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米国における特許判例の流れと 近年の重要判決

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米国における特許判例の流れと 近年の重要判決
米国における特許判例の流れと
近年の重要判決
2001年10月31日(水)
講演資料
米国特許弁護士 服部 健一
アームストロング、ウェスタマン、服部
マクリランド & ノートン法律事務所
2001年 禁無断転載
目 次
第I 章 米国における特許判例の流れ......................................................................... 1
A.初期のプロパテントの時代........................................................................................................ 1
B.アンチパテント時代.................................................................................................................. 1
C.第2プロパテント時代 .............................................................................................................. 2
D.特許安定化時代 ........................................................................................................................ 3
第II 章 特許侵害 ............................................................................................... 5
A.文言侵害と均等論侵害 .............................................................................................................. 5
B.均等論侵害の萌芽(グレーバータンク 1950年以前)................................................................. 5
C. 均等論侵害の基本原理の確立(グレーバータンク事件 1950年)................................................. 6
D.均等論侵害の拡大(クレームの発明全体で評価 1983年).......................................................... 6
E.均等論侵害の限定(オール・エレメント・ルール 1987年)....................................................... 7
F.均等論侵害とエストッペル(ワーナー・ジェンキンソン 1997年及びフェスト 2000年).............. 9
G.均等論侵害とミーンズ・プラス・ファンクション .................................................................... 10
H.均等論侵害の統計とCAFCジャッジ分析.................................................................................. 12
I.今後の均等論侵害の問題点...................................................................................................... 13
第III 章 近年の重要判例 .................................................................................... 15
A.1999年の重要判例 ............................................................................................................ 15
B.2000年の重要判例 ............................................................................................................ 18
C.2001年の重要判例と要約 .................................................................................................. 20
第I章 米国における特許判例の流れ
A.初期のプロパテントの時代
1. 期間:1776 年(建国)∼1920 年(大恐慌)
イギリスから独立した米国は、ヨーロッパ諸国をしのぐ技術立国の基礎を築いていった
2. 米国憲法(1787 年)
米国憲法第 I 章第 8 条に特許と著作権に関する規定を設置
3. 最初の連邦特許法施行(1790 年)
初代米国特許庁長官はトーマス・ジェファーソン(自らも発明家)
4. 特許登録制度・審査なし(1793 年)
ジェファーソン等は他の政策業で忙しくなったため、審査を不要にし、出願登録制度に改正し
た
5. 外国人にも特許を認める(1800 年)
それまでは外国人には米国特許を認めなかった
但し、出願料金には差をつけた
6. 審査制度導入(1836 年)
単純登録制度では特許の質が悪化したので再び審査制度導入
明細書、図面、模型
7. 近代的特許法の確立(1870 年: 明治 2 年)
・ 審査制度の再導入
・ インターフェアランス
・ 模型廃止
8. 日本の特許庁長官、米国特許庁を視察・研究 (1900 年: 明治 32)
9. 特許弁護士・弁理士制度導入
10. 大発明家
・ エジソン (1847∼1931)
・ ベル (1847∼1922)
・ ライト兄弟(1867∼1948: 1906 年特許)
B.アンチパテント時代
1. 期間:1920 年(大恐慌)∼1981 年(CAFC設立以前)
大恐慌は特許独占・企業独占によってもたらされた、と解釈され(イエール学派)
、特許独占
が嫌悪された
2. 特許制度の改正
・ 植物特許導入(1930 年)
・ 現在の特許法(1952 年)
3. この当時の特許裁判では、80%の特許は無効にされていたという
4. 最高裁判決での付帯意見
「有効な特許は当最高裁判所がまだレビューしていない特許のみである
(The only patent that is valid is one which this Court has not been able to get its hand)
」
5. 各巡回控訴裁はバラバラの特許
・ 第2巡回地区(NY)・・・・・・・・・・・・・・・・特許を嫌悪、しかし、均等論は発展
・ 第8巡回地区(セントルイス)・・・・・・・・反特許
・ 第9巡回地区(カリフォルニア)・・・・・・結果予想さえできず、ある判事は 22 件の事件で特
許を全て無効
1
C.第2プロパテント時代
1. 期間:1982 年(CAFC)∼1987 年(しかし特許事由の飼う大については今日も続いている)
米国経済の衰退、貿易赤字の増大、技術革新の停滞から再び特許制度の見直し、強化が行われ
たカーター大統領の Domestic Policy Review(特許減少→why?)
2. 特許制度の改正
・ 再審査制度導入(1980 年)
・ 同一特許譲受人の場合 102 条(f)、(g)は適用外(1995 年)
3. CAFC
・ CCPA(特許関税問題)+クレームズ裁判所(国の特許侵害)
・ 既存組織の活用、判事を増やさず
・ 特許は不人気であったため統一可(著作権、商標ははずされる)
4. マーキー初代主席判事のプロ特許方針
・ 登録特許は有効の推定
・ 容易による無効化には理由必要
・ 損害賠償理論発達
・ 差止めの認容
5. 反トラスト政策の緩和
6. 米国特許商標庁の体質改善、強化
7. プロパテントを助長した事件
(a)特許事由・特許主題の拡大(これは今日も続いている)
1980 年:チャクラ・パディ事件(最高裁)
微生物を利用した技術の特許許可
「太陽の下で人類が作ったいかなるものも特許になる(Anything made by men
under the sun)
」
1982 年:ディア事件
ソフトウェア特許許可
1998 年:ステートストリートバンク事件
データ処理システム特許許可
ビジネス・メソッドという理由で特許を否定しない
(b)特許侵害
1983 年:ヒューズエアクラフト事件
均等論侵害はクレーム発明全体から評価(その後、1987 年のペンワルト事件で
否定された)
1997 年:ワーナージェキンソン事件(最高裁)
均等論侵害は陪審員が決定する事実認定問題
2001 年:ターボケア事件
クレームの構成要件を追加しても、実質的にクレーム範囲を厳粛していなければ
フェスト判決は適用されず、均等論侵害はあり得る。
(c)損害賠償
1988 年:ウィンドサーフィン事件
特許権消滅後に市場再酸化による利益
1995 年:ライトハイト事件(CAFC オンバンク)
エンパイヤ・マーケット・ルールの定認
2
:キング・インストルメント事件
損害賠償の計算において特許権者が特許製品を製造している必要はない
1996 年:シュルゲンス事件
鑑定は内容が妥当でなければ三倍賠償化を回避できない
D.特許安定化時代
1. 期間(1987 年∼今日)
特許裁判に陪審員が活用され始め、権利範囲が不明確になり、損害賠償も高額化する事件が相
次いだため、この動きを是正する判決が下され、制度改正が行われてきた。
2. 特許制度の改正
・ 特許期間出願から 20 年制度(1994 年)
・ 公開制度、当事者系再審査制度等(1999 年)
3. 特許安定化の事件
(a)特許侵害
1987 年:ペンワルト事件
特許侵害はクレームのオールエレメントルールで判断し、発明全体からの本質
(invention as a whole)で比較する考え方を否定クレームの構成要件の 1 つ 1
つが重要になる
1997 年:ワーナージェンキンソン事件
補正に理由が開示されていなければ、特許性のための補正と見なされるというエ
ストッペルの推定
:セージプロダクト事件
審査中にクレームを広くする機会があったにもかかわらず、それを行わなかった
場合は、特許侵害が均等論侵害なしの責を負う
1998 年:チウミナッタ事件
ミーンズプラスファンクションのクレームで出願前の技術が含まれておらず、し
かも均等物でなければ、均等論侵害もない
:エチコン事件
継続出願でクレームを拡大しても、その明細書にサポートがなければ遡及できな
い
1999 年:セクスタント事件
クレームが補正により減縮され、その理由が特許性のためではないことが立証で
きない場合は、完全エストッペルになり均等論侵害は一切ない
2000 年:フェスト事件
上記の立証証拠がプロセキューション・ヒストリー中にない場合は、完全エスト
ッペルになり、均等論侵害は一切ない
この事件は最高裁がレビュー中である
(b)クレーム解釈
1996 年:マークマン事件
クレーム解釈は判事で陪審員でない(マークマン・ヒアリングの発達)
1996 年:ビトロニクス事件
クレーム解釈がクレーム文言上、明細書、ファイルヒストリー等の内部証拠から
明らかな場合は発明者を含めた証人の外部証拠を参考にする必要はない。
:ペンテル事件
実施例が限定されている場合は例えクレームが広くともクレーム解釈を実施例
3
に沿って狭く解釈する。
1998 年:アンチフォーム事件
クレーム用語の意味が明細書及びプロセキューション・ヒストリーから明らかで
ある場合は、辞書の定義、ミーンズ・プラス・ファンクション、クレーム比較論
等(Claim Differentiation)に依存する必要は無い
1999 年:プロセス・コントロール事件
クレーム文言上その解釈が明らかな場合は、たとえその解釈が明細書と矛盾し、
発明が意味をなさなくてもその解釈に従う
(c)損害賠償
1999 年:グレイン・プロセシング事件
特許侵害者に特許非侵害製品の製造能力があればその分損害賠償は 少なくなる
可能性がある。
4
第II章 特許侵害
A.文言侵害と均等論侵害
1.文言侵害(Literal Infringement)
文言侵害という表現自体の定義は特許法上になく、特許発明(potential invention)をクレームの
発明と解釈し、クレームの全ての構成要件と完全同一の構成要件を有する侵害を文言侵害と定義す
る。
米国特許第 271 条:
Except as otherwise provided in this title, whoever without authority makes,
uses, sells or offers to sell any patented invention, within the United States
during the term of the patent therefore, infringes the patent.
2.均等論侵害(Equitable Infringement)
米国特許法には全くその規定はなく、裁判所が正義公正上の観点から文言侵害のみに限定するの
は発明者に酷であるという観点から発展した侵害論で、1950 年のグレーバタンク事件がその基本
的考え方を示した。裁判所が発展させた理論という意味では衡平法的(equity)理論ともいえ、そ
の場合裁判官の決定事項になるが、CAFC は均等論侵害は「衡平法的」問題であるものの衡平法そ
のものからの救済措置ではないと判示している。最高裁ワーナー・ジェンキンソン事件(ヒルトン・
デービス事件の最高裁上告事件)ではこの問題が上告理由に提示されていないとして審議すること
を拒否した。
B.均等論侵害の萌芽(グレーバータンク 1950年以前)
1. 均等論の必要性
(1)特許法上では発明を明確にクレームする事を要求されている。
35USC112 条、第二パラグラフ
・・・クレームは出願人が発明と考える主題を詳しく指摘し、明確にクレームしなければならな
い(particularly point and distinctly claim)・・・
(2)憲法上の要求は発明者保護
米国憲法第 I 章、第 8 条
発明者の発見に所定期間の独占権を保障することにより科学の発展を促す。
(To promote the progress of science・・・by securing for limited times to
inventors the exclusive rights to their discoveries.)
2.以上の対立する要求の中で裁判所はクレームの形式(form)の問題より発明の実質(substance)の
方が重要であると述べてきた。
Winans 対 Denmead, 56US330, 1854 年
・・・Except where form is the issue of the invention, it has but little weight in the decision of
5
the issue of infringement・・・
3.この判決を踏まえて均等論は発達してきたが、グレーバタンク事件以前にも三要素テストの原型は
知られており、最高裁の 1929 年事件では以下のように述べられている。
Sanitary Refrigerator 社 対 Winters, 280US30, 42, 3USPQ40, 44, 1929 年。
...a patentee may invoke this doctrine to proceed against the producer of a
device "if it performs substantially the same function in substantially the sameway to
obtain the same result.”
この表現が 1950 年のグレーバタンク事件判決の基礎になっている。
C. 均等論侵害の基本原理の確立(グレーバータンク事件 1950年)
グレーバータンク事件は、それまでの最高裁の特許侵害に関する判例を集大成し、均等論侵害の基
本的考え方を構築した最高裁判決である。現在の均等論侵害は全てこれをもとにしている。
Graver Tank 社 対 Linde Air Products社、339 US 605, 85 USPQ 328, 1950 年
クレーム:アルカリ土類金属シリケートを大部分の成分とする電気溶接フラックス
商 品 :マグネシウム・シリケート(アルカリ土類金属シリケートの一種)
侵害品 :マンガン・シリケート(アルカリ土類金属シリケートではない)
判決:
・ 完全同一の侵害は希である。
・ 発明者をコピーイストから守れなくなる。
・ 均等論はイ号とクレームの差が非実質的の場合に適用される。
・ 実質的に同じ機能を実質的に同じ方法で実質的に同じ結果をもたらせば均等論侵害になる。
・ 均等論侵害は事実問題である。
結論:溶接フラックスにおいてマンガン・シリケートはマグネシウムシム・シリケー の均等であり、
代用物でもあるので両者は均等で、均等論侵害あり。
D.均等論侵害の拡大(クレームの発明全体で評価 1983年)
CAFC の Hughes 事件は、均等論侵害の分析において、まずクレームの構成要件の均等論を比較す
ると共に、更に「発明全体を参酌(invention as a whole)
」して均等であるか否かも分析もしなければ
ならない考え方を打ち出した。
Hughes Aircraft 社 対 米国政府、219 USPQ 473, CAFC, 1983 年
原告:Hughes Aircraft 社
被告:米国政府
対象特許:米国特許第 3,758,051 号、人工衛星姿勢自動制御
問題クレーム構成要件:
6
構成要件 e.人工衛星のスピン角度と軸角度の信号を地上に送信する手段
構成要件 g.上記信号に基づいて直ちに人工衛星の姿勢を制御するバルブ
被告製品:
・ 051 特許が発行された時代にはまだ開発されていない技術
・ 人工衛星のスピン角度と軸角度の信号を人工衛星内のコンピュータに収納(地上には信号を
送らず)
・ 必要に応じてメモリー内に信号を利用して 051 特許において地上から人工衛星の姿勢を制
御(同時制御ではない)
地裁判決:
・ 051 特許はパイオニア特許ではない(基本的先行技術あり)
。
・ 被告製品は先行技術よりも 051 特許に近く、単に 051 特許において最新型コンピュータを
利用しただけに過ぎない。
・ 構成要件には違いがあり文言侵害はないが、実質的に同じ方法で同じ結果をもたらすので均
等論侵害有り。
CAFC:
・ 地裁判決を支持。
・ 均等論侵害があるか否かを決定するためには特許クレームの構成要件が全てイ号に存在し
ているか否か、そしてもし一部の構成要件が異なっているかあるいは欠けている場合はその
構成要件の均等物がイ号に存在するかどうかを判断しなければならない。そのためには構成
要件のみを比較するだけでなく発明全体を考慮しなければならない。
以上のように構成要件の比較のみでなくクレーム全体で均等であるかどうか判断できるため均等論
侵害はかなり広く適用される可能性があった。
そしてこの事件は 1997 年のワーナー・ジェンキンソン最高裁決定
(ヒルトン・デービス CAFC事件)
の直後に本事件を CAFC へ差し戻した。
E.均等論侵害の限定(オール・エレメント・ルール 1987年)
1.ペンワルト事件: オール・エレメント・ルールの確立
CAFC は発明全体を考慮する「クレーム全体理論」を放棄し、イ号には特許クレームの全ての構成
要件ないしその均等物が存在しなけならないルールを打ち出した。
Pennwalt 社 対 Durand-wayland 社、4USPQ2d1737, CAFC, 1987 年
ペンワルト事件は、CAFC が「クレーム発明全体」に基づく均等論侵害から、クレームの構成要件
を全て必要とするオール・エレメント・ルールの均等論侵害に変更した事件である。このため均等論侵
害は「クレーム発明全体」の比較の場合より、より立証が困難になった。
・ 対象特許:米国特許第 4,106,628 号、
果実を色、重さ、又は両者の組み合わせで選別する装置
・ 問題構成要件:果実の位置の連続位置検出手段(means)
・ 被告装置:連続位置検出手段はないが、特定位置の果実の色と重さのデータを有する列指示
器(queue pointers)は有り。
7
・ 地裁 :サマリー・ジャッジメントで均等論侵害なし。
・ CAFC:地裁の均等論侵害なしの判決を支持。被告装置には連続位置検出手段と同じ構成要
件もなければ、あるいはそれと均等の構成要件ない(列指示 器は他の構成要件と総合する
と均等の働きをしていたのでクレーム全体 理論であれば均等論侵害になる可能性はあっ
たが、その理論は放棄され、オール・エレメント・ルールになったので非侵害になった)
。
2.Wilson Sporting Goods 社 対 David Geoffrey & Associates
14USPQ2d 1942, CAFC, 1990 年
・ 問題特許:ディンプルに一切交差しない大円周を 6 つ有するゴルフボール。
・ 先行技術:30 個のディンプルに 1000 分の 12 ー 15 インチ交差する 6 つの大円周を有するゴ
ルフボール。
・ イ号 :60 個のディンプルに 1000 分の 4.0 ー 8.7 インチ交差する複数の大円周を有する
ゴルフボール。
・ CAFC:イ号はオール・エレメントルールの三要素テスト上は問題特許の均等物であるが、
イ号を文言上含む仮想クレームは先行技術により無効であるので侵害は文言上も
均等論もない。
このように均等論侵害を考察する時には、まずオール・エレメント・ルールで分析しなければなら
ないが、同時にクレームを広く解釈して(それでも insubstantial の範囲内でなければならないが)公
知技術まで入ってはならないというのが CAFC のポジションである。
3.Smithfold 社 対 Kinhead Industries 社, 18 USPQ2d 1842, CAFC, 1991 年
・ 問題特許:Reissue 特許第 33,553 号ラッチを有する両開きドア
・ イ号 :タイプ I は Reissue 前に販売、Reissue 発見後はタイプ II に設計変更
(ラッチに変えてウェッヂを利用)
・ CAFC :タイプ I の故意侵害棄却差し戻し。タイプ II の均等論侵害棄却差し戻し。
「機能」と「結果」は同じであったが「方法(way)」が異なるので均等論侵害は
なし。
この事件では「方法」の重要性が強調したケースとして注目されている。
4.Laitram 社 対 Rexnord 社, 19 USPQ2d 1367, CAFC, 1991 年
・ 問題特許:USP 4,501,949、コンベアのリンク結合部材にリブ突起を有するもの
・ イ号 :リンク結合部材はあるがリブ突起なし。
・ 地裁 :クレームにはリブ突起がないので文言侵害有り。
・ CAFC :クレーム解釈上、当然リブ突起あるべし。その場合文言侵害も均等論侵害もなし。
5.Roton Barrier 社 対 Stanley Works 社, 37USPQ2d1816 CAFC, 1996 年 3 月 4 日。
・ 問題特許:USP 4,976,008、ピンレス・ヒンジドア
・ イ号 :ピンレス・ヒンジドアで形状を変えたもの。新たな効果はある。
・ 地裁判決:均等論侵害有り。
・ CAFC :地裁判決棄却
均等論侵害は三要素のみの検討では不可。
設計変更努力があれば非侵害の推察(inference)ができる。
8
イ号の設計変更は無意味のものではなく意味がある(for a reason)ので両者の違いは「実質的
(substantial)
」であり、均等論侵害はない。
6.Engel Industries 社 対 Lockformer 社, 40USPQ2d1161
CAFC, 1996 年 9 月 25 日。
・ 問題特許:USP 4,466,641
・ 先行技術:出願後開発された製品は明細書の開示と異なるもの。
・ 地裁判決:出願後の製品はクレーム解釈の証拠にはならないので、クレームは広く解釈でき
均等論侵害有り。
・ CAFC :地裁判決棄却。
発明に作動の本質に係るものであるので参考にできる。その場合両者の作動は異
なるので均等論侵害なし。
特許出願後に発見された発明の特徴でも均等論侵害の三要素テストに利用できる。
7.Ekchain 対 Home Depot 社, 41USPQ2d 1364, CAFC, 1997 年 1 月 10 日。
・ 問題特許:USP 4,624,140
・ 先行技術:審査着手前に IDS として提出。
・ 地裁判決:IDS でもエストッペルになると判断。
・ CAFC :地裁の判断支持。
IDS で発明と先行技術の相違点を述べた場合はエストッペルになり得る。
F.均等論侵害とエストッペル(ワーナー・ジェンキンソン 1997年及びフェスト 2000年)
1.ワーナー・ジェキンソン事件: エストッペル推定の原則
Warner Jenkinson 社 (請願者) 対 Hilton Davis Chemical 社
US Supreme Court, USPQ2d, 1997 年 3 月 3 日
ワーナー・ジェキンソン事件は均等論とエストッペルの関係を示した事件で、補正がクレームを減
縮し、補正の理由が開示されていない場合は、その反証がない限り均等論侵害は一切認められないと最
高裁が判示した。
・ 最高裁決定内容
(1) 均等論侵害は今後も必要
(a)グレーバータンク事件では考慮事項として以下を述べている。
・ 特許内容
・ 先行技術
・ その他の事項として、その特許で何故その成分が用いられたか、その量、その機能、当
業者が互換可能ということを知っていたか。
(b)均等論侵害は、a.米国特許法第 112 条の記載要件、b.第 251 条の reissue、c.米国特許
庁の重要性に違反しない。
(2) 均等論侵害の考え方
(a)均等論侵害の決定はエレメント・バイ・エレメントの客観的分析
(objective inquiry on an element-by-element basis)にて決定する。
クレーム発明全体(as a whole)でなく、1 つ 1 つの機能要件に均等論を適用する。
9
これにより特許範囲の定義とその範囲の公共への通知という機能が満足する。
(b)プロセキューション・ヒストリー・エストッペルの考え方は有効である。
そして補正の理由が示されていない時は特許性のために補正がなされたと推定され(つ
まりエストッペルがあったと推定され)
、特許権者に反論の機会を与える。
本事件においては pH9.0 以上についてはエストッペルがあろう。しかし pH6 以下につ
いては何故そのように限定補正したのか特許権者の説明がないので最高裁では判断でき
ないので、差し戻して審議し直させる。
(c)均等論の範囲は明細書の開示範囲内に限定されない。
均等論の判断時、そして異なる構成要件に公知の互換可能性 (known interchangeability)があったか否かの判断時点は侵害時である。
特許出願時や特許取得時では
ない。
(d)均等論侵害が裁判官問題かあるいは陪審員問題であるかの問題は当法廷に提 示されておらず判断する必要はない。
(3) 結論
CAFC は均等論侵害に必要な上記事項を考慮せず、また pH6 エストッペルがあったか
どうか証拠が不十分なので事件を CAFC に差し戻す。
2.フェスト事件: エストッペルは均等論侵害を完全禁止
Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., et al.
56 USPQ2d 1865, Fed. Cir., November 29, 2000
CAFC はオンバンクで均等論侵害とエストッペルの関係について以下のように判示した。
(1) 特許法の条文上要求される要件(102 条、103、112 条等)に関する補正は、先行技術に対するも
のであろうとなかろうと全てエストッペルの対象になる(記載不備の補正でもエストッペルになること
があり得る)
。
(2) 拒絶理由を伴わない自発補正でも特許法の条文上要求される要件を充足するための補正であれ
ば特許性のための補正であり、やはりエストッペルの対象になる。
(3) エストッペルのある補正であれば、どのような補正であろうと、補正された事項については、
均等論侵害は一切あり得ない(これはリキャプチャーは絶対にあり得ないことを示しており、今までと
は全く異なる新しい判示である)
。
(4) もし補正の理由が示されず、特許性のための補正であるという推定が働く場合は、均等論侵害
は一切ない。
(この問題は、前述した 1999 年 2 月 29 日の Sextant 事件ですでに答えは示されていた点
である)
。
以上の CAFC のオンバンク・デシジョンに対して最高裁は 2001 年 6 月に上告を受理し、レビュー
することになった。
G.均等論侵害とミーンズ・プラス・ファンクション
クレームがミーンズ・プラス・ファンクションの場合、その文言上の範囲は明細書に記載された実
施例とその均等物(equivalents)であることは前述した通りである。この均等物は文言範囲のものであり、
クレームと同じ機能を有し(実質的に同じでは不十分で、完全に同一(identical)の機能でなければなら
10
ない)
、且つ同時に構造が均等でなければならない。
もし構造が均等でない場合は文言侵害にはならないので、次に均等論侵害を検討する必要がある。
この検討のためには、ワーナー・ジェンキンソン事件やグレバータンク事件の諸事項が検討される。
そして前述した Chiuminatta 事件では、もしイ号の対応構造が発明日前に公知のものであって且
つその相違点が非実質的であって第 112 条第 6 パラグラフの均等物でなければ、同時に均等論侵害もな
いとした。同デシジョンは更にもしイ号の対応構造が発明後に開発された技術(after-developed
technology)であれば、
たとえ相違点が非実質的でなくて第 112 条第 6 パラグラフの均等物でない場合で
も、均等論上含まれるか否かを検討しなければならないと判示した。
11
H.均等論侵害の統計とCAFCジャッジ分析
1.均等論侵害の統計
均等論侵害判決を統計的に分析すると以下のようになる。
年代
結果
1982 年∼1990 年 1991 年∼1995 年
1982 年∼1995 年
合計
均等論侵害有り
均等論侵害なし
合計
21(42%)
29(58%)
50
31(30%)
71(70%)
102
10(19%)
42(81%)
52
出所:Patent Resources Group
これを見て分かるように均等論侵害有無の判決はオール・エレメント・ルールを打ち出したペンワル
ト事件(1987 年)の影響が顕著に現れ始めた 1990 年以前とそれ以降では非常に異なる。
1982 年(CAFC 創設)から 1990 年までの事件で均等論侵害を認めたケースは 50 件中で 21 件で
約 42%である。しかし、1991 年から 1995 年までは 52 件中でわずか 10 件の 19%にしかすぎない。
オール・エレメント・ルールのペンワルト事件がいかに大きな影響を与えているかを物語るものであ
ろう。
そして、1997 年のワーナー・ジェンキンソン事件(CAFC ではヒルトン・デービス事件)で最高裁
はクレームとイ号の差が非実質的である時に適用され、公知の互換性が強調され、さらに補正の理由が
示されていない時はエストッペルの推定がなされるとし、これを受けてフェスト事件でプロセキューシ
ョンに補正の理由がなければならないとしたので均等論侵害は益々認められにくくなっている。
2.CAFC ジャッジ分析
a.概略
米国特許訴訟のほとんどは CAFC によって最終決定され、最高裁はよほど重要な事件でない限りま
ず受理しない。
従って各ジャッジが CAFC のオンバンク・デシジョンをどのように結論したかは、特許に対する考
え方を示す材料になる。添付の表は主要オンバンク・デシジョンの多数派、少数を示したものである。
b.プロ・パテント・ジャッジ
ニューマン、ミッシェル、レーダーのジャッジはヒルトン・デービス事件の均等論侵害では多数派
であり且つフェスト事件では反対意見も出しているので、プロ特許に近いといえよう。
ニューマンはその前のペンワルト及びマークマン事件でも唯一の反対者であり、3 人の中でもプロ
特許の指向は強いであろう。
リンは新しいジャッジであるが、フェスト事件について同様に批判しているのでその旨傾向がある
のかもしれない。
c.中道派
メイヤー、クレベンジャー、シャールのジャッジはヒルトン・デービス事件では多数派であるもの
の、フェスト事件でも多数派であり、ケース・バイ・ケースの中道派といえよう。
d.特許安定化ジャッジ
12
プレーガー、ローリーのジャッジは、ヒルトン・デービス事件で反対し、フェスト事件でも多数派
であり、アンチ特許であるか否かは不明だが、少なくとも特許侵害を厳しく解釈するジャッジといえよ
う。
ブライソン、ガハルサ、ダイクは新しいジャッジで、フェスト事件のみに係わっているので判断は
難しいが、少なくともフェスト事件の多数派であるので、一応特許に厳しいと考えられる。
主要 CAFC
デシジョン
判事名
プレーガー
ローリー
ニューマン
ミッシェル
レーダー
リン
メイヤー
クレベンジャー
シャール
ブライソン
ガハルサ
ダイク
ヒルトン・デービス
(均等論侵害ありとし、
均等論侵害を広く解釈)
1995 年
X
X ⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
フェスト
(エストッペルがあった時は
均等論侵害なしとし
狭く解釈)
2000 年
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
X
X
X
X
注: ⃝・・・・・多数派ジャッジ(デシジョンを支持、賛同)
X・・・・・反対派ジャッジ(デシジョンに反対)
⃝X ・・一部賛同一部反対
フェストは特許の安定化を指向する事件で、ヒルトン・デービスは均等論を認めたプロ特許的事件
である(後に最高裁で差し戻された)
。
I.今後の均等論侵害の問題点
1.クレーム解釈の幅
最高裁のマークマン事件(後述)ではクレーム解釈は裁判官であるとしたが、このクレーム解釈は
クレームの文言上の解釈である。しかし、クレームの均等論上の幅の解釈についてはマークマンの最高
裁の決定では議論がなされていない。ヒルトン・デービス事件の最高裁のヒアリングではクレーム解釈
が裁判官である以上、均等論上のクレーム解釈も裁判官になろうと被告のワーナー・ジェンキンス社及
び政府代表の司法省は述べていた。
ワーナー・ジェンキンソン最高裁決定では均等論上のクレーム解釈が
そもそも存在するのか、もし存在すれば裁判官がどのように行うのかについては全く議論されてなかっ
た。
最高裁に上告されたフェスト事件でもそれが議論される可能性はほとんどないであろう。
2.均等論侵害は衡平法(equity)上の措置か否か
ヒルトン・デービスの CAFC 決定では均等論侵害は衡平法的侵害であるものの、衡平法そのものの
13
侵害ではなく、従って全て陪審員が決定する問題であると判断した。ワーナー・ジェンキンソン最高裁決
定はこの問題を上告理由に開示されていないとして決断することを拒否したが事実上 CAFC 決定を支
持しているともいえる。
もし衡平法の問題であれば判事が裁量で決定できるだけでなく、
損害賠償も裁量で決定できるので、
より常識的な判断が期待できるが、その可能性も小さいといえよう。
3.クレームの構成要件の解釈
最高裁はワーナー・ジェキンソン事件で均等論侵害についてオール・エレメント・ルールを適用する
ことを確認した。
しかし事件では「約 pH6.0∼9.0」という構成要件を pH6.0 と pH9.0 の 2 つに分け、pH9.0 につい
てはエストッペルを認めたものの pH6.0 については判断する証拠がないとして差し戻した。このように
pH の範囲という構成要件をそもそも分けることが可能なのかという疑問がある。しかし最高裁も
CAFC も分けて分析したことから今後も可能な限り構成要件を詳細に分断してオール・エレメント・ル
ールを適用していくものと考えられるが、どこまで行って良いかについては問題を残そう。
4.均等論侵害の損害賠償
均等論侵害はイ号がクレームと異なり文言侵害がない時に考慮される。しかし一旦均等論侵害があ
るとなると損害賠償の額は文言侵害の場合と全く同一である。後者の場合故意の侵害の可能性があり三
倍賠償の検討の対象になるものの、そもそも文言侵害も均等論侵害も基本的損害賠償の額が同一という
のは疑問が残る。この問題はこれまでどの判決、決定でも議論されていない。
5.パーシャル・リキャプチャーの禁止
ヒューズエアクラフト事件等では、先行技術拒絶のためにクレームを減縮して特許を取得したにも
かかわらず、
後に均等論で先行技術の内容を再分析してクレームを実質的に拡大することを認めていた。
しかしこれは実質的に裁判所における特許の再審査になる恐れがある。そしてその後の Litton v.
Honeywell 事件で CAFC はたとえエストッペルがあっても均等論侵害は検討しなければならないと判
示し、リキャプチャーはあり得ることになった。
しかるにフェスト事件では、補正の理由がプロセキューションに開示されていない場合は完全エス
トッペルになり、パーシャル・リキャプチャーは一切なくなることになった。この点は最高裁の上告で
問題になろう。
6.
「特許性のための補正である」との推定
ワーナー・ジェキンソン事件では、補正の理由が開示されていない時は、
「特許性のための補正であ
る」との推定がなされ、この推定の反証がない限り均等論は完全禁止になるとした。これを受けて CAFC
はオンバンクのフェスト事件でその反証の証拠はプロセキューション・ヒストリーになければならない
ので反証可能な推定が事実上反証不可能になってきている。
この点を最高裁が上告でどのように判断するか注目される。
14
第III章 近年の重要判例
A.1999年の重要判例
1. ロバートソン事件
In re Robertson 49 USPQ2d 1949 (Fed. Cir. 1999)
先行技術に開示されているとするためには、先行技術に必然的に内在されていることを示さなけれ
ばならない。
2. アトラスパウダー事件
Atlas Powder Co. and Hanex Products Inc. v. Ireco Inc. and ICI Explosive USA Inc.
51 USPQ2d 1943 (Fed. Cir. 1999)
先行技術に明記がなくても、それに「固有の」特徴であれば同一の先行技術に成り得る。
3. ナショナルリカバリー事件
National Recovery Technologies v. Magnetic Separation Systems 49 USPQ2d 1671 (Fed. Cir.
1999)
クレームの記載は広いが、明細書には発明の代替案のみを実施可能なように記載しているだけでは、
実施可能記載要件を満たしていない。
4. アトメル事件
Atmel Corp. v. Infomation Storage Devices Inc., 53 USPQ2d 1225 (Fed.Cir. 1999)
明細書に雑誌のタイトルを記載することによって、ミーンズ・プラス・ファンクションの実施例と
成り得る。
5. トムソン事件
Thomson S.A. v. Quixote Corp., 49 USPQ2d 1530 (Fed. Cir. 1999)
先発明の立証において、発明者が当事者でなく、利害関係がない場合は補強証拠は必ずしも必要で
はない。
6. イーストマンコダック事件
Rexam Indus. Corp. v Eastman Kodak Co., 51 USPQ 1457 (Fed. Cir. 1999)
複数のインターフェアランスがあった場合、一つのインターフェアランスに敗れたことは、必ずし
も他のインターフェアランスで当事者能力を失うことにはならない。
7. ホッカーソン事件
Hockerson-Halberstadt, Inc. v. Converse, Inc., 51 USPQ2d 1518 (Fed. Cir. 1999)
再審査の補正でクレームの一面が広くなっても、同時に他の面で狭くなっていれば、直ちに無効と
はいえない。
8. コートライト事件
In re Cortright 49 USPQ2d 1464 (Fed. Cir. 1999)
CAFC 判事自ら先行技術調査を行い、これらの外部証拠に基づいて米国特許審判部とは異なるクレ
ーム解釈を判示
9. ジョンソンワールドワイド事件
Johnson Worldwide Associates Inc. v Zebco Corp., 50 USPQ2d 1607 (Fed. Cir. 1999)
クレーム用語は特に明細書に明確な定義がない限り、通常の意味で解釈される。
15
10. スミス国際医療システム事件
Smiths Int'l Medical Systems Inc. v Vital Signs Inc., 50 USPQ2d 1641 (Fed. Cir. 1999)
クレーム解釈がクレーム自体から明確な場合は、
明細書の記載をクレームに取り入れてはならない。
11. ライン事件
Rhine v. Casio Inc., 51 USPQ2d 1377 (Fed. Cir. 1999)
クレームは可能な限り有効であるように解釈されるが、有効となるように書き換えることはできな
い。
12. プロセスコントロール事件
Process Control Corp. v. Hydreclaim Corp., 52 USPQ2d 1029 (Fed. Cir. 1999)
クレーム文言上その解釈が明らかな場合は、たとえその解釈が明細書と矛盾し、発明が意味をなさ
なくてもその解釈に従う。
13. ワングラボラトリー事件
Wang Lavoratories, Inc. v. America Online, 53 USPQ2d 1161 (Fed. Cir. 1999)
クレーム用語が本質的には広くても、明細書及びプロセキューションから狭く解釈されることはあ
る。
14. サンティンジャー事件
SunTinger, Inc. v Scientific Research Funding Group, 51 USPQ2d 1811 (Fed. Cir. 1999)
侵害品にクレームにない他の構成要件が加わっていても、発明の本質的特徴を変えない場合には特
許侵害となる。
15. セクスタントアビオニーグ事件
Sextant Avionigue, S.A. v. Analog Devices, Inc., 49 USPQ2d 1865 (Fed. Cir. 1999)
通常のエストッペルがあっても均等論侵害の余地はあり得るが、反証が全くない完全エストッペル
の場合には、均等論侵害は一切あり得ない。
16. アルサイト事件
Al-Site Corp. v VSI Int'l Inc., 50 USPQ2d 1161(Fed. Cir. 1999)
ミーンズ・プラス・ファンクションで文言侵害となる均等物は特許発行時で判断し、均等論侵害は
侵害時で判断する。
17. ゼリンスキ事件
Zekinski v. Brunswick Corp., 51 USPQ2d 1590 (Fed. Cir. 1999)
専門家証人の均等論侵害はあるという証言は、結論のみで裏付けがない場合は、証拠価値は少ない。
18. エルカイマニファクチャリング事件
Elkay Manufacturing Co. v Ebco Manufacturing Co., 52 USPQ2d 1109 (Fed. Cir. 1999)
クレームの記載は広くても、プロセキューション・ヒストリー・エストッペルにより文言侵害も均
等論侵害もない。
19. エルク事件
Elk Corp. of Dallas v. GAF Building Materials Corp., 49 USPQ2d 1853 (Fed. Cir. 1999)
出願人が開示しなかった先行技術の重要性を知っていた証拠があれば、詐欺的意図は状況証拠から
認定される。
16
20. ゼニスエレクトロニクス事件
Zenith Electronics Corp. v. Exec Inc., 51 USPQ2d 1337 (Fed. Cir. 1999)
悪意をもって特許侵害があったことを公表した場合は、不正競争防止法の対象になる。
21. セイコーエプソン事件
Seiko Epson et al. v. Nu-C0te International Inc. et al.
52 USPQ2d 1011 (Fed. Cir. 1999)
フロードを成立させるためには特許庁をミスリードする意図の立証が必要。セイコーエプソン社
CAFC で逆転勝訴。
22. オハイオセルラープロダクト事件
Ohio Cellular Products Corp. v. Nelson, 50 USPQ2d 1481 (Fed. Cir. 1999)
企業に対して特許の不正行為の判決があった場合、事情によっては社長が個人的に賠償義務を負わ
されることがある。
23. グレインプロセッシング事件
Grain Processing Corp. v. American Maize-Products Co.
51 USPQ2d 1556 (Fed. Cir. 1999)
損害賠償の計算時に重要となる非侵害品の存在は、それが実際の市場に存在している必要はない。
24. グラスイクイップメント事件
Glass Equipment Development Inc. v. Besten Inc., 50 USPQ2d 1300 (Fed. Cir. 1999)
特許方法に係わる製品を購入しても、特許方法以外に使用方法があれば、暗黙のライセンスは得ら
れない。
17
B.2000年の重要判例
1. Automated Business Companies Inc. v. NEC America Inc.,
Fed. Cir., No. 99-1316, 2000 年 1 月 28 日
弁護士費用は訴訟当事者企業自身が支払った弁護士費用のみにとどまらず、
訴訟外の親企業が費やし
た弁護士費用も含まれ得る
2. Semiconductor Energy Laboratory Co. Ltd v. Samsung Electronics Co. Ltd
Fed. Cir., Nos.98-1377, 99-1103, 2000 年 3 月 2 日判決
日本語の先行技術の重要部分を翻訳しない IDS を提出し、且つ重要部分を隠そうというパターンが
ある場合は不公正行為となる
3. Zodiac Pool Care, Inc. v. Hoffinger Industries Inc.
Fed. Cir., Nos.99-1224, 1233, 2000 年 3 月 24 日
評決が常識的陪審員の結論と異なると考えられる場合は評決を棄却して反対の判決を下し得る
4. Clearstream Waste Water Systems Inc. v. Hydro Action Inc.
Fed. Cir., No. 99-1299, 2000 年 3 月 27 日
ミーンズ・プラス・ファンクションのクレームは明細書で否定された公知技術を含むことがある
5. Kemco Sales Inc. v. Control Papers Co., CAFC, No. 99-1349, 2000 年 4 月 7 日
ミーンズ・プラス・ファンクションの機能は「同一」でなければならないが、均等論の機能は「同一」
である必要はなく、
「実質的に同一」であればよい
6. Nelson v. Adams USA Inc., US. No. 99-502, 2000 年 4 月 25 日
訴訟が不当なものとして社長個人に責任を負わせるためには正当手続きを経なければならない
7. Advanced Display Systems Inc. v. Kent State University
Fed. Cir. Nos 99-1012, 1013, 2000 年 5 月 18 日
弁護士が他の訴訟での証拠を隠した場合は裁判のやり直しになり、また制裁の対象にもなる
8. Vehicular Technologies Corp. v. Titan Wheel International Inc.
Fed. Cir. No.99-1042, 2000 年 5 月 22 日
特許発明の重要な機能を有していないイ号に均等論侵害はない
9. Elekta Instrument S.A. v. O.U.R. Scientific International Inc.
Fed. Cir., 99-1556, 2000 年 6 月 1 日
クレームの用語の意味が明らかな場合は、実施例と異なっても用語通りに解釈する
10. In re Baker Hughes Inc., Fed. Cir. No.99-1463 2000 年 6 月 14 日
再審査査を請求をし特許無効をした者が後に特許権者になった場合でも特許有効を主張してよい
11. EFCO Corp v. Symons Corp., 8th Cir. No. 99-2628, 2000 年 7 月 18 日
陪審員評決の賠償金の計算に重複がある時は減額することができる
12. Ishida Co. v. Taylor and TNA Australia PTY Ltd., Fed. Cir. No. 99-1537, 2000 年 7 月 20 日
2 つの実施例の構造が非常に異なる場合は 1 つのクレーム解釈を行う必要はない
13. Fiskars Zuc V. Hunt Mannufacturing Co., Fed. Cir. Nos 98-1560, 1566, 2000 年 7 月 24 日
18
特定のクレームのみにエストッペルがあることが明らかな場合には他のクレームにはそのエストッ
ペルは適用されない
14. Genentech Inc. v. Chiron Corp., Fed,Cir. No.99-1506, 2000 年 8 月 4 日
企業のコンサルタントが発明の有用性を発見したとしても、発明者がそれを認識していない限り発
明を完成したことにならない
15. Singh. v. Brake, Fed. Cir., No.99−1259, 2000 年 8 月 4 日
発明を立証する研究ノートは、たとえ他の研究者のサインが数年後に行われても証拠価値はあり得
る
16. CAE Screan Plates Inc. v. Heinrich Fiedler GMBH & Co. KG and Fiedler Corporation,
Fed. Cir No. 99-1278, 2000 年 8 月 24 日
クレームの意味が明細書、プロセキューションを含む内部証拠から明らかな場合は、外部証拠を用
いることはできず、均等論侵害もない
17. Secura Comm Consulting Inc. v. Seauracom Inc., 3rd. Cir. No.99-5326
故意の侵害がなくても弁護士費用支払いを認めることはある
18. Festo Corporation v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., Ltd.
Fed. Cir. No. 95-1066, 2000 年 11 月 29 日
特許性確保のための補正には全てエストッペルが働き、しかもその場合は均等論侵害は一切認めら
れない CAFC、オン・バンクで歴史的デシジョンを出す
19
C.2001年の重要判例と要約
1. Pioneer Magnetics Inc. v. Micro Linear Corp., Fed. Cir. No. 00-1012, 2001 年 1 月 23 日
クレームの補正が代理人の不用意な誤りによるものでも、特許権者はその補正に拘束される
2. Purdue Pharma L.P. v. Boehringer Ingelheim GMBH, Fed. Cir. No.00-1398, 2001 年 2 月 1 日
クレーム用語が不明確な場合には発明の基本的目的及び重要性から判断する
3. Litton Systems Inc. v. Honeywell Inc., Fed. Cir. No. 00-144, 2001 年 2 月 5 日
1300 億円のリットン事件、フェスト判決により均等論侵害なしと逆転判決
4. DeMarini Sports Inc. v. Worth Inc., CAFC, Fed. Cir. No.99-1561, 2001 年 2 月 13 日
クレーム用語を通常に意味の解釈する場合でも、明細書やプロセキューションを参酌しなければな
らない
5. Biovail Corp. International v. Andrx Pharmaceuticals Inc.
CAFC, Fed. Cir. No.00-1260, 2001 年 2 月 13 日
特許性のためにクレームを狭く補正した場合に生じる完全エストッペルは、その関連出願にも自動
的に適用される
6. Amazon.com Inc. v. Barnesandnoble.com Inc., Fed. Cir., No. 01-1109, 2001 年 2 月 14 日
アマゾン社のワンクリック特許の仮処分による差し止めは棄却され、差し戻しになる
7. Mycogen Plant Science Inc. v. Mosanto Co., Fed.Cir. No.00-1001, 2001 年 3 月 13 日
先発明を立証する研究ノートには必ずしも特許クレームの用語そのものを用いて発明を記載して
いる必要はない
8. Shockley v. Arcan Inc., Fed. Cir. No. 99-1580, 2001 年 5 月 9 日
中用権は、特許再発行時に既に製品が生産されていなければ発生しない
9. Biotec Biologische Naturveroackangen GmbH & Co. v. Biocorp, Inc. & Novamont S.P.A.
Fed. Cir. No.99-1578, 2001 年 5 月 14 日
271 条(g)の例外の「実質的変更」があったか否かは陪審員が決定すべき事実問題である
10. Tegal Corp v. Tokyo Electron Co. Ltd., Fed. Cir. No.00-1239, 2001 年 5 月 14 日
関連会社の特許侵害は、その会社をコントロールしていない限り、特許侵害を止めさせる積極的義
務はない
11. Semitool, Inc. v. Novellus Systems, Inc., Fed. Cir. No.00-1375
クレームの限定に関する親出願での主張は、子出願の同じ限定の解釈を拘束する
12. Mycogen Plant Science Inc. v. Monsanto Co., Fed. Cir. No. 00-1127, 2001 年 5 月 30 日
米国プロセス特許を外国で用いて特許侵害になるためには、外国でそのプロセスを用いて生産した
時に米国プロセス特許が既に成立していなければならない
13. Gart v. Logitech Inc., USQPQ2d 1290, 2001 年 6 月 26 日
特許権者が「十分な特定」をもって特許侵害の通知をしたか否かは、通知の内容が問題になり、侵
害者がどのように解釈したかは関係ない
20
14. Tegal Corp v. Tokyo Electron America, Inc. CAFC No. 00-1009, 1209, 1307, 2001 年 7 月 16 日
損害賠償を伴わない差し止めのみを要求する特許侵害訴訟では陪審員公判を権利として要求でき
ない
15. In re Zurko, Fed. Cir. No.96-1258, 2001 年 8 月 2 日
クレームの発明が先行技術から自明と結論する場合で、争点がその核心的問題の場合には、結論を
支持する何らかの証拠がなければならない
16. Jazz Photo Corp. et al. v. Fuji Photo Film Co., Ltd.
Fed. Cir. No. 99-1431, 1504,1595,1596, 1601, 2001 年 8 月 21 日
使い捨てフィルム・パッケージのカメラは 1 回以上の使用の寿命があり、回収、修復して販売する
ことは特許侵害にならない
21
クレームの補正が代理人の不用意な誤りに
よるものでも、特許権者はその補正に拘束される
-------------------------------------------------------------------
プロセキューション中に行ったクレームの補正が代理人の不用意な誤り(inadvertent error)に基づくも
のであり、その特許の訴訟でその旨を陳述した代理人の宣誓書が提出されていても、補正の理由がプロセキュ
ーション中に示されていなければ、やはりフェスト事件の完全エストッペルになり、均等論侵害は一切ないとC
AFCが判示した。
Pioneer Magnetics Inc. v. Micro Linear Corp. Fed. Cir.
No. 00-1012, 2001年1月23日
事件の経緯は以下の通りである。
Pioneer社は変動する電圧を受け入れ、一定の電圧を出し、安定した電流を提供するサーキットを有する電
力供給装置に関する米国特許第4,677,366号(以下366特許)を有していた。
366特許の出願において、審査官は出願当初のクレーム1,2,8,9を先行技術で拒絶したところ、Pioneer社は
従属クレーム2-6を削除し、それらの従属クレームの限定をクレーム1に導入し、「サーキット手段」は「パル
ス幅調整装置を共有するサーキット手段」に補正し、また「マルチプライヤー」は「スイッチ・アナログ・マ
ルチプライヤー・サーキット手段」と補正した。
しかしこの補正においてPioneer社は何故「スイッチ・アナログ・マルチプライヤー・サーキット」と補正
したかについての理由は一切説明しなかった。そして後にこの補正は代理人による不用意な誤りであることが
判明した。しかし特許再発行等によって補正することはしなかった。
Pioneer社は、1995年12月にMicro社のサーキットは、366特許を特許侵害しているとして地裁に提訴した。
地裁では特にクレーム1の「スイッチ・アナログ・マルチプライヤー・サーキット」の均等論侵害があるかが問
題になった。
地裁判事は「スイッチ・アナログ・マルチプライヤー・サーキット」の補正の理由はプロセキューション
中に開示されていなく、特許性のためではないという説明がないので完全エストッペルになり、均等論侵害は
ないとサマリー・ジャッジメントで判決した。
22
この地裁の判決を不服としてPioneer社はCAFCへ控訴したのが本事件である。
CAFCは地裁のサマリー・ジャッジメント判決を以下の理由でそのまま維持した。
クレームの補正がプロセキューション・ヒストリー・エストッペルになるか否かを判断するためには、ま
ず均等論の対象になっているのはクレームのどの構成要件であるかを特定し、次に補正がクレーム範囲を縮減
したかどうかを判別しなければならない。
まず最初の点について、
Pioneerが均等論侵害を主張しているクレームの構成要件は
「スイッチ・アナログ・
マルチプライヤー・サーキット」である。この構成要件は元々は「マルチプライヤー」であったもので、これ
に「スイッチ・アナログ」の限定を付加して補正したので、その補正はクレームを縮減したことは明らかであ
る。
そしてその補正が特許性のためであるか否かの立証の責任は特許権者にある。Warner Jenkinson Co. V.
Hilton Davis Chem. Co. 41 USPQ 2d 1865 (Fed. Cir. 1997)。
たとえ補正の理由が特許性のためでないという理由がプロセキューションの記録に存在したとしても、裁
判所はエストッペルがあるか否かをなお決定しなければならない(注:特許性のためではなくても、他の何ら
かの理由でエストッペルになることはあり得る)。補正の理由が特許性のためであるならば、まずエストッペ
ルになり、その構成要件については均等論は完全に適用できない。しかしもしその理由がない場合は、裁判所
は特許性のためであったという実質的な理由があったと推定できる。
これについてPioneer社は、この補正を行ったことは代理人の特許弁護士が発明を誤解したためで、不用意
の誤り(inadvertent mistake)であったと説明し、それを示すためにその特許弁護士の宣誓書を提出している。
しかし、補正の理由を決定するのは公共の資料のみに基づかなければならず、特許弁護士の宣誓書はその
資料にはならない。
プロセキューションでの証拠は、「スイッチ」に関する補正が不用意な誤りであったか否かを示すものは
ない。
Pioneer社は、補正したクレーム1は従属クレーム6を独立のクレームに書き替えただけのものであると主
張しているが、その可能性はあるものの同時に、クレーム1をあえて補正したが、意見書で補正の理由を特に
述べなかっただけであるという可能性もある。
また万が一代理人の不用意な誤りという理由を受け入れるとしても、それはプロセキューション・ヒスト
リー・エストッペルを覆すに十分な理由ではない。もし競争企業が特許クレームに誤った修正があったと推測
23
しなければならないとすると、クレームの公共への通知という役割を損なうものである。
特許権者のPioneer社は、クレームの誤りを訂正できる機会は十分にあったはずである。これは審査中にも
できるし、登録後には特許再発行手続きによってもできる。
またPioneer社はこの補正は自発的な補正であり、拒絶を克服するものではなかったので特許性に係わるも
のではないと主張しているが、フェスト事件は補正の性質に係わらずプロセキューション・ヒストリー・エス
トッペルになり得ることを明確に判示している。クレームを縮減した自発補正は他の補正と同様に扱われ、プ
ロセキューション・ヒストリー・エストッペルを構成し得る。
結局、「スイッチ・アナログ・マルチプライヤー・サーキット」に係わる補正は特許性のためではなかっ
たという立証はない。
プロセキューションを分析すると、審査官はクレーム1から5及び8、9を先行技術に基づいて拒絶した。
この先行技術は、非スイッチ・マルチプライヤーを有する電力供給装置を開示している。Pioneer社はその結果
クレーム1をスイッチ・アナログ・マルチプライヤーを含むように補正し、それによって補正クレーム1は先
行技術と区別されることになった。つまり補正は先行技術を区別するために行われたものである。
これについてPioneer社は先行技術と区別するための補正は「パルス幅モジュレーター」
であり
「スイッチ・
アナログ・マルチプライヤー・サーキット」に関する補正ではなかったと主張している。これについて我々は
クレームのどの構成要件が重要であるか推測する必要はない。
クレーム1はいくつかの構成要件の組み合わせの特許であり、その構成要件の一つは「スイッチ・アナロ
グ・マルチプライヤー・サーキット」である。
そしてPioneer社は、プロセキューションで「補正クレーム1の構成要件の特別な組み合わせ(specific c
ombination)は先行技術に開示されていない」と主張し、組み合わせの重要性を強調している。また更に「補正
クレーム1は、この発明の全体的組み合わせ(overall combination)のための構成要件ないし要素を精確且つ
詳細に示している」とも主張している。
プロセキューション・ヒストリーを分析しても「パルス幅モジュレータ」の構成要件のみで先行技術を回
避したか否かは必ずしも明らかでない。結局「スイッチ・アナログ・マルチプライヤー・サーキット」に関す
る補正は審査官の拒絶に対応するもであり、先行技術を回避するために行われたものである。
よって地裁のサマリージャッジメント判決は正しいのでこれを維持する。
24
本事件では、補正がたとえ代理人の不用意な誤りであったとしても、補正は補正であり、且つ補正の理由
はプロセキューション中に示されていなければならないというフェスト事件の判示が厳格に適用されることを
明らかにした。フェスト事件のこの厳格ルールは、米国特許業界で批判の声が高まっており、フェスト社の上
告を最高裁が果たして受理するか否か注目される。
25
クレーム用語が不明確な場合には発明の
基本的目的及び重要性から判断する
------------------------------------------------------------------ クレームの限定がクレームの文言からは明らかでない場合は、明細書やプロセキューション・ヒストリー
を参照することは広く知られている。そしてCAFCはこの事件で特に発明の基本的目的及び重要性から判断する
と判示した。
Purdue Pharma L.P. v.Boehringer Ingelheim GMBH,
Fed. Cir. No.00-1398, 2001年2月1日
事件の経緯は次の通りである。
Purdue社は鎮痛剤に関する米国特許第5,266,331号
(331特許)
及びそれに類似する特許である米国特許第5,
549,912号(912特許)、同第5,508,042号(042特許)、同第5,656,295号(295特許)を有していた。912特許の
明細書は331特許の明細書に新規事項を追加したもので、それ以外は同一の記載であったが、331特許出願中に
それとは別個の独立した新特許出願として出願された。審査の過程で米国特許庁の審査官は、912特許出願のク
レームは331特許出願クレームと同一であるという理由で拒絶したところ、Purdue社はターミナル・ディスクレ
ーマーを行った。そして審査官は912特許出願を331特許出願の一部継続出願とさせることをアドバイスしたの
で、Purdue社はそれに従って、331特許出願への優先権を主張して、やがて912特許が成立した。
912特許のクレームは、口径投与するためのオチシコドン鎮痛剤に関するもので、投与に関しては単に「投
与(administration)」と記載されているだけで、一回の投与で済む薬か、何回か投与する必要のある薬であ
るのかについてクレーム中には記載がなかった。明細書には複数回投与する場合の実施例は十分開示されてお
り、一回投与する場合については間接的な記載と考えられる程度のものがあった。
一方、同じ薬品会社であるRoxane社は、複数回投与しなければならない類似のオキシコドン鎮痛剤をFDA
局(食品薬品局)に製造許可申請を行った。
そこでPurdue社はRoxane社を912特許等の侵害で提訴した。それに対してRoxane社は、912特許のクレーム
には複数回投与する限定は一切なく一回投与に関するもので、もし複数回投与も含むのであれば発明者はクレ
ームをそのように限定していたはずであり、一回投与の特許であれば侵害はないと主張した。また、912特許の
クレームの限定は331特許の明細書に支持はなく、このことから331特許は本来先行技術になるにも係わらず、
審査官に先行技術となることを隠し、ミスリードしたので、不公正行為で特許権行使は出来ないと抗弁した。
26
これに対しPurdue社は仮処分差し止めを申請したので、地裁はディスカバリーを早め、そして証拠ヒアリ
ング(公判)を行い、そこで、専門家証人が証言したり宣誓書等の各種証拠が提出された。そしてPurdue社の
特許製品は同社の販売の70%を占める重要製品であることが立証された。その直後にFDA局はRoxane社の製造許
可申請の手続きを停止させた。
そして地裁判事は、912特許はクレームは複数投与の発明であり且つ有効で、その場合侵害があることは当
業者に争いがなく、また仮処分差し止めを認めない場合Purdue社に取り返しのつかない被害が生ずることから
差し止めを仮処分で認めた。
これを不服としてPurdue社はCAFCに控訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは地裁の仮処分差し止めをそのまま維持したが、起草判事メイヤーのデシジョンの概要
は以下の通りである。
仮処分差し止めが認められるためには、
(1)原告特許権者が勝訴するリーゾナブルな可能性があるか否か、
(2)
もし認めなければ特許権者に取り返しのつかない被害が生じるか否か、(3)原告と被告に生ずる被害のバラン
ス上訴、そして(4)公共へのインパクト、を考慮しなければならない。
そして最終的には地裁判事の裁量によって決定されるので、その乱用があったかが問題になる。乱用があ
ったか否かは、地裁判事が明らかに誤った判決を下したか、或いはその決定が誤った法律上の結論に基づいて
いるか、或いは明らかに誤った事実認定に基づいている場合は乱用があったことになる。
912特許のクレームは一回投与か複数回投与か明らかでない。明細書には一応両方の実施例の記載はあるが、
地裁判事は、クレーム用語が不明確だあったので、明細書を参酌し、「発明の基本的目的と重要性(fundament
al purpose and significance)」から912特許のクレームの「投与」は複数回の投与であると認定した。
これに対して、Roxane社は明細書には複数のみならず、一回の投与も開示されており、またもし複数回の
投与に限定して解釈するのであれば、発明者はクレームをそのように明確に限定していたはずである、と主張
している。
しかし、地裁判事のクレーム解釈の結論と理由付けに誤りは見受けられない。明細書の一回投与に関する
唯一の記載は、カッコ内の単語のみであり、しかもそれは先行技術に関するものである。そして複数回投与と
27
して解釈することは「発明の目的に一致し、且つそれを助長する」ものである。
912特許が複数回投与を意味すれば、特許侵害があることには両当事者に争いがない。従って地裁判事が特
許権者が勝訴する可能性が高いと認定したことに誤りはない。
特許の有効性については、Roxane社は331特許は912特許の先行技術であると主張しているが、912特許の発
明の着想及び実施は331特許の出願前であるという発明者の宣誓書があるので、これに依存した地裁判事の認定
に誤りはない。
またRoxane社は331特許は912特許の先行技術であるにも係わらず、それを審査官に告げず優先権を主張し
て継続出願としたことは不公正行為であると主張している。しかし、その点はPurdue社に審査官のアドバイス
があった点である。また、たとえ912特許のクレームの主題は331特許にサポートはなくても、両特許の明細書
は殆ど同一であるので、優先権を主張することは912特許自体の先行技術としての日を早く出来る利点があるの
で意味のある戦略である。結局、優先権主張に不公正行為はは見られない。
結局、仮処分差し止めを認めた点に地裁判事の裁量の乱用はない。
以上のようにクレームの限定が不明確な場合には明細書やプロセキューション・ヒストリーは当然参考に
されるものの、その過程で発明の基本的目的及びその重要性を重視するとCAFCは判示した。これは不明確な特
許を訴訟で不当に拡大して解釈しようとする戦略に歯止めをかける働きをすると考えられる。
28
1300億 円 の リ ッ ト ン 事 件 、
フェスト判決により均等論侵害なしと逆転判決
-------------------------------------------------------------------
CAFCはオンバンクのフェスト事件で、特許性のための補正でクレームを縮減した場合は完全エストッペル
となり、均等論侵害は一切適用されないと判示したが、この判示がこれまでのペンディングの事件に適用され
るか否か注目されていたが、このほど最高裁から差し戻されていたリットン事件に全面的に適用され、均等論
侵害がないと逆転判決された。
Litton Systems Inc. v. Honeywell Inc.
Fed. Cir. No. 00-144, 2001年 2月5日
事件の経緯は以下の通りである。
リットン社はイオン・ビーム・ソースにカウフマン・ガンを用いる航空機用のオート・ジャイロの発明を
行い、再発行特許32、849号を取得した。849特許の出願時のクレームは単にイオン・ビーム・ソースという限定
になっており、審査官はそのクレームを112条2項が規定する、「出願人が自己の発明とみなす主題を特徴付け、
顕著にクレームしていない」ことから拒絶理由を出した。そこでリットン社は、この出願クレーム中のイオン・
ビーム・ソースという限定は、カウフマン・ガン以外を用いると解釈することは出来ないと主張し、しばらく
してイオン・ビーム・ソースを「カウフマン・タイプのイオン・ビーム・ソース」と補正し、特許が許された。
一方ハネウェル社はカウフマン・ガンを用いないオート・ジャイロを開発し、リットン社が契約している
顧客に対してもそのオート・ジャイロを販売し始めた。 そこでリットン社はハネウェル社を849特許の侵害、そして契約妨害の不法行為で地裁に提訴した。
地裁では、1994年に陪審員が特許の故意侵害あり、損害賠償は約12億ドル(1300億円)、契約妨害ありと
評決した。しかし地裁判事は、ハネウェル社の評決棄却モーションのJMOLを認め、特許は無効で文言侵害も均
等論侵害もなしとし、不公正行為から特許権利行使不可、そして契約妨害については陪審員が特許侵害があっ
たことから妨害もあったと認定した可能性があるとしてこれも棄却して判決とした。
この控訴を受けたCAFCは、1996年に地裁の判決を全て逆転させ、陪審員評決を維持する実質的を証拠があ
るとして、評決を再生させ、損害賠償の額について検討し直すように差し戻した。
しかし、ハネウェル社がこのCAFCデシジョンを最高裁に上告すると、最高裁は1997年に、同年のワーナー・
ジェンキンソン最高裁判決に従って849特許におけるエストッペルと均等論侵害の関係について審議し直すし
するようにCAFCに差し戻した。
29
CAFCは1998年に文言侵害はないとしたが、均等論侵害については正しいクレーム解釈を行ってもう一度審
議し直すように地裁に差し戻した。又陪審員の契約妨害についても審議し直すように命じた。
地裁は1999年にハネウェル社のサマリー・ジャッジメントを受け入れ、均等論侵害はエストッペルとオー
ル・エレメント・ルールで侵害なしとし、同時に契約妨害はリットン社は立証していないと判決した。
そこでリットン社が再びCAFCに控訴したのが本事件である。この控訴中にオンバンクのフェスト事件のデ
シジョンが出され、果たしてフェストが適用されるか注目されていたが、メイヤー判事は適用されるとして以
下の理由で地裁判決を維持した。
まずカウフマン・タイプ・イオン・ビームの補正は、クレームを縮減しており、且つその補正は112条第2
節のためであり、これは特許性の確保のためである。従って完全エストッペルになる。
問題はフェスト事件がここでも適用されるかである。一般論として、判例法が変わっても過去既に決定さ
れた事項は再考慮されるわけではない。 しかしこのような判例法の適用は裁判官の裁量に託されており、例
外的に重要な事件には適用される。そのような事件とは、重要な判例が問題の争点についてのそれまでの法と
反対の決定を出した場合とか、或いは先判例が明らかに誤っており不当な結果をもたらしている場合である。
フェスト事件は補正クレームに関するエストッペルの判例法を反対に変えたのでフェストを適用することはこ
の論理に適することである。
均等論侵害に関するヒューズ・エアクラフト事件では異なる結果が求められているわけではない。その理
由はヒューズ・エアクラフト事件ではCAFCのオンバンクのペンクルト事件が判示したのオールエレメントのル
ールを正しく適用しているからである。このように事件の途中で重要判例が変わったことは今までにない。し
かしフェストによるとリットン社はカウフマン・タイプの補正について均等論を適用することは一切できない
といえる。ハネウェル社の構造はカウフマン・タイプの限定を文言上侵害するものではない。従って法律上当
然の結論として均等論侵害はないので地裁のJMOLは維持されなければならない。
契約妨害については、不法行為は契約関係から生じていなければならず、特許侵害に起因してはならない。
陪審員は特許侵害に依存した可能性が高いが、特許侵害はないと決定したので事件を地裁に差し戻し、地裁は
契約妨害に関する事実認定を行って、契約妨害が本当にあったのか判断しなければならない。
以上のようにCAFCはフェストを適用して均等論侵害は一切ないと判示した。このことから、現在地裁に戻
されているワーナー・ジェンキンソンも、もし継続していなければ同様に均等論侵害はないと判示されるであ
ろう。なおフェストの最高裁上告期限は正式期限としては2月末であるが、それから30日の延長期間があり、最
高裁が受理するか否は6月末に決定すると予測される。もし受理すればその最高裁判決はそれから一年後の200
2年夏頃と予測される。
30
クレーム用語を通常の意味に解釈する場合でも、
明細書やプロセキューションを参酌しなければならない
-------------------------------------------------------------------
クレーム解釈においてはクレーム用語がクレーム自体から不明である場合は、まずその用語の通常の意味
に解釈することになる。しかし通常の意味といっても闇雲にその用語そのままの意味に解釈するのではなく、
明細書の記載やプロセキューションでの主張を参酌しなければならないとCAFCが判決した。
DeMarini Sports Inc. v. Worth Inc.
CAFC, Fed. Cir. No.99-1561, 2001年2月13日
事件の経緯は以下の通りである。
DeMarini社は、野球バットに関する米国特許第5,415,398号(398特許)を有していた。398特許はバット
の打球箇所の衝撃反応を良くするために、その部分が二重管の構造になっていた。398特許のクレーム1は、バ
ット・フレームは中空管であり、そのフレーム内に内装部(インサート)が配置されていると記載されていたが、
バットフレームにハンドル(いわゆるバットのグリップ部分)の限定の記載はなかった。従って398特許クレー
ムのバットは厳密に解釈すればバットが二重管構造になっていることのみであり、バットフレームがバットの
外側部分に限定されるかは不明であった。又、クレーム15は、中空バットは大径インパクト部分を有し、イン
パクト部分に内装部があると記載していた。しかし大径インパクト部がバットフレームに限定されるかはクレ
ームに記載がなく、これも不明であった。
一方、Worth社は、ソフトボール用バットを開発していたが、791特許の存在を知りつつも独自に技術開発
を行い、バット中空管の打球端に外装部を有するバットを開発し、販売始めた。
そこでDeMarini社はWorth社を791特許の侵害で提訴した。
地裁での争点はクレーム中の「バットフレーム」と「内装部(インサート)」をどのように解釈するかで
あった。その解釈次第では、Worth社のバットの外装部がバットフレームに相当し、バット中空管がインサート
に相当することになった。
地裁判事はクレーム1中の「バットフレーム」とは、「一端でボールを打つ大きい部分を有する一つの部材
で、他端にノブを有するハンドル部分(グリップ)方向にテーパしている部材」と解釈した。つまりバットフ
レームとはハンドル(グリップ)も含むとしたのである。又クレーム15中の「大径インパクト部分」は「フレ
ーム」という限定がないものの、明細書の記載等から当然に含んでいると解釈した。この解釈によるとWorth
社のバットの中空管の部分がフレームに相当し、その場合外装部は内装部(インサート)にならないのでサマ
31
リー・ジャッジメントで特許侵害はないと判決した。
これを不服としてDeMarini社がCAFCに控訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは地裁判決をそのまま維持したが、起草判事リンのデシジョンの要旨は以下の通りであ
る。
控訴においてDeMarini社は、地裁のフレームの解釈は、フレームという用語の通常の意味に反して解釈し
ており、通常の意味なら全ての中空管を含み、ハンドル(グリップ)をフレームの一部に含む必要はないと主
張している。つまり「フレーム」とは、バットの打球端をカバーする中空管を意味するだけで十分で、中空管
状の内装部も含み得というものである。
791特許のクレームは確かにフレームを特別な意味に定義していないので「通常の意味」に解することは必
要である。しかし通常の意味とは闇雲に通常の意味に解釈することではなく(considered in vacuum)、明細
書の記載及びプロセキューションを参照しなければならない。特にこのクレームでは単にフレームでなく、バ
ットフレームというようにバットという限定が加わっている。そうするとこのバットフレームとは少なくとも
ハンドル(グリップ)、傾斜部(バットの細くなっている箇所)、インパクト部を含むものでなければならな
い。
又、DeMarini社は、フレームが中空チューブのみを意味することはプロセキューション中に審査官が引用
した先行技術に対して発明者が行った議論によれば明らかで、しかも審査官はバットフレームについて何も述
べず、ハンドルと一体である構造とは理解していなかったことを示しているとも主張している。しかし審査官
の沈黙からクレーム解釈を推測することは正しいクレーム解釈ではない。
一方、「内装部(インサート)」については、DeMarini社はこれはハンドルとバットの打球端のいずれを
も含み得る構造物で、フレームという外装部の内部位置を意味するものであると主張している。しかしこの解
釈が誤りであることは上述したことからも明らかである。
従って地裁のクレーム1の解釈は正しく、クレーム1の文言侵害がないことを維持する。
一方、クレーム15の「大径インパクト部分」についてDeMarini社は、これにはフレームという限定は一切
ないので通常の意味の単なる大径の打球のインパクトが当たる部分というように解釈でき、その場合Worth社の
バットの外装部に相当して解釈できると主張している。しかしここでも上記と同様にクレーム解釈を闇雲に通
常の意味に解釈出来るわけではない。明細書及びプロセキューションを参照するとバットフレームのインパク
ト部であることは明らかである。
このクレーム解釈についてDeMarini社は、クレーム解釈においては、解釈されるのはクレーム用語であり、
クレーム用語が意味を決定するという判例を挙げている。
Intervet Am. Inc. v. Kee-Vet Labs. Inc., 12USPQ2d1474 (Fed. Cir. 1989)
32
しかしIntervet事件では、ある限定が特定のクレームのみに付加され、他のクレームには付加されなかっ
たケースで本事件とは異なるものである。クレーム15については、DeMarini社は先行技術と区別するためにハ
ンドル部(グリップ)とインパクト部の構成要件を補正して追加している。そして補正前のクレームは明らか
に内部の内装部(インサート)は中空バットの構成要件でないことを示している。従ってクレーム15にはフレ
ームという限定はないにしても、DeMarini社はハンドル部(グリップ)とインパクト部はバットフレームの一
部分であると考えていたといえる。
従ってクレーム15の文言侵害もない。
一方、均等論侵害については、DeMarini社は、両者は二重管構造のバットという意味で、実質的に同一の
機能、方法、結果を有しており、コーニング事件により均等論侵害があると主張している。Corning Glass Wo
rks v. Sumitomo Electric U.S.A. Inc. 9USPQ2d 1962 (Fed. Cir. 1989).
しかしコーニング事件では、光ファイバーの二重管の構造という点では特許とイ号は同じで、両管の特性
のみが異なっているが均等論侵害があるとした事件である。本事件では、両構造が同じと解釈することは、ク
レームの内装部(インサート)をイ号の外装部と読むことになるので構造をアレンジし直し、クレームもアレ
ンジし直さなければならない。つまり本事件はコーニング事件とは性質の異なる事件である。
従って均等論侵害もないので地裁のサマリージャッジメント判決を維持する。
以上のようにクレーム解釈における通常の意味とは、その用語自体の通常の意味ではなく、明細書やプロ
セキューションも参酌するとしたが、このような考え方は必ずしも常にその通りであるとは限らないであろう。
Process Control事件においてCAFCは、クレーム中の排出率という用語の意味を明細書の記載とは矛盾し
ても、クレーム中の用語自体の意味に解釈して特許を無効にしている。
これは本事件の場合はバットフレームというバット独特の用語のために単なるフレームという一般的な意
味には解釈しなかったとしたもので、もしクレームがバットフレームではなく、単にフレームという用語であ
ったら異なる解釈になった可能性もあるだろう。
33
特許性のためにクレームを狭く補正した場合に生じる完全 エスト
ッペルは、その関連出願にも自動的に適用される
-------------------------------------------------------------------
フェスト事件では、特許性の確保のために補正を行いクレームを減縮した場合は完全エストッペルになり、
均等論侵害は一切適用されないとした。この完全エストッペルがある出願にあった場合には、それに関連する
継続出願にも適用されるとCAFCが判示した。
Biovail Corp. International v. Andrx Pharmaceuticals Inc.
CAFC, Fed. Cir. No.00-1260, 2001年2月13日
Biovail社は高血圧を防ぐために1日1錠だけ必要とする薬品に関する米国特許5,529,791号を(791特許)
を有していた。791特許のクレーム1は、「1つ、ないしそれ以上のディルティアゼム塩及びそれに有効分量の湿
潤剤を混合し(in admixture with)、各錠剤のディルティアゼム塩の溶解性を長く保つようにした長時間効
用錠剤」に関するものであった。
791特許はその親出願である米国特許出願第721,396号(396出願)の一部継続出願であった。396出願の出
願中に審査官がクレームを拒絶すると、発明者は上記の「混合(admixture)」という限定を補正して追加した
一部継続出願を出願し、これは方法の特許として505特許となって許された。そして発明者は「混合(admixtu
re)」という限定の意味は、均一(homogenous)の錠剤になることを意味すると説明していた。791特許はやは
り396号特許の一部継続出願で、505特許と同じ発明に関するもので、明細書には同じく「混合(admixture)」
という記載があったが、クレームは方法ではなく錠剤そのものであった。
一方Andrx社の類似の錠剤はディルティアゼム塩と糖分を混合したものではなく、糖分/澱粉の芯にディル
ティアゼム塩が囲っているもので、均一(homogenous)の錠剤ではなかった。Andrx社がその錠剤の製造許可を
申請すると、Birovail社は791特許侵害で提訴した。
地裁では791特許のクレーム1の「混合(admixture)」の解釈が問題になった。地裁判事は明細書及びクレ
ームには「均一の」という限定はなかったものの、505特許の発明者の主張から、これは均一の錠剤を意味する
と解釈した。 34
そしてその場合文言侵害も均等論侵害もないとサマリー・ジャッジメントで判決した。
これを不服としてBiovail社がCAFCへ控訴したのが本事件である。CAFCのパネルは地裁のサマリー・ジャッ
ジメントをそのまま維持したが、クレベンジャー起草判事のデシジョンの要旨は以下の通りである。
791特許はいくつかの継続出願を経て396特許から一部継続出願されたものである。
この396特許は審査官に
よって最終拒絶され、その結果発明者は「混合(admixture)」という新規事項を追加した一部継続出願を行い、
そこで「混合(admixture)」とは均一の錠剤を意味し、クレームの方法では必然的に均一の錠剤が製造される
と主張した。そしてその結果505特許として許可された。
791特許は、505特許と同様に396出願からの一部継続出願で、その明細書には505特許と同じ「混合(admi
xture)」に関する記載がある。従って505特許の「混合(admixture)」に関するプロセキューション・ヒスト
リーは791特許のクレーム1にも適用されるものである。
この訴訟でBiovail社はAndrx社の錠剤は均一の錠剤であるとは主張していない。またBiovail社自身が行っ
たテストでさえAndrx社の錠剤が均一の錠剤であるという結果を示していない。
CAFCという控訴裁判所には、証人はおらず、新たなる証拠も出せないのでこのような錠剤の科学的特性を
決定するのに適する場所ではない。そして地裁の科学的特性に関する事実認定は地裁の証拠記録によって支持
されているので、地裁の文言侵害はないという認定に明白な誤りはない。
一方均等論侵害については、このプロセキューションはFesto事件と同じような経緯をたどっている。「混
合(admixture)」というクレームの限定は、関連する特許において特許性のためにクレームを減縮して補正さ
れたもので完全エストッペルを形成し、これは同じ明細書を有する後の出願にも適用されるものである。
よって均等論侵害も一切ないので地裁のサマリー・ジャッジメントを維持する。
以上のようにCAFCは791特許の出願では、「混合(admixture)」という限定がプロセキューション中に補
正で追加された訳ではないが、その関連出願の特許(方法の特許)では完全エストッペルがあるという理由で、
それに関連する一部継続出願にもそのまま適用されるとした。
これは791特許が505特許と実質的に同じ明細書で、異なる点はクレームが物と方法のみで実質的に同一の
発明に関する出願であるという理由で、このような結論になったと考えられる。
35
もし791特許の明細書が505特許の明細書と「混合」という点に関して異なっていれば結論も異なったもの
になった可能性はあろう。
36
アマゾン社のワンクリック特許の仮処分による差し止めは
棄却さ
れ、差し戻しになる
-------------------------------------------------------------------
ワシントン州米国地裁は、Amazon社の所有するワンクリック特許の訴訟で、去る1999年12月に、その特許
の有効の可能性が高く、且つ被告Barnes社の「エクスプレス・レーン」は侵害している可能性が高いので、差
し止めを仮処分で認めたが、CAFCはこのほどそれを棄却し、地裁に差し戻した。その理由は、Barnes社は特許
侵害している可能性が十分あるものの、411特許の有効性に実質的な問題を提起したので、差し止め仮処分を認
めたことは不当であるというものである。
Amazon.com Inc. v. Barnesandnoble.com Inc.,
Fed. Cir., No. 01-1109, 2001年2月14日
Amazon社は米国特許第5,960,411号(以下、411特許)「通信ネットワークを通しての購入注文方法とシス
テム」を有していた。
411特許はインターネットのウェブサイトを使用して商品を注文購入するビジネス方法に関するもので、購
入者は希望の商品を見つけた後、単一のクリック作動(例えばマウスの一回クリック)で注文を完了すること
ができる。一方、Barnes社のシステムは「ショッピングカート」と「エクスプレス・レーン」があり、「エク
スプレス・レーン」では登録したユーザーは一回のクリックで購入注文を完了できた。
Amazon社は411特許が米国特許庁から交付された直後に、Barnes社の「エクスプレス・レーン」は411特許
を侵害しているとしてワシントン州の米国地裁に提訴し、クリスマスセールが始まる前に差し止めを仮処分で
認めるように要求した。通常、米国特許は他の訴訟等で有効性が確認されない限り、仮処分による差し止めは
認められないが、米国地裁は以下の理由で差し止めの仮処分を1999年12月初旬に認めた。
(1) 米国特許庁は411特許の審査過程で相当の特別サーチを行い、先行技術の調査が完備した上で、411特
許を許可していたので有効性の可能性が高い。
(2) 他社の多くがこのワンクリック技術を用いており、これは特許技術が有用で、やはり411特許の有効
性が高いことを示している。
(3) Barnes社の「エクスプレス・レーン」もワンクリック作動を用いており、侵害の可能性が高い。
しかしながら発行直後の米国特許に差し止めの仮処分を認めることは異例中の異例のことであり、しかも4
37
11特許は需要が急増しつつあるインターネットビジネス特許であったため、CAFCの判断が注目されていた。
CAFCのパネルはAmazon社は特許侵害の可能性が高いことを示したが、特許の有効性については、Barnes社
が重要な先行技術を開示し、特許有効性に疑問を提示したので、差し止めを仮処分によって認めたことは誤り
であるとして、棄却した。クレベンジャー判事起草のデシジョンの要旨は以下の通りである。
一般に、特許をサマリージャッジメントで無効にするためには、被告は重要な事実については争いがない
こと示し、且つ無効であることを明確、且つ説得力のある(clear and convincing)証拠をもって立証しなけ
ればならない。
しかしながら、差し止めを仮処分で認めさせるためには、特許権者は特許が有効で、訴訟において勝訴す
る可能性が高いことを示せばよい。一方、被告の方は仮処分を否定するためには、特許が無効か、特許侵害が
ない可能性が高いことを示す必要がある。
そこでまず、特許侵害の可能性について地裁の判断を分析する。
411特許のクレームに記載された"single action"は、"single action"をどの画面でするかは特定してい
ないため、”2ページ目”の"single action"で注文を済ますことができるBarnes社の「エクスプレス・レーン」
は同特許を侵害している可能性がある。またどこから数えて"single click”であるかの定義も411特許と「エ
クスプレス・レーン」では類似している。
一方、Barnes社は411特許のクレーム6と9で記載された"fulfill"と"fulfillment"という用語に関して、物
品の注文から、倉庫でその物品を取り上げ、梱包し、顧客に発送するまでの作業を含むので、「エクスプレス・
レーン」は直接侵害にはならないと反論した。しかしながら、クレーム6と9に記載された"fulfill"と"fulfil
lment"という用語は、あくまでもコンピュータサーバーを使用した注文システムの完了を意味するもので、購
入物品の梱包や発送作業を含むものではない。
以上のように、「エクスプレス・レーン」は少なくとも411特許の4つの独立クレームを文言侵害している
可能性があり、これに対してBarnes社は特許侵害に実質的な疑問が生じていることを立証していない。
しかしながら、地裁の先行技術に基づく411特許の有効性の分析は充分ではなく、以下の点に問題がある。
仮処分で差し止めを得るために、特許権者は特許の有効性を「疑いの余地がない(beyond question)」ほ
ど立証する必要はなく、当該特許有効の可能性が高いことを示せばよい。例えば、その特許の有効性が過去に
問われた他の訴訟で、その有効性が立証されていた場合とか、あるいはその特許の有効性が同業者によって長
期にわたり黙認されていたこともその証拠になり得る。しかし本件の地裁ではそのどちらにも該当していいな
い。
Barnes社がこの訴訟で開示した下記のいくつかの先行技術は、サマリージャッジメントで411特許を無効に
するまでは出来なかったが、少なくとも無効の可能性が高いことを示しており、差し止めを仮処分で認めたこ
とには問題がある。
38
これらの先行技術としては、まず1990年代から使用されているCompuServe Trend Systemがある。これは
契約者が50セントの追加料金を払って、ストックのチャートを入手するシステムで、411特許のクレームを含む
可能性がある"single action ordering technology"が使用されている。また他の先行技術である1996年の刊
行物「Creating the Virtual Store」に"Instant Buy Option”というワンクリック作動に類似する下記の記
載がある。
「物品供給者は、インスタント・バイ・ボタンで購入者にいくつかの、あるいは全部の商品を供給でき、
購入者が再確認するステップを省ける。これは、買い物をしている間に自分の欲しい商品がすでにわかってい
る購入者にはさらなる魅力をもたらす。
(Merchants also can provide shoppers with an Instant Buy button for some or all items, ena
bling them to skip check out review.
This provides added appeal for customers who already know
the single item they want to purchase during their shopping excursion.)」
さらに、他の先行技術に、ウェブページの「Oliver's Market」という注文方法には「絵を一回クリック
するだけで商品を注文できる。(A single click on its picture is all it takes to order an item.)」
という記載がある。
以上のようにBarnes社は411特許の有効性について多くの実質的な問題を提起しており、この結果差し止め
を仮処分で許すことは不当といえる。よって地裁の仮処分差し止めを棄却し、差し戻す。
このように本事件の仮処分は棄却されたので、差し戻し地裁では、今後はAmazon社の411特許の有効性、特
にこれらの先行技術から単一作動注文方法が自明(容易:obvious)であったどうか、加えてこの単一作動方法
あるいはクリック回数を減らしたことがAmazon社の商業上の成功に繋がったのかどうか(自明を否定する根拠
になる)等が問われることになる。
39
先発明を立証する研究ノートには必ずしも特許
クレームの用語そのものを用いて発明を
記載している必要はない
-------------------------------------------------------------------
特許を先発明によって無効にするためには、先発明を立証するための研究ノートに対象特許のクレームが
記載されていなければならない。その際に研究ノートには特許クレームの用語そのものが用いられている必要
はなく、特許クレームの技術主題が記載されていればよいとCAFCが判示した。
Mycogen Plant Science Inc. v. Mosanto Co.
Fed.Cir. No.00-1001, 2001年3月13日
事件の経緯は以下の通りである。
Mycogen社は植物に害虫がつかないように植物遺伝子を変える米国特許第5,567,600号(600特許)
及び同第5,
567,862号(862特許)を有していた。650特許は害虫を駆除するBt遺伝子がより多く植物に存在するようにする
方法の特許で、862特許の方は600特許により製造されたBt遺伝子を多量に含んだ植物細胞や種に関するもので
ある。
両特許のクレームにはアミノ酸に「より多くの量のコードンがあることが望まれる(preferred)」という
記載があったが、明細書にはコードンの量に関しては大部分の実施例が多量の実施例で、少量の実施例は1つし
かなかった。
一方、Monsanto社は類似のBt遺伝子を用いた技術開発をMycogen社の両特許の開発より前から行っており、
その製品を販売始めたが、特許出願は行っていなかった。
やがてMycogen社はMonsanto社を600及び862特許の侵害で地裁に提訴した。公判は陪審員裁判になったが、
陪審員は評決で特許侵害に関する17の質問に答え、そしてMonsanto社の製品は文言侵害しない(つまりMonsan
to社技術はMycogen社特許とは異なる)としたにも係わらず、600特許及び862特許はMonsanto社が先に開発した
技術と同一であるという矛盾する理由で無効であると評決した。
陪審員の評決内容が矛盾することから、Mycogen社は、Monsanto社のプロセス及びその製品は600及び862
40
特許と同一であり、侵害するという判決を求めるJMOLモーションと、特許有効という評決を求めるJMOLモーシ
ョンを地裁判事に提起した。
地裁判事は最初のJMOLを認めたが、後のJMOLは認めず両特許は無効という評決をそのまま維持した。
そこで両社がCAFCに提訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは地裁の判決をそのまま維持したが、そのデシジョンの要旨は以下の通りである。
Mycogen社はまず、クレーム解釈に関し、地裁は「より多くのコードンが望まれる(greater number of
condons preferred)」という限定を通常の意味に解釈したが、それは誤りであると主張している。その理
由は、明細書には各々のタイプのアミノ酸に対して一つの遺伝子についてたった一つの望ましいコードンしか
開示していないので、単に「望まれる」と解釈するのではなく「最も望ましい」と解釈すべきであるというも
のである。またクレーム区別論からもそう解釈できると主張している。
しかし、この限定については明細書及びプロセキューションを参照しても両方の解釈が可能で、どちらと
もいえない。そのような場合は通常の意味に解釈すべきである。また、クレーム区別論も通常の意味の解釈を
変えるものではない。
次に、先発明の問題については、特許法第102条gは、先に発明した者がその発明を放棄、隠蔽、ないし押
し隠ししなければ(つまり特許出願しなくても、製造、販売していれば良い)、後の発明や特許は無効になる
としている。先発明を決定する場合、インターフェアランスであれば、クレームに代わるカウントで評価しな
ければならないが、この事件はインターフェアランスではないので、600及び862特許のクレームで評価しなけ
ればならない。
この点に関し、Mycogen社はMonsanto社が同一の発明を行ったことには異議を唱えていないが(だからこそ
侵害していると主張している)、Monsanto社は着想は早かったかもしれないが実施をしていないと主張してい
る(もし特許出願をしていれば犠牲的実施になるが)。MOnsant社は製品を作っているものの、「偶然の同一発
明の原理(doctorine of accidental anticipation)」によれば、発明したことに気付かなくて同じものを
製造していても、その発明を行った事にはならないとも主張している(発明に気がついていなかったため、そ
もそも発明を完成したことにならない)。
しかし、証拠のよればMonsanto社の研究開発は、Bt遺伝子の改良のための合成遺伝子の開発に向けられて
おり、Monsanto社の製造が偶然であったという証拠はなにもない。又、科学者の研究ノートはクレームの用語
そのものを用いていなけらばならないという必要もない。発明はクレームの用語ではなく、そこに定義されて
いる技術主題である。従ってMonsanto社の科学者がコンドンという用語を用いずにヌクレオチド(注:一種の
配糖体)という用語を用いて研究ノートに記載していても問題はない。
よって地裁判決をそのまま維持する。
41
以上のように研究ノート等に記載されていることを立証するためには、クレーム用語そのものでなくても
発明の技術主題が記載され開示されていればよいことになる。
42
中用権は、特許再発行時に既に製品が
生産されていなければ発生しない
-------------------------------------------------------------------
特許再発行により特許権が拡大された場合(無効クレームが有効になった場合も含む)で、特許再発行前
に第三者が特許製品を生産していた場合にはいわゆる中用権が生ずる。この事件で問題になったのは再発行前
の行為が製品の販売ではなく、「販売の申し出(Offer to sell)」であった場合でも中用権が発生するかで
あった。この点についてCAFCは再発行前に製品がまだ生産されていないような場合にはこの中用権は発生しな
いと判示した。
Shockley v. Arcan Inc. Fed.Cir. No. 99-1580 2001年5月9日
Shockleyは自動車の車体の底を修理する時に用いる台車に関する米国特許第5,451,068号(以下068特許)
を有していた。068特許の台車は修理者が車体の下に潜って修理する時に都合良く設計されているだけでなく、
その上に座って修理が出来る設計にもなっており、そのため「creep-or-seat(這ったり座ったり)」という商
標がついていた。
Shockleyはその後068特許のクレームが必要以上に狭いことに気付き、特許再発行の手続きを取った。そし
て、1998年2月に広いクレームの再発行特許第35,732号が得られた。その間にShockleyはHawkinsに068特許(そ
して後に732再発行特許)の台車を輸入する許可を与え、米国内での販売はTelesis社とSunex社に許可を与えた。
一方、競争企業のArcan社は、732再発行特許が許可された1998年2月の前の1997年に、元の068特許のクレ
ームは侵害しないが732再発行特許の広いクレームを侵害する台車の販売のために価格リストを顧客に配り始
めた。
そこで、Shockleyは再発行特許取得後にArcan社を特許侵害で控訴した。地裁で判事はサマリー・ジャッジ
メントで732再発行特許のクレームは有効と判決した(再発行手続きで再審査が行われて特許が許可されたこと
が要因になったのであろう)。その後の陪審員公判で、陪審員は故意の侵害があるとし、損害賠償は380万ドル
(約4億円)とし、その内、純粋の損害賠償は80万ドル(約9000万円)、そして将来の逸失利益分は300万ドル
(約3.3億円)であると評決した。
Arcan社は損害賠償の減額を求めるモーションと中用権があるので特許侵害はあり得ないとのモーション
を提起したが判事はいずれも拒否した。
43
またShockleyの方はArcan社、Sunex社、Telesis社の3社は共に特許侵害の共同責任があると主張したが、
判事はArcan社のみ有責とした。
そこでArcan社及びShockleyの両者は共に地裁判決に不服としてCAFCに控訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは地裁判決の一部を維持し、一部を棄却したが、レーダー判事のデシジョンの要旨は以
下の通りである。
まずArcan社は732再発行特許は、再発行手続きを行う時の宣誓書の記載が不備であるので無効であると主
張している。 再発行手続きにおいては、特許法実施規則で、元の特許に誤りがあったことと、その原因について詳しい
宣誓書を提出する義務があったが、732再発行特許の審査中にその規則の改正があった。そして732再発行特許
が発行された時は、誤りについては1つの誤りを指摘して、それに関して特許庁を欺く意図がなかったという一
般的な説明をする簡便な宣誓書で十分となった。問題はこの新しい規則が、732再発行特許に適用されるかとい
う点である。
それについては判例のMolins PLC v. Textron Inc.33USPQ2d 1823(Fed. Cir. 1996年)は、新しい規則を
審査中の出願に適用してよいとしている。従って本件においても732再発行特許が発行された時点では既に規則
改正があったので、遡って適用してもよい。
次に中用権の点であるが、中用権が生ずるためには再発行特許が発行される前までに製品が存在していな
ければならない。これについてArcan社は「販売の申し出」は特許侵害となるのでそれだけで中用権が生ずると
主張している。しかしながら、中用権に関する米国特許法第252条は以下のように限定している。
再発行特許は、再発行特許が許可される前に販売の申し出をした場合は、
その特定のもの(secific thing)を引き続き販売する権利を損なうも
のではない。
つまり252条は「特定のもの(specific thing)」と規定しているので、そのようなものが、再発行特許の
許可の前に存在していなければならない。Arcan社は「販売の申し出」でも特許侵害は成立するのでそれで十分
であるはずであると主張しているが、「販売の申し出」の規定は1994年にガット条約によって特許法が改正さ
44
れ、追加された改正部分である。
ガット条約によって米国特許法が修正される以前では、中用権が生ずるためには再発行特許が許可される
前に製品が存在しなければならないと解釈されていた。ガット条約によって「販売の申し出」も特許侵害にな
ると法改正された時、中用権についても実際の製品が生産されていなくても良いというように修正されたとす
ると、それを示す明らかな根拠がなければならないが、そのような証拠はどこにもない。
従って製品のない「販売の申し出」だけでは中用権は成立しないので、地裁の判示を維持する。
Arcan社は更に、第252条は引き続く生産(continued manufacture)」ができると規定し、またこれは判事
が衡平法(エクイティ)、つまり正義公正上の観点から裁量をもって決定できるはずであると主張している。
しかし侵害については陪審員は故意の侵害があると評決したので、Arcan社には潔白な立場(clean hand)
がなく、正義公正に基づく衡平法上の中用権は認められないとした地裁判決に裁量権の乱用は認められない。
しかし将来の逸失利益について陪審員は300万ドルを認めたが、この損害賠償は憶測的(speculative)に
すぎないのでこれは棄却し、差し戻す。差し戻し審ではShockleyはその額を減額した80万ドルの損害賠償でよ
いかあるいは損害賠償のみの公判をやり直すかを選ばなければならない。最後に地裁はArcan社等の3社の共同
責任を否定したがこれらの社は共に特許侵害によって利益を得ており、3社に共同の責任があると認められる。
以上のようにCAFCは、中用権は絶対権(absolute right)であり、それを獲得するためには、販売の申し
出があっただけでは不十分で、その時に製品が実際に存在していなければならないと判示した。
このような中用権は衡平法上の観点から判断されるので、製品の存在も正義公正の観点から多少弾力的に
判断されるものと考えられる。例えば、製品の生産の一部を既に行っていた場合等には製品の存在があったと
判断されることもあろう。
45
271条 (g)の 例 外 の 「 実 質 的 変 更 」 が あ っ た か 否 か は
陪審員が決定すべき事実問題である
-------------------------------------------------------------------
米国特許方法を用いて外国で生産し、米国に製品を輸入した場合は71条(g)は特許侵害になるが、例外とし
て製品に重要な変更(material change)があれば特許侵害にはならない。この変更があるか否かは事実認定
の問題であるので陪審員が判断すべき問題であるとCAFCが判示した。
Biotec Biologische Naturveroackangen GmbH & Co.
v. Biocorp, Inc. & Novamont S.P.A.
Fed. Cir. No.99-1578 2001年5月14日
ドイツのBiotec社は熱可塑性処理可能なでんぷん(TPS)に関する米国特許第5,362,777号(777特許)及び
同材5,280,055号(055特許)を有していた。
777特許の主要クレームはでんぷんが「実質的に水分のない(substantiallly water free)」という限定
があり、後の訴訟でどの程度の量がそのクレームの範囲に入るかが問題になった。
一方、イタリアのBiocorp社は、これらの米国特許の方法を用いて若干異なるTPSを生産し、アメリカへ輸
入していた。
そこでBiotec社は、両社を777及び055特許の侵害であると地裁に提訴した。
地裁はサマリー・ジャッジメントで両特許の有効性と権利行使可能性を支持した。その後陪審員公判とな
ったが、陪審員は特許侵害を認めたものの、故意の侵害は認めなかった。そして損害賠償はNovamond社に対し
ては75万ドル(約8000万円)、Biocorp社に対しては25万ドル(約3000万ドル)と評決した。
これを不服として両社がCAFCへ控訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは地裁判決をそのまま維持したが、ニューマン判事起草のデシジョンの要旨は以下の通
りである。
Biocorp社等は「実質的に水分のない」というでんぷんの水分の量について両当事者の専門家証人の証言が
完全に食い違っており、地裁判事が「5%以下である」とクレームを解釈したことは誤りであると主張している。
しかし地裁判事のこの結論に至った計算方法に誤りは見当たらない。また地裁判事がこれらのクレームは
処理前にあらかじめ乾燥させたでんぷんの使用に限定されないと結論したことにも誤りはない。
Biocorp社は、専門家証人の非常に異なる証言を陪審員に聞かせたことは誤りであると主張しているが、地
46
裁判事はこのような証言を隔離する義務はない。むしろこのような食い違う証言を陪審員に聞かせることは公
正手続きの基本的原理である(注:判事は証言や証拠のバイアス効果があまりに大きい場合は裁量ではずすこ
とはできる)。
またNovamont社は、原告Biotec社の専門家証人はNovamont社の製品の水分を直接検査せず、水分が5%以下
であることを立証していないと主張している。
しかし常識的陪審員ならその専門家証人の証言を水分の量の立証証拠として受け入れたことができたはず
である。その専門家証人はNovamont社からデータを入手し、ある種の製品は水分量が0.8∼1.00%、他の製品は
3.2%∼3.8%、更に他の製品は3.5%∼4.8%と測定し、その書面をNovamont社にも提供している。それについ
てNovamont社は、製品のガス抜きをした直後の水分は5%より高く、またほとんど全ての輸出ペレットの水分は
5%より高いと争っているが、被告の準備書面には何故この差が生じたのか説明がない。更に陪審員評決を支持
する実質的証拠がないとの指摘もない。 このようなことから物のクレームについて侵害があるという陪審員
の評決に誤りはない。 次に方法の特許について、特許方法を用いてイタリアで生産された物は生産してから
アメリカに輸入されるまでに水分が5%以上になり、このように水分がクレームを越えることになった場合は物
に「実質的変更(materially changed)」がなされ、271条(g)の特許侵害はなくなると争っている。
しかし、法廷での証拠の中には、特許方法によって生産された物が製造後水分を吸収して実質的変更する
ことがないという証拠もある。このような「実質的変更」があったか否かは陪審員が決定すべき事実問題であ
るので、常識的陪審員はいずれかの証拠に依存することができたといえる。
よって陪審員が「実質的変更」がなかったとした評決に誤りもない。 最後にNovamont社は、両特許の有効性に関していくつかの先行技術を開示したにもかかわらず、両特許は
無効でないとしたサマリー・ジャッジメントは誤りであると主張している。
しかし地裁判事はそれらの先行技術を調べたが、Novamont社はなぜ特許が先行技術と同一かあるいはそれ
から自明であるか説明していないと述べている。
これに対してNovamont社は判事自ら先行技術を読めば結論できたはずであると主張しているが、地裁判事
には膨大な先行技術を自ら調べる義務はない。
本来無効の特許であればそれを無効にするという公共の利益は存在するものの、それは無効を主張する者
が無効を立証する責任を免れることを意味することではない。
また一方原告Biotec社は、Novamont社は事前に特許弁護士の鑑定を得ずに、自社内の世界的に著名な専門
家である研究員の意見に依存しただけで販売を行っていたので故意の侵害があると主張している。しかし鑑定
を得なかったということは自動的に故意の侵害になるわけではない。陪審員は自社研究員の専門性や著名性、
47
そして事件の技術の近似性等を勘案して故意か否かを決定でき、本事件において誤りがあったことはみられな
い。
よって地裁判決を維持する。
以上のように271条(g)の実質的変更があったか否かについては陪審員が決定する事実問題であると判示し
た。被告企業は輸入物がアメリカに来た時は水分が5%以上になっているのでクレーム外であるので法律上当然
の結論としてJMOLで結着できるはずであると主張したが、CAFCはそうではない証拠も同時にあるので結局陪審
員が決定すべき事実認定問題であるとしたのであろう。
もし証拠が5%以上のものしかなければJMOLで結着できた事件と考えられる。
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関連会社の特許侵害は、その会社をコントロールして
いない限り、特許侵害を止めさせる積極的義務はない
-------------------------------------------------------------------
自社の関連会社が特許侵害をしている場合、その社が関連会社に対してどのような義務があるかという問
題は常に生じる問題である。この事件は、関連会社の特許侵害を止めさせる義務があるかについては、その会
社が関連会社に対してどのようなコントロールを有するかにも一因しており、もしコントロールが全くない場
合にはその会社には特許侵害を止めさせる積極的義務はないとしたCAFCの判示である。
Tegal Corp v. Tokyo Electron Co. Ltd.
Fed. Cir. No.00-1239, 2001年5月14日
Tegal社は半導体チップをエッチングするためのプラズマ装置に関する米国特許第4,464,223号(以下223
特許)を有しており、東京エレクトロン・アメリカ社(TEアメリカ社)と親会社の東京エレクトロン本社(TE
本社)を特許侵害でバージニア州の東部地区地裁(ロケットドケットで有名)に提訴した。
地裁は、3日間の判事公判の後に、TEアメリカ社は223特許を故意に侵害していると共に、寄与侵害、教唆
侵害もあると認定し、その結果差し止め命令を下した。
その直後にTEアメリカ社とTE日本社は、この特許技術に係わる事業をTEアメリカ社からTEマサチューセッ
ツ社に移管した。TEマサチューセッツ社はTE本社の子会社であると共に、TEアメリカ社の関連会社でもあった
が上記訴訟の当事者ではなかった。そこで、Tegal社は特許侵害行為を行っている者はTEマサチューセッツ社で
あるものの、実質的にTEアメリカ社とTE本社がその特許侵害行為を形成させているので、この両者が差し止め
命令を違反しているとして裁判所侮辱で訴えた(注:TEマサチューセッツ社は差し止め命令の被告当事者でな
かったので裁判所侮辱で訴えることはせず、新たな訴訟が必要である)。地裁は、TEアメリカ社及びTE本社はT
Eマサチューセッツ社の特許侵害行為に責任があるとして裁判所侮辱の責があるとし、同時に特許侵害は故意で
あるとして弁護士費用、裁判費用の支払いを命じた。これに対して、TEアメリカ社は、同社は関連会社の特許
侵害に積極的に関与していないので責任はないとしてCAFCへ控訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは、ある会社が関連会社の特許侵害に積極的に関与しておらず、且つ関連会社をコント
ロールしていない場合にはその会社には責任はないと地裁命令を棄却したが、ブライソン判事のデシジョンの
要旨は以下の通りである。
49
TEアメリカ社は、TEマサチューセッツ社の特許侵害に関与しておらず、且つ同社はその関連会社であるも
のの、一切のコントロールの権限はないので、その特許侵害行為に対しても何の責任も無いはずなので地裁命
令は違法であると主張している。
それに対し、Tegal社は、TEアメリカ社はその関連会社であるTEマサチューセッツ社に対して、コントロー
ルがあるかないかに係わらず特許侵害をさせない積極的義務(affirmative obligation)があり、特許侵害を
止めさせなかったことは特許侵害を促進させた(facilitated)ことと同じことになるので、TEアメリカ社は責
任があり、地裁命令は正しいと反論している。
地裁判事は公判の後、Tegal社の主張を認めたが、我々はそのような解釈に反対する。まず差し止め命令後
は、TEアメリカ社が特許侵害活動を引き続き行っているという証拠が全くないことはTegal社も認めている点で
ある。Tegal社の論理は、TEアメリカ社は関連会社の特許侵害を積極的に阻止する義務があるという点である。
しかし、TEマサチューセッツ社はTEアメリカ社の関連会社であるものの、TEアメリカ社が同社もコントロール
しているわけではない。そのような場合、単に侵害活動を許しているだけでは責任は生ぜず、何らかの積極的
行動がなければならない。その行動がない限り侵害を促進させた事にならない。
つまり特許侵害行為の継続により差し止め命令違反の裁判所侮辱になるためには、TEアメリカ社がTEマサ
チューセッツ社の行動を阻止しなかったというだけでは不充分で、より積極的な行動が必要である。
これは米国特許法第271条(b)に定義する侵害教唆(active inducement of infringement)の考え方と同じ
である。親会社が子会社の特許侵害に対して何もしない時も同じである。 A. Stucki Co. v. Worthington I
ndustries Inc.
USPQ2d 1066(Fed. Cir. 1988)
裁判所がある企業に対して何らかの行動を阻止しなかったという理由で裁判所侮辱とするためには、差し
止めに開示されている積極的義務の違反が基礎となっていなければならない。ここではTEアメリカ社にはその
ような義務はない。そのような義務がなくて侮辱の責任を課するためには、その会社に対してコントロールが
ある場合のみである。この点についてTegal社は、TEアメリカ社がTEマサチューセッツ社をコントロールしてい
たという証拠を何も提出していない。
またTEアメリカ社が特許侵害行為をTEマサチューセッツ社に移管する事に抵抗しなかったとしてもそれで
は十分ではない。
更にTegal社は、TEアメリカ社はTE本社、TEマサチューセッツ社と陰謀して指し止めを回避したと主張して
いるが、そのような陰謀に関する証拠は何もない。
50
また地裁の命令はそのような理由を根拠としていないのでそもそもその理由によって地裁命令を棄却する
必要もない。
従って地裁のTEアメリカ社の裁判所侮辱の命令は誤っていないのでこれを逆転させる。
以上のようにTEアメリカ社はTEマサチューセッツ社の関連会社であるにも係らず、TEアメリカ社はコント
ロールを有していないという理由で逆転判決となった。
このCAFCデシジョンにはTE本社の責任については特に触れていないが、それは地裁判決がTE本社はTEマサ
チューセッツ社をコントロールしているので当然責任があり、この点は控訴で争いにならなかったためと考え
られる。
51
クレームの限定に関する親出願での主張は、
子出願の同じ限定の解釈を拘束する
-------------------------------------------------------------------
プロセキューション・ヒストリー・エストッペルはその出願のクレーム解釈を拘束するのは当然であるが、
その後の子出願において同じ限定があれば、例え、その子出願においてその主張がなくても同じように拘束す
るとCAFCが判示した。しかしCAFCは「その後の出願(subsequent application)」と明示しているので、逆の
場合は原則として成立しないことになる。
Semitool, Inc. v. Novellus Systems, Inc.
Fed. Cir. No.00-1375
事件の経緯は以下の通りである。
Semitool社は、半導体ウエハの研磨装置である米国特許第5,222,310号(310特許)及び同第5,337,708(7
08特許)を有していた。310特許のクレームには研磨ヘッドと処理台に関して以下のような限定があった。
「機体に取り付けられた少なくとも1つの処理台と相補的処理ヘッド(complementary processing head)
があり、両者は処理台と処理ヘッドの間に処理液を包含する(containing)ための実質的に閉鎖された処理空間
(substantially enclosed processing space)を形成する閉鎖相対位置(a closed relative position)と、
処理ヘッドに対してウェハが搬送できる開放相対位置の間を相対的に動き得るようになっており...」(注:判
決ではenclosed related positionがclosed relative positionのミスプリントになっている)
下線部はその後の訴訟で問題になった箇所である。
発明者はプロセキューションで「実質的に包囲された処理空間」とは、その空間内で処理液を効果的ガス
処理ができる空間であると説明していた。
一方、708特許は、310特許の一部継続出願であり、クレームには「実質的に包囲された処理空間」の限定
は存在していたが、それに対するプロセキューションでの説明は一切なかった。また「相補的処理ヘッド」の
限定はなかったが、ウェハを支える部材として下記の限定があった。
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「ウェハをその上に取り外し可能に支持するウェハサポート(wafer support for detachably supporti
ng wafer thereon)」
このウェハサポートがミーンズ・プラス・ファンクションの記載であるか否かが後の訴訟で問題になった。
一方、Novellus社は、2つの異なるウェハ処理装置であるSABREとSABRE Txシステムを販売していた。これ
らの装置は研磨ヘッドが閉鎖位置にある時には、周囲から完全に密閉されるのではなく、溝からなる隙間があ
り、その隙間面積は前者で124cm2 、後者で250cm2 であった(注:つまり空間内で効果的ガス処理ができる密封で
はない)。
やがてSemitool社はNovellus社を310及び708特許の侵害で提訴した。
地裁判事はマークマンヒアリングの後、両特許における「実質的に包囲された処理空間」とは研磨ヘッド
と受皿(bowl)によって密封(seal)が形成され、これにより「処理化学物質をガス状態で用いて、化学物質
がガスであろうと流体であろうとウェハの効果的ガス処理ができるように十分閉鎖される(closed)」ように
するものであると解釈した(注:漏洩を完全に防止する密封ではなく、効果的ガス処理ができるような程度の
密封であることを意味している)。
このような「実質的に包囲された(substantially enclosed)」という限定の解釈から地裁判事は310特
許の「相補的処理ヘッド」の解釈を、「ヘッドと受皿(bowl)が閉鎖位置にある時に両者は「単一の部材(sih
gle component)」を形成するものであるとした。
また、708特許の「ウェハを取り外し可能にサポートするウェハ・サポート」を機能的記載であるのでミー
ンズ・プラス・ファンクションのクレームであると解釈し、その文言範囲は明細書の実施例及びその均等物に
限定されるとした。
これに関してNovellus社のSABREシステムには駆動アセンブリとメッキ・セルの間の溝のギャップによって
開口(opening)があるので、310特許のような「実質的に包囲された」という限定を満足する密封は有してい
ないとした。
また更に、Semitool社はプロセキューション・ヒストリー・エストッペルによりSABREシステムの空気フロ
53
ーは両特許が必要とする「密封」と均等であると主張することはできないとも判示した。
このような解釈に基づいて、裁判判事はNovellus社の装置は特許侵害がないとサマリー・ジャッジメント
で判決した。
これを不服としてSemitool社がCAFCへ控訴したのが本事件である
CAFCの担当パネルは地裁のサマリー・ジャッジメント判決をそのまま維持したが、起草判事ローリーのデ
シジョンの要旨は以下の通りである。
1. 実質的に包囲された(substntially enclosed)
Semitool社は「実質的に包囲された」という限定について、これはクレーム中に「処理液を包含する(conta
ining)」とあるように、単にヘッドを受皿の間に処理流体を含み(contain)得る能力について述べているだけで
あり、Aigoという先行技術と区別した時にもその理由で区別していると主張している。従って地裁判事がヘッ
ドと受皿は「密封」を形成する必要があると解釈したことは誤りで、708特許でも密封は1つの実施例にすぎな
いと主張している。
これに対しNovellus社は、両特許に開示されたウェハ処理装置の唯一の実施例は圧力を高め、外気が室内
に入ることを阻止するように十分に密封された処理室を有しており、「実質的に包囲された処理空間」もその
実施例に限定されるべきであると反論している。
また同時にSemitool社の主張の根拠は完全に外部証拠に基づくものであり、内部証拠にはその根拠は全く
ないとも反論している。
まず、クレーム解釈を行う時は、クレームと明細書を含む特許自体、そして証拠になっているのであれば
プロセキューション・ヒストリーを検討しなければならない。Vitronics Corp. Conceptronic Inc. 39USPQ2
d 1573 (Fed. Cir. 1996) また明細書からクレームの意味が明らかであればその意味が適用されなければな
らない。Multiform Desiccants Inc. v. Medzam Ltd. 45USPQ2d 1429 (Fed. Cir. 1998)
また「プロセキューション・ヒストリーは、その経緯で放棄した(disclaim)解釈は排除するように働く」
Southwall Techs., Inc. v. Cardinal IG Co., 34USPQ 1673 (Fed. Cir. 1995)
54
Semitool社は、プロセキューション中にAigo先行技術から区別した時に「実質的に包囲した」という限定
の重要性を、「Aigo先行技術はウェハを包囲する(enclose)能力はなく、ガスを有効に利用して処理することは
できない」というように説明した。
この点についてSemitool社は、その説明はヘッドと受皿によって形成される領域以外の領域でウェハを処
理する処理装置をカバーすることを放棄しただけのものであると主張している。しかしそのような解釈は効果
的ガス処理をできる装置が必要であるという主張、
つまりウェハと処理化学物質を特定の処理空間内に
「含む(c
ontaining)」という概念とは異なる主張を完全に無視すべきことになる。
従って我々は、Semitool社は処理化学物質をガス状態で効果的に使用することができないようなウェハ処
理装置を308特許でカバーすることを明白に放棄したと認められる。
そして708特許についてもクレーム中の「実質的に包囲された」という限定については、この結論が適用さ
れなければならない。「最初の同じ出願から複数の特許が得られた場合は、いかなる特許のあるクレームの限
定に関するプロセキューション・ヒストリーも、その後発行された特許の同じ用語に対して同じように適用さ
れる。」 Elkay Mfg. Co. v. Ebco. Mfg. Co., 52 USPQ2d 1109 (Fed. Cir 1999)
よってSemitool社が301特許で放棄したことは、後の708特許においても同じ効力で適用される。
その上、708特許の明細書のコラム9、32∼39行には「実質的に包囲された」という点については上記のこ
とをサポートする記載がある。つまりそこには「流出や実質的な漏洩」を防ぐために「密封」が必要であるこ
とを明白に記載している。
我々は「クレームは明細書に基づいて読まれなければならず・・・・通常はそれが決定的(dispositive)
であり、クレームの意味の唯一で最良のガイドである」と何度も述べてきた。 Vitronics(前掲)
従って地裁が310及び708特許における「実質的に包囲された」とは「密封」を必要とすると解釈した
ことは正しいと結論する。
2. 相補的処理ヘッド(complementary processing head)
次にSemitool社は、地裁が301特許の「相補的ベースヘッド」はヘッドと受皿が閉鎖位置で単一の一体構造
を形成することを意味すると解釈したことは、「相補的」という用語の通常の意味も、明細書もプロセキュー
ション・ヒストリーもそのような解釈を支持していないので誤りであると主張している。
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これに対してNovellus社は、Semitool社はこの構成要件の議論を地裁においては挙げていないので放棄し
たものであると反論している。
しかし、例え放棄があったとしても、地裁はともかくこの構成要件の解釈を行っているので、特許の生命
力そして公共の利益を考慮して、我々は裁量権で地裁のクレーム解釈を検討する。
両特許においても、ヘッドと受皿は「空気漏れが一切ない(gas-tight)」ような密封を形成していないこと
は争いもなくまた地裁もそのように事実認定している。このようにヘッドと受皿は閉鎖位置において「単一の
部品」を形成するとはいえない。
つまりヘッドは閉鎖位置に下った時に、効果的ガス処理が許される程度に十分に閉鎖する(colsed)ように
受皿と共に「相補的」となるのである。
よって我々は「相補的処理ヘッド」は「実質的に閉鎖された(substantially closed)」(注:enclosedの
ミスプリントと考えられるが、判決からは明らかではない)と同義であると解釈し、ヘッドと受皿が閉鎖位置
にある時は単一部品となることまでは必要としないと結論する。
3. ウェハサポート(wafer support)
地裁判事はウェハサポートをミーンズ・プラス・ファンクションであると解釈したが、これは誤りである。
まず、クレームにはミーンズ(means)という用語を用いていないため、ミーンズ・プラス・ファンクション
ではないという推定が成り立つ。この推定が覆えされたか否かを判断するためには、クレームを正しく解釈し
た場合に十分に明確な構造が識別できるか否かである。
この点に関し、まず一般的に「サポート」は、十分に構造を明示しているといえる。辞書によるとサポー
トは、「装置等のためのスタンド、フレーム、ヘッド・・・」と説明されている。サポートだけでは特別な構
造を意味していないかもしれないが、同時にこれは構造を暗示するという事実を否定するものではない。
従って我々はウェハサポートの限定はミーンズ・プラス・ファンクションの限定ではないと結論する。
4. 侵害
Semitool社は、SABREシステムにおいては環状ギャップからメッキ・セルへの空気が導入されるものの、こ
の程度は「実質的に包囲された」ことを満足する流体の「密封」を満足するものであると主張している。また
専門家証人の証言は効果的処理ウェハができるか否かについて事実問題の争いを提起しているとも主張してい
る(注:従ってサマリー・ジャッジメントは適切でないと主張)。
この点についてクレームは前述したように「実質的に包囲された処理空間」がヘッドと受皿の間に形成さ
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れることを要求している。
SABEREシステムにおいてヘッドと受皿に最も相応する部材は、メッキ・セルと駆動アッセンブリであり、
文言侵害となるためにはこれらの部材が「密封」を形成しなければならないが、それらに密封の意味はない。
またSemitool社が主張する空気流が「密封」を形成することはそもそもクレームの限定にはない。
従って、Novellus社の空気流は、クレームのこの限定を文言上満たすことはない。
また、均等論侵害については、「実質的に包囲された」という限定は、310特許のプロセキューションで、
Aigo先行技術を回避するためにクレームに補正して追加された限定であり、クレームは減縮されている。この
限定は特許性のためのものなので、Festo事件により均等論侵害は一切適用されない。
前述したように310特許のプロセキューション・ヒストリーは708特許にも影響するので、
708特許の同じ
「実
質的に包囲された」という限定は同じように解釈されなければならない。
この点に関して、Semitool社は708特許の「実質的包囲された」ことによる効果的ガス処理の意味は、(1)
高いエッチング率、(2)均一性、(3)反復性、(4)低汚染性、の4つをであり、310特許の効果とは異なると主張し
ている。しかしこの内、Semitool社が事実問題で争いがあるとしたのは、高いエッチング率のみで、他の点に
ついては争いがあるとの証拠を提出していない。
従って、地裁がサマリージャッジメントで判決したことに誤りは見当たらない。
よって地裁のサマリー・ジャッジメントをそのまま維持する。
以上のように親出願におけるエストッペルは、子出願のクレームに同じ構成要件があれば、同じエストッ
ペルが適用されることになる。
また「密封(seal)」という用語について、これはクレーム中にその限定がなくても、クレームの構成要件
の解釈でそのような限定があると解釈し、且つこの密封は通常のような完全な密封を意味するのではなく、意
見書に主張した効果的なガス処理ができる程度の密封でよいとしたように、CAFCは明細書や意見書の記載を非
常に重視しているといえる。
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米国プロセス特許を外国で用いて特許侵害になるためには、
外国でそのプロセスを用いて生産した時に
米国プロセス特許が既に成立していなければならない
-------------------------------------------------------------------
米国特許法第271条(g)によると、米国のプロセス特許を用いて外国で製品を生産し、その製品を米国に輸
入すると特許侵害になる。この事件で問題になったのは、そのプロセスを外国で用いた時は米国で特許が成立
していなかったが、製品を米国に輸入した時にプロセス特許が成立していた場合、果たして第271条(g)の特許
侵害になるかという点であった。これについてCAFCは、外国でそのプロセスを用いた時に既に特許が成立して
いなければ特許侵害にならないと判示した。
Mycogen Plant Science Inc. v. Monsanto Co.,
Fed. Cir. No. 00-1127 2001年5月30日
事件の経緯は以下の通りである。
Mycogen社は植物特許に関する米国特許第5,380,831号(831特許)、同5,567,600号(600特許)、そして同第5,
567,862号(862特許)を有していた。
831特許及び600特許はバチリス菌(一種の抗生物質)を植物により豊富に存在させるための方法特許であ
った。862特許は600特許の方法により生産された植物セルや種に関する特許であった。
一方Monsanto社も1986年頃から同様の技術開発を行っており、Mycogen社が上記特許を取得する前に海外で
生産を行い、米国に輸入し始めた。その時には上記の米国特許は成立していた。
そこでMycogen社はMonsanto社を特許侵害でデラウェア州の米国地裁に提訴した。
デラウェア州の地裁の陪審員裁判で、陪審員は特許は無効で且つ特許侵害はないと評決した。
地裁判事は評決を棄却して特許は有効で且つ特許侵害もあると判決を下した。そしてCAFCの控訴でCAFCも
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それを維持した。
Mycogen社は次にカリフォルニア州の米国地裁に控訴したが、地裁判事はサマリー・ジャッジメントでMon
santo社が先発明者であるとして831特許は無効とした。一方、プロセス方法特許の方は、Monsanto社が海外で
生産し始めたころにはまだ米国特許は成立していなかったので、特許侵害はあり得ないと判示した。更に均等
論侵害はプロセキューション・ヒストリー・エストッペルによりやはりあり得ないと判決した。
これを不服として、Mycogen社がCAFCへ控訴したのが本事件である
CAFCの担当パネルは、Monsanto社が先発明者であるという地裁判示を棄却し、他の点については維持した
が、起草判示ブライソンのデシジョンの要旨は以下の通りである。
Mycogen社は、まず地裁が831特許はMonsanto社が先に発明したと結論したことは誤りであると争っている。
米国特許第102条(g)で先発明を立証するためには、Monsanto社は下記の2点を明白且つ説得力ある基準で立
証しなければならい。
(1)Monsanto社が、Mycogen社の前に発明を実施したこと
(2)Mycogen社は先に発明を着想しなかったか、あるいは着想したとしても実施化(普通は出願)までに勤勉努
力を行わなかったこと
これらの重要な事実問題について、両当事者にもし真の争いがあれば、サマリー・ジャッジメントで判決
することは不当であることになる。
Monsanto社は、1986年10月に発明したことについて、発明者の証言と同日付の研究メモに依存している。
しかしその研究メモは、基本的な合成遺伝子の着想を示しているものの、831特許のクレームが要求しているよ
うな構成要件まで開示はしていない。
この点についてMonsanto社の発明者は、そのような技術について証言しているが、もしそれがMonsanto社
の研究プログラムの副産物であればその発明の着想があったとはいえない。発明の着想があったとするために
は発明者がその時点で発明着想を認識し、且つ評価して(recognized and appreciated)いなければならない。
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証拠によればMonsanto社が1986年10月に発明を着想したと法律上当然の結論といえるほどではなく(サマ
リー・ジャッジメントで決着できる基準)、むしろその1年後の1987年9月であったともえいる。
もしそうであるとすると、Mycogen社の着想そのものはその前であったので、次にMycongen社はその着想日
から実施日(出願日)まで勤勉努力が継続していたかが問題になる。
この点について地裁は遺伝子を植物用に作り変える努力はこの「勤勉努力」には該当しないとしたが、My
cogen社はそれに反対している。我々は地裁の見解に賛成する。その理由は、831特許の発明は単に遺伝子を植
物用に表現するだけではなく、遺伝子のコード・シーエンスをデザインする方法にあり、この点の勤勉努力が
なければならい。
しかし地裁での証拠にはMycogen社の発明者の研究ノートに「我々は遺伝子のコード・シークエンスを植物
用遺伝子となるように変えなければならない」という証拠があり、これがもしかすると勤勉努力を継続してい
たという証拠になるかもしれない。この点について地裁判事は審尋していないので差し戻し審でこの点を検討
しなければならない。
次にMycogen社は米国以外での米国プロセス特許の使用について、271条(g)はその時に米国特許が成立して
いる必要はないと主張している。
271条(g)は以下のように規定している。
米国で特許になったプロセスに基づいて作った物(a product which is made by a process patented i
n the United States))を許可なく米国に輸入したりあるいは米国内にて販売の申し出を行ったり、販売を行
ったり、もしくは使用した場合は、もしそれらの活動がそのプロセス特許の権利期間中に行われれば特許侵害
の責任となる。
Mycogen社は、271条(g)はプロセス特許を用いて生産した日についての記載はないので、その日にかかわら
ず、輸入が特許権利期間中であれば特許侵害になるという規定であると主張している。そしてその根拠としてB
ioTechnology General Corp. v. Genentech Inc., 38USPQ2d 1321(Fed. Cir. 1996)を挙げている。
60
Bio-Technology事件は、271条(g)の施行の前に米国プロセス特許を用いて、物を輸入した時には271条(g)
が制定されていた場合は、やはり特許侵害が成立するとした事件である。
しかしその事件ではGenentech社は製品の輸入という行為が重要であると強調した事件で、いつ生産したか
は焦点になっていなかった。つまり製品が輸入されるまでは同条文は存在しておらず、そもそも特許侵害が成
立しないので、同条文の施行日にこの種の問題は生じていなかったのである。よってその裁判では、この事件
で提起されている問題は討議されなかった。
271条(g)の「・・・米国で特許になったプロセスによって作られた・・・」の意味は、「その時(then)」特許の
プロセスが用いられたことを意味し、「その後(later)」に米国で特許になった・・・ということを意味するわけ
ではない。
つまり「made」と「patented」とは同時平行的に生じていなければならず、特許侵害が発生するためには、
プロセスを用いて物を生産した時に米国プロセス特許が成立していなければならない。
これは立法の経緯を検討してもそのように解釈できる。議会レポートによると同条文の趣旨は、競争企業
が米国プロセス特許を避けるために外国で生産して輸入することを阻止するためにあり、そのために特許権者
が米国侵害者に対して有する保護と同じ保護を外国侵害者に対しても与えようというものである。米国での侵
害者は米国プロセス特許が成立していなければ侵害者とならないのと同じで、海外侵害者もやはり米国プロセ
ス特許が成立していなければならないのである。
よって271条(g)の米国プロセス特許は、海外侵害者がプロセスを用いたときに米国特許が成立しなければ
ならないと結論する。
一方均等論侵害に関してMycogen社は、地裁が831特許の均等論侵害はエストッペルによって一切あり得な
いとしたことについても異議を唱えている。しかし831特許のプロセキューション・ヒストリーを検討すると、
特許クレームは先行技術から自明(容易)という理由と、実施可能要件で拒絶され、当初のクレームより減縮
されたクレームとなって許可された。従ってFesto事件により均等論侵害は一切適用されなくなるので地裁の均
等論侵害なしの判断は正しい。
以上のようにCAFCは、271条(g)の条文は明記していないものの立法の経緯より、米国プロセス特許は、海
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外侵害者がそのプロセスを用いた時に、すでに米国特許として成立していなければならないとした。このよう
な立法の経緯とは米国ではlegislative history(立法の経緯)ないしintention of Congress(議会の意思)
という。
62
特 許 権 者 が「十分な特定」をもって特許侵害の通知をしたか
否かは、通知の内容が問題になり、
侵害者がどのように解釈したかは関係ない
-------------------------------------------------------------------
特許権者が特許製品を生産して、その製品に特許番号を付与していない場合は、特許侵害を明確に通知し
た日以降か、あるいは訴訟を提起した日以降から損害賠償を要求できる(米国特許法第287条)。このような通
知がどの程度特許侵害について言及していれば十分であるかが争われたのが本事件で、CAFCは、特許権者が侵
害者に対して「十分な特定(sufficient specificity)」をもって伝えればそのような通知になり、侵害者がそ
の通知をどのように理解し解釈したかは関係ないと判示した。
Gart v. Logitech Inc., USQPQ2d 1290, 2001年6月26日
発明者Gartはコンピュータに用いられるマウスの形状に関する米国特許第4,862,165号(165特許)を有し
ていた。165特許のクレームにはマウスが「親指の支持表面と残りの3つの尺骨指(注:中指、薬指そして小指)
を、指の先端部、中央部そして指骨節の屈曲部で包むように支持する角度のついた中央表面」を有すると記載
されていた(後の訴訟でこの支持表面と中央表面の関係が問題になった)。Gartは最初Logitech社に165特許を
ライセンスしようとしたが成功せず、結局Moustrak社にライセンスすることになった。そしてMoustrak社は特
許製品のColaniマウスを販売し始めたが、165特許の番号は表示しなかった。
やがてLogitech社が類似のマウスであるVista、Marble、Mouseman等のトラックボールのマウスを販売し始
めると、Gartは弁護士を通じてLogistech社に手紙を送った。
最初の1995年の手紙は、「貴社はこの特許に対して通常ライセンスが必要か否かを決定するために貴社の
弁護士に同封の特許(特にクレーム7及び8)を調べさせた方がよい」というものであった。Logitech社のどの
製品を意味するものかの明記はなかった。しかし後の訴訟でこの通知がVistaマウスに関するものであることに
ついて両社には争いはなかった。
次に1996年の手紙は、「貴社は貴社のトラックボール製品に関して165特許に特に興味でしょう」という内
容であった。これも同様にどの製品に関するものであるかの明記はなかったが、後の訴訟でMarbleマウスに関
63
する通知であることについて両社は争いはなかった。それに対してLogitech社は特許侵害を否定する返答を出
した。
そしてGartは1997年に更に「我が社は、Logitech社のVistaとMarbleトラックボールが165特許を侵害して
いることを調査中である」という通知を行った。しかしLogitech社は再び特許侵害を否定したのでGartは特許
侵害訴訟を提起した。
地裁は165特許のクレーム中の3つの指のための中央表面を解釈するために明細書の記載を参酌してマウス
は、「残りの3つの指を閉鎖ないし囲んだ位置に支持させるための角度のついた棚部(angled ledge)」を有
すると解釈した。そして更に「棚部(ledge)」は凹部又は局面のアンダーカットを有するとした。
地裁はこの解釈に基づいて、Logitech社は文言侵害も均等論侵害していないとサマリー・ジャッジメント
で判決した。同時に1995年及び1996年の手紙は、特許侵害の特定が不十分であるので、損害賠償の起算となる
特許侵害の通知になっておらず、1997年の手紙でVistaとMarbleの特許侵害の十分な通知が行われ、他の製品に
ついては訴訟提起でその通知が行われたとも判決した。
これを不服としてGartがCAFCに控訴したのが本事件である。CAFCの担当パネルは地裁のサマリージャッジ
メントを棄却したが、起草判事リンのデシジョンの要旨は以下の通りである。
地裁のクレーム解釈は誤っている。クレームには「角度のついた中央表面」という限定はあるが、それが
「棚部(ledge)」という限定や棚部が凹部を有するという限定はなく、明細書や図面の記載を取り入れている。
またプロセキューション中にそのような解釈をさせるような記録はない。
従ってこの限定は通常の用語(plain language)として解釈しなければならない。
つまり正しいクレーム解釈は単に角度のついた中央表面であるが、そのようなクレーム解釈で特許侵害が
あるか否かを判断するには証拠が不十分である。侵害品の構造自体については争いはないものの、侵害品の角
度がついた中央表面は果たして中指、薬指、小指をどのように支持するのかについて重要な争いがないと確信
を持って判断できず、サマリー・ジャッジメントで決着はできない。このように、この点は当控訴審では判断
できないので地裁へ差し戻しする。
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次に、特許法第287条(a)が規定する特許侵害の通知については、要するに特許権者が「十分な特定(suf
ficient specificity)」をもって通知したか否かである。しかしその判断のために侵害者が通知をどのよう
に解釈ないし理解したということは問題ではなく、特許権者の行動(activity)が十分であったか否かが問題に
なる。
このような観点から1995年の手紙を分析すると、地裁はこの手紙はGartが特許侵害と信ずるLogitech社の
「活動(activity)」を特定して伝えていないので不十分であるとしたが、この手紙は少なくとも165特許は明
記してあり、且つその内容がVistaのマウスを意味していることについては両社に争いはない。また1996年の手
紙は、地裁はVistaやMarbleのマウスを特許侵害していることをGartが信じていることを伝えていないので不十
分であるとしたが、この手紙も少なくとも両製品を意味していることについても争いはない。従って、Vista
については1995年そしてMarbleについては1996年に十分な特定をもって通知が行われたといえる。その他のマ
ウスは1997年の手紙にも特定がないので、特許訴訟がファイルされた時である。
以上のようにCAFCはクレーム解釈が誤っているので特許侵害については差し戻したが、損害賠償の起算日
についてはVistaとMarbleについてはそれぞれ1995年及び1996年とし、
その他の製品については訴訟提起日と判
示した。
特許に関する通知は、侵害製品と特許侵害を明確に通知すれば、損害賠償の起算が始まる通知になるが、
その基準は「十分な特定(sufficient specificity)」をもって侵害を通知したか否かで、問題は特許権者が
その責任を果たしたか否かで侵害者がどのように解釈したかは問題でないことを明確にした。
一方、特許権者が特許侵害を通知して、侵害者が確認訴訟を提起できる基準は、侵害者が放置しておくと、
特許権者が特許訴訟を提起する恐れがあると知覚したか否かであり、侵害者の理解が問題になる点で両者は異
なる。
65
損害賠償を伴わない差し止めのみを要求する特許侵害
訴訟では陪審員公判を権利として要求できない
-------------------------------------------------------------------
陪審員裁判は、訴訟額が20ドル以上のコモン・ロー(法)の裁判では権利として要求できることが米国憲
法修正第7条に規定されている。従って原告特許権者が損害賠償(法上の救済措置)を要求せず、差し止め(エ
クイティー上の救済措置)のみを求める特許侵害訴訟では、たとえ被告が特許無効、非侵害という法上の抗弁
を行っていても陪審員公判を要求できないとCAFCが判示した。
Tegal Corp v. Tokyo Electron America, Inc.,
CAFC No. 00-1009, 1209, 1307, 2001年7月16日
事件の経緯は以下の通りである。
Tegal社は半導体ウェハの表面処理加工を行う米国特許第4,464,223号(223特許)を有していた。223特許
のプラズマ・リアクタには3つの電極が配置され、その内2つの電極に高周波電力と低周波電力を供給して磁界
を発生させてプラズマを発生させ、イオンのエネルギーと濃度を高いレベルで同時に制御し、加工精度を高め
る技術に関する特許であった。Tegal社は223特許の再審査を請求し、その結果特許は有効であると確認され、
証明書が発行された。
クレームの前段には「・・・プラズマを形成するリアクタ装置」という限定があったが、本体部分にはプラズ
マを限定する構成要件はなかった(通常前段部分のみに現れる限定は、クレームの構成要件にはならない)。
そして本体部分には「第1、第2そして第3の電極」という限定があり、3つの電極が磁界を発生させ、それによ
りそれらの間でプラズマが発生されると同時に、1つの電極はアースされていた。
プロセキューションでは3つの電極の間で1つのプラズマが発生される点、及び電極はスパイク電極ではな
いことが先行技術と異なるという点等が強調されていた。更にクレームには「電極に結合される(coupled to)
交流電力の高周波ソース(あるいは低周波ソース)」という限定があり、これらの限定の解釈が後の訴訟で問
題になった。
また223特許の対応日本出願ではNTT先行技術が引用され、それを克服するためクレームを補正して日本特
許が成立したが、Tegal社はこのNTT先行技術を米国特許庁に開示しなかった。
66
一方、Tokyo Electron America(TEA社)のプラズマ・リアクタ装置には2つの上下電極があり、この間で
プラズマが発生されていた。上部電極はリアクタ室の金属製の室壁(chamber wall)に支持されており、この
室壁はアースされていた。そこで、Tegal社は室壁も実質的に第3の電極であるとして特許侵害で提訴し、損害
賠償(法の救済措置で陪審員が評決する)と差し止め(エクイティの救済措置で判事が決定する)を求めて陪
審員公判を要求した。
それに対し、TEA社は、223特許は無効であり、また、侵害も無いという抗弁を行ったが、反訴という確認
訴訟の形での提起はしなかった(注:抗弁は原告の訴因に対する原告訴訟内での反論であるが、反訴は被告が
原告となる基本的に独立した確認訴訟である。)
Tegal社は、陪審員公判が始まる6日前に突然損害賠償を放棄し、差し止めのみを求める訴訟とし、原告の
訴因は法ではなくエクイティのみになった。
その通知を受けると裁判所は公判を陪審員なしで行うと通知した。
TEA社は陪審員公判を行うことを再考慮するモーションを提起したが、拒否された。
公判ではTEA社の装置に少なくとも2つの電極があり、それらは各々高周波及び低周波電力に接続されてい
た点には争いがなかった。その内の1つの電極は金属製の室壁によって支持されていたので、この室壁が実質的
に第3の電極に相当するかが争いになった。また、電極が「結合された」という点と「プラズマ」の解釈が問題
になった。
最終的に判事は223再審査特許は有効で、NTT先行技術を開示しなかった点に情報開示義務違反はなく特許
の権利行使は可能で、且つ故意の侵害があるとした。故意侵害の認定のため、判事はこの特許侵害を例外的に
悪質であるとして弁護士費用の支払いを命ずると供に差し止めも認めた。
これを不服としてTEA社がCAFCに控訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは陪審員公判は権利として要求できないことを維持したが、地裁判決の一部を棄却し、
差し戻した。起草判事リンのデシジョンの要旨は以下の通りである(以下A、B、C・・・の項分けはデシジョンの
原文中にあるものである)。
背景
A. 223特許、B. イ号装置、C. プロセキューション・ヒストリー
67
(以上は前掲済みであるので省略)
議論
A. レビュー基準
地裁が判事公判の場合のレビュー基準は、法の問題は解釈や適用に誤りがあったか否かであり、事実認定
の問題は明らかな誤りがあったか否かである。後者はたとえ事実認定をサポートする証拠があったとしても、
上告審が証拠全体からみて誤りがあったと明瞭で確実に確信できた時に認められる。United States v. Unite
d States Gypsum Co., 333 U.S. 364(1948).
地裁判決中の種々の異なる判事事項のレビュー基準については、それぞれの項で述べる。
B.
陪審員公判の適否
本件におけるこの問題は、被告が反訴を行わずに抗弁のみを主張し、原告が損害賠償を放棄して差し止め
のみを要求する裁判に変更した場合、被告は陪審員公判をなお権利として要求できるか否かという憲法を絡め
た問題である。
TEA社はこの控訴で、(1)被告は陪審員公判を要求できる独立した権利がある(注:抗弁ではあるが特許非
侵害、特許無効という法上の救済措置を求めているためと考えられる)、(2)地裁は本件訴訟の元の性質を無視
し、救済措置のみに焦点を当てた、(3)地裁は連邦民事訴訟手続き法第38条(d)(陪審員公判要求の取り下げ)、
及び第39条(a)(陪審員公判の権利がない場合)を違反した、と主張している。
この内最初の2つの点の判断基準は、最高裁が示した「問題の事件が、エクイティの裁判所(判事のみ)が
裁く事件というより、法の裁判所(陪審員が入る)が裁く事件に近いか否か」である。Tall v. United State
s 481 U.S. 412 (1987)
これを決定するためには事件と救済措置の両方の性質を検討しなければならず、特に救済措置の性質が重
要であると最高裁が何度も述べている。
本事件の特許侵害訴訟では、原告特許権者Tegal社は、差し止めのみを求め、損害賠償の要求は放棄してお
り、一方被告TEA社の方は特許の無効は別訴訟の反訴でなく、本原告訴訟での抗弁という形で主張している。
68
このような事件で陪審員公判を要求する権利があるかに関する有効な判例はこれまでにない。最高裁はマ
ークマン事件で、「・・・特許侵害事件が陪審員公判で裁かれなければならないことにこの2世紀の間に争いは
ない」と述べているが、このマークマン事件では損害賠償が求められていたので当然ともいえ、本件には参考
にならない。
しかし当CAFCは In re Lockwood 33USPQ2d 1406 Fed. Cir. (1995)でこの問題を分析している(注:Loc
kwood事件そのものは最高裁が意見を述べずに棄却したので拘束力はない)。
Lockwood事件では原告特許権者は特許侵害訴訟を提起し、損害賠償と差し止めを求めた。一方被告は特許
無効(法上の救済措置)を反訴という別訴の確認訴訟を提起した。地裁は特許侵害ないことをサマリー・ジャ
ッジメントで判決したので、被告の特許の無効の確認訴訟を審理することは無意味になったという理由で、そ
れを陪審員公判で行うことを拒否した。しかし、当CAFCは被告の特許無効の主張は反訴という独立した形の確
認訴訟であるので原告の訴訟の結果にかかわらず審理を行わなければならず、しかも救済措置は法上のもので
あるので、特許権者は陪審員公判を要求する権利を有すると逆転させた事件である。
その判決の中では18世紀のイギリスの裁判を分析したが、そこでは特許侵害訴訟は法でもエクイティでも
いずれでも提起でき、もし差し止めのみを求めるならエクイティ裁判になり、損害賠償のみを求めれば法裁判
所で争われていた。
本事件においても救済措置は差し止めのみになっており、これはエクイティである。従っていずれの当事
者も陪審員公判を要求する権利はない。結論として、原告特許権者の求める救済が差し止めのみで、被告が抗
弁のみを行い反訴がない場合には陪審員公判の権利はないと判示する。
TEA社は次に地裁の措置は連邦民事訴訟手続き法第38条(d)及び第39条(a)を違反していると主張している
が、これらの条文の違反もないことは明らかである。
C. 「電極」の解釈
クレームの解釈は法の問題なので地裁のクレーム解釈は全面的見直し(de novo)で行う。
まず、電極には広い意味があり、クレームでも広い意味で用いられているので明細書の記載を参酌しなけ
ればならないが、ここでも限定はされておらず広い意味を有すると考えられる。
次にプロセキューション・ヒストリーを分析すると、Tegal社は223特許は引用された先行技術と比較して3
つの電極の間で1つの放電を発生する点で異なると主張した。例えば、「先行技術には、交流電源を接続して3
69
つの電極から1つの放電(つまりプラズマ)を発生させるということを当業者が考える開示は何もない」と述べ
ている。このことからTEA社は、223特許のクレームでは電極自身がプラズマを発生するという意味であると主
張している。しかし、明細書の記載を参酌すると電極が発生するのは磁界であり、その磁界がプラズマを発生
させるのである。つまり、電極はプラズマに結合されてさえいればよく、電極自身が直接プラズマを発生させ
るのではない。
また、出願人は、223特許はスパイク電極を開示している先行技術(Cotton)とも異なると主張しているの
で、223特許はスパイク電極を含まないといえる。
以上のことからクレームの「電極」とは、導電性の表面体のいかなるものでもよく、金属室壁を含み得る
と共にスパイクを除いた他の表面体も含み、プラズマに結合されており、且つ電源に接続されているものを含
むと解釈する。
D. 「プラズマ」の解釈
TEA社は、「出願人はプロセキューションでプラズマに関して先行技術と比較してグロー放電を意味する」
と述べたと主張している。
これに対し、Tegal社は、TEA社はマークマン・ヒアリングではプラズマの解釈について争っておらず、公
判になって初めて争っており、これはすでに遅すぎ、放棄したものであると主張している。
我々は何故両社がプラズマの解釈について公判の前のディスカバリー段階でに争わなかったのか理解でき
ないが、少なくとも公判の段階では争われ、判決の中でも間接的ではあるが言及されているので、この争点が
放棄されたものとは解釈しない。
まず、プラズマという限定はクレームの前文のみにあらわれ、本文にはないが、両当事者はプラズマが少
なくとも電極と関連してクレームを限定する構成要件であることについては争っていない。
明細書は、プラズマがイオンのみからなり、磁界により発生されるものであると説明している。しかしス
パイク電極から発生されるプラズマが含まれないことは前述した通りである。
結局プラズマとは、電極間に生成される高周波及び低周波磁界によって発生される粒子が荷電されたもの
であると解釈する。
70
E. 先行技術と同一か否か
地裁判事は223特許は先行技術のItakuraと同一でなく、有効であると判断したが、これは事実認定問題で
もあるので、明白な誤りがあったか否かでレヴューする。
Tegal社は自身の専門家証人はItakuraは3つの電極を開示していないと証言したと主張しているが、そのよ
うな証言は証拠の中に見い出せず、Tegal社もどこにその証言があるかにについては巧妙に指摘を避けている。
このように専門家証人の証言はTegal社の主張に反し、またItakuraのFig. 2は実際に3つの電極を開示してい
る。
地裁はItakuraの金属グリッド8は電極ではないと判断したが、これに反してItakuraの明細書には「電極8
は多数の穴がある」という記載があり、金属グリッド8は第3の電極に相当している。
従って地裁の事実認定は、明白な誤りである。
しかしながらクレームの他の限定である周波数の開示があるか否かについて地裁は判断していないので、2
23特許がItakuraと同一であるか判断できないので地裁に差し戻して審理させる。
F.
先行技術から自明(容易)か否か
特許が先行技術と比べて自明(容易)か否かの判断は事実認定を基にした法律上の結論であるので、基礎
となる事実認定については明白な誤りの基準でレヴューし、自明性の結論については全面的見直し(de novo)
の基準でレヴューする。
地裁が223特許は日本特許庁が用いた先行技術であるNTT先行技術から自明でないとした根拠は、NTT先行技
術が「室壁(chamber wall)」を開示していないという事実認定を行ったためである。これに関してNTT先行技
術には「室内は真空ポンプで空にされる」という記載がある。室内を真空にすることは閉鎖された構造を有す
ることであり、これは室壁を有することを示唆しているともいえる。しかしNTT先行技術は室壁や壁そのものに
ついての記載は全くないので、室壁の開示がないと結論した地裁の判断に明白な誤りがあったとはいえない。
とはいっても223特許がNTT先行技術から自明でないとは限らない。この点についてTEA社は室壁を用いるこ
とは自明であるという証言を引用して争っている。
但し特許を無効にするためには明白且つ説得力のある証拠で立証しなければならない。上記証言はこのよ
うな基準の証拠とはいえないので、結局地裁判示の通り、TEA社は223特許はNTT先行技術から無効であると立証
71
していないと結論する。
G. 不正行為(情報開示義務違反)
不正行為があったか否かは判事の裁量で決定されるので、レヴューする基準は裁量の乱用があったか否か
である。これは事実認定に誤りがあったか、法の適用や解釈に誤りがあったか、判決に明らかな誤りがあった
か等で判断される。
Gen. Electro Music Corp. v. Sanik Music Corp. 30 USPQ2d 1149 Fed. Cir
(1994)
地裁はNTT先行技術は223特許の日本出願で引用されたが、それを米国特許庁に開示しなかったことは不正
行為でないと結論した。
これが正しかったか判断するためには、NTT先行技術を米国特許庁に隠そうとした「意図(intent)」があっ
たか否か、そしてNTT先行技術がアメリカの出願に対して「重要な(material)」情報であったか否かを判断しな
ければならない。
TEA社は日本出願はNTT先行技術の引用の後にクレームを補正して日本特許が成立したので「重要な」情報
であったと主張している。しかし、TEA社は何故補正をしたかという理由と、日本と米国特許制度における特許
性の相違点については説明していない。プロセキューション・ヒストリーを分析するとTEA社はこの問題を過大
評価しているとも考えられる。
NTT先行技術が重要な先行技術か、あるいは単なる累積的な先行技術かについては問題はあろうが、地裁が
NTT先行技術はそのような重要な先行技術ではなかったと結論した点に、逆転すべき誤りがあったといえない。
H.
特許侵害
文言侵害があるか否かはTEA社装置が223特許クレームと同一であるか否かという事実問題認定であるので、
明白な誤りがあったか否かの基準でレヴューする。
TEA社は、同社のプラズマ装置ではプラズマが上下の電極間で閉じ込まれ、アースする室壁には結合されな
いので、文言侵害はないと主張している。
地裁判決はこの点に関し、「プラズマの密度は室内の場所によって変わるが、全体に拡張されることは可
72
能で、上下の電極のみに閉ざされることはない」と説明している。またプラズマの流れが室壁まで届くことは
明白な事実であると認定している。
そしてTEA社の装置では室壁の上でエッチングやスペッタリングが生じている証拠がある。このような証拠
がある場合、地裁の文言侵害有りに明白な誤りがあるとはいえないのでこれを維持する。
I.
故意侵害、弁護士費用
故意侵害は明白な誤りがあったか否かでレヴューし、弁護士費用は裁量権の乱用があったか否かで判断す
る。
前述したように、223特許が先行技術先と同一ではないという点は我々は棄却し、差し戻している。従って
原告が勝訴するかまだ不明であるので、故意侵害、弁護士費用についても棄却し、差し戻す。
J.
差し止め
差し止めも裁量の乱用があったか否かでレヴューする。この点も223特許が無効でない点を棄却し、差し戻
したので差し止めについても棄却し、差し戻す。
以上のようにCAFCは、本件については陪審員公判の権利がないとすると共に、地裁判決の一部を維持し、
一部を棄却、差し戻した。
1995年に、In re Lockwood事件が出された時に、筆者は本稿で、原告特許権者が損害賠償で要求せずに差
し止めのみを請求すれば陪審員公判を回避できる可能性があることを述べたが、結局これは被告が特許無効、
非侵害等(法上の措置)を単なる抗弁として行うか、あるいは反訴という別件の確認訴訟で行うかによって異
なることになる。
反訴では被告が原告になる独立した確認訴訟になるので、原告(被告)が要求する救済が法上のもの(特
許非侵害、特許無効)である限り、陪審員訴訟は権利として要求できることになる。このような被告の確認訴
訟における救済措置には損害賠償は一切ないので憲法の規定の「・・・訴額が20ドル以上・・・」という定義に入ら
ないが、裁判所の訴訟費用自体は現在では少なくとも20ドルを越えるので、憲法違反にはならないのであろう。
73
クレームの発明が先行技術から自明と結論する場合で、
争点がその核心的問題の場合には、
結論を支持する何らかの証拠がなければならない
-------------------------------------------------------------------
最高裁は1年前のZurko事件で、CAFCが米国特許庁の審決をCAFCがレヴューする場合、「明白な誤りがあっ
たか否か」を適用するのではなく、行政手続き法(米国特許庁は行政機関)が定める「実質的証拠があるか」
でレヴューしなければならないと1999年6月10日に決定し、Zurko事件をCAFCへ差し戻していた。
これを受けてCAFCは特許出願拒絶の審決を実質的証拠の基準で見直したが、審判部が自明と結論した際に
それが核心的問題にもかかわらず、その結論を支持する実質的証拠がないので、この基準でもやはり審決は誤
りであると判示した。
In re Zurko, Fed. Cir. No.96-1258, 2001年8月2日
事件の経緯の概略は以下の通りである。
Zurko社はコンピュータシステムのセキュリティ・システムのセキュリティに関する特許出願を行ったが、
米国特許商標庁は先行技術から自明(容易: obvious)であるとしてこれを拒絶査定した。そこでZurko社は1
996年にCAFCへ控訴したところ、どのような基準でこれをレビューすべきかが問題になった。Zurko社は先行技
術から自明か否かの判断は事実認定問題(factual finding)であるので、従来から用いている審決に「明ら
かな誤りがあったか否か(clearly erroneous)」(普通、地裁判事の事実認定をレビューするときに用いら
れる基準である)であると主張した。
しかし米国特許商標庁は、行政機関であるので、その場合は行政手続き法(Admininstrative Procedure
Act)に規定されている「実質的証拠があるか否か(substantial evidence)」(普通、陪審員の事実認定を
レビューするための基準と同じで、明白な誤りよりは事実認定を棄却しにくい)であると主張した。
「実質的証拠があるか否か」の基準は、行政機関の処分をより尊重するレビュー基準といわれ、この基準
では審決を軽々に棄却できない。これに対して「明白な誤りがあるか否か」の基準は、より厳しく処分を見直
す基準といわれている。
74
当時控訴を受けたCAFCは、米国特許商標庁の最終処分に対するレビュー基準はこれまで明確にされていな
かったことを認めたが、それまでのCCPAないしCAFC判例では昔から「誤り」に関する基準を用いており、よっ
て「明白な誤りがあったか否か」の基準を適用するとした。そしてその結果、結局米国特許商標庁の拒絶査定
は誤りであったとして1998年に審決を覆した。これに対して米国特許商標庁はこれを不服として同年に最高裁
に上告したところ、最高裁は1999年に米国特許商標庁の主張に同意して、CAFCは「実質的証拠があるか否か」
の基準を適用するのが正しいとして、CAFCデシジョンを覆し、差し戻していた。
このCAFCデシジョンはその差し戻し審において、CAFCが新たな「実質的証拠があるか否か」の基準によっ
て米国特許商標庁の審決を見直した事件である。
CAFCの担当パネルは、審決はやはり誤りであるとしたが、起草判事アーチャーのデシジョンの要旨は以下
の通りである。
特許が先行技術から自明(容易)とした結論のレヴュー基準は、まずその基となる事実認定については実質
的証拠があるか否かで判断し、無効という法的結論については審決を尊重することなくレヴューする(全面的
見直し(de novo)を意味する)。
事実認定については(1)先行技術の範囲と内容を理解し、(2)その分野における当事者のレベルを特定し、
(3)クレーム発明と先行技術の差を見極め、そして(4)自明/非自明の客観的証拠を適用しなければならない。
実質的証拠のレヴュー基準は、判事の事実認定のレヴュー基準である明白な誤りがあったか否かよりも、
特許庁の事実認定をより尊重する基準である(米国特許庁は特許の専門機関であるため)。しかし最高裁が述べ
たように両者の差は微々たるものであり、実際にその差によって結論が変わったというケースはまだない。 控訴裁は行政機関の専門性を尊重しなければならないものの、その事実認定を盲従してはならない。我々
は特許の専門家の立場というレンズから審尋するべきである。
本件において、Zurko社はUNIXという先行技術は本発明の構成要件の1つである「信用のあるパスを通った、
信用のある環境とユーザーの間のコミュニケーション」という限定を開示していないと争っている。米国特許
75
商標庁はこれを認めつつも、この点は他の4つの先行技術に開示されているという実質的証拠があると主張して
いる。しかしこれは誤りである。これらの4つの先行技術は、UNIX先行技術にはそのようなコミュニケーション
がないと開示しているのみである。
米国特許商標庁は更に、たとえUNIX等が信用できるパスを開示していなくても、そのようなパスは基礎的
知識であるとも争っている。しかし先行技術に開示していないことを「基礎的知識」であるという単なる結論
で補うことはできない。これが「基礎的知識」であるという証拠はないので、実質的証拠に欠けているといえ
る。
米国特許商標庁は専門家機関であるので、もし争点が自明に関する周辺的問題であるなら、その専門性の
判断に委ねることもできるが、本争点のように、核心の問題である場合には、経験や専門性に基づく単なる結
論であってはならなく、何らかの具体的な実質的証拠がなくてはならない。
よって、米国特許商標庁審決を実質的証拠の基準から棄却し、差し戻す。
以上のようにCAFCは自明か否かの問題が周辺的な争点の場合はともかく、核心的争点の場合は何らかの証
拠がなければ審決を棄却するとした。この両者の差はこのデシジョンでは必ずしも明らかではなく、今後この
点が訴訟で争われ、明らかになっていくことになろう。 76
使 い 捨 て フ ィ ル ム・ パ ッ ケ ー ジ の カ メ ラ は
1回 以 上 の 使 用 の 寿 命 が あ り 、 回 収 、 修 復 し て
販売することは特許侵害にならない
------------------------------------------------------------------ 特許製品を購入すると特許権は消尽し(exhaust)、購入者は修理(repair)したり、メインテナンスする
ことは当然できる。しかし一旦特許製品の寿命が尽きてそれを再生(reconstruct)すれば特許の再生になるの
で特許侵害になる。この事件は一回限りの使い捨てフィルム・パッケージというカメラを回収し、新しいフィ
ルムを装填し、フラッシュとバッテリーを取り替え、再びカメラをシールして新製品として販売した場合で、
しかもそれらの修復作業自体は特許権でカバーされることに争いがない場合に果たして特許侵害が成立するか
が争われた事件である。
Jazz Photo Corp. et al. v. Fuji Photo Film Co., Ltd.
Fed. Cir. No. 99-1431, 1504,1595,1596, 1601, 2001年8月21日
事件の経緯は以下の通りである。
Jazz Photo社等のカメラ修復会社は、世界で販売されているFuji Photo社の一回限りの使い捨てフィル
ム・パッケージのLFFP(lens-fited film package: カメラという名称であると反復使用が当然可能になるの
で、一回しか使用できないフィルムというイメージの名称がつている)を回収し、作り直してフィルムを装慎
する等の修復(refurbish: CAFCは修理でも再生でもなく、法律的に意味のない一般的修繕作業としてこの用
語を用いた)を行い、アメリカに輸出して再販していた(Fuji photo社の商標はカメラ本体からはずしていた
ようで、特に問題になっていない)。そこでFuji Photo社はそのような行為は、同社が所有する15件の特許侵
害になるとして、輸入停止命令を求めてJazz Photo社等の27社をITCに提訴した。
ITC手続きでは、被告の27社の内、8社は答弁さえ提出せずにITC手続きに一切関与せず、10社は出頭しなか
った(答弁書は提出したものとみられる)が、1社についてはITC訴訟が却下された。そして残る8社がITCヒア
リング(公判)に出頭した。ITC委員会は、被告による使い捨てカメラLFFPの修復はかなり手数がかかっており、
特許製品の修理(repair)でなく再生(reconstruction)に該当し、特許侵害になると決定して輸入停止命令
を出した。それを不服として8社の内、3社がCAFCへ控訴したのが本事件である。
CAFCの担当パネルは、米国内で特許製品の販売があれば米国特許は消尽し、使い捨てLFFPの寿命が消尽し
77
ない内に、後述する8つの修復行程を経て再利用する限り、それはあくまで修理であり、これまでの判例に反す
るので特許侵害にならないとITC決定を覆した。但しITC手続きに出頭しなかったり、提出した証拠が不十分な
被告に対してはITC決定をそのまま維持した。起草判事ニューマンのデシジョンの要旨は以下の通りである(見
出しはデシジョンに実際に用いられているものである)。
議論
ITC委員会の事実認定のレビュー基準は行政手続法(ITCは行政機関であるため)の規定によって実質的証
拠があるか否かであり、法的結論については全面的レビュー(plenary review)であり、ITCの結論を尊重せ
ずにレビューする(いわゆるde novo(全面的見直し)を意味する)。
Fuji Photo社特許
LFFPの構造は比較的簡単で、重要な部品はプラスチック・ケース、シャッター、シャッター・リリース・
ボタン、レンズ、ビューファインダー、フィルム機構、フィルムカウント表示等であり、機種によっては更に
フラッシュとバッテリーがあり、全て一回のみの使用を目的としていた。
問題の特許は、通常特許10件、再審査特許1件そして意匠特許3件である(デシジョンには15件と記載され
ているが、特許番号が示された特許の数はこれらの14件である)。
米国特許4,954,857号(発明のタイトルはlens-fitted photographic film packageでカメラという用語は
使っていない)はLFFPの全体構造に関し、同第4,833,495号はフィルムを走進させる機構に関し、同第4,855,7
47号はフィルム室とフィルム走路に関し、同第5,235,364号はフラッシュ機構に関し、同第5,361,111号はシャ
ッターのための押しボタン機構に関し、同第5,381,200号はシャッターそのものの機構に関し、同第5,408,288
号はフィルムの巻き上げホィール機構に関し、同第5,436,685号はLFFPの再利用が容易になるような機構に関す
る特許であった。
そして輸入された修復LFFPがこれらの特許のクレームの全てあるいは一部のクレームを侵害していること
に関しては当事者に争いがなかった。
被告の修復行為
多数の被告の内、一部の社はディスカバリーを全てあるいはその一部拒否し、また他の社は不十分な証拠
78
や信憑性のない証拠しか提出せず、結局ALJ(行政裁判官)は全ての被告のそれぞれの修復作業を詳細に特定で
きなかったので、全被告に共通の修復作業の概略を以下の通りと認定した。
・カードボードカバーの取り外し
・LFFP本体の開封(大体溶接の1カ所を切断)
・巻き取り歯車の交換ないしフィルム・カートリッジの修正
・フィルム・カウンターのリセット(0に戻す)
・フラッシュ付LFFPのバッテリー交換
・新フィルムをスプールに巻き付け
・LFFPを粘着テープないしのりで封鎖
・新しいカードボード・カバーの取り付け
そしてITC委員会は以上の修復作業は(かなりの作業であるので)特許製品の修理ではなく再生になってお
り、特許侵害になると決定した。
それに対し被告は、その作業は以下の理由で再生ではなく修理であり、特許侵害にはならないと本控訴で
争っている。
・新しいLFFPを作っているわけではなく、使用済みカメラ(被告はカメラと呼んでいる)にフィルムやバッテ
リーを再装填しているのみである。
・LFFPは一回の使用よりずっと長い寿命がある。
・特許権は最初の販売で消尽(exhaust)している。
・特許権者は、被告がLFFPを再利用する権利を阻止することはできない。
立証責任のレビュー基準
被告の修復が修理であり特許侵害でないという立証責任は被告にある。その理由は、Fuji Photo社はITC
で特許侵害を既に立証しており、被告がその行為は修理であるという積極的抗弁(訴訟頭初の答弁段階で抗弁
しなければならず、そうしないと放棄したものとみなされる)を行っているので、被告がその立証をしなけれ
ばならない。立証があったか否かのレヴュー基準は証拠の優劣(preponderance of the evidence)で判断す
る。
79
修理と再生に関する判例法
特許製品の購入者は、条件付販売(本件ではこの点のライセンスも問題になった)でない限り、それを使
用し、修理し、修正し、破棄し、あるいは再販する権利を有する。
しかし特許製品を作る権利(right to contract)自体は特許権者にあるため、実質的に新しい製品を作る
ことはできない。
最高裁は、Wilbur-Ellis Co. v. Kuther 141 USPQ 703 (最高裁1964)事件で、そこでの修復は、「特許
装置の6つの部品を修正したりサイズを元に戻したりする通常以上の手数がかかっているものの、元の装置の有
用な寿命を延ばすためであるので、再生というより修理である」と判示している。これまでの判例では元の特
許製品の有用性を維持するために、非特許部品を分解したり、クリーニングすることは修理であるとしている。
General Electric Co. v. United States 198 USPQ 65(Ct. Cl. 1978)では、海軍が銃をアッセンブリー
ラインを用いて分解しながら大幅にオーバーホールしていたが、元の銃の修理にすぎないと判示している。
また、最近の事件では、最初の所有者が捨てたクラッチを回収して分解し、クリーニングし、部品をそろ
えて再びクラッチに組立る作業を大規模な商業ベースで行っていても修理であるとしている。Dana Corp. v.
American Precesion Co. Inc., 3 USPQ2d 1852 (Fed. Cir. 1987)
修復が特許製品の再生になるためには担当の再生作業がなければならない(修理の判例を10件ほど挙げて
いる)。そのような最近の事件では、Sandvik Aktiebolag v. E.J. Co. 43 USPQ2d 1620(Fed. Cir. 1997)が
ある。ここではカッティング・チップがもはや再研磨できず、再利用もできなくなった後に、全く新しい特許
の形状のチップに作り直した時にそれは再生になり、特許侵害になるとCAFCが判示した。CAFCは、特許製品が
「全体としてみて消耗し尽くされ、新しい製品が作られた」ので再生になると説明している。
修理/再生の相違の根底にある原理は、特許権の消尽(exhaustion)の原理である。これは特許製品を特許権
者の承認の基に販売した場合は、その後の販売や使用については、特許権者のコントロールは「消尽する(exh
aust)」という原理である。従って特許製品が米国で販売された場合には米国特許は消尽する。しかし、それで
も特許製品を再生すれば、最初の販売で得られた権利を越えることになるので特許侵害になる。
本事件で、Fuji Photo社は、輸入されたLFFPの幾つかは米国外で販売され、それから輸入されたと主張し
ている。これを裏付ける証拠はあるので、その場合は米国特許は消尽しない。最初の販売で米国特許権が消尽
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されるためには米国で最初の販売がなければならない。Bovesch v. Gratt 133 U.S. 697(1890).
従って我々の今回のCAFCデシジョンは、米国で販売があった被告のみに適用される。
判例法の適用
ITCのALJ(行政裁判官)はSandvik事件の4つの要因を適用してLFFPの寿命後に特許製品の再生があったとし
たが、その根拠の1つは購入者が使用後にLFFPを捨てていたという点である。
このようなITC委員会の結論には一応の論理はあり、公共の利益も反映しているものの、これまでの判例に
よればこれらのカメラ(CAFCも明らかにLFFPをフィルム・パッケージといわず、カメラと記述している)は修
理されたものであり、再生されたものではない。
Dana事件では、トラックのクラッチは所定の寿命が尽き(大規模な商業ベースの修復を行ってい)たもので
あったが、それでも使用済みクラッチの作り直しは再生というより修理に近いと判示された。
General Electric事件でも銃の修復は大幅であったが、修理とみなされた。新しいフィルムを入れ、カウ
ンターをセットし直し、破れたケースを修繕することはこのような判例によれば修理に近いものである。特許
製品を購入すれば、使用に適するように維持する権利がある。
被告はLFFPの全ての部品はフィルムとバッテリーを除くと、全てまだ寿命があり、再利用されており、修
復LFFPは実質的に元のカメラと同じであると強調している。
この点についてITC委員会は、Fuji Photo社の再利用をしてはならないという「意図」に重点を置き、087
特許の明細書には「・・・新しいフィルムを入れる事は不可能である・・・」という記載がある点を指摘して
いる。
しかし特許権者の一方的意図は、それだけでは特許製品の再利用を禁じるものではない。
被告はフィルムや取り外しできる容器は汎用部品であり、それらを入れ替えても特許製品の再生にはなら
ないと争っている。
いずれにせよ寿命の短い部品を替えることは修理の性質の作業であり、再生の性質のものではない。
Fuji Photo社の6つの特許はLFFPの部品に関するものであるが、修復行程ではこれらの部品は元の部品を
そのまま用いているので、これらの特許の再生はあり得ない。
使用の制限の暗黙のライセンス
Fuji Photo社は、消費者は、LFFPに記載されているLFFPは1回しか使用できないという指示事項や注意事
項を知った上でLFFPを購入しており、そのため使用が一回に制限されるという、販売契約上の暗黙のライセン
ス限定があるとも主張している。
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このようなライセンスの問題は契約法によって決定される。契約上の明示あるいは暗黙のライセンスがあ
るか否かの問題は、法の解釈の問題である(注:陪審員等が決定する事実認定ではなく、判事が法解釈として契
約内容を判断する)。
Hewlett-Packard事件で述べられたように、「販売者の意図は、有効な契約に明記されていなければ、特許
の組み合わせを再生しない限り、購入者の特許製品の使用、販売、修繕を制限できない」ものである。
LFFPに記載されている注意書きは、購入者に対する指示やリスクの警告にすぎず、販売があった時の約束
や条件ではない。
これらの指示や警告はカメラの使用に関して契約の形であったわけではなく、また販売者と購入者あるい
は破棄されたカメラの回収者との間に「意見
(心)の一致(meeting of the minds)」があったわけでもない
(注:
契約書面の内容が不明確な時に、契約があった範囲を決定する判例法上の基準)。
従って我々は販売の状況から使用の制限に関して暗黙のライセンスがあったとは認めない。
方法の特許
649特許はフィルムを装填する方法に関する特許であり、
この方法を海外で用いて米国に製品を輸入すれば
特許侵害が成立する。この方法特許に対しても製品の販売が米国であれば米国特許権は消尽し、修理である限
りの修復はできるという原理は適用される。
但し、この特許についても証拠を提出することを拒否した企業に対してはITC委員会の決定をそのまま適用
する。
要約
ITC委員会の事実認定は一般的に認識された8つの共通の修復作業に基づいているが、たとえそれだけでは
修理であったとしても、それに加えて更に加工作業が重なってくれば、いつかは特許侵害になる再生行為にな
る。しかし修復作業がわからない被告を特許侵害なしとするわけにはいかない。修復作業の証拠が出ていない
社や、生産施設に対するディスカバリーを拒否したり、証拠が不十分で、信憑性のない被告に対してはITC決定
を逆転させるものではない。
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一般的に認識された8つの共通の修復作業のみを行っている被告に対しては、
特許侵害とならない修理であ
るのでITC委員会の決定を逆転させる。
被告の中で、ディスカバリーを拒否したり、不十分な証拠を提出したり、信憑性のない証拠を出した被告
は、修復作業が修理か再生か、当CAFCで判断できないのでITC決定を逆転させることはできない。
649特許の有効性と権利行使可能性
被告は649特許はProntor-WerkとVoightlanderないしKodakの先行技術の組み合わせから無効と主張してい
るが、これらの特許技術を組み合わせる示唆が無く、649特許の無効を立証していない。
またこれらの先行技術は審査官が依存した先行技術と同じ程度の累積的先行技術であり、且つ被告は特許
権者に隠そうとした「意図」があったことを明確且つ説得力のある立証基準で立証していない。
意匠特許
意匠特許にも販売による特許権消尽は通常特許と同じように適用される。従って意匠特許権の消尽のあっ
たLFFPについてはITC委員会の決定を逆転させる。
結論
以上のように特許侵害でない修理についてはITC委員会の決定を逆転させる。
LFFPが米国内で販売されていなかったか、あるいは修理以上の再生を行っていたか、あるいは製造手続き
をITC委員会に開示しなかったか、十分な開示をしなかった被告に対してはITC決定をそのまま維持する。
差し戻しでITC委員会は、このCAFCデシジョンを取り入れてITC命令を修正しなければならない。
以上のようにCAFCはITC委員会の特許侵害有りの決定の大部分を逆転させたが、これはLFFPというフィル
ム・パッケージは、フィルム(普通は1回しか使えない)という名はついているものの、実質的にはやはりカメラ
であるので、カメラであればフィルムを取り替えて何度も使用できるので修復作業は単なる修理であると結論
したものと考えられる。
しかし特許製品を購入した者自身が修復するならいざ知らず、破棄されたカメラは製品としては消
尽しているはずであるのに、その回収者の修復作業まで修理となると、この種のビジネスが世界中に蔓延し、
いつしか問題になる可能性があろう。
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