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マイクロ波電力伝送による小型無人航空機の飛行

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マイクロ波電力伝送による小型無人航空機の飛行
社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
WPT2011-33 (2012-03)
マイクロ波電力伝送による小型無人航空機の飛行能力の検証
○平岡 京1
福田 敬大2 長濱 章仁3
三谷 友彦5
鳴海 智博4 松本 剛明4
篠原 真毅5 米本 浩一6
1 九州工業大学工学部機械知能工学科〒804-8550 福岡県北九州市戸畑区仙水町 1-1
2 九州工業大学大学院工学府機械知能工学専攻
3 京都大学大学院工学府電気電子工学専攻 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄
4, 6 九州工業大学工学研究院機械知能工学研究系宇宙工学部門
5 京都大学生存圏研究所生存圏電波応用分野
E-mail: 1, 2 {h104098k, j344145k}@tobata.isc.kyutech.ac.jp
3, 5 {nagahama, mitani, shino}@rish.kyoto-u.ac.jp
4, 6 {narumi, matumoto, yonemoto}@mech.kyutech.ac.jp
あらまし 九州工業大学では,マイクロ波電力伝送を利用した火星飛行探査システムの研究に取り組んでいる.
本研究では,マイクロ波電力伝送用レクテナの製作を行い,京都大学生存圏研究所所有の METLAB 電波暗室内に
おいて性能評価試験および小型実験機 MAV (Micro Aerial Vehicle) による飛行実験を行った.まず,レクテナ間の干
渉を調べるため受信電力評価試験を行った.次に,飛行実験のための MAV を制作するため,機体諸元を仮定して
搭載するレクテナの配置・個数を検討し,飛行に必要な電力を得られる構成を検討した.飛行実験では,手動トラ
ッキングによりマイクロ波電力伝送による直線飛行に成功し,MAV の飛行能力を実証した.
キーワード
マイクロ波電力伝送,火星飛行探査,レクテナ
Flight Capability Verification of a Micro Aerial Vehicle
that is Propelled by Microwave Power Transmission
Kei HIRAOKA1, Keita FUKUDA2, Akihito NAGAHAMA3, Tomohiro NARUMI4,
Takaaki MATUMOTO4, Tomohiro MITANI5, Naoki SHINOHARA5, and Koichi YONEMOTO6
1,2 Department of Mechanical and Control Engineering, Kyushu Institute of Technology, 1-1 Sensui, Tobata,
Kitakyushu, Fukuoka, 804-8550 Japan
3,5 Research Institute for Sustainable Humanosphere, Kyoto University, Gokajo, Uji, Kyoto, 611-0011 Japan
4,6 Space Engineering Section, Department of Mechanical and Control Engineering, Faculty of Engineering,
Kyushu Institute of Technology
E-mail: 1, 2 {h104098k, j344145k}@tobata.isc.kyutech.ac.jp
3, 5 {nagahama, mitani, shino}@rish.kyoto-u.ac.jp
4, 6 {narumi, matumoto, yonemoto}@mech.kyutech.ac.jp
Abstract Kyushu Institute of Technology makes research on the Mars flight exploration flight system utilizing microwave
power transmission. This study aims at design, prototype production and performance tests of rectenna, and finally flight
experiments using a small fixed wing type airplane MAV (Micro Aerial Vehicle). The flight experiment was conducted in the
anechoic radio wave chamber of METLAB at the RISH (Research Institute for Sustainable Humanosphere) of Kyoto
University. As the result of the performance test, new variety data concerning the interference characteristics between
rectennas were obtained. Then the received power of the rectennas mounted to the MAV was measured, and it was confirmed
that the MAV is capable to fly. In the actual flight experiment, the straight flight by power was confirmed. A lot of findings
with regard to design for the MAV were achieved by the experiment.
Keyword
MicroWave Power Transmission, Mars Exploration Flight System, Rectenna
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2.2. マ イ ク ロ 波 電 力 伝 送 シ ス テ ム
1. 序 論
現 在 ,NASA や JAXA を は じ め と し て 大 気 を 有 す る
図 2 にマイクロ波電送システムを示す.電波暗室内
惑星の探査が計画・実行されており,その中でも火星
に 固 定 し た 送 信 ア ン テ ナ か ら ,周 波 数 帯 2.45GHz の マ
が注目を集めている.火星の大気循環は地球と同様に
イクロ波を飛行実験機に送信する.ホーンアンテナか
考えられ,これを知ることは,地球の気象学では実現
ら送信されたマイクロ波電力は,実験機に搭載されて
しえない現実の大気での広範囲なパラメータスタディ
いるレクテナが受信し直流電流に変換される.これに
を可能にし,両惑星の普遍的な理解につながるため探
よ り DC モ ー タ お よ び モ ー タ に 接 続 さ れ た プ ロ ペ ラ が
査の対象となっている.また,探査方法については地
回転し,実験機は推力を得て固定翼により揚力を発生
表面を自走するローバー・周回軌道を回る衛星による
し飛行する.送信アンテナは実験機を捕捉・追尾し,
ものがあるが,近年は飛行機による探査が検討されて
常に実験機方向にマイクロ波を送信する.
いる.利点としては地表の障害物や地形に影響されな
いためローバーよりも広範囲に,かつ衛星よりも高精
度に探査が可能となることである.しかし,火星大気
電波吸収体
レクテナを搭載した
飛行実験機
トラッキング用
ビデオカメラ
密 度 は 地 球 上 の 1/100 ほ ど し か な い た め , 機 体 , 搭 載
機器の大幅な軽量化が必要となる.そこでマイクロ波
電力伝送を利用した探査システムが検討されている.
電源及び
計測機器類
この電力伝送システムを導入することで,バッテリや
マグネトロン
送信アンテナ
燃料などの電力源による飛行時間の制約がなくなるほ
か,探査機自身に動力源を搭載する必要がなく小型
化・軽量化が期待できる.
図 2
本研究では,このマイクロ波電力伝送システムを利
用した火星飛行探査システムの適応可否の検証のため,
レクテナ間における干渉の調査および飛行実験機の直
線飛行の実証を目的としている.本稿では,飛行体搭
載用レクテナおよびそのレクテナを搭載した飛行実験
機を用いて京都大学生存圏研究所マイクロ波エネルギ
ー 伝 送 実 験 棟( METLAB)電 波 暗 室 に お い て 干 渉 実 験・
飛行実験を行った結果を報告する.
2. 実 験 設 備 概 要
2.1. 飛 行 体 搭 載 用 レ ク テ ナ
レ ク テ ナ (Rectifying Antenna)と は , マ イ ク ロ 波 を 直
流電流に変換するための素子であり,受信アンテナと
整 流 平 滑 回 路 (整 流 ダ イ オ ー ド ・ 平 滑 コ ン デ ン サ ・ DC
カ ッ ト コ ン デ ン サ )か ら 構 成 さ れ る .本 研 究 で 使 用 す る
レクテナの構成を図 1 に示す.搭載するレクテナには
マイクロ波電力伝送システム
3. レ ク テ ナ 間 干 渉 試 験
飛行実験機にレクテナを搭載する場合,モータ負荷
とレクテナ単体の最適接続負荷は大きく異なる.また
機体姿勢によらず受信電力を一定にする必要がある.
そのため,機体は複数のレクテナを搭載する必要があ
る.このとき,レクテナ間距離が受信電力にどのよう
な影響を与えるか知る必要がある.筆者らの昨年度の
研 究 で は レ ク テ ナ 間 の 干 渉 が 予 想 さ れ て い る [ 4] .
3.1. レ ク テ ナ 単 体 の 評 価 試 験
干渉試験に先立ち,まずレクテナ単体での受信電力評価
試験を行った.機体上のレクテナの機体搭載位置は主 翼
前面・主翼上面・胴体が想定され,典型的な受信姿勢
と し て , 図 3 に示すに示す姿勢が考えられる.
以下に示す条件が要求される.
1. 機 体 規 模 を 小 さ く す る た め に 軽 量・薄 型 で あ る こ と
2. 姿 勢 変 化 に 対 応 で き る よ う 無 指 向 性 で あ る こ と
3. マ イ ク ロ 波 -直 流 変 換 効 率 が 高 い こ と
図 3 受信姿勢
製作した 18 個のレクテナにおいて受信姿勢①で測定し
たところ,受信電力は最少 0.335W,最大 0.429W,平均
0.375Wであった.この原因としては,レクテナ製作時の
各部品の取付位置の微小なずれなどが考えられる.受信姿
勢②は昨年度の研究より出力電力が微小なため測定を行
わず [4] ,受信姿勢③は受信姿勢①で受信電力が最小・最大
図 1
レクテナの構成
のレクテナで測定したところ,平均 0.107Wとなった.
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3.2. レ ク テ ナ の み の 干 渉 試 験
体とし,実験機の姿勢が変化しても同じ受信電力が得
次に,機体形状の影響を避けて純粋にレクテナの干
ら れ る よ う に ,こ れ ら の 場 所 に 同 数 配 置 す る と し た (図
渉 を み る た め ,レ ク テ ナ の み の 個 数・レ ク テ ナ 間 距 離・
6). こ の と き , 図 5 よ り レ ク テ ナ 間 距 離 が レ ク テ ナ 同
受 信 姿 勢 を 変 更 し て 試 験 を 行 い ,出 力 電 力 を 評 価 し た .
士 が 重 な る 6cm 未 満 と な る と 受 信 電 力 が 低 下 す る こ と
測 定 方 法 と 結 果 の 一 例 を 図 4, 図 5 に 示 す . 図 4 に お
を 考 慮 し ,レ ク テ ナ 間 距 離 を 7cm と し て レ ク テ ナ を 配
け る 送 信 ア ン テ ナ と レ ク テ ナ の 距 離 は 3m で あ り , 送
置した.これは,図 5 の干渉試験結果はレクテナ間距
電 電 力 は 800W で あ る . こ の と き の 受 信 電 力 は , レ ク
離 が 7cm 以 上 で も 0.1W 程 度 の 受 信 電 力 の 変 動 を も た
テ ナ が 重 な る 0~6cm に お い て は 電 力 が 著 し く 低 い .レ
らす可能性を示唆しているが,実験機への搭載を考え
ク テ ナ 同 士 が 重 な ら な く な る 距 離 7~15cm で は , 受 信
ると 1 つの面に多くのレクテナを配置する必要がある
電 力 は 0.1W 程 度 変 動 が あ る も の の , ほ ぼ 一 定 で あ っ
ため,比較的受信電力が安定する最小のレクテナ間距
た.しかし,その値は前節の単体測定結果の和よりも
離 で あ る 7cm が 好 ま し い と 考 え ら れ る た め で あ る .表
低い.これはアンテナと整流回路が近く,マイクロ波
1 に図 6 の 3 つの面における受信電力測定結果を示す.
の反射・再放射が強く影響したためだと考えられる.
表 1 より,この配置は正確に機能したと考えられる.
図 4
図 6
測定方法
受信電力測定姿勢
1
表 1 受信電力測定結果
0.9
出力電力[W]
0.8
0.7
0.6
0.5
受 信 電 力 [W]
0.4
0.3
0.2
単体の和
0.1
並列接続
0
0
2
4
6
8
10
レクテナ間距離[cm]
図 5
12
14
測定結果
4. 飛 行 実 験
4.1. 飛 行 実 験 機 の 設 計 と レ ク テ ナ 配 置
各面 4 個
各面 5 個
正面
1.31
1.86
側面
1.23
1.97
上面
1.16
1.85
実測により得られたレクテナからの電力値と実験
機 の 推 進 動 力 特 性 (パ ワ ー カ ー ブ )よ り , 飛 行 実 験 を 行
う レ ク テ ナ 数 を 決 定 し た . 飛 行 速 度 は 3m/s 程度を想定
しており,余剰動力を考慮し必要動力の 2 倍程度の電力を
レクテナから得られていれば飛行可能と判断する.
受信電力を測定した結果,主翼前面・上面・胴体に各 5
飛行実験機の設計には,レクテナから得られる電力
ないし 6 個搭載をした場合飛行条件を満たすことが分か
を予測できる必要がある.干渉試験の結果より実験機
った.しかし低速での飛行や余剰動力の増加による失速を
に搭載する場所,個数によって変化する出力電力の予
考え,3 面に各 5 個搭載することとした.こ の 場 合 の 実
測を行ったが,レクテナの出力電力を予測する等価回
験 機 の 主 要 諸 元 を 表 2, パ ワ ー カ ー ブ を 図 7 に 示 す .
路モデルの精度が十分でなく,満足な結果を得られな
また飛 行 実 験 を 行 う 前 に , 想 定 さ れ る 飛 行 経 路 に お け
かった.そこで,レクテナから得られる電力から機体
る受信電力の測定を行ったが,飛行に十分な電力が得
諸元を決定できないため,機体諸元を先に決定し,レ
られていることを確認した.
クテナの個数を変えることで必要な電力を確保するよ
うにした.
レクテナの配置については主翼前面・主翼上面・胴
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表 2 実験機主要諸元
項目
全長
主翼面積
主翼幅
アスペクト比
重量
(レ ク テ ナ 15 個 )
クテナ間の干渉については,飛行可能な程度の数が飛
単位
諸元
行機に搭載された状態では,レクテナ間距離による影
mm
m2
410
0.08
響は少ないという結論に至った.また,確実に実験機
mm
-
690
6
ことができれば,十分な電力を伝送でき直線飛行が可
g
32.8
を追尾・捕捉し送電アンテナを実験機の方向に向ける
能という結果が得られた.
今後はさらに軽量な機体材質・構造を考え,旋回な
ど を 含 む 飛 行 実 験 を 繰 り 返 し 行 う こ と で , 火星飛行探
査機へのマイクロ波伝送技術の適応可否について研究を
2.00
行っていく予定である.また,マイクロ波に制御信号を重
必要パワー[W]
1.75
畳させた遠隔誘導なども検討する.
1.50
1.25
謝辞
1.00
0.75
本研究におけるマイクロ波送電実験は,京都大学生
0.50
存圏研究所全国共同利用施設「マイクロ波エネルギー
0.25
伝 送 実 験 装 置( METLAB)」の 電 波 暗 室 に お い て 行 い ま
0.00
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
した.京都大学生存圏研究所の先生方には,基本的な
4
レクテナの設計方法および機器の使用法などについて
飛行速度[m/s]
図 7
数々の御指導,御助言を戴きました.深く感謝の意を
パワーカーブ
表します.
4.2. 直 線 飛 行 実 験
飛行実験は,移動体に機体を載せ斜面を滑らせるこ
参考文献
とで初速を与え,手動トラッキング方式によってマイ
クロ波送電を行うことで直線飛行実験を行った.その
[1] 大 山 聖 ,永 井 大 樹 ,得 竹 浩 ,竹 内 伸 介 ,豊 田 裕 之 ,藤 田 昴
結果,送電アンテナからのマイクロ波電力伝送により
志 ,安 養 寺 正 之 ,元 田 敏 和 ,米 本 浩 一 ,浅 井 圭 介 ,藤 井 考
十分な推力を得ることができ,直線飛行を確認できた
藏 ,“火 星 探 査 飛 行 機 の高 々度 飛 行 試 験 計 画 ”, 平 成 23 年
度 大 気 球 シンポジウム,isas11-sbs-007, 2010.
(図 7).
しかし,アンテナの実験機への追尾を手動トラッキ
[2] 福 田 敬 大 , 辻 直 樹 ,三 谷 友 彦 , 米 本 浩 一 , “マ イ クロ 波 電 力
ングによって行ったのでは精度および再現性に課題が
伝 送 用 レクテナの受 電 性 能 向 上 と評 価 試 験 ”, 信 学 技 報
残る.よって,今後は画像認識による自動トラッキン
SPS2009-15,pp.13-18,2010.
[3] 辻 直 樹 ,福 田 敬 大 ,可 成 理 高 ,長 濱 章 仁 ,三 谷 友 彦 ,米
グで行うなどの改善が必要である.
本 浩 一 , “マ イ ク ロ 波 電 力 伝 送 レ ク テ ナ 群 の 最 適 配 置 と
飛 行 実 験 ”, 信 学 技 報 WPT2010-28, pp.35-40, 2011.
5. 結 論
本研究では,火星探査航空機の軽量化を目的として,
マイクロ波電力伝送システムにおける小型無人航空機
の飛行能力を実証するため,レクテナ間における干渉
の調査および飛行実験機の直線飛行実験を行った.レ
(a)0 秒
(d)1.5 秒
(b)0.5 秒
(c)1.0 秒
(e)2.0 秒
(f)2.5 秒
図 7 飛行実験
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