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シンポジウム「子どもの非・反社会的行動への対応」 村尾 泰弘氏(むらお

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シンポジウム「子どもの非・反社会的行動への対応」 村尾 泰弘氏(むらお
シンポジウム「子どもの非・反社会的行動への対応」
村尾
コーディネーター
村尾
泰弘氏
シンポジスト
豊岡
敬氏,吉永
泰弘氏(むらお
千恵子氏,生島
浩氏
やすひろ) 立正大学社会福祉学部教授
講師略歴等
家庭裁判所調査官として,少年非行や離婚など多くの家庭問題にかかわった後,立
正大学専任講師,助教授を経て,現職。
内閣府:
「少年非行事例等に関する調査研究」企画分析委員,神奈川県青少年問題協
議会委員,認定NPO法人「神奈川被害者支援センター」副理事長
本年度,本研究集会企画検討協力者
このシンポジウムの企画意図
村尾
現代の非行というのは,さまざまに多様化していて,非社会的問題行動とか,反社
会的問題行動とかいうように,単純に分けては考えられなくなっている。本日のシンポジ
ウムは,こういう現代の非行や問題行動をどのように理解したらよいかをテーマとしてい
る。話題の対象としては,非行を中心とした問題行動を念頭に置いているが,シンポジス
トには,子どもの問題行動全般を広く取り上げていただいてもよいと思う。
最初に豊岡先生から話題提供いただく。今回,少年法の改正があったが,その大きなポ
イントの一つとして,低年齢非行に対する対応ということが挙げられる。豊岡先生からは,
児童相談所の観点,また,福祉の観点から,現代非行の特徴や,その対応をどのように考
えたらよいか,そういった点にも触れていただけると思う。
次に吉永先生は,少年鑑別所にお勤めで,また,医師の立場であるので,少年鑑別所か
ら見た子どもたち,あるいは矯正施設における子どもたち,また,医学的な立場から見た
子どもたちにもふれていただきながら,話題提供をお願いしたいと思う。
生島先生からは,社会内処遇の観点,あるいは,学校教育の視点から子どもたちを見る
とどうなるかということにもふれていただいて,それぞれ話題提供をしていただくことに
したい。
豊岡
敬氏(とよおか
たかし) 東京都足立児童相談所長
講師略歴等
昭和49年より東京都内の知的障害児施設,児童養護施設,児童自立支援施設等に
勤務。平成5年から2年間,厚生省児童家庭局障害福祉部障害福祉専門官。その後,
福祉局八王子福祉園や東京都社会福祉事業団を経て,平成15年には東京都立川児
童相談所の所長,平成18年度より現職。
1.児童相談所における非行相談の現状
東京都の児童相談所で非行相談に関する全件調査がまとまり平成 17 年3月に報告した。
これは,東京都内 11 の相談所での,平成 15 年の非行相談についての調査を報告書にした
もので,まず初めにその要点だけお話をしたい。東京都内でだいたい 1,500 件の相談中,
- 1 -
単純な電話相談が 300 件ほど。その他の約 1,200 件について,相談経路とか,内容を分析
していった。東京都の統計グラフは今日の資料に載せてあるが,若干,右肩上がりになっ
ている。
その資料3「主な分析結果・特徴など」に示したように,子どもたちの非行の入り口―
―スタートの段階は,男の子は万引き,女の子は家出外泊から入っていくということが多
い。相談の現場に居ると,万引きをした場合に,その親御さんがどういう対応をされるか
ということも,非常に重要になってくると思う。グループで万引きをしたりすると,
「なん
でうちだけ悪くいうの」とか「あの子だってやったんでしょ。うちはそそのかされてやっ
たのだ」とか言う親御さんもいる。しっかりと子どもを連れてきて,その事の重大さを子
どもに分からせる,話をして聞かせるとかしてくださる親御さんも居るけれども。こちら
が連絡をしても門前払いで「なんで児童相談所に行く必要があるんだ」
「もう既に警察で話
は終わってるでしょ」というような親の現状があることを,わたしたちは考えていかなき
ゃいけないのかなと思う。
それから,女の子の家出外泊だが,やはり家の中での居場所がない。子どもたちがさま
ざまな問題を抱えても相談をする場所がない,あるいは友達からも孤立をしているとか,
いろんなことでなかなか家が落ち着く場所になっていない,だから家を出る。背景には,
後で触れるが,虐待の問題もある。
あと一つ特徴的なことを言えば,非行相談があった子どもの特徴として,「自己中心的」
「未熟」「意思が弱い」。私も児童自立支援施設の方にいたけれども,一人一人見て,ゆっ
くり話をしていけば,粗暴な子どもでも,街で見かけるような鋭い目つきとか,人を威嚇
するとか,脅すとかそういう様子はまったく見られない。つまり,その子はそういう形で
しか通常の社会で生きられなかった。家に帰れば親から怒られたり,あるいは,まったく
放置をされていたり,逆に親からの虐待,暴力を受けていた。そういう子どもがやっぱり
鋭い目つきで大人に対して向かっていく,あるいは反抗する。学校の中でも,ほかの子の
上に立っていないと,自分はずーっとやられっぱなしになってしまう。だから,強がって
いくというようなことがあるのかなというふうに,わたしは思っている。
あとは子どもの被虐待経験。非行相談の裏には虐待があると私どもは思っている。この
調査の段階では,4件に1件の割合で,非虐待の経験が報告されている。ただ,もっと実
感としては多いんではないかなと思う。これはあくまでも調査,書類上の報告で,虐待,
特にネグレクトの問題というのはなかなか表に出てこないが,実際にはかなりあると思う。
それから,性的虐待の問題。女の子の家出の話をしたけれども,性的虐待を,例えば母
の内縁の夫とか,養父から受けていて,そのことが言えずに家出へはしる。で,食べるも
のもないわけだから,警察に補導されて児童相談所へ身柄通告をされてくる,こういうケ
ースがある。その場合には,その性的虐待は,児童相談所に保護されて落ち着いてようや
く,
「実は」というようなことで話してくれる。この場合,子どものその非行の現象だけ捉
えていればいいのかというとそうではない。問題の解決には,背景にあるその性的虐待の
問題をしっかり見て,親とも,そういった内夫とか養父とも話をしていかなければ,これ
は絶対に解決しない問題だと言える。いわばある意味,被害者になっている部分はあるの
だと思う。
資料では「非行防止のポイント1」としたところだが,子どもに対する保護者の支援で
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いえば,早期の対応。自分の家が溜まり場になっている,というようなところに気づくこ
とが非常に大きなポイントかなと思うし,あと,地域の協力が重要。顔見知りの子どもに
は,普段から声をかけるなどの温かい関係づくりとか,冒頭申し上げた初回非行への毅然
とした対応。毅然と,なおかつ正しい対応をしていかないといけない。それから,立ち直
りを支援する関係機関との連携,この辺が重要だろうなというふうに思う。児童相談所の
専門性の強化――児童相談所は処罰ではなくて,相談援助の機関。警察からの書類通告,
身柄通告はあるけれども,児童相談所が警察と同じレベルだと一般の家庭の方には思われ
ている。
「警察で終わったから,もういいでしょ」ということで,その問題に向き合おうと
しない親御さん,結構いるので,その辺が重要だと思っている。背景に潜む,被虐待経験
とか,子どもの心情に配慮するとか,十分なアセスメントをしていかなければいけないだ
ろうなと思う。
それから,「非行防止のポイント2」というふうに書いておいたところについて。実は,
この調査の中で,児童自立支援施設の現状や,卒業したお子さんの現状というものも調査
しているけれども,その中から見えてきたのが,子どもの非行を年齢が解決する問題だと
放置しないことが大事だということ。真摯に話し合い,理解をし合う。
この調査の中では,事例も記載しているけれども,不良交友をして薬物常習化したAさ
ん,中学校卒業したお子さんなのだけれど,児童相談所が援助をして立ち直った。この子
も初めは家出外泊というか,男子高校生の家に泊まりこんで,脱法ドラッグに手を出すよ
うになっている。で,万引きした物を売りさばいて,そのお金で薬を買ったりしている。
児童相談所に身柄で通告をされて,児童相談所がその相手の高校生と話をしていくと,
「い
や,それはあいつが勝手にやったんだよ」とかということで,男性は全然彼女のことを大
事に思っていなかったということが分かった。
「交際もしたくないんだ」と言うようなこと
もあったので,Aさんはそれを知って,立ち直るきっかけにもなり,そこでお母さんがし
っかりとこの子と理解し合えた,というようなことで支援が成功したというような事例も
紹介をされている。これはあくまでも,東京都がまとめた非行相談の現状ということだけ
れども。
2.児童相談所の機能と役割
次に,児童相談所が基本的にどういう非行の関わりをしているかという話をする。資料
の 1 ページ目に「措置による指導,措置によらない指導」と書いておいたけれども,
「措置
によらない指導」というのは通常相談を受けて助言をしたり,あるいは子どもを呼んで指
導,お話をしたり,家庭訪問をしたりというようなことになる。一方「措置による指導」
というのは,これは「措置」というのは行政処分なので,しっかりと文書で「あなたには
こういう指導をします」ということで親御さんにも文書がいく。また,これに納得しない
親御さんもいらっしゃるわけで,
「なんだこれは」ということもあるが,そこのところはぜ
ひ親御さんにもしっかり向き合ってほしいなというふうには思っている。場合によっては
施設入所ということになるが,児童相談所は施設入所させたから,それで終わりというこ
とではないので,その後,どうやってまた地域へ帰していくかということが重要になって
くる。それから,家裁への措置とか一時保護というようなこともあるけれども,その中で
子どもへの支援をしていくということになる。
- 3 -
「ある市の取り組み」ということでは,時間もないので簡単に触れるが,ある中学校で
民生児童委員さん,主任児童委員さんたちが,空き教室などに週5日間,ずっと待機をす
る。教室に入れない子ども,あるいは,茶髪の子どもとかピアスしている子もいるのだけ
れども。そういう子どもたちの話し相手とか,愚痴を聞いたり,相談を聞いたりというよ
うなことで取り組みをしている所がある。これは学校との協力の下で出席扱いにもなる。
さらに「児童自立サポート事業」について少しお話をしたい。資料にも用意をさせてい
ただいたが,先ほどお話をした非行相談の結果からみて,児童自立支援施設を卒業した子
どもが地域へ帰ってもすぐ崩れてしまう。ここをなんとか支える方法はないかということ
で,民生児童委員さん,あるいは主任児童委員さんを活用して,児童相談所の児童福祉司
とチームを組んで,この子をしばらく見守っていこう,支援をしていこうということであ
る。施設に入っている時から,ご本人と親御さんの了解を取って関わりを始めていく。こ
れが,この事業の特徴である。施設を出た後,学校へ行ったり,あるいは仕事をしていた
りというようなことがあると思うが,そこのときに悩み事があれば,民生児童委員さんに
打ち明けてということもあるだろうし,顔を合わせれば,あいさつを交わしたり,あるい
は手紙のやりとりをしたりというようなことで支援をしていくという取り組み。件数はそ
れほど多いわけではないが,だいたい 40 件くらいの取り組みを東京都内で今やっている。
いわば,資料4の「地域で考える・支える・育てる」,ここのところが重要だということを
わたしは申し上げたい。この取り組みの一環だというようにご理解いただければありがた
い。
3.少年法の改正をめぐって
今日,特に資料は用意していないけれども,先ほど村尾先生の方からお話がありました
少年法の改正について,私どもの方で,今,取り組みしていることに,少し触れたい。少
年法,少年院法の改正によって,児童相談所の動きにも当然変化が出てくる。これまで単
に書類通告,あるいは身柄通告ということだったわけだけれども,今度は送致ということ
で,非常に重大な事件,殺人を含む事例も,今度は対応をしっかりとしていかなければい
けないということである。送致を受けたからといって,児童相談所の対応が 180 度変わる
とかそういうことではない。今までやってきたことを,しっかりともう一度やり直してい
くということなのだが,児童相談所の機能は社会調査,行動観察,心理診断,この3つだ
とわたしどもは思っている。基本的な犯罪についての調査,捜査というものは警察で,あ
る意味終わって送致を受けるので,そのことをぶりかえし,繰り返して,
「やっぱりそうだ
ったのか」と再度調査をし直すということではない。
「なぜこういうことをしたのか,こう
いうことになってしまったのか」という,その振り返りだと思う。児童相談所で送致を受
けたら,まず,そこのところを子ども本人と,児童福祉司が話をしていく,振り返りをし
てもらうということになると思う。中でも放火というのが,わたしたちの一番心配してい
ることになる。小さいお子さんでも放火というのはよくやるし,放火は罪が重いですから,
すぐ児童相談所への送致ということになる。
原則家裁送致だというけれども,児童相談所は児童相談所の権限で,しっかりと「これ
は家裁送致をする必要がない」というふうに判断ができれば送致はしない。しなくてもい
いわけなので,そこが児童相談所が今後,しっかりと機能していかなければいけないとこ
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ろだろうなと思う。警察としては,送致をした方がいいと思っているわけだろうが。でも,
児童相談所が調査をして,それから心理判定をした結果,
「やはり,この子はやっぱり地域
で十分やっていける」とか,「児童相談所の関わり,児童福祉司指導で十分やっていける」
とこういう判断ができれば,それは在宅という選択の道もあるわけである。従って,その
辺は児童相談所がますます調査の機能,それからアセスメント機能を十分にしていかなけ
ればいけないということだと思うし,それを支えるのは,やはり地域の力,地域の養育力
ではないかなというふうに思う。
村尾
児童相談所の活動を中心に,いろんな側面からお話しいただいた。特に,東京都が
始めた「児童自立サポート事業」は今ご説明があったように,児童自立支援施設を退所す
る児童について,退所する約6カ月前から児童相談所,民生児童委員,主任児童委員が連
携してかかわり,そして,退所後約6カ月フォローする。そういうことを東京都が始めて
るわけである。今まで,少年院には仮退院をして,そして保護観察がついてフォローして
いくというシステムがあったわけだが,児童自立支援施設にはそういうシステムがなかっ
た。
だから,今後この事業がどういうふうに展開していくか,とっても興味深く,私などは
見守っていきたいなというふうに思っている。
吉永
千恵子氏(よしなが
ちえこ) 東京少年鑑別所法務技官
講師略歴等
医師として東京大学医学部精神神経科で研修後,思春期青年期の外来治療を担当。
その後,横浜少年鑑別所を経て,平成12年より現職。法務技官として,少年鑑別
所に入所した少年の心身のケアと精神科診断を担当し,処遇への助言に当たる。
1.少年鑑別所の臨床
少年鑑別所は,法務省管轄の矯正施設である。家庭裁判所の命令で観護措置をとられた
原則 14 歳~19 歳の非行少年を収容する所になる。14 歳~とはいいながら,凶悪な事件を
起こした子どもであれば,13 歳とか 12 歳の子どもも年に数例収容されることはあった。
だが,11 月から少年法が改正になり,最年少 12 歳前後でも(11 歳でも)少年院収容が可
となったので,今後は少年鑑別所にも 13 歳,12 歳,一番小さくて 11 歳の子どもがもっと
入ってくるかもしれないということで,今,現場では対応を考えているところである。ま
だ収容者はいないけれども。最終審判まで通常4週間収容して,24 時間行動を観察しなが
ら身体検査を行い,面接を行い,いろんな心理検査等々を行いながら,最終的に鑑別結果
通知書というのを作成して審判に役立てていただく,そして,その後の処遇に役立ててい
ただく,そういう施設である。
わたしは,医務室の精神科医なので,少年鑑別所に収容されたということで,眠れなく
なったとか,気持ちが不安定になってご飯が食べられなくなった,そういう子どもたちに
ついてお話を聞いたり,お薬をあげたりしてケアをしている。そして,精神障害があるか
どうか,あるいは,発達障害があるかどうか,そういうことについて診察を行って,診断
書を書くという仕事をしている。
- 5 -
少年鑑別所に勤めて 11 年目になるけれども,最初に勤めるときに,「とっても怖いんじ
ゃない。そういうとこで働くのはどうなの?」というふうに,いろんな人にいわれたけれ
ど,実際少年鑑別所で会う子どもたちは,全然そういう様子ではない。皆,外では怖い顔
をしてお化粧をたくさんしたり,いろんなアクセサリーをつけたり,とっても怖い格好で
居るのかもしれないけれども,少年鑑別所に入るとすべてそういう私服とか,アクセサリ
ーとか,お化粧は落とさせられる。そして,少年鑑別所の制服,ジャージとかフリースな
のだけれども,そういうものに着替えさせられる。そういう突っ張りの皮を全部はがされ
た子どもたちは,とっても自信なげで,不安そうで,幼い,頼りなげな,未熟な子どもた
ちである。家族からも引き離されて,塀の中へ。鍵が閉まる個室,集団部屋もあるけれど,
そういう所へ入れられて規則正しく生活をさせられる。行動も制限されているので,自由
なことはできない。おしゃべりも勝手にできない。今まで,もやもやしたことを直面せず
に,全部行動化して悪いことをしていたり,突っ張ってきたり,そういうようなことがす
べてできない,はがされてしまった子どもたちは,そういう環境に置かれることで,初め
て自分の心の中のもやもやは、何なのだろうということを見ざるを得ない。
そこで,家庭裁判所の調査官の先生方であるとか,付添い人,弁護士の先生方であると
か,あるいは,少年鑑別所の技官,教官の先生,わたしも聞きます。
「あなたはどうして事
件を起こしたの。どういうような生活をしてきたの。今後,どうして生きたいの」という
ことを,繰り返し,繰り返し,いろんな方に聞かれる。そういうことで,かれら自身も答
えを探さざるを得ない。で,自分はどういう生活をしてきたのか,そして,事件はどうし
て起きてしまったのか,そして,今後どういうふうに生きていきたいのか,そういうこと
に向き合わざるを得ない。審判も4週間後には必ずくる。そのときに彼らはできれば社会
に戻りたいから,その審判でいい結果を出すために一生懸命答えを考える,そういう所で
ある。
で,警察官の方も,調査官の先生方も,付き添い人も,今,被害者の気持ちを考えると
いう指導が盛んになってきているので,
「 あなたのしたことは相手にこういう迷惑を与えた
んだ」「こういう被害を与えたんだ」「こういう気持ちを持っているんだ」ということを教
えられるようになってきた。そこで,自分のしたことは,こんなことだったんだというこ
とに直面させられる。あるいは,その鑑別所にお手紙をくれたり,一生懸命面会に来てく
れる親,兄弟などのありがたみに気づいたりする。自分は大丈夫,捕まらないみたいに甘
く思っていたのに,やっぱり自分も捕まってこういう目にあって,少年院に送られるかも
しれないということで,自分の犯したことの結果に直面する。やっぱり少年というのは可
塑性が大きいから,4週間といっても結構変わる。自分の問題点にちゃんと気づくことが
できて,自分はいけなかったから,こういうとこは変えていきたいというふうにちゃんと
いえるようになった子どもは社会に戻っていくし,そういうところに焦点が当たらなくっ
て,いつまでも人のせいにしていたりするような子どもは,やっぱり矯正教育が必要と判
断をされることになっていく。
だから,少年鑑別所で勤めて,やっぱり効用があるなと思っている。そういう非行少年
の虚勢をはがして行動化を押さえ込む所である。そして,自分の中のなんかもやもやした
ものに,感情に,向き合って言語化する,言葉にして表すことをする。いろんな大人が一
生懸命話を聞いてくれるので,大人と話すのも悪いことじゃないんだというふうに思う。
- 6 -
家族のありがたみを再確認したり,自分の行動が周りにかけた迷惑とか被害を知ることが
できたり,やっぱり罰というのがあるんだってことをちょっと分かってもらうことで,そ
の凝縮された時間の中でいろんなことに向き合うという場所で,なかなかいいということ
で,わたしもなかなか辞めないでいる。
2.精神医学的な視点から
精神科医の立場で何をしているかをご紹介する。プリントの印刷で分かりにくくなって
しまったが,医務室精神科受診者の3分の1が拘禁への反応である。不眠であるとか,心
情不安定,
「不安です」とか,
「ご飯が食べられません」,そういう非行少年たちの拘禁反応
のお世話。あとの3分の1ぐらいが,知的障害があるとか,PDD,広汎性発達障害圏で
あるとか,ADHD圏の診断をしている。資料のデータは,延べ数なので重複がある。知
的障害があって,PDD圏であって,ADHD圏であるという子も居るので,もうちょっ
と人数的には少ないが。あとは統合失調症圏であるとか,気分障害圏とか,てんかん圏の
子がいる。すごく典型的な症状という人は少なくて,あいまいで,軽度であるが故に見逃
されている障害が多いという印象がある。
それで,いろんなところでわたしもお話しし,いろんな方が話されていると思うけれど
も,発達障害というものは決して直接非行に結び付くわけではない。ただ,背景に軽度の
発達障害が隠れているということはやっぱりよくあることである。いかにもそうだ,典型
的だという方は,周りに分かりやすいので,ケアが入りやすいけれど,境界域の発達障害,
広汎性発達障害であるとか,軽度のADHDのお子さんが,それと分かられずに虐待を受
けてしまうとか,あるいは,不適切な指導を受けてしまうとか,周りにいじめられてしま
う,あるいは,学習に集中できないとかいうことで,自尊心低下とか,不信感を抱いたり
して,性格的にも問題が出てきてしまって,それが問題行動に結び付くというパターン。
それ故にやっぱり根底にある発達障害はちゃんとアセスメントしてあげて,そういう目で
少し支援をしてあげるとたいぶ暮らしやすくなるというのは本当だと思う。わたしが精神
科診断をしている意義はそういうわけで,非行の背景にはやっぱり家庭での不適応,虐待
の問題があったり,親との不仲があったりするし,学校でもうまくいかない,学習がうま
くいかないとか,お友達関係がうまくいかないということがたいていある。さらにその背
景に精神障害が潜んでいたり,発達障害が潜んでいたりするといけないので,そこでそう
いう可能性を考えて,もし精神疾患であれば,ちゃんとお薬を合わせてあげれば改善する
可能性があるし,発達障害であれば,そういう特性は本人も理解して受容していただきた
いし,周りの方も理解して,それに合わせた指導法をきちっと合わせてあげることで,だ
いぶ本人も周りも暮らしやすくなるということで考えている。
さっき見ていただいたように,最近ADHDの診断が非常に多いけれども,ご本人にも
なるべく,診断名はともかく,
「なかなかひとつのことに集中できないようなところもある
よね,だけど自分の好きなことには非常に集中できるよね」とか,
「いろんなことに気が散
りやすいところがあるよね」とか,
「とっても元気で活発だよね」とか,障害の悪いところ
だけではなくていい点も併せて,
「 それがあなたの特性だと思うけど,どう思う?」と言う。
ご本人に説明して納得していただける形で。それを医学用語でいえば注意欠陥多動性障害
とかいうのだが,
「こういうふうな可能性があるから書いても構わないかな」というふうに
- 7 -
聞いてみて,ご本人が「あ,そうですね。僕はそういうとこ,確かにあると思うので,書
いても構わないですよ」といってくれたケースについて書くように頑張っている。
3.少年院での矯正教育
わたしは少年院では勤めたことはないのだけれども,少しご紹介する。なかなか自分の
問題に気づけない人,あるいは非行内容が悪質なもの,反社会性が進んでいるものは少年
院で処遇するということになる。短期処遇と長期処遇というのがある。やっぱり重大事件
に関しては,比較的長期であるとか,相当長期という勧告が付く。少年院は 24 時間の教官
との濃密な人間関係,ぶつかり合いがある。もうここだと発達障害だとか,非社会的な子
どもだとかいっている場合ではなく,もう 24 時間関わらざるを得ないということで,濃密
な人間関係がある。
その中でも強固な枠組みがあり,ルールもはっきりして,その中でその子ができるよう
なことをやらせてみて,できたことはタイムリーに誉めてあげる。タイムリーに悪いこと
は悪いというふうなことを繰り返しやっていく。それで,彼らの更生意欲,自覚に訴えて,
ちょっと頑張ってみようというのを引き出すということをやっている。
これは細かいことだけれども,基本的な生活訓練。集団でおなじことを,おなじように
する。これが,発達障害のある子どもにも結構いいみたいである。枠組みがはっきりして
いるから,その中で、皆で同じようなことをしていくということが,結構訓練になって伸
びていくようだ。あとは教科教育に力を入れたコースと,職業補導に力を入れたコースと,
問題行動の指導に力を入れたコースがある。
今は被害者の方を想定して,被害者になった気持ちで手紙を書いてみるというような,
役割交換書簡法であるとか,読書・作文などで被害者について考えてみようということを
やっていただいたりする。基本は人との絆を回復させるということである。
今,人間関係が希薄になっているので,人との絆――自分が悪いことをしようと思った
ときにそれを引き止める絆――人間と人間の関係というのは大事なことである。だから,
少年院に居るような子どもたちは,やっぱり親との関係も希薄であるし,残念ながら周り
の人との関係も希薄だった。そこをなんとかしようということをやっている。共同生活の
中でいろんな課外活動とかあるので,役割を果たしてもらって評価されたりすることで,
自分でも役に立つことがあるんだとか,認められることがあるんだってことを積み重ねて
いって,やっぱり自分はほかの人に必要とされることがあるんだ,自分にも価値があるん
だってことを考えていただいて,自分は社会で生きていきたい,きっとほかの人に認めら
れるようになりたいという気持ちを育んでいくということをやる。少年院は育ち直しの場
所です。
収容されるお子さんの家庭はいろんな問題を抱えていて,虐待の問題もあるし,アルコ
ール問題であるとか,ご両親の不和とかがあるので,家族機能がよくない。やさしく,厳
しい理想的な父親像が不在の子が居ますので,そこを少年院でやる。親への反抗もちゃん
とできていないので,少年院の先生との間に反抗期をやる子どもも居るので,そこで親代
わりになって断固たる態度をとる。いけないことはいけない。でも,ちょっとでもいいこ
とをしたら「おお,よくやったな」という。ほんとに基本の,誉めるということと叱ると
いうことを繰り返しやる。育て直すということをやっている。
- 8 -
4.少年非行の質的な変化
最後に,非行少年の質的な変化についてだが,一般に非行少年の二極化現象といわれて
いる。古典的には、家庭に問題があるとか,学校とか職場に適応できなくて,居場所がな
くて,同じような子どもたちが集まって,集団でいろいろ悪いことをするというのが典型
的な非行少年だったが,最近は非社会的な少年が増えてきている印象がある。表面的には
一見普通に見えるけれども,よく見ると全然普通じゃなかったりする。問題行動もないし,
おとなしいし,これでいいと思われていた子どもが突然いろんな問題を起こすというケー
スが,目立っている感じがある。だから,今,非行少年の収容は減りつつあるんですが,
非社会的少年に対応する少年院の収容は増加して,そこだけ満杯という感じになっている。
これは一般的なお話しになるが,戦後の波というのがいろんなところでご紹介されてい
て,戦後の混乱期があって,生きるための非行が多かった時期があった。高度経済成長期
になると,反抗文化,学園紛争なんかがあって,そういう反抗型の非行があった。そして,
第3期の 1980 年代には遊び型非行というピークがあったといわれている。
そして第4期というか,最近の非行は,いきなり型非行というのがいろんなものの本に
書かれている。非行歴の少ない少年が,いきなり重大事件を起こす。遊び感覚よりもっと
現実感覚が希薄で,ゲーム感覚で,ファンタジーに基づいて何か事件を起こしてしまう,
そういう事件が立て続けに起こっている。ただ、この波は下がってきている感じがある。
わたしが少年鑑別所に勤めてすぐから,少年鑑別所の収容はずっと増えていて,東京では
年間 1,800 人ぐらいの収容が続いていたが,去年が 1,500 人に減ってきて,ことしは 1,300
ぐらいで終わりそうである。だから,ピークは去ったかなという感じはあるが,残ってい
るのは比較的年少の中学生ぐらいの子どもたちと,非社会的な子どもたちということで,
精神科医はなかなか暇にはならない。ご本人がいろいろ訴えも多かったりするし,風変わ
りであるので何か問題がないだろうか、発達障害はないだろうかということで,いろいろ
面接をするケースは減らない。
表面的にはおとなしくて,目立たなくて,一見普通の少年である。だけど,内面はとっ
ても未熟で,対人的スキルとか自己表現力は乏しくて,適切に自己主張をしたり,感情表
現したりすることがなかなかできない。だから,先生とか友達はもとより親とか兄弟とさ
えも表面的な関係にとどまっていて,不適応感であるとか,孤独感とか,無力感とか,被
害感を内面に抱えている。だけど,表情に出なかったり,表現しなかったりするので,周
りからは分かりにくい。で,彼らは何をしているかというと,ゲームに浸ったり,小説と
かインターネットの世界にはまったりしていて,誰とも交流がないので自分だけの主観的
なファンタジーの世界に浸っていて,修正されることが全然ないから,幼児的な万能感と
か誇大感に基づいて,そういうものを肥大させて,ほかから見るとちょっと奇妙なのだけ
れども,自分だけの考えで容易に,短絡的に行動に移して,いろんな重大な事件を起こす
というパターンがある。だから,ほんとうはいきなりじゃない。その人をよく見ていると,
こういうパターンが見られると思うし,きっとなんらかのささいな前兆があるのだけれど
も,周りからなかなか気づけない。この人の表現力が稚拙だという問題もあるし,関係そ
のものも薄いということがある。何人かのそういうタイプの子どもたちに面接していてよ
く思うのは,やっぱり周りの人が子どもの視線に立って,その気持は分かりにくいのだけ
- 9 -
ど,「本当は,あなたはどう思うの」とか,「本当はどうしたいの」みたいなことを引き出
してあげたら違ったんじゃないかなと思う。事件が起こってしまってから面接すると,そ
う思うことが非常に多い。だから,残念に思う。
なんでこんなことが起こっているのかというと,やっぱり兄弟数が少ない。児童数も少
ないので,うちにも子どもが居るけれど,1学年は2学級しかない。1学級とか2学級と
か,とっても子どもたちも少ない。だから,ずっと同じような人間関係なので,多様な人
間関係の経験が減っているというのはあると思う。あとは遊ぶ時間,塾とか習いごととか
いろいろあるので,遊ぶ場所も時間もないし,結局,遊ぶというとテレビとかゲームにな
っちゃうし,今,携帯電話とかメールとかいろいろ便利なものがあるので,直接人と人が
フェイスツーフェイスで話すということが少ないから,人と関わる力が弱い。自己愛が強
いので,ちょっと傷ついたりするぐらいならば関係をやめて回避しちゃう。それで,自分
の思いどおりになるバーチャルの世界,インターネットであるとか,ゲームの世界に引き
こもっちゃう。そういう文化というのがあると思う。広汎性発達障害の傾向がちょっとあ
る人は,やっぱりこういう文化の中で一番影響を受けやすい。だから,広汎性発達障害の
非行というのがクローズアップされたのだと思う。対人的スキルを学ぶ場所とか機会が減
っているから,そういう子どもたちの非行が目立つのであって,そういう障害があるから
非行に至るわけではないと思う。自分の身の丈というか,等身大の自分が分からない。修
正される機会がないし,そこで失敗をして乗り越えて,自分の等身大の力,大きさが分か
っていくという経験がない。
だから,どうしたらいいのかというと,やっぱり絆をたくさんつくるということだと思
う。今までは指導しなくても当たり前に分かってきたことを,きちっと教えるということ。
基本的には生活習慣――「会ったら挨拶をしましょう」みたいな人との付き合い方から指
導し,自分の感情をどんなふうに表現するものかということも教えないといけない――我
慢の仕方とか,感情のコントロールの仕方から教えないといけない。自己主張の仕方,ど
うしていいか分かんないという場合が結構多いので,こういうときはこういうふうに言っ
ていいんだよ、みたいなソーシャルスキルを教えていかないといけない。やっぱり親と子
のコミュニケーションも一方的だったり,表面的だったりしないかなというところを見て,
本当の感情と感情のコミュニケーションみたいなことをサポートできればいいんじゃない
かなと思う。
生島
浩氏(しょうじま
ひろし) 福島大学大学院教育学研究科教授
講師略歴等
昭和54年に法務省入省後,東京・横浜で保護観察官,法務省法務総合研究所室長
研究官,法務省浦和保護観察所観察第一課長を経て,現職。
「ふくしま被害者支援セ
ンター」理事,「日本家族研究・家族療法学会」副会長,「日本犯罪心理学会」理事
等を務める。
1.非行臨床とは
私は,非行臨床を専攻していて,村尾先生も同業者なのですが。私が,非行心理学とか
いう言葉を使わないで,あえて非行臨床という言葉を使っているけれども,その辺からお
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話ししたい。20 年余り法務省で保護観察官の仕事をしていたが,非行・犯罪に陥った人が
どういうふうにもう一度社会復帰(リハビリテーション)していくかということに関心が
ある。現実にどうして非行少年・犯罪者になったのかなということに関しては,いまさら
どうしようもないことがほとんどで,例えば親が離婚した,家庭崩壊した,お父ちゃんが
アル中だ,お母さんが病気だと,もうどうしようもないし,本人が高校を辞めたのも,そ
こは今となってはどうしようもないこと。昔のTVで「ジェスチャー」というのがあった
が,そのなかで取りあえず「置いといて」というのがあったでしょう。これからお話しす
るように親御さんも問題あるわけだけれども,たとえは悪いが「腐っても親」ではないか。
どうやって問題を抱えている親御さんに頑張ってもらうかという,そこに焦点を当ててお
話をしたいと思う。
リハビリテーションという言葉を使うのは,何かしら障害があるからで,心身の障害が
ある人もいるが,要するに,私どもの世界での使い方は社会的な障害があるという意味で
ある。例えば,施設帰りといった烙印付け(スティグマ)が典型的なもの。
とにかく朝起きて 30 分でも通勤するというのは,社会性があるから。非行少年はそう
いうことができないので,まず 30 分通勤してもらう,通学してもらうというようなところ
から支援を始める。
その手法としては,まず,子ども自体に対するアプローチがある。教育の世界では生活
指導とか,カウンセリングとか,最近はやりなのはSST(Social Skills Training)と
いう技法がある。それから家族に対するということで,家族教育とか,日本の場合は家族
イコール保護者になってしまうのだが。それから心理教育もはやりだが,教育という言葉
が付いていると,すぐそれは「なんとか教室」という言葉になってしまって,保健所でも
そうだが,1対1でやっているものも立派な心理教育である。心理教育的アプローチとい
うと,必ずグループワークだというのは,それは日本的な事情で,別に心理教育が全部グ
ループでやるのだ,教室のようにやるのだということではない。外国では1対1のアプロ
ーチのほうが多いと思う。
2.非行臨床の対象と手法
近年重要になってきたことは,少年非行の被害者あるいはそのご遺族に対する援助とい
うところを視野に入れなければ始まらない。特に家族臨床を専門にしている者からすると,
例えばお子さんが犯罪被害で亡くなったお母さまに関してはかなりサポートがなされるよ
うになってきていますけれど,嘆き悲しんでいる父親もいるわけで,さらに問題はその同
胞の方もいらっしゃるわけで,そう人たちを視野を入れた支援をしないといけない。当事
者あるいは当事者のお母さまに関してはかなりエンパワーメントされるけれど,結局ご主
人が支援の対象から落ちてしまって,離婚してしまう,それからご家族,同胞の方々が危
機を乗り切れずに,というようなことではいけない。私も犯罪被害者支援センターの理事
で―福島は今年民間の被害者支援センターができたけれど,遅れた分だけがんばらないと
いけないが―家族全体を視野に入れている。特に同胞,障害を抱えたきょうだいのある兄
弟姉妹というのは支援の手から落ちる可能性があるので,そこを視野に入れた被害者支援
ということを心がけている。
一番最後がこれからお話しさせていただく最大のポイントで,地域への支援ということ
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だが,とにかく社会のまなざしが変わってきた。今,新しい思春期像を示す非行少年とい
う論文を書かされているが,その新しい像の非行少年より何より,何が変わったかという
と社会の受け止め方が変わったのであって,ここが最大の問題である。この業界に生きる
者として,そこに対する視点,皆さん全員「子どもの側に立って」という立場は変わらな
いと思うので,どうやって力を搾ってやっていくのかということだと思う。
そういっても,本人へのアプローチについてまったくもって話さないわけにはいかない
が,先程吉永先生のお話にもあったように「身の程を知らない」ということがある。
自分を鏡に写して,自分の現実の姿をきちっと見る。きついのは,非行少年は自分の姿
をしっかり見てしまったら結局落ち込むしかない。非行少年が身の程を知らないというの
は,身の程を知ってしまったら,にっちもさっちもいかないという事情もある。私どもの
業界は,
「非行原因の幾分かは自分にある」ということを――幾分かというところに本当は
強調の点を打ちたかったが,まず悩みを抱えさせるということが臨床のきっかけになる。
つまりカウンセリング的アプローチをするにしても,自分がどういうところで行き詰まっ
ているのかというところまで考えてもらうことから始まる。
「 何で自分は家庭でも学校でも
職場でもうまくいかないんだ」というところまでは内省してもらって,じゃあどういうふ
うに今うまくいかないのかと話を聞いて,一緒に考えていこうかという,そういうアプロ
ーチだと思う。僕らは,壁に当たった人間に対して応援してきたのだが,今はどうやって
壁にぶち当てるか,というと変な話だが,それが援助の前提として不可欠である。
いろんなところで,壁自体が壊れてしまっているところもあるので,きちんと壁にぶち
あたる――私とか村尾先生は十分ぶち当たっているけれど――きちんとぶち当たるという
ことが必要。皆さん方はわざわざ3日間も全国から来たんですから十分壁にぶち当たって
いるという自覚があると思うが,そのへんを子どもにきちんと認識させるということに,
大変時間がかかるというのが臨床の現実だと思っている。
なぜかというと,動機付けが私たちの世界にはない。動機付けをするためには少なくと
もどうにもならないよというところまで持っていく,それが非常に大事だということにな
る。とにかく臨床的援助の前提として,まず手を差し伸べるためには,悩み,イコール意
識的な葛藤ということが大事で,とりあえずほどよい自責感がないといけない。ほどよい
のが大事で,全部自分が悪いんだという,二宮尊徳みたいに子どもの問題を背負い込む親
もいるのは確か。学歴の高い親,全部自分が専門の本を読んでいる親はかえって危なっか
しいが。たいがい職業を聞くと学校の先生が多いけれど,そういう全部に自責感を持つ人
もいるが,おおむね問題になっているのは,自責感を抱かない丸投げの人なのである。本
人もそうなのだが,きちっとした葛藤関係,家族だとか友人だとか教員との間に,きちん
とがたがたした経験がない。なおかつ,最近では虐待の影響もあるのだが,リスク・アセ
スメントという考えが入ってきて,とにかくがたがたがする前にアセスメントしてそうさ
せない。だから友人関係でも,長崎佐世保の事件があってから特に,子どもたちはがたが
たしてはいけないのだ,ということでリスク・アセスメントして,あるいは親とも,ある
いは教員との間にも,一生懸命リスク・アセスメントしてがたがたを未然に防ぐというの
には,私は反対である。問題はがたがたさせないことではなく,きちんと親,教師,それ
から友人とがたがたすることであって,そのことによっていろんな人の応援の手も差し伸
べられるし,友達にも相談するし,そして解決することができないとしても,少なくとも
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回避することができるようになる。
こうやってお話をしていて,つまらないときは眠っているとか,聞かないとか,外を見
ているとか,聞いているようなふりをして聞かないとか,皆さん方は十分な回避策を持っ
ているけれども,そういうことさえできない非常にスキルのない子どもたちが多い。いじ
めとかなんとかで解消させることじゃなく,少なくとも人の悪口は隠れていう,という最
低限のスキルを教える――人の悪口は言わないってところまではなかなかいかないけれど
も,今,目の前で「おまえは死ね」と悪口をいうことのないよう,最低限,人の悪口はこ
そこそいうということをぜひ先生方は身を持って教えていただきたい。
それは先生方には十分教えられるわけで,どんなことがあろうと死ねと本人にはいわな
いと当たり前のことを教えればいいのであって,対人関係でそういうがたがたがないとい
うことではないと私は思っている。きちんとがたがたさせるべきだ,というのが私の主張
である。
3.発達障害の特性と非行
本人の指導に関しては,発達障害が話題になっているが,ほかの先生方が触れたので繰
り返しては述べない。特に発達障害にある「こだわり」,強迫的な面が性非行と結びついた
ときにリスクがあるというふうにいわれている。本来は学校の先生に気がついてほしいの
だが,有名になった事件などの精神鑑定を見ると,学校の先生は気が付いてないという例
もやっぱりある。じゃあ学校はまったく気が付いていないかというと,決してそうではな
くて,いわゆる用務の先生とか事務の方は気が付いている。静岡でお母さんに対して薬物
を投与した事例についても,用務とか事務の先生は気がついているわけで,担任が気づい
ていないというのは問題なのだけれども,そういった部分があると思っている。
発達障害そのものではないが,非行の背景に発達障害とか虐待への着目するというのは
結構なことなのだが,結局いかんともしがたい家族病理や生物学的な要因が再び強調され
る時代になってきたと思っている。それが責任転嫁しがちな非行少年にとってさらに外在
化する,外に原因があるというものに偏ってしまったり,あるいは親への憎悪を増殖させ
てしまったり,そうならないようなこちら側の配慮が不可欠だと思う。
非行という形で顕在化するには,ほかの先生方のいうように家庭機能のぜい弱さが問題
になっているが,お医者さまの正確な診断は必要なのだが,じゃあ教員あるいは周りのス
タッフに何が必要かというと,その正確な診断を,いつの時期にどういう形で伝えるかだ
ろう。親御さんによっては,それを前向きに受け止める人もいらっしゃれば,結局うちの
子供は病気なんだ,どうしようもないんだというふうになる人もいる。お子さんでも前向
きに受け止めて一生懸命やっていこうという人もいれば,おれはもう病気だからと開き直
る子供もいるわけで,そのへんの親御さんとか生徒さんの現況を見極めた上で,総合的な
エグゼクティブプロデューサーとしての役割を,スクール・カウンセラーだったり学校の
先生がやる必要がある。
お医者さまは正確な診断をしてくださるので,その正確な診断に結びつけていくための,
プロデューサー業はこちら側がしなければいけない。いろんな形でお医者さまの診断をど
う使っていくかということが,僕らの仕事であるということを強調しておきたい。家族支
援は,家族臨床の立場からいろいろとやっていて,今日の会場も家裁調査官とか保護観察
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官とかいらっしゃるが,少年法の 5 年前の改正で家族に対して働きかける法的根拠が明示
されたし,今度の 11 月の改正で少年院とか保護観察所でもやれということになっているか
ら,これからも一生懸命やっていただきたいというふうに思っている。
4.非行臨床機関による被害者(遺族)への対応とその課題
もう一つ少年法の改正問題で,11 月 1 日に変わったばかりなのに,再改正の動きが起こ
っている。さらにはもうこれは始まっているけれど,例えば少年院なんかに入った子供は
どこの少年院に居るのだとか,そこでどんな教育を受けているんだよとかいうことを伝え
なきゃいけないっていうことが,被害者への対応ということで非常に大きい問題になって
いる。5 年前の改正のときから,被害者の訴えを裁判所が聞いてくださるということにな
ったわけだが,聞くだけ聞いて審判結果に反映されないから,被害者,あるいは被害者遺
族の方にとっては不満とか失望が増加しているのだと思う。その中で裁判所では被害を考
える教室だとか,警察も通達が出ましたが,加害者と被害者が直接対面する試みだとか,
いろんなことをやっているが,いずれも窃盗,万引きなどが中心。だから,加害者は高校
生,中学生,被害者はかわいそうなことにスーパーの店長で,福島だとイトーヨーカドー
の店長が警察に協力を求められて忙しくてしょうがないというようなことになっていて,
業界関係者はよく分かってらっしゃると思うのだが,ここでも大変である。
被害にあった上に,警察から呼ばれて,店主は毎週のように対話会に行かなければなら
ないのかと。世間が一般いっているような重大事件についてこういう試みがなされるとい
うことではないようである。
その家族が住む地域社会へのサポートと書いたが,ここが非常に大きい問題で,非行臨
床の最終目標はリハビリテーションである。今まではこの部分を保護司というものがやっ
ていた。あるいは民生・児童委員がかかわるということもあるが,そういう人が,自分の
家で子どもを招き入れて,寒くなればお茶を出し,まんじゅうを出して一緒に食べながら
仕事の世話をしたり,そして道で会えば「先生こんにちは」とかいう姿を社会に見せるこ
とによって,
「少年院に入ってきた子どもたちも人にあいさつもできるし,普通の元校長と
か学校の先生が保護司をやっていてそんなに怖くもないんだ。だからこそ家でああやって
お茶を飲んだりして,あの先生なんか少年院から出てきた子どもの結婚式に出たそうだ」
とかいうのは,すぐ地元で伝わって地域に受け入れられということが具現化されてきた。
決して僕らのような専門家が偉そうなこといったからといって,あいつはそれで飯食っ
ているんだろうってことに過ぎないので,私がいくらがんばって本書いたってそんなのは
ちっとも効果がないわけで,普通の方々がそうやって非行少年の結婚式にでる,お茶を飲
む,飯を食うということが非常に大事だったわけであるが,これがなかなか難しくなって
いきているということである。
要するに裁判で黒白をつけられた人に対して,私は「ぼかし機能」といっているが,墨
で真っ黒になったのを「薄墨化」することによって,非行少年というラベルをあいまいに
して学校とか職場に復帰していたことが,再非行抑止の王道であることは変わりないと思
う。ところが被害者感情が,社会の前面に出てきて,それが社会にアピールしている。
さらには今,審議されているが,少年審判に被害者も隣席してしまうということである。
傍聴は大変結構なことなのだが,当然情報は漏れるということである。家裁の記録等はじ
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め個人情報がブログにアップされるということは今でも起こっているし,これからも間違
いなく起こってくる。これまでのぼかし機能ということが働かず,今まで私どもが時の経
過を味方にしてやってきた非行臨床が立ちゆかなくなる。時の経過が最大の味方であって,
なにが非行に良いのかといわれれば,本当はこのアプローチがいいとか家族療法がいいと
かいいたいところだが,何より時の経過であったので,それを味方にしてやることができ
なくなったということが一番深刻な問題と思う。
5.少年の非・反社会的行動への対応のポイント(まとめ)
私が考えているのは,先ほど述べたようにきちんと親,友人,教師と,きちんとがたが
たすることが大事ということである。それを経験して,どう折り合うか,案配をつけるか
ということを大人たちが,それは学校の先生であれ,私どもであれ,教えていく。それか
らご家族・保護者に対する対応としては,保護者の苦衷とか疲れ,不安をきちんと受け止
める。それから先ほどいったとおり,兄弟姉妹も含めた家族全体の視野が支援に必要だと
いうことである。何事も時間が解決してくれるかどうかは分からない,思いどおりにはな
らないわけだけれども,どうにもならないわけではないということを,本人もそうだが親
御さんに教えていく。
そのためにはポイントとして,要するに今の子供は,よそはどうだとかなんとか,親も
よそはこうだとか,今度の先生は何とかだとか言うが,「うちはうち,よそはよそ」「人は
人,自分は自分」ということである。これはまあ昔からいってきた,吉永先生のおっしゃ
るように結局シンプルな常識的な対応につきるということである。福島に行って7~8年
になるからゴマ擦ってるわけじゃないのだが,会津の什の掟として有名だが,
「ならぬこと
はならぬ」ということだと思っている。
参加者は前半の間に質問票に質問やコメントなどを記入。休憩時間に質問票を回収・整
理して,後半のディスカッションの時間は質問への回答を軸に進めていった。
協
議
村尾
フロアからたくさんご質問いただき,数えてみると 40 枚近くになる。もう,うれ
しい悲鳴だけれども残念ながら時間の関係で全部を取り上げて回答していただくわけには
いかない状況である。そこで先生方にピックアップしていただいて,その一部について回
答するということでお願いしたい。
豊岡
それでは,わたしのところからということで。
「相談所を出た子どもの再入所,就職は?」それから,「年齢により児相にかかわって
もらえなくなった子どもの受け皿はどこですか」というご質問をいただいた。これはかな
り似通ったご質問かと思う。児童相談所というのは,あくまでも一時保護的な機能でその
後,児童福祉施設へ入所するか,あるいはそのまま在宅,地域の中で生活するかという選
択になる。
地域へ行った場合には,それは学校へ通ったり就職をしたりという選択になると思う。
一方,児童養護施設は基本的には 18 歳まで,それから児童自立支援施設はだいたい 15 歳,
中学校卒業で出るお子さんが多い。この児童自立支援施設の場合でも,高校へ進学をした
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り就職をしたりいろいろな場合がある。従って一概にはいえないけれども。
あともう一つ,就労支援のための児童自立援助ホームというのがある。これは仕事を探
したり,実際に働いているお子さんが生活の場所を提供される,そういう種類の施設があ
る。基本は今 18 歳だけれども,社会的養護の見直しのお話もあったが,この児童自立援助
ホームについては二十歳まで利用できるようにしようという検討が今なされている。児童
福祉法では,やはり 18 歳という壁があるので,そこを広げるべきだというような議論もな
されているので今後はそういう流れになっていくのかなと思う。
次に「全国に児童家庭支援センターというものが児童養護施設に併設されているけれど
も,そことの総合協力の在り方」というようなご質問。申し訳ないが,東京都は児童家庭
支援センターというものは一カ所も設置していない。というのは,東京都は独自に区市町
村に子ども家庭支援センターというものを設置しているので。これは平成7年から東京都
が設置を進めてきたもので,いわば区市町村の相談窓口になる。従って平成 18 年の児童福
祉法改正で区市町村が児童相談の第一義的な相談窓口ということで規定をされたけれども,
そのときに東京都はすでに区市町村に子ども家庭支援センターというものを整備をしてい
た。これは相談員を,基本的に常勤2名・非常勤職員2名とか,心理の方とか,だいたい
5名くらいを配置をしてくださいということで東京都の単独事業でやっている。
その中で現在では虐待の調査とか,それから,日ごろの養育相談を含めて区市町村と連
携をしている。定期的な連絡会を持っているし,虐待のケースの進行管理会議などもそう
いう区市町村とやってきた。従ってこれが地方になった場合には,そういう役割分担なり
連携の在り方が重要なのかなと思う。じゅうぶんな答えにはなってないと思うが。
それから,「児相送致をする上で警察に求めることはありますか」という質問。それか
ら,「少年の処遇で警察の判断と児相の判断はどちらが上ですか」という問題。それから,
「家裁送致の可否の決定についての判断基準とか,全国の基準の統一をどのように図るの
か」というご質問があった。警察の方から送致を受けるということなのだけれども,基本
的には警察の方は送致をするという判断をできるだけ早期にしていただきたいなと思って
いる。現実的に申すと,子どもたちがある犯罪なり事件を起こして警察から送られてくる
ということになると今までは児童福祉法の 25 条に基づく通告だった。通告に対して基本的
に送致というものは,もう権限が全部移ってしまうと,こういう関係になる。通告という
ものは,そちらに行きますこういうお子さんがいらっしゃるので,こういう働きをしては
いかがでしょうかという,働きかけの程度。だから通告と送致というのは,性格が若干違
うので,その辺できるだけ早期に警察は警察の調査をしていただいた上で,警察の判断を
加えた上で送致をしていただきたいというお願いがある。
警察と児相の判断の上下というような,こういう関係ではないので,要は送致を受けて
今度は機関から機関へ権限が移るわけである。それは権限の移動であって,児童相談所の
判断は児童相談所の判断で当然,尊重されなければいけないし,そこには当然,責任とい
うものが生じる。だから上下という関係ではないとわたしは理解をしている。家裁送致の
可否について全国的な基準というか,それはそれぞれの児童相談所の判断になるのかなと
思う。警察の方とも話はしているが,警察では事件が大きいから小さいからということで
はなくて単純に結果で送る。そこにできるだけ私情を挟まない,結果で送りますというこ
ともいわれているので,ある意味わたしどもは任された調査の範囲とか,そういうところ
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で判断をしていかざるを得ないのかなと思う。
それから,
「少年事件を全件送致のはずが,それに反しないか」というようなお話だが,
わたしが前半申し上げたのは触法少年の部分についての児童相談所の判断である。14 歳以
上は当然,警察から真っすぐ家裁の方へ送られている。触法少年の場合には児童相談所の
判断がそこに加わると。ただ原則は家裁送致ですよという前提があって,その上でなお,
幾つかについては児童相談所の判断がある,それはそれで児童相談所の範疇だということ
になろうかと思う。
あと,「児童自立サポート事業のそれぞれの機関がどのように関係しあい協力している
のか」ということだが。基本的に子どもが地域に居たときに民生児童委員さんはできるだ
け近い場所に居るので,悩み事があったりという場合には声をかけている。成功例といっ
てはなんだけれどもわたしの事例の中では,実は高校をやめたいんだというお話に主任児
童委員さんが相談に乗ってあげて職安も一緒に行っていただいたという事例もある。そし
て,結果的には高校はやめたけれども,その後仕事は続けている。ほんとうは高校を卒業
までというのが将来的に見ればいいのだろうけれども,いろんな事情もあってやめる判断
をした。その辺,常に児童福祉司と民生児童委員さんと主任児童委員さん,三者は連絡を
取り合って,こうした方がいい,ああした方がいいということをやっている。
ポイントはあくまでも児童福祉司がキーマンになって児童福祉指導をしている。児童相
談所の措置の子どもなので。
最後になるが「子どもへの振り返りはどのようにするのか」ということだが,一般的に
なろうかと思うけれども,いろいろ過去の話をしたり聞いたり,そのときあなたの気持ち
はどうだったのかとか,そのときお父さん,お母さんはどう思ったんだろうとか,そうい
うことを話をしていくこと。自分がやったことは,これだけ人に嫌な思いをさせていると
か迷惑をかけているということも若干,気付いていただけているのかなと思っている。
吉永
まず「少年鑑別所の収容者数が減少しているのは,少年人口が減少,非行少年数が
減少しているほかに要因として何かありますか」というご質問だけれど,やっぱり景気の
影響が大きいといわれている。バブルが崩壊して非常に苦しい時代が続いていたときに収
容者も,やっぱり増えていた。非行少年だけではなくて矯正施設全体の収容者が増えてい
たが,ここ最近になって少し景気が上向いてきたので,てきめんに収容者は少し減ってい
る。やっぱり社会の受け皿があるということだと思う。だから,社会性のある非行少年た
ちは社会の中で何とか更正していくということで,社会性が乏しい子どもたちが残ってし
まって少年鑑別所に来ているということなんだと思う。
次のご質問。
「 身ぐるみはがされた状態で自分と向き合うことができても家庭に戻ればさ
まざまな誘惑があり元に戻ってしまう子が多いと思います。鑑別所での姿だけが少年の本
当の姿ではないのではないでしょうか」。ほんとにそうだと思う。彼らは少年鑑別所に入っ
て自分が少年院に行くかどうかという切羽詰った中で,一生懸命必死になって社会に帰し
てもらおうと思っていいことをいっているだけかもしれない。でも,その中に一部真実が
あって,あのときこういうふうに思ったということが少し残ってくれればいいと思う。き
っとその後で生島先生の保護観察の方に行かれて,また突っ張った格好をして,社会の中
で生きている子どもたちもきっと居ると思うけれど。あのときやっぱり少年鑑別所でああ
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いうふうな経験をした,とか,ああいうふうに裁判官にいったということが,全然,残っ
ていないわけではないと思うので,そういうものが積み重なって少しずつ変化していけば
いいのかな,そういう一つの経験になればいいのかなと思う。
「4週間で鑑別できる可能性,心の奥に潜んでいるものの鑑別方法は?」という質問,
ほんとに少年鑑別所には4週間しか居ない。しかも最初に入ってきたときからすぐに鑑別
にかかれるとも限らないし,最後の1週間前ぐらいに書類は用意しなければいけないとい
うのがあって,実質2~3週間ぐらいしか鑑別の期間はない。だから,決して 100 パーセ
ント万能ではないと思っている。だけど限られた期間の中でなるだけその子にアプローチ
してその子の本質をつかむということを,日々心理技官の先生たちはトレーニングしてい
ると思う。だから,決して万能ではないということを知りつつ,でもその子の本音をどう
いうふうに面接の中で感じて,それを書類にしていくかということが少年鑑別所の一番難
しい,でも大事な仕事だと思っている。
方法は,やっぱり人と人とのほんものの直接対面。その人と向き合って心の中のものを
お互いどういうふうに感じ合うか。もちろん鑑別する側も見られている,お互いぶつけ合
うみたいなことに尽きるんじゃないかと思う。
「再発の頻度だとかアフターの指導は」ということなのだけれど,やっぱり少年鑑別所
は入ってきた人を見る。出て行った人のフォローというのはできない仕組みになっている。
だから,もう一期一会で二度と会わない子どもたちも居れば,何回も何回も残念ながら入
ってきてしまう子も居る。きのうも6回目に入ってきちゃった子どもに,ああ,また会っ
ちゃったねと面接したのだけれど,その子はやっぱり家庭の問題が根深い。少し発達障害
も抱えていて,13 歳のときにわたしと会って,きのう 19 歳になってこれで最後だねって
会ったけれど,やっぱり根深い子はほんとに資質の問題も根深いし家庭の問題も根深いの
だけれど,それでも6回会うたびにちょっとでも,あのときこんな先生に会ったなみたい
な,人間の絆のかけらでもいいから残ってくれればいいなと思っている。
「生徒指導をしていたときに感じたことは,非行少年は本当の愛情に触れていない」と
いうことだが,どうなのだろうか。「こういう悪いことをしたらあの人が悲しむだろうな」
ということで,多くの人が「ちょっと悪いことしちゃおうかな」と思うことはあるけど,
そう思うことで踏みとどまる。そういう,
「あの人が悲しむ」みたいな絆が乏しい,それが
愛情というのであればそうかもしれない,そういう感覚は本当にある。
「非行を起こしてしまった児童の背景に発達障害があるのは理解できましたが,未然に
防ぐためにそれぞれの機関でやれること,やらなければならないことを具体的に教えてく
ださい」ということだが,わたしには本当に限界があって少年鑑別所の専門家なので,そ
れぞれの機関でということを言うにはなかなか力がないけれども,小学校での取り組みが
割りと大きいのではないかと思う。残念ながらわたしが会うのは原則 14 歳以降の子どもで
あって非行がある程度進んでしまっている,資質の問題、発達障害ということが分かられ
ずに二次障害,少し性格のひがみであるとか劣等感であるとか不適応感であるとか,
「どう
せおれなんか」みたいな思いを抱えてしまって大きくなった子が多い。だから,そこまで
いく前に介入できたらいい。小学校の3~4年ぐらいから、彼らは自分が、ちょっとほか
の人と違う,能力的にほかの人が普通にできていることが自分はできない,おかしいんじ
ゃないかと少しずつ気が付き始めていて,小学校の高学年ぐらいからちょっと問題行動が
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起こることがある。
小学校の中学年ぐらいで、少し能力的に問題がある,偏りがある,ある科目だけできる
のにこっちはできないとか、授業中に集中して人の話を聞けないとか,特定の科目にだけ
こだわってしまうとか,興味に偏りがある。そのとき「おや?」と、そういう子どもたち
に気付いてあげて,もしかしたらそれは何か器質的な問題があるんじゃないかと目を向け
て,本人が怠けているとかそういうことではなくて,そういう癖のある,そういうところ
のある子どもだと理解してそれに応じた指導ができると違うんじゃないかなと思う。
あとは「少年院,鑑別所で子どもの矯正プログラムに対応した親への指導などの現状
は?」
ということだが,これまでは少年院に親に対する指導の権限を明確にした法律は
何もなかった。今回の法改正によって少年院長が必要に応じて親の指導ができるというこ
とが書かれたので,これからは必要に応じて親に対して働きかけを積極的にできるという
枠組み,法律上の足掛かりができた。これまでもそういう必要性はあったけれども何も足
掛かりがなかったので,保護者会に来てくれるお母さんに対して働きかけるとか,そうい
うことはやっていたけれども積極的にできるということではなかったが,今後はできてい
くのじゃないかと思う。
最後に「発達障害の重大事件の前兆みたいなものはあるんでしょうか」ということだが,
やっぱり前兆というか発達障害の傾向がみられただろうと思う。特質に応じて指導してい
く,早期に対応するということ。例えば広汎性発達障害で,興味の方向,自分の関心の持
ったことを突き進めていってしまうところがあるので,それがもし反社会的なもの,例え
ば性非行であるとか毒物であるとか,少しそういう傾向が見られたらそういう反社会的で
はない別のこだわりに変えてあげるということが大事だと思うので,そこら辺に目を配っ
ていただければなと思う。
生島
極めて構造のないお話をしてしまったのがいけないのだが 20 ぐらい質問をいただ
いてありがとうございました。ということで一つ一つというよりは,それを受けた形で話
し損ねているところを2つぐらい補いたいと思う。
一つは,結局今度の少年法改正でもそうだが,非行臨床の一番のポイントは,例えば警
察と児童相談所のコラボレーションの問題。それから,おおむね 12 歳から収容可能となっ
た少年院と児童自立支援施設とのコラボレーション,これらが積極的にそうしなきゃいけ
ないという枠組みになった。ところが,この業界というのは実は仲が良くない。というの
は,警察は一生懸命やっているけれども,そこの少年相談でうまくいっていない事例が児
相とか家裁に行くし,それから,児相でうまくいっていないのが家裁に行く。家裁でも一
生懸命保護的措置とかやっているがうまくいってないのが鑑別所に行く,それでうまくい
ってないのが少年院に行く,それでまたうまくいってないのが警察に行くという,それぞ
れ失敗事例しか見ていない。だから,それぞれのところで失敗事例で判断しているという
ことで,大学に出てみてほんとに分かるけれども,コラボレーションが進んでいない。
だから,警察は今までもやってきたかもしれないけれど,これから児相とがんがん,情
報交換だけじゃなくて研修をしなきゃいけない。警察はやっぱり事実関係を聞くのが上手。
それから,児相は子どもの話の裏表も含めて発達段階に応じて話を聞くのが上手なんで,
これが一緒にならないと警察は触法少年をうまく扱えない。事実関係は警察が扱うにして
- 19 -
も,その先児相がどんな指導をするにしても,非行事実をちゃんと聞けることからやらな
いと始まらないのが当たり前のこと。それが両方やれなきゃしょうがない。これはもう現
場で,きちっとスキルを共有しあうという体制がないとしょうがないと思う。
警察では1カ月前ぐらい前に触法少年調査処遇マニュアというのが配られたと思うが,
私も開けてみてびっくりした。どっかで見たことがあるなと思ったら,参考文献の一番最
初に私の本があった。私のゼミの院生も,警察の少年相談に去年ぐらいから採用されてき
て,うちみたいに臨床心理の大学院生を警察の第一線の少年補導に採用してくださるんだ
なと思うと,ありがたいことなのだけど,とにかく警察と児相が現場で連携しなければ駄
目。今までの組織の代表,管理職による協議会では駄目なんで,実際子どもと接してどう
やって聞いていくかというのは現場の職員がやっているので,そのレベルできちっとタッ
グを組まなきゃいけないということである。
もう一つは児童自立支援施設と少年院がきちっと組まなきゃいけない。そう思って 11
月に東北・北海道地区でわたしがコーディネーターなって,児童自立支援施設の研修に少
年院と鑑別所の人,みんな来てもらってコラボレーションを無理にやってもらった。最初,
ブツブツいう人もいたが,とにかくきちっと組んでもらって,大きい事件が起こったらや
っぱり少年院に入れざるを得ないケースが出てくるのはしょうがない。それで取りあえず
1年ぐらい置いて,少し世間に忘れてもらって。そして,育て直しってことになれば児童
自立支援施設に行って,その中で,さらに年齢が上がって職業補導という形になってもう
一回少年院へ戻してという形があって良いはず。
そういう子どもは,たいがい虐待の類を受けているから家庭に戻すことがなかなか難し
いので,少年院から今度は児童養護施設を帰住地として保護観察官が環境調整をやってい
く。今までは児童養護施設でどうしようもなかったのが児童自立支援施設に措置変更にな
って,それでどうしようもなかったのが少年院に行ってという一方通行だった。そうでは
なくて,箱根鉄道のスイッチバックじゃないけれども少年院行って,それから,児童自立
支援施設へ行って,もう一回少年院に戻して帰住予定地として児童養護施設,そういう形。
現実的に 12 歳とか 11 歳でそういう重大事件を起こすという事態を考えれば普通に家に帰
せるようなことは絶対あり得ないわけだし,小学生から数年間は施設へ入れろということ
になるわけだから,その発達段階に応じた教育というものは,一つの機関でやれるわけが
ない。何回もいうように上からいわれた少年法改正で皆さん方としてはちっともニーズが
ないとは思うけれども,逆に実践の場からそういうものが必要だということでシステムを
変えていく,そういう発言をしていかないといけない。今いったようなスイッチバック,
少年院から児童自立支援施設,そして,少年院,そして,児童養護施設,そういうものも
一つの選択だと提案している。
とにかくそういう形で福祉と,司法・矯正保護がきちっと現場段階で組むことが大事。
子どもたちにとっては全部通ってきたユーザー。関係機関の仲が悪いだけのこと,法律が
違うとか何とかって。子どもたちは全部,警察から始まって関係機関を全部通ってきたの
だから。ユーザーのことを考えれば答えは明らかであって,グダグダいってるんじゃなく
て,合同研修してさっさと事例検討やって,というようなことである。そこに事例の秘密
保持とか,要するにやりたくないから,理屈をつける。児相と警察が事例検討やっても秘
密の漏洩はないんだから。何やかやとグダグダいってる暇があったら早くやって欲しいと
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いうのが私の主張の第一。
それから,「ぼかし機能が難しくなってきたということだが,どうすればいいか」とい
うことについて,やっぱり再非行は,それはシステムエラーから生じることは間違いない。
システムエラーになったときにどうするのかというと,それはどんな不祥事でもそうだ
けれど,
「 申し訳ございません」ということしかない。ある電機メーカーのようにきちっと,
自分のところはこういうところが十分でなかった,誤りがあったということで繰り返し,
繰り返しきちっと誤るということ,そして,謝るためにはきちっとした情報公開をすると
いうことである。
重大非行に関して,何年かした後できちっと検証する,ちょうど村尾先生とか,そうい
う専門家を入れてきちっと検証する場が必要。そして,私が考えているのは,航空機事故
が起こると,誰に責任があるかというよりも,どういうシステムエラーがあって航空機事
故が起こったという,事故検証委員会みたいなそういうものができる。そういう手法をう
ちの世界にも入れて,どういう部分でシステムエラーがあったのか究明するのが大切。コ
ンピューターだって何だってシステムエラーがあるわけで。そのたびごとに,毎週のよう
にバージョンアップをしてくださいという連絡があるわけです。こういうシステムエラー
がありました,こういうバグがありましたということに関して,やっぱり情報公開をきち
っとして,間違っているところは謝罪するという,もうこれしかないと思う。
システムエラーはどうしてもあるわけで,そこの部分はいかんともし難いと思う。そこ
は開き直りかといわれると……。この業界でシステムエラー,すなわち再非行が絶対にな
いということはあり得ない。
それから,壁にぶち当たるのが大事だというのは,現実に自分の不幸な人生といったっ
て親を選べるわけでもないし,子どもは親を選べないし,実は親も子どもを選べないので,
そこは納得とかいうことはなかなかできないわけである。要するに私がいっているのは,
非行のあったときに,やっぱりどこかでうまくいってないっていう,ああ,失敗したなと
いう自覚までは必要である。現場で見ていると,どう見ても家でも何でもうまくいってな
い,だけれどもそれがうまくいってないというふうに周りもなかなかいわないのもいけな
い。親がいわないのが一番いけないと思うのだけど,
「おまえ親を見ろよ,この程度の親な
んだから」と,壁にぶち当たれといってやりたいところだけど。それは私だって吉永先生
だって自分の子どもには,親がこれだからこれだよとはいえない。学校の先生は,三者面
談で一番いってやりたいのは,この高校何とかといったって親はこれだよとかいってやり
たいけど,そんなこといったらすぐ教育委員会に訴えられますから。
だから,それはなかなかいってやれない。そうだとすると,第三者の僕らみたいな者が
ある程度「水を差す」ということが必要かもしれない。自分の生い立ちとかそういったこ
とについて思いいたるということはとても思春期の 10 代にはできないわけだから,それを
いっているわけではなくて,失敗したな,そういうようなレベルの壁に突きあたって欲し
い。ただ,そういうレベルまでもいっていない親子が多いと思う。それは社会システムが
いけないのかもしれないが。
それから,「人の悪口は隠れていうのは卑怯なんで,面と向かっていった方がいい」と
いうご意見がありましたが,それもそういわれればそうですが……。それから,
「親子とも
ども改善のモチベーションが低い家族への対応」ということで,これで最後にしたいと思
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うが,うちの業界はモチベーションが両極端で,ごく一部にやたらモチベーションが高い
というか,いろんな相談機関をぐるぐる回ってこうじゃないか何とかという。あれは親が
これだけ頑張ってるんだぞというための,自己愛のためにやっていると思うから,ほんと
に親がモチベーション高いかどうかは別として。
一番多いのがモチベーションが低い場合。ただ,そういう子ども,中学生を抱えて家裁
へ行く,児相へ行くといっても,もともとは小学校から問題は始まっていることも多い。
小学校4~5年ぐらいから学校の先生に呼びつけられて,子どもの学校での姿を知ってる
のかとか,もう少し親として何とかしろといわれ続けて。振り返ればその親自身が昔,自
分が小学校,中学校のときに問題を起こしてさんざんいわれてきたわけだから,それはや
っぱりそれなりに傷付いてる。家でも,
「飯」
「金」
「うるせえ,死ね」しかいわれてないん
だから,やっぱり,親は疲れきっているので,そこは親の疲れとか不安というものをきち
っとみてやるスタンスが学校の先生にあって欲しい。私はスクールカウンセラーもやって
いるが,そこで面談する親も苦労している。壁も壊れたし,とにかく何年もの間,少なく
ても1年はさっきいった飯,金,うるせえ,死ねしかいわれないでいる。それから,この
ゲームが出たから秋葉原で買ってこいといわれて,また,探すのが難しいゲームで十何巻
中の第何巻のゲームを買ってこいとかいわれて,秋葉原なんかで親は右往左往しているわ
けだから,そういう親御さんの苦労をきちっと受け止めることができれば,サポートの取
っ掛かりにはなるのではないかと思う。
豊岡
一つだけ質問を落としてしまったので。資料の方の話だけれども,「初発非行の年
齢は 13 歳と 12 歳ということが一番多いと書いてあり,その背景を具体的に教えてほしい」
ということなのだが,わたしどもの分析では,要は子どもが中学生になって学校での交友
関係の広がりや生活環境の変化などの影響を受けて,思春期特有の不安定な心理状態も重
なって非行に逸脱していったというふうに推測をしている。ただ,ここには書けない理由
としては,これまでは 14 歳で悪さをすれば施設に送られるけども 13 歳なら大丈夫だよと
いうのが子どもたちの間では広がっていたので,その影響かなとも思う。
村尾
それではまとめに入りたいと思うが,まず少年事件の流れをちょっとここで再確認
したい。全件送致主義という言葉が出たが,日本の法律では 14 歳が非常に大きな意味を持
っていて,刑事責任年齢が 14 歳以上である。だから 13 歳の子どもが窃盗に当たるような
ことをやっても窃盗罪にはならない。ところが,これが 14 歳になるとそういうことをやれ
ば窃盗罪ということになる。14 歳以上で初めて犯罪が成立する。この少年犯罪に関しては,
すべて家庭裁判所に送られてくる。これが全件送致主義である。
では 14 歳未満はどうなるのかというと,犯罪にならないのだから,これは福祉事案。こ
れらの事案は手をかける必要がある場合,家庭裁判所ではなく,児童相談所へ送られるこ
とになる。そして,児童相談所は,家庭裁判所に送るのが相当であるというものを,家庭
裁判所に送ってくるという形になる。
私は,日本の現在の非行対応は,司法的アプローチ中心ではないかと思っている。司法
的アプローチの他に福祉的アプローチというべきものがあるのではないか。ところが,現
在の非行対応は司法的アプローチが中心で,福祉的アプローチが軽視されているように感
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じる。私は,福祉的アプローチの必要性というのも,もう一度考え直さないといけないの
ではないかと考えるのである。
さて,今までずっとお話を伺ってきたが,現代の非行を考える上で,いくつかキーワー
ドが見えてきたように思う。それは,
「虐待」,
「発達障害」,
「被害者支援」である。法務総
合研究所が少年院に在院している少年の虐待に関する調査研究をやった。そうするとなん
と少年院に入ってる子どもたちの,50.3 パーセントの少年男女に身体的暴力や性的暴力,
不適切な保護態度のいずれかの虐待を繰り返し受けた経験があると報告されている。
われわれ一般的には虐待と非行を分けて考える傾向がある。ところが虐待と非行という
のは非常に密接な関係にあるということをぜひご理解いただきたい。私は,少年非行に追
いやっていく要因というのは,素朴に考えて,2つあると思う。一つは親の不適切な養育
態度である。これの最たるものが「虐待」である。だから当然,虐待を受けた子どもたち
というのは非行に追いやっていかれる危険性はかなり強く出てくる。もう一つは,
「理解さ
れない子どもたち」である。周りから理解されない子どもは,気持ちが荒れてきて少年非
行に進んでいくというのは容易に想像がつくと思う。この「周りに理解されにくい子ども」
の代表が,発達障害の子どもなのである。
ADHDの子どもが反抗挑戦性障害へ,さらに,それが行為障害,そして,反社会性人
格障害へとつながっていくというルートを指摘する学者もいる。また,実際そういうルー
トに乗る子どももいるが,この考え方というのは非常に危険な考え方である。ここには落
とし穴があると思う。つまりADHDを持っている子どもは非行少年になっていくという,
短絡的な考え方,誤った考え方につながりやすいのである。このような考え方はまったく
の間違いであり,要するにADHDの子どもたちというのは,周りに理解されにくい子ど
もたちなのである。これはPDDでもそうだし,あらゆる軽度発達障害,発達障害の子ど
もたちはみんなそういえる。そうすると,そういう子どもたちをきちんと周囲が理解する
ような環境になれば,そういう子どもたちは非行に追いやらずにすむわけである。だから
発達障害の子どもたちに対して,周りが気持ちや考えを理解してあげられるような環境を
整えていく。これが非行対応で非常に大事なことになる。そういうふうにぜひ皆さんには
ご理解いただきたい。
それから,虐待についてだが,私も家庭裁判所にいたが,家庭裁判所で出会う多くの子
どもたちは 14 歳以上である。つまり思春期の子どもたちである。子どもたちの問題行動の
現れ方は,小さい子どもと思春期の子どもでは異なっていることをしばしば実感する。例
えば,虐待を受けた子どもというのは,小さいころは問題行動と虐待の関係が非常にスト
レートに出てくる。例えば,親から虐待を受けて家出を繰り返している。そうするとその
子は虐待を受けた被害者という認識で扱われるわけで。保護されたとき,この子は虐待を
受けたから家出を繰り返していると,被害者として扱われることになる。
ところが,思春期,青年期を迎えた子どもになると複雑になってくる。われわれは「被
害と加害の逆転現象」と呼んでいるのだが,そういう子どもたちが思春期になって,例え
ば家出をしていると,そこに享楽的な色彩が帯びることになる。例えば家出をしても暴走
族のたまり場に行ってるとか,そうなってくると,子どもたちは純粋に虐待の被害者とい
う形でわれわれのところには来ない。家庭裁判所に親子で,つまり子どもが非行をやって
親と一緒にやってくる。そうすると親はどんな顔で現れるかというと,被害者の顔をして
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現れる。つまり子どもの非行や問題行動で,これだけ自分は苦労しているんだと,被害者
の顔で現れるのである。
ところが話をじっくり聞いていくと,ああ,この子は虐待を受けた被害者なんだ,そし
て,この親は虐待をしていた加害者だったんだということが見えてくるわけである。
いいたいのは要するに虐待の対応の必要性,それは思春期になる前,もっと早い段階で
手を打つことによって,その子どもを非行に追いやらずに済むんじゃないかと,こういう
ふうなことをぜひお考えいただきたい。
そうすると 14 歳未満の福祉的なアプローチというのが,いかに大事になってくるか,そ
して,その虐待に対するアプローチ,あるいは発達障害に対するアプローチがそのまま非
行の予防につながっていく,そういうところが皆さんにお分かりいただけるんじゃないだ
ろうか。
もう一つのキーワードは被害者支援の問題である。私も今,被害者支援センターで仕事
をしているが,今まで私もあまりにも加害者のことしか考えなかったように思う。被害者
のことをないがしろにしてきたという深い反省が今はある。つまりわれわれは加害少年を
よくするために頑張ってきた。だけど被害者のことというのは,ああ,家庭で何かしても
らえばいいや,学校で何かしてもらえばいいやと,やはりある意味でないがしろにしてき
たんじゃないかと反省している。ここにおいでの方々は,青少年相談にかかわっていらっ
しゃる先生方ですから,みなさんに申し上げたいことは,これからは,こういった非行に
よってダメージを受けた被害者のケアというのも,うんと考えていかなきゃいけないので
はないかということである。
非行で被害に遭った子どもたちが2次被害,3次被害として今度,加害少年になってい
くということも,もちろんあるわけである。だから,被害者に対しても,どれだけつらか
ったか,そういうところを聞いてあげることが,これからもっと必要になってくるのでは
ないだろうか。
今の非行臨床の現状を考えるうえで,キーワードとして「虐待」,
「発達障害」,そして,
「被害者支援」の3つを取り上げてみた。皆さん方のご理解をいただければ幸いである。
つたない司会でなかなかうまくいかないところもあったが,シンポジストの先生からは
経験に基づいた貴重なお話をお伺いできたと思う。そして,ご質問をいただいた方,ある
いはご質問をされなかったけれども,ここで一生懸命聞いていただいたフロアの方と,ご
一緒に今日の子どもの問題をここで一緒に考えられたことをわたしはほんとうにうれしく
思う。
それでは時間もまいりましたので,この辺りでシンポジウムを終わりにさせていただき
たいと思います。きょうは皆さん,どうもありがとうございました。
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