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1 長久手町環境資源目録の見直し
1 長久手町環境資源目録の見直し (1) 環境資源とは ア 背景 長久手町は大規模な土地区画整理事業や土地改良事業が実施される前は、水田とな だらかな丘陵地が広がる里地・里山の風景が広がっていた(図1-1)。 本町には現在約 5 万人の町民が暮らしているが、昭和 40 年には 7.5 千人で、現在の 約 1/7 しかいなかった。昭和 40 年から 45 年頃を境に人口が急増し始め、新しい宅地 の需要が高まった。 大規模事業が開始されたのは、昭和 44 年の岩作における土地改良事業からである。 その後、丸根のほ場整備、長湫西部・東部土地区画整理事業が続き、現在実施中の長 湫南部土地区画整理事業を含めると、土地区画整理事業で開発された面積は計 535.6ha、 土地改良事業で改良された農用地は計 287ha に上っている(表1-1)。 一方、愛知県農業総合試験場、愛知県立芸術大学、愛・地球博記念公園などのグリ ーンロード以南にある大規模な公共施設においては、環境の変化は比較的小さく、町 東部の市街化調整区域とともに自然が比較的守られている。 表1-1 長久手町における大規模事業 区分 土 地 区 画 整 理 事 業 事業名 事業期間 面積 長湫西部土地区画整理事業 昭和 47 年~平成 12 年 158.9ha 長湫東部土地区画整理事業 昭和 48 年~平成 5 年 163.5ha 長湫下山第一土地区画整理事業 昭和 53~56 年 長湫中部土地区画整理事業 昭和 56 年~平成 23 年 岩作第一土地区画整理事業 平成 4~16 年 4.7ha 長湫南部土地区画整理事業 平成 10~24 年 98.2ha 3.6ha 計 土 地 改 良 事 業 106.7ha 535.6ha 団体営土地改良事業(愛知用水(岩作工区) ) 昭和 44~48 年 78.5ha 鉱害復旧ほ場整備事業(丸根) 昭和 46~56 年 32.2ha 非補助土地改良事業(丸根) 昭和 55 年~平成 16 年 16.7ha 団体営ほ場整備事業(長久手) 昭和 42~54 年 農村総合整備モデル事業(長久手) 昭和 53 年~平成 19 年 合 1 114.4ha 45.2ha 計 287.0ha 計 822.6ha (人、世帯) 60000 総人口 世帯数 50000 約43500人 40000 30000 20000 約13200人 約8300人 10000 0 1920 30 40 50 60 70 80 90 昭和42年 昭和49年 図1-1 長久手町における開発状況 2 2000 平成18年 09 イ 定義 環境資源という言葉は廃棄物の再利用における資源的視点と混同されやすいため、本 書における「環境資源」を定義しておく必要がある。このため、本目録においては、環 境資源を以下のとおり定義した。 「長久手町民が現在及び将来にわたり、心身の豊かさ、心地よさ、健全さを享受し、 町が他に誇りとすることができる環境要素を『長久手町の環境資源』とする。」 環境資源は、将来にわたって大切に利活用していくべきものであるため、現在、まだ よく認識されておらず眠った状態の環境資源についても配慮が必要である。例えば、池 の底に埋まっている水草の種子や潜在的に湧水湿地が成立する可能性が高い場所などは、 将来において資源価値が高まる可能性を秘めているため、このような要素についても環 境資源として扱うこととした。 ウ 分類 長久手町の環境を特徴付けるものとして、面的要素として丘陵があり、線的要素とし て香流川がある。 丘陵には、東海地方の周伊勢湾地域*1(巻末の用語解説1を参照、以下同様)に特徴 的な地下水を多く含む地層が分布し、湧水が各所にみられる。湧水に涵養された湿地や ため池、小川には多くの珍しい生き物が生息している。また、丘陵地にはアカマツ・コ ナラを主体とした二次林が分布し、山の手入れが減ったため荒れた場所が増加している ものの、一部には明るい二次林が残り、里山を代表する生き物の主要な生息場所となっ ている。 香流川は身近な河川として、特に上流域の支流のなかには、自然性が残り、魚や水生 昆虫をはじめ様々な生き物の生息地となっている場所がある。また、付近の人々にとっ ては、香流川堤防は散策や生活道路として利用され、周辺の田園地帯と一体となり広々 とした景観を創りだしている。 整備された道路も線的要素として重要であり、人々の移動手段としての利用の他に美 しい景観を提供している。 点的要素の社寺林には、人手が加わらない場合の植生、すなわち潜在植生であるシイ、 カシなど常緑広葉樹が残る場所が尐なくない。これらの場所では、様々な昆虫類が生息 している。また、市街地のなかの、池や公園の樹林、草地も点的要素ということができ、 様々な生物の生息場所であると同時に、町民、特に子どもたちの遊び場、遊びを通した 環境学習の場となっている。 以上、町民が他に誇ることができる町の自然や、町民が利用し享受することができる 場所や事物として、環境資源の例を挙げたが、本書においてはこれらを、以下の観点か 3 ら大きく二つに区分した(表1-2)。 生物多様性の観点から価値が高く、他に誇ることができる環境資源として、希尐で学 術的価値の高い地形・地質及び動植物種やそれらの生息・生育する生態系がある。学術 的価値がある希尐種は、それ自体が環境資源であり、保全し後世に伝えるべきものであ る。 一方、日常生活を豊かにしてくれる環境資源として、良好な景観や親しみ学ぶための 環境としての水辺や里山がある。良好な景観や親しみ学ぶための環境は、里山、公園、 社寺林、河川、ため池など、前回の環境目録で整理された資源が含まれ、これらは、多 様な生物の生息場所であると同時に、私たちの古里の原風景を形作っている。 前回の環境資源目録において挙げられていた文化財も広い意味で環境資源といえるが、 自然環境資源が保全と利活用から施策検討されることが多いのに対し、文化財について は、保存の観点から施策検討されることが多いため、今回の目録からは除外した。 表1-2 長久手町における環境資源 平成 11 年度環境資源目録 ・地形(丘陵地、河川、ため池) 平成 21 年度環境資源目録 1 学術的価値の高い環境資源 ・地質 ・特徴的な地形・地質資源 ・植物(植生、植物相) ・希尐植物資源 ・動物(香流川の動物) ・希尐動物資源 ・水辺環境 ・多様性を有する生態系資源 ・代表的な環境資源*(ため池・河川、社寺・ (湿地、ため池、河川、明るい二次林) 丘陵地、湿地・谷津田) ・景観(生活の風景、文化の風景、歴史の 風景、自然の風景) ・文化財 2 日常生活における環境要素として価値の高い環境資源 ・良好な景観資源 ・親しみ学ぶための環境資源 (里山、公園、社寺林、河川、ため池) * 報告書に項目としては記載されていない。 4 (2) 環境資源目録の見直しとその手順 前回の資源目録を基本に、再度、長久手町において、「どのような環境資源」が、「ど こに分布」し、 「どういう状態」で存在するかを以下の作業の流れに沿って調査した。な お、今回の見直し作業においては、現地における生物分布調査を実施していないため、 既存資料及び聞き取り調査を主に行った。 ア 学術的価値の高い環境資源 (地形・地質・植物・動物・生態系) イ 日常生活における環境要素として価値が高い環境資源 (良好な景観資源) (親しみ学ぶための環境資源) 5 (3) 調査方法 ア 収集資料 表1-3に示した資料により資源の抽出を行った。 表1-3 収集資料 分野 必要資料 基本計画等 ・ ・ ・ ・ 長久手町環境基本計画(平成 13 年) 長久手町環境資源目録(平成 12 年) 第2次長久手町環境基本計画(平成 18 年) 長久手町緑の基本計画(平成 8 年) 自然環境 ・ ・ ・ ながくて昆虫記(平成 5 年) 長久手の湿地(平成 7 年) 長久手町史 資料編二 自然(昭和 58 年) 土地利用規制 ・ ・ ・ 第 2 次長久手町土地利用計画 (平成 21 年) 都市計画図 長久手農業振興地域整備計画 イ 専門家への聞き取り 抽出時に入手した概況情報をもとに、表1-4に示した専門家を対象に環境資源の 分布及び生息・生育状況について聞き取りを行った。 表1-4 聞き取り対象の専門家 分野 植物 氏名 村松正雄 備考 瀬戸市立水無瀬中学校教諭 愛知県環境審議会専門調査員 動物 昆虫類 高崎保郎 日本蜻蛉学会会員 水生昆虫 内田臣一 愛知工業大学土木工学専攻 教授 爬虫類・魚類 矢部隆 愛知学泉大学 コミュニティ政策学部 教授 ウ 現地調査 (ア) 概略踏査 長久手町の代表的な環境資源について概略踏査を行い、概要を把握した。 (イ) 現地調査 河川、ため池の改修状況について、踏査により記録した。また、土地利用計画等 の重点地区の現況について、踏査により記録した。良好な景観資源については、現 地調査を実施し風景写真の撮影を実施した。親しみ学ぶための環境資源については、 空中写真、都市計画図により概略区分をした後、現地踏査により確認した。 6 エ 学術的価値の高い環境資源候補種選定根拠 学術的価値の高い環境資源については、表1-5に示した判断根拠に該当する事物を 対象に、表1-6に示した資料を参考に抽出した。 表1-5 学術的価値の高い環境資源の選定根拠 区分 地形・ 地質 植物 動物 基準 備考 県において天然記念物に指定されている地形・地質・自然現象 県条例「自然環境の保全及び緑化の推進に関する条例」における「保全策を講 じさせる野生動植物の生育地又は生息地及び特異な地形、地質又は自然現象に 関する基準」に指定されている地形・地質・自然現象 県及び町において天然記念物に指定された種及び群落 レッドデータブックあいち植物編 2009 の掲載種 愛知県(平成 21 年) レッドリスト対象種(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 環境省(平成 18 年、19 年公表) 県及び町において天然記念物に指定された種 レッドデータブックあいち動物編 2009 の掲載種 愛知県(平成 21 年) レッドリスト対象種(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 環境省(平成 18 年、19 年公表) 表1-6 学術的価値の高い環境資源の抽出に用いた資料 区分 植物 動物 著者・編者 文献・資料名 発行年 愛知県環境調査センター レッドデータブックあいち植物編 2009 平成 21 年 2005 年日本国際博覧会協会 2005 年日本国際博覧会に係る環境影響評価書 平成 14 年 6 月 長久手町 長久手町史 資料編二 自然 昭和 58 年 愛知県環境調査センター レッドデータブックあいち動物編 2009 平成 21 年 長久手町産業観光課 湿地調査業務委託報告書 平成 19 年 5 月 愛知県名古屋東部丘陵工事事務所 大規模事業関連道路工事の内環境調査業務委託報告書 平成 17 年 3 月 長久手町 長久手町史 資料編二 自然 昭和 58 年 2005 年日本国際博覧会協会 2005 年日本国際博覧会に係る環境影響評価書 平成 14 年 6 月 長久手町 香流川整備計画測量調査報告書 平成 10 年 3 月 高崎保郎 愛知県長久手町の蜻蛉と蝶、佳香蝶 第 60 巻(記念号)、133-149. 平成 20 年 7 2 長久手町の環境概況 (1)地形・地質 ア 地形 本町は尾張丘陵と尾張平野とが接する地点に位置するため、その地形は複雑で香流川 に沿って広がる平地に丘陵の尾根が入り組んでいる。全体を概観すれば、南東に高く北 西に低い地形で、 南東部の最高点で標高 184m、北西部の最低点で標高 43m、 東西約 8km、 南北約 4km の中央がくびれた長方形をしている。 長久手町の代表的な地形としては丘陵地、河川、池、湿地が挙げられる(図2-1)。 【丘陵地】丘陵地は南西から北西に向かって緩やかに放射状に広がっており、東から三 ヶ峯丘陵、大草丘陵、岩作丘陵、長湫丘陵と呼ばれている。 【河川】本町には 1 級河川の香流川など 13 の河川が流れている(表2-1)。これらの 河川のうち、井堀川を除く全てが香流川に流れ込んでいる。また、香流川を除けばい ずれも小河川である。なお、昭和 37 年には農業用水源として愛知用水が通水した。 【池】本町には 60 近くの池が分布しており(表2-2)、その多くは農業用に造られた ため池で、丘陵の谷間に土堰を築き、山の清水と天水を貯めた小規模なものが多い。 【湿地】長久手町の「久手」や「湫」の地名は、元来湿地と同義語であり、本町の平地 にはかつて広大な沼沢湿原があった。しかし、都市化や耕地整理による乾田化により、 現在の平地部にはそのような湿地の面影は残っていない。現在本町に残っている湿地 は、丘陵地の斜面に湧水によって涵養されている湧水湿地*2 や、池畔の小湿地、ある いは谷戸に残された湿地などである。これらの湿地の多くは町東部の丘陵地帯、とり わけ三ヶ峯丘陵に存在している。これらの湿地の殆どは規模の小さいものであるが、 湿地特有の動植物が分布し、町の貴重な自然文化財となっている。 表2-1 本町の河川 河川名 読み仮名 1 級河川 (km) 準用河川 (km) 普通河川 (km) 町域全長 (km) 香 流 川 かなれ 4.45 - 5 9.45 鴨 田 川 かもだ - 1.85 - 1.85 香 桶 川 こおけ - 1.7 - 1.7 井 堀 川 いぼり - 1.4 - 1.4 神 明 川 しんめい - 1.1 - 1.1 溝 ノ 杁 川 みぞのいり - 0.7 - 0.7 権 代 川 ごんだい - 0.7 - 0.7 雁 又 川 かりまた - 0.5 1.4 1.9 東 山 川 ひがしやま - 0.5 - 0.5 清 水 川 しみず - 0.4 - 0.4 堀 越 川 ほりこし - 0.24 3.3 3.54 池 田 川 いけだ - - 0.8 0.8 いちのい - - 0.25 0.25 一 ノ 井 川 8 表2-2 本町の池 番号 1 丁子田池 所在地 大字長湫字丁子田 1 規模 小 2 杁ヶ池 大字岩作字長配 11 大 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 葦池 菅池 深田池 権田上池 新池 立石池 宮ヶ洞上池 宮ヶ洞池 向田池 無名池(桃ノ木洞 1) 無名池(桃ノ木洞 2) 大根池 本田池 中根中池 大字長湫字深廻間 23-1 大字長湫字菅池 50 大字長湫字深田 31 大字岩作字権田 16 大字岩作字浮江 89 大字岩作字北山 4 大字岩作字色金 79 大字岩作字色金 84-1 大字岩作字向田 4-5-6 大字岩作字桃ノ木洞 大字岩作字桃ノ木洞 大字岩作字大根 1 大字岩作字長鶴 27 大字岩作字長鶴 39 中 大 中 中 中 大 中 大 小 小 小 中 中 中 17 長鶴池 大字岩作字長鶴 40 大 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 出田池 立花池 岩廻間上池 岩廻間下池 北浦池 溝之杁池 杁ノ洞上池 杁ノ洞下池 清水池 無名池(丸太の家池) 汐見坂一号池 汐見坂二号池 鯉ヶ廻間上池 鯉ヶ廻間下池 大字熊張字立花 2885 大字熊張字立花 2892 大字熊張字岩廻間 2755 大字熊張字岩廻間 2758 大字熊張字北浦 2566 大字熊張字北浦 2580 大字熊張字杁ノ洞 2469 大字熊張字杁ノ洞 2438 大字熊張字東山 1640 大字熊張字福井 1590 大字熊張字茨ヶ廻間 1533-58 大字熊張字茨ヶ廻間 1523 大字熊張字茨ヶ廻間 1524 大字熊張字茨ヶ廻間 1525 中 小 中 中 中 中 中 中 中 小 小 中 中 中 32 無名池(茶畠池) 大字熊張字阿畑 小 33 34 35 36 37 菖蒲池 ささ池 蓮池 つつじ池 こいの池 大字熊張字茨ヶ廻間 大字熊張字茨ヶ廻間 大字熊張字茨ヶ廻間 大字熊張字茨ヶ廻間 大字熊張字茨ヶ廻間 小 中 小 中 大 38 かえで池 大字熊張字茨ヶ廻間 大 39 めだか池 無名池 (旧第 2 キャンプ場池) ひょうたん池 かきつばた池 かめの池 一ノ井池 無名池(一ノ井川源流池) 一ノ池 二ノ池 三ノ池 四ノ池 カキツバタ池 ハナショウブ池 桜ヶ池 大字熊張字茨ヶ廻間 小 備考 林内堰堤の溜り水的だがハビタット*3 としてはよい。 低い土の岸にエコトーン*4 が形成されハビタットとしても、 景観的にも優れている。 フェンスで囲まれている。 フェンスで囲まれているが、景観的にはよい。 豊田中央研究所内に位置する。 フェンスに囲まれ、貯水槽的。 景観的にはよい。 親水護岸があり景観的にはよい。 フェンスで囲まれている。 フェンスで囲まれているが景観的にはよい。 谷あいに位置する。 個人所有。 個人所有。 ハビタットとしてはよい。 人工的な環境。 養魚池。フェンスで囲まれている。 長期水抜きされ、湿性陸地化しているがハビタットとしては よい。 人工的な環境。 荒地の中に存在。 フェンスで囲まれている。 フェンスで囲まれている。 荒地の中に存在。 人工的な環境。 フェンスで囲まれている。 人工的な環境。 フェンスで囲まれているがハビタットとしてはよい。 竹林内。 フェンスで囲まれている。 フェンスで囲まれている。 湿地を伴いハビタットとして優れている。 ハビタットとしてはよい。 林内の池で、粘土流入の影響を強く受けたが、本来はハビタ ットとしてよい池。 記念公園内。フェンスで囲まれている。 記念公園内。湧水を伴いハビタットとしてはよい。 記念公園内。ハビタットとしてはよい。 記念公園内。改善可能な湿地を伴う。 記念公園内。親水性があり、景観的にもよい。 記念公園内。親水性があり、湿地を伴いハビタット、景観的 にもよい。 記念公園内。親水性があり、景観的にもよい。 大字熊張字茨ヶ廻間 小 記念公園内。湿地を伴いハビタットとして優れている。 大字岩作字三ヶ峯 大字岩作字三ヶ峯 大字岩作字三ヶ峯 大字前熊字一ノ井 35 大字前熊字一ノ井 35 大字前熊字一ノ井 36 大字前熊字一ノ井 37 大字前熊字一ノ井 38 大字前熊字一ノ井 29 大字岩作字三ヶ峯 1-1 大字岩作字三ヶ峯 1-1 大字岩作字三ヶ峯 1-1 小 大 中 中 小 大 大 中 小 中 小 中 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 池名 記念公園内。景観的にはよい。 記念公園内。湿地を伴いハビタット、景観、共に優れている。 記念公園内。湿地を伴いハビタット、景観、共に優れている。 湿地を伴いハビタット、景観、共によい。フェンスあり。 ハビタットとしてはよい。 芸大内の池で景観的にはよい。 農総試内。ハビタット、景観、共によい。 農総試内。ハビタットとしてはよい。 農総試内。貯水池。 農総試内。 農総試内。景観的にはよい。 農総試内。廃水処理池。 農総試内。湿地・湿地林を伴い、ハビタット、景観、共に優 53 アヤメ池 大字岩作字三ヶ峯 1-1 中 れている。 農総試内。水生植物・水生昆虫に富み、ハビタット、景観、 54 農総試一号池 大字岩作字三ヶ峯 1-1 大 共に優れている。 55 農総試二号池 大字岩作字三ヶ峯 1-1 中 農総試内。 56 無名池(農総試無名池) 大字岩作字三ヶ峯 1-1 小 農総試内。 農総試内。林内、水生・湿生植物、トンボに富み、ハビタッ 57 無名池(農総試本館下池) 大字岩作字三ヶ峯 1-1 小 トとして優れている。 注 1)本表に挙げた池はため池台帳と地形図及び聞き取り調査により整理した。無名池については( )内に通称を示した。 注 2)本表備考欄における表記は次の通り。記念公園:愛・地球博記念公園、芸大:愛知県立芸術大学、農総試:愛知県農業総合試験場 9 10 図2-1 本町の地形 10 イ 地質 表2-3に本町の地質の概要を示した。本町の地質は土台となる基盤岩類*5 とこれを土 台としてその上に堆積した礫層、砂礫層、砂層及びシルト層などの重なりからできている 鮮新統*6 及び更新統*7 に分けられる。 基盤岩類は古生層とそれに貫入した花崗岩類からなり、極めて堅固な岩盤を形成してい る。町域に分布し、限られた地域のみで露出が認められる。 鮮新統は瀬戸層群とよばれ、瀬戸陶土層と矢田川塁層に分けられるが、町域に分布する のは矢田川塁層である。矢田川塁層はさらに水野砂礫相、尾張夾炭相、猪高相に区分され る。これらの地層は、透水性のよい砂礫層などと透水性の悪いシルト層などが互層を形成 しているため、山腹斜面の崩壊場所には、透水層と不透水層との境から地下水が滲出し、 周伊勢湾地域に特有な湧水湿地がしばしば形成されている。 更新統は主に砂礫層から成る段丘堆積層であり、尾張旭市とその境界付近の岩作字高山、 雁又地区に、洪積世熱田層に属する砂礫層が層厚 3~4mで分布している。 表2-3 本町の地質の概要 地質 地層 概要 基盤岩類 古生層 主に砂岩が花崗岩類の貫入によって接触熱変成を受けてホルンフェルス化し、その岩体が岩 作の色金山・高根山を中心とする地域に露出している。また、高根山では軟弱になった露頭 から水晶がみつかることがある。水晶は無色透明で結晶の明瞭な石英で、江戸時代には岩作 の水晶は質の良さ、採掘量の多さで尾張藩の名産品となる程であった。 花崗岩類 鮮新統 更新統 愛・地球博記念公園内でわずかに露出が確認されている。 水野砂礫相 矢田川累層の最下部を占めている。中礫層から成る砂礫層を主体とし、砂礫とシルト層を挟 有し、ときには凝灰岩層を含むこともある。町域では岩作丘陵の中南部から三ヶ峯丘陵、大 草丘陵一帯にかけての地域に分布している。 尾張夾炭相 前述の水野砂礫相は町域南西部ではシルトを増して泥質層に移行し、その上部に重なる同様 な泥質層が本相である。シルトを主とする層に若干の砂礫及び砂礫層を挟むほか、数層の亜 炭層、凝灰岩層、浮石層などを含有する。亜炭層はシルト層中に数層挟有され、本町ではそ の一部が明治から昭和 20 年代にかけて採掘された。 猪高相 前述の尾張夾炭相は町域西部に向かうに従い次第に砂礫層が多くなり、シルト層と砂礫層、 砂層が板状に相重なって互層となる猪高相へと移行する。この層でもシルト層に薄い粗悪な 亜炭を含むことが多くみられる。 段丘堆積層 主に砂礫層から成り、礫はチャートを主とする円礫である。その間を充填するものは粗砂粒 であるが、よく固まっていないので層としては柔らかいといえる。尾張旭市とその境界付近 の岩作字高山、雁又地区に、洪積世熱田層に属する砂礫層が層厚 3~4mで分布している。 (2)動植物 本町は、尾張平野東縁に接する尾張東部丘陵に位置している。西半分の平地部は名古 屋市に接し市街化されているが、東部は中央の香流川を挟む田園地帯と、それを囲み瀬 戸市、豊田市、日進市と稜線で境をなす丘陵地帯となっている。この丘陵地帯が、生物 多様性に富み本町において最も重要な自然環境となっている。 丘陵地帯南東部の三ヶ峯丘陵の大部分は、県有地の愛知県農業総合試験場、愛知県立 11 芸術大学、愛・地球博記念公園の敷地が占め、丘陵地帯北東部は、細長い大草丘陵で、 ここには本町を代表する谷津田(丘陵の谷あいの水田)が残存している。 この地方では、古くから人による山林利用が盛んであったため、二次林のアカマツ・ コナラ林が形成されている。したがって、これらの丘陵のいずれも、マツ、コナラを主 体とする二次林(人手の入った落葉広葉樹林)を形成し、池、湿地、細流も存在するい わゆる里山であり、多くの動植物を育んでいる。アカマツ、コナラ、アベマキ、ヒサカ キ、シャシャンボ、タカノツメなどの中高木、コバノミツバツツジ、ハゼノキなどの低 木、林床にはケネザサ、ベニシダなどが生育する。三ヶ峯丘陵のやや湿った林床にはカ ンアオイ類が多い。谷あいや中腹斜面には、湧水による湿地が形成され、各種の食虫植 物やシラタマホシクサの他、湿地性のイネ科、カヤツリグサ科の植物が生育している。 (3)水質 水質汚濁は、昭和 30 年代からの急速な工業化や都市化の進展により表面化し、早急に 対処すべき問題となった。こうしたことから、昭和 42 年 8 月に公害対策基本法が施行さ れ、昭和 45 年 4 月に水質汚濁に係る環境基準が閣議決定された。同年 12 月に水質汚濁 防止法が公布され、翌昭和 46 年 6 月に施行された。このような各種の施策により工場や 事業場からの排水規制が強化され、工場等からの水質汚濁は軽減されるようになった。 しかし、都市化や生活様式の変化により一般家庭からの排水が水質汚濁に大きく影響を 与えるようになってきた。 愛知県においては、昭和 55 年 2 月に「愛知県生活排水対策推進要綱」が制定された。 平成 2 年には、水質汚濁防止法の改正で、生活排水対策の推進が追加されている。 長久手町では、昭和 58 年から香流川、雁又川、堀越川、香桶川、鴨田川、井堀川の水 質検査を実施し、水質汚濁の状況を監視している。平成 10 年から、神明川、東山川、森 孝川においても水質検査を実施し、長久手町の河川全ての水質検査を実施している。 平成 22 年における本町の河川とため池の生物化学的酸素要求量(BOD)の測定結果を みると(図2-2) 、河川では香流川支流の香桶川、雁又川、森高川が特に高い値を示し ている。香流川については上流部と下流部がやや高い値となっている。一方、香流川支 流の神明川、東山川や、市街地を流れる鴨田川は低い値を示している。ため池について は、杁ヶ池がやや高い値となっている。これらの場所による水質の違いは、生活排水の 流入や有機物の堆積などが主要な要因と考えられる。 12 13 図2-2 長久手町の河川・ため池の水質状況 13 3 長久手町の環境資源 3-1 学術的価値の高い環境資源 (1) 特徴的な地形・地質資源 愛知県の保全対象の選定基準を参考にすると、町域においては学術的価値が高い地 形・地質に該当する資源はない。 ただし、以下の 3 つについては、本町の特徴的な地形・地質として挙げておいても よいと考えられる(表3-1) 。 矢田川累層は透水層と不透水層が互層に重なったもので、湧水湿地が形成される背 景となっている。矢田川累層には水野砂礫相などの堆積層がみられ、なかには尾張夾 炭相がみられる場合もある。水野砂礫相には層理が交差するクロスラミナ*8 がみられ ることがあり、尾張夾炭相には亜炭層が含まれ、昭和 20 年頃まで採掘されていた。矢 田川累層は町域に広く分布するものの、その観察場所は造成地などにおける露頭であ ることが多いため、特定の露頭箇所を資源として取り上げるには困難が伴うと考えら れる。 平和橋下流の香流川河床には植物化石の露出がみられる。これは、砂岩や頁岩が花 崗岩貫入時に熱変性を受けホルンフェルス化したもので、堅固な古生層の露出がみら れる。 岩作丘陵高根山の軟弱になった露頭からは水晶が出土する。この水晶は無色透明で 良質なため、江戸時代には尾張藩の名産品の一つになっていた。 表3-1 長久手町の特徴的な地形・地質資源目録 資源 説明 矢田川累層 本町の丘陵地一帯に分布している地層で、砂礫層を主体とし、砂礫とシルト層 を挟有し、透水層と不透水層が互層をなすため、湧水湿地成立の背景をなして いる。 平和橋下流の香流川河 床でみられるホルンフ ェルスの植物化石 平和橋下流の香流川河床には、砂岩・頁岩が花崗岩類貫入時に熱変性を受け、 ホルンフェルス化した堅固な古生層の露出がみられ、植物化石も確認できる。 岩作丘陵高根山から出 土する水晶 軟弱になった露頭から、無色透明で結晶の明瞭な水晶が見つかることがある。 江戸時代には、岩作の水晶は品質の良さ、産出量の多さで尾張藩の名産品であ った。 14 (2)希少植物資源 表3-2に長久手町の学術的価値の高い植物資源(希尐植物資源)目録を、図3-1 に希尐植物資源の分布を示した。 希尐植物資源の選定方法は、長久手町全域を対象とした植物調査が近年実施されてい ないため、表1-6に示した長久手町の植物に関する既存資料から、レッドデータブッ クあいち 2009 植物編の掲載種及びレッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の 種のリスト)の掲載種に該当する種を抜き出し、希尐植物資源の候補種として表3-3 に整理した。候補種の中には、断片的な分布情報や現況に即さない分布情報に基づくも のも含むため、専門家への聞き取り調査などにより分布状況を整理し、近年において生 育の可能性がある種を希尐植物資源として抽出した。 長久手町を 4 メッシュに分けて整理した希尐植物資源の分布状況をみると (図3-1)、 希尐植物資源の分布は、大草丘陵、三ヶ峯丘陵北部を含む北東部メッシュが 10 種と最も 多く、次いで三ヶ峯丘陵南部を含む南東部メッシュが 5 種であった。これに対して北西 部と南西部メッシュではそれぞれ 0 種と 1 種であり、丘陵を含まない地域では希尐植物 資源の分布は極めて尐ない状況である。 希尐植物資源の主な生育場所は、フモトミズナラは丘陵の稜線部であり、シラタマホ シクサ、サギソウなどは湧水に涵養された明るい湿地であり、タチモ、スブタなどはた め池、オオアブノメ、ケブカツルカコソウなどは谷津田である。今後、これらの資源分 布及び生育状況について現地調査による現況把握を行い、正確な情報として整備してい く必要がある。 表3-2 長久手町の学術的価値の高い植物資源目録(希少植物資源)(1) (本リストは、長久手町に生育している可能性のある種として作成した。 ) 種 フモトミズナラ (県 RDB:NT) タチモ (国 RL:NT、 県 RDB:NT) 写真 説明 やせた丘陵地の、主として中腹から尾根にかけて生 育する。愛知県の丘陵地を特徴付ける植物の一つで、 従来「モンゴリナラ」と呼ばれていたものである。 花期は4月で、果実はその年の初秋に熟し、広楕円 形、長さ約 2cm の実をつける。 多年生で抽水性の小形水草で丘陵地の浅いため池な どに生育する。花期は 6~8 月で淡紅色の小さい花を 付ける。 15 表3-2 長久手町の学術的価値の高い植物資源目録(希少植物資源)(2) (本リストは、長久手町に生育している可能性のある種として作成した。 ) 種 ケブカツルカコソウ (国 RL: EN、 県 RDB: EN) オオアブノメ (国 RL: VU、 県 RDB: NT) 写真 説明 多年生草本で、丘陵地の水田のまわりの土手や、草 の生えた農道など、谷津田景観を象徴するような場 所に生育している。花期は 5~6 月。 1 年生草本で耕起前の水田や休耕田に生育すること が多い。河川やため池の岸など低湿地に生育するこ ともある。花期は 5~6 月で葉腋に 1 個ずつつく。 多年生草本で、丘陵地の湧水湿地に生育する。花期 は 6~10 月。 ミズギク (県 RDB: NT) 多年生草本で、林内の湿地、ため池周辺などに生育 することが多いが、谷戸などの休耕田に群生するこ ともある。花期は 7~10 月。 アギナシ (国 RL:NT) スブタ (国 RL:VU、 県 RDB:VU) 沈水性の 1 年生草本で、水のきれいなため池、谷津 田、その周辺の水路などに生育する。花期は 7~10 月で白色の花をつける。 水面に浮遊する多年生草本で、平野部の湖沼、ため 池、水路などに生育する。花期は 8~10 月。 トチカガミ (国 RL: NT、 県 RDB: EN) 16 表3-2 長久手町の学術的価値の高い植物資源目録(希少植物資源)(3) (本リストは、長久手町に生育している可能性のある種として作成した。 ) 種 写真 説明 沈水性の 1 年生草本で、山間部の水のきれいなた め池や谷津田に生育する。花期は 8~10 月。 ミズオオバコ (国 RL:VU) シラタマホシクサ (国 RL:VU、 県 RDB:VU) 1 年生草本で、丘陵地の湧水湿地の日当たりの良い 場所に生育する。花期は 8~10 月で花茎の先端に 白い花をつける。 小型の 1 年生草本で、丘陵地の水のきれいなため 池の周辺などの湿地や浅い水中に生育する。花期 は 8~10 月。 ヒナザサ (県 RDB:VU) サギソウ (国 RL: NT、 県 RDB: VU) 多年生草本で、丘陵地の日当たりの良い貧栄養の 湿地に生育する。花期は 7~8 月で白い鷺が飛ぶ姿 に似た花をつける。 注 1)種の写真は以下の方から提供頂いた。 村松正雄、高崎保郎(敬称略) 注 2)希尐種の指定状況に関する表記の内容は以下のとおり。 国 RL :レッドリスト対象種(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 県 RDB:レッドデータブックあいち植物編 2009 注 3)国 RL、県 RDB の評価区分は下記のとおり。各区分の概念については巻末の用語解説 12 を参照。 EX、EW:絶滅、野生絶滅 CR:絶滅危惧ⅠA 類 EN:絶滅危惧ⅠB 類 VU:絶滅危惧Ⅱ類 NT:準絶滅危惧 17 18 図3-1 長久手町の学術的価値の高い植物資源(希少植物資源)の分布図 注 1)本図は、長久手町に生育している可能性がある種を希尐植物資源として作成した。 注 2)図中赤線による地域区分はレッドデータブックあいち植物編(愛知県、2009)において希尐種情報が整理されているメッシュ(約 5km×5km)に対応している。 18 表3-3 長久手町の希少植物資源の選定に係る候補種一覧 分布予想の凡例 ●:生育している可能性がある(希少植物資源) △:過去に記録があるが現在生育している可能性は丌明 希少種 科名 種名 国 RL 県 RDB 分布予想 生育環境 町北西部 町南西部 町北東部 町南東部 NT ● ● 丘陵地の中腹から尾根 △ 湧水湿地 ブナ フモトミズナラ モウセンゴケ イシモチソウ NT VU △ アリノトウグサ タチモ NT NT ● ため池 ミツガシワ ガガブタ NT NT △ ため池(浮葉植物) シソ ケブカツルカコソウ EN EN ● 谷津田の湿った草地 シマジタムラソウ VU NT ゴマノハグサ オオアブノメ VU NT ● 水田、低湿地 タヌキモ ムラサキミミカキグサ NT NT △ 湧水湿地 キク ミズギク NT △ オモダカ アギナシ NT トチカガミ スブタ VU VU トチカガミ NT EN ミズオオバコ VU ホシクサ シラタマホシクサ VU イネ ヒメコヌカグサ NT ヒナザサ ラン サギソウ NT △ ● ● 湿地、ため池、水田 ● ため池、水路 ● ● ● 湧水湿地 △ 丘陵地の湿った林内、林縁 ● VU ● ● 10種 5種 4種 3種 1種 現在生育している可能性は不明 ため池、水路 ため池、谷津田 VU 生育している可能性がある種 湧水湿地 ● ● VU 湿地周辺や水田脇の湿った草地 ため池周辺の湿地 湧水湿地 長久手町全体 長久手町全体 12種 5種 注 1)分布予想の表記の内容については以下の通りである。 ●:生育している可能性がある 聞き取り対象者が現況において分布の可能性があると判断したもの(5 年以内の確認種を含む) 。 △:過去に記録があるが現在生育している可能性は不明 過去 5 年より前には長久手町内で分布が確認されているが、聞き取り対象者が現在生育している可能性は不明としたもの 注 2)希尐種の指定状況に関する表記の内容は以下のとおり。 国 RL :レッドリスト対象種(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 県 RDB:レッドデータブックあいち植物編 2009 注 3)国 RL、県 RDB の評価区分は下記のとおり。 EX、EW:絶滅、野生絶滅 CR:絶滅危惧ⅠA 類 EN:絶滅危惧ⅠB 類 VU:絶滅危惧Ⅱ類 NT:準絶滅危惧 19 (3)希少動物資源 表3-4に長久手町の学術的価値の高い動物資源(希尐動物資源)目録を、図3-2 に希尐動物資源の分布を示した。 希尐動物資源の選定方法は、長久手町全域を対象とした動物調査が近年実施されてい ないため、表1-6に示した長久手町の動物に関する既存資料から、レッドデータブッ クあいち 2009 動物編の掲載種及びレッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の 種のリスト)の掲載種に該当する種を抜き出し、希尐動物資源の候補種として表3-5 に整理した。候補種の中には、断片的な分布情報や現況に即さない分布情報に基づくも のも含むため、専門家への聞き取り調査などにより分布状況を整理し、近年において生 息の可能性がある種を希尐動物資源として抽出した。 長久手町を 4 メッシュに分けて整理した希尐動物資源の分布状況をみると (図3-2)、 希尐動物資源の分布は、大草丘陵、三ヶ峯丘陵北部を含む北東部メッシュが 14 種と最も 多く、次いで三ヶ峯南部を含む南東部メッシュが 11 種であった。これに対して北西部と 南西部のメッシュではそれぞれ 0 種と 3 種であり、丘陵を含まない地域では希尐動物資 源の分布は極めて尐ない状況である。 これらの希尐動物資源の主な生息場所は、カスミサンショウウオ、ウシモツゴ、ホト ケドジョウ、ヒメタイコウチは林に囲まれた水のきれいなため池や湧水のある場所であ り、ギフチョウは明るい二次林であり、ベニイトトンボなどドンボ類の多くは沈水植物、 浮葉植物、抽水植物などの水草があり、水際植生がみられる自然性が豊かな池である。 こうした場所は里山の自然として一体化しているが、いずれも近年減尐しつつあると考 えられる。今後は、これらの資源分布及び生息状況について現地調査による現況把握を 行い、正確な情報として整備していく必要がある。 表3-4 長久手町の学術的価値の高い動物資源目録(希少動物資源)(1) (本リストは、長久手町に生息している可能性のある種として作成した。 ) 種 説明 カスミサンショウウオ (国 RL:VU、 県 RDB:EN) 体の表面は黄褐色から黒褐色。暗褐色の小さな斑点を密布して いる。腹面は淡色。尾の上縁に黄褐色条を有するが、欠くもの もある。頭部は卵形で幅より尐し長い。 湧水のある湿地の止水で早春に産卵する。年内に変態して上陸 し、周辺の雑木林、竹林等で小動物のトンネル等を利用して昆 虫などの小動物を捕食して生活する。 写真 カワバタモロコ (国 RL:EN、 県 RDB:VU) 体の側線は不完全で、口ヒゲを欠く。全長 3.5~6cm で、雄よ りも雌が大型となる。産卵期を迎えると、雄は鮮やかな黄金色 を呈するようになる。 平野部の浅いため池、小川、沼等に群れて生息する。雑食性で あり、湧水があり環境が安定している古い池で、付着藻類、ア オミドロ、水生昆虫が多い場所を好む。 20 表3-4 長久手町の学術的価値の高い動物資源目録(希少動物資源)(2) (本リストは、長久手町に生息している可能性のある種として作成した。 ) 種 説明 ウシモツゴ (国 RL:CR、 県 RDB:CR) 全長約 7cm の小型の魚。体は黄褐色~褐色を呈し、側線は不完 全である。頭部が大きくモツゴよりも寸詰まりの感があり、モ ツゴと区別がつく。 池、沼、それに続くほとんど流れのない用水路、小川の止水域 に生息する。身を潜める水草などのある池を好む。 モツゴが新たに進入した場合、競争に負け減尐につながるとい われている。 ※県指定希少 野生動植物種 写真 ホトケドジョウ (国 RL:EN、 県 RDB:VU) 全長 6cm 程度のドジョウ科の魚。体は円筒状で、ドジョウのよ うに細長くはない。頭部は縦扁し、尾部は側扁する。 山間地帯や山すその細流、特に湧水があり底質が泥や砂の場所 に好んで生息する。餌は浮遊性や底生性の小動物で、細流や小 石や草木のたまった場所に潜んでいることが多い。 メダカ (国 RL:VU、 県 RDB:NT) 体長は 4cm 以下で、体色は淡い黄色味を帯びた灰褐色を呈す る。尾ビレが角張っている点でカダヤシと区別できる。 平野部の池、水田、河川の下流域の淀みなどに生息している。 雑食性。 モートンイトトンボ (国 RL:NT、 県 RDB:NT) 小型のイトトンボで、雄は黄緑色の体色で黒斑がある。雌は未 熟な間は鮮やかなオレンジ色であるが、成熟すると緑色に変わ り、腹部背面に黒条が現われる。 成熟成虫、未熟成虫ともに、湿原や休耕田など低い植生のある 浅くて開放的な水域で見られる。 成虫は 6 月頃から羽化し、成熟成虫は 7 月頃まで見られる。 ベニイトトンボ (国 RL:VU、 県 RDB:VU) 本州原産のイトトンボでは唯一、雄の全身が朱赤色となる種で あり、和名もそれに由来する。 成熟成虫は、平地から丘陵地にかけての大規模な改修が行われ ていない抽水・浮葉植物の豊富な古いため池で見られることが 多い。 キイロサナエ (県 RDB:NT) 黒地に黄班のある大型のサナエトンボで、ヤマサナエに似てい るが、雄は尾部の下付属器が上付属器より長いこと、雌は生殖 弁が下方に突出していることで識別できる。 成熟成虫は、流れの穏やかな河川中流域や、それに接続する用 水路などで見られる。未熟成虫は、発生地付近の樹上で生活し ているようで、見かけることは尐ない。幼虫は、砂泥質の河床 でもやや泥の多い部位に潜り込んでいることが多い。 メガネサナエ (国 RL:NT、 県 RDB:NT) 腹部第 7 から 9 節が著しく広がった大型のサナエトンボであ る。和名は顔面の黄色班をメガネに見立てたことに由来する。 成熟成虫は、発生地である河川等とその周辺で見られる。未熟 成虫は、かなり移動することがある。幼虫は、河川中流域でも 見られるが、波砕湖である琵琶湖のような湖にも生息し、いず れの場所でも深い部位を好む。 21 表3-4 長久手町の学術的価値の高い動物資源目録(希少動物資源)(3) (本リストは、長久手町に生息している可能性のある種として作成した。 ) 種 説明 写真 フタスジサナエ (国 RL:NT、 県 RDB:VU) 体色は黒地に黄色の条斑を持つ小型のサナエトンボである。胸 側の第1側縫線の黒色条が完全に上縁に達することで、同属他 種と区別できる。 成熟成虫、未熟成虫ともに、主に平地から丘陵地にかけての古 いため池でみられる。幼虫は浅く泥に潜って生活している。 4 月中旬頃から羽化が始まり、成熟成虫は 5 月を中心にみられ るがピークは短い。 オグマサナエ (国 RL:VU、 県 RDB:VU) 邦産コサナエ属の最大種であり、同属他種とは、翅胸前面にあ る太い L 字形斑のほか、その外側に細い前肩条と小さい黄色点 があり、雄では尾部付属器の背面に突起があることで区別でき る。 成熟成虫、未熟成虫ともに、平地から丘陵地にかけての泥底の 古いため池やそれにつながる緩流にみられる。幼虫は泥底に浅 く潜っている。 4 月上・中旬から羽化し、5 月を中心に成熟成虫がみられる。 成虫になるまで 2 年を要する。 ネアカヨシヤンマ (国 RL:NT、 県 RDB:VU) アオヤンマに類似した黒味の強い大型のヤンマである。翅の基 部に橙色斑がある。 成熟成虫は、谷戸や湿地上を黄昏飛翔する。幼虫は、林縁の小 池や湿地などの浅い場所の植物につかまっていることが多い。 成虫は 6 月頃から羽化し、成熟成虫は 7~8 月を中心に生殖行 動を行う。 アオヤンマ (県 RDB:VU) 全身が鮮やかな黄緑色で、ずん胴型のやや大型のヤンマである。 和名は全身が黄緑(=青)色であることに由来する。 成熟成虫、未熟成虫ともに、おもに平地から丘陵地にかけての ヨシなどの抽水植物が多生する池沼でみられる。幼虫は、ヨシ などの植物につかまっていることが多い。 成虫は 5~6 月に羽化し、成熟成虫は 7 月を中心に生殖活動を 行い、8 月頃までみられる。 トラフトンボ (県 RDB:NT) 体色は黒地に橙褐色の斑紋を持つ中型のトンボである。雄の翅 はほぼ透明であるが、雌では前縁に黒褐色の帯が発現すること が多い。 成熟成虫は、主に平地から丘陵地にかけてのヒシ、ジュンサイ など浮葉植物の豊富な池沼でみられる。未熟成虫は、発生地付 近の林縁などでみられる。幼虫は浮葉植物や抽水植物につかま っていることが多い。 成虫は 4 月後半から羽化し、 成熟成虫は 5 月を中心にみられる。 ヒメタイコウチ (県 RDB:NT) 体長は 18~22mm で、体型は長卵形で光沢のない暗褐色を呈 し、尾端の呼吸管は非常に短い。前脚は捕獲脚になっている。 前胸背は幅広く、小楯板は正三角形を呈す。 湿地、水田や用水路のように、湧水などにより常に水の流入が 認められる環境に生息する。小石や植物の堆積物の下に潜み、 クモ類やゴミムシ類など徘徊性の小動物を捕食する。飛翔しな いため移動性が乏しい。 22 表3-4 長久手町の学術的価値の高い動物資源目録(希少動物資源)(4) (本リストは、長久手町に生息している可能性のある種として作成した。 ) 種 説明 写真 ヒトスジキソトビケラ (県 RDB:VU) 成虫の前翅長は 10~11mm。前翅はやや茶色を帯びた黒色。幼 虫の巣は荒い砂粒からなり、円筒形で側面から見ると穏やかに カーブする。 湧水が流入し、水温や水位が安定した山裾や扇状地の細流に生 息する。 ギフチョウ (国 RL:VU、 県 RDB:N) 前翅長約 32~34mm の小型のアゲハチョウ。翅表は黒と淡黄色 の縞模様。後翅外縁に橙色斑、その内側の黒帯の中に藍色の小 斑点、肛角に赤色の斑紋を持つ。 丘陵から低山にかけての人里で、春には林床に光が差し、幼虫 の食草のカンアオイ類や成虫の吸蜜植物であるカタクリやスミ レが咲く明るい林に生息する。 成虫は年 1 回、ソメイヨシノの開花と一致して羽化し、スミレ、 カタクリ、サクラなどを訪花することが多い。その頃新芽をだ したカンアオイ類の葉裏に産卵する。幼虫は葉が硬くならない うちに食べ、ほぼ 1 ヶ月で蛹化し、そのまま冬を越す。 ウラギンスジヒョウモン (国 RL:NT、 県 RDB:NT) 前翅長 29mm 程度、ヒョウモンチョウ類の中ではやや小型であ る。雌は大型、翅形は丸みを帯び前翅表面の先端に白点がある。 後翅裏面の外半分が褐色である。この特徴はオオウラギンスジ ヒョウモン、メスグロヒョウモンの雄に共通するが、前翅の翅 端・外縁のくびれ度合い・後翅の点状の黒紋の有無などから容 易に区別できる。 低地の産地では、年 1 回 6 月を中心として現れ、盛夏には姿を 消し、秋には再び活動を再開し、アザミ類、ヒヨドリバナ、ソ バの花などで吸蜜する。 注 1)種の写真の情報源は以下の通り。 ・文献からの引用:近藤繁生・谷幸三・高崎保郎・益田芳樹(2005)ため池と水田の生き物図鑑 動物編 ・写真を提供頂いた方:高崎保郎、大竹勝(敬称略) 注 2)希尐種の指定状況に関する表記の内容は以下のとおり。 国 RL :レッドリスト対象種(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 県 RDB:レッドデータブックあいち動物編 2009 注 3)国 RL、県 RDB の評価区分は下記のとおり。各区分の概念については巻末の用語解説 12 を参照。 EX、EW:絶滅、野生絶滅 CR:絶滅危惧ⅠA 類 EN:絶滅危惧ⅠB 類 VU:絶滅危惧Ⅱ類 NT:準絶滅危惧 DD:情報不足 LP:地域個体群 注 4) DD 区分の種は「情報不足」という位置付けであり、保全が必要であるという明確な根拠はないため希尐動物資源には選定しない。 注 5)ウシモツゴは県の「自然環境の保全及び緑化の推進に関する条例」において指定希尐野生動植物種に指定されている。 23 24 図3-2 長久手町の学術的価値の高い動物資源(希少動物資源)の分布図 注 1)本図は、長久手町に生息している可能性がある種を希尐動物資源として作成した。 注 2)図中赤線による地域区分はレッドデータブックあいち動物編(愛知県、2009)において希尐種情報が整理されているメッシュ(約 5km×5km)に対応している。 24 表 3-5 長久手町の希少動物資源の選定に係る候補種一覧 分布の凡例 ●:生息している可能性がある △:過去に記録があるが現在生息している可能性は丌明 希少種 分類 哺乳類 鳥類 爬虫類 両生類 目名 ネズミ タカ 種名 国 県 RL RDB 町南西部 カヤネズミ VU △ △ ハタネズミ NT △ △ 町北東部 町南東部 生息環境及び備考 イネ科植物が密生する草地 農耕地や河川敷などの草原 ミサゴ NT NT △ △ 海岸、河口、大きな湖沼など ハチクマ NT VU △ △ 丘陵地や低山の山林 VU △ △ 河川の中・上流域の河原や中洲 イカルチドリ ヨタカ ヨタカ VU VU △ △ 低山から山地の草原や林 スズメ サンショウクイ VU NT △ △ 平地から山地の落葉広葉樹林 アカハラ VU △ △ 山地で繁殖し、冬は山麓や暖地 ナミヘビ カメ シロマダラ ニホンイシガメ DD DD ●注 5 ●注 5 △ △ 樹林地、河川敷など ため池、沼、水田など ニホンスッポン カスミサンショウウオ DD VU DD EN ●注 5 サンショウウオ ● △ △ △ 中・下流域の河川、池、沼等 湧水の湿地と周辺の雑木林等 ナゴヤダルマガエル ツチガエル EN VU DD △ △ △ △ △ △ 水田、浅い池沼、河川など 水田の側溝、池沼、用水路など △ ヤマアカガエル 昆虫類 町北西部 チドリ カエル 魚類 分布予想 △ 山地のため池、湿地、水田等 コイ カワバタモロコ EN DD VU ● ため池、池沼、小川など ドジョウ ウシモツゴ 注 4 ホトケドジョウ CR EN CR VU ● ● ● ため池、小川、用水路 湧水の流れる山間の細流 メダカ トンボ メダカ オオイトトンボ VU NT VU ● △ △ 平野部の池、水田、河川の淀み 自然度の高い池沼や水田 モートンイトトンボ ベニイトトンボ NT VU ● △ ● 湿原や休耕田 抽水・浮葉植物の多い溜池 ● ● 流れの緩やかな河川中流域 キイロサナエ NT VU NT NT フタスジサナエ オグマサナエ NT VU VU VU ネアカヨシヤンマ アオヤンマ NT VU VU カメムシ トビケラ ヒメタイコウチ ヒトスジキソトビケラ チョウ ミヤマチャバネセセリ ギフチョウ ウラギンスジヒョウモン ヒメヒカゲ 注 4 △ NT メガネサナエ トラフトンボ マダラナニワトンボ ● CR+EN △ ● ● ● NT EN NT VU ● 愛知用水由来と推定 ● ● 古い溜池 泥底のある古い溜池 ● ● 林縁にある小池や湿地 抽水植物が多生する池沼 ● △ ● △ 浮葉植物の豊富な池沼 日当たりの良い遠浅の池沼 ● ● ● 湿地、水田、溜め池の水辺 平地・丘陵地の細流 VU EN NT △ ● ● 明るい草地 カンアオイ類が成育する明るい山林 NT CR+EN NT CR ● △ ● △ 丘陵の窪地や山裾の明るい湿原 丘陵の窪地や山裾の明るい湿原 生息している可能性がある種 1種 4種 15種 11種 長久手町全体 21種 過去に記録があるが現在生息している可能性は丌明な種 4種 5種 17種 13種 長久手町全体 15種 注 1)分布予想の表記の内容については以下の通りである。 ●:生息している可能性がある 聞き取り対象者が現在生息している可能性があると判断したもの(5 年以内の確認種を含む) 。 過去 5 年以内に調査された文献等に分布の記録があるもの。 △:過去に記録があるが現在生息している可能性は不明 過去 5 年より前には長久手町内で分布が確認されているが、聞き取り対象者が現在生息している可能性は不明としたもの 注 2)希尐種の指定状況に関する表記の内容は以下のとおり。 国 RL :レッドリスト対象種(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 県 RDB:レッドデータブックあいち動物編 2009 注 3)国 RL、県 RDB の評価区分は下記のとおり。 EX、EW:絶滅、野生絶滅 CR:絶滅危惧ⅠA 類 EN:絶滅危惧ⅠB 類 VU:絶滅危惧Ⅱ類 NT:準絶滅危惧 DD:情報不足 LP:地域個体群 注 4)ウシモツゴ、ヒメヒカゲは県の「自然環境の保全及び緑化の推進に関する条例」において指定希尐野生動植物種に指定されている 注 5)DD 区分の種は、 「情報不足」という位置付けであるため、参考として候補に挙げたが保全が必要であるという明確な根拠はないた め、希尐動物資源には選定しない。 注 6)上記リストに示した分布以外に、一部の地域でゲンジボタル、ギフチョウに関して放虫個体の情報があるが、このような人為による擬似自然 の創出行為は自然性を損ねるばかりでなく、遺伝的撹乱を起こし資源的価値をかえって著しく低下させるため、本表には掲載しなかった。 25 (4)多様性を有する生態系資源 長久手町における多様性を有する生態系資源目録を表3-6に、それらの分布を図3- 3示した。 長久手町の希尐種を育む代表的な場所としては、湿地、水のきれいなため池、明るい二 次林が挙げられる。 町東部の三ヶ峯丘陵には、周囲が林に囲まれ、水質が比較的良好なため池がある。鯉ヶ 廻間上池・下池、愛・地球博記念公園内のかめの池、かきつばた池、愛知県農業総合試験 場内のアヤメ池、農総試一号池などはエコトーン*4 がみられ、湿地を付帯するものもあ り、多様性に富む生態系といえる。また、同丘陵には、一ノ井川上流湿地や二ノ池湿地群 など裸地状の斜面に形成された湧水湿地*2が存在し、東海丘陵要素植物*9 が生育する。 二ノ池湿地群の内の一箇所は裾に日当たりの良い谷底湿地*10 を伴い広大である。ただ、 一ノ井川上流湿地のうち小規模な湧水湿地は遷移*11 が進行し消滅しつつある。 河川では、愛・地球博記念公園内の細流は二次林内の河川で水質も良いことから、多様 性に富む生態系といえる。 二次林では、上記の湿地やため池が分布する三ヶ峯丘陵、大草丘陵の東山川流域などが 多様性に富む生態系といえる。 本町の多様性を有する生態系の多くは愛知県立芸術大学、愛知県農業総合試験場、愛・ 地球博記念公園の県有地内に存在している。 表3-6 長久手町の多様性を有する生態系資源目録 環境① 湿地を付帯する環境 地名 鯉ヶ廻間 上池・下池 かめの池 説明 写真 上池は丘陵の林縁に位置し、三方を囲むよう に樹木が迫り岸は切立っている。 池頭の水流入部に、潅木帯に接する小湿地が みられる。湿地から池に向かい遠浅の良好な エコトーンが形成され、両池ともに環境は比 較的安定している。聞き取り調査によると、 フタスジサナエ、オグマサナエなどの希尐な 動物が多く生息している。また、上池の湿地 には、シラタマホシクサ、ハルリンドウ等、 湿生植物が多い。 岸は木杭と石からなり、比較的自然。典型的 な湧水湿地を伴う。池周囲には適度な空間が あり、池、湿地ともに環境は良好。聞き取り 調査によると、フタスジサナエ、オグマサナ エ、オツネントンボなどのトンボ類が生息し ている。湧水湿地にはハッチョウトンボを多 産する。 26 上池 下池 表3-6 長久手町の多様性を有する生態系資源目録 環境① 湿地を付帯する環境 地名 説明 写真 かきつばた池 付帯湿地 池の二辺は護岸、一辺は樹木林に接し、岸は 切立っているが池頭はなだらかな傾斜を示 し、密生しないヨシ群落を伴う。池頭全体が 草原状の湿地に移行し、エコトーンが形成さ れている。環境は良好に保たれ、フタスジサ ナエ、オグマサナエ、ヒメアカネが生息して いる。 一ノ井川上流 湿地と湿地か らの細流 コナラ-アカマツ二次林内にあり、一ノ井川 源流域の平坦部を流れる細流沿いにみられる 湿地で、トウカイコモウセンゴケが多く生育 している。 この他に小規模な湿地が、谷間に2ヶ所程、 稜線近くのやや開けた緩傾斜地に1ヶ所湿地 が存在するが、植生の遷移が進行している。 二ノ池湿地群 二ノ池上流の谷一帯が湿地となっており、東 斜面には典型的な湧水湿地が、谷底面にも日 当たりの良い谷底湿地がみられ、いずれも町 内の湿地としては比較的規模が大きい。 上記の湿地の北にもほぼ同規模の湿地がある ほか、二ノ池下の東斜面にも規模は小さいが 湧水湿地が 2 面並ぶ。 モウセンゴケ類など湧水湿地特有の植物がみ られ、聞き取り調査によると、二ノ池上の湿 地にはかつてはヒメヒカゲが多産した。現在 においても多様な湿生生物がみられ、環境は 比較的安定している。 環境② ため池 地名 アヤメ池 説明 面積約 1.5ha の池で、日進市と本町との境に位置し、池の南 1/3 は日進市地内。 水際にエコトーンが形成され、水生植物に富み、周囲は適度に 樹木に覆われる。芝生開放空間も接する。アオヤンマ、マルタ ンヤンマ、ベニイトトンボが生息する。 農総試一号池 アヤメ池の下流に位置し、林内細流で繋がる。池の中央を本町 と日進市の境界線が通る。町側堰堤脇に泥が堆積して生じたと 考えられる緩傾斜泥底部分があり、オオフサモを主とした植物 帯が形成され、よいハビタットとなっている。水際にはエコト ーンもみられ、アオヤンマ、マルタンヤンマ、ベニイトトンボ、 トラフトンボが生息している。 無名池(農総試 本館下池) 名前が付されていないほどの小規模なため池であるが、アゼナ ルコスゲが優占する草地と低木に囲まれ、カトリヤンマ、ネア カヨシヤンマなどの種が生息している。 27 写真 表3-6 長久手町の多様性を有する生態系資源目録 環境③ 河川 地名 説明 愛・地球博記念 公園内細流 公園南端の立入り制限区域の二次林内にある細 流。公園内唯一の自然的な流れ。ハネビロエゾ トンボを安定的に産する。下流にはホトケドジ ョウが生息する。 写真 環境④ 二次林 地名 説明 写真 三ヶ峯丘陵 町南東部に位置する標高 100~180mの丘陵地で、 南側で日進市と、東側で豊田市、瀬戸市と境を成 す。稜線の北ないし西の平坦部は、西から順に愛 知県農業総合試験場、愛知県立芸術大学、愛・地 球博記念公園、愛知県立大学と大部分は県有地が 占め、県道田籾名古屋線西沿いは私有地である。 県有地の稜線部分と、県の各施設内には、アカマ ツ-コナラ二次林を主体とする二次林が多く残存 するが、南東端から一ノ井にかけての私有地にあ っては、二次林の破壊消滅が著しい。 主要な池沼、湿地の殆どは本丘陵地帯に存在する ため、湿生植物、トンボ類の他に二次林を代表す る蝶であるギフチョウが生息する。 大草丘陵 町北東部に位置する丘陵で瀬戸市と境を成す。稜 線から南へ 4 本の谷が延び、谷沿いに水田、ため 池が散在している。その中で、特に東山の谷筋は 自然度が高く、サクラバハンノキやハンノキ群落 がみられ、ミドリシジミ類などの蝶が生息してい る。 町境の稜線部分の造成による生息地の消失や、耕 作放棄地の増加による環境悪化もみられる。 28 29 図3-3 多様性を有する生態系の分布 29 3-2 日常生活における環境要素として価値が高い環境資源 (1) 良好な景観資源 ア 景観資源の考え方 景観を環境資源として考える場合、景観の構成要素とその景観を眺める空間(地点) の両面を考慮する必要がある。例えば、眼前の緑の水田と遠くに望む山並みで構成さ れた田園風景の場合、若苗の「みどりのじゅうたん」や幾重にも重なる遠くの山の端 は、それぞれ重要な景観資源といえる。一方、これらの景観資源を清々しく望むこと ができる場所の保全も重要であり、もしも、人が近づくことができなかったり、悪臭 や異質な人工的要素が加わり全体の雰囲気が損なわれたりすると、資源的価値は著し く減尐する。したがって、景観の構成要素として優れているものは、一義的に資源と 見なすことができるものの、これらを享受することができる公共の場所や空間も資源 価値を高めるために大切にしなくてはならない町の資源ということができる。 イ 長久手町の景観資源 長久手町の良好な景観資源目録を表3-7に、それらの分布を図3-4に示した。 長久手町の景観は、景観を構成する要素のあり方によって、まとまりのある景観、 線的につながった景観、ポイントとしての景観の三つに大別される。 まとまりのある景観としては、東部丘陵と香流川沿いの水田地帯により構成される 田園風景と市街地の街並みがある。香流川沿いの水田、畑地が広がる岩作北部や前熊、 熊張は、視界を遮るものが尐なく、西濃地方の山並み、伊吹山、鈴鹿山脈などの遠景 を望むことができる。中景としては、水田地帯や大草丘陵、岩作丘陵、三ヶ峯丘陵が ある。これらの中景要素は町民が本町に対し感じている「緑の豊かさ」の根拠となる 場所の一つと考えられ、美しさに加え、落ち着いた佇まいはゆとりと安らぎをもたら している。一方、市街地は、視界の遮蔽物が多く遠景の要素は尐ないが、長湫南部土 地区画整理地区などの都市計画により生まれた市街地は、整然とした街並みが広がり、 新しい都市文化の芽生えを感じさせる場所である。 線的につながった景観としては、香流川、図書館通り、せせらぎの径、グリーンロ ードなどがある。香流川は、遠景に伊吹山、鈴鹿山脈などの山並みを望めることがで き、中景の田園風景とともに、本町の景観軸を形成している。水田や岸辺の草木の移 ろいから四季を感じさせてくれる場所でもあり、香流川で川遊びをした人々にとって は、郷愁を誘う原風景の一つといえる。図書館通りの沿道には街路樹が続き、ランド マークともなっている中央図書館や文化の家など、新しい都市文化の形成を感じさせ る拠点もある。さらに、小高い場所からは丘陵地を望むことができるなど、景観形成 の拠点として位置づけることができる。この他、せせらぎの径は地区住民の憩いの景 観軸といえ、リニモ軌道も合わせて通るグリーンロードは長久手町の活気ある景観軸 30 といえる。 ポイントとして存在する景観としては、愛・地球博記念公園、杁ヶ池公園、色金山 歴史公園、古戦場公園などがある。愛・地球博記念公園は、もとは青尐年公園であっ た場所で、 「自然の叡智」をテーマに 2005 年に開催された「愛・地球博」を機に再整 備され、名称変更された記念公園である。公園南東部は池や樹林地が残っているため、 中・近景として自然性の高い景観が多い。杁ヶ池公園は池のほかに樹木も多く、身近 な自然のあふれた都市の中のオアシス的存在であり、地区を代表する緑の景観要素と なっている。色金山歴史公園は、歴史を感じさせてくれる景観要素であるとともに、 頂上からは名古屋方面を見渡すことができ、優れた眺望点となっている。古戦場公園 も歴史を感じさせてくれる景観要素であるとともに、春には古戦場桜まつりが行われ るなど、古里のシンボル的景観要素の一つである。 表3-7 長久手町の良好な景観資源目録(1) 景観 地名 説明 ま と ま り の あ る 景 観 東部丘陵(三ヶ峯、大草) と 香流 川沿 いの 水田 地 帯 によ り構 成さ れる 田 園風景 香流川沿いの水田、畑地が広がる岩作北部や前 熊・熊張は、視界を遮るものが尐なく、景観要 素としては、水田や丘陵地の山並みがある。町 民が感じている本町の「緑の豊富さ」の根拠の 一つと考えられ、美しさに加え、落ち着いた佇 まいはゆとりと安らぎをもたらしている。 市街地の街並み 都市計画により生まれた市街地は、新しい都市 文化の芽生えを感じさせる。景観要素は街路樹 や庭木の緑と家並みが主であるが、都市景観の 潤いを感じることができる空間としての創造 性を秘めている。また、現在、整備中ではある が、長湫南部土地区画整理地区も自然との調和 を図った活気ある新しいまちの一面を醸し出 している。 香流川 田園地帯を流れる香流川は、本町の景観軸を形 成し、岸辺の草木の移ろいから四季を感じさせ てくれ、生活の中に安らぎを与えてくれる景観 といえる。景観要素としては、川面と水辺の草 木、周りの水田、堤防上の遊歩道などで、上記 のまとまりのある田園風景と一体となってい る。川遊びをした人々にとっては、郷愁を誘う 原風景の拠り所の一つとなっている。 図書館通り 通り沿いには、中央図書館、文化の家などがあ り、新しい都市文化の形成を感じさせると共 に、丘陵地を望むことができ、景観形成の拠点 に位置づけることができる。中央図書館の塔は ランドマークとしての役割も大きい。 線 的 に つ な が っ た 景 観 写真 31 表3-7 長久手町の良好な景観資源目録(2) 景観 線 的 に つ な が っ た 景 観 ポ イ ン ト と し て の 景 観 地名 説明 写真 せせらぎの径 図書館通りから氏神前、城屋敷を通り、グ リーンロードまでの全長 908mの散策路 で、本町において景観軸となる構成要素の 一つである。地区住民に親しまれ、憩いの 景観軸といえる。 主要地方道力石名古屋 線(グリーンロード) 名古屋市-長久手町ー豊田市を結ぶ主要幹 線道路で、グリーンロードと呼ばれている。 それに沿って走るリニモ軌道と合わせて、 活気ある長久手の景観軸といえる。 愛・地球博記念公園 元は青尐年公園であった場所で、 「自然の叡 智」をテーマに 2005 年に開催された「愛・ 地球博」を機に再整備され、名称変更され た記念公園である。公園南東部は池や樹林 地が残り遊歩道を巡りながら自然を楽しむ ことができる。 杁ヶ池公園 杁ヶ池を中心とした公園で、せせらぎがあ り、水辺を楽しめる公園となっている。池 のほかに樹木も多く、街の中の身近な自然 のある景観は、都市の中のオアシス的存在 であり、地区を代表する緑の景観要素とな っている。 色金山歴史公園 長久手合戦で、徳川家康が軍議を開いた国 指定史跡「色金山」を公園として整備した もので、山頂には、家康が軍議の際に腰掛 けたといわれる「床机石」があるなど、歴 史を感じさせてくれる景観要素である。ま た、頂上からの眺めは名古屋方面を見渡す ことができ、優れた景観の眺望点にもなっ ている。 古戦場公園 長久手合戦や本町の民族、文化財を紹介す る郷土資料室のほか弓道場があり、歴史を 感じさせてくれる景観要素であるととも に、春には古戦場桜まつりが行われるなど、 古里のシンボル的景観要素の一つである。 32 33 図3-4 長久手町の良好な景観資源の分布 33 (2)親しみ学ぶための環境資源 ア 親しみ学ぶための環境資源の考え方 親しみ学ぶために適した場所は、そこの自然が豊かであることと人が利用しやすい ことの両面をそなえていることが望ましい。また、人が自然を学ぶ過程をみたとき、 一般に、身近な場所における幼稚な遊びから始まり、徐々に自然豊かな場所での遊び へと移っていく。このため、身近さや取り付きやすさが優先される場所から自然性が 優先された場所まで、様々な場所が適度に配置されていることが望ましい。 例えば、幼尐期、尐年期、青年期、成年期という人の発育段階ごとに考えると、幼 尐期の段階における親しみ学ぶための環境としては、セミやバッタなどに出会うこと ができる、安全で開けた人工的空間が主要な場所であり、このような環境として児童 公園や都市公園が挙げられる。尐年期や青年期には、トンボや魚など捕獲にはある程 度の技術を要する生き物が対象となり、それらの生息環境は幼尐期に比べ遥かに拡が り、近づくために尐し危険が伴うような場所として、ため池、神社、河川が対象とな ると考えられる。成年期においては、行楽やハイキング等の野外レクリエーションか らバードウオッチング等の自然愛好的活動まで、接し方が多様化するため、対象とな る場所も多様になると考えられる。 このように、親しみ学ぶための環境資源としては、人工的要素の多い空間から自然 的要素の多い空間まで多様であるが、ここでは、尐年期以上を対象とした場合に資源 的価値が高い事物を町の環境資源として扱うこととした。 イ 長久手町の親しみ学ぶための環境資源 親しみ学ぶための環境資源として、町内に存在する里山(二次林や水田等耕地) 、公 園、社寺林、河川、ため池を取り上げ、その資源的価値を評価した。評価の方法は、 環境資源自体の自然の豊かさを評価するための項目として、 「自然の規模」、 「周辺環境 の大まかな分布状況」 、利用しやすさを評価するため項目として「アクセスの利便性」、 「親水性」の4項目について資料や現地踏査から現況把握を行った。 価値が高いと評価されたものを「親しみ学ぶための環境資源」として選出した結果 を表3-8に示した。また、それらの分布状況を図3-5に示した。 親しみ学ぶための環境資源のうち、里山としては大草丘陵の東山川流域がある。こ の地域は、緩やかな丘陵地と谷戸に作られた谷津田があり、東山川や神明川も近くを 流れるなど多様な環境が保たれていることから、農を中心とした野外学習活動の拠点 として子どもから大人まで利用ができる場所として貴重な環境資源となっている。 杁ヶ池公園、香流川緑地、古戦場公園、色金山歴史公園は、市街地やその近郊にオ アシス的に存在する比較的自然性が高い場所であるため、身近な自然として昆虫採集、 野鳥観察、植物観察に利用されると考えられる。また、愛・地球博記念公園は自然が 34 豊かであるため、上記の利用に加えて希尐種の観察も可能である。 御嶽神社、石作神社、安昌寺、熊野社、神明社の社寺林は、周辺の樹林との連続性 が比較的保たれている。このため、多様な生物が生息していると考えられ、昆虫採集 や他所ではみられない樹木の観察が可能である。 東山川上流、堀越川上流、一ノ井川の河川では、自然性が残り生物相が豊かなため、 昆虫採集、野鳥観察、植物観察が可能である。また、東山川上流は水辺へ近づきやす いため、魚捕りも楽しめる数尐ない環境資源といえる。 杁ヶ池、かきつばた池、かめの池、こいの池、かえで池、めだか池のため池は、自 然性が高く、水際までのアプローチが比較的容易であり、水辺の観察に好適な環境資 源といえる。 表3-8 長久手町の親しみ学ぶための環境資源目録(1) 地名 内容 里山 区分 東山川上流の谷 戸の水田と周辺 二次林 緩やかな丘陵と谷戸の水田など、里山の自然を残 している。近くには香流川、児童遊園、熊野社、 永見寺の社寺林など多くの親しみ学ぶための環 境資源がある。 写真 公園 杁ヶ池公園 杁ヶ池を中心とした公園で、せせらぎがあり、水 辺を楽しめる公園となっている。 香流川緑地 公園西駅から福祉の家(溝下橋)を結ぶ香流川沿 いの遊歩道。ヒメボタルがみられる場所も近くに ある。 古戦場公園 長久手合戦や本町の民族、文化財を紹介する郷土 資料室のほか弓道場があり、歴史を感じさせてく れる文化施設であるとともに、市街地近郊の比較 的大きな樹林地である。春には古戦場桜まつりが 行われる。 35 表3-8 長久手町の親しみ学ぶための環境資源目録(2) 区分 社 寺 林 地名 内容 色金山歴史公 園 長久手合戦で徳川家康が軍議を開いた国指 定史跡「色金山」を公園として整備したもの で、歴史を感じさせてくれる文化施設である とともに、岩作丘陵の山林と一帯となった自 然環境を身近に楽しめる公園である。 写真 愛・地球博記念 公園 元は青尐年公園であった場所で、「自然の叡 智」をテーマに 2005 年に開催された「愛・ 地球博」を機に再整備され、名称変更された 記念公園である。公園南東部は池や樹林地が 残り、遊歩道を巡りながら自然を楽しむこと ができる。 御嶽神社 岩作丘陵の山林を後背した規模の大きい樹 林地の中に位置している。周辺の樹林ではセ ミやクワガタ、カブトムシなどの昆虫採集が 楽しめる。また、市街地近郊で利便性もある。 石作神社 岩作北部の丘陵地縁辺に位置し、前面は水田 地帯となっている。境内は小高い樹林地に位 置しており、周辺の樹林は樹齢およそ 250 年 以上のクロガネモチやツブラジイなどの巨 木を含む常緑広葉樹林と針葉樹林となって いる。また、市街地近郊で利便性もある。 安昌寺 岩作北部の丘陵地縁辺に位置している。境内 には樹高 23m のクスノキの他、ボダイジュな どの巨木が楽しめる。周辺にも樹林地が広が っている。集落近くで利便性もある。 熊野社 熊張に位置し、大草丘陵の山林と連続した樹 林地に囲まれている。境内周辺の樹林は、針 葉樹や常緑広葉樹が主であり、コナラ等の落 葉広葉樹も多尐入り混じる。集落に接し、の どかな雰囲気の神社である。また、神社に隣 接して大草城址もある。 神明社 熊張の三ヶ峯丘陵縁辺に位置する。山門周辺 は針葉樹が主で、薄暗くひっそりとしてお り、周辺の二次林と趣きが異なる。境内には 町指定文化財の第 2 号墳などの古墳もみられ る。近くには水田地帯や香流川があり、南側 にはグリーンロードを挟んで愛・地球博記念 公園がある。 36 表3-8 長久手町の親しみ学ぶための環境資源目録(3) 区分 河川 地名 内容 写真 東山川上流 熊張地区を流れる小川で、 上流部は谷戸の水田脇 を流下している。 堀越川上流 前熊地区を流れる細流で、 ニノ池辺りから上の源 流部は比較的自然が豊かである。 一ノ井川 川筋のほぼ全域に、 ある程度の自然が残されてい る。ほとんど干上がっているが、上流から源流に かけては多尐の自然がみられる。 37 表3-8 長久手町の親しみ学ぶための環境資源目録(4) 区分 ため池 地名 内容 写真 杁ヶ池 杁ヶ池公園内にある平坦地に造られた 3.5ha の灌 漑池。周囲は住宅地で後背林は無いが、池周囲は 狭い幅の草地で緩傾斜となり、アカメヤナギ等、 若干の湿生樹木を伴っている。汀線の一部はガ マ・ヨシ群落が形成され、多尐の沈水植物や浮葉 植物が生育する。 かきつばた 池 愛・地球博記念公園内にある池。岸の二辺は護岸 され、散策路となっている。もう一辺は樹林に接 している。池頭にはヨシ群落や草原状の湿地を伴 い、自然性が高い。 かめの池 愛・地球博記念公園内にあり、典型的な湧水湿地 を伴い比較的自然性が高い。岸は低く、土、人工 物から成り、水際には木杭と石が配置されている。 水面に近づきやすいため、トンボ等の観察に適し ている。 こいの池 愛・地球博記念公園内にある池。岸の一辺は樹林 に接しており、他の岸は周囲に散策路や水際まで 近づける階段などが設けられている。 かえで池 愛・地球博記念公園内にある池。岸の一辺は樹林 に接しており、もう一辺は散策路や池の眺めを楽 しめる庭が配されている。岸の一部は親水的に整 備され、水面に近づきやすい。水質が良く、池頭 にはジュンサイ群落がみられる。 めだか池 愛・地球博記念公園内にある池で、かえで池の上 流に位置している。岸の一辺は樹林に接しており、 もう一辺には散策路が配されている。散策路沿い の岸は日本庭園に整備され、茶室も設けられてい る。また、岸の一部は水面に近づきやすく整備さ れている。 38 39 図3-5 長久手町の親しみ学ぶための環境資源の分布 39 4 利活用に向けて 本町には、東部の丘陵地を始め、市街化調整区域に価値の高い環境資源が分布している。 名古屋市に接する本町西部から市街化が進み、こうした資源がある地域においても開発や 外来種の侵入などの危機に晒されている。残された環境資源を最大限に有効活用し資源価 値を高めることは、今後の町における大きな課題の一つといえる。さらに、これらの多く が県有地であるため、これらの環境資源のあり方を考える上で県との協働を図ることは避 けて通ることができないと考えられる。 上記を念頭に、長久手町の環境資源の適切な利活用に向けての考え方を整理した。 (1) 正確な情報に基づく現況把握 ア 現地調査 本町においては、町史編纂のため昭和 55・56 年度に町全域を対象とした動植物調 査を実施している。その後、現地調査は実施されていない。 町域における生物種の分布に関する情報としては、香流川整備計画に係る調査や湿 地調査など特定の環境についての調査結果や、愛・地球博開催に向けて実施された環 境調査及び長湫南部地区土地区画整理事業に伴う環境調査など、開発に伴い実施され た調査結果がある。このため、調査が行われていない地域についての生息・生育確認 情報がほとんど無く、大規模開発区域のみに生物分布が集中しているかのような偏っ た分布となり、保全や利活用の施策検討において誤った判断をするおそれがある。 また、現地調査に基づかない分布情報の中には、人為的に持ち込まれた移入種につ いての情報を在来種の生息情報と混同するおそれがあり、この場合には、誤まった分 布情報に基づき判断するおそれがあると同時に、生態系の劣化につながる現象を見過 ごすおそれもある。 以上のように、環境資源、とりわけ自然環境資源を管理するうえで、資源の現状を 正確に把握することは最も基本であり重要なことである。そのためには、定期的に現 地調査による動植物の分布確認及び生息・生育状況の把握が必要である。また、生物 群によっては高度な専門的知識を要する場合があるため、特に希尐種の分布や生息・ 生育状況の判断、生態系の評価などは専門家による現況把握が望ましい。 イ 研究者等との連携 本町におけるトンボ類の分布については、長年、本町において調査を実施してきた 研究者によって詳細が把握されている。一方、トンボ類を除く生物群の分布について は、一部の研究者や自然愛好家による断片的な情報はあるものの、調査地域の偏りや 情報の専門性にばらつきがあるため、町域の分布状況を判断するには至らない。 以上のような情報の偏在は、地元研究者、専門家、自然愛好家などからなる協力体 制が構築され、組織的な調査活動が行われることにより解消されると考えられる。そ 40 のため、専門家の指導のもと、調査員養成を兼ねた観察会などのイベントを実施し、 その参加者を組織化し、研究者や専門家、自然愛好家との連携を深め、協働すること が望まれる。 また、長久手町内には沢山の魅力的な自然観察の場所が残っていることを広くアピ ールし、町域を観察スポットとして定着させることも必要である。 (2) 里山管理などへの適切な人為介入 岩作丘陵などにおいて竹林化が進行するなど、本町において里山の劣化が随所に現 われている。本町の里山は、樹林の薪炭林利用の結果生まれた二次林が主体であり、 このような林は、利用することにより維持されてきたため、薪の利用が無くなってか らは、下草や低木が密生し、かつてみられた多様な生物が生息していた環境は失われ つつある。長久手町の丘陵地が里山として利用されていた頃の環境に適した生き物の うち、日当たりの良い湿地に生える植物群や明るい二次林を生息場所とするギフチョ ウなどは希尐種となっており、これらの多くは里山の荒廃とともに絶滅すると予想さ れる。このように、長久手町の湿地や二次林においては、里山の管理放棄による植生 遷移が環境資源喪失の大きい要因といえる。 このような場合は、希尐種の生息・生育場所であるからと手を触れないでおくこと は、かえって絶滅に追いやることとなるため、里山の保全については、専門家の指導 の下に適切な人為を加えることにより、明るい二次林の姿を取り戻す必要がある。 (3) 脆弱な自然環境の適切な管理 ア 過利用 長久手町にみられる湧水湿地は、地形と地下水との微妙なバランスにより成立して いる。そして、湿地に生えている植物は、湿地表面の薄い皮膜のような生育環境を拠 り所にしているため、踏み荒らしなど人の過剰な踏圧により容易に衰亡する。また、 過剰な見学者の入場などは、踏圧の影響のほかに外来種や移入種の持ち込みを誘発す る可能性がある。 このため、湧水湿地を環境学習の場として利用するときは湿地性植物への影響に十 分な配慮が必要であり、利用者数や利用密度に関して専門家の指導の下にある程度の 制限を設けるほうがよい。また、湧水湿地が分布する地域は、保全区域として位置づ けることが望ましく、野外学習やレクリエーションなど利用に重点を置いた位置づけ と重複させないことが大切である。 さらに、土地利用に関する位置付けを明確にし、開発の影響を最小限に抑制する配 慮も必要である。土地改変による生息・生育場所の消失に加え、湿地の衰退にしばし ばみられるように、湿地を涵養している地下水の供給源である後背地の開発による影 響について事前に配慮が必要であろう。 41 イ 盗掘、密漁 希尐種の盗掘や密漁は違法か否かに関わらず、生態系への重大な影響を与える結果 となり、町民全体の貴重な環境資源を喪失させる反社会的な行為である。周辺住民や ボランティア活動家による監視体制を強化し、抑止的な環境を作ることが効果的と考 えられる。また、確信犯的な悪質な密漁等については、摘発などの強い措置が必要で あり、このための規制手法を検討することも課題の一つである。 (4) 外来種・移入種の進入防止や駆除 在来の希尐種が近年、外来種の繁殖圧に押され衰微する事例が多くみられるようにな ってきた。オオクチバスやブルーギルなどの肉食魚により直接捕食され絶滅に至る場合 や、外来種のカメと在来のイシガメとの間で交雑種が生まれ、在来種の遺伝子保存が懸 念されている例もある。 生物がある程度移動が制約されていることは、生物間の競合などによる種の絶滅が抑 制され、他方では新しい生物種の誕生を促し、生物多様性維持に重要な意味を持ってい る。しかしながら現在は数多くの外来種が持ち込まれ利用された結果、多くが野生化し、 その結果、様々な影響が現れている。 外来種に対しては、先ず、町域の野生生物種の侵入状況を把握することが大切であり、 そのためには、外来種の識別や正しい知識の普及を兼ねた住民参加による外来種分布マ ップ作りなどが考えられる。次に、専門家の指導の下でボランティアを中心とした駆除 イベントなどを実施することにより、外来種駆除の意識高揚を図ることも有効と思われ る。 また、愛好家のなかには、自身の思い入れの強い種を増やしたいという理由から、移 入種(国内外来種)を持ち込む例がある。例えば、園芸種のサギソウを湿地に持ち込む ことにより在来のサギソウと交雑種をつくり、遺伝子の撹乱を生じさせるおそれがある。 また、移入種は在来種との間で競合し在来種を衰退や絶滅させる危険もある。このよう に、一見、環境に優しいと受け取られがちな移入種の自然放流などは、従来の生態系の 多様性を破壊する重大な行為であることは余り知られていないため、正しい知識の普及 啓発に努め、自然との付き合い方の正しい作法を全町民が身につけることが望ましい。 (5) 水質・大気質の保全 景観資源や親しみ学ぶための環境資源は、高度経済成長期以降の水質や大気の汚濁や 汚染によって質的低下をみた。その後、排水規制や処理技術の向上などにより、全般的 に水質改善傾向がみられた。本町においては、東部丘陵や香流川を中心に多くの優れた 環境資源が残されているが、香流川の上流域や下流域、及びその一部の支流などについ ては、現況においても水質が良好とはいえない状況がある。水質や大気質の良否は、環 境資源の質を左右する重要な環境要素といえ、水がきれいで空気がおいしい場所の環境 42 資源はそうではない場所の同様の環境資源に比べはるかに価値が高い。このため、水質 や大気質の向上を図ることは資源管理及び有効利用を図るうえで重要な観点といえる。 43 5 まとめ 長久手町における学術的価値の高い環境資源を図5-1に、日常生活における環境要素 として価値の高い環境資源を図5-2にまとめた。 学術的価値の高い環境資源である多様性を有する生態系は町東部に集中している(図5 -1) 。大草丘陵と三ヶ峯丘陵、そしてそれらの山裾や谷に分布する湿地とため池、これら が希尐な動植物の棲み処となって、本町の生物の多様性を支えている。 また、町内には、景観に優れ、親しみ学ぶことのできる環境資源として、ため池や二次 林、自然を活かした公共施設などが、身近に多く分布している(図5-2) 。市街地には杁 ヶ池公園や古戦場公園などがオアシス的に分布し、散策や昆虫採集、野鳥観察に利用され ている。町東部には、豊かな自然環境を活かし、希尐種の観察ができる公園や、自然体験 施設、自然性の高い川やため池など、子どもから大人までがそれぞれの興味に応じて利用 できる様々な環境資源が分布している。 44 図5-1 学術的価値の高い環境資源 45 図5-2 日常生活における環境要素として価値の高い環境資源 46 用 語 解 説 1 周伊勢湾地域:伊勢湾を取り囲む地域の丘陵・台地・段丘地帯を指し、鈴鹿山系東麓、知多半 島から庄内川・木曽川流域、天竜川中流域、矢作川中流域、東三河から西遠の各地域のこと。 これらの地域は鮮新世後半から更新世の砂礫層が丘陵・台地の地表面を形成している。湧水 が随所にみられ、それに続く斜面や谷底平野の流水面に湿地が形成されている。 2 湧水湿地:斜面が崩壊した場所や崩壊土砂が堆積した谷底面等を湧水が涵養することにより成 立している湿地のこと。 3 ハビタット:生息場所のこと。環境条件のような抽象的概念ではなく、具体的な生活空間をさ す場合に使う。 4 エコトーン:水域と陸地の推移帯。緩やかな傾斜でできた水際では、水深ごとにそれぞれ適応 した水草が生え、陸域においても土壌の湿潤度の変化に応じた植生が帯状に認められる。こ の植生の変化帯をエコトーンとよんでいる。 5 基盤岩類:表面を覆っている地層や岩層に対して、下位の地層または古期岩類をいう。 6 鮮新統:新生代鮮新世(約 500 万年前から 180 万年前までの時代)に形成された地層をいう。 この時代、東海地方には東海湖と呼ばれる淡水の湖が出現し、河川により運ばれた大量の土砂 がこの湖に堆積し、砂・砂礫・粘土等による堆積層が形成された。 7 更新統:新生代更新世(約 180 万年前から 1 万年前までの時代)に形成された地層をいう。 この時代、気候が不安定で氷河期と間氷期が繰り返し訪れ、それに伴う海水面の低下や上昇に より陸地の浸食や河川が運んだ土砂の堆積が進み、台地地形や砂・礫等の堆積層が形成された。 8 クロスラミナ:砂粒が水流によって運搬・堆積することによって作られる構造で、層理面(地 層の層と層の境目)に対して斜めに交わることから斜交葉理またはクロスラミナと呼ばれる。 流れの向きや強さによって、様々なパターンが作られる。 9 東海丘陵要素植物:東海地方の丘陵、台地の湧水湿地およびその周辺に固有、もしくは日本で の分布の中心がある植物を東海丘陵要素または東海丘陵要素植物と呼んでいる。熱帯系、冷 温帯系、大陸要素の残存分布種、地域の固有種・準固有種から構成されている。これらの植 物の分布を規定する要因としては地史的な影響が大きく、周伊勢湾地域という丘陵・台地地 形が形成されてきた地史的過程の中でこの地域に集中したものと考えられる。 10 谷底湿地:谷底面が谷地形最上流部からの湧水によって涵養され、湿地が形成されている場 47 合、谷底湿地と呼ぶことがある。また、上部が樹木に覆われることなく日当たりの良い場所 に立地する場合、向陽湿地または向陽性湿地と呼ぶことがある。 11 遷移:ある群落がその群落自身により環境を変えることで別の群落に取って代わること。例 えば裸地の場合、早く進入した草本類は、彼らがつくる日陰条件や土壌によって、多年草、 木本といった植物の進入を許す環境を順次生み出しながら変化し、最後はこれ以上変化しな い極相林となる。 12 レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 、レッドデータブックあい ち植物編・動物編 2009 における評価区分の概念 絶滅 Extinct (EX)・野生絶滅 Extinct in the Wild (EW) すでに絶滅したと考えられる種(EX) 。 野生では絶滅し、飼育・栽培下でのみ存続している種(EW)。 絶滅危惧I類 Critically Endangered + Endangered (CR+EN) 絶滅の危機に瀕している種。現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、 野生での存続が困難なもの。 絶滅危惧IA類 (CR) ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。 絶滅危惧 IB 類 (EN) IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの。 絶滅危惧 II 類 Vulnerable (VU) 絶滅の危険が増大している種。現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場 合、近い将来「絶滅危惧 I 類」のランクに移行することが確実と考えられるもの。 準絶滅危惧 Near Threatened (NT) 存続基盤が脆弱な種。現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶 滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの。 情報不足 Data Deficient (DD) 評価するだけの情報が不足している種。 地域個体群 Threatened Local Population (LP) その種の国内における生息状況に鑑み、特に保全のための配慮が必要と考えられる特徴 的な個体群。 48 長久手町環境資源目録 平成 22 年 3 月 発行 長久手町 編集 生活環境部環境課 〒480-1196 愛知郡長久手町大字岩作字城の内 60 番地 1 TEL 0561-63-1111 FAX 0561-63-2100 49