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スクイーズ・アウト(少数株主排除)に おける税務上の取扱い及び留意点
Selection C A S E 2 スクイーズ・アウト(少数株主排除)に おける税務上の取扱い及び留意点 税理士法人プライスウォーター ハウスクーパース 税理士 UESTION 駒井 栄次朗 スクイーズ・アウト(少数株主排除)における 関係当事者の課税関係について 当社(以下「A 社」)は発行済株式数の ② TOB に応じなかった少数株主につい 40 %を保有している T 社との間で、両社 ては、スクイーズ・アウト(T 社の少数 の強みを最大限に活用したシナジー追求の 株主を排除)を実施する。 観点から、次の手順で T 社の 100 %子会 スクイーズ・アウトには複数の手法があ 社化又は合併による統合を考えています。 ① TOB により、T 社の株式を買い増し を教えてください。 する。 〔TOB実施前〕 その他株主 りますが、それぞれに応じた関係当事者 (A 社・ T 社少数株主・ T 社)の課税関係 〔TOB実施後、 〔スクイーズ・アウト後 スクイーズ・アウト前〕 (100%子会社化)〕 TOBに応じな かった少数株主 A社 40% 60% TOBに応じな かった少数株主 A社 A社 100% (100−X)% X% T社 T社 T社 〔スクイーズ・アウト後(合併)〕 TOBに応じな かった少数株主 1 参 考 法法2十二の八・ 十二の十六 24①②④ 61の2③・⑬三 62 法令8①五 23③八・九・十 法基通2-3-1、 2-3-25 所法25①四・④ 57の4③三 所令61①八・九・十 所基通57の4-2 会社法116①二 171①、 172① 234①②③④ 466、 749①二 768①二、785 34 zeimu QA 回答の要旨 一般的にスクイーズ・アウトは、以 たがって、それぞれ非適格株式交換及び非適 格合併に該当するものとして、課税関係を整 下の三つの手法により行われます。 理・解説しています。 ① 全部取得条項付種類株式 2 ② 金銭交付の株式交換 ③ 金銭交付の合併 A社 T社 全部取得条項付種類株式によるスクイー ズ・アウト (1)手法の概要 各手法に応じた関係当事者の課税関係は、 この手法では、まず、株主総会特別決議に 次頁〔表 1〕のように整理できます。なお、 より T 社の定款を変更し、株式の全てに「全 上記の各手法のうち、②及び③は、法人税法 部取得条項」を付します。その後、同じく株 における適格要件の一つである対価要件を充 主総会特別決議により全部取得条項を発動さ 足しないため、これらの手法による合併・統 せ、T 社は全株主から株式を取得し、その対 合は、非適格組織再編に該当することとなり 価として「新株」を交付します(会社法 171 ます(法法2十二の八、2十二の十六)。し ①、466) 。 2011.4 CASE 2 スクイーズ・アウト(少数株主排除)における税務上の取扱い及び留意点 〔表1〕スクイーズ・アウトの手法に応じた関係当事者の課税関係 ① 全部取得条項付種類株式 A社 T社 少数株主 端数部分について、譲渡損益 課税関係は生じない の発生 原則 譲渡損益の 発生 会社法 172 条 の価格の申立て 譲渡損益の 発生 会社法 116 条 の買取請求 みなし配当 と譲渡損益 の発生 課税関係は生じない ・みなし配当の発生 ・資産調整勘定(又は負債調 整勘定)の発生 原則 譲渡損益の 発生 原則 みなし配当 と譲渡損益 の発生 会社法 785 条 の買取請求 みなし配当 と譲渡損益 の発生 会社法 785 条 の買取請求 譲渡損益の 発生 一定の資産について時価評価 資産・負債の移転に伴う譲渡 損益の発生 た株式の対価として、その取得をする法人の い、A 社には1株以上の新株を交付しますが、 株式以外の資産が交付されないこと、とされ 少数株主には1株未満の端数を交付すること ています(法法 61 の2⑬三、所法 57 の4③ で、結果として端数処理により金銭を交付し 三) 。 ます(会社法 234 ①②)。金銭が交付される 具体的には、普通株式の全てが全部取得条 少数株主は、T 社の株主ではなくなることに 項付種類株式に変換されるため、交付を受け よりスクイーズ・アウトされます。なお、1 た株式と譲渡をした株式との価額は同額と考 株未満の株式は、競売、売却又は T 社の買い えられることから①の要件は充足し、また、 取りにより金銭化されます(会社法 234 ①② 全部取得条項付種類株式のみが交付されるた ③④)。 め②の要件も充足すると考えられます。 ① A 社 CASE 2 このとき、新株を交付する比率の調整を行 (2)税務上の取扱い Selection Q&A T社 ② 株式交換(非適格株式交換) ③ 合併(非適格合併) また、上記①②の要件を充足している場合 は、「自己株式の取得」であっても、みなし 上記の手法に従うと、A 社は、全部取得条 配当が発生する自己株式の取得事由からは除 項の発動により自らが保有する T 社株式を T かれています(法法 24 ①四、所法 25 ①四) 。 社に譲渡し、その対価として1株以上の新株 次に、端数部分です。一定の比率調整がさ を取得します。この段階では、“A 社は T 社 れることで、A 社は整数株の新株だけを取得 株式を譲渡しているため、譲渡損益を認識す することは少なく、同時に端数部分が生じま るのかどうか”、と“自己株式の取得に該当 す。この端数部分については、端数処理によ するため、「みなし配当」を認識するかどう り金銭が交付されますので、譲渡損益を認識 か”が論点となります。 します(法基通2-3-25、所基通 57 の4-2) 。 これらの論点については、一定の要件のも この端数処理により金銭が交付されること と譲渡損益は認識されず、また、みなし配当 から、先ほどの「譲渡損益を認識しない」こ も認識されません。一定の要件とは、①交付 との2番目の要件である「譲渡をした株式の を受けた株式が、譲渡をした株式の価額とお 対価として、その取得をする法人の株式以外 おむね同額となっていることと、②譲渡をし の資産が交付されないこと」を充足しないの 2011.4 駒井 栄次朗 KOMAI eijiro 税理士。2006年11月税 理士法人プライスウォ ーターハウスクーパー ス入社。 日系・外資系企 業の申告書作成のほか、 M & A、グループ内組 織再編、事業再生及び 事業承継等に関わる税 務コンサルティング業 務に従事。 zeimu QA 35 Selection C A S E 2 CASE 2 スクイーズ・アウト(少数株主排除)における税務上の取扱い及び留意点 ではないかという懸念が生じます。しかし、 の保有する株式を買取請求することができま この点については、法人税基本通達2-3-1 す(会社法 116 ①二)。この買取りが行われ (取得条項付株式の取得等に際し1株未満の た場合は、みなし配当が発生する「自己株式 株式の代金を株主等に交付した場合の取扱 の取得」となることから対価のうち一定部分 い)において「1株未満の株式の合計数に相 はみなし配当とされ、対価からみなし配当を 当する数の株式を譲渡し、又は買い取った代 差し引いた残りの部分と取得価額との差額で 金として交付されたものであるときは、その 譲渡損益が認識されます。 この取扱いは、②、③と課税関係が異なり 1株未満の株式に相当する株式を交付したこ ととなることに留意する」とされており、金 ますので留意が必要となります。 銭交付ではなく、株式交付と認識されること ⑤ T 社 T 社においては、少数株主が排除されるだ から、この要件は充足すると考えられます (所基通 57 の4-2においても同様の通達が置 かれています。 ) 。 1 なお、この端数部分については、みなし配 当の適用から除外されていることから(法法 3 金銭交付の株式交換 (1)手法の概要 会社法においては、対価の柔軟化により、 24 ④、法令 23 ③九、所法25 ④、所令 61 ①九) 、 株式交換の対価として金銭を交付することも 譲渡損益のみの認識となります。 可能です(会社法 768 ①二)。本稿では、A 社 ② T 社少数株主 T 社少数株主は、A 社の端数部分と同様で (株式交換完全親法人)と T 社(株式交換完 全子法人)との間で株式交換契約を締結し、 みなし配当は認識せず、譲渡損益のみ認識し A 社が少数株主から T 社株式を取得すること ます。 を前提にします。その際、通常であれば株式 ③ T 社少数株主(全部取得条項付種類株式 交換対価として少数株主には A 社株式が交付 の取得の価格の決定の申立てをした場合) されますが、スクイーズ・アウトを目的とす T 社少数株主は、T 社が全部取得条項を発 る場合、金銭を交付することで少数株主を除 動させる株主総会に先立って、その全部取得 外することになります。 条項付種類株式の取得に反対し、裁判所に なお、「金銭交付の株式交換に代えて、T 「全部取得条項付種類株式の取得の価格の決 社の株主に端数となる A 社株式を交付する」 定」の申立てをすることができます(会社法 という手法も考えられますので、下記(2) の 172 ①)。裁判所の決定により、T 社少数株主 ⑤に要点を記します。 が T 社株式を譲渡した場合には、T 社にとっ て「自己株式の取得」ではあるものの、みな し配当が適用される事由からは除外されてお (2)税務上の取扱い ① A 社 上記の手法に従うと、A 社は、株式交換に り(法法 24 ①四、法令 23 ③十、所法 25 ①四、 より少数株主から T 社株式を取得し、その対 所令 61 ①十)、T 社少数株主においては譲渡 価として金銭を交付するだけの取引となりま 損益のみを認識することとなります2。 すので、特段の課税関係は生じません。 ④ ② T 社少数株主 T 社少数株主(反対株主として買取請求 を行った場合) また、T 社少数株主は、T 社において全部 取得条項を付す定款変更に際して反対し、そ 36 zeimu QA けであり、特段の課税関係は生じません。 2011.4 T 社少数株主は、保有する T 社株式を A 社 に譲渡し、その対価として金銭を取得するた め、譲渡損益を認識することとなります。 CASE 2 ③ スクイーズ・アウト(少数株主排除)における税務上の取扱い及び留意点 T 社少数株主(反対株主の買取請求を行 に端数となる A 社株式を交付することも考え られます。この端数については、全部取得条 株式交換に反対した T 社少数株主は、株式 項付種類株式の手法と同様に、端数処理の結 交換が行われるにあたって、株式交換完全子 果として金銭が交付されることとなりますの 会社である T 社に自己の有する株式を公正な で、端数であるものの株式交付となり対価要 価格で買い取ることを請求する権利がありま 件を充足するのか、又は金銭交付となり対価 す(会社法785「反対株主の株式買取請求権」 ) 。 要件を充足しないのかが論点となります。こ この買取りが行われた場合は、みなし配当が の点については、法人税基本通達1-4-2に 発生する「自己株式の取得」となることから おいて「1株未満の株式の合計数に相当する 対価のうち一定部分はみなし配当とされ、対 数の株式を譲渡し、又は買い取った代金とし 価からみなし配当を差し引いた残りの部分と て交付されたものであるときは、その1株未 取得価額との差額で譲渡損益が認識されます。 満の株式に相当する株式を交付したこととな この取扱いは、②と課税関係が異なりますの ることに留意する。」とされており、金銭交 で留意が必要となります。 付ではなく、あくまで端数である A 社株式の ④ T 社 交付となります。 金銭交付の株式交換は、その対価が金銭で しかし、同通達のただし書きにおいては、 「ただし、その交付された金銭が、その交付 式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法 の状況その他の事由を総合的に勘案して実質 人の株式(又は株式交換完全支配親法人株式) 的にその株主等に対して支払う株式交換の対 のいずれか一方の株式以外の資産が交付され 価であると認められるときは、その株式交換 ないこと」という対価要件を充足せず、非適 の対価として金銭が交付されたものとして取 格株式交換となります(法法2十二の十六)。 り扱う」とされています。このただし書きに 非適格株式交換の場合は、T 社の保有する一 より端数処理による金銭交付の株式交換は、 定の資産を時価評価する必要が生じますので、 対価要件を充足しない可能性が生じることと 留意が必要となります 。 なり、慎重な検討が必要と考えられます。 ⑤ 端数処理による金銭交付の株式交換 4 金銭交付の株式交換に代えて、T 社の株主 金銭交付の合併 (1)手法の概要 法人税基本通達2-3-1及び所基通 57 の4-2の そのことをもって上記通達のただし書きの場合に 該当することにはならないと考えられます。」と ただし書きにおいて「ただし、その交付された金 銭が、その取得の状況その他の事由を総合的に勘 いう見解も示されています(「租税研究」2008 年 4月号、全部取得条項付種類株式をめぐる課税上 【脚注】 1 案して実質的にその株主等に対して支払うその取 得条項付株式の取得の対価であると認められると きは、その取得の対価として金銭が交付されたも のとして取り扱う」とされているため、このただ し書きの適用がある場合は、譲渡損益及びみなし 配当が生じることとなります。この点については、 「会社の経営権を 100 %支配するために、少数株主 に対して、全部取得条項付種類株式の取得の対価 として一株に満たない端数のみの割当てが行われ、 CASE 2 あることから適格株式交換の要件である「株 3 Selection Q&A った場合) の取扱い(窪田悟嗣))。 2 会社法 172 条の全部取得条項付種類株式の取得 の価格の決定の申立てについては、レックス・ホ ールディングス全部取得条項付株式取得決議反対 株主の株式取得価格決定申立事件がある(平成 21 年5月 29 日最高裁判所)。 3 一定の資産とは、固定資産、土地、有価証券、 金銭債権及び繰延資産で、含み損益が1千万円以 会社法第 234 条の規定に即して、当該一株に満た 上(1千万円は資本金等の額の1/2に相当する 金額といずれか少ない金額)の資産とされていま ない端数に相当する金銭が交付されたとしても、 す(法法62 の9)。 2011.4 zeimu QA 37 Selection C A S E CASE 2 2 スクイーズ・アウト(少数株主排除)における税務上の取扱い及び留意点 会社法においては、対価の柔軟化により、 として金銭を取得するため、A 社と同様にみ 合併の対価として金銭を交付することも可能 なし配当が生じます。また、対価からみなし となっています(会社法 749 ①二)。本稿で 配当を差し引いた部分と取得価額との差額で は、A 社(合併法人)と T 社(被合併法人) 譲渡損益が認識されます。 との間で合併契約を締結することを前提とし ③ T 社少数株主(反対株主として買取請求 ます。この手法によると、通常であれば合併 を行った場合) 対価として少数株主に A 社株式が交付される 合併に反対した T 社少数株主は、合併が行 ところを、金銭を交付することで少数株主が われるにあたって、被合併法人である T 社に スクイーズ・アウトされます。 自己の有する株式を公正な価格で買い取るこ とを請求する権利があります(会社法 785 (2)税務上の取扱い ① A 社 「反対株主の株式買取請求権」)。この買取り 金銭交付の合併は、その対価が金銭である が行われた場合は「自己株式の取得」ではあ ことから、適格合併の要件である「被合併法 るものの、みなし配当が適用される事由から 人の株主に合併法人の株式(又は合併親法人 は除外されており(法令 23 ③八、所令 61 ① 株式)のいずれか一方の株式以外の資産が交 八)、対価と取得価額との差額で譲渡損益が 付されないこと」という対価要件を充足せず、 認識されます。この取扱いは、②と課税関係 非適格合併となります(法法2十二の八)。 が異なりますので留意が必要となります。 この場合は税務上、A 社が保有している T ④ T 社 社株式(抱合株式)にも現金が交付されたも 金銭交付の合併は、前述のとおり非適格合 のとみなされ(法法 24 ②)、非適格合併であ 併となります。したがって、T 社では資産・ ることから A 社においてはみなし配当が発生 負債を時価で譲渡したものとして譲渡損益課 します(法法 24 ①)。このとき、抱合株式に 税が行われます(法法 62)。また、T 社に繰 係る譲渡損益は認識されず(法法 61 の2③)、 越欠損金がある場合、A 社に引き継ぐことは 資本金等の額の加減算項目となります(法令 できませんので留意が必要となります。 8①五、平成22 年度税制改正) 。 ⑤ 端数処理による金銭交付の合併 また、非適格合併であることから A 社にお 金銭交付の合併に代えて、T 社の株主に端 いては、金銭の交付と共に税務上ののれんで 数となる A 社株式を交付することも考えられ ある「資産調整勘定(又は負債調整勘定)」 ます。この場合は、「対価が株式なのか金銭 が生じ、これは5年間で損金算入(又は益金 なのか」という前述 3 の⑤における「株式交 算入)されます。 換の適格性判定における対価要件」と全く同 ② T 社少数株主 じ議論が生じますので、慎重な検討が必要と T 社少数株主は、保有する T 社株式の対価 考えられます。 コメント 本稿では触れていませんが、A 社が連結 納税を適用していた場合、T 社を 100 %子 38 zeimu QA 2011.4 ち込むことはできません。 スクイーズ・アウトの場面においては、 会社化した時点において、原則として T 社 株主の課税関係だけでなく、各社の税務上 の一定の資産に時価評価が必要となり、ま の影響を加味して実行することが必要とな た、法人税上の繰越欠損金は連結納税に持 ります。