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記録集 - medi-net.or.jp
がん医療マネジメント研究会 第9回シンポジウム 2011年6月18日 (土)東京コンファレンスセンター・品川 大ホール がん医療における 患者支援の新しい取り組みと その効果 第1部 シンポジウム はじめに 「がん医療における患者支援の新しい取り組みとその効果」 近年のがん医療は、臨床面での急速 ◆第1部−1 講演 ∼各職種から∼ な発展だけではなく、がん対策基本 法の施行をきっかけに制度面の整備 ●講演-1 医師の立場から…………………………………………………………… 2 も進んできた。その一方で、さまざ 演者:加藤 雅志 氏 まな課題や問題点も浮き彫りになっ (国立がん研究センターがん対策情報センターがん医療支援研究室/ てきている。がん医療マネジメント研 中央病院精神腫瘍科/相談支援室 室長) 究会の第9回シンポジウムでは、そう ●講演-2 薬剤師の立場から ……………………………………………………… 4 した残された課題の一つとして「が 演者:濱 敏弘 氏 (がん研有明病院 薬剤部長) ん患者への支援」という側面に注目 支援センターなどの窓口だけではなく、 看護外来やお薬外来での相談、 意 思決定の援助など、広い意味での患 者への支援について、米国の事例も 含めて、職種別に日々の活動が報告 された。本シンポジウムでは、医師、 薬 剤 師、 看 護 師、MSWなど約280 名が参加し、パネルディスカッション ではフロアからの質問を交えて活発 な質疑応答が行われた。 CONTENTS した。シンポジウムでは、がん相談 ●講演-3 看護師の立場から ……………………………………………………… 6 演者:近藤 まゆみ 氏 (北里大学病院患者支援センター /前立腺がん看護外来) ●講演-4 MSWの立場から ………………………………………………………… 8 演者:太田 桂子 氏 (島根大学医学部附属病院地域医療連携センター) ●特別招請 ………………………………………………………………………………………10 演者:上野 直人 氏 (テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 教授) ◆第1部−2 パネルディスカッション ………………………………………………………………… 第2部 特別講演 12 「より良い患者支援のために ―診療報酬の側面から―」…………14 演者:櫻本 恭司 氏 (厚生労働省保険局医療課 主査) 第1部−1 講演 ∼各職種から∼ 座 長 中村 清吾 中村 めぐみ 氏 昭和大学病院 ブレストセンター長 演者 氏 聖路加国際病院 ナースマネージャー 国立がん研究センターにおける 患者支援の取り組みについて 加藤 雅志 氏 国立がん研究センターがん対策情報センターがん医療支援研究室/中央病院精神腫瘍科/相談支援室 室長 2008年から全国のがん診療連携拠点病院では、がん患者に対して相談を通じた支援を行う目的 で、がん相談支援センターの設置が義務付けられている。本講演で加藤氏は、厚生労働省がん対策 推進室に在籍していた経験から、わが国のがん対策における相談支援について言及するとともに、 国立がん研究センターにおけるさまざまな相談支援の取り組みについて概説した。 わが国のがん対策における 「相談支援」 がん患者に対して相談などを通じて支 援を行う試みは、先進的な医療施設では 以前から行われていたが、全国的に普及 しているとは言い難く、わが国のがん対策 で公的な重点施策となったのは近年のこ とである。2001年の「がん医療水準均て 実を図ろうとしているのが現状だろう。そ 援センター」のほか、電話相談を行う のような中、当施設が取り組んでいる相 「患者必携サポートセンター」 、 「がん相 談支援の概要を紹介したい。 談対話外来」も設置されている。 国立がん研究センターに おける相談支援 ─相談支援センター 国立がん研究センターでは「患者目 中央病院の相談支援センターは、が ん診療連携拠点病院の機能の一つとして、 他の連携拠点病院と同様に院内外の患 者さんとその家族からの相談を行っている (図1)。講演時点でMSW 10名、事務 ん化の推進に関する検討会」報告書で 線で政策立案を行う」などの理念、 「が 1.5名が常勤スタッフとなっており、今後 は、国民に対する情報の提供・普及施 ん難民をつくらない」などの使命のもとに も拡充していく予定である。相談件数は、 策の一環としてがん診療連携拠点病院で さまざまな取り組みを行っている。がん患 対 面・ 電 話 相 談 合 計で 新 規9,337件 者に対する支 援は「 情 報の提 供 」と (2010年4月∼ 2011年3月実績)であり、 「相談等による支援」に大別されるが、 年々増加している。院内(入院・外来 基本法では、「がん患者およびその家族 当施設では前者として、正しいがん情報 合計)と院外の比率は34%と64%で外 に対する相談支援を推進するために必要 の普及とがん医療の均てん化推進のため 部からの相談が多く、院内は電話よりも な施策を講ずるものとする」とし、患者・ の対外支援活動の拠点である「がん対 対面が、院外は対面よりも電話相談が多 家族に対する支援を国の重要な施策とし 策情報センター」が設置されている。現 くなっている。 て行うことが明記された。これを受けて 在、インターネット、冊子「がんになっ 相談内容の内訳は、全体では医療情 2007年のがん対策推進基本計画では、 たら手にとるガイド『患者必携』」など複 報・受診情報の提供が50%を超え、転 全国すべての2次医療圏に概ね1箇所の 数の媒体を通じて情報提供を行っている。 院・退院支援が約30%、心理・社会的 相談支援センターを設置すること、相談 また、後者としては中央病院の「相談支 支援が約15%となっている(図2) 。この の医療相談室の設置を提言している。 また、2006年に施行されたがん対策 支援センターにはがん対策情報センター による研修を修了した相談員を配置するこ とが義務付けられている。 図1 国立がん研究センターの「相談支援センター」と「患者必携サポートセンター」 患者必携サポートセンター さらに、2008年に改訂されたがん診療 連携拠点病院の指定要件では、所定の 研修を修了した相談員を専従・専任とし 国 民 て2名以上配置するというように厳格化さ れた。このように、がん患者に対する相 談支援体制の整備は始まったばかりであ り、各施設では試行錯誤を重ねながら充 2 院内・地域 の方 電話 ●がん患者のためのコールセンター機能 ●がんになったら手に取るガイド「患者必携」普及・啓発 相談支援センター 対面 電話 ●がん診療連携拠点病院としての 機能の一つ 今後の展望 ─全国の相談支援センターの モデルとなるために のほかにも、図3のようなさまざまな取り がん患者は、現在の医療に対して納 組みを行っており、膵がんや胆道がんな 2011年3月実績)と連携を実施している。 得せず、満足していないことも少なからず どの患者を対象としたがん教室はその一 そのうちの9割超が連携回数5回未満の ある。これは、治療に関する情報が不足 つである。これは、予後が厳しい難治性 施設であり、こうした面識があまり高くな し、心理・社会面への対応が充実してい がんの患者が、適切な情報を基に適切 い施設とどのように円滑に連携を行ってい ないためであろう。特に心理・社会面は、 な治療選択が可能となるよう支援するサ くかが今後の課題と捉えている。院外か 患者にとって極めて重要である。患者は、 ポートグループである。プログラムは医 うち院内では、転院・退院支援などの医 療連携関連の相談が多い。中央病院の 診療圏は全国であるため、30都道府県と いう広い地域の687施設(2010年4月∼ 常勤している相談支援センターや、がん 相談対話外来などを設置しているが、こ らのケースではメディア報道に関する問い がんに罹患することで、人生におけるさま 師、薬剤師、看護師、MSWだけではな 合わせが多いため、新聞・雑誌・テレビ ざまな出来事に多大な影響を受けることか く、栄養士、臨床心理士なども参加し、 の報道内容を整理分類するほか、院内に ら、治療と患者の生活の接点で患者に対 患者にはすべての資料を提供して、関心 関係者がいる場合には事実関係を確認し する支援が必要となる。これを専門的に のあるプログラムだけに参加することも可 て相談に備えるようにしている。 行うスタッフとして、がん専門相談員の養 能な形式をとっている。このプログラムに 成が現在、全国で進められている。がん よって、医療従事者と患者がより円滑に 専門相談員の専門性については議論され コミュニケーションが可能になったという 国立がん研究センターに おける相談支援 ─患者必携サポートセンター、 がん相談対話外来 ている最中ではあるが、現時点では、が 意見が、患者側だけではなく医療従事者 ん患者や家族に対し、科学的根拠のほ 側からも寄せられている。また、プログラ かに相談員自身の経験に基づいた信頼性 ムをきっかけに患者同士で情報交換がで のある情報提供を行うことで、患者自身 きるようになったという効果も得られた。 の要請により2010年9月に設置された。 が自分の生活や治療を選択できるように 当施設では、今後も、全国の相談支援 『患者必携』の普及と啓発を目的とし、 支援することというのが一つの定義だと考 センターのモデルとなり得るよう、相談支 えられる。 援の体制を強化してわが国のがん医療に 患者必携サポートセンターは、国から コールセンターの機能を担っている。し たがって、がん相談支援センターと異な 当施設ではこうしたがん相談専門員が 貢献したいと考えている。 り、全国のがん患者とその家族が対象で あり、電話による相談のみとなっている。 一方、がん相談対話外来は、当セン 図2 新規相談の内容内訳(2010年4月∼ 2011年3月) 患者必携 0.4% ター独自の施策として2010年7月に設置 された。いわゆるセカンドオピニオン外来 経済支援 5.4% と似ているが、医師と看護師が同席する 点が異なっている。まず医師が専門的な 情報を提供した後、看護師だけの時間を 設け、説明で判らなかったことや追加の 心理・社会的支援 15.0% 医療情報提供・ 受診情報提供 51.3% 転院・退院支援 27.7% 質問などの有無を確認する。疑問点があ る場合には、再度、看護師同席の元に 医師から説明を行う方式を採っており、 クレーム 0.3% 面談時間は合計で約1時間である。当外 来を受診した方々の目的達成度(99%) 、 理 解 度(100%) 、 満 足 度(98%)は 来を受診した18%の患者が、当施設を 再受診していた。この原因を調査したとこ 図3 国立がん研究センターの相談支援の業務内容 マクロ 非常に高くなっていたが、一方で、当外 カンファレンス 回診 ろ、患者と前主治医を含めた医療従事 スクリーニングシート 者間に、さまざまな場面において、コミュ 利用者の声 患者図書館運営 ニケーション不足が 存在していることが を一つの足がかりとして今後の対策に生 かしたいと考えている。 ミクロ 伺えた。これはがん相談支援に限ったこと ではないと思われるが、こうした調査結果 サポートグループ 対面相談 情報交換会運営 介護認定調査会 医療機関データベース作成・管理 患者必携サポートセンター 医療連携委員会 診療支援委員会 患者サービス向上委員会 ボランティア委員会 電話相談 個 人 委員会活動 ボランティアコーディネート 集 団 組 織 地 域 社 会 3 第1部−1 講演 ∼各職種から∼ 演者 外来化学療法における薬剤師による患者支援 ─薬剤師外来の試み 濱 敏弘 氏 がん研有明病院 薬剤部長 近年のがん医療では、外来化学療法の増加、経口抗がん剤の普及、院外処方の増加などさまざま な要因で患者や医療従事者を取り巻く環境が変化している。本講演で濱氏は、そうした中で、病院 薬剤師ががん患者に対してどのような支援が可能であるかについて、自施設における試みを中心に 概説した。 抗がん剤をめぐる状況の変化 が在宅時の副作用・服薬状況 の把握を困難に 近年、がんに対する薬物療法において も明らかとなった。一方、保険調剤薬局 がんの場合には、化学療法が 決定され の薬剤師からは、抗がん剤に対する知識 た時点で、レジメンの説明や予測される 不足だけではなく、処方せんのみだけで 副作用について薬剤師が説明をしている は告知された内容や治療レジメンなどの は、さまざまな状況変化が起きている。 把握が難しいため、適切な服薬指導が まず、化学療法の外来化により、患者は 行えないという意見が多数に及んだ。 病院ではなく在宅で副作用を経験するこ とが多くなった。これにより薬剤師は、患 者に対して副作用の種類、好発時期、頻 度、経過について説明するほか、自分で ─乳がんに対する これまでの試み 薬剤師による患者支援 ─大腸がんで開始した 新たな試み こうした取り組みとは別に、XELOX療 法施行中の患者に対して新たに実施して 対応可能な事象か、かかりつけ医に連絡 このように経口抗がん剤が院外処方さ いるのがXELOX外来である。従来、外 すべき事象の区別ができているかも確認 れている状況下では、病院薬剤師の関 来化学療法施行中の患者に薬剤師が 面 することが必要となっている。 与が希薄となり、保険調剤薬剤師も十分 談するのは医師の診察の後であった。薬 一方、経口抗がん剤は、下痢や手足 な対応が困難であることが浮き彫りとなっ 剤の不足や重複など処方せんに関する疑 症候群といった自覚症状を伴い、QOLを た。さらに、病院と薬局をつなぐはずのお 問や、患者からの訴えを医師に問い合わ 低下させやすい副作用の発現が、静注 薬手帳や投与スケジュール表がうまく活 せる「疑義照会」が行われていた。しか に比べて多い場合がある。また、経口抗 用されていないことから、在宅時の患者 し、この方法では全体に時間を要する上 がん剤を用いた大規模臨床試験の結果 情報が、実地診療に携わる臨床医に正 に、医師が 他の患者を診察中に割り込 は、コンプライアンスを高く保つことが前 確に伝わらないという大きな問題点が指 む形となり、患者、医療従事者双方に 提となっている。したがって、薬剤師は、 摘された。 とって良好とはいえない状況も生じていた。 単に副作用を評価するだけではなく、服 このような在宅時の副作用や服薬状況 そこで、受付・採血の後、医師の診察 を正しく把握するために、薬剤師がどのよ の前に薬剤師が患者と面談する試みを開 2009年に実施された東京都内のがん うに介入できるかについて、病院薬剤師 始した(図2) 。 診療連携拠点病院24施設を対象にした として日々模索しているが、ここでは、当 面談では服薬状況を確認し、例えば2 アンケートでは、院外処方率が半数を超 施設で最近開始した薬剤師外来での試 週投薬のレジメンの場合、1コース目に吐 える施設が全体の約75%に達し、そのう みについて紹介したい。 き気により4日分の残薬があれば、2コー 薬状況の確認も必須となっている。 4 薬剤師による患者支援 (図1) 。 ち約80%が抗がん剤の院外処方を実施 これまでにも当施設では、入院患者に ス目は14日分でなく10日分の処方で良い していた。また、抗がん剤を院外処方し 対してインフォームドコンセントを行う際 ことをカルテに記載しておく。また、副作 ている施設の約90%で、病院薬剤師によ に、医師、看護師とともに薬剤師も可能 用評価では、レジメンからみて手足症候 る服薬指導がまったく行われていないこと な限り同席するようにしている。また、乳 群が予想される場合、患者の手足を確認 し、症状が発現していれば支持療法とし いた。今後は、もう一歩踏み込んで、医 質な患者支援に貢献するものと考えてい てベタメタゾンなどを提案する。他にも、 師の診察の前に患者と面談することで、 る。また、現時点で、当施設の試みは診 制吐目的のドンペリドンが1コース目で 診断や処方に関する情報や副作用重篤 療報酬上の点数となっていないため、制 効果が 確認できないようであれば、次 化の回避策を提案することが主となること 度的に評価が 得られることも切に願って コースは他の制吐剤としてメトクロプラミ も可能ではないか。これらの実践が、良 いる。 ドを提案するなどを実施している。 現在、 XELOX 療法の1コース目は入 院で実施していることから、入院期間中 に看護師とともに、服薬状況と副作用の 記録をお薬手帳に記載するように説明し、 徹底するようにしている。 2009年10月から2010年3月までの期 間にこのXELOX 外来を受けた患者に対 図1 薬剤師による患者支援─乳腺科との協働 ①化学療法開始前 (IC取得日) 『乳腺科外来診察室』 ・薬剤師による化学療法の説明(予約制) ・スケジュール、レジメンと予測される 副作用の説明 し、307件の処方提案を実施し、283件 (92%)が採用に至った。また、薬剤師 が介入したケースと介入していないケース を疑義照会件数で比較したところ、経口 フッ化ピリミジン系薬剤に関する疑義照 会件数が有意に減少しており、臨床の医 ②がん化学療法当日 (1コース目、第1日) 『ATC 内服薬指導室』 ・当日スケジュールの確認 ・支持療法薬の説明 師からは有用であるという評価を得ている。 薬剤師による患者支援 ─服薬指導業務の先に あるもの 現在、病院薬剤師にとっては服薬指 導業務が重要な業務の一つとなっている。 ③2コース目のがん化学療法実施日 『ATC ベッドサイド』 ・副作用等の確認 ・支持療法薬の評価 これは1988年に診療報酬の項目として制 定され、その後、1994年に現在の「薬 剤管理指導料」に名称変更されたもので あり、既に20年が 経過している。今後、 図2 薬剤師による患者支援─外来化学療法での支援 この服薬指導の先にあるものを考える際に 来院・受付 ヒントとなる通知が2010年4月に厚生労 働省から「医療スタッフの協働・連携に 採 血 よるチーム医療の推進について」として出 されている。その中では、事前に作成、 合意されたプロトコールに基づいて、積 極的な処方提案や、必要に応じて薬剤 の変更などの提案も可能であるとされてい る。 ●服薬状況の確認 (残薬の確認) ●非血液毒性の評価 (手足の観察) ●支持療法薬の提案 (薬剤と用量) 薬剤師外来 医師の診察 化学療法室 これまでの薬剤師の業務は、医師が決 定した治療方針や処方に対し、医師に代 わって説明すること、副作用をモニタリン グして重篤化を回避することが主となって 薬剤部(面談) 会計・帰宅 ●治療効果の判定 ●副作用の評価 ●全身状態の評価 ●血液検査結果の確認 ●治療継続の判断 ●処方せんの発行 投与量の決定 支持療法薬の決定 5 第1部−1 講演 ∼各職種から∼ 演者 がん看護専門看護師による前立腺がん 看護外来の取り組み 近藤 まゆみ 氏 北里大学病院患者支援センター /前立腺がん看護外来 近年、看護領域の専門化が進むに伴い、認定看護師や専門看護師による特殊外来を設置する施設 が増えてきている。がん関連の領域でも乳がん外来やストーマ外来、リンパ浮腫外来などが知られ ているが、本講演で近藤氏は、前立腺がん患者を対象とした看護外来の経験から、設立の背景や介 入の効果について概説した。 治療選択肢の多さなどの さまざまな要因が 看護外来設立のきっかけに 前 立 腺がんは、 腫 瘍マーカー PSA 複数の治療法の中から患者自身が 選択 合を対象としており、主治医による予約 するための意思決定の支援、精神的な支 制となっている。活動を開始する際、院 援を通じて、患者・家族への医療の質 内の会議や書面、院内テレビなどでは案 の向上を目指している。 内を実施したが、院外への告知活動は 行っていない。 (前立腺特異抗原)の測定によって比較 的容易に発見し得ることから、近年、患 者数が増加傾向にある。また、高齢者 が多いことから、疾患や治療内容の理解 においてさまざまな課題があるのが特徴で 前立腺がん看護外来 受診者の約半数は 治療法の選択に悩む 当施設での前立腺がん看護外来は、 2010年4月∼ 2011年3月までの実績 は64例であり、毎月平均して5∼6名と面 談を行った(図1) 。年齢は70∼74歳が もっとも多く全体の45%を占めていた。面 前 立 腺がん専 門 外 来に併 設する形で 談回数は1回で終了したケースが 約8割 2010年4月に設立された。現在、がん に達したが、中には3回以上の面談を必 放射線療法、内分泌療法、抗がん剤に 看護専門看護師である演者が担当してい 要とするケースもあった(図2) 。患者の よる化学療法など多数の選択肢があり、 る。毎週、月曜日および水曜日の午後に 特性としては、疾患に対する不安を抱え 患者の年齢、病態に基づいてリスク別に 予約制で実施しており、1人あたりの面談 ていたケースが25%、疾患・治療に関 決定されるが、施設によって治療方法に 時間は1時間である。確定診断後の初期 する情報を積極的に入手したいと考えて 若干の相違があることも多い。また、治 治療開始前の患者のうち、主治医が面 いたケースが34%、治療法についてライ 療法によっては、排泄機能障害あるいは 談を要すると判断し、患者も希望した場 フスタイルや個人的信念に基づいて決定 ある。 前立腺がんに対する治療は、手術、 性機能障害のような生活に大きく影響す る後遺症や合併症の可能性もあることか ら、患者の不安要素の一つとなる。通常、 担当医が十分に時間をかけて説明を行う ことが理想的であるが、実地診療の実情 を鑑みると、それは難しい。 このような状況を踏まえて当施設では、 人 12 10 8 がん看護専門看護師による前立腺がん看 6 護外来を設置した。本外来では、疾患 4 や治療法に関する情報を提供することに よって患者・家族の理解を深めるだけで はなく、正しい情報を伝えることで、誤っ た情報による混乱を防ぐ目的もある。また、 6 図1 前立腺がん看護外来受診者の推移(2010年4月∼ 2011年5月) 2 0 2010年 2011年 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 することを望むケースが20%となっていた。 し、その後の円滑な診療の実施が可能と から、地域連携パスを作成し、地域医 治療法の選択については、面談時に既に なることが 挙げられる。また、医師の負 療施設と連携体制を強化したいと考えて 決定していた割合は45%で、残る約半数 担軽減に寄与し、患者・家族から「聞 いる。 はどの治療法にするか悩みを抱えていた。 いていなかった」というような苦情の減少、 意思や希望を把握し 価値観を念頭に置いて また、現在は診断初期の患者のみを対 リスクの回避につながることも大きな利点 象としているが、いずれは治療期間中あ と考える。 るいは再発から終末期に至るすべての時 当院には、がん関連の専門看護師が 期に対応した長期的なサポート体制も必 約10名いることから、今後は、他科への 要だろう。現在、このようながん看護専 拡大も検討している。また、現時点では 門看護師による看護外来は、診療報酬 医師からの依頼形式をとっているので、 上の評価には含まれていないが、今後は、 合を図3に示す。詳細を振り返ってみる 患者からアクセスが可能となるような体制 そうした点も視野に入れて、より一層の患 と、疾患や治療に関する情報提供はもち も必要と思われる。看護外来によって地 者支援に努めたいと考えている。 ろんのこと、患者が知りたいことや知りた 域連携が促進するという側面もあったこと 「大切に思う気持ち」を 姿勢に支援を行う 本外来で実施された支援内容とその割 くないことを明確にし、がんとの向き合い 方、患者の理解度を確認することも重要 図2 前立腺がん看護外来受診者の年齢、援助回数(2010年4月∼2011年3月、 であったと考える。また、患者にとってよ くない情報であるbad newsをどのように 工夫して伝えるかについても試行錯誤を 繰り返しており、今後の課題である。 病期や進行度をどう判断しているのか、 64名) ●年齢 20 その治療法が 選択されたのかといった、 15 医療従事者が判断した内容とその根拠を 10 知りたいというニーズが非常に強いことも 5 治療法の意思決定を支援する際には、 29 3回以上/3人 2回/9人 25 病期と治療の関連性はどうなのか、何故 浮き彫りとなった。こうした点を踏まえ、 ●援助回数 人 30 0 12 3 3 6 8 3 1回/53人 50∼54 55∼59 60∼64 65∼69 70∼74 75∼79 80∼ 歳 患者・家族の意思や希望、ニーズを把 握し、価値観を明確化した上で、共感 図3 前立腺がん看護外来における介入の具体的説明内容 や肯定、大切に思う気持ちを基本の姿勢 として、提案や調整を行うことが重要と考 治療法 える。また、患者や家族の語りを傾聴す 生活への影響 ることも肝要である。傾聴によって患者・ 病期 家族の価値観や信念、こだわりが把握で 前立腺がんという病気 きるだけではなく、個々の力、つまりselfadvocacyの力を高める可能性があり、 その過程を通じて精神的なケアにつなが る側面もある。 今後は対応がん腫や 治療時期などの適応の 拡大が課題 このような看護外来による面談の利点 は、患者・家族の満足度の向上に貢献 51 46 39 32 30 治療のメリット・デメリット 23 検査結果 待ち時間の不安 19 治療スケジュール 19 13 費用 7 治療成績 5 前立腺がんの治療の全体像 0 10 20 30 40 50 60回 7 第1部−1 講演 ∼各職種から∼ がん医療における患者支援の新しい取り組み とその効果―MSWの立場から 太田 桂子 演者 氏 島根大学医学部附属病院地域医療連携センター 現在のがん対策推進計画を受けて、各地のがん診療連携拠点病院の相談支援センターに配置され ているがん相談員は、ソーシャルワーカー(MSW)が担当する場合が多くなっている。本講演で 太田氏は、相談支援センターでの実際の事例を紹介しながら、MSWによる患者支援のポイントや MSWの職務について、ミクロレベル・メゾレベル・マクロレベル別に概説した。 少数ながらがんサロンからも 相談依頼が来る 平成22年の相談実績は66件で、対 面が71%、電話が29%であった。また、 島根県では、2005年に全国に先駆け 患者本人からの相談が53%、家族から 患者・家族の生活者としての 課題の明確化と相談者の 主体性確保が重要 てがんサロンが 設立され、がんの予防、 の相談が40%とほぼ同数であり、当院受 MSWによる患者支援を、がん患者や 治療だけではなく緩和ケアも含めたがんの 診者71%に対して他の医療機関受診者 家族に対する活動(ミクロレベル) 、院 治療、および患者支援を柱とした「しま は29%となっていた。がんの部位では膵 内での活動(メゾレベル) 、がん診療連 ねがん対策強化事業」が推進されてき がんと子宮がん、卵巣がんが多くなって た。2006年には、全国初の自治体独自 いた。 携拠点病院としての医療圏に対する活動 (マクロレベル)に分類すると、ミクロレ 相談内容は、 「現在の治療をこのまま ベルでは、がん医療におけるさまざまな場 が制定されている。当院は島根県の都道 続けるべきか」 「治療選択肢のどれを選 面で意思決定が必要とされ、その選択に 府県がん診療連携拠点病院に指定され ぶか」 「現在の治療を止めたらどのような 悩む患者や家族から相談を受けることとな ており、がん登録部門、外来化学療法 症状が出るか」といった治療に関する内 る。相談ケースとして多いのは、①治療 部門とともに腫瘍センターに属する形でが 容がもっとも多く、相談経路は医療従事 方法の選択、②セカンドオピニオンの選 の条例として、島根県がん対策推進条例 ん相談部門が 設置された。スタッフは、 者経由が約半数を占めていた(図1) 。 択が挙げられる。そのほか、退院支援な 社会福祉士の有資格者4名(専任1名、 なお、少数ではあるが2%はがんサロンか どでは③療養の場所の選択が、職場や 専従2名、がん相談員研修受講中1名) らの紹介である点が興味深い。 学校などへ戻るケースでは④社会復帰へ 体制である。 の選択が、終末期医療では⑤治療終了 の選択、⑥子供に病気を伝える選択、 図1 がん相談の実績 ⑦終末期医療に関する選択などがあり、 相談内容 パンフレット インターネット 3% 3% 患者会 2% 家族・友人・知人 % がん治療 がんの検査 症状・副作用・後遺症 セカンドオピニオン 治療実績 受診方法・入院 医療機関の紹介 ホスピス・緩和ケア 症状等への対応 食事・栄養 介護・看護 社会生活 医療費・生活費 不安・精神的苦痛 医療者との関係 患者家族の関係 患者・家族会 MSWはこれらの場面で、情緒面や情報 面などの表1のような支援を行う。これは、 アプローチ方法としては、表2のような機 能を担っているといえる。 ここで、実際の事例を紹介しながら、 MSWの患者支援におけるアプローチ方 法や職務・機能について考えてみたい。 精 巣 腫 瘍の患 者Aさんのケースでは、 「外来でこれ以上がんの治療はできないと 8 言われたのだが…」と問題点や課題が不 明なまま相談に入った。聞き取りの結果、 その他 9% 0 8 各々の場面で患者支援が求められる。 相談経路 5 10 15 20 25 30件 Aさんは妻との離婚後、未成年の3人の 不明 33% 医療スタッフ 42% 子どもを自分の両親と養育されていて、 遺される子どもの養育のことが気がかりと なっていることがわかった。このような ケースは初めてだったため、遺児に対し て可能な支援を静岡がんセンターのよろ 討を通じて院内と地域との双方向で患 の中にある」ことを念頭に、患者・家族 ず相談に問い合わせ、最終的にはAさん 者・家族に対する理解の促進を図ること の声をよく聴くことが重要と考えられる。そ 自身が 学校への説明、後見人制度の利 としている。 の方々が 持っている力に注目し、相談者 用、児童相談所への連絡などを行った。 また、マクロレベルの活動としては、 の中のゆらぎに寄り添いながら待つことも Aさんのケースでは、相談を通じて父親と 都道府県がん診療連携拠点病院として、 しての役割遂行を支援することができたと 当院のがん相談員のことだけではなく、他 いえる。 のがん診療連携拠点病院の相談支援セ 院内外のスタッフに周知することが大きな また、結腸がん多発肝転移のBさんの ンターについても、広く県民に周知するこ 課題である。現状では、社会保障制度 ケースでは、患者さん自身には緩和ケア とが求められる。その際、がんに関わる多 の紹介や退院支援での職務の印象が 強 チームのMSWとして関わる一方、ご家族 くの機関―患者、家族、医療機関、教 いと思われるが、それだけが 専門ではな とは退院後の自宅療養相談から始まった。 育、行政、議会、企業、メディア―が いことを事例を通じて知っていただくよう 高額医療費や障害年金、傷病手当金な 求められる。 メゾレベルでは、MSWの職務について、 同じ視点に立つことが 非常に重要であり、 な活動が 必要と思われる。また、マクロ どの情報提供、制度説明を進めていくな 島根県ではこれを「七位一体」としてが レベルでは、がん相談支援センターの認 かで、ご家族と面談をすると、一番の気 ん対策の基本としている。同時に、相談 知度を向上させ、相談員自身の資質を向 がかりは点滴などの処置を家族が実施す 員の資質向上のため、他の連携拠点病 上することが重要である。 ることに対し「その処置が命取りになるの 院、協力病院などの相談員に対する研修 MSWは相談者を生活者として捉える ではないか」という不安であることが明ら 会の機会を提供することも責務と考えてい 一方で、相談者の話に耳を傾けることで、 かとなった。近隣医療施設での化学療 る。 暮らしと気持ちをつなぐ相談専門職(図 法継続のため、地域連携を調整し、Bさ ん家族のどこにも言えない不安な気持ち を聴くことで、ご家族自身が「何とか乗り 越えられそう」という感触を掴むことがで きた。 相談者が話す内容は氷山の一角であり、 ソーシャルワーカーとは 気持ちと暮らしの相談専門職 2)であると考えている。がん対策基本 法の制定以来、各地でがん専門相談員 の配置と育成が進められているが、都道 MSWによる患者支援の課題をレベル 府県がん診療連携拠点病院のスタッフと 別に考えると、ミクロレベルでは、相談 してその一翼を担いつつ、MSWの専門 者である患者・家族のことを何も知らない 性をより多くの方々に理解していただける 意図的な面接で相談者本人も気づいてい 状態からスタートすることや相談者が 生 よう、今後も努力していきたいと考えてい ない部分に焦点をあて、生活者としての 活者であることを意識し、「答えは相談者 る。 課題を明確にすること、未経験の事例は がん相談員のネットワークを活用すること も必要であることがわかる。また、その際 には相談者の主体性の獲得が重要であり、 たとえ結果が十分に実らなくても、納得し た上での意思決定はQOL向上や達成感 につながると考えられる。 院内外スタッフとの 勉強会だけではなく 相談支援センターの周知、 相談員研修の企画なども責務 MSWのメゾレベルでの活動の一環とし て、患者・家族から相談を受けるだけで はなく、 何らかの形で院内スタッフに 表1 MSWによるソーシャルサポート ソーシャル サポートの 機能別分類 情緒的サポート 評価サポート 情報サポート 道具的サポート 社会的サポート モチベーションのサポート 情緒的な支援 肯定的な関わり・自己評価を高める 社会資源の情報提供 介護サービスなど日常生活支援 社会活動のパートナー 問題解決へのモチベーション保持 表2 MSWのアプローチ方法 クライエントの問題解決能力や環境への対処能力を強化するための機能 クライエントと必要な社会資源との関係構築・調整のための機能 機関や施設の効果的な運営や相互の連携を促進するための機能 制度や施策の改善・発展、また社会全体の変革を促すための機能 フィードバックすることが必要ではないか と考えている。そこで、2010年から、月 1回のがん相談勉強会を開始し、高額療 図2 ソーシャルワーカーとは 養費や生活保護、障害年金などの制度 に関する情報提供や相談内容の報告を 行った。当初は院内スタッフだけを対象 としていたが、2011年からは、他の医療 施設の相談員やケアマネジャー、市職員 などの院外スタッフにも拡大し、事例検 ソーシャルワーカーは 気持ちと暮らしの 相談専門職 人 間 聴 く 暮らし 環境/社会 気持ち Social Work dual focus つなぐ 田村里子 2010 一部改変 9 第1部−1 講演 ∼各職種から∼ 演者 がん医療における患者支援の チーム医療の重要性 上野 直人 氏 テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 教授 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターは、米国有数のがん専門施設であると同時に、水準 の高いチーム医療を実践する施設としても知られている。本講演で上野氏は、センターにおける外 来化学療法の実際を紹介しつつ、より良い患者支援のために必要なチーム医療成功のポイントと、 患者の主体性を育てることの重要性について概説した。 Midlevel Practitioner も含めた多職種による 持続的なチーム医療が より良い患者支援の実現に ている。つまり、多忙な日常業務をスタッ リーダーシップといえば、院長や部長 フが疲弊せずに運営するために、職務の といった組織上の地位に伴う運営責任が 一部を別の職種が 担当し、より多くのス すぐに連想されるが、チーム医療では タッフで遂行する体制がとられてきた。こ 個々の医療従事者が 信念に基づいて行 テキサス大学MDアンダーソンがんセ れにより、医師や看護師、薬剤師などは 動することが極めて重要と考えられる。例 ンターは米国テキサス州に位置し、病棟 専門領域により注力することが可能になっ えば、患者にとって不適切と思われる問 病床数500床超、約18,000人の従業員、 た。このような多職種によるチーム医療を 題に遭遇したとき、患者のためには地位 年間の患者数は約10万人に達する米国 持続して成功させることが 病院の円滑な を越えて発言し、是正のために行動する 屈指の大規模病院である。米国でもがん 運営に繋がるだけではなく、より良い患者 ことが必要となる。すなわち、表1のよう の化学療法は外来で実施されており、当 支援を実現するための外せないポイントで な力が 個人のリーダーシップであり、こ 院の外来にも多数のがん患者が訪れるが、 あると考えている。 れらの実行が 難しいような場合はチーム 腫瘍内科の新人研修医は実は12人程し 医療が適切に稼動しているとは言い難い。 かいない。それにもかかわらず、外来化学 療法を行う点滴センターが円滑に運営され ているのは、米国では上級看護師(APN: チーム医療を成功させるため の3つのスキル ―リーダーシップ チーム医療を成功させるため の3つのスキル ―コミュニケーション Advanced Practice Nurse) 、臨床医師 チーム医療を成功させる は、①リー 補助師(PA:Physician Assistant) 、臨 ダーシップ、②コミュニケーション、③ 床薬剤師 (Pharm D) といったMidlevel エビデンスの3つであるとされる。医療従 聴く力、話す力、そして違いを乗り越える Practitionerと呼ばれる専門職が 存在し 事者がこれらを持って生まれた個性では 力の3点である。単に首肯するだけではな (図1)、これらの職種を含めたチーム医 なく、一つのスキルとして研鑽していくこと く話の内容を理解し、論理的な会話を心 療が徹底して実践されているためである。 で、最大の目標である患者の満足度を向 がけ、職種や立場、見解の相違を乗り 当院の外来では(図2) 、まず看護師 上させ、より良い患者支援を実現させるこ 越える力が 求められる。当院では特に、 (一般)が問診を行い、状態を確認する。 とができるのである。 コミュニケーションで重要なポイントは、 違いを乗り越える力が 重要視されており、 次に、 APNやPAが 診察し、ここまでの 情報を元にスタッフが 打合せを行う。そ の後、主治医が 診察して最終的な方針 図1 Midlevel Practitioner を決定し、schedulerが検査や次回投与、 他科受診の予約を行い、Pharm Dが化 学療法をオーダーする。このように、米 医 師 薬剤師・看護師 患者の部屋の準備 画像検査および血液 検査の準備 カルテの準備 調剤 国では、APNやPharm Dなどの職種が 医師の業務の一部を担っている点が日本 米 国 と大きく異なっている。 米国の点滴センターでは医師は常駐で はなく、従来看護師の業務であったカル テや画像検査・血液検査の準備などは サポート業務として別のスタッフが担当し 10 上級看護師 臨床薬剤師 医師補助師 サポート業務 日 本 全従業員を対象に教育プログラムが実施 リーダーシップは、治療の自己決定に必 い評価を受けているのは、これを実現す されている。 要な意思決定能力に関係し、コミュニ るためにチーム医療が 徹底して実践され ている点であろう。 コミュニケーションでは、自分の立ち ケーションは、医療従事者との信頼関係 位置を知ることも非常に重要である。医療 構築能力に関係する。患者にとってのエ に関わる人々は役割により、医師や看護 ビデンスは、Medical Literacyを指し、 師、薬剤師などが属するチームA(Active これは膨大な情報の中から、自分自身に 上に述べてきたようなチーム医療をわれわ Care team) 、臨床心理士やMSWなど 適した情報の入手と整理に関わる能力の れ医療従事者が実践し、患者とヘルスケ のチームB(Base Support team) 、家 向上に寄与する。つまり、患者が自分自 アチームとのパートナーシップを育んでい 族や友人、NPO、メディアなどのチーム 身の治療に主体的に関わり、われわれ医 くことが、より良い患者支援につながって 患者には治療を受ける権利だけでなく、 治療を納得して選択する権利があり、以 C(Community Resource)の3つのグ 療従事者と同じコンセプトを持つことで、 いくのである。当院では patient rights ループに分けることができる(図3) 。各 より良いパートナーシップが生まれるので というポスターを院内の各所に掲示してい チームの必要度は、患者ニーズと病期 ある。 るが、これは権利の主張というよりは権利 で変化する。例えば乳がんの場合、初期 患者と医療従事者では目指すところが の享受を願ってのことである。今後も、よ はAの役割が、再発すればB、Cの役割 違うように思えるが、高い治療効率や安 り良い患者支援に向けて、円滑なチーム が多く求められる。したがって、要素の 全性という意味では、患者の満足は医療 医療に基づくteam oncologyを実践して 比率を常に意識することが肝要である。 従事者の満足であるといえる。当院が高 いきたい。 チーム医療を成功させるため の3つのスキル ―EBM 3つ目のスキルであるエビデンスは、 EBM(Evidence-Based Medicine) 図2 MDアンダーソンにおける外来化学療法の流れ Workroom Patient Room Pharm D Scheduler Ns Attending Fellow APN を意味する。EBMの実践とは、差をなく して金太郎 のような医療を実現すること ではなく、科学的な根拠についてチーム のメンバーが 職種の壁を越えて議論し、 メンバーが 納得した上でEBMを実践し、 患者個別のベネフィットや満足度を追求 することである。また、EBMは、職種の 違いや専門的背景を超え、医療従事者 同士だけではなく患者との間の共通言語 ナースが患者さんを部屋に入れ、バイタルをとり、 FellowもしくはAPNに知らせる。 フェローもしくはAPNが部屋に入り、診察、説明など。 Workroomにもどり、状況をAttendingとディスカッション。 Attendingが患者さんと話し、最終的な方針決定をする。 Schedulerが今後の予約(検査、他科コンサルト、ケモなど) Pharm Dがケモオーダー確認。Attendingがサイン。 となるという側面も非常に重要である。 これまでに述べたリーダーシップ、コ ミュニケーション、エビデンスの吟味・ 構築というスキルを、チーム医療に関わ るすべてのスタッフが持つことで、初めて 最適なチーム医療が完成し、より良い患 表1 リーダーシップの定義 ●正しい事をする力 ●人の思いをくみ取ることのできる力 ●違いを乗り越えるシステムを作ることのできる力 者支援に繋がると考えている。 患者の主体性を育て、医療従 事者とのパートナーシップを 築くことが患者支援に繋がる 持続的な患者支援は、チーム医療の 円滑な運用や適切な患者支援プログラム の実施だけでは実現しない。患者自身の 主体的な関わりが不可欠であり、そのた めには患者自身の力を高めることが必須と なる。患者の力を高めるポイントは、チー 図3 チームA、B、Cの役割と特徴 チーム C Community Resource ●患者のニーズを間接的にサポート ●患者およびチームA、Bを包括的にサポート ●地域資源の活用 チーム B チーム A Base Support ●治療の基盤整備 ●共感的に関わり、患者のニーズを サポート ●患者の物語の能動的な聴き手 ●自己決定を促すことで、患者の満足度を 向上 Active Care 患者 ●患者に医療を直接提供し、EBMを発信 ●EBMとコンセンサスに基づいた治療を提 供することで、患者の満足度を向上 ●問題解決型 ●患者のたどる道筋の「地図」を患者の 状況を見極めながら提示する責任を持つ ム医療の実現と同様に、リーダーシップ、 コミュニケーション、エビデンスである。 Nat Rev Clin Oncol 2010; 7: 544-7より一部改変 11 第1部−2 パネルディスカッション がん医療における患者支援の新しい取り組みとその効果 座 長 パネリスト 髙木 安雄 加藤 雅志 氏 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 教授 氏 国立がん研究センターがん対策情報センターがん医療支援研究室/ 中央病院精神腫瘍科/相談支援室 室長 中村 清吾 氏 昭和大学病院 ブレストセンター長 濱 敏弘 氏 がん研有明病院 薬剤部長 中村 めぐみ 氏 聖路加国際病院 ナースマネージャー 近藤 まゆみ 氏 北里大学病院患者支援センター /前立腺がん看護外来 太田 桂子 氏 島根大学医学部附属病院地域医療連携センター 上野 直人 氏 テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 教授 患者への対応の工夫が 患者の力を高める ないか」を繰り返し確認します。また、次 ごろ独立行政法人化されましたが、この 自身でまとめておくようにも伝えます。こう 1 ∼ 2年での活動で大きな変化はありまし 中村 (清) ここでは、演者の先生方への した患者への対応を少し変えるだけで、 たか。 上野先生、日米を往復されている立場か ています。 質問を中心に進めたいと思います。まず、 患者の力を育てることが可能になると考え ら、わが国のがん医療におけるここ10年 程の変化についてどのように評価されてい ますか。 上野 チーム医療に対する考え方は確か 加藤 独法化以降、患者目線に立ちつ つ、センターとして果たすべき役割を遂行 することを基本的な方針としています。患 院内、地域、全国の 各レベルでの支援を模索 者支援の面では、全国の患者が 適切な 医療を受けることができるよう、当院受診 者には専門性の高い医療を提供する一方 で、受診できない患者に対する支援をど スができたと感じています。一方で、職 中村 (清) 国立がん研究センターにおけ る患者への情報発信の取り組みについて、 のように進めていくか。そして、院内、地 種の役割を生かすことができているかにつ 現状や今後の課題はいかがでしょうか。 域、国全体と各レベルで何ができるかを いては温度差があるように思われます。今 加藤 われわれは情報を発信したり、利 模索しております。 に前進し、各職種が前面に出てくるチャン 後、若手世代の育成について、組織的 用方法を伝えたりしていますが、必要な な改革が 必要でしょう。また、患者の力 情報を選び、自分のものにできるかは患 を育てるという点も議論の必要なテーマだ 者自身の力によるものが大きいと考えてい と感じています。 ます。患者自身が 疾患を管理することが 中村 (清) 患者を育てる点については、 求められています。現時点ではそこまで到 具体的にどのようなことを実践されていま 達していないのが実情であり、今後の課 すか。 題だと思います。上野先生の講演を踏ま いくためには、それぞれ専門職の方々が、 上野 前回の診療内容について患者自身 えますと、この現状は医療従事者の文化 各自の責任をしっかりと取りつつ、違う職 の相違かも知れないとも感じました。 種に対して委ねるということも非常に重要 で振り返っていただくほか、 「他に質問は 12 中村 (清) 国立がん研究センターは先 回の受診時までに、質問したい内容をご 自分のために自分の力で 立つことを実現することが 患者支援 中村 (め) 円滑にチーム医療を運営して ではないかと感じています。その点を近藤 医師が行っていた副作用に関する説明を 先生にお伺いしたいのですが、先生の活 薬剤師が行うことで、医師は同じ時間で 動は日々の臨床業務の中で看護師として 多くの患者の診療や支援が 可能になる。 の専門性を自身で見出して、それが専門 このような役割分担が 提案できるのでは 外来に結びついたというように受け取れま ないかと考えています。 したが、いかがでしょうか。 近藤 看護師は1つのセクションで多人 数が同時に稼動することから、集団で事 にあたる傾向が 強いのではないかと思い アドボカシーなどの和訳には 新しい概念についての 議論が必要 髙木 これまでにないものを目指す時には、 中村 (め) 専門性に関してはいかがです しっかりと概念整理をし、その言葉に込め 近年、専門・認定薬剤師制度が誕 えています。そこで皆さんにお伺いしたい 生し、がんにおいてもがん専門薬剤師や のですが、患者支援で耳にする英語の日 か。 濱 られたマインドを確認する必要があると考 ます。今後は、集団の中でのそれぞれの 薬物療法認定薬剤師がより専門性を前 本語訳をどう考えておられますか。まず、 役割を認識し、自己の技術向上を図りな 面に出した患者支援を行うことが 可能に パートナーシップはいかがでしょうか。 がら活動することも求められると考えてい なりました。今後は、専門性を持つ薬剤 ます。また、自らの責任を果たしながら、 師の育成が急務だと考えていますが、一 加藤 室をMedical support and partnership 別のセクションにも委ねるという点の教育 方で、米国と比較して、わが国の薬剤師 sectionと英訳したのですが、やはり「つ も必要でしょう。私の場合、前立腺がん の環境は大幅に異なっています。臨床薬 ながり」ではないかと思います。 の疾患情報や治療法、ガイドラインなど 剤師(Pharm D)がわが国では圧倒的 濱 私が 所属するがん医療支援研究 単なる連携ではなく、医師がメディカ を自分で学ぶだけではなく、専門医から に少なく、薬剤調整に特化した専門職 ルケアを、看護師がナーシングケアを、 直接教わったり、実際の臨床場面を見る (Pharmacy Technician)も存在しませ 薬剤師がファーマシューティカルケアを ことが可能だったことが大きいと思われま ん。そのため、わが国の専門薬剤師は第 実践するというように、職種ごとの特性を す。看護師個人の努力には限界があり、 一線で活躍しながら後進の指導もしてお 持って信頼しあうことだと考えています。 教育体制の整備が今後の課題と考えてい り、マンパワー不足が 大きな課題だと考 ます。 えています。 髙木 アドボカシーはいかがですか。 中村 (め) 先ほど、看護師が 患者に与 ます。 えるのではなく、患者を育てるという話が 埋もれた力を引き出し 他の職種へ代弁する 出たと思いますが、患者の自立やパート ナーシップについてはいかがでしょうか。 近藤 本来、人間は困難を自分で処理 太田 「患者の声の代弁」でしょうか。上 野先生の用語を使わせていただくと、患 者がチームAに言い難いことをチームBが 中村 (め) MSWの立場から、患者の力 代わってお伝えするというのが該当すると 患者は、情報提供のみで自力で 上野 キャンサーサバイバーなどもそうで する能力を持っていると思うのですが、が についてはどのようにお考えですか。 んに罹患したという事実や医療環境によっ 太田 て、そのような能力を上手に発揮すること 近藤 「主張する力」という訳を考えてい 問題解決できる方や傍らに寄り添う必要 思います。 すが、どれもこの10、20年で社会が定義 が難しくなるのではないでしょうか。患者 がある方などさまざまなタイプがあるため、 した言葉で、英語としても新しい世代に属 が自分のために自分の力で立つことがで その方の特性や本来の能力を見極めるこ するものです。それをこれまでの日本語で きるように、コミュニケーションや情報探 とが重要となります。また、患者はがんに 訳すと、概念が違うものになってしまうの 求、問題解決などの能力を高める支援が、 ついて知りたいが 家族がそれを望まない、 ではないかと感じています。日本語として 今後のがん看護サポートの一つのあり方 などのように阻害する要因についても把握 の定義を時間をかけて議論することが 必 ではないかと考えています。 する必要があるでしょう。 要ではないでしょうか。 中村 (め) 患者への支援という面ではど 髙木 がん医療を取り巻く制度が 次々と 人材育成によるマンパワー 不足解消が急務 中村(め) 薬剤師外来を設置された濱 うでしょうか。 変化していくなか、患者支援に携わるそ 患者の力は、表に見えているもの れぞれの専門職の方々のお話をお伺いし と砂に埋もれるように表からは見えないも ました。共通して言えることは、患者自身 のの2つがあり、患者支援ではこの埋もれ の力を伸ばして、周囲を動かしていくよう 太田 先生は、薬剤師による患者支援をどのよ た力を患者自身に自覚していただき、引き な状態を実現させることが、医療従事者 うに捉えておられますか。 出すことがポイントになると感じています。 による患者支援ではないかと感じました。 濱 がん化学療法の副作用に関して、負 また、このような患者の力を他の職種に伝 ご講演いただきました先生方の今後の益々 えること、つまりパートナーシップを組ん のご活躍に期待しつつ、本ディスカッショ の面を強調し過ぎないようにしつつ、情報 提供を行うことができるよう、患者の特徴 でいくことも重要ではないかと考えていま ンを終了いたします。ありがとうございま を考慮して言葉を選ぶことが重要だという す。 した。 ことを、日々実感しています。また、当院 のような薬剤師外来の導入により、従来、 パネルディスカッション 13 第2部 座 長 髙木 安雄 氏 慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科 教授 演者 より良い患者支援のために ―診療報酬の側面から― 櫻本 恭司 氏 厚生労働省保険局医療課 主査 平成22年度の診療報酬改定では、がん医療が4つの基本方針の一つとして大きく取り上げられ、 多数の項目が点数の引き上げ、新設となった。本講演で櫻本氏は、平成22年度改定における主な がん関連項目を概説するとともに、診療報酬改定の基本的な作業概要と、次回(平成24年度)改 定に向けた動向について言及した。 診療報酬改定の進め方 していく視点」の中に「がん医療の推進 と、5年以上がん患者看護に従事した経 診療報酬の改定は、最初に、①社会 について」が掲げられるなど、がん医療 験を持ち、適切な研修を終了した専任の 保障国民会議などの会議において、今後 に関する多数の項目が新設または点数が 看護師の配置が施設基準として定められ の医療政策の方向性やあるべき姿が議論 引き上げられており、算定要件や施設基 ている。 がん治療に対する評価の充実としては、 されるところから始まる(図1) 。次いで、 準の中にチーム医療やより専門性の高い ②社会保障審議会の医療保険部会や医 スタッフの配置を明記したものも散見され より複雑に高度化する外来化学療法に対 療部会において基本的な医療政策が 審 る。例えば、「がん診療連携拠点病院加 応するために「外来化学療法加算(15 議され、診療報酬改定に係わる基本方 算」は、薬剤師、看護師などの多職種 歳以上)」で加算1が500点から550点 針が策定される。その後、③内閣の予算 が参加するキャンサーボードの設置を新 に、加算2が390点から420点に引き上 編成過程を通じて改定率が決定され、こ たな要件として400点から500点に引き上 げられた。同様に化学療法に伴うものとし れを受けて④中央社会保険医療協議会 げられた。また、がん患者への丁寧な説 て、抗悪性腫瘍剤の副作用や用法・用 (中医協)において、基本方針が審議さ 明に対する評価として「がん患者カウンセ 量などを文書で説明し、適正に処方され れ、基本方針と改定率に基づいて個別 リング料」(500点)が新設された。ここ た場合、 「抗悪性腫瘍剤処方管理加算」 の診療報酬項目の点数設定や算定条件 では、がんに関する研修を終了した医師 (70点)が 新設された。ここでは200床 が 決定される。平成22年度の改定の場 合、前年の9月までに①が、11から12月 までに②が、12月末までに③が、同年の 図1 診療報酬改定の流れ 医療政策の方向性を議論する検討会・懇談会等 3月までに④が決定、通知された(図2) 。 基本方針は「病院勤務医の負担軽減」 などの2つの重点課題、 「充実が求められ る領域を適切に評価していく視点」他の 4つの視点などで示され、がん医療は4つ ○今後の医療政策の方向性・あるべき姿について議論 (例) 社会保障国民会議 ○今後の医療サービスの在り方につ いて議論 「安心と希望の医療確保ビジョン」 具体化に係る検討会 周産期医療と救急医療の 確保と連携に関する懇談会 ○国民が地域で安心して医療を受け られるようにするための方策につ いて議論 ○周産期救急医療における「安心」 と「安全」の確保に向けた取組に ついて議論 省内関係部局 の視点の一つとして掲げられた。また、 全体の改定率は+0.19と10年振りにプラ ス改定となった。 平成22年度診療報酬改定 ―がん関連分野で点数引き上げ・ 新設された項目が多数 平成22年度改定では、4つの視点の一 つ「充実が求められる領域を適切に評価 14 ○所管分野に関する要望 社会保障審議会 医療保険部会・医療部会 ○基本的な医療政策について審議 ○診療報酬改定に係る「基本方針」を策定 内 閣 ○予算編成過程を通じて改定率を決定 中央社会保険医療協議会 ○社会保障審議会で決定された「基本方針」に基づき審議 ○個別診療報酬項目の点数設定や算定条件等について議論 今後も、先に述べた実態調査などだけで 以上という施設規模だけではなく、5年以 るためにも、診療報酬に関する議論にお 上化学療法の経験がある専任医師の配 いては、行政や医療従事者だけではなく、 はなく、医療従事者の方々からの情報提 置が 施設基準として定められている。放 保険料を支払う保険者、一般の方々など 供などの協力を得ながら、わが国の保険 射線治療においても、治療可能な施設 すべての関係者が納得できるような共通 制度を充実させていきたいと考える。 数が限られている現状を鑑み、病室での 言語としてのEBMが必要となるであろう。 放射線管理に対して適用される放射線治 療病室管理加算が1日につき500点から 2,500点に大幅に引き上げられた。 緩和ケアについては、入院におけるケ アの充実として緩和ケアチームを構成す る常勤医師などが研修を終了していること などを条件に「緩和ケア診療加算」が 300点から400点に引き上げられた。この ほか、これまでにない領域の項目としては、 治療前や治療後早期に行うことを条件に 「がん患者リハビリテーション料」 (200 点)が設置された。算定用件にリハビリ 施術者の条件やリハビリテーション計画 の作成のほか、リハビリ従事者のキャン 図2 診療報酬改定のスケジュール(平成22年度改定の場合) 中 医 協 ∼9月 個別の議論、定例会議(定期的な保険収載など) 10月30日(再開)∼12月末 検証結果も含め、個別項目について集中的に議 論(週2回) 1月∼ 厚生労働大臣の諮問を受け、具体的な診療報酬 点数の設定に係る調査・審議 <改定案の策定過程において、広く国民の意見 を募集> <地方公聴会の開催> 2月12日 厚生労働大臣に対し、診療報酬点数の改定案を 答申 サーボードへの参加が盛り込まれている 社会保障審議会 11月∼12月上旬 診療報酬改定に係る基本方針について審議 内 閣 12月末 予算編成過程において、診療報酬等の改定率を 決定 厚生労働大臣 1月15日 中医協に対し、改定率や社会保障審議会におい て策定された基本方針に基づき、診療報酬点数 の改定案の調査・審議を行うよう諮問 厚生労働大臣 3月5日 診療報酬改定に係る告示・通知の発出 点が特徴となっている。 平成24年度診療報酬改定 ―前回改定による実態調査や コスト分析の結果も反映予定 平成24年度診療報酬改定では、医療 保険と介護保険の両方で改定が 行われ る同時改定である。医療保険では、先に 述べた流れに則って作業が進行中である が、平成22年度の改定結果の検証も必 要とのことから、病院勤務医の負担軽減 の状況や、在宅医療の実施状況、医療 図3 平成22年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査 調査項目 (1)病院勤務医の負担の軽減の状況調査 ●病院勤務医の負担の軽減および処遇改善に係る措置の影響調査 ●チーム医療に関する評価創設後の役割分担の状況や医療内容の変化の状況調査 (2)精神入院医療における重症度評価導入後の影響調査 (3)在宅歯科医療および障害者歯科医療の実施状況調査 (4)回復期リハビリテーションにおける質の評価、がん患者リハビリテーションの 創設など、リハビリテーション見直しの影響調査 (5)在宅医療の実施状況および医療と介護の連携状況調査 (6)後発医薬品の使用状況調査 平成22年度診療報酬改定の結果検証項目について、優先的に議論 と介護の連携状況などの6項目(図3) の実態調査が本年9月に実施される予定 である。また、平成22年度の改定作業 における中医協の答申では、診療報酬の 図4 平成22年度診療報酬改定の財政的影響の検証 コスト調査・分析について 改定の影響を財政的側面も含めて検証し、 その次の改定に反映させることとの附帯意 見が出たことから、基本診療料のコスト 分析をコスト調査分科会が 検討している (図4)。 中医協答申附帯意見(平成22年2月12日) 再診料や外来管理加算、入院基本料等の基本診療科については、その在り方について検討を行うこととする ほか、財政影響も含め、平成22年度診療報酬改定における見直しの影響を検証するとともに、その結果を今 後の診療報酬改定に反映させること。 基本診療料のコスト分析について、コスト調査分科会に意見聴取を依頼 次回改定で焦点となるテーマとしては、 医師の負担軽減、慢性期入院医療、在 宅医療、訪問看護、リハビリテーション、 ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグなどが想 定されている。一方、臨床の現場からは、 これら以外にも医療機関が日々実施して いるさまざまな医療行為について診療報 酬の評価に組み込んで欲しいとの要望を 多くいただいている。こうした要望に応え コスト調査分科会で検討 入院基本料に関する原価(コスト)調査を行おうとする場合には、 入院基本料に含まれるサービス内容の具体的定義付けが必要となる。 ◆コスト把握の方法 ①残渣方式 ②積上げ方式 (コスト配賦方式) ◆所要期間 同種の調査では、方法論が確立するまで5年程度を要する ◆所要経費 同種の調査では、当初の基本設計は年5百万円程度、調査実施は年3千万円程度の費用が必要 ●入院基本料に関してただちに適切かつ有効なコスト調査を実施することはきわめて難しい ●長期的視点に立って調査研究する体制の構築が望まれる 15 [制作]がん医療マネジメント研究会 代 表 幹 事 ● 髙木 安雄(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 教授) 運営事務局 ● 株式会社シナジー内 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-4-2 日専連朝日生命ビル 6F TEL:03-5209-1851 FAX:0120-773-685 URL. http://www.medi-net.or.jp/cdm/ 2011年11月作成