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324
ふみの会
町田天満宮骨董風景(2009/3/1)
郵送料カンパお願いします
No.324
ニュース
■発 行 ふみの会広報部
■発行日 2009 年 3 月 7 日
■連絡先 藤川博樹
〒 115-0045 北区赤羽 1-48-3-203
有限会社マイクロデザイン内
tel03-5249-5797 fax03-3901-6090
■編 集 中井、塚原、藤川、蒲原雅、佐藤、蒲原直
http://www.mdn.ne.jp/~fumi/top.html
3 月行事日程
■ニュース編集
原稿はテキストにして下記へ
ワード・一太郎文書も可
[email protected]
エッセイ:5 枚(2000 字)
小説:10 枚(4000 字)目安
■締め切り 2009 年 3 月 25 日 ( 水 )
■購読料・年会費 1200 円(年)
郵便振替:
00170-1-18290 ふみの会
◆今日は電車に乗�て町田に行�た�町田駅前あたりを�彷徨�
するのは�これで5度目である�5�
6年前になるか�ネ�ト掲示
板に集う投稿者のオフ会兼忘年会に参加したのが町田訪問の最初
であ�た�以後�誰に会うともなく�また確たる目的もなく�早
い話が暇つぶしのためだけに�ふと思い立�ては町田の駅前周囲
を歩いてみたりした�来るたびに写真もたくさん撮�た�撮�た
は撮�たのだが�一年ほど前にハ�ドデ�スクが壊れたときに�
以前のものは�すべて消去されてしま�たのである�今日もまた�
さしたる目的もなか�た�行き先は家を出てから決めるというの
が私の散歩の流儀とな�て久しい�電車が町田駅に近づく直前に
車窓から見たのだが�線路脇の神社に人ごみがあ�た�よく見る
と�フリ�マ�ケ�トが開催されていたのである�そのとき�始
めて本日の私の町田訪問の意味目的が見つか�たようなものだ�
た�フリ�マ�ケ�トと見えたのは�わたしの先入見で�実際には�
この神社で月一度開催されている�骨董市�だ�た�ある露店で
壊れかけたソロバンを見つけ�わたしは�この春某大学院の数学
科に進学することが決ま�た息子へのプレンゼントとして�それ
を300円で買�て帰�た�
�T�
◆け�こう行く酒屋で一番目立つ棚に景品がならんでいた�日本
酒・発泡酒・梅リキ��ル・インスタント食品などなどだ�特に
ワンカ�プの酒やビ�ルが多か�た�2500円以上でくじ1回�
わたしはきのうから目をつけていた�いつもは安い紹興酒や�高
清水�か缶ビ�ルを買�ていて�2500円も買わない�それで�
き�うはまとめ買いをしてくじを引いた�アサヒの発泡酒があた�
た�アサヒは買わないことにしているのだけれど�くじであた�
たとなれば嬉しい�インスタント食品よりはいい�ここの酒屋は
け�こう繁盛している�米やインスタント物も扱�ている�ほか
の店はほとんどつぶれてシ��タ�が閉じられている中で1軒だ
け頑張�ている�食べ物・飲み物は毎日のことなので強いね�前
はよくワインや日本酒の試飲もしていた�このごろはや�てなく
て淋しいが�でも�いろいろ工夫してセ�ルしている�不景気�
不景気とい�てるけど�金はあるところにはあるのだから�しば
らく消費税をなくすとかしたら内需があがると思うよ�
�ゆ�
ふみの会ニュース(2)
振った。大きな堂々たる蒸気機関車
見える。客車に向かって買い物袋を
言って仕事から帰って来るのに、何
いるのにと思った。何時も疲れたと
い。お父さんは一生懸命仕事をして
瀧本 文彦
た。布で出来た手提げの買い物袋を
が鉄を軋ませて行ってしまうと健太
お 使 い
振り回したり、頭上に放り投げて受
新連載
け止めたりしながら歩いた。
小学三年生の山本健太は、夕方に
「お使いに行ってくれんか。付けで
なるとお使いに行かされます。
とお母さんが言った。健太は、また
てくれんし」
「豆腐二丁と葱と大根一本買ってき
うつむいて買い物袋を受け取った。
健太は暗い気持ちになり、しぶしぶ
と、夕方になると言われるのです。
なオモチャだったが健太の宝物だ。
げて錆びているところがある。そん
にしていた。そのオモチャは色が剥
リキのオモチャの蒸気機関車を大事
った。お父さんに買ってもらったブ
かって来る。健太は汽車が大好きだ
きた。汽車が鉄橋を渡って此方に向
遠くで汽車の汽笛の音が聞こえて
の岡田順子ちゃんのお母さんに出会
勇気づけるのだった。近所の同級生
なんか怖くないや」と言って自分を
を振り回して、
「宮本商店のおばさん
健太はまた歩き始めた。買い物袋
ていた。
は残る。風に流れる煙をしばらく見
は寂しくなった。汽車が過ぎ去り煙
家に住んでいるんだなと思った。
お金が無いから古い擦り切れた畳の
うのだった。ボロイ家だもんなあ。
て買い物に行けないのかなあとも思
でもお母さんは夕食の支度に忙しく
せるのだと思い、腹立たしくなった。
いから、何時も自分に買い物に行か
母さんが付けで買い物に行きたくな
故お金が無いのかなあと思った。お
なあ」
豆腐かと思い、崩さないように持っ
った。
て来た。妹や弟と、わあ気味が悪い
健太は立ち止まって、汽車が目の前
と大騒ぎした。蛙の後ろの畳をドン
て帰らないかんなあと思い、宮本商
よ。
」
ドンと踏み鳴らしたり、棒切れで蛙
六 月 の梅 雨時、じめ じ めしたボ ロ
と言われた。順子ちゃんのお母さん
のお尻を突っついて追い出そうとし
「健太くん買い物に行くんかい。お
いて来た。何時も見ている光景だが、
の言うことを聞いて、健太は買い物
たが、なかなか動こうとせず泰然と
に来るのを待った。ガタンゴトンと
何時見ても飽きることがない。黒い
袋を振り回 すのをや めた。お母さん
している。しばらくお尻を突っつい
店のおばさんの顔を思い出した。買
い物に行かなければ晩御飯が食べら
色と灰色と白い色の混じった煙をモ
の作った買い物袋だものなあ。大事
イ畳に大きな殿様蛙が、裏の壊れた
れない。そう思うと勇気を出して買
クモクと吐き、動輪を力強く動かし、
にしなければと思った。健太は何故
黴臭い板壁の隙間からのっそり入っ
い物袋をぶら下げて家を出るのだっ
土手の上の線路を揺り動かし軋ませ
袋を振り回すと手提げが千切れる
た。
ながら健太の目の上を通り過ぎる。
ていると、其のうちのっそりと歩き
りこうさんやねえ。そんなに買い物
家を出たとたん、冷たい目でジー
自分だけお金を持たず買い物に行か
出し縁側から出て行った。畳が湿っ
シュッシュッと蒸気を吐く音が近づ
ッと此方を見ている怖い宮本商店の
汽車に乗れるものなら乗って、宮本
されるのだろうかと考えた。家は貧
ぽかったので大きな殿様蛙が入って
重々しい鉄の響く音が近づいて来た。
おばさんの顔が思いうかんだ。宮本
商店のない遠くの町に連れて行って
乏なんだなあと思ったが納得できな
たずに行くのが辛かった。しかし買
商店に行きたくなかった。ゆっくり
ほしいと思った。客車の窓から人が
い物に行くのが辛かった。お金を持
歩いた。いやいや歩いた。道草をし
ふみの会ニュース(3)
飲んでいるのかと思って気味悪くな
いた。甕を覗くと水垢がたくさん浮
木で出来た流し台の側に甕を置いて
やコケやナメクジの付いた、傾いた
ょきょ生えてきそうに見えた。カビ
めじめと湿っぽく、茸がにょきょに
貯めて生活水にしていた。台所はじ
そうなボロイ畳だった。
来たのだなと思った。茸の生えてき
て 、「 こ こ や 」 と 嘘 を つ い た 。
らやが恥ずかしく、隣の家を指差し
と指を指して言われた。健太はあば
「おまえの家はここか」
で会い、
き合いのない子に、家の近くの道路
ある日、健太は、クラスの違う付
か。家の電燈に傘つけようなあ。
」
「おおや、なあ。恥ずかしかったん
お母さんが言った。
斜面を滑ったり、木に登って山桃を
てていた。滑り台を滑ったり、山の
尻に丸く切った茶色の布で継ぎをあ
れの学生服を着ていた。ズボンのお
健太は黒い色の擦り切れたよれよ
うに隠してそこを通り過ぎた。
物袋をその男の子らに見られないよ
健太は惨めな気持ちになった。買い
んだなあと思い、羨ましくなった。
あいつら買い物に行かなくっていい
人がビー玉で遊んでいるのが見えた。
歩いた。空き地で小学生の男の子四
のだった。つらいなあと思いながら
か知っているくせにそんな顔をする
の学生服を着ている子供が多く、学
後に生まれた。擦り切れたよれよれ
と皆にからかわれた。健太は終戦直
「やあい、キャッチミットだ」
尻の丸い布の継ぎ当てを見て、
のだった。学校に行くと、健太のお
に飛ばしてしまいます。この遊びを
思い切り強く弾いて、カチンと遠く
ー玉を親指と人差し指で強く挟み、
手のビー玉を、自分のビー玉で、ビ
れると一点取れます。近くに来た相
ンド、サード、ゴールにビー玉を入
す。
、それから順にファースト、セカ
人差し指にビー玉を挟んで弾きま
らピッチャーの穴めがけて、親指と
た。健太の家の電燈は裸電球だった。
に、家の電燈の絵を描くように言っ
学校の図工の時間に、先生が生徒
ゴールと、地面に穴を掘ります。そ
す。ファースト、セカンド、サード、
うな、ゲートボウルのような遊びで
遊びをしていると、
(野球ゲームのよ
した子供がいた。服の袖でたれた鼻
かった。一本垂らしたり、二本垂ら
緑色の鼻汁を垂らしている子供が多
いる子供が多かった。黄色い鼻汁や
生服の破れたところに継ぎをあてて
好良くなると思うと嬉しかった。
傘の無いみすぼらしい裸電球の絵を
れらを線で結んだ真ん中にピッチャ
ズボンのお尻が擦り切れて穴が開く
描くのが恥ずかしく、考えた末、傘
健太は歩きながらポケットにお金
汁を拭くために、袖の先は拭いた鼻
いてい るのを時々みた。こんな水を
ら、ホースを引いて大きい甕に水を
段高い石垣の上の親戚の家の水道か
家には水道がない。家の裏の、一
った。健太はそんな小さな湿っぽい
取ったり、地べたに立ったり座った
健太は家の寂しそうな裸電球が格
あばらやに、コンプレックスを感じ
りして、ビー玉で「ゴジイ」と言う
「ゴジイ」と子供達は言っていた。
)
、
ていた。
のある電球を想像して、嘘の絵を描
汁がかぱかぱに、ばりばりに乾いて
いた。乾いた袖がてかてか光ってい
順番に穴に入れて行きます。先ず離
れたところに線を引き、其処に並ん
た。栄養が足りなく、特にたんぱく
ーの穴を掘り、ビー玉を指で弾いて
はやっぱり空っぽだ。また宮本商店
で順番にピッチャーの穴めがけてビ
質が不足している為に鼻汁が出るの
が入っていたらなあと思い、ポケッ
「学校の図工の時間に、家の電燈の
のおばさんの顔を思い出した。
「この
ー玉を放ります。ここからプレイ開
だった。健太もそんな子供だった。
トに手を突っ込んだ。ポケットの中
絵を描かされたんや。家の裸電球を
子なにしに来たのかねえ。にくった
始。ピッチャーに一番近いビー玉か
た。
描くの恥ずかしかったんや。傘のあ
らしい子だねえ」と、なにしに来た
いた。家に帰ってお母さんに言いっ
る嘘の絵を描いたんや。
」
健太はお金を持たずに買い物に行
うかんだ。夕ご飯のおかずを買わな
ければと勇気を奮って歩いた。
カチに挟まれて窮屈そうに並んだ商
中から覗いていたのは、財布やハン
多村 喜木子
大学の入学式を控え、母とスーツ
品券の束だった!
沖縄の思い出⑳
を買いに行くことになった。家の金
き合いが多かった頃、お歳暮やお中
宮本商店の前に来た。立ち止まっ
ていた。おばさん達全員買い物を終
銭事情がどの程度まで困っているの
元にと送られてきた商品券が、面倒
なった。其のことを仲間に知られた
わってから店に入ろうかなと思った。
か怖くて確かめることが出来なかっ
だからと使われないまま母のドレッ
買い物に来ていた。四人買い物に来
健太が先に来ているのに何時も後に
たが、お米を買うお金がないと言っ
サーの引き出しにたまっていたのだ
てぐずぐずしていた。おばさん達が
宮本商店が見えた。宮本商店を見て
回されるからだ。健太より後から来
切羽詰っているのだなと感じていた。
ているのを耳にした時から、かなり
た。畑の近くまで来ると、健太はお
健太は緊張した。緊張するとおしっ
たおばさんに、宮本商店のおばさん
れ宮本商店のおばさんなんか怖くな
り出しておしっこを飛ばした。
「ほー
クをずらした。おちんちんを引っ張
からちょっと入った所で、うつむい
して声が出ない。そして店の入り口
いるのに無視するのだ。健太は緊張
が先に買い物に来ているのを知って
ブル全盛期で派手な生活をしていた
の高島屋へ向かった。何年か前、バ
口に出すことも出来ないまま河原町
出した。私はお金の心配をしながら、
ようにスーツを買いに行こうと言い
そんな状況の中で、母が思い立った
を感じて私は驚いた。でもそれで贅
ずにいたことに、意外なたくましさ
れだけは残しておきたいと手をつけ
も解約して全てがなくなった今、こ
ないと嘆いていた母が、貯金も保険
という。あれほど父の前ではお金が
しっこをしたくなった。その畑から
こがしたくなった。何時もこの畑に
が声を掛け品物を売っている。健太
いぞ」と言いながら、おちんちんを
屈辱で口の中がカラカラだ。入り口
パパも散々好きなことをしたのだか
てじっと立っていた。健太は緊張と
ら、私たちがこれぐらいパーッと使
指でつまんで、あちこちに飛ばした。
えば何でも買うことが出来た。でも
ってもいいのだ。と好きなスーツを
おしっこをすると気持ちが落ち着い
今は商品の値段を見る度に財布の中
選ぶように言った。
沢なスーツを買う事など出来ないと
身を確かめたくなるような気持ちに
頃は、学校帰りにフラリと立ち寄 り
健太は買い物袋で捕まえようとそっ
なり、ブランドごとに区切られたス
よく知っているヤングウエアの階
のところでもじもじしていたが、勇
と近づいた。シオカラトンボは敏感
ペースにも足を踏み入れることがた
た。買い物袋におしっこがかかった
に気配を感じ、飛び去っていった。
を ひと 通り 見た 後 、母 に 連れ ら れて
遠慮したのだが、母は迷うことなく、
宮本商店に行きたくない為にいろん
めらわれた。そんな私の気持ちを察
初めてキャリアウエアの階へ行った。
「外商まわしでお願いします」と言
な遊びを考えた。健太はまた道路に
したのか、母が突然デパートの通路
そこではマネキンが着ている洋服も
気を出して前に進んだ。
出て歩き始めた。ちんたらちんたら
で立ち止まり、得意そうに自分のハ
並んでいる洋服も大人の女性らしい
(つづく)
歩いた。もうすぐ宮本商店だ。お父
ンドバックを開けて私の方に見せた。
棒杭にシオカラトンボがとまった。
さんやお母さんや妹や弟の顔が思い
が平気だ。
父の仕事上の付
って道路を背にしてズボンのチャッ
来るとおしっこをした。畑の隅に行
くなかった。途中に小さな畑があっ
く子供は自分だけかと思うと悲しく
ふみの会ニュース(4)
た。そして母と店員さんが納得して
囲気に緊張しながら何着か試着をし
すぎるようなデザインと売り場の雰
きれいなものばかりで、自分には早
門や周辺の地理についてはよく知っ
過ぎた奥まった場所にある大学の正
園の出身なので、高校の校舎を通り
へ向かった。母も高校までは同じ学
スーツに袖を通して母と二人で大学
お墓があり、その向こうはもう山だ
える先には豊国廟という豊臣秀吉の
る狭い道で、行き止まりのように見
車がちょうど通り過ぎることの出来
の植え込みと深い溝があり、二台の
間は、とにかく何をするにもどこへ
生活というのだろうか。最初の数週
とが出来た大学生活、正確には短大
色々あったけれどなんとか通うこ
なサラサラとした手触りでパリッと
等なホテルのテーブルクロスのよう
うな堅苦しいデザインではなく、上
だけの静か
通り過ぎる
なら学生が
った。いつも
を感じる一方で、高校時代には考え
すでに知っていることも多く退屈さ
リしていた。交通や校舎の説明など
行くにも案内と説明ばかりでウンザ
えている。
選んでくれたのが、みんなと同じよ
張りのある真っ白な生地で出来た丈
ることもなく延々とマイクから話さ
れる一方的なやり方に戸惑いを感じ
られなかった広い教室で、点呼を取
は入学式ら
た。そして、これまでは適当にして
の日ばかり
た黒いパンツを合わせた個性的で大
しく、桜の花
いても誰かが教えてくれたり、代わ
な道だが、こ
人っぽいデザインのスーツだった。
びらが舞う
りに済ませておいてくれたことでも、
が長めのジャケットに、足首に花の
それを着て試着室のカーテンを開け
なかを両脇
ボタンが付いていて、ピッタリとし
ると、これまでずっと家に閉じこも
置いていかれる。ずっと守られて管
これからは自分できちんとしないと
理されることに慣れていた私は、も
男子大学生
がサークル
う甘えた考えは通用しないんだと怖
には市内の
のチラシを
くなった。
ってふさぎ込んでいた母が、久々に
帰り道、ブランド名が印刷された
持って勧誘
「決まりやな!」と言った。
大きな紙袋を持ちながら、入学式で
を して いて 、
(つづく)
は誰にも負けないスーツを着て、友
ても内心はワクワクしていたのを覚
母の手前、興味のないフリをしてい
ークルのチラシを握り締めながら、
かな風景で、私の手にも渡されたサ
に話をしていた。それは眩しく賑や
た新入生らが立ち止まって楽しそう
希望に満ち
目をキラキラとさせて明るい表情で
ていた。また私も不真面目で出席率
店や蕎麦屋が並び、反対側には民家
通い慣れた道だった。片側には喫茶
内にあったため、放課後の部活動で
ていた煎茶部のお茶室が大学の敷地
が悪かったが、一応キャプテンをし
達の前でも堂々としていられると思
うと嬉しかった。そして、今の私た
れどそれを顔に出さないまま新しい
入学式の日、少し気恥ずかしいけ
中で感謝した。
をして私を気遣ってくれた母に心の
ちには分不相応すぎる贅沢な買い物
ふみの会ニュース(5)
ふみの会ニュース(6)
を優しくなでた。
の手すりにつなぎ、ダンの頭や首筋
いさつすると、ルルはダンを幌馬車
ころの半分もいなくなったわい」
「兵士がどんどん引き上げて、ひと
さんはせいせいしたようすで言った。
わかったのかなあと思った。おばあ
いる。ルルは、おばあさんは占いで
蒲原 ユミ子
「お母さんをさがす旅のとちゅうな
「きょうはありがとね。ダンのおか
③
んです」
げでうたれないですんだよ」
ルルの旅
にいた年配の兵士が言った。
すると 、 銃を 向けてい る男 の後ろ
「小さい子じゃあないか。通してや
男にぶつかったんだろう。年配の兵
うに銃を向けたままだ。ルルはこの
それでも、若い方の兵士は不満そ
「元気ないね、どうしたんだい?」
た。おばあさんはルルに声をかけた。
物の手伝いをしようと近づいていっ
に甘えた。ルルはおばあさんのぬい
ダンはクンクンと嬉しそうにルル
遠くない日にまた戦争が始まるかも
「今の戦争が終わっても、そんなに
あさんはこんなことも言った。
思い嬉しくなった。ところが、おば
お母さんもさがしやすくなるわ)と
ルルは、
(戦争が終わってくれたら
ろうぜ」
士はダンを指さしておどけたように
ルルはおばあさんに作り笑いして
「銃をうつと同時に、この忠実な命
「兵たいさんにおこられちゃったの、
無理に明るく答えた。
ている半島は民族が入り乱れて住ん
しれない。なにしろ、わしらが旅し
言った。
知らずの家来がお前の喉元にくらい
でいるからね」
それから、十日ほどたった。かな
した。
ルルは、
(なあ~んだ)とがっかり
戦争中だから犬の散歩なんかするな
って」
つくぞ」
男はダンとルルを交互に見て、や
ルルが糸を通してあげると、おば
「安心しな。もうすぐ戦争は終わる
あさんがぽつりと言った。
っとしぶしぶ銃をおろした。そして、
まけおしみのように言った。
いた。けれど、その町は破壊されて
り遠回りしたけれど、ルルはお母さ
ルルはおどろいておばあさんを見
いて、がれきの山がめだった。ルル
から」
た。おばあさんはいつもの無表情な
は声も出ず、荒れはてた町をながめ
んが働いているはずの海辺の町につ
顔でジーナの衣装をつくろい続けて
「ええっ?」
「こんなご時世にのんきに犬の散歩
なんかしてるんじゃあない」
ルルは全身の力がぬけた。
「ただいま」
小さい声で ル ルは おばあ さ んにあ
て立ちつくした。うしろでジーナ一
家が気の毒そうにじっとルルを見て
いる。
こわされた石橋。くだかれたレン
ガの塀。なぎ倒されている街灯。け
れど、よく見ると、後かたづけして
いる人の姿もあった。ルルは、
(もし
かして、お母さんを知っている人が
いるかもしれないわ)と思い、後ろ
「ここまで来たのだから、お母さん
をふり返り、ジーナたちに言った。
のはたらいていた宿までいってみる
わ。だめでもともとだもの」
「いっしょに行こうか」
と、ジーナが言ってくれた。ルルは
首をふった。
「いいの。ジーナもいそがしいでし
ょ」
ジーナたちは芸を見せるあいまに
森へ入って木の実をとったり、いい
木や竹をさがして木皿や竹笛を作っ
て売り物にしている。それでも、ジ
しいということはない。ジーナ一家
ーナがルルを手伝えないほどいそが
はゆったりとできることをして生き
ているのだから。戦争中でもなるべ
く戦渦のない土地を通り、食べ物が
少なくても不平を言わず、こつこつ
ふみの会ニュース(7)
芸をみがきながら旅を続けている。
ってきた。聞いたとおり、時計台が
だ。
をひくひくさせて潮のにおいをかい
ぜている。ルルは(おばあさんはま
表情な顔で鍋の中のスープをかきま
「いいにおい!
たそのうち戦争が始まると思ってい
お母さんも ず っと
見えてきた。
ルルは瓦礫の山の前に立っていた。
ルルがジーナの親切をことわったの
は、お母さんのことはまず自分の力
に、
おばあさんは何でもないことのよう
るのだわ)と思った。側へいくと、
「今会えなくても、おっかさんには
ルルは立ち上がって両手をのばし、
かいでいたにおいね」
ぐうんと深呼吸した。何度もなんど
そのうち必ず会えるよ」
お母さんがいたのはここらしいけど、
ようもない。ルルは長い間、ぼうっ
もした。だんだん元気が出てきた。
と言った。その言葉で、ルルの心に
こんなになっちゃったのではどうし
とつったっていた。心の中では、
(お
ルルはダンによびかけた。
ぱっと灯りがついた。おばあさんの
るく言った。
「ダンと二人で行ってくる」
母さんは生きているよね。よその安
「じゃあ、一度ジーナたちのところ
言ったことは気休めではなく、ほん
でやろうと思ったからだ。ルルは明
た。
全なところで生きているんだよね)
しようか」
へもどって、これからのことを相談
ジーナはいたずらっぽい目で言っ
「じゃあ、二人で行っておいで。ぶ
れど、これからどうやってお母さん
とにちゃんとお母さんが生きている
が出そうなくらい嬉しかった。おじ
と言ってくれた時、ルルは思わず涙
ダンは、
(そうですね)とでも言う
と、一生懸命言い聞かせていた。け
ジーナは、この前ルルが兵士にぶ
をさがしたらいいんだろう…。
つかるんなら、いい運にね!」
つかって殺されそうになったことを
をすりよせてきた。ルルはふっと息
ルルは幌馬車にもどって大ニュー
のだと思えたのだ。ジーナが側で、
顔で言った。
をはいてダンの頭をなでた。それか
スを聞いた。戦争が終わったという
さんもにこにこしてうなずいている。
ように「ワン!」と鳴いてしっぽを
「お母さんが見つかっても見つから
「おなか、すいたね。なんか食べよ
ら、石段にこしをおろした。
のだ。ルルはとつぜんの知らせにぼ
ルルはみんなに抱きしめられたよう
クンクンクン…。ダンがルルに体
なくても、一度あたしたちの所へも
うか」
うぜんとしたが、
(じゃあ、ここの町
に感 じ た。
からかったのだ。それから、真剣な
どって来るんだよ」
ルルはポケットからおばあさんに
の人たちももどってくる?)と思う
「もう少し、あたしたちと旅を続け
ルル はジ ーナ の心づかいが 泣き た
もらった干しぶどうを取り出してダ
と、暗やみに太陽が出てきたように
ふった。
いほど嬉しかった。明るく笑ってう
ンにもあげた。干しぶどうのこい甘
気持ちが明るくなった。
ルルは一生懸命自分を元気づけな
(お母さんが死んだというしょうこ
んでいるうちに少し元気が出てきた。
らおばあさん一人でやるのに、おじ
夕食のしたくをしている。いつもな
ジーナ一家は 、き ょう はみんなで
ながらお母さんをさがすといいよ」
なずき、ダンによびかけた。
みが口中に広がる。ゆっくりよくか
がら歩いた。石畳の道にこわれたバ
はないもんね。きっとどこかで生き
「わかった。ありがとう」
「じゃあ、出発!」
ケツやがれきが転がっているので、
し、ジーナは皿をテーブルに並べて
さんはサラミをナイフで切っている
ぷ~んと潮の香りがただよってき
いる。おばあさんだけはいつもの無
ているわ)
われ物の後片づけをしているおばさ
た。風がでてきたようだ。ルルは鼻
よけながら進んでいく。さっき、こ
んにお母さんのいた住所を聞いてや
ふみの会ニュース(8)
た。玄関や廊下の電灯は業者に取り
蒲原直樹
たい」と彼は言うのだが、見渡すと
屋上の礼拝
住人ではない者たちが出入りしてい
渾沌市凡日録 45
パールハイツは渾沌駅東口、徒歩
大屋敷守は理事会を開いて対策を
換えてもらって明るくした。清掃や
ってみないと分からない」という思
協議した。問題の部屋は最上階七階
二○人ほどの参加者は高齢者ばかり
うなってんだ?」守は六階の部屋か
いから守は「私でよければ……」と
の七○一号室で、そこは蟻塚洋平と
る、エレベータが遅い、道路やコン
ら二階の管理人室に降りて管理人に
思わず立候補してしまった。拍手が
いう人物の所有になっている。そこ
七分にある七階建てのマンションだ。
初はほかに五階以上の建物はなく、
これらの問題点を問いただした。高
沸き起こり、大屋敷守は無投票で理
が「統一真理教会」というカルト集
しい宗教」が残った。
混沌の街を睥睨(へいげい)する豪
齢で猫背の管理人は管理人室のドア
事長に選出された。
片付けはパートを雇った。最後に「怪
壮なものだったらしい。パールハイ
から出てこず、
われているという。カルトの若い男
「このマンションの問題は内側に入
ツはその後の混沌駅周辺の発展の中
「私は足が悪くてねえ、機敏に動け
女がそこから駅頭での募金活動、水
で 四○代という のは守 だけだ った。
に飲み込まれ、高いビルに取り囲ま
を受けて問題の多さに守はひっくり
晶や壺の販売、信者獲得などの活動
ビニからの音がうるさい、チラシや
れてすっかり古めかしくなってしま
ないんですよ、理事長さんに聞いて
返りそうになった。第一に目の前に
に「出撃」するらしい。守は統一真
DMが玄関に散乱している……「ど
った。それでもどことなく昭和モダ
くれませんか」
改修工事が迫っているのに工事費の
理教会の名前を聞いて背中が寒くな
期の建築物に属する。建てられた当
ンな香りの残る建物には存在感があ
と管理組合の理事長に責任を押し付
備蓄がないこと、第二に高齢の管理
った。凶暴なカルト集団で、暴行事
築年数は三○年を越え、混沌でも初
る。
けた。なんのための管理人かと守は
人が仕事をしないこと、第三に怪し
件や監禁リンチ事件など起こしたと
秋に開かれた管理組合総会だった。
して解決にあたった。改修工事費用
翌日から守は休みの日を全部つぶ
ちは頻繁に情報交換することを誓っ
怖いけれどもやるしかない。理事た
いう新聞記事を目にしていたからだ。
団に貸し出され、教会施設として使
子どもの頃このビルの前を通って
思ったが、その時はそれ以上踏み込
他もろもろだった。
い宗教が入り込んでいること、その
時、迷わず買った。彼にとっては憧
いろんな不満を訴えようと参加した
数千万の調達は銀行からの借金と、
てその日は解散した。
その翌日、前理事長から引き継ぎ
通学していたサラリーマン大屋敷守
めなかった。
れの住居だったからだ。
「どうしてこ
のに、いきなり「理事長が退任する」
住民一戸あたり数十万円の負担で解
数日後、七階の理事から連絡が入
えらいことになったのはその年の
はバブル崩壊後の値下がりでパール
んな古いマンション……」とぶつぶ
という話になってしまった。七○を
った。それは「今、彼らが屋上でミ
ハイツの一部屋が安く売り出された
つ言う妻の言葉も彼の耳には入らな
は行かず、補償金や退去条件などで
決した。管理人の解雇はすんなりと
サをやっている」というものだった。
過ぎていると思われる理事長は来年
ゴタゴタしたが、なんとかやりきっ
パー ルハイツを引き払うという のだ。
しかし入居したとたんに様々な問
「あとを若い人に引き継いでもらい
かった。
題に気がついた。玄関や廊下が暗い、
ふみの会ニュース(9)
た。階段を上って塔屋のドアをそっ
「じゃあ、行ってみます」守は応え
たら相談いたします」と怯えたよう
「今、主人が留守ですので戻りまし
筒を女に渡した。女は、
てからでは遅いので早急に改善して
況は防犯上もよくない、事件が起き
何度も目撃されている。こういう状
「ロックアウトしかないか?」
があった。
思いながらパールハイツの自分の部
ゃいけないという規定でもあるの
そりゃお互い様だ。お客さんが来ち
騒がしいこともあるかもしれないが、
「規約に違反している」
「居住してい
ーを中心に厳しい追及が始まった。
すわけにはいかない。理事会メンバ
に出てきたのだ。このチャンスを逃
とは思わなかった蟻塚の女房が総会
転機は次の年の総会だった。来る
がに最後の手段だった。
守はそうも考えたが、それ はさす
と開けてみると、確かに十五人ほど
いただきたい」
に合わせて立ったり座ったりして何
屋に戻った。その夜遅く、玄関の扉
か?」
ない」
「不特定多数の出入り」を批判
「あれはうちのお客さんだ、多少は
な声で返事した。
かを祈るようだった。やがて香炉を
を乱暴に叩く音がした。守がのぞき
「このマンションは居住用です。不
守は少しは効果があったかな、と
の白装束の若い男女が集まっている。
真ん中にして全員が輪になって仰向
穴から見てみると、血相を変えた大
特定多数が出入りすることは許され
彼らは香炉を焚き、ラジカセの音楽
けに寝転がり、そのまま声を合わせ
柄の中年男がいた。
「どちらさんです
し、
か」ドアの内側から尋ねると、
「七○
ません。元の通りに、あなたの家族
だった。
一号の蟻塚だ」と応えた。守はロッ
て呪文を唱えていた。不気味な眺め
(これはどうやっても追い出さない
「駅前でインチキ募金をしているメ
る、とんでもないことだ」と詰め寄
があの部屋に居住してください」
った。さすがに蟻塚夫人の顔は蒼白
クとチェーンを外し、ドアを開いた。
そういうやり取りの後に蟻塚はく
になり、しまいには涙声になって謝
と……)
るりときびすを返し、通路を帰って
ンバーがあの部屋に寝泊まりしてい
持った管理組合の要請書を示した。
行った。守はその後ろ姿に、
「話にならん」
「これはどういうことだ、うちはち
男は腕をブルブル震わせながら手に
大屋敷守は管理組合理事長として
ゃんと普通に使っている、どこが規
守はあらためて心に誓った。
平に会うことにした。蟻塚一家はパ
問題の七○一号室の所有者、蟻塚洋
罪した。守は彼女から「善処を確約
的な変化があった。白装束は消え去
「蟻塚さん、必ず原状復帰してくだ
その後、七○一の状況には少しも
り、七○一には元の通り夫婦と娘一
約違反だっていうんだ、ふざける
変化がなかった。やむをえず守は理
大屋敷守は時々エレベータや階段で
人の蟻塚一家が暮らすようになった。
ールハイツから百メートルほど離れ
守は大きく息を吸い込んで、縮み
事数人でピケを張り、白装束の男女
します」という一筆を取り、ようや
ブザーで出てきたのは女房の方だっ
あがりそうな体を無理に伸ばして応
を締め出す実力行使に出た。入って
さいよ!」と声をかけたが、返事は
た。理事会の者だと名乗ると女は眼
「真夜中や早朝、住民以外の多数の
えた。
蟻塚一家とすれ違うことがあったが、
な!」
鏡の奥の疑い深そうな眼をしばたた
くる白装束を、
彼らは何事もなかったかのように
た別のマンションに住んでいる、と
いた。
人間が出入りしている、廊下やエレ
「住人以外の出入りはできません」
「こんにちわー」と挨拶するのだっ
く蟻塚夫人を釈放した。そこから劇
「七○一号室は管理組合規定に違反
ベータで会っても挨拶もしない、物
と押し戻す。しかし彼らは真夜中や
た。
なかった。
して使用されています。早急に原状
騒な連中がです。連中が廊下や屋上
早朝に出入りするのでこれにも限界
「ふざけてなんかいません」
復帰させるように要請いたします」
で不気味な儀式をしているところを
いう情報を得ていたからだ。ドアの
守はそう 言うと 要 請文 の入 った封
ふみの会ニュース(10)
モッ君の学生運動時代の仲間で、目
介で花菱君が樽井書房にやってきた。
に移ってしばらくして、モッ君の紹
樽井書房が虫プロの第二スタジオ
第五章 花菱くん華々しく登場する
トセラーではなく、正業の福祉の本
た。その後、樽井書房は際物のベス
話でおおいに盛り上がったものだっ
べながら、本の出版計画についての
と花菱で近くの喫茶店でランチを食
である。お昼時、樽井書房のみんな
ビルを建てたいと夢見るものだそう
な大ベストセラー本を出版して自社
くずし』
『気くばりのすすめ』のよう
菱君はそれほどの大物であり、実力
君の紹介で樽井書房に登場した、花
な発言をしたというのである。モッ
「決定的な」運動を崩壊させるよう
いのだが、花菱は重要な会議の場で
共闘運動は終焉に向かっていたらし
くても、六〇年代末の学生運動、全
るように切り捨てる。花菱がいわな
ねえだろ」と、手を振って投げ捨て
家の住民で、福祉施設で働いていた
鬼太郎くんはたまたまモッ君の隣の
が手動の写植機で打つことになった。
て仕事を始めたばかりの鬼太郎くん
君の紹介で虫プロの二階にやってき
二階に移ってきてから、やはりモッ
が、版下はやはり樽井書房が虫プロ
れることになった。本の製作である
地域福祉の本が創造無限社から出さ
藤川博樹
立った活動家だった花菱は、壮大な
第二部
口のきき方をした。花菱は小さな美
で奮闘して自社ビルを立てることに
パンドラの箱
術系の出版社に勤めているのだが、
なるのだが、それは十数年あとのこ
モッ君の目はまったく笑っていなか
しなのだ。この説を唱えているとき、
う本を出せばベストセラー間違いな
と、
『窓際の気くばり兎くずし』とい
れそうであった。モッ君に言わせる
吹き荒れ、ベストセラーが次々と現
聞いていると、日本の出版界に嵐が
はいくつもあるという。花菱の話を
花菱の発言で一挙に学部の学生運動
である。モッ君に言わせると、この
て変わらねえよ」というようなこと
んなことやっていても世の中たいし
算するような発言をした、つまり「こ
演壇に立った花菱が、学生運動を清
その学生運動が絶頂にあったとき、
演説にはカリスマ性があったという。
運動の華々しい闘士であって、その
花菱君はモッ君に言わせると学生
べて創造無限社に移管していこうと
手がけようとしていた出版部門はす
き続き専門にやるとして、これから
そこで、本の流通は樽井書房が引
出資した。
された。樽井社長は創立に五〇万円
花菱の出版社「創造無限社」が設立
万円が魅力だった。話はまとまって、
った。樽井社長は花菱の資金五〇〇
く一緒にやろうと共闘の話がまとま
をつけた樽井社長との間に、さっそ
花菱君の(親の出した)資金に目
く事ができるなと思えるほどだった。
見ているとよく本の編集に時間を割
だ。それもけっこう過密な日程で、
た。あっちこっち出歩いて酒を飲ん
会での本の販売に花菱を連れて歩い
あっていた。樽井社長はさかんに集
吹きあいといった様相で二人は話が
最初、樽井社長と花菱は、ほらの
ていた。
も昼もコトンコトン写植を打ち続け
庫の一角に写植の機械を据えて、夜
なったのである。虫プロの二階の倉
のであるが、独立して写植の職人に
親から金をもらって出版社の創立を
とである。
った。出版業界の経験が浅い常三と
いうことになった。
者なのだ。
もくろんでいた。アイディアや企画
しては、そんなものかと傾聴してい
が退潮に向かったというのである。
そのまま写植屋の鬼太郎君に渡し、
その結果、著者からもらった原稿を
たが、出版人ならばいつか『窓ぎわ
花菱は「そんなバカなことある分け
最初に、すでに企画が進んでいた
のトットちゃん』や『兎の眼』
『積木
ふみの会ニュース(11)
出版予定の期限が迫っていた。樽
ていた。
分な校正もされずに本になろうとし
鬼太郎君がコトコト打った版下は十
判とか四六判の指定)だけだった。
花菱が指定したのは本の判型(A5
が見るに見かねてといったかっこう
そも異常な事態なのだが、鬼太郎君
菱が本にタッチしていないのはそも
ない創造無限社の社長で編集者の花
出版の最終盤の段階で、一人しかい
バイトを総動員して校正に当たった。
んど会社にいないので、社員とアル
けて指摘した。とうとう、樽井社長
であるかを諄々と、二時間近くもか
いかに本が誤植だらけでひどいもの
鬼太郎君がやってきて、本を見せ、
京に帰って来た樽井社長のところに
られた。その後、集会を終わって東
そして、本は集会に間に合い、売
である花菱にある。花菱は本の編集
それでも 最終責任は出版社 の社長
を確認させてくれた事件だった。
はできない。そんな当たり前のこと
だろうが、本の校正・編集は素人に
である。本を読むのは誰でもできる
校正刷りを「読んだだけ」だったの
になってしまった。西口君は本当に
刷屋に入校していないと、その後の
完成日の十日前には、完全版下が印
編集者は必死で働くのである。本の
いが、確かに期限を決められると、
業する担当者はたまったものではな
口君に、初めて校正というものをさ
いてはまったく素人・未経験者の西
が、いくら大学生とはいえ出版につ
もそもこれが間違いの元だったのだ
トをしている西口君が担当した。そ
年の忘年会は、常三が参加した初め
花菱とのつきあいを断ち切った。前
忘年会に樽井社長は花菱を呼ばず、
目が眩んだことを認めた。その年の
なく、ど素人が「素読み」した。そ
まともに原稿と突き合わされること
君に渡された。校正刷りはほとんど
され、そのまま写植屋つまり鬼太郎
ったのだが、章立ての順番だけ指定
発表した原稿を寄せ集めたコピーだ
烈に現場の作業に負担をかけていっ
定 な の だ が 、出 版 ス ケ ジ ュ ー ル が 猛
著者にもちかけた強引とも言える設
のよほどの知識と経験がなくては、
もの、本の製作というものについて
というものはできない。出版という
漢字が読めるぐらいでは書籍の編集
長に集会に引き出され引き回され、
日程を教えなかった。花菱は樽井社
たとき、モッ君は樽井社長の指示で
いつかとモッ君に問い合わせがあっ
しかった。花菱から今年の忘年会は
その五〇万円は「株式会社への出資」
なってしまった。税理士に聞くと、
が出資した五〇万円はそれっきりに
きない。花菱は追放され、樽井社長
大言壮語ばかりしていても本はで
出版された。
のまま印刷屋に渡されて、製本され、
の原稿は、いろんな専門誌や雑誌に
紙の手配、印刷・製本・運送の各過
せたのが大誤算だったのである。常
菱も参加して大いに盛り上がって楽
ての会社の忘年会だったのだが、花
頭からとんでもない誤植だらけの本
井社長は、仕事を追い込むためにけ
で、出版過程に介入したのである。
もこの企画が失敗だったことに気づ
というものを知らなさすぎた。著者
程を考えると、日程はぎりぎりであ
く考えていた。そもそも本が読めて
三も、本の編集についてはだいぶ甘
た。
まともな編集などできるものではな
出歩いていて、ほとんど編集する時
樽井社長は、花菱の五〇〇万円に
る。著者が講演予定の研修集会で売
の手を通して印刷屋にわたった。
っこう無理な設定をした。現場の作
第一章の校正は、本の配達のバイ
いた。
ろうというので、それも樽井社長が
このままゴーサインが出て、その
間がなく、また校正もアルバイトを
なので、返せとはいえないという。
房にはその判断をするものさえいな
中心とした樽井書房の社員がやった
その株を誰か他の人間に売りつける
いのである。できたばかりの樽井書
かったのである。
のだから、誤植の責任は花菱にない
しかない。つまりそれっきりだ。
植を打っている鬼太郎君が、
「これで
一〇章全部をバイトやマッちゃん
ともいえる。特に、第一章をバイト
まま本になろうとしていた時に、写
した方がいい」と版下を持って樽井
や社員で手分けして、大急ぎで校正
の西口君が担当したのであるが、冒
はあまりにひど いから校正をやり直
書房の事務所に顔を出した。樽井社
を一日で終わらせ、版下は鬼太郎君
しばらくして印刷屋と製本屋から
長と花菱は地方出張に出たままほと
請求が来た。創造無限社は払えない
会社や医院くらいだった。記憶にあ
かつて、電話があるのは官公署や
ら、話は直ぐに終わった。考えてみ
中君が出た。別に用などなかったか
も待ったろうか、やっと繋がって竹
中井 豊
学生の頃から夜型が合っている。
るのは、柱や壁に掛ける、小鳥の巣
電 話
たりしているうちに大半を使い果た
間を過ごすのである。数学を専攻す
同じ位の時間を要したわけである。
家族が寝静まるのを待って独りの時
話」である。前者は、木箱の正面下
してしまったのである。あとで花菱
ていることではないだろうか。夜は
電話 の原理は一八三七年に米国 の
ると、汽車に乗って会いに行くのと、
じゃないか」
「それじゃ、あの鰻はお
部に小さなラッパ状の送話器があっ
箱のようなものと、卓上型の「黒電
れに責任をとらせるためだったの
現実から離れることの容易な時間帯
る人に夜型が多いことはよく知られ
か」というやりとりがあった。責任
ページによって発見され、実用電話
朝方に就寝し、昼前に起きる生活
て、右の側面に掛けられた黒い筒の
は何かと不便なことがある。登山に
初の遠距離通信は一八八九年の東京
であるためだ。
でどんなに誤植が多くても誤植を打
誘われる時など、出発は早朝になる。
の竹中広君の自宅に黒電話がついた。
湯浅小学校五、六年生の頃、友人
電話が伝わって実験が始まった。最
機も一八七六年に米国のベルによっ
った写植屋や印刷屋に責任はない。
前夜、寝つかれずに困ることになる
―熱海間だった。一九四〇年に完成
ような受話器を外して耳に当てて聞
誤植を校正するのが編集者の仕事で
それで、休みに従兄弟の家に泊まり
した第三次拡張計画によって、電話
て発明された。その翌年には日本に
ある。花菱はその後実家に帰ってさ
ので、なるべく昼寝をたっぷりして
にいった折り、竹中君に市外電話を
く。
らに金を出してくれるよう親に頼ん
おく。
た本を印刷屋に渡して版下は打ち直
常三が校正を担当して真っ赤になっ
るのではないかと思いながら私が出
寝床で応対しているのが相手に分か
は電話が嫌いで、なかなか出ない。
注文の電話が鳴ることがある。家内
ため、新刊書を出すと朝から枕元で
手の女性が電話線の鉛筆より太いジ
つしかなかった。薄暗い奥で、交換
話を申し込み、繋がるのをじっと待
か農協だったかまで出掛け、市外電
ら電話をかけるには、郵便局だった
当時、和歌山県日高郡の片田舎か
っていない。
れてい る のか、通話 料 金 は殆ど下 が
がある。とは言え、カルテルが結ば
営化され、さまざまな通信事業会社
凡社)
。すでに日本電信電話公社は民
い(
『国民百科事典』一九六四年、平
五年後には二六四万台に達したらし
電信電話公社は一九五二年に発足。
機の数は一〇五万台になった。日本
され、装丁はモッ君が表紙に黄色い
る。電話を受けると目が覚めてしま
従弟と共に狭い待合室で二、三時間
ャックを抜いたり差したりしていた。
かけてみた。
硬式テニスボールをあしらったデザ
う。むろん注文は有難いが、昼寝の
個人で小さな出版社をやっている
インに変えて、新しく再出版された。
できない日だと、睡眠不足になる。
地域福祉の本は作り直しになった。
だが断られたという噂も聞いた。
のなすりつけあいになったが、初校
と鬼太郎君で「鰻をおごってやった
い、鬼太郎君に鰻の蒲焼をご馳走し
ので、ステレオ・コンボセットを買
いたが、めずらしく大金を持ったも
のである。花菱は貧乏生活を続けて
ので、樽井書房に請求が回ってきた
ふみの会ニュース(12)
ふみの会ニュース(13)
紀勢本線の駅に、お茶の水駅から「鉄
には電話がなく、父が勤務していた
大学受験の際、我家(国鉄宿舎)
しなかったようだ。
るが、プッシュフォンはあまり普及
のなどが発売されて今日に至ってい
いているもの、ディジタル音声のも
せなどに、携帯電話が必要だ。現代
確実に受けられる。さらに待ち合わ
ックスだと住所・氏名の文字情報が
いる。本の注文を受けるのに、ファ
れる。一本はファックス専用にして
のものでは決してない。技術は発達
話の音声は「生きとし生ける人」そ
ないよう戒めなければなるまい。電
も交流できる、といった姿勢に陥ら
らである。ただし、人に会わなくと
「国鉄職員の子弟がよく電話を借り
自に敷設した業務用電話網である。
に伴って京都市内の公団住宅に移っ
いう思いからだった。しかし、転勤
しで暮らした。休日の妨げになると
る限り、間接的には使っている筈で
う猛者もいるだろうが、買い物をす
電気もガスも自動車も使わないとい
ってしまった。中には電話どころか
を生きるには、電話は欠かせなくな
なのである。
があるだろう。昔も今も人間は同じ
豊かさを面倒がらずに体験する必要
しても、あえて不便さのなかにある
結婚してから二年半ほどは電話な
道電話」を使って電話したことがあ
に来る」
て程なく、連絡に不便だからと、甲
ある。残念でもあり、悔しくもあろ
る。鉄道電話というのは、国鉄が独
と、駅員さんが笑っていたことを思
を引いてくれた。これは次女が生ま
子園に住んでいた家内の父親が電話
うが。
かった。東京から和歌山まで公衆電
れる時に役に立った。陣痛が始まっ
い出す。もちろん通話料金は要らな
話をかけるには、十円玉を山ほど用
なっていて、原稿はもちろん写真も
世は既にインターネットの時代に
てから、家内の母親を呼ぶことが出
来たからだ。
意しなければならない時代だった。
ようやく我家に電話がついたのは、
音も版下も、インターネットを通じ
相手の都合に合わせて見てもらえる
現在の家は三〇年くらい前に建て
線を引いた。プッシュフォンではな
のが好都合だ。しかし、相手にもコ
父が国鉄を退職して小さな集合住宅
く、ダイアル式の薄緑の電話機にし
ンピュータやファックス機の購入を
とが出来る。メールやファックスは
「いずれプッシュフォンの時代にな
た。新居に入って四年後、父が癌に
強要することになりかねない。
て、即時に世界中でやりとりするこ
るだろう」
かかり、電話のベルだけ別の部屋で
歳のせいか、長時間にわたって電
た も の で あ る 。 私 の 両 親 と 一 緒に 暮
と、父はプッシュフォンの契約を選
も聞けるようにしたように思う。あ
になった。相手に咳でもされると、
話を聞いていると耳が痛くなるよう
らすことになり、ダイニングに電話
んだ。電話は私の就職活動に間に合
るいは、この工事は育児に追われる
時だった。
った。自分で興味ある会社の人事担
家内のために依頼したのかも知れな
を購入した時――私が二三、四歳の
日を聞くというやり方だった。
当者に電話し、学校名を告げて面接
仕事のため、現在は二本の電話回
声のやりとりは欠かせない。相手の
らに違いない。それでも、電話での
たまらない。受話器の音質が悪いか
競うようにヴァリエーションができ
線を引いている。コードレスの子機
精神状態や心配りまで推測できるか
い。
たし、コードレスのもの、子機がつ
を入れると、五箇所で電話が受けら
その後、電話機の色やデザインは
いているもの、ファックス機能がつ
ふみの会ニュース(14)
小説「 隼
(四)
人 」
多田雅子
の地区を押さえて優位に立っていた。
知らせを聞いて飛んで来た吉之助に
背負われ、病院に運ばれた隼人は、骨折
「びっこやろう、悔しかったら拾ってみ
かってきた。怖くなったノブオは、隼人
と悪態をつき、棒切れを持って襲いか
ろ」
隼人は、病室の窓から、日ごと生い茂
を残して飛ぶように逃げ去り、一人にな
と診断され、入院を言い渡された。
っていく若葉を眺めながら、不覚にも蛇
った隼人は、松葉杖を振り回して応戦し
相手を睨みつけたが、これまでやられ
「卑怯もん」
うに転がされてしまった。
た。しかし、あっという間に、芋虫のよ
三ヶ月が経って、行のような入院生活
続けた。
しかし、ある時期、その押さえが効か
ごときに驚いてしまった自分を悔やみ
隼人の腕白ぶりは、学年が進んでも変
松葉杖はまだ離せなかった。いつもは二
が終わり、通学許可が下りた。しかし、
っ放しだった田野地区の子どもたちが、
をして、腕力を振るうことができなくな
十分くらいで駆けて行くところを、背中
手心を加えるはずがない。たまっていた
なくなったことがあった。隼人が大怪我
に弁当箱を括り付け、弟妹か同級生らに
一人が、隼人に馬乗りになって、殴りか
鬱憤を晴らさんばかりに、彼らのうちの
学五年のころには、既に学校で隼人に適
った時期である。尋常小学六年の時のこ
カバンを持たせて、倍近い時間をかけて
わらなかった。腕力は群を抜き、尋常小
とだった。
通わなければならなかった。
う者はいなかった。
隼人はクスノキに登って、枝先の葉陰に
「隼人、大変じゃのう」
囲に迷惑をかけるだけ、とばかりは言え
な巣に手を伸ばした途端、ズルリと纏わ
葉杖をついて行く隼人に、地区の人々は
暑い陽射しの中を、汗だくになって松
小さな生命が萌え出す四月のある日、
ない状況があった。隼人のお陰で、地区
見え隠れするヤマバトの巣から、卵を盗
りやんせ」
「勉強が遅れたら落第じゃっで、がんば
しかし、このころ、喧嘩が強いのは周
の子どもたちが救われることが、度々あ
進み、小枝を寄せ集めただけの皿のよう
もうとした。枝に跨ってじりじりと這い
五つの地区の子どもたちが通っていた。
りつくものがあった。気味の悪い感触に、
隼人が通う青山小学校には、頴娃村の
彼らの日常生活は、地区組織に拠るとこ
思わず手を引っ込めると、手首に蛇が巻
そんなある日のこと、隼人は、学校の
隼人が、目に涙を滲ませ、地面に座り込
けた時、顔を腫らして土まみれになった
ノブオの知らせで、隼人の兄が駆けつ
きにされてしまった。
思うように反撃できず、とうとう、袋叩
ら、殴り返そうと必死の応戦を試みたが、
隼人はギブスをはめた足を庇いなが
かってきた。
ったのだ。
ろが大きかったので、子どもたちの地区
声をかけた。
帰り道、松尾地区と一番仲の悪い田野地
きついていた。
「ぎゃあっ」と叫んで仰
け反ったとたん、隼人はバランスを崩し、
んでいた。
に対する同族意識は強かった。
山野や川での収穫物や遊び場所の奪
区の子どもたちに待ち伏せされた。
んで行ったが、隼人は右足を強打して立
蛇はそのままスルスルと叢に逃げ込
る時だった。いきなり薮の中から数人の
たせ、鎮守の杜に沿った小道を歩いてい
(つづく)
れてしまった。
蛇と一緒に宙を舞い、地面に叩きつけら
が地区を挙げての大喧嘩に膨れ上がっ
ち上がることができなくなった。獅子の
隼人が、カバンを同級生のノブオに持
は互いに競い合った。また、些細な喧嘩
い合い、祭りの競技などにおいて、地区
のガキ大将が仕返しに行ったりという
バンを引っ手繰ると、脇を流れる小川に
たり、誰かがいじめられると、その地区
ような顔は苦痛に歪み、その顔からみる
子どもが飛び出し、ノブオから隼人のカ
こともあり、そういう状況のなかで、喧
みる血の気が引いていった。
投げ入れ、
嘩の強い隼人がいる松尾地区は、常に他
ふみの会ニュース(15)
昔は先生の子供というと、
「品行方
笑んで迎えてくれた。私は内心ドキ
シミーズ一枚で窓側に机を置き、微
は勉強どころか、悩みに来ているよ
若い女性の甘い香りの上に、これで
らませ、一瞬オッパイが見えた……。
内田幸彦
正、学業優等」というイメージが強
リとした。
うなものだ……。勉強なんか、出来
夏の微風
かった。私は鬼子で、
「何の勉強する?
るわけがない。私は罪悪感に打ち勝
〔エッセィ〕
「先生の子供なのにッ!」
やろうね。さあ出して」
やし、親は私に有無を言わさず、知
び呆けている私に、とうとう業を煮
試が近づくのに一向に発奮もせず遊
も理解できない。何時も丙ばかり…
ら頭が拒否してしまい、何度聞いて
した。算術が苦手だが、算術ときた
私は逆に一番好きな国語の本を出
い、と行かなくなった。両親には本
ズ姿だった。私は到底永続きはしな
はなかった。三日目が来た。シミー
次の日は半袖 を着てい たので 心 労
一番嫌なのから
と、二言目には言われた。高校の入
り合いの綾子さんに学習を頼み込ん
…。国語なら勉強しなくても甲ばか
当の事も言えず、絶対行かない、と
つ努力に疲れ果てた。
だ。
り。
午前九時からお昼まで習いに行くこ
夏休みに入ると、火水木の三日、
達になった間柄である。
で従いて行ったから、孫同士もお友
友達で時々おしゃべりするのにお供
で、女学校の二年生。祖母同士がお
こんなモヤモヤした気分では勉強ど
の二才上の女性は早や大人である。
ら、乙女の甘い香りが漂う。思春期
映ゆい。その上、シミーズ一枚だか
と、知り合いとは言え、何となく面
ない。うら若い女性と相対している
読本を 開 い た が、気分 が落ち 着 か
んと結婚したらしいが、医者の何と
によると、――。
れっ切り逢っていないが、世間の噂
ろが、不幸の連続だったらしい。あ
福になるとばかり信じていた。とこ
綾子さんは美人で、よく出来、幸
綾子さんは私より三才年上の才媛
とになった。
ころではない。常に綾子さんの色香
やらで、夜も寝かせなかった、と言
突っ張り、辞めてしまった。
「今日は、内田です」
に翻弄され、頭は錯乱するばかり…
くりして連れ戻してしまった。
お里の母に言うと、お母さんもびっ
女学校を卒業して京都のお医者さ
と、入口で言うと、
う。純情な綾子さんはびっくりして
そんな時、すだれを押し退けて一
…。
と、二階から綾子さんの声が飛んで
陣の風が綾子さんのシミーズをふく
「上がってぇッ!」
来た。二階に上がると、綾子さんは
悪いことは続くもので、離婚して
間もなく肺結核を発病。家を売って
母娘共に入院した、と言う。
二、三年後に二人は退院して来た
ものの、遊んではいられない。そん
な所へ、泉州のタオル業者と縁あっ
て再婚したらしいが、家事と現場の
仕事に、病気が再発。
「実家に帰ってゆっくり養生しろ」
使いものにならぬ、と離縁状が届い
と言われて帰って来たが、これでは
た。前途を悲観した母娘は服毒自殺
したという。偶然、この記事を私も
見た。綾子さんであることはピンと
きた。一日中、胸が重かった。
色白で細く長い優しい目、ツンと
高い鼻。笑うと花が開いたような明
るい彼女だったのに。人生は何故こ
んなに上手く行かないのだろうか。
わたしの大学生活
あまり味わうことが出来ない�
と初対面のお客様との意思伝達は
絶 望 的� わ た し は 元 々 明 る い 性 格
人 間 は� 手 に し て い る も の を 使
いたがるものだと思う�それを放�
で 愛 嬌 は あ る ほ う な の で� 自 分 の
ふじみ ちよ
� �
ておくことは宝の持ち腐れになる
笑 顔 に 助 け ら れ て き た� 最 初 は ひ
し� そ れ が ど こ ま で 通 用 す る か� ど く む � つ り し て い た お 客 様 が�
ど ん な 結 果 を も た ら す か� ど ん な
お帰りの時にはわたしに手を振�
大学で外国語を学んでいると
大 学 2 年 も 終 わ り� 春 季 休 業 に 利
益
を
自
分
に
く
れ
る
の
か
見
て
み
る
てくださ�たり��あんたいい子ね�
い � て も� そ れ を 発 揮 す る 機 会 は
入 � た� 学 生 に と � て ア ル バ イ ト
こ と で� 精 神 的 な 充 足 を 得 る よ う
と 笑 � て く だ さ � た り� 笑 顔 を 返
な か な か 大 学 内 に は な い の だ� い
の季節だ�
に 思 う� わ た し に と � て� 言 語 は
していただけるのがうれしくてま
や� 厳 密 に 言 え ば チ � ン ス は ど �
わたしはバイトの鬼と呼ばれる
まさにそれだ! 自分の学んできた
た わ た し も 笑 � て し ま う� 笑 顔 の
さ り あ る� し か し 日 本 人 特 有 の 気
よ う な 人 間 で は な く� バ リ バ リ 働
言葉がどれだけ周囲に通用するの
お 陰 で 意 思 伝 達 が 濃 密 な� 本 当 に
恥 ず か し さ を 捨 て き れ ず� 留 学 生
い た 試 し は な い� 週 1 回� 多 く て
か� 影 響 す る の か 確 か め て み た い
気持ちのいいやりとりをさせてい
がどんなにたくさんいても自分か
2 回� 慎 ま し く お 金 稼 ぎ を し て い
のだ�レストランのお仕事の中で� ただいている�
ら は 話 し か け に く い� 授 業 中 に 会
る 状 況 だ� 学 生 は 勉 学 が 本 業 な の
わ た し の 学 ん だ 外 国 語 を 理 解 し�
な に は と も あ れ� も の す ご く 自
話練習を嫌というほどするにして
で こ れ で い い と は 思 う の だ が� 自
それに対してさまざまな反応を返
分を成長させてくれるこのアルバ
も� そ れ は や は り 作 ら れ た 状 況 で
分の経済状態を考えるともう少し
し て く れ る お 客 様 に 出 会 う と� わ
イト�外国のお客様と話せた日も�
の 不 自 然 さ が あ る� 生 身 の 人 間 と
増やしたいという気持ちはある�
たしはたまらなくうれしくな�て� 語 彙 力 不 足 で う ま く 話 せ な か � た
話 し て い る は ず な の に� そ の 会 話
勉強とお金稼ぎをも�とうまく
心
が
満
た
さ
れ
て
い
く
の
を
感
じ
る
�
日 も� ま た 勉 強 が ん ば � ち � お う
は今ひとつリアリテ�に欠ける�
両 立 で き な い か と� 去 年 の 3 月 か
し か し� 外 国 語 を 話 せ る と し て
か な� と モ チ ベ � シ � ン ア � プ で
ら 始 め 今 ま で 続 け て い る ア ル バ イ し か し� レ ス ト ラ ン の 中 で は 違 も� お 客 様 の 前 で 忘 れ て は い け な
き て い る� 専 攻 の 勉 強 と お 金 稼 ぎ
う� 相 手 は お 客 様� 自 分 よ り も 上
ト が あ る� 空 港 ビ ル 内 の レ ス ト ラ
い も の が あ る� そ れ は� 笑 顔 だ� を� 幸 運 な こ と に わ た し は 両 立 さ
の 立 場 の 方 だ し� わ た し に 向 け ら
ン の ウ � イ ト レ ス で あ る� 外 国 語
あまりにも普通のことを敢えて何
せることができた � つ( づく )
れる一言一言に絶対的な生気があ
を 専 攻 し て い る 自 分 に と � て� 外
度も書きますが�笑顔�なのです�
る� わ た し は そ れ に 対 し て 的 確 に
国の人と接する機会の多い空港で
どんなに仕事が出来なくても 事
(
返 す 必 要 が あ る� 恥 ず か し が る こ
のお仕事はう�てつけだと思�た
実わたしは仕事が下手 笑
) 顔さえ
と な ど も � て の ほ か� 間 違 い は も
の だ� 案 の 定� レ ス ト ラ ン に は た
あ れ ば な ん と か な る� こ れ が 日 数
ち ろ ん 誤 解 を 生 み� 傷 に な る か も
くさんの外国からのお客様が来ら
が 少 な い な が ら も� わ た し が 今 ま
し れ な い� 真 剣 勝 負 な の だ� こ の
れ る の で� う れ し い こ と に 学 ん で
で 働 い て き て 得 た 教 訓� 笑 顔 の 力
緊 張 感� そ し て う ま く 意 思 伝 達 し
きた外国語をアウトプ�トする機
は あ ま り に も 大 き い� 笑 顔 が な い
合 え た 後 の 高 揚 感 は� 大 学 内 で は
会には事欠かなくな�た�
ふみの会ニュース (16)
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