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(3)政府研究開発投資に係る国際比較
我が国の政府研究開発投資を購買力平価換算して国際比較すると、米国の約 5 分の 1、EU
の 3 分の 1 以下の水準にある(第 3-10 図
)。
第 3-10 図 各国における政府研究開発投資額(2007 年)
(10億ドル、購買力平価換算)
160
140
120
100
80
60
40
20
0
備考:EU27、英国及びスウェーデンは 2006 年のデータ
出典:「Main Science and Technology Indicators 2008/1」(OECD)、「World
Economic Outlook Database」
(IMF)から経済産業省作成
これを経済規模と比較するために GDP 比率で見ると、我が国は 0.68%と低い水準にある。
他方で、米国は 1.02%と高い水準にある(第 3-11 図
)。
第 3-11 図 各国における政府研究開発投資の GDP 比率(2007 年)
(%)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
備考:EU27、英国及びスウェーデンは 2006 年のデータ
出典:「Main Science and Technology Indicators 2008/1」(OECD)、「World
Economic Outlook Database」
(IMF)から経済産業省作成
42
各国における産学官の研究開発投資比率を見ると、我が国は韓国と並び、企業等による研
究開発投資が多い。他方、欧州各国では大学等による研究開発投資の割合が比較的高い。中
国や台湾では、公的研究機関による研究開発投資の割合が比較的高い(第 3-12 図)。こうし
た各国における研究開発投資の産学官の比率の違いは、それぞれの国のイノベーションシス
テムの違いを反映しているものと考えられる。
第 3-12 図 各国における産学官の研究開発投資比率(2006 年)
出典:「Main Science and Technology Indicators 2008/1」
(OECD)から経済産業省作成
43
(コラム)学術論文・特許のベンチマーキング
●学術論文のベンチマーキング
主要国の論文を、マクロデータを用いて質と生産性の観点から比較する。
論文の質については、論文発表件数あたりの被引用論文数を指標とする。また、論文
の生産性は、その国全体の研究開発活動全体に占める論文作成への傾注度を表すものと
し、研究開発費あたりの論文発表件数を指標とする。
我が国は論文の質・論文生産性ともに欧米と比べると低く、これらのマクロデータか
らは、我が国の研究開発活動における論文への取り組みに課題があると言える。
欧米各国の中では、米国・英国が論文の質において優位性を示している、また、中国・
英国は論文生産性が高い(第 3-13 図)
。
第 3-13 図 主要国における論文の質と生産性の関係(試算)
論
文
の
質
出典:*1
*2
*3
*4
THOMSON ESSENTIAL SCIENCE INDICATOR
THOMSON NATIONAL SCIENCE INDICATOR を基に科学技術政策研究所が再編
IMF W ORLD ECONOMIC OUTLOOK DATABASE 2008
OECD MAIN SCIENCE AND TECHNOLOGY INDICATORS 2008
44
1998~2002 年と比較した 2003~2007 年の被引用数の割合は、日本・米国・英国・ド
イツ・フランスにおいて全体的に減少した。これは、中国・韓国等、日米欧以外の国の
科学技術水準の向上が背景にある(第 3-14 図)
。
第 3-14 図 主要 16 分野合計の被引用件数の国別割合
1998-2002
-0.8%
-3.7%
-1.6%
+2.7%
日本
米国
英国
ドイツ
フランス
中国
韓国
その他
+3.4%
2003-2007
0%
20%
40%
60%
80%
100%
出典:Thomson Essential Science Indicators から産業技術総合研究所作成
日米欧を比較すると、それぞれの分野における優位性が差別化されることが見受けら
れる(第 3-15 図)。我が国においては、材料科学、化学、物理といった分野において論
文が引用される割合が高い。米国は逆の傾向を示し、材料科学等の被引用割合が小さい
ものの、ライフサイエンス分野で高いシェアを示しつつ、その他の分野においても満遍
なく高い割合をキープしている。英国も米国と同様、相対的に材料分野の被引用割合が
小さい一方、宇宙科学が最も高くなっている。ドイツは物理や宇宙科学・地球科学にお
ける被引用割合が比較的高く、フランスでは特に数学での割合が高いことが特徴である。
中国・韓国は我が国と同様の傾向を示し、ナノテク・材料分野、特に材料科学におい
て論文の被引用率が高い。また中国・韓国においては、近年、材料科学において着実に
論文の割合を増加させており、日本を急速に追随していることに注意が必要である。
なお、1998~2002 年と 2003~2007 年との比較において、我が国では材料科学におい
て割合の減少が大きい。一方、免疫学・地球科学の分野においては被引用割合が増加し
ている。
45
第 3-15 図 分野別被引用数の比率の変化
次ページに続く
46
出典:Thomson Essential Science Indicators から産業技術総合研究所作成
●特許のベンチマーキング
主要国の特許を、マクロデータを用いて収益性と生産性の観点から比較する。
特許の収益性は、その国全体でどれだけ特許が経済活動に貢献したかを表すものとし、
特許件数あたりの GDP を指標とする。また、特許の生産性は、その国全体の研究開発活
動全体に占める特許獲得への傾注度を表すものとし、研究開発費あたりの特許件数を指
標とする。
我が国においては、特許生産性は比較的高いものの、特許収益性は低い。これらのマ
クロデータからは、我が国は特許の獲得には熱心であるものの、それが必ずしも収益に
結び付いていないことがうかがえる。
欧米各国の中では、英国の特許収益性が高い。また特許生産性は、韓国・ドイツが高
い(第 3-16 図)。
米国における特許公開件数の国籍別割合を 8 分野の観点で俯瞰すると、我が国におい
ては、情報通信分野において 25%と最も多くのシェアを占めている。このほか社会基盤、
エネルギー、環境、ナノ・材料、ものづくりの各分野においても欧州・中国・韓国と比
べて高いシェアを維持しているが(第 3-17 図)
、これとは対象的に、ライフサイエンス、
フロンティアの分野においては、我が国のシェアは 10%以下と極端に低い。
47
第 3-16 図 主要国における特許の収益性と生産性の関係(試算)
出典:*1 IMF W ORLD ECONOMIC OUTLOOK DATABASE 2008
*2 OECD MAIN SCIENCE AND TECHNOLOGY INDICATORS 2008
第 3-17 図 米国における 8 分野関連技術の特許公開件数
(2006 年 9 月~2007 年 8 月)
フロンティア
社会基盤
ライフサイエンス
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
ものづくり
情報通信
ナノテクノロジー・
材料
環境
エネルギー
日本国籍
欧州国籍
中国籍
韓国籍
出典:「平成 19 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書」(特許庁)より経済産業省作成
48
4.8分野に関する産業技術の観点からのレビュー
(1)ライフサイエンス分野
1)選択と集中・差別化戦略の重要性
ライフサイエンス分野における民間企業による研究開発投資を国際比較すると、欧州には
世界五指に入るメガファーマが存在するものの、米国企業の存在が際立っている。このこと
は、政府研究開発投資でも同様であり、例えば米国では日本の 6 倍以上の投資を行ってきて
いるように、米国一国が大きな存在感を有している。
第 4-1 図
主なヘルスケア関連企業※ に関する研究開発投資額・企業数の各国比較
※研究開発投資トップ 1000 企業(全世界)のうち、ヘルスケア関連企業 159 社を対象に作成。
※下記出典のうち、以下の分類に属する企業を「ヘルスケア関連産業」とした。
・BIOTECHNOLOGY (47 社)
・FOOD & DRUG RETAILERS (4 社)
・HEALTH CARE EQUIPMENT & SERVICES (36 社)
・PHARMACEUTICALS (72 社)
出典:European Commission The 2008 EU Industrial R&D Investment Scoreboard より経済産業省作成
第 4-2 図
日米のライフサイエンス政府支出研究費の推移
49
企業単位でみた場合、我が国企業の研究開発投資は、欧米と比べると規模で劣る。製
薬企業については、我が国最大の製薬企業である武田薬品工業ですら研究開発投資額が世界
で 15 位であるように、研究開発費・売上高ともに欧米のメガファーマとの規模の格差が顕
著である。
このような状況下、売上高は必ずしも多くないが、医薬品の世界売上ランキング 50 位以内
に日本オリジンの医薬品が 9 品目入っており、差別化された領域での強みがうかがわれる。
第 4-3 図
全世界・日本の製薬会社トップ 5 社の比較
出典:European Commission The 2008 EU Industrial R&D Investment Scoreboard より経済産業省作成
第 4-1 表
世界の医薬品売上ランキング上位 50 品目に占める日本オリジンの医薬品
日本オリジンの医薬品
出典:ユート・ブレーン
ニュースリリースより経済産業省作成
50
一方医療機器についてみると、治療機器では米国企業が、診断機器では欧州企業が市
場の上位を占めており、国内企業では、東芝メディカルシステムズ(13 位)、オリンパス
(19 位)、テルモ(25 位)が上位となるが、製薬企業と同様、世界トップ企業との規模
の格差は大きい。
ただし内視鏡については、日本固有の精密加工技術、光学技術、電子デバイス技術の
強みを存分に発揮して、日本企業がグローバルマーケットをリードしている。
第 4-4 図
治療・診断機器メーカーの医療部門での売上
主な診断機器メーカーの医療部門での売上(2006年)
0
20
40
60
80
100
120
140
GE
Siemens
Philips
東芝メディカル
オリンパス
出典:”Medical Device Industry Report 2007”, Espicom Business Intelligence をもとに三
菱化学テクノリサーチ作成
第 4-5 図
内視鏡における日米欧の市場構造
出典:平成 17 年度特許出願技術動向調査「内視鏡」(特許庁)
51
(億ドル)
160
180
このように官民共に欧米に比し、研究開発投資・売上高ともに規模の格差が大きい状
況下では、得意分野に選択と集中及び差別化を図って厳しい国際競争に勝ち残る戦略、
すなわち「カテゴリー集中戦略」が重要となってくる。
第 4-6 図
我が国企業による「カテゴリー集中戦略」
出典:アステラス製薬株式会社
代表取締役会長
竹中氏作成資料より
このことは、特許について見ても、分野によって強み弱みがはっきりしていることか
ら同様の考察が可能である。注目技術について、その米国への出願総数に占める日本国
籍の出願人の割合をこの 10 年で見ると、X 線 CT や超音波診断などの医療機器(診断機
器)においては日本の割合が高く、3 割近くを占める分野もある。また、機能性成分を高
含有する食品の割合も高い。
一方、創薬や再生医療の分野は総じて弱く、ワクチン、抗体作成技術、幹細胞・前駆
細胞の分化誘導技術などは 5%程度しかない。しかし、直近 5 年間と、それ以前の 5 年間
の比較においては、ほとんどの領域で日本国籍の出願割合が増加しており、グローバル
な研究開発を強化し、世界市場に挑んでいる日本企業の姿がうかがえる。特に医療機器
分野での伸びが大きくなっている。
52
第 4-7 図
米国への特許出願のうち日本国籍の出願人による割合
出典:平成 18、19、20 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書(特許庁)より経済産業省作成
以上のことから、官民ともに研究開発投資の規模が欧米と比べると少ない中、政府研
究開発投資を効果的・効率的に進めるためには、強みを有する科学技術領域を見極め、
他国との明確な差別化を図り、研究開発対象の選択と集中を図ることが求められている。
2)イノベーション生態系の機能不全
我が国においては、ライフサイエンス分野に関連する基礎研究~応用開発~実用化の
流れの中で、知識・資金・人材の好循環が形成されていない。
政府研究開発投資のうち、政策課題対応型研究開発の分野別割合をみると、ライフサ
イエンス分野においては他分野と比べて、総額・割合とも堅実に増加してきた。また、
科学研究費補助金(科研費)においては、ライフサイエンス分野(生物系)への配分が
科学技術分野全体の過半を占める。一方、ライフサインス分野における上位 1%の被引用
論文数の我が国のシェアは、材料科学、化学、物理等の分野のそれを下回っている。こ
のように、政府研究開発投資の量と比較した際の論文の質の検証が必要となっている。
基礎研究の成果を実用化につなげるには、臨床研究が不可避である。基礎研究および
臨床研究におけるインパクトファクターの高い 3 誌をもとに、医学論文数を著者の国籍
別に比較すると、基礎研究論文については米国、ドイツに続いて、日本は 3 番目である
が、臨床研究論文については 18 番目と低位にある。過去との比較においては、基礎研究
論文については常に上位をキープしているのに対し、臨床研究論文については 1998-2002
年と比較すると 2003-2007 年の順位は大きく下がっている。このように、我が国は基礎
研究で優位性を保っているものの臨床研究で劣後している。
53
第 4-2 表
医学論文数の年次推移
注:基礎研究雑誌(Nature Medicine, Cell,J Exp Med)および臨床研究雑誌(New Engl J Med,Lancet,JAMA)
について 2003-2007 年(5 年間)の論文数(Article のみ)を集計した。なお、すべての著者の国籍をカウント
しているため、著者が複数国にまたがっている論文については重複がある。
出典:「政策研ニュース
No.25」(医薬産業政策研究所)
ベンチャー企業への投資についてみると、バイオベンチャーは他分野のベンチャー企
業以上に重要な役割を担うところであるが、我が国におけるバイオベンチャーの企業数
は欧米に比べて少なく、特に株式を公開した企業は僅少である。
我が国のベンチャーキャピタルからバイオベンチャーへの投資額は 2005 年度、2006
年度の平均額で、200 億円/年程度である。一方、米国では、2007 年の 1 年間にバイオ
ベンチャーがベンチャーキャピタルから調達した資金は 29 億ドルに上り、日米間では 10
倍以上の差がある。
54
第 4-8 図
ベンチャーキャピタルからバイオベンチャーへの投資額の日米比較
億円
日米ベンチャーキャピタルからバイ
オベンチャーへの投資額
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
米国
日本
※米国は 2007 年の数字、日本は 2005 年度、2006 年度の平均
出典:財団法人ベンチャーエンタープライズセンター・ベンチャービジネス動向調査研
究会「2008 年ベンチャービジネスの回顧と展望」、平成 19 年度製造産業局委託調査
「バイオベンチャーの社会的活用促進に関する調査報告書」
次に、医薬品もしくは医療機器の製造販売承認を得るためには、臨床試験(治験)を
行う必要がある。治験に要する平均期間を全体で比較すると、日本は 6.2 年、米国では
5.0 年かかり、日本が約 1.2 年長い。また薬効領域別にみても、全ての領域において日本
が米国に比べて長い。
加えて、薬事法に基づく承認審査期間を欧米と比較すると、我が国の承認審査期間は
米国の約 2 倍、欧州の約 1.5 倍長い。これらの期間の長さが、日本での新薬上市時期の
遅れ(いわゆる「ドラッグ・ラグ」)の一因となっている。この背景としては、日本は審
査員を含め、審査の現場に携わる人員数が少ないことが挙げられる。
こうした環境の下、日本の製薬企業が欧米での薬事承認を先んじて取得する動きが加
速したり、日本発のバイオベンチャーが海外を本拠地とする動きも出てきており、我が
国においてはイノベーションの最終プロセスの国内空洞化が進展している。
55
第 4-9 図
治験期間の日米比較(1993-2001 年新有効成分)
出典:「政策研ニュース
第 4-10 図
No.10」(医薬産業政策研究所)
日本・米国・欧州の承認審査期間(承認申請日~承認日)
出典:「政策研ニュース
第 4-11 図
No.25」
(医薬産業政策研究所)
日米の薬事承認審査機関の職員数
4,239 人
426 人
※FDA の職員数は CDER(2,289 名),
CBER(827 名),CDRH(1,123 名)の
合計(2007 年)
※PMDA の職員数は審査部門、安全部門
の合計(役員を含む)(2008 年)
出典: FDA ホームページ、独立行政法人医薬品医療機器総合機構「業務のご案内 2008」より経済産業省作成
56
最後に、近年、世界のライフサイエンス関連市場は増大の傾向にある。例えば世界の
医薬品市場については、過去 10 年間で 2 倍以上に増大している。一方で日本の医薬品市
場は同期間で 2 割程度の伸びにとどまっており、結果として世界市場における我が国の
シェアは、ほぼ半減している。
第 4-12 図
世界の医薬品市場の推移
出典:「革新的創薬等のための官民対話」資料(IMS Health, IMS World Review 1998 2007)
以上のように、イノベーション生態系という観点では、生命科学の研究の充実に注力
するだけではなく、臨床研究及びその審査体制の充実など、イノベーションの川下にお
ける制度的課題の解決に今まで以上に強力に取り組むことが、効率的な政府研究開発投
資ひいては、社会の要請に応えたイノベーションを実現する上で不可欠と言える。
(コラム)シンガポールのバイオ戦略
バイオメディカルは、シンガポール政府が経済発展の中核を担う産業として取り組ん
でいる分野である。その象徴は、シンガポール大学の隣接地に整備中の科学技術パーク
「ワン・ノース」にある「バイオポリス」であり、公的研究機関や各国の製薬企業の研
究開発拠点が整備されている。
「 バイオポリス」
は合計 185,000 ㎡のラボスペースを有し、
バイオ実験設備のみならず大規模診断装置などの最新の設備を整えており、現在、約 40
社、2,000 人以上の研究者が研究開発を行っている。日本のがん研究者である元京都大学
名誉教授の伊藤嘉明氏が所属するシンガポール国立大学(NUS)の分子細胞生物学研究所
も在籍するなど、世界最高レベルの科学者の招聘している。
本政策はアジアの研究開発・ハイテク産業拠点を作ろうと計画したワン・ノース・プ
ロジェクトに端を発しており、今後 15 年~20 年の間に 150 億シンガポールドルを投じ、
バイオメディカルのみならず、IT 分野においても同様の拠点を構築していくことを計画
している。
出典:
「平成 18 年度海外技術動向
調査 調査報告書 アジア編」よ
り編集
1 シンガポールドル
=63 円(2009.3 現在)
57
(参考)主要指標の日米比較
米国
日本
米国を 100 とした
ときの日本の割合
100
政府による R&D 投資額
100
主要企業による R&D 投資額
100
VC による投資額
米国における特許出願
(※)
100
16
15
7
13
100
臨床研究に係る論文数
3
100
薬事承認審査に係る審査員
10
日本を 100 とした
ときの米国の割合
81
治験に係る期間
100
50
承認審査に係る期間
100
※「平成 19 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書」(特許庁)における公開件数
58
(2)情報通信分野
1)最大の基幹産業を支える研究・人材資源の課題
情報通信産業の研究開発投資額及び設備投資額は、他のどの国内産業よりも大きく、民間
研究開発投資総額(13兆3,274億円)のうち、31%(4兆1,170億円)を占める。設備投資額も
製造業全体の30%を占める。
第4-13図
情報通信産業の研究開発投資額及び設備投資額
この情報通信分野の研究開発投資は、総額の 9 割以上が民間企業によるものであり、この
企業部門の研究開発投資額の増加が全体の投資額の増加を牽引している。官の投資割合はこ
こ数年一定の割合を保っているが、民の投資額に見合うだけの官の投資がなされているかに
ついては、検証が必要である。
第4-14図
情報通信分野における企業・NPO/公的機関・大学等による研究開発費の推移
出典:平成16年-20年科学技術研究調査結果(総務省)
59
一方特許に着目すると、注目技術について、その米国への出願総数に占める日本国籍
の出願人の割合をこの10年で見ると、ストレージ、無線タグ、アンテナ技術の特許数を伸
ばしているものの、ホログラムメモリを除き、ナノエレクトロニクス・デバイス技術、相変
化メモリ、光インターコネクト等、次世代デバイス開発競争のカギを握る最先端技術の減少
が目立つ。情報通信産業の持続的な競争力維持には、このような次世代最先端技術の研究開
発を強化することが必須であり、国の研究開発投資の役割が極めて重要である。
第4-15図
米国への特許出願のうち日本国籍の出願人による割合
その前の5年
直近5年
半導体ゲートスタック
半導体デバイス・プロセス配線技術 70%
半導体三次元実装
LSTPデバイス技術
半導体パワーデバイス
光インターコネクション・ ネットワークデバイ
60%
分子・有機デバイス
ス技術
50%
無線アクセスネットワークデバイス技術
ホログラムメモリ
40%
光アクセスネットワークデバイス技術
マルチコア技術
30%
相変化メモリ
基幹ネットワークノード
20%
10%
磁気メモリ
半導体レーザ
0%
強誘電体メモリ
ディスプレイ低消費電力
半導体製造支援計測技術
組込みソフトウェア
スーパーコンピュータ
ナノエレクトロニクス・ デバイス技術
モバイルコンピューティング技術
ネットワークセキュリティ技術
アダプティブアレイ・アンテナ技術
セキュリティソフトウエア技術
無線タグ技術
セキュリティ関連ユーザビリティ技術
ストレージシステム技術
ユビキタス・ヒューマンインターフェース技術
映像ストレージ技術
出典:平成 18、19、20 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書(特許庁)より経済産業省作成
(コラム)ナノエレクトロニクス・デバイス技術における米国への出願人国籍別登録状況
特許庁が実施する特許出願状況調査において、平成19年度に実施されたナノエレクトロニ
クス技術の報告書によると、同技術の日本国籍企業出願件数のシェアは米国に次いで2位であ
る。シェアトップの米国がその数を緩やかに伸ばす一方、日本のシェアは減少傾向であるほ
か、緩やかながらアジア諸国のシェアが拡大傾向にある。
第4-16図
ナノエレ技術の米国への出願人国籍別登録状況
100%
90%
80%
70%
米国
60%
その他
台湾
50%
中国
韓国
40%
欧州
日本
30%
20%
10%
0%
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
出典:平成19年度重点8分野の特許出願状況調査報告書より、経済産業省作成
60
文部科学省が実施している学校基本調査において、全学部、電気通信工学の卒業者数の推
移をみると、高等教育機関(大学)全体での学生数は増加傾向にあるものの、情報通信工学
の卒業生は減少している。我が国の基幹産業である情報通信に対する大学への教育研究投資
が適切に行われているかについて、検証が必要である。
第 4-17 図
全学部・電気通信工学の卒業者数の推移(2000 年=100)
出典:「学校調査報告書」(文部科学省)より、経済産業省作成
2)知財・ビジネスの特異性に起因する課題
①知財の特異性
情報通信分野においてはひとつの製品の中に膨大な知財が使用されており、少数の知財の
みで市場を獲得することは困難な場合が多い。一方、ライフサイエンス分野では少数の知財
のみで大きく市場を獲得することが可能である。
第 4-18 図
分野ごとに異なる知財の特性
出典:日本製薬工業協会資料を竹中氏が改編
61
製品の競争力を支配する知財が少数であり、かつそれを占有できる状況にある場合には、
価格競争の回避が可能であり、安定した利益の確保につながる。こうした特性を有する分野
においては、①製品の競争力を決定的とする知財の創出、②出口も含めた包括的な権利化が
重要である。
他方、クロスラインセンスによって相互補完することでしか製品化できない製品の場合に
は、特許によるリターンを得るということよりはクロスライセンスするための膨大な研究開
発投資競争に陥りがちとなり、市場全体を見て重複的・非効率的投資になる側面が他分野に
比して大きい。また、クロスライセンスの結果、各社とも同様の技術に基づく製品化を図る
こととなり、差別化が困難でコスト競争になりがちである。
こうした特性を有する分野においては、やみくもに個々の会社が自前主義的な研究開発競
争を繰り広げるのではなく、開発初期から協業による研究開発投資の効率化を図ることが極
めて重要である。
②モジュール化と水平ビジネスモデルに起因する課題
パーソナルコンピューター、液晶テレビ、太陽電池のように規模の経済の下でモジュール
化が進んでいる大量生産製品においては、我が国発のプロダクトイノベーションの量産技術
が製造設備に化体され、その装置の専業メーカが水平的に世界の組立メーカに販売展開する
状況が生まれることで、激しい価格競争に直面する例が多い。製造設備がグローバルに供給
され、その運用にもさほどの能力が要求されない場合にあっては、製造設備に資本を大きく
投入し、価格競争に持ち込むことで、大きな市場を獲得することが可能となる。
こうした事態を避けるためには、製造プロセスを重視し、装置の内製化や組成・加工条件
等の製造設備に化体されないノウハウ等をブラックボックス化するといった対応が図られる
場合がある。元来我が国企業は製造設備の改造を重ね、自社が追求する仕様水準に高めた生
産技術による高品質製品で差別化を図ることが得意であるが、こうした強みが効果的な製品
と規模の経済や水平分業特性から世界的な価格競争に直面せざるを得ない製品を見極めた上
で、企業戦略が展開されることが極めて重要である。
③バリューチェーンでのオープン/クローズの戦略選択
独自技術をコアとしてビジネス的にも成功している企業では、バリューチェーンで見た際
に、自社のコア技術の前後のインターフェイスをオープンにし、標準化・モジュール化を促
進することで、前後の領域での競争促進を通じた価格低下と市場拡大による利益獲得の好循
環を生み出すモデルが存在する。この場合、コア技術はブラックボックス化し、安定的に大
きな利潤を生み出すプラットフォーマーが出現する構造となる。
我が国企業は、ともすれば周辺技術も含めて自社ですべて抱え込む戦略をとる傾向がある
が、自社が優位に立つ技術を同定し、それ以外の部分は開放し競争を促すことにより、バリ
ューチェーンの中で自社の優位技術がより広く活用され利益の源泉となることを認識するこ
とが必要である。
いわゆる付加価値とサプライチェーンのスマイルカーブに、このプラットフォーマーの出
所を例示すると次のイメージ図のようになる。
62
第 4-19 図
スマイルカーブのイメージ
出典:経済産業省作成
例えば、欧米諸国は利益率の高いソフトウェアに対し、ハードウェアの約 1/2 程度の研究
投資を行うのに比し、我が国は最も利益率が厳しいハードウェアへの投資が多く、ソフトウ
ェアへの投資はハードウェアの 1/8 強程度である。
第 4-20 図
IT(ソフト・ハード)における研究開発投資額の各国比較
出典:EU industrial R&D investment scoreboard より経済産業省作成
63
3)日本の企業経営上の課題
①商品開発と研究開発の遊離
我が国総合メーカは一般的に優れたシーズ技術を有しているが、それを過剰なスペックに
なることなく消費者が求める世界的な製品として結実させることや、サービスとの組合せで
価値を生み出すことが得意でないと言われている。言い換えると、課題を解決するためのキ
ーテクノロジーの開発には至るものの、商品戦略・ビジネス戦略との統合・同期化による価
値創造ができていない場合が少なくない。
②規模の経済と事業の選択と集中
日米の情報通信産業の上位 10 社を見ると、我が国では総合電器企業が並んでいるのに対し、
米国では一部の商品ドメインに特化した大企業が並んでいる。全体の研究開発投資額や売上
高では両者に大きな差はないが、競合商品ドメインに対する研究開発投資は米国企業の方が
相当大きい。特に開発と生産に規模の経済が効く世界的商品では、両者のコスト構造の差は
克服しがたいものになる。
第 4-21 図
我が国及び世界のトップ企業の研究開発投資額・売上高
64
こうした競争構造上の問題をいかに解決していくかについて、技術戦略においても事業戦
略においてもより的確な対応が必要である。
また、コモディティ化が進む製品において、中国、韓国等アジア諸国の企業の世界市場に
おけるプレゼンスが急速に増大している。付加価値の付与による多機能化など、製品をいか
に世界市場に浸透させていくか、差別化戦略によるグローバル展開が必要である。
第 4-22 図
IT(ソフト・ハード)における研究開発投資額の各国比較
出典:ディスプレイサーチ
出典:日経マーケットアクセス
出典:ガートナー、2007 年 3 月、GJ08101
出典:ガートナー、2007 年 3 月、GJ08101
出典:IDC
出典:IDC
出典:ガートナー
65
(コラム)科学技術基本計画におけるロボット技術の位置付け
産業用ロボットをはじめとする狭義のロボット産業は、年間約 6,000 億円の市場規模で推
移しているが、狭義のロボット産業に含まれない、さまざまな輸送機器・製造機器・医療福
祉機器・建設土木機器・家電製品などで、機械・電気・電子・情報の複合技術としてのロボ
ット技術(RT: Robot Technology)は活用されており、その経済効果は計り知れない。
ロボット技術は、第 2 期・第 3 期基本計画において、情報通信分野の中に位置付けられて
きたが、競争力を有する日本のものづくり力や、サプライチェーン間の擦り合わせによるノ
ウハウ・実績の蓄積等により、日本の強いロボット技術が実現されるものであること、ロボ
ットによって付加価値創造を狙うアプリケーション企業は情報通信企業以外にも多いことか
ら、オールジャパンとしてのロボット技術の推進戦略を検討することが望ましい。
我が国のロボット産業は、生産台数・保有台数ともに世界一位である。また、RT に関する
研究開発も非常に活発に行われており、世界最先端の技術力を保持している。例えば、ロボ
ットに係る特許出願動向のうち、出願数の伸び率が大きい注目テーマに着目しても日本は強
みを持っており、音声認識や安全技術など、特に人間との親和性に関する技術において日本
が先行している。
第 4-23 図
ロボット技術に係る注目研究開発テーマの国籍別累積出願件数
出典:平成 18 年度特許出願技術動向調査報告書「ロボット」(特許庁)
今後ロボット市場は、狭義のロボットのみならず、RT という形で生活分野や公共分野、医
療・福祉分野など、新たな分野への拡大が見込まれる。引き続き、要素技術の競争力確保に
向けた資源配分とともに、産業化のための開発方法や標準化、安全、規制のあり方など、事
業化に向けた環境整備も進めていくことが必要である。
66
(3)環境分野
1)日本の環境技術の優位性
環境分野の政府研究開発投資は、予算額、重点 8 分野におけるシェアともに着実に伸びて
いる。しかしながら、官民全体の研究開発費を見ると、民間部門の伸びが大きく、公的部門
の伸びは減少傾向にある。
第 4-24 図
環境分野における企業・NPO/公的機関・大学等による研究開発費の推移
出典:平成 16 年-20 年科学技術研究調査結果(総務省)
環境分野における企業の旺盛な研究開発費の内訳を見ると、平成 20 年度における環境
分野の研究費 8,618 億円の過半を、自動車・機械産業が占める。
第 4-25 図
環境分野における企業の研究開発費の業種別内訳
出典:平成 20 年科学技術研究調査結果(総務省)
67
環境分野における企業の研究開発の中心となっている自動車・機械において、例えば、
ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術に関する特許についてみると、全世界ベ
ースでの出願国別割合は日本が 53.8%を占めており、環境技術における我が国企業の強
みがうかがえる。
第 4-26 図
出願人国籍別特許出願件数(優先権主張年:1990 年~2005 年)
中国国籍
42件 その他
韓国国籍
0.1%
173件
398件
0.5%
1.2%
欧州国籍
11,686件
34.1%
日本国籍
18,409件
53.8%
米国国籍
3,525件
10.3%
出典:「平成 19 年度特許出願技術動向調査報告書
ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術」(特許庁)
また、上位 1%の被引用論文数においても、中国など日米欧以外の諸国が台頭し欧米の
シェアが減少する中、日本はシェアを伸ばしている。
第 4-27 図
環境分野における被引用論文数の国際比較
1998-2002
+0.4%
-3.8%
-0.9%
+1.6%
日本
米国
英国
ドイツ
フランス
中国
韓国
その他
+2.6%
2003-2007
※環境関連分野とは、環
境・地球科学・宇宙科学
の3分野の合計を指す。
0%
20%
40%
60%
80%
100%
出典:Thomson Essential Scientific Indicator より産業総合研究所作成
68
以上のように、環境分野では、我が国の科学技術力の強さが表れている。
このような日本の環境技術の優位性を生かした付加価値創造のあり方としては、サー
ビスソリューションをセットにして海外に提供していくソリューションビジネスが注目
される。例えば、生産工程の見える化により製造原価の大幅削減を達成したダイセル化
学工業は、ノウハウを標準化した IT システムを構築し、さらに、このノウハウを横川電
機と連携してソリューションサービスとして他社に提供・販売することで、新しい付加
価値創造につなげている。
<ダイセル化学工業と横川電機の取り組み>
出典:産業構造審議会 新成長政策部会
基本問題検討小委員会(平成 2 0 年 7 月)報告書
2)ビッグプロジェクトが主導する環境分野における研究開発の予算額
戦略重点科学技術として 10 技術が設定されている中で、環境分野の太宗は気候変動分
野であり、人工衛星からの観測技術、スーパーコンピュータによる予測技術、温暖化シ
ミュレーション技術といった国家基幹技術が占めている。
近年、戦略重点科学技術が上記の通りビッグプロジェクト主体の編成となっている中、
前項で見たような日本の環境技術力が十分に生かされていると言えるかどうか、慎重な
検討が必要である。
69
第 4-28 図 第 3 期科学技術基本計画期間中の環境分野における各戦略重点科学技術予算額
400
350
300
予算額(
億円)
250
61%
57%
気候変動
水・物質循環と流域圏
200
生態系管理
47%
化学物質リスク・安全管理
3R技術
150
バイオマス利活用
100
50
0
平成18年度
平成19年度
平成20年度
出典:内閣府資料をもとに経済産業省作成
<参考>環境分野における研究領域と戦略重点科学技術
研究領域
戦略重点科学技術
人工衛星から二酸化炭素など地球温暖化と関係する情報を一気に観測
する科学技術
ポスト京都議定書に向けスーパーコンピュータを用いて21世紀の気候変
気候変動研究領域
動を正確に予測する科学技術
地球温暖化がもたらすリスクを今のうちに予測し脱温暖化社会の設計を
可能とする科学技術
水・物質循環と流域圏研究領 健全な水循環を保ち自然と共生する社会の実現シナリオを設計する科学
域
技術
多種多様な生物からなる生態系を正確にとらえその保全・再生を実現す
生態系管理研究領域
る科学技術
新規の物質への対応と国際貢献により世界を先導する化学物質のリスク
化学物質リスク・安全管理研 評価管理技術
究領域
人文社会科学的アプローチにより化学物質リスク管理を社会に的確に普
及する科学技術
製品のライフサイクル全般を的確に評価し3Rに適した生産・消費システ
3R技術研究領域
ムを設計する科学技術
廃棄物資源の国際流通に対応する有用物質利用と有害物質管理技術
バイオマス利活用研究領域 効率的にエネルギーを得るための地域に即したバイオマス利用技術
出典:総合科学技術会議資料より経済産業省作成
70
また、米国への特許出願総数に占める日本国籍の出願割合をこの 10 年で見ると、衛星
による地球観測技術については前述のビッグプロジェクト中心の予算編成により、シェ
アが拡大していると思われる。一方、気候変動問題や資源問題がクローズアップされる
中、二酸化炭素分離・回収技術や海水淡水化技術、ないしは伝統的な公害防止技術であ
る NOx 等削減技術や汚泥処理処分量削減技術、さらにセルロース系バイオマス糖化・発
酵技術、バイオレメディエーション技術については、シェアが縮小している。以上のこ
とから、我が国の強みを活かせる重要な環境技術を改めて選定することが必要と考えら
れる。
第 4-29 図
環境技術分野における米国での特許登録件数(日本国籍)の割合
出典:平成 18、19、20 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書より、経済産業省作成
71
3)適正な規制によるイノベーションの推進
一般的に、イノベーションは研究開発投資を適切に行うことによって創出されるだけ
でなく、規制や社会制度がイノベーションを牽引していくという側面がある。特に環境
分野においては規制が先導する役割が大きい。
例えば、日本、米国、欧州への特許出願件数と環境規制の関係を見ると、1992 年自動
車 NOx 法、Euro1 規制、1998 年長期規制、2001 年改正自動車 NOx・PM 法などの法令
が制定され、それに応じて特許出願件数が増加するなど、技術開発の促進には環境規制
の強化が大きな影響を及ぼすことが示唆される。
第 4-30 図
NOx 関連規制と NOx 除去特許出願件数の推移
出典:「平成 19 年度特許出願技術動向調査報告書
ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術」(特許庁)
出典:平成 19 年度特許出願技術動向調査報告書「ディーゼルエンジンの有害排出物質の
低減技術」(特許庁)
72
(4)ナノテクノロジー・材料分野
1)科学・技術から産業まで、グローバルトップの競争力を有するナノテクノロジー・材料分野
我が国の材料・部材産業は、世界シェアの過半を占める製品を多く有しており、世界の最
終製品の基盤部材をグローバルに供給している。また、世界の材料企業の中でも我が国企業
は、世界最高の研究開発投資を行っている。
また、ナノテクノロジー・材料分野の科学技術の競争力に関し、上位 1%の論文の全世界ベ
ースでの被引用件数を他分野と比較すると、材料科学が最も引用シェアが高い分野となって
いる。被引用件数の世界トップ 10 に日本の研究機関が 3 機関ランクインしているのは材料科
学のみである。なお、我が国の材料科学分野は高い競争力を有しているものの、中国、韓国
の追い上げが加速していることが伺える。
第 4-31 図 「材料科学」分野の論文の被引用件数の研究機関ランキング(左)
・国別割合(右)
材料科学
順位 機関名
被引用総数
1 中国科学院
20,460
2 マックスプランク研究所
11,718
3 東北大学
9,028
4 マサチューセッツ工科大学
7,963
5 物質・材料研究機構
7,655
6 産業技術総合研究所
6,874
7 カリフォルニア大学バークレー校
6,871
8 精華大学(中国)
6,815
9 国立シンガポール大学
6,241
10 ワシントン大学
6,010
11 大阪大学
5,977
17 東京大学
4,981
18 東京工業大学
4,903
1998-2002
-2.4%
-3.1%
-3.8%
+7.0%
+2.2%
60%
80%
日本
米国
英国
ドイツ
フランス
中国
韓国
その他
2003-2007
0%
20%
40%
100%
出典:Thomson Essential Science Indicators から産業技術総合研究所作成
さらに、注目特許について見ると、米国への出願総数に占める日本国籍の出願人の割合
の 10 年の推移で見ると、ナノテクノロジー・材料分野には、米国特許の過半のシェアを有
している技術もあり、国際的な競争力が高いことがうかがえる。ただし、層間絶縁材料、化
合物半導体、グラフェン、ナノファイバーなど一部の技術で、直近 5 年間のシェアがその前
の 5 年間に比べてシェアを落としており、アジアを始めとする海外諸国の積極的な研究開発
への取り組みの一端を読み取ることができる。
73
第 4-32 図
米国出願件数に占める日本国籍出願数のシェア
ナノテクノロジー・材料分野の代表的技術
米国出願件数に占める日本国籍出願数のシェア
実装部材
ナノシミュレーション-自己集合化 70.0%
ナノシミュレーション技術
ナノ構造計測-微粒子計測
60.0%
空孔計測(ナノ計測)
50.0%
半導体加工技術-光回線
層間絶縁材料
Beyond CMOS
化合物半導体
40.0%
ナノ空間-ナノ空間技術を活用した …
パワーデバイス材料
30.0%
ナノ・マイクロ空間技術
次世代光メモリ用記録再生部材
20.0%
気相微粒子製造プロセス技術
MEMS製造技術
10.0%
0.0%
精密ビーム加工
NEMS/MEMSデバイス
有機ナノチューブ
ナノバイオ(再生医療)-スキャ …
高分子ゲル
複合材料技術
デンドリマー
炭素繊維・複合材料(自動車)
ナノファイバー
大容量キャパシタ材料
グラフェン
光触媒水素製造部材
ナノワイヤー
代替材料(希少金属)
分離膜
その前の5年間
熱電変換材料
直近5年間
出典:平成 18、19、20 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書(特許庁)より経済産業省作成
また、例えばカーボンナノチューブ(CNT)、光半導体、走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、
いずれも世界トップの競争力を有していることが分かる。
第 4-33 図
出願人国籍別件数比及び技術区分別の出願人国籍別出願件数
(全世界)
(カーボンナノチューブ(CNT)
)
CNT 技術区分別の出願人国籍別出願件数
(1999-2004累積)
出願人国籍別件数比(1999-2004)
-CNT-
1999
128件
35%
361件
(合計件数) 2,741件 1,452件
日本
米国
405件
948件
367件
109件
応用開発
2100
1143
296
764
235
86
加工・改質技術
1248
506
119
265
115
49
種類と特性
1395
988
199
605
288
55
製造方法
988
441
116
287
132
47
日本
米国
欧州
韓国
中国
その他
欧州
韓国
595件
44%
2004
1,339件
中国
その他
0
500
1000
1500
74
第 4-34 図
出願人国籍別件数比(全世界)(光半導体)
出願人国籍別件数比(1999-2004)
-光半導体-
1999
950件
742件・78%
日本
米国
欧州
韓国
2004
417件・51%
811件
中国
その他
0
第 4-35 図
200
400
600
800
1000
出願人国籍別件数比(全世界)(走査型プローブ顕微鏡(SPM)
)
出願人国籍別件数比(1999-2004)
-SPM(走査型プローブ顕微鏡)-
1999
426件
306件・72%
日本
米国
欧州
韓国
2004
191件・73%
259件
中国
その他
0
100
200
300
400
500
出典:平成18年度特許出願技術動向調査報告書「ナノテクノロジーの応用(カーボンナノ
チューブ、光半導体、走査型プローブ顕微鏡)」から経済産業省作成
以上のことから、我が国のナノテクノロジー・材料分野の我が国の競争力は、科学・技術
から産業に至るまで世界トップのレベルにある。加えて、情報通信や自動車という基幹産業
の技術革新においてブレークスルーを数多く提供してきた基盤技術であり、ナノテクノロジ
ー・材料の技術は我が国産業の競争力を広く支えていると言える。ただ一方で、中国や韓国
の急速な追い上げが激しい分野でもあることに留意が必要である。
2)国際競争に勝ち抜くためのナノテクノロジー・材料戦略の再構築の必要性
ナノテクノロジー・材料分野は、第 2 期、第 3 期基本計画において重点推進分野の一つに
位置づけられており、とくに第 3 期においては、同分野の予算は着実に増加している。
しかし、欧米の予算額とその増加率を比較すると、欧米は高い伸びを示しているのに対し
て、日本はほぼ横ばいに推移している。
75
第 4-36 図
欧米とのナノテクノロジー・材料分野関連予算の推移
出典:平成 19 年度製造技術対策調査等(ナノテクノロジー推進基盤調査)報告書
さらに、ナノテクノロジー関連予算のうちインフラ整備への投資を比較すると、米国やア
ジア諸国が一定の割合でインフラ整備への投資をしているのに対して、日本はその割合が著
しく低いことが分かる。
ナノテクノロジー・材料分野の研究開発は、その技術の応用分野が情報通信、ライフサイ
エンス、環境、エネルギー等と幅広く、連携や融合のための拠点形成の推進が不可欠である
ことに加え、最先端の研究インフラへの集中投資が必要であり、我が国の政策展開の立ち後
れが懸念される。
第 4-37 図
インフラ
15%
各国のナノテクインフラへの投資
インフラ
16%
R&D
77%
米国
インフラ
2.5%
インフラ
19%
R&D
78%
R&D
80%
韓国
台湾
R&D
97.5%
日本
出典:独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター戦略プロポーザル「自立指向型
ナノテク融合センターの設置」をもとに経済産業省作成
76
諸外国では、ナノテクノロジー・材料分野に関する研究開発を推進する一方、拠点整備や
教育・人材育成への取り組みが進んでいる。
米国では、国家ナノテクノロジーイニシアチブ(NNI)のもとで関係省庁が一体となってナ
ノテクノロジーの研究戦略を推進している。米国内の大学及び国立研究所のネットワーク化、
クラスター化が進められており、ファシリティの共用化が進む一方、世界に開かれた研究開
発拠点が形成されている。主な取り組みは、次のとおりである。
国立科学財団(NSF)が推進する国家ナノテクノロジーインフラネットワーク(NNIN)は、
米国内 13 大学のナノテク関連施設を束ねたユーザー施設ネットワークである。1993 年に創
設された国家ナノテクユーザーネットワーク(NNUN)を引き継ぎ 2004 年に発足している。
さらに産業界のニーズと連邦政府及び州政府とのマッチング助成により、ナノエレクトロニ
クスの研究開発拠点が形成されている。
また、エネルギー省(DOE)では、米国内の国立研究所を中心とした 5 つのナノテクセン
ターを整備しており、全世界から研究者や関連企業が集まる大規模な研究開発拠点が形成さ
れている。
第 4-38 図 米国 NNI の研究支援
出
典 :
『The National Nanotechnology Initiative – Supplement to the President’s 2007 Budget』
、P.23
77
第 4-39 図
米国の取り組み例
出典:独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター提供資料
韓国では、2001 年に「ナノテクノロジー総合発展計画」を制定し、研究開発、教育・人材
育成、インフラ整備を 3 つの柱として重点的に投資をしている。翌 2002 年には、研究開発
の加速を目的としてナノテクノロジー促進法が制定している。また、韓国科学技術部(MOST)
に KANC、NNFC といったナノファブセンターを設立している。
台湾では、2002 年に「国家ナノテクノロジープログラム」を制定し、研究開発、産業化、
インフラ整備、人材育成といった政策を推進している。とくに、インフラ整備についてはコ
アファシリティプログラムの中で、コア施設の整備と共用化を推進している。また、ナノテ
クノロジーに関する教育制度(K-12 等)が充実していることが特徴的である。
78
シンガポールでは、科学技術庁傘下にある情報通信・材料工学関係の 7 つの国立研究所を
集約した世界に開かれた研究開発拠点「フュージョノポリス」を整備している。
第 4-40 図
韓国、台湾、シンガポールにおける取り組み例
出典:独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター提供資料
これら諸外国と比較すると、我が国のナノテクノロジー・材料に関する政策は、科学技術
基本計画で重点推進分野の一つになっているものの、その後の戦略的な研究開発の展開、と
くに多様な研究ラボと集中的かつ共通基盤的な研究拠点の整備、教育・人材育成に関する施
策の効果的な推進が重要課題である。
79
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