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講義ノート2 - 一橋大学国際・公共政策大学院-IPP
公共経済分析II 講義ノート2 佐藤主光(もとひろ) 一橋大学経済学研究科・政策大学院 1 税の通念と実際 2 知っているようで知らない税金 消費税 ―事業課税としての消費税 -賃金税=消費税 税の公平感 -公平感の多面性 -担税力の測定 税以外の税金 -暗黙裡の課税 3 消費税 4 消費税とは? 消費税とは消費に対する課税である⇒名前がそうだから・・・・ 欧州諸国での名称は「付加価値税」 税等価:消費税=(賃金)所得税⇒制度が異なっても経済効果が同じことがある 消費税は消費者が負担(だから逆進的) ⇒制度上、消費税は「中間生産者」か らも取られている(生産・流通の各段階で課税)⇒みかけは企業課税に近い 法人事業税の「付加価値」割(外形標準課税)=法人企業課税として理解⇒効果 は消費税と同じ! 5 消費税の通念と実際 消費税の支払い 通念 小売段階での課 税? 消費税の負担 消費者 実際 生産・流通の各段階で課税⇒事 業者への(多段階流通)課税 原則、消費者(一部は非課税事 業者も負担) 課税(登録)事業者は仕入れに要した消費税額を還付 納税額=5%*売り上げー仕入れに払った消費税 ⇒消費税を売り手に順次転嫁させていく 6 消費者は登録業者ではない⇒税還付が受けられない⇒税負担が帰着 消費税の仕組み 製造業者 A.売り上げ(税抜き) 小売業者 消費者 100 200 0 B.税務署に納める消費税=5%*A 5 10 0 C.仕入れ(税抜き) 0 100 D.仕入れに支払った消費税=5%*D E.税還付 付加価値=A-C 0 5 10 0 5 0 100 100 消費税純計=B-E 負担する消費税 200(=消費) 5 0 仕入れで支払った 消費税(=5)は還付 5 0 10 7 キャッシュフロータックスとしての消費税 課税ベース=売上-仕入 仕入には設備投資(機械等の購入)も含まれる ⇒投資コストは即時償却 ⇔法人税=投資コストは減価減価償却費として複数年に渡って償却 消費税は投資の「誘因」に対して「中立的」 課税ベースからの控除 額 初年 消費税 3億円 法人税 0 1年目 2年目 3年目 現在価値 3億円 1億円 前提 (1)設備投資は3億円、3年間で償却 (2)年間金利(割引率)=5% 1億円 1億円 2.7億円 法人税では3千万円分の 投資コストが控除されない キャッシュフロータックス(その2) 課税後収益 =(1-税率)*売上-(1-税率)*仕入れ =(1-税率)*(売上-仕入れ) 企業の投資選択 今期投資 Π = (1 − τ )∑t =1 pt F ( K t ) pt F ( K t ) − K 0 − τK 0 = (1 − τ ) ∑t =1 − K 0 t t (1 + r ) (1 + r ) 今期投資から発生する 将来収入の現在価値 K t +1 = K t (1 − δ ); t ≥ 1 仕入れ税額控除 =投資即控除 課税は収入とコストに 対称的に適用される =中立性 何故消費税か? 10 何故消費税か? 「消費税は、高い財源調達力を有し、税収が経済の動向や人口構成 の変化に左右されにくく安定していることに加え、勤労世代など特 定の者へ負担が集中せず、経済活動に与える歪みが小さいという特 徴を持っている」 社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定) 視点 消費税の特徴 財政の健全化 高い財源調達力 税率1%=約2兆5千億円 世代間不公平の改善 高齢(退職)世代にも課税 ⇔ 社会保険料=勤労世代に負担が集中 地方財政 税収は安定的・地域間偏在性が少ない 11 何故消費税か? 経済学の視点=税の経済的帰結を重視 ⇒「経済活動に与える歪みが小さいという特徴」を担保する消費税の 仕組みが重要 消費税の性格 経済的帰結 仕入れ税額控除 税負担が生産過程に堆積しない ⇒経済活動を損なわない 仕向地主義課税 輸入品課税・輸出品ゼロ税率 ⇒税負担と国際競争力の遮断 ⇒国内の財政需要の充足と国際競争力の確保の分離 12 消費税と法人税 消費税 法人税 課税 消費課税 所得課税 納税者 登録事業者 法人企業 課税ベース 付加価値=売上ー仕入れ 法人所得=収入ー経費 経費 仕入れ額 損金 人件費 控除されない 控除 投資経 即控除 減価償却費として後年控 除 仕向け地主義 源泉地主義・居住地主義 費 課税原則 13 課税と国際競争力 外資系企業が日本で事業を行う上での阻害要因 法人税・社会保険料 消費税=仕向け地主義 =源泉地主義課税 課税 課税地 日本 日本 輸出品 税負担が製品価格を 税負担は還付 引き上げ 輸入品 非課税 企業の誘因 =税負担の低い海外 で生産・日本に輸 入・第3国に輸出 課税 税負担は国内で 完結・国際競争力 に影響せず 14 経済産業省:外資系企業動向調査(2012年調査) 出所:政府税制調査会 15 消費税と税等価 税等価という考え方 税等価=制度的には異なっても同じ経済効果を有した税 「制度」ではなく、「帰結」に着目した税の分類化 税等価あれこれ 税目 税等価 消費税(付加価値税) 賃金所得税 (部分的に)外形標準課税 社会保険料 (正規雇用)賃金所得税 社会保険料・事業主負担 社会保険料・労働者負担 法人税 消費税+賃金所得税+資本所得税 補助金=配る(ばら撒き) 税額控除=取らない(減税) 消費税=所得税 ⇒ 家計の予算制約式 (1 + t ) p x x + (1 + t ) p y y = I t 1 px x + p y y = I = 1 − I 1+ t 1+ t 税率tの消費税は税率t/(1+t)の所得税と「税等価」 ⇒同じ経済・誘因効果 ただし、この所得税は「累進的」ではない。 直感:所得は(いずれかの時点で)消費される 18 消費税=生涯所得税 今期の賃金所得の他 親からの相続、過去に 蓄積した資産を含む C2 I2 (1 + t )C1 + (1 + t ) = I1 + 1+ r 1+ r 今期の消費 (税抜見) 将来消費の現在価値 生涯所得(課税前) C2 t I2 C1 + = 1 − I1 + 1 + r 1 + t 1+ r 所得税率 資本(利子)所得は 非課税 19 参考:生涯所得と派生所得 賃金所得(+相続) C1 + S = I1 第1期(若年期) C 2 = (1 + r ) S + I 2 第2期(中高年期) 資本所得=派生所得 ⇒ C2 I2 C1 + = I1 + 1+ r 1+ r 生涯所得 20 消費税≠所得税 生涯予算ベースでみると消費税は資本(派生)所得には課税 しない⇒賃金所得課税≠包括的所得税 既に貯蓄・資本のある個人(高齢世帯)にとって消費税はこ うした貯蓄・資本への課税⇒今期の所得は少ないが貯蓄を取 り崩して生計を立てる世帯への課税 (包括的)所得税 消費税 新しい貯蓄(資本) 課税 非課税 古い(既存の)貯蓄(資 本) 収益への課税 元本を含めて課税 21 参考:消費税の世代間移転効果 消費税は現在、勤労所得を得ていない退職世帯(高齢世代)に対し ても課税⇒世代間再分配効果 2期間モデルの場合: 家計は第1期(若年期)に労働供給、第2期(高齢期)には退職して、 貯蓄+利子所得を取り崩して生計を立てる 所得税 消費税 C2 = (1 + r ) S − τrS = (1 + r (1 − τ )) S (1 + t )C2 = (1 + r ) S ⇒ C2 = 1 − t (1 + r ) S 1+ t 22 消費税(まとめ) 通念 実際 納税 小売段階(消費 者) 各生産・流通段階(事業者) 課税ベース 消費 付加価値=売上ー仕入 ⇒最終的に消費課税 公平性 逆進的 生涯所得ベースでみれば比例的 課税 消費課税 消費課税、ただし、 ・若年世代=賃金所得税と税等 価 ・老年世代=貯蓄課税に相当 課税地原則 仕向け地主義 23 参考:所得課税の消費税化 所得課税を消費税と「税等価」化 消費税化 法人税 キャッシュフロー課税 個人所得税 資本所得税の引き下げ 労働所得課税へのシフト C = Y − I = W + (R − I ) 消費税 所得税 賃金所得 (企業の)キャッシュフロー (経済学上の)フラッと税=消費税と税等価 税の公平感 25 税の公平とは? 消費税は不公平?⇒税の公平感は多面的 公平感(その1) 応益原則=受益に応じた負担(例:利用料、均等割) 応能原則=「担税力」(支払い能力)に応じた負担(再分配) 公平感(その2) 垂直的公平=所得・富の格差の是正(所得再分配) 水平的公平=「均等者均等待遇」 水平的公平感=政府の政策以前に同等な厚生水準を得ていた2個人が政策 (例:課税、公共サービス)の結果、厚生水準に格差が生じてはならない (例:「クロヨン」)。 26 公平感の多面性 個人住民税均等割 (=住民に一律課 税) 応能原則 応益原則 低所得層にも同等の 負担を課すので不公 平 皆が等しく受益するサービス への負担であれば公平 社会保障の世代間 世代間再分配とみな 格差(受益と負担の せば受容できるかもし 格差) れない 負担(社会保険料)に受益 (将来給付)が見合わないの で不公平 27 社会保険料負担を通じた世代間格差 (生涯純受給 率) 年金・医療・介護全体における生涯純受給率 (生まれた年) (出所) 鈴木・増島・白石・森重「社会保障を通じた世代別の受益と負担」(2012年1月) 経済産業省資料 28 異なる所得捕捉率 クロヨン 29 出所:東京都税制調査会「公平な徴収を担保する仕組みに関する資料」(平成24年7月30日) 消費税は公平? 「稼得された所得はいつかは消費されるとの考えに立てば、消費は「一 時点の所得」よりも生涯を通じた経済力をより正確に反映していると考 えられる。これに比例的に負担を求める消費税は、むしろ負担の公平に 資するとの見方も可能である」(政府税制調査会(2007年11月) 担税力 年間所得 生涯所得 消費税 逆進的 比例的 応能原則からの評価 不公平 公平 消費税=所得税と税等価 30 消費税は逆進的か? 消費税は逆進的ではない! 注:生涯所得階級の指標として消費階級(消費額)を採用 出所:「消費税は本当に逆進的か?」(大竹・小原) 31 暗黙裡の税 32 暗黙裡の課税 税だけが税ではない。 社会保険料:支払いは強制+自身の受益と負担の対応関係は不明瞭 ⇒実態として税 政府からの給付・補助が所得とともに削減 -年金、生活保護、配偶者控除等 ⇒家計の手取りを減らす=課税と同じ効果 税と給付の理念(目的)は違うが、税と給付の間で家計の行動(誘因 効果)が異なるわけではない =「お金に色はない」 税としての社会保険料・給付削減 33 税としての社会保険料 その1:美しい建前とそうでもない現実 建前=リスクへの備え・世代間の連携 現実=逆進的な負担構造・世代間格差(勤労世代への 負担の偏重) その2;実態として再分配化=租税化する社会保険料 社会保険料の多くは制度間移転に充当⇒受益と負担の 関係は希薄化 その3:(正規)雇用税としての社会保険料 事業主=労働コストの増加要因⇒雇用を阻害 %(年間所得比) 10.0 12.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 ~ 250~ 300~ 350~ 400~ 450~ 500~ 550~ 600~ 650~ 700 ~ ~ 800~ 900 ~ ~ ~ ~ 750 1000 1250 1500 2000 200 未 200 250 300 350 400 450 500 550 600 650 700 750 800 900 1000 1250 1500 2000 以上 満 直接税(所得税・住民税) 社会保険料 労働者=手取り賃金の低下⇒就労意欲を阻害(例: 「二人以上勤労世帯」 130万円の壁) 公的年金 健康保険 出所:全国消費実態調査(平成21年度) 34 参考:制度間移転 実態は再分配 支援金への総報酬割 =(勤労世代内)応能負担 の強化 35 参考:社会保険料の経済的帰結 企業アンケート:経営に重要な影響を与えるもの (2012年2月、3444社に対するアンケート、複数回 % 中小企業 60 出所:経済産業省 大企業 50 社会保険料 課税対象 雇用への 影響 輸出 勤労世代の 正規雇用の賃金 黒字企業の利益 雇用減少 非正規雇用の増大 企業が空洞化 →雇用減少 少ない 生産コスト増 →製品価格に転嫁 生産コスト増 →製品価格に転嫁 仕向地課税主義 →製品価格に転嫁せ ず 対象外 全ての世代の消費 40 30 20 対象外 10 0 課税対象 社 会 保 障 費 の 企 業 負 担 法 人 税 率 為 替 レ 電 力 ・ エ ネ ル ギ ト 環 境 規 制 ー 輸入 消費税 ー 企 業 の 国 際 競 争 力 法人税 価 格 (出所)森川正之「東日本大震災の影響と経済成長政策: 企業アンケート調査から(2012年5月) 36 最 低 賃 金 制 度 参考:社会保険料負担の推移 37 出所:経済産業省資料 例:在職老齢年金制度 減額後所得(月額) 在職老齢年金=年金受給者が働いて所得を 得る場合、所得(賃金)に応じて年金額が 減額 年金減額 B 65歳~70歳の場合(月額ベース) Y(月額)=賃金+年金基本額 減額(月額) 48万円以下 なし 48万円超 (Y-48万円)×0.5 A 0.5 1 0 年金額 Y(月額) 48万円 38 貧困の罠 可処分所得 1万円多く稼ぐと同額 生活保護給付が減額 =100%課税 ・生活保護費=最低生活 費と収入の差額を補填 B A 生活保護 給付額 1-所得税率 1 0 生活保護受給 課税最低限 39 勤労所得 配偶者の就労への壁 家計の可処分所得 政府税制調査会 「税制上の103万円の壁 は解消している。」 壁=手取りの逆転現象 出所:政府税制調査会 配偶者控 除の減額 1 妻に社会保険料 の支払い義務 会社からの 配偶者手当 の減額・停止 夫の所得 0 妻の収入 103万円 130万円 40 他の制度との関係 給付付き税額控除と他の所得保障(福祉)制度との整合性の確保が不可欠 関連する制度:生活保護、失業手当(給付)、住宅補助など 給付付き税額控除の給付が他の所得保障の資格要件、給付水準に影響(「貧困・失業の 罠」) ⇒受給者の実効税率アップ 例:英国の給付付き税額控除と住宅支援 ⇒米国のEITCよりも手厚いにも関わらず、英国の勤労・児童税額控除が就労促進に繋がって いない(Blundell and Shephard(2007) 42 参考:英国の勤労税額控除 勤労税額控除= 週16時間以上の就労を条件に給付付き税額控除 ⇒就労への誘因付け=Make Work Pay Source :Tax-Credit Policies for Low Income Families: Impact and Optimality July 2007 Richard Blundell and Andrew Shephard 出所:鎌倉(2010)より 43 参考:他の給付と貧困の罠 ・勤労税額控除以外の給付・支援 制度が就労意欲を阻害 高い給付削減率 ⇒貧困の罠 勤労税額控除の最低 要件(週労働時間16 時間)に集中 Source :Tax-Credit Policies for Low Income Families: Impact and Optimality July 2007 Richard Blundell and Andrew Shephard 44 参考:英国の給付体系 実施主体の分散 ・受給者=手続きの煩雑さ≠ワンストップ ・政策=削減率・給付水準決定の分散≠全体最適 出所:大和総研英国における福祉依存脱却の試み」(2012年10月19日)