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(2)日本企業の研究開発投資動向 我が国の研究開発投資額 18 兆 9,438 億円(2007 年度)で、このうち民間企業における研 究開発投資額は 13 兆 8,403 億円であって、そのうち上位 200 社が 11 兆 7 千億円余りで 8 割 超を占める。また、上位 20 社で半分を占めている。産業分野で見ると、エレクトロニクス、 自動車、材料、機械、製薬が大きな投資主体である。 また、研究開発投資を対 GDP 比で見ると、我が国は他国に比べて高い水準で推移している。 他方、我が国の研究開発投資の増加が創出される付加価値額(生産額-原材料額等)の増大 につながっていないという課題が指摘されている。 2007年度R&D投資額 (億円) 第 6-4 図 我が国の研究開発投資額上位 200 社 10,000 9,000 8,000 7,000 5,000 1,000 4,000 0 3,000 JUKI 大和ハウス工業 日本新薬 日本ペイント 電源開発 シマノ 東京応化工業 キーエンス 三井金属鉱業 ディスコ 日本無線 日本航空電子工業 SANKYO 清水建設 持田製薬 アサヒビール ライオン 高砂香料工業 島津製作所 富士通ゼネラル 太陽誘電 ヤクルト本社 NOK 東北電力 シスメックス 大成建設 堀場製作所 平和 グローリー 東洋ゴム工業 鹿島 電気化学工業 浜松ホトニクス 安川電機 九州電力 山武 東京ガス ミネベア ニッパツ 住友重機械工業 大阪ガス トプコン 日本精工 イビデン シチズンホールディングス 日本化薬 荏原 キョーリン SUMCO 東洋紡 ヒロセ電機 トクヤマ 日本触媒 テイ・エス テック 久光製薬 キッセイ薬品工業 王子製紙 三菱マテリアル 新日鉱ホールディングス TOTO ダイセル化学工業 日本ゼオン 日産化学工業 日清紡 三菱レイヨン 新日本石油 住友ベークライト 参天製薬 日本ガイシ 三菱瓦斯化学 東ソー 宇部興産 サンケン電気 中部電力 アンリツ 資生堂 カシオ計算機 東洋製缶 明治製菓 船井電機 ケーヒン NTN クラレ 横浜ゴム 出光興産 日本板硝子 DIC 東日本旅客鉄道 住生活グループ テルモ ミツミ電機 大日本スクリーン製造 カネカ SMC 昭和電工 HOYA 日本特殊陶業 バンダイナムコホールディングス 日立国際電気 住友ゴム工業 OKI 東海理化電機製作所 カプコン ファナック フジクラ KDDI JSR 関西電力 古河電気工業 住友金属工業 小糸製作所 日東電工 タカタ 東海旅客鉄道 IHI 大正製薬 クボタ ヤマハ 積水化学工業 豊田合成 キリンホールディングス 凸版印刷 エルピーダメモリ 日本電産 神戸製鋼所 アドバンテスト ジェイテクト 富士電機ホールディングス ダイキン工業 コナミ 味の素 ローム 旭硝子 協和発酵キリン ブラザー工業 三菱自動車工業 大日本印刷 川崎重工業 帝人 豊田自動織機 任天堂 東京電力 小野薬品工業 JFEホールディングス 塩野義製薬 横河電機 三井化学 アルプス電気 村田製作所 花王 日本たばこ産業 新日本製鉄 東レ 信越化学工業 コマツ オムロン 富士重工業 中外製薬 旭化成 TDK ニコン パイオニア 田辺三菱製薬 いすゞ自動車 京セラ セガサミーホールディングス オリンパス 東京エレクトロン 三洋電機 住友電気工業 コニカミノルタホールディングス セイコーエプソン ヤマハ発動機 ブリヂストン 住友化学 三菱重工業 スズキ 三菱ケミカルホールディングス マツダ アイシン精機 リコー アステラス製薬 三菱電機 第一三共 富士フイルムホールディングス シャープ エーザイ 富士通 日本電信電話 武田薬品工業 デンソー NEC キヤノン 東芝 日立製作所 日産自動車 ソニー パナソニック 本田技研工業 トヨタ自動車 0 2,000 6,000 2,000 1,000 出典:経済産業省作成 160 第 6-5 図 研究開発投資の対 GDP 比の推移 日本 3.33 韓国 3.23 研究開発費の対国内総生産(GDP)比(%) 3.0 米国 2.62 ドイツ 2.51 フランス 2.12 2.0 EU-25 1.86 イギリス 1.78 中国 1.43 1.0 日本 米国 ドイツ フランス イギリス 韓国 EU-25 中国 0.0 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 (年) 出典:「Main Science and Technology Indicators 2008/1」 (OECD) 第 6-6 図 我が国製造業の研究開発投資と付加価値額の推移 備考:付加価値額=生産額-(原材料使用額、減価償却額等) 出典:「科学技術研究調査報告」 (総務省) 、 「工業統計表」(経済産業省) 161 企業における研究開発投資を 2002 年度と 2006 年度で比較すると、上位 200 社の研究開発 投資額は約 2 割増加している。その中で、製薬、自動車・同部品、電子部品、精密電子製品 関連企業が高い伸び率を示している。一方、総合メーカー、コンピューターメーカーには研 究開発投資を絞っている企業がある。 さらに、研究開発投資額上位 200 社について、2002 年度から 2006 年度にかけての研究開 発投資増減率と売上高増減率の比較を行うと、3 割の企業が売上の伸び以上に研究開発投資 を伸ばしている一方で、6 割の企業は売上の伸び以下に研究開発投資の伸びを抑えており、 研究開発投資効率向上に取り組む一面がうかがえる。 第 6-7 図 企業の研究開発投資額及び研究開発比率の変化 出典:経済産業省作成 第 6-8 図 研究開発投資上位 200 社の研究開発投資額と売上高の増減率分布 備考:研究開発投資額、売上高ともに 2002 年度から 2006 年度の増減率。 円の大きさは、2006 年度の売上高を示す。 組織再編により 2002 年度のデータがない企業は除いてある。 出典:経済産業省作成 162 また、研究開発投資額の大きい我が国企業と海外企業を業種ごとに各々上位から比較する と、研究開発投資額・売上高ともに規模の格差が顕著となるのは製薬業である。加えて、我 が国企業は 1 つの業種に関わる企業数が他国企業よりも多いこと、エレクトロニクス系では 我が国企業に比べて他国企業は専業的といった特性がある。したがって、ある製品・技術分 野に係る研究開発投資額は、企業レベルで見ると、他国企業の方が我が国企業よりも大きい 可能性がある。 第 6-9 図 研究開発投資額上位企業の業種ごとの内外企業比較 備考:金額の単位は億ドル。 出典:Standard and Poor’s Global 1200 (2006)より経済産業省作成 163 (3)グローバル企業の技術経営の最前線 ~オープンイノベーション環境下での 5 つの戦略展開 1)コア技術・非コア技術への投資バランス 我が国企業は、バブル崩壊後、研究開発資源を自社が強みを有するいくつかのコア技術に 選択・集中し、それらを深化・融合させて、競争優位を確保してきている状況にある。その 中で、アジア企業の台頭等による国際競争の激化から、事業部門の製品開発に対する研究開 発投資が優先的に行われ、研究開発のスコープが短期化の傾向にある。こうした状況に対し、 企業には先行研究への研究開発投資が不十分であるため、持続的な成長に懸念する声が多い。 特に、技術進歩の速さが製品サイクルを短期化する一方で、莫大な開発投資でコスト競争に さらされるコモディティ(情報家電製品)分野で、深刻な声がうかがわれる。 (企業の声) 近年の成長は、研究開発資源を近場に振ってきたことも背景にある。技術開発センターが事業部の下 支え的な役回りをすることが増えた面がある。危機感を持っており、来年度以降、中長期的な開発に重 点を移すことを検討している。 一つ一つのコア技術を世界No.1とし、この技術を合わせたシナジー効果で製品開発力を高め、新事 業創出と持続的成長を行う。これにより持続的イノベーションと破壊的イノベーションを行おうとしている が、そのウエイト付けが重要。ヒットを多く打つ持続的イノベーション型の会社は強い。ホームランは時々 である。 第 6-10 図 現在の我が国の技術経営の課題(イメージ) 高い 既存製品・技術との連続性 非連続的 連続的 ディビジョン ・ラボ コア技術との連続性 非連続 連続的 イノベーション R&D イノベーション R&D 出典:経済産業省作成 164 ★外部資源の活用最大化 ★持続的な成長に課題 資源投入 低い コーポレート ・ラボ 2)外部研究資源の活用 研究開発投資の選択と集中の結果として、多くの企業では顧客ニーズに迅速・的確に対応 するために必要なものの自社では保有しない技術について、外部に広く積極的に求めるオー プンイノベーション型の技術戦略に転換している。かつては多くの企業が自社で全ての技術 を保有する「自前主義」の立場をとっていたが、現在ではこうした企業は少なく、外部資源 の活用を進めている。 「外部委託額が増えすぎてブレーキをかけるほど」とする企業もある。 こうした動きは、自社が強みを有するコア技術を強化し、内外の異種技術と結合・融合さ せ、付加価値を増大させる戦略と考えられる。また、最先端技術の有する非連続性・不確実 性・複雑性に対して自社のみでは対応が困難であること、加えて研究開発の迅速化がより求 められてきていることが、こうした動きを加速していると考えられる。 第 6-11 図 社外に研究費を支出する企業の割合と社外研究開発費の変化(1984 年=100) 165 第 6-12 図 企業における社外支出研究費割合(国内+海外) 0 (%) 5 10 15 20 25 30 35 40 全産業 製造業 医薬品工業 化学工業 2002年度 機械工業 2003年度 2004年度 電気機械器具工業 2005年度 情報通信機械器具工業 2006年度 電子部品・デバイス工業 輸送用機械工業 ソフトウェア・情報処理業 通信業 資料:総務省「科学技術研究調査報告」 第 6-13 図 企業における社外支出研究費割合(海外) 0 (%) 2 4 6 8 10 全産業 製造業 医薬品工業 化学工業 機械工業 電気機械器具工業 2002年度 2003年度 情報通信機械器具工業 2004年度 電子部品・デバイス工業 2005年度 2006年度 輸送用機械工業 ソフトウェア・情報処理業 通信業 資料:総務省「科学技術研究調査報告」 166 12 (企業の声) 貪欲にコア技術は磨き、ないものは外に求める。特に最先端研究は、大部分が外部との共同研究であ る。(機械系) シーズは大学や国研にあるものと考えている。当社の研究開発は、顧客の立場に立って、シーズをいか にユーザーが求める製品にトランスファーしていくかという役割としている。 近年は『開発初期段階のスピードアップ』が勝負の第一歩を左右するため、調査・探索・基礎研究のフェ ーズでの公的研究機関とのコラボレーションを図っている。 社外連携については、2003年から急増している。技術が高度化していることから、テーマをすべて自前 でするのではなく、的確にパートナーと組み、役割分担をしっかりして開発することが重要。 米国では、企業パートナー連携のための仕組み作りが非常に上手く、巧みに Give & Take の関係を作 っている。権利と義務に関して、その場その場に即して無段階・連続的に対応できる柔軟なシステムを 作っており、日本にないものがある。 こうしたオープンイノベーション型の技術戦略の展開として、自社にない技術の収得・補 完(インバウンド志向)から、協働のシナジーによる価値創造(アウトバウンド志向)に向 けた動きがある。すなわち、ない技術を互いに補完する連携関係から、ない技術を一緒にな って生み出す連携関係へと変化が見られる。この点について、 「自前のみで行うと発想が固ま る」、「基礎研究は自社のみではできないので徹底的に官や学と組むことがよい」、「シーズは 大学や国研にある」といった企業の声がある。 第 6-14 図 インバウンドからアウトバウンドへ 出典:経済産業省作成 167 外部連携の効果を最大化する鍵は、Win-Win 関係の構築にあると考えられる。欧米企業間 では、垂直連携・水平連携を問わず、柔軟で高度な契約手法を駆使して、これに対応してい る。すなわち、権利と義務をその場その場に即して柔軟に整理し、Give and Take の関係を構 築するシステムが機能している。他方で、我が国にはこうした柔軟性があまりなく、連携が うまく機能していない可能性がある。 外部連携を強化する企業では、内外のあらゆる技術シーズ情報の取得に資源を割き、ベン チャー企業・公的機関など新技術の獲得のために様々な対話・連携を強化している。産学連 携やライセンシングのみならず、M&A や JV も視野に入れてきている。その一方で、こうし た企業からは、我が国ベンチャー企業におけるビジネスモデルの弱さや、魅力的なベンチャ ー企業の不足、海外の研究開発コミュニティーに我が国企業が溶け込めていないといった指 摘がある。 第 6-15 図 日米欧のベンチャーキャピタルの投資残高の推移 (企業の声) ベンチャーリングに関しては、シリコンバレーにベンチャーファンドを置き、年間■0億円 の予算で数社の投資を行っており、年間■00件くらいのオファーがある。」 「日米のベンチ ャーの大きな違いは、プロの経営者がいないこと。日本のベンチャーが資金を集める時のプ レゼンは、米国と比較すると『科研費の提案書』の域を出ないという程度。特に大学発ベン チャーにこの傾向が強い。 アメリカ西海岸に優秀な研究者を送っているが、研究動向を見るために行っているのではな く、自分の研究する種を探しに行っている。現地では、名刺を交換した時に日本の名刺だと、 『情報を持ってかえるだけの人』達だと思われる。エコシステムに入るためには、自分なら これができると、相手にプレゼンできる必要がある。 自社で基礎研究を大々的にやるより、ベンチャーなど外部リソースを積極的に活用していく 方向である。グローバルな時間との競争の中で、特定の新規技術構築に多くのリソースをか けるより、既にできあがっている必要な新規技術を導入し垂直的に立ち上げた方が効率がよ い。ベンチャー企業との連携は活用しているが、主に海外ベンチャーと実施することが多い。 我々が興味を示すようなテクノロジーを持つ国内ベンチャーが少ないように感じる。 海外拠点は、日本の研究だけでは対応出来ないものを、ベンチャー企業の買収を含めて取り 込んでいる。ベンチャー買収は加速しているところ。世界的な動きではあるが、研究開発を 1 社だけでやっていくのは難しい実状がある。どのようにいい企業を見つけてどのように提 携していくかが重要。 168 <米国ベンチャー企業・大学有識者の指摘> クラスター型ハイテク・ベンチャービジネスに必須といわれる 4 要素、すなわち①資金(エ ンジェル、ベンチャーキャピタル) 、②大学、③タレント(アントレプレナー、経営・法律・ 財務エキスパート) 、④ノウハウ(ネットワーキング、インキュベーティング)の中で、日 本に致命的に欠落しているのは、エンジェル、経営・法律・財務エキスパートとネットワー キングである。 多くの企業がベンチャービジネスに係る投資・提携・買収等を担当する出先をシリコンバレ ーに置いているが、①下請企業的取扱を受けること、②技術の収奪を狙っていること、③シ リコンバレーのネットワークに溶け込み切れていないこと、から現地ベンチャー関係者から 敬遠されている。Win-Win 関係の構築と、現地のベンチャーネットワークやシリコンバレー の生態系(エコシステム)に溶け込むことが不可欠である。 米国の一流大学の教授は、世界中から公募され、多数の外部有識者の評価を受ける。そこに 学内の政治力学が入り込む余地はない。他方で、日本のシステムでは自分の出身研究室の教 授は養成されるが、今必要とされている幅広い分野の専門性を有する人材の育成は困難。 日本の企業は組織内部での知識の移転には強いが、外部からの知識の移転には弱い側面あ り。他国の多くのグローバルトップ企業は、可能なオプションに対してオープンに望み、他 社と柔軟に連携を図っている。特に人的資源については、優秀な人材を全ては雇えない中で、 外部連携が極めて重要となっている。 第 6-16 図 米国におけるオープンイノベーションへの取組事例 オープンイノベーション経営国際会議の開催事例 ☛ ☛ ☛ “It’s not a vender, not a supplier, but a partner.” ☛ ☛ ☛ 169 日本の産・学・官と もに、世界のブレイ ン・サイクルに溶け込 むことが重要。 民間企業と大学の共同研究は年々増加している。民間企業にとって大学は新卒獲得のため の「バラマキ先」から企業との対等な連携先へと変化してきている。一方で、大学が基礎研 究を離れ、実用化に傾きすぎていることに対する指摘もあった。 国内の研究機関と比較して、海外の大学や研究拠点は、戦略性やスピードを強みにして日 本企業の連携先として入り込んでいる。 第 6-17 図 民間企業等と国立大学等の共同研究の推移 (企業の声) ベンチャーリングに関しては、シリコンバレーにベンチャーファンドを置き、年間■0億円の予算で数社の 投資を行っており、年間■00件くらいのオファーがある。」「日米のベンチャーの大きな違いは、プロの 経営者がいないこと。日本のベンチャーが資金を集める時のプレゼンは、米国と比較すると『科研費の 提案書』の域を出ないという程度。特に大学発ベンチャーにこの傾向が強い。 アメリカ西海岸に優秀な研究者を送っているが、研究動向を見るために行っているのではなく、自分の 研究する種を探しに行っている。現地では、名刺を交換した時に日本の名刺だと、『情報を持ってかえる だけの人』達だと思われる。エコシステムに入るためには、自分ならこれができると、相手にプレゼンでき る必要がある。 自社で基礎研究を大々的にやるより、ベンチャーなど外部リソースを積極的に活用していく方向である。 グローバルな時間との競争の中で、特定の新規技術構築に多くのリソースをかけるより、既にできあがっ ている必要な新規技術を導入し垂直的に立ち上げた方が効率がよい。ベンチャー企業との連携は活用 しているが、主に海外ベンチャーと実施することが多い。我々が興味を示すようなテクノロジーを持つ国 内ベンチャーが少ないように感じる。 海外拠点は、日本の研究だけでは対応出来ないものを、ベンチャー企業の買収を含めて取り込んでい る。ベンチャー買収は加速しているところ。世界的な動きではあるが、研究開発を 1 社だけでやっていく のは難しい実状がある。どのようにいい企業を見つけてどのように提携していくかが重要。 170 3)研究開発のスピードアップと効率化 企業の研究開発のスピードアップと効率化について見てみると、国際競争で優位に立って いる部材企業の多くでは、 「正しい答は顧客に聞く」、「開発したものを売る」 、から、売れる ものを開発する」へといった方針を明確に掲げ、研究者が顧客の研究所にまで入り込み、課 題の解決、新製品の設計・開発に一緒になって取り組む戦略が展開されている。その際、自 社のコア技術を武器としながら、新技術に関しては外部連携も機動的に活用して確実にトッ プユーザーのニーズに応えることで、研究開発のスピードアップと効率化を図り、かつ新製 品のデファクトスタンダードの掌握を希求している。更には、顧客と Win-Win 関係を維持し つつも、材料開発から評価へ、装置開発からオペレーションへといった顧客の領域まで踏み 込んで高付加価値化をねらう他、未だ顕在化していないニーズに対しても新しいコンセプト を提案して顧客を勝ち取るといった例もでてきている。 (企業の声) 如何にトップユーザーと付き合っていくかにかかっている。海外半導体メーカーA 社、B 社、C 社、D 社の 4社といかに一早く最新技術でコラボするかが最重要。」「顧客の研究所の所長が何を考えているのか 重視している。海外トップメーカーでも“今後求められる事業は何か”について語れる人が少なくなってき ている気がする。彼らも悩んでいる。 材料を決めるのはK社、L社、M社などの海外セットアップトップメーカーであり、グローバルトップメーカ ーと付き合っていくことが大切と考えている。材料メーカーからセットメーカーに逆提案をするようになっ てきている。スペックが出ていない段階から顧客と相談しコンセプトを確認し提案する。 研究者が探索の初期段階から顧客の所へ直接行く顧客密着型開発。顧客の仕様に答えるだけでなく、 自分らが顧客に合う材料を選んで提供するということも行っている。 第 6-18 図 顧客主導型研究開発 企業間すりあわせ 顧客とのコラボレーション 企業群 (情報・知識サプライチェーン) プラットフォーム リーダーシップ リアルタイム インタラクション 財・サービス 顧客 ニーズ 新しい価値の創造 William L. Miller, Stanford, “Fourth Generation R&D” (1999) Eric Von Hippel, MIT, “Democratizing Innovation” (2006) Naoshi Uchihira, JAIST 171 第 6-19 図 製品ライフサイクルの短期化 出典:経済産業省「2007 年版ものづくり白書」 第 6-20 図 スピードアップと効率化のイメージ 出典:経済産業省作成 172 第 6-21 図 コア技術の新展開による価値創造・市場獲得のイメージ 出典:経済産業省作成 173 4)非連続イノベーションへの対応 イノベーションのジレンマを乗り越え、非連続的な技術・製品を創出するために、個人の 創造力やチーム内の相互誘発作用を最大化する柔軟な管理手法、開放的な組織環境など、企 業では様々な取組が展開されている。 第 6-22 図 イノベーションのイメージ 破壊的イノベーションと持続的イノベーション 性能向上・コスト低減 製品の価値が飛 躍的に向上する 産業的観点 持続的 イノベーション プロセス イノベーション 性能とコストを 満足して製品と なる 破壊的 イノベーション パラダイムシフト 技術 プロダクト イノベーション ブラウン管 TV 液晶TV 地図帳 GPS カーナビ 電話・郵便 インターネット Google 新技術 製品ライフサイクル(年月) マーケット イノベーション 出典:イノベーションエコシステム研究会 久間氏資料 研究開発マネジメントにおいては、単なる厳格な研究管理ではなく、知識創造のプロデュ ーサーとしての役割に傾注し研究者のモチベーションを引き出すことを重視するほか、自由 にアングラ研究をさせる段階から多産多死を基本として創造性とスピード・効率を両立させ る工夫が見られる。技術・知財・製品の特性を踏まえ、管理(中央集権)と自由放任(分権) の間で最適なマネジメントのバランスを、状況変化の中で適切にはかっていくことが重要と 考えられる。 第 6-23 図 マネジメントの最適バランスのイメージ 出典:経済産業省作成 174 (企業の声) 研究開発は管理よりも創造性を重視している。したがって、ステージゲート方式などのマネジメント手法 は採用していない。研究を管理して成果が出るなら管理だけしていればよい。研究者には自律的にどん どんテーマを出すように言っている。プロデュースがテクノロジーマネジメントの要諦。 コーポレート研究は、場合によっては市場構造を変革し自社の事業部がつぶれてしまうほどインパクトの あるテーマに取り組むよう心掛けている。 3 極特許 23の発明者にアンケートを行った経済産業研究所の日米発明者サーベイ 24におい ては、我が国では想定された範囲の研究成果に基づく特許が多いが、米国では当初想定され なかった研究成果(セレンディピティ)に依拠する特許が多いことが明らかとなっている。 また、米国では研究以外の活動から生まれる特許が我が国より多いことも特徴的である。 第 6-24 図 発明プロセス(セレンディピティの程度) 出典:経済産業研究所発明者サーベイプロジェクト 23 日米欧の 3 極に登録される特許は、一般的に質のよい特許だといわれる。 経済産業研究所発明者サーベイプロジェクト:”Invention & Innovation process in Japan & US: some findings from the Inventers Surveys in Japan and US”, Jan. 2008, Dr. S. Nagaoka (一橋大) & Dr. J. P. Walsh (Georgia Institute of Technology) 24 175 特許が科学技術文献を引用する程度(サイエンス・リンケージ)の各国比較では、我が国 は 1990 年代をピークに低迷しているのに対し、米欧は近年増加傾向で推移している。このこ とは、米欧ではサイエンスにさかのぼって研究開発を深掘りしている一面を示すものと考え られる。 第 6-25 図 特許のサイエンスリンケージの各国比較 出典:「基本計画の達成効果の評価のための調査」 (科学技術政策研究所) 176 前出の日米発明者サーベイでは、発明に関わる研究の目的について、次の 3 つの点を指摘 している。 ・米国は、技術基盤の強化、既存事業の延長線上にない長期的なシーズ創出が目的である割 合が、我が国の 3 倍である。 ・上記の傾向は、半導体デバイス、光学製品、バイオテクノロジー、情報ストレージ、ソフ トウェア、通信といった先端科学技術分野では、特に顕著な差が見られる。 ・既存事業の強化が目的の研究は、我が国では 7 割であるのに対し、米国では 5 割である。 第 6-26 図 研究プロジェクトの目的 日本 米国 出典:経済産業研究所発明者サーベイプロジェクト 第 6-27 図 技術基盤を強化する研究プロジェクトの割合(分野別) 出典:経済産業研究所発明者サーベイプロジェクト 177 第 6-28 図 米国連邦政府のラディカル・イノベーションに向けた取組事例 DOD: 国防総省国防高等研究事業局 (DARPA) •1957年のスプートニクショックを受け、ハイリスク・ハイリ ターン研究開発支援を行うために設立。 •米国の国防にとって重要なラディカル・イノベーションを実 現すべく、革新的アイデアを発掘し国防にいち早く応用でき るようにする委託研究開発を実施。 •任期4~6年でヘッドハンティングされてくる約100名のプロ グラムマネージャーがフラットに一定の予算を任され(全体 予算:約3千億円)、自己のアイデア、ネットワーク等を駆使 して、テーマ設定・コンソーシアム形成・段階的レビュー等を 実施。イノベーションのために失敗を許容する文化が存在。 NIH: NIH長官“パイオニア・アワード” (NDPA) •既存グラント(約1.6兆円)が“safe”scienceに留 まっているとの批判に対応して、通常のピアレ ビューを経ずに、研究アイディアの革新性やイン パクトの大きさを重視した長官直轄の採択システ ムを2004年にパイオニア・アワードとして導入。 •2007年には、上記アワードを若手研究者に フォーカスしたものも新たに追加。 DOC:技術革新プログラム(旧ATP) DOE: エネルギー先端研究局 (ARPA-E) 3目的 •DOEの既存ビューロクラシーから独立したエネルギー版 DARPAの設置を、長期的でハイリスクな研究開発を支援 する組織として、米国競争法( 2007年8月成立)に規定。 ① 海外からのエネルギー輸入量の削減 ② 温室効果ガス等有害物資の排出の削減 ③ 全ての経済セクターにおけるエネルギー効率の改善 •米国競争法により、Advanced Technology Program(ATP)をTechnology Innovation Program(TIP)として、発展解消し、よりイノベー ティブな補助制度に変革。 •審査基準から経済性評価を除外し、科学技術 革新性だけの評価基準に変更。 •大企業を排除しベンチャー・産学連携に集中。 NSF: トランスフォーマティブ研究 ・全く新しい分野の開拓やパラダイムの転換を通じて科学・工学の根本的な変革等を目指すイノベーティブな研究を トランスフォーマティブ研究(Transformative Research) と定義づけ、イノベーティブなプロジェクトが案件審査で不 利となっている現状を改める為の審査基準変更などを計画。 178 5)知財の価値最大化への取組 単に発明を多数特許化するのではなく、ビジネスモデルや対抗的特許出願も想定した上で、 関連特許を戦略的に押さえることが重要であるとの企業の声が多い。スピードある出願は当 然のことと指摘されている。 上の4)で取り上げた日米発明者サーベイでは、我が国と米国の特許戦略の相違点につい て、次の 3 点を指摘している。 ・米国は、自己実施、権利保護、先行者利得を我が国よりも重視している。すなわち、いち 早く技術を占有した利益獲得をねらっている。 ・他方、我が国は米国に比べクロス・ライセンシングを考慮し、また生産能力による補完に よって利益を獲得することを企図している。 ・米国はプロダクト特許が、我が国はプロセス特許がより多い。 このようなグローバル企業の戦略は、容易な追随・参入を許さない強固な特許網を構築し、 「First Mover Advantage」の最大化をねらうということと考えられる。 (企業の声) 海外の A 社や B 社は、権利を包括的に持っている。製品化して勝つためには、少しの原理特許と 多くの包括的な関連特許が必要。企業が最終的に何に使うのかしっかりイメージを持たねば特許 権利化はうまくいかない。弱い特許では効果がなく、強い特許とすることが必要。 企業としては周辺特許も囲った“強い特許”にして出したいと考えている。そのためには、特許要件 などの検証を行い、発明を厚くした上で出願する必要がある。アプリケーションまで含めた知財を 固めて“強い特許”とする必要がある。 次世代事業では、事業そのものを排他的にし、参入する他業者(競争相手)の数を減らすために 網羅的に知財網を張る。グローバルで勝負するには、参入者を増やさないようにして、他社に真似 できないもので世界のトップシェアをとっていくしかない。 日本の大学や独法各研究機関の発明は国内出願されるが、国際出願されていないことが多々散 見される。発明が国内で特許されても海外では特許フリーとなる。これではグローバルな活動を展 開している日本企業に、この発明を活用しようという意欲を失わせると同時に、海外の企業を利す るだけで、海外での日本企業の活動を阻害することさえ懸念される。 179 第 6-29 図 特許取得の重要な動機・理由 出典:経済産業研究所発明者サーベイプロジェクト 第 6-30 図 特許取得による利益確保の方法 ☞ 米国 ☞ 日本 出典:経済産業研究所発明者サーベイプロジェクト 180 米国 ☝ 第 6-31 図 プロダクト特許とプロセス特許の比率 出典:経済産業研究所発明者サーベイプロジェクト 世界市場で競争する企業が大学や研究独法との外部連携を本格化させる中で、大学等公的 研究機関での特許出願における国際的視野の不在が課題となっている。 「大学や研究独法の発 明が国内出願されるが国際出願されていない事例が多々散見され、海外では特許フリーとな っている」という声がある。 181 (企業の声) 日本の大学や独法各研究機関の発明は国内出願されるが、国際出願されていないことが多々散 見される。発明が国内で特許されても海外では特許フリーとなる。これではグローバルな活動を展 開している日本企業に、この発明を活用しようという意欲を失わせると同時に、海外の企業を利す るだけで、海外での日本企業の活動を阻害することさえ懸念される。グローバルな競争に直面して いる企業にとって、競争力の維持、拡大に海外での知的財産権を取得することは必須不可欠であ る。 大学との共同研究に係る特許権の帰属について、最近は理解してくれる大学が増えてきており、 発明者である先生本人に報奨金を払う前提で特許権は買い取ることとしている。大学は事業を行 っているわけではないので、権利を保護する範囲・地域を判断することはできないし、国際出願費 用を負担し続けることや国外での侵害に対し権利行使することも現実不可能。また、特許が製品化 されるのは通常5年~10年後になるので、大学が権利を保持して何年も特許収入を待つよりも、特 許売却収入を大学がすぐに得て、先生本人は(場合によっては孫子に至るまで)報奨金を得ること の方がメリットが大きいはず。ただ、民間譲渡を普通にするにしても、他社の牽制だけを目的にして 実施しない企業に対する返還ルールを設けることは必要だが。 特許の有償譲渡と発明者(大学教員)への報奨金を組み込んだ契約を一部の大学は受け入れな いが、観念論にとらわれているのではないか。特許を保有する数だけで評価するのではなく、生ん だ数・実施されている数で評価されるべき。特許費用は当社の世界■兆円の事業展開に必要なコ ストであり、トータルで特許はペイするものではないとの認識。 大学も法人化して数年経ち、共同出願契約の実施条項に対して柔軟な大学が増え歓迎したい。し かし、不実施補償を頑なに主張する大学も残っており、改善して欲しい。 大学の先生に任せるのは、先の読めないベーシックな先端研究。知財の整理は実際に発生してか らでもいいのではと思うが、知財部局が出て来ると、研究開始前に全て決めろとなる。フェーズに応 じて柔軟な対応があってもいいのではないか。 国内だけ出願して国際出願を怠ると、海外でただで使われるだけ。国際出願費用が大学で負担で きないという問題なら、企業が出願することもありえる。」「大学との共同研究では、大学がその知見 やシーズの対価を求めるのであれば知財の実施料よりも、研究経費の間接経費に求めるほうが現 実的と考える。特許を非独占とするなら、無償が基本ではないか。 第 6-32 図 ・理工系 高等教育 ✔産業ニーズの発信 ✔最先端科学技術のカリ キュラム化 ✔インターンシップ協力 産学“本格連携”のイメージ “教育”の産学連携 ・最先端研究者養成 “研究”の産学連携 ・特許網つくり ・国際出願協力 ・特許権の 効果的実施 “知財”の産学連携 出典:第 23 回研究開発小委員会資料 182 ✔研究当初からの知財ポ ジション及びターゲットの 共有・明確化 ✔実用化特許まで含めた 迅速な包括化 ✔国際出願での協力