Comments
Description
Transcript
留学生レポート 中国・香港/香港大学 森岡 秀輔(商学部4年
1 留学生レポート 中国・香港/香港大学 森岡 秀輔(商学部4年) 2012年1月から2012年12月まで中国・香港の香港大学(The University of Hong Kong、以下 HKU)に留学させて頂いた、商学部4年の森岡秀輔と申します。 以下、一年間の留学生活を振り返りながら香港での生活、大学や授業について、取 り組んだ課外活動について、多くの写真を交えながら報告させて頂きたいと思いま す。 香港について 中華人民共和国の南東に位置する人口約700万人の特別行政区で、広東省・深 センの真下にあります。近くには、台湾、フィリピン、さらには船で気軽に行ける マカオなどがあります。中国に返還される1997年まで長い間イギリスの植民地 だったこともあり非常に国際的な都市です。私が留学していた2012年は中国返 還から丁度15年で15周年を記念したパレードやコンサートなどで賑わっていま した。公用語は英語と広東語(北京語ではない)で、バスやタクシーの運転手から お店のスタッフまで皆英語を話せます。外資系企業が数多く集まりシンガポールと 並びアジアを代表する国際金融都市と言えるでしょう。 香港は観光地としても人気で日本人も含め多くの外国人観光客で街が溢れていま す。中でも香港の夜景は圧巻です。土地のほとんどが山で覆われ使える土地が少な く地震などの自然災害も少ないため、香港の住宅やビルはまるで摩天楼の様にそび え立っています。その夜の姿は「100万ドルの夜景」と称され世界三大夜景(函 館、ナポリと並ぶ)の一つに選ばれるほどの美しさです。香港というとオフィスビ ルばかりのイメージですが、多数の島で形成されている上に前述したように山が多 く、自然にも恵まれています。そのため私もよく週末にボートで近辺の島に行きハ イキングをしたり、ビーチを楽しんだり、BBQをしたり、新鮮なシーフードを食 べたりしました。 香港島・ビクトリアピークからの夜景 1 九龍島から、毎日夜8時から行われるレーザーショー 2 そして、「食」がやはり香港の一番の醍醐味です。安くて美味しいヤムチャのお 店がどこにでもありシュウマイ、肉まん、小籠包、担々麺などがいつでも堪能でき ます。外国人駐在員が集まるようなエリアに行けば本格的なフランス料理、イタリ ア料理、日本料理も食べられます。最近は日本食がブームのようで多くの日本チェ ーンが香港に進出しており(吉野家、和民、牛角、大戸屋、一風堂など)、日本食 が恋しくなった時はまるで日本にいるかのような感覚で日本食を食べる事ができま した。 小籠包 シュウマイ 大人気の和民 著しい経済発展を遂げており富裕層が多い香港ですが全体的な物価は日本と比べ るとまだまだ低いです。1香港ドル=約10円で香港の物価を分かりやすく伝える とマクドナルドのビッグマックセット=20ドル、タクシー初乗り=20ドル、地 下鉄4〜8ドル、と非常に安いです。ただし、土地が無いため住宅家賃やホテル宿 泊費は東京よりも高いです(平均的な2LDK=月25万円〜、外国人が住む高層マ ンション=月80万円〜)。そのため、香港の現地人は結婚するまでずっと実家暮 らしのようです。さらに、外国人駐在員が集まる高級エリアのレストランやバーな どは東京と同じかもしくはそれ以上の値段です。この様に安いところは安い、高い ところは高いと大きな格差があります。 格差に関連して、香港には大きな経済格差があります。その背景には香港特有 の税金システムと自由過ぎる経済があります。法人税16.5%、所得税15%、 相続税・贈与税0%、関税 0%、消費税0%と驚く税金システムです。香港の税収 の約3割は法人税から形成されており、法人税を低く設定し多くの外資企業を誘致 することでこの様な税金システムを可能にしているようです。所得税、贈与税・相 続税から分かるように香港はお金持ちに優しい都市です。「香港ドリーム」という 言葉の様に香港では一度お金持ちになったら一生お金持ちで居続けられます。経済 誌フォーブスによると現在アジア人で最もお金持ちなのは香港出身の Li-Ka Shing で す(李嘉成、億万長者世界ランキング9位)。彼らのような億万長者が大勢いる一 方で現地の一般庶民は貧しい生活を送っています。街やオフィス・学校の清掃、マ ーケットや屋台で生計を立てている人がほとんどです。 香港大学について 香港には大学が7つしかなく、大学に進学できるのはごく一部のエリートのみで 日本以上に受験戦争が激しく徹底的な学歴社会です。大学に進めなかった人は一生 高卒のまま良い職にも就けず厳しい生活を強いられます。香港大学はその中の最高 学府であり、タイムズ紙大学ランキングで東京大学、シンガポール国立大学、北京 大学を差し置いて何度もアジア1位の座に輝いた実績のある名実共にアジアトップ レベルの大学です。 香港の大学7校のうち実に3校がアジアトップ10以内に名を 連ねており、香港の教育水準の高さ が伺えます。 香港大学は1912年に設立された歴史ある大学です。第二次世界大戦中、香 港を占領していた日本軍は香港大学に司令部を置いたそうです。今でも香港大学の 2 3 最も古い建物である Main Building の壁には銃弾の跡があり日本軍による占領時代の 名残が伺えます。香港の大学の中で唯一香港島に位置しており、香港の中心街であ るセントラル駅まで僅か10分と非常にアクセスの良い立地にあります(他の大学 は全て九龍島側、中心街まで1時間弱かかる)。山の上に大学があるので一つのま とまったキャンパスというよりはそれぞれの学部の建物が点在しているという感じ です。そのため授業と授業の間の移動ではエスカレーターや階段を何度も上り下り する必要があり大変でした。私が留学した2012年が設立100周年記念で大規 模工事が行われ新しい建物が建設されました。また、これまでイギリス流の3年制 大学でしたが2012年9月から4年制に変わったため、新しい寮も建設されまし た。建物に統一のデザインはなく Main Building のような一橋大学の兼松講堂に似た 伝統ある洋風の建物もあれば新たに建てられたモダンな建物もあり、それぞれのデ ザインがありました。 Main Building 3つのエスカレーターがある所も 新しい建物のオシャレな勉強スペース また、香港という都市柄もあって留学生が非常に多くとても国際的でした。学年 約3000人の内、約2割が中国本土の学生、約2割が正規留学生(交換留学生で はない)でした。それに加え私の様な交換留学生が1学期に3〜400人ほどいた ので、実質半分近くが留学生でした。これだけ多くの世界各地からの 優秀な学生と 一緒に学べる環境は香港ならではだと思います。欧米から来ている学生の多くはア ジアに来るのが初めて、日本や中国に行きたかったがやはり英語が通じるというこ ともあり香港を選んだ人が多かったです。彼らにとって香港がアジアへの入り口の ようです。香港でこれだけの外国人に会うとは思いもよりませんでした。香港留学 のおかげで世界中に多くの友人が出来たことは私の大きな財産になりました。 寮について 香港の学生は現地学生を含めほとんどが大学の寮に住みます。香港大学には約2 0の学生寮があり、それぞれに伝統や文化があります。部活も日本と違い大学全体 の部活に所属するのではなく ○○寮○○部というようにそれぞれの寮に部活があり 寮同士で競い合います。中には入寮を希望する際に書類・面接選考や家柄が見られ るエリート寮もあります。寮に入ると部活などの活動に必ず参加しなければならず、 かなりコミットメントが求められます。 1学期目は寮ではなく留学生用のハウスに住み、2学期目は大学の学生寮に住 みました。留学生用ハウスでは私を含め6人の留学生での共同生活で、リビング、 キッチン、トイレ兼シャワー、3人部屋が2つ、という住まい自体は決して良いと は言えない環境でした。ただ、素晴らしいルームメイトに恵まれ楽しい毎日を送る ことができました。規則や縛りが多い学生寮と違い私たちのハウスは何の縛りも無 かったので多くの留学生が遊びにくるたまり場のような場所でした。おかげで、多 くの留学生と仲良くなる事ができました。 一緒に学び、一緒に遊び、一緒に旅行し、 3 4 あらゆる時間を一緒に過ごしたのでかなり密な関係を築く事ができました。1学期 目は留学生と多くの時間を過ごしましたが、2学期目はせっかく香港に来たのだか ら香港特有の学生寮に入りもっと香港人と交流したいと思い、学生寮に入りました。 私が入った寮は希望通り留学生が少なくほとんどが香港人 の学生でした。交換留学 生の身分なので本来であれば寮の活動に参加しなくても良かったのですが、フィー ルドホッケー部に入り一緒に汗を流したり、共同キッチンで一緒に料理したり、寮 主催のイベントに参加したりと積極的に香港人と交流しました。他の留学生は結局 留学を終えるとそれぞれの国に帰国し皆バラバラになってしまいますが、香港人の 彼らはずっと香港にいるので彼らとの関係を維持し、香港とのつながりを大切にし たいです。留学生用ハウスと学生寮の両方に住む事で香港にも世界にもつながりを 持てたのはかなり大きかったです。 1学期目のハウス。アメリカ、カナダ、オーストラリ ア、フランス、マレーシアのルームメイト達と 多くの留学生が遊びに来てたまり場となった 授業について 商学部である私は香港大学でも Faculty of Business and Economics(以下FBE) に所属しビジネスを専攻しました。それに加え中国語言語(北京語)の授業を取り ました。やはり香港大学の授業はかなり大変でした。特にFBEは香港大学の看板 学部の一つであり大学側もかなり力を入れています。授業は全て英語で行われ、日 本の大学と違い大教室での講義はなく、15〜30人規模の一人一人のコミットメ ントが求められるインタラクティブな授業スタイルでした。一つの授業は6単位に 値し、授業に加えチュートリアルを導入している授業も多く、授業一つ一つが日本 のゼミのようでした。言語である中国語の授業でさえ同様でした。一学期に24〜 36単位を取るのでゼミを4つ以上取っているような感覚でした。 教授が一方的に話すのではなく、グループディスカッションやプレゼン中心の 授業でした。レポートやプレゼンなどの課題は全て4〜8人のグループで行い、一 人での課題は中間・期末以外ありません。そして、グループワークが終わった後は 毎回学生同士がお互いの貢献度を評価する Peer Evaluation というシステムがあり、 ここでグループの半数以上から低い評価を貰うと教授に呼び出され最悪の場合失格 となります。一人で作業するのと違い周りに迷惑をかけてしまうので手を抜く事は 出来ません。成績も相対評価でFBEは優秀な学生が多いので生半可なクオリティ では良い評価を貰えず、激しい競争でした。納得のいくクオリティに仕上げるため プレゼンやレポートの課題期限が近づくと毎日のようにグループミーティングを行 います。長い時は10時間もの間ミーティングすることもあり、眠れない日が続く のはざらでした。授業一つ一つでこのような極めてコミットの高いグループワーク があるので授業を通して必然的にグループメイトと固い絆で結ばれます。彼らはた だのクラスメイトでは無く、一緒に厳しい課題を戦い抜いた戦友のようなものです。 4 5 授業や課題が終われば息抜きに食事や飲みに行ったり、旅行に行ったりしました。 授業一つ一つにつきそれぞれの仲間が出来ました。 FBE のプレゼンは特殊で、必ずスーツを着なければなりません。理由は、単 にプレゼンするのでは無く、「実際に企業の社員になりきり、教授というクライエ ントに対して提案をする」という設定だからです。そして、教授がクライエントに なりきり企画力、説得力、プレゼン力などを考慮し評価を下します。例えば、私が 取っていた Advertising Management という授業では VitaSoy という実在する香港の 伝統的な健康飲料ブランド(日本のヤクルトのようなもの)の売上げ回復のための 広告提案というプレゼン内容でした。VitaSoy の豆乳は創業以来香港人の健康を支え 長い間愛されてきたが、近年コカ・コーラなどの外資ブランドへと顧客が離れてい る、この現状を踏まえた上でどの様な広告プロモーションをすれば良いかというも のです。私達学生は広告代理店の社員になりきり、教授は VitaSoy 社のマーケティ ング担当者というクライエント、という設定のもとプレゼンを行うのです。社員に なりきるのでそれぞれに役職を設定し(CEO, Advertising Manager, Financial Manager など)それぞれの担当者が説明をしていきます。プレゼンの最初にメンバーを紹介 するので、中には宣材写真を用意したり、公式ホームページを作ったり、役職の書 かれた名刺まで作ったりするグループもいました。このように、単なるプレゼンで はなくプロとして提案をするのでスーツ着用なのです。 また、ほとんどの留学生がビジネスを専攻しているのでFBEは非常に国際的 でした。International Marketing という授業など、国際色豊かな学生を活かした香港 大学特有の授業は非常に面白かったです。同じマーケティングでも日本だと扱うケ ースがどうしても日本企業に偏ってしまいがちですが、この授業では世界各国のケ ーススタディーを扱い、さらに、世界各地から集まる学生たちが自国でのケースを 紹介し合うので勉強になりました。グループも自然と国際的になるので様々な国籍 の学生と一緒に学ぶ事が出来たのは貴重な体験でした。 FBE は特に国際的。アメリカ、スイス、ベルギー、スウェーデ ン、オーストリア、トルコ、香港のグループメイトと 5 プレゼン準備のため10時間にも及んだグループミーティング 無事プレゼンを終え、クライエント(教授)から好評価を頂いた 6 課外活動について アジアのハブ都市ということもあり香港からの旅行は格安です。例えば香港— フィリピン=往復5000円、香港—バンコク=8000円、香港—シンガポール =往復1万円、 などと日本と比べると信じられないほど安い値段です。そのため、 「今のうちに旅行すればするほど長期的スパンで見ればかなりの節約だ」と考え、 たくさんの旅行に行きました。中国とマカオは近いので何度も行きました。香港か らの18時間の寝台列車で上海に行ったり、12時間の夜行バスで桂林・陽朔に行 ったりと、過酷な旅もいくつかありましたが学生ならではの良い経験になりました。 普段、大量の課題に追われている分休みの間は旅行して息抜きを取り、On と Off の 切り替えが上手にできました。また、一緒に旅する事で他の学生とさらに仲良くな ることが出来たので良かったです。 12時間の夜行バスに乗って桂林へ フィリピンのビーチで、日々の課題で疲れた体を癒した また、あらゆる人間が行き交うので香港はネットワーキングの街としても優れてい ます。香港人、中国人、留学生などの学生のみならず、駐在員、起業家、旅行者な ど、あらゆる人が集まるアジアを代表するるつぼです。社会人の方々とは如水会香 港支部を通してたくさんお会いしました。私の留学中に丁度如水会が開かれたので 学生ながら参加させて頂きました。留学先の香港で如水会に参加できるとは思って いなかったので、改めて一橋の縦の繋がりの強さを実感しました。現在、香港に一 橋の OB は40名ほどおり、そのほとんどが駐在員として赴任しています。私自身 も将来海外で働きたいと考えているので、実際に海外の現場で働いている先輩達は 憧れの存在です。皆自分の仕事に情熱を持っており輝いていました。1年間の留学 を通して様々な人と出会うことが出来ました。香港での出会いを大切にしたいと思 います。 最後に 香港留学は勉強、出会い、旅行の全ての面で大満足の大変充実した経験になり ました。このような機会を与えてくださった明治産業株式会社、明産株式会社、社 団法人如水会の皆様 には本当に感謝しております。また、出発前から帰国後まで留 学を支えてくださった国際課の皆様にも重ねてお礼申し上げます。本当に有り難う ございました。 (2013/03/21) 6