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バリ島のジェゴグ 2: バリ島内のグル―プ調査報告

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バリ島のジェゴグ 2: バリ島内のグル―プ調査報告
Kobe University Repository : Kernel
Title
バリ島のジェゴグ 2 : バリ島内のグル―プ調査報
告(Investigation of JEGOG in Bali 2 : Report of Group in
Bali)
Author(s)
山田, さよ子
Citation
表現文化研究,10(1):95-108
Issue date
2010-11-15
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81002913
Create Date: 2017-04-01
調査報告|©2010 神戸大学表現文化研究会|2010年9月10日受理|
Research Report | ©2010 SCBDMMT, Kobe University | Accepted on 10 September 2010 |
バリ島のジェゴグⅡ ― バリ島内のグループ調査報告
Investigation of JEGOG in Bali II : Report of Group in Bali
山田さよ子
Sayoko Yamada
はじめに
ブラナ県はその1つである。2008年にジュンブラナ県に
執筆者は2002年よりバリ島の民族芸能ジェゴグにつ
は新しくジュンブラナ郡が設置され、現在は西よりムラ
いての調査を進めてきた。これまでのバリ島調査は以
ヤ、ヌガラ、ジュンブラナ、ムンドヨ、プクタタンの5つの
下の通りである。
郡からなる。バリ島西部に位置し、町の中心はヌガラで
ある。最西端のギリマヌッには西のジャワ島へのフェ
2002年6月27日〜7月3日
リー乗り場があり、ジャワ島−デンパサール間の長距離
(2005年11月14日〜20日 計画のみ、バリ島爆弾テ
バスが一日何便も県の幹線道路を東西に走っている。
ロ事件勃発のため中止)
ジュンブラナ県は年に数回水牛レース(マクプン)が行
2007年6月24日〜29日
われることで有名な土地でもある。ジュンブラナ県はこ
2008年7月3日〜9日
のような立地からジャワ島文化の影響も受けて発展して
2009年3月24日〜4月1日
きた土地である。
2009年7月12日〜7月28日
ジュンブラナ県の主な産業は農耕、畜産、そして漁業
2009年8月12日〜8月22日
である。特に漁業ではバリ州一の水揚げを誇る。先に述
2009年10月29日〜2010年2月26日
べた水牛レース以外にも競争の盛んな地域であり、ジュ
2010年9月17日〜9月27日
ンブラナ県の人は競争好きの気質であるとも言われる。
バリ島には現在ジェゴググループが30〜50程あると
1.2. ジュンブラナ県のジェゴグの活動内容
言われている。しかしその中でも活動的なグループや
ジュンブラナ県内では結婚式のイベントの1つとして
現在はほぼ活動を行っていないグループなどがあり、
呼ばれ、演奏することが多い。1グループによる演奏と踊
その把握は難しい。
りのプログラムもあるが、ムバルンと呼ばれる形式のイベ
バリ島における現在のジェゴググループの実態を明ら
ントが行われることが多い。ムバルンは2つ以上のグ
かにするため、地域のジェゴググループを探し、一つず
ループが互いに自分のグループの力を誇示し演奏によ
つ訪問調査を行った。ジェゴグはジュンブラナ県を中心
る競争を行うものである。ムバルンは大抵夜9時頃から
として活動している芸能であり、そのほとんどはジュンブ
始まり夜中まで、または朝方まで行うこともある。このイベ
ラナ県に存在する。このため1章ではジュンブラナ県の概
ントをジュンブラナ県の住民はとても楽しみにしている。
要と活動形態、グループ調査ついて、2章ではジュンブラ
ムバルンは2グループで行われることが多いが、2010年
ナ県以外の地域概要とグループ調査について、そして3
1月7日には10グループによるムバルンが実施された。
章ではそれらの調査結果を分析し、報告する。
またジュンブラナ県のグループが依頼により他県に
公演に行くこともある。ホテルやレストラン等での演奏
1. ジュンブラナ県内のジェゴググループの活動
と踊りによる公演が多く、県外でムバルンを行うことは
ジェゴグはジュンブラナ県で生まれ、現在でもその多
あまりない。
くはジュンブラナ県に存在する。
ジェゴグのグループの中でスアールアグンは別格の
存在である。海外公演や海外へのプロモーションなど大
1.1. ジュンブラナ県の概要
きく活動を行っているグループであり、バリ島内でもサン
バリ島は8つの県とデンパサール市からなり、ジュン
カルアグン村やクタ地域での定期公演を行っている。
95
『表現文化研究』第10巻第1号 2010年度
⑦ GDE TESEN(グデ・テッセン)
1.3. ジェゴググループ調査
⑧ I MADE SERIWIGATI(イ・マデ・スリウィガティ)
ジュンブラナ県にあるジェゴググループについて以
(2009年12月27日情報収集)
下の方法で情報を収集した。ジェゴグ製作者デルナン
氏他、地域住民よりジェゴグがある地域についての情
《G-2》 TUNAS MEKAR (トゥナス ムカール)
報を集め、または地域のムバルンに参加しているグ
【A】赤を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置かれ
ループの所在地に関する情報を集めてジェゴグの設
ている。グループ名のTUNAS MEKAR=芽吹きという意
置場所を訪問する。楽器の調査の他、関係者を探して
味。ジェゴグの制作は2名が担当して行っている。2010
アンケートの聞き取りを実施する。一部他のグループ関
年1月7日の10グループのムバルンに参加。役員の1人
係者により聴取したものや、情報提供者が見つけられ
より聞き取りを実施。
ず、周辺情報を総合して判断したものもある。
【B】
活動の確認できたグループ(以下Gと記す)に関する
① 1979年
情報を郡ごとに記す。なお楽器調査やアンケート以外
② BRAWANG TANGI(ブラワン タンギ)
の情報を【A】、アンケートによる情報を【B】として分けて
③ GUSTI PUTU SURYADI(グスティ・プトゥ・スルヤディ)
記す。
④ 30人
アンケートの内容は次の通りである。
⑤ なし
① 設立時期
⑥ 個人以外の所有
② 地域
⑦ WAYAN DENDRA( ワ ヤ ン ・ デ ン ド ラ ) 、 MADE
③ 代表者名(年齢)
SUWITYA(マデ・スウィティヤ)
④ メンバー数
⑧ KETUT SUMITRA(クトゥッ・スミトラ)
⑤ 踊りメンバーの有無、ある場合は人数
(2009年12月27日情報収集)
⑥ 個人所有かそれ以外の所有か
⑦ 楽器製作者名
《G-3》 BAJRA ISWARA (バジュラ イスワラ)
⑧ 情報提供者名
【A】赤を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置かれ
アンケート内容は情報提供者による情報に基づいて
ている。無造作に2台、3台が積み重ねられていた。ま
記載する。このため人名の省略がされていたり、地域
たジェゴグ、ウンディールは楽器の調整のためか竹が
名など区分が統一されていないものもある。カタカナで
取り外されていた。メンバーより聞き取りを実施。
の読み表記は執筆者の作成。
【B】
① 2005年
1.3.1. 活動中のグループ調査結果
② BRAWAN TANGI(ブラワン タンギ)
●ムラヤ郡
③ I PUTU PORDEN(イ・プトゥ・ポルデン)
《G-1》 DIATMIKA SUARA (ディアトミカ スアラ)
④ 20人
1
【A】赤を基調とした楽器。家に隣接したバレ に置かれ
⑤ 男性6人、女性10人
ている。グループ名のSUARA=声の意味。2010年1月7
⑥ 個人所有
日の10グループのムバルンに参加。メンバーの奥さん
⑦ I PUTU PORDEN(イ・プトゥ・ポルデン)
より聞き取りを実施。
⑧ KADE SUASTIKA(カデ・スアスティカ)
【B】
(2009年12月27日情報収集)
① 2001年9月
② MANISTUTU(マニストゥトゥ)
《G-4》 PESPA WARDI KENCANA (プスパ ワルディ
③ I KOMANG RICA ADIASA(イ・コマン・リチャ・ア
クンチャナ)
ディアサ)
【A】オレンジを基調とした楽器。家の敷地内のバレに置
④ 25人
かれている。グループ名のKENCANA=金の意味。2010
⑤ なし
年1月7日の10グループのムバルンに参加。メンバーより
⑥ 個人以外の所有
聞き取りを実施。
96
山田さよ子 「バリ島のジェゴグⅡ ― バリ島内のグループ調査報告」
【B】
⑦ DANYA(ダニヤ)
① 2005年
⑧ KADE MAWA(カデ・マワ)
② BRAWAN TANGI TUWED(ブラワン タンギ トゥ
(2009年12月29日情報集)
ウッド)
③ NGH WIDIA(ンガ・ウィディア)
《G-7》 KUSUMA SARI (クスマ サリ)
④ 25人
【A】オレンジ色を基調とした楽器。地域の集会所隣の
⑤ 男性5人、女性5人
立派なバレに置かれている。1983年の開始以降1991
⑥ 個人以外の所有
年、2006年とグループの役員交代が行われている。
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
PUTU TASTRA(プトゥ・タストラ)氏が主に作曲を担当。
⑧ KETUT WINAYA(クトゥッ・ウィナヤ)
グループ名のKUSUMA SARI=花の意味であり、地域名
(2009年12月27日情報収集)
CANDI KUSUMA(チャンディ クスマ)の一部でもある。
役員の1人より聞き取りを実施。
《G-5》 BRAHMA YOGI SWARA (ブラフマ ヨギ スアラ)
【B】
【A】赤を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置かれ
① 1983年
ている。グループ名のBRAHMA=僧侶の名・僧侶階級
② MODING(モディン)
を示す。何度かグループ名を変えているようで、以前の
③ NGH WIYASA(ンガ・ウィヤサ)
名前はBRAHMA PURA(ブラフマ プラ)。2010年1月7
④ 30人
日の10グループのムバルンに参加。メンバーより聞き
⑤ なし
取りを実施。
⑥ 個人以外の所有
【B】
⑦ GDE TESEN(グデ・テッセン)
① 2005年
⑧ I KETUT SUACA(イ・クトゥッ・スアチャ)
② MELAYA(ムラヤ)
(2010年1月4日情報収集)
③ KETUT LEMBON(クトゥッ・レンボン)
④ 21人
《G-8》 GEREJA KRISTEN PROTESTAN DI BALI (グ
⑤ なし
ルジャ クリステン プロテスタン ディ バリ)
⑥ 個人所有
【A】赤を基調とした楽器。グループ名はバリのキリスト
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
教プロテスタント教会の意味であり、ヒンドゥ教で用いら
⑧ KETUT WEKA(クトゥッ・ウェカ)
れる割れ門とキリスト教の十字架が共に用いられている
(2009年12月29日情報収集)
教会の中に置かれている。楽器の装飾のモチーフは
他のものとは雰囲気が異なっており、十字架の飾りが
《G-6》 PRABU ANGIN RIBUT (プラブ アンギン リブッ)
用いられている。通常より3台少ない11台の編成。日本
【A】青を基調とした楽器。家に隣接した場所に3台、4
の大学との交流があり 2、毎年8月には公演を実施して
台と重ねて置かれている。楽器の色ははげ落ち、竹が
いる。役員の1人より聞き取りを実施。
割 れ て い る も の も あ る 。 グ ル ー プ 名 の PRABU= 王 、
【B】
ANGIN RIBUT=は嵐の意味。楽器所有者は代表者と
① 2005年
はまた別のGUDE MARA(グデ・マラ)氏。メンバーより聞
② BELING BING SARI(ブリン ビン サリ)
き取りを実施。
③ KETUT WIRTA(クトゥッ・ウィルタ)
【B】
④ 30人
① 2006年11月30日
⑤ 女性4人と子ども達
② MELAYA TENGAH(ムラヤ トゥンガ)
⑥ 個人以外の所有
③ KETUT TARYA(クトゥッ・タルヤ)
⑦ 不明(サンカルアグン村より購入)
④ 30人
⑧ I MADE SUWITA(イ・マデ・スウィタ)
⑤ 女性2人
(2010年1月10日情報収集)
⑥ 個人所有
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『表現文化研究』第10巻第1号 2010年度
《G-9》 DUTA PURNA YUDHA SUARA (デュータ プ
【A】赤を基調とする楽器。家に隣接したバレに置かれて
ルナ ユダ スアラ)
いる。グループ名は花が咲くとの意味。代表者より聞き
【A】赤、水色の二色を基調とした楽器。戦争のモニュメ
取りを実施。スアルダナ氏は他の2つのグループについ
ントのある広場の隣にある、作業場と一体となったバレ
ても情報を提供してくれる。
に置かれている。グループ名のDUTA=使い、PURNA=
【B】
完全な、YUDHA=戦い、SUARA=声の意味。2010年1
① 1999年
月 7 日の10 グル ー プの ムバ ル ンに 参加 。 I KETUT
② TEGAL BADEN TIMUR(東テガルバドゥン)
DATON(イ・クトゥッ・ダトン)氏が主に作曲を担当。代表
③ NGH SUARDANA(ンガ・スアルダナ)
者より聞き取りを実施。
④ 20人
【B】
⑤ なし
① 2005年
⑥ 個人所有
② TUNAS MEKAR(トゥナス ムカール)
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
③ I KETUT MASTER(イ・クトゥッ・マストゥル)
⑧ NGH SUARDANA(ンガ・スアルダナ)
④ 40人
(2009年12月15日情報収集)
⑤ 女性2人
⑥ 個人以外の所有
《G-12》 MEKAR PUANA (ムカール プアナ)
⑦ I GEDE TESEN(イ・グデ・テッセン)
【A】オレンジを基調とした楽器。グループ名のMEKAR=
⑧ I KETUT MASTER(イ・クトゥッ・マストゥル)
花の意味、PUANAは地域名の一部でもある。ムカール
(2010年1月10日情報収集)
サリの代表者スアルダナ氏より聞き取りを実施。
【B】
●ヌガラ郡
① 2004年
《G-10》 SURYA METU (スルヤ ムトゥ)
② BALUK PUANA(バルック プアナ)
【A】赤を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置かれ
③ NAMIK(ナミク)
ている。楽器製作にあたって日本人の援助を受けたこ
④ 20人
とがある。グループ名は日の出の意味。以前は
⑤ なし
TUNJUN BIRU(トゥンジュンビル)の名前でウブドでの定
⑥ 個人所有
期公演を実施していたこともある。途中5年ほどの休止
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
期間を経て2008年より現在の名前で活動を行っている。
⑧ NGH SUARDANA(ンガ・スアルダナ)
2010年1月7日の10グループのムバルンに参加。代表
(2009年12月15日情報収集)
者より聞き取りを実施。
【B】
《G-13》 GITA SUARA (ギータ スアラ)
① 1997年
【A】実際の楽器調査はできず。グループ名のGITA=歌、
② BANYUBIRU(バニュビル)
SUARA=声の意味。ムカールサリの代表者スアルダナ
③ I GUSTI PUTU ASTAWA(イ・グスティ・プトゥ・ア
氏より聞き取りを実施。
スタウォ)
【B】
④ 25人
① 1999年
⑤ 男性3人、女性11人
② TEGAL BADEN BARAT(西テガル バドゥン)
⑥ 個人所有
③ I KETUT TENDA(イ・クトゥッ・テンダ)
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
④ 20人
⑧ I GUSTI PUTU ASTAWA(イ・グスティ・プトゥ・ア
⑤ なし
スタウォ)
⑥ 個人所有
(2009年12月14日情報収集)
⑦ I KETUT TENDA(イ・クトゥッ・テンダ)
⑧ NGH SUARDANA(ンガ・スアルダナ)
《G-11》 MEKAR SARI (ムカール サリ)
(2009年12月16日情報収集)
98
山田さよ子 「バリ島のジェゴグⅡ ― バリ島内のグループ調査報告」
基調としたもの。グループは財団法人ジャサツアー
《G-14》 DANU SUARA AGUNG (ダヌ スアラ アグン)
(JASA TOUR)の所属団体で、楽器は財団の敷地内の
【A】水色を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置か
バレに置かれている。バリ島内外で多くの公演をもち、最
3
れている。隣には同じ規模のジェゴグティンクリック が
も活動的なグループ。海外での公演も多く行っている。
置かれている。グループ名のDANU=湖、SUARA=声・
日本のテレビへの出演も多い。踊りメンバーの人数、楽
音、AGUNG=偉大なといった意味。楽器製作のマデ氏
器製作者については尋ねられず。グループの規模、活
はムンドゥックジャティ在住。2010年1月7日の10グルー
動共に別格の存在である。グループ名のSUAR=たいま
プのムバルンに参加。代表者より聞き取りを実施。
つ、AGUNG=偉大なといった意味。代表者より聞き取りを
【B】
実施。
① 1980年
【B】
② PANGKEN MANGIS(パンクン マンギス)
① 1982年
③ WAYAN WADIYUN(ワヤン・ワディユン)(48歳)
② SANGKARAGUN(サンカルアグン)
④ 15人
③ I KETUT SUWENTRA(イ・クトゥッ・スウェントラ)
⑤ なし
④ 115名
⑥ 個人以外の所有
⑤ 有
⑦ MADE(マデ)
⑥ 個人以外の所有
⑧ WAYAN WADIYUN(ワヤン・ワディユン)
⑦ 不明
(2009年12月20日情報収集)
⑧ I KETUT SUWENTRA(イ・クトゥッ・スウェントラ)
(2009年12月25日情報収集)
●ジュンブラナ郡
《G-15》 TARUNA BUDI LAKSANA (タルナ ブディ
《G-17》 YUSKEMARA (ユスクマラ)
ラクサナ)
【A】赤を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置かれ
【A】赤を基調とした楽器。以前スアールアグンの調律
ている。ジェゴグの普及にかなり貢献したグループ。代
師としても活躍していたデルナン氏のグループ。デル
表者のナスン氏はプロの芸術家でありジェゴグ製作、
ナン氏はジェゴグ製作も多く手がけている。楽器はデ
作曲なども担当している。ホテルでの公演なども行って
ルナン氏の家族の家に隣接したバレに置かれている。
いる。役員の1人より聞き取りを実施。
ムバルンやジュンブラナ県以外のイベントへの参加も
【B】
多く、活動的なグループである。グループ名の
① 1977年
TARUNA=青年、BUDI=善行、LAKSANA=行為の意味。
② SANGKARAGUN(サンカルアグン)
代表者より聞き取りを実施。
③ NASUN(ナスン)
【B】
④ 25名
①1982年
⑤ なし
②PANCARDAWA(パンチャールダワ)
⑥ 個人以外の所有
③I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
⑦ NASUN(ナスン)
④24人
⑧ KETUT LONDAR(クトゥッ・ロンダル)
⑤なし
(2010年9月4日情報収集)
⑥個人所有
⑦I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
《G-18》 WARDHINADI SUARA (ワルディナディ スアラ)
⑧I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
【A】赤を基調とした楽器。家に隣接したバレに置かれ
(2009年12月14日情報収集)
ている。次の日にはデンパサール近くのジンバランでコ
ンサートを行うとのことでジェゴグ製作者であるサンティ
《G-16》 SUAR AGUNG (スアール アグン)
カ氏が楽器の調律中であった。グループ名のSUARA=
【A】楽器を数組所有している。今回サンカルアグン村
声の意味。代表者より聞き取りを実施。
で調査した楽器は赤を基調としたものと、茶(木目調)を
【B】
99
『表現文化研究』第10巻第1号 2010年度
① 2007年10月20日
いる。グループ名のGITA=歌の意味。代表者の奥さん
② SAWE RANGSASA(サウェ ラングササ)
より聞き取りを実施。
③ I KETUT SUBUDA YASA(イ・クトゥッ・スブダ・ヤサ)
【B】
④ 20人
① 1999年
⑤ なし
② SEBUAL(スブアル)
⑥ 個人所有
③ NGH DANTRA(ンガ・ダントゥラ)(57歳)
⑦ I MADE SANTIKA(イ・マデ・サンティカ)
④ 25人
⑧ I KETUT SUBUDA YASA(イ・クトゥッ・スブダ・ヤサ)
⑤ なし
(2009年12月17日情報収集)
⑥ 個人以外の所有
⑦ 不明
《G-19》 KERTA BUDAYA (クルタ ブダヤ)
⑧ SAYU PUTU NARMI(サユ・プトゥ・ナルミ)
【A】楽器製作者はワルディナディスアラと同じサンティ
(2009年12月19日情報収集)
カ氏。実際の楽器は確認できず。グループ名の
BUDAYA=文化の意味。ワルディナディスアラの代表者
《G-22》 JATI SUARA (ジャティ スアラ)
スブダ・ヤサ氏より聞き取りを実施。
【A】赤を基調とした楽器。壁で囲まれた家の敷地内の
【B】
バレに置かれている。代表者は24歳と若い。グループ
① 2002年
名のJATI=純粋の、SUARA=声の意味。2010年1月7日
② SAWE MENDUK WARU(サウェ ムンドゥック ワル)
の10グループのムバルンに参加。代表者より聞き取り
③ 25人
を実施。
④ GUDE NIKO(グデ・ニコ)
【B】
⑤ なし
① 2003年
⑥ 不明
② DEWA SANA(デワ サナ)
⑦ I MADE SANTIKA(イ・マデ・サンティカ)
③ KETUT SANTI(クトゥッ・サンティ)(24歳)
⑧ KETUT SUBUDA YASA(クトゥッ・スブダ・ヤサ)
④ 25人
(2009年12月17日情報収集)
⑤ なし
⑥ 個人以外の所有
《G-20》 MADU SUARA (マドゥ スアラ)
⑦ NYOMAN SUMADA(ニョマン・スマダ)
【A】白を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置かれ
⑧ KETUT SANTI(クトゥッ・サンティ)
ている。執筆者訪問時の次の週にムバルンの予定があ
(2009年12月20日情報収集)
るとのこと。グループ名のMADU=蜜、SUARA=声の意
味。メンバーより聞き取りを実施。
《G-23》 PURWA GITA (プルワ ギータ)
【B】
【A】赤を基調とした楽器。村の中のバレに置かれてい
① 1996年
る。グループ名のPURWA=最初の、GITA=歌といった
② MENDUL KEMONING(ムンドゥック クモニン)
意味。ジャティスアラの代表者サンティカ氏より聞き取り
③ GUDE BAGIYO(グデ・バギヨ)
を実施。
④ 15人
【B】
⑤ なし
① 1980年
⑥ 個人以外の所有
② DEWA SANA(デワ サナ)
⑦ SONDOR(ソンドル)
③ NGH NARDA(ンガ・ナルダ)
⑧ KADE AMA(カデ・アマ)
④ 25人
(2009年12月19日情報収集)
⑤ なし
⑥ 個人以外の所有
《G-21》 PURYA GITA (プルヤ ギータ)
⑦ DANIA(ダニア)
【A】白を基調とした楽器。住宅地の中のバレ置かれて
⑧ KETUT SANTI(クトゥッ・サンティ)
100
山田さよ子 「バリ島のジェゴグⅡ ― バリ島内のグループ調査報告」
(2009年12月20日情報収集)
② YEHMEKECIR(イエムクチル)
③ 不明
《G-24》 GIRI SUARA (ギリ スアラ)
④ 不明
【A】赤を基調とした楽器。村の中のバレに置かれてい
⑤ 不明
る。道路をはさみ向かい側にGIRI MERTA(ギリ ムル
⑥ 不明
タ)という名前の地域のお寺がありそこから名前をとった
⑦ 不明
とのこと。グループ名のGIRI=山、SUARA=声の意味。
⑧ 不明
代表者より聞き取りを実施。
(2009年12月22日情報収集)
【B】
① 2006年
《G-27》 TAMAN SARI BUDAYA (タマン サリ ブダヤ)
② DEWA SANA(デワ サナ)
【A】水色を基調とした楽器。家の敷地内のバレに置かれ
③ WAYAN WESTREM(ワヤン・ウェストレム)(45歳)
ている。グループ名のTAMANは地域の名前、SARI=花、
④ 30人
BUTAYA=文化の意味。メンバーより聞き取りを実施。
⑤ なし
【B】
⑥ 個人以外の所有
① 1986年
⑦ SONDER(ソンデル)
② TAMAN(タマン)
⑧ WAYAN WESTREM(ワヤン・ウェストレム)
③ WAYAN RIDANA(ワヤン・リダナ)
(2009年12月20日情報収集)
④ 25人
⑤ なし
《G-25》 JAYA SUARA (ジャヤ スアラ)
⑥ 個人以外の所有
【A】赤を基調とした楽器。道路脇に建てられたバレに
⑦ KIANG KENIA(キアン・クニア)
置かれている。グループ名のJAYA=勝利、SUARA=声
⑧ WIDA BAGUS WISNU(ウィダ・バグース・ウィスヌ)
の意味。2010年1月7日の10グループのムバルンに参
(2009年12月22日情報収集。)
加。メンバーより聞き取りを実施。
【B】
《G-28》 KARYA PRAJA BUDAYA (カルヤ プラジャ
① 1999年
ブダヤ)
② MUNDUK JATI(ムンドゥック ジャティ)
【A】ピンク色を基調とした楽器。道路脇にあるバレに置
③ NGH SUTA(ンガ・スタ)
かれている。かなり大きく、りっぱな楽器である。グルー
④ 30人
プ名のKARYA=仕事、PRAJA=都、BUDAYA=文化の
⑤ なし
意味。2010年1月7日の10グループのムバルンに参加。
⑥ 個人以外の所有
メンバーより聞き取りを実施。
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
【B】
⑧ WAYAN SUPARDI(ワヤン・スパルディ)
① 1984年
(2009年12月20日情報収集)
② PENDEM(プンダム)
③ WAYAN WIDANA YASA(ワヤン・ウィダナ・ヤサ)
《G-26》 TIRTA SUARA METU (ティルタ スアラ ムトゥ)
④ 30人
【A】水色を基調としたジェゴグ。道路脇にあるバレに置
⑤ なし
かれている。インタビューは実施できず、楽器調査のみ。
⑥ 個人以外の所有
設立日は保管場所に記載してあったもの。グループ名
⑦ SONDER(ソンデル)
のTIRTA=聖水、SUARA=声、METU=出るといった意味。
⑧ KADE ASTANAYA(カデ・アスタナヤ)
2009年12月28日にはタルナ ブディ ラクサナとのムバ
(2009年12月25日情報収集)
ルンを実施。
【B】
●ムンドヨ郡
① 1998年8月17日
《G-29》 CATUR GITA SUARA (チャトゥール ギータ
101
『表現文化研究』第10巻第1号 2010年度
スアラ)
者。グループ名のWREDA=年老いたという意味。代表
【A】オレンジを基調とした楽器。村の中のバレに置かれ
者より聞き取りを実施。
ている。かなりしっかりとした役員制度をもったグループ
【B】
である。最初の楽器はI MADE WIRAMA(イ・マデ・ウィ
① 2001年
ラマ)、2代目の楽器はI KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・
② BILUK POH KANGING(ビルッ ポー カンギン)
デルナン)が製作、現在の楽器は3代目。グループ名の
③ MADE KANTEN(マデ・カンテン)
CATUR=4の意味でジェゴグの4音階を示す。GITA=歌、
④ 15人
SUARA=声の意味。役員の1人より聞き取りを実施。
⑤ なし
【B】
⑥ 個人所有
① 1980年
⑦ MADE KANTEN(マデ・カンテン)
② PANGKUNG KUO(パンクン クオ)
⑧ MADE KANTEN(マデ・カンテン)
③ I NYOMAN WARMA(イ・ニョマン・ワルマ)
(2009年12月26日情報収集)
④ 30人
⑤ なし
《G-32》 WIDHIA KUSUMA AYU (ウィディア クスマ アユ)
⑥ 個人以外の所有
【A】バリ島唯一の女性グループ。実際の楽器は確認で
⑦ I NYOMAN KENDAYA(イ・ニョマン・クンダヤ)
きず。グループ名のKUSUMA=花、AYUは可愛い女性
⑧ I MADE SEDARMA(イ・マデ・スダルマ)
をあらわす言葉。代表者より聞き取りを実施。
(2009年12月26日情報収集)
【B】
① 2002年
《G-30》 SUARA GITA JAYU (スアラ ギータ ジャユ)
② POH SANTEN(ポー サンテン)
【A】赤を基調とした楽器。家の敷地内のバレに2セット
③ NILUK SITIANI(ニルッ・シティアニ)
の楽器が並べて置かれている。グループ名のSUARA=
④ 20人
声、GITA=歌の意味。メンバーの奥さんより聞き取りを
⑤ 女の子2人
実施。
⑥ 個人以外の所有
【B】
⑦ MING(ミング)
① 1998年8月23日
⑧ NILUK SITIANI(ニルッ・シティアニ)
② BIRUK POH(ビルッ ポー)
(2009年12月26日情報収集)
③ MADE WIDI WIRATNYANA(マデ・ウィディ・ウィ
ヤッニャナ)
《G-33》 CATUR SUARA MURTI (チャトゥール スアラ
④ 23人
ムルティ)
⑤ なし
【A】赤を基調とした楽器。地域の集会所横のバレに無
⑥ 個人所有
造作に積み上げられて置かれている。86年の設立以
⑦ DANYA(ダニヤ)
来使用している楽器である。CATUR=4の意味でジェゴ
⑧ WAYAN MERTI(ワヤン・ムルティ)
グの4音階を示す。スアラ=声の意味。グループのプマ
(2009年12月26日情報収集)
ンク4 より聞き取りを実施。
【B】
《G-31》 WREDHA SANGGITA CENTHI (ウレダ サン
① 1986年3月3日
ギータ チェンティ)
② YEH SEMBUL(イエ スンブル)
【A】茶色を基調とした楽器。ただし前足の半分が水色
③ I WAYAN NERKAN(イ・ワヤン・ヌルカン)
であったり、細かく黄色を加えていたりとおしゃれな色
④ 30人
使いの楽器である。家の敷地内で、後ろは壁、一方の
⑤ なし
側面は住宅の一部が併設された置き場に置かれてい
⑥ 個人以外の所有
る。代表のカンテン氏はプロの芸術家の1人。娘は
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
WIDIA KUSUMA AYU(ウィディア クスマ アユ)の代表
⑧ NYOMAN TINON(ニョマン・ティノン)
102
山田さよ子 「バリ島のジェゴグⅡ ― バリ島内のグループ調査報告」
(2010年1月3日情報収集)
ジュンブラナ県以外のジェゴグは数えるほどしかない。
地域に根付いたジェゴグはギャニャール県ウブド郡に2
1.2.2. 活動休止または廃止されたグループ
つあるのみである。ウブドは芸術の村として知られてお
最初の情報では挙がっていたが後に住民の情報な
り、毎日舞踊やガムランの公演が行われている。
どにより休止、廃止されたと判断できるもので、名前の
他にはバドゥン県のブラワにある財団法人に所属す
分かるものを記す。いくつかでは実際に楽器を確認し、
る形でユディスティラサウンドファクトリーがあるが、メン
情報を収集することもできた。
バーのほとんどはジュンブラナ県在住である。またジュ
ンブラナ県サンカルアグン村のスアールアグンの事務
《G-1》 WARGA TUNAS MEKAR (ワルガ トゥナス ム
所もデンパサールにある。
カール)
地域はTUKADAYA(トゥカダヤ)。楽器の主な色は白。
グループ名のWARGA=一員、TUNAS MEKAR=芽吹く
2.2. ジェゴググループ調査
ジュンブラナ県以外のグループに関しても同様の調
という意味。(2009年12月27日情報収集)
査、アンケートを実施した。
《G-2》 KESUMA SARI JIMBARUWANA (クスマ サリ
《G-1》 YOWANA SWARA (ヨワナ スワラ)
ジンバルワナ)
【A】茶(木目調)を基調とした楽器。公演場所であるお
地域はPANGKUNG JAJAN(パンクン ジャジャン)。
寺に置かれている。1998年にウブド初のジェゴグが誕
98年頃設立。楽器の主な色は赤。もう一年以上活動を
生、その後その時のメンバーを中心として設立されたグ
していない。グループ名のJIMBARUWANAはジュンブ
ループ。設立当初のスポンサーは代表者の親戚。現在
ラナ県のことを示す。KESUMA SARI=花の意味。(2009
の運営は地域で行っている。楽器が古くなって来てい
年12月27日情報収集)
るが次に作り変えるときには音がより大きく、割れにくい
ジェゴグティンクリックにしようと思っているとのこと。週1
《G-3》 AMERTA JATI (アムルタ ジャティ)
回の定期公演を行っている。代表者とメンバーの1人よ
地域はBANYUBIRU(バニュビル)。楽器の主な色は
り聞き取りを実施。楽器製作者はヌガラ在住。
水色。家に隣接したバレに置かれている。楽器自体は
【B】
まだ使えそうであるが、グループがないとのこと。グルー
① 2002年
プ名のJATI=純粋のという意味。(2010年9月23日情報
② ウブド
収集)
③ AGUNG MENDA(アグン・メンダ)
④ 32人
《G-4》 BUANA SUARA (ブアナ スアラ)
⑤ 23人
地域はBATUAGUNG(バトゥアグン)。実際の楽器は
⑥ 個人以外の所有
確認できず。グループ名のBUANA=大陸、SUARA=声
⑦ PUTU SUWECA(プトゥ・スウェチャ)
の意味。(2009年12月19日情報収集)
⑧ AGUNG MENDA(アグン・メンダ)、AGUNG BAGUS
(アグン・バグース)
この他にもPETANAAN(プタナアン)、BRAMBANG(ブ
(2010年2月24日情報収集)
ランバン)、SAWE(サウェイ)、MENDOYO(ムンドヨ)に以前
活動していたグループがあったものの現在は活動してい
《G-2》 SUARA SAKTI (スアラ サクティ)
ないのではないかということであった。またMUNDUK
【A】茶(木目調)を基調とした楽器。公演を行うお寺の中
KENDUNG(ムンドゥック クンドゥン)のグループは以前
に置かれている。ウブド最初のジェゴググループから地
ジェゴグであったが、現在はジェゴグティンクリックとして
域を引き継ぎ、設立されたグループ。設立当初のスポ
活動しているとのことである。
ンサーは日本人であるが、現在の運営は村が行ってい
る。他にはない縦型ジェゴグを製作、使用している。週
2. ジュンブラナ県以外のジェゴグ
2回の定期公演を行っている。グループ名のSAKTI=超
2.1. ジュンブラナ県以外にジェゴグのある地域について
能力の意味で、地域の名前でもある。SUARA=声の意
103
『表現文化研究』第10巻第1号 2010年度
味。代表者より聞き取りを実施。
る形の建物に置かれている。ここは楽器保管の他、練
【B】
習場所としても用いられている。ほとんどはそのまま練
① 2001年
習できるような形で平地に並べられていたが、無造作
② BENTUYUNG(ブントゥユン)
に重ねられていたり、屋根部分に下げられているものも
③ I KETUT SUWECI( イ ・ ク ト ゥ ッ ・ ス ウ ェ チ ) 、 I
あった。飾りの一部や、演奏の際に必ず取り付けられる、
グループ名や地域を記したスパンドゥック 5 と呼ばれる
KETUT SUYASA(イ・クトゥッ・スヤサ)
④ 40人
横長の旗ははずされ、屋根部分に作られた棚や大きな
⑤ 20人
木箱に収められている。スパンドゥックはバレの柱に広
⑥ 個人以外の所有
げてかけられているところもあった。
楽器には様々な装飾がされ、多くの色が使われてい
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
⑧ I KETUT SUWECI(イ・クトゥッ・スウェチ)
るが、楽器の足や竹を下げる枠はどのグループも統一
(2009年12月11日情報収集)
した色、デザインで揃えられている。その基調となる色
として最も多く使われているものは赤色で、足の先のみ
《G-3》 YUDISTIRA SOUND FACTORY (ユディスティラ
黒を用い、それ以外は足、枠ともに赤という楽器をもつ
サウンド ファクトリー)
グループが多い。
【A】赤を基調とした楽器。財団法人プリ・スチ・ユディス
聞き取りでは前もって連絡することもなく、ジェゴグ周
ティラ(yayasan puri suci yudistira)の所属団体で財団の
辺の家を訪ねて関係者を見つけて尋ねた。急な来訪
敷地内に置かれている。週1回の定期公演を実施して
であったが、どの人も快くそして誇らしげに情報を提供
いるが、予約客が10人以上集まらないと中止という条
してくれた。グループによっては設立時の役員やメン
件付。代表者のスタマ氏以外のメンバーはジュンブラ
バーを記した書類を出して教えてくれた。
ナ在住で、公演時に集合する。ジェゴグの指導なども
グループの設立年数は1977年から2007年と様々で
行っている。スタマ氏が多くの曲を作曲している。代表
ある。バリ島内でもジェゴグの人気が出てきたと言われ
者より聞き取りを実施。
る1980年代以降、特別な偏りなく継続して新しいジェゴ
【B】
ググループが誕生して来ている。
メンバーは大抵15人から30人程度。スアールアグン
① 2004年10月
② BRAWA(ブラワ)
は別格である。楽器の数が14台で、最も大きな楽器は2
③ I NYOMAN SUTAMA(イ・ニョマン・スタマ)
人で演奏するため、15人が基本的な最低人数である。
④ 20人
メンバーの中にクンダン6 やスリン7 のメンバーが含まれ
⑤ 3人
ている場合もあるが、例えば公演の際に頼んで共演し
⑥ 個人以外の所有
てもらうこともある。また踊り手を準備できているグルー
⑦ I KETUT DERNEN(イ・クトゥッ・デルナン)
プは少ない。準備したいが、まだできていないという声
⑧ I NYOMAN SUTAMA(イ・ニョマン・スタマ)
を良く聞いた。また若い娘が結婚してやめてしまったと
(2010年2月23日情報収集)
の声も聞かれた。子ども、若い娘を中心とした踊り手を
確保し続けることは難しいようである。このようなグルー
3. 調査まとめ
プでも公演で必要な時には学校や踊りのグループに
3.1. 調査分析
協力してもらう。
現在ジュンブラナ県で少なくとも33、それ以外で3つ
ジェゴグの所有、もしくはグループ設立者について
のグループが活動のできる形で存在する。ジュンブラ
は様々な状況があり、はっきりとしない部分が多いが、
ナ県での地域分布はプクタタン郡を除く4つの郡で確
個人所有か否かと尋ねるとはっきりと返事が返ってきた。
認できた。ほとんどのジェゴグは自由に側まで行って見
個人所有では多くの場合代表者が楽器を所有し、運
ることのできる環境に置かれている。この場所は地域の
営の主体を握っている。逆に個人以外の所有では地
土地や、個人の土地の一部であり、地域の集会所の横
域が関わって運営している。しかし個人所有でも地域
にあるもの、個人の家の裏や庭の端にあるものもあった。
やメンバーが資金の一部を出資して設立していることも
多くの場合風通しがよく、雨のかからないバレと呼ばれ
多く、メンバーや地域の協力体制は様々である。
104
山田さよ子 「バリ島のジェゴグⅡ ― バリ島内のグループ調査報告」
ジェゴグの製作者はまずデルナン氏が、不明を除く
定められた工場や生産ルートがあるわけではなく、製
32グループ中の10グループの楽器製作者として名前
作者への依頼によって竹の調達から開始される。その
が挙がる。この調査において多くの情報を提供してくれ
製作法、特に楽器の調律の仕方は大きく明らかにされ
たのがデルナン氏であるため、情報の偏りも多少は考
ているものではない。今回の調査においてデルナン氏
えられるが、デルナン氏は以前スアールアグンで楽器
が製作したものが多いものの、他にも多くの人が製作を
製作、調律を担当していた。スアールアグンはバリ全土
行っていることがわかった。昔からの伝統をうまく引き継
でも精力的に活動する有名なグループであるため、ス
ぎ、新しい世代へと伝えていって欲しいと思われる。
アールアグンの活動の中で実力をもち、名を知られた
ジュンブラナ県以外のジェゴグに関しては、ユディス
デルナン氏に依頼するグループが多いことは容易に想
ティラサウンドファクトリーはそのメンバーのほとんどが
像できる。他にはテッセン氏、ソンドル氏、サンティカ氏、
ジュンブラナ県在住者であることを考えると、ジュンブラ
ダニヤ氏が2〜3グループのジェゴグ製作を行っている。
ナ県外のジェゴグはウブドの2つだけとも言える。しかも
この中でテッセン氏は以前に日本のテレビでその製作
以前は1つであったグループが2つに分かれたものであ
の様子が取り上げられている。またグループの代表者
る。楽器の材料や製作者、演奏者やその技術の問題
自身が製作するグループもある。
など、様々な理由によってジュンブラナ県からまだまだ
ジェゴグは本来男性のみが演奏するものでありそれぞ
外に出る部分の少ないジェゴグであるが、ウブドにグ
れのグループは男性の演奏者のみで構成されている。
ループができたこと、また女性のグループができたり、
唯一2002年設立のポーサンテンのウィディア クスマ ア
ウブドのスアラサクティでは新しい形のジェゴグができ
ユは女性の演奏者のみで構成されたグループである。
たりと少しずつ新たな側面を見せている。このような状
況の中でジェゴグの現状を記せたことは大きな成果で
3.2. まとめ
あると共に、今後の発展が楽しみである。
ジュンブラナ県が発表しているジェゴググループの
数は66である。ジュンブラナ県では芸能グループは政
府への申請を行うことが定められているため、それに基
づく数であると考えられるが、この中には現在活動して
いないグループも多く含まれている。今回調査したジュ
ンブラナ県内33のグループはこれが全てではないかも
しれないが、現在活動するグループをかなり網羅でき
ていると考えられる。またジュンブラナ県外の3グループ
についてはまずこれ以外のグループはないであろう。
グループの設立年については、バリ島内でジェゴグ
が知られるようになり、グループが増えてきたのが1980
年代であると言われるのと合致する。この時期はちょう
どスアールアグンが設立され、海外を含めた活動を活
発に行い始めた頃でもある。2000年代に入っても多く
のグループが設立されている事実はとても頼もしい限り
である。ただ、かつてはジュンブラナ県内で容易に手に
入った竹がその数を減らし、価格が上がり、現在は高
いお金を出して他県に買いに行かなくてはならなくなっ
ているという現実もある。これを考えると今後新しいグ
ループの設立や楽器の作り替えが困難になることが予
想される。現在あるグループの中でも運営が困難にな
るグループが増えてくるであろう。
ジェゴグの製作は誰でもが行えるものではなく、専門
家の手助けを多く必要とする。現在の製作に関しては
105
『表現文化研究』第10巻第1号 2010年度
図1 ディアトミカ スアラの楽器
図5 グルジャ クリステン プロテスタン ディ バリの楽器
図2 トゥナス ムカールのバレ
図6 ムカール プアナの楽器
図3 バジュラ イスワラのスパンドゥック
図7 スアール アグンの楽器
図4 プラブ アンギン リブッの積み上げられた楽器
図8 ワルディ ナディ スアラの楽器とスパンドゥック
106
山田さよ子 「バリ島のジェゴグⅡ ― バリ島内のグループ調査報告」
図9 プルヤ ギータの楽器
図13 ウレダ ギータ チェンティの代表者
図10 ジャティ スアラの若き代表者
図14 活動休止中のアムルタジャティの楽器
図11 カルヤ プラジャ ブダヤの楽器
図15 ヨワナ スワラの楽器
図12 チャトゥール ギータ スアラの楽器
図16 講習用にスタジオ内に置かれたユディスティラサウンド
ファクトリーの楽器
107
『表現文化研究』第10巻第1号 2010年度
15 エイドリアン・ヴィッカーズ 『演出された「楽園」バリ島
の光と影』 中谷文美訳、新曜社、2000年。
16 吉田禎吾 『神々の島バリ バリ=ヒンドゥーの儀礼と芸
能』 河野亮仙、中村潔編、春秋社、1994年。
17 西岡信雄他 『楽の器』 藤井智昭他編、弘 文堂、
1988年。
18 西岡信雄 『地球の音楽誌 神々の音、人々の音』 大
修館書店、1992年。
19 皆川厚一 『ガムラン武者修行 音の宝島バリ島暮ら
し』 PARCO出版、2000年。
20 伊藤俊冶 『バリ島芸術をつくった男 ヴァルター・シュ
ピースの魔術的人生』 平凡社、2002年。
図版出典
写真はすべて執筆者による撮影。
注
1 バリ島でよく見られる、柱と屋根からなる壁のない建
物。
2 桃山学院大学主催の『アジアの人々の協働から学ぶ』
ことを目的とした国際ワークキャンプが毎年の様に実施
され、学生らがこの教会を訪れている。
3 ジェゴグと違って鍵盤と共鳴管が別々となった構造をも
ち、ジェゴグと同じ編成によるアンサンブル。演奏方法
や演目もほぼ同じである。
4 お坊さんのこと。ジェゴグの演奏の際には必ずプマンク
がお祈りを捧げてから演奏が開始される。
5 宣伝や広告などのための横断幕のこと。ジェゴグの
演奏の際には必ずグループ名や地域が記されたス
パンドゥックが掲げられる。
6 両面太鼓。他のガムラン音楽でも使用される。ジェゴグ
では主に踊りを伴う演奏の際に使用される。
7 竹製のたて笛。クンダン同様他のガムランでも使用され、
ジェゴグでは主に踊りを伴う演奏の際に使用される。
参考文献
1 山田さよ子 「バリ島のジェゴグ」 『表現文化研究』第9
巻第1号、神戸大学表現文化研究会、2009年。
2 小川洋 「バリ島の巨竹アンサンブル ジェゴグ」
『AUDIO BASIC』43巻、共同通信社、2007年。
3 高木尚子 「バリ島西部地域に発達した竹ガムラン
『ジェゴグ』の歴史的展開」 『ムーサ』5巻、沖縄県立大
学音楽学部音楽学専攻、2004年。
4 高木尚子 「バリ島の芸能ジェゴグ・テンポ・ドゥル再
考」 『ムーサ』6巻、沖縄県立大学音楽学部音楽学専
攻、2005年。
5 I NYOMAN SUKERNA, GAMELAN JEGOG BALI ,
INTRA PUSTAKA UTAMA,2003.
6 MICHAEL TENZER,Balinese Music,Periplus Editors,
1998.
7 賈鍾壽 『バリ島 ――Island of Gods――』 大学教育
出版、2009年。
8 片寄美恵子 『バリに嫁いで』 長崎出版、2005年。
9 山下晋司 『観光人類学の挑戦「新しい地球」の生き
方』 講談社、2009年。
10 山下晋司 『バリ観光人類学のレッスン』 東京大学出
版社、1999年。
11 東海晴美他 『踊る島バリ』 パルコ、1990年。
12 プトゥ・スティア 『プトゥ・スティアのバリ案内』 鏡味冶
也、中村潔訳、木犀社、1994年。
13 吉田禎吾 『バリ島民 祭りと花のコスモロジー』 弘文
社、1992年。
14 コリン・マックフィー 『熱帯の旅人 バリ島音楽紀行』
大竹昭子訳 河出書房新社、1990年。
■執筆者について
山田さよ子(やまだ・さよこ)
神戸大学医療技術短期大学部卒業後、作業療法士とし
て勤務。神戸大学発達科学部を経て、現在、神戸大学大
学院人間発達環境学研究科博士課程前期課程在籍。研
究領域はジェゴグ。
E-mail:[email protected]
■Notes on the Contributor
Sayoko Yamada has been working as an occupational
therapist after she graduated from School of Allied Medical
Sciences, Kobe University. She graduated Faculty of
Human Development, Kobe University, and is currently in
the master's course of Graduate School of Human
Development and Environment, Kobe University. Her
research interest is Jegog.
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