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~谷口とものり、魅惑のパノラマ写真の世界~

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~谷口とものり、魅惑のパノラマ写真の世界~
JAS Journal 2014 Vol.54 No.1(1 月号)
連載 第 21 回
『試聴室探訪記』
~谷口とものり、魅惑のパノラマ写真の世界~
マンションの一室をコンサートホールに・・・南邸を訪ねて
フォトグラファー 谷口 とものり・編集委員 森 芳久
今回の試聴室探訪は、自宅のマンションの一室をコンサートホールの響きを求めてリスニング
ルームに改装した南邸を訪問しました。
横浜市のマンションにお住まいの南英洋氏は、もちろんオーディオファンですが、それ以上に、
“コンサートゴーアー”と呼ばれる熱烈な音楽ファンです。事実、南氏は昨年コンサートに 120
回も足を運ばれているのです。
若いときから頻繁にコンサートに通い続けた南氏が、生演奏はもちろん、そのホールの響きに
魅了され「いつかはこのコンサートホールの響きを自宅で」との夢を膨らませてこられたのは当
然のことでしょう。そして長年務められた大手自動車会社を定年退職され、オーディオを楽しむ
時間的余裕が増えたたこともあり、マンションをリフォームするのに合わせ、思い切ってその一
室を本格的なリスニングルームに作り変える決心をされたのでした。
一般的に、集合住宅という限られた条件の中で理想的な試聴室を作るのにはスペースや遮音な
ど多くの難問があります。特に天井高が限られているマンションなどでは、その設計や設置する
スピーカーなどに大きな制約をもたらします。南氏もそれを承知で、コンサートホールの響きを
再現することを第一目的として、その設計を依頼したのが、この試聴室探訪記の中でも度々登場
している石井伸一郎氏だったのです。
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果たして、今回もその石井マジックがどのように効果を発揮したのでしょうか。お断りいたし
ておきますが、私は石井氏の設計を手品(Magic)とは思っていません。彼の緻密な計算と豊富
な経験から割り出された高品位な魅力(Magic)の音の再現手法に尊敬を込めてマジックと呼ん
でいるのです。今回も石井氏が非常に限られた条件の中、どのような音を創り上げられたか興味
津々でお部屋に案内していただきました。12 畳の長方形の部屋には、一般的なスピーカーレイア
ウトとは異なる、長手方向の壁にスピーカーを配置されています。これもまさに、定在波を防ぎ、
響きを豊かにする石井マジックの一つなのです(詳しくは、石井氏の囲み解説をご覧ください)。
肝心の音ですが、最初に聴かせていただいたのは鮫島由美子のドイツ歌曲、そしてフィッシャ
ー・ディースカウが歌うシューベルトの歌曲「魔王」などのボーカルでした。確かにボーカルが
中央にしっかりと定位し豊かな残響音が部屋に満ち満ちていました。この部屋で極上の音を楽し
むためには、スイートスポットに座ることが要求されますが、主人が日夜一人で音楽を楽しむの
にはこれで十分といえるでしょう。圧巻はベーム指揮のベートーベン交響曲第 9 番ニ短調です。
ウイーンフィルの艶やかな音がこの部屋一杯に心地よい残響音を伴って聴き手を包み込みます。
眼を閉じれば、12 畳のこの部屋の壁は魔法のように消え去ってしまいました。確かに、そこには
音楽と美しいホールの響きがありました。
装置の構成は、下記の南氏自身が描かれたシステム図をご参照ください。
それでは、今回も谷口氏のパノラママジックをお楽しみください。
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“分譲マンションの 12 畳間でタンノイのオートグラフが鳴った”
「南邸のリスニングルームについて」
石井オーディオ研究所
石井 伸一郎
今回の部屋のオーナーの南氏は筆者の「リスニングルームの音響学」を読んでリスニング
ルームの建設を考えられたが、当初予定していた建築業者が難しいので降りることになり、
筆者が以前から関係していた世田谷の藤村建設に声を掛けてきたのがきっかけである。この
藤村建設は会社の事務所の 2 階に 10 畳間の石井式ルームが造られており、この部屋が「リ
スニングルームの音響学」に紹介されていたために南氏は藤村建設に来られたのである。
藤村建設の藤崎専務と筆者が現地を訪れたときは 15 畳間のリビングルームをリスニング
ルームにするとのことだったが、15 畳間では天井高さの点から縦長配置でも横長配置でも特
性に問題があり、幅を少し小さくして 12 畳間にすると横長配置の場合は伝送特性が良くな
ることが分かったので、12 畳間にすることにした。
最初はリビングルームの寸法を小さくして 12 畳間にすることを検討したが、リビングルー
ムは南に面して大きな硝子戸があり、これを塞ぐことになると居住性の点で問題があるの
で、北側の二つの 6 畳間を連結して 12 畳間にすることにした。この場合それぞれの 6 畳間
には窓があり、当初この窓を塞いでしまう案もあったが非常の場合を考慮して窓を塞ぐのは
やめることにした。
ただし窓の部分に吸音部と反射部がくるので、吸音と反射構造の移動式の壁面を取り付け
ることにした。完成してみるとやはり窓を付けたのは正解だったことが分かった。この窓の
構造は藤村建設の藤崎専務が考えてくれたが、非常に良く出来ていて軽く開閉できる。
吸音部の配置は図 1 のようになっているが、吸音部比率は 13.3%と小さめに設定した。こ
れは南氏が主にクラシックを聴くためである。
筆者の設計した部屋では完成すると部屋のコーナーに基準スピーカーを設置し、マイクを
縦方向と横方向の中心線上 7 点に置いた場合の伝送特性を測定して、あらかじめシミュレー
ションした特性と比較しているが、南邸の縦方向の特性を図 2 に、横方向の特性を図 3 に示
す。図 2 の縦方向特性では、筆者が発見した日本海溝(30Hz 付近のピーク後の 100Hz 付近
までの大きなディップ)が出来ているが、横長方向特性では谷が無く良い特性になっている
ことがわかる。したがってこの部屋は横長配置で使用する場合のみ良い特性が得られること
になるのだ。
タンノイオートグラフを横長配置した場合の特性は図 4 のように非常に良い形になってい
る。天井の高さが低くても横長配置にすればこのように良い特性になるのである。天井の高
い部屋でないと縦長配置で良い特性は不可能なのだ。
南氏はコンサートホールに頻繁に行かれているが我が家の響きはコンサートホールの響き
とそっくりだと非常に満足されているので、興味のある方は訪問されることをお勧めする。
南氏は同好の士は大歓迎するとのことなのでオーディオ協会の事務局を通じてコンタクト
して頂きたい。
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図1
図2
南邸の吸音部配置
南邸の縦方向の基準特性
上の特性グループが実測特性で下の特性グループがシミュレーション特性
これは前方左下隅にスピーカーを設置し中心線上 7 点までの伝送特性である。
スピーカーに近い方から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫でシミュレーションと
実測特性ともに同じ色なので比較しやすい。
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図3
南邸の横方向の基準特性
上の特性グループが実測特性で下の特性グループがシミュレーション特性
これは前方左下隅にスピーカーを設置し横方向中心線上 7 点までの伝送特性である。
スピーカーに近い方から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫でシミュレーションと
実測特性ともに同じ色なので比較しやすい。
図4
南邸のタンノイオートグラフの特性
青が左チャンネル、赤が右チャンネルの特性
左右の特性が非常に良く合っているので定位が良い
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