はサウスウエストである。サウスウ
エスト以外に、低コスト戦略を実施することによって、競争で生き残った航空
会社はバリュージェットやウエスタン・パシフィックなどである。新規航空会
社だけが低コスト戦略を実施するのではなく、既存の大手会社も収益改善を目
的 と し て 低 コ ス ト 戦 略 を 行 っ た 。そ し て 、低 コ ス ト 革 命 は ヨ ー ロ ッ パ に 波 及 し 、
ヨ ー ロ ッ パ の Low Cost Carrier LCC の 開 発 を も た ら し た 。
3.4. 結 論
ア メ リ カ 航 空 業 の 1978 年 に 実 施 し た 規 制 緩 和 法 の 効 果 に つ い て 、様 々 な 意 見
がある。既存航空会社の立場から見ると、規制緩和は独占を潰したので、これ
らの航空会社は規制緩和後、経営戦略や経営手段を調整しなければならなかっ
た。運賃競争が認められたため、収益が落下し、コスト削減を工夫した。規制
緩和は大手航空会社の利潤を獲得するチャンスを少なくするので、批判が多い
ことは当然である。
しかしながら、市場全体の観点と世界的観点から見ると、規制緩和が成功し
たと言うことができるであろう。規制緩和は、国内市場では、輸送量の増大に
も航空業の売り上げと売り上げの伸び率の増大にも貢献してきたと考えてよい。
国 際 市 場 で は 、規 制 緩 和 は 世 界 航 空 輸 送 の 自 由 化 の 展 開 に 貢 献 し て き た 。現 在 、
流行しているオープン・スカイはアメリカの規制緩和に根元がある。そして、
規制緩和は新しい航空モデルを開発させて、消費者に提供する航空サービスの
多様化を進めた。要するに、アメリカの航空輸送の規制緩和は航空輸送の発展
を進めることとなった。
(注)
1) 高 橋
望 ( 1999)『 米 国 航 空 規 制 緩 和 を め ぐ る 諸 議 論 の 展 開 』、 P.9
2) 戸 崎
肇 ( 1995)『 航 空 の 規 制 緩 和 』、 P.42
3) ド ガ ニ ス ( 1995)『 新 訂
4) 高 橋
国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』 P.35,36
望 ( 1999) P46
5) ド ガ ニ ス ( 1995) 第 2 章
6) 戸 崎
肇 ( 1995) 第 3 章
35
第3章
グエン ティ タイン アン/博士論文
アメリカの航空輸送における規制緩和(ディレギュレーション)とその影響
7) ド ガ ニ ス ( 1995) 第 3 章
8) 高 橋
望 ( 1999) 第 3 章 、 第 4 節
9) 奥 野
正寛、篠原
章;戸崎
10) 戸 崎
総一、金本
良 嗣 ( 1991)『 交 通 政 策 の 経 済 学 』、 第 4
肇 ( 1995) 第 2 章
肇 ( 1995) 第 2 章
11) ド ガ ニ ス ( 1995) 第 3 章
12) 村 上
戸崎
英 樹 、加 藤
一 誠 、高 橋
望 、榊 原
や す お( 1999)
『 航 空 の 経 済 学 』;
肇( 1995); デ ン プ シ 、ゲ ー ツ( 1996)
『規制緩和の神話
米国航空輸
送産業の経験』
36
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
第 4章 . 日 本 航 空 会 社 (JAL)の 民 営 化 と そ の 影 響
4.1. 日 本 の 航 空 輸 送 業 に つ い て
4.1.1. 第 2次 世 界 大 戦 後 ~ 1970年
航 空 輸 送 が ア ジ ア で 最 も 発 展 し て い る 日 本 は 、 1930年 代 か ら 軍 事 に 寄 与 さ せ
る た め に 航 空 輸 送 を 開 発 し た 。1938年 に は 、東 京 空 港 が 建 設 さ れ 、1939年 に は 、
大 阪 空 港 が 建 設 さ れ た 。 第 2次 世 界 大 戦 後 、 連 合 軍 総 司 令 部 ( GHQ) が 発 表 し
た「民間航空廃止に関する覚書」により、日本の民間航空活動は全面的に禁止
された。一方海外では、民間航空輸送が急速に発展し、東京への民間機乗入れ
は 、 1947年 の パ ン ・ ア メ リ カ ン 航 空 と ノ ー ス ウ エ ス ト 航 空 に 始 ま り 、 1950年 の
初 頭 に は 7社 に 達 し た 。 1951年 1月 に 、 GHQは 新 た に 「 日 本 資 本 に よ る 国 内 航 空
運 送 事 業 許 可 の 覚 書 」 を 日 本 政 府 に 伝 達 し た 1)。 こ の 覚 書 は 航 空 輸 送 再 開 に 向
け た 動 き を 活 発 化 さ せ た 。 日 本 の 民 間 航 空 輸 送 業 は 1951年 ( 昭 和 26年 ) に 再 開
され、同年に日本航空株式会社(旧)が設立され、平和産業としての民間航空
の 新 し い 出 発 と な っ た 。1951年 8月 に 日 本 航 空 が 戦 後 初 め て の 民 間 航 空 を 運 航 し
た 。機 種 は 33人 乗 り の プ ロ ペ ラ 機 で あ る マ ー チ ン 202で あ り 、パ イ ロ ッ ト は 全 員
ノ ー ス ウ エ ス ト 航 空 か ら 派 遣 さ れ た ア メ リ カ 人 で あ っ た 2 ) 。し か し 、1952年 4月
9日 に「 も く 星 」号 の 事 故 が 起 こ り 、ア メ リ カ 側 か ら 十 分 な 情 報 が 公 開 さ れ な い
ことにより、航空輸送の安全の重要性が痛感され、自主運航・自社整備を行う
こ と が 急 務 で あ る と い う コ ン セ ン サ ス が 形 成 さ れ た 。 1952年 7月 1日 に は 、 羽 田
空 港 が 米 軍 か ら 返 還 さ れ 、 東 京 国 際 空 港 と 名 づ け ら れ た 。 そ し て 、 1952年 の 航
空 法 制 定 に 伴 い 、 日 本 航 空 は 1952年 10月 25日 に 自 主 運 航 を 開 始 し た 3 ) 。
民 間 航 空 活 動 が 再 開 さ れ た 後 、す ぐ に 航 空 会 社 が 設 立 さ れ た 。1952年 か ら 1953
年にかけて航空輸送の会社が数多く市場に参入してきた。日本ヘリコプター輸
送、極東航空、青森航空、富士航空、北日本航空、東亜航空などである。しか
し 、こ の 航 空 会 社 は 長 い 期 間 生 き 残 る こ と が で き な か っ た 。激 し い 競 争 に よ り 、
日 本 航 空 業 に お け る 合 併 や 吸 収 が 行 わ れ た 。 1958年 に は 、 政 府 は 採 算 性 が 悪 い
日 本 ヘ リ コ プ タ ー 輸 送 と 極 東 航 空 を 合 併 さ せ 、全 日 本 空 輸 株 式 会 社 が 誕 生 し た 。
しかし、全日空は収支が改善されず、事故などの影響によって経営がより悪化
した。これに対して政府は全日空の幹線乗入れを認めた。この対策は、日航の
幹線独占という基本方針を変更するものであり、その後の航空政策に大きな影
響 を 及 ぼ し た 。 さ ら に 、 政 府 の 提 案 に よ っ て 、 日 航 と 全 日 空 は 1959年 に 資 本 提
携の契約を結んだ。しかし、この提携はその後生じた幹線における機材競争の
た め に 実 現 さ れ る こ と は な か っ た 4 ) 。 合 併 と 吸 収 の 結 果 、 1970年 代 に 入 っ て 、
日本の航空会社は日本航空、全日空、東亜国内航空(後に日本エアシステムに
37
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
改 名 し 、現 在 は 日 本 航 空 と 合 併 )の 3社 を 中 心 と す る 寡 占 時 代 へ 移 り 変 わ っ て い
く。
4.1.2. 45-47体 制 の 確 立 ( 1970年 ~ )
1960年 の 後 半 か ら 1973年 ま で の 時 期 は 日 本 経 済 の 高 度 成 長 時 期 で あ っ た 。 こ
れを背景として、航空輸送業も急速に発展してきた。このころの政府は航空産
業の急成長に注目し、また過当競争による不安全状態の拡大を心配し、航空会
社 の 再 編 成 に 乗 り 出 し た 。 1965年 12月 に 行 わ れ た 航 空 審 議 会 は 、 激 化 す る 国 際
競争に対応するため、日本航空への支援を強化し、同社に国際運航を任せると
同 時 に 、国 内 幹 線 を 運 航 す る 会 社 は 健 全 な 経 営 基 盤 を 有 す る 2社 で あ る こ と 、ロ
ー カ ル 線 を 運 航 す る 会 社 は 1社 で あ る 、と い う 構 想 が 明 ら か に し た 。結 果 と し て 、
1970年( 昭 和 45年 )の 閣 議 了 解 5 ) と 1972年( 昭 和 47年 )の 運 輸 大 臣 通 達 6 ) に よ っ
て、①日本航空に国際線の一元的運航と国内幹線の運航を、②全日空に国内幹
線、ローカル線及び近距離国際チャーターを、③東亜国内航空に国内ローカル
線 と 一 部 国 内 幹 線 の 運 航 を 、 そ れ ぞ れ 担 当 さ せ る と い う 、 い わ ゆ る 45・ 47体 制
が 成 立 し た 7)。
45・ 47体 制 は 日 本 航 空 輸 送 業 の 発 展 に 貢 献 し て き た 。 日 本 航 空 輸 送 の 座 席 キ
ロ は 1966年 に 55億 9000万 で あ っ た が 、1976年 に 314億 2000万 に 上 っ た 。日 本 航 空
と 全 日 空 の 成 長 は 表 4-1の 通 り で あ る 。
表 4-1
JALと ANAの 1966年 ~ 1976年 の 輸 送 実 績
1966年
1976年
JAL
67,513
394,952
ANA
16,273
200,479
JAL
644,526
2,925,374
ANA
-
-
JAL
1,736,302
7,001,830
ANA
2,241,656
15,618,189
国際輸送旅客キロ
JAL
2,814,043
15,256,980
(千人キロ)
ANA
-
-
国内旅客キロ
JAL
1,145,176
5,397,943
(千人キロ)
ANA
1,218,788
11,442,418
従業員(人)
JAL
67,513
394,952
ANA
16,273
200,479
営業収入(百万円)
国際旅客数(人)
国内旅客数(人)
出典:『規制緩和と航空のリストラ』
日 本 の 航 空 輸 送 業 は 確 実 に 成 長 し て き た が 、 1970年 に 入 る と 、 航 空 事 故 が 相
38
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
次 い で 起 こ っ た 。 1952年 の 自 主 運 航 開 始 以 来 約 20年 間 乗 客 死 亡 事 故 ゼ ロ を 継 続
し 、 「 世 界 で も っ と も 安 全 な 航 空 会 社 」 と の 名 声 を 得 て き た 日 本 航 空 は 、 1972
年 6月 14日 に イ ン ド で 最 初 の 乗 客 死 亡 の 事 件 が 起 こ り 、 161万 7000飛 行 時 間 の 安
全 記 録 も 途 切 れ た 。 こ の 事 故 か ら 5ヶ 月 、 11月 9日 に 日 本 航 空 で ま た モ ス ク ワ で
乗 客 53人 ・ 乗 務 員 9人 が 死 亡 す る 事 故 が 起 こ っ た 8 ) 。こ れ ら の 事 故 に 対 応 す る た
め、日本航空は安全確保の提案を運輸大臣に提出した。しかし、その後、死亡
事 故 が 相 次 い で 起 こ っ た 。1972年 か ら 1985年 ま で 日 本 航 空 は 合 計 6件 の 死 亡 事 故
が 起 こ っ た 。し か し 、国 際 線 を 運 航 す る 航 空 会 社 は 日 本 航 空 だ け で あ っ た の で 、
外国の航空会社の便に乗り換えられない乗客は日本航空のサービスを利用せざ
る を 得 な い と い う 状 況 で あ っ た 。 そ の 時 か ら 、 国 際 線 一 元 的 と い う 45・ 47体 制
は 妥 当 で あ ろ う か 、 と い う 批 判 が 出 て き た 9)。
国 際 航 空 輸 送 市 場 は 1970年 代 の 後 半 か ら 1978年 に か け て ア メ リ カ で 行 わ れ た
航 空 輸 送 規 制 緩 和 の 影 響 に よ り 、大 き く 変 化 し て い た 。第 3章 で 分 析 し た 結 果 の
ように、規制緩和法は理論から考えても、実態から見ても航空輸送の発展にと
って必要なものであると考えてよい。従って、日本の航空業界にも「規制緩和
政 策 」 が 導 入 さ れ る こ と に な っ た 。 1983年 に 発 表 さ れ た 第 2臨 調 第 4部 会 報 告 は
「日本航空は国際線を独占的に委託されている企業でありながら、経営の現状
は高度成長体質から脱却しておらず、一般民間企業よりはるかに恵まれた給料
体系、労働条件を採用して、世間の批判を受けているので、先発企業として他
の 企 業 の 模 範 と な る よ う な 効 率 的 運 営 を 行 う べ き で あ る 」と 述 べ 、大「 合 理 化 」
を 要 求 し た 。 1984年 に 政 府 は 「 ( 日 本 航 空 に つ い て は ) 今 後 と も 人 件 費 、 事 務
費 の 御 製 な ど を 強 力 に 推 進 し 効 率 的 な 経 営 の 確 立 を 図 る 」 と 決 心 し た 10)。
1985年 に 運 輸 省 は 、 運 輸 政 策 審 議 会 に 対 し て 「 わ が 国 航 空 業 界 の 運 営 の あ り
方 に 関 す る 基 本 方 針 に つ い て 」 検 討 す る こ と を 諮 問 し た 。 そ し て 、 12月 に は 運
輸 政 策 審 議 会 が 中 間 答 申 を ま と め 、① 日 本 航 空 の 民 営 化 、② 国 内 線 の 競 争 促 進 、
③ 国 際 線 の 複 数 者 体 制 、 を 提 起 し た 。 こ れ に 基 づ い て 、 閣 議 で は 45・ 47体 制 の
廃 止 を 確 認 し た 。日 本 航 空 の 経 営 を 支 え て き た 日 本 航 空 株 式 会 社 法 が 廃 止 さ れ 、
本 格 的 な 競 争 促 進 政 策 が 航 空 業 界 に 導 入 さ れ た の で あ る 11)。
規 制 緩 和 に よ り 、 全 日 空 は 1986年 3月 3日 に 最 初 の 国 際 定 期 便 、 東 京 - グ ア ム
線 の 運 航 を 開 始 し た 。そ し て 、7月 26日 に 東 京 - ワ シ ン ト ン 線 の 運 航 を 開 始 し た
12)
。日本航空が国際線を独占的に運航する時期は終了した。
4.1.3. 規 制 緩 和 後 ( 1986年 ~ )
民営化された日本航空の変化は後ほど分析する。ここでは、日本の航空輸送
業の業績や変化ついて検討する。
日本航空の競争相手である全日空にどんな変化が起こったか、を見てみる。
39
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
前 述 し た よ う に 、 全 日 航 は 1986年 に 最 初 の 国 際 便 の 運 航 を 開 始 し た 。 1986年 か
ら ANAは 相 次 い で 東 京 ― 香 港 、 東 京 - シ ド ニ ー 、 東 京 - ソ ウ ル な ど の 国 際 便 の
運 航 を 開 始 し た 。 1985年 10月 に は 、 ANAの 国 内 線 累 計 旅 客 数 が 3億 人 を 達 成 し
た が 、 1992年 10月 に は 、 国 内 線 累 計 旅 客 数 が 5 億 人 を 達 成 し た 。 そ し て 、 2003
年 3月 に は 、国 内 線 と 国 際 線 を 合 わ せ た 累 計 旅 客 が 10億 人 に 上 っ た 。2001年 、2002
年 の 時 期 は 世 界 の 航 空 輸 送 の 不 況 1 3 ) の 影 響 に よ り 、 ANAの 経 営 事 情 が 悪 く な っ
た が 、 2003年 か ら 復 帰 し て き て い る 。 ANAの 株 は フ ラ ン ク フ ル ト 証 券 取 引 所 に
上 場 し た 後 、 1991年 3月 に ロ ン ド ン 証 券 取 引 所 に 上 場 し た 。 ANAは 営 業 を 安 定
的に維持してきた。
表 4- 2
全日空の財務資料 (連結)
( 単 位:百 万 円 、% )
2001
2002
2003
2004
2005
営業収入
1,204,514
1,215,909
1,217,596
1,292,813
1,368,792
営業費用
1,181,546
1,218,506
1,183,242
1,215,039
1,279,990
営業利益(損失)
22,968
-2,597
34,354
77,774
88,802
経常利益(損失)
1,400
-17,236
33,443
65,224
66,755
当期純利益(純損失)
-9,456
-28,256
24,756
26,970
26,722
総資産
1,510,982
1,442,573
1,565,106
1,606,613
1,666,843
株主資本
138,641
121,954
150,086
214,284
346,309
営業キャッシュフロー
33,993
85,952
89,793
149,070
128,525
1 株当たり当期純利益
-6.17
-18.42
16.14
17.26
15.64
営業利益率
1.9
-
2.8
6
6.5
出 典 : ANA事 業 規 模
表 4- 3
http://www.ana.co.jp/ana-info/index.html
全日空の輸送実績
2001
2002
2003
2004
2005
旅客数
国内
45,796
47,133
44,784
44,486
45,474
(千人)
国際
3,438
3,783
3,301
4,116
4,134
旅客キロ
国内
38,780
40,388
38,857
38,454
39,712
(千キロ)
国際
17,799
18,719
16,950
19,191
18,769
座席キロ
国内
60,980
62,565
63,148
60,648
60,973
(千キロ)
国際
26,928
25,974
24,626
25,190
25,338
利用率
国内
63.6
64.6
61.5
63.4
65.1
(%)
国際
66.1
72.1
68.8
76.2
74.1
出 典 : ANA事 業 規 模
http://www.ana.co.jp/ana-info/index.html
日 本 航 空 業 の 変 化 に つ い て は 、航 空 会 社 の 数 が 増 え て き た こ と が 明 白 で あ る 。
40
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
第4章
45・47体 制 に よ り 、国 内 市 場 に お い て は 3社 の 競 合 に な っ て い た が 、政 府 が 規 制
を 緩 和 し 始 め た 後 、 航 空 会 社 が 次 々 に 設 立 さ れ た 。 例 と し て は 、 1983年 の 日 本
エ ア コ ミ ュ ー タ ー 、 1985年 の 琉 球 エ ア コ ミ ュ ー タ ー で あ る 。 現 在 ( 2007年 ) 日
本 の 特 定 本 邦 航 空 運 送 事 業 会 社 は 16社 に な っ て い る 。 そ の 他 、 航 空 運 送 事 業 ・
航 空 機 使 用 事 業 会 社 は 数 十 社 に も な っ て い る 14)。 航 空 会 社 の 数 が 増 え た の み な
ら ず 、 表 4- 4、 表 4- 5を 見 て 分 か る よ う に 、 日 本 の 国 際 ・ 国 内 の 航 空 輸 送 量 が
益々増大してきた。
表 4- 4
日本の航空会社による国内定期航空輸送量の累年表
旅
客
数 (人 )
旅
客
重量
人キロメー
座席キロメー
座 席 利 用 率
ト ル (千 )
ト ル (千 )
(%)
貨
物 (kg)
1984
43,905,996
32,923,570
52,987,569
62.1
428,701,599
1985
44,395,499
33,526,359
55,814,143
60.1
462,466,776
1986
45,121,204
34,244,782
57,054,677
60.0
496,876,290
1987
49,128,383
37,706,007
59,712,923
63.1
556,251,585
1988
52,098,427
40,384,209
62,967,888
64.1
609,449,083
1989
58,407,861
45,671,175
66,265,678
68.9
652,118,459
1990
64,465,645
50,909,084
69,508,804
73.2
684,670,997
1991
67,727,860
54,359,232
75,962,687
71.6
693,116,889
1992
69,791,026
56,615,423
83,548,496
67.8
667,898,175
1993
69,104,992
56,617,265
91,748,887
61.7
686,179,293
1994
71,715,036
59,245,695
97,168,521
61.0
720,013,314
1995
78,811,456
65,033,194
106,251,085
61.2
788,261,227
1996
81,151,444
68,058,484
110,196,449
61.8
819,912,891
1997
85,236,970
72,625,938
114,680,232
63.3
855,913,702
1998
86,789,900
74,843,458
121,211,202
61.7
847,906,399
1999
90,588,035
78,572,696
123,728,023
63.5
883,749,294
2000
92,927,944
79,798,542
125,708,999
63.5
927,571,551
2001
94,208,810
80,986,026
126,786,964
63.9
857,513,111
2002
95,655,333
83,010,133
128,189,829
64.8
830,655,206
2003
96,685,316
84,306,530
132,539,708
63.6
850,234,499
2004
93,766,770
81,766,517
129,281,576
63.2
880,464,878
2005
94,419,533
83,063,332
129,061,193
64.4
885,615,270
2006
96,335,563
85,161,400
132,219,182
64.4
899,967,640
41
第4章
表 4- 5
旅
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
日本の航空会社による国際航空輸送量の累年表
客
数 (人 )
旅
客
重量
人キロメー
座席キロメ
座 席 利 用 率
ト ル (千 )
ー ト ル (千 )
(%)
貨
物 (kg)
1984
6,104,402
30,163,322
41,450,522
72.8
318,854,422
1985
6,496,338
32,164,516
44,258,944
72.7
342,997,255
1986
6,923,356
33,975,344
48,692,429
69.8
422,275,253
1987
8,103,260
39,659,999
54,314,603
73.0
521,095,807
1988
9,433,020
45,481,265
60,706,253
74.9
585,357,152
1989
10,328,667
49,047,850
65,497,389
74.9
625,908,490
1990
10,884,255
50,695,328
66,166,021
76.6
619,800,480
1991
10,348,401
47,356,276
67,924,095
69.7
640,451,957
1992
11,243,808
52,889,200
75,539,625
70.0
647,726,478
1993
11,029,495
52,316,059
79,790,720
65.6
701,796,802
1994
12,563,626
61,920,002
87,375,833
70.9
778,211,665
1995
13,796,607
68,883,110
98,615,483
69.9
857,246,881
1996
15,344,053
77,053,735
106,847,826
72.1
873,897,685
1997
15,820,220
81,196,354
113,672,609
71.4
973,798,927
1998
15,959,438
82,461,598
119,535,749
69.0
974,131,081
1999
17,522,508
87,850,502
125,376,844
70.1
1,115,996,384
2000
19,249,231
96,828,547
130,758,031
74.1
1,188,043,259
2001
17,480,569
84,632,303
123,071,986
68.8
1,030,297,745
2002
17,878,241
85,728,574
119,663,166
71.6
1,185,158,570
2003 1 5 )
14,593,441
72,816,737
112,603,942
64.7
1,218,720,961
2004
17,703,583
83,209,063
119,200,188
69.8
1,332,741,911
2005
17,908,934
83,127,129
119,413,674
69.6
1,318,713,486
2006
17,390,500
80,293,106
110,992,147
72.3
1,309,460,259
出 典 : 国 土 交 通 省 情 報 管 理 部 情 報 安 全 ・ 調 査 課 交 通 統 計 室 16)
2000年 2月 か ら 施 行 さ れ た 改 正 航 空 法 で は 、1985年 か ら 始 ま っ た 規 制 緩 和 政 策
の総仕上げともいえる大改正が行われ、これまでコミューター航空事業の枠組
みとなっていた不定期航空輸送事業の「二地点間承認要件」がなくなり、定期
航空と同じ枠組みの中で事業が行われることとなった。また、需給調整規制が
廃止され、路線ごとの認可が必要なくなったため、運賃・料金及び混雑空港以
外の運航ダイヤは従来の認可制から事前届出制に変更され、運航・整備に関す
42
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
る 業 務 の 管 理 の 受 委 託 も 可 能 と な っ た 17)。 法 律 の 改 正 に よ り 、 日 本 の 航 空 輸 送
は 発 展 し て き た 。 2005年 世 界 の 航 空 会 社 ト ッ プ 25に 日 本 の 航 空 会 社 が 入 っ て い
る 。 具 体 的 に 、 旅 客 数 で は 、 日 本 航 空 JALは 58,036,000人 で 7位 、 全 日 空 ANAは
49,609,000人 で 10位 で あ る 。有 償 旅 客 キ ロ で は 、JALは 10位 で 、ANAは 18位 で あ
る 。 保 有 機 数 で は 、 JALは 198機 で 16位 で 、 ANAは 139機 で 25位 で あ る 。 貨 物 ト
ン キ ロ で は 、 JAL は 12 位 で 、 日 本 貨 物 航 空 は 25 位 で あ る 。 営 業 収 入 で は 、 JAL
は 187.13億 USDで 5位 で 、 ANAは 116.43億 USDで 10位 で あ る 。 し か し 、 営 業 利 潤
と 純 利 益 の ト ッ プ 25に は ANAし か 入 っ て な か っ た ( そ れ ぞ れ 7位 と 14位 ) 1 8 ) 。
以 上 で 分 か る よ う に 、 日 本 の 航 空 輸 送 は ア ジ ア で 最 も 成 長 し て き た 。 1985年
以降、日本の航空輸送市場は競争的になり、よりよく需要に応えられた。航空
会社の経営については、全日本空輸は順調に成長してきているが、日本航空は
不 振 で あ る と 判 断 さ れ て い る 。 1985年 に 行 わ れ た 日 本 航 空 の 民 営 化 の 影 響 を 検
討してみる。
4.2. 日 本 航 空 の 民 営 化
第 1節 で 分 析 し た よ う に 、1970年 か ら 国 際 線 を 独 占 的 に 運 航 し て き た 日 本 航 空
は 1985年 12月 に 民 営 化 さ れ る こ と に な っ た 。 同 時 に 、 航 空 輸 送 の 規 制 緩 和 政 策
も実施された。二つの大きな政策変化は日本航空にどんな影響を与えたか、分
析する。
表 4- 6
年度
JAL の 資 本 金 の 推 移
資本金
(千円)
増資額(千円)
政府
政府比率%
民間
1980
62,894,259
-
319,167
40.25
1981
63,790,353
-
896,094
37.70
1982
63,791,648
-
1,294
〃
1983
63,805,897
-
14,250
〃
1984
67,988,914
-
4,183,017
35.37
1985
69,623,388
-
1,634,474
34.54
1988
119,953,388
-
50,330,000
0.0
出 典 : 『 JAL 50年 概 略 史 』
4.2.1. 経 営 実 態
*収益性
日 本 航 空 は 1998年 ま で 黒 字 の 営 業 収 益 を 維 持 で き た が 、 経 常 利 益 は 不 安 定 で
あ っ た 。1986年 か ら 1998年 ま で の 13年 間 に 赤 字 が 4年 あ る 。2001年 の 同 時 多 発 テ
43
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
ロ 及 び 2003年 の SARS伝 染 病 の 影 響 に よ り 、日 本 航 空 は 2001年 、2003年 、さ ら に
2005年 、 2006年 に 最 終 的 に 赤 字 と な っ た 。
表 4- 7
JALの 営 業 収 益 の 変 化 1976~ 1998( JAL単 体 )
営業収益
単位:百万円
経常利益
1976
394951
6130
1977
435374
19812
1978
470238
22329
1979
568457
392
1980
654406
4419
1981
723615
204
1982
744417
1983
756199
4027
1984
827222
22513
1985
823974
1986
779062
3652
1987
848991
32424
1988
935746
43678
1989
1060315
52746
1990
1118883
24845
1991
1114632
-6,038
1992
1033960
-53,808
1993
982313
-26,158
1994
1035366
2818
1995
1115931
4396
1996
1195334
1997
1219706
7691
1998
1157653
32523
-27,093
-1,626
-16,974
出 典 : 『 JAL 50年 概 略 史 』
2001年 か ら の 費 用 移 動 を 見 る と 、 2005年 に 営 業 費 用 が 急 増 し た 。 費 用 を 引 き
上げる原因は、燃油費の増加にもあるが、重要なのは費用削減努力が成功しな
かったことである。日本航空の労働組合は力が強く、従業員の権利を守ってき
た の で 、日 本 航 空 の 経 営 者 は 人 件 費 削 減 と い う 費 用 削 減 方 法 を 避 け た の で あ る 。
日本航空の人件費は、労働組合の強い圧力で高い水準で維持された。この高
い 人 件 費 が 経 営 圧 力 と な り 、 航 空 会 社 の 経 営 が 脆 弱 に な っ て い る 。 1993年 の 日
44
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
本航空の人件費を世界の航空会社と比べると、パイロットの賃金は、日本航空
が 平 均 年 収 2200万 円 、 ユ ナ イ テ ッ ド 航 空 が 1210万 円 ( 1USD= ¥ 108.8) 、 シ ン
ガ ポ ー ル 航 空 が 800万 円 で あ る 1 9 ) 。
労 働 生 産 性 に つ い て は 、 1988年 に 日 本 航 空 の 労 務 費 千 ド ル 当 た り 有 効 ト ン キ
ロ は 6500で 、 ユ ナ イ テ ッ ド 航 空 は 6700、 シ ン ガ ポ ー ル 航 空 は 20900で あ っ た 2 0 ) 。
つまり、日本航空の労務費の生産性は国際航空会社と比べると、低い方である
ということである。
表 4- 8
JALの 連 結 損 益 計 算 書 ( 年 度 )
2001
2002
営業収益
1,608,689
2,083,480
営業費用
1,620,614
営業利益
2004
2005
1,931,742
2,129,876
2,199,385
2,072,891
1,999,387
2,073,727
2,226,220
-11,925
10,589
- 67,645
56,149
- 26,834
営業外収益
21,550
59,249
43,024
64,446
26,378
営業外費用
46,739
53,998
47,317
50,790
41,152
- 37,115
15,840
- 71,938
69,805
- 41,608
特別利益
20,298
11,999
6,923
6,571
30,471
特別損失
16,575
23,758
17,134
31,710
35,303
税金等調整前当期純利益
- 33,392
4,081
- 82,148
44,666
- 46,440
当期純利益
- 36,725
11,645
- 88,619
30,096
- 47,243
経常利益又は損失
2003
(単位:百万円)
出 典 : http://www.jal.com/ja/ir/finance/factbook.html
2007 年 に 入 っ て 、収 益 性 を 改 善 す る た め に 、日 本 航 空 は 年 間 500 億 円 の 人 件
費削減政策を実施することになっている。この計画により、ボーナスの削減と
退 職 給 付 金 の 削 減 で 約 350 億 円 を 削 減 し 、 残 り は 早 期 退 職 制 度 な ど で ま か な う
こ と と な る 。4 月 に 行 わ れ た 部 長 級 の 早 期 退 職 者 募 集 に よ り 、252 人 が 応 募 し た
が、この秋にも次課長クラスに対象を広げ募集する予定である。すでに決まっ
た 部 長 級 も 含 め 、 地 上 職 員 と 客 室 乗 務 員 で 今 年 中 に 700 人 を 削 減 し た い 考 え だ
が 、対 象 と な る 社 員 の 理 解 を 得 ら れ な け れ ば 実 現 は 困 難 で あ る
21)
。ア ジ ア の 各
国と同じように、日本人のイメージの中では、航空会社で働くことは非常に高
級な職業であるため、早期退職希望のある従業員は多いと思えない。
*機材数の増大
表 4- 9 を 見 て 分 か る よ う に 、 1988 年 か ら 事 業 を 拡 大 す る た め に 、 日 本 航 空
の 機 材 数 が 増 え 続 け た 。一 番 増 え た 機 種 は B747- 400 で あ る 。 現 在 、 日 本 航 空
が 保 有 し て き る 機 材 数 は 198 機 に 増 加 し て き た 。機 種 の 数 を 増 え る こ と に よ り 、
増大してきた需要に応えられたが、費用の負担も大きくなった。民営化後、日
45
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
本 航 空 は 事 業 拡 大・多 角 化 を 促 進 し た だ け で 、運 航 ネ ッ ト ワ ー ク を 合 理 化 し て 、
費用削減する努力が見られなかった。
表 4- 9
JAL の 機 材 数 の 推 移
B747-400
B747
B747-SR
B767
MD-11
B777
B737
合計
1979
23
9
86( 2)
1980
25
9
86( 1)
1981
27
9
86
1982
25
9
83( 4)
1983
29( 2)
9
83( 6)
1984
31( 2)
10
84( 15)
1985
34( 4)
10
3
88( 15)
1986
38( 5)
11
6( 2)
90( 13)
1987
39( 5)
15
11( 2)
92( 9)
1988
37( 4)
13
13( 2)
90( 9)
1989
5( 1)
37( 4)
13
14( 3)
95( 10)
1990
10( 2)
36( 4)
10
16( 3)
99( 13)
1991
20( 4)
35( 4)
10
16( 1)
106( 14)
1992
20( 2)
35( 4)
10
16( 3)
112( 16)
1993
31( 7)
34( 4)
15( 3) 2( 2)
112( 26)
1994
32( 7)
32( 18) 9( 2)
18( 5) 5( 4)
119( 42)
1995
32( 7)
31( 17) 9( 2)
20( 6) 8( 6) 2
3
127( 48)
1996
32( 7)
31( 17) 9( 2)
20( 6) 10( 8) 3
4
129( 48)
1997
32( 7)
30( 16) 9( 2)
21( 6) 10( 8) 5( 1)
7( 2) 137( 54)
1998
36( 8)
28( 14) 7
21( 12) 10( 8) 8( 4)
5( 4) 137( 63)
1999
39( 8)
28( 12) 3
22( 12) 10( 8) 10( 6) 4( 3) 137( 62)
(
)の 中 の 数 字 は リ ー ス の 機 材 で あ る 。
出 典:『 JAL 50 年 概 略 史 』
*従業員人数の移動
機材の増大につれて、従業員も増えてきた。民営化後の会社は費用節約する
ために従業員の人数を減らす傾向があるが、日本航空は逆である。日本航空の
従 業 員 総 数 は 1985年 に 20,367人 、 1986年 に 20,486人 、 1987年 に 20,830人 に 達 し 、
1992年 に は 21,991人 に 上 っ た 。 従 業 員 が 増 え て 、 労 働 組 合 が 強 く な っ て き た 日
本航空は労使紛争が続いており、人件費削減政策を実施するのはなかなか難し
い 。 例 と し て 、 1994年 4月 19日 に 、 日 本 航 空 は 、 「 安 全 運 航 の 堅 持 」「 徹 底 的 な
46
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
少 数 精 鋭 主 義 」「 コ ス ト 競 争 力 の 強 化 」 を 基 本 方 針 と す る 計 画 で 、 4月 当 時 の 従
業 員 約 2万 1,650名 を 1997年 度 ( 平 9) 末 ま で に 約 1万 7,400名 に 削 減 す る こ と を め
ざ し 、 具 体 的 に は 地 上 職 3,300名 、 客 室 乗 務 員 900名 、 運 航 乗 員 50名 の 削 減 を 目
標 と し た 2 2 ) 政 策 を 発 表 し た 。そ の 直 後 、4月 22日 に 日 本 航 空 乗 員 組 合 は「 義 務 不
存 在 等 確 認 請 求 訴 訟 」 で 会 社 を 提 訴 し た 2 3 ) 。 最 近 で は 、 日 本 航 空 が 2007年 の 人
件費削減計画を発表した後、日本航空の客室乗務員と労働組合「日本航空キャ
ビ ン ク ル ー ユ ニ オ ン 」 は 、 2007年 11月 26日 に 、 JALの 労 働 組 合 が 本 人 の 同 意 な
く 個 人 情 報 リ ス ト を 保 有 、 人 格 権 を 侵 害 さ れ た な ど と し て 、 日 本 航 空 と JAL労
働 組 合 に 合 計 約 4800万 円 の 障 害 賠 償 を 求 め る 訴 訟 を 東 京 地 方 裁 判 所 に 起 こ し た
24)
。これらの訴訟の問題は、どちらが勝ったか、負けたか、ということではな
く、日本航空のイメージに悪い影響を与えた。
*安全性
1986年 か ら 2000年 に か け て 日 本 航 空 は 死 亡 事 故 が 1 件 も 起 こ ら な か っ た 。 現
在 、 日 本 航 空 は 安 全 性 が 確 保 さ れ た 少 数 航 空 会 社 の 1社 で あ る 。
以上で分かるように、民営化後、日本航空の輸送旅客、輸送旅客キロ、営業
売り上げは増加してきた。運航ネットワークの拡大とともに、安全性も確保さ
れた。しかし、経営が合理的で効率的になっていないことも事実である。収益
性が悪く、労使関係が悪化し、費用削減する計画も失敗した。
さ て 、 「 2007年 9月 中 間 連 結 決 算 は 、 営 業 利 益 が 前 年 同 期 と 比 べ る と 、 約 7倍
で 566億 円 に 達 し 、3年 ぶ り の 増 益 と な っ た 」と 、日 本 航 空 は 2007年 11月 6日 に 発
表 し た 2 5 ) 。こ の 結 果 は 、国 内 不 採 算 路 線 の 廃 止 や 部 長 級 約 250人 の 希 望 退 職 な ど
の人件費削減を努力した成果である。日本航空にとって一番重要なのはこの努
力を維持することである。
4.2.2. 実 証 分 析 の 結 果 に よ る 民 営 化 の 影 響
以上で分析した結果によって、民営化後、日本航空の経営は順調に進んでい
ないことが分かった。民営化の影響を明白にするために、計量分析でこの影響
を 検 討 す る 。日 本 航 空 の 実 績 を 見 る と 、有 償 旅 客 と 有 償 貨 物( 付 録 2)が 増 え て
いる傾向が見られるが、営業収入はよく伸びているか、分析してみる。分析す
る デ ー タ は 日 本 航 空 JALの 1966年 ~ 2005年 の 旅 客 収 入 の 伸 び 率 と 貨 物 収 入 の 伸
び率である。
ミクロ経済理論によっては、所得が変化すると、ほとんどの財の消費も変化
す る 2 6 ) か ら 、財 の 消 費 の 量 を 分 析 す る 時 に 所 得 が 説 明 変 数 と し て 使 わ れ て い る 。
そ の 上 、石 田( 2002)、村 上( 2006)、太 田( 1981)、増 井・山 内( 1994)、Fischer
and Kamerschen( 2003)な ど の 研 究 に よ る と 、航 空 輸 送 の 輸 送 量 、費 用 、運 賃 、
47
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
収 入 の 変 化 を 分 析 す る 時 に 、 国 内 総 生 産 GDP( 国 民 所 得 の 代 わ り に ) や 燃 料 の
価格(費用や運賃に影響を与える要因)が説明変数として使われている。
し た が っ て 、日 本 航 空 の 収 入 の 伸 び 率 に 与 え る 民 営 化 の 影 響 を 分 析 す る 時 に 、
日 本 実 質 GDP成 長 率 、世 界 の 石 油 価 格 の 伸 び 率 を 説 明 変 数 と し て 使 う 。同 時 に 、
民 営 化 の 変 数 も 説 明 変 数 と し て 使 う 。 民 営 化 の 効 果 を 表 す 変 数 は DUMMYで あ
り 、 1966 年 か ら 1985 年 ま で は DUMMY = 0 で あ る が 、 1986 年 か ら 2005 年 ま で は
DUMMY= 1で あ る 。 分 析 す る 方 法 は 時 系 列 デ ー タ を 使 っ て 、 OLS法 で 回 帰 分 析
をする。
表 4- 10
JAL の 収 入 の 伸 び 率 に 影 響 を 与 え る 要 因
被説明変数
RVNPS_GR
RVNFR_GR
1.813660 * *
1.977607 * *
(4.051067)
(3.286579)
-2.773919
-8.926934 * *
(-0.901302)
(-2.158089)
0.074726 * *
0.084233 *
(2.143893)
(1.798068)
3.168170
5.873532
(0.964637)
(1.330593)
Observation
40
40
R-squared
0.472347
0.491674
0.428376
0.449314
2.359405
1.778765
( OLS 法 )
説明変数
GDP_GR
DUMMY
OC_GR
C
Adjusted R
2
Durbin-Watson
stat
GDP_GR: 実 質 経 済 成 長 率
DUMMY:
民 営 化 の 変 数 ( 1986~ )
OC_GR: 世 界 の 石 油 価 格 の 伸 び 率
RVNPS_GR: JAL の 旅 客 収 入 の 伸 び 率
RVNFR_GR: JAL の 貨 物 収 入 の 伸 び 率
( * * )は 有 意 水 準 0.05 で あ る 。
( * )は 有 意 水 準 0.1 で あ る 。
48
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
表 4-10の 結 果 は 、 民 営 化 後 、 JALの 収 入 の 伸 び 率 は 以 前 と 比 べ る と 、 良 く な
い変化を見せた。旅客収入の伸び率への影響を検討する時、民営化変数の係数
は -2.773919で あ り 、 負 で あ る が 、 有 意 で は な い の で 、 民 営 化 は 旅 客 収 入 の 伸 び
率にどんな影響を与えたか、結論を出すことができない。しかし、貨物収入の
伸 び 率 へ の 影 響 を 検 討 す る 時 、 RVNFR_GRの 結 果 に よ り 、 民 営 化 変 数 の 係 数 は
-8.926934で あ る 。 つ ま り 、 民 営 化 は 貨 物 収 入 の 伸 び 率 へ 悪 い 影 響 ( マ イ ナ ス の
影響)を与えたと判断できる。
日本航空は民営化後、以前と比べて、よくなるどころか、むしろ従来もって
いた優れたイメージが悪くなった。連続赤字や労使紛争により、消費者の信頼
性が少なくなった。なぜ日本航空はこんな状態になったか、ベトナム航空が民
営化される場合、どんな準備をすべきか、検討してみる。
4.3. 結 論
4.3.1. 日 本 航 空 の 民 営 化 か ら 学 ぶ
第 2節 で 分 析 し た 結 果 に よ り 、民 営 化 後 の 日 本 航 空 は 決 し て 良 好 な 状 態 で は な
いということが分かった。この望ましくない結果を生み出した要因を考えてみ
る。
① 民営化するための準備段階が不十分
45・47体 制 に よ り 、日 本 航 空 は 1983年 ま で 好 ま し い 環 境 に 恵 ま れ た 。1985
年 に 日 本 政 府 は 、規 制 緩 和 政 策 を 実 施 す る と 同 時 に 日 本 航 空 の 民 営 化 を 行 い 、
2年 後 に は 完 全 に 民 営 化 さ れ た 。 つ ま り 、 日 本 航 空 の 民 営 化 は 単 に 政 府 の 資
本 金 を 他 の 投 資 家 に 移 動 す る 過 程 に す ぎ な か っ た と 考 え ら れ る 。民 営 化 後 の
経 営 が 効 率 的 に 進 め ら れ る よ う な 準 備 が 全 く し て い な か っ た 。1985年 に お い
て 日 本 航 空 の 経 営 業 績 は あ ま り 良 く な か っ た 。当 時 、日 本 航 空 は ト ッ プ・ク
ラ ス で あ り 、従 業 員 は 非 常 に 誇 り を 持 っ て い た と 予 想 さ れ る 。急 激 な 会 社 の
民 営 化 と 、競 争 の 激 化 に よ り 、従 業 員 は 不 安 感 が 増 し 、労 使 紛 争 が 深 刻 に な
った。
R.ド ガ ニ ス は「 民 営 化 が 成 功 す る た め の 基 本 的 な 前 提 条 件 は 、全 て の レ ベ
ル で 企 業 体 質 と 期 待 の 精 神 を 変 え る こ と で あ る 」2 7 ) と 述 べ て い る 。民 営 化 す
る 前 に コ ス ト を 削 減 し た り 、労 働 生 産 性 を 改 善 し た り す る 重 要 性 を 従 業 員 と
労 働 組 合 に 説 得 し な け れ ば な ら な い 。こ れ が で き な い と 、従 業 員 と 労 働 組 合
は 会 社 の 経 営 者 の パ ー ト ナ ー に な ら な い 。そ し て 、国 の 予 算 を 節 約 す る 目 的
の た め に 労 働 を 削 減 す る こ と は 、民 間 企 業 と し て 削 減 す る 場 合 よ り 怒 り が 少
ない。
49
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
② 民営化後の過剰事業拡大
日 本 航 空 は バ ブ ル 経 済 の 影 響 を 受 け 、事 業 を 急 速 に 拡 大 し 、世 界 の 大 手 航
空会社になったが、利益が不安定である。会社の規模が大きすぎたため、
市場の変動やショックに十分に適応できなくて、業績を回復するのにかな
り時間がかかる。
③ 民営化後でもフラッグ・キャリアとして取り扱われる
現在、日本航空は民営会社であるが、日本の代表的な航空会社であり、
政府から様々な待遇を与えられている。例えば、政府の高級チャーターは
ほとんど日本航空の飛行機を使っている。従って、日本航空は近代的な機
材を購入する圧力がある。しかし、この機材を普通の路線で使用すると、
非効率的であり、費用を引き上げる。
④ ネットワークや航空機材編成の不合理
民 営 化 後 、日 本 航 空 は フ ラ イ ト・ネ ッ ト ワ ー ク を 拡 大 す る だ け で 、不 採 算
路 線 を 廃 止 す る 努 力 が 見 ら れ な か っ た 。し か し 、よ く 考 え る と 、不 採 算 路 線
を 廃 止 す る こ と は 、乗 務 員 を 削 減 す る こ と に つ な が る 。労 働 組 合 は こ の 削 減
を 認 め な い だ ろ う 。そ の 上 、フ ラ ッ グ ・キ ャ リ ア で あ る 限 り 、社 会 ・国 防 の
ために運航する義務があるから、その路線から退出できない。
4.3.2. ベ ト ナ ム 航 空 へ の 応 用
国営企業を民営化するのは平等で競争的な市場を作るのに必要な過程である。
自由化・グローバル化が進んでいる背景の中では、民営化は国営会社の業績を
改善する一つの方法である。民営化後、日本航空と同じ状態に陥らないように
次の対策を提案する。
① 民 営 化 す る 前 に 、従 業 員 の 心 の 準 備 を し な け れ ば な ら な い 。民 営 化 で は 、会
社 が 赤 字 に 陥 っ た 時 、最 終 的 に 政 府 が 会 社 を 以 前 の よ う に 保 護 し 援 助 す る こ
とはありえないことを従業員に説明し、理解してもらう。
② 民 営 化 す る 前 に 、余 っ て い る 労 働 力 を 削 減 す る 。早 期 退 職 の 希 望 者 を 募 集 す
る。そして、労働慣行を変更する。
③ 不採算路線を閉鎖する。国の社会発展・国防に貢献する不採算路線の場合、
政府と特別運航契約を結ぶ。
④ 飛行機の数を拡大することを遅らせる。
(注)
1) 日 本 航 空 会 社 ( 2005)『 JAL グ ル ー プ 50 年 の 航 跡 』
50
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
2) 航 空 労 働 研 究 会 ( 1998)、『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 第 1 章
3)『 JAL グ ル ー プ 50 年 の 航 跡 』
4) 増 井
健一、山内
弘 隆 ( 1994)『 航 空 輸 送 』 P115,116
5)『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 P18
「 昭 和 45 年 閣 議 了 解 」
航空企業の運営体制について
航空の大量高速輸送の進展に即応しつつ、利用者の便利の増進と安全性の確
保を期する観点から、下記の方針により施策を促進する。特に安全性の確保
については、航空環境の好転に眩惑されることなく、国及び航空企業におい
て安全対策を一層強化するとともに、航空事業の着実な運営を確保すること
より、国民の負託に応えるものとする。
1. 国 内 航 空
(1) ジェット化・大型化の促進。
( 2 ) 日 本 国 内 航 空 と 東 亜 航 空 の 合 併( 日 航 、全 日 空 、東 亜 国 内 の 3 社 体 制 )。
(3) 高需要ローカル路線のダブルトラック化。
2. 国 際 航 空
(1) 国際定期航空は日本航空が一元的に運営。
(2) 全日空の近距離国際チャーター進出。
(3) 急増する国際貨物需要に対応する航空企業体制の検討。
6)『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 P19
「 昭 和 47 年 運 輸 大 臣 通 達 」
航空企業の運営体制について
昭 和 45 年 閣 議 了 解 に 基 づ き 、 航 空 企 業 の 運 営 体 制 を 次 の 通 り 具 体 化 す る 。 こ
の 場 合 、安 全 運 航 の 確 保 と 利 用 者 の 利 便 の 増 進 を 期 す る と と も に 定 期 航 空 3 社
そ れ ぞ れ の 事 業 分 野 を 明 ら か に し 、過 当 競 争 を 排 し て 、そ の 共 存 共 栄 を は か る
ことを主眼とする。
1.事業分野
(1)日本航空株式会社
国内幹線(札幌、東京、大阪、福岡)および国際線の運営。国際航空
貨物輸送需要の対応する航空企業体制について有効な方策を早急に
検討。
(2)全日本空輸株式会社
国 内 幹 線 お よ び ロ ー カ ル 線 の 運 営 に 主 力 を 注 ぐ 。逐 次 近 距 離 国 際 チ ャ
ーターの充実を図る。
(3)東亜国内航空株式会社
51
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
① 国 内 ロ ー カ ル 線 の 運 営 。一 部 路 線 の ジ ェ ッ ト 機 に よ る 運 航 を 認 め る 。
②将来的には国内幹線のジェット機による自主運航を認める。
③ジェット機の運航に際しては、当面1先発企業の技術支援を必要と
する
2.輸送力の調整
(1)一定の基準を超える需要増に応じた増便の認可。
( 2 )幹 線 の 輸 送 力 増 強 の 割 り 振 り は 共 存 共 栄 の 原 則 に 則 り 後 発 企 業 の 育 成
を勘案する。
( 3 ) ロ ー カ ル 線 の ダ ブ ル ト ラ ッ ク 化 は 毎 年 2 路 線 ( 昭 和 48 年 以 降
昭和
51 年 ま で の 間 ) の 範 囲 で 行 う 。 こ の 場 合 も 共 存 共 栄 を 旨 と す る 。
( 4 ) 国 内 幹 線 へ の 大 型 ジ ェ ッ ト 機 の 投 入 は 昭 和 49 年 度 以 降 と す る ( 沖 縄
線を除く)。
3.協力関係
(1)国内幹線においては共存共栄の実を挙げるため、運賃プール制を 主体
と す る 営 業 上 の 協 力 を 行 う 。先 発 企 業 は 後 発 企 業 の 育 成 強 化 を 十 分 考
慮する。
(2)構内ローカル線においても、後発企業に協力する。
7)
『 航 空 輸 送 』 P117、『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 P19
8)
JAL の 50 年 概 略 史 : 1970 年 代
9)
『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 P26
10) 『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 P27
11) 『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 P27
12)
ANA 年 表 詳 細 1980 年 代
http://www.ana.co.jp/ana-info/ana/ana_history/menu/index.html
13)
2001 年 9 月 11 日 に ア メ リ カ で 起 こ っ た 同 時 多 発 テ ロ 事 件 の 影 響
14) 『 エ ア ポ ー ト ハ ン ド ブ ッ ク 2007』 P406
15)
2003 年 は SARS( 重 症 急 性 呼 吸 器 症 候 群 ) の 伝 染 病 の 影 響 に よ り 東 ア ジ
ア・東南アジアの各国の国際輸送実績が落ちた。
16)
http://toukei.mlit.go.jp/11/11a0excel.html
17) 『 エ ア ポ ー ト ハ ン ド ブ ッ ク 2007』 P168
18)
『 エ ア ポ ー ト ハ ン ド ブ ッ ク 2007』 P377,378
19)
戸崎
肇 ( 1995)『 航 空 の 規 制 緩 和 』 P141,142
20)
ド ガ ニ ス ( 1995)『 国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』 P123
21)
「 Fuji Sankei Business i.」 の イ ン タ ー ネ ッ ト 新 聞
52
第4章
グエン ティ タイン アン/博士論文
日本航空会社(JAL)の民営化とその影響
2007 年 5 月 10 日 の 産 業 記 事
22)
JAL の 50 年 概 略 史 : 1994 年
23)
『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』 P53
24)
「 Fuji Sankei Business i.」 の イ ン タ ー ネ ッ ト 新 聞
2007 年 11 月 27 日 の 産 業 記 事
25)
「 Fuji Sankei Business i.」 の イ ン タ ー ネ ッ ト 新 聞
2007 年 11 月 7 日 の 産 業 記 事
26)
太 田 博 史 ( 2002)『 地 域 ・ 都 市 ・ 交 通 分 析 の た め の ミ ク ロ 経 済 学 』
P46、 47
27) ド ガ ニ ス ( 2003)『 21 世 紀 の 航 空 ビ ジ ネ ス 』 P247
53
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
第 5 章.ベトナムの航空輸送の自由化
5.1. ベ ト ナ ム の 航 空 輸 送 の 歴 史
5.1.1. 1956 年 ま で
-フランス植民地と対フランス戦争-
1956 年 1 月 15 日 に 、 ベ ト ナ ム 民 主 共 和 国 ( 北 ベ ト ナ ム ) の フ ァ ム ・ バ ン ・
ドン首相はベトナム民間航空局を創立する決定に署名した。しかし、ベトナム
の航空輸送はそれより以前に開始されていた
1)
。1910 年 12 月 10 日 に 、初 め て
ベ ト ナ ム の 空 に フ ラ ン ス 軍 の 飛 行 機 が 現 れ た 。 そ し て 、 1917 年 1 月 13 日 に 最
初の空港の建設が着工された。この空港は小さくて、設備も貧弱で、小さなプ
ロ ペ ラ 飛 行 機 し か 離 着 陸 で き な か っ た 。1920 年 12 月 21 日 に 、フ ラ ン ス か ら の
最初の国際フライトが無事にハノイに到着した。その後、フランス軍は各地に
空 港 を 建 設 し 、航 空 ネ ッ ト ワ ー ク を 作 っ た 。1940 年 に は 、フ ラ ン ス 、シ ン ガ ポ
ール、中国、香港、インドネシア、日本と繋がる国際線ができた。しかし、運
航 し た 会 社 は 全 て 外 国 航 空 会 社 で あ っ た 。1945 年 に ベ ト ナ ム は フ ラ ン ス 植 民 地
から独立してベトナム民主共和国となった。最初の国家主席はホーチミン氏で
あった。ホーチミン主席の最初の外国訪問はフランスで、フランス航空の飛行
機 で 12 日 も か か っ た 。1945 年 か ら 1954 年 ま で の 時 期 は 対 フ ラ ン ス 戦 争 で 、北
ベ ト ナ ム で は 激 し い 戦 闘 が 広 い 範 囲 で 起 こ っ た た め 、経 済 発 展 で き な か っ た が 、
南ベトナムではフランスとアメリカの支援があり、どんどん発展していった。
1951 年 に は サ イ ゴ ン( 現 ホ ー チ ミ ン 市 )で ベ ト ナ ム の 最 初 の 航 空 会 社 が 誕 生 し
た。
1954 年 に 、対 フ ラ ン ス 戦 争 が 終 了 し た 。し か し 、ベ ト ナ ム は 南 北 紛 争 時 期 に
入った。南はアメリカに支配され、ベトナム共和国になった。北のベトナム民
主共和国は国を統一するために、アメリカと戦い始めた。
5.1.2. 1956 年 か ら 1975 年 ま で
-対アメリカ戦争-
1956 年 1 月 26 日 に 、ベ ト ナ ム 民 主 共 和 国 の 最 初 の 飛 行 機 が ハ ノ イ 近 郊 の Gia
Lam( ジ ャ ー ・ ラ ム ) 空 港 に 着 陸 し た 。 こ の 飛 行 機 は 中 華 人 民 共 和 国 の 寄 贈 に
よるものである。そして、中国と旧ソ連の協力により飛行士のトレーニングが
行われた。
1959 年 1 月 24 日 に 、 国 防 省 に 所 属 す る 民 間 航 空 局 を 基 礎 と し た 、 空 軍 局 が
設立された。空軍局は民間航空と空軍を発展させるための戦略や政策を立案し
実 施 す る 役 割 が あ っ た 。1960 年 5 月 1 日 に 、Noi Bai( ノ イ ・ バ イ )軍 事 空 港 の
建 設 が 開 始 さ れ 、4 年 後 に 完 成 し た 。Noi Bai 空 港 は 対 ア メ リ カ 戦 争 時 期 の 空 軍
拠点として活躍することとなった。
1960 年 か ら 1975 年 ま で の 時 期 は 激 し い 戦 争 の 時 期 で あ る 。 北 ベ ト ナ ム は ア
54
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
メリカ軍に残酷に空襲され、空港や設備が酷く破壊された。しかし、中国と旧
ソ連の支援により、ベトナム空軍は強化され、アメリカ軍の空襲を撃退した。
結 果 と し て 1973 年 3 月 に ア メ リ カ 軍 は ベ ト ナ ム か ら 撤 兵 完 了 し 、 1975 年 4 月
に南北は統一され、民族解放戦争が見事に終了した。
5.1.3.
1975 年 か ら 1989 年 ま で
-国防省に管理される民間航空輸送-
国 が 平 和 に な っ た 後 、 民 間 航 空 輸 送 を 運 航 す る た め に 、 国 防 省 は 1975 年 9
月 22 日 に 民 間 航 空 を 独 立 の 交 通 部 門 と し て 組 織 す る こ と を 決 定 し た 。民 間 航 空
輸 送 を 開 始 す る た め に 、 1976 年 に Gia lam 空 港 、 Noi Bai 空 港 、 Da Nang 空 港 、
Tan Son Nhat 空 港 ( タ ン ・ ソ ン ・ ニ ャ ッ ト ) な ど を 軍 民 兼 用 空 港 と し て 運 営 す
ることが決められた。
ベ ト ナ ム 航 空 業 は 1980 年 に 国 際 民 間 航 空 機 関 の 正 式 な メ ン バ ー と な っ た 。
1981 年 の ベ ト ナ ム 空 港 の 運 営 実 績 は 国 際 旅 客 が 22,144 人 、国 内 旅 客 が 195,761
人 、 国 際 貨 物 が 2,850 ト ン 、 国 内 貨 物 が 142 ト ン で あ る 。 1982 年 に Noi Bai 空
港 と Tan Son Nhat 空 港 は 国 際 空 港 と し て 拡 大 さ れ た 。 1982 年 か ら 1985 年 ま で
の 実 績 は 、 旅 客 が 600,000 人 、 貨 物 が 52,000 ト ン で あ る 。
1989 年 は ベ ト ナ ム 航 空 業 に と っ て 非 常 に 重 要 な 一 年 で あ る 。3 月 31 日 に 、国
家 委 員 会 は 、航 空 業 が 国 防 省 で な く 、交 通・郵 便 省 に 従 属 す る こ と を 決 定 し た 。
そ し て 、 8 月 29 日 に 、 ボ ー ・ バ ン ・ キ エ ッ ト 大 臣 委 員 会 副 会 長 ( 副 首 相 ) は 、
ベトナム航空会社を創立する決定書に署名し、ベトナム社会主義共和国の最初
の航空会社が誕生した。ベトナム航空業は、航空輸送が経営活動として運営さ
れ る と い う 新 し い 段 階 に 入 っ た 。1989 年 の 輸 送 実 績 は 、国 際 旅 客 が 78,755 人 、
国 内 旅 客 が 235,546 人 、 貨 物 が 3,237 ト ン で あ る 。
5.1.4.
1990 年 か ら 1995 年 ま で
-政府直属機関である民間航空局に管理される民間航空輸送-
航 空 輸 送 が 経 営 業 と し て 運 営 さ れ て か ら 、輸 送 実 績 が 向 上 し て き た 。1990 年
に は 、輸 送 旅 客 は 、40 万 人 を 達 成 し 、そ の 中 で 国 際 旅 客 は 3 分 の 1 以 上 を 占 め
て い た 。 1990 年 12 月 に 、 交 通 ・ 郵 便 省 は パ シ フ ィ ッ ク 株 式 航 空 会 社 の 設 立 を
決定した。
1991 年 は 東 欧 社 会 主 義 崩 壊 に よ っ て 、航 空 輸 送 市 場 が 一 時 的 に 落 ち た 。市 場
を回復させるために、ベトナム民間航空局とベトナム航空会社は国際航空協力
関 係 を 拡 大 す る こ と に 努 め た 。1991 年 12 月 26 日 に 、ベ ト ナ ム 国 会 で 航 空 法 が
可 決 さ れ た 。努 力 の 結 果 、1992 年 に 、 フ ラ ン ス の エ ア ・ フ ラ ン ス 、シ ン ガ ポ ー
ルのシンガポール・エアラインと中国の南方空港会社がハノイとホーチミン市
に 行 く 定 期 便 を 運 航 し 始 め た 。ベ ト ナ ム 航 空 の 実 績 に つ い て は 、1992 年 に 、輸
送 旅 客 は 82 万 人 で 、そ の う ち 、国 際 旅 客 が 37 万 人 、国 内 旅 客 が 45 万 人 で あ り 、
55
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
輸 送 貨 物 は 10,300 ト ン で あ る 。
1994 年 に は 、あ ま り 効 率 的 に 運 営 さ れ て い な か っ た パ シ フ ィ ッ ク 航 空 の 経 営
を強化するために、パシフィック航空の取締役会は新しい社長を任じ、経営方
針 を 改 革 し た 。 そ の 上 、 1994 年 12 月 5 日 に 、 ベ ト ナ ム は ICAO の 同 意 に よ っ
て 、 正 式 に シ ン ガ ポ ー ル と タ イ か ら ホ ー チ ミ ン 市 の 南 の FIR (Flight Instruction
Region、 飛 行 誘 導 領 域 )を 受 け 取 っ た 。 1994 年 は ベ ト ナ ム 航 空 業 の 復 活 す る 年
で あ る 。1993 年 の 輸 送 実 績 は 旅 客 が 118 万 人 で 、貨 物 が 13,720 ト ン で あ る が 、
1994 年 に は 、 旅 客 が 176 万 人 ま で 向 上 し 、 貨 物 は 20,625 ト ン に 達 し た 。
1995 年 6 月 15 日 に 、 ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 は 政 府 直 属 機 関 と し て 交 通 ・ 郵 便
省から分離された。民間航空局は航空業の国家管理をする役割を果すことにな
った。
5.2. 航 空 輸 送 の 現 実 と 問 題 ( 1995 年 ~ 2005 年 )
5.2.1.
航空輸送の現実
1995 年 ~ 2005 年 の 時 期 に は 、 ベ ト ナ ム 航 空 業 が 最 も 発 展 し 、 旅 客 は 年 平 均
11% で 合 計 6254 万 人 、 貨 物 が 年 平 均 13.4% で 合 計 136 万 ト ン に 達 し た 。 ベ ト
ナム市場で運航している航空会社はベトナムの航空会社が 2 社と外国の航空会
社 が 29 社 あ り 、 ベ ト ナ ム と 世 界 の 27 箇 所 を 結 ぶ フ ラ イ ト ネ ッ ト ワ ー ク が 形 成
された
2)
。
*国内市場
国内市場はハブ・アンド・スポークの形で設定された。ハブの拠点はハノイ
の Noi Bai 空 港 、 ダ ナ ン の Da Nang 空 港 と 、 ホ ー チ ミ ン 市 の Tan Son Nhat 空 港
で あ る 。 ス ポ ー ク は ハ ブ の 拠 点 か ら 国 内 の 17 の 町 へ 行 く 25 路 線 で あ る 。 国 内
航 空 ネ ッ ト ワ ー ク は 各 地 の 間 に 移 動 す る 需 要 に 応 え 、経 済 社 会 開 発 に 寄 与 し た 。
全国に均衡的に配置されている空港システムは地方格差を軽減することに役立
っている。
*海外市場
ベ ト ナ ム の 航 空 の 路 線 網 は 2005 年 12 月 時 点 で は 、39 路 線( 直 行 便 36 路 線 、
コード・シェア便が 3 路線)となっている。最も発達している地域市場は北東
アジア、次いで2番目は東南アジア、3番目は欧州、4 番目は北アメリカであ
る。

北東アジア市場
こ の 市 場 に は 、 日 本 、 韓 国 、 台 湾 、 香 港 、 中 国 が あ り 、 1998 年 ~ 2004 年 の
年 平 均 伸 び 率 が 12,6% で 維 持 さ れ て い た 。 2004 年 に は 、 こ の 地 域 へ の 旅 客
は 全 国 際 旅 客 の 50% 、 貨 物 は 全 国 際 貨 物 の 60% を 占 め た 。

東南アジア市場
56
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
2004 年 に は 、 こ の 地 域 へ の 旅 客 は 全 国 際 旅 客 の 31.8% 、 貨 物 は 全 国 際 貨 物
の 20% を 占 め た 。

欧州市場
欧州市場は安定的に拡大している。旅客はフランス、ドイツ、ロシアに行
く 便 に よ っ て 、 欧 州 の 各 地 に 行 く 。 2004 年 に は 、 こ の 地 域 へ の 旅 客 は 全 国
際 旅 客 の 8.7% 、 貨 物 は 20% を 占 め た 。

北アメリカ市場
北アメリカ市場(アメリカ、カナダ)はベトナム航空業の新しい市場であ
る。ベトナム航空はアメリカへの直行便をまだ運航していない。現在、ベ
ト ナ ム 航 空 は China Airline( CI) と 合 弁 協 力 契 約 を 結 び 、 台 湾 経 由 ロ サ ン
ゼ ル ス・サ ン フ ラ ン シ ス コ 行 き の CI の 便 で 旅 客 に チ ケ ッ ト を 販 売 し て い る 。
国際便はほとんどハノイとホーチミン市に集中し、ホーチミン市からの国際
便が大部分を占めている。外国航空会社のフライトも含めると、ハノイからの
国 際 線 は 路 線 が 29 あ り 、週 146 便 が 運 航 さ れ 、ホ ー チ ミ ン 市 か ら の 国 際 線 は 路
線 が 40 あ り 、 週 317 便 が 運 航 さ れ て い る 。
5.2.2.
ベトナムの航空会社
現 在 、ベ ト ナ ム の 民 間 航 空 会 社 は ベ ト ナ ム 航 空( VN)、パ シ フ ィ ッ ク 航 空( BL)、
ベ ト ナ ム 航 空 サ ー ビ ス 会 社 の 3 社 が あ る 。ベ ト ナ ム 航 空 は 国 営 航 空 会 社 で あ り 、
パシフィック航空は政府投資金が大部分占めている株式会社である。パシフィ
ッ ク 航 空 は 2007 年 に オ ー ス ト ラ リ ア の Qantas 航 空 と 合 併 契 約 を 結 ん だ 。Qantas
航 空 は パ シ フ ィ ッ ク の 投 資 金 の 30% を 占 め 、残 り の 70% は ベ ト ナ ム の 財 務 省 と
他の国営企業が管理している。ベトナム航空サービス会社は株式会社だが、投
資 金 の 100% は ベ ト ナ ム 航 空 の 投 資 で あ る 。 こ の 3 社 は 全 て 定 期 航 空 会 社 で あ
る 。国 内 市 場 に お い て は 、3 社 が 同 時 に 運 航 し て い る が 、国 際 市 場 に お い て は 、
ほとんどベトナム航空だけが運航している。
*ベトナムの航空会社の長所
ベトナムの航空会社のサービスのレベルは世界の平均水準に到達してきてい
る。また、使用年数が短い飛行機を使っているので、安全性も保たれている。
*ベトナムの航空会社の短所

航 空 会 社 の 規 模 が 小 さ く 、競 争 力 が 弱 く 、財 政 力 が な い と い う 状 態 で あ る 。
東南アジア地域の航空会社と比べると、ベトナムの航空会社の輸送旅客数
は か な り 小 さ い 。 2003 年 に は 、 ベ ト ナ ム の 輸 送 旅 客 数 は 440 万 人 で あ っ た
が 、タ イ は 1810 万 人 、シ ン ガ ポ ー ル は 1730 万 人 、マ レ ー シ ア は 1620 万 人 、
イ ン ド ネ シ ア は 1210 万 人 、 そ し て フ ィ リ ピ ン は 920 万 人 で あ っ た 。

単位コストがまだ高い。ほとんど国営企業のため、コストを削減する努力
57
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
がまだ見られていない。

競争的市場がまだできていない。独占と国家の保護というのがベトナム航
空市場の特徴である。

航空輸送業界と旅行業界との相互関係がまだ認識されていない。互いに協
力して補完的に発展していくような政策や戦略がまだ整っていない。

航空輸送業に投資する資本はほとんど政府予算から出資される。

労働力が余剰で、職員の労働意欲が低い。このことが原因となって、賃金
費用の負担と非効率が起こりはじめている。

使用している飛行機は短中距離しか運航できない。所有権をもっている飛
行 機 は 全 体 の た っ た 40% だ け で あ り 、 貨 物 専 用 機 が ま だ な い 。
表 5- 1
ベトナム市場の航空輸送実態(旅客)
輸送旅客(人)
年
航空会社
国際
旅客
1995
1996
1997
1998
1999
国内
シェア
合計
旅客
シェア
旅客
伸び率
VN
917,000
43.4%
1,360,000
94.4%
2,277,000
BL
63,000
3.0%
80,000
5.6%
143,000
外国航空会社
1,134,138
53.6%
0
0.0%
1,134,138
合計
2,114,138
VN
1,014,500
44.1%
1,535,400
93.0%
2,549,900
12.0%
BL
57,500
2.5%
115,850
7.0%
173,350
21.2%
外国航空会社
1,230,700
53.4%
0
0.0%
1,230,700
8.5%
合計
2,302,700
3,953,950
11.2%
VN
1,006,728
41.7%
1,626,379
95.0%
2,633,107
3.3%
BL
46,679
1.9%
85,464
5.0%
132,143
-23.8%
外国航空会社
1,360,399
56.4%
0
0.0%
1,360,399
10.5%
合計
2,413,806
4,125,649
4.3%
VN
920,271
39.1%
1,549,421
94.1%
2,469,692
-6.2%
BL
39,727
1.7%
96,651
5.9%
136,378
3.2%
外国航空会社
1,394,628
59.2%
0
0.0%
1,394,628
2.5%
合計
2,354,626
4,000,698
-3.0%
VN
922,409
35.5%
1,606,304
93.6%
2,528,713
2.4%
BL
54,741
2.1%
110,383
6.4%
165,124
21.1%
外国航空会社
1,621,266
62.4%
0
0.0%
1,621,266
16.3%
合計
2,598,416
4,315,103
7.9%
1,440,000
3,554,138
1,651,250
1,711,843
1,646,072
1,716,687
58
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
VN
1,168,317
39.3%
1,713,937
91.4%
2,882,254
14.0%
BL
130,360
4.4%
161,067
8.6%
291,427
76.5%
外国航空会社
1,675,806
56.3%
0
0.0%
1,675,806
3.4%
合計
2,974,483
4,849,487
12.4%
VN
1,473,145
43.0%
1,954,739
85.6%
3,427,884
18.9%
BL
162,774
4.7%
328,473
14.4%
491,247
68.6%
外国航空会社
1,793,171
52.3%
0
0.0%
1,793,171
7.0%
合計
3,429,090
5,712,302
17.8%
VN
1,764,912
41.7%
2,275,801
85.8%
4,040,713
17.9%
BL
173,675
4.1%
375,503
14.2%
549,178
11.8%
外国航空会社
2,292,948
54.2%
0
0.0%
2,292,948
27.9%
合計
4,231,535
6,882,839
20.5%
VN
1,652,353
41.5%
2,326,599
87.6%
3,978,952
-1.5%
BL
131,629
3.3%
329,397
12.4%
461,026
-16.1%
外国航空会社
2,201,096
55.2%
0
0.0%
2,201,096
-4.0%
合計
3,985,078
6,641,074
-3.5%
VN
2,285,767
42.4%
2,747,749
88.5%
5,033,516
26.5%
BL
127,205
2.4%
357,846
11.5%
485,051
5.2%
外国航空会社
2,978,066
55.2%
0
0.0%
2,978,066
35.3%
合計
5,391,038
8,496,633
27.9%
VN
2,702,643
43.0%
3,301,716
88.7%
6,004,359
19.3%
BL
88,424
1.4%
420,860
11.3%
509,284
5.0%
外国航空会社
3,489,829
55.6%
0
0.0%
3,489,829
17.2%
合計
6,280,896
3,722,576
10,003,472
17.7%
1995 年 ~
VN
11.4%
9.3%
10.2%
2005 年 の
BL
3.4%
18.1%
13.5%
年平均伸
外国航空会社
11.9%
0.0%
11.9%
合計
11.5%
10.0%
10.9%
2000
2001
2002
2003
2004
2005
び率
1,875,004
2,283,212
2,651,304
2,655,996
3,105,595
59
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
表 5- 2
ベトナム市場の航空輸送実態(貨物)
貨 物 (ト ン )
年
航空会社
国際
シェア
貨物
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
国内
合計
シェア
貨物
貨物
伸び率
VN
14,100
34.7%
18,800
91.7%
32,900
BL
500
1.2%
1,700
8.3%
2,200
外国航空会社
26,003
64.0%
0
0.0%
26,003
合計
40,603
VN
18,053
35.4%
23,148
88.2%
41,201
25.2%
BL
603
1.2%
3,096
11.8%
3,699
68.1%
外国航空会社
32,275
63.4%
0
0.0%
32,275
24.1%
合計
50,931
77,175
26.3%
VN
19,486
31.4%
22,553
94.4%
42,039
2.0%
BL
424
0.7%
1,330
5.6%
1,754
-52.6%
外国航空会社
42,125
67.9%
0
0.0%
42,125
30.5%
合計
62,035
85,918
11.3%
VN
15,132
25.4%
22,057
98.6%
37,189
-11.5%
BL
158
0.3%
312
1.4%
470
-73.2%
外国航空会社
44,252
74.3%
0
0.0%
44,252
5.0%
合計
59,542
81,911
-4.7%
VN
17,279
28.2%
20,283
98.7%
37,562
1.0%
BL
305
0.5%
276
1.3%
581
23.6%
外国航空会社
43,632
71.3%
0
0.0%
43,632
-1.4%
合計
61,216
81,775
-0.2%
VN
22,138
27.9%
20,090
87.2%
42,228
12.4%
BL
1,344
1.7%
2,938
12.8%
4,282
637.0%
外国航空会社
55,923
70.4%
0
0.0%
55,923
28.2%
合計
79,405
102,433
25.3%
VN
24,983
30.3%
24,246
72.3%
49,229
16.6%
BL
3,307
4.0%
9,285
27.7%
12,592
194.1%
外国航空会社
54,137
65.7%
0
0.0%
54,137
-3.2%
合計
82,427
115,958
13.2%
20,500
61,103
26,244
23,883
22,369
20,559
23,028
33,531
60
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
VN
28,047
26.2%
31,112
72.9%
59,159
20.2%
BL
4,529
4.2%
11,566
27.1%
16,095
27.8%
外国航空会社
74,348
69.5%
0
0.0%
74,348
37.3%
合計
106,924
149,602
29.0%
VN
31,421
23.8%
38,202
78.9%
69,623
17.7%
BL
2,801
2.1%
10,196
21.1%
12,997
-19.2%
外国航空会社
98,028
74.1%
0
0.0%
98,028
31.9%
合計
132,250
180,648
20.8%
VN
44,196
28.4%
44,384
84.3%
88,580
27.2%
BL
3,366
2.2%
8,280
15.7%
11,646
-10.4%
外国航空会社
107,795
69.4%
0
0.0%
107,795
10.0%
合計
155,357
208,021
15.2%
VN
46,540
29.2%
47,710
84.6%
94,250
6.4%
BL
1,664
1.0%
8,704
15.4%
10,368
-11.0%
外国航空会社
111,098
69.7%
0
0.0%
111,098
3.1%
合計
159,302
56,414
215,716
3.7%
1995 年 ~
VN
12.7%
9.8%
11.1%
2005 年 の
BL
12.8%
17.7%
16.8%
年平均伸
外国航空会社
15.6%
0.0%
15.6%
合計
14.6%
10.7%
13.4%
2002
2003
2004
2005
び率
42,678
48,398
52,664
出典:民間航空局投資計画部より
5.3. ベ ト ナ ム の 航 空 輸 送 の 自 由 化 の 重 要 性
以上で分かるように、この状態が続くと、ベトナム航空は周辺地域の航空業
界と同じレベルに達成するのは難しい。ベトナムの航空輸送業の改革が必要で
あると考える。アメリカにおける自由化及び、日本における自由化・民営化の
効果から考えて、現在ベトナムの航空業にとって重要なのは航空輸送市場の自
由化と国営航空会社の民営化であろう。

自由化によって、市場参入の障壁がなくなり、新しい航空輸送の形態の可
能性が出てくる。サービスの種類が豊富になり、需要に十分に応えられ、
消費者が利益を獲得できる。

自由化によって、航空輸送市場の競争が生じる。各航空会社はサービスの
品質アップをして、運賃を安くする努力が必要となる。

民営化によって、国営航空会社はコストを削減し、職員の人数を合理的に
61
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
配置しなければならなくなり、政府の予算の負担が軽減される。そして、
国家保護と不当な国家助成が解消されることにより、各航空会社は平等的
に競争するようになる。
ベトナムの航空市場が自由化により、どんな変化が生じていくか。まず、新
規の航空会社の市場参入が考えられる。新規は既存の航空会社とどのように競
争するのか、検討してみたい。新規が既存の航空会社と同じ形で費用と運賃を
設定する場合は、規模経済性をもっている既存会社の方が競争で勝てる可能性
が 高 い 。 例 と し て 、 2005 年 10 月 に パ シ フ ィ ッ ク 航 空 は ハ ノ イ ~ ダ ナ ン 路 線 の
運航を開始した。同じ路線では、ベトナム航空も運航している。そして、この
路線でのパシフィック航空の運航を妨害するために、ベトナム航空はいきなり
運賃を下げて、パシフィック航空の便が運航される直前と直後のフライトに一
番 新 し い 飛 行 機 B777 を 使 用 し た 。 結 果 と し て 、 翌 年 6 月 ご ろ に 、 パ シ フ ィ ッ
ク航空は赤字のため、ハノイ~ダナン路線を閉業することになった。
したがって、新規は低コスト航空会社であることを前提として設定する。低
コ ス ト 航 空 は 定 期 航 空( LCC)と 不 定 期 航 空( チ ャ ー タ ー )が あ り 、LCC と ネ
ットワーク航空会社(伝統的定期航空)の競争について分析した文献が多数あ
る( 塩 見 英 治 、村 上 英 樹 な ど に よ る 研 究 )。こ こ で 、検 討 し て み た い 競 争 モ デ
ルは既存の伝統的定期航空会社とチャーターである新規の間の競争モデルであ
る。
5.4.「 チ ャ ー タ ー 」 と の 競 争
5.4.1. は じ め に
航空輸送は、当初、主として定期輸送の形で発展した。旅客輸送が主体とな
っている航空輸送にあっては、正確なダイヤに基づいた運航と、線路相互間、
航空企業相互間の円滑な連絡が必要とされるからである。従って、航空輸送に
ついて言えば、定期航空がよく挙げられるが、定期航空と同じく、不定期航も
航空輸送の一形態である。不定期航空は定期航空輸送より遅れて現れたが、時
代の推移に連れ発展してきた。特に、航空輸送の需要が急速に伸びている現在
では、定期航空輸送だけでは充足しきれない分野も増え、それがチャーターを
はじめ、不定期航空輸送をとることが多くなった。
航空経済学者はドガニスをはじめ、不定期航空について様々な研究を行って
き た 。ド ガ ニ ス は『 新 訂
国際航空輸送の経済学』
( 1995)で 不 定 期 航 空 の 発 展
歴史や特徴を述べている。ドガニスと同様、他の航空経済学者、例えば、太田
( 1981)、 山 内 ( 1990)、 戸 崎 ( 1995) も チ ャ ー タ ー 輸 送 に つ い て 研 究 し た 。
ま ず 、不 定 期 航 空 と は ど ん な も の か 、規 定 し て み る 。1944 年 の シ カ ゴ 会 議 で
62
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
は 、「 不 定 期 航 空 」 は 「 国 際 定 期 航 空 輸 送 業 務 に 従 事 し て い な い も の 」( ド ガ ニ
ス 、 1995) と い う 規 定 が あ っ た が 、 定 期 航 空 輸 送 業 務 と は ど ん な も の か に つ い
て は 、 規 定 が な か っ た 。 1962 年 に ICAO は 定 期 航 空 輸 送 の 定 義 を 発 表 し た 。 定
期航空輸送は
1) 公 表 さ れ た 時 刻 表 に よ る か 、
2)定 期 的 、あ る い は 組 織 的 に 連 続 的 と 認 め ら れ る 頻 度 を も っ て 、同 一 の 複 数
地 点 間 の 輸 送 に 従 事 す る も の で あ る ( ICAO,ド ガ ニ ス 1995)。
即 ち 、1962 年 に は 、定 期 航 空 の 定 義 に 対 す る 不 定 期 航 空 輸 送 の 定 義 も 発 表 さ
れた。定期航空のサプリメンタル・キャリアーとされていたが、不定期航空は
世界の旅客・貨物流通に様々な貢献をしてきた。
チャーターとは元々海運の用語で、乗り物を借り切って輸送する契約のこと
で あ る 。 1952 年 に 開 か れ た IATA の 運 送 会 議 で は 、 チ ャ ー タ ー と は 自 分 自 身 の
利 用 の た め の 輸 送 か 、 類 縁 団 体 ( affinity group) の た め の 輸 送 を 目 的 と し て 、
飛行機を全部借り切って輸送する方式のことだとされた。最初の段階では、不
定期航空は安く借り切られた座席を安く小売し、定期輸送の市場を混乱させる
ことを恐れていたため、チャーター契約にかかる輸送を一般公衆に再販売する
ことの禁止が条件とされるという規定があった。しかし、航空輸送の需要の成
長につれて、チャーターへの要望も高まった。従って、その規定は次第に緩ん
で き た 。 例 え ば 、 ア メ リ カ 合 衆 国 民 間 航 空 委 員 会 ( CAB) は 全 機 チ ャ ー タ ー 原
則 を 緩 め て 分 割 貸 切 を 認 め( 1962 年 )、つ い で 包 括 旅 行 チ ャ ー タ ー( inclusive tour
charter, ITC) も 許 可 し た 。
5.4.2. 不 定 期 航 空 ・ チ ャ ー タ ー の 性 質
3)
チャーターの特徴は、行く先、日時、旅行形態を同じくする航空輸送需要が
組織化され、一まとめにして満たされる輸送形態であるという点にある。この
特徴から次の性質がある。

チャーターは、定期航空より小型の飛行機を利用することにより、事務費
用があまりかからず、費用が低くなる。そこで、旅客一人当たりのコスト
を大幅に低下させることができ、定期航空より運賃は安くなる。

定期航空よりフライトの頻度(密度)が低いが、旅客の需要があれば、す
ぐに満たせる。

チャーターは運航を許可される限定まで座席を増やすという高密度輸送を
行っているので、定期航空よりロードファクターが高い。

チャーター航空は単一航空サービス(チケット)も包括旅行サービス(パ
ッケージ)も提供する。

直行定期便がないところまで短時間で行ける。
63
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
5.4.3. 不 定 期 航 空 ・ チ ャ ー タ ー の 発 展 過 程
不定期航空は第一次世界大戦後できたが、その時から第二次世界大戦直後期
ま で の 統 計 は な か っ た ( ド ガ ニ ス , 1995)。 1950 年 代 に は 不 定 期 航 空 の 航 空 総
輸 送 量 ト ン ・ キ ロ は 総 輸 送 量 ト ン ・ キ ロ の 3% ~ 5% に 過 ぎ な か っ た 。初 期 の 不
定期航空は主に軍事や政府のチャーター、あるいは個人か単一団体のチャータ
ー で あ っ た 。 と こ ろ が 、 50 年 代 か ら 発 展 が 始 ま り 、 60 年 以 後 急 速 に 伸 び た 。
ア メ リ カ で は 1962 年 に サ プ リ メ ン タ ル ・ キ ャ リ ア ー が 13 社 公 認 さ れ た 。 そ
し て 、 1966 年 に は 、 包 括 旅 行 チ ャ ー タ ー ( Inclusive Tour Charter、 ITC) が で き
た の で 、1964 年 ~ 1967 年 の 間 に サ プ リ メ ン タ ル の 旅 客 マ イ ル は 4 倍 に も な っ た 。
ア メ リ カ の ITC は ア フ ィ ニ テ ィ ・チ ャ ー タ ー や 軍 事 チ ャ ー タ ー に 支 え ら れ た の
で 、 こ の 高 度 成 長 は 軍 事 チ ャ ー タ ー の 減 少 し 始 め る 1971 年 ま で 続 い た 。
ヨーロッパは、アメリカと違って、包括旅行チャーターの発展の重点をアフ
ィ ニ テ ィ や 軍 用 チ ャ ー タ ー に 置 か な か っ た 。50 年 代 初 め に 、英 国 の 民 間 航 空 会
社は包括旅行チャーターを始め、その後、スカンジナビア諸国やドイツにもチ
ャーターが始まった。チャーター会社がジェット機を採用するようになった
1965 年 か ら 成 長 が 目 覚 し く な り 、 65 年 ~ 73 年 ま で 年 平 均 成 長 率 は 25% に も な
った。この成長率はヨーロッパの定期航空の同じ時期の成長率の約 2 倍であっ
た。
1974 年 に 石 油 シ ョ ッ ク が 起 こ り 、ア メ リ カ と ヨ ー ロ ッ パ の チ ャ ー タ ー の 輸 送
量は減少した。その上、チャーターの運航を認めない地域が多くなったため、
70 年 代 後 半 の 不 定 期 航 空 の マ ー ケ ッ ト・シ ェ ア は 1972 年 の 31% か ら 16~ 20%
まで落ちた。
アジアのチャーター輸送会社の形成と発展は欧米より遅れた。航空輸送がア
ジ ア で 最 も 発 展 し て い る 日 本 に お い て も 、最 初 の チ ャ ー タ ー の 設 立 は 1990 年 以
降 で あ る 。ア ジ ア で チ ャ ー タ ー の 遅 れ た 原 因 は 2 つ あ る 。第 1 に 、1990 年 ま で 、
日 本 と NICs を 除 く ア ジ ア は ま だ 発 展 途 上 の 地 域 だ と 判 断 さ れ 、 飛 行 機 を 使 う
のは贅沢であった。同時に、国際交流が未成熟で、チャーターで外国へ行く需
要が少ない。第 2 に、アジアの国々は欧米と比べて、国土が狭く、国内、地域
内でチャーターで移動する必要が乏しい。現在、日本や、韓国、シンガポール
など、発展している国では、不定期航空会社(チャーター)が設立されてきた
が、発展途上国では、チャーター航空はまだ慣れていない概念だと思われる。
日 本 に お い て は 、チ ャ ー タ ー 輸 送 に つ い て は 、長 い 間 厳 し い 規 制 が 順 守 さ れ 、
団体観光旅客のためには旅行業者は定期便を利用して、それに宿泊・食事・観
光 の た め の サ ー ビ ス を 付 け 加 え て 売 る と い う 形 の も の が 多 か っ た 。1985 年 に 航
64
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
空輸送の規制緩和と民営化が行われた。規制緩和は既存の航空輸送形態を発展
させてきただけでなく、市場参入規制を緩和することによって、航空の新しい
経 営 形 態 を 誕 生 さ せ た 。そ の 結 果 、日 本 の チ ャ ー タ ー 航 空 会 社 が 出 現 し て き た 。
1990 年 に JALWAY と AirJapan が で き た 。現 在 、日 本 は 定 期 航 空 会 社 が 約 16 社 、
不定期航空会社が 2 社ある。
ジャパン
エア
チ ャ ー タ ー 株 式 会 社 JALWAY は 1990 年 10 月 5 日 に 設 立 さ
れ 、1991 年 7 月 1 日 に 福 岡 ―ホ ノ ル ル 線 で DC-10 チ ャ ー タ ー 便 運 航 を 開 始 し た 。
1993 年 7 月 9 日 に チ ャ ー タ ー 旅 客 は 10 万 人 に 達 し た 。そ し て 1997 年 9 月 5 日
に チ ャ ー タ ー 旅 客 は 25 万 人 に 上 っ た 。現 在 、JALWAY は ホ ノ ル ル 、コ ナ 、グ ア
ム、バンコク、マニラ、ジャカルタ、デンパサール、シドニー、ブリスベンに
空 港 所 が あ る 。JALWAY は 、ジ ャ パ ン・エ ア ラ イ ン( JAL)の 子 会 社 で あ る が 、
独自のサービスを提供して、独立に運航している
4)
。
AirJapan は 平 成 2 年( 1990)6 月 29 日 に 設 立 さ れ た 。最 初 の 名 前 は ワ ー ル ド
エ ア ー ネ ッ ト ワ ー ク 株 式 会 社 だ っ た 。平 成 3( 1991)年 2 月 8 日 に 不 定 期 航 空
運送事業免許を取得した。しかし、その後、会社は事業を休止した。
2000 年 7 月 5 日 に 会 社 の 名 前 を エ ア ー ジ ャ パ ン に 変 更 し た 。2001 年 1
月 1 日 に 関 西 空 港 ―ソ ウ ル 線 で 運 航 を 再 開 し た 。 2003 年 8 月 1 日 に 全
日空からチャーター運航を受託した
5)
。
5.4.4. 定 期 航 空 と の 競 争 に お け る 不 定 期 航 空
不定期航空は定期航空会社とどのように競争して、生き残るか、そして、定
期航空とどんな関係を持っているか、クールノー競争モデルとベルトラン競争
モデルを通じて検討する。
5.4.4.1. ク ー ル ノ ー 競 争 モ デ ル
(1)市 場 に お い て 航 空 会 社 が 1 社 し か 存 在 し て い な い 場 合
この状態は自然に独占になる。航空会社は自分の利潤最大化で価格(運賃)
と輸送量を決める。qは輸送量であり、pは価格(運賃)であると仮定する。
逆需要関数は
p= A – q
費 用 関 数 は c(q)= FC +( F- φ .q) .q
(5.1)
(5.2)
と表すことができる。
こ こ で 、 FC は 稼 動 中 の 飛 行 機 に 関 す る 固 定 費 用 で 、 F は 乗 客 サ ー ビ ス に 関 す
る固定費用である。航空輸送の特徴から見ると、乗客が少なくても、1 便を飛
ば せ る た め に 、営 業 費 用 は 決 め ら れ た 金 額 が か か る 。だ か ら 、乗 客 が 増 え れ ば 、
増えるほど、平均費用が減少する。φ は航空会社のネットワークの力を表す。
つまり、密度が高いネットワークを持っている航空会社は平均費用を減少する
ことができ、その上、乗客の需要に応えるレベルが高いということである。2
65
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
φは輸送量の変化に対する限界費用の弾力性を表す。輸送規模が大きければ、
大きいほど、φは大きくなる。
独占の理論によって、企業の目的は利潤最大化なので、次のように表すこと
ができる
Max
6)
。
π=
p.q - c(q)
(5.3)
( 5.1) 式 、( 5.2) 式 お よ び ( 5.3) 式 か ら
π=
p.q - c(q) = (A-q)q - FC -( F- φ .q) .q
が得られる。
利潤最大化の1階条件は利潤関数をqで微分してゼロと置けばよいから、
1階条件
π ’ = A - 2q - F + 2φ .q = 0
(5.4)
が得られる。
( 5.4) 式 を 解 い て 、 次 の 結 果 を 得 る 。
(A-F)
2(1- φ)
q =
p = A-
利潤
(A-F)
2(1- φ)
(A + F – 2Aφ)
2(1-φ)
(A-F)2
- FC
4(1-φ)
π =
図 5- 1
=
逆需要曲線・限界収入曲線・限界費用曲線
(独占の場合)
A
逆需要曲線
F
MC
MR
(A-F)/2(1- φ )
企業は市場を独占するから、最大利潤が必ず正である。すなわち、
Max π =
(A-q)q - FC -( F- φ .q) .q
0
66
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
という条件がある。この条件から
A
-
F
> (1-φ )q
( 5.5)
が得られる。
( 5.5) 式 か ら
A-F >
(1-φ). (A-F)
(A-F)
=
2
2(1- φ)
⇒
A- F > 0 ( A>F と い う 条 件 )
( 5.6)
が得られる。
価 格 ( 運 賃 ) p = A-
(A-F)
2(1- φ)
は必ず正でなければならないから、
F
2A
φ < 1/2 +
( 5.7)
が 得 ら れ る 。( 5.6) 式 お よ び ( 5.7) 式 か ら
0 <φ < 1/2 +
F
< 1
2A
という
φの条件を得る。
(2)定 期 航 空 会 社 1 社 が 既 存 し て い る 市 場 に チ ャ ー タ ー ( 不 定 期 航 空 ) が
参入する場合

クールノーモデル
チャーター(不定期)の性質から次の条件がある。
・ FC 1 > FC 2
定期航空会社はチャーターより大きい飛行機を使う。
・ TC 1 > TC 2
定期航空は飛行機に関する費用だけでなく、乗客サービスに
関 す る 費 用 も 不 定 期 航 空 よ り 高 い 。 F 1 -F 2 =b ; F 1 >b >0 と い う
条件がある
・ Loadfactor 1 < Loadfactor 2
不定期航空は乗客が多い場合に限り運航す
るので、不定期のロッドファクターが定期航空より高い。
平 均 費 用 の 曲 線 は ど ち ら も 右 下 が り が 、 AVC 1 の 傾 き は AVC 2 の 傾 き よ り 大 き
い。なぜかというと、旅客が多ければ、多いほど、チャーター会社はより大き
い飛行機を使わなければならないので、費用が増加する。ある旅客人数を超え
たら、チャーターの平均費用は定期航空の平均費用より高くなる。
定期航空の費用関数
TC 1 = FC 1 +(F 1 -φ 1 q 1 )q 1
不 定 期 航 空 の 費 用 関 数 TC 2 = FC 2 +(F 2 -φ 2 q 2 )q 2 = FC 2 +(F 1 - b - φ 2 q 2 )q 2
(φ 1 >φ 2 )
(φ 1 - φ 2 )は 会 社 の レ ベ ル の 格 差 を 表 す 。 こ の 値 は 小 さ け れ ば 、 小 さ い ほ ど 、
2 社 の レ ベ ル の 同 一 性 に 近 付 く 。 φ 1 =φ と す る と 、 0<φ 2 <φ <1
あ る 。 F1= F と す る と 、
F2= F – b
という条件が
である。
67
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
運賃は
p1= p2 =
図 5- 2
A - q1 - q2
である。
総費用曲線・平均費用曲線
(競争の場合)
TC 2
F1
b
AVC 1
TC 1
FC 1
F2
AVC 2
FC 2
飛行機の座席の制限

飛行機の座席の制
利潤関数
定期航空
π1 =
(A- q 1 - q 2 )q 1 - FC 1 - (F- φ q 1 )q 1
不定期航空
π2 =
(A- q 1 - q 2 )q 2 - FC 2 - (F- b- φ 2 q 2 )q 2

利潤最大化問題を解く
Max π 1
の 1 階条件から
π 1’ =
A- 2q 1 - q 2 - F + 2φ q 1 = 0
( 5.8a)
が 得 ら れ る 。( 5.8) 式 か ら 、 不 定 期 航 空 の 輸 送 量 q2
q2
=
A- F- 2(1- φ )q 1
( 5.8b)
が得られる。
0<φ 2 <φ <1
> 0
で あ る と 同 時 に 、輸 送 量 q2 が 正 で な け れ ば な ら な い の で 、 A – F
という条件がある。
Max π 2 の 1 階 条 件 か ら
π 2’ =
A- q 1 - 2q 2 - F + b + 2φ 2 .q 2 = 0
( 5.9a)
が 得 ら れ る 。。( 5.9) 式 か ら 、 定 期 航 空 の 輸 送 量 q1
q1
=
A- F + b - 2(1-φ 2 )q 2
( 5.9b)
が 得 ら れ る 。( 5.8b) 式 を ( 5.9b) 式 に 代 入 す る と 、
q1 =
[(A- F)(2φ2- 1) + b]
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
そして、
68
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
q2 =
P
[-(A-F)(1- 2φ) – 2 (1-φ)b]
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
= A- q 1 - q 2 =
[ A(1- 2φ )(1-2φ 2) + F(1-2φ 2) + (F-b) (1- 2φ )]
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
という結果を得る。
利潤が負であれば、航空会社は休航することになるが、以上の利潤関数を見
ると、利潤が正であるという条件から各変数の条件を推定することは非常に難
し い と い う こ と が 分 か っ た 。一 応 、利 潤 の 最 大 値 が あ る( q>0)こ と 及 び 、利 潤
が 0 に な る (q>0)こ と が 成 り 立 つ よ う に 、 各 変 数 の 条 件 を つ け る 。 そ う す る と 、
利潤の最大値も正である。
輸 送 量 q1, q2 > 0 と い う 条 件 か ら 、 次 の 2 つ の 場 合 が あ る 。
①
[1- 4(1-φ 2 )(1-φ )] < 0
[-(A-F)(1- 2φ ) - 2 (1-φ )b] < 0
[(A- F)(2φ 2 - 1) + b] < 0
②
[1- 4(1-φ 2 )(1-φ )] > 0
[-(A-F)(1- 2φ ) - 2 (1-φ )b] > 0
[(A- F)(2φ 2 - 1) + b] > 0

独占との価格と輸送量の比較
独 占 の 場 合 で は 、 輸 送 量 Qm= q = (A-F)/2(1-φ )
である。
クールノー競争の場合では、
総 輸 送 量 Qc = q 1 + q 2 =
=
[(A- F)(2φ2- 1)+ b+ (A-F)(2φ-1)-2(1-φ)b]
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
[(1-2φ)b + (A-F)(2-2φ-2φ2)]
[4(1-φ2)(1-φ)-1]
(Qc- Qm)の 引 き 算 の 結 果 を 検 証 す る 。
Qc-Qm=
2(1-φ) [(1-2φ)b + (A-F)(2-2φ-2φ2)]- (A-F) [4(1-φ2)(1-φ)-1]
2(1-φ)[4(1-φ2)(1-φ)-1]
分子は
= 2(1-φ )(1-2φ )b + (A-F)(4φ
2
-4φ +1)
= 2(1-φ )(1-2φ )b + (A-F)(1- 2φ )
し た が っ て 、 Qc-Qm = (1-2φ )
2
[(A-F)(1-2φ) + b.2(1-φ)]
2(1-φ)[4(1-φ2)(1-φ)-1]
69
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
q 1 ,q 2 が 正 で あ る 条 件 か ら 分 か る よ う に 、
[4(1-φ2)(1-φ)-1] と [(A-F)(1- 2φ)+ 2 (1-φ)b] は い つ も 同 時 に 負 で あ る 、 あ る い は
正であるため、
[(A-F)(1-2φ) + b.2(1-φ)]
は い つ も 正 で あ る 。そ し て φ < 1 であるから (1-φ)
[4(1-φ2)(1-φ)-1]
は正である。したがって、
[(A-F)(1-2φ) + b.2(1-φ)]
2(1-φ)[4(1-φ2)(1-φ)-1]
は
いつも正である。
こ の 結 果 を 見 る と 、 Qc-Qm は φ の 価 値 に よ っ て 、 正 で あ る か 、 負 で あ る か 、
決 め ら れ る こ と が 分 か っ た 。 φ が 1/2 よ り 大 き い 場 合 、 Qc-Qm < 0,
つまりク
ールノー競争の総輸送量が独占輸送量より小さいということになる。したがっ
て、クールノー競争とクールノー均衡がうまく成り立たない。
クールノー競争とクールノー均衡がうまく成り立つ条件は Qc-Qm > 0, p c < p m と い
う こ と で あ る 。 つ ま り 、 φ は 1/2 より小さいという条件が仮定できる。この条件から、
φ2<φ1<1/2
[4(1-φ2)(1-φ)-1] >
0
[(A-F)(1- 2φ ) + 2 (1-φ )b]> 0
[(A- F)(1- 2φ 2 ) - b] > 0
という結果を得る。
Qc- Qm > 0 で あ る か ら 、 Qc は Qm よ り 大 き い 。 つ ま り 、 ク ー ル ノ ー 競 争 の
場合の総輸送量は独占の場合の輸送量より高くなる。従って、クールノー競争
の運賃(価格)が独占より安くなる。

定期航空と不定期航空の輸送量へ与える影響
ここでは、費用の格差とレベルの差別化の輸送量への影響を検討する。
*費用差の増大の輸送量への作用
定期航空と不定期航空の輸送量を費用差bで微分して、結果を検討する。も
し、結果は正であれば、費用格差は良い影響(プラスの影響)を与えることに
なる。もし、結果は負であれば、費用差bは悪い影響(マイナスの影響)を与
えることになる。
∂ q 1 /∂ b =
1
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
< 0
∂ q 2 /∂ b =
-2(1-φ)
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
> 0
70
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
つまり、不定期航空と定期航空の費用の差が大きければ大きいほど、定期航
空輸送量にマイナスの影響を与える。逆に、bが小さければ、小さいほど、定
期航空の輸送量は増加するが、不定期航空の輸送量は減少することになる。
*レベルの差別化の輸送量への作用
定期航空と不定期航空の輸送量をレベルの差別化φとφ2 で微分して、結果
を検討する。もし、結果は正であれば、費用格差は良い影響(プラスの影響)
を与えることになる。もし、結果は負であれば、費用差bは悪い影響(マイナ
スの影響)を与えることになる。
まず、φで微分する。
∂ q 1 /∂ φ =
(-1) [(A- F)(2φ2- 1) + b] (4- 4φ2)
2
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
∂ q 2 /∂ φ =
[2(A-F)(2φ2- 1) + 2b]
2
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]
> 0
< 0
つ ま り 、定 期 航 空 は 所 有 し て い る ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し て 、φ を 拡 大 す る 事
に よ る 平 均 費 用 を 減 少 す る と 、 q1 は 増 加 す る 一 方 、 q2 が 逓 減 す る 。 定 期 航 空 の
輸送量は逓増するが、不定期航空の輸送量は逓減する。
次に、φ2 で微分する。
∂ q 1 /∂ φ 2 =
∂ q 2 /∂ φ 2 =
[-2(A-F)(1-2φ)- 4b(1- φ)]
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]2
< 0
(-1) [-(A-F)(1- 2φ) – 2 (1-φ)b](4- 4φ)
[1- 4(1-φ2)(1-φ)]2
> 0
定期航空の密度が変わらない場合、φ2 が大きければ大きいほど、不定期航
空の輸送量が増加することになる。逆に、φ2 が小さければ、小さいほど、不
定期と定期のサービスの格差が明白になり、不定期は輸送量が逓減して、定期
航空は輸送量が逓増する。従って、定期航空はネットワークを利用して、密度
を増やすとすると、不定期は競争で不利になる。
(3)価 格 ( 運 賃 ) の 変 化
航空会社は、利潤を獲得できる機会があれば市場に参入し、利潤がまだ正で
あれば市場から退出しない。しかし、市場に参入してきた会社が増えれば増え
るほど、それぞれの利潤が少なくなり、利潤がゼロになった会社は市場から退
出しなければならない。
定期航空会社が独占している市場に不定期航空会社が参入してきた。両者の
互いの影響を分析したが、競争が続いて行けば、どちらが先に市場から退出し
なければならないか、分析してみる。
71
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化

利潤がゼロになる時の運賃(価格)
まず、定期航空会社の利潤がゼロになる運賃水準を検討する。その時、市場
の 運 賃 水 準 は P で あ り 、 定 期 航 空 の 輸 送 量 が q1
、 不 定 期 航 空 の 輸 送 量 が q2
である。
利 潤 π 1 = P.q 1 - FC 1 - (F - φ q 1 )q 1 =
0
であるから、
P.q 1 = FC 1 + (F - φ q 1 )q 1
( 5.10a)
が得られる。
逆需要関数
p= A- q 1 - q 2 と ( 5.8b) 式 を 合 わ せ て 、
( 5.10b)
P = F + (1- 2φ )q 1
が 得 ら れ る 。( 5.10a) 式 と ( 5.10b) 式 を 合 わ せ て 、
F + (1- 2φ )q 1 = FC 1 /q 1 + F - φ q 1
( 5.10c)
が 得 ら れ る 。( 5.10c) 式 を 解 い て 、 次 の 結 果 を 得 る 。
FC 1 = (1-φ )(q 1 ) 2
q 1 = [FC 1 /(1-φ )] 1 / 2
こ の 結 果 を ( 5.8b) 式 に 代 入 す る と 、
q 2 = A - F - 2(1-φ ) [FC 1 /(1-φ )] 1 / 2
を得る。
つまり、定期航空は
輸送量
q 1 = [FC 1 /(1-φ )]
1/2
という点では、利潤が
ゼロになる。その時、市場の運賃は
P = F + (1- 2φ ) [FC 1 /(1-φ )] 1 / 2
である。
次に、不定期航空会社の利潤がゼロになる運賃水準を検討する。その時、市
場 の 運 賃 は P’ で あ り 、 定 期 航 空 の 輸 送 量 が q 1 ’ 、 不 定 期 航 空 の 輸 送 量 が q 2 ’
である。
利 潤 π 2 = P’ .q 2 ’ - FC 2 - (F - b- φ 2q 2 ’ )q 2 ’ =
P’ .q 2 ’ = FC 2 +
0
であるから、
(F - b- φ 2 q 2 ’ )q 2 ’
( 5.11a)
が得られる。
逆需要関数
P’ = A- q 1 ’ - q 2 ’
と ( 5.9b) 式 を 合 わ せ て 、
P’ = F- b + (1- 2φ 2 )q 2 ’
( 5.11b)
が 得 ら れ る 。( 5.11a) 式 と ( 5.11b) 式 を 合 わ せ て 、
F- b + (1- 2φ 2 )q 2 ’ = FC 2 /q 2 ’ + F - b- φ 2 q 2 ’
( 5.11c)
が 得 ら れ る 。( 5.11c) 式 を 解 い て 、 次 の 結 果 を 得 る 。
FC 2 = (1- φ 2 )(q 2 ’ ) 2
q 2 ’ = [FC 2 /(1-φ 2 )] 1 / 2
こ の 結 果 を ( 5.9b) 式 に 代 入 し て 、 次 の 結 果 を 得 る 。
q 1 ’ = A - F + b - 2(1- φ 2 ) [FC 2 /(1-φ 2 )] 1 / 2
72
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
つまり、不定期航空は
輸送量
q 2 ’ = [FC 2 /(1-φ 2 )] 1 / 2
という点では、利
潤がゼロになる。その時、市場の運賃は
P’ = F - b + (1- 2φ 2 ) [FC 2 /(1-φ 2 )] 1 / 2

である。
P と P’ と を 比 較 す る
FC 2 は FC 1 よ り 低 く 、 費 用 の 差 別 は b で あ る が 、 φ は φ 2
より大きいから、P
と P’ と は ど ち ら が 高 い か 、 言 え な い 。 そ の 上 、 不 定 期 航 空 は φ 2 を 変 え る こ
と が 非 常 に 難 し い 。 こ の 変 化 に よ っ て 、 FC 2 は FC 1 と 同 じ に な る 、 あ る い は
b
はゼロになる可能性がある。一方、定期航空はネットワークを利用して、フラ
イトの密度を変えることができる。つまり、φ を向上させることができる。
P = F + (1- 2φ ) [FC1/(1-φ )] 1 / 2
FC 1 、 F は 固 定 し て る の で 、 φ が 変 わ っ た ら 、 P も 変 わ る 。
Y = (1- 2φ )/ [(1-φ )] 1 / 2 の 変 化 に つ い て 、 検 討 す る 。 (1-φ )= x
とした
ら 、 Y = (2x -1)(x - 1 / 2 ) = 2x 1 / 2 - x - 1 / 2
Y を x で微分すると、
∂ Y/∂ x = x - 1 / 2
+ 1/2 x - 3 / 2
そ し て 、 ∂ x/∂ φ = (-1)
> 0
という結果が得られる。
であるから、
dY/dφ =(∂ Y/∂ x)(∂ x/∂ φ ) < 0
が得られる。つまり、φ が増えると、Y は減少する。それにつれて、P も低く
なる。
要するに、定期航空は自分の得意なネットワークを利用して、利潤がゼロに
な る 運 賃( 価 格 )を 下 げ る こ と が で き る 。φ を 変 え る と 同 時 に 、平 均 費 用 を 削
減 し て 、b と い う 費 用 格 差 を 小 さ く す る 工 夫 す れ ば 、P は 一 層 低 く な る 。こ の 価
格 が P’ よ り 低 く な る と 、 不 定 期 航 空 の 利 潤 が ゼ ロ に な っ て も 、 定 期 航 空 の 利
潤がまだ正であり、不定期航空は市場から退出しなければならない。不定期航
空の利潤がゼロになっても、定期航空の利潤はまだ正である。ここで、定期航
空の規模経済性が役に立つ。

不 定 期 航 空 の 輸 送 量 は q 2 = [FC 2 /(1-φ 2 )] 1 / 2 ま で 増 加 す る と 、 不 定 期 航 空
の利潤はゼロになるから、不定期航空の市場参入が止まる。その時、運賃(価
格 ) は P’ = F - b + (1- 2φ 2 ) [FC 2 /(1-φ 2 )] 1 / 2 で あ る 。

定 期 航 空 は 輸 送 量 が q 1 = [FC 1 /(1-φ )] 1 / 2 ま で 増 え る と 、 定 期 航 空 の 利 潤 が
ゼロになる。定期航空の市場参入が止まる。その時、運賃は
P = F + (1- 2φ) [FC1/(1-φ)]1/2

P と P’ の 関 係 を 見 る と 、も し P > P’ 、定 期 航 空 の 利 潤 が ゼ ロ に な っ た 時 、
不定期航空の利潤はまだ正である。その時、定期航空は競争で不定期航空に負
け る か も し れ な い 。 逆 に 、 P < P’ 、 不 定 期 航 空 の 利 潤 が ゼ ロ に な っ た 時 で も 、
73
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
定期航空の利潤は正である。この場合は不定期航空は負けてしまって、市場か
ら退出しなければならないということである。
(4)市 場 に も う 1 社 が 参 入 す る (3 社 の ク ー ル ノ ー 競 争 )場 合
利潤がまだある時、あるいは需要が増える(A が増加する)時、市場に参入
する会社がある。2 社が既存している路線に新しい航空会社(新規)が参入し
てきたケースを検討してみよう。

p = A - q1 - q2 - q3
逆需要関数
q 1 は 定 期 航 空 の 輸 送 量 、 q 2 は 不 定 期 航 空 ,q 3 は 新 規 不 定 期 航 空 、 ま た は 新 規
低 コ ス ト 航 空 の 輸 送 量 で あ る 。 q1 > q2 > q3 と い う 条 件 を 仮 定 す る 。

費用関数
定期航空
TC 1 = FC 1 +(F 1 -φ 1 q 1 )q 1
不定期航空
TC 2 = FC 2 +(F 2 -φ 2 q 2 )q 2 = FC 2 +(F 1 - b - φ 2 q 2 )q 2
(φ 2 <φ 1 )
新規
TC 3 = FC 3 +(F 3 -φ 3 q 3 )q 3 = FC 3 +(F 1 - c - φ 3 q 3 )q 3
(φ 3 <φ 1 )
b,c > 0
以 上 で 説 明 し た よ う に 、ク ー ル ノ ー 競 争 が 成 り 立 つ 条 件 は
0<φ2<φ1<1/2 であ
ると、証明した。この結果を使って、0<φ2<φ1<1/2 ; 0<φ3 <φ1<1/2
という条件を仮定
できる。

利潤関数
定期航空
π 1=
(A- q 1 - q 2 - q 3 )q 1 - FC 1 - (F- φ 1 q 1 )q 1
不定期航空
π 2=
(A- q 1 - q 2 - q 3 )q 2 - FC 2 - (F- b- φ 2 q 2 )q 2
新規
π 3=
(A- q 1 - q 2 - q 3 )q 3 - FC 3 - (F- c- φ 3 q 3 )q 3

利潤最大化問題を解く
定期航空の利潤最大化の1階条件から、
π 1’ =
A- 2q 1 - q 2 - q 3 - F + 2φ 1 q 1 = 0
が 得 ら れ る 。同 じ よ う に 、不 定 期 航 空 と 新 規 航 空 の 利 潤 最 大 化 の 1 階 条 件 か ら 、
π 2’ =
A- q 1 - 2q 2 - q 3 - F + b + 2φ 2 q 2 = 0
π 3’ =
A- q 1 - q 2 - 2q 3 - F + c + 2φ 3 q 3 = 0
が得られる。
こ れ ら の 等 式 を 簡 単 に す る た め に 、 A-F = M; 2-2φ 1 = α 1 ; 2-2φ 2 = α 2 ;
2-2φ 3 = α 3 、 と い う 新 し い 変 数 を 使 う 。 M,α 1 ,α 2 ,α 3 を 入 れ 替 え る と 、 次 の 等
式がある。
M
=
α 1 .q 1 + q 2 + q 3
M+b =
q1
+α 2 .q 2 + q 3
M+c =
q1 +
(*)
q 2 +α 3 .q 3
74
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
0<φ2<φ1<1/2 ; 0<φ3 <φ1<1/2
という条件から、α 1 , α 2 , α 3 > 1
という条件
がある。
ク ラ メ ル 公 式 を 使 っ て 、( * ) を 解 い て 、 次 の 結 果 を 得 る 。
q 1 =
M(α2-1)(α3-1) + c(1-α2) + b(1-α3)
α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3
q 2 =
M(α1-1)(α3-1) + c(1-α1) + b(α1.α3 - 1)
α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3
q 3 =
M(α2-1)(α1-1) + c(α1.α2 - 1) + b(1-α1)
α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3
これらの分数の母子
α 1 .α 2 .α 3 + 2 –α 1 -α 2 -α 3
を検討してみる。
α 1 .α 2 .α 3 + 2 –α 1 -α 2 -α 3
= (α1-1)(α2-1)(α3-1)+ (α1-1)(α2-1)+ (α2-1)(α3-1)+ (α1-1)(α3-1) > 0
輸 送 量 が 必 ず 正 で な け れ ば な ら な い か ら 、 q1、 q2、 q3 は 正 で あ る 。 q1、 q2、 q3
を表す分数は母子が正であるため、分子も正である。つまり、
M(α 2 -1)(α 3 -1) + c(1-α 2 ) + b(1-α 3 )
> 0
M(α 1 -1)(α 3 -1) + c(1-α 1 ) + b(α 1 .α 3 - 1)
> 0
M(α 2 -1)(α 1 -1) + c(α 1 .α 2 - 1) + b(1-α 1 )
(**)
> 0
である。

各航空会社の輸送量へ与える影響
ここでは、費用の格差とレベルの差別化の輸送量への影響を検討する。
*費用差の増大の輸送量への作用
定期航空、不定期航空、新規航空の輸送量を費用差b、c で微分して、結果
を検討する。もし、結果は正であれば、費用格差は良い影響(プラスの影響)
を与えることになる。もし、結果は負であれば、費用差は悪い影響(マイナス
の影響)を与えることになる。
まず、3 社の輸送量を b で微分する
∂ q 1 /∂ b=
(1- α3)
< 0
(α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3)
∂ q 2 /∂ b=
(α1.α3 – 1)
(α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3)
> 0
∂ q 3 /∂ b=
(1- α1)
(α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3)
< 0
75
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
この結果を見て分かるように、不定期航空の費用の差 b が大きければ大きい
ほど、定期航空輸送量と新規の輸送量にマイナスの影響を与える。逆に、bが
小さければ、小さいほど、定期航空と新規は輸送量が逓増して、不定期航空は
輸送量が逓減する。
次に、3 社の輸送量を c で微分する。
∂ q 1 /∂ c=
(1- α2)
(α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3)
< 0
∂ q 2 /∂ c=
(1- α1)
(α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3)
< 0
∂ q 3 /∂ c=
(α1.α2 – 1)
(α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3)
> 0
つまり、新規航空の費用の差 c が大きければ大きいほど、定期航空輸送量と
不定期航空輸送量にマイナスの影響を与える。逆に、c が小さければ、小さい
ほど、定期航空と不定期航空は輸送量が逓増して、新規航空は輸送量が逓減す
る。
* レベルの差別化の輸送量への作用
不定期と新規は路線でのフライト密度を拡大することが難しいので、φ2 と
φ3 はなかなか変わらない。一方、定期航空はネットワークを利用して、密度
を 拡 大 す る 可 能 性 が あ る 。そ う す る と 、不 定 期 と 新 規 は ど ん な 影 響 を 受 け る か 、
検討する。3 社の輸送量をα1 で微分する。
まず、定期航空の輸送量をα1 で微分する。
∂ q 1 /∂ α 1 =
-(α2.α3 -1)[ M(α2-1)(α3-1) + c(1-α2) + b(1-α3)]
[α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3]2
α 2 、α 3 > 1 で あ る か ら 、
( α 2 .α 3 -1)> 0 で あ る 。
( * * )の 結 果 に よ る と 、
M(α 2 -1)(α 3 -1) + c(1-α 2 ) + b(1-α 3 )
> 0
で あ る か ら 、 ∂ q 1 /∂ α 1
<
0
である。
∂ q 1 /∂ φ 1
=
( ∂ q 1 /∂ α 1
).( ∂ α 1 /∂ φ 1 )
( < 0)
し た が っ て 、 ∂ q 1 /∂ φ 1
>0
( -2
< 0)
を得る。つまり、φ1 が大きければ、大きい
ほど、定期航空の輸送量が逓増する。
次に、不定期航空の輸送量をα1 で微分する。
∂ q 2 /∂ α 1 =
(α3 -1)[ M(α2-1)(α3-1) + c(1-α2) + b(1-α3)]
[α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3]2
α 3 > 1 で あ る か ら 、( α 3 -1 ) > 0 で あ る 。 M(α 2 -1)(α 3 -1) + c(1-α 2 ) +
b(1-α 3 )
> 0
で あ る か ら 、 ∂ q 2 /∂ α 1
>0
である。
76
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
∂ q 2 /∂ φ 1 =
( ∂ q 2 /∂ α 1 ) ( ∂ α 1 /∂ φ 1 )
( > 0)
し た が っ て 、 ∂ q 2 /∂ φ 1
( -2
<0
< 0)
を得る。つまり、φ1 が大きければ、大きい
ほど、不定期航空の輸送量が逓減する。
同じように、
∂ q 3 /∂ α 1 =
(α2 -1)[ M(α2-1)(α3-1) + c(1-α2) + b(1-α3)]
> 0
[α1.α2.α3 + 2 –α1-α2-α3]2
∂ q 3 /∂ φ 1 = ( ∂ q 3 /∂ α 1 ) ( ∂ α 1 /∂ φ 1 )
( > 0)
し た が っ て 、 ∂ q 3 /∂ φ 1
( -2
<0
< 0)
を得る。つまり、φ1 が大きければ、大きい
ほど、新規航空の輸送量が逓減する。
要するに、定期航空は所有しているネットワークを利用して、φ1 を拡大す
る 事 に よ る 費 用 を 減 少 す る と 、 q1 は 逓 増 す る 一 方 、 q2, q3 が 逓 減 す る 。
クールノー競争モデルを分析した結果により、定期航空会社の利点はネット
ワークであり、不定期航空会社と低コスト航空会社の利点は低い費用である。
先に利潤がゼロになった航空会社は市場から退出しなければならないため、各
航空会社は利潤がゼロになる運賃水準を下げることに努める。不定期と新規は
低コストという利点を生かして、その運賃水準を下げることができる。定期航
空は元々費用がより高いから、利点であるネットワークを利用する。不定期と
新規は低コストで市場に参入してきた時、既存の定期航空の輸送量がマイナス
の影響を受けるが、定期航空はネットワークを拡大することによる費用削減を
工夫したら、定期航空の輸送量が逓増するが、不定期航空と新規航空の輸送量
が低減する。そして、定期航空は、ネットワークを拡大することを通じて、利
潤がゼロになる運賃水準を低くすることができる。
5.4.4.2. ベ ル ト ラ ン 競 争 モ デ ル
(1)路 線 に 定 期 航 空 1 社 が 既 存 し て い て 、 不 定 期 航 空 が 参 入 し て き た 場 合
クールノー競争では、定期航空も、不定期航空も同じ運賃で競争するという
前提が設定された。しかし、もし不定期航空は低い費用、低い運賃と設定する
と、市場における競争はどうなるだろう。ベルトラン競争で不定期航空の費用
格差価格は、定期航空と不定期航空の運賃と輸送量にどんな影響を与えるか、
検討する。定期航空の運賃は
p2、 輸 送 量 は
q2
p1、 輸 送 量 は
q1 で あ り 、 不 定 期 航 空 の 運 賃 は
であると仮定する。
77
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
定期航空と不定期航空については、それぞれの性質から、
・ FC 1 > FC 2
定期航空会社はより大きい飛行機を使うので、飛行機に関する
費用は不定期より大きい。
・ TC 1 > TC 2
定期航空は費用が不定期航空より高い。
しかし、ある程度を超えたら、この傾向は逆転する。
・ Loadfactor 1 < Loadfactor 2
不定期航空は乗客が多い場合に限り運航するので、
不定期のロッドファクターが定期航空より高い。
・ q1 > q2
定期航空は、ネットワークを利用して、特定路線以外の旅客の
需要にも応えられる。
・ p1 > p2
不定期航空・チャーターの運賃は定期航空より低い。
という条件がある。

費用関数
定期航空
TC 1 = FC 1 +(F -φ 1 q 1 )q 1
不定期航空
TC 2 = FC 2 +(F 2 -φ 2 q 2 )q 2 = FC 2 +(F - b - φ 2 q 2 )q 2
(0<φ 2 <φ 1 <1; F>b >0)

ベルトラン競争モデルの需要関数
定期航空の輸送量
q 1 = B - k.p 1 + m.p 2
不定期航空の輸送量
q 2 = C + m.p 1 - k.p 2
m,k > 0
q 1 > q 2 と い う 条 件 か ら 、 B - k.p 1 + m.p 2 > C + m.p 1 - k.p 2
がって、
(B-C) > (m+k)(p 1 -p 2 )
に な る 。 し か も 、 p1 > p2
になる。した
であるから、
( B > C) が 得 ら れ る 。
総輸送量を検討してみる。
総輸送量=
q 1 + q 2 = B + C + (p 1 +p 2 )(m-k)
ベルトラン競争が成り立つ条件は定期航空の価格が高くなると、不定期航空
の 価 格 も 高 く な っ て 、 両 方 の 輸 送 量 が 低 く な る 。 従 っ て 、 m-k < 0 で あ れ ば 、
ベルトラン競争がうまく成り立つ。つまり、

m < k
である。
利潤関数
定期航空
π 1=
(B - k.p1 + mp2)p1 - FC1 - [F- φ1(B - k.p1 + mp2)]( B - k.p1 + mp2)
不定期航空
π 2=

(C + m.p1 - kp2)p2 - FC2 - [(F- b- φ2(C + m.p1 - kp2)]( C + m.p1 - kp2)
利潤最大化問題を解く
定期航空の利潤最大化の 1 階条件から、
π 1 ’ = -k(p1- F+ Bφ1- kφ1.p1+ m.φ1.p2)+ (B - k.p1 + mp2)(1- kφ1) = 0
が得られる。解くと、
78
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
-kp 1 + kF- Bk.φ 1 + k.k.φ 1 .p 1 - k.m.φ 1 .φ 2 + B- Bk.φ 1 - k.p 1 + k.k.p 1 .φ 1
+ mp 2 – mp 2 .k.φ 1 = p 1 .2k(kφ 1 - 1) - p 2 .m(2kφ 1 - 1) + B -2Bk.φ 1 + kF = 0
が得られ、この式から、
p2= p1.
2k(kφ1- 1)
m(2kφ1 - 1)
-
B/m
+
kF
m(2kφ1 - 1)
( 5.12)
という結果を得る。
ベ ル ト ラ ン 競 争 の 特 徴 は p1 が 上 が る と 、 p2 も 上 が る こ と 、 あ る い は p1 が 下
が る と 、p 2 も 下 が る こ と で あ る 。従 っ て 、 p 2 の 関 数 の 中 で 、p 1 の 係 数( 傾 き )
は 正 で な れ ば な ら な い 。 つ ま り 、 (kφ 1 - 1)/ (2kφ 1 - 1)は 正 で あ る 。 し た が
って、
< 1/2
kφ 1
、 あるいは、
kφ 1
> 1
ということになる。
不定期航空の利潤最大化の 1 階条件から、
π 2 ’ = -k(p2- F+b + C.φ2- kφ2.p2+ m.p1.φ2)+ (C – k.p2 + mp1)(1- kφ2) = 0
が得られる。解くと、
p 2 .2k(kφ 2
- 1) – p 1 .m(2kφ 2 - 1) + C - 2C.k.φ 2 + k(F-b) = 0
が得られ、この式から、
p1= p2.
2k(kφ2- 1)
m(2kφ2 - 1)
-
C/m
+
k(F-b)
m(2kφ2 - 1)
( 5.13)
という結果を得る。
以上と同じように、
kφ 2
< 1/2
、 あ る い は 、 kφ 2
> 1
ということ
になる。
ク ー ル ノ ー 競 争 の 航 空 会 社 の 費 用 関 数 の 参 考 を kφ 1 、 kφ 2 の 条 件 と 合 わ せ
て
、0
<
kφ 2 < kφ 1 <1/2 と い う 条 件 を 付 け る 。
( 5.12) 式 と ( 5.13) 式 は 簡 単 に す る た め に 、 新 し い 変 数 を 代 入 す る 。
1- 2kφ 1 =α 1 ; 1- 2kφ 2 =α 2 、 と い う α 1 ,α 2 を ( 5.12) 式 と ( 5.13) 式 に 入
れ替える。0
<
kφ 2 < kφ 1 <1/2
で あ る か ら 、( α 1 ,α 2 > 0; α 1 <α 2 ) で
ある。
p1= p2.
k(α2 +1)
m.α2
-
C/m
p2= p1.
k(α1 +1)
m.α1
-
B/m
-
k(F-b)
m.α2
kF
m.α1
この方程式を解いて、次の結果が得られる。
p1=
kα1(α2 +1).B + k2(α2 +1).F + C.m.α1.α2 + m.k.α1(F-b)
(k2- m2)α1.α2 + k2α1 + k2α2 + k2
79
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
p 2 =
kα2(α1 +1).C + k2(α1 +1).(F-b) + B.m.α1.α2 + m.k.α2.F
(k2- m2)α1.α2 + k2α1 + k2α2 + k2
α 1 ,α 2 > 0; m < k

であるから
これらの分数の母子は正である。
価格への費用格差の影響
定期航空と不定期航空の運賃(価格)を費用差bで微分して、結果を検討す
る。もし、結果は正であれば、費用格差は良い影響(プラスの影響)を与える
こ と に な る 。も し 、結 果 は 負 で あ れ ば 、費 用 差 b は 悪 い 影 響( マ イ ナ ス の 影 響 )
を与えることになる。
∂ p 1 /∂ b =
- m.k.α1
(k2- m2)α1.α2 + k2α1 + k2α2 + k2
∂ p 2 /∂ b =
- k2(α1 +1)
(k2- m2)α1.α2 + k2α1 + k2α2 + k2
< 0
< 0
結果を見て分かるように、費用格差が大きくなれば、定期航空と不定期航空
の運賃が下がる傾向がある。

輸送量への費用格差の影響
定期航空と不定期航空の輸送量を費用差bで微分して、結果を検討する。
q 1 /b = (-k).(∂ p 1 /∂ b) + m.(∂ p 2 /∂ b)
=
-m.k2.(α1 +1 –α1)
(k - m )α1.α2 + k2α1 + k2α2 + k2
2
2
q 2 /b =
=
< 0
m.(∂ p 1 /∂ b) - k.(∂ p 2 /∂ b)
k(k2.(α1 +1) –m2α1)
(k2- m2)α1.α2 + k2α1 + k2α2 + k2
> 0
不定期航空と定期航空の費用の差が大きければ大きいほど、定期航空輸送量
に マ イ ナ ス の 影 響 を 与 え る 。( ク ー ル ノ ー 競 争 と 同 じ )。 つ ま り 、 不 定 期 航 空 の
低い費用が定期航空の価格と輸送量を減らした。
し か し 、 p 1 ,p 2 が 減 少 し て い く と 、( q 1 +q 2 ) は 増 加 す る の で 、 総 輸 送 量 は 増 加
する。消費者はより安い運賃でサービスが得られるようになる。
(2)路 線 に 定 期 航 空 2 社 が 既 存 し て 、 新 規 航 空 が 参 入 し て き た 場 合

ベルトラン競争の需要関数
定期航空
q 1 = B - k.p 1 + m.p 2 + n.p 3
不定期航空
q 2 = C + n.p 1 - k.p 2 + m.p 3
新規航空
q 3 = D + m.p 1 + n.p 2 - k.p 3
80
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
総輸送量
q 1 + q 2 + q 3 = B + C + D + (p 1 + p 2 + p 3 )(m + n - k)
ベルトラン競争が成り立つ条件は定期航空の価格が高くなると、不定期航空
の 価 格 も 新 規 の 価 格 も 高 く な っ て 、 3 社 の 輸 送 量 が 低 く な る 。 従 っ て 、 m + n -k
< 0 で あ れ ば 、 ベ ル ト ラ ン 競 争 が う ま く 成 り 立 つ 。 つ ま り 、( m + n < k)
が
得られる。

費用関数は
TC 1 = FC 1 + (F -φ 1 q 1 )q 1
TC 2 = FC 2 + (F - b -φ 2 q 2 )q 2
( 1>φ 1 >φ 2 > 0)
TC 3 = FC 3 + (F - c -φ 3 q 3 )q 3
( 1>φ 1 >φ 3 > 0)
(b,c > 0)
2 社 の 競 争 の 条 件 を 参 考 し て 、 0< kφ 1 ; kφ 2 ; kφ 3 < 1/2
という条件をつ
ける。

利潤関数
定期航空
π 1 =(B - k.p1 + m.p2 + n.p3)p1 - FC1 - (F- φ1(B - k.p1 + m.p2 + n.p3))( B - k.p1 + m.p2 + n.p3)
不定期航空
π 2 =(C + n.p1 - k.p2 + m.p3)p2 - FC2 - (F- b - φ2(C + n.p1 - k.p2 + m.p3))( C + n.p1 - k.p2 + m.p3)
新規航空
π 3 =(D + m.p1 + n.p2 - k.p3)p3 - FC3 - (F- c - φ3(D + m.p1 + n.p2 - k.p3))( D + m.p1 + n.p2 - k.p3)

利潤最大化問題を解く
Maxπ 1 の 1 階 条 件 は
π 1’ = 0
である。
π 1 ’ = -k(p1- F+ Bφ1- kφ1.p1+ m.φ1.p2 + n.φ1.p3)+ (B - k.p1 + m.p2 + n.p3)(1- kφ1) = 0
この方程式を解くと、次の結果がある。
p 1 = p 2 m(1- 2kφ1)
n(1- 2kφ1)
-B(1- 2kφ1) - kF
+ p 3 +
2k(1-kφ1)
2k(1-kφ1)
2k(1-kφ1)
Maxπ 2 の 1 階 条 件 は
π 2’ = 0
で あ り 、 Maxπ 3 の 1 階 条 件 は
π 3’ = 0
で あ る 。 π 1’ = 0 の 場 合 と 同 じ よ う に 解 く と 、 次 の 結 果 が あ る 。
p2= p1
n(1- 2kφ2)
m(1- 2kφ2)
+ p3
+
2k(1-kφ2)
2k(1-kφ2)
p3= p1
m(1- 2kφ3)
n(1- 2kφ3)
+ p 2 +
2k(1-kφ3)
2k(1-kφ3)
-C(1- 2kφ2) – k(F-b)
2k(1-kφ2)
-D(1- 2kφ3) – k(F-c)
2k(1-kφ3)
kφ 2 < kφ 1 <1/2 と い う 条 件 が あ っ て 、 φ 3 <φ 1 , k>0 と 合 わ せ て 、 kφ 3 < kφ 1
<1/2 と い う 条 件 を 仮 定 で き る 。 こ の 各 条 件 か ら 考 え る と 、 p 1 ,p 2 ,p 3 は 同 じ 方 向
に 動 い て い る と 判 断 で き る 。 つ ま り 、 p 1 ,p 2 ,p 3 は い ず れ か が 下 が る と 、 他 社 の
81
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
運賃も一緒に下がるということ、あるいは、いずれかが上がると、他社の運賃
も一緒にに上がるということである。
不定期航空と新規航空の費用が定期航空より低いことは、まず、不定期航空
と新規航空の運賃を低くする。この結果、定期航空の運賃も影響を受けて、下
がる。3 社の運賃が下がると、総輸送量が多くなり、消費者は有利になる。こ
の結果は 2 社のベルトラン競争の分析ではっきり見られた。
5.4.5. 結 論
不定期航空と新規が市場参入した後、不定期航空の低い費用は定期航空に影
響を与える。

不定期航空と新規の低い費用は定期航空の輸送量にマイナスの影響を与え
る。つまり、費用差が大きければ大きいほど、定期航空の輸送量が減少す
る傾向がある。しかし、全体の輸送量は拡大され、運賃は低くなる。クー
ルノー競争の場合でもベルトラン競争の場合でも同じである。

クールノー競争の場合、不定期航空が定期航空と一緒に競争する時、もし
定期航空は自分のフライトネットワークの密度を変えないで、不定期航空
の密度が高くなると、不定期航空の輸送量が増加する一方、定期航空の輸
送量が減少する傾向がある。しかし、この変化はなかなか起こらない。逆
に 、 定 期 航 空 は ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し て 、 φ ( φ 1) を 向 上 さ せ る こ と が で
きる。定期航空は指定されている路線のフライト密度を拡大すると、サー
ビ ス の 差 が 明 白 に な り 、不 定 期 は 輸 送 量 が 逓 減 す る 。3 社 の 競 争 の 場 合 で も 、
定期航空は指定されている路線のフライト密度を拡大すると、不定期航空
と新規航空は両方とも輸送量が逓減する。
以上の結果を見て分かるように、不定期航空と新規航空(例えば、低コスト
航空)の市場参入は、市場の総輸送量を拡大して、市場の各航空会社の運賃を
減 少 さ せ る 作 用 が あ る 。そ れ ぞ れ の 航 空 会 社 の 利 潤 が 減 少 す る か も し れ な い が 、
消費者の利益は相当に増加する。不定期航空と新規航空の市場参入が社会福祉
の拡大に貢献すると言えるだろう。
理論の上はこの結論を出すことができたが、実際の競争はどうだろうか。次
に、日本の市場を考察してみる。
5.5. 日 本 に お け る 不 定 期 航 空 の 影 響
日本の航空輸送市場においては、チャーター便を運航してきている航空会社
が何社かあるが、ほとんど定期航空会社であり、不定期航空会社として設立さ
れ た 航 空 会 社 は 少 な い 。こ の 中 で 、営 業 歴 史 が か な り 長 い 会 社 は JALWAY 航 空
82
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
会 社 で あ る 。 こ こ で 、 JALWAY の 市 場 参 入 に よ る 影 響 を 分 析 す る 。
JALWAY 会 社 が 市 場 に 参 入 し た 後 、新 入 会 社 も 市 場 に 参 入 し 、そ の 上 、外 国
の 会 社 も 市 場 に 参 入 し て き て い る の で 、JALWAY だ け の 影 響 を 分 析 す る の は か
な り 難 し い 。従 っ て 、1992 年 か ら の 影 響 を 検 討 し て み る 。こ の 影 響 に は JALWAY
が大きく関わっている。
表 5- 3
JAL の 国 際 線 の 実 績 に 影 響 を 与 え る 要 因
被説明変数
( OLS 法 )
LOG_PS
LOG_PSKL
LOG_PRICE
-0.048342 * *
-0.053187 * *
-0.057850 *
(-3.72477)
(-4.6521)
(-2.242153)
1.011483 * *
1.088583 * *
-
(10.52685)
(12.86087)
-0.004072
-0.052343 *
(-0.181919)
(-2.654575)
0.369248 *
0.155753
-0.397026 * *
(2.293039)
(1.097995)
(-2.906078)
-3.001616 * *
-1.617279 * *
5.742910 * *
(-9.030115)
(-5.523218)
(7.803909)
-
-
0.640680 * *
説明変数
CHARTER_DUMMY
LOG_PS_I_ASK
LOG_OC
LOG_GDP
C
PI
-
(2.961075)
AR(1)
-
-
0.461869 *
(2.292707)
Observations
31
31
30
R-squared
0.994370
0.9995418
0.921523
0.993504
0.994713
0.908966
1.522235
1.524386
2.005563
Adjusted R
2
Durbin-Watson
stat
83
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
CHARTER_DUMMY: JALWAY の 影 響
LOG_PSKL: JAL の国際線の有償旅客キロ
が あ る 1992 年 か ら の DUMMY 変 数
LOG_PRICE: JAL の国際線の旅客一人当たり平
LOG_GDP:
均運賃
LOG_OC:
日 本 の 実 質 GDP の 対 数
世界の石油価格の対数
LOG_PS_I_JAP: 日 本 の 航 空 会 社 が
LOG_PS_I_ASK: JAL の国際線の
運んだ国際有償旅客の対数
有効座席キロの対数
LOG_PS:
JAL の 国 際 線 の
表 5- 4
日本の総平均国内企業物価指数
の対数
有償旅客の対数
AR(1):
PI:
**
( )は 有 意 水 準 0.01 で あ る 。
( * )は 有 意 水 準 0.05 で あ る 。
1 階自己回帰モデル
JAL の 国 際 線 の 平 均 運 賃 が 日 本 の 国 際 線 の 旅 客 に 与 え る 影 響
Dependent Variable: LOG_PS_I_JAP
Method: Least Squares
Sample (adjusted): 1984 2005
Included observations: 22 after adjustments
Convergence achieved after 14 iterations
Variable
Coefficient
Std. Error
t-Statistic
Prob.
LOG_GDP
1.720156
0.126660
13.58085
0.0000
LOG_OC
0.059701
0.067393
0.885859
0.3874
LOG_PRICE
-0.568850
0.150229
-3.786560
0.0014
AR(1)
0.563098
0.199498
2.822579
0.0113
R-squared
0.957741
Adjusted R-squared
0.950698
Durbin-Watson stat
2.024224
LOG_PS_I_JAP: 日 本 の 航 空 会 社 が 運 ん だ 国 際 有 償 旅 客 の 対 数
AR(1):
1 階自己回帰モデル
LOG_GDP:
LOG_PRICE:
日 本 の 実 質 GDP の 対 数
JAL の 国 際 線 の 旅 客 一 人 当 た り 平 均 運 賃 の 対 数
LOG_OC: 世 界 の 石 油 価 格 の 対 数
84
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
『 航 空 経 済 学 』( 村 上 英 樹
他 、 2006) に よ る と 、 ア メ リ カ の 航 空 市 場 で は 、
1 日から 4 半期という短い競争期間では、運賃を戦略変数とするベルトラン型
の競争が行われている可能性がある。また、1 年というスパンで見れば、クー
ルノー競争が行われるとされる。日本の市場では、1 年スパンのデータを分析
するので、クールノー競争が行われると仮定して、分析する。
ま ず 、定 期 航 空 会 社 へ の 影 響 を 検 討 す る 。5.4.節 で 分 析 し た 結 果 に よ り 、不
定期航空・チャーターが市場に参入してきたら、チャーターの低い費用は既存
の定期航空の輸送量と運賃にマイナスの影響を与えるので、定期航空の輸送量
と 運 賃 が 逓 減 す る 傾 向 が あ る 。分 析 す る デ ー タ は 日 本 航 空 JAL の 国 際 線 の 有 償
旅客(人)、有償旅客キロと、旅客一人当たりの平均運賃であり、分析範囲は
1975 年 か ら 2005 年 ま で で あ る 。 説 明 変 数 に つ い て は 、 第 4 章 で 説 明 し た よ う
に 、 日 本 航 空 JAL の 国 際 線 の 輸 送 能 力 を 表 す 有 効 座 席 キ ロ 、 所 得 を 表 す 実 質
GDP、 費 用 や 運 賃 へ 影 響 を 与 え る 世 界 の 石 油 価 格 を 説 明 変 数 と し て 使 う 。 説 明
変 数 の 中 に は 、チ ャ ー タ ー の 影 響 を 表 す CHARTER_DUMMY 変 数 が あ る 。つ ま
り 、1975 年 か ら 1991 年 ま で は CHARTER_DUMMY= 0 で あ り 、1992 年 か ら 2005
年 ま で は CHARTER_DUMMY= 1 で あ る 。 第 4 章 の 実 証 分 析 と 同 じ よ う に 、 分
析 す る 方 法 は 時 系 列 デ ー タ を 使 っ て 、 OLS 法 で 回 帰 分 析 を す る 。 そ し て 、 「系
列 相 関 」が 存 在 す る 場 合 に 、「系 列 相 関 」の 影 響 を 除 く た め に 、1 階 自 己 回 帰 モ デ
ルを使う。
影 響 を 分 析 し た 結 果 は 表 5-3 の と お り で あ る 。 JAL の 国 際 線 の 有 償 旅 客 キ ロ
に 影 響 を 与 え る 要 因 は CHARTER_DUMMY、 JAL の 有 効 座 席 キ ロ 、 石 油 の 価 格
で あ り 、 JAL の 国 際 線 の 有 償 旅 客 に 影 響 を 与 え る 要 因 は CHARTER_DUMMY、
JAL の 有 効 座 席 キ ロ と 日 本 の 実 質 GDP で あ る 。CHARTER_DUMMY の 係 数 は そ
れ ぞ れ -0.053187 と -0.048342 で 、 ど ち ら も 負 で あ る 。 つ ま り 、 1992 年 か ら JAL
の国際線の有償旅客キロと有償旅客がマイナスの影響を受け、減少する傾向が
あることが判断できる。
JAL の 国 際 線 の 旅 客 一 人 当 た り の 平 均 運 賃 へ 影 響 を 与 え る 要 因 は 、実 質 GDP、
CHARTER_DUMMY の 他 に 、 日 本 の 総 平 均 国 内 企 業 物 価 指 数 が あ る 。
CHARTER_DUMMY の 係 数 は -0.057850 で 、負 で あ る 。つ ま り 、1992 年 か ら JAL
の国際線の旅客一人当たり平均運賃は逓減する傾向があることが判断できる。
要 す る に 、 実 証 分 析 の 結 果 に よ っ て は 、 JALWAY が 市 場 に 参 入 し た 後 、 JAL
の国際線の輸送量と平均運賃が減少する傾向がある。
次に、日本の国際線の輸送量への影響を検討する。分析するデータは日本の
航 空 会 社 に よ る 国 際 線 の 輸 送 旅 客 の 時 系 列 デ ー タ で あ り 、 範 囲 は 1983 年 か ら
2005 年 ま で で あ る 。 太 田 ( 1981) や 増 井 ・ 山 内 の 研 究
7)
によると、日本の航
85
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
空 輸 送 量 に 影 響 を 与 え る 要 因 は 実 質 GDP と 代 表 航 空 会 社 の 運 賃 で あ る 。し た が
っ て 、日 本 の 国 際 線 の 輸 送 旅 客 へ 影 響 を 与 え る 要 因 に は 、実 質 GDP と 国 際 線 に
おける代表航空会社の運賃がある。
被説明変数は日本の航空会社による国際線の有償旅客であり、説明変数は日
本 の 実 質 GDP、代 表 的 な 航 空 会 社( JAL)の 国 際 線 の 旅 客 一 人 当 た り 平 均 運 賃 、
世界の石油価格である。時系列データの系列相関を除くために、1 階自己回帰
モ デ ル で 分 析 す る 。 分 析 し た 結 果 は 表 5-4 の と お り で あ る 。
表 5-4 を 見 て 分 か る よ う に 、 LOG_PRICE( JAL の 国 際 線 の 旅 客 一 人 当 た り 平
均 運 賃 の 対 数 )の 係 数 は -0.568850 で あ る か ら 、JAL の 国 際 線 の 平 均 運 賃 は 日 本
の国際線の有償旅客にマイナスの影響を与えるということが判断できる。表 5
- 3 に つ い て の 分 析 に よ っ て は 、 チ ャ ー タ ー の 市 場 参 入 は JAL の 国 際 線 の 平 均
運 賃 に マ イ ナ ス の 影 響 を 与 え た こ と が 証 明 で き た 。両 方 の 結 果 を 合 わ せ て 、1992
年から日本の航空会社による国際線の有償旅客はプラスの影響を受けたという
ことになる。つまり、チャーターが市場に参入した後、市場の輸送量が増大す
る傾向がある。実証分析による結論は理論の結論と一致した。
5.6. 結 論
クールノー競争モデルとベルトラン競争モデルを立てて、次の結論を出す。

不定期航空と低コスト新規航空の市場参入は、既存の定期航空にマイナス
の影響を与える。つまり、運賃が安くなる可能性がある。

そして、市場の総輸送量にプラスの影響を与える。消費者はより安い運賃
で様々なタイプの航空会社のサービスが利用できるようになる。消費選択
肢が拡大されると言えるだろう。

定期航空はもし、低コスト航空の市場参入を阻止する意思がある場合、自
分の費用を削減して、運航密度を拡大する。その結果、運賃が安くなり、
輸送量が多くなる。そして、消費者が有利になる。
要するに、不定期航空と低コスト新規航空の市場参入は、消費者の利益を
拡大して社会福祉に貢献すると結論づけられる。
この理論の実証分析は日本の航空輸送業のデータを利用して行った。チャー
ターの影響がはっきり見られないが、チャーターが市場参入した後の期間と以
前の期間の違いが明白に分かった。チャーターが参入した後、定期航空の運賃
と 輸 送 量 は マ イ ナ ス の 変 化 が 生 じ た が 、市 場 の 輸 送 量 は 積 極 的 な 変 化 が 生 じ た 。
ベトナムの航空輸送実態と仮説証明結果を見て分かるように、航空輸送市場
の自由化によるチャーターと低コスト航空の市場参入は運賃を下げ、市場の輸
送量を増加する作用がある。貧しいベトナムの国民にとって航空という交通手
86
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 5 章 ベトナムの航空輸送の自由化
段はまだ贅沢なものである。低コスト航空の市場参入は普通の人々にも航空サ
ービスを利用できるようになる。そして、航空サービスだけでなく、チャータ
ーによる包括旅行も楽しむことができる。
(注)
1) 5.1 を 書 く た め に 、 次 の 資 料 を 参 考 し た 。
* ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 ( 1995)『 ベ ト ナ ム 民 間 航 空 業 の 発 展 歴 史 』、 国 家 政 治
出版社;
ベ ト ナ ム 語 : ”Hàng không dân dụng Việt Nam, những chặng đường lịch sử”
* ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 ( 2005)『 ベ ト ナ ム 航 空 業 の 50 年 』、 人 民 軍 隊 出 版 社
ベ ト ナ ム 語 : ”50 năm Hàng không dân dụng Việt Nam, Biên Niên sự kiện”
2) ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 が 政 府 へ 提 出 す る 2005 年 の 報 告 書
ベ ト ナ ム 語 : ”Báo cáo thực trạng hàng không dân dụng giai đoạn 1995-2005”
3) 太 田
正 樹 ( 1981)、 第 6 章 ; 増 井 ・ 山 内 ( 1994)、 Ⅳ ; ド ガ ニ ス ( 1995)
第 2章
4) ジ ャ パ ン エ ア チ ャ ー タ ー 株 式 会 社 の ホ ー ム ペ ー ジ を 参 考 し た 。
5) エ ア ・ ジ ャ パ ン の ホ ー ム ペ ー ジ を 参 考 し た 。
6) 5.4.4 を 書 く た め に 、 次 の 文 献 を 参 考 し た 。
*太田
博 史 ( 2002)
* 村 上 英 樹 、 加 藤 一 誠 、 高 橋 望 、 榊 原 や す お ( 2006)
* 『 運 輸 と 経 済 』 第 65 巻 第 5 号 、 53- 61 ペ ー ジ
* 航 空 交 通 研 究 会 ( 2002)『 航 空 と 空 港 の 経 済 学 』 P149~ P155
*奥野
正寛、篠原
総一、金本
良 嗣 ( 1991)、 第 4 章
7) 増 井 ・ 山 内 ( 1994)、 P83
87
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
第 6 章.ベトナムにおける空港の発展
6.1. 空 港 と は
空 港 と は 、飛 行 機 の 離 着 陸 で き る 航 空 輸 送 の た め の 飛 行 場 で あ る 。空 港 で は 、
乗 客 と 貨 物 は 積 み 下 ろ し さ れ る か ら 、積 み 下 ろ し の た め の 設 備 が 備 わ っ て お り 、
それに、飛行機・空港利用者の安全確保に関する施設やサービスも含まれる。
空港には、滑走路、誘導路、駐機所、格納庫、着陸誘導施設、給油施設など
が設けられているが、飛行場の離着陸処理能力は滑走路の長さ(延長)と幅員
で 表 現 さ れ る 。日 本 で 最 長 の 滑 走 路 は 成 田 国 際 空 港 の 4000m で あ り 、幅 員 は 60m
で あ る 。 関 西 国 際 空 港 は 2007 年 に 4000m の 滑 走 路 の 供 用 を 開 始 し 、 中 部 国 際
空 港 も 4000m の 滑 走 路 の 建 設 を 行 っ て い る
1)
。
飛行機が空港を利用する際に、空港料金を払わなければならない。この料金
は基本的に着陸料、旅客量、駐機量がある。着陸料は一般的に最大離陸重量や
最大認可重量など、飛行機の重量に基づいて計算される。この料金には、着陸
施設(滑走路や誘導路など)に加えて、航空交通官制施設や一定期間内の駐機
( 一 般 的 に は 2 時 間 ~ 6 時 間 )、到 着 旅 客 の タ ー ミ ナ ル 利 用 、及 び 出 発 時 の 離 陸
施設に対する料金も含まれる。また、空港によって、飛行機の騒音のレベルや
フライトの距離や夜間発着などに関連する追加料金も含まれる場合もある。旅
客の料金はターミナルで多くの時間を費やす出発旅客に対して果される。この
料 金 は 、空 港 に よ っ て は 、旅 客 が 搭 乗 す る 前 に 空 港 に 直 接 支 払 う か 、あ る い は 、
航空会社を通じて支払う。駐機料金は着陸料金に含まれる期間を超える場合に
果される。この料金には駐機スタンドや誘導路のランプなどの料金もある。駐
機料金は場所によって異なる。ターミナルに近いほど高い。
1960 年 代 、1970 年 代 ま で 一 つ の 大 都 会 に 一 つ の 空 港 が あ る の は 普 通 で あ っ た 。
航空輸送サービスに対する急速な需要増加は、一つの空港の容量(航空交通施
設、滑走路、ターミナル)を超えるので、新しい滑走路・ターミナルの建設や
新しい空港の建設が進められた。発展した国の大都会においては、ほとんど新
しい空港が建設された。例えば、日本では東京の成田国際空港及び、大阪の関
西国際空港が開港された。その結果、東京には東京国際空港(羽田空港)と成
田 国 際 空 港 が あ り 、大 阪 に は 大 阪 国 際 空 港( 伊 丹 空 港 )と 関 西 国 際 空 港 が あ る 。
韓 国 も 2001 年 に ソ ウ ル の 近 く に あ る イ ン チ ョ ン 国 際 空 港 を 開 港 し 、首 都 圏 に は
キムポ国際空港とインチョン国際空港がある。タイの場合、バンコクは東南ア
ジアの中心の位置にあるので、ドンムアン国際空港は東南アジアへのハブ空港
と し て 発 展 し て き た 。し か し 、ド ン ム ア ン 空 港 は 狭 い の で 、2006 年 に 新 し い ス
ワンナプーム国際空港が開港され、この空港はアジア最大の空港になった。こ
88
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
の事実を見て分かるように、増大する需要に対応するために、アジア諸国の大
都会では 2 番目の空港を建設する傾向がある
2)
。
新しく建設された空港はほとんど近代的な空港である。従って、投資資金は
巨大な金額である。資本の余裕がない国にとって、このような投資金額の調達
は難しい。しかし、航空輸送の需要増加は空港に容量拡大の圧力を掛ける。特
に、低コスト航空輸送が発展してきているので、低い料金で利用できる空港に
対する需要が高まっている。従って、新しい空港を建設する代わりに、既存の
小さい空港を改造して、活用する方法も考えられている。ダラス・ラブ・フィ
ー ル ド 空 港( Dallas Love Field Airport)と サ ウ ス ウ エ ス ト 航 空( Southwest Airlines)
の成功はその典型的な例である。
6.2. ダ ラ ス ・ ラ ブ ・ フ ィ ー ル ド 空 港 と サ ウ ス ウ エ ス ト 航 空
3)
ダ ラ ス ・ ラ ブ ・ フ ィ ー ル ド 空 港 は テ キ サ ス 州 ダ ラ ス 市 の 空 港 で 、 1917 年
に 開 港 さ れ 、 1927 年 に 民 用 空 港 と し て 使 用 さ れ た 。 1936 年 に ブ ラ ニ フ 航 空
は 本 部 を ダ ラ ス ・ ラ ブ ・ フ ィ ー ル ド に 設 立 し た 。 1958 年 に こ の 空 港 を 利 用
す る 航 空 会 社 は ア メ リ カ ン 、ブ ラ ニ フ 、コ ン チ ネ ン タ ル 、デ ル タ と ト ラ ン ・
テ キ サ ス ( テ キ サ ス 国 際 の 前 身 ) で あ っ た 。 1960 年 代 の 後 半 、 ダ ル ス ・ フ
ォ ー ト ワ ー ス 国 際 空 港 ( Dallas- Fort Worth International Airport) が 提 案 さ れ
た時、 ラブ・フィールドを利用している航空会社は、新しい空港を使って
運 航 し た 場 合 に は 、ラ ブ・フ ィ ー ル ド を 使 っ て 運 航 し な い と い う 同 意 書 に サ
イ ン し た 。 し た が っ て ダ ル ス ・ フ ォ ー ト ワ ー ス 国 際 空 港 が 完 成 さ れ た 1974
年 に 、上 記 の 航 空 会 社 は 拠 点 を 新 し い 空 港 に 移 転 し た 。ダ ル ス・フ ォ ー ト ワ
ー ス 国 際 空 港 は 第 1 空 港( プ ラ イ マ リ ー ・ エ ア ポ ー ト )に な り 、ダ ラ ス ・ ラ
ブ・フィールドは第 2 空港(セカンダリー・エアポート)になった。
ダ ラ ス ・ ラ ブ ・ フ ィ ー ル ド は 一 番 長 い 滑 走 路 が 2682m で 、 ダ ル ス ・ フ ォ
ー ト ワ ー ス 国 際 空 港 の 滑 走 路 は 4084m で あ る 。 ダ ラ ス ・ ラ ブ ・ フ ィ ー ル ド
は ダ ル ス・フ ォ ー ト ワ ー ス 国 際 空 港 よ り 規 模 は 小 さ い が 、ダ ラ ス 市 内 に よ り
近 い 。 ダ ル ス ・ フ ォ ー ト ワ ー ス 国 際 空 港 は ダ ラ ス 市 か ら 35 キ ロ 離 れ た 地 点
に あ る が 、 ダ ラ ス ・ ラ ブ ・ フ ィ ー ル ド は ダ ラ ス 市 内 か ら 10 キ ロ ほ ど の 距 離
に あ る 。ダ ラ ス・ラ ブ・フ ィ ー ル ド の こ の 利 点 を 生 か し 、成 功 で き た 航 空 会
社はサウスウエスト航空である。
サ ウ ス ウ エ ス ト は 米 国 の 航 空 会 社 の 中 で 非 常 に ユ ニ ー ク で あ る 。 こ の 30
年 間 で 継 続 し て 利 益 を 上 げ て い る 唯 一 の 企 業 で あ る 。し か し な が ら 、サ ウ ス
ウ エ ス ト の 始 ま り は 不 運 な も の で あ っ た 。 1967 年 に 設 立 さ れ た が 、 新 規 企
業 を 支 え る ほ ど 十 分 な 需 要 が な い 、と 主 張 す る 地 元 の 競 争 相 手 と の 法 廷 闘 争
の た め 、4 年 後 ま で 飛 ぶ こ と が で き ず 、1971 年 に よ う や く 正 式 に 事 業 を 開 始
89
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
し た 。サ ウ ス ウ エ ス ト が 事 業 を 開 始 し た 後 す ぐ に 、ブ ラ ニ フ と テ キ サ ス 国 際
がサウスウエストをテキサス市場から撤退させるために運賃競争をしかけ
て き た 。サ ウ ス ウ エ ス ト は そ れ に 対 抗 し て 、一 時 期 、ダ ラ ス ~ ヒ ュ ー ス ト ン
の 運 賃 を 13 ド ル ま で 下 げ た 。 結 果 と し て 、 サ ウ ス ウ エ ス ト は 生 き 残 り 、 他
の 2 社は破たんした
1)
。1974 年 に 、ダ ル ス・フ ォ ー ト ワ ー ス 国 際 空 港 が 開 港
さ れ た 後 、他 の 航 空 会 社 が 同 意 書 通 り に 新 し い 空 港 に 営 業 を 移 転 し た が 、サ
ウスウエスト航空はこの同意書の後に誕生したので、同意書の内容はサウスウ
エスト航空に対して無効であった。したがって、サウスウエスト航空はダラ
ス・ラブ・フィールドに残ることができた。
1978 年 に 米 国 国 内 航 空 規 制 緩 和 が 行 わ れ た と き 、 サ ウ ス ウ エ ス ト は テ キ
サ ス 州 を 越 え て 、 事 業 を 拡 大 す る こ と が で き る よ う に な っ た 。 1980 年 代 、
新 規 企 業 の 多 く が 過 剰 な 事 業 拡 大 を 実 施 し て 、悲 惨 な 状 態 に 陥 っ た が 、サ ウ
ス ウ エ ス ト は 非 常 に 慎 重 に 対 処 し た 。 保 有 機 材 を 50 機 に 増 や す ま で に 12
年 間 を 費 や し た 。 1993 年 7 月 に お い て 、 サ ウ ス ウ エ ス ト が 参 入 し て い る 上
位 の 100 路 線 の う ち 93 路 線 に お い て 第 1 位 の 航 空 会 社 と な っ た 。
サ ウ ス ウ エ ス ト の 財 務 上 の 成 功 は 、一 貫 し て 収 入 よ り 十 分 低 い コ ス ト で 経
営 で き た 能 力 に よ る 。サ ウ ス ウ エ ス ト の 素 晴 ら し い 業 績 は 主 要 な 競 争 相 手 よ
り 25~ 40% 低 い 費 用 水 準 で 運 航 し て き た こ と で あ る 。 そ し て 、 ダ ラ ス ・ ラ
ブ・フ ィ ー ル ド を 拠 点 と し て 利 用 す る こ と に よ り 、大 型 航 空 会 社 の ハ ブ を 避
け る こ と が で き 、大 型 航 空 会 社 と の 直 接 的 な 競 争 が 避 け ら れ た 。ダ ル ス・フ
ォ ー ト ワ ー ス 国 際 空 港 が 大 型 航 空 会 社 の ハ ブ に な っ て( 例 え ば 、ア メ リ カ ン
航 空 、 デ ル タ 航 空 、 ア メ リ カ ン ・ イ ー グ ル な ど )、 空 港 に お け る 競 争 が 激 し
くなっていく中で、サウスウエスト航空はダラス・ラブ・フィールドでゆっ
くり且つしっかりと運航事業を発展してきた。サウスウエスト航空は運賃が
低く、市内から近いので、便利である。それにこの会社は「飛行機に乗ること
は 楽 し い 」と い う ブ ラ ン ド イ メ ー ジ を 構 築 し 、そ の た め の 社 員 教 育 を 実 施 し た 。
以上のような戦略でサウスウエストはその事業経営に成功した
4)
。
要するに、サウスウエスト航空の成功に貢献する要素の中で、適切な空港の
選択が非常に重要な要素であると思われる。新規航空会社は市場参入した後、
既存の航空会社と競争するのは当然であるが、直接的な競争が避けられること
により生き残る可能性が高い。大都会における第 2 空港(セカンダリー空港)
の開発は第 1 空港における激しい競争を緩めると同時に、新規の市場参入を促
進することができるだろう。
90
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
6.3. セ カ ン ダ リ ー 空 港 の 役 割
セカンダリー空港という概念は複数空港システムという概念と関係がある。
複数空港システムは都市ではなく、都市圏という地域全体のすべての空港に構
成されるものである。このシステムの中心は国内航空ネットワークの基幹空港
や長距離国際線のゲートウエー航空などであるが、これらの空港を補完するの
はセカンダリー空港である。空港システムが形成される最大の理由は航空輸送
の需要が増大することである。需要が基幹空港の能力を超えた時、補完するセ
カンダリー空港が必要になる。あるいは、需要の増大に対応するために新しく
て近代的な空港が建設され、古い空港はセカンダリー空港になる
5)
。
セカンダリー空港は次の役割がある。

大型航空会社のネットワークでいっぱいになる基幹空港には新規の参入機
会は難しい。セカンダリー空港は、航空輸送需要が増大した大都市圏で航
空市場に参入しようとする低コスト航空会社に参入機会と成長促進の場を
提供している。

セカンダリー空港は、航空ネットワークを再編する役割がある。以前、地
域の航空ネットワークの中心は基幹空港と大型航空会社であったが、セカ
ンダリー空港における航空輸送はこのネットワークに影響を与える。大型
航空会社はネットワークをもっと合理的に調節しなければならないことに
なる。そして、基幹空港にかかる需要の圧力も緩む。

もし、セカンダリー空港が基幹空港よりいい位置に置かれ、交通アクセス
が便利になると、この空港からの航空サービスは乗客に新しい価値をもた
らす。この効果は低コスト航空に非常に有意義である。
セカンダリー空港は増大した航空輸送需要を満すために開発されたが、それ
だけでなく、セカンダリー空港は大都市圏の航空市場を安定させ、基幹空港の
圧力を緩めて、新規の市場参入を促進する役割も果している。
6.4. 空 港 に お け る 航 空 会 社 間 競 争 ( ネ ッ ト ワ ー ク 航 空 と 低 コ ス ト 航 空 )
交通経済学に関して研究するのに、立地競争の議論は非常に重要であると考
えられている。空間立地競争について研究した有名な論文はホテリングによっ
て 1929 年 に 書 か れ た 。 ホ テ リ ン グ は 同 じ 価 格 の 2 企 業 の 立 地 均 衡 を 検 討 し た 。
結果として、両企業の初期立地点間の中点立地というのがホテリング理論の一
般的な均衡解である。
交通経済学におけるホテリングの問題の応用は消費者との距離に応じた交通
費 を 考 慮 し て 立 地 に 関 す る 競 争 を 議 論 し た 時 で あ る( 土 井・坂 本 、2002;神 頭 、
2001)。こ れ ら の 理 論 に よ っ て は 、両 社 は 立 地 が 固 定 さ れ 、価 格 も 固 定 さ れ た と
いう基準に基づく。その固定基準の下で両社のマーケット・シェアや利潤など
91
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
がどうなるかを検討した。ホテリングの問題を応用して航空会社間の運賃競争
に つ い て の 研 究 も あ っ た( 菅 野 、2006)。
「 立 地 」は 飛 行 機 の 出 発 時 刻 、
「交通費」
は旅客の飛行機の待ち時間の機会費用になる。この費用の中に、空港までのア
クセスの料金や、その便に搭乗できるようにした費用などが含まれている。
以上から、この節では、航空会社 2 社の直接的な競争(同じ空港における競
争)と間接的な競争(違う空港における競争)について考察することを目的と
す る 。航 空 会 社 2 社 は ネ ッ ト ワ ー ク 航 空 A 社 と 低 コ ス ト 航 空 B 社 で あ る 。考 察
範囲は B 社の便が入っている A 社の連続 2 便間の時間帯である。
6.4.1. 直 接 的 な 競 争
図 6-1
両社の同じ空港における競争
H
費用
消費者の費用減少
N
K
M
E
Pa
Pb
I
A 社の利潤
B 社の利潤
Ca
Cb
A 社の
出発時刻
B 社の
A 社の出発時刻
出発時刻
A 社のシェア
B 社のシェア
A 社のシェア
消 費 者( 旅 客 )は A 社 だ け 運 営 し た 時 、P a と い う 運 賃 で 航 空 サ ー ビ ス を 利 用
していた。運賃の他に、出発時刻までの機会費用を払わなければならない。機
会費用は旅客の望む出発時刻と航空会社の出発時刻との関係及び空港までの交
通 費 ・ 交 通 時 間 を 表 す 。 こ の 機 会 費 用 は MHE 面 積 で 示 さ れ て い る 。
B 社が低運賃で市場に参入すると、機会費用が減少して、減少した程度は
92
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
NHKE 面 積 で 示 さ れ る 。 第 5 章 で 分 析 し た よ う に 、 B 社 が 市 場 参 入 し た 後 、 消
費者は有利になり、低い運賃で航空サービスが利用できるようになる結果があ
る 。 図 6-1 は 低 運 賃 だ け で な く 、 機 会 費 用 も 安 く な る こ と を 示 し て い る 。
B 社 が 市 場 に 参 入 し た 結 果 、A 社 の シ ェ ア が 小 さ く な り 、利 潤 も 少 な く な る 。
A 社はどのようにしてシェアをもっと獲得するかを第 5 章で詳しく分析した。
6.4.2. 間 接 的 な 競 争
図 6-2
両社の違う空港における競争
費用
消費者の費用減少
N’
N
K
M
K’
E
Pa
Pb
I
A 社の利潤
B 社の利潤
Ca
Cb
A 社の
出発時刻
B 社の
A 社の出発時刻
出発時刻
A 社のシェア
B 社のシェア
A 社のシェア
以 上 は A 社 と B 社 は 同 じ 空 港 で 競 争 す る 場 合 で あ る 。A 社 は ネ ッ ト ワ ー ク 航
空で、B 社より規模が大きいため、規模経済性を生かすと、コスト削減でき、
ネットワークを利用して、B 社を市場から追い出すこともできる。既存の航空
会 社 の 規 模 経 済 性 は 新 規 に と っ て 不 利 な 点 で あ る 。B 社 は A 社 と 直 接 的 な 競 争
が 避 け ら れ る と す る と 、生 き 残 る 可 能 性 が 高 い 。B 社 が A 社 の 空 港 よ り 小 規 模
で 都 市 に 近 い 空 港 で 出 発 す る 場 合 を 検 討 し て み る 。B 社 は 低 コ ス ト 航 空 で あ り 、
あまり大きな飛行機を使わず、小規模空港を利用すると仮定する。しかしなが
ら、小規模で都市に遠い空港である場合、競争に勝てない。従って、B 社が利
用する空港はより小規模で都市に近い空港であると仮定する。空港までの交通
93
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
費がより低いから、旅客の機会費用が安くなる。
消 費 者 の 費 用 の 減 少 は NN’I 面 積 と KK’I 面 積 で あ る 。B 社 の 利 潤 は 拡 大 し た
一方、A 社の利潤が縮小した。A 社と直接的に競争しないから、B 社にかける
圧力が緩む。もちろん、小型飛行機と小規模空港を利用すると、遠距離の飛行
ができない上、提供されるサービスもあまり整っていないということはデメリ
ットである。しかし、B 社の旅客は低コストを理由に、このデメリットを了承
し て 認 め る に 違 い な い 。2 節 で 説 明 し た よ う に 、サ ウ ス ウ エ ス ト 航 空 は ダ ラ ス ・
ラブ・フィールドを利用した結果、競争で生き残り、成功した。
6.5. ピ ー ク 時 の 空 港
空港は規模に制限があり、旅客と貨物の量が増加していくにつれて、空港は
混 雑 状 態 に な る 。航 空 輸 送 サ ー ビ ス の 需 要 の 急 増 が 空 港 の タ ー ミ ナ ル 、滑 走 路 、
設備の容量を超えてしまい、空港では激しい混雑が起こっている。そして、混
雑による時間浪費やサービス品質の悪化などといった社会費用が発生してくる。
この混雑状態は航空輸送の需要の増加によって発生するものであるので、1日
の中で、需要が高い時間帯は混雑になるが、その時間帯以外は混雑ではないと
いう状態になる。需要が高い時間帯はピーク時と呼ばれる。空港は空港利用価
格を設定する時、ピーク時の費用を考慮して決めている。
空港がピーク時になると、運営費用は、保安、清掃、インフォメーションデ
スク・アナウンサなどのための従業員の増加につれて増大する。その上、照明
や冷房・暖房のための光熱費も増大する。従って、飛行機に対するピーク時の
利用料金がオフピークの料金より高くなる
5)
。
ピーク時の料金を設定するには 2 つの方法がある。第1はピーク時間帯以内
に発着する飛行機に対して、基本利用料金(オフピーク)にピーク時の追加料
金を加える方法である。この追加部分は常にオフピークの料金の一定の比率で
決 め ら れ る 。例 え ば 、Noi Bai 国 際 空 港 の 場 合 、ピ ー ク 時 の 追 加 料 金 は 基 本 料 金
の 20% ~ 30% で あ る 。第 2 は 長 期 的 な 展 望 を 考 え て 、将 来 に 空 港 の 設 備( 滑 走
路、駐車所、ターミナルなど)を拡大・再建設する費用を空港利用料金の中に
含める方法である。この方法を応用していた空港はロンドンの 3 つの空港であ
る ( ド ガ ニ ス 、 1994)。
しかし、どんな方法を使っても、空港が混雑になった時、航空会社はピーク
時の費用を負担する。この費用は航空会社にとって、費用削減を妨げるもので
あり、消費者にとって、運賃を高くするものである。空港の混雑費用を減少さ
せるために、方法が 2 つある。第 1 は既存空港を拡張する、あるいは新空港を
建設するすることによって、空港の容量を拡大する事である。この方法は確か
に混雑状態を解決できるが、拡張・建設は環境に対する影響評価や住民合意が
94
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
必要になる上に、時間と費用がかなりかかる。拡張・建設の後、空港を効果的
に運営しないと、また混雑状態に陥ってしまう可能性が高い。第 2 は空港施設
利用に対する需要を管理して、より効率的・公平的な資源分配を行うことであ
る。空港はピーク時以外ではそれほど混雑していないので、発着スケジュール
をもう一度整理して、ピーク時の混雑が解決できると同時に、オフピークの時
でも施設・設備をより効率的に活躍させることもできる。この方法は物理的に
ピークを解決することだけでなく、空港施設の管理・運営の効果も上がる。特
に、同じ地域にもう一つの空港が既存する場合、この空港の設備を生かして、
需要を効率的に分配することは両方の空港を均等に発展させる。
6.6. 日 本 の 空 港 状 態
日 本 は 平 成 17 年 12 月 末 ま で 全 国 で 96 の 空 港 が あ る 。 各 都 道 府 県 に は ほ と
んどそれぞれ空港がある。空港の数は多いが、日本の空港は先進国の空港と比
べると、規模が小さいと言われている。その上、日本の国際空港の着陸料は世
界でもっとも高いということである。しかし、空港の分布の密度が高いので、
利 用 者 に と っ て 便 利 で あ る 。2005 年 度 の デ ー タ ー に よ る と 、年 間 100 万 人 以 上
の 乗 降 客 が あ る 空 港 は 29 の 空 港 で あ っ た 。国 内 線 で 乗 降 客 が 一 番 多 い の 空 港 は
東 京 国 際 空 港 ( 羽 田 空 港 ) で 、 6229 万 4265 人 で あ っ た 。 国 際 線 で は 成 田 国 際
空 港 で 、 3018 万 2471 人 で あ っ た 。
平 成 14 年 12 月 に 行 わ れ た 交 通 政 策 審 議 会 航 空 分 科 会 は 、 今 後 の 日 本 の 空 港
に つ い て 検 討 し た 。 こ の 検 討 に よ る と 、 今 後 の 首 都 圏 の 国 際 航 空 需 要 は 2012
年 度 は 旅 客 5210 万 人 、貨 物 313 万 ト ン に 上 る と い う こ と で あ る 。旅 客 は 年 平 均
5.1% 、貨 物 は 4.4% と 高 い 伸 び が 予 測 さ れ て い る 。国 内 航 空 旅 客 需 要 は 2012 年
度 は 7660 万 人 、 年 平 均 伸 び 率 は 4.2% で あ る と 、 予 測 さ れ て い る 。 関 西 圏 に お
い て は 、 国 際 航 空 需 要 は 2012 年 度 は 旅 客 2080 万 人 、 貨 物 126 万 ト ン 、 年 平 均
伸 び 率 は 旅 客 5.7% 、貨 物 4.5% で あ る と 予 測 さ れ て い る 。国 内 航 空 需 要 は 2012
年 度 は 旅 客 3140 万 人 、 年 平 均 伸 び は 2.8% で あ る と 予 測 さ れ て い る 。
航空輸送の需要はますます増加していくが、首都圏と関西圏の空港はどんな
状況となっていくのであろうか。以下では首都圏と関西圏の空港状況を調べる
6)
。
6.6.1. 首 都 圏 の 空 港
首都圏は東京都と 7 県が含まれている。現在、この地域には成田国際空港
と羽田国際空港がある。
95
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
表 6-1
乗 降 客 が 多 い 日 本 の 空 港 の ラ ン キ ン グ ( 2005 年 度 )
順位
空港
旅客合計
国内線(万人)
(万人)
国際線
(万人)
国内合計
羽田便
1
東京
6359.5441
6229.4265
130.1176
2
成田
3129.0470
110.7999
2018.2471
3
福岡
1856.0570
1638.6878
809.3383
4
大阪
1851.9027
1851.9027
647.3480
5
新千歳
1773.8000
1711.0876
911.6627
62.7124
6
関西
1642.8399
528.9063
184.4371
1113.9336
7
那覇
1366.6846
1338.7304
493.9689
27.6542
8
中部
1207.8464
702.1552
9
鹿児島
571.6534
564.6454
227.1714
7.0080
10
広島
329.1063
297.7868
234.0001
31.4035
217.3692
505.6912
出典:
「国土交通省航空局・空港管理状況調書(2005 年度)
」より
* 成田国際空港
成 田 空 港 は 1978 年 5 月 に 開 港 さ れ た 。 当 時 ( 暦 年 1978 年 ) の 飛 行 機 発 着 回
数 は 36,689 回 で あ っ た 。 2005 年 の 飛 行 機 発 着 回 数 は 188,275 回 で 、 日 本 の 第 2
位 で あ っ た 。空 港 の 面 積 は 940ha で 、1080ha ま で 拡 大 す る 計 画 が あ る 。4000m
×60m の 滑 走 路 と 2180m ×60m ( 計 画 : 2500m ×60m) の 滑 走 路 が あ る 。 誘 導
路 は 延 長 が 約 26.3 キ ロ ( 計 画 : 33.8 キ ロ ) で 、 幅 が 30m で あ る 。 エ プ ロ ン の
面 積 は 244ha( 計 画 : 260ha) で あ る 。
成 田 空 港 に 定 期 的 に 乗 り 入 れ て い る 航 空 会 社 は 39 ヶ 国 2 地 域 の 68 社 で あ る 。
成 田 空 港 と 結 ば れ る フ ラ イ ト が あ る 世 界 の 都 市 は 36 ヶ 国 2 地 域 の 97 都 市 で あ
る 。 成 田 空 港 の 1978 年 ( 暦 年 ) の 運 用 実 績 は 旅 客 数 が 4,397,447 人 で 、 貨 物 輸
送 量 が 240,154 ト ン で あ っ た 。 長 い 間 に わ た っ て 、 色 々 な 事 件 を 超 え て 、 2005
年 の 運 用 実 績 は 旅 客 が 31,290,470 人 で 、 貨 物 輸 送 量 が 2,244,021 ト ン で あ る 。
2004 年 4 月 ま で 成 田 国 際 空 港 の 名 前 は 新 東 京 国 際 空 港 で あ っ た が 、2004 年 4
月 1 日に成田国際空港株式会社法が施行され、空港を管理する新東京国際空港
公団が成田国際空港株式会社と名称を変え、民営化された。不適切だと批判さ
れた「新東京国際空港」という名称も正式に「成田国際空港」に変わった。成
田 国 際 空 港 の 民 営 化 は 3 つ の フ ェ ー ズ に 分 か れ て い る 。 第 1 フ ェ ー ズ は 2004
年 4 月までの期間で、特殊会社化準備期間である。このフェーズは空港を管理
する公団を株式会社に変える目標があった。第 2 フェーズの目標は、上場の 1
年前までに会社の資本政策や内部の管理体制などの経営体制を充実して実績を
96
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
積 み 重 ね て 、上 場 申 請 の 準 備 を 進 め て い く こ と で あ る 。証 券 取 引 所 の 基 準 で は 、
上場には会社設立後 3 年以上経過していることが条件として決められているの
で 、成 田 国 際 空 港 株 式 会 社 が 上 場 す る 時 点 は 早 く て も 2007 年 以 降 と い う こ と で
ある。フェーズⅢでは、最終的に政府の保有株がすべて放出され、一般の投資
家が株主になり、民営化の目的である完全民営化を実現する予定である
表 6-2
7)
。
成田空港運用状況
13 年 度
14 年 度
15 年 度
16 年 度
17 年 度
旅客数
国際
24,219,564
28,624,305
25,603,980
30,362,371
30,182,471
(人)
国内
671,549
1,107,372
1,099,020
1,140,521
1,107,999
合計
24,891,113
29,731,677
26,703,000
31,502,892
31,290,470
貨物輸
国際
1,603,940
2,030,149
2,149,187
2,197,555
2,236,346
送量
国内
8,289
8,576
15,312
9,586
7,675
(t)
合計
1,612,229
2,038,725
2,164,499
2,307,141
2,244,021
着陸回
国際
62,339
82,693
79,690
87,193
87,646
数
国内
2,733
6,047
6,475
6,671
6,902
(回)
合計
65,072
88,740
86,147
93,864
94,548
出 典 :「 国 土 交 通 省 航 空 局 東 京 国 際 空 港 」 よ り
*東京国際空港
東 京 国 際 空 港( 羽 田 空 港 )は 1931 年 に 東 京 の 飛 行 場 と し て 建 設 さ れ 、当 時 は
300m ×15m の 滑 走 路 が 1 本 だ け あ っ た 。1939 年 に 走 路 の 新 設 と 拡 張 が 行 わ れ 、
800m ×800m の 滑 走 路 の 2 本 が で き た 。 第 二 次 世 界 大 戦 後 、 羽 田 空 港 は 在 日 米
軍 輸 送 部 隊 の 基 地 と な っ た 。1945 年 に 米 軍 は 空 港 の 拡 大 工 事 を 行 っ て 、滑 走 路
を 2100m×45m と 1650m×45m ま で 拡 大 し た 。そ の 後 、羽 田 空 港 は 1952 年 に 日
本に大部分が返還され、名所も「東京国際空港」と改められた。現在、東京国
際 空 港 は 滑 走 路 が 3 本 あ り 、 3000m ×60m の ( A) と 2500m ×60m の ( B) と
3000m ×60m の ( C) で あ る 。
羽 田 空 港 は 現 在 、全 国 の 48 空 港 と 路 線 を 結 び 、国 内 航 空 旅 客 が 一 番 多 い 空 港
である。日本経済の回復につれて、航空輸送の需要も増大していき、羽田空港
の再拡張計画が発表された。航空輸送需要の増大に対応するために、日本の国
土交通省は「首都圏第 3 空港調査検討会」を設立して、平成 3 年度から新たな
拠点空港の可能性を中心とした基礎的検討をしてきた。平成 8 年からは海上を
中心とした新たな拠点空港を建設することを前提として、事業着手をめざし、
関係地方公共団体と連携しつつ総合的な調査検討を進めた。空港計画、空域、
立 地 環 境 、ア ク セ ス な ど に つ い て 調 査 検 討 が 進 め ら れ た 。そ の 後 、平 成 13 年 7
97
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
月には首都圏第 3 空港調査検討会において羽田空港の再拡張案が他の候補地と
比較して優位であることから、これを優先して推進することとされた。
表 6-3
東京国際空港の輸送実績
13 年 度
14 年 度
15 年 度
16 年 度
17 年 度
旅客数
国際
955,602
149,828
353,584
849,159
1,301,176
(人)
国内
58,547,983
61,809,151
61,964,962
61,636,901
62,294,265
合計
59,503,585
61,958,979
62,318,546
62,486,060
63,595,441
貨物輸
国際
24,511
994
0
0
1892
送量
国内
574,963
587,580
625,047
653,902
678,092
(t)
合計
599,474
588,574
625,047
653,902
679,984
着陸回
国際
1,762
599
1,104
2,131
3,013
数
国内
134,195
143,364
150,072
150,361
152,994
(回)
合計
135,957
143,963
151,176
152,492
156,007
出 典 :「 国 土 交 通 省 航 空 局 東 京 国 際 空 港 」 よ り
羽田空港の再拡張事業は、増大が見込まれる航空輸送需要に応えるために、
新 た に 4 本 目 の 滑 走 路 を 整 備 し 、 年 間 発 着 能 力 を 現 在 の 29.6 万 回 か ら 40.7 万
回に増強するものであり、発着容量の制限を解消し、多様な路線網を形成し、
将来の国内航空輸送需要に対応した発着枠を確保しながら国際定期便の受け入
れを可能にするものである。新たな滑走路は多摩川河口付近の海上に人口島を
造 成 し 、建 設 さ れ る こ と に な っ た 。新 設 滑 走 路 は 長 さ が 2500m 、幅 が 60m あ る 。
公 有 水 面 埋 め 立 て の 面 積 は 約 97ha で あ る
8)
。
羽 田 空 港 の 再 拡 張 計 画 は 進 め ら れ て い て 、2009 年 末 に 供 用 開 始 予 定 と い う こ
とであるが、首都圏における将来の国内・国際空港需要を考慮すると、羽田空
港 の 再 拡 張 後 も 首 都 圏 の 空 港 の 容 量 が 不 足 す る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。そ の た め 、
首都圏の第 3 空港開発についての検討が引き続き行われていくと思われる。世
界の大都会であるロンドンとワシントン・ニューヨークの空港の数(ロンドン
周辺には 5 つの空港があり、ワシントン・ニューヨーク周辺にも 5 つの空港が
ある)を見ると、やはり首都圏における第 3 空港の開発は日本の発展にとって
必要なものだと言えるだろう
9)
。
6.6.2. 関 西 圏 の 空 港
関西圏は空港が 3 つあり、関西国際空港、大阪国際空港(伊丹空港)と神戸
空港である。
*関西国際空港
関 西 国 際 空 港 は 日 本 の 最 初 の 海 上 埋 立 24 時 間 空 港 で あ る 。関 西 空 港 の 設 立 に
98
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
つ い て の 調 査 は 昭 和 43 年 か ら 始 ま っ た 。 昭 和 49 年 8 月 に 航 空 審 議 会 が 運 輸 大
臣に泉州沖の位置及び規模が最適であるということを答申した。それから、運
輸 省 は 泉 州 沖 候 補 地 に つ い て 調 査 を 行 っ た 。 昭 和 59 年 10 月 に 関 西 国 際 空 港 株
式 会 社 が 発 足 し た 。 そ し て 、 平 成 6 年 ( 1994 年 ) 9 月 4 日 に 関 西 国 際 空 港 ( 関
空 )が 開 港 さ れ た 。平 成 10 年 に 北 側 エ プ ロ ン 供 用( 4 ス ポ ッ ト )、平 成 12 年 に
南 側 エ プ ロ ン( 4 ス ポ ッ ト )、平 成 13 年 国 際 貨 物 エ プ ロ ン 供 用( 4 ス ポ ッ ト )を
開始した。
関 空 は 2000 年 ( 平 成 12 年 ) に 開 港 以 来 の 航 空 旅 客 数 が 1 億 人 を 突 破 し て 、
2001 年 に 米 国 土 木 学 会 か ら 「 モ ニ ュ メ ン ト ・ オ フ ・ ザ ・ ミ レ ニ ア ム 」を 受 賞 し
た 。 関 空 は 当 時 、 滑 走 路 が 1 本 ( 3500m×60m) で あ っ た 。 開 港 10 年 以 上 も 経
った関空は滑走路の改良が必要になった。しかし、第 2 滑走路がなければ、影
響は大きいため、全面改良工事がまだできない。幸いに、2 期限定供用部分の
工 事 が 2006 年 12 月 に 終 了 し 、第 2 滑 走 路( 4000m ×60m)の 供 用 開 始 日 が 2007
年 8 月 2 日に決定された
7)
。第 2 滑走路供用が開始された後、関空の発着能力
は 2007 年 度 13 万 回 程 度 、 2008 年 13.5 回 程 度 ま で 伸 び る 。 そ し て 、 既 存 滑 走
路の全面改良もできるようになる
表 6-4
10)
。
関空の輸送実績
13 年 度
14 年 度
15 年 度
16 年 度
17 年 度
旅客数
国際
10,980,192
10,441,672
8,540,681
11,192,553
11,139,336
(人)
国内
7,772,388
6,479,210
5,181,053
4,178,422
5,289,063
合計
18,752,580
16,920,882
13,721,734
15,370,975
16,428,399
貨物輸
国際
747,875
715,699
739,772
820,144
800,555
送量
国内
63,745
51,609
46,642
35,386
42,815
(t)
合計
811,620
767,308
786,414
855,530
843,370
着陸回
国際
33,536
31,934
30,848
36,053
36,124
数
国内
27,361
22,377
19,301
15,672
20,623
(回)
合計
60,897
54,311
50,149
51,725
56,747
出 典 :「 国 土 交 通 省 航 空 局 東 京 国 際 空 港 」 よ り
*大阪国際空港(伊丹空港)
大 阪 国 際 空 港( 伊 丹 空 港 )は 1939 年 に 大 阪 第 2 飛 行 場 と し て 開 場 さ れ た 。そ
の 後 、 戦 中 戦 後 の 時 代 を 経 て 、 再 び 供 用 を 開 始 し た の は 1958 年 ( 昭 和 33 年 )
で あ っ た 。 1959 年 に 伊 丹 空 港 は 大 阪 国 際 空 港 に 改 称 さ れ た 。 当 時 、 滑 走 路 は 1
本 ( A:1828m ×45m ) が あ っ た 。 そ し て 、 千 里 丘 陵 で 行 わ れ る 日 本 万 国 博 覧 会
99
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
( 1970 年 )に 合 わ せ て 、急 増 す る 航 空 旅 客 に 対 処 す る た め 、空 港 の 改 善 ・ 拡 張
工 事 が 進 め ら れ た 。1969 年( 昭 和 44 年 )に 新 タ ー ミ ナ ル ビ ル 供 用 が 開 始 さ れ 、
1970 年 ( 昭 和 45 年 ) に B 滑 走 路 ( 3000m ×60m) 供 用 が 開 始 さ れ た 。 大 阪 国
際 空 港 は 国 有 航 空 で あ り 、営 業 時 間 は 午 前 7 時 か ら 午 後 9 時 ま で の 14 時 間 営 業
である。
表 6-5
大阪国際空港の輸送実績
13 年 度
14 年 度
15 年 度
16 年 度
17 年 度
旅客数
国際
0
0
0
0
0
(人)
国内
17,021,453
18,060,768
18,862,551
19,484,024
18,519,027
合計
17,021,453
18,060,768
18,862,551
19,484,024
18,519,027
貨物輸
国際
0
0
0
0
0
送量
国内
133,270
132,621
151,612
161,079
152,673
(t)
合計
133,270
132,621
151,612
161,079
152,673
着陸回
国際
3
1
5
1
7
数
国内
50,961
53,342
59,339
65,087
66,227
(回)
合計
50,961
53,342
59,339
65,087
66,227
出 典 :「 国 土 交 通 省 航 空 局 東 京 国 際 空 港 」 よ り
関 空 が 開 港 さ れ た 1994 年 以 降 、国 際 線 は す べ て 関 空 に 移 管 さ れ た 。大 阪 国 際
空港は国内線基幹空港になり、重要な役割を果てしている
11 )
。
*神戸空港
神戸空港は関西 3 空港の一つで、関西圏の国内航空需要に対応する役割を有
し て い る 。 神 戸 空 港 は 平 成 18 年 2 月 16 日 に 開 港 さ れ た 。 滑 走 路 は 2500m×60
m の 1 本 で あ る 。2006 年 の 航 空 旅 客 は 319 万 人 で あ っ た が 、2010 年 の 目 標 は 年
間 航 空 旅 客 403 万 人 を 達 成 す る こ と で あ る
12)
。
6.6.3. む す び
日本の経済が復興するにつれて、航空輸送需要も急増してきている。特に日
本の政治・文化・経済の中心である首都圏と関西圏においては、航空輸送需要
の伸びが目立っている。首都圏における羽田空港の再拡張計画や、関西圏にお
ける関空の第 2 滑走路と神戸空港の開港はこの需要に対応するためである。
航空輸送の需要が急速に増加していくのは日本だけでなく、世界の航空輸送
の 傾 向 で あ る と 判 断 さ れ て い る 。 21 世 紀 に は 航 空 輸 送 量 が 継 続 的 に 年 率 約 5%
増 加 し て い く と 予 測 さ れ て い る( ド ガ ニ ス 、2003)。こ の 増 加 に よ っ て 、多 く の
空港で現行のキャパシティでは既に不十分となり、空港と航空輸送システムは
100
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
大きな圧力下に置かれている。新滑走路が現行の空港で建設できないところで
は空港キャパシティの十分な利用可能性を確保するために、サティライト空港
の使用が促進されるだろう。この方式は特に、資本が余裕でない国にとって適
切であると考えられている。
6.7. ベ ト ナ ム の 空 港 の 状 態
6.7.1. ベ ト ナ ム の 空 港 の 実 態
13)
長 い 戦 争 が 続 い た ベ ト ナ ム は 空 港 が 313 あ り 、全 国 に 平 均 的 に 配 置 し て い る 。
ベトナムの空港は戦中に軍事空港として運営され、民用航空活動があまりなか
っ た 。1997 年 10 月 24 日 に 首 相 が 認 可 し た「 ベ ト ナ ム 空 港 再 建 設 計 画 」に よ っ
て 、再 び 空 港 シ ス テ ム が 調 査 さ れ 、52 の 空 港 が 民 用 空 港 と し て 供 用 す る こ と に
な っ た 。し か し 、国 勢 の 変 化 及 び 、ア ジ ア 金 融 危 機 、9 月 11 日 の テ ロ な ど の 世
界の変動のせいで、この計画は進まなかった。
ベ ト ナ ム 民 間 航 空 業 は 2005 年 12 月 時 点 で 22 の 空 港 を 管 理 し 、運 営 し て い る 。
そ の 中 、国 際 空 港 は 3 つ あ り 、国 内 空 港 は 19 あ る 。空 港 は 北 部・ 中 部・ 南 部 の
地域によって北部空港管理機関・中部空港管理機関・南部空港管理機関に分か
れて、所属している。
表 6-6
ベ ト ナ ム の 民 用 空 港 ( 2005 年 時 点 )
名前
市・省
面積
現状
北部空港管理機関(首都圏)
1
Dien Bien
Dien Bien
44.1 ha
軍民兼用
2
Na San
Son La
187.51ha
改良中
3
Noi Bai
Ha Noi
941.2ha
国 際 空 港・軍 民 兼 用
4
Cat Bi
Hai Phong
436.9ha
軍民兼用
5
Vinh
Nghe An
416.62ha
軍民兼用
6
Dong Hoi
Quang Binh
177ha
工事中・軍民兼用
中部空港管理機関
7
Phu Bai
Thua Thien- Hue
243.27ha
軍民兼用
8
Chu Lai
Quang Ngai
2,022.4ha
軍民兼用
9
Da Nang
Da Nang
861.29ha
国 際 空 港・軍 民 兼 用
10
Phu Cat
Binh Dinh
1018ha
軍民兼用
11
Tuy Hoa
Phu Yen
1,200ha
軍民兼用
12
Nha Trang
Khanh Hoa
13
Cam Ranh
Khanh Hoa
運営中止
715.05ha
軍民兼用
101
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
14
Plei Ku
Gia Lai
247.53ha
軍民兼用
南部空港管理機関
15
Buon Ma Thuot
Dac Lac
259.6ha
軍民兼用
16
Lien Khuong
Lam Dong
330.11ha
軍民兼用
17
Tan Son Nhat
Hochiminh City
1,150ha
国 際 空 港・軍 民 兼 用
18
Con Son
Ba ria- Vung Tau
103.1ha
軍民兼用
19
Can Tho
Can Tho
268ha
軍民兼用
20
Phu Quoc
Kien Giang
92.87ha
軍民兼用
21
Rach Gia
Kien Giang
58.6ha
軍民兼用
22
Ca Mau
Ca Mau
92ha
軍民兼用
出典:ベトナム民間航空局計画投資部より
1995 年 ~ 2005 年 の 期 間 に お い て は 、ベ ト ナ ム の 空 港 の 航 空 輸 送 の 年 平 均 成 長
率 は 旅 客 は 10.8% 、 貨 物 は 13.5% 、 発 着 回 数 は 6.8% で あ っ た 。 2005 年 の 航 空
旅 客 の 85% が 3 つ の 国 際 空 港 を 利 用 し て い る 。国 内 空 港 で は 、提 供 す る サ ー ビ
スが少なく、航空以外のサービスがほとんどないという現状である。全国の空
港 の 40% は 70 座 席 以 下 の 飛 行 機 し か 発 着 で き な い 。
ベ ト ナ ム の 空 港 は 2005 年 時 点 で は 、 最 長 滑 走 路 は 3800m ×45m で あ り 、 最
大 国 際 空 港 で あ る Tan Son Nhat 空 港 で も 滑 走 路 が 3048m ×45m と 3800m ×45
m だ け あ る 。こ の 空 港 で 発 着 で き る 最 大 飛 行 機 は B747-400 し か な い 。開 発 中 ま
た は 開 発 計 画 の あ る 飛 行 機 A380-800/800F な ど が 発 着 で き る よ う に 滑 走 路 を 改
良 し な け れ ば な ら い 。Tan Son Nhat 空 港 は 市 内 の 中 に あ る か ら 、滑 走 路 の 拡 張 ・
改良はなかなか難しいと評価されている。ホーチミン市をはじめ、南部はベト
ナム一の経済発展地域であるから、航空需要は急速に増加すると予測されてい
る 。こ の 需 要 に 応 え る た め に 、ベ ト ナ ム 政 府 は Long Thanh 国 際 空 港 の 開 発 計 画
を 実 施 し て い る 。 Long Thanh 空 港 は ベ ト ナ ム の 最 大 空 港 に な り 、 ICAO の 一 番
高 い 基 準 ( 4F) で 設 計 さ れ 、 4000m×60m の 滑 走 路 ( 設 計 : 4 本 ) が あ る か ら 、
A380-800 型 の 飛 行 機 が 迎 え ら れ る よ う に な る 。そ の 上 、Long Thanh 空 港 は ホ ー
チ ミ ン 市 か ら 40 キ ロ だ け 離 れ た と こ ろ に あ る か ら 、開 港 さ れ た 後 、Tan Son Nhat
国際空港は南部地域の第 2 空港になる。
Long Thanh 空 港 の 第 1 滑 走 路 と 第 1 タ ー ミ ナ ル の 着 工 は 2007 年 で あ り 、第 1
滑 走 路 は 2016 年 に 供 用 開 始 す る こ と に な っ た 。 Long Thanh 空 港 の 目 標 は 2016
年 の 航 空 旅 客 が 2500 万 人 を 達 成 す る こ と で あ る 。
102
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
表 6-7
地域空港管理機関の航空実績
2001
2002
2003
2004
2005
旅客数
北部
2,327,865
2,852,369
3,109,765
3,851,093
4,539,967
(人)
中部
1,131,210
1,343,509
1,237,499
1,541,685
1,866,727
南部
4,667,035
5,534,909
5,280,000
6,568,400
7,708,745
合計
8,126,110
9,730,787
9,627,264
11,961,178
14,115,439
貨物輸
北部
43,200
58,253
66,277
80,749
95,939
送量
中部
5,255
6,520
6,703
7,557
8,300
(t)
南部
100,350
133,294
160,383
184,553
194,412
合計
148,805
198,067
233,363
272,859
298,651
発着陸
北部
20,064
24,399
25,988
33,564
36,422
回数
中部
14,392
17,319
16,740
20,482
21,354
(回)
南部
43,416
49,994
49,966
61,039
67,361
合計
77,872
91,712
92,694
115,085
125,137
出典:ベトナム民間航空局計画投資部
南部だけではなく、中部と北部においても国際空港の開発の計画が検討され
た 。中 部 に お い て は 、Da Nang 国 際 空 港 を 補 助 す る た め に 、Chu Lai 空 港 を 発 展
す る 計 画 が 進 め ら れ て い る 。Chu Lai 国 際 空 港 は Dung Quat 製 油 工 業 団 地 を は じ
め 、南 中 部 地 域 の 発 展 に 寄 与 す る と 評 価 さ れ て い る 。同 じ 意 味 で 、Noi Bai 国 際
空 港 の 圧 力 を 緩 め る た め に 、 Cat Bi 空 港 を 国 際 空 港 と し て 発 展 さ せ る 計 画 が あ
る が 、 Cat Bi 空 港 は ハ ノ イ か ら 100 キ ロ 離 れ た と こ ろ に あ る 上 に 、 改 良 後 で も
発 着 で き る 最 大 飛 行 機 が B767 で あ る か ら 、 北 部 に お け る 需 要 が 急 増 す る 背 景
の 中 で Noi Bai 国 際 空 港 に か か っ て い る 圧 力 は あ ま り 緩 和 さ れ な い と 考 え ら れ
る。
6.7.2. Noi Bai 国 際 空 港 の 実 態
6.7.2.1. 空 港 の 実 態
14)
Noi Bai 国 際 空 港 は ハ ノ イ 首 都 の 北 西 、 ハ ノ イ 中 心 か ら 30 キ ロ ぐ ら い 離 れ た
と こ ろ に あ る 。Noi Bai 国 際 空 港 は 国 際 航 空 旅 客 と 国 際 航 空 貨 物 に 寄 与 す る 目 的
と し て 1977 年 2 月 28 日 に 軍 事 空 港 の 敷 地 の 一 部 に 設 立 さ れ た 。 空 港 の 全 面 積
は 941.2ha で あ る が 、 Noi Bai 国 際 空 港 が 管 理 し て い る 面 積 は 241.3ha だ け で あ
る 。 Noi Bai 空 港 に お い て は 、 直 接 に ( オ ン ラ イ ン ) 運 航 し て い る 航 空 会 社 は
103
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
23 社 あ り 、世 界 の 23 以 上 の 都 市・地 域 と 結 ぶ フ ラ イ ト を 運 営 し て い る 。他 に 、
ベトナム航空の便を利用して、ホーチミン市まで旅客と貨物を輸送し、ホーチ
ミン市から各地へ輸送する航空会社もある。例えば、日本の全日空とアメリカ
のユナイテッド航空(オフライン)である。これらの航空会社はもしハノイに
おける市場シェアがうまく伸びると、ハノイから直行便を開始する可能性があ
る 。国 内 線 で は 、Noi Bai 航 空 か ら Dien Bien 空 港 , Da Nang 空 港 , Cam Ranh 空 港 ,
Tan Son Nhat 空 港 ,Lien Khuong 空 港 , Hue 空 港 へ 行 く 便 が あ る 。 Tan Son Nhat
空 港 へ 行 く 便 を 例 と し て 挙 げ る と 、毎 日 ベ ト ナ ム 航 空 が 12 便 、PACIFIC 航 空 が
7 便 あ る ( 2006)。
表 6-8
1988 年 か ら 2005 年 ま で Noi Bai 空 港 の 旅 客 輸 送 の 成 長 率 ( % )
国際
国内
合計
1986
-0.01
17.45
9
1987
39
0.02
16
1988
19
1
10
1989
-4
2.8
-0.01
1990
6
22
14
1991
-15
-7
-11
1992
7.4
256
186
1993
27.85
-10
1
1994
165
139
148
1995
7.8
34
24
1996
19.24
12.8
15
1997
0.7
-0.1
0.2
1998
-1
-1.4
-1.3
1999
2.4
2.2
2.27
2000
15.6
11.7
13
2001
34.5
17.5
23.6
2002
22.4
16.1
18.5
2003
8.12
4.34
5.86
2004
47
11
26
2005
28
22
25
出典:ベトナム民間航空局計画投資部
104
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
Noi Bai 空 港 は 滑 走 路 が 3200m×45m と 3800m ×45m あ り 、 滑 走 路 の 発 着 回
数 は 2 本 合 わ せ て 1 時 間 50~ 55 回 で き る 。 旅 客 タ ー ミ ナ ル は 面 積 が 65,600m 2
あ る 。 2007 年 の 時 点 で は 、 こ の 滑 走 路 と タ ー ミ ナ ル の 容 量 は 全 く 問 題 が な い 。
し か し な が ら 、ベ ト ナ ム は 2006 年 に WTO( 世 界 貿 易 機 関 )の メ ン バ ー と な り 、
ハノイをはじめ、北部地域の発展につれて、航空輸送需要もどんどん増大して
いくと予測されている。そして、経済の自由化、航空輸送の規制緩和により、
新規の航空会社が市場に参入してくることが確実である。その時、この容量で
は 、Noi Bai 空 港 は 大 混 雑 に な る と 予 想 さ れ る 。こ の 問 題 を 考 慮 し て 、ベ ト ナ ム
政 府 は 日 本 の 低 利 貸 付( 310 億 円 )で Noi Bai 国 際 空 港 の 新 し い 旅 客 タ ー ミ ナ ル
建設計画を立てている。この計画は現在、総合的な調査検討する段階であり、
い つ 着 工 す る か 、 ま だ 決 ま っ て い な い が 、 供 用 開 始 は 早 く て も 2011 年 で あ る 。
6.7.2.2. 地 域 の 航 空 需 要
Noi Bai 国 際 空 港 が 位 置 し て い る 首 都 ハ ノ イ は ベ ト ナ ム 第 2 の 経 済 発 展 し て
い る 地 域 で あ り 、 国 の 政 治 ・ 文 化 ・ 社 会 の 中 心 で あ る 。 ハ ノ イ の 人 口 は 2005
年 3,145,300 人 で 、人 口 密 度 は 1 キ ロ 当 た り 3,347 人( 全 国 で 一 番 高 い )で あ る 。
2004 年 の 一 人 当 た り GDP は 18,200,000 ド ン( 国 の 一 人 当 た り GDP は 8,694,000
ド ン ) で あ る 。 2006 年 に 、 ベ ト ナ ム は WTO の メ ン バ ー と な り 、 今 後 ハ ノ イ で
行 わ れ る 経 済 交 流 活 動 が 盛 ん に な る と 思 わ れ る 。ハ ノ イ は 工 業 団 地 が 9 つ あ り 、
外 国 直 接 投 資 が 年 率 73% 伸 び 、2005 年 に 25.8 億 USD に 達 し た 。ハ ノ イ の 工 業
団 地 は 、首 都 を 拡 大 す る 計 画 に よ っ て 、主 に 西 と 北 西 に 位 置 し て い る か ら 、Noi
Bai 空 港 の 近 く の 地 域 が 急 速 に 発 展 し て い る 。 そ の 上 、 ハ ノ イ の 西 に あ る Vinh
Phuc 省 も 外 国 直 接 投 資 が 急 増 し て い る 地 域 で あ り 、HONDA 工 場 と TOYOTA 工
場がある。
経 済 発 展 は 航 空 輸 送 需 要 を 増 大 す る た め 、実 質 GDP の 成 長 率 と 航 空 輸 送 の 成
長 率 と の 関 係 を 検 討 し て み る 。 石 田 信 博 ( 2002) の 分 析 に よ る と 、 日 本 の 航 空
輸 送 需 要 量 の 推 移 は GDP の 推 移 と ほ ぼ 一 致 し て い る と 述 べ て い る が 、こ こ で 航
空 輸 送 旅 客 の 成 長 率 と GDP の 成 長 率 と の 関 係 を 検 討 す る 。 ベ ト ナ ム の 1986 年
~ 2005 年 の GDP 成 長 率( GDP_GR)と Noi Bai 空 港 の 航 空 旅 客 成 長 率( PS_TT_GR)
を 利 用 し て 、 関 係 を 分 析 し て み る 。 Noi Bai 空 港 は 北 部 唯 一 の 国 際 空 港 で あ り 、
北 部 の 成 長 率 を 利 用 す る こ と は 適 切 で あ る が 、北 部 の GDP 成 長 率 の デ ー タ が な
いという事実がある。ベトナムにおいては、経済が一番発展している地域は南
部 、次 は 北 部 、最 後 は 中 部 で あ る か ら 、全 国 の GDP 成 長 率 を 北 部 の 成 長 率 と し
て利用する。結果は次の関数である。
旅客成長率=
1.794×GDP 成長率 - 21.42339×DUMMY1 + 170.3918×DUMMY2 + 132.1586×DUMMY3 (1)
105
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
( R 2 = 0.972674)
DUMMY 変 数 は 、 旧 ソ 連 が 消 滅 し た 1991 年 を DUMMY1、 Singapore Airlines
が ハ ノ イ・シ ン ガ ポ ー ル 直 行 便 を 、Air France が ハ ノ イ・パ リ 直 行 便 を 開 始 し 、
Noi Bai 空 港 が 新 し い タ ー ミ ナ ル を 供 用 開 始 す る 1992 年 を DUMMY2、 Vietnam
Airlines と Pacific Airlines の 再 建 す る 1994 年 を DUMMY3、 と し て ベ ト ナ ム 航
空 業 に 影 響 を 与 え た 年 を 示 す 。 国 際 的 な 変 化 ( テ ロ 、 ア ジ ア 金 融 危 機 、 SARS
な ど ) は GDP に も 航 空 輸 送 に も 同 時 に 影 響 を 与 え た か ら 、 GDP と 航 空 輸 送 の
関係にはあまり影響を与えないということが、この分析で分かった。世界銀行
WB、ア ジ ア 開 発 銀 行 ADB は 、ベ ト ナ ム の GDP は 2006 年 ~ 2010 年 ま で 年 平 均
8% ~ 9% 伸 び 率( 2006 年 8.2% )で 成 長 し て い く と 予 測 し て い る の で 、
( 1 )式
に 入 れ る と 、2010 年 ま で Noi Bai 空 港 の 航 空 旅 客 輸 送 は 年 平 均 14% ~ 16% 伸 び
率で成長していくということになる。もちろん、この数字は予測の数字である
が 、Noi Bai 空 港 の 近 年 旅 客 輸 送 成 長 率 を 見 る と 、2010 年 ま で Noi Bai 空 港 の 航
空 旅 客 輸 送 成 長 率 を 15% と 設 定 し て も よ い 。 こ の 伸 び 率 で Noi Bai 空 港 は ど う
なるか、検討する。
表 6- 9
GDP成 長 率 と 航 空 旅 客 輸 送 成 長 率 と の 関 係 を 分 析 し た 結 果
Dependent Variable: PS_TT_GR
Method: Least Squares
Sample: 1986 2005
Included observations: 20
Variable
Coefficient
Std. Error
t-Statistic
Prob.
GDP_GR
1.794043
0.315982
5.677679
0.0000
DUMMY1
-21.42339
9.115454
-2.350227
0.0319
DUMMY2
170.3918
9.342290
18.23877
0.0000
DUMMY3
132.1586
9.354459
14.12787
0.0000
R-squared
0.972674
Adjusted R-squared
0.967551
Durbin-Watson stat
1.425497
6.7.3. 混 雑 に な る Noi Bai国 際 空 港
ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 の 報 告 に よ る と 、 Noi Bai 空 港 の 旅 客 輸 送 は 、 2004 年
3,564,878 人 、 2005 年 4,456,997 人 、 ピ ー ク 時 の 旅 客 輸 送 は 2004 年 1248 人 ( 旅
客 の 0.035% )、 2005 年 1492 人 ( 旅 客 の 0.036% ) で あ っ た 。 IATA の 計 算 に よ
106
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
る と 、空 港 の ピ ー ク 時 の 旅 客 は 1 年 間 の 旅 客 の 約 0.036%を 占 め る と い う こ と で
あ る か ら 、 こ の ピ ー ク 時 の 比 率 は 当 て は ま っ て い る ( IATA,2004)。 ピ ー ク 時 の
旅客一人当たりターミナル面積の基準も決まっている。この基準は、国際線タ
ー ミ ナ ル の 場 合 は 30m 2 ~ 60m 2 、 国 内 線 タ ー ミ ナ ル の 場 合 は 15m 2 ~ 25m 2 で あ
る 。例 え ば 、成 田 第 2 旅 客 タ ー ミ ナ ル は 58m 2 、関 空 は 33m 2 、中 部 空 港 は 39m 2 、
Tan Son Nhat 空 港 は 35m 2 で あ る 。 Noi Bai 空 港 は 低 い 基 準 30m 2 で 検 討 す る 。
分 析 し た 結 果 を 利 用 し て 計 算 し た 結 果 は 2010 年 、 Noi Bai 空 港 の 航 空 旅 客 が
8,964,613 人 に 達 成 す る 可 能 性 が あ る 。こ の 結 果 か ら 、ピ ー ク 時 の 旅 客 は 3227 人
に な る 。 そ う す る と 、 旅 客 一 人 当 た り タ ー ミ ナ ル 面 積 は 20.3285m 2 に 減 少 し て
い く 。 以 上 の 基 準 と 比 べ る と 、 2010 年 に Noi Bai 空 港 は 大 混 雑 に な る こ と が 分
かる。第 5 節で説明したように、混雑になった空港の利用料金は高くなる。社
会的な費用もかなりかかる。このことはこれから航空輸送市場に参入する航空
会 社 に と っ て デ メ リ ッ ト と な る 。 現 在 、 Noi Bai 空 港 を 利 用 す る 国 際 線 B747 の
1 便 の 基 本 料 金 は 4250USD で 、こ の 料 金 は 成 田 空 港 と ほ ぼ 同 じ で あ る 。つ ま り 、
Noi Bai 空 港 の 利 用 料 金 は 現 在 時 点 で も 高 い ほ う で あ る 。
以 上 で 分 か る よ う に 、Noi Bai 空 港 は こ の ま ま 混 雑 の 状 態 が 続 い て い く と 、確
かに新規の市場参入の障害になる。特に、低コスト・低運賃の航空会社の市場
参 入 に と っ て 障 害 に な る 。で は 、こ の 混 雑 を 解 決 す る た め に 、Noi Bai 空 港 を 拡
大する計画以外に、既存している空港をサティライト空港として使用する可能
性を検討してみる。
6.8. ハ ノ イ 首 都 圏 第 2 空 港 開 発
ハ ノ イ 首 都 の 東 、8 キ ロ の と こ ろ に 空 港 が あ り 、ハ ノ イ 中 心 か ら 10 分 で 行 け
る 。 こ の 空 港 は Gia Lam 空 港 で あ る 。
6.8.1. Gia Lam 空 港 の 現 状
15)
Gia Lam 空 港 は 1920 年 代 に フ ラ ン ス 植 民 地 政 府 に よ っ て 建 設 さ れ 、フ ラ ン ス
と イ ン ド シ ナ と の 便 を 運 航 し て い た 。1940 年 ~ 1945 年 の 時 期 、日 本 軍 の 空 軍 拠
点 に な り 、1946 年 ~ 1954 年 、空 港 は フ ラ ン ス の 支 配 に 戻 っ て 、軍 民 兼 用 空 港 に
な っ た 。 北 ベ ト ナ ム が 解 放 さ れ た 1954 年 か ら 1964 年 ま で 、 Gia Lam 空 港 は 特
別 な 時 に し か 利 用 さ れ て い な か っ た 。1964 年 ~ 1972 年 時 期 に ア メ リ カ 軍 が ハ ノ
イ に 爆 弾 を 投 下 し た た め 、空 港 は 使 用 で き な か っ た 。そ の 後 、Noi Bai 空 港 が 開
港 さ れ る 1978 年 ま で 、Gia Lam 空 港 は 首 都 の 国 際 空 港 と し て 運 営 さ れ た 。1978
年 ~ 1986 年 は Gia Lam 空 港 は Noi Bai 国 際 空 港 の サ テ ラ イ ト 空 港 で あ っ た 。1986
年 に Gia Lam 空 港 の 旅 客 は 78,185 人 に 達 し た 。 1986 年 か ら 、 軍 事 専 用 空 港 に
な っ た 。Gia Lam 空 港 は 滑 走 路 が 2000m×45m と 1200m×20m あ る 。1200m×20
mの滑走路は日本軍によって建設されたが、現在、路面が壊れて、発着陸に使
107
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
えないため、駐機所などとして使われている。空港の施設の容量は軍民共用の
状況でそれぞれの1時間発着回数が 6 回~8 回程度である。従って、もし空港
が 1 日 16 時 間 営 業 す る と し た ら 、 1 年 間 の 発 着 回 数 は 約 46,720 回 を 達 成 す る
可能性がある。
6.8.2. Gia Lam 空 港 の 開 発 可 能 性
Gia Lam 空 港 は 国 防 省 の 管 理 の 下 で 運 営 さ れ て い る が 、 空 港 の 容 量 は 十 分 に
活 用 し て い な い 状 態 で あ る 。 従 っ て 、 混 雑 に な る Noi Bai 国 際 空 港 と 余 裕 の あ
る Gia Lam 空 港 の 間 に 航 空 輸 送 需 要 を 効 果 的 に 分 配 す る こ と は 重 要 で あ る 。 も
し 、 Gia Lam 空 港 が 民 用 空 港 と し て 再 び 供 用 さ れ る と 、 年 間 旅 客 300 万 人 ほ ど
輸送できる。
表 6- 10
航空機形式
2000m 以 下 の 滑 走 路 で 発 着 陸 で き る 航 空 機 の 例
乗 客 数( 人 )
航 続 距 離 km
離陸滑走路長 m
着陸滑走路長 m
FOKKER F28
85
1900
1590
1070
BAE 146-200
112
2910
1510
1100
70~94
3900
1190
1180
CRJ700
70
3120
1560
1480
DC-9-87
134
2370
1510
1380
ATR72-200
66
1200
1410
1210
DHC-8-402
78
2150
1580
1380
AVRO RJ70
出 典 :『 2006 エ ア ポ ー ト ハ ン ド ブ ッ ク 』 よ り
Gia Lam 空 港 の 滑 走 路 長 は 2000m あ り 、 表 6- 10 の 航 空 機 の 機 種 の 必 要 な 滑
走 路 は 全 部 2000m 以 下 で あ る か ら 、 Gia Lam 空 港 で 確 実 に 発 着 陸 で き る 。 こ れ
らの機種の輸送能力は小さいが、低コスト航行やチャーターに非常に適切な機
種 で あ る 。 Gia Lam 空 港 は ハ ノ イ 市 内 か ら 近 い か ら 、 消 費 者 ( 旅 客 ) に と っ て
Noi Bai 空 港 よ り メ リ ッ ト が あ る 。
し か し 、 Gia Lam 空 港 は ハ ノ イ 市 内 に 位 置 し て い る た め 、 空 港 開 発 は 周 辺 の
環境に影響を与える可能性が高い。
6.8.3. Gia Lam 空 港 再 供 用 に よ る 影 響
空港の開発による影響は、まず騒音問題、次に生態系に対する影響、排気ガ
スによる大気汚染、下水による土壌汚染の問題などがある。
*騒音問題
飛行機は、確かに大きな騒音を起こしながら、離着陸を繰り返す。この騒音
は周辺の地元民に嫌われている。日本においては、騒音問題で伊丹空港の運営
108
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
が制限されて、需要に対応するために、関空が新設されたという例がある。空
港を建設する時、最初に関係地方公共団体を通じて地元民の意見を聞くことが
非 常 に 重 要 で あ る 。 Gia Lam 空 港 の 場 合 は 、 周 辺 に は 航 空 業 に 関 係 の あ る 機 関
が多く、居住地が少ないという事実があるが、騒音対策を考える必要がある。
特 に 、 Gia Lam 空 港 は ハ ノ イ 市 内 の 中 に 位 置 し て い る か ら で あ る 。
第 1 は騒音発生源対策である。騒音発生源はやはり飛行機である。騒音を防
止するために、飛行機の騒音基準適合証明制度を導入し、低騒音機の積極的な
導 入 と 高 騒 音 機 の 退 役 を 進 め 、騒 音 基 準 で 認 め ら れ る 飛 行 機 し か 運 航 さ せ な い 、
という対策をとる必要がある。飛行機が大きければ大きいほど、騒音が大きい
が 、 Gia Lam 空 港 で 発 着 で き る 飛 行 機 は 小 さ い の で 、 大 き な 騒 音 を 撒 き 散 ら す
ことはないと思われる。その上、発着時間の規制を設定し、夜間・早朝の飛行
機騒音の影響を軽減するために、営業時間を制限する対策もある。そして、離
陸時や着陸時、空港周辺の騒音を抑える飛行方法が研究されている。たとえば
離 陸 す る 際 、で き る だ け 高 い 高 度 ま で 上 が っ て( 急 上 昇 )、地 上 に 騒 音 の 影 響 が
ないように工夫するなどの方法である。また、着陸時には、脚やフラップ(下
げ翼)を下ろすタイミングを遅くすることで空気抵抗を減らし、その結果とし
て騒音を小さくする方式などがある。
第 2 は空港周辺対策である。騒音発生源対策を実施しても騒音影響の及ぶ地
域については、住宅、学校、病院などに対する防音工事や公共施設の整備に対
する助成、空港周辺への騒音の影響を少なくするための緩衝緑地帯・防音林・
空 調 機 の 設 置 な ど の 対 策 を 進 め る 。 Gia Lam 空 港 の 周 辺 に は 、 病 院 、 図 書 館 、
教会、お寺などはないが、幼稚園と小学校がある。騒音を軽減するために、幼
稚園と小学校に面している方面に緑地帯・防音林や空調機を設置し、小学校と
幼 稚 園 の 騒 音 防 止 設 備 設 置 の 援 助 な ど の 対 策 が 考 え ら れ る 。 Gia Lam 空 港 に お
いては現在でも軍事航空が行われているため、騒音防止設備はある程度揃って
いるが、軍民兼用空港として再供用する計画を立てる時、空港と周辺地域との
調和ある発展を図らなければならない。
表 6- 11
ベ ト ナ ム の 騒 音 基 準 ( 単 位 : dB)
地域
6 時 ~ 18 時
18 時 ~ 22 時
22 時 ~ 6 時
病院、図書館、学校、教会、お寺など
50
45
40
居住地、ホテール、行政機関
60
55
50
居住地、生産地、商業地
75
70
50
出典:ベトナム資源環境省環境保護局のホームページより
109
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
Gia Lam 空 港 を 再 供 用 す る 計 画 を 立 て る 時 に 、 騒 音 を 軽 減 す る 様 々 な 対 策 が
考えられている。これらの対策は低費用で実施できる可能性が高いため、空港
利用料金を増加させる影響があまりないと思われる。
*生態系に対する影響
『 Gia Lam 空 港 現 状 評 価 2006 年 』 に よ る と 、 現 在 、 運 航 頻 度 が 少 な い た め 、
Gia Lam 空 港 の 運 営 に よ る 生 態 系 に 対 す る 影 響 は 少 な い が 、 民 用 空 港 と し て 再
供用すると、この影響が多くなると思われる。一番注意しなければならないの
は野鳥による事故である。野鳥が発着している飛行機にぶつかると、事故にな
る た め 、野 鳥 が 空 港 内 に 飛 ん で 来 な い よ う に 脅 か す 対 策 を 実 施 す る 必 要 が あ る 。
*大気汚染、土壌汚染の問題
大 気 汚 染 、 土 壌 汚 染 の 問 題 は Gia Lam 空 港 を 開 発 す る 場 合 だ け に 限 ら ず 、 ど
んな空港でも生じる。大気汚染問題を軽減するために、空港で運航許可が得ら
れる飛行機の機種を制限し、できるだけ排気ガスが低い飛行機を運航させるよ
うにする。空港に緑地帯を設置することも飛行機の排気ガスの影響を減少させ
ることができる。土壌汚染問題を解決するには、空港の下水処理設備を整備す
る し か な い 。 Gia Lam 空 港 が 民 用 空 港 と し て 再 び 供 用 し な い 場 合 で も 、 空 港 の
下水処理設備の整備が非常に重要である。
要 す る に 、Gia Lam 空 港 の 供 用 再 開 は Noi Bai 国 際 空 港 の 混 雑 を 緩 め る と 同 時
に、新規の航空会社の市場参入を促進するという効果がある。
6.9. 結 論

市場に参入してきた低コスト航空会社はネットワーク航空との直接的な競
争が避けられ、より安く近い空港で運航できると、競争に勝って、生き残
る可能性が高くなる。

航 空 輸 送 需 要 が 急 速 に 増 大 す る に つ れ て 、大 都 会 の 空 港 は 混 雑 状 態 に な る 。
混雑が起こったら、社会的な費用がかかる上に、航空輸送サービスの質に
影響をあたえ、それに加えて、空港利用料金も高くなる。この問題を解決
するために、航空需要を管理し、効果的に分配しなければならない。

ベ ト ナ ム の 首 都 空 港 で あ る Noi Bai 国 際 空 港 は こ れ か ら 混 雑 す る 時 期 を 迎
え る と 予 測 さ れ る 。年 平 均 15% 伸 び 率 で 成 長 し て い く 航 空 旅 客 は 2010 年 に
空港のターミナルの容量を超える。制約のある空港の施設は新規の市場参
入の障壁となり、いわば、航空輸送の自由化を妨げるものになる。

Gia Lam 空 港 を 供 用 再 開 す る こ と は Noi Bai 国 際 空 港 の 混 雑 を 緩 め る と 同 時
に 、 低 コ ス ト 航 空 や チ ャ ー タ ー の 市 場 参 入 を 促 進 し て い く 。 Gia Lam 空 港
110
グエン ティ タイン アン/博士論文
第 6 章 ベトナムにおける空港の発展
と Cat Bi 国 際 空 港 は Noi Bai 空 港 を 有 効 に 補 完 で き 、 北 部 の 急 増 し て い く
需要に十分に応えられる。

Gia Lam 空 港 を 再 供 用 し た ら 、 周 辺 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が 高 い が 、 こ れ
ら の 影 響 を 軽 減 す る 対 策 が 考 え ら れ て い る 。 Gia Lam 空 港 の 自 然 条 件 に 基
づいて判断すると、空港には緑地帯、防音林、空調機などの騒音防止設備
や、下水処理設備などを設置することで環境に対する影響を最小化するこ
とができる。
(注)
1) ド ガ ニ ス ( 1994)『 エ ア ポ ー ト ・ ビ ジ ネ ス 』
2) イ ン チ ョ ン 空 港 、 キ ム ポ 空 港 、 ド ン ム ア ン 空 港 、 ス ワ ン ナ プ ー ム 空 港 の ホ
ム ペ ー ジ や Wikipedia で 調 べ た 。
3) Dallas Love Field, Wikipedia
4) ド ガ ニ ス ( 2003)『 21 世 紀 の 航 空 ビ ジ ネ ス 』、 P146~ P157;
村 上 英 樹 、 他 ( 2006)『 航 空 の 経 済 学 』、 P233~ P240
5) 山 田
浩 之 ( 2001)『 交 通 混 雑 の 経 済 分 析 』、 第 14 章
6) 関 西 空 港 調 査 会 ( 2006)『 2006 エ ア ポ ー ト ハ ン ド ブ ッ ク 』
7) 成 田 国 際 空 港 株 式 会 社 の ホ ー ム ペ ー ジ
8) 関 西 空 港 調 査 会 ( 2006)『 2006 エ ア ポ ー ト ハ ン ド ブ ッ ク 』
9) ジ ェ ー ム ス ・ マ ッ ケ ン ( 2006)
10) 関 西 国 際 空 港 の ホ ー ム ペ ー ジ
11) 大 阪 空 港 の ホ ー ム ペ ー ジ
12) 神 戸 空 港 の ホ ー ム ペ ー ジ
13) * ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 が 政 府 へ 提 出 し た 2005 年 の 報 告 書
ベ ト ナ ム 語 : “Báo cáo thực trạng hàng không dân dụng giai đoạn 1995-2005”
* ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 投 資 計 画 部 ( 2005)『航空輸送業の発展戦略 2010-2025』
ベ ト ナ ム 語 : “Qui hoạch phát triển ngành hàng không dân dụng giai đoạn 2010 đến 2025”
14) 国 防 省 空 軍 局 ( 2005)『 Noi Bai 国 際 空 港 現 状 の 報 告 2005』
ベ ト ナ ム 語 : “Báo cáo thực trạng sân bay Nội Bài”
15) 国 防 省 空 軍 局 ( 2006)『 Gia Lam 空 港 現 状 評 価 2006』
ベ ト ナ ム 語 : “Đánh giá thực trạng sân bay Gia Lâm”
111
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
第 7 章 結論
第 7 章.結論
以上で分析した結果から分かるように、航空輸送の規制緩和・自由化は市場
全 体 の 輸 送 量 を 拡 大 し 、競 争 的 な 市 場 を 作 り 出 す 役 割 を 果 し て き た 。民 営 化 は 、
場合により、うまく成長してきたケースも業績が悪化したケースもあるが、民
営化後に市場全体の輸送量が増加する傾向が見られた。市場の自由化は航空輸
送サービスの多様化を促進し、新しい航空ビジネスが市場に参入してくること
になるため、消費者の選択肢が豊富になり、運賃も安くなる。つまり、消費者
がより多くの利益が獲得できるようになる。
ベ ト ナ ム の 民 間 航 空 輸 送 業 は 1989 年 に ベ ト ナ ム 航 空 の 創 立 に よ り 本 格 的 に
発 展 を 始 め た 。わ ず か 18 年 間 で は あ る が 、ベ ト ナ ム 航 空 は 少 し ず つ 成 長 し て き
た。国の経済や政治の特徴のため、ベトナム航空業は国営産業として運営され
ているため、効率性の上昇が見られない。世界市場の競争が激しくなると同時
に、低コスト革命が広がっている背景の中で、ベトナム航空業は改革を行われ
なければならないだろう。
ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 の『 航 空 輸 送 業 発 展 戦 略 2010~ 2025』に よ る と 、次 の 目
標があげられた。
*年平均成長率について:
・ 旅 客 輸 送 : 2006 年 ~ 2010 年 は 11% ~ 13% 、 2010 年 ~ 2020 年 は 9% ~ 11% 、
そ し て 2020 年 ~ 2025 年 は 6% ~ 8% で あ る 。
・ 貨 物 輸 送 : 2006 年 ~ 2010 年 は 15% ~ 17% 、 2010 年 ~ 2015 年 は 13% ~ 15% 、
2015 年 ~ 2020 年 は 18% ~ 20% 、 そ し て 2020 年 ~ 2025 年 は 16% ~ 18% で あ
る。
*ベトナムの航空会社の輸送量:
・ 2010 年 ま で に : 旅 客 1260 万 人 と 貨 物 25 万 ト ン
・ 2015 年 ま で に : 旅 客 2100 万 人 と 貨 物 48 万 ト ン
・ 2020 年 ま で に : 旅 客 3440 万 人 と 貨 物 117 万 ト ン
・ 2025 年 ま で に : 旅 客 4870 万 人 と 貨 物 262 万 ト ン
・2020 年 ま で に ベ ト ナ ム の 航 空 会 社 の 総 輸 送 量 が 東 南 ア ジ ア 諸 国 の ト ッ プ 5 に
入 り 、 2025 年 ま で に ト ッ プ 4 に 入 る 。
第 5 章 で 分 析 し た よ う に 、ベ ト ナ ム の 航 空 輸 送 業 は 2005 年 時 点 で 東 南 ア ジ ア
諸国の航空業と比べると、格差が大きい。従って、上記の目標に達するために
は、ベトナム航空輸送業の改革が必要である。改革の提案としては、
まず、第一に、航空輸送業の発展のために、輸送量の割り当てなどの制限、
運賃の上限及び下限を破棄すべきである。
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ティ
タイン
アン/博士論文
第 7 章 結論
第二に、市場参入の規制を緩和する。そして、新しい航空ビジネス(低コス
ト航空やチャーター航空)の新規参入を奨励すべきである。特に、低コストの
航空会社の発展を促進すべきである。
第三に、輸送量の拡大とともに、航空サービスの向上を図る政策が必要であ
る。これまでもベトナム航空輸送業の安全性は高い水準にあり、その水準を維
持すべきである。
第四に、航空市場自由化とともに、ベトナム航空会社に対する国家の保護や
特別措置を廃止して、民営化に向ける準備を進めていくべきである。
第五に、市場需要の増大に充分応えられるように空港の設備をより整備し、
利用容量を拡大していくべきである。そのために、新空港の増設や、既存の未
使用の空港をセカンダリ・エアポートとして活用することを図るべきである。
ベ ト ナ ム は 2006 年 に 世 界 貿 易 機 関 の メ ン バ ー に な っ た た め 、経 済・社 会・文
化の国際交流活動や貿易活動が益々盛んになっていくことが予想される。この
背景の中で、航空輸送に対する需要が一層増大していく。従って、今後、ベト
ナムの航空輸送業は、適切な航空輸送発展政策を採れば、充分に発展目標を満
たして、この地域の強力な航空輸送業になっていくと思われる。
113
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
参考文献
参考文献
Ⅰ.日本語の文献
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『 航 空 と 空 港 の 経 済 学 』、 航 空 交 通 研 究 会
・『 運 輸 と 経 済 』 第 65 巻 第 5 号 、 ’05.5
・ 大 橋 忠 弘 、 宅 間 文 夫 、 土 谷 和 之 、 山 口 勝 弘 ( 2002)、「 日 本 に お け る 国 内 航 空
政 策 の 効 果 計 測 に 関 す る 実 証 分 析 」、『 応 用 地 域 学 研 究 』
・ 太 田 博 史 ( 2002)『 地 域 ・ 都 市 ・ 交 通 分 析 の た め の ミ ク ロ 経 済 学 』、 東 洋 経 済
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応 用 し て - 」 応 用 地 域 学 会 第 20 回 研 究 発 表 大 会
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・ 関 西 空 港 調 査 会 ( 2007)『 エ ア ポ ー ト ハ ン ド ブ ッ ク 2007』 月 刊 同 友 社
・ 航 空 労 働 研 究 会 ( 1998)、『 規 制 緩 和 と 航 空 リ ス ト ラ 』、 旬 報 社
・ 神 頭 広 好 ( 2001)『 都 市 と 地 域 の 立 地 論 』、 古 今 書 院
・高橋望
( 1999)『 米 国 航 空 規 制 緩 和 を め ぐ る 諸 議 論 の 展 開 』、 白 桃 書 房
・ 滝 川 好 夫 、 前 田 洋 樹 ( 2006)『 EViews で 計 量 経 済 学 入 門 』、 日 本 評 論 社
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・ ド ガ ニ ス ・ リ ガ ス ( 1989)『 国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』、 成 山 堂 書 店
・ ド ガ ニ ス ・ リ ガ ス ( 1995)『 新 訂
国 際 航 空 輸 送 の 経 済 学 』、 成 山 堂 書 店
・ ド ガ ニ ス ・ リ ガ ス ( 2003)『 21 世 紀 の 航 空 ビ ジ ネ ス 』、 中 央 経 済 者
・ ド ガ ニ ス ・ リ ガ ス ( 1994)『 エ ア ポ ー ト ビ ジ ネ ス 』、 成 山 堂 書 店
・ 日 本 航 空 会 社 ( 2005)『 JAL グ ル ー プ 50 年 の 航 跡 』
・ 増 井 健 一 、 山 内 弘 隆 ( 1994)『 航 空 輸 送 』、 晃 洋 書 房
・ マ ッ ケ ン ・ ジ ェ ー ム ス ( 2006)『 首 都 圏 第 3 空 港 が 日 本 を 救 う 』
東京図書出版会
・ 村 上 英 樹 、 加 藤 一 誠 、 高 橋 望 、 榊 原 や す お ( 1999)『 航 空 の 経 済 学 』、 ミ ネ ル
114
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
参考文献
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・ 山 田 浩 之 ( 2001)『 交 通 混 雑 の 経 済 分 析 』 け い そ う 書 房
・ 山 内 弘 隆 、 竹 内 健 蔵 ( 2004)『 交 通 経 済 学 』、 有 斐 閣 ア ル マ
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・ Laurin Claude, Yves Bozec (2001), “Privatization and productivity improvement:
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・ McHardy Jolian, Stephen Trotter (2006), “Competition and deregulation: Do air
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・ Schipper Youdi, Piet Rietveld, Peter Nijkamp (2003), “Airlines deregulation and
external cost: a welfare analysis”, Transportation Research Part B 37 (2003)
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・ Zhang Anming, Yimin Zhang (2002), “A model of air cargo liberalization:
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Ⅲ.ベトナム語の文献
・ ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 ( 1995)『 ベ ト ナ ム 民 間 航 空 業 の 発 展 歴 史 』、 国 家 政 治 出
115
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
参考文献
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・ ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 が 政 府 へ 提 出 し た 2005 年 の 報 告 書
『 1995 年 ~ 2005 年 の 航 空 輸 送 実 態 報 告 書 』
ベ ト ナ ム 語 : “Báo cáo thực trạng hàng không dân dụng giai đoạn 1995-2005”
・ ベ ト ナ ム 民 間 航 空 局 投 資 計 画 部 ( 2005)『 航 空 輸 送 業 の 発 展 戦 略 2010-2025』
ベトナム語:
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・ ベ ト ナ ム 国 防 省 空 軍 局 ( 2005)『 Noi Bai 国 際 空 港 現 状 の 報 告 2005』
ベ ト ナ ム 語 : ” Báo cáo thực trạng sân bay Nội Bài 2005”
・ ベ ト ナ ム 国 防 省 空 軍 局 ( 2006)『 Gia Lam 空 港 現 状 評 価 2006』
ベ ト ナ ム 語 : ” Đánh giá thực trạng sân bay Gia Lâm 2006”
・ ベ ト ナ ム 統 計 局 ( 2004)『 統 計 年 鑑 2004』、 統 計 出 版 社
ベ ト ナ ム 語 : “Niên giám thống kê 2004”
Ⅳ.インターネット上のウェブサイト
日本語のウェブサイト
http://www.air-japan.co.jp/
・エア・ジャパンのホームページ
・大阪空港
http://www.osaka-airport.co.jp/outline.html
・関西空港
http://www.kiac.co.jp/company/history.html
・神戸空港
http://www.city.kobe.jp/cityoffice/39/030/gaiyou/index.html
・ジャパンエアチャーター株式会社
http://www.jalways.co.jp/company/
・ 全 日 本 空 輸 株 式 会 社 ANA の 年 表 詳 細 1980 年 代
http://www.ana.co.jp/ana-info/ana/ana_history/menu/index.html
・成田空港
http://www.naa.jp/jp/airport/
http://www.mlit.go.jp/koku/koku.html
・日本国土交通省航空局
http://toukei.mlit.go.jp/11/11a0excel.html
・日本航空のホームページ
http://www.jal.com/ja/ir/finance/factbook.html
・ 日 本 語 の Wikipedia
・日本総務省統計局統計研究所
・羽田空港
http://www.stat.go.jp/data/chouki/03.htm
http://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/company/
http://www.tiat.co.jp/
・「 Fuji Sankei Business i.」 の イ ン タ ー ネ ッ ト 新 聞
http://www.business-i.jp/
116
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
参考文献
英語のウェブサイト
・ Air Transport Association, Economics and Energy
http://www.airlines.org/economics/
・ Dallas Love Field, Wikipedia
・ IATA
http://en.wikipedia.org/wiki/Love_Field
http://www.iata.org/index.htm
・ Southwest Airlines Website
http://www.southwest.com
・ U.S. Department of Transportation, RITA, Bureau of Transportation Statistic
http://www.rita.dot.gov/
・ U.S Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis
http://bea.gov/index.htm
・ WTRG Economics History and Analysis – Crude Oil Prices
http://www.wtrg.com/prices.htm
ベトナム語のウェブサイト
・ベトナム資源環境省環境保護局のホームページ
http://www.nea.gov.vn/TCVNMT/ToanVan/TCVN%205949_1998amhoc.htm
・ベトナム投資計画省のホームページ
http://www.mpi.gov.vn/default.aspx?Lang=4
・ベトナム統計局
http://www.gso.gov.vn/Default.aspx?tabid=217
117
グエン
付録 1
ティ
タイン
アン/博士論文
付録
アメリカの航空輸送業の実績
All
Scheduled
RPT-M in
RFT-M in
Over-all available
RPT-M in
RFT-M in
1000
1000
T-M in 1000
1000
1000
Over-all available
T-M in 1000
Non-Scheduled
Over-all revenue
RPM(000)in
Available Seat
Over-all available
load factor
1000
miles in 1000
T-M in 1000
1954
2,006,906
311,735
4,394,457
0.572
391,524
68,755
1955
2,368,119
382,960
5,157,329
1956
2,686,222
451,000
5,898,482
0.578
381,533
119,354
0.574
1,532,329
191,731
1957
2,998,961
507,438
6,860,371
0.549
1,532,299
370,512
1958
3,168,649
676,532
7,416,772
3,023,016
501,283
7,043,213
0.539
1,411,197
1,584,247
373,558
1959
3,629,632
795,481
8,336,428
3,489,725
589,052
7,010,522
0.554
1,410,349
1,549,193
425,905
1960
3,850,303
820,778
5,024,119
3,732,481
643,340
9,000,683
0.525
1,186,849
1,405,478
382,744
1961
4,021,801
962,021
10578367
3,827,040
732,950
4,970,700
0.495
1,960,809
2,296,164
537,844
1962
4,457,824
1318437
12325910
4,209,940
898,187
11467650
0.486
2,509,439
2,891,781
858,260
1963
5,104,030
1275310
13256757
4,839,125
1026533
13256757
0.479
2,854,427
3,204,388
673,995
1964
5,957,855
1555463
16302506
5,630,350
1301487
15514043
0.479
3,305,014
3,732,540
788,463
1965
7,087,762
2180160
12440854
6,629,164
1730295
18407913
0.488
4,539,407
5,063,265
1253081
1966
8,578,085
2950026
23502456
7,736,469
2050736
20936250
0.51
8,253,530
9,126,822
2566205
1967
10924267
3437648
30785135
9,561,035
2351108
26968370
0.483
13031879
14285743
3816765
1968
12684845
3766707
37223333
11023490
2804878
33221261
0.459
16079047
17792724
4002072
1969
13996087
4327771
42779192
12197232
3240965
38663697
0.437
17284091
18871030
4115502
1970
14839278
3755438
44298170
13171274
3407552
41692872
0.436
16427352
17944228
2605301
1971
14941607
4554260
47255550
13565493
3712288
44138742
0.423
13647567
15804582
2220658
1972
16401499
5111502
48680473
15240519
4217452
45583056
0.455
11608985
11703143
2059180
1973
17435289
5182778
51443758
16195700
4736729
49019300
0.454
12395070
14542676
2424450
1974
17405131
5251383
48941526
16291846
4890026
46848194
0.479
11133244
13124271
2093327
1975
17332436
5062409
49288695
16281046
4766119
47254436
0.469
10513948
12816993
2034260
1976
19184370
6524781
51708842
17898810
5074193
49324836
0.489
12854732
15526758
2384006
1977
20608129
6974242
54789077
19321853
5385129
52284321
0.496
11205075
15605649
2504761
1978
23699762
7395423
56869894
22678158
5763214
54764538
0.542
10216147
12362470
2105353
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
付録
1979
26971040
7579883
62545447
26201506
5907731
60843819
0.549
7,695,509
9,284,386
1701627
1980
26772298
7883229
66162893
25519322
5685622
62982895
0.518
12529865
15943464
3180001
1981
26006304
7917192
64244767
24888837
5618113
61185825
0.522
11175294
13880966
3058944
1982
27243535
7807403
65769930
25964419
5424233
62400626
0.526
12790875
15819162
3369306
1983
29514326
8496903
68778295
28182910
6026755
65384562
0.547
13314626
16439041
3393732
1984
31950400
9327544
76298288
30511608
6504162
72222810
0.536
14387946
18780747
4075297
1985
35106979
9047799
80565182
33640249
6020993
76059016
0.543
14670456
17888643
4506166
1986
37895645
10987513
90243958
36655373
7344054
85139563
0.537
12375150
15637465
5106854
1987
41786983
13136973
99152795
40452656
8260199
92208517
0.547
13358573
22150055
6944190
1988
43764877
14632309
105372555
42330452
9632063
97899260
0.55
14346990
19535063
7473294
1989
44748070
16347294
109397126
43271421
10274860
100082172
0.554
14766111
19512231
9314953
1990
47223558
16403524
117112475
45792630
10546329
107559358
0.542
14309361
19835684
9558622
1991
46329643
16149708
116374506
44795483
10225199
105599057
0.539
15341552
22830463
10775454
1992
49373197
17306619
122267462
47855368
11129712
112749313
0.542
15161019
20096740
9518150
1993
50599323
19082941
126329589
48968441
11943595
115473414
0.546
16311651
22318046
10856179
1994
53750538
21772967
133898441
51938170
13792157
120797663
0.563
18124690
24909698
13100777
1995
55875407
23374677
140053033
54065620
14577522
126153760
0.563
18113598
24181783
13910923
1996
59611994
24892479
146318993
57866300
15300767
131381212
0.576
17500692
24649701
14937779
1997
61993091
27610097
152923133
60341875
17961113
137543878
0.588
16549815
23374975
15379253
1998
63638062
28015071
159009547
61945576
18115576
141695641
0.582
16953794
24945276
17313908
1999
66812474
25147844
147159879
65159648
19345933
149467775
0.581
16573013
23911314
15791353
2000
70799734
30221261
172573958
69250499
21142956
158878104
0.584
15474378
23277040
13695854
2001
66495473
27881618
170771385
65166254
20108948
157743830
0.553
13178767
20044138
13027555
2002
65338171
30507463
171894138
64107194
23242721
158502101
0.56
12922585
34736777
13392037
2003
67100137
32445917
178461797
65584983
24608358
163529614
0.56
15151529
25805179
14932182
2004
75206569
37957613
171649995
73368021
26681982
171649995
0.59
18385489
28268233
19582161
2005
79510705
39285721
200290437
77900378
26840131
178985403
0.592
16103270
25987190
21305033
グエン
付録 2
タイン
アン/博士論文
付録
アメリカの単位収入(イールド)の推移
Nominal Yield
YEAR
ティ
(in current cents per passenger mile)
U.S. CPI
Real Yield
(in 1978* cents per passenger mile)
DOM
INT
SYS
(1982-84=100)
DOM
INT
SYS
1926
12.03
N/A
N/A
17.7
44.31
N/A
N/A
1927
10.6
N/A
N/A
17.4
39.72
N/A
N/A
1928
11
N/A
N/A
17.1
41.94
N/A
N/A
1929
12
N/A
N/A
17.1
45.75
N/A
N/A
1930
8.3
N/A
N/A
16.7
32.4
N/A
N/A
1931
6.7
N/A
N/A
15.2
28.74
N/A
N/A
1932
6.1
N/A
N/A
13.7
29.03
N/A
N/A
1933
6.1
N/A
N/A
13
30.59
N/A
N/A
1934
5.9
N/A
N/A
13.4
28.71
N/A
N/A
1935
5.7
N/A
N/A
13.7
27.13
N/A
N/A
1936
5.7
N/A
N/A
13.9
26.74
N/A
N/A
1937
5.6
8.63
5.94
14.4
25.36
39.07
26.92
1938
5.18
8.34
5.5
14.4
23.45
37.76
24.9
1939
5.1
8.57
5.43
13.9
23.92
40.2
25.48
1940
5.07
8.83
5.39
14
23.61
41.12
25.11
1941
5.04
8.61
5.42
14.7
22.35
38.19
24.02
1942
5.34
8.86
5.85
16.3
21.36
35.44
23.39
1943
5.35
7.94
5.69
17.3
20.16
29.92
21.43
1944
5.34
7.83
5.65
17.6
19.78
29.01
20.95
1945
4.95
8.68
5.39
18
17.93
31.44
19.52
1946
4.63
8.31
5.21
19.5
15.48
27.79
17.41
1947
5.05
7.77
5.67
22.3
14.77
22.72
16.58
1948
5.76
8.01
6.3
24.1
15.58
21.67
17.05
1949
5.78
7.72
6.23
23.8
15.83
21.15
17.07
1950
5.56
7.28
5.94
24.1
15.04
19.7
16.06
1951
5.61
7.1
5.91
26
14.07
17.8
14.81
1952
5.57
7.01
5.85
26.5
13.7
17.25
14.39
1953
5.46
6.84
5.72
26.7
13.33
16.7
13.96
1954
5.41
6.76
5.66
26.9
13.11
16.38
13.72
1955
5.36
6.66
5.6
26.8
13.04
16.2
13.63
1956
5.33
6.68
5.58
27.2
12.78
16.01
13.38
1957
5.31
6.55
5.54
28.1
12.32
15.2
12.86
1958
5.64
6.46
5.8
28.9
12.72
14.57
13.09
1959
5.88
6.29
5.96
29.1
13.17
14.09
13.35
1960
6.09
6.35
6.14
29.6
13.41
13.99
13.53
1961
6.28
6.08
6.24
29.9
13.69
13.26
13.6
1962
6.45
5.87
6.31
30.2
13.93
12.67
13.63
1963
6.17
5.82
6.09
30.6
13.15
12.4
12.98
1964
6.12
5.45
5.95
31
12.87
11.46
12.52
グエン
ティ
タイン
アン/博士論文
付録
1965
6.06
5.29
5.87
31.5
12.54
10.95
12.14
1966
5.83
5.16
5.67
32.4
11.73
10.38
11.41
1967
5.64
5.01
5.49
33.4
11.01
9.78
10.73
1968
5.61
4.95
5.46
34.8
10.51
9.27
10.23
1969
5.79
5.18
5.68
36.7
10.29
9.2
10.09
1970
6
5.01
5.79
38.8
10.08
8.42
9.73
1971
6.33
5.08
6.06
40.5
10.19
8.18
9.76
1972
6.4
4.98
6.08
41.8
9.98
7.77
9.49
1973
6.63
5.32
6.34
44.4
9.74
7.81
9.32
1974
7.52
6.39
7.29
49.3
9.95
8.45
9.64
1975
7.69
7.17
7.59
53.8
9.32
8.69
9.2
1976
8.16
7.15
7.97
56.9
9.35
8.19
9.13
1977
8.61
7.61
8.42
60.6
9.26
8.19
9.06
1978
8.49
7.49
8.29
65.2
8.49
7.49
8.29
1979
8.96
7.66
8.7
72.6
8.05
6.88
7.81
1980
11.49
8.79
10.99
82.4
9.09
6.96
8.7
1981
12.74
9.47
12.34
90.9
9.14
6.79
8.85
1982
12.02
9.57
11.77
96.5
8.12
6.47
7.95
1983
12.05
9.76
11.62
99.6
7.89
6.39
7.61
1984
12.8
9.38
12.11
103.9
8.03
5.89
7.6
1985
12.21
9.27
11.66
107.6
7.4
5.62
7.07
1986
11.08
9.63
10.93
109.6
6.59
5.73
6.5
1987
11.45
9.74
11.11
113.6
6.57
5.59
6.38
1988
12.31
10.4
11.88
118.3
6.78
5.73
6.55
1989
13.08
10.36
12.43
124
6.88
5.45
6.54
1990
13.43
10.83
12.76
130.7
6.7
5.4
6.37
1991
13.24
11.32
12.74
136.2
6.34
5.42
6.1
1992
12.85
11.56
12.51
140.3
5.97
5.37
5.81
1993
13.74
11.28
13.13
144.5
6.2
5.09
5.92
1994
13.12
11.18
12.65
148.2
5.77
4.92
5.57
1995
13.52
11.13
12.92
152.4
5.78
4.76
5.53
1996
13.76
10.92
13.05
156.9
5.72
4.54
5.42
1997
13.97
10.96
13.18
160.5
5.68
4.45
5.35
1998
14.08
10.38
13.11
163
5.63
4.15
5.24
1999
13.96
10.06
12.94
166.6
5.46
3.94
5.06
2000
14.57
10.59
13.51
172.2
5.52
4.01
5.12
2001
13.25
10.11
12.42
177.1
4.88
3.72
4.57
2002
12
9.86
11.45
179.9
4.35
3.57
4.15
2003
12.29
10.14
11.78
184
4.35
3.59
4.17
2004
12.03
10.6
11.67
188.9
4.15
3.66
4.03
2005
12.29
11.16
12
195.3
4.1
3.73
4.01
2006
13
11.85
12.69
201.6
4.2
3.83
4.1
グエン
付録 3
ティ
タイン
アン/博士論文
付録
日本航空会社の国内線・国際線の輸送実績
有償旅客キ
飛行距離
便数
1953 年
1954 年
1955 年
1956 年
1957 年
1958 年
メートル)
間)
有償旅客数
キロメート
(1000 座席キロ
有償座席利
ル)
メートル)
用率(%)
貨物
超過手荷物
郵便
66
418
1009
808
4639
16023
28.95
9.8
1.2
16
国内線
4159
3268
12915
233381
147430
198889
74.13
558
65
480
合計
4225
3686
13925
234189
152069
214912
70.76
568
66
496
国際線
471
3318
7878
12502
75181
154046
48.8
195
17
138
国内線
5002
3926
15167
269735
176983
240099
73.71
675
74
540
合計
5473
7244
23045
282237
252164
394145
63.98
870
91
678
国際線
640
4534
10897
23142
135243
216255
62.54
419
30
215
国内線
6081
4747
17303
291918
202226
284219
71.15
959
63
648
合計
6721
9282
28200
315060
337469
500474
67.43
1377
93
863
国際線
843
5759
13833
35395
198033
282396
70.13
661
61
314
国内線
6407
5221
19348
345587
242413
313378
77.35
1402
66
727
合計
7250
10979
33181
380982
440446
595774
73.93
2064
127
1041
国際線
1050
7328
17538
45833
241341
363149
66.46
778
65
423
国内線
7636
6046
21585
377780
266695
362093
73.65
1651
80
883
合計
8686
13374
39124
423613
508036
725242
70.05
2430
145
1306
国際線
1459
10579
23963
72374
363891
562080
64.74
1164
99
600
合計
国際線
国内線
8768
7007
24603
398242
290210
431115
67.32
2100
71
958
10227
17586
48565
470616
654101
993195
65.86
3264
170
1558
1771
12531
28181
85552
420613
663079
63.43
1863
101
820
9213
7353
25772
519420
368263
483298
76.2
3214
92
1053
10984
19884
53953
604972
788876
1146377
68.81
5078
193
1873
国際線
2051
13698
26454
112036
556476
935922
59.46
2270
122
952
国内線
13058
10249
33741
740450
519980
691562
75.19
4162
102
1271
合計
15109
23947
60195
852486
1076456
1627484
66.14
6432
225
2224
合計
1960 年
飛行時間(時
有効座席キロ
国際線
国内線
1959 年
(1000 キロ
有償貨物重量(トン)
ロ(1000 人
グエン
1961 年
1962 年
1963 年
1964 年
1965 年
1966 年
1967 年
1968 年
1969 年
1970 年
ティ
タイン
アン/博士論文
付録
国際線
2345
16033
24806
150577
786335
1338349
58.75
3373
144
1054
国内線
18327
14345
45286
1057293
745419
978862
76.15
7678
111
1467
合計
20672
30378
70092
1207870
1531754
2317211
66.1
11051
255
2521
国際線
2612
19064
25575
196472
970957
1794251
54.11
3797
165
1269
国内線
21434
17273
46981
1237789
885195
1394243
63.49
10009
111
1564
合計
24046
36337
72556
1434261
1856152
3188494
58.21
13885
276
2833
国際線
2809
21649
27646
259738
1315904
2229162
59.03
4373
327
1540
国内線
20061
16281
37435
1754277
1248051
1612784
77.38
13011
148
1972
合計
22870
37930
65081
2014015
2563955
3841946
66.74
17384
475
3512
国際線
3555
25958
32586
319502
1612202
2989155
53.94
5072
384
2170
国内線
22764
18422
40920
1949251
1395116
1910789
73.01
14896
149
2047
合計
26319
44380
73506
2268753
3007318
4899944
61.37
19968
533
4217
国際線
4575
34475
43439
443742
2102643
4187884
50.21
9146
468
2375
国内線
23546
18588
37723
1556846
1140954
2024906
56.35
14825
120
2195
合計
28121
53063
81162
2000588
3243597
6212790
52.21
23970
589
4570
国際線
6393
44983
57410
644526
2942207
5397454
54.51
14293
632
2812
国内線
23587
20402
34432
1736302
1345231
2481980
54.2
21113
147
3565
合計
29980
65386
91843
2380828
4287438
7879434
54.41
35406
779
6377
国際線
8800
57523
73776
801381
3652026
6709870
54.43
19060
969
3144
国内線
26506
23054
38628
2429069
1880782
2828788
66.49
26600
217
5853
合計
35306
80577
112404
3230450
5532808
9538658
58
45659
1186
8997
国際線
11618
77911
100227
1031393
4669845
8991132
51.94
27789
1340
3570
国内線
26886
24102
39478
2932029
2270452
3000853
75.66
30416
322
6397
合計
38504
102013
139704
3963422
6940297
11991985
57.87
58206
1662
9967
国際線
14465
95888
124504
1326845
6077169
11560267
52.57
37839
1391
4108
国内線
33773
29758
50988
3829427
2938753
3667342
80.13
45934
264
7117
合計
48238
125647
175491
5156272
9015922
15227609
59.21
83773
1654
11224
国際線
15765
91319
125940
1627737
6811929
12387989
55
44334
1365
4630
国内線
37862
27995
58548
4817015
3102813
3960601
78.3
54677
234
7226
グエン
1971 年
1972 年
1973 年
1974 年
1975 年
1976 年
1977 年
1978 年
1979 年
1980 年
ティ
タイン
アン/博士論文
付録
合計
53627
119314
184488
6444752
9914742
16348590
60.6
99011
1599
11856
国際線
19077
106060
146896
1971462
8033405
16113937
49.9
67341
1350
5027
国内線
43384
27968
58626
5256421
3580926
5159654
69.4
58358
201
8266
合計
62461
134028
205522
7227883
11614331
21273591
54.6
125699
1551
13293
国際線
18408
105496
145057
2285612
10616797
18492074
57.4
77004
1103
5283
国内線
42902
30891
62283
5762627
4318942
6091173
70.9
75410
314
9340
合計
61310
136387
207340
8048239
14935739
24583247
60.8
152414
1417
14623
国際線
18001
105977
143811
2584034
12427596
20146063
61.7
94549
1124
5252
国内線
43110
30649
61783
6439800
4880949
6458890
75.6
94268
326
10526
合計
61111
136626
205594
9023834
17308545
26604953
65.1
188817
1450
15778
国際線
16833
106643
147503
2287682
12643347
21260117
59.5
88998
773
5734
国内線
41199
30388
62636
6909844
5279450
8608901
61.3
80084
346
9831
合計
58032
138031
210139
9197526
17922797
29869018
60
169082
1119
15565
国際線
18790
114010
155507
2538051
13750931
23378396
58.8
121096
1236
7050
国内線
39350
31765
61779
6562610
5467851
9744082
56.1
70888
347
11265
合計
58140
145775
217286
9100661
19218782
33122478
58
191984
1583
18315
国際線
19331
116966
157615
2925374
15256980
24509571
62.2
128318
1455
7836
国内線
37710
29332
57547
7001083
5397943
9213572
58.6
74355
229
9240
合計
57041
146298
215162
9926457
20654923
33723143
61.2
202673
1684
17076
国際線
21147
124514
167484
3289953
16884139
26801773
63
137769
1582
8502
国内線
36135
29607
56545
8179955
6395783
9786753
65.4
82528
275
9895
合計
57282
154121
224029
11469908
23279922
36588526
63.6
220297
1857
18397
国際線
24287
137873
184873
3912347
19745423
30183475
65.4
163242
1851
9337
国内線
38671
32628
61326
8839525
7104680
10663850
66.6
90903
185
9778
合計
62958
170501
246197
12751872
26850103
40847325
65.7
254145
2036
19115
国際線
26818
1.5E+08
201817
4234012
22009947
33555964
65.6
198984
1587
10094
国内線
39506
33316053
62611
9446840
7617144
11457336
66.5
113054
232
11219
合計
66324
1.84E+08
264428
13680852
29627091
45013300
65.8
312038
1819
21313
国際線
26515
150613
200953
4324963
22422429
36642569
61.2
219164
2111
11263
グエン
1981 年
1982 年
1983 年
1984 年
1985 年
1986 年
1987 年
1988 年
1989 年
ティ
タイン
アン/博士論文
付録
国内線
38520
32678
61174
8741243
7176119
11995683
59.8
115304
129
12310
合計
65035
183292
262127
13066206
29598539
48638252
60.9
334467
2241
23573
国際線
27448
152709
204082
4800038
25587852
39609122
64.6
232914
2352
11087
国内線
36412
31131
58147
8737792
7246335
12131084
59.7
124536
124
12584
合計
63860
183840
262229
13537830
32834187
51740206
63.5
357450
2476
23671
国際線
27266
150648
200627
4896191
26066264
40192317
64.9
241778
2865
11919
国内線
35425
30402
56295
8212977
6859366
12137320
56.5
137296
117
15616
合計
62691
181050
256922
13109168
32925630
52329637
62.9
379074
2982
27535
国際線
27220
150109
198582
4917481
26374885
39009551
67.6
284739
2414
12453
国内線
33752
28882
53471
8294622
6909579
12019655
57.5
145936
110
19464
合計
60972
178991
252053
13212103
33284464
51029206
65.2
430675
2524
31917
国際線
28576
157827
207984
5448196
29516651
40369552
73.1
304672
2796
13204
国内線
34592
29818
55099
9002373
7507869
12887263
58.3
155912
99
25412
合計
63168
187645
262993
14450569
37024520
53256815
69.5
460584
2896
38616
国際線
30257
164555
216493
5696688
30583028
42970712
71.2
319238
2684
13652
国内線
35269
30509
56286
8062764
6811859
13020563
52.3
166057
73
27445
合計
65526
195064
272779
13759452
37394887
55991275
66.8
485296
2757
41097
国際線
31659
171419
224587
6176377
32446685
45763776
70.9
366364
2575
13650
国内線
38217
32521
60709
9373911
7881173
13544936
58.2
181343
80
33645
合計
69876
203940
285296
15550288
40327858
59308712
68
547707
2654
47015
国際線
33544
181642
237295
6978798
36630463
49613064
73.8
411565
3067
13952
国内線
41930
35520
66603
11031119
9300362
14657757
63.5
208335
66
40012
合計
75474
217161
303898
18009917
45930825
64270821
71.5
619900
3134
53964
国際線
36519
195561
255074
7762242
40493247
53714420
75.4
440420
3680
14772
国内線
43481
36679
69023
11925523
10039337
15371435
65.3
226548
76
46153
合計
80000
232240
324097
19687765
50532584
69085855
73.1
666968
3756
60925
国際線
37905
203446
265389
8195320
42825555
57359938
74.7
456034
4143
16471
国内線
45266
37977
71458
13516994
11423188
15698830
72.8
239609
94
55060
合計
83171
241423
336847
21712314
54248743
73058768
74.3
695643
4237
71531
グエン
1990 年
1991 年
1992 年
1993 年
196706
256225
7905802
40144179
55310483
72.6
440549
4400
17772
国内線
47464
39886
75003
14412774
12218825
16218674
75.3
248341
98
63202
合計
85014
236592
331228
22318576
52363004
71529157
73.2
688890
4498
80974
国際線
39902
207137
270085
8332792
41892087
57709732
72.6
412038
4159
18545
国内線
52490
44216
83373
14963821
14773923
17769559
71.9
243186
111
65014
合計
92392
251353
353459
23296613
54666010
75479291
72.4
655224
4271
83560
国際線
41642
211588
275666
8166361
41332008
60808800
68
419474
4025
19424
国内線
56032
46745
87839
15106487
12855756
19421467
66.2
236630
158
62011
合計
97674
258333
363505
23272848
87764
80230267
67.5
656104
4183
81435
国際線
41807
212702
277638
8528518
43602337
64125855
68
436615
3390
19304
国内線
61186
50465
95550
15594183
13202435
21419033
61.6
243420
109
56964
102993
263167
373187
24144701
56804772
85544888
66.4
680034
3499
76267
国際線
43767
232792
302675
9439766
50002207
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19712
国際線
国内線
合計
1996 年
国際線
国内線
合計
1997 年
国際線
国内線
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1999 年
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合計
1998 年
アン/博士論文
付録
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合計
1995 年
タイン
国際線
合計
1994 年
ティ
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359089
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839646
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71.5
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国内線
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合計
2000 年
国際線
国内線
合計
ティ
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アン/博士論文
付録
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929244
3803
70629
グエン ティ タイン アン/博士論文
付録
付録 4
日本航空会社 JA Lの従業員数の推移
現地雇用
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付録 6
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アン/博士論文
付録
ベトナムの航空輸送業の総収入と総費用(百万ドン)
1995
I. 総収入
1. 公益機関
・ 地域空港管理機関
北部
中部
南部
・ 運航管理センター
2. ベトナム航空会社
II. 総費用
1. 公益機関
・ 地域空港管理機関
北部
中部
南部
・ 運航管理センター
2. ベトナム航空会社
III. 予算への貢献
1. 公益機関
・ 地域空港管理機関
北部
中部
南部
・ 運航管理センター
2. ベトナム航空会社
1996
1997
1998
1999
2000
5297757
6421219
7265079
7757647
8260849
9893221
11986092
2001
14228414
2002
14842788
2003
20357215
2004
22197530
2005
830400
957219
1104079
1308647
1387849
1591221
1902072
2307614
2345698
2967245
3193720
330100
393413
458696
572316
629381
748423
929043
1207345
1258543
1606166
1795360
56300
69876
85215
115785
147202
171937
223363
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384745
543132
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89996
94326
120950
132659
123611
162821
165753
209800
243373
284069
374121
392183
482160
584730
725141
750187
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1017000
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563806
645383
736331
758468
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973029
1100269
1087155
1361079
1398360
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6449000
6873000
8302000
10084020
11920800
12497090
17389970
19003810
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12074426
13173570
18297239
19820595
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615368
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