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資料集 別添4(PDF形式:2352KB)
第 4-7 図 米国への特許出願のうち日本国籍の出願人による割合 出典:平成 18、19、20 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書(特許庁)より経済産業省作成 以上のことから、官民ともに研究開発投資の規模が欧米と比べると少ない中、政府研 究開発投資を効果的・効率的に進めるためには、強みを有する科学技術領域を見極め、 他国との明確な差別化を図り、研究開発対象の選択と集中を図ることが求められている。 2)イノベーション生態系の機能不全 我が国においては、ライフサイエンス分野に関連する基礎研究∼応用開発∼実用化の 流れの中で、知識・資金・人材の好循環が形成されていない。 政府研究開発投資のうち、政策課題対応型研究開発の分野別割合をみると、ライフサ イエンス分野においては他分野と比べて、総額・割合とも堅実に増加してきた。また、 科学研究費補助金(科研費)においては、ライフサイエンス分野(生物系)への配分が 科学技術分野全体の過半を占める。一方、ライフサインス分野における上位 1%の被引用 論文数の我が国のシェアは、材料科学、化学、物理等の分野のそれを下回っている。こ のように、政府研究開発投資の量と比較した際の論文の質の検証が必要となっている。 基礎研究の成果を実用化につなげるには、臨床研究が不可避である。基礎研究および 臨床研究におけるインパクトファクターの高い 3 誌をもとに、医学論文数を著者の国籍 別に比較すると、基礎研究論文については米国、ドイツに続いて、日本は 3 番目である が、臨床研究論文については 18 番目と低位にある。過去との比較においては、基礎研究 論文については常に上位をキープしているのに対し、臨床研究論文については 1998-2002 年と比較すると 2003-2007 年の順位は大きく下がっている。このように、我が国は基礎 研究で優位性を保っているものの臨床研究で劣後している。 39 第 4-2 表 医学論文数の年次推移 注:基礎研究雑誌(Nature Medicine,Cell,J Exp Med)および臨床研究雑誌(New Engl J Med,Lancet,JAMA) について 2003-2007 年(5 年間)の論文数(Article のみ)を集計した。なお、すべての著者の国籍をカウント しているため、著者が複数国にまたがっている論文については重複がある。 出典:「政策研ニュース No.25」 (医薬産業政策研究所) ベンチャー企業への投資についてみると、バイオベンチャーは他分野のベンチャー企 業以上に重要な役割を担うところであるが、我が国におけるバイオベンチャーの企業数 は欧米に比べて少なく、特に株式を公開した企業は僅少である。 我が国のベンチャーキャピタルからバイオベンチャーへの投資額は 2005 年度、2006 年度の平均額で、200 億円/年程度である。一方、米国では、2007 年の 1 年間にバイオ ベンチャーがベンチャーキャピタルから調達した資金は 29 億ドルに上り、日米間では 10 倍以上の差がある。 40 第 4-8 図 ベンチャーキャピタルからバイオベンチャーへの投資額の日米比較 億円 日米ベンチャーキャピタルからバイ オベンチャーへの投資額 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 米国 日本 ※米国は 2007 年の数字、日本は 2005 年度、2006 年度の平均 出典:財団法人ベンチャーエンタープライズセンター・ベンチャービジネス動向調査研 究会「2008 年ベンチャービジネスの回顧と展望」、平成 19 年度製造産業局委託調査 「バイオベンチャーの社会的活用促進に関する調査報告書」 次に、医薬品もしくは医療機器の製造販売承認を得るためには、臨床試験(治験)を 行う必要がある。治験に要する平均期間を全体で比較すると、日本は 6.2 年、米国では 5.0 年かかり、日本が約 1.2 年長い。また薬効領域別にみても、全ての領域において日本 が米国に比べて長い。 加えて、薬事法に基づく承認審査期間を欧米と比較すると、我が国の承認審査期間は 米国の約 2 倍、欧州の約 1.5 倍長い。これらの期間の長さが、日本での新薬上市時期の 遅れ(いわゆる”ドラッグ・ラグ”)の一因となっている。この背景としては、日本は審査 員を含め、審査の現場に携わる人員数が少ないことが挙げられる。 こうした環境の下、日本の製薬企業が欧米での薬事承認を先んじて取得する動きが加 速したり、日本発のバイオベンチャーが海外を本拠地とする動きも出てきており、我が 国においてはイノベーションの最終プロセスの国内空洞化が進展している。 41 第 4-9 図 治験期間の日米比較(1993-2001 年新有効成分) 出典:「政策研ニュース 第 4-10 図 No.10」 (医薬産業政策研究所) 日本・米国・欧州の承認審査期間(承認申請日∼承認日) 出典:「政策研ニュース 第 4-11 図 No.25」 (医薬産業政策研究所) 日米の薬事承認審査機関の職員数 4,239 人 426 人 ※FDA の職員数は CDER(2,289 名), CBER(827 名),CDRH(1,123 名)の 合計(2007 年) ※PMDA の職員数は審査部門、安全部門 の合計(役員を含む)(2008 年) 出典: FDA ホームページ、独立行政法人医薬品医療機器総合機構「業務のご案内 2008」より経済産業省作成 42 最後に、近年、世界のライフサイエンス関連市場は増大の傾向にある。例えば世界の 医薬品市場については、過去 10 年間で 2 倍以上に増大している。一方で日本の医薬品市 場は同期間で 2 割程度の伸びにとどまっており、結果として世界市場における我が国の シェアは、ほぼ半減している。 第 4-12 図 世界の医薬品市場の推移 出典:「革新的創薬等のための官民対話」資料(IMS Health, IMS World Review 1998 2007) 以上のように、イノベーション生態系という観点では、生命科学の研究の充実に注力 するだけではなく、臨床研究及びその審査体制の充実など、イノベーションの川下にお ける制度的課題の解決に今まで以上に強力に取り組むことが、効率的な政府研究開発投 資ひいては、社会の要請に応えたイノベーションを実現する上で不可欠と言える。 (コラム)シンガポールのバイオ戦略 バイオメディカルは、シンガポール政府が経済発展の中核を担う産業として取り組ん でいる分野である。その象徴は、シンガポール大学の隣接地に整備中の科学技術パーク 「ワン・ノース」にある「バイオポリス」であり、公的研究機関や各国の製薬企業の研 究開発拠点が整備されている。 「 バイオポリス」は合計 185,000 ㎡のラボスペースを有し、 バイオ実験設備のみならず大規模診断装置などの最新の設備を整えており、現在、約 40 社、2,000 人以上の研究者が研究開発を行っている。日本のがん研究者である元京都大学 名誉教授の伊藤嘉明氏が所属するシンガポール国立大学(NUS)の分子細胞生物学研究所 も在籍するなど、世界最高レベルの科学者の招聘している。 本政策はアジアの研究開発・ハイテク産業拠点を作ろうと計画したワン・ノース・プ ロジェクトに端を発しており、今後 15 年∼20 年の間に 150 億シンガポールドルを投じ、 バイオメディカルのみならず、IT 分野においても同様の拠点を構築していくことを計画 している。 出典: 「平成 18 年度海外技術動向 調査 調査報告書 アジア編」よ り編集 1 シンガポールドル =63 円(2009.3 現在) 43 (参考)主要指標の日米比較 米国 日本 米国を 100 とした ときの日本の割合 100 政府による R&D 投資額 100 主要企業による R&D 投資額 100 VC による投資額 米国における特許出願 (※) 100 16 15 7 13 100 臨床研究に係る論文数 3 100 薬事承認審査に係る審査員 10 日本を 100 とした ときの米国の割合 81 治験に係る期間 100 50 承認審査に係る期間 100 ※「平成 19 年度重点 8 分野の特許出願状況調査報告書」(特許庁)における公開件数 44 (2)情報通信分野 1)最大の基幹産業を支える研究・人材資源の課題 情報通信産業の研究開発投資額及び設備投資額は、他のどの国内産業よりも大きく、民間 研究開発投資総額(13兆3,274億円)のうち、31%(4兆1,170億円)を占める。設備投資額も 製造業全体の30%を占める。 第4-13図 情報通信産業の研究開発投資額及び設備投資額 この情報通信分野の研究開発投資は、総額の 9 割以上が民間企業によるものであり、この 企業部門の研究開発投資額の増加が全体の投資額の増加を牽引している。官の投資割合はこ こ数年一定の割合を保っているが、民の投資額に見合うだけの官の投資がなされているかに ついては、検証が必要である。 第4-14図 情報通信分野における企業・NPO/公的機関・大学等による研究開発費の推移 出典:平成16年-20年科学技術研究調査結果(総務省) 45 一方特許に着目すると、注目技術について、その米国への出願総数に占める日本国籍 の出願人の割合をこの10年で見ると、ストレージ、無線タグ、アンテナ技術の特許数を伸 ばしているものの、ナノエレクトロニクス・デバイス技術、相変化メモリ、光インターコネ クト等、次世代デバイス開発競争のカギを握る最先端技術の減少が目立つ。情報通信産業の 持続的な競争力維持には、このような次世代最先端技術の研究開発を強化することが必須で あり、国の研究開発投資の役割が極めて重要である。 第4-15図 米国への特許出願のうち日本国籍の出願人による割合 出典:平成18、19年度重点8分野の特許出願状況調査報告書より、経済産業省作成 (コラム)ナノエレクトロニクス・デバイス技術における米国への出願人国籍別登録状況 特許庁が実施する特許出願状況調査において、平成19年度に実施されたナノエレクトロニ クス技術の報告書によると、同技術の日本国籍企業出願件数のシェアは米国に次いで2位であ る。シェアトップの米国がその数を緩やかに伸ばす一方、日本のシェアは減少傾向であるほ か、緩やかながらアジア諸国のシェアが拡大傾向にある。 第4-16図 ナノエレ技術の米国への出願人国籍別登録状況 100% 90% 80% 70% 米国 60% その他 台湾 50% 中国 韓国 40% 欧州 日本 30% 20% 10% 0% 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 出典:平成19年度重点8分野の特許出願状況調査報告書より、経済産業省作成 46 文部科学省が実施している学校基本調査において、全学部、電気通信工学の卒業者数の推 移をみると、高等教育機関(大学)全体での学生数は増加傾向にあるものの、情報通信工学 の卒業生は減少している。我が国の基幹産業である情報通信に対する大学への教育研究投資 が適切に行われているかについて、検証が必要である。 第 4-17 図 全学部・電気通信工学の卒業者数の推移(2000 年=100) 出典:「学校調査報告書」(文部科学省)より、経済産業省作成 2)知財・ビジネスの特異性に起因する課題 ①知財の特異性 情報通信分野においてはひとつの製品の中に膨大な知財が使用されており、少数の知財の みで市場を獲得することは困難な場合が多い。一方、ライフサイエンス分野では少数の知財 のみで大きく市場を獲得することが可能である。 第 4-18 図 分野ごとに異なる知財の特性 出典:日本製薬工業協会資料を竹中氏が改編 47 製品の競争力を支配する知財が少数であり、かつそれを占有できる状況にある場合には、 価格競争の回避が可能であり、安定した利益の確保につながる。こうした特性を有する分野 においては、①製品の競争力を決定的とする知財の創出、②出口も含めた包括的な権利化が 重要である。 他方、クロスラインセンスによって相互補完することでしか製品化できない製品の場合に は、特許によるリターンを得るということよりはクロスライセンスするための膨大な研究開 発投資競争に陥りがちとなり、市場全体を見て重複的・非効率的投資になる側面が他分野に 比して大きい。また、クロスライセンスの結果、各社とも同様の技術に基づく製品化を図る こととなり、差別化が困難でコスト競争になりがちである。 こうした特性を有する分野においては、やみくもに個々の会社が自前主義的な研究開発競 争を繰り広げるのではなく、開発初期から協業による研究開発投資の効率化を図ることが極 めて重要である。 ②モジュール化と水平ビジネスモデルに起因する課題 パーソナルコンピューター、液晶テレビ、太陽電池のように規模の経済の下でモジュール 化が進んでいる大量生産製品においては、我が国発のプロダクトイノベーションの量産技術 が製造設備に化体され、その装置の専業メーカが水平的に世界の組立メーカに販売展開する 状況が生まれることで、激しい価格競争に直面する例が多い。製造設備がグローバルに供給 され、その運用にもさほどの能力が要求されない場合にあっては、製造設備に資本を大きく 投入し、価格競争に持ち込むことで、大きな市場を獲得することが可能となる。 こうした事態を避けるためには、製造プロセスを重視し、装置の内製化や組成・加工条件 等の製造設備に化体されないノウハウ等をブラックボックス化するといった対応が図られる 場合がある。元来我が国企業は製造設備の改造を重ね、自社が追求する仕様水準に高めた生 産技術による高品質製品で差別化を図ることが得意であるが、こうした強みが効果的な製品 と規模の経済や水平分業特性から世界的な価格競争に直面せざるを得ない製品を見極めた上 で、企業戦略が展開されることが極めて重要である。 ③バリューチェーンでのオープン/クローズの戦略選択 独自技術をコアとしてビジネス的にも成功している企業では、バリューチェーンで見た際 に、自社のコア技術の前後のインターフェイスをオープンにし、標準化・モジュール化を促 進することで、前後の領域での競争促進を通じた価格低下と市場拡大による利益獲得の好循 環を生み出すモデルが存在する。この場合、コア技術はブラックボックス化し、安定的に大 きな利潤を生み出すプラットフォーマーが出現する構造となる。 我が国企業は、ともすれば周辺技術も含めて自社ですべて抱え込む戦略をとる傾向がある が、自社が優位に立つ技術を同定し、それ以外の部分は開放し競争を促すことにより、バリ ューチェーンの中で自社の優位技術がより広く活用され利益の源泉となることを認識するこ とが必要である。 いわゆる付加価値とサプライチェーンのスマイルカーブに、このプラットフォーマーの出 所を例示すると次のイメージ図のようになる。 48 第 4-19 図 スマイルカーブのイメージ 出典:経済産業省作成 例えば、欧米諸国は利益率の高いソフトウェアに対し、ハードウェアの約 1/2 程度の研究 投資を行うのに比し、我が国は最も利益率が厳しいハードウェアへの投資が多く、ソフトウ ェアへの投資はハードウェアの 1/8 強程度である。 第 4-20 図 IT(ソフト・ハード)における研究開発投資額の各国比較 出典:EU industrial R&D investment scoreboard より経済産業省作成 49