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外務本省での研修を終えるにあたって
外務本省での研修を終えるにあたって 平成22年3月 外務省中東アフリカ局中東第二課 阿部佑介(北海道より派遣) 北海道からの外交実務研修員として中東第二課で勤務している阿部と申します。間も なく外務本省での2年間の研修を終えるにあたり、私が外務省での研修を通じて経験し たことや感じたことをお話ししたいと思います。 平成20年4月1日、外務省で辞令交付を受け中東第二課に配属になり、最初に言わ れたことが「バーレーン王国を担当してもらいます。」でした。当時サッカーW杯のア ジア地区予選で同組となっており、またF1グランプリの開催地として国名は耳にした ことがありましたが、どこにあるのかもよく分からない国の場所を地図で探すことから 私の中東第二課生活がスタートしました。 (砂漠地帯に造られたバーレーン・インターナショナル・サーキット) 中東第二課は、バーレーンの他、イラン、イラク、アフガニスタン及びサウジアラビ アやアラブ首長国連邦などを担当しています。課内は、アラビア語やペルシャ語、英語 が飛び交っており、当初は大変なところに来てしまったと思ったものです。 各国の担当官は、担当国の省内外における窓口となり、日々現地日本大使館や在京大 使館とのやりとり、各種作業依頼や照会事項への対応、資料作成などを行っています。 また、課内の担当国で大型の要人来日案件がある時には、チームを組んで対応にあた ります。チームは大きく分けて「サブ(サブスタンス)」と呼ばれる実質的な中身(会 談の議題や発言要領などの作成)を担当するチームと「ロジ(ロジスティック)」と呼 ばれる後方支援的な業務(一行の出入国手続き、会場準備や移動手段の手配など)を担 当するチームに分かれます。サブが重要なことは言うまでもありませんが、それを支え るロジの対応がその案件の成否を左右すると言っても過言ではありません。 ロジでは、通関、入管、検疫や警備といった関係当局との調整に始まり、宿舎、車両、 会場の手配等を行います。 各ロジ担当者は相手国と日本側関係先との間に入り情報収集や調整を行います。相手 によってはなかなか必要な情報を出してくれなかったり、一旦決めた予定を(文化の違 いでしょうか、何の悪気もなく)コロコロと変えることもあり、日本側関係者との間で 板挟みになり苦しむこともしばしばです。特別機を一機降ろすのに数え切れないほどの お詫びとお願いをしたこともあります。 来日の直前には、それまで蓄積された関係者の連絡先、各行事の次第や担当者の当日 の動きなどを集約した「ロジブック」というものを作成し、担当者はそのロジブックを 抱えながら実際の対応にあたります。 初めてロジブックを見た時にはその厚みに驚き、「ここまでする必要があるのか」と 正直思いましたが、実際にロジ業務に参加してみて、このロジブックの厚みは、訪問を 実り多きものとし、賓客に気持ちよく帰ってもらうために必要なものを積み上げた結果 であるということがよく分かりました。 一行が無事に日本での行事を終え、出国した頃にはロジブックも自分もボロボロにな りますが、大型の訪日案件は準備から本番まで、ある意味お祭りのような盛り上がりが あり、終えた時には大きな達成感があります。 外務省の仕事というととても華やかな世界を想像する方も多いのではないでしょう か。私自身そういったイメージを持ってここに派遣されてきましたが、少なくとも当課 のように各国を担当する「地域課」と呼ばれるところでは地味な仕事、汗をかく仕事を たくさん行っています。海外の要人が来日する際、報道では特別機から笑顔でタラップ を降りるところや会談で握手をするところくらいしか映りませんが、その陰にはサブ・ ロジ含めた関係者の汗と涙が隠れていることを学びました。 海外の要人が来日する場合、東京での行事と地方での視察を組み合わせることがよく あります。ただ、地方の訪問先については一部地域に偏る傾向が見られます。毎年多数 の訪問を受け入れている地域の方々の努力には敬意を表しますし、訪問先の一案を作成 する東京の各国大使館が慣れたところに頼みたがるということもよく分かりますが、日 本各地には多くの魅力を持った地域があるので、各自治体はもっと積極的に要人訪問の 受け入れに手を挙げるべきだと思います。 確かに要人訪問の受け入れには多くの苦労があると思います。一行の予定は直前まで 決まらず、一旦決まったスケジュールも国によってはトップの意向で簡単に覆されるこ とも多々あります。ただ、そういった苦労の先には友好都市・姉妹都市とは違った新た な繋がりができることも期待されます。 また、要人訪問の受け入れは、各地の名産品の売り込みにも生かせると思います。要 人の来日には、本国から記者を同行させることも多く、要人の行動は本国で報道されま す。 例えばA国の国王が地方視察をして本国のテレビ・新聞で「国王、日本のZ県を視察、 県産のみかんを絶賛」などと報道されればA国の人の頭には「みかんといえばZ県」と 強く印象づけられることでしょう。特に王族が統治する国では、王族の行動は国民に多 大な影響を与えるので効果は絶大です。自治体首長の現地でのトップセールスなどと併 せて検討してはいかがでしょうか。 最後になりますが、右も左も分からない私を暖かく迎え入れていただいた外務省、特 に中東第二課、在バーレーン日本大使館の皆様に感謝申し上げます。中東というと石油、 砂漠、テロといったイメージしかありませんでしたが、国により豊かな特色があり、ま た石油だけに頼らない様々な産業を育てているという面も学ぶことができました。 4月から2年間の在外公館勤務を予定しています。また違った環境での勤務となりま すが、2年前に、それまで作業服に長靴で漁船の検査をしていた立場から、スーツで霞 ヶ関勤務、バーレーン担当と言われたあの時のギャップに比べれば大したことはないと 思っています。 (バーレーン・フィナンシャル・ハーバー) (了)