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全文 - 産学官の道しるべ

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全文 - 産学官の道しるべ
Vol. 6 No. 5 2010
2010年5月号
Journal of Industry-Academia-Government Collaboration
http://sangakukan.jp/journal/
■ インタビュー 金沢工業大学大学院 教授 丸島儀一氏
イノベーション 3 つの死角
特集
高専 新時代
● 発見!国立高専の産学連携・地域連携活動の新展開
●企業の技術ニーズに応える KNTnet
石川工業高等専門学校 福島工業高等専門学校
鹿児島工業高等専門学校 仙台高等専門学校
熱伝導の新測定法が国際標準
本物の里山をどう生かす
−里山を活用した低炭素環境コミュニティーのモデルづくり
CONTENTS
湯崎 英彦
................ 3
丸島 儀一
................ 4
森川 淳子・橋本 壽正
................ 11
五十嵐 一男
.................. 14
近藤 孝
.................. 18
割澤 泰・越野 亮
.................. 20
大槻 正伸
.................. 22
山内 正仁
.................. 24
羽賀 浩一
.................. 26
中川 重年
.................. 28
立本 博文
.................. 31
宇野 文夫
.................. 34
崔 銀順
.................. 36
全国銀行協会 金融調査部
.................. 38
.................. 41
●巻頭言 地域の力を結集して新たな経済成長へ
●インタビュー
イノベーション 3 つの死角
●熱伝導の新測定法が国際標準
産学で開発した市販装置が普及を後押し
●特集
高専 新時代
●発見!
国立高専の産学連携・地域連携活動の新展開
●企業の技術ニーズに応える KNTnet
全国から 51 高専、長岡・豊橋技科大を結ぶ
●石川工業高等専門学校
地元企業と研究会、共同研究で産業活性化
●福島工業高等専門学校
中学生対象のプログラミングコンテスト
●鹿児島工業高等専門学校
焼酎粕利用で地元企業と新産業創出目指す
●仙台高等専門学校
立体配置 LED 光源を用いた農産物の育成と産学官連携
●本物の里山をどう生かす
−里山を活用した低炭素環境コミュニティーのモデルづくり
●
「大規模イノベーション」成功のカギ
インプット・アウトプット政策をトータルに考える
●能登半島で展開する里山里海をテーマにした
人づくりと地域連携
●韓国企業家精神の神髄とは?
−両班精神とアントレプレナーシップ−
●連載 ニュービジネス創出・育成に向けた銀行界の役割
第 2 回 銀行の産学官連携への取り組み状況(その 1)
●産学官エッセイ 地域の物語をつくり出す連帯感
昭和村の冬の花火にみる地域産業創出のヒント
●編集後記.................................................................................................................................................................. 43
http://sangakukan.jp/journal/
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
●産学官連携ジャーナル
湯崎 英彦
(ゆざき・ひでひこ)
広島県知事
◆地域の力を結集して新たな経済成長へ
広島県には、競争力ある産業と大小さまざまな企業の集積、蓄積された技術、
優れた人材、世界的にも恵まれた自然環境、世界遺産など、先人たちが挑戦し築
き上げてきた、世界に誇れる「力」や「宝」がたくさんあります。
こうした広島県の持つ底力を最大限に引き出し、あらゆる分野で新たな活力を
生み出していくため、私は、昨年 11 月の就任以来、
「人づくり」
「新たな経済成長」
「安心な暮らしづくり」
「豊かな地域づくりと真の地域主権の確立」
「行政運営刷新」
という 5 つの挑戦を行っているところです。その 1 つである「新たな経済成長」を
果たすためには、地域の産学官連携体制が重要と考えております。
本県の基幹産業である自動車産業界においては、環境、安全、情報化などの分
野で、構成部品のエレクトロニクス化が急速に進んでおり、これまで金属加工や
樹脂成形等が中心であった本県の部品サプライヤーにとって、カーエレクトロニ
クス化への対応が喫緊の課題となっていることから、平成 20 年 7 月、財団法人
ひろしま産業振興機構に「カーエレクトロニクス推進センター」を設置し、産学
官連携による研究開発支援と人材育成に取り組んでおります。
本年度は、これまでの研究開発の成果を組み込みながら、県内外の電気・電子
機器メーカーや大学の協力を得て、プラグインハイブリッド自動車の試作車の開
発と検証にも取り組むこととしております。また、シミュレーション技術を活用
したソフトウエア開発手法であるモデルベース開発の人材養成研修を実施し、各
企業の現場で製品開発を担当する中核技術者の養成を行っているところです。
また、自動車関連産業を含む 6 分野(ロボットテクノロジー関連産業、航空機
関連産業、機能性食品産業、LED 関連産業、医療・福祉機器関連産業)において、
中国地域の各県が連携して取り組む人材育成に関するプロジェクトを開始し、こ
れら産業のさらなる集積促進と活性化を目指すこととしております。
さらに、10 年先を見据えた本県産業が今後進むべき方向性などをまとめた新
たな産業振興ビジョンを策定するほか、新産業の創設や企業の事業転換などを、
資金、技術・人材、あるいはマーケティング等、さまざまな面から支援する「広
島版産業革新機構」の早期設立に向けて準備作業に着手しております。
不透明な時代にあって、今後とも地域が発展していくためには、地域の力を結
集していくことが不可欠であることから、今後とも、世界に通用するものづくり
産業拠点の形成を目指して、産学官連携の深化を図ってまいりたいと考えており
ます。
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
イノベーション 3 つの死角
丸島 儀一
(まるしま・ぎいち)
金沢工業大学大学院 知的創造システム専攻 教授
社団法人 日本国際知的財産保護
協会 副会長
聞き手・本文構成:
登坂 和洋
(本誌編集長)
キヤノン株式会社で役員、社内弁理士として知的財産、製品法務、研究開発、新規事業、
国際標準等を担当した企業の知財戦略、知財経営の実践経験者、丸島儀一金沢工業大学
大学院教授は、国際的な産学官連携プロジェクトを進めるための法的環境について 3 つ
の課題を指摘する。職務発明、ライセンシー(実施権者)の立場、技術流出だ。こうし
たソフト面の対策を強化し、環境を整備することが日本の産業の競争力を強くする。
−−−−オープンイノベーションが叫ばれています。大企業でも中央研究所の
時代の終焉(しゅうえん)が指摘されて久しいですね。オープンイノベー
ションといっても、具体的な企業活動もさまざまですが、きょうは、産業
界が抱える課題を知的財産をテーマに整理していただきたいと思います。
丸島 日本に適したオープンイノベーションは何かとよく言われます。欧
米では目的が達成できれば、かなりドライなビジネスをします。その点、
日本ではお互いの信頼というものを前提に考えるのではないか、そこが根
本的な違いではないかと私は思います。開発効率を高めるためにも「出口
を見据えた」オープンイノベーションが必要だと言われています。基本的
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
な考えは協調領域の成果を促進し、その成果を競争領域で活用して国際競
争力を高めることにあるようです。この場合重要なのは、協調領域のイノ
ベーションに参画した協調領域を主事業とする企業も、競争領域の企業と
同様に事業競争力が得られる仕組みづくりです。もし競争領域の事業のた
めに協調領域のイノベーションを進めることになるのであれば、協調領域
のイノベーションに参画する企業にとっては魅力がなくイノベーション自
身も活性化しないと思います。
◆競争力が成り立つ仕組みが必要
−−−−その「協調領域」というのはどういうことですか。
丸島 例えば電気自動車に関する産学官の共同研究開発プロジェクトを組
み、バッテリーの性能を所定値まで高めるのが目的だとします。幾つかの
企業や大学や独立行政法人の研究所の方々が参加し、性能のいいバッテ
リーの開発を目指したとします。その場合、そのバッテリーが協調領域に
なります。バッテリーに関する成果は競争領域の自動車産業の国際競争力
を高めるだけでなく、協調領域に参加したバッテリーおよびバッテリーの
構成要素を主事業とする企業が、その成果を活用してその主事業の中で事
業競争力が成り立つような仕組みが必要になるはずです。事業に関与しな
い人に対しては適正な対価で対応できたとしても事業を志す人には対価の
支払いで済むものではないと思います。
−−−−そうでないとすると、プロジェクトには一応お付き合いはするが、事
業の核心にかかわる開発は結局、自前でやるということになりませんか。
丸島 「嫌だったら入らなければいいじゃないか」という考えもあるのです
が、気になるのは標準化の問題です。中国が WTO(世界貿易機関)に加入
したことによって、国際標準が非常に大事になってきました。中国は国家
戦略で国際標準化に動いているわけですね。欧米とともに中国やインドは
大きなマーケットです。協調領域の成果を国際標準にしますということに
なると参加せざるを得なくなる。特に WTO/TBT 協定(国際標準優先の考
え)を考えると国際競争力を得るためには戦略的な標準化活動が必要にな
るからです。
−−−−そうすると、そういうプロジェクトには入っておいた方がいい、いや、
かかわらざるを得ない。
丸島 そういうことです。でも、標準化を考えるとき、日本は事業戦略的
視点と仲間づくりを上手にしたいですね。
◆外国の特許承継の問題も
−−−−外からは見えにくいのですが、いろいろ課題があるわけですね。
丸島 オープンイノベーションの 1 つと言っていいと思いますが、国際的
な産学官連携プロジェクトを進めるための法的環境に、私は大きく 3 つの
課題があると思います。1 つは職務発明です。職務発明は対価に関してい
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
ろいろ訴訟が起きていますが、これとは別にも、外国の特
許の承継の問題があります。日立製作所のケースは最高裁
の判決が出て、日立さんのアメリカの特許は同社の承継と
いうことになりました。記憶ですとその理由は日立さんが
日本の企業だということ、日本人の従業員が日本で発明し
たこと、契約が存在したことで日本法が適用され日立さん
の承継が認められた。日本で発明した特許は職務発明で、
特許法 35 条に該当する。アメリカに出願したアメリカの特
許は、日本のその 35 条では対応できないというのです。で
も、対価は、職務発明に準じて払えというのが最高裁の判
決の概要です。
これは地方裁判所の判決に似ています。高等裁判所の判
決は、いや 35 条に該当する職務発明だと言ってくれたので
す。私は、その方が権利の承継が安定すると思ったのです。
ところが、最高裁でまたひっくり返った。35 条には職務発
明以外は予約承継したら無効とも書いてあるのです。職務
発明でないとすると予約承継ができない、つまり発明が生
まれてから承継の契約をしなければならないということで
す。
ある前提で、日本で生まれた職務発明についての米国特許の承継と対価
の問題が最高裁で判断されたわけですが、同じ前提で、外国で発明した場
合、前提が異なる場合等についての発明の承継と対価はどう解釈したらよ
いか明らかではありません。
国際的なプロジェクトでは、日本企業の研究開発者が参加国のどこの国
で発明したとしても参加会社間であらかじめ開発成果(発明とその対応特
許を含む)の取り扱い方法や帰属を決めておくはずです。しかし「事前の取
り決めはできません。発明が生まれて承継してから契約してください」と
言わなければならないとしたら、相手企業はどうしますか。
◆特許庁長官の諮問委員会が報告書
−−−−欧米では契約できるわけですね。日本では後で、自分が承継できない
となったら、予想外の対価を請求されたら大変なことですね。
丸島 そうです。それが第 1 点です。2 つ目の問題点はライセンシー(実施
権者)の立場が弱いこと。その保護が課題です。これは私が 2000 年ごろか
ら主張してきた問題です。今度、特許庁長官の諮問委員会が報告書を出し
て、やっとライセンシーの当然保護の方向性が出ました。日本では民法の
物件が債権に勝る、その一言でライセンサー(特許権者)が強くてライセン
シーの立場が非常に弱いのです。
私は 1970 年代後半から 80 年代に、アメリカのベンチャー企業との契約
は非常に問題があるとして、米国弁護士から実施したら実施料を支払うと
いうような「未履行契約は絶対やめろ」とサゼスチョンを受けました。アメ
リカのベンチャー企業が破たんしたりすると、その管財人がライセンス契
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
約をキャンセルすると言うのです。そうしたら、アメリカは、早速法律を
変えて、ベンチャー企業などが倒産しても、契約で約束した範囲内におい
て相手(ライセンシー)の権利をちゃんと保護してくれるようになったので
す。実にスピーディーでした。前のままでは、契約をキャンセルされると
いうリスクがあったので、大企業は怖くてベンチャー企業の特許を活用で
きません。契約するにしても払い切り契約で安い金額しか出せないことに
なります。これは双方にとって大きな損失です。ドイツもライセンシーの
権利が守られています。
日本は、ライセンサーが破産したり、契約に反して権利をほかに売って
しまっても、登録していないと第三者対抗要件がないとして誠実に契約を
履行しているライセンシーの権利が守れないのです。かつて破産法では、
登録しても第三者対抗要件がなかったのですね。数年前に破産法が改正さ
れて、登録すれば第三者対抗要件があるとなったのですが…。
−−−−ライセンス、通常実施権の登録ですか。
丸島 そうです。ところが、特許番号がないと登録できない仕組みです。
それで私が困ったのは、われわれの業界の主要な契約は、包括の契約であ
ることです。1 つの契約で何件特許が包含されるか、むしろ分からないぐ
らいです。
例えば「カメラ」というように、許諾する製品は特定しますけれども、
「カ
メラに使える特許はライセンスします」といった調子で書いてあるのです。
カメラに使える特許は何件あるか分からないから、列挙できません。数が
多いのと、使える、使えないを判断する手間が大変なためです。肝心なこ
とは特許を特定する必要性がないからです。そういうこともあって、契約
書の中に特許番号を書いていないのです。右代表で 1 件ぐらい書いてある
のはありますけれども。
このような包括契約は欧米では当たり前の契約です。これがドイツもア
メリカも当然保護されています。登録しなくてもですよ。フランスやイギ
リスも、ライセンシーがいると分かれば、その権利は保護される。日本で
は違反して売られた後、新しく権利を買った人から権利行使される。この
制度が日本には堂々と残っているわけです。
−−−−欧米の場合には、特許番号がなくても、契約していることが分かれば、
ほかに対抗できるわけですね。日本ではできないのですか。
丸島 できません。日本の場合は、対抗要件をつけるためには、登録と開
示が必要です。しかし、開示されると企業の戦略が分かってしまいます。
だから、登録したがらない。
−−−−ライセンシーの権利が守られていないことが、日本の産業の競争力に
どう影響しますか。
丸島 「知的財産を活用しなさい」と盛んに言っていますね。活用の取り決
めはライセンス契約ですよ。その契約が保護されないと言ったら不安で、
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
ライセンスは受けられないじゃないですか。
私の経験を話しましょう。日本の企業とクロスライセンスをしました。
クロスですからライセンサーでもあり、ライセンシーでもあるわけですね。
相手のどの特許を使っているという意識は持っていないのですね、使える
ものだったら全部使った方が効率がいいですから。その状態で相手の会社
が破産してしまったのです。私は「契約をキャンセルされたらどうしよう。
新しい権利者から攻撃を受けたら困るな」と思っていました。
−−−−そうなったのですか。
丸島 いや、結果的には大丈夫だったのです。契約提携先の倒産後、弁護
士に相談したら、
「今の破産法だったらどうにもならないから、管財人と交
渉したって駄目だ」と言われました。たまたま、その会社を引き継ぐ企業
が現れ、そこと交渉して「前の契約どおりのライセンス契約を継続しましょ
う」と言っていただいたので、何も起きないで済みました。
−−−−倒産でない場合でも、産業界では、例えば大きな企業の 1 事業部門を
他社に譲渡したりします。そうすると、関連特許も譲渡先に移る。同じよ
うなことが起こり得ますね。
丸島 そういうことです。昔は、そういうことはあまりなかったけれども、
今は事業再編、M&A を積極的に進めています。
−−−−そこのところの対策というか、法的な対応を急いでやらないと。
丸島 はい。それで長い間委員会で検討した結果、2007 年、経済産業省
に番号が入っていない契約の登録制度を産業活力再生特別措置法の一部を
改正してつくっていただきました。ところが、これがライセンサーの同意
がないと登録できないのです。ライセンシー保護のための制度ですから、
ライセンサーのメリットは何もないのです。むしろ情報がある程度出てし
まうでしょう。そうすると、戦略性が分かるので、ライセンサーは同意し
たくない。実際に利用率は低いですね。1 歩前進しましたが欧米並みの当
然保護に向けさらなる改革を期待したいところです。
−−−−一応、委員会の方では、そういう方向では出ているのですね。
丸島 はい。去年の 5 月ごろ、やっと出ましたね。でも、まだ委員会報告
ですよ。
◆十分でない機密を守る仕組み
−−−− 3 つ目の問題は?
丸島 3 つ目は技術流出です。アライアンスを組むと、お互いに技術情報
等の営業秘密を交換します。交換された営業秘密は機密を守ることが重要
です。しかし日本の場合は、守れる仕組みが十分でないと私は思っていま
す。これが国際連携の問題だと思います。
日本にも営業秘密を守る制度はもちろんあります。最後の、違反した人
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
を罰するのは刑事告訴です。裁判は公開ですから、技術的なノウハウも
オープンになってしまう危惧(きぐ)があります。機密にできないから、誰
も訴訟はやらない。民事訴訟の方は一応機密にできる仕組みはできました。
ところが実行されていないのですね。なぜなら、機密保持義務をかけられ
るが、違反した人は、今度は刑事告訴の対象になります。刑事事件になれ
ば機密が保たれる保証はないからです。
−−−−機密保持については従業員は会社に約束していますよね。
丸島 日本の場合は、入社するときに念書を書きますね。この効果がある
のは在籍中で、辞めたら関係ないです。辞めるときに、また機密保持契約
を結べばいいのですが、昔でしたらノーと言う人はいないと思います。今、
時代は流動化しているでしょう、難しい面もあります。在籍中に正当に入
手した情報は、辞めてから使おうが開示しようが、自由なのですよ。これ
が今の制度なのです。ですから、会社を辞めないでいただくか、辞めると
きに契約していただかないと、流出してしまうわけですね。
−−−−日本の企業を定年退職した人たちがアジアを中心に世界中に行って現
地企業の技術指導をしていますね。昔は、現役の社員が土曜、日曜に韓国
や中国などへ行っているというので、会社が社員のパスポートを預かって
いるなんていう話も聞きました。
丸島 それ以上の情報の流出問題が起きているのではないでしょうか。情
報が IT 化したことも関係が深いと思いますが、1 番の理由は違反するとす
ぐ捕まるという脅威が少ないことかも知れません。外国から見て、日本は
違法に技術情報を入手することができない国だよという印象を強く与える
制度、運用がないと、狙われるでしょうね。
−−−−欧米の事情は?
丸島 アメリカには輸出管理法、スパイ法というのがあります。私もアメ
リカで仕事をするときは輸出管理法に気を付けろと言われたくらいです。
アメリカ原産の技術は、外国へ出すなというところから始まっている法律
です。米国外へ出すためには許可を得ろということですね。ましてや許可
を得ないで外国へ持って出るのは違反。おとり捜査が多いですし、飛行機
に乗って国境を越えたところで捕まっているのです。この法律は脅威です。
みんなが慎重になるわけです。冷戦の時代は共産圏向けが厳しかったです。
日本には持ってこられますけれども、その技術を使った商品が共産圏に流
れるのは駄目なのです。日本の場合、法律は存在しますが罰則を受けると
いう脅威が少ないのです。だから、プロみたいな人は平気で違反を繰り返
す可能性はあります。
だから刑事告訴され罰せられるという脅威を強く与える制度が欲しいと
思っていました。実体法の方は、営業秘密侵害罪は昨年の改正でだいぶ良
くなりました。今までは営業秘密侵害罪には、不正競争の目的というのが
入っていたのですが、不正競争の目的を改め、不正の利益を得たり、保有
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
者に損害を加えたりする目的をもってなされる行為を処罰
の対象に含めて対象を広め、また、今までは不正入手した
段階では罰せられなかったのですが、今回の見直しでそれ
が可能になりました。先進国並みにやっとなったのです。
不正に入手(領得)したという段階で一応罰せられるという
のは、随分進歩したと思います。
実体法的には、先進国に近づいたのですが、刑事手続法
は今検討中です。昨年の実体法の改正のときの衆議院の附
帯決議があって、関係各省庁間において、営業秘密保護の
ための特別の刑事訴訟手続きの在り方等について、早急に
検討を進めているところと認識しています。一刻も早く実
効ある法制度・運用の確立が望まれます。
−−−− 3 つの課題をお聞きしました。知的財産の活用、産学
官の連携促進の努力が各方面でなされていますが、そうい
うソフト面の対策を強化し、環境を整備することはわが国
の産業の競争力にはすごく効果がありそうですね。
丸島 そうだと思います。
−−−−でも、不思議ですね。大企業の一部の知財関係者を除けば産学官のい
ずれも、そうした問題があることも知らないと思います。どうしてですか。
丸島 トータルで物を見ようとする人が少ないからですね。私はいろいろ
な委員会に参加させていただき、企業の知財経営の面からいろいろ発言さ
せていただいております。でも、ほとんどの人、研究開発の学者さんも、
自分の専門分野の関心が主で知財経営のことはあまり関心を示しませんね。
−−−− 3 つの問題点はマスメディアもあまり報道していませんし、経済団体
はともかく、産業界自身の問題として認識されていないように思います。
大変興味深く、重要なお話をお聞きしました。ありがとうございました。
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
熱伝導の新測定法が国際標準
産学で開発した市販装置が普及を後押し
共著
マテリアルの熱伝導率に関する新しい測定法を国際標準にするまでのストーリーであ
る。大学発ベンチャーをつくり、企業と市販装置を開発。それを普及させたことが大き
く後押しした。測定法の標準化は官民挙げて取り組まなければならないテーマだが、技
術への信頼を得る前に、信頼関係で結ばれた人間関係を構築することが重要であると指
摘している。
私たちは、大学の研究室で熱伝導率に関する新しい測定法を開発し、幾
つかのメーカーと市販装置の開発にまでこぎ着け、その普及の過程で国際
森川 淳子
標準化機構(ISO)の新標準として発効させた。現在までに、国際電気標準
(もりかわ・じゅんこ)
会議(IEC)において、マテリアルの熱伝導測定法の 1 つとして引用される
東京工業大学大学院 理工学研究科 助教
に至っている。90 年代以降電子部品の集積化が進み、材料の放熱や耐熱性
が注目され、熱特性測定法の標準化が必要となったことが背景にある。
◆温度波を用いた位相計測
新標準の特徴は、従来適用が難しいとされた薄膜やフィルムの熱伝導率
(熱拡散率)を、温度波を用いた位相計測により(図 1)、正確にしかも簡便
に測定できる点にある。温度依存性を連続的に測定することにより、相転
移における熱伝導性など、実用のみでなく基礎的な研究への展開も進行中
橋本 壽正
(はしもと・としまさ)
である。物質の熱伝導性の計測の難しさは、実際の物質の中の熱流とセン
東京工業大学大学院 理工学研究科 教授
シングの位置関係のディメンジョン、これらと熱伝導方程式の正確な解法
の整合性を、実験上、いかに実現するかにある。市販
装置では、熟練を要するこれらの解法を、極めてシン
プルにソフトウエア上で判断し、オートマチックな熱
Heater
A
25
1 m - 1 mm
伝導性の測定を可能とした。このために S/N のよいデ
A
ジタルデータを高速に取得するセンサー、計算用ゲー
る。
B
23
世界貿易機関(WTO)の TBT 協定(貿易の技術的障害
に関する協定)発効以降、加盟国は国際標準を国内に
21
D
している。ISO は IEC と並びグローバルな国際標準の
0
5
10
15
20
25
30
35
t/s
Sensor
24.5
18.5C
23.0
10-200 m
21.5
20.0
代表格である。
標準化は、特許とは異なる発想で、技術の普遍的な
http://sangakukan.jp/journal/
D
導入する際、国際標準があればそれを使用することを
求めており、科学技術においても国際標準の重みは増
C
C
22
◆重み増す国際標準
B
24
T / °C
ト回路の設計など、最新の電子回路技術を駆使してい
11
図 1 フィルム試料中を伝播(でんぱ)する温度波(赤外線カ
メラによる観察像)と位相遅れ
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
普及を後押しするものである。ISO の測定法により得たデータは、国内外
の機関で共有できる情報であり、特許や製品カタログへの記載も可能とな
る。幅広く産業技術の現場の人がかかわることにより、新しい技術の普及
が進み、生産活動・日常生活への貢献とともに、さらなる技術進歩の土壌
となることが期待される。
ISO の対象技術は、産業の現場で誰もが使うことができ、ある程度普及
し始めていることが条件である。この当たり前のように聞こえる 2 点をク
リアして標準化のステージに載せることが、どれほどのものであるか、具
体的な数字や経緯は差し控えるが、振り返れば、やはり筆舌に尽くし難い。
研究者として、材料の熱伝導性の研究に魅力を感じるうちに、方法論の
正確性と技術の高精度性の追求のための膨大なデータが蓄積されていった。
その過程で、
「さらに幅広く産業技術の分野に普及して初めて、真の技術と
言えるのではないか、そこまで見極めてみたい」と思うようになった。研
究者は技術が優れていれば産業につながるだろうと期待するが、多くの壁
を乗り越えていくには、開発者の熱意がなくては難しい。
◆大学発ベンチャーを設立
私たちは、2002 年に大学人を中心に大学発ハイテクスタートアップ企
業「株式会社アイフェイズ」を設立した。折しもベンチャーブームであり、
大学、国、ベンチャーファンドなどの力を借りながら立ち上げた。ちょう
ど ISO 提案が取り上げられたタイミングとも起業時期が一致する。基本的
には自分たちで開発した新しい測定方法を標準化へつなぐためには、自分
たちで装置製造を行わないとうまくいかないと考えたのである。また方法
論としての普及(装置の普及)も開発者の熱意なしには難しいという判断も
働いた。ただし、実験室装置から商品への道には大きな壁があった。当然
と言えば当然である。
試行錯誤の末たどり着いたのが、熱拡
散率・熱伝導率測定装置としては例のな
い高性能で迅速な測定を可能とした装置
である。写真 1 のように USB バスパワー
で動く小型省エネルギーマシンである。
微量、薄膜試料測定では世界唯一と言っ
ていい。標準化と相まって、日本の製造
業に広く認知されつつある。
写真 1 USB バスパワーで動く小型省エネルギー熱特性測定器
◆加盟国のキーパーソンに説明
しかしながら、標準化のステージに載せたその後の道もまた平たんで
はなかった。ISO はジュネーブに本部を置き、毎年約 250 の TC(Technical
committee)が会議を開き、SC(Sub committee)、WG(working group)で
詳細な議論の後(写真 2)、1 年をかけて加盟国の国際投票を行う。本会議
で仮に提案の発議が認められても最終ステージに至るまでの 4 − 5 年の間、
毎年の投票をクリアすることが求められる。最初に提案を発議して、実際
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
の提案を認められるまでの 2 年間の間、小型軽量化に
成功した装置を持って、加盟国のキーパーソンを訪ね、
測定の実際を説明した。提案を認められて以降は、今
度は、現存する複数の熱伝導率測定法とデータの整合
性を確認するための国際ラウンドロビンテストを主催
した。これも賛同を得て、各国の研究所が測定を開始
するまでに 3 年以上の月日が必要であった。この結果
を基に TC 会議の際にワークショップをインド・ゴア、
日本・横浜、イタリア・ローマで開催し、データに関
する位置付けを議論したが、思った以上に好結果とな
り、最終的に標準化発効が認められるに至った。
写真 2 ISO/TC61/SC5/ 会議風景
◆万人のための共通の利益
この過程で何よりも大事であったのは、まず、提案する技術の優位性・
確実性であることは論をまたないが、それにも増して、標準化という立場
から、現存するあるいは新規のすべての技術について、普遍的で公正な判
断をする姿勢を貫くことであったと思う。原則として、標準化は特定の国
や企業を利するものではなく、産業技術を通して万人のための共通の利益
をもたらすためのものである。新標準の位置付けを明確にし、必要な技術
を議論し尽くすことで、約 10 年の年月の議論を経て、関連した各国の強固
な信頼関係が結ばれたと言ってよい。
測定法というのは、必要とされるデータが取れてこそ意味がある。でき
れば、簡単に誰でもいつでもというのが望ましい。そうなると、測定法の
信頼性、互換性が重要視される。当然標準化が不可欠な要因になる。言葉
の違う地域への生産拠点の移行などグローバル時代になって、標準化なき
測定法が通用するのかどうか。官民挙げて、取り組まなければならないの
は当然として、測定法の信頼を獲得する前に、信頼関係で結ばれたグロー
バルな人間関係を構築するという作業があることを忘れてはなるまい。
http://sangakukan.jp/journal/
13
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
特集●
高専 新時代
発見! 国立高専の産学連携・地域連携活動の新展開
全国に 51 ある国立高等専門学校は、教育研究に次ぐ第 2 の使命として、それぞれの地
元の企業、
「地域」との連携活動に積極的に取り組んでいる。国立高等専門学校機構とい
う 1 つの法人になって 7 年目を迎え、宮城・富山・香川・熊本の 4 地区には新しいモデ
ルの高専も誕生している。高専の産学連携の新展開を追った。
国立高等専門学校機構(高専機構)*1 は、当初 55(2009 年 10 月から 51)
の国立高等専門学校(高専)を 1 つの法人として発足して 7 年目に入りまし
た。昨年 10 月には、魅力ある高専づくりの大きな成果として 4 地区(宮城・
富山・香川・熊本)で新しいモデルの 4 高専が誕生しました。51 高専(55
キャンパス)体制のもと産学連携・地域連携活動は教育研究に次ぐ第 2 の基
本使命として位置付けられ、文部科学省のサポートプログラムなどの支援
も受けて「高専−技科大連合・スーパー地域産学官連携事業本部」をスター
五十嵐 一男
(いがらし・かずお)
独立行政法人 国立高等専門学校機構
理事(高専−技科大連合・スーパー地
域産学官連携本部 本部長)
*1:国立高等専門学校機構
http://www.kosen-k.go.jp/
トさせるなど大きくパワーアップしました。
◆イノベーション時代に期待される高専人材育成の役割
持続的なイノベーション創出には、日本の生命線であるものづくり技術
力を担う人材を地域に輩出でき、同時に地域の中小企業等との連携に積極
的に取り組む「高専」の役割が高いと言えます。しかも、高専はほぼ全国に
あり、地域に根差した高専教育を目指して個性化、高度化対応などの改革
に取り組んでいます。
1.共同教育(COOP)
【事例】
・IT 共同教育プロジェクト 退職企業技術者活用事業
・起業家・事業家・アントレプレナーシップ育成事業(図 1)
アントレプレナーシップ教育
高専では、産業界や地方自治体、同窓生等と連携したさまざまな共同教育を実施
しています。
高専において、卒業生や在学中に起業するケースが増加しています。中小企業庁
調査によると高専卒業生の創業率は大学・大学院と同程度かそれ以上と報告されて
おり、ベンチャー企業の創業では、高専卒は大学・大学院卒の1.5倍となっています。
○「アントレプレナーシップサポートセンター」(福井高専)
○「高専生テクノショップ育成-経営体験を組み込んだ新時代の進路選択支援
プログラム」(呉高専)
○「ソーシャルマーケット推進プロジェクト」(明石高専)
○「+U Cool Works!!」(香川高専)
図 1 アントレプレナーシップ教育
http://sangakukan.jp/journal/
14
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
・頑張る ICT 高専学生応援プログラム
2.地域における技術者・社会人ものづくり人材育成
【事例】
・高専を活用した中小企業人材育成事業
・地域再生・人材育成拠点の形成事業
・社会人の学び直しニーズ対応教育推進事業
・組み込みシステム開発技術者育成事業(自律型)
3.地域貢献(街づくり・地域おこし)
【事例】
・「さばえめがね WAKUWAKU コンテスト」
(福井高専)
・イカの街函館「イカロボット開発」
(函館高専)
・三豊市地域活性化事業「お茶サービスロボット」
(香川高専)
◆特徴ある高専産学官連携活動−学学連携、広域連携を強化
地域共同テクノセンター等を拠点として、地域ニーズ対応型の共同研究
を推進し、国際的技術競争力を持つ企業の創出を目指しています。高専の
特徴は、常に実践的かつ創造的技術者教育(共同教育など)に還元していく
ことです。
1.地域(中小企業)と高専の特徴を生かした共同研究
敷居が低い、対応が早いなどの高専の特徴と、経営者の意志決定が早い
等地域企業の特徴を生かして、地方自治体の助成が得られれば新製品の開
発にスピーディーにつながります。
2.高専の技術力、人材育成力、人的ネットワーク力
高専教員の技術力は、ユニークでオンリーワンが多く、宇宙溶接技術、
エアードリル技術など世界で光を放つ高専発の技術もあります。炭素繊維
水質浄化技術、マイクロバブル技術や食品関連技術など地域産業の再生に
貢献する技術もあります。今後の課題として、大型ファンドを獲得して事
業化・実用化を目指していきます。
また、全国 55 カ所に「地の拠点」を持つ規模的スケールメリット= 51 高
専教員数:約 3,800 名(技術系博士取得率約 80%)、共同研究約 600 件や特
許出願 100 件以上(図 2)=を生かした取り組みがスタートしています。
共同研究
900
件数
受託研究
金額( 千円)
3 8 0 ,1 8 7 4 0 0 ,0 0 0
400
3 5 0 ,0 0 0
350
3 0 0 ,0 0 0
300
2 5 0 ,0 0 0
250
2 0 0 ,0 0 0
200
300
1 5 0 ,0 0 0
150
200
1 0 0 ,0 0 0
100
100
5 0 ,0 0 0
50
800
700
3 3 1 ,5 8 8 3 4 5 ,4 6 9
2 8 7 ,5 5 6
600
644
634
565
500
400
3 5 4 ,5 2 4
514
409
0
0
1 6 年度
1 7 年度
1 8 年度
1 9 年度
金額( 千円)
6 0 0 ,0 0 0
5 3 3 ,6 7 2
4 8 4 ,4 2 6
5 0 0 ,0 0 0
4 3 7 ,4 1 4 4 3 0 ,1 8 5
4 1 2 ,7 4 2
4 0 0 ,0 0 0
251
247
216
192
3 0 0 ,0 0 0
155
2 0 0 ,0 0 0
1 0 0 ,0 0 0
0
0
1 6 年度
2 0 年度
件数
1件あたりの平均金額(件数/金額(千円))
1 7 年度
1 8 年度
1 9 年度
2 0 年度
1件あたりの平均金額(件数/金額(千円))
16年度
17年度
18年度
19年度
20年度
16年度
17年度
18年度
19年度
20年度
703
645
611
559
590
2,663
2,278
1,991
1,961
2,126
図 2 共同研究(左)および受託研究(右)の推移
http://sangakukan.jp/journal/
順位
15
機関名
18年度
出願件数
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
3.寄付研究部門(寄付講座)の設立など企業の応援大
阿南高専では、平成 19 年度より青色 LED(青色発光ダイオード)で有名
な日亜化学工業株式会社から高専第 1 号となる寄付研究部門を設立しまし
た。以後長野高専、仙台高専と続いています。応援してくれる企業の期待
の大きさを実感しています。
4.知的財産の活用
高専が持つ知的財産を積極的に社会
に還元し(図 3、4)、持続可能な社会の
構築と人類の福祉の向上に寄与します
(図 5)。
知的財産
発明届出件数
特許出願中件数
特許登録件数
400
372
350
332
300
264
250
200
169
150
125
100
50
125
110
98
75
46
0
1
平成16年度
32
平成17年度
46
37
平成18年度
平成19年度
図 3 知的財産の推移
知的財産教育
55
平成20年度
機関名
18年度
出願件数
京都大学
552
東北大学
544
東京大学
497
大阪大学
388
3機関連合
311
1 東京工業大学
307
北海道大学
269
九州大学
200
名古屋大学
186
2 九州工業大学
168
3 名古屋工業大学
145
4 奈良先端科学技術大学院大学
133
5 東京農工大学
131
6 国立高等専門機構
117
7 長岡技術科学大学
110
8 電気通信大学
90
9 豊橋技術科学大学
84
図 4 他機関と比べた出願件数
図4 他機関と比べた出願件
(注)国 立高等専門学校機構のデータ以外は、
H19-1-29 文部科学省資料より抽出。
国立高等専門学校機構のデータは、同機構
からの提供データ。
● 3 機関連合では、工業系大学の中で第 1 位の
ポジションである。
高専機構知的財産ポリシーにおいて、「先行技術調査・発明評価・出願などの実務
経験豊富な教職員を養成し、学生に対する知的財産教育及び創造性向上教育を充実
全国版:イノベーション・ジャパン−大学見本市、産学官連携推進会議等
する。」としており、国の支援・助成制度を活用して一定の成果を上げている。
(高専主催)全国高専テクノフォーラム、高専機構/長岡・豊橋技科大 ○産業財産権標準テキスト推進協力校(INPIT事業)・・・本科が対象
先進技術説明会
・累計41校/51校が活用(H13~H22)
地区版:JST イノベーションプラザ・サテライト、経済産業局等主催イベント
○現代GP「知的財産関連教育の推進」
(高専主催)地区拠点校主催イベント(中国地区テクノマーケット等)
・宮城高専「早期創造性教育と知財教育の連携と統合」(H18~H20)
・富山高専「吐剤マインド醸成のための実体験型基礎教育」
・福島高専「マーケティングを意識した技術者教育-シーズとニーズをマッチングさ
せる技術-」
知的財産教育
○パテントコンテスト/知的財産能力検定の活用
・H20年度受賞者:大学部門4件(岐阜・香川・久留米)
高専機構知的財産ポリシーにおいて、「先行技術調査・発明評価・出願などの実務
経験豊富な教職員を養成し、学生に対する知的財産教育及び創造性向上教育を充実
高専部門1件(徳山)
する。」としており、国の支援・助成制度を活用して一定の成果を上げている。
・H21年度受賞者:大学部門5件(仙台・岐阜・和歌山・新居浜)
高専部門4件(旭川・福島・徳山・香川)
○産業財産権標準テキスト推進協力校(INPIT事業)・・・本科が対象
○学生向け知的財産テキスト・累計41校/51校が活用(H13~H22)
○現代GP「知的財産関連教育の推進」
・日本知財学会と連携し、高専用標準テキストの作成を進めている。
・宮城高専「早期創造性教育と知財教育の連携と統合」(H18~H20)
・富山高専「吐剤マインド醸成のための実体験型基礎教育」
・福島高専「マーケティングを意識した技術者教育-シーズとニーズをマッチングさ
せる技術-」
○パテントコンテスト/知的財産能力検定の活用
・H20年度受賞者:大学部門4件(岐阜・香川・久留米)
高専部門1件(徳山)
・H21年度受賞者:大学部門5件(仙台・岐阜・和歌山・新居浜)
高専部門4件(旭川・福島・徳山・香川)
○学生向け知的財産テキスト
・日本知財学会と連携し、高専用標準テキストの作成を進めている。
図 5 知的財産教育
http://sangakukan.jp/journal/
16
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
地元版:地方自治体、金融機関主催イベント
(高専主催)高専技術振興会イベント
ウェブ上:J − STORE、野村イノベーションクラブ、特許流通データベース等
5.地域での大学や自治体、銀行、商工会等との連携
高専は専攻科(研究棟)と地域共同テクノセンターを整備し、地元中小企
業を中心とする技術振興会(会員 50 〜 200 社)を組織して地域に密着した
活動を展開しています。さらには例えば東北地域の高専間で交流を図るな
どの広域連携も強化しています。
◆「高専−技科大連合・スーパー地域産学官連携本部」と
「8 地区広域連携拠点校制度」のスタート
高専と長岡・豊橋技術科学大学(技科大)の連合による「スーパー地域産
学官連携本部」を司令塔に、高専の「地域共同テクノセンター」等を窓口に
した「2 技科大と 51 高専の技術のワンストップサービス」を産業界へ提供す
ることにより、
「地域イノベーションの全国展開」を目指していま
す。
このうち、高専機構では、51 高専の人材育成力と技術力を活
用し、技科大との産学官連携面での連携(共同研究等による「技術
のつながり」)と内部専任人材の育成・拠点的配置による全国規模
の「地域イノベーション創出サイクル」の構築が実現する体制を整
備していきます。
●各種産学官連携イベントへの参加
高専は、
「全国高専テクノフォーラム」
「高専機構 / 長岡・豊橋技科大 先進技術説明会」等の技術シーズ・ニーズのマッチングイベントを開催
するほか、内閣府、文部科学省、JST 等の主催する「産学官連携推進会
議」
「イノベーション・ジャパン」
「産学官ビジネスフェア」
「アグリビジ
ネス創出フェア」等に参加し周知に努めています。
<イノベーション・ジャパン 2009 >
高専からは、環境、アグリ・バイオ、医療・健康、材料、ものづくり、
IT、知財本部の分野で全 18 ブースを出展しました(写真 1)。
写真 1 イノベーション・ジャパン 2009
<セミコン・ジャパン 2009 − The 高専@ SEMICON >
世界最大規模の半導体業界の展示会である「セミコン・ジャパン
2009」において、東京エレクトロン株式会社、大日本スクリーン
製造株式会社、株式会社荏原製作所の半導体製造メーカー 3 社の
支援により、松江高専、高知高専、熊本高専、苫小牧高専の「The
高専@ SEMICON」ブースが出展されました(写真 2)。
写真 2 セミコン・ジャパン 2009 −
The 高専 @SEMICON
http://sangakukan.jp/journal/
17
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
特集●
高専 新時代
企業の技術ニーズに応えるKNTnet
全国から 51高専、長岡・豊橋技科大を結ぶ
全国の企業ニーズ・課題と技術シーズを結び付ける新しい全国ネットのシステムができ
た。その使い方は?
地域の企業が求めている技術ニーズと、全国 51 の国立高等専門学校(高専)と長岡
技術科学大学・豊橋技術科学大学(技科大)などの研究者情報をマッチングさせるシ
ステムをつくったそうですね
近藤 孝
狙いは幅広くマッチングを行うことです
(こんどう・たかし)
独立行政法人 国立高等専門学校機構
全国的な地域イノベーションを起こそうと、北海道から沖縄まで全国に
高専−技科大連合・スーパー地域産
存在する高専と技科大とが手を結び、全国の企業ニーズ・課題を教員約
学官連携本部 産学官連携コーディ
ネーター
4,500 名の技術シーズで解決しようとするシステムです。名称は「KNTnet
*1
(ケーエヌティーネット)」 で、K は高専、N は長岡技科大、T は豊橋技科
*1:高専−技科大連合・スーパ
大に由来し、その目的は大きく 3 つあります。第 1 に、これまで個別に対
ー地域産学官連携本部
「KNTnet」
応してきた各校の技術力、人材育成力、ネットワークを融合させ産学連携
https://kosen-nut.net/
の広域化を図ることです。第 2 に、高専と技科大とが協力して知財活動や
その管理体制を強化し、強い特許の創出や運営を効果・効率的に実施する
KNTnet 概要
システムの概要
ことです。第
3 に、高専同士あるいは高専と技科大の教員間で学学連携を
登録数
情 報 項 目
カテゴリ
高専-技科大連合 技術マッチングシステム(KNTnet)は、産学官連携、研究成果の活用及び
53
名称、所属地、沿革、機構、研究部門名など
研究機関
図り、共通の研究課題やシーズを持つ教員同士のクラスター化を可能とし、
広域連携の促進に資することを目的として、全国 51 の国立高専と長岡技術科学大学・豊橋技術科
3,872
氏名、所属機関、職名、研究分野、研究テーマ、研究業績など
研究者情報
学大学に関する研究者情報を網羅的に収集、提供しているサイトで、平成 21年 6 月より提供して
研究開発力の強化とその相乗効果を得ようとすることです。試行期間を経
います。
(特許庁)特許 電子図書館(IPDL)と同じ
特 許 情 報
て、2010 年 4 月から本格稼働させました。
平成 22 年 4 月現在
システムの特徴
●北海道から沖縄まで日本全国を網羅する教員の技術シーズを検索できます。
(ReaD 情報以外のプラスアルファの情報を搭載)
システムの特徴は何でしょうか
●関連する全国の特許情報を全て検索できます。
(特許電子図書館 IPDL の機能に独自機能を追加)
使いやすく機能面、運用面の工夫をしています
(独)科学技術振興機構
(JST)
R e a D
●技術相談(コンタクト希望)をシステムから依頼できます。
KNTnet の機能上の特徴は大きく分けて 3 つあります。
地域内の検索が可能
第 1 に全国 51 高専と
2 技科大の約 4,500 名の全教員の
研究シーズ情報を検索できることです。これら教員シー
ズ情報は、科学技術振興機構の ReaD(研究開発支援総
合ディレクトリ)と連携するだけでなく、教員の写真や
シーズ集等を追加できるため、より詳しい情報が入手で
きます。第 2 に、KNTnet では、キーワード検索を行う
とき関連する全国すべての特許情報が閲覧できます。特
許情報は特許庁の IPDL(特許電子図書館)とリンクし、
技術相談が可能
特許の概要を一覧にして見やすくする等の利便性を向上
させています。第 3 に、事前登録した閲覧者や企業が興
味のある教員に技術相談をしたいときにシステム上で依
頼ができます(図 1)。
KNTnet の運用面での大きな特徴は、教員の技術シー
ズと企業のニーズとのマッチングを効果的に行うため
http://sangakukan.jp/journal/
18
郵送
高専-技科大
研究者シーズ
関連企業
ニ ー ズ
高専
技科大
Net
特 許 情 報
国立 51高専 + 長岡・豊橋両技科大
https://kosen-nut.net/
郵送
( 特 許 庁 )
特許電子図書館
I P D L
図 1 KNTnet の鳥瞰(ちょうかん)図
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
に、システムを通じて技術相談ができ、全国 8 地区のコーディネータが地
区内で積極的にサポートする体制としていることです。また、本部コー
ディネータが全国のマッチング状況やコーディネート状況を把握して、各
地区のコーディネータをサポートしている点にあります。
個々の企業が抱える技術的な課題について、
個別に相談できるのですか
ID登録
→「ID申込」ボタン押下
システムから技術相談が可能です
KNTnet に登録いただいた企業等は個別の技術課
題や悩みを相談することが可能です。先ほど述べま
したとおり、まず相談者はシステム上で相談依頼も
しくは相談概要の記入を行います。この内容がコー
図 2 KNTnet のログイン画面
ディネータへと連絡され、コーディネータが仲介し
てお返事し、相談希望の教員や適切と思われる教員への面談日時、場所等
を設定します。技術相談は無料ですので、遠慮無く KNTnet を使ってくだ
さい。ただし、KNTnet に登録いただくのが前提ですので、まずは登録をお
願いします(図 2)。
全国にくまなく存在するのが高専の強みですね
連携機関の役割分担
本事業においては、高専の応用技術と両技科大の基礎研究を融合し
「技術・研究」の拡大を図り、高専の
地域との連携窓口(地域共同テクノセンター)
を通じて、高専・技科大の技術を全国の地域へ還元します。
高専は北海道から沖縄まで全国にあり、地域との強い
絆(きずな)があります。中小企業との連携が強く、気
軽に相談できる(敷居が低い)のも大きな特徴です。地
方ニーズを確実に(深く)把握して問題解決を図り、地
域貢献を目指すことがわれわれの使命です。全国規模の
地域イノベーションを創出する、そのためのツールとし
て KNTnet を活用したいと考えております(図 3)。
KNTnet の活用事例を紹介願います。将来どのように
発展させるお考えですか
この地域貢献を効率的に実施するために、本部はJST等の外部機関と連携し、高専は地域との連携を
強化、
また地区内の連携を拠点高がサポートすることで組織的に産学官連携活動に取り組んでいます。
地域産学官連携コーディネーターは皆さまのニーズに応えます。
地方公共団体・金融機関・商工会議所
地域産業界
主に地元
中小企業
技術相談等によるニーズ発掘
2大学+55校の技術シーズによる解決
お近くの高専
地域共同
テクノセンター
拠点校
連携
JSTプラザ・工業試験場・他大学
図 3 連携機関の役割分担
首都圏の企業ニーズを地方の高専、技科大に展開するツール
企業のニーズは首都圏に多くあり、各大学が新技術説明会を首都圏で行
うのはそのためです。高専は首都圏や大都市圏に少ないのが実情で、首都
圏や大都市圏の企業ニーズを知りたいという要望があります。
私たちは、企業ニーズを把握する場に大小の区別無く参加しております
が、その 1 つに科学技術振興機構主催の「産から学へのプレゼンテーショ
ン」
(年に 10 回程度開催)があります。その場で提示された技術課題を私た
ちのコーディネータが企業に代わってブレークダウンし、KNTnet を使い教
員に技術相談をかけた結果、企業と教員とのマッチングが可能となり課題
解決となった事例があります。私どもは、このように首都圏のニーズを地
方の高専、技科大に展開するツールとして活用していくつもりです。
また、継続性が要求される技術課題を解決するために、KNTnet を使うこ
とで、教員同士の連携、教員と企業との有意な連携といった研究開発クラ
スターを組織できるように発展させていきたいと考えています。
さらに副次的な活用方法として、高専卒業生が進学する際に技科大の希
望する研究室を探すためのツールにするとか、企業が学生の採用情報を得
るために活用いただくことも可能だと考えております。
http://sangakukan.jp/journal/
19
○お問い合わせ先
高専−技科大連合 KNTnet 担当
E-mail:system-knt@kosen-k.
go.jp
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
特集●
高専 新時代
石川工業高等専門学校
地元企業と研究会、共同研究で産業活性化
共著
地元企業と研究会をつくり、地域、個別企業の抱える課題解決に取り組んでいる高専は
多い。石川工業高等専門学校には 15 の研究会があり、専攻科の学生も参加させて、企
業との交流を進めている。
◆技術振興交流会との協同教育で元気化
平成 14 年に企業との産学交流・連携を深める目的で石川工業高等専門学
校技術振興交流会を結成した。参加企業は県内中小企業を中心に 130 社。
石川工業高等専門学校(石川高専)には 5 学科(機械工学、電気工学、電子
情報工学、環境都市工学、建築)が設置されていることから、参加企業は
さまざまな業種にわたっている。共同研究、研究会活動、若手技術者のス
キルアップなどの事業を実施している。
割澤 泰
(わりさわ・やすし)
石川工業高等専門学校 機械工学科 教授、地域連携主
事・トライアル研究センター長
◆研究会活動で元気化
石川高専では以下のような15 の研究会が活動している。主に企業や地域
から持ち込まれた課題を解決する研究会である。大半が、課題を持ち込んだ
企業を随時会員として運営する方法をとっている。また、専攻科学生を参加
させ、若い学生と企業人の交流により議論の深堀りと活性化を図っている。
越野 亮
(こしの・まこと)
−研究会−
◦ 3D-CAD と CAE 利用研究会 ◦自然エネルギー利用研究会 ◦ PLC による機械制御研究会 ◦画像処理の応用研究会 ◦技術課題解決法を学ぶ研究会 ◦ DLC 膜利用研究会 ◦サーボシス
テム応用研究会 ◦振動エネルギー利用研究会 ◦ Android 研究会 ◦数理モデルを用いた舗装
のパフォーマンス予測 ◦能登産カキ殻の地盤工学的有効利用に関する研究会 ◦ダム流量の高
精度推定技術の構築に関する研究会 ◦津幡町の総合活性化研究会 ◦耐震を考慮した木造建築
研究会 ◦温熱・音環境に関する研究会
石川工業高等専門学校 電子情報工学科 准教授
◆協同研究会、共同研究で元気化
−電子情報工学科越野亮准教授の活動事例の紹介−
◦越野研究室での共同研究
携帯電話に搭載されているセンサーを使って、自動的に人間の行動〔い
つ、どこで、だれと、なにをしていたか〕をライフログ(行動記録)として
自動的に記録するソフトウエアを開発している(図 1、2)。これにより、過
去の自分の行動をタイムマシンのように見ることができる。具体的には、
GPS(衛星利用測位システム)で位置、加速度センサーで運動、Bluetooth
(短距離無線通信技術)で人との出会い、マイクの音量から何をしているか
を推測して自動的に記録。また、自動的に記録されたライフログを見やす
く表示する Android 用のアプリケーションと、生活習慣を見直すためのウェ
http://sangakukan.jp/journal/
20
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
ブアプリケーションも開発してい
る。ほかにも心拍の情報からドキド
キ感(気持ち)を記録したり、周り
の温度や湿度、明るさなどの環境情
報も記録できるように独自のセンシ
ングデバイスも開発している。
現在、企業 3 社との連携を進めて
いる。A 社とは Android によるユー
ザーの状況推定の研究開発を進め
ている。B 社とはこの開発成果の教
育への応用として、組み込み教育
のためのセンシングデバイスツール
図 1 Android による
ライフログ表示
キットを開発している。C 社とは、
Android と連携できる、心拍・温度・湿度・明るさなどのさ
まざまなセンシングデバイスの商品化・実用化を進めている。
なお、これまでに開発したセンシングデバイスについて
は、多方面からの活用希望が出ている。
◆ Android 研究会
Android は、Google が主体となっているオープンソース
の携帯電話用の OS で、制限なく自由に携帯用のソフトウ
図 2 ウ ェブアプリケーションによる
ライフログ表示
エアを開発できるため、現在非常に注目されている。この研究会は日本
Android の会の金沢支部主催の勉強会として実施している。株式会社管理
工学研究所北陸分室、東京ドロウイング株式会社、InterLap 社をはじめ、
多くの地元企業が参加している。
第 1 回は日本 Android の会の方々による講演会。第 2 回は Android アプリ
開発の入門で、インストール&セットアップの方法、タッチによるアプリ
の作り方、カメラアプリの作り方、GPS と Google マップを使ったアプリの
作り方などについて講演を行った(写真 1)。第 3 回は、
Android のアプリ開発を始める方を対象として、ハン
ズオン形式で、実際にプログラムを作って学んだ。
第 4 回は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の
2009 年度上期の未踏事業で越野らが開発した Android
によるライフログアプリケーションを紹介した。あわ
せて、2009 年度下期の未踏事業に採択された、石川
高専の学生たちのプロジェクト「GUI ベースによる携
帯アプリ統合開発環境の構築」の紹介、2008 年度下期
写真 1 第 2 回の勉強会での活発な意見交換
で未踏事業に採択され、未踏スーパークリエータに認
定された山添隆文氏による「Android ではじめるリアルタイム画像処理」に
関する講演を行った。4 回の延べ参加者は 145 名で、各回とも、形式には
まらず活発で、柔軟な意見交換が行われており、今後の発展が期待される。
http://sangakukan.jp/journal/
21
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
特集●
高専 新時代
福島工業高等専門学校
中学生対象のプログラミングコンテスト
福島工業高等専門学校は夏休みに中学生を対象にしたプログラミングコンテストを実施
している。まず、土曜、日曜の 2 日間で「入門」の公開講座を開き、1 週間後に 2 時間内
のチーム対抗のコンテストを行う。参加者の中から毎年数名が同校に入学している。
福島工業高等専門学校(福島高専)は平成 21 年 8 月 1 日(土曜日)に「第 4
回中学生プログラミングコンテスト(中学生プロコン)」を開催した。この
コンテストは、多くの中学生に福島高専をアピールするとともに、理数系
離れが心配される中学生に論理的に考える機会を持ってもらうことなどを
目的に企画し、第 1 回を平成 18 年 12 月に開催。第 2 回以降は毎年夏休み
大槻 正伸
(おおつき・まさのぶ)
福島工業高等専門学校 電気工学科 教授
の時期に実施している。
◆以前からロボット製作のコンテスト
福島高専では、以前から福島県内の中学生が参加する「中学生ロボコン
(ロボット製作のコンテスト)」を実施していたが、平成 18 年度から「中学
生プロコン」と「中学生デザコン(デザインのコンテスト)」も開催するよう
になり、以来 3 つの中学生コンテストとして軌道に乗ってきたところであ
る。
中学生プロコンは、コンテストの 1 週間前の土曜、日曜の 2 日間で公開
講座「中学生のためのプログラミング入門」
(参加費無料)を開催し、フリー
ソフトである十進 Basic を用いてプログラミングを体験・実習してもらう。
そして 1 週間後のコンテストにおいて、十進 Basic を用いてプログラミング
の力を競う。
公開講座、コンテストともに高専内の情報演習室で行うが、公開講座に
は毎年 30 〜 60 名程度が参加し、そのうち 20 名前後がコンテストに出場
している。公開講座でもプロコンでも、本校のプログラミング愛好会メン
バーが大活躍する。この愛好会は高専プロコン、パソコン甲子園等のソフ
トウエアのコンテストに参加することを主な活動内容とする団体である。
公開講座では、情報処理教育センター教職員と愛好会員が協力してプロ
グラミングの講義・実習を行う。中学生には年齢の近い高専のお兄さん、
お姉さんに教えてもらえるということが好評のようだ。
◆ 2 時間内のチーム対抗
コンテストでは、初級問題(5 点)、中級問題(10 点)、上級問題(20 点)
合わせて 20 問ほどの問題が出題される。参加者は 2 時間という時間制限の
中で、チーム(1 チームは 3 人以内で構成)で相談しながらプログラミング
http://sangakukan.jp/journal/
22
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
を行い、正解して得た点数の合計によって順位を競う(写真 1)。
問題は例えば「一辺の長さ a[cm]の立方体を考えます。a を
入力しこの立方体の表面積を計算して表示するプログラムを
作ってください(初級問題)」とか「図のように、チェスの盤を
(キャプション)
表示するプログラムを作ってください(上級問題)」
(図 1)とい
図1
うようなもので、参加者はこれを十進 Basic でプログラミング
して解き、作成したプログラムを大会本部にメールで送付する。
送付されたプログラムは即座に審査され、各チームの正解・不
正解の様子もリアルタイムで会場内のスクリーンに表示され
る。
本コンテストには例年地元の中学生を中心に 6 〜 8 チームが
上級問題のチェスの盤
写真1
相談しながらプログラ
写真2
表彰式後の写真撮影
(第 4 回中学生プログ
写真 1 相談しながらプログラミングを行う
中学生たち
参加し、おおよそ 170 点満点中 100 点ぐらいが優勝ラインとなっている。
コンテストが終わると参加した中学生は 1 時間ほど休憩し、表彰式に出
席する。優勝チーム、入賞チームには賞状、記念品が贈呈され、最後には
主催者である本校校長を囲んで写真撮影等を行い、和やかにコンテストが
終了する(写真 2)。
参加者へのアンケートでは「難しかったが楽しかった」
「また参加したい」
等の感想が多い。
中学生プロコンの参加者の中から毎年数名ずつ福島高専に入学している。
図1
図 1 上級問題のチェスの盤
平成 21 年度の 3 年生には第 1 回の参加者が、
2 年生には第 2 回の優勝者が、1 年生には第
3 回の準優勝者が在籍している。またそのう
ちの何人かは入学後プログラミング愛好会
員となり、高専プロコン等で活躍しはじめ
ており将来が楽しみだ。この 4 年間で「中学
生プロコン参加者が入学し、愛好会に入り
高専プロコンを目指す。同時に中学生プロ
コンの公開講座で中学生にコーチをする」と
いういい流れができつつある。
写真 2 表彰式後の写真撮影(第 4 回中学生プログラミングコンテスト)
◆課題達成型推薦制度
福島高専では平成 21 年度入学生から「課題達成型推薦」という制度を導
入している。これは学業成績優秀でさらに課外活動などで優秀な成績を修
めた中学生を優先して選抜する推薦制度であり、中学生プロコンを含む本
校主催の上記 3 つのコンテストでの入賞も課題達成型推薦に応募できる資
格の 1 つとなっている。このように、中学生プロコンは本校の入試制度と
もリンクし、優秀な人材確保をしながら発展しているところである。
写真1
相談しな
今後は、e-Learning によるプログラミングの自学自習環境・コンテスト
対策等の環境整備、コンテストと入試制度の広報の充実、コンテスト参加
中学生数の増加等を目指し、この中学生プロコンを発展させていきたいと
考えている。
http://sangakukan.jp/journal/
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
特集●
高専 新時代
鹿児島工業高等専門学校
焼酎粕利用で地元企業と新産業創出目指す
鹿児島高専が地元企業、公設試験研究機関と連携した事例。サツマイモや麦から焼酎を
つくった粕の乾燥固形物を活用した「きのこ培地」を開発し、企業が事業化している。
◆研究開発の成果の紹介
焼酎粕(かす)の地域資源循環システムを構築することを目的に鹿児島工
業高等専門学校を中心とした産学官・農工商の研究グループは、焼酎粕乾
燥固形物を栄養材としたきのこ培地を開発し、高付加価値きのこの安定生
産可能な技術を開発した。また、きのこ廃培地が家畜飼料に利用可能であ
り、かつ高温乳酸菌を活用した廃培地含有飼料を給与することで、肉質改
山内 正仁
(やまうち・まさひと)
鹿児島工業高等専門学校 都市環境デザイン工学科 教授
善、家畜環境改善にもつながることを突き止めた。これらの成果により、
焼酎粕→食品(きのこ)→家畜飼料→肥料と段階的にその品位に応じた有効
利用技術が確立された(図 1)。
◆連携の経緯
筆者らは、焼酎粕培地で栽培したきのこは慣行培地で栽
培したきのこより収量・品質・資材コスト面で優れている
ことを明らかにしてきた。一方、本研究を事業化するにあ
たり、2 つの課題が残されていた。1 つは焼酎粕を多量に使
用することで、培地材料(おがくず+焼酎粕乾燥固形物)の
粘性が高まり、従来の培地自動瓶詰め装置では均一に培地
を充填(じゅうてん)することが困難であるという工業的課
題であり、もう 1 つは、使用済み廃培地(以下、廃培地)の
図 1 焼酎粕の地域資源循環システム
有効利用の問題であった。
これらの問題を解決するために、以前から焼酎粕由来の製品開発を共同
で進めてきていた地元ベンチャー企業、株式会社ゼノクロスを介して、地
元で有数の資本力を誇る建設ゼネコングループ企業の株式会社ガイアテッ
クと共同で製品化を図ることとした。さらに、2006 年に策定された「食と
農の安心県づくり大綱」により、県産農林水産物を活用した新製品づくり
やバイオマス資源の有効利用に向けた研究開発、県産農林水産物の特性を
生かした製品開発等を支援していた鹿児島県森林技術総合センターを加え、
産学官の開発体制が整った。その後、廃培地の家畜飼料の原料としての利
用と、高温乳酸菌を用いた短期乳酸発酵法の技術利用を模索していた株式
会社鎌田工業および鹿児島県農業開発総合センター畜産試験場を加え、焼
酎粕廃培地を家畜飼料として利用するための技術開発も並行して進めるこ
ととなった。これら 6 機関のコーディネートは株式会社鹿児島 TLO が務め、
http://sangakukan.jp/journal/
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
地域が抱える課題解決のための共同研究グループを構
成した。本グループは平成 19 年に経済産業省の「地域
資源活用型研究開発事業」の採択を受け本格始動した
(図 2)。研究は各機関が分担し取り組んだが、それぞ
れの成果取りまとめを進めるにあたっては、外部委員
を含めた推進会議を定期的に開催したほか、資金申請
段階から研究者同士の打ち合わせを綿密に行い各機関
との連携を図った。このように、本グループ化によっ
て、地域固有の課題解決に向けた、食品産業・環境産
業・林業・畜産業など異なる分野にわたる産学官・農
図 2 研究実施体制
工商の連携が有効かつ効率的に機能した。
◆開発の成果と地域産業の現状
◦高付加価値きのこの生産
現在、県内外の 300 社以上の企業から問い合わせがあり、具体的な注文
量は 1,000 〜 1,300kg/ 日に至る。この注文量を賄うために、施設面で県内
きのこ生産農家との連携を視野に入れて大量生産体制を検討中である。な
お、現在の状況としては、2,000 本/日程度の生産が可能となっている(写
真 1、2)。
◦廃培地の家畜飼料としての利用(要素技術段階)
廃培地を粗飼料、濃厚飼料の一部を代替活用し、作製し
た発酵 TMR 飼料を家畜(乳用牛)に給与することを前提に飼
料経費を試算すると、乳牛の 50 頭規模(県内平均飼養頭数)
における削減額は年間 150 万円程度見込まれ、収益性の改
善が図れる。また、高温乳酸菌を用いたきのこ廃培地利用
短期乳酸発酵飼料を家畜に給与したところ、家畜環境改善
(臭気除去効果)、肉質向上(牛の枝肉価格):25% UP、イ
ノシン酸量(牛肩ロース):20mg/100g(対照区の 3.3 倍)、
写真 1 焼酎粕培地で栽培したエリンギ
イノシン酸量(豚肉ロース):89mg/100g(対照区の 9 倍)の
効果が認められ、販売価格の向上にもつながる。
◆今後の展望
本プロジェクトで構築した「きのこ生産を核とした地域バ
イオマスのカスケード利用技術」は、焼酎業界、きのこ生産
者、畜産農家等の経済効果へと波及するだけではなく、食
材への関心の高い消費者に対する地元ブランド戦略にも貢
献し得る。さらに、本技術を全国展開可能なビジネスモデ
写真 2 店頭販売風景
ルへと発展させるべく、今後は、焼酎粕培地で栽培したき
のこの抗酸化作用、抗腫瘍(しゅよう)性作用などの機能性面についても検
討を行い、さらなる焼酎粕きのこの付加価値を探りたい。
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
特集●
高専 新時代
仙台高等専門学校
立体配置 LED 光源を用いた農産物の育成と産学官連携
情報、通信、半導体、ロボットなどの IT(Information Technology)技術に特化した仙
台高等専門学校 広瀬キャンパスイノベーションセンターでは、独自に開発した立体配
置発光ダイオード(LED)光源による農産物の育成を産学連携で進めている。仙台市に
拠点がある東北地域新規事業化支援センター(東経連事業化センター)の積極的なコー
ディネーションにより、本校と仙台近郊の LED アセンブリー企業および名取市にある
宮城県農業・園芸総合研究所が連携し、新規な LED 光源による付加価値の高い農産物
の育成に着手しようとしている。
羽賀 浩一
近年、全国規模で植物工場=野菜工場(都市農場)設置の動きが活発化
してきており、経済産業省も 2011 年までに 50 カ所ある野菜工場を 3 倍の
150 カ所に増やす計画を発表している。この背景には、農業従事者の高齢
化による農産物自給率の低下、安全・安心な農産物を得るための画一的な
トレーサビリティの検証がある。都市近郊あるいは市街地に設置した野菜
工場はこれらの重要課題を解決できる救世主になると言われている。
仙台地域でも 2009 年の 12 月から 2 カ月間の限定であったが、市内の
アーケード街の空き店舗を利用し、企業と経済産業省が連携して野菜工場
モデルハウスの展示が行われていた。また、仙台から 30km ほど南下した
白石地区でも野菜工場によるハーブの栽培が進められている。
(はが・こういち)
仙台高等専門学校 広瀬キャンパス
地域イノベーションセンター 研究担当副校長
◆植物工場が持つ多くの課題
植物工場には、①日照条件や悪天候に左右されない安定供給による定価
格化 ②生産地が確定した高い安全性(トレーサビリティ)③病害虫が介在
しないクリーン環境(無農薬)④生育環境制御による高効率生産、など幾つ
かの利点がある。また、経験が重視される古来の農法に比べ、マニュアル
を準備すれば農業知識を持たない若年層を雇用することも可能となり、農
業従事者の高齢化に歯止めがかかる。
これに相対して、⑤高額な設置費用と運営コスト ⑥栽培品種の制限 ⑦
環境制御の新規なノウハウ ⑧植物工場における食の安全管理、が大きな課
題としてのしかかる。⑤では、同レベルのハウス栽培に比べて設置コスト
が 17 倍、運営コスト(特に電気料金)が 47 倍にも増加する。
植物工場を成功させるには、光源の低電力化による運営コストの低減、
高付加価値な野菜の選定が重要となる。前者の低電力化については LED 光
源を用いることにより従来の蛍光灯の 60%程度まで電力が低減できる。高
付加価値野菜の選定については、植物工場でなければできない市場性の高
いオンリーワン野菜を実現できればすべてが解決するが、それを見いだす
には植物工場の歴史がまだ浅い。
◆課題解決の糸口
IT に特化した本校が有する LED 光源の制御技術は高く評価されているも
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
のの、農工連携における利用法については不明な点が多く、JST(科学技術
振興機構)のコーディネータとの打ち合わせにおいては、LED 光源の電力
コストを相殺できる高付加価値な活用方法を見いだすことが重要であると
の指摘を受けていた。半年前から、本校のシーズ技術である植物工場に適
した立体配置 LED 光源を事業化したいという提案が仙台市近郊にある LED
のアセンブリー会社から持ち込まれていた。仙台市にある東経連事業化セ
ンターに勤務するコーディネータに高付加価値な活用方法を相談したとこ
ろ、名取市にある農業・園芸総合研究所を紹介された。何度か足を運ぶう
ちに農業の専門家たちによるアドバイスと共同研究の提案を受け、本研究
の事業化への可能性を見いだすことができた。
◆ LED 光源が持つ研究課題と今後の展望
(キャプション)
写真1 播種5日後の青梗菜苗の回避行動
黄色 LED 照明(左)と赤色 LED 照明(右)
植物工場への LED 光源の利用は蛍光灯の代替技術にすぎず、残された研
写真2 立体配置 LED 光源と発芽苗の様子
究課題は植物工場システム全体のプロセス制御のみというのが多数派の見
解である。しかし、発光スペクトルが非常に狭い単色光の LED 光源を野菜
の育苗に利用すると、発芽後に今まで経験したことのない不思議な現象に
直面する。写真 1 は黄色(左)、赤
色(右)の LED を照射し続け、播
種 5 日後に撮影したチンゲンサイ
苗の写真である。すべての苗が
光源を回避する行動を取ってい
ることが分かる。さらに 5 日経過
すると黄色 LED の照射苗は光源
の方向を向き始めるが、赤色 LED
写真1 播種5日後の青梗菜苗の回避行動
黄色 LED 照明(左)と赤色 LED 照明(右)
写真 1 播種 5 日後のチンゲンサイ苗の回避行動
の 照 射 苗 は 回 避 行 動 を 続 け る。
黄色 LED 照明(左)と赤色 LED 照明(右)
また、写真 2 のように LED 光源を
立体配置することにより発芽苗の徒長が抑制され
ることも明らかとなった。これらの結果から、発
芽苗には発光スペクトルが狭い人工光を太陽光と
区別する記憶が組み込まれていると推論せざるを
得ない。以上のように、野菜等の農産物への LED
光源の利用はいまだに解明されていない部分も多
く、農工連携で取り組むべき重要な研究課題と認
識している。
今回お世話になった東経連事業化センターに勤
務するコーディネータの方々は、工業ばかりでな
写真 2 立体配置 LED 光源と発芽苗の様子
写真2 立体配置 LED 光源と発芽苗の様子
く農業や漁業分野の知識も豊富で、その分野に精
通する研究者とのパイプも太い。工業分野の産学連携という狭い領域のみ
で行動してきたわれわれにとっては、農業という異分野の研究者との連携
で今後の研究の幅を広げるための重要なシーズを頂いたものと感謝してい
る次第である。
最後に、現在の植物工場は多くの課題を抱えているが、地球温暖化とい
う気候変動に直面している人類にとっては、近い将来必ず必要となる技術
であると認識して農工連携を推し進めていく所存である。
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
本物の里山をどう生かす−里山を活用した
低炭素環境コミュニティーのモデルづくり
京都市の西隣亀岡市。ベッドタウンであり、京野菜の供給地として知られているが、こ
のような都市のすぐそばにも山間の地には限界集落がある。ところが、そこには現役の
里山が温存されている。その里山を新たな環境デザインのモデルとして、アカデミアが
住民、自治体と連携した取り組みを始めている。
亀岡市は京都府の中央部に位置する中都市である。亀岡盆地の中心には、
保津峡を経由して京都市内に流れ下る桂川がある。盆地の南側、大阪府と
の境にある北摂山地が分水嶺(れい)となっており、北側は桂川水系、南側
は安威川・神崎川水系となっている。この分水嶺を持つ限界集落、それが
中川 重年
(なかがわ・しげとし)
京都学園大学 バイオ環境学部
バイオ環境デザイン学科 教授
西別院町大槻並である(写真 1)。現在、ここで 8 戸 18 名が暮らし、住民の
多くは今でも里山の雑木をエネルギー源として使っ
ている。もちろんプロパンガスや電気といったエネル
ギーも使った上でのことであるが、ここは寒天の製造
が行われてきた場所で大量の薪(まき)が生産、消費
された歴史的な集落である。
大槻並ではアベマキ、コナラ、クヌギを主にした雑
木林=里山が広く分布しているが、毎年一定面積が伐
採され、齢級の異なる林分が各所に見られる。ほかの
地域ではまず見られない里山の本質がそこに見られ、
夕方民家から煙が立ち上る景色は特別の感動をわれわ
れに与えてくれる。
写真 1 亀岡市西別院町大槻並
◆変形した里山
とはいえ、まったく昔の雑木林利用のシステムがここで温存されている
わけではない。例えば落ち葉=堆肥(たいひ)を得るための林内での落ち葉
かきは既に行われていない。このほか宅地として管理されないまま残った
木々も大きく育ち、住民の生活に重圧を与えている。さらに農地と林地の
境界部分は、①日照時間を増やす ②いもち病など病気の予防のための風
通しの確保−−といった点から幅 8 メートルほどの山側の部分を帯状に草
刈りを行っている。陰伐地と呼んでいるが、当地方では「わち」、南関東で
は「こさ」と呼んでいる。大槻並には小さなエリアであるにもかかわらず、
1,000 メートルを超える「わち」がある。
現在一部を除き、全体では 20 年以上前から管理放棄され、森林状態と
なっている。良好な山間の里山景観構成要素としてこの「わち」は重要かつ
特徴的であるが、同時に、希少種を含む草地植生がしばしば見られる。こ
のほか大谷、池上といった枝谷では既に 3、40 年も前から耕作放棄が起き、
http://sangakukan.jp/journal/
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
水田や段々畑が森林化している。子細に見てゆくとこのような変化が見ら
れるのである。
◆大学、地元団体との取り組み
筆者は 2 年前に樹木調査でこの地を訪れ、適度な規模と里山林の本質と
も言える伐採が燃料革命以降も連続的に続いていることを知った。そして
低炭素環境コミュニティーのモデル地として評価し、本学の試験実習研究
地として地元とコラボレートができないか検討を重ねてきた。京都府、亀
岡市(本学との包括研究協定を結んでいる)と連携し、地元とさまざまな協
議を重ねてきた。
一方では都市域の企業、団体に対しても活動内容について説明を行って
いった。その結果、現在ではボーイスカウト連盟大阪 138 団とコラボレー
ションを行うに至っている。この 138 団は本地域を流れる大槻並川の下流
(下流では安威川と呼ばれる)に住んでいる住民である。このため、この地
域に対する協力・理解が得やすかったことと、活動の方向が既設のキャン
プ場でなく、より自然度の高いキャンプサイトを探していたことが合意に
至った理由でもある。
地域に対する基本的考えとして経済的負担を求めない、地域のコミュニ
ケーションを重要視することとし、公共性の高い場所の保全活動を行うな
どを合意事項とした。
公共性の高い項目としては、前述の「わち刈り」、神社寺の敷地の清掃活
動、道路の草刈り保全活動が挙げられる。
個人レベルの作業項目としては、森林化した放棄水田(棚田)の管理、崩
壊したため池の修復、個人敷地内傾斜地の樹木の伐採管理、水田の再生な
どであった。
言うまでもなく、地元との信頼関係を高めてゆくことは極めて重要であ
る。個人的なレベルでは協力が得られても地域全体での合意が得られるに
は時間がかかる。まずわれわれの学部の目指している目標を提示、バイオ
環境デザインの設立趣旨から説明し、当研究室の研究目的、大学と地域の
コラボレーションの意味などについて理解を深めていった。このために区
長さん、住民との打ち合わせを 20 回程度、ボーイスカウトと数回の打ち合
わせを行い、地区全体への説明会を 2 回行い、一定の合意が得られた。同
時に管理作業を進めるに当たって、アマチュアでは限界があることから林
業土木企業(大阪府能勢町)に対して、当研究室の目的を理解していただき、
さらに予算の貧弱な事業であること、地域には迷惑を掛けないことなどの
理解を求め協力をお願いした。
◆公共性の高い作業
3 月には当初の目標であった「わち刈り」が復活、株式会社古嶋商店の協
力で当初計画の数倍に及ぶ 300 メートルもの「わち帯」が再生できた(写真
2)。この作業はプロチーム延べ 19 名(パワーショベル 1 台)とボーイスカ
ウト 60 名、本学の学生参加の共同作業の結果である。地区に再生された
http://sangakukan.jp/journal/
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
「わち」は実に壮大で、かつての里山の景観を表してい
る。春を迎え伐採した木々については萌芽(ほうが)
が起き再生するし、草本植物も光環境の改善から今ま
で見かけなかった種類も見られるようになるだろう。
研究室では卒業研究のテーマとして選定しており、新
しい貴重なデータが蓄積されると考えられる。なお実
施後この「わち」を住民の方が何回か見に行き、
「昔の
大槻並がよみがえった、うれしい、うれしい」と素直
に喜んでいただけたと聞いている。本年度もこの作業
を延長していく予定にしている。2 年間で「わち」再生
事業が終了、維持管理が容易になると考えられる。
写真 2 再生された「わち帯」
◆個人レベルの作業
メンバーが個別に行った作業には次のようなものが
ある。
1.独居老人宅の宅地斜面の樹木伐採。
2.宅地奥に続く放棄水田を整備し、ボーイスカウ
トのすてきなキャンプサイトにした。さらに水
場の確保で、以前崩壊したため池の再生を行っ
た(写真 3)。この作業については本学、ボーイ
スカウト延べ 100 名を超える参加があったため、
当初目標であった 2、3 年での作業が 3 カ月で終
了した。その結果、本年 5 月から本格的な利用
が始まり、ボーイスカウトが数十名規模で定期
写真 3 ボーイスカウトのキャンプサイトに再生された
ため池
的にキャンプを行う予定となっている。このことから地元に対する
奉仕活動が活発化すると考えられる。
3.農業面では放棄水田を再生、米を生産した。その米は本学の昨秋の
大学祭で使用。本年は酒造りに適した品種を実験的に栽培し、学部
内でコラボレーションし新しい特産品をつくる試みを考えている。
さらに本学の取り組みとして現地に活動時の拠点を確保し、本学および
他大学の里山研究のフィールドとして活用するために調整を行っている。
大槻並の取り組みを亀岡発の低炭素社会構築のモデル事例と位置付けて
いるが、現在、大学と地域が協働し、より広域の北摂山地集落を結ぶ農業
林業ネットワークをつくるため、並行して大阪府豊能郡能勢町(ウッドチッ
プの堆肥化)、亀岡市西別院町神地(クヌギの製炭、植林、自然教育活動
フィールド)、西別院町(寒天作りの再生)、亀岡市曽我部町(クヌギの造林
利用)などと、気候と地域特性とを生かした取り組みを行っている。
http://sangakukan.jp/journal/
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産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
「大規模イノベーション」成功のカギ
インプット・アウトプット政策をトータルに考える
立本 博文
「大規模イノベーション」の世界の状況と、その研究動向を整理し、成功させるための
条件を提示している。大規模イノベーションとは、複数の企業が産業の垣根を越えて連
携し産業標準をつくったりする一方、政府が規制緩和や要素技術開発助成をしたりする
トータルの取り組みのこと。要素技術を開発するインプット政策と、それを標準化する
アウトプット政策をトータルに考えるべきと指摘する。
(たつもと・ひろふみ)
兵庫県立大学 経営学部 准教授
現在、グリーンテクノロジー/次世代エネルギーシステム関連の産業で
活発なイノベーションが行われている。例えば、スマートグリッド等の新
系統技術、電気自動車、太陽光・風力発電などの再生エネルギーシステム
などが、このイノベーションに含まれる。これらは、1 社単独で要素技術
開発から技術の市場導入を完結することが難しい。複数の企業が協力をし
ながら、従来産業の垣根を越えて連携し産業標準をつくったり、政府が規
制緩和や要素技術開発助成をしたりと、大規模な調整が必要となる。この
イノベーションのことを「大規模イノベーション」と呼ぶ。
大規模イノベーションは大規模投資が必要なため、その回収を求めてグ
ローバルに市場を求める傾向がある。また、大規模イノベーションで開発
された基盤的技術は、各国で受け入れられ、社会厚生を上げるのに役立つ。
そのため、大規模イノベーションを通じて、最終的に国際分業がどうなる
のか、国際競争力を確立するためにはどうすれば良いのか、といった問い
が重要な意味を持つのである。
大規模イノベーションをどのように成功させるかについては、1980 年
代以降、さまざまな研究がある。とりわけ半導体産業は、大規模イノベー
ションの典型である。日本の超 LSI 技術研究組合を筆頭に、セマテック(米
国、後の ISMT)や、ENIAC(欧州)などのコンソーシアムタイプの研究開発
が行われている。各国政府もこれらのコンソーシアムに対して、直接・間
接的に支援を行っている。われわれの研究チームが調査しているスマート
グリッドや再生エネルギーシステムなども、同様のコンソーシアムタイプ
の研究技術開発が観察されており、これがどのように産業構造・競争力に
影響するのかが議論の対象になっている(小川・立本 , 2009;富田・立本・
新宅・小川 , 2010)。
◆技術成果が国境を越える
ところで、これらコンソーシアムタイプの研究開発は、スピルオーバー
効果が大きく、技術成果が国境を越えてしまい、必ずしも自国産業のため
に役立っていないのではないか、と疑問が呈されている。さらに共同研究
の技術的成果そのものについても疑問符が多い。つまり「共同研究でなけ
http://sangakukan.jp/journal/
31
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
れば、その技術ができなかったのか?」
「1 社だけでも同様の技術は開発で
きたのではないか」という点についての疑問である。
これらの疑問にもかかわらず、コンソーシアムタイプの研究開発は、産
業に大きな影響を与えていると考えられる。というのは、その成果が業界
標準化されるからである。例えば、1990 年代のセマテックの事例を振り
返ってみると、セマテックの研究成果は SEMI(半導体の材料製造装置の業
界団体)を通じて業界標準化された。そして、この標準化が後の 300mm 工
場の投資競争で国際競争力の構築プロセスに大きな影響を与えた(富田・
立本 , 2008;立本・富田・藤本 , 2009)。すなわち半導体産業の事例では、
要素技術側のコンソーシアム(セマテック)と、業界標準化側のコンソーシ
アム(SEMI)という 2 つの異なったコンソーシアムが連携して動いていたの
である。大規模イノベーションに関するコンソーシアムをよく観察してみ
ると、同様の構造を頻繁に観察することができる。産業政策の観点から整
理すると、前者はインプット側政策であり、後者はアウトプット側政策で
ある。
◆インプット側政策は産学連携重要視
現在、インプット側政策は、米国・欧州委員会共に産学連携が最も重要
視されている。欧米の違いは、この産学連携のコンソーシアムに政府資金
を積極的に注入するかどうか、である。伝統的に米国は慎重な態度をとっ
ている。欧州は 2005 年の新リスボン宣言を受けて、積極的に資金を注入
する態度をとっている。新興国のインプット政策は、先進国のアウトプッ
トをいかに素早く受け入れるのか、という点に集中している。場合によっ
ては、新興国の大企業は自国の開発コンソーシアムでは飽き足らず、先進
国の開発コンソーシアムに参加している。いずれにせよ、要素技術開発タ
イプのコンソーシアムで「全く新しい技術的成果が創出される」というのは
オープンコンソーシアムへの
政府資金の拠出
国立研究所
標準規格開発
共同技術開発
企業
産官学連携
コンソーシアム
企業内の
イノベーションプロセス
技術成果の採用
企業
大学
共同研究の
Input政策
企業
標準化
コンソーシアム
企業
共同研究の
Output政策
先進国市場
新興国市場
BRICs市場
技術シーズ
市場
http://sangakukan.jp/journal/
32
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
懐疑的である。むしろ、産業全体が欲しがるが、投資リスクが大きいため、
技術開発を共同して行うことに、コンソーシアムが利用されている。この
ためインプット側の開発成果(要素技術)は、アウトプット側のコンソーシ
アムに採用され産業標準として利用されることが多い。
◆コンソーシアムで標準をつくる
より産業に影響を与えているのが、アウトプット側のコンソーシアムで
ある。ここでは、もっぱら標準規格を策定している。コンソーシアムは、
産業資金で運営され、海外企業が参加しやすいように(海外企業を巻き込み
やすいように)なっている。コンソーシアムでつくられる標準をコンセンサ
ス標準と呼ぶ。米国のコンセンサス標準は、類似のコンセンサス標準が市
場で競争することが多い。一方、欧州のコンセンサス標準は、地域標準機
関(CEN / CENELEC / ETSI)等を介して、市場導入前に一本化することが
多い。しかし、いずれにせよ重要なのは、コンセンサス標準は標準を主導
する先進国企業の都合の良いような標準が成されている、という点である。
新興国のアウトプット政策は、もっぱら先進国のインプット政策のスピ
ルオーバーを取り込むように設計されている。最も代表的な制度は投資優
遇税制である。これは量産段階にボトルネックになる大規模設備投資を減
免することによって、先進国コンソーシアムで開発された要素技術の市場
導入を早めるものである。経済特区などの立地政策はまさにこの代表例で
あるが、日本の取り組みはアジア諸国に先を越されている。
◆オープンイノベーションに適応できていない
企業としては、この新しい産業環境にあわせた、新しいイノベーション
パターンの構築が求められている。その 1 つの現象が、オープンイノベー
ションと呼ばれるイノベーションパターンである。オープンイノベーショ
ンでは、外部の要素技術イノベーションを活用し、組み合わせと統合を行
う内部プロセスを経て、外部組織(コンソーシアム等)を活用しながら、技
術の市場導入が行われる。残念ながら、日本企業はこの流れにうまく適応
できていない。
いま一度、産業政策側に話を戻そう。これらの国際的な動きの中で、日
本の従来型アウトプット政策としての立地政策は有効性を失っているので
はないか、と考えられる。今求められているのは、インプット政策とアウ
トプット政策をトータルに考えること、さらに、新興国へのスピルオー
バーへの対処である。スピルオーバーは避けられないということを前提に、
①日本国内に経済特区等を含めたスピルオーバーのプール地をつくること
②海外にスピルオーバーした場合、海外の成長を取り込めるような出口戦
略が準備されていること、ではないかと思われる。われわれの調査研究は、
その端緒に立ったばかりであり、結論を急ぐことはできない。しかしなが
ら、スマートグリッド・再生エネルギーシステムなどの産業の重要性をか
んがみれば、これら大規模イノベーションに対するイノベーション研究の
蓄積が今後ますます必要なものとなるだろう。
http://sangakukan.jp/journal/
33
参考文献
●富田純一;立本博文.半導体
産業における国際標準化戦略
− 300mm ウェーハ対応半導
体製造装置の事例−.東京大
学ものづくり経営研究センタ
ーディスカッションパーパー.
2008, No.222.
●立本博文;富田純一;藤本隆
宏.プロセス産業としての半
導体産業.所収 藤本隆宏;桑
嶋健一.日本型プロセス産業
−ものづくり経営学による競
争力分析.有斐閣,2009.
●小川紘一;立本博文.欧州の
イ ノ ベ ー シ ョ ン 政 策: 欧 州
型 オ ー プ ン・ イ ノ ベ ー シ ョ
ン・システムの構築.東京大
学ものづくり経営研究センタ
ーディスカッションパーパー.
2009, No.281.
●富田純一;立本博文;新宅純
二郎;小川紘一.ドイツにみ
る産業政策と太陽光発電産業
の興隆:欧州産業政策と国家
特殊優位.赤門マネジメント・
レビュー.9 巻,2 号,2009.
(参 考 URL「赤門マネジメン
ト・レビュー」http://www.
gbrc.jp/journal/amr/
index.html)
筆者連絡先(e-mail)
[email protected]
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
能登半島で展開する里山里海をテーマにした
人づくりと地域連携
能登半島で行われている産学官による地域再生の試み。21 世紀型の里山、里海構築が
キーワードだ。半島先端、珠洲市の廃校になった小学校施設に金沢大学が拠点をつくり、
さまざまなプロジェクトを仕掛けている。
日本海に突き出た能登半島の先端に金沢大学の能登学舎(石川県珠洲〔す
ず〕市)がある(図 1)。能登の人たちに場所を説明すると、
「サザエのしっぽ
宇野 文夫
の先のようなところに学校があるのですね」と驚かれることがある。この
(うの・ふみお)
能登学舎では、科学技術振興調整費で運営する「能登里山マイスター」養
金沢大学 客員教授、地域連携
成プログラムをはじめ、地域再生や生物多様性をテーマとしたプロジェク
コーディネーター
トが動いている。さらに、金沢大学は本年度、
「能登オペレーティング・ユ
ニット」という教育と研究の現地支援機構を立ち上げ、本格的なリージョ
ナルセンターとする予定だ。能登半島の先端、サザエのしっぽの
先からどのような視野が広がっているのか。そしてここは大学の
能登学舎
地域連携の現場でもある。
能登学舎は、廃校になっていた小学校施設を珠洲市から無償で
借りて研究交流施設として活用している(写真 1)。金沢大学から
150 キロ離れた場所だ。学舎の窓からは日本海が望め、海の向こ
うに立山連峰のパノラマが展開する。目を見張るようなこのロケー
ションに心を動かされ、同市に施設提供の打診をしたのは 2006 年
7 月のことだった。三井物産環境基金の支援を得て、
「能登半島・里
山里海自然学校」のプログラムを実施する活動拠点を能登で探して
いたのだが、同市の反応は早かった。その 1 ヵ月前に誕生した新市
長は 41 歳という若さで、大学の要望を即決してくれた。奥能登に
は高等教育機関がなく、
「大学を」との地域のニーズとマッチしたこ
とが背景にある。さらに、研究交流施設として使いやすいように
金沢大学
と、改修工事のため 4,600 万円の予算付けに市が動いた。決して
楽ではない財政の中でのやり繰りに、自治体の期待と熱意が伝わっ
図 1 金沢大学能登学舎の位置
てきた。
◆常駐の研究員が生物多様性調査
里山里海自然学校では、常駐する博士研究員
が地域住民の協力を得ながら生物多様性調査を
行うことをメインに、地域の子供たちへの環境
教育も実施している(写真 2)。研究員の専門は
キノコ類である。地域の人たちと山歩きをする
中で、コノミタケと呼ばれるホウキタケの仲間
があり、すき焼きの具材として能登で珍重され
ていることを知る。鳥取大学の研究者と DNA
http://sangakukan.jp/journal/
写真 1 廃校の校舎を活用した能登学舎
34
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
解析を試みると新種であることが分かり、
「ラマリア・ノト
エンシス(能登のホウキタケ)」
(和名:コノミタケ)と学名
を付けることになった。現場に足を運んで得られた臨地的
研究の 1 つの成果であり、地域にとっても能登の名が冠せ
られた学名は誇りでもある。地味な取り組みではあるもの
の、大学の地域連携はこうした発見や喜びの分かち合いを
醸すことだと考えている。
能登半島は過疎・高齢化が進み、耕作放棄地も目立って
いる。追い打ちをかけるように 2007 年 3 月 25 日、能登半
島地震(震度 6 強)が起き、2,000 もの家屋が全半壊した。
能登の地域再生は待ったなしとなった。このタイミングで、
科学技術振興調整費のプログラム「地域再生人材創出拠点
の形成」に申請していた「能登里山マイスター」養成プログ
ラムが採択された。このプログラムのミッションを地域と
連携して遂行するため、金沢大学と石川県立大学、そして
能登にある輪島市や珠洲市など 2 市 2 町の自治体の 6 者が
「地域づくり連携協定」
(07 年 7 月)を結び、同年 10 月に開
講にこぎ着けた(写真 3)。自治体には受講生の募集業務や、
移住してくる受講生の居住の窓口として協力を願ってい
る。
写真 2 水田で生き物調査
写真 3 地域づくり連携協定の調印式
◆修了した 1 期と 2 期の里山マイスターは 26 人
環境配慮型の農林漁業や農家レストラン、エコツーリ
ズムなど地域ビジネスに取り組みたいという 45 歳以下の
若者 47 人(3 期生と 4 期生)が学んでいる。すでに 1 期生
と 2 期生 26 人を「里山マイスター」として輩出した(写真
4)。新規就農者のほか企業の農業参入の中心になっている
者や、神棚などに供えるサカキの能登産ブランドに取り組
む者など多士済々である。そして、本年迎えた 4 期生の 26
人は女性が 12 人、首都圏などからの移住組が 6 人と際立っ
ており、デザイナーや青年海外協力隊の OG、IT 技術者な
ど多彩である。
写真 4 平成 21 年度の里山マイスター認定者たち
4 月 10 日、能登学舎で 4 期生の入講式があった。桜井勝
副学長が式辞で、
「皆さんに期待するのは、21 世紀型農業、
21 世紀型里山や里海の構築です。能登の自然・伝統農作物・伝統文化など
豊かな地域資源をもとに、皆さんの独自の発想と科学的な手法で、ぜひ、
新しい認識や価値観を創出してください」と述べた。能登に根差しながら
人づくりの夢を持って地域再生を進めていくという大学の思いをにじませ
た言葉だった。
能登には人を育てる風土や気風というものがあると常々考えている。次
世代を担う里山マイスターの若者たちが本格的に動き出せば、能登の風景
は明るく変わるに違いない。そのようなことを思い描きながら、地域連携
コーディネーターとしてこのプログラムの運営に携わっている。
最後に、少々強引かもしれないが、
「産業」を「地域」と置き換えて考えれ
ば、地域連携も産学官連携も同じ視座にあるのではないかと思っている。
要は、そこに広がる風景を明るくしたいのである。
http://sangakukan.jp/journal/
35
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
韓国企業家精神の神髄とは?
−両班精神とアントレプレナーシップ−
崔 銀順
世界的不況の中で韓国企業の躍進が際立つ。韓国企業がグローバル企業に展開できた原
動力は何か。韓国企業が IMF ショック等の厳しい環境を乗り越えてきたのは、単に経営
の合理化とドラスチックなリストラクチャリングだけではない。その底流には、韓国固
有な価値観としての “企業家精神の発揚” があると考えられる。
(チェ・ウンスン)
駒澤大学 経営学部 講師
企業は「人」なり、組織は「人」なり、経営は「人」なりと言われる。韓国
を代表する企業であるサムスン電子は創業以来「人材が第一」を経営哲学と
し、
「世界ナンバーワン」を目指し、優秀な人材が最大限の能力を発揮でき
るように、絶えず組織をデザインするのが特徴である。2009 年末に就任
した同社の崔志成(チェ・ジソン)社長兼最高経営責任者(CEO)は、より客
観的評価を重視する人事制度を取り入れる一方、ミドルマネジメントの大
規模な抜てき人事を行った。
「人」を経営の中心に考える韓国企業家のビジ
ネス価値体系の根幹にあるものは両班精神ではないだろうか。
◆両班(やんばん)精神とは?
朝鮮時代(1392 − 1910)に “科挙試験” *1 が採用されていた。
「両班」はも
ともと文班(文臣)と武班(武臣)の 2 つの官職の総称であったが、この 500
年の間に、国家統治理念であった朱子学が日常生活に浸透するにつれ、知
識人や道徳的指導者を輩出する “身分階層” を意味するようになった。
科挙試験は自分の努力で「立身揚名」を可能にするダイナミックな社会的
仕組みであった。伝統社会の教育システムは中央に国立大学である「成均
館」と中等教育の「四部学党」を置き、地方の邑(ムラ)ごとに「四部学党」と
同格の「郷教」が設置された。
私塾としては「書党・精舎」があり、これらは 16 世紀には在地両班層に
よる「書院」へと発展した。
「書院」の発達は両班の概念を大きく変えた。私
塾を通じて朱子学の理念が広まり、18 世紀以降には社会全体に両班志向
化、すなわち両班的価値観とその行動パターンが見られるようになった。
近代はこうした価値観、行動様式がより深く社会に浸透し、いわゆる「両
班社会」が形成された。現在もなお韓国社会を特徴付ける基層文化として
位置付けられる。このように韓国社会における両班の概念は、狭義には伝
統社会における支配身分階層であるが、広義には朝鮮時代 500 年にわたる
社会慣習を通じて形成された “身分上昇志向としての韓国人のアイデンティ
ティー” として定義付けられる。
「国のため」
「家族のため」という大義名分のもとで培われた韓国固有な価
値観としての両班精神は、経済の近代化過程で新たな精神構造の機能を果
たし、今日の韓国企業家精神の原動力として働いたと考えられる。図 1 は
両班精神を表したものである。すなわち、両班精神は韓国の文化的伝統を
基層文化とし、環境変化から学習された要因を表層文化とする 2 層に成り
http://sangakukan.jp/journal/
36
*1: 朝 鮮 時 代 は 文 人 化 政 策 の
ため文科試験を重視した。文科
試験は 3 年に 1 度行われた。
「生
員科」と「進士科」は『小科』と
し、15 歳 以 上 が 受 験 で き、 合
格すれば中央の最高学府である
「成均館」に入学資格を与えられ、
下級官吏に採用される。さらに、
高級官吏になるためには『大科』
に合格しなければならない。
『大
科』は「成均館出身者」と「小科
合格者」が受験できる。試験は
3 段階に分けて実施された。す
なわち、初試に合格した者は翌
年の春、中央で行われる 2 次試
験にあたる『覆試』に臨む。覆試
合格者はさらに国王が宮中で直
接試問する『殿試』
(= 3 次試験)
に臨む。厳しい競争を経て、首
席で合格した者を『壮元』という。
『壮元』は栄光に包まれ、一族も
含め、多大な栄華を極めた存在
であった。
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
立つハイブリッドモデルである。
外面的行動基準
◆アントレプレナーシップ
(環境変化から学習された要因)
両班精神
(イノベーションの
精神的源泉)
アントレプレナーシップ(起業家精神)は国に
内面的精神基盤
(韓国の文化的伝統)
よって特徴を有する。精神は文化システムから形
成されるものであるからである。
図 1 両班精神のモデル
韓国は 97 年末のアジア通貨危機の直撃を受け、
97 年の GDP 成長率は 5%、98 年にはマイナス 6.7%と急落した。しかし、
その 1 年後の 99 年にはプラス 10.7%と景気は回復した。いかに韓国企業が
スピーディーに対応し、韓国経済がダイナミックに対応しているかが読み
取れる。近年は「サムスン」
「LG」
「現代」などの韓国企業がグローバル企業と
して躍進している。日本経済のバブル崩壊後、韓国企業が優位に立ってい
る要因の 1 つは、世界の新しいビジネスモデルのパラダイムに素早く対応し、
官民タッグで標準化を図り、イノベーションを先導してきたことである。
1993 年に韓国政府はグローバル化という国家戦略を掲げ、
「世界は無限
競争時代である。競争力のある国だけが生き残る」と宣布し、国民に意識
改革を求めた。同年、サムスングループの李建熙会長も「新経営」を宣言し、
「妻と子供を除いてすべて変えよ」という表現で社員を奮起させた。
韓国政府は当時の携帯電話の世界標準であった欧州方式の GSM を採択せ
ず、戦略的に米国方式の CDMA(苻号分割多元接続)を選択して国のスタン
ダードとした。また、政府は高速ブロードバンドインフラを世界最高レベ
ルに整備し、韓国企業家が通信事業のビジネス分野で競争力を保ちやすい
環境を整えてきた。今や、CDMA 関連の技術は韓国市場で成功し、世界の
規格標準となった。現在、サムスン電子をはじめ韓国メーカーは、CDMA
の分野では世界初の端末製品をつくるまでになっている。サムスン電子の
崔社長は今年の春、サムスン電子の経営方針と戦略を「グローバルオープ
ンイノベーションと戦略的提携に基づく多様なパートナーシップ形態で成
長を目指す」と定めた。
韓国政府は産業構造の変化にスピーディーに対応し、
「人」と「情報」をつ
なぐ “インフラ” をつくった。企業家は企業家精神を発揮して、その “インフ
ラ” を積極的に活用することによってイノベーションを先導してきた。その
根底にはハイテク技術を自然に受け入れ、使いこなす教育熱心な国民性が
*2:植竹晃久;佐藤和;崔銀順.
三田商学研究.第 46 巻 , 第 6 号,
ある。韓国企業家精神は現在の常識を越えるチャレンジ精神と闘争心も備
慶 應 義 塾 大 学 商 学 会 編 , 2004,
p.49-71.
えている。
◆韓国企業家の精神的原動力
各国の経済の背後にはその国固有の文化がある。IMF ショック以後の「韓
「温故知新型」
国企業家精神」の類型化に関するわれわれの研究 *2 によると、
が代表的であった。この型の価値観を検討してみると、
「韓国の伝統的精神
を継承しつつも、新たな環境変化に対応し、絶えず新たな要素を取り込ん
で、時代の要請に応えていく」という柔軟な側面を備えている。前述の「ハ
イブリッド型」の発展形態である。そうした歴史経路とほかの諸文化・諸
制度の相互補完関係のもとに、今日の「韓国企業家像」が形成されたのであ
る。いつの時代においても、韓国独自の経営形態を創り出す「韓国企業家
の精神的原動力」は両班精神ではないだろうか。
http://sangakukan.jp/journal/
37
●参考文献
(1)崔銀順.アントレプレナー
シップ−韓国企業家精神の
ダイナミズム−.東京図書
出版会,2009.
(2)妹 尾 健 一 郎. 技 術 力 で 勝
る日本がなぜ事業で負け
る の か. ダ イ ヤ モ ン ド 社,
2009.
(3)小倉紀臧.韓国は一個の哲
学である.講談社,1998.
(4)塚本潔.韓国企業モノづく
りの衝撃.光文社,2002.
(5)韓 国 経 済 新 聞 社 編, 福 田
恵介訳.サムスン電子−躍
進する高収益企業の秘密−.
東洋経済新聞社.2002.
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
連載 ニュービジネス創出・育成に向けた銀行界の役割
第2回
銀行の産学官連携への取り組み状況(その1)
全国銀行協会 金融調査部
連載第 2 回目、第 3 回目は、全国銀行協会(全銀協)正会員 *1 へのアンケート結果から、
銀行における産学官連携の取り組み状況を概観する。2003年以降、金融庁によるリレー
ションシップバンキングの推進が 1 つの契機となり、多くの銀行で取り組みが行われる
ようになり、また、具体的な取り組み事例についても 71 件の報告があり、銀行におい
ても積極的に取り組んでいる姿が見られた。
*1:都市銀行、地方銀行、信託
銀行、第二地方銀行協会加盟銀
行など。
◆銀行における産学官連携の取り組み
全銀協では、正会員の産学官連携の取り組み状況を調査するため、アンケー
トを実施した。
その結果によれば、銀行においても企業や大学の産学官連携の取り組みをサ
ポートしていることがうかがえる *2。こうした取り組みは、産学官連携をめぐ
る法律等の整備や金融庁のリレーションシップバンキングの方針等を受け、よ
り一層進むようになってきている。
*2:例えば、企業がビジネスに
おいて、大学に技術面での解決
を求める際に、銀行がそのニー
ズとシーズのマッチングを仲介
するケースなどがある。
(1)取り組みの状況(銀行数)
全銀協正会員 126 行中 109 行(約 86.5%)と、大多数の銀行が何らかの取り
組みを行っており、積極的な姿勢がうかがえた。一方、当面取り組む予定のな
い銀行は 5 行と少数であった *3。
*3:そのほか、
「取り組むかどう
か検討中」などの回答が 12 行か
らあった。
(2)開始時期・契機
取り組みを始めた時期は、地域金融機関に限らず、2003 年以降とする回答
が最も多く 89 行(79.5%)であった。
多くの銀行から、産学官連携の取り組みの契機として、金融庁によるリレー
ションシップバンキングの推進(2003 年以降)が挙げられた。また、国立大学
の法人化(2005 年)も 1 つの契機となったことがうかがえる。
【図 1】取り組みの契機
(銀行数:複数回答可)
①
4行
②
7行
③
2行
④
1行
⑤
63行
⑥
19行
⑦
20行
⑧
6行
⑨
21行
0
10
20
30
40
50
60
①科学技術基本法(1995年)
②大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律
(1998年)
③産業活力再生特別措置法(1999年)
④産業技術力強化法(2000年)
⑤金融庁「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」・「中
小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」策定(2003年)
⑥国立大学等が独立行政法人へ移行(2005年)
⑦金融庁「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム」・「中小・地
域金融機関向けの総合的な監督指針」の一部改正(2005年)
⑧金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」改正(2007年)
⑨その他
http://sangakukan.jp/journal/
70
(回答)
①科学技術基本法(1995 年)
②大 学等における技術に関する研究成果の民間事業
者への移転の促進に関する法律(1998 年)
③産業活力再生特別措置法(1999 年)
④産業技術力強化法(2000 年)
⑤金 融庁「リレーションシップバンキングの機能強
化に関するアクションプログラム」・「中小・地域
金融機関向けの総合的な監督指針」策定(2003 年、
2004 年)
⑥国立大学等が法人化(2005 年)
⑦金融庁「地域密着型金融の機能強化の推進に関する
アクションプログラム」・「中小・地域金融機関向
けの総合的な監督指針」の一部改正(2005 年)
⑧金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指
針」改正(2007 年)
⑨その他
38
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
(3)取り組み目的
多くの銀行は複数の取り組み目的を持っており、
「地域経済の活性化」が最も
多く(99 行)、
「ニュービジネスの育成」
(68 行)、
「大学等の研究成果の移転・活
用」
(63 行)と続いている。
このことからも、リレーションシップバンキングの推進が 1 つの契機となっ
ていることを裏付けるものであり、経済成長やイノベーション促進を目的に連
携の取り組みを行っていると考えられる。
【図 2】取り組み目的
(銀行数:複数回答可)
①
44行
②
68行
③
58行
④
99行
⑤
63行
⑥
46行
⑦
(回答)
①イノベーションの促進
②ニュービジネスの育成
③起業支援
④地域経済の活性化
⑤大学等の研究成果の移転・活用
⑥ CSR
⑦その他
10行
0
20
40
60
80
100
120
①イノベーションの促進
②ニュービジネスの育成
③起業支援
④地域経済の活性化
⑤大学等の研究成果の移転・活用
⑥CSR
⑦その他
(4)取り組みにより期待すること
多くの銀行が「地域活性化支援」を取り組み目的(上記(3))としていること
から、これを達成するため、イノベーションによる新事業創出支援や新技術・
新商品開発支援等を期待している。
【主に期待すること】
⇨イノベーション、事業改善、付加価値向上
⇨事 業化に向けた仕組みづくり、新事業創出
支援
⇨新 技術・新商品開発支援、新技術移転活動
の活性化
⇨共同研究
⇨地域経済活性化
⇨シーズとニーズのマッチング
⇨大学のシーズ・ノウハウの提供、企業家
への情報提供、知的財産・技術の評価に
関する情報収集
⇨中小企業支援、ブランド向上
⇨銀行のプレゼンス向上
⇨取引深耕
⇨人材育成
⇨ CSR
(複数回答可)
その他 4行
(5)推進体制
通常の案件と特別
推進体制を見ると、51 行が「経営計画や事業計画」
に規定し、33 行が「取り
な区別はない
23行
銀行の経営計画
組み方針」を定めている。また、これを組織の整備状況から見ると、83
行が産
や事業計画の中に
規定 51行
学官連携の担当部署を決めており、そのうちの 12経営計画や事業
行が、独立部署や専任担当
者を設置している。
計画ではないが、
取組方針が定まっ
ている
33行
産学官連携への取り組みにあたり、しっかりとした体制を構築した上で継続
性を持って取り組んでいることがうかがえる。
1
【図 3】推進体制①
2
【図
4】推進体制②
(複数回答可)
その他 4行
3
4
5
通常の案件と特別
な区別はない
23行
銀行の経営計画
や事業計画の中に
規定 51行
経営計画や事業
計画ではないが、
取組方針が定まっ
ている
33行
1
2
3
4
5
http://sangakukan.jp/journal/
通常の案件と特
別な区別はない
8行
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
(複数回答可)
その他 3行
独立部署設置・
通常の案件と特
別な区別はない
8行
(複数回答可)
その他 3行
独立部署設置・
専担者任命
12行
銀行に統括する
機能はないが、
連携案件として内
容に応じて担当
部署・担当者が
対応 19行
銀行に統括
銀行に統括す
る機能を整備
す
る機能を整
担当部署設置・
担当者任命
71行
39
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
◆銀行における産学官連携の実績
【図 5】取り組み実績
(1)産学官連携の実績
(銀行数:複数回答可)
①
産学官連携の実績を見ると、126 行中の 106 行(84.1%)が「実績
あり」、20 行(15.9%)が「実績なし」との回答であった。
52行
②
49行
③
22行
④
実績のある 106 行のうち、96 行が産学官による連携事業等の推
進のための協定を締結しており、多くの銀行は複数締結している
(平均約 4 件、中央値 2 件)。
82行
⑤
46行
⑥
64行
⑦
35行
⑧
20行
⑨
32行
⑩
具体的な取り組み実績(複数回答)を見ると、
「企業ニーズと大学
シーズのマッチング」が最も多く(82 行)、
「研究会・技術相談会・個
別相談などに参加」
(64 行)、
「シンポジウムなどの開催」
(52 行)
と続いている。
全般的な傾向として、
「マッチング」やその前段階に位置付けら
れる連携事業(シンポジウムの開催・参加、研究会・技術交流会・
個別相談などの開催・参加、コーディネーター派遣)が多く挙げ
られた。
一方、金融面での関与としては、
「ベンチャーキャピタルを通
じての投資等」
(35 行)をはじめ、
「融資」
(32 行)、
「投資ファンド
の設立」
(20 行)が挙げられている。
40行
⑪
27行
⑫
18行
0
20
40
60
80
100
①シンポジウムなどの開催(共催・協賛)
②パネリストや講演者としてシンポジウムなどに参加
(回答)
③大学へのコーディネーターの派遣
④ニーズとシーズのマッチング(企業からの技術相談、大学等からの研究成果・活用相談な
①シンポジウムなどの開催
(共催・協賛)
ど)
⑤研究会・技術交流会・個別相談などの開催
②パネリストや講演者としてシンポジウムなどに参加
⑥研究会・技術交流会・個別相談などに参加
⑦ベンチャーキャピタルを通じての投資等
③大学へのコーディネーターの派遣
⑧投資ファンドの設立
④ニ ーズとシーズのマッチング
(企業からの技術相談、
⑨融資(大学発ベンチャー向け融資等)
⑩大学への寄付講座
大学等からの研究成果・活用相談など)
⑪共同研究
⑫その他
⑤研究会・技術交流会・個別相談などの開催
⑥研究会・技術交流会・個別相談などに参加
⑦ベンチャーキャピタルを通じての投資等
⑧投資ファンドの設立
⑨融資(大学発ベンチャー向け融資等)
⑩大学への寄付講座
⑪共同研究
⑫その他
このほか、
「大学への寄附講座」や「共同研究」も行われている。
(2)実績のある分野
取り組み実績を分野別に見ると、
「ものづくり技術」関係が最も多く(64 行)、
次いで、
「環境」関係(48 行)、
「ライフサイエンス」関係(38 行)となっている。
ここからも、中小企業の支援との関係で実績のある銀行が多いことがうかがえ
る。
【図 6】実績のある分野
(銀行数:複数回答可)
38行
①
31行
②
48行
③
30行
④
23行
⑤
64行
⑥
14行
⑦
2行
⑧
⑨
⑧
⑦
(回答)
⑥
①ライフサイエンス
⑤
②情報通信 ④
③
②
③環境
①
④ナノテクノロジー・素材
⑤エネルギー
①ライフサイエンス
②情報通信
⑥ものづくり技術
③環境
④ナノテクノロジー・素材
⑦社会基盤
⑤エネルギー
⑥ものづくり技術
⑧フロンティア
⑦社会基盤
⑧フロンティア
⑨その他
⑨その他
(注)①~⑧の分類は、科
28行
⑨
0
10
20
30
40
50
60
70
学技術基本計画・第3期の
(注)
①〜⑧の分類は、科学技術基本計画・
(重点)推進分野
第 3 期の(重点)推進分野
(3)銀行における連携の取り組み事例
各銀行に産学官連携の具体的な取り組み事例を聞いたところ、71 件の事例
が寄せられた(概要は全銀協ウェブサイト *4 に掲載)。
全銀協の産学官連携セミナー(2010 年 3 月開催)においては、寄せられた事
例の中から、埼玉りそな銀行から仲介に係る取り組み *5、山梨中央銀行から
コーディネーターに係る取り組み *6、および大垣共立銀行から連携により事業
が結実した取り組み *7 について、講演いただいた。
*5:「 提 携 10 大 学 産 学 官 金 連
携セミナー」開催による参加企
業の産学連携活動に対するモチ
ベーションアップ
*6:山梨大学客員社会連携コー
ディネータ委嘱制度
次回は、アンケート結果のうち、銀行が考えている課題や役割等について見
ていくこととしたい。
http://sangakukan.jp/journal/
*4: レ ポ ー ト は、http://
www.zenginkyo.or.jp/news/
2009/12/25150001.html を
参照。
40
*7:産学官コーディネートサー
ビスの結晶「オクタゴン」
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
地域の物語をつくり出す連帯感
昭和村の冬の花火にみる地域産業創出のヒント
群馬県の赤城山の北西麓にある昭和村(人口 7,700 人余り)は、レタス、ホウレン草、キャ
ベツなど高原野菜の有力産地である。コンニャク芋生産量は日本一を誇る。農業従事者
の平均年齢は若く、活力あふれる自治体の 1 つだ。
2 月 13 日、昭和村総合運動公園で「ウインターフェスティバル 2010」が
開かれ、近県から訪れた人を含むおよそ 2,000 人が楽しんだ。
〈昭和村に花
火を上げる会〉の主催で今年 16 回目。午後 4 時開始。自動車のチューブを
そり代わりに遊ぶスノーチュービング、パンづくり体験、ビンゴ大会など
盛りだくさんのイベントだ。つきたての餅でつくったイチゴ大福、モツ煮、
こんにゃくのみそ田楽など地元産の食べ物も並ぶ。ステージでは和太鼓の
響き、バンドの演奏や歌。ハイライトは 7 時スタートの雪上花火で、40 分
間に 5,000 発が打ち上げられ真冬の夜空を鮮やかに染めた。
◆「どうしてお祭りがないの」
村の若手、中堅 10 人ほどが始めた。春から秋は畑に野菜があるので、花
火は上げられない。このため農閑期の冬のイベントとなった。同会創設メ
ンバーの 1 人、建築業の三代光次さんが小学生の娘、奈美子さんから「どう
してここにはお祭りがないの」と言われたこともきっかけの 1 つになった。
商店街や大型公共施設のある都市部と違って、子どもたちの興味をひくイ
ベントが少ないという面はあるかもしれない。だから「子どもたちに夢と
思い出を」という願いが込められている。
同村には戦後入植した比較的新しい集落もある。同県内では昭和 30 年代
から 50 年代初めに大規模かんがい排水事業が行われた。農業用水を確保し
たことで、この地域の農業は急速に発展した。周辺の都市部以上に変化が
激しく、“新しい” 地域であるとも言える。毎年の「思い出」を重ね、地域の
「物語」をつくっていきたいという思いは大人たちのものでもあるのだろう。
◆回を重ねて連携の輪
フェスティバルは回を重ねるごとに連携の輪が広が
り、いまでは村、商工会、各種団体、保育園や、キヤ
ノン電子、味の素ファインテクノ、藤森工業、佐藤運
送など進出企業も加えた産・官・民のネットワークに
支えられている。
この求心力も元気の源だ。同村では農地が足りず、
農家は村外にも耕作地を求め、遠くは赤城山の南麓の
前橋市内の農地まで借りている。中国などアジア各国
から毎年多くの研修生が訪れる。隣接する沼田市など
からのパートは農繁期には 1,000 人を上回る。若い農
業後継者も多い。現在、昭和村に花火を上げる会の会
http://sangakukan.jp/journal/
41
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
長を務める星野高章さんもその 1 人で、30 代半ばだ。村の農業が元気だか
ら最先端の技術も人も集まる。同村に本社のある野菜農家の集合法人、株
式会社野菜くらぶの成功は全国的に有名だが、個人農家でも年間売上高 1
億円クラスが出始めているという。
加藤秀光村長は語る。
「一昨年、大阪の方から『ホウレン草がとてもおい
しかったので表示されている生産者の佐藤さんに連絡したい』との問い合
わせが役場にあった。昭和村の野菜を食べたことのある人は全国にたくさ
んいるが、今度は村のことを知ってほしい」と。同村は平成 21 年 10 月、
「日
本で最も美しい村」連合に加盟した。模索しているのは村のアイデンティ
ティーなのだ。
「ウインターフェスティバル」に込める若い人たちの思いと
重なって見える。
◆キーワードはアイデンティティー
「平成の大合併」で同村は自立の道を選択したが、それも上述のような地
域の自覚と関係があるのかもしれない。
同じ利根郡の川場村も平成の合併に距離を置いた自治体の 1 つ。道の駅
川場田園プラザなど一連の地域活性化策が成功し、過疎地域指定を解除さ
れている。同村は東京都世田谷区との交流事業が有名で、日本中が「平成
の大合併」の渦の中にあったとき、朝日新聞 1 面に〈川場村 世田谷区と合
併へ〉という記事が掲載されたほどだ。同村教育委員会は今年 2 月、
「川場
かるた」をつくり全世帯と小中学校などに配った。住民がふるさとについ
て知り、興味を持つきっかけにしてほしいという。ここでも地域の物語、
アイデンティティーがキーワードなのだ。
平成の大合併が一段落し、この 2 〜 3 年全国各地の合併自治体で「住民の
声が届きにくくなった」などと不満がくすぶっている。財政基盤を強化し、
事務やサービスを効率化するだけで住民の満足度が高まり地域が活性化す
るというわけではないだろう。地域のアイデンティティーには、外からは
想像できないパワーが秘められているように思う。
◆地域活性化への祈り
翻って全国各地で取り組まれている「研究開発を通じた
新産業創造のプロジェクト」はどうなのだろうか。例えば
東北地方。企業と大学・研究機関の連携や、ベンチャー企
業について関係者の話を聞いていると、この地域を何とか
したいという祈りが伝わってくることが少なくない。地域
の企業、住民に寄り添い、ともに地域の物語をつくってい
こうという研究者もいる。だが、全国を見渡すとそうした
ケースはまだまだ少ないように思う。地域の新産業創出は、
なぜ、なかなかうまくいかないのか、時には視点を変えて
考えたらどうだろう。
かつて「どうしてここにはお祭りがないの」と父親にただ
した奈美子さんは、昨年の同フェスティバルのステージで
父の三代光次さんに感謝の気持ちを伝えるとともに、同日
婚姻届を提出したことを報告し、会場から万雷のような拍
手を受けた。
昭和村はこれからどんな物語を生み、語り継いでいくの
だろう。
(登坂 和洋:本誌編集長)
http://sangakukan.jp/journal/
42
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
★特許庁の特許流通アドバイザーは、技術移転案件の掘り起こしから、企業の契
積み重ねる
特許流通施策の歴史
約、事業化支援を行っている。本部の統括の下、特許実施許諾数などの目標数値
を掲げながらアドバイザー同士のネットワークを駆使しているのが特徴だ。89
人が都道府県や TLO に派遣されている。同アドバイザーと、私のような自治体特
許流通コーディネーター 55 人が参加した全国会議があった。個々の案件が、1 つ
の施策の成果として集約される様を目の当たりにした。産学官連携はコンソーシ
アムをつくり、そのコアを広めてイノベーションにつなげようとするものが多い
が、小さな成約を積み重ねて全体で大きな経済効果を上げていこうという特許流
通施策の歴史は大変勉強になった。
(編集委員・雨森 千恵子)
★最近では「科学・技術」というように科学と技術の間に「・」を入れるのだそう
だ。わたしが大学を卒業してこの業界に職を得たときには、
「科学技術」という欧
米にはない、科学と技術が一体となっていることに日本の強さがあると言われて
いたが、現在の日本は一体どうなってしまったのだろうか−−。改めてそのこと
を考えてみた。産学官連携とはまさに「科学 × 技術」であり、優れた科学の成果
が、日本の強みである優れた技術とのかけ算により相乗効果を発揮することを目
指す。いかに科学を育てるかはもちろん重要。もう一方で、技術を強化するだけ
では不十分で、それらをつなぎ合わせる連携をいかに行うかが一番重要なように
思う。
(編集委員・遠藤 達弥)
産学官連携=
科学×技術
★今年 2 月号の特集「実用化への志と喜び」の 1 つ、増本健氏の「アモルファス合
知財戦略支援の大切さ
金」の記事に同合金の日米間特許係争の経過が書かれている。最後まで米企業と
争い、勝訴した日立金属だけが事業を継続し、平成に入り係争した米企業の同部
門を買収して 60 〜 70%の世界シェアを握るようになったが、それまでに 30 年の
歳月が流れている。
「現在のような手厚い産学連携制度があれば、このような苦労
はしなくてよかった」と述懐しておられる。今月号では、キヤノンの役員・社内
弁理士として知財経営を実践してきた丸島儀一氏のインタビューを掲載した。知
財でも産業界が熾烈(しれつ)な国際競争を強いられていることが伝わってくる。
知財戦略を支援することの大切さも実感した。その意義を広く伝える情報発信は
まだまだである。
(編集長・登坂 和洋)
産学官連携ジャーナル(月刊)
2010年5月号
2010年5月15日発行
編集・発行:
独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
イノベーション推進本部 産学連携展開部
産学連携担当
編集責任者:
高橋 富男
c
Copyright ○2005
JST. All Rights Reserved.
東北大学 高度イノベーション博士
人財育成センター 副センター長 兼
インターン推進室長
43
問合せ先:
JST産学連携担当 鈴木、登坂
〒102-8666
東京都千代田区四番町5-3
TEL :(03)5214-7993
FAX :(03)5214-8399
産学官連携ジャーナル Vol.6 No.5 2010
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