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講義ノート15 佐藤主光(もとひろ) - 一橋大学国際・公共政策大学院-IPP
講義ノート15 佐藤主光(もとひろ) 一橋大学経済学研究科・政策大学院 1 2 消費税 ―事業課税としての消費税 -賃金税=消費税 税の公平感 -公平感の多面性 -担税力の測定 税と再分配 -課税だけでは再分配は完結しない -課税と給付の一体化 税以外の税金 -暗黙裡の課税 3 4 消費税とは消費に対する課税である⇒名前がそうだから・・・・ 欧州諸国での名称は「付加価値税」 税等価:消費税=(賃金)所得税⇒制度が異なっても経済効果 が同じことがある 消費税は消費者が負担(だから逆進的) ⇒制度上、消費税は 「中間生産者」からも取られている(生産・流通の各段階で課 税)⇒みかけは企業課税に近い 法人事業税の「付加価値」割(外形標準課税)=法人企業課税 として理解⇒効果は消費税と同じ! 5 消費税の支払い 通念 小売段階での課 税? 消費税の負担 消費者 実際 生産・流通の各段階で課税⇒事 業者への(多段階流通)課税 原則、消費者(一部は非課税事 業者も負担) 課税(登録)事業者は仕入れに要した消費税額を還付 納税額=5%*売り上げー仕入れに払った消費税 ⇒消費税を売り手に順次転嫁させていく 消費者は登録業者ではない⇒税還付が受けられない⇒税負担が 帰着 6 製造業者 A.売り上げ(税抜き) 小売業者 消費者 100 200 0 B.税務署に納める消費税=5%*A 5 10 0 C.仕入れ(税抜き) 0 100 D.仕入れに支払った消費税=5%*D E.税還付 付加価値=A-C 0 5 10 0 5 0 100 100 消費税純計=B-E 負担する消費税 200(=消費) 5 0 仕入れで支払った 消費税(=5)は還付 5 0 10 7 理解のポイント 所得課税ベース=税引き前(税込み) 消費課税ベース=税抜き 仕入税額控除 税抜き売上*(1+消費税率)-税抜き仕入*(1+消費税率) -税抜き売上*消費率+税抜き仕入*消費税率 =税抜き売上-税抜き仕入 =1÷(1+消費税率)*(税込売上-税込仕入) =(1-税率/(1+税率)*(課税前売上-税込仕入) =(1-キャッシュフロー税率)*キャッシュフロー 課税ベース=売上-仕入 仕入には設備投資(機械等の購入)も含まれる ⇒投資コストは即時償却 ⇔法人税=投資コストは減価減価償却費として複数年に渡って償却 消費税は投資の「誘因」に対して「中立的」 課税ベースからの控除額 初年 消費税 3億円 法人税 0 1年目 2年目 3年目 現在価値 3億円 1億円 1億円 前提 (1)設備投資は3億円、3年間で償却 (2)年間金利(割引率)=5% 1億円 2.7億円 法人税では3千万円分の 投資コストが控除されない 課税後収益 =(1-税率)*売上-(1-税率)*仕入れ =(1-税率)*(売上-仕入れ) 企業の投資選択 今期投資 Π = (1 − τ )∑t =1 pt F ( K t ) pt F ( K t ) − K 0 − τK 0 = (1 − τ ) ∑t =1 − K 0 t t (1 + r ) (1 + r ) 今期投資から発生する 将来収入の現在価値 K t +1 = K t (1 − δ ); t ≥ 1 仕入れ税額控除 =投資即控除 課税は収入とコストに 対称的に適用される =中立性 通念 実際 納税 小売段階(消費者) 各生産・流通段階(事業者) 課税ベース 消費 付加価値=売上ー仕入 ⇒最終的に消費課税 公平性 逆進的 生涯所得ベースでみれば比例的 課税 消費課税 消費課税、ただし、 ・若年世代=賃金所得税と税等価 ・老年世代=貯蓄課税に相当 課税原則 仕向け地主義 11 12 参考:EUにおいては、1992年のEC指令の改正により、1993年以降付加価値税の 標準税率を15%以上とすることが決められている 出所:財務省HP 13 「消費税は、高い財源調達力を有し、税収が経済の動向や人口構 成の変化に左右されにくく安定していることに加え、勤労世代など 特定の者へ負担が集中せず、経済活動に与える歪みが小さいとい う特徴を持っている」 社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定) 視点 消費税の特徴 財政の健全化 高い財源調達力 税率1%=約2兆5千億円 世代間不公平の改善 高齢(退職)世代にも課税 ⇔ 社会保険料=勤労世代に負担が集 中 地方財政 税収は安定的・地域間偏在性が少ない 14 経済学の視点=税の経済的帰結を重視 ⇒「経済活動に与える歪みが小さいという特徴」を担保する消費税の 仕組みが重要 消費税の性格 経済的帰結 仕入れ税額控除 税負担が生産過程に堆積しない ⇒経済活動を損なわない 仕向地主義課税 輸入品課税・輸出品ゼロ税率 ⇒税負担と国際競争力の遮断 ⇒国内の財政需要の充足と国際競争力の確保の分離 15 課税地 輸出品 輸入品 源泉地主義課税 日本 仕向け地主義課税 日本 税負担が製品価格を 税負担は還付 引き上げ 非課税 課税 企業の誘因 =税負担の低い海外で生産、日 本に輸入・第3国に輸出 税負担は国内で 完結・国際競争力 に影響せず 16 消費税 法人税 課税 消費課税 所得課税 納税者 登録事業者 法人企業 課税ベース 付加価値=売上ー仕入れ 法人所得=収入ー経費 経費 仕入れ額 損金 人件費 控除されない 控除 投資経費 即控除 減価償却費として後年控除 仕向け地主義 源泉地主義・居住地主義 課税原則 17 J.Arnold (2008) 同じ税収を上げる (=税収中立)とす れば、当該税収に 占める消費税(付加 価値税)の比重が 高い国の方が、所 得課税・法人課税 の比重の高い国より も経済成長は高い 経済成長上、消費税に 「比較優位」 18 税等価=制度的には異なっても同じ経済効果を有した税 「制度」ではなく、「帰結」に着目した税の分類化 税等価あれこれ 税目 税等価 消費税(付加価値税) 賃金所得税 (部分的に)外形標準課税 社会保険料 (正規雇用)賃金所得税 社会保険料・事業主負担 社会保険料・労働者負担 法人税 消費税+賃金所得税+資本所得税 補助金=配る(ばら撒き) 税額控除=取らない(減税) ⇒ 家計の予算制約式 (1 + t ) p x x + (1 + t ) p y y = I t 1 px x + p y y = I = 1 − I 1+ t 1+ t 税率tの消費税は税率t/(1+t)の所得税と「税等価」 ⇒同じ経済・誘因効果 ただし、この所得税は「累進的」ではない。 直感:所得は(いずれかの時点で)消費される 21 今期の賃金所得の他 親からの相続、過去に 蓄積した資産を含む C2 I2 (1 + t )C1 + (1 + t ) = I1 + 1+ r 1+ r 今期の消費 (税抜見) 将来消費の現在価値 生涯所得(課税前) C2 t I2 C1 + = 1 − I1 + 1 + r 1 + t 1+ r 所得税率 資本(利子)所得は 非課税 22 生涯予算ベースでみると消費税は資本(派生)所得には課税しな い⇒賃金所得課税≠包括的所得税 既に貯蓄・資本のある個人(高齢世帯)にとって消費税はこうした貯 蓄・資本への課税⇒今期の所得は少ないが貯蓄を取り崩して生計 を立てる世帯への課税 (包括的)所得税 消費税 新しい貯蓄(資本) 課税 非課税 古い(既存の)貯蓄 (資本) 収益への課税 元本を含めて課税 23 賃金所得(+相続) C1 + S = I1 第1期(若年期) C 2 = (1 + r ) S + I 2 第2期(中高年期) 資本所得=派生所得 ⇒ C2 I2 C1 + = I1 + 1+ r 1+ r 生涯所得 24 消費税は現在、勤労所得を得ていない退職世帯(高齢世代) に対しても課税⇒世代間再分配効果 2期間モデルの場合: 家計は第1期(若年期)に労働供給、第2期(高齢期)には退 職して、貯蓄+利子所得を取り崩して生計を立てる 所得税 C2 = (1 + r ) S − τrS = (1 + r (1 − τ )) S 元本にも課税 利子所得税 消費税 (1 + t )C2 = (1 + r ) S ⇒ t C 2 = 1 − (1 + r ) S 1+ t 25 通念 実際 納税 小売段階(消費者) 各生産・流通段階(事業者) 課税ベース 消費 付加価値=売上ー仕入 ⇒最終的に消費課税 公平性 逆進的 生涯所得ベースでみれば比例的 課税 消費課税 消費課税、ただし、 ・若年世代=賃金所得税と税等価 ・老年世代=貯蓄課税に相当 課税地原則 仕向け地主義 26 所得課税を消費税と「税等価」化 消費税化 法人税 キャッシュフロー課税 個人所得税 資本所得税の引き下げ 労働所得課税へのシフト C = Y − I = W + (R − I ) (企業の)キャッシュフロー 賃金所得 (経済学上の)フラッと税=消費税と税等価 28 消費税は不公平?⇒税の公平感は多面的 公平感(その1) 応益原則=受益に応じた負担(例:利用料、均等割) 応能原則=「担税力」(支払い能力)に応じた負担(再分配) 公平感(その2) 垂直的公平=所得・富の格差の是正(所得再分配) 水平的公平=「均等者均等待遇」 水平的公平感=政府の政策以前に同等な厚生水準を得て いた2個人が政策(例:課税、公共サービス)の結果、厚生水 準に格差が生じてはならない(例:「クロヨン」)。 29 個人住民税均等割 (=住民に一律課 税) 応能原則 応益原則 低所得層にも同等の 負担を課すので不公 平 皆が等しく受益するサービス への負担であれば公平 社会保障の世代間 世代間再分配とみな 格差(受益と負担の せば受容できるかもし 格差) れない 負担(社会保険料)に受益 (将来給付)が見合わないの で不公平 30 クロヨン 出所:東京都税制調査会「公平な徴収を担保する仕組みに関する資料」(平成24年7月30日) 31 「消費税は逆進的」⇒課税の累進度の計り方は? 累進課税:税の負担が所得水準に応じて増加(=所得の高 い納税者ほど多く税を負担) 「所得水準の応じて増加」⇒平均か限界か? - 平均税負担=税負担/所得 - 限界税負担=Δ税負担/ Δ所得 「所得水準」 ⇒所得を測る期間は? ―年間所得 ―生涯所得 32 逆進税 B 納税額 A 比例税 D C 累進税 限界税率=Δ納税額/ Δ所得 所得 0 平均税率=納税額/所得 33 ・限界税率は一定でも平均税率は逓増 ⇒フラットタックスも累進的 所得税 T (Y ) = tY − D B 平均税率 A 限界税率 0 所得控除 Y 0 Y 1 所得 34 所得税 課税所得 ~195 限界税率 5% 195 ~ 330 10 330 ~ 695 20 695 ~ 900 23 900 ~1800 33 1800 ~ 40 限界税率 収入 y0 このイメージは、現在表示できません。 0 所得 控除 y2 課税所得 35 「稼得された所得はいつかは消費されるとの考えに立てば、消費は 「一時点の所得」よりも生涯を通じた経済力をより正確に反映してい ると考えられる。これに比例的に負担を求める消費税は、むしろ負 担の公平に資するとの見方も可能である」(政府税制調査会(2007 年11月) 担税力 消費税 応能原則からの評価 年間所得 逆進的 不公平 生涯所得 比例的 公平 36 消費税は逆進的ではない! 注:生涯所得階級の指標として消費階級(消費額)を採用 出所:「消費税は本当に逆進的か?」(大竹・小原) 37 視点 性格 留意 マクロ 財源調達能力(C-効率性) 軽減税率・非課税品目が多い ほど、財源調達能力は低下 公平 消費税負担の逆進性 逆進性は年間所得で評価 生涯所得ベースでは評価 が変化 効率 仕向地主義課税 企業の国際競争力に対して 中立的 仕入税額控除 企業の設備投資・研究開発を 損なわない ミクロ 総じて財源調達能力が高く、経済成長に(他の課税に比べて)「優しい」税金 38 C-効率性=消費税収÷(標準税率*国内消費額) 国内消費=家計・非営利部門のほか、政府消費、帰属消費を含む C効率性の決定要因 軽減税率の数 非課税品目 非課税事業者 等 日本のC効率性は標準税率の高い欧州諸国に比べても高い水準 インボイスの欠如にも関わらず、国際的には日本の消費税の財源調能力 は高く評価 C効率性の低下要因=非課税事業者の付加価値が税収に含まれない 最も高いのはニュージーランド 39 40 41 税だけが税ではない。 社会保険料:支払いは強制+自身の受益と負担の対応関係は不 明瞭 ⇒実態として税 政府からの給付・補助が所得とともに削減 -年金、生活保護、配偶者控除等 ⇒家計の手取りを減らす=課税と同じ効果 税と給付の理念(目的)は違うが、税と給付の間で家計の行動(誘 因効果)が異なるわけではない =「お金に色はない」 税としての社会保険料・給付削減 42 家計の社会保険料負担の推移 家計の税・保険料負担 (2006~2011年度の家計負担の変化額:万円) 6 5.5 万円 5 4 3 2 3.4 3.2 2.6 万円 万円 万円 2.5 万円 1 0.4 万円 0 合計 直接税 公的年金 保険料 健康 保険料 社会保険料 介護 保険料 1%分 (参考) 消費税 (出所)総務省「家計調査」 (注)二人以上勤労者世帯の数値。消費税は、消費支出から家賃地代・医薬品・保健医療サービスを除 いたものの1%分として簡便計算したもの。消費税は2011年度時点における単年度の負担額。 出所:経済産業省資料 43 出所:経済産業省資料 44 減額後所得(月額) 在職老齢年金=年金受給者 が働いて所得を得る場合、所 得(賃金)に応じて年金額が 減額 年金減額 B 65歳~70歳の場合(月額 ベース) Y(月額)=賃金 減額(月額) +年金基本額 48万円以下 なし 48万円超 (Y-48万円)×0.5 A 0.5 1 0 年金額 48万円 Y(月額) 45 可処分所得 貧困の罠 1万円多く稼ぐと同額 生活保護給付が減額 =100%課税 B A 生活保護 給付額 1-所得税率 1 0 生活保護受給 課税最低限 勤労所得 46 家計の可処分所得 配偶者控 除の減額 妻に社会保険 料 の支払い義務 1 夫の所得 妻の収入 0 103万円 130万円 47 給付付き税額控除と他の所得保障(福祉)制度との整合性の確保 が不可欠 関連する制度:生活保護、失業手当(給付)、住宅補助など 給付付き税額控除の給付が他の所得保障の資格要件、給付水準 に影響(「貧困・失業の罠」) ⇒受給者の実効税率アップ 例:英国の給付付き税額控除と住宅支援 ⇒米国のEITCよりも手厚いにも関わらず、英国の勤労・児童税額控 除が就労促進に繋がっていない(Blundell and Shephard(2007)48 Source :Tax-Credit Policies for Low Income Families: Impact and Optimality July 2007 Richard Blundell and Andrew Shephard 49