...

変圧器巻線の損失/温度上昇の分布解析

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

変圧器巻線の損失/温度上昇の分布解析
変圧器巻線の損失/温度上昇の分布解析
Analysis of Loss/ Temperature Rise Of Transformer Winding
高橋 誠※1
Makoto Takahashi
水野 康宏※1
Yasuhiro Mizuno
永田 徹※1
Toru Nagata
1. まえがき
本図では、温度分布は直線的になっているが、実際に
は、この様な単純な分布とはなっていない。精度良く温度
変圧器の設計において、熱の発生のもととなる損失計
算、冷却や各部の温度上昇などの熱計算は、最も基本的で
かつ重要な設計作業の一つである。
一般的な設計では、絶縁油や巻線の温度上昇は、実績
技術の積み上げによる設計式でマクロ的な計算を行って
分布を求めるには、解析計算が必要になる。
2.2 温度設計
変圧器の油や巻線の温度分布計算は、変圧器の発生損失
を求め、次に放熱器他の放熱計算を行い、油の温度上昇を
いる。
しかし、細部の温度を知る要求がある場合は、マクロ的
計算し、更に、図 1 の様な温度分布パターンを想定し、
な計算では不十分であり、計算機による解析により、発生
油、巻線の最高温度を求めている。通常の設計では、この
損失や温度上昇の分布を求めなければならない。特に、新
ようなマクロ計算で十分である。
しい構造の変圧器を開発したり、温度分布により寿命劣化
部位を想定したりする場合に、このような精度の高い解析
が要求される。
2.3 温度分布の必要性
以下、当社で用いている解析手法について紹介する。今
油入変圧器の寿命を決める、支配的なファクターは、巻
回は、絶縁油の温度上昇については割愛し、巻線の発生損
線に用いられている絶縁紙の劣化である。絶縁紙の劣化速
失と、それによる温度上昇の分布を求める解析に絞って、
度は、良く知られているようにアレニウス則に従い、温度
分布解析の概要と、実験結果について報告する。
が高い程寿命は短くなる。
2. 変圧器の構造と温度分布
るために循環して、高温部分に停まることはない。このた
2.1 構造と温度分布
となる。
絶縁物としては絶縁油も高温で劣化が進むが、液体であ
め、劣化は平均温度に依存することになり、比較的長寿命
一方、巻線の絶縁紙については、動くことが無いため、
油入変圧器の内部構造と内部の温度分布の代表例を図1
( 2 ) 。この例は、自冷の電力用油入変圧器であ
に示す(1)
る。外気の周温に対して、油が温度上昇し、更に巻線が油
より温度が高くなっている。温度分布は、高い位置で温度
が高くなっている。
ࠢ࡜ࡦࡊ
㋕ᔃ
高温箇所の絶縁紙が早く劣化が進む。このため、寿命は最
高温度に依存することとなる。
このような事情から、寿命を考慮した最適設計をするに
は、巻線の温度の最高点を知る必要がある。これが、巻線の
温度上昇分布の解析が重要であるといわれる所以である。
3. 解析方法
࠲ࡦࠢ
ᴤߩᵹࠇ
3.1 解析の概要
㜞
ߐ㧔 O 㧕
᡼ᾲེ
巻線の温度上昇は、銅線が損失により熱を発生し、その
熱が、絶縁紙を介して、油に伝導していく事から求めるこ
ᴤ᷷ᐲ
とができる。これを細部に分割して計算すれば温度上昇分
布が計算できることになる。当社では、これを自動計算で
๟᷷
ૐ࿶Ꮞ✢
⛘✼ᴤ
㜞࿶Ꮞ✢
Ꮞ✢᷷ᐲ
きるプログラムを作成し、設計に利用している(3) 。
その計算フローを図2に示す。このフローにおいて、解
᷷ᐲ㧔͠㧕
Cᄌ࿶ེߩ᭴ㅧ
D᷷ᐲಽᏓ
析モデルを作成すれば、あとは自動で温度分布の結果出力
が得られる。銅線の損失計算には、漏れ磁束による渦電流
損も計算するため、有限要素法による磁界解析プログラム
図1 変圧器の構造と温度分布
を利用している。
※1 電力事業部 変圧器設計G
愛知電機技報 No. 27 (2006)
17
巻線は、軸対称の構造であるため、損失/温度上昇計算
の分割単位はコイル1ターンとしている。以下、実際の変
圧器の解析例に従って、解析方法を説明する。解析対象例
(多重円筒巻線 LRT 77kV 10MVA)
の巻線構造を
の変圧器
図3に示す。
(1)磁界解析による漏れ磁束分布解析
有限要素法磁界解析により、得られた磁界分布を図 4
(a)に示す。これを、巻線の半径方向と高さ方向の各成分
(c)で
に分解し、各コイルごとの分布を求めたのが図4(b)
ある。これは、渦電流損を、この2成分の磁束密度により
計算するためである。
3.2 巻線の損失分布解析
(2)巻線の損失分布
マクロ計算では、巻線の損失は、一括計算されるが、温
度分布を調べるためには、コイル1ターンごとに発生損失
を求める必要がある。
巻線の損失は、抵抗損と渦電流損で構成されており、抵
抗損は単純計算でよいが、渦電流損は漏れ磁束が発生原因
であるため、磁界解析が必要となる。
求められた磁束密度をもとに、巻線の渦電流損を計算す
るモデルを図5に示す。図に示すように、銅線(平角線)の
断面の2方向について単位長さ当りの渦電流損を計算し、
(5)。
巻線1ターンの渦電流損を求める(4)
そして、抵抗損を加えて、巻線の損失分布を求めたの
が、図6の結果である。低圧巻線の上部と下部は、漏れ磁
束の影響を受け、損失が大きくなっている事がわかる。
方向の磁束密度 (T)
START
T
汎用有限要素法磁界解析ソフト
解析モデル作成
磁界解析
(有限要素法)
A
B C
D E FGH I J K
r
汎用有限要素法磁界解析ソフト
低圧巻線
高圧主巻線 タップ巻線
巻線の漏れ磁束分布解析
r 方向の距離(mm)
z 方向の距離(mm)
(b) 半径 r 方向の巻線の磁束密度
汎用表計算ソフト
巻線の温度分布解析
(熱抵抗法)
D
高圧主巻線
C
A
B
タップ巻線
E線F
GH
I
J K
クランプ
鉄心
タンク
END
z 方向の距離(mm)
r 方向の距離(mm)
(c) 高さ z 方向の巻線の磁束密度
図2 計算フロー
絶縁シリンダ
アングルバリア
低圧巻線
高圧主巻線
A B C D
EFG H I
低圧巻線
高圧主巻線
タップ巻線
高圧主巻線
低圧巻線
タップ巻線
高
さ
方
向
-z
0
鉄心
J K
高さ z 方向の距離
(巻線高さの中心)
+z
絶縁リング
低圧巻線
z 方向の磁束密度
巻線の損失分布解析
(抵抗損失、渦電流損失)
(T)
巻線の渦電流損失分布解析
z
0
(巻線中心)
油の流れ
エンドリング
r 半径方向
r
半径 r 方向の距離
(d)三次元グラフとの対応
(a)漏れ磁束分布
図3 解析対象巻線構造(多重円筒巻線)
18
図4 磁場解析による巻線の漏れ磁束分布解析
愛知電機技報 No. 27 (2006)
変圧器巻線の損失/温度上昇の分布解析
3.3 巻線の温度上昇分布解析
(1)解析方法
(2)解析結果
解析結果を図8に示す。図6の損失分布からも推定できる
ように、低圧巻線の上部の温度上昇が大きいという結果で
本解析では、図7のモデルに、熱抵抗法を適用して温度
上昇解析を行っている。巻線の1ターンごとに、銅線で発
あった。
最高点の温度上昇は、平均値より約5℃高くなった。
生した、熱(損失)が絶縁紙を介して油に伝導していくモデ
ルである。
今回の解析例は多重円筒巻線構造であるため、層間には
絶縁油が流れているので層間の影響は無視して、ターン間
巻線導体
(平角銅線)
絶縁紙
の影響のみ考慮している。
なお、マクロ計算で求めた油の温度分布に、今回の温度
Pn+4
上昇を加算すれば、温度の絶対値が得られることになる。
・・・
計算で使用する熱抵抗は、絶縁紙については、絶縁紙の
熱伝導率から、絶縁紙表面−絶縁油間については、実験か
ら得た局所熱伝達率からそれぞれ計算して求めている(7)。
Pn+3
巻線の損失には、前述の損失計算の結果を用いている。
Ro
R
Rp
Rp R o
Pn
R
平角銅線
w
・・・
Pn+2
絶縁紙
Br1
P :巻線の損失
R :絶縁紙の熱抵抗(ターン間)
R p: 〃(銅線 ― 絶縁紙表面間)
R o:絶縁紙表面 ― 絶縁油間の熱抵抗
Pn+1
t
Pn
z
高
さ
方
向
Br2
B z1
半径方向
w :平角銅線の幅
t :平角銅線の高さ
Br1 Br2:r 方向の磁束密度
Bz1 Bz2: z 方向の磁束密度
B z2
r
Pn-1
絶縁油
図7 巻線の温度分布解析モデル
図5 巻線の渦電流損失計算
温度上昇(導体)
……:抵抗損失
……:渦電流損
失
B C
タップ巻線
I
D F GH
JK
A B C
20
温度上昇[K]
A
高圧主巻線
低圧巻線
温度上昇 (℃)
損失 (W)
低圧巻線
絶縁油
15
高圧主巻線
I
D
EF G H
4.6℃
タップ巻線
10
JK
5
低圧巻線の平均
10.4℃
0
600
400
E
高さ z 方向の距離 (mm)
200
0
半径 r 方向の距離 (mm)
-200
高さ z 方向の距離 (mm)
巻線中心からの高さ[mm]
図6 巻線の損失分布解析結果
愛知電機技報 No. 27 (2006)
-400
-600
200
250
300
350
400
450
500
550
半径 r 方向の距離 (mm)
巻線中心軸からの距離[mm]
図8 巻線の温度分布解析結果
19
4. 解析結果と実測結果の比較
4.2 解析と実測の比較
解析と実測の比較を図11(a)
(b)に示す。2機種ともに解
4.1 実機の巻線温度測定
析と実測は概ね一致し、解析方法の妥当性がわかった。
実機の温度上昇を測定し、解析結果との比較を行った。
測定は、図9に示すように、光ファイバー温度センサー
5. あとがき
を用いて、巻線の各層の最上位部(各層での最高温度点)の
当社で用いている、変圧器巻線の損失/温度上昇の分布
温度を計測した。また、絶縁油の温度は、図10に示すよう
解析手法と実験結果について紹介した。
に、上部と下部の温度計で計測した。
本技術は、巻線の寿命診断の精度向上など(8)、お客様
なお、解析と実測の比較は、10MVAと20MVAの2機種
のニーズにお応えできるよう、今後さらに発展させていく
で実施した。
所存である。
ૐ࿶Ꮞ✢ 㜞࿶ਥᏎ✢
࠲࠶ࡊᏎ✢
ᴤ᷷䈎䉌䈱᷷ᐲ਄᣹㩷㩿㷄㪀
Ꮞ✢ߩ᷷ᐲ਄᣹
㧔ኻᴤ᷷ᐲ㧕 (͠)
㪊㪇
CᏎ ✢߳ߩశࡈ ࠔࠗࡃ࡯
᷷ᐲ࠮ࡦࠨ࡯ขઃߌ
⸘▚
ታ᷹
,
,
㪉㪌
ᦨ㜞ὐ᷷ᐲ
㪉㪇
㪈㪌
#$ %&'()*+,-
㧦࠮ࡦࠨ࡯ขઃߌ૏⟎
D࠮ࡦࠨ࡯ขઃߌ૏⟎
ૐ࿶Ꮞ✢ߩᐔဋ
㪈㪇
㜞࿶ਥᏎ✢㧗
࠲࠶ࡊᏎ✢ߩ
ᐔဋ
㪌
㪇
㪘
㪙
㪚
㪛
㪜
㪝
㪞
㪟
㪠
㪡
㪢
᷹ቯ▎ᚲ
E᷹ቯߩ᭽⋧
ૐ࿶Ꮞ✢
㜞࿶ਥᏎ✢
図9 実機での巻線温度測定
࠲࠶ࡊᏎ✢
᷹ቯ▎ᚲ
CM8/8# ᴤ䈎䉌䈱᷷ᐲ਄᣹㩷䋨㷄䋩
Ꮞ✢ߩ᷷ᐲ਄᣹㧔ኻᴤ᷷ᐲ㧕
( ͠)
㪊㪇
㪉㪌
㧭శࡈࠔࠗࡃ࡯᷷ᐲ࠮ࡦࠨ࡯
⸘▚
,
,
ᦨ㜞ὐ᷷ᐲ
ታ᷹
㪉㪇
㧮 ਄ㇱᴤ᷷ᐲ
࠳ࠗࡗ࡞᷷ᐲ⸘
Ꮞ✢ߩ᷷ᐲ਄᣹
ኻᴤ᷷ᐲ
㧭 ̆ 㧮
㜞࿶ਥᏎ✢㧗
࠲࠶ࡊᏎ✢ߩ
ᐔဋ
㪈㪇
㧮 ਄ㇱᴤ᷷ᐲ
㜞 ߐ㧔O㧕
ૐ࿶Ꮞ✢ߩᐔဋ
㪈㪌
㧭 శࡈࠔࠗࡃ࡯ߢ
᷹ቯߒߚᏎ✢᷷ᐲ
㪌
㪇
㪘
㪙
㪚
㪛
㪜
㪝
㪞
㪟
㪠
㪡
㪢
㪣
᷹ቯ▎ᚲ
ᴤߩ᷷ᐲಽᏓ
ૐ࿶Ꮞ✢ 㜞࿶ਥᏎ✢
㧯 ਅㇱᴤ᷷ᐲ
㧯
ਅㇱᴤ᷷ᐲ
図10 実測による巻線温度上昇の算出法
20
᷷ᐲ㧔͠㧕
࠲࠶ࡊᏎ✢
᷹ቯ▎ᚲ
DM8/8#
図11 解析と実測の比較
愛知電機技報 No. 27 ( 2006)
変圧器巻線の損失/温度上昇の分布解析
参考文献
(1)電気学会:
『 JEC - 2200 変圧器』電気書院(1995)
(2)変圧器信頼性調査専門委員会:「油入変圧器運転指針」
電気学会技術報告(Ⅰ部)第143号(1986)
(3)金谷、髙橋、ほか:「変圧器設計支援システムの開発」
電気関係学会東海支部連合大会 No.132(2003)
(4)木村 久男 監修:
『新版・変圧器の設計工作法』
電気書院(1967)94 - 95
(5)浅川 七平、清水 栄:
『変圧器』日刊工業新聞(1966)
129-131
(6)L.F.Blumeほか:『変圧器工学』コロナ社(1971)55-56
(7)髙橋、金谷、ほか:「自冷式変圧器の円筒巻線での冷却特
性」 電気関係学会東海支部連合大会 No.149(2002)
(8)電気協同研究会:
『電力流通設備におけるライフサイクル
マネージメントの動向と将来展望』第59巻 第2号(2004)
最近登録された愛知出願
特許―――――――――――――――――――――――――――――――●
特許番号
名 称
発明者
共有権利者
3615477 ブラシレスモータ
西上 秀明
永久磁石モータのセンサレス駆動
3618240
森 和彦
回路装置
城處 元彦
3623371 電動送風機の送風翼取付装置
竹村 淳登
3623380 電動アクチュエータ
北村 昭則
3630501 混合装置
大野 敏也
3630509 回転ドラムの洗浄・乾燥装置
大野 敏也
杉山 浩二
3630514 混合装置
高木 康広
神部 晃
系統連系用太陽光発電システムの 桑原 祐
3630589
制御装置
有川 清二
辻本 賢次
3639192 中性点接地抵抗装置
後藤 直樹
佐藤 一彦
3640448 中性点接地抵抗装置
後藤 直樹
黒川 久貴
ブラシレスモータ、および、その 太田 久義
3644854
ブラシレスモータの磁極位置判別 土本 僚一
3646018 電動アクチュエータ
尾山 弘太郎
布施 三千雄
3657813 食品粉砕装置
田中 武雄
杉本 立央
山口 英之
有機廃棄物処理装置における脱臭
3657841
竹村 哲弥
装置
中川 勝博
山田 喜弘
長江 洋典
3664900 変圧器鉄心及びその製造方法
山田 聡
白石 真澄
3672464 巻鉄心の成形方法及び成形装置
安原 和徳
山田 聡
3672472 モータ駆動回路
太田 土本 駒田
大隅 田中 栗田 白石 3720498 鉄心材料の搬送装置
河瀬 安田 有線駆動システムにおける誤動作
3723619
安達 防止装置
渡会 白石 アモルファス鉄心変圧器の製造
3727454
丸山 方法
山田 3734985 乾燥装置
大嶋 高須
3754559 電磁マグネットのヨーク製造方法
柴田
土本
3762268 非接触電源装置
近藤
大隈
3673676 食品粉砕装置
愛知電機技報 No. 27 (2006)
久義
僚一
圭成
升男
武雄
忠幸
真澄
文雄
徹
パラマウント
隆義
ベッド㈱
智和
真澄
栄太
聡
昭彦
祐二
嘉文
僚一
英二
升男
21
Fly UP