Comments
Description
Transcript
(案) 第2章(PDF:2.5MB)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 1 伊丹市の概況 1)位置 伊丹市は兵庫県の南東部に位置し、面積 25.09km2 の市域を有し、神戸市から約 20 ㎞、大 阪市から約 10 ㎞の圏域にあります。平坦地が広く、土地が高燥で居住に適しているため、 早くから開発が進み、市域には自然植生といえる林野は残っていません。 昆陽池・瑞ケ池・緑ケ丘の各公園と猪名川の段丘崖沿いに続く林(伊丹緑地)が、一連の 緑地として保全・再生されており、都市環境下で生物多様性の確保を図るためのネットワー ク(生態系ネットワーク)の拠点として重要な存在となっています。 伊丹市位置図 ・東経 135°24′ ・北緯 34°47′ ・東西距離 7.0 ㎞ ・南北距離 6.5 ㎞ ・面積:25.09km2 ・標高:最高 45m(荒牧 4 丁目) 最低 6m(柏木町 3 丁目) 2)気象概要(本文中の数値は平成 12 年から 21 年の間の統計による) 平均気温は 16.3℃、平均年間降水量は 1,152.5 ㎜であり、一般に年間を通して温暖で降水 量が尐ないという瀬戸内気候を示しています。年最高気温は 37.5℃、最低気温は-3.4℃で あり、最近は最高気温の上昇が認められます。 六甲・長尾・生駒の山地から吹く風の影響を受け、夏と冬の気温の較差は大きく、また、 最近は、気候緩和に大きな影響をもつため池や水田など、水環境の減尐が、この傾向を高め ています。 降雤状況では、最近、雤粒が大きく跳ね返るような強雤の頻度が増えています。 植生の変化と気温の相関関係を表す指標とされる暖かさの指数は 137.3 度で、本市は常緑 広葉樹林が生育する暖かさの範囲内にあります。 平成 22 年の気象概況 1月 2月 3月 (資料:消防局) 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月 平均気温(℃) 5.0 7.0 8.8 12.7 18.1 23.6 27.6 30.0 26.0 19.3 11.9 7.3 最高気温(℃) 15.0 21.1 21.3 23.5 30.4 32.1 37.1 36.6 35.3 28.4 20.9 19.5 最低気温(℃) -2.3 -1.1 0.1 2.2 7.3 14.8 20.3 24.4 15.5 8.4 2.7 -0.6 44.5 126.5 157.5 158.0 175.0 273.0 254.0 51.0 97.0 121.0 13.0 52.5 気 温 降水量(㎜) - 9 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 3)地形 伊丹市は、北摂・西摂にまたがる武庫平野の中心に立地し、広く平坦な伊丹台地と猪名川 に沿って広がる低地で構成されています。 伊丹台地は、北の長尾山麓から南の大阪湾方向に 5/1000 程度の極めて緩やかな傾斜をも って広がり、尼崎市の沖積地に連なっています。台地上は水が乏しいため、ごく近年まで、 灌漑用の多数のため池と網の目のような用水路がみられました。現在、多くのため池や農地 は、公共用地や工場用地、住宅地などに変貌しています。 台地の中央部を東西に横断する昆陽池陥没帯は、水利上重要な位置を占め、昆陽池はじめ 多くのため池群の発生を促した重要な地形的な窪みです。 長尾山地から南流する天神川と天王寺川が、昆陽池で流路を東西方向に変えて武庫川に合 流するのは、伊丹台地の中央を東西に横切る昆陽池陥没帯の影響です。 伊丹台地の東は、猪名川によって侵食された段丘崖が境となっています。段丘崖の東は猪 名川の広大な氾濫原で、大阪国際空港はこの氾濫原に盛り土をして建設されたものです。 昆陽池は、兵庫県版レッドデータブック(県 RDB)2011 自然景観分野においてBランクに 指定されています。 伊丹市周辺の地形図 (資料:伊丹市の自然環境 1992) 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 - 10 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 4)地質 伊丹台地の地下には、北摂山地に露出する流紋岩や古生層のチャートなどの礫と花崗岩の 礫を含む伊丹礫層、その下に海成粘土の性質をもつ伊丹粘土層があります。 伊丹礫層は南に緩く傾き、尼崎市域では地中に没しますが、消滅することなく地下に延び ています。尼崎港付近では海面下 16m付近にみられます。 猪名川の氾濫原は、河床堆積物、沖積層、大阪層群粘土層などで構成されていますが、軍 行橋付近では、大阪層群の青色粘土層が直接河床に現れています。県道伊丹-豊中線に沿う ところでは河床堆積物は3m前後の厚さがあります。 県 RDB2011 の地質分野において、昆陽池周辺の地層について「低位段丘層(伊丹礫層)」 としてBランクに指定されています。 伊丹市周辺の地質図 (資料:伊丹市の自然環境 1992) 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 ≪植物化石にみる昔の自然環境≫ 更新世最終間氷期に形成された伊丹粘土層(伊丹が海におおわれていたときの地層)からは、多くの貝化石 とともに、マツ、モミ、ツガ、スギ、コウヤマキ、カシ、ブナ、シラキ、ケヤキ、モチノキ、シナノキなどの 花粉化石が検出されています。また、岩屋の原田処理場建設時の発掘調査では、更新世最終氷期の地層からイ チイガシ・ムクノキ・ムクロジなどの実や材の化石が採取されています。 ほぼ5千年前に現在の伊丹の自然環境の原型が成立し、伊丹台地にはイチイガシ・シイ・ヤブツバキ・クス ノキなど、猪名川と武庫川の広い低地には、ハンノキ・エノキ・ムクノキ・ケヤキ・ヤナギなどが繁茂してい たと考えられています。 - 11 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 5)人口 人口は、長尾村の一部を編入し現在の市域となった昭和 30 年当時の 68,982 人から今日に 至るまで増加を続け、平成 22 年には 196,127 人に増えています。 1km2 当たりの人口密度は昭和 30 年当時の 2,749 人から平成 22 年には 7,815 人に増加し、 兵庫県下では尼崎市と神戸市長田区に次ぐ高い密度となっています。 近年の人口の伸びは微増にとどまり、伊丹市総合計画(第 5 次)の人口推計では、当面は 現状維持としながらも、その後は徐々に人口減尐化に差し掛かるとされています。 伊丹市の人口推移 昭和 30 年 昭和 35 年 昭和 45 年 (資料:国勢調査) 昭和 55 年 平成 2 年 平成 12 年 平成 22 年 人口(人) 68,982 86,455 153,763 178,228 186,134 192,159 196,127 世帯数 14,640 19,771 41,123 55,978 62,702 70,846 77,263 4.71 4.37 3.47 3.18 2.97 2.71 2.54 世帯人員 ※伊丹市は昭和 15 年に伊丹町と稲野町が合併し誕生。22 年に神津村、30 年に長尾村の一部を編入し、現在の市域となる. 10 11 12 13 14 15 16 17 6)土地利用 伊丹市は、全域が都市計画区域で、市街化区域(約 23.97km2)と市街化調整区域(約 1.12km2) に区分されています。 課税地目別土地面積は、平成 22 年現在で田 1,065 千㎡、畑 334 千㎡、宅地 10,373 千㎡、 原野1千㎡、雑種地 1,306 千㎡となっています。 土地利用現況図 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 - 12 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 7)緑被 平成 20 年の緑被率調査における樹木・樹林地、草地、農地、裸地、水辺(水面及び水辺 の草地)など、多様なみどり全ての合計面積は 853.80ha で、市域面積に対する割合(みど り率)は 34.1%となっています。 そのうち、樹木・樹林地は 246.95ha で、平成8年度から 15ha 増えています。地域別では、 西北部(国道 171 号以北)が 20ha の増、東部(猪名川以東)が 25ha の増となっていますが、 中南部では 11ha 減尐しています。また、高木が減尐し、低木が増える傾向にあります。草 地には空港滑走路周辺の草原が含まれています。 250 緑被分布図 200 ha 150 100 50 0 樹林地 草地 西北部地域 農地 中南部地域 裸地 水辺 東部地域 (資料:伊丹市みどりの基本計画 2011) - 13 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 2 自然環境 1)植生 現存植生は、河川や池の植生を除くと、エノキ-ムクノキ群落、アラカシ-クロガネモチ 群落、スダジイ植林などです。河川にはツルヨシ群落、オギ群落、ヤナギタデ群落などがみ られます。 平成 24 年度に行なわれた植生調査では、本市が古くから人為的影響を受けてきたことを 反映して、自然植生はツルヨシ群落など河川の一部に限られ、市内の植生の大部分は植栽起 源の樹林と代償植生になっていることが改めて確認されています。 ≪課題≫ 社寺林や緑地の樹林地の多くは、市民の憩いの場として開放されているため、在来種と緑 地整備などで新たに植栽された種(植栽種)が混生状態にあります。また、多くは林床が過 度に手入れされているため表層土の堆積もなく、生物多様性は貧弱になっています。 河川や管理草地には植栽種や逸出種、外来種が侵入しており、そのうち外来種の広がりは すでに抑制できない状況にあります。 市内にみられる緑地は、すべて代償(二次)植生ですが、市民にとっては身近な、かけが えのない自然であると同時に、生き物が生息・生育する場として、また、生態系の基盤環境 として、非常に重要な場所になっています。このため、本市においては代償植生であっても 自然性を残す場所として、その保全を強化する必要があります。 そのためには、まず現存する緑地の自然性や生物多様性を高めて、それらを確保する拠点 づくりが必要になると考えられます。併せて、エコロードなどでいくらかの拠点とリンクし、 連続性を確保することが必要です。 伊丹市現存植生図 (資料:伊丹市の自然環境 1992) 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 - 14 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 2)樹林地 昆陽池・瑞ケ池・緑ケ丘の各公園と伊丹緑地及び各地域に点在する社寺の境内に、比較的 まとまった林がみられます。 昆陽池・瑞ケ池・緑ケ丘の各公園とそれらの公園をつなぐ瑞穂緑地及び伊丹緑地は、いず れも都市公園です。総面積は 59.53ha で、市域面積の 2.37%を占めています。 昆陽池公園と瑞ケ池公園、瑞穂緑地の樹木は公園整備時に植栽されたものです。昆陽池公 園では、整備当時の方針で、近隣地域から導入された在来種が優先的に植栽されていますが、 一部では花木や一般緑化木も植えられています。 社寺林のほとんどは「伊丹市緑地の保全および緑化の推進に関する条例」により、緑地保 全地区に指定されています。指定箇所は、猪名野神社や天日神社、西天神社、東天神社など 25 ヵ所で、指定面積は 88,137.95 ㎡となっています。 法巌寺のクスノキと中野稲荷神社のイヌマキが県の天然記念物に、また、浄源寺のイチョ ウと猪名野神社のムクロジが市の天然記念物に指定されています。保存樹木は 36 本指定さ れています。樹種は、クスノキが 12 本、ムクノキが 5 本、その他、ケヤキ、クロガネモチ、 クロマツ、スダジイ、エノキ、イチョウ、イヌマキ、タイサンボクなどです。 ≪課題≫ 樹林地は、古くから伊丹にみられる生き物の主要な生息・生育基盤となっています。とく に伊丹緑地から昆陽池に続く樹林地は、生き物の生息・生育環境の分断化を防ぐなど、本市 において、生態系ネットワークの拠点として貴重な存在で、生物多様性の保全を目指した管 理を強化する必要があります。 市内各地に残る樹林地は、隣接地の間際まで住宅や事業所が迫っているため、過度に人為 圧を受け、樹木が衰弱したり、林床の生物相が貧弱になったりしています。また、年数を経 た林は常緑広葉樹が優勢になり、全体に薄暗い森林の様を呈しています。落葉や枯枝の落下、 日照などに対する配慮が望まれます。 現存する樹林地を生かし、将来にわたり安定的に保全していくため、従来から行なわれて いる安全管理に加え、場所ごとの植栽樹種の厳選や管理面で生物多様性の保全に配慮するな ど、みどりの質を高めていくことが必要です。 植栽直後の昆陽池(昭和 48 年頃) 植栽後 40 年余りを経た昆陽池公園の樹林地 - 15 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 3)河川 本市の河川は、東の猪名川水系と西の武庫川水系に分けられます。 猪名川は、猪名川町柏原に位置し丹波山地に属する大野山に発し、池田・川西付近で北摂 山地を抜け、伊丹市域に流れ込んでいます。駄六川は長尾山地東部から南流し、緑ケ丘の池 を経て、猪名川に流入しています。 武庫川は丹波篠山盆地の南側の山地に発し、一旦三田盆地に流入、さらに六甲山地を横断 して武田尾付近で深い峡谷をつくり、宝塚で山地から平野に出て、伊丹市域に入ってきます。 長尾山地から南流する天神川と天王寺川は、昆陽池で流路を東西方向に変えて武庫川に合流 しています。 河川の水質(BOD・生物化学的酸素要求量)は、平成 22 年度調査によると、猪名川(軍行 橋)・武庫川(百閒樋)ともに 1.1mg/ℓで、環境基準(B類型:3mg/ℓ)を達成しています。 これらの河川は、広範な流域の生き物の生息・生育空間として、また、移動空間として重 要な役割を果たしてきました。しかし、度重なる河川改修や高水敷の公園整備などの影響を 受け、現在では、かつて存在した環境とは大きく異なる環境が成立し、在来種が減尐する一 方で外来種が侵入・定着するなど、そこに生息・生育する生物種は、従来とはかなり異なっ たものになっています。 ≪課題≫ 伊丹市みどりの基本計画 2011 において、「猪名川と武庫川は貴重なみどりのオープンス ペースであり、かつ生き物の生息生育環境となっている都市施設緑地として位置づけ、生物 多様性に配慮し、維持・継承する。」、また、「近隣の緑地等と連続させ、生物多様性に配 慮した管理を充実させることで、生態系ネットワークの形成に努める。」と定められており、 今後、その具体的検討が求められています。 猪名川にはシルビアシジミ、ヒメボタル、カワラナデシコなどの貴重な種が生息・生育し ており、その保全対策が必要です。 河川には外来種が多数侵入・定着しており、国・県・市それぞれの河川管理者及び市民等 が連携した駆除などの対策が必要です。とくに猪名川には「特定外来生物による生態系等に 係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)による外来生物のうち「特定外来生物被害防 止法」で指定され、飼養等の規制対象とされる特定外来生物のアレチウリや「兵庫県の生物 多様性に悪影響を及ぼす外来生物リスト 2010」(県ブラックリスト)に掲載されているセイ バンモロコシなどが優占し、多くの在来種が駆逐されていることが懸念されます。 昭和 40 年代の猪名川 現在の猪名川 - 16 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 4)ため池 昭和 30 年代には、市内に 40 前後のため池が存在していました。その多くはすでに埋め立 てられて消滅していますが、残る池も、周辺の都市化が急速に進んだ昭和 40 年代後半から 10~20 年の間に人為的な富栄養化が起こり、生物相は大きく変化しています。 市内最大のため池である昆陽池は、かつては清澄な水を湛え、ヒシやハス、ヨシなどの水 草が生い茂る池で、水生昆虫や野鳥の宝庫として知られていました。昭和 36 年に池の一部 が埋め立てられるなどの変遷を経る中で、47 年に伊丹市がこの池を取得して「静かな緑地」 「自然界のバランスの尊重」を基本的事項とする総合公園として整備を行ないました。 昆陽池は、降雤を除き日常的な水源は井戸水に頼っていましたが、井戸水に窒素・リンが 高濃度に含まれていたため、近年、富栄養化が急速に進み、アオコの大発生をみることにな りました。そのため、浄化水路や給餌池の整備などさまざまな浄化対策に取り組むとともに、 平成 15 年度から4ヵ年をかけて底泥の浚渫工事を実施しました。現在、引き続き恒久的浄 化対策として工業用水を導水し、併せて市民協働による水辺環境再生事業を進めています。 ≪課題≫ ため池では池水の富栄養化が進み、在来種が衰退し、外来種が繁茂しています。水循環の 確保と水質の改善、在来種の保全対策などにより、自然再生の取り組みが必要です。 昆陽池の水質(COD・化学的酸素要求量)は、浚渫前の 43mg/ℓから浚渫後は 24mg/ℓに減尐 し、工業用水導水後は 13mg/ℓにまで改善しています。水質浄化検討委員会提言にある当面目 標の 5~25mg/ℓは達成できていますので、今後は、将来目標の 5mg/ℓに向けた取り組みが求 められます。また、工業用水を活用し、灌漑用水に必要とされる水量管理を行う中で水循環 を確保し、水質保全に努めるとともに、市民協働による自然再生の取り組みをさらに充実す る必要があります。 昆陽池には古くから多種多様な動植物が生息生育し、希尐種も多く確認されています。そ の一方で、近年、ヌートリア(特定外来生物)やカワウ、ハシブトガラス、ナガエツルノゲ イトウ(特定外来生物)などが急増し、生物多様性に悪影響を与えているため、その対策が 求められています。 平成 23 年1月に瑞ケ池で水鳥の死骸から高病原性鳥インフルエンザウィルスH5N1 亜型 が検出され、約2ヵ月間、瑞ケ池や昆陽池などの一部閉鎖、市民への注意喚起、野鳥の監視・ 観察の強化、死亡野鳥の即時回収などの対策がとられました。今後も同様の事態が生じる可 能性があるため、生き物の生息実態を常にきちんと把握しておくことが必要です。 昭和 30 年頃の昆陽池 現在の昆陽池 - 17 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 5)農地 本市では古くから米作が行なわれていました。そのため、昭和 30 年代までは台地上に灌 漑用のため池が数多く存在し、川や池から水田に水を引く小川や水路が市内各地を縦横に走 っていました。市北部は、地形・土質なども関係し、米作や綿作とならんで庭木栽培も盛ん に行われていました。 主要農作物は水稲で、昭和 35 年には 747ha 作付けされていました。当時は裏作に麦類(小 麦 176ha、大麦 8ha、裸麦 149ha)が作付けされていましたが、40 年頃には麦類は余りみら れなくなっています。その他、いも類(サツマイモ、ジャガイモ)、まめ類(ダイズ)、野 菜(ホウレンソウ、ネギ、トマト等)が栽培されていますが、作付面積は何れも年を追って 減尐しています。 耕作面積は、平成7年から同 22 年の間に 216ha から 91.71ha に減尐しています。内訳で は田が 150.38ha から 59.72ha に、畑が 54.63ha から 20.97ha に減尐しているのに対し、樹 園は年により増減する中で 10.99ha から 11.02ha に微増しています。 平成 22 年の農地面積は 139.8ha で、市域に占める農地の割合は 5.6%、作付け延べ面積で は野菜が 81ha で最も多く、次に水稲 62ha、花卉・花木・植木・苗木 40ha となっています。 ≪課題≫ 長年維持されてきた米作を中心とする農地の環境が、生き物の重要な生息・生育基盤とな っており、そこに本市を特徴づける豊かな生物相が形成されていました。しかし、多くの農 地は工場用地や公共用地、住宅地になり、残る農地も、従来土や石組みで造られていた用水 路などのコンクリート構造化が進んでいるため、かつての農地を生息・生育場所としていた 生き物に大きな負荷を与えています。 また、除草剤などの農薬や化学肥料を不適切に利用することで、農地や連続する川、ため 池の生態系に大きな影響を及ぼしています。 そのような現状がありますが、農地や用水路には、まだメダカやドジョウなど、昔から市 内各地で普通にみられていた生き物が生息・生育する場所が残っています。将来とも良好な 保全が望まれます。 32 33 34 35 36 37 38 39 40 昭和初期の水田地帯(遠景は昆陽池と甲山) 現在の農地(荻野) - 18 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 6)市街地 風致地区は、昆陽池風致地区(75ha)・緑ケ丘風致地区(43ha)・昆陽寺風致地区(4ha) が指定されています。指定面積の合計は 122ha です。 都市公園は、平成 23 年3月末現在 127 ヵ所 117.85ha で、市域面積の 4.7%を占めていま す。街区公園に植栽されている樹木の中では、サクラとクスノキが各 450 本余りと多く、次 いでキンモクセイ、アラカシ、ハナミズキ、ケヤキが比較的多い樹種です。児童遊園地には クスノキをはじめ、キンモクセイ、アラカシ、サクラがよく植えられています。 街路樹(高木)は約 9,100 本植栽されています。樹種別ではソメイヨシノが約 1,500 本、 ケヤキとクスノキが約 1,000 本、イチョウ・ハナミズキ・ナンキンハゼが約 500 本、その他 アメリカフウ、サトザクラ、マテバシイ、クロマツ、シンジュ、シラカシ、シダレヤナギ、 ヤマモモ、アキニレ、コブシ、サルスベリがよく植えられています。 市民緑化を目的として、平成6年から 17 年の間に県や市、グリーンネットワークから市 民に樹木の苗木が配布されました。配布総数は 32,924 本で、樹種はサクラ、ハナミズキ、 カナメモチ、ヤマモモ、キンモクセイ、ギンモクセイ、シモクレン、モッコクなど、低木で はサツキ、ツツジ、アジサイ、クチナシ、オオデマリ、ユキヤナギなどです。 公共施設においては、公立保育所など8ヵ所でグリーンカーテンに取り組んでいます。ま た、ビオトープについては、学校園と浄水場などで取り組みが進みつつあります。 ≪課題≫ 都市において、みどりによる CO2 吸収量を増やしていくためには、炭素の蓄積量の多い高 木を増やすことが重要ですが、近年、落葉や日照、敷地に余裕がないことなどにより、高木 の植栽が敬遠される傾向にあります。 近年のヒートアイランド現象緩和のため、屋上や壁面など、建物周りの緑化を推進する必 要があります。伊丹市みどりの基本計画 2011 では、公共施設等のみどりの充実として、「樹 木や草花の植栽のほか、グリーンカーテン、壁面、屋上、バルコニーなどの立体的緑化によ って緑視効果が高く、環境にやさしいみどりづくりに地域住民とともに取り組みます。」と しています。 工場等の緑化では、緑化木は原則として潜在自然植生に適した樹種を推奨しています。し かし、昭和 50 年代以降は一般的な緑化植物や大気汚染などに強く移植も容易な外来種のト ウネズミモチなども一部で植栽されています。トウネズミモチは鳥散布種子で、最近分布を 著しく拡大しているため、外来生物法で、規制対象 にはならないものの生態系に悪い影響を与える恐れ のある生物としての要注意外来生物に指定されてい ます。県ブラックリストにおいても生物多様性への 影響が大きい警戒種に選定されています。植え替え などの対策が必要とされます。 ビオトープは、整備後年数を経る中で生物多様性 に配慮したきめ細やかな管理が行き届かなくなるこ とが多く、外来種がはびこる一因になっています。 宮ノ前緑地 - 19 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 3 生物種 1)植物(シダ植物、種子植物) 文献記録では、市内から 1,314 種(植栽を含む。)の植物が記録されています。 平成6年に刊行された『続・伊丹の野草』によると、「昭和 41 年の教育研究所による調 査で確認された野草 497 種のうち、 平成4~6年頃の調査で確認されたものは 203 種であり、 新たな種類が 41 種確認された。また、その 20~30 年の間に在来の野草が大幅に減尐し、動 物・植物の生活場所の範囲が急速に狭まってきている。」などの指摘がなされています。 現存の種で環境省レッドデータブック(環境省 RDB)と兵庫県レッドデータブック(県 RDB) に掲載されている種は次の 11 種です。 ・環境省 RDB 絶滅危惧種Ⅱ類(VU)・県 RDB のAランク=デンジソウ ・環境省 RDB 絶滅危惧種Ⅱ類(VU)・県 RDB のBランク=オニバス ・環境省 RDB 絶滅危惧種Ⅱ類(VU)・県 RDB の C ランク=イヌノフグリ ・環境省 RDB 準絶滅危惧(NT)・県 RDB のCランク=カワヂシャ ・県 RDB のBランク=ハマハナヤスリ ・県 RDB のCランク=カワラサイコ、サデクサ、クサボケ、ゴキズル ・県 RDB の要調査種=ケテイカカズラ、フトイ(オオフトイを含む。) 市内で記録されている種の中で、特定外来生物に選定されている種は、アメリカオオアカ ウキクサ(アゾラ・クリスタータ)、アレチウリ、ナガエツルノゲイトウ、オオキンケイギ ク、ボタンウキクサ、ミズヒマワリ、ナルトサワギク、オオフサモの8種で、要注意外来生 物に指定されている種は、ハリエンジュ、オオブタクサ、オオカナダモ、ホテイアオイ、ト ウネズミモチ、カモガヤ、ネズミムギ、コマツヨイグサ、キクイモ、キショウブ、セイタカ アワダチソウ、オオオナモミ、コカナダモ、メリケンカルカヤなど 45 種です。 県ブラックリストには、上記の種に加えてコマツナギ、ナンキンハゼ、フサフジウツギ(ニ シキフジウツギ)、セイヨウスイレン、ヒイラギナンテン、ピラカンサ類、ニワウルシ(シ ンジュ)、セイヨウイボタ、ヒメイワダレ、アレチハナガサ、セイヨウカラシナ、シャクチ リソバ、ハルガヤ、モウソウチク、セイバンモロコシなど 15 種が掲載されています。 ≪課題≫ これまでに多くの種が市内から姿を消していますが、今後、在来種の消滅を招かないこと、 また、これまでに失われた在来種の栽培・補植を含め、種多様性の充実に向けた保全・再生 の取り組みを進めることにより、本来の植生を回復す ることが重要です。その場合、可能な範囲において、 在来種の中でも伊丹の地域に由来する地域系統の種の 保全・再生を視野に入れる必要があります。 特定外来植物など、侵略性が極めて高く、生物多様 性の維持に重大な悪影響を及ぼす植物種について、駆 除などの対策が求められています。 オニバスの花 - 20 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 2)動物 文献記録によると、哺乳類 18 種、鳥類 225 種、爬虫類 13 種、両生類7種、魚類 33 種、 昆虫類 1,343 種、クモ類 94 種、甲殻類9種、貝類 40 種が記録されています。 哺乳類では、コウベモグラ、チョウセンイタチ、ドブネズ ミ、アブラコウモリなどが生息しています。猪名川河川敷で はカヤネズミの球巣がみられます。ニホンノウサギやアナグ マ(県Cランク)などは姿を消しました。最近、アライグマ (特定外来生物)やヌートリア(特定外来生物)による農作 物被害などが発生しています。 鳥類では 20 種が消滅しています。現存の種では、環境省 RDB にヨシゴイやヒクイナ、タマシギなど 21 種が選定されて カワセミ います。県 RDB ではこれらの種に加えアオバズク、カワセミ、 コサメビタキ、コイカルなどの 29 種が選定されています。 近年、カモ類は減尐しています。一方、最近は市内一円でカ ラス被害及び昆陽池でカワウ被害が深刻化しています。 両生類では、ニホンアマガエル、ヌマガエル、ウシガエル (特定外来生物)などがみられます。かつて生息したアカハ ライモリ(県要注目種)、トノサマガエル、ダルマガエル( 県Aランク)は、近年は記録されていません。 爬虫類では、クサガメ、ニホンイシガメ、ニホンスッポン ニホンアマガエル (環境省情報不足種、県要調査種)、ニホンヤモリ、ニホン トカゲ、ニホンカナヘビ、アオダイショウ、シマヘビなどが 生息しています。近年、ヤマカガシとニホンマムシが観察さ れる例は、極めて尐なくなっています。また、外来種のアカ ミミガメ(要注意外来生物、県ブラックリスト種)が急増し、 他の動植物の生息・生育を圧迫しています。 魚類ではコウライニゴイ、タモロコ、オイカワ、ギンブナ、 コイ、ナマズ等が生息しています。近年ボラの遡上はみられ ません。ツチフキ(環境省準絶滅危惧種)やドジョウ(県B ニホンカナヘビ ランク)、コウライモロコ(県Cランク)、メダカ(県要注 目種)、ウキゴリ(県要調査種)は尐数が生息する程度です。 昆虫類で近年確認されなくなった種は 312 種あります。現 存の種では、環境省 RDB にはシルビアシジミ、ベニイトトン ボ、ツマグロキチョウ、オオキトンボなど6種、県 RDB には、 その他にヘイケボタル、ヒメボタル、ミズカマキリなど、16 種が選定されています。 クモ類では、ハエトリグモ類やヒメグモ類、コガネグモ類 などがみられます。最近では、有毒のセアカゴケグモ(特定 シルビアシジミ 外来生物)が市内で分布を広げています。 - 21 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 甲殻類ではモクズガニやサワガニ、アメリカザリガニ(県ブラッ クリスト種)、スジエビ、ミナミヌマエビ、ホウネンエビ、カイエ ビなどがみられます。 貝類ではイシガイ類が昭和 50 年代頃までにほとんど姿を消し、 最近ではナミマイマイが急減しています。一方、平成 23 年に外来 種オオクビキレガイ(県ブラックリスト種)の生息が確認されるな ど、外来種の増加が目立ちます。 ナミマイマイ ≪課題≫ この数 10 年の間に多くの在来種が姿を消していますが、これ以上に在来種を減らさない ため、本市における貴重種を選定し、その保全対策を進める必要があります。 多種多様な野生動物が生息・生育する昆陽池や猪名川などに残された自然環境を確実に保 全するとともに、これまでに失われた在来種や地域系統種の生息・生育環境をできる限り回 復し、市内各所に生物多様性を再生させる取り組みを推進することが求められます。 特定外来生物をはじめカラスやカワウ、遺棄されたネコなど、生物多様性の健全性の維持 に重大な悪影響を及ぼす動物種について、駆除・繁殖抑制などの防除対策が必要とされます。 近年のペットブームで、飼育しきれなくなったアカミミガメやネコなどを遺棄する例がみ られますが、それらの個体が半野生状態で繫殖を繰り返しています。個体数が増え、在来種 を捕食するなど、生態系に大きな影響を与えています。マナー啓発が必要です。 コイは繁殖力が旺盛で、水生昆虫や甲殻類、貝類、水草など他の動植物を片っ端から食べ るため、コイが増えた水辺では生物多様性が大きく低下しています。 ≪市の木、市の鳥、市民の花≫ ※昭和 45 年、市内の小中学校の理科担当教諭などでつくる協議会が、市民の意見を募り選定したものです。 - 22 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 4 自然環境の保全と再生に関する取り組み 1)都市緑化 伊丹市は開発から高度成長の時代に都市として発展する一方で、豊かな自然環境を失って きました。そのため、市では、昭和 46 年「伊丹市環境保全条例」、翌年「伊丹市緑地の保 全および緑化の推進に関する条例」、49 年「工場等の緑化に関する規則」などの制定により、 新たな緑地の確保に努めるとともに、緑ケ丘公園や昆陽池公園、瑞ケ池公園など大規模公園 の整備を行なってきました。 昭和 60 年には「伊丹市緑化基金」を創設、翌年には民有地緑化に関する制度を整備する とともに、緑化行政に新たな展開を図るため、平成元年を緑化元年と位置づけ、花緑による 市民緑化の促進を目的とした規定や要綱などの整備が行われました。 平成 11 年には「みどりの基本計画」が策定され、翌年には市総合計画(第4次)がスタ ートしました。その中で「緑の都市づくり」が進められ、公園緑地の整備及び市民の身近な 緑化活動や市民緑化協定を活用した地域コミュニティ活動の支援、水とみどりのネットワー ク形成に向けた計画を定め、市民とともに緑化を推進してきました。 平成 22 年には公園緑地の整備がほぼ計画通り進捗し、伊丹スカイパークの開設をもって 大規模公園の整備が終了したこと、また、地球温暖化や生物多様性などの新たな社会的課題 が生じていることなどにより、従来計画の見直しが行われ、次の 10 年に向けた「伊丹市総 合計画(第5次)」に基づき「伊丹市みどりの基本計画 2011」が策定されました。 ≪課題≫ 最近のみどりを取り巻く環境は大きく変化し、これまでに確保したみどりが本市のまちづ くりに貢献するためには、みどりのもつ多面的機能を最大限に発揮させる必要があります。 そのためには、公共空間のみどりの管理に市民が協働し、その管理水準を高めていくこと、 また、生物多様性の保全を目指した管理を行うことが必要です。 「工場等の緑化に関する規則」に基づく緑化協定について、緑地の確保を屋上・壁面緑化 など特殊空間を含め、緑化の質を加味した制度への改訂が必要です。 緑化木にトウネズミモチなど、県の生物多様性に悪影響を及ぼす外来生物として取り扱い に注意を要する樹種が、もともと植栽された工場敷地や緑地から市内各地に広がっているた め、そのような樹種については、在来種若しくは一般緑化植物への植え替えが必要です。 荒牧バラ公園 昆陽南公園花壇 - 23 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 2)市民団体による希少種の保護活動 ○瑞ケ丘のデンジソウ 昭和 40 年頃、松原(現;東有岡5丁目付近)の水田 に群生していた記録が「伊丹の野草」に残されています。 水田の強害草で、除草剤が普及したため、市内では消滅 したと考えられていました。 平成 13 年に瑞ケ丘の水田の一角に自生していること が市民の研究者によって発見されたため、市では、水田 の所有者、市民団体、学校園などの協力のもとに、瑞穂 小学校や浄水場のビオトープ、昆陽池、瑞穂緑地の水路 などで保護育成に努めています。 瑞ケ丘で発見されたデンジソウ ○西池・黒池のオニバス 市内では昆陽池、西池、黒池、今池などに生育してい ましたが、昭和 55 年頃に昆陽池と今池のオニバスが相 次いで姿を消し、平成 14 年の西池、黒池での発生が最 後となっています。17 年に「あーす・いたみ」が地権者 の了解の下、底泥に残っていた種子 15 個を採取、植木 鉢などに播種し、種子を増やす取り組みを始めました。 その翌年からは「伊丹の自然を守り育てる会」が活動 を引き継ぎ、市と連携し、昆陽池公園の水路や大型プラ スチック水槽などでオニバスを栽培し、種子数の増加を 黒池でオニバスの種子採取 図ってきました。21 年度は 2,029 個、22 年度には 2,037 個の種子を確保できたため、昆 陽池の一部を石堤で締め切ったオニバス池で、種子の直播やポット苗を植え付け、ほぼ自 然に近い状態でオニバスの栽培を始めました。8月の終わりには最大直径 1.5mまで葉を 広げるまでになっています。 ○口酒井と猪名川のヒメボタル ヒメボタルは、古くから有岡城跡付近の崖沿いと口酒 井に生息することが知られていました。有岡城跡付近で は近年発生がみられません。口酒井の生息地は、平成 12 年から 18 年の「あーす・いたみ」の発光個体数調査によ ると、生息個体数は余り多くありません。 一方、平成 15 年に猪名川河川敷で発光しているヒメ ボタルが発見され、現在、猪名川流域ヒメボタルネット ワーク、兵庫県立人と自然の博物館及び猪名川河川事務 所などによる生息調査が行なわれています。河川敷の広 ヒメボタルの発光 い範囲に生息していることがわかってきていますが、治水に関連した河川工事などで、生 息状況に大きな影響がでる可能性があります。 - 24 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 3)市民協働による昆陽池水辺環境再生事業 昆陽池公園は、整備後 40 年余りを経た今日、多種多様な生物が生息・生育する自然豊か な都市公園として、広く市民に親しまれ利用されています。その一方で、近年、池水の富栄 養化が進み、アオコの大量発生や池水の濁り、異臭などが常態化していました。 そのため、平成 11 年度から給餌池の整備や水辺の改修、浚渫工事を実施し、あわせて恒 久的な水質浄化対策として、平成 20 年度から工業用水の導水を始めました。この事業は、 その大事なタイミングを逸することなく、人為圧や侵略性の高い生物の急増により疲弊した 水辺環境を市民とともに再生していくための事業としてスタートしました。 事業は市民主体の取り組みで、市では自然再生に成果があるだけでなく、地域の中で、い ろいろな市民が認識を共有し、一緒に活動し、自然を共に体感できることが、子どもたちの 情操教育や人づくりにつながっていくと考えています。 <取組の具体的内容> 昆陽池の将来水質保全目標において昆陽池に求められた水質は、環境基準B類型及びV類 型が目安とされています。その達成には相当の期間を要するため、当面保全目標の基本方針 として、①アオコの異常発生がしにくい水質、②人に不快感を与えない水質、③現在の昆陽 池の生きものが安全に生息生育できる水質、の3項目が示されています。COD や T-P(総リ ン)などの数値目標は一般に馴染み難い面があるため、ゲンジボタルやオニバスが生息・生 育できるような水辺環境づくりを市民協働の目標として掲げています。 現在は、浚渫により長年の懸案であった環境負荷は半減し、工業用水の導水及び水辺環境 再生の取り組みにより、さらに低減することができています。また、市民活動による保護下 でゲンジボタルやオニバスがともに生息・生育できる環境に回復しています。同時に、野鳥 の島の植生管理、地域産苗木の栽培、学校園の環境学習への協力を行なっています。 ≪課題≫ 生物の生息・生育環境を回復し、その質を高めていくためには、目標とする樹林地や草地、 水辺など、それぞれの環境管理計画を作成し、生物多様性を目指した継続的な管理を行う必 要があります。 事業を進める上では、定期的なモニタリングにより自然環境の状態を的確に把握し、情報 を共有する中で、管理方法のチェックを行うことが欠かせません。 再生に向けた細やかな活動を行うためには、生物多様性に配慮した管理やモニタリングに 関する知識・技術をもった人材が必要で、継続的に後継者を育成する必要があります。 里親によるホタル放流 オニバスの種子採取 野鳥の島の植栽管理 - 25 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 4)侵略的生物対策 本来生息していない種が海外から人為的に持ち込まれることで、地域の自然の安定性や人 間生活が乱されることがあります。そのため、平成 16 年に「特定外来生物による生態系等 に係る被害の防止に関する法律」が公布され、侵略性の高い外来種について防除対策が示さ れ、兵庫県では、平成 22 年に「生物多様性に悪影響を及ぼす外来生物リスト」が公表され ました。また、カワウやハシブトガラスなどのように、もともとその地域に生息・生育して いた在来種であっても、急増することで、侵略性の高い外来種と同じ問題が生じる場合があ ります。 市内にも多くの侵略性の高い生物が生息・生育しているため、駆除や繫殖抑制などの対策 が行なわれています。本市では、外来種、在来種を問わず、一括して侵略的生物として、い ろいろなかたちで対策を進めています。 植物では、伊丹市が平成 20 年度からトウネズミモチ、ナガエツルノゲイトウ、アメリカ オオアカウキクサ(アゾラ・クリスタータ)などの外来アゾラ類、ボタンウキクサ、ホテイ アオイについて防除対策を進めています。 ・トウネズミモチは、昭和 50 年代に緑化木として公園や事業地の緑地に植栽されたもの から各地に広がり、現在では河川敷や緑地、空地などに多数自生しています。 ・ナガエツルノゲイトウは、昭和 61 年に池尻の水田畦で初めて確認(国内初)されたも のです。現在は、武庫川や昆陽池などの水辺で大群落を形成しています。 ・外来アゾラ類は、平成 18 年前後に緑ケ丘公園の池で大発生し、その後、同池や昆陽池 で発生を繰り返しています。 ・ボタンウキクサは、ホテイアオイとともに平成 18 年頃から緑ケ丘公園上池で確認され ていましたが、同 20 年度に駆除対策が行われ、現在は見られなくなっています。 猪名川では、猪名川河川事務所がアレチウリ、セイタカアワダチソウ、セイバンモロコシ、 シナダレスズメガヤ、ホテイアオイ、ボタンウキクサ、オオフサモ、ミズヒマワリ、ナガエ ツルノゲイトウ、アゾラ・クリスタータの 10 種を抑制対策の対策対象種に位置づけていま す。また、侵略性が高く猪名川で大繁茂しているアレチウリについては、撲滅を目指した市 民協働による取り組みが行われています。 動物では、平成 20 年度にヌートリアとアライグマの防除実施計画が策定され、現在、防 除対策が実施されています。その他、セアカゴケグモ(クモ類)、オオクビキレガイ(貝類)、 ホソオチョウ(昆虫類)について、確認の度に駆除が行われています。 ・ヌートリアは、平成元年頃に武庫川から天神川沿いに生息地を広げたもので、現在では 市内各地の水系と周辺に出没し農作物などに被害を与えています。アライグマは、平成 16 年頃から目撃されるようになり、23 年には住宅地で人的被害が発生しています。 ・セアカゴケグモは、平成 15 年頃から観察情報がありますが、23 年には猪名川堤防、緑ケ 丘と北伊丹周辺の側溝などで多くの成体と卵のうが発見され、駆除されています。 ・オオクビキレガイは、平成 23 年に市北部で生息が確認(県下初)され、捕殺また石灰 散布による駆除対策がとられています。 ・ホソオチョウは、平成 23 年に笹原公園のバタフライガーデンに植栽されたウマノスズ - 26 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 ナガエツルノゲイトウ 32 33 34 35 36 37 38 39 40 ヌートリア クサを食草として発生したため、駆除対策がとられました。 一方、平成8年頃から市内の生ゴミなどを漁るハシブトガラスの個体数が増加し、ゴミを 散乱させる上に、最近は近隣山地にあった「ねぐら」が分散し、市内の樹林地に新たな「ね ぐら」が形成されたため、周辺の生活環境や農作物、樹林地の生態系に大きな被害を与える ようになっています。そのため、平成 24 年度に「伊丹市家庭ごみステーションカラス等対 策研究会」が発足し、市民と行政が協働しカラス被害を防止する方策をまとめ、25 年 3 月に 「ごみステーションのカラス対策ガイドブック」が刊行されました。今後は、この方針に従 ってカラス対策が進められることとなっています。 昆陽池公園では、平成 10 年頃から急増したカワウによる樹林被害が認められたため、13 年から繁殖抑制対策が実施されており、最盛期には 3,000 羽ほどに増えていた群れが徐々に 減尐し、23 年には 500 羽程度となっています。 ≪課題≫ 外来生物をはじめ、侵略性が高く地域の生態系に悪影響を及ぼしている生物リストを作成 し、それぞれ防除対策をとることが求められます。駆除に係る市民等の正しい理解と積極的 な協力が必要で、その普及啓発が鍵となります。 長期にわたる対策、また、作業上必要となる特殊設備の整備や処分の受け入れについて、 市が市民の参画と協働の下に、計画的に推進する体制を整えることが求められます。 侵略性の高い外来生物などからの被害抑制のため、現時点においては自治体単位でそれぞ れ個別の対策がとられています。しかし、移動分散による影響が大きいため、確実な撲滅の ためには近隣自治体で協働した取り組みが必要とされます。 アゾラ(アメリカオオアカウキクサ) アカミミガメ トウネズミモチ ハシブトガラス - 27 - ≪昆陽池公園のカワウ≫ カワウは、かつて伊丹では数の少ない水鳥で、全国的に絶滅が危惧された昭和 40 年代には全く見られなく なっていました。しかし、昭和 58 年 11 月に3羽が確認されてからは、冬には決まって昆陽池に数羽が飛来し ていました。平成8年5月に2つがいが野鳥の島で繁殖に成功し、その後は一年を通して観察されています。 早朝に南へ向かう、或いは夕刻に、南から帰ってくるカワウの編隊を見たことはありませんか? 昆陽池のカワウは武庫川・猪名川の河口や大阪湾などで魚を探して食べています。繁殖期に調査のためカワ ウの巣に近づくと、頭上から大きな魚が落ちてきてびっくりします。これは親鳥が雛に与えた魚で、よく見つ かるのはコノシロ、ボラといった河口部に生息する魚です。それ以外にはカレイやカマツカといった砂地に身 を隠す魚、フナやモロコの仲間といった淡水魚やブラックバスが見つかったこともあります。 平成 12 年頃から急増し、一時は 3,000 羽を越えるカワウが野鳥の島に生息していました。カワウが巣作り やねぐらで利用する樹木は、枝を折ったり樹皮をめくったりするため、樹勢が衰え、さらに大量の糞で真っ白 になり、立ち枯れてしまいます。そのため、市では個体数や生態・行動などの実態調査を行なうとともに、擬 卵による繫殖抑制実験や飛来防止用のロープ設置、さらに島内の樹木の間伐を行うなど、営巣数を減らす取り 組みを行ってきました。現在、ほぼ半減していますが、今後もさらなる取り組みが必要と考えています。 一方、平成 20 年からは市民協働によって「県民まちなみ緑化事業制度」を活用し、枯死した樹木を撤去、 土壌改良を行い、クヌギや地域産苗木を補植するなど、地域系統を中心とした樹林再生への取り組みを進めて います。植栽後5年を経て、初めの頃に植栽した苗木はかなり大きく成長していますが、最近、そこにカワウ が営巣を始めるなど、新たな課題が生じています。 カワウ標識調査の様子 雛が吐き出したコノシロ - 28 - 1 - 29 -