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(PDFファイルが開きます)VoLTEローミング・相互接続の
VoLTE 3GPP ローミング LTE/LTE-Advanced のさらなる発展 ― LTE Release 10/11 標準化動向― NTT DOCOMO Technical Journal VoLTE ローミング・相互接続の標準技術 3GPP Release 11 では,業界団体である GSMA と連携 た な か ネットワーク開発部 し,VoLTE のローミング・相互接続のアーキテクチャを規 い つ ま 田中 威津馬 定した.従来より VoLTE ローミングのアーキテクチャは存 在していたが,本アーキテクチャは,従来の VoLTE では実 現できなかった,回線交換音声のローミング方式と同様の 音声通信料課金を実現するため,制御信号と音声データを 同じ経路でルーティングさせる特長をもつ. と同じ方法で実現するための方式が 1. まえがき 規定されている. VoLTE(Voice over LTE)とは, 「cascaded charging」と呼ばれるモデ ルが採用されている[2].そのモデ 本稿では,従来の回線交換音声ロ ルを以下に解説する. 従来 3G 無線アクセスなどで利用さ ーミング・相互接続方式と,従来の 図 1 は,通信事業者 A と契約して れている音声および SMS サービス VoLTEローミング・相互接続方式を いる加入者 a が,事業者 B の加入者 を,回線交換ドメイン を有さない 比較し,3GPP/GSMAの両者で解決 b に電話をかける回線交換音声相互 LTE上で提供するための技術である すべき課題とされた点と,標準化さ 接続方式である.各事業者の間には [1].これは IP ベースのマルチメデ れた新しい VoLTE ローミングアー 音声中継網が存在する. ィアサービスを目的とした 3GPP 標 キテクチャについて解説する. *1 準技術である IMS(IP Multimedia *2 Subsystem) を用いることにより 実現している. 3GPP Release 11(以下,Rel.11) 音声通信料は,制御信号に含まれ る情報を用いて,着側事業者(事業 2.従来の回線交換音声 ローミング方式 者 B)から,音声中継網,発側事業 者(事業者 A)へと順繰りに請求さ 従来の回線交換音声方式では, れる. では,業界団体であるGSMA(GSM *3 Association) と連携し,VoLTE の 事業者A 音声中継網 事業者B 制御信号 ローミング・相互接続アーキテクチ ャを規定した. 音声中継網 加入者a 加入者b 音声通話 従来より VoLTE のローミング・ 中継装置 交換機 相互接続方式は存在していたが,こ れに加え,Rel.11 では,VoLTE のロ 図 1 回線交換音声相互接続方式 ーミング方式を従来の回線交換音声 Â 2013 NTT DOCOMO, INC. 本誌掲載記事の無断転載を禁じます. NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 21 No. 2 * 1 回線交換ドメイン:回線交換サービスを 提供するネットワーク機能部. * 2 IMS : 3GPP で標準化された,固定電話 ネットワークや移動通信ネットワークな どの通信サービスを,IP 技術やインター ネット電話で使われるプロトコルである SIP で統合し,マルチメディアサービス を実現させる通信方式. 35 VoLTE ローミング・相互接続の標準技術 次に図 2 に回線交換音声ローミン グ方式のローミング例を示す.これ 着信区間(事業者B-D区間)の音声 様,音声呼の設定に使われる制御信 通信料をそれぞれ支払っている. 号に設定されている加入者情報およ は事業者Aの加入者a1が別の国の事 各事業者および音声中継網におけ 業者Cにローミング接続しているモ る料金精算は,図 1,2 のケース同 び,呼が確立した時間に応じて実施 される. デルである.この場合,加入者a1の 通話相手は,例えば事業者Aと契約 事業者A している加入者 a2 や,他の事業者 加入者a2 の間には音声中継網と信号中継網の 音声 中継網 制御信号 音声 中継網 信号 信号 中継網 中継網 合の音声通信料は相互接続同様,事 信号 信号 中継網 中継網 業者間と音声中継網の間で順繰りに 請求される. 事業者C 位置登録など 制御信号 これら2つのケースを組み合わせる 加入者a2は 事業者Aに加入 音声通話 2 種類の中継網が存在する.この場 と図 3 に示す回線交換音声ローミン グ・相互接続方式となる.これは事業 加入者a1 者Aの加入者aが事業者Cに,事業者B HSS 中継装置 交換機 の加入者bが事業者Dにそれぞれロー HSS:Home Subscriber Server ミングしている場合のケースである. 加入者 a は事業者 C と事業者 B の 図2 回線交換音声ローミング方式 区間の音声通信料を,加入者 b は, 事業者A 事業者B 音声中継網 信号 信号 中継網 中継網 制御信号 音声中継網 音声 中継網 音声中継網 通話 信号 信号 中継網 中継網 位置登録など 制御信号 音声 音声中継網 音声 中継網 音声通話 NTT DOCOMO Technical Journal の加入者などである.事業者 A と C 信号 中継網 制御信号 信号 中継網 事業者D 事業者C 加入者a 位置登録など 制御信号 加入者 b HSS 図3 中継装置 交換機 回線交換音声ローミング・相互接続方式 * 3 GSMA :ローミングルールの策定をはじ めとした,さまざまなモバイル業界の活動 を支援・運営する,世界最大の移動通信関 連の業界団体.移動通信事業者と中継事業 者や端末・装置ベンダ,ソフトウェアベン ダなどの関連企業が参加している. 36 NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 21 No. 2 回線交換網では,在圏事業者の交 3.従来の VoLTE ロー ミング方式 3.1 従来の VoLTE ローミ ング方式の概要 VoLTE の基盤である IMS は, IETF(Internet Engineering Task 換機を用いて呼制御が実現されてい しかしながら,IPX 事業者の観点 るのに対し,VoLTEでは,すべてホ では,SIP 信号が必ずしも音声デー ーム網(加入者が直接契約している タと同じ IPX を経由しないため,誰 事業者)のSIP装置(S- CSCF,AS) がどの期間に音声通話したかを特定 で呼制御が実施される点が大きな差 することができない.したがって, 分である. SIP 信号が通らない IPX 事業者は, *4 また,VoLTE は IP ベースのシス Force) で標準化された SIP(Ses*5 る. 時間単位での音声通信料の課金をす ることができない. テムであるため,従来の方式では, て実現される IP ベースのシステ 制御信号(SIP)と,実際の音声デ VoLTEは,GSMAで従来音声サー ムであり,P-CSCF(Proxy Call/Ses- ータが必ずしも同じルートを通る必 ビスの延長線上と位置付けられてお sion Control Function) , S - CSCF 要はなく,加入者 a から加入者 b の り,IPX 事業者を含めて,従来どお ( Serving Call/Session Control 通信は IPX を経由して,ホーム網を りの音声課金を実施する必要がある NTT DOCOMO Technical Journal sion Initiation Protocol) を利用し *6 *7 経由することなく直接ルーティング とするビジネス上の要求条件が, *8 er) などの SIP 制御装置で構成さ される点が特徴である.これに対 GSMAで合意された[5]. れる[3]. し,回線交換方式では,実際の音声 GSMA からの依頼をうけ,3GPP データは必ず制御信号と同じ経路を では従来どおりの音声課金を実現さ 通る. せる目的で,従来の回線交換と同等 Function) ,AS(Application Serv- 図 4 に従来の VoLTE のローミン グ・相互接続方式を示す.P- CSCF の VoLTE 音声呼の信号・音声ルー は事業者Cが実装するが,実際の呼 3.2 従来の VoLTE アーキ テクチャの課題 制御に用いられるS- CSCFおよびAS は事業者 A に実装されている.ま た,事業者間には SIP や音声データ 従来の VoLTE アーキテクチャで を転送するための国際 IP 中継網で は,音声データがホーム網を経由し *9 ある IPX(IP eXchange) が複数存 なくて済むため,より効率の良い音 在する [4]. 声データのルーティングが可能であ ティング方式を検討することとな った. 4.Rel.11 VoLTE ロー ミング方式 Rel.11 において,RAVEL(Roaming Architecture for Voice over IMS IPX 事業者A IPX 事業者B with Local Breakout)という名称の SIP信号 Work Item が合意され,この枠組み S-CSCF/AS S-CSCF/AS IPX SIP信号 SIP信号は必ずしも 音声データが通った IPXを経由しない 事業者C P-CSCF は,音声データと制御信号が同じ経 SIP信号 IPX P-CSCF IPX 従来の回線交換音声モデルの特徴 IPX SIP信号の通らないIPX事業 者は時間単位での音声通信 量を課金できない IPX 路上でルーティングされる点であ 事業者D り,RAVEL では,VoLTE でも同様 のルーティングを実現するための方 IPX 式が合意されている. 音声通話 加入者a の中で方式検討が実施された. 加入者b 図 4 従来型 VoLTE ローミング・相互接続方式 図 5 に,RAVEL の VoLTE ローミ ング・相互接続方式と接続手順を示 す[3]. * 4 IETF :インターネット技術標準の開発, 推進を行っている標準化組織.ここで策 定された技術仕様は RFC(Request For Comment)として公開される. * 5 SIP : IETF で策定された通信制御プロト コルの 1 つ.VoIP を用いた IP 電話などで NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 21 No. 2 利用される. * 6 P-CSCF : SIP 転送だけでなく,LTE コ アネットワークなどと連携し QoS 制御を 起動させる役割を担う SIP 中継サーバ. * 7 S-CSCF :端末のセッション制御,およ びユーザ認証を行う SIP サーバ. * 8 AS :サービスを提供するアプリケーシ ョンを実行するサーバ. * 9 IPX : GRX が進化した中継ネットワーク で,QoS 機能を提供する. 37 VoLTE ローミング・相互接続の標準技術 事業者A 事業者B ④サービス制御 ● ⑥INVITE転送 ● S-CSCF/AS IPX NTT DOCOMO Technical Journal IPX 事業者C ●TRF ② アドレス 付与 事業者D P-CSCF ①発信 ● TRF ●Loopback Indicatorの確認 ⑥ ⑦中継網の選択 ● P-CSCF 加入者a 加入者b 図5 Rel.11(RAVEL) VoLTE ローミング・相互接続方式Ⅰ 本アーキテクチャには,TRF ⑥INVITE を S - CSCF から受信し 定を実施する.なお,VoLTE呼 (Transit & Routing Function)と呼ば たTRFは,Loopback Indicatorの 設定手順の詳細は過去の本誌記 れる装置が追加されている.この装 有無を確認する.Loopback Indi- 事[1]に記載されているので,本 置は,呼処理を行うホーム網(事業 cator は,TRF で S-CSCF から引 稿では割愛する. 者 A)からいったん在圏網(事業者 き戻された音声発信呼用の C)に SIP 信号を引き戻し,音声デ INVITE と,着信などそれ以外 上記手順を利用すると,SIP 信号 ータと SIP 信号を同じ経路でルーテ の INVITE を区別するために用 と音声データは同じ経路を通ること いられる. になり,各事業者・ IPX 事業者は従 ィングさせるためのアンカー * 10 の ⑦INVITE が S - CSCF から引き戻 機能を提供する. 来どおりの音声課金を行うことが可 能となる. 発信手順を以下に解説する. されたことを判定した TRF は, ①加入者 a が端末上で発信ボタン INVITE に設定されている SIP また,上記技術の応用で,音声呼 を押すと,端末よりP-CSCF へ URI(SIP Uniform Resource Iden- を一度事業者Aに引き込んだうえで * 11 * 12 tifier) などの宛先情報から, 事業者 B に相互接続を行う方式も 転送先の事業者(事業者 B)お Rel.11で規定されている(図 6) .こ よび,利用する IPX を決定す の方式は通信傍受(Lawful Intercept) る.図 5 では IPX を例に図示し や,加入者 a へのガイダンス挿入の ③P-CSCF は,ホーム網(事業者 ているが,相互接続網は従来の 際に用いることが想定されている. A)の S -CSCF/AS に INVITE を 音声中継網を利用することも可 転送する.この際音声データが 能である. 発信要求信号である INVITE 信号が送出される. ②P-CSCF は,INVITE に TRF の アドレスを付与する. 5.あとがき ⑧INVITE はその後通常の VoLTE 本稿では,3GPP Rel.11 で VoLTE 発信手順で加入者 b に転送され のアーキテクチャの規定に至ったそ ていき,VoLTE呼設定が完了す の背景と,音声ローミング・相互接 ⑤S - CSCF は INVITE に「Loop- る.事業者 Bは,呼設定手順の 続方式を解説した. back Indicator」を設定し,指定 中で,音声データを SIP 信号と 本稿で紹介したとおり,3GPP 標 されたTRFに信号を応答する. 同じ経路を通すためのルート設 準仕様で規定された,VoLTE事業者 * 10 アンカー:制御信号もしくは,ユーザベ アラの切替え基点となる論理的ノード地 点. * 11 INVITE : SIP の信号の1つであり,接続 要求を行うための信号. * 12 SIP URI : SIP プロトコルを介して電話 をかける際に使われる,SIP 宛先指定ス キーマ. 通るべきルートも指定する. ④S-CSCF/AS で音声呼制御を実 施 38 通話 音声 IPX IPX 音声通話 ●INVITE転送 ⑤ (Loopback Indicator) IPX ③INVITE転送 ● S-CSCF/AS IPX NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 21 No. 2 事業者A IPX 用ガイドラインが規定される見通し 音声通話 S-CSCF/AS 3GPP の規定に基づいた具体的な運 事業者B IPX SIP信号 S-CSCF/AS であり,ドコモも検討への積極的な IPX 事業者C 音声通話 SIP信号 音声通話 貢献を続けていく予定である. IPX IPX SIP信号 文 献 IPX [1] 田中, ほか:“VoLTE Profileの標準化概 事業者D 要,” 本誌, Vol.19, No.4, pp.45-50, Jan. NTT DOCOMO Technical Journal 2012. [2] 3GPP TR23.850 V11.0.0 :“Study on P-CSCF P-CSCF 加入者a 加入者b 図 6 Rel.11(RAVEL) VoLTE ローミング・相互接続方式Ⅱ roaming architecture for voice over IP Multimedia Subsystem (IMS) with local breakout,” Dec, 2011. [3] 3GPP TS23.228 V11.0.0 :“IP Multimedia Subsystem (IMS); Stage 2,” Dec. が利用可能なローミング・相互接続 GSMAなどの業界団体や,各事業者 アーキテクチャは図4∼6で示した3 の選択に委ねられる. つが存在する.どのアーキテクチャ ドコモは,3GPP および GSMA の が最終的にデファクトスタンダード 両方の団体で,本アーキテクチャ規 になるかは現時点では決まっていな 定の検討に議長などの立場から大き い.アーキテクチャの選択は, く寄与してきた.今後は GSMA で, NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 21 No. 2 2012. [4] GSMA PRD IR.65 V10.0 :“IMS Roaming & Interworking Guidelines,” Aug. 2012. [5] 3GPP S2-113523 :“VoLTE roaming architecture requirements,” Jul. 2011. 39