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リスク・テクノロジーの発展

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リスク・テクノロジーの発展
リスク・テクノロジーの発展
2
リスク・テクノロジーの発展
金融機関とテクノロジーは複雑に絡み合って
います。競争優位を維持するためには、革新
の最先端をいかねばなりませんが IT 投資が予
本紙では、アクセンチュアとチャーティスに 調査対象
よる分析に基づき、金融機関におけるテクノ
ロジーの役割を、リスク管理ツールとしての 「リスク・テクノロジーの発展 ¹」は、アンケー
ト調査と 262 名のリスク、コンプライアンス
観点およびテクノロジー自体が生み出すリス
クの観点の両方から考察します。この検討は およびテクノロジー担当者へのインタビュー
以下の 7 つの具体的なテクノロジー分野に焦 の結果に基づいています。
想し得ない結果を引き起こすことがあります
し、その恩恵を受けるには幾つもの壁を乗り
越える必要があります。アーキテクチャが非
効率化したり複雑になりすぎると、企業は狙っ 点を当てて行います。これらは、エンタープ
た効果を得ることができなくなります。現在、 ライズ・リスク・マネジメント(ERM)に及
IT 投資が行われる主な理由は、規制要件とい ぼす現在または将来の潜在的な影響が大きい
う外部圧力であるため、将来的な競争優位の 分野としてアクセンチュアとチャーティスが
構築につながる新しいテクノロジーに裁量的 共同で特定したものです。
に投資するための資金が大幅に少なくなって
1. タブレットによるコンピュータ処理、モバ
います。
イル通信、携帯端末などのモバイルテクノ
金融機関がインフラを開発する際には、テク
ロジー
ノロジー革新が成功した場合の利益とそれに
関わるリスクのバランスを慎重に管理しなけ 2. インターネットを介した仮想サーバの使用
などのクラウドコンピューティング(例:
ればなりません。テクノロジーに関しては、
SaaS)
完全なまたはリスクの全く無いソリューショ
ンというものは存在しません。どのようなテ
3. ソーシャルメディア(例:ソーシャルメディ
クノロジーにも相応の課題が伴います。テク
アデータ、分析ツール)
ノロジーの発展は、生物学における発展と同
様に予測できません。
4. 人工知能(例:自然言語処理、ニューラル
• ア ン ケ ー ト 回 答 者 の 地 域 別 内 訳 は、 北 米
40%、欧州 30%、アジア太平洋地域 16% は、
その他 14% です。
• 回答者の所属する企業の売上高別内訳は、5
億ドル未満 49%、5 億ドルから 300 億ドル
まで 40%、300 億ドル超 11% です。
• 回答者の 80% は、金融サービス業界に所属
しており、その内訳は銀行業、証券業、保
険業がほぼ同じ比率です。
非金融業界の回答者のほとんどは政府、規制
当局、製造業および専門サービス業に属して
います。
ネットワーク、機械学習)
5. ビッグデータ(極めて多種多様で大量な
データを高速処理するための先進的分析
ツールおよび手法の利用)
6. リアルタイムおよび高性能計算(例:イン
メモリー分析ツール、スーパーコンピュー
タ、インスタントメッセージング、複合イ
ベント処理を用いた非常に大規模なシミュ
レーション)
7. オープンソースソフトウェア(オープン
ソースコンテンツを含む)
3
図1:リスク管理の重要性と達成のギャップ
以下の目的達成上、リスク管理組織の重要性をどのように評価しますか?
それに対して、そのリスク管理能力が目的達成にどの程度貢献していますか?
規制順守
99%
29%
レピュテーションリスク管理
70
28%
リスク調整後の業績管理
67
22%
長期的な利益成長
80%
51
22%
リスクカルチャー(リスクに対する認識、
理解、行動様式)の浸透
65%
48
26%
流動性管理
70%
50
17%
資本配分(キャピタルアロケーション)の
改善
70%
50
20%
イノベーションおよび製品開発
76%
50
20%
経済/金融ボラティリティ管理
73%
51
26%
資本コストの削減
74%
52
29%
信用・市場・オペレーションリスクに
伴う損失回避
95%
27%
73%
47
73%
46
全回答者中、リスク管理組織を目的達成上「不可欠」または「重要」と評価した回答者の割合
全回答者中、リスク管理能力が目的達成に「大いに」貢献したと評価した回答者の割合
重要性と達成のギャップ(%)
出典:アクセンチュア2013年グローバルリスク管理調査
2013年9月
注:数値は四捨五入しています。
調査で明らかになった
ポイント
テクノロジーは、レピュテーショ
ンリスクの主要な源泉であると同
時にレピュテーションリスクを効
果的に管理するためのツールです
クセンチュアおよびチャーティスが調査を
行った各種のテクノロジーのうち、回答者が
最大の潜在的リスク源泉として挙げたものは
ソーシャルメディアでした(図 2)。多くの企
業が、損失事象およびリスク管理の失敗に関
する情報の外部への伝達経路としてソーシャ
ルメディアが果たす役割について懸念を抱い
ています。様々な意味において、ソーシャル
メディアはステークホルダーにとって「真に
迫った」リスクであると言えます。今後、企
レピュテーションリスク管理は、今もなお金 業は、影響および蓋然性に加えて速度も考慮
融業界の最優先課題の一つです。本紙のため する必要があります。かつては一般に広く伝
に行われたインタビューにおいて、一貫して 達されるまで何週間もかかっていた(または
金融機関が直面する最大の脅威の一つに挙げ 全く公知とはならなかった)情報が、今では
られています。レピュテーションリスクは、 主要なソーシャルメディアを通じて数秒で広
その他のリスク管理の失敗の結果生じるリス く伝達される可能性があります。
クであるという点で、他と異なる独特なリス
クであり、管理が難しい理由の一つはその点 また、ソーシャルメディアは金融犯罪を実行
にあります。アクセンチュアが 2013 年に実施 するためのツールともなり得ます。近年、ソー
したグローバルリスク管理調査「不確実な時
代のリスク管理」では、レピュテーションリ
スク管理は、目的達成の重要性とそれを可能
にするリスク管理のケイパビリティ(組織能
力)のギャップが 2 番目に大きいと挙げられ
ています(図 1)。言い換えれば、レピュテーショ
ンリスクの重要性に関する認識度および注目
度は高まっている一方、多くの金融機関がそ
の管理を効果的に行えていないということに
なります。
レピュテーションリスク環境の管理が複雑化
した最大の要因は、IT の爆発的拡大です。ア
4
同時に、新しいテクノロジーは、レピュテー
ションリスク管理を実現する強力なツールで
も あ り ま す。 ソ ー シ ャ ル メ デ ィ ア は こ の 点
においても特別に強力なツールであると考え
ら れ て い ま す( 図 3)。 上 記 調 査 ¹ に お い て
インタビューを行った企業の何社かは、認知
解析、データおよびテキストマイニングなど
の計算手法、および市場心理分析を利用して
リスクの源泉を特定しようと計画していま
す。また、ソーシャルメディアモニタリング
など DaaS を利用して、ソーシャルメディア
のメリットとリスクを解析する可能性も探っ
ています。このプラットフォームに依存しな
い外部データ分析によって、ベンダーはデー
タの費用と使用を特定のソフトウェアまたは
プラットフォームから分離することができま
す。これは IT 予算の分解管理の観点から重要
です。この分野の主要なベンダーには、ICBA、
Temenos、Sentiment Metrics などがあります。
シャルメディア詐欺が増加しており、これら
には大手ソーシャルメディアのウェブサイト 「究極的には、我々のビジネスはすべて信頼に
を悪用して個人情報を詐取するケースが含ま 基づいています。このため、レピュテーショ
れています。また、こうした犯罪者は、スパ ンリスクは重要性が高く、信頼に密接に関連し
ムボットを利用して企業に関する虚偽情報を ています。我々はレピュテーションリスク管
ソーシャルメディア向けに発信しており、こ 理のための新しいテクノロジーおよび手法の
れが企業のレピュテーションや株価に悪影響 調査および学習を継続して行っています。当
を与えます。これらの犯罪者は、株式を空売 行では、今後数年間は、オープンソースコン
りすることにより、虚偽情報が伝達されるス テンツ、ソーシャルメディア分析ツール、お
ピードを利用して利益を得ることができます。 よび人工知能ツールを組み合わせて、レピュ
顧客関連では、ソーシャル・エンジニアリン テーションリスクの監視および管理を行って
グを悪用する犯罪が発生しています(例:個 いくことになると予想します。」
人情報のフィッシング)。
米国地方銀行の最高執行責任者(COO)
図2:リスクの源泉としてのテクノロジー
以下の各種テクノロジーについて、貴社ではどの程度重要なリスクの源泉とみなしていますか?
(「重要でない」を1、「非常に重要」を4とした場合の回答平均)
ソーシャルメディア
クラウドコンピューティング
オープンソースソフトウェア
ビッグデータ
モバイルテクノロジー
リアルタイムおよび高性能計算
人工知能
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
2.2
出典:リスク・テクノロジーの発展
図3:各種リスクのうち、レピュテーションリスク管理におけるソーシャルメディアの重要性
ソーシャルメディア(例:ソーシャルメディアデータ、分析ツール)は、貴社にとって以下の各種リスク管理上どの程度重要ですか?
(「重要でない」を1、「非常に重要」を4とした場合の回答平均)
レピュテーションリスクおよび
ブランドリスク
戦略リスク(例:新商品またはサービス)
エマージングリスク
オペレーショナルリスク(例:プロセス、
人、外部事象)
ビジネスリスク(例:利益率、取引高、
市場需要の変化)
政治リスク
規制要件
法的リスク
市場リスク(例:株式、FX、商品リスク)
信用リスク(例:信用、
カウンターパーティ、発行体リスク)
保険(引受リスク)
流動性リスク
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
2.2
2.4
2.6
出典:リスク・テクノロジーの発展
5
図4:各種テクノロジーの関係
クラウド
コンピューティング
モバイル
コンピューティング
オープンソース
ビッグデータ
ソーシャル
メディア
人工知能
リアルタイム計算
出典:リスク・テクノロジーの発展
Real-time
また、企業は、過去データの分析を用いて KPI
/ KRI を算定し、これを詳細レベルに落とし
込んだ上で、早期警戒制度および統制を実装
しています。銀行や保険会社は、以前より自
社データを用いたソーシャルネットワーク分
析テクノロジーを活用し、保険金詐欺や銀行
での「bust-out」
(計画的債務不履行)詐欺な
どの不正と戦ってきました。今後は、このテ
クノロジーの適用範囲を外部データに拡張し
ていくことが予想されます。これをデバイス
ID テクノロジーと組み合わせることで、不正
行為への対応を高度化することが出来ます。
金融機関、顧客、ソーシャルメディア会社の
3 者は、こうした不正行為と無縁ではいられ
ません。これらのテクノロジーを最大限に活
用するために、各金融機関には、ソーシャル
メディアをリスクの源泉、レピュテーション
リスクの伝達メディア、またリスク管理の支
援ツールとして認識しつつ、ソーシャルメディ
ア会社と共同でそれぞれの顧客を保護してい
くことが期待されます。
6
リスク・テクノロジーの
相互関連性
本紙で考察する各種のテクノロジーには、互
いに密接に関連しているものが多数ありま
す。ソーシャルメディアはクラウドコンピュー
ティングの一部であり、クラウドコンピュー
ティングはモバイルテクノロジーと密接に絡
んでいます。これらのテクノロジーが集積し
た結果がビッグデータであり、各種テクノロ
ジーによって生成されたデータのハブおよび
分析ポイントとなっています(図 4)。
このような相互関連性は、企業のリスク・テ
クノロジー投資のあり方に影響を及ぼします。
1
調査 の結果によれば、一つのテクノロジーへ
の投資が他のテクノロジーへの投資と強い相
関関係を持つ場合もあれば、著しく弱い場合
もあります。以下の表 1 は、各種テクノロジー
間の投資額についての相関関係を示したもの
です。
ビッグデータやリアルタイムテクノロジーは
ソーシャルメディアを効果的に管理の上で大
変重要です。一つの説明として考えられるの
は、金融業界はビッグデータ/ソーシャルメ
ディアに投資し、その価値を享受することに
おいては、小売業より遅れているという点で
す。阻害要因として、これらのチャネルに関
して懸念されるリスクやコンプライアンス上
の課題および顧客コミュニケーションの増大
が挙げられます。
企業は、リアルタイムテクノロ
ジーやビッグデータに最も投資し
ており、この傾向は企業の規模に
比例して強くなります
アクセンチュアとチャーティスが調査した 7
種類のテクノロジーのうち、企業がリスク管
理のために実装している可能性が高いのはリ
アルタイムおよび高性能計算であるという結
果が出ています(図 5)
。金融機関はこれらの
テクノロジーを、リアルタイムないしほぼリ
ア投資とモバイルテクノロジー投資には比較 アルタイムでの不正発見(例:クレジット/
的高い相関関係がみられることを示していま デビットカード詐欺)、リアルタイムでの信用
す。ソーシャルメディアの消費チャネルとし 評価、リアルタイムでの取引モニタリング(例:
てモバイルの人気が高まっていることから、 悪質トレーダーの発見)、ハイ・フリークエン
シー・トレーディング(「アルゴリズム取引」
直観的に理解できます。
の一種)などの様々な分野で用いています。
一方、ソーシャルメディア、ビッグデータ、 現時点では全体的な導入件数はさほど多くな
リアルタイムテクノロジーの投資の相関関係 いものの、過半数の企業が何らかの実装計画
は著しく低くなっています。ソーシャルメディ を有しており、これらのテクノロジーがリス
アは根本的に、大量かつ構造化されていない ク管理市場において今後浸透する可能性が高
データからリアルタイムに構成されるため、 いことを意味しています。
例えば、調査 は、回答者のソーシャルメディ
1
表1:リスク・テクノロジーへの投資―各テクノロジー間の相関関係
モバイル
テクノロジー
モバイルテクノロジー
クラウドコン
ピューティング
ソーシャル
メディア
人工知能
ビッグデータ
リアルタイムコン
ピューティング
オープンソース
ソフトウェア
中
高
低
中
中
低
中
低
中
中
低
中
低
低
中
中
中
低
高
中
クラウドコンピューティ
ング
中
ソーシャルメディア
高
中
人工知能
低
低
中
ビッグデータ
中
中
低
中
リアルタイムおよび
高性能計算
中
中
低
中
高
オープンソースソフト
ウェア
低
低
中
低
中
中
中
出典:リスク・テクノロジーの発展
図5:各種テクノロジーの投資パターン
以下の各種テクノロジーをリスク管理に利用する計画がありますか?
人工知能
ソーシャルメディア
モバイル
オープンソースソフトウェア
クラウドコンピューティング
ビッグデータ
リアルタイムおよび高性能計算
0%
20%
40%
実装済み
6ヶ月以内
3年超
計画無し
60%
1年以内
80%
100%
3年以内
出典:リスク・テクノロジーの発展
7
8
図6:企業規模別のテクノロジー投資の大きさ
各種テクノロジーに対する投資の企業規模別比較(売上高300億ドル超の企業と同300億ドル未満の企業別に、
「投資無し」を1、「非常に大きな投資」を4とした場合の回答平均)
リアルタイムおよび高性能計算
ビッグデータ
モバイルテクノロジー
クラウドコンピューティング
ソーシャルメディア
オープンソースソフトウェア
人工知能
1
1.5
300億ドル超
2
2.5
3
300億ドル未満
出典:リスク・テクノロジーの発展
こ れ ら の テ ク ノ ロ ジ ー へ の 投 資 が、 ビ ッ グ
データへの投資と高い相関関係を持つことも
判明しています(表 1)
。十分なスピードで
大量のデータセットを解析するためには、企
業は、ソースデータの動的な性質を十分に活
用できる速さでモデルを更新できなければな
らず、そのような高性能計算への投資を検討
する必要があります。弊社の見解では、リス
ク管理機能において、与信ポートフォリオ全
体に及ぶ全グループの営業日終了時点エクス
ポージャー情報の概要を一覧で確認できる管
理ツール(いわゆる「ダッシュボード」)への
ニーズが高まっています。
調査 の結果、これらのテクノロジーに対する
1
投資の大きさは、企業規模によって異なるこ
とが判りました。売上高 300 億ドル超の企業
調査結果が示すとおり、クラウドコンピュー
ティングやオープンソースソフトウェアなど
他のテクノロジーにおける投資ギャップはそ
れほど大きくありません。ここではコストが
重要な要因となっています。小規模な企業は、
IT インフラを自社構築するために多額の投資
弊社が行ったインタビューによれば、小規模企
業の方が「思い切った」実装アプローチを取ら
ざるを得ないようです。この方法は、ハイリス
クを伴う可能性がある一方、より短期間での実
装が可能です。革新的なリスク管理テクノロ
ジーの早期導入は、小規模な企業にとって大き
な競争優位となる可能性があります。
を 行 う こ と が 困 難 で あ る た め、 コ ス ト ベ ネ
フィットの面で魅力的なクラウドやオープン
ソースソフトウェアへの投資を優先します。 「私は、タブレットのダッシュボードからリス
ク情報にアクセスし、個別エクスポージャー
この数年間に、中小規模の金融機関の間で外 をリアルタイムで明細レベルまで掘り下げる
部ホストや SaaS を利用したソリューションが ことができます。また、このダッシュボードは、
広まりました。特に、市場リスク分析やポー 規制当局との月次ディスカッションでも利用
トフォリオリスク管理のような資本市場関連 可能です。」
分野で利用されています。これらのホスティ
ある世界 10 大銀行の最高リスク管理責任者
ングサービスは、オペレーショナルリスク、
(CRO)
企業不正行為、カウンターパーティ・リスク、
顧客オンボーディングのような新しいリスク・
コンプライアンス分野において、利用が増加
しつつあります。
は、小規模の企業に比べて、全ての種類のテ
クノロジーについてその規模に比例した大き
な投資を行っていますが、両者の違いは、ビッ
グデータ、リアルタイムおよび高性能計算、
人工知能(AI)の分野で最大となっています(図 大規模企業の間では、パイロットベースのイ
8)。追加インタビューを行った結果、大規模 ノベーションシステムへの動きがみられます。
な企業は既に、先進的な人工知能ツールを不 このようなシステムでは、企業のインフラ内
正発見、信用評価、取引リスク分析の分野に で行う特定のテクノロジーの「テストラン」
適用していることが明らかになりました。こ を 通 じ て、 そ の テ ク ノ ロ ジ ー の コ ス ト ベ ネ
れらの投資から得られた恩恵は、追加投資を フィットを効果的に管理することができます。
ビジネスの観点から正当化するのに役立って
います。
9
図7:テクノロジーの種類別導入時期(将来的に行う導入の現在行われている導入に対する比率)
人工知能
ソーシャルメディア
モバイル
ビッグデータ
クラウドコンピューティング
リアルタイムおよび高性能計算
オープンソースソフトウェア
0
0.5
1
1.5
2
2.5
出典:リスク・テクノロジーの発展
シグナルとノイズ
弊社の調査 では、構造化されていないデータ
1
の分析が、レピュテーションリスク管理、シ
ステミックリスク、信用リスク、オペレーショ
ナルリスク評価のような統制を実現するため
の主要なツールとなり得ることが明らかに
なっています。損失事象を事後的に分析する
と、ほとんどの場合において早期警戒シグナ
ルが構造化されていないデータ(例:電子メー
ル、音声記録)の中に潜んでいたことがわか
ります。事前にこうしたデータの抽出を行い、
潜在的なリスクを洗い出すことで、企業は必
要なリスク予防措置を講じることができます。
しかし、金融機関があらゆるデータソースか
ら全てのデータを入手し、全てのシナリオを
計算することは不可能です。対象となるデー
タセットのサイズでは、シグナルをノイズか
ら分離し、検出すべき真のシグナルとそうで
ない偽のシグナルを区別することが非常に難
しいのです。同様に、偽のシグナルや無意味
とみなされたデータを遡及的に取り除くこと
は、将来的に有用となる可能性のある情報を
削除してしまうことになりかねません。
リスク管理を効果的に行うためには、対象の
絞り込みとシグナルをノイズから分離する能
力が求められます。そのためには、適切なシ
ナリオを識別して、そうしたシナリオの発生
を防止する、またはそれらに備える必要があ
ります。人工知能や先進的分析手法のような
テクノロジーはその実現に重要な役割を果た
10
しており、企業におけるプロセスの自動化や
最も目的にあったシナリオ・指標のモニタリ
ングの支援に用いられています。
将来的な導入計画の比率が最も高
いテクノロジーは人工知能です
本調査 では、各種テクノロジーについて、現
1
在の導入状況と将来的な導入計画を比較しま
した。これら 2 つの指標を比較することによ
ており、不正の発見やセキュリティを支える
インフラは、ますます複雑化・孤立化する銀
行ストラクチャーの中の複雑な脅威に対応で
きなければなりません。その他、ソーシャル
メディアのような非伝統的なデータソースを
活用した信用リスク分析や、ウェブベースの
非構造化ソースを用いた取引戦略の構築を通
じた運用リスク管理などのリスク管理分野に
も、人工知能は適用されています。
人工知能導入の比率は、リスク管理機能の自
動化の普及を反映しています。しかしながら、
リスク管理を支援する上でテクノロジーが果
たす役割には限界があります。重要な役割を
調査対象である 7 種類のテクノロジーの中で、 果たすことは事実ですが、人間の判断と経験
将来的な導入計画の比率が最も高いテクノロ の代替とは当然なりえません。アクセンチュ
ジーは人工知能であることが判りました。この アは「ビッグデータ分析の人材獲得競争に勝
テクノロジーを将来導入する計画があると答 つ方法」の中で、金融サービス分野において
えた回答者の数は、既に導入済みであるとした アナリストやデータサイエンティストの需要
回答者数の 2 倍以上となっています(図 7)
。
が高まっていることを指摘しました。金融機
関は、定量的分析に加え、「エグゼクティブの
金融機関や重要な政府・インフラ関係(例: 経験と直感を補完できる、事実に基づく洞察」
防衛、航空、エネルギーおよび公益事業)の を求めています 2。
回答者は、人工知能を優先することについて、
無人機管理、航空管制、エネルギー資源管理
など様々な理由を挙げています。多くの回答
者は、詐欺やマネーロンダリングなどの金融
犯罪と戦う上で 人工知能が重要な武器になり
得ると考えています。また、企業は、人工知
能のツールや手法を、重要な懸念事項の一つ
であるサイバー攻撃の発見と防止に利用して
います。サイバー攻撃の手法はより高度化し
り、各テクノロジーの成熟度に加えて、それ
らに対する企業の優先順位を知ることができ
ます。
図8:テクノロジーの種類別のリスク/メリット比較
「リスクがメリットを大幅に上回る」を1、「メリットがリスクを大幅に上回る」を4とした場合の回答平均
リアルタイムおよび高性能計算
ビッグデータ
モバイルテクノロジー
クラウドコンピューティング
人工知能
ソーシャルメディア
オープンソースソフトウェア
0
1
2
3
4
出典:リスク・テクノロジーの発展
リスクを上回るメリットが期待さ
れる一方で、IT リスクについての
意見は一致していません
また、弊社が追加インタビューを行った結果、「我々は財務インテリジェンス事業部という新
リスク・テクノロジーとの関連で最高データ しい事業部を立ち上げました。このユニット
責任者(CDO)の重要性が高まっていること の主な役割は、様々な専門分野のリスク担当
が判りました。データの入手可能性、一貫性、 者、財務担当者、コンピュータサイエンティ
1
本調査 の対象となっている各種テクノロジー 統合化は、リスク・テクノロジーの実施にお スト、データサイエンティスト、第一線のビジ
ネスエキスパートから構成されるチームを組
いて重要な役割を果たします。
は、全てリスクの源泉になり得ると同時にリ
成し、新しく革新的なテクノロジーに基づく
スク管理に役立ちますが、それらのメリット
特定の種類のテクノロジーリスクに対する説 ソリューションを開発して、金融犯罪、企業
がリスクを上回るという点で回答者の意見は
明責任が明確でない場合、それが見過ごされ リスク、レピュテーションリスクを軽減するこ
一致しています。特に、ビッグデータ、リア
る危険性があります。その責任は、しばしば とにあります。また、リンク解析や機械学習
ルタイムテクノロジー、モバイルテクノロジー
IT セキュリティやコンプライアンス部門に割 などのツールを含む人工知能ツールの使用を、
については、そのメリットがリスクを大きく
り当てられます。これらのチームはリスク回 『第三者のリスク・テクノロジーベンダー』 の
上回るものとみられています。
避的なアプローチを取ることが多いため、短 協力を得て進めています。我々は現在概念実
しかし、組織の中で誰が IT リスク管理の責任 期的なコスト削減のためにイノベーションを 証段階にありますが、既にこれまで見過ごさ
抑制し、企業の将来的なテクノロジーにおけ れていたリスクエクスポージャーを多数識別
者となるべきかについては、ほとんど合意が
る優位性を損なう結果となることがあります。 しています。この識別とその後のリスク防止
得られていません。回答した企業の多くが、
によって、当行は既に概念実証のコストの 10
最高リスク管理責任者(CRO)や最高情報責
したがって、リスク・テクノロジーが進展し 倍に相当する ,
2 500 万ドルの損失を防ぐこと
任者(CIO)といった役員の専任ではなく、最
ても、ERM を成功させるためには適切なガバ
ができました。
」
高責任者レベルの役員とその他のビジネス
ナンスや責任分担が不可欠であることに変わ
リーダーが共同で IT リスクの管理責任を負う
ある世界 20 大銀行の最高リスク管理責任者
りはありません。
と回答しています。テクノロジーリスクは、
(CRO)
これまでオペレーショナルリスクの一部とさ
れてきましたが、テクノロジーが普及するに
従って、伝統的な定義や境界、そして伝統的
なリスク管理機能の担当範囲を超えて広がっ
ています。
11
著者紹介
注記
アクセンチュアについて
1.「 リ ス ク・ テ ク ノ ロ ジ ー の 発 展 」( ア ク
セ ン チ ュ ア / チ ャ ー テ ィ ス 発 行、2013
アクセンチュアの金融・リスクサービス部門
年 12 月 )。 詳 細 は 以 下 を ご 覧 く だ さ
グローバル・マネージング・ディレクター。
い。 http :// www . accenture . com / us - en /
ロンドンを拠点に、戦略策定、リスクマネジ
Pages / insightchartis - study - evolution メント、企業の業績管理、大規模な金融業案
risk - technologyfinancial - services . aspx
件の遂行において世界各国で 20 年以上の経験
アクセンチュアは、経営コンサルティング、テク
ノロジー・サービス、アウトソーシング・サービス
を提供するグローバル企業です。約 28 万 9 千
人の社員を擁し、世界 120 カ国以上のお客様に
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アクセンチュア株式会社の詳細は
www.accenture.com/jp をご覧ください。
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を有する。現在の役職に就く前は、アクセン
チュアの財務・経営管理部門においてグロー
バルバンキング、保険会社、キャピタルマー
ケット企業向けに提供するコンサルティング
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験とビジネス感覚を活かし、エグゼクティブ
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2. アクセンチュア「ビッグデータ分析の人材 のお客様がより高いビジネス・パフォーマンスを
獲得競争に勝つ方法」ナレンドラ・ムラー 達成できるよう、その実現に向けてお客様ととも
ニ、ニック・ミルマン著(2012 年 12 月、 に取り組んでいます。 2013 年 8 月 31 日を期末
ComputerWeekly.com.) 詳 細 は 以 下 を ご とする 2013 年会計年度の売上高は、約 286 億
覧ください。
USドルでした(2001 年 7 月 19 日 NYSE 上場、
h t t p : / / w w w . c o m p u t e r w e e k l y . c o m / 略号:ACN)。
feature/Accenture-how-to-wagethe - war - forbig - data - analytics - talent アクセンチュアの詳細は
(英語のみ)
www.accenture.com を、 チャーティス・リサーチに
ついて
アクセンチュアの金融・リスクサービス部門
マネージング・ディレクター。同部門のテク
ノロジー責任者を務め、ロンドンを拠点とす
る。大規模な金融・リスク改革プロジェクト アクセンチュアリスクマネジメントはチャー
を専門とし、アクセンチュアに 10 年以上勤務。 テ ィ ス・ リ サ ー チ の「2013 年 RiskTech 100
金融サービス業界全体にわたって影響力の強 レ ポ ー ト 」 第 8 版( 本 書 の 内 容 も 掲 載 ) に
い改革案件を手がけており、クライアントが お い て リ サ ー チ パ ー ト ナ ー を 務 め ま し た。
企業規模のアプリケーションやテクノロジー 「RiskTech100®」は、リスクマネジメント市
の導入によってコストや複雑性を抑え、価値 場で活躍するトップクラスのテクノロジー企
を高める斬新な改革を実施できるよう支援し 業に関する最も包括的で権威ある調査として
ている。
世界的に認められています。
参照
チャーティスはリスク・マネジメント・テク
ノロジー分野の調査および分析を行う大手プ
ス テ ィ ー ブ・ カ ル プ 他 著「 ア ク セ ン チ ュ ア ロバイダーです。徹底した分析と広範囲なリ
2013 年グローバルリスク管理調査:不確実性 スク・テクノロジー・サービスに関する実用
が高まる時代に向けたリスクマネジメント」 的アドバイスの提供により、クライアントが
(2013 年 9 月、アクセンチュア)、ナレンドラ・ 情報に基づいてテクノロジーやビジネス上の
ムラーニ、ニック・ミルマン著「ビッグデー 意思決定を行う手助けとなることを目指して
タ分析の人材獲得競争に勝つ方法」(2012 年 います。
12 月、アクセンチュア)
チャーティス・リサーチの「RiskTech 100 レ
ポート」は以下のアドレスからダウンロード
できます。
www.chartis-research.com( 英語のみ )
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