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2重力理論におけるツリーユニタリー性 Tree unitarity in R2 gravity
𝑅 2 重力理論におけるツリーユニタリー性 Tree unitarity in R2 gravity 物理学専攻 榎本義規 physics major Yoshiki Enomoto ▼研究目的 端的に研究目的を述べると、修正重力理論である𝑅 2重力理論の散乱断面積を計算し、Llewellyn Smith が提唱 した示唆(以下 Llewellyn Smith の示唆と呼ぶ)が修正重力理論(本研究では𝑅 2重力理論を採用する)でも成り 立つのかを検証することである。では、なぜそのようなことを考えたのかを述べていく。 ▼研究内容 素粒子物理学では自然界の4つの力(電磁気力・強い力・弱い力・重力)を統一しようという試みが昔から行 われており、この統一理論を完成させるためには、重力を量子化した量子重力理論が必要となる。また、宇宙論 の観点からではインフレーションが起こる以前の宇宙やブラックホールの特異点の問題を考えると、これらは一 般相対性理論では説明ができないため、宇宙論的な観点からでも量子重力理論の完成が必要不可欠である。しか し、今現在も量子重力理論が完成したという報告はなされていない。 そもそも摂動論的に量子重力理論と言えるためには、何が言えたらいいのだろうか?それはおおまかには次の 2つ条件 ・繰り込み可能であること ・unitarity を破らないこと が言えればよいことになる。 そして、この繰り込み可能性を調べるためにはループ計算と言われる非常に複雑な計算を行わなければならな いので、なかなか簡単に調べることはできないのが現状となっている。 そこで私は、Llewellyn Smith の示唆に注目した。Llewellyn Smith の示唆とは tree unitarity ≅ 繰り込み可能性 というもので、tree unitarity と繰り込み可能性が関係していることを指している。この関係をより具体的に書く と tree unitarity が破れない ⇔ 繰り込み可能 tree unitarity が破れる ⇔ 繰り込み不可能 ということになり、この関係は Weinberg-Salam 理論、QED、Yang-Mills 理論、massive ベクトル理論、4体 フェルミ模型、そして Einstein gravity で成り立つことが確認されており、反例も見つかっていない。また、こ の関係は繰り込み可能性を調べるには tree unitarity を調べればよいということに帰着する。そして、tree unitarity を調べるためには、tree レベルの散乱断面積を計算すれば調べればよく、散乱断面積の計算はループ計 算に比べたらはるかに易しい。 今までのことをまとめると以下のようになる。 量子重力理論を構成する ⇓ 繰り込み可能 ← ループ計算で確かめる(かなり複雑) unitarity を破らない Llewellyn Smith の示唆が成り立つならば. . . 繰り込み可能 ← tree unitarity を調べる ← tree レベルの散乱断面積を計算する(易しい) unitarity を破らない というわけで、修正重力理論でも Llewellyn Smith の示唆が成り立つのかどうかを検証しようとしている。𝑅 2 重力理論は power-counting で繰り込み可能だとわかっているため、Llewellyn Smith の示唆が成り立つのかど うかを確認するためには、散乱断面積を計算し tree unitarity が破れるのかどうかをしらべればよい。もし、 Llewellyn Smith の示唆が修正重力理論でも成り立つのであれば、新たな重力理論を提案したとき、それが繰り 込み可能かどうかを調べるのに、複雑なループ計算を行わずに調べることができるということになる。これが、 本研究のポイントである。 ▼研究成果 それでは修正重力理論である𝑅 2重力理論における、tree unitarity を調べるために、𝑅 2重力理論の散乱断面積 を計算していく。計算方法(手順)としては ① 作用(Lagrangian)を揺らぎℎ𝜇𝜈 の4次まで摂動展開させる。 ⇓ ② Feynman ルールをつくる。 ⇓ ③ 偏極テンソルを求める。 ⇓ ④ 散乱断面積の計算を行う。 という流れであり、場の理論で最もオーソドックスな方法を採用した。 ① 作用(Lagrangian)の展開について 𝑅 2重力理論の作用は S= 1 ∫ 𝑑 4 𝑥 √−𝑔(𝑅 + 𝛼𝑅 2) 16𝜋𝐺 である。 √−𝑔(𝑅 + 𝛼𝑅 2 ) = ℒ (1) + ℒ (2) + ℒ (3) + ℒ (4) と置くと(ℒ (1) ~ℒ (4)は揺らぎℎ𝜇𝜈 の1次~4次を表すものとする) ℒ (1) = 0 1 1 1 1 2 2 2 ℒ (2) = (𝜕𝜌 ℎ𝜌𝜈 ) − (𝜕𝜅 ℎ𝜌𝜈 )2 + (𝜕𝜇 ℎ) − 𝜕𝜇 ℎ𝜇𝜌 𝜕𝜌 ℎ + 𝛼(𝜕𝜌 𝜕𝜇 ℎ𝜇𝜌 − 𝜕 2 ℎ) 2 4 4 2 1 ℒ (3) = −ℎ𝜇𝜌 𝜕𝜌 ℎ𝜌𝜈 𝜕𝜇 ℎ𝜈𝛼 + ℎ𝜌𝜈 𝜕𝜌 ℎ𝜇𝛼 𝜕𝜈 ℎ𝛼𝜇 + ⋯ ⋯ ⋯ 4 1 1 2 + 𝛼 ( 𝜕𝜌 𝜕𝜇 ℎ𝜇𝜌 (𝜕𝜌 ℎ𝜌𝜈 ) − 𝜕𝜌 𝜕𝜇 ℎ𝜇𝜌 (𝜕𝜅 ℎ𝜌𝜈 )2 + ⋯ ⋯ ⋯ ) 4 4 ℒ (4) = ⋯ ⋯ ⋯ となった。 ② Feynman ルールについて ℒ (2) からはプロパゲータ:𝑃𝜇𝜈;𝜆𝜎 が求められる。結果は 𝑃𝜇𝜈;𝜆𝜎 = 𝜂𝜇𝜈 𝜂𝜆𝜎 − 𝜂𝜇𝜆 𝜂𝜈𝜎 − 𝜂𝜇𝜎 𝜂𝜈𝜆 14𝜂𝜇𝜈 𝜂𝜆𝜎 − 2 1 2𝑘 2 𝑘 +4𝛼 となった。 また、ℒ (3) からは3点バーテックス:𝑉 (3) (𝑘1 , 𝑘2 , 𝑘3 )𝛼1𝛽1,𝛼2𝛽2,𝛼3𝛽3 が求められる。結果は 𝑉 (3) (𝑘1, 𝑘2 , 𝑘3 )𝛼1𝛽1,𝛼2𝛽2,𝛼3𝛽3 = 2𝑘2 (𝛼2 𝜂𝛽2)(𝛼3 𝜂𝛽3)(𝛼1 𝑘3 𝛽1) + 2𝑘2 (𝛼2 𝜂𝛽2 )(𝛼1 𝜂 𝛽1)(𝛼3 𝑘3𝛽3 ) + ⋯ ⋯ ⋯ 1 + 𝛼 ( (𝑘1 𝛼1 𝑘1 𝛽1 − 2𝑘12 𝜂 𝛼1 𝛽1 )𝑘2 (𝛼2 𝜂 𝛽2)(𝛼3 𝑘3 𝛽3 ) + ⋯ ⋯ ⋯ ) 2 +𝑐𝑦𝑐𝑙𝑖𝑐(1,2,3) となった。 ⋯ ⋯ ⋯というのは数式が長すぎるため、省略していることを意味している。 修士論文を書く段階では Feynman ルールをつくることまでしか終わらなかったが、 これだけでも十分な成果で ある。𝑅 2重力理論はプランクのデータとよく一致していたり、𝑅 2インフレーションという模型があるなどの理由 から、宇宙論の分野ではよく議論されている。そのため、最終的なゴールである散乱断面積を求めるまでには至 らなかったが、𝑅 2重力理論の Feynman ルールをつくりあげたことは、意味のある仕事である。 ▼研究課題 まずは散乱断面積の計算を終わらせることである。そのためには次にやることは偏極テンソルを求めることで ある。偏極テンソルは graviton の振動方向を表す。例えば光子が z 軸方向に進行している場合、x 軸と y 軸に振 動していることを表す。 偏極テンソルが求まったら、実際に散乱断面積の計算に入ることができ、求めた後は Llewellyn Smith の示唆 が成り立つのかを確認する。 ▼研究のまとめ・今後の展望 Llewellyn Smith の示唆は『tree unitarity』と『繰り込み可能性』が関係しているものである。私はこの関係 が修正重力理論である𝑅 2重力理論でも成り立つのかどうかを調べようとした。𝑅 2重力理論は power-counting で 繰り込み可能なので、Llewellyn Smith の示唆が成り立つかどうかを調べるためには、あとは tree unitarity を 調べればよい。 これは散乱断面積を計算することで確かめられる。 最終的なゴールまではたどり着けなかったが、 Feynman ルールを作り上げることには成功した。 今後の課題としては、まずは計算を最後まで終わらせることである。そして、修正重力理論でも Llewellyn Smith の示唆が成り立っていたら、次は5次元の Yang-Mills 理論や Einstein gravity に matter 場を入れたよう な理論で Llewellyn Smith の示唆が成り立つかどうかを調べることも意味があるかもしれない。 参考文献 [1] 原康夫・稲見武夫・青木健一郎, 素粒子物理学, 朝倉書店(2004) [2] Petr Hǒava, Phys.Rev.D79, 084008(2009) [3] 北村比孝,“ホジャバ―リフシッツ重力の量子化とユニタリー性”, 9(2012) [4] 坂井典佑, 場の量子論, 116, 裳華房(2009) [5] K.S.Stelle, Phys.Rev.D16, 953(1977) [6] C.H.Llewellyn Smith, Phys.Lett.B46, 233(1973) [7] 川村嘉春, 例題形式で学ぶ現代素粒子物理学, 133, サイエンス社(2006) [8] I.J.R. エイスチン・A.J.G. ヘイ, ゲージ理論入門(第2版)―弱い相互作用と強い相互作用, 144, 講談社サイエンティフィク(1992) 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