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新年のごあいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 家事事件における家庭

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新年のごあいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 家事事件における家庭
平成24年10月25日 調停制度90周年&「法の日」週間記念行事
模擬調停の様子
◆◆◆
目
次
◆◆◆
◇ 新年のごあいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
◇ 家事事件における家庭裁判所調査官の活動について・・・4
◇ 被害者の方の“声”を聴く・・・・・・・・・・・・・・7
◇ ぶらり職場めぐり・・・・・・・・・・・・・・・・・11
◇ 調停制度90周年&「法の日」週間記念行事の報告・・15
◇ 東京家裁年間行事・・・・・・・・・・・・・・・・・20
≪輝く明日を家庭と少年に≫ 東京家庭裁判所
東京家庭裁判所長
西
岡
清一郎
皆さ ん ,あけ ま し て お め で と う ご ざ い ま す 。今 年 の 新 年 の 東 京
は ,晴 れ の 日 の 続 く 穏 や か な 三 が 日 で ,皆 さ ん そ れ ぞ れ に 良 い お
正月を過ごされたことと思います。
新しい年,平成25年(西暦2013年)の年頭に当たり,昨
年 1 年 を 振 り 返 っ て み ま す と ,夏 に は ロ ン ド ン で オ リ ン ピ ッ ク が
開催され,日本は,38個という過去最多のメダルを獲得し,日
本 中 が 歓 声 を 上 げ ま し た し ,1 0 月 に は ,京 都 大 学 の 山 中 伸 弥 教
授が,iPS細胞の研究により,ノーベル生理学・医学賞を受賞
さ れ ま し た 。5 月 に は ,東 北 南 部 か ら 九 州 南 部 の 太 平 洋 側 に か け
て ,金 環 日 食 が 観 察 さ れ ま し た し ,自 立 式 電 波 塔 と し て は 世 界 一
の 高 さ 6 3 4 メ ー ト ル を 誇 る ,東 京 ス カ イ ツ リ ー の 開 業 も あ り ま
した。このような明るい話題が続きましたが,一方では,東日本
大 震 災 か ら 2 年 近 く が 経 と う と し て い る に も か か わ ら ず ,そ の 復
興が未だ大きな国家的課題となっています。また,昨年は,夏が
記 録 的 な 猛 暑 と な っ た の に 対 し ,年 末 に は ,一 転 し て 寒 い 日 が 続
き ま し た 。尖 閣 諸 島 の 問 題 を め ぐ っ て の 日 中 関 係 の 悪 化 や ,年 末
の 総 選 挙 で の 政 権 交 代 に 象 徴 さ れ る よ う に ,変 化 の 激 し い 1 年 で
もあったように思います。
さて,東京家庭裁判所のこの1年はどうだったでしょうか。
家 事 事 件 に つ い て は ,依 然 と し て 審 判・調 停 事 件 と も に 新 受 件
数 は 高 い 水 準 を 維 持 し て お り ,本 庁 の 審 判 事 件 は ,5 万 件 に 届 こ
うとしています。調停事件も,1万件を超え,人事訴訟事件は,
1200件に達しています。審判事件では,後見監督事件は,継
続 的 な 目 配 り が 必 要 で ,依 然 と し て 困 難 が 伴 い ま す し ,調 停 事 件
で は ,面 会 交 流 事 件 を 始 め と す る 子 の 監 護 に 関 す る 事 件 の よ う に ,
特 に 紛 争 性 の 高 い 事 件 の 増 加 傾 向 が 見 ら れ ま す 。ま た ,遺 産 分 割
1
事 件 の 増 加 も 目 立 ち ま す 。こ の よ う な 状 況 の も と で あ る に も か か
わ ら ず ,審 判 事 件 の 未 済 件 数 は 減 少 の 傾 向 に あ り ま す し ,調 停 事
件の成立率も高くなっています。また,人事訴訟事件では,増え
つつあった未済事件が減少に転じるといった成果も得られまし
た。これらは,いずれも,関係する皆さんの努力の賜といえると
思います。
ところで,家事事件については,本年1月1日から,当事者の
便宜や迅速処理に配慮しつつ,透明な手続により充実した調停・
審 判 を 行 う た め の 家 事 事 件 手 続 法 が 施 行 さ れ ま し た 。昨 年 は ,本
庁 及 び 立 川 支 部 が 一 体 と な っ て ,各 種 の 試 行 を 行 う な ど ,こ の 家
事事件手続法の本施行に向けての準備作業に取り組んだ1年だ
ったと思います。お陰で,施行のための準備も整い,いよいよ本
実施に漕ぎ着けることになりました。
既 に ,申 立 書 の 相 手 方 へ の 送 付 を 始 め と す る ,家 事 事 件 手 続 法
のもとでの手続保障に関する規定に基づく運用は始まっていま
すし,調停手続の明確化,透明性の確保,進行に関する情報共有
化 等 の 観 点 か ら ,具 体 的 な 支 障 の あ る 場 合 を 除 き ,調 停 の 各 回 の
期 日 の 開 始 時 及 び 終 了 時 に は ,双 方 の 当 事 者 に 立 ち 会 っ て も ら っ
た う え で の 手 続 説 明 も 実 施 さ れ て い ま す 。こ の よ う な 運 用 に よ れ
ば ,当 事 者 の 家 庭 裁 判 所 へ の 信 頼 を よ り 高 め る こ と が 期 待 で き る
はずです。そして,最終的に目指すべきは,新しい運用を通じて
家 庭 裁 判 所 へ の 信 頼 を さ ら に 高 め ,そ れ に よ っ て ,そ の 事 案 に ふ
さわしい当事者の納得を得られるような紛争解決を図ることだ
と思います。今年は,皆で力を合わせて,家庭裁判所が,これま
で 以 上 に 利 用 者 の た め の 裁 判 所 と 言 え る よ う ,新 法 の 趣 旨 を 実 現
すべく努力していく年としたいと思います。
一 方 ,少 年 事 件 に つ い て は ,事 件 数 自 体 は 減 少 傾 向 が 続 い て い
ま す が ,昨 年 は ,加 害 者 と 被 害 者 の い ず れ も が 外 国 人 と い う 殺 人
や集団による傷害致死など,社会の耳目を引く重大事件のほか,
組 織 的 詐 欺 の 否 認 事 件 な ど ,審 理 の 仕 方 に 工 夫 が 必 要 な 事 件 も 少
な か ら ず あ り ま し た 。平 成 2 0 年 に 始 ま っ た 審 判 傍 聴 制 度 に 関 し
て は ,対 象 事 件 の 数 と 申 立 て の 数 は ,い ず れ も 前 年 ま で と 比 較 し
て 急 増 し て お り ,合 議 体 で 審 理 さ れ た 事 件 の 数 も 大 き く 増 え て い
ま す 。発 達 障 害 や 学 校 不 適 応 等 の 深 刻 な 問 題 を 抱 え て い て ,き め
細 か な 配 慮 を 必 要 と す る 事 案 も 目 立 っ て い ま す し ,少 年 院 送 致 の
2
数 は 減 っ て い ま せ ん 。ま た ,身 柄 事 件 で 弁 護 士 付 添 人 が 選 任 さ れ
る 割 合 は 年 々 増 加 し ,一 昨 年 ,昨 年 と も 8 5 % 近 く に 達 し て い ま
す 。少 年 部 で は ,家 裁 調 査 官 を 中 心 と し て 少 年 に 対 す る 教 育 的 措
置 の 充 実 と い う 課 題 に 取 り 組 ん で お り ,少 年 友 の 会 の 援 助 を 得 る
な ど し て ,高 齢 者 施 設 で の 車 椅 子 清 掃 活 動 や 就 労 支 援 活 動 を 新 た
に 取 り 入 れ ま し た 。そ の 結 果 ,少 年 が 充 実 感 や 達 成 感 を 得 て 自 信
を持つようになったという効果も上がっています。
少 年 事 件 は ,そ の 一 つ 一 つ が ,少 年 の 一 生 に 関 わ る 事 件 で あ り ,
少 年 の 立 ち 直 り に 寄 与 す る こ と の 重 さ は ,計 り 知 れ な い も の が あ
ります。少年事件は,人間の成長の将来予測をするとともに,処
遇面では,家庭・家族関係の維持・調整の場でもあります。この
ように,少年事件は,法律という枠組みがあるとはいえ,人間と
人 間 が 真 摯 に 向 き 合 い ,人 間 の 生 き 方 そ の も の を 考 え る と い う こ
と に お い て は ,ま さ に 家 庭 裁 判 所 の 原 点 と も い う べ き も の で あ る
よ う に 思 い ま す 。今 後 と も ,少 年 法 の 目 指 す 目 的 を 実 現 で き る よ
う,最大限の努力をしていきたいと思います。
こ う し て 新 年 を 迎 え て ,今 一 度 東 京 家 庭 裁 判 所 の 置 か れ て い る
状 況 を 見 つ め 直 し て み ま す と ,私 た ち に 与 え ら れ た 課 題 は ,と て
も大きいと言わざるを得ません。そのようななかで,私たちは,
一 人 一 人 が そ の 役 割 を き ち ん と 果 た さ な け れ ば な り ま せ ん 。そ し
て ,国 民 か ら 信 頼 さ れ る 家 庭 裁 判 所 の 実 現 と い う 共 通 の 目 的 に 向
けて,全力で仕事に臨んでいきたいと思います。
結びに,今年1年,引き続き健康で仕事に臨めますよう,そし
て,今年が,東京家庭裁判所で仕事をする私たちにとって,充実
感と達成感を味わえる良い年となりますよう願って私の挨拶と
いたします。
3
東京家庭裁判所家事部
家 庭 裁 判 所 調 査 官 ( 以 下 ,「 家 裁 調 査 官 」 と い う 。) は , 全 国 の 各 家 庭
裁判所と各高等裁判所に置かれている裁判所職員で,家庭裁判所では,
裁判官の命令に従って,家事事件,離婚訴訟事件(親権者の指定につい
て の 裁 判 に 限 る 。) 及 び 少 年 事 件 の 審 理 等 に 必 要 な 調 査 を 行 っ て い ま す 。
今回は,東京家庭裁判所本庁の家事事件における家裁調査官の活動を
紹介します。
1
多種多様な調査活動
一口に家事事件と言っても,多種多様な事柄を取り扱っています。
東京家庭裁判所本庁には,財産管理関係事件,後見関係事件,遺産分
割関係事件及び人事訴訟事件のそれぞれの審理を担当する部署(いわ
ゆる専門部)と,これら以外の全ての事件の審理を担当する部署(い
わゆる一般部)があり,それぞれの部署に,裁判官,書記官,事務官
が置かれていますが,家裁調査官も,財産管理係を除く全ての部署に
配置されています。一般部の家裁調査官は,主に,夫婦関係調整調停
で親権や面会交流が争点となっている事案,親権や子の監護に関する
調 停 又 は 審 判 事 件 ( 親 権 者 変 更 , 面 会 交 流 , 子 の 引 渡 し 等 ), 未 成 年 者
の福祉に関する審判事件(養子縁組許可,特別養子縁組許可,児童の
施設入所の承認等)などに関与しています。
調査活動の態様も,心理学,社会学,社会福祉学,教育学等のいわ
ゆる行動科学の知見を活用して事実の調査を行うほか,審判又は調停
の期日に立ち会い,必要に応じて意見陳述する,社会福祉関係機関と
の連絡等の調整活動を行う,履行確保を目的とした調査・勧告を行う
など様々なものがあります。
2
親権や面会交流が争点となっている調停事件への関わり
4
親権や面会交流が争点となっている調停事件,すなわち,親権や面
会交流が夫婦の離婚条件として争われている,離婚後に親権をめぐる
紛争が生じている,父母の別居中又は離婚後に面会交流の実施やその
方法等が問題となっている等の調停事件に家裁調査官がどのように関
わっているか,少し詳しく見てみましょう。
(1)
家裁調査官の関与の目的
調停は,調停委員会(通常,裁判官又は調停官一人と男女の調停
委員一人ずつで構成)が当事者の言い分を聴き,助言や解決案の提
示等を行って,当事者の合意形成による問題解決を目指す手続です
が,親権や面会交流が争点となっている事案では,子どもの状況を
的確に把握した上で,その意思や心情を尊重し,子どもの福祉にか
なった解決を図る必要があります。
子 ど も は ,父 母 の 紛 争 に 巻 き 込 ま れ る と ,悲 し み や 不 安 が 高 ま り ,
その結果,身体面の不調を訴えたり,学校生活等に不適応を生じた
りすることもあります。親子関係はぎくしゃくし,子どもにとって
家庭が安心できる場ではなくなってしまいます。このような状態が
長く続くと,子どもが深刻な心の傷を負うことにもなりかねません。
家裁調査官は,裁判官から命令を受けて,子どもの状況や心情な
どを明らかにする調査を行います。父母に子どもの福祉により目を
向けてもらい,子どもにとってより良い問題解決がなされる一助と
なることを目指しています。
(2)
関与の実際
通常は,まず調停期日に立ち会って,調停委員と共に父母から主
張や事情をお聞きし,必要に応じて,調停委員会に対して意見を述
べたり,父母に助言したりして,調停の進行を補佐します。初回の
期日から継続して立ち会うこともあれば,調停委員会の判断により,
途中の期日から立ち会うこともあります。調停委員会に対しては,
次回の調停までの間に家裁調査官が調査を行う必要があるか否か,
調査を行う場合の調査対象や調査方法等についての意見も具申しま
す。
調停期日間に調査を行うことになったときには,当事者の御都合
等にも十分に配慮した上で,調査のスケジュールを組みます。調査
方法には,父母との面接,子どもとの面接,家庭訪問,学校等への
訪問,親子の交流場面への立会いなど様々なものがあり,それぞれ
の事案に応じた方法を選択して調査を実施します。
5
父母からは,子どもについて,これまでの生活歴,現在の家庭等
での生活の様子,健康状態,発達・発育の状況などを詳しくお聞き
し,また,これまでの監護養育や親子の交流の状況,今後の子ども
との関わり方についての考えなどをお聞きします。
子どもと面接するときには,その時間,場所,進め方をどうする
か ,事 前 に 十 分 検 討 し ま す 。一 般 的 に は ,子 ど も の 年 齢 が 低 け れ ば ,
家庭訪問して,一緒に遊んだりもしながら,その表情,仕草,態度
にも注目して面接することが多く,子どもの年齢が高ければ,裁判
所において意向等を直接的に聴くことが多くなりますが,子どもの
年齢以外の様々な要素も考慮しながら,事案に応じた最も適切な方
法 を 選 択 し ま す 。い ず れ の 場 合 で も ,で き る だ け 子 ど も が 緊 張 せ ず ,
素直に意思や感情を出せるよう,面接の仕方を工夫しています。子
どもが幼かったり,父母に対する気遣いからその気持ちを言葉でう
まく表せなかったりするときに,子ども向けの心理テストなどを用
いて,子どもの心の状態を把握することもあります。また,調査の
目的などを子どもに分かりやすく伝えるよう心掛けています。
親子関係を詳しく把握するために,裁判所の児童室を利用するな
どして,親子が交流する場面に立ち会うこともあります。交流を行
った結果,父母が子どもの気持ちに気付いたり,それまでなかなか
実施できなかった面会交流が実現でき,その後の継続的な面会交流
の実施につながったりするケースもあります。
家裁調査官は,これらの調査を行った後,裁判官に対し調査結果
を報告します。調査で明らかになった事実を基に,行動科学の知見
からの検討を加え,望ましい解決方法について考察し,意見を提出
します。父母にもその内容を説明するなどして,調停での話合いが
円滑に進むよう努めています。
3
家事事件手続法と家裁調査官
平 成 2 5 年 1 月 ,家 事 事 件 手 続 法 が 施 行 さ れ ま し た 。こ の 法 律 で は ,
未成年者である子どもがその結果により影響を受ける家事事件におい
て,家庭裁判所は調停及び審判をするに当たり,子どもの意思を把握
するように努め,年齢や発達の程度に応じてその意思を考慮しなけれ
ばならないことが定められました。
家庭裁判所が子どもの意思を把握する上で,家裁調査官が担う役割
は今後ますます重要になっていくものと考えられます。
6
東京家庭裁判所主任家庭裁判所調査官
仁
瓶
正
人
被害者の方からのアクション
非行少年の処分決定などを行う少年審判手続において,被害者の方の
“声”がそれまで以上に届くようになったのは,平成12年の少年法改
正により,申出による意見陳述という被害者配慮の制度が整ったことが
一つのきっかけでした。
これには,①少年審判の場で裁判官に対して行う,②少年審判以外の
場 で 裁 判 官 に 対 し て 行 う , ③ 少 年 審 判 以 外 の 場 で 家 裁 調 査 官 1に 対 し て 行
うという三つの方法があります。
そのほかに,被害者の方が事件に関する記録を読んだり,コピーをと
ったり,処分の結果の通知を請求したりすることができる制度も整いま
した。
これらは,被害者の方からアクションを起こす必要があるものです。
家裁からのアクション
他方,家裁からも被害者の方の“声”を聴いて少年審判手続をするこ
とが望ましいといった動きが活発になってきました。すなわち,家裁か
らアクションを起こすというものです。
それが,家裁調査官による被害者調査であり,以下では,これを中心
にとりあげます。
被害者の方の“声”を聴く調査(被害者書面照会)
家裁調査官は,まず,捜査機関から送られてきた事件の記録を受け取
1
家裁調査官は,非行少年の性格,日頃の行動,生育歴,環境などについて,心理学,教育学,社会学などのいわゆる
人間関係諸科学の知識や技法と法律知識を活用して,非行の原因などの調査を職務としています。
7
ります。その記録の中には,被害届,被害者の方の供述調書,被害現場
状況を詳しく調べた写真を含んだ資料などがあります。家裁調査官は,
その場にいることを想像したり,被害者の身になったりしながらそれら
をよく読み,被害の実情に迫ろうとします。
しかし,家裁調査官が事件記録を受け取った時点は,犯罪が発生し,
被害者の方の供述調書が作成されてからある程度の期間が経っています。
すると,二次的な被害も含めた広い意味での被害の実情が変化してい
ることもあり得るわけです。それを確かめることをしないままで,記録
の中にある資料をいくら読んでも,“今の”被害の実情を知ることはで
きません。
そこで,被害者の方に対して書面をお送りし,それに回答していただ
く方法により被害の実情,被害者の方の心情(その変化も含めて),加
害者である非行少年及びその保護者の被害者の方への対応(謝罪及び弁
償を含めて),家裁への意見などを確認することがあります。
診 断 書 に は「 全 治 1 か 月 」と 書 か れ て い て も「 4 か 月 経 っ て も ,ま だ ,
治療中である。」とか,非行少年が謝罪に行ったとしても「1回だけ謝
罪に来たが,薄汚れた作業着のまま,めんどくさそうな態度だった。」
などと回答されることもあります。
このような例に接するにつれて,“声”を聴かない調査の反省点がよ
り一層浮かび上がりました。
被害者の方の“声”を聴く調査(被害者面接調査)
書面照会の回答を待って,被害者の方の意向に沿って面接するという
二段構えで調査する例があります。これは,面接調査を突然お願いする
ことで二次的被害を与えることを防ぐことを意図してのものです。
被害者の方と面接調査をしてみると,書面照会では知り得ない事柄が
たくさんあることに気付きます。
例 え ば ,被 害 者 の 方 は ,被 害 を 受 け た こ と に よ っ て 日 常 生 活 に 生 じ た ,
他者からは気付かない程度の何気ない気持ちの変化に心を痛めている,
その周囲の方々にも様々な影響や苦しみを与えているなどです。
被害者の方とやりとりをしながら,その“声”に丹念に耳を傾けるこ
とで,文章にできない微妙なニュアンスも伝わってきます。
面 接 調 査 を す る こ と で ,害 を 被 る と い う こ と の 多 様 さ ,幅 の 広 さ 等 が ,
想像をはるかに超えていることを実感するとともに,被害の実情をより
現実味をもって理解することができます。
8
また,被害者の方とお会いすることで,時間によって様々に変化し,
揺れ動く被害者の方の心情などを,知識としてではなく,実感として体
験できます。
これらを踏まえて被害者の方の状態に配慮しながら,今後の少年審判
手続の流れ,被害者配慮制度等を丁寧に説明し,理解を深めてもらうこ
とも可能となります。
被害者の方の中には,家裁に足を運び,家裁調査官に苦しい胸の内か
らの“声”を届け,それを受け止めてもらい,少年審判手続の流れを知
るなどの体験を経て,事件の当事者の一人として少年審判手続に関わる
ことができたという実感が得られ,幾らかは気持ちが楽になるとおっし
ゃる方もいます。
家裁としては,二次被害を与えないよう極力努力しているところです
ので,このような被害者の方の“声”を耳にするとホッとします。
被害者の方の“声”を生かす調査
その後,非行少年及びその保護者と面接調査を行います。
犯行時の状況について,非行少年の一方的な言い分ではなく,被害者
の方の“声”も取り入れた,より多角的な調査ができ,犯行の実態に迫
ることができます。
家裁調査官が被害者の方の“声”を代弁することで,非行少年及びそ
の保護者に対して被害の実態に向き合わせることもできます。
例えば,非行少年らが,被害の実情をより軽くとらえているようなと
きには,厳しく指導するとともに,様々な工夫をしながら被害者への思
いを深めさせるよう働きかけます。被害弁償や謝罪などを行っていない
のであれば,それについて指導します。
これら家裁調査官からの働きかけに対する非行少年らの反応も,処分
を考える上で参考にしています。
被害者の方の“声”を審判に届ける
家裁調査官は,被害者の方の“声”に加えて最終的な処分(今後必要
な指導内容を含めて)についての意見を盛り込んだ報告書(少年調査票)
を裁判官に提出します。
裁判官は,その被害者の“声”も参考に審判を進めます。次のような
例がありました。
「キミは少年鑑別所に入れられて不自由を味わい,つらいと感じてい
9
るかもしれない。しかし,キミはこの先もずっと健康でいられ,普通の
生活を送ることもできる。しかし,被害者の方はそのような未来をキミ
によって奪われた。」
裁判官が非行少年を厳しく訓戒しました。審判という場の厳粛さも作
用し,非行少年の中に初めて強い後悔の念が生まれました。
被害者の方の“声”は,社会の“声”でもあります。非行少年が社会
に帰るためには,その“声”に耳を傾け,その中で生きていくための力
を身に付けることが必要だと考えます。
このような考えのもと,家裁では,被害者の方に更なる被害を与えな
いよう最大限の配慮をするとともに,被害者の方が少しでも前向きな気
持ちになることを願いながら,被害者の方の“声”に引き続き耳を傾け
たいと思います。
10
「職員が働きやすい職場に−人事課−」
東京家庭裁判所事務局人事課任用係長
松
山
ゆかり
※ある日,都内の男子中学生が,裁判所の仕事を知りたくて,人事課を
訪れました。
○
おおっ,東京家庭裁判所の最上階に着
い た ぞ 。人 事 課 ,人 事 課 … こ こ か 。少 し
日 当 た り が 悪 い 部 屋 な ん だ な あ 。す い ま
せ ん ~ , ● ▲ 中 学 の 者 で す が ,裁 判 所 の
お仕事について教えてもらえません
か。
こんにちは。人事課にようこそ。今日は私が
人事課をご紹介しますね。
○
今 日 は よ ろ し く お 願 い し ま す 。裁 判 所 っ て ,
みんなが裁判手続をやっているようなイメー
ジがあ っ たんですけど,人事課みたいな部署
もあるんですね。
そうなんです。裁判所の組織の中には,裁
判 を 行 う「 事 件 部 」と 呼 ば れ る 部 署 の ほ か に ,
司法行政を行う「事務局」と呼ばれる部署があるんですよ。
東京家裁の「事件部」としては,家庭裁判所で取り扱う家事事件と
少年事件をそれぞれ担当する,家事部と少年部が置かれていて,裁判
官のほか,裁判所書記官・家庭裁判所調査官・裁判所事務官といった
人 た ち が 裁 判 を 支 え て い ま す 。 一 方 ,「 事 務 局 」 と し て は , 総 務 課 , 人
11
事課,経理課,出納課があり,裁判所事務官などの職員が職員の配置
や物品の整備などを通して裁判手続が円滑に進むように,様々な角度
から事件部を支援しています。
「事件部」と「事務局」とが一体となって,国民の皆さんによりよ
い司法サービスを提供できるよう努めているんですよ。
○
ふ~ん,なるほど。事件部と事務局か。それで事務局人事課は具体
的にどんな仕事をしているんですか?なんとなく「人事」って個人情
報を握っている秘密組織的なイメージですけど…
いろいろな人事に関する情報を取り扱っているのは確かですが,秘
密 組 織 的 な 雰 囲 気 は な い で す よ ( 苦 笑 )。 思 い の ほ か 和 気 あ い あ い と し
ているでしょう?
人事課の仕事ですが,まず人事課には,給与係・能率係・管理係・
任用係の4つの係があります。係の名前で,何をしているかイメージ
できるものもあるかな。
○
う~んと,給与係って,お給料を払う関係の仕事ですか。
そう,給与係では,職員への給与や各種の諸手当などの支払いに関
する事務を行っています。東京家裁は支部も含めると500名近い職
員が働いていますが,これらの職員一人一人の生活の基盤を支える大
切な仕事です。
○
そんなに職員がいるんですね。なんだか,計算とか大変そう。
そうですね。職員の給与は,法律に基づいて,給与や諸手当の計算
を毎月正確に行っているのだけど,国会によって,社会経済情勢に適
応するように随時変更されたり,昨今,情勢の変動がめまぐるしいの
で,そういった変化に逐次対応して手続を行う必要があるんです。
○
じゃあ能率係や管理係って,名前からはどんな仕事をしているかわ
からないんですけど,何をしているんですか?
能率係では,健康診断を実施するなどして,職員の健康管理を行っ
ています。また,実務能力や専門性の向上などを目的とした研修の企
画・実施事務も行っていて,組織としてよりパフォーマンスをアップ
させるための人材育成の面からも裁判所を支えています。仕事の能率
の維持,向上のための仕事をしている係といえます。
12
それから管理係では,職員の勤務時間や休暇の管理などを扱ってい
ます。裁判所では,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)
の観点から,子育てをする職員を含めた全ての職員が,仕事のやり方
を見直して,健康で豊かな生活のために時間を確保し,多様な働き方
や生き方が選択できる働きやすい職場にしていくため,様々な休暇や
勤務時間に関する制度が設けられています。男女を問わず,これらの
制度を積極的に活用できるように配慮しています。
○
任用係は,職員を任用するお仕事ですか?
私が担当している任用係の仕事は,主に裁判所職員の人材を確保す
るために,職員の採用手続に関する事務を取り扱っています。
具体的には,東京家裁では,家庭裁判所特
有の職種である家庭裁判所調査官の採用試験
を実施していますし,また,毎年冬頃に,家
庭裁判所調査官を目指す学生などを対象にし
た「家庭裁判所調査官ガイダンス」を実施す
るなどして,その業務内容や職業としての魅
力を伝える広報活動も行っています。
「家庭裁
判所調査官」という職種は聞いたことがある
かな?
○
…聞いたことがありません。どんな仕事をするのですか?
家庭裁判所では,家庭内の紛争や非行を犯した少年の事件を専門的
に取り扱うのですが,これらの事件は,背後にある複雑な人間関係や
生活環境などを十分踏まえた上での解決が求められます。家庭裁判所
調査官は,心理学や社会学,教育学など人間関係諸科学の専門家とし
て,家庭内の紛争の当事者やその子ども,非行を犯した少年や保護者
と面接をするなどして,紛争の解決や少年の立ち直りに向けた方策を
検討するという重要な役割を果たしています。
社会経済情勢の変化に伴って,家庭裁判所で取り扱う事件も近年は
より複雑で困難なものとなっていますので,そのような中で家庭裁判
所調査官のもつ高度な専門性はますます重要であるといえます。より
多くの優秀な人材を確保するため,家庭裁判所調査官についての広報
活動に力を入れています。
13
○
裁判所に心理学とかの専門家の職種の方がいるなんて,知りません
でした!
興味を持ってくれたら嬉しいです。裁判所のウェブサイトにも,採
用案内のところで紹介しているので,見てみてくださいね。
○
人事課のことが少しわかりました。大変なお仕事なんですね。
裁判所に限らないと思いますが,組織はやはり人で成り立っている
と思います。人的整備の面から裁判所を支える人事課は,とても重要
な役割を担っていると感じていますし,目の前の事務を処理するだけ
ではなく,そういった組織の未来を見据えて仕事に取り組むよう心が
けています。働きやすい職場で職員が生き生きと仕事をし,国民のみ
なさんにより良い司法サービスが提供できればいいなと思います。
○
どんな雰囲気の職場ですか?
私は平成24年4月から人事課に配属になったのですが,私を含め
人事課12名のスタッフ一人一人の意見を大切にしてくれる風通しの
よい職場だと思います。係を越えて共有すべき情報も多いため,課全
体の連携を上手にとっていますし,時には仕事の後にみんなで美味し
いものを食べに行って大笑いするなど,とてもチーム力が高く,メリ
ハリが利いた仕事の仕方を
する職場ですね。
○
人 事 課 っ て ,職 員 が 働 き や
す く な る よ う に ,み ん な が ま
とまって仕事をしているん
だ な ,と 感 じ ま し た 。今 日 は ,
ぶらり職場めぐりをさせていただいて,ありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。裁判所にはほかにも様々な部署
がありますから,これからもこのコーナーを読んでくださいね。
※架空の設定であり,実際に職場見学は行っていませんので,ご了承ください。
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東京家庭裁判所事務局総務課
今年は,日本の調停制度が発足して90周年の節目の
年に当たるため,毎年開催されている「法の日」週間を
記念する行事と併せて,
「もっと知りたい家事調停」と題
し,遺産分割事件の模擬調停や調停に関する三択クイズ,
調停委員の方々へのインタビューを行いました。
厳しい夏の暑さは影を潜め,心地よい初秋の候,多く
の皆様にご参加いただきました。
まず始めに西岡所長から,90周年を迎えた調停制
度の歴史や特徴をご紹介した上で,今回のイベントを
通して,家庭裁判所が身近な問題を取り扱う国民の皆
様に近い裁判所であるということを感じていただきた
いとの挨拶がありました。
『模擬調停』
今回のメインイベントである遺産分割事件を題材とした模擬調停は,ある一家の
父が亡くなり,その遺産を家族で分けることとなりましたが,母と同居する長男が
遺産を分割する話合いに応じず,心配になった長女が調停を申し立てるという場面
から始まりました。
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当初は,法律で決められた持分どおり
に遺産を分けて欲しいと主張する長女に
対し,長男は身体の弱ってきた母の面倒
を見ているため,法律で決められたとお
り単純には割り切れないと思い,長女の
要求には応じられないとして,遺産の分
け方を巡り主張が対立していました。ま
た,調停の場には長男と長女しか現れず,母は,子どもたちがいがみ合っているこ
とに心を痛め,裁判所に足を向ける気持ちになれない状態でした。
その後,調停を重ねても話合いが平行線をたどっていましたが,家庭裁判所調査
官が自宅を訪ねて,母の意向を聴取したことがきっかけで,長男と長女は,母の本
心を知ることとなり,最終的にはお互い譲歩し合って,母,長男,長女それぞれが
納得のいく解決を迎えることができたというところで模擬調停は幕を下ろしました。
キャストは職員が演じさせていただきましたが,遺産分割というやや難しいテー
マであったため,なるべく専門用語を使用せず,台詞をゆっくりと話したり,遺産
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の分割方法といった分かりづらい部分については,スクリーンに図を表示したりす
るなど,いろいろと工夫をさせていただきました。
キャストの熱の入った演技に引き込まれ,参加者の中には熱心にメモを取られる
方も多く,イベント終了後のアンケートでは,「分かりやすかった。」,「実際の調停
を実感することができた。」との感想をいただきました。
『三択クイズ』
模擬調停後,家事調停制度をより知っていただくために,家事調停にまつわる三
択クイズを実施しました。
三択クイズでは,調停制度の歴史や,調停を申し立てる際にかかる費用,東京家
庭裁判所管内で申し立てられた調停の総数など様々な内容が出題され,家事調停が
どのようなものかをご理解いただけたのではないかと思います。
明るく会場に語りかける司会進行に,参加者の方々も和やかな雰囲気となり,積
極的にご回答いただきました。
三択クイズ終了後,全問正解者には会場から温かい拍手が送られました。
『調停委員へのインタビュー』
実際に調停に携わっているお二人の調停委員をゲストにお招きし,調停でのエピ
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ソードや調停への心構えなどについて,職員よりインタビュー形式でお話を伺いま
した。
ゲストの調停委員からは,実際の経験に裏付けされた,一言一言に重みのあるお
話をいただきました。
特に,家族の紛争の裏で傷つく子どもたちのエピソードでは,参加者の中には涙
ぐむ方もおられ,心に響く印象深い催しとなりました。
今回のイベントを通して,ご来場いただいた方々に,家族間の紛争を解決する有
効な手段の一つとして,家事調停を認識していただくことができたなら幸いです。
多くの方にご参加いただき,誠にありがとうございました。
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『参加者の声』
参加者の方にご協力いただいたアンケート結果は,以下のとおりです。
1
参加者
2
参加申込
3
行事の感想
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5月3日は憲法記念日です。裁判所では,5月1日からの1週間を「憲法週間」と
定め,国民の皆さんに憲法の精神や裁判所の役割を理解していただくために様々な催
しを行っていて,当庁でも毎年この時期に説明会等を実施しています。
10月1日は「法の日」です。裁判所では,10月1日からの1週間を「法の日」
週間と定め,国民の皆さんに法の役割や重要性について考えていただくきっかけとな
るよう様々な催しを行っていて,当庁でも毎年この時期に説明会等を実施していま
す。
家庭裁判所調査官を目指す方に,裁判所の組織,家庭裁判所調査官業務,家庭裁判
所調査官補採用試験等についての説明を行うとともに,職場見学や現役家庭裁判所調
査官との交流会を実施しています。
本号に対するご意見はこちらまで
東京家庭裁判所事務局総務課
電話 03-3502-7024(直通)
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