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1 ≪線形代数及び演習 I ≫の進め方

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1 ≪線形代数及び演習 I ≫の進め方
1
≪線形代数及び演習 I ≫の進め方
線形代数は,ほとんどすべての科学技術分野と社会科学分野おい
て必要とされている基礎知識である.この講義・演習では,線形変
換という視点から線形代数にアプローチする.コンピュータ・グラ
フィックスでは,図形の回転,拡大・縮小,対称変換,平行移動,図
形をずらす操作などが必要であるが,その多くが,線形変換と呼ば
れるものに対応し,行列で表現される.
線形代数で最も重要なものは行列の固有値・固有ベクトルと対角
化である.2 次曲線と 2 次曲面を例として採用し,この有用性をビ
ジュアルに説明する.
1.1
モチベーションとゴール(2 次曲線と 2 次曲面)
≪ 2 次曲線≫ xy 平面において x と y の 2 次方程式
ax2 + 2bxy + cy 2 + dx + ey + f = 0
(1.1)
が表す図形を 2 次曲線という.ここに,a,b,c,d,e,f はすべて定数であり,
2 次の項の係数 a,b,c の少なくとも 1 つは 0 ではない.たとえば,a = c = 1,
b = d = e = 0,f = −1 であれば (1.1) は
x2 + y 2 − 1 = 0
となり,これは原点を中心とする半径 1 の円を表す.また,a = −1,e = 1,そ
の他の定数がすべて 0 ならば
y = x2
となり,放物線を表す.定数 a ∼ f の選び方に応じて (1.1) はさまざま 2 次曲
線を表す.例として,(1.1) で a = 5,b = 0,c = 1,d = −10,e = 2 とした
5x2 + y 2 − 10x + 2y + f = 0
(1.2)
について考えよう.これを
5x2 + y 2 − 10x + 2y + f = 0
⇐⇒
5(x2 − 2x + 1) + (y 2 + 2y + 1) = 6 − f
⇐⇒
5(x − 1)2 + (y + 1)2 = 6 − f
と平方完成して整理すれば
(x − 1)2 +
6−f
(y + 1)2
=
5
5
(1.3)
となる.(1.3) は f < 6 ならば楕円(Figure 1.1 の左上,f = −9)を表す.f
が大きくなるにつれて長軸,短軸が短くなり,f = 6 では 1 点 (1, −1) に縮む.
f > 6 の場合,(1.3) は空集合を表す.
1
≪空集合≫ 要素が何もない集合を空集合という.f > 6 の場合,(1.3) の左辺
は常に正または 0,右辺は負になり,この方程式を満たす実数 x,y は 1 組も
存在しないので,この方程式が表す図形は空集合であるという.
≪楕円,双曲線・交差する 2 直線,放物線≫ 代表的な 2 次曲線は Figure 1.1
に図示した楕円,双曲線・交差する 2 直線,放物線である.このほかに,平行
な 2 直線,1 直線も 2 次曲線である.上の例に現れた 1 点,空集合は<曲線>
ではないが (1.1) が表す図形という意味で 2 次曲線の仲間とする.
(x − 1)2 +
(y + 1)2
= 3㸦ᴃ෇㸧
5
(x + 1)2 −
(x + 1)2 −
(y − 1)2
=0
4
(y − 1)2
1
= 㸦཮᭤⥺㸧
4
2
y = (x + 1)2 − 3 㸦ᨺ≀⥺㸧
㸦஺ᕪࡍࡿ┤⥺㸧
Figure 1.1: 代表的な 2 次曲線(双曲線,交差する 2 直線,楕円,放物線),こ
のほかに,平行な 2 直線,1 直線,1 点,空集合も 2 次曲線である
例題1−1 9x2 − y 2 + 4y − a = 0 が表す 2 次曲線の名称を書け.
(解答例)与えられた 2 次方程式を平方完成し,整理すれば
9x2 − y 2 + 4y − a = 0
⇐⇒ 9x2 − (y − 2)2 = a −
⇐⇒ x2 −
となる.したがって,この 2 次方程式は a =
a−
(y − 2)2
=
2
3
9
ならば交差する 2 直線を,
a ̸=
ならば双曲線を表す.なお,a −
> 0 の場合と a −
では双曲線の開き方が異なることに注意せよ.
2
< 0 の場合
課題1−1 つぎの方程式が大カッコ[ ]内に示された 2 次曲線を表す
ように
に適切な数を入れよ.
(1) x2 − (y 2 − 6y +
(2) x2 − 2x +
=0
(3) x2 + 2y 2 + 4y +
)=0
[交差する 2 直線]
[1 直線]
=0
[1 点]
≪ 2 次曲線の標準形≫ 例えば
√
√
x2 + 4xy + 4y 2 − 2 5x + 5y = 0
(1.4)
√
√
は,(1.1) で a = 1,b = 2,c = 4,d = −2 5,e = 5,f = 0 とした 2 次方程
式であるが,この 2 次方程式がどのような 2 次曲線を表すのかをどのようにし
て判定できるのであろうか.実は,2 次の項 x2 ,xy ,y 2 の係数 a = 1,b = 2,
c = 4 から作られる 2 次の 実対称行列
)
) (
(
1 2
a b
=
2 4
b c
の 固有値 と 固有ベクトル を計算し,固有ベクトルから構成される直交行列に
よってこの実対称行列を 対角化 するように (1.4) を変換すればこの疑問に答え
ることができる.
線形代数及び演習 I のゴールは ≪行列の固有値や固有ベクトルの意味と性
質を理解し,その計算方法を身に付ける≫ ことである.これを応用すれば x,
y の 2 次方程式がどのような 2 次曲線を表すのかを判定できるようになるので
ある.
≪ 2 次曲面≫ 2 次曲線とは x,y の 2 次方程式を満たす点からなる xy 平面内
の図形であった.つぎに,x,y ,z を変数とする 2 次方程式を満たす点からな
る xyz 空間内の図形を考える.aij ,bi ,c(1 ≤ i ≤ j ≤ 3)をすべて定数とし,
aij (1 ≤ i ≤ j ≤ 3)の少なくとも 1 つは 0 ではないとする.すると,x,y ,z
の 2 次方程式
a11 x2 + a22 y 2 + a33 z 2 + 2a12 xy + 2a13 xz + 2a23 yz
+ b1 x + b2 y + b3 z + c = 0
(1.5)
を満たす点からなる図形は一般に曲面になり,2 次曲面と呼ばれる.たとえば,
a11 = 1,a22 = −b3 = 4,その他の定数をすべて 0 とした
x2 + 4y 2 − 4z = 0
は Figure 1.2 の左上に示した 楕円放物面 と呼ばれる曲面を表す.
≪ 2 次曲面の標準形≫ Figure 1.2 の説明のように,定数 aij ,bi ,c の値に応
じて (1.5) は空集合も含めて 15 種類の 2 次曲面を表す.なお,1 直線,1 点,
3
空集合は曲面ではないが (1.5) が表す図形という意味で 2 次曲面の仲間とする.
では,係数 aij ,bi ,c が与えられたとき (1.5) が 15 種類の 2 次曲面のうちの
どれを表すのかどのようにして分かるのであろうか.実は,2 次の項の係数か
ら作られる 3 次の 実対称行列


a11 a12 a13
a12 a22 a23 
a13 a23 a33
の 固有値 と 固有ベクトル を計算し,固有ベクトルから構成される 直交行列
によってこの実対称行列を 対角化 するように (1.5) を変換すればこの疑問に答
えることができる.
z=
x2
− y2
2
㧔෺ᦛ᡼‛㕙㧕
z=
x2
+ y2
4
㧔ᬦ౞᡼‛㕙㧕
x 2 y2
+
+ z2 = 1
4
2
㧔ᬦ౞㕙㧕
x2 +
y2 z 2
− =1
2
2
㧔න⪲෺ᦛ㕙㧕
x2 +
y2 z 2
− = −1
2
2
㧔෺⪲෺ᦛ㕙㧕
Figure 1.2: 代表的な 2 次曲面(楕円放物面,双曲放物面,楕円面,双葉双曲面,
単葉双曲面),このほかに,2 次錐面,楕円柱,双曲柱,放物柱,交わる 2 平
面,平行な 2 平面,1 平面,1 直線,1 点,空集合も 2 次曲面である
先にも述べたように,線形代数及び演習 I のゴールは≪行列の固有値や固有
ベクトルの意味と性質を理解し,その計算方法を身に付ける≫ ことであり,こ
れを応用すれば x,y ,z の 2 次方程式がどのような 2 次曲面を表すのかを判
定できるようになるのである.
4
まとめ:線形代数及び演習 I のゴール
行列の 固有値 や 固有ベクトル の意味と性質を理解し,その計算方法を身
に付ける.これを応用すれば,たとえば x,y の 2 次方程式が与えられた
とき,それがどのような 2 次曲線を表すのかを判定したり,x,y ,z の 2
次方程式が与えられたとき,それがどのような 2 次曲面を表すのかを判定
できるようになる.
1.2
演習・実習のチェック
演習や実習にはセルフチェックのものとTAチェックのものがある.
≪セルフチェック≫ セルフチェックの演習や実習については,できたと思った
ら自分自身で解答例と照合し,OKならば,ボールペンなどを使用してチェッ
クリストにサインする.いろいろ考えても分からない場合は解答例を見ながら
考え直してもよい.解答例を見ても分からない場合や自分のやり方や答えで良
いのか分からない際にはTAや担当教員に質問することが望ましい.
≪TAチェック≫ TAチェックの演習や実習については,できたと思ったら担
当教員かTAにチェックを申し込みなさい.なお,受講学生は,TAがチェック
リストへ記載するのを確認し,自分自身でチェックしたTAの氏名とチェック日
を自分のノートなどに記録しなければなりません.
≪ボランティア・ポイント≫ 早くできても帰ってはいけない(欠席扱いになる
ことがある).早くできた学生には他の学生を指導することが期待され,担当
教員の事前承認が必要であるが,ボランティア・ポイントとして成績にも反映
される.
≪締切に遅れた場合≫ 締切に遅れた課題や演習については,5講時終了後,チェッ
クリストへの記録を担当教員に申し込みなさい.
1.3
線形代数及び演習 I のウェブサイト
線形代数及び演習 I に関する資料はつぎのウェブサイトから入手できる.
http://www.math.ryukoku.ac.jp/~tsutomu/LA.html
「池田勉」で検索し,
「池田勉の Web Site」を ᳰ↰ീ
ᬌ⚝
クリックすれば容易にこの URL に到達でき
るだろう.講義や演習の資料だけではなく,定期試験の過去問や解答例,評価点
の分布や学生による授業評価集計結果などもこのウェブサイトから入手できる.
1.4
成績の評価
下記の割合で成績を評価する:
・平常点 20%:演習・実習の達成状況(締切に遅れた場合も提出可能)
・ミニテスト 20%:講義資料・ノートの持込可,TAへの質問可
5
・定期試験 60%:ウェブサイトで定期試験の過去問や解答例を公開,筆記
用具以外は持込不可
さらに,他の学生に教えてあげたり,黒板で例題を解くことなどによって得ら
れるボランティア・ポイントを最高評価100点の範囲内で成績に加算する.
1.5
出席の確認
不特定小数の学生に対して出席の確認を行うことがある.欠席の場合は成績評
価の際に減算する(不在確認1回につき1点減算).
1.6
情報の公開
期末に実施される<学生による授業評価調査>の結果はウェブを通して公表す
る.
【この授業の改善すべき点は何ですか】への記述内容と担当者の反応および
【あなたのこの授業への取り組みを振り返って自由に書いてください】への記述
内容もウェブを通して公表する.
1.7
定期試験問題(案)の募集
成績評価の60%を占める定期試験の問題(案)を募集する.応募できるのは
受講学生と担当TAである.今年度の線形代数及び演習 I にふさわしい問題を
提案して欲しい.7月8日(火)までに紙に書いた案を担当教員に手渡して欲
しい.提案された問題がそのまま出題されることはないが,採用されたら,よ
く似た問題を出題される.また,問題文には「謝辞(感謝の言葉)」が書かれる.
1.8
アルジェブラさんとリニアーくん
線形代数及び演習 I の講義・演習・実習の手助けをするキャラクターとして,ア
ルジェブラさん(Ms. Algebra)とリニアーくん(Mr. Linear)を導入する.よ
ろしく.
ࠕ࡞ࠫࠚࡉ࡜ߐࠎ
࡝࠾ࠕ࡯ߊࠎ
Figure 1.3: 左はアルジェブラさん,右はリニアーくん
6
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