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研究報告会 2002年春 (第11回) ●日時:2002年5月15日 (水) 12時開場,13時開会 ●場所:日本海運倶楽部 国際会議場 ●プログラム 開会挨拶 中村英夫 来賓挨拶 岩村 敬 研究報告 運輸政策研究所長 国土交通省 総合政策局長 1. 金 子 雄 一 郎 研究員 「大都市圏の鉄道運賃制度の課題とその改善策」 2. 三 輪 英 生 研究員 「米国オープンスカイ政策の欧州市場への影響 −米国オープンスカイ政策と日本の国際航空政策−」 3. 深 山 剛 調査室調査役 「平成12年大都市交通センサス−調査結果と課題−」 4. 西 宮 良 一 主任研究員 「ITを活用した貨物輸送」 基調講演 研究報告 ア ント ニ オ・ム ッ ソ ー ローマ大学教授 「地域格差問題と交通政策−イタリアの場合−」 5. 李 晟 源 招聘研究員 「急激に自動車化する国の環境問題と対策」 6. 末 原 純 研究員 「第3セクター鉄道の現況と将来の方向」 7. ア ン ド レ ア・ オ バ ー マ ウ ア ー 「DBAGにおける鉄道運行の安全性 客員研究員 −日本とEUにおける国有鉄道改革の効果(その2)―」 8. 長 瀬 友 則 研究員 「我が国における戦略的港湾運営」 閉会挨拶 研究報告会 長尾正和 運輸政策研究機構理事長 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 071 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 基調講演 地域格差問題と交通政策 −イタリアの場合− アントニオ・ムッソー ローマ大学教授 Antonio MUSSO 1 ―― 欧州及びイタリアの貨物部門の状況 1.2 ソフィテス・プロジェクト:コスト構造及び荷主・運送業者の態度調査 EU 諸国の先進的な市場開放に伴う競争と調和について, 1.1 EU 域内貨物輸送量の増加と輸送分担率の変化 最近,欧州の貨物輸送市場には抜本的な変化が見られる. 最近ある調査(ソフィテス・プロジェクト)が行われ,出荷コス 多くの要素がこの市場構造に影響を与え,貨物輸送需要は トや輸送コスト構造のデータが収集された.荷主インタビュ 増加している. ーによるとユニット当たり平均出荷コストは 1km あたり1 ∼ 2 決定的な要因は欧州経済及び生産システムの変化である. ユーロで,荷主の居住国によってかなりの違いがある.スペ 過去 20 年間に,欧州は在庫を抱える経済から優良経済へと イン, ドイツはこれを上回り,ポルトガルでは平均をかなり下 移行した.生産コスト削減のため,特に労働集約財といった 回っている.道路輸送における投入要素のコスト構造も調査 産業では生産拠点を移動させた.部品生産が最終組立部門 されている.これはターミナル間距離が 500km 以上の一般貨 から数千 km 離れている場合すらある.EU 諸国間の国境撤 物を対象としたもので,その各国間比較分析によると,長距 廃はジャストインタイムや回転在庫生産システムの確立に役立 離トラックのオペレーションにおいて個々のコスト要素にさほ っている. ど有意な差はみられなかった.要素コストで最も大きい比率 貨物量の観点から最も重要であり,また料金規制による影 を占めるのは運転手給与で,平均的には全コストの 33 %,国 響を敏感に受ける道路輸送部門の変化に着目したい.他の 別には例えばイタリアの場合は 39 %,フランスでは 26 %,イ モード,例えば最近,規制改革を完了した鉄道は,その結果 ギリスは 29 %等であった.第 2 のコスト要因は燃料である. を判断するには時期尚早である.EU全体の道路貨物輸送は’ 平均的には 20.4 %,イギリスは 27 %,ポルトガルは 30 %,イ 70 年の 412 億トン・キロから’99 年には 1 兆 3,180 億トン・キロ タリアは僅か 19 %を占めるに過ぎない.ここで重要なのは燃 に増加し,その分担率は 31 %から 45 %に拡大している.他 料に関する物品税率が国によって異なることである.最低の 方,鉄道は’70 年の 2 億 8,300 万トン・キロから,2 億 3,800 万 オーストリアの場合は 55 %,最高のイギリスの場合は 76 %, トン・キロと若干の減少となり,その分担率も21 %から 8 %へ EU 平均では 62 %である. と低下した.EU 域内海運は’70 年の 4 億 7,200 万トン・キロか 燃料税,直接税,自動車税といった間接税が道路輸送コス ら,11 億トン・キロへと取扱量が増加し,その他の内陸水運, ト全体に占める割合は,国によってかなり異なり,EU 諸国で パイプライン輸送に大きなポジション変化はない. 低いのはデンマーク 10.7 %とベルギー 11.3 %で,高いのは 道路輸送の増加は特にイタリアの場合顕著で,その輸送分 イタリア 24.7 %,イギリス 24.5 %,スペイン 24.4 %等となって 担率は’70 年の 52 %から’99 年には 74 %に達している.鉄道 いる.仮に総税率が 10 %減税された場合,各国のオペレー セクターはその重要性を失いつつあり,分担率は 17 %から ターに対するコスト低下率もかなり違ってくる.イタリア,イギ 8 %へと低下した.EU 全体とイタリアとの比較で大きな違い リス,スペインといった税率約 25 %の場合には,結果として の一つは,イタリアの港湾輸送が脆弱であることで,その分 総コストは 2.5 %,デンマークやベルギーの場合は 1.3 %,EU 担率は僅か 13 %に過ぎない(EU 全体は 40 %). 諸国全体平均では 1.65 %低下することになる.このような結 果は,欧州諸国の共通政策として税の調和を図ることがいか ■表―1 EU Freight Transport: performance by mode 1,000 mio tkm Road Rail Inland Waterways Pipelines Sea(UE) Total 072 運輸政策研究 1970 412 283 103 68 472 1,338 % 30.8 21.1 7.7 5.1 35.3 100 Vol.5 No.2 2002 Summer 1999 1,318 238 120 89 1,195 2,960 % 44.5 8 4.1 3 40.4 100 Var.90-99 41% -7% 12% 18% 30% 29% ■表―2 Italian Freight Transport: performance by mode 1,000 mio tkm Road Rail Pipelines Sea Total 1970 58.7 18.9 8.8 26.2 112.6 % 52% 17% 8% 23% 100% 1999 232.8 24.4 14.1 41.4 312.7 % 74% 8% 5% 13% 100% var.90-99 31% 12% 27% 16% 27% 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 に難しいか,外部コストの内因化が難しいかを示している. 地形的な特徴からインフラにはかなり資金がかかるため, ソフィテス・プロジェクトの目的の 1 つは,荷主が欧州の道 既存ルートの改善が主で,新たな道路やルートの開発は困難 路貨物輸送政策に関して,どのような態度を持っているかを であり現実的でない.加えて,安全性確保が非常に大きな問 知ることにあった.このため,いくつかの問題とそれらに対す 題である.過去 3 年間において,かなり深刻なモンブラン・ト る可能な反応がインタビュー対象荷主(運送業者に対しても ンネルの事故,あるいはオーストリアのタウレン・トンネルの事 実施) に提示された.問題分野としては,①地域的な制限問 故があり相当長い期間使用不能となった. 題,②輸送サービス供給上の問題,③価格問題,④生産上の アルプス経由の貨物輸送量はかなり大きく増加している. ’ 問題があげられ,例えば価格問題では,都心地域で通行料 91 年の 1 億トンが,2000 年には 1 億 5,000 万トンとなった.こ 金を課す,あるいは高速道路通行料を取ることによるコスト のうち道路輸送は’91 年の 6,000 万から,2000 年には 1 億ト 上昇等が含まれる.他方,可能な反応としては,①出荷時間 ンのレベルにまで達し,過去 9 年間で 43 %増加したことにな 変更,②移転・再配置,③出荷頻度削減,④変更措置をとら る.鉄道に関しては,過去 9 年間 4,000 万トンという数字を維 ない,⑤容認及びコスト増受忍,⑥生産再編成,⑦輸送業者 持している.鉄道はあまり変わらないが,道路は年率 4.8 %の の変更,⑧モーダルシフトが示された.4 つの問題分野全般 増加となっている.鉄道の中にはいろいろな輸送形態があ に関して,可能な反応の選択が「起こりにくい」から「最も起 り,従来型輸送は減っているが,ピギーバック輸送,つまりシ こりやすい」まで 1 ∼ 5 のスケールで分類した分析によると, ャトル・レールは増えている.新しいサービス,あるいは民間 荷主は出荷時間を変更するとか,あるいは変化を容認して増 オペレーターがこのような鉄道を使って,さまざまなサービス 加コストを支払うという短期的な解決法を選んでいることが をアルプス地域の輸送に提供してきている. わかる.移転・再配置とか,生産を再編成するには投資金額 去年,欧州委員会は今後の 10 年間の整備に関する非常に が嵩むことが理由として考えられる. 重要な白書をまとめている.同白書においては,新しい鉄道 1.3 欧州の貨物市場の発展とイタリア:アルプス越え のリンクをリヨンとチューリン間に確立する,あるいはまた,新 欧州の貨物市場の発展,特にイタリアで考えると,アルプ ス越えが非常に重要な要素になる.アルプス地域の地形的 しいトンネルを実現し,ミュンヘンとベローナ間の交通を改善 すると述べている. な特徴によって,陸上運送は非常に限られたルートに限定さ れ,国際的な陸上運送のボトムネックとなり,インフラ整備と その維持に多額の費用がかかる.アルプスの輸送問題は地 理的・経済的・環境的問題の 3 つのに集約できる. アルプスはフランスの南西からオーストラリアの東までの距 2 ―― 欧州の政策と総合計画へ向けての新たなアプローチ 2.1 欧州横断ネットワーク− TEN −とイタリアの高速道路・鉄道網 欧州の貨物インフラ政策は,欧州横断ネットワーク (TEN) の実現にある.イタリア高速道路 6,478km の 80 %(5,380km) 離が 100km で,現在,14 の主要なルートがあるが,そのうち は,主として民間企業のオート・ストラーデンによって開発さ 10 ルートが非常によく整備され,物資や旅客の高速輸送が可 れている.残りの 1,098km は,国立道路ネットワーク 4 万 能である.アルプス越え輸送量の 90 %はこの 10 のルートを 6,483km の所有者である道路当局によって開発されている. 使って行われ,形態としては従来型の鉄道輸送,ピギーバッ このような高速道路は,特に南部のナポリ,レジオカラブリア ク輸送, トラック輸送に分けることができる. において再編が必要になってきている. イタリアとフランス間の貨物輸送全体の 45 %はバルドネチ 主要な鉄道のットワークは,TEN ネットワークに含まれ,電 アを通過し,そこまでは鉄道・道路の両モードがある.但し, 化路線延長が1万688km,総延長1万6,108km(複線6,173km, 国境を越えたモダンまでは鉄道のみとなり,いわゆるシャト 単 線 9,935km),こ れ らは 民 間 企 業 の Rete Ferroviaria ルトレインが使われている.また,フレジュース,モンジネビロ Italiana(RFI)が管理している. というルートがあるが,これらは道路輸送のみである.スイス 鉄道輸送に関して EC 委員会は指令により規制緩和を進め, との間では,シンプロンやサンゴトラルドがあり,道路と鉄道 鉄道の活性化を図りつつある.このような状況において,鉄 の両モードが利用可能である.サンゴトラルドのルートは鉄 道の相互運用が重要になってきている.手短な例では,去年 道輸送量全体の 60 %を占めている.バルナルド,ベルドディ 末からフランス−イタリア間で列車の相互運用が,今のところ ーノは道路輸送のみである.オーストリアとの間の輸送ではブ 実験ベースではあるが,リヨン−チューリン線で実施されて レンナーとタルビジオの 2 ルートで鉄道と道路の輸送が行わ いる.かつては平均待ち時間は 1 時間であったが,この新し れている.スロバニアとの間では,ゴリツィア,フェルニテが い車両運行で待ち時間は 15 分に短縮されている.ただし,こ 道路と鉄道を使っている. れにはいくつかの制約がある.まず,イタリア側には 2 人の運 研究報告会 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 073 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 転手が必要で,対して,フランス側は 1 人ですむ.フランス人 を開始し,2000 年では前年比 20 %増の 265 万 TEU で,地中 の運転手はイタリア鉄道網内で働くことが許可されていない 海の主要な積み替え港湾(ハブ港湾) となっている.このよう からである.チケットは電子的に処理され,財貨のトレーシン な取扱量増加の背景には, トランスシップメント・テクニックを グ, トラッキングも電子的に可能となっているが,相互運用可 使ったサービス水準の向上が寄与している.ジオイア・タウロ 能な機関車は限られている等,今後いくつかの制約条件を は,地理的に非常に恵まれた地点にあり,スエズ海峡を通り, 改善しなければならない. ジブラルタル海峡へ向かう船が,EC の入口であるイタリアに イタリアの高速鉄道ネットワークについて若干言及すると, 寄港する.バース長 3,154m,水深 15m,面積 120 万 m2 のコ この野心的なプログラムは,50 年代後半に始まり,’78 年に ンテナターミナル規模は,すべての地中海の港をカバーする ローマ−フィレンツェ間が開業している.今のところ,新規路 ことができ,主要港とは週 3 回の行来がある.ジオイア・タウ 線はあまりよい整備推進環境にはないが,各路線総延長 ロをハブとして,地中海,黒海に散在する約 40 のフィーダーポ 1,081km は考慮のうちにある.それら路線は,チューリン− ートと連絡されている. ミラノ (建設中 125km) ,ミラノ−ボローニャ (建設中 182km) , ボローニャ−フィレンツェ (建設中 79km),ローマ−ナプレス 3 ―― イタリアの多モードネットワークへの新たな取組み (建設中 205km) ,ミラノ−ベローナ(承認待 108km) ,ベロー 3.1 ロールオン・ロールオフ輸送の重要性 ナ−ベニス(計画中約 80km ),ミラノ−ジェノバ(計画中約 イタリア国内のハブとフィーダーの関係が,短距離輸送問題 40km)であり,さらにリヨンとチューリンの国際接続も追加さ 緩和への戦略的な分野になっていることは非常に重要な点 れる予定である. である.モーダル・バランスを取る上で役立つ.つまり,道路 2.2 イタリアの港湾戦略 輸送量を減らし,それに係るコストを削減する.半島である という地理的な位置を考えると,イタリアの短距離過剰輸送 最近,港湾の競争環境はかなり変化してきている.港湾は は非常に重要な問題である. いまやより幅広いロジスティック・チェーンの一環として考えな ければならない.また,一般的なコンテナ輸送は,安価で,頻 ロールオン・ロールオフ輸送もかなり成長率が高い.輸送 繁にサービスが提供される限られた港湾に集中する傾向に システムとして,ティリニア海の運行システムとアドリア海のシ ある.取扱量が増加している港湾は,活発にロジスティックを ステムに大別される.前者は主としてイタリア国内輸送を対 誘致する政策を取り,またそのような港湾に特権的にアクセ 象とするルート (1997 年輸送貨物量 226 万トン)で,オペレー スできる地域が恩恵を享受できる.こうした状況下で,多くの ターの 90 %はイタリア企業である.他方,後者は他国との輸 イタリア港湾は,新しいトレンドに乗って活動し,取扱量を増 送ルート (同 84 万トン)が主体で,特にギリシア, トルコのオペ 加させようとしている. レーターがかかわっている. ’98 年は前年に比べてほとんどのイタリア港湾で取扱量が 重要な問題点は,ロールオン・ロールオフのターミナルが都 増加している.特に地中海における港湾でのコンテナ輸送が 市近郊ないし都市内に存在し,港湾拡張のための新たなス 重要である. ’99 年と2000 年を比較するとマルタ (14 %減)以 ペースを見つけることの困難性にある.もっともこの種のター 外のすべての地中海港湾はスループットを増加させている. ミナルで提供されるサービスはさほど多くはない.例えばハ ジェノバの重要性が増しており2000 年の扱量は 150 万 TEU, ンドリング,ストーレッジ(倉庫) などをすべて備えているわけ 前年比 22 %増となっている.ジオイア・タウロは’95 年に活動 ではない.イタリアの運送業者協会によって行われた調査プ ■表―3 074 運輸政策研究 Throughput in the main Italian harbours: 1988 UNIT: 1,000 tonnes PORT LIQUID DRY GENERAL TOTAL Savona Genoa La Spezia Livorno Civitavecchia Naples Gioia Tauro Taranto Ancona Ravenna Venice Trieste 7.609 18.012 3.465 10.01 5.2 6.334 − 6.425 5.067 8.84 13.672 36.942 3.266 9.108 2.068 784 1.487 3.91 − 30.408 2.088 7.273 7.455 4.474 1.868 18.64 8.351 11.445 3.992 13.962 16.2 − 2.68 5.821 5.349 5.801 12.273 45.761 13.884 22.24 10.679 13.926 16.2 36.834 9.834 21.934 26.476 47.217 Vol.5 No.2 2002 Summer VAR '97-'98 % 8.8 4.8 7.9 5.5 -6 2.5 30.6 0.3 49.4 11.7 11.9 1.2 CONTAINER TEUs 14 1.266 732 535 9 320 2.125 2 75 173 206 174 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 ロジェクト結果によると,ロールオン・ロールオフ輸送の潜在 ■表―4 Throughput in the main Italian airports: 2001 需要は年間 380 万トン存在し,経済的なポテンシャルは非常 AIRPORT に高い.現在,運転手乗船から運転手は船に乗らない方向 Rome FCO Milan MXP Milan LIN Turin Venice Naples Bologna Catania Palermo Verona Bergamo Florence Cagliari Genova Pisa Rome CIA に徐々に変化が起こりつつあるため,待機スペースやセキュ リティ設備をもった特別なターミナル造りも必要になろう. 3.2 インターモーダル・プラットフォーム−インターポーティ 今後,イタリアでインターポーティ (interporti) と呼ばれるマ ルチモーダルなプラットフォームのネットワークが非常に重要 になる.1 つのマルチモーダル・プラットフォームだけではな くて,複数のプラットフォームがネットワークとして管理をされ, 各地域の需要に応じて使用されるようになる.プラットフォー ムとして,イタリア北部にトリノ,ミラノ,ベローナ,パドバ,ボロ Passengers 1,000 P 25,566 18,570 7,136 2,821 4,178 33,664 3,440 3,925 3,213 2,188 1,061 1,487 1,936 1,001 1,378 719 Cargo 1,000 Ton 186 324 29 17 16 9 26 13 6 10 96 489 6 6 11 18 ーニャ等 9 つ,南部では貨物輸送需要量の関係からナポリ近 郊のエスコルノーラに 1 ヵ所のみ存在し,それらは統合的に 管理され,イタリアン・ジェネラル・トランスポート社などが関 わっている. ベローナ・コンドランテ・ヨーロッパと呼ばれるプラットフォ 4 ―― 結論 欧州及びイタリアの運輸部門の現状紹介を別として,今回 の論題の主要な結論は以下の 3 点になる. ームを例にすると,鉄道と道路が結合され,統合的なロジス ①モーダルシフトに向けた効果的手段として,道路輸送産業 ティック・サービスや,例えばセミトレーラ,コンテナ,スワップ により厳しい就業時間規制を課してはならない.仮にそれ ボディといったインターモーダルサービスが非常に効率的に らを実施するとしても,それは主に労働者の健康のために 提供されている.この施設は物流活動団地(パーク・オブ・ロ なされるべきである. ジスティック・アクティビティーズ)であるとも考えられ,100 社, 1,800 人の従業員が専従している.イタリア国際連合貨物輸 送の 50 %以上が貨物シャトル鉄道を使って,このベローナ・ ②ほとんどの場合,荷主の輸送経費は生産コスト全体のごく 小さい部分に過ぎない. ③輸送費用増が妥当なものである限り,それらは運送産業側 コンドランテ・ヨーロッパで扱われている. の効率向上と荷主側の受容によって補償されであろう. 3.3 イタリアの航空ネットワーク さらにインプリケーションとして次の3点を強調したい. 2000 年と2001 年の比較では乗客,あるいは貨物について ①価格決定に関する新しい原則の革新的導入.そのために も,ローマ,ベニスでは増えている.それ以外の空港につい は,オペレーターに適応戦略を準備するための時間を与え てはそれほど大きな変化はない.ミラノ・マルペンサは新し る必要がある. いイタリアのハブで EC によってサポートされているが,輸送 ②道路輸送部門の活動環境の調和が重要な手段であり,そ 量は毎年 10 %ぐらい減少している.その 1 つの理由は,KLM れは同時に道路の安全性確保にも通じる.運転時間,制 がイタリアと協定を結び,統合的なサービスをマルペンサと 限速度,過載規制の厳密な施行がこの方向への確固たる の間で行うことになったことにある.もう1 つの理由は,働き 支持を与えるかもしれない. 方の近代化,あるいはエアスペースの再組織化が非常に難し いことにあり,近接するマルペンサとミラノとの競合関係があ ③いっそうの商業行動に向けて鉄道を力づけるような環境の 創造が必要である. る.ローマ−ミラノ間の輸送量は増えている. (とりまとめ:運輸政策研究所 小林良邦) 3.4 南部振興のためのメッシーナ海峡大橋 イタリアの輸送政策において,本土カラブリアとシシリー島 <参考−講師推薦のイタリア交通関連ウェブサイト> http://www.infrastrutturetrasporti.it/ を連絡するメッシーナ海峡大橋を造ることが 1 つの大きな目 http://www.trenitalia.it/ 標になっていた.この橋を架けることでイタリア南部のマル http://www.rfi.it/ http://www.autostrade.it/ チモード・インフラの機能を複合的に発揮させようとするもの http://www.enteanas.it/ である.大橋は 3,300m で,ダブルトラックの鉄道,12 の道路 http://www.informare.it/ レーン (高・中・低速・緊急用+サービス・歩行者用)があり, 幅員は 60m である. 研究報告会 http://www.assaeroporti.it/ http://www.interporto.it/ http://www.strettodimessina.it/ Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 075 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 大都市圏の鉄道運賃制度の課題とその改善策 金子 雄一郎 (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員 KANEKO, Yuichiro 1 ―― はじめに 本研究は,大都市圏の鉄道を対象に,ネットワーク整備の 進展など近年の特徴を踏まえた,利用者および事業者にとっ て望ましい運賃制度を検討することを最終目的としている.こ こではその前段として,運賃制度の諸課題を整理した上で, それらの課題に対する改善策を検討する.そして具体的な方 策について,実際の都市圏を対象にケーススタディを行ない, 実施による効果を分析する. 2 ―― 主体別にみた鉄道運賃制度の課題 近年の大都市圏の鉄道の特徴のうち,運賃に関連の深い ■図―2 これまでの政策面での対応 3 ―― 運賃制度の基本的方針と改善策の検討 3.1 基本的方針 1) ものとしては,ネットワークの整備が大きく進展したこと,沿線 複数の事業者が存在する市場での運賃は,経済学的な見 の生産人口の減少等により輸送人員は中期的には逓減傾向 地からは,競争を促進させることが利用者便益の増大のため にあることなどが挙げられる.また,IT の発展や地球温暖化 の手段として重要である.しかしながら,大都市圏の鉄道の などの外的な要因も変化している.したがって,運賃制度の ように複数の事業者を乗継がないとトリップが完結しないケ 検討にあたっても,これらの点を踏まえる必要があろう.ここ ースが多い市場では,競争のみでは必ずしも利用者便益は では,上述の環境変化のうち,①ネットワークの拡充・高密度 改善されず,事業者間で協調した運賃制度が必要となる.な 化,②輸送人員の逓減を取り上げ,その際の運賃制度の主 お,東京圏のように地域独占性の高い市場の場合,協調のイ な課題を主体別に整理する (図― 1) . ンセンティブは起こりにくく,そのことがこれまでこの種の運 賃制度が実施されなかった要因の一つとして考えられる. 3.2 各種運賃制度 3.1 で述べたような協調的な運賃制度の代表例としては,次 の 3 つが挙げられる. (1)乗継運賃制度 異なる事業者を乗継ぐ際に併算運賃から一定額を割引く 制度であり,既に相互直通区間やターミナルでの接続路線を ■図―1 主体別にみた運賃制度の主な課題 中心に実施されている.ただし,短距離区間の利用者に対す る割高感の是正が主目的であることから,割引額は営団・都 上記課題に対して,これまでの主な政策面での対応を整 理したのが図― 2 である. 営間の 70 円を除くと,多くは 10 ∼ 20 円と少額に留まっている. (2)共通運賃制度 以上を踏まえると,現在の重要な課題の一つとして,利用 ネットワークを構成する複数の事業者の運賃体系・水準を 者の視点に立った多様な運賃設定が実施されていない,も 共通化する制度であり, ドイツ各都市やパリ,ソウル等で実施 しくは不十分な実施であることが指摘できよう.このうち乗継 されている.なおプールされた運賃収入は,一定のルールに ぎの割高感等の課題は,多数の事業者が併存する我が国固 基づき各事業者に配分される. 有の形態に起因するものと言える.この点については,3 で 検討を行なう. 076 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer (3)選択乗車制度(定期券) 複数の経路を持つ特定区間を対象に,いずれの経路も利 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 用可能とする定期券を対象とした制度であり,異なる事業者 間では阪急と阪神が,同一事業者内では近鉄および JR 東日 転換はわずかであった. 表― 3 は,需要予測結果に基づき利用者便益を推計した結 本が実施している. 果である.比較のため,現在実施されている乗継運賃制度 3.3 各種運賃制度のメリット・デメリット を拡充するケースも併せて検討した.結果より,共通運賃の 表― 1 および表― 2 は,3.2 の各種運賃制度のメリット・デメ リットを示したものである. ■表―1 各種運賃制度のメリット・デメリット (利用者の視点) 方が乗継運賃に比べて便益が大きいこと,便益の大部分は 運賃水準低下による費用削減便益であるが,混雑緩和等の 社会的な便益も一定額発生することが示された. 一方表― 4 は,事業者の収入について,現状(運賃変更な し)のケースからの変化を推計した結果である. 結果より,共通運賃の実施によって両事業者とも減収が発 生することが示された.これは,輸送人員の増加による増収 はあるものの,運賃水準の引下げや初乗り運賃がなくなるこ とによる減収が大きいためである. 次にこの減収分を補填する方策として,運賃水準を両事業 ■表―2 各種運賃制度のメリット・デメリット (事業者および社会的視点) 者の中間および都営に合わせて設定するケースを検討した. 結果より,利用者便益は減少するものの事業者収入は増加し, 中間のケースでもほぼ現状の水準に回復することが示された. ■表―3 共通運賃制度による利用者便益 ■表―4 共通運賃制度による事業者収入の変化 ※1 運賃体系・水準の設定によって異なる ※2 運賃収入の配分方法次第である程度効率化は可能 以上は定性的な検討に基づいたものであり,次にいくつか の項目について定量的な検討を試みる. 4 ―― 東京圏を対象としたケーススタディ ここでは,東京圏を対象に共通運賃制度について検討し た結果を紹介する. 4.1 対象エリアおよび検討方法 対象エリアは,東京圏の中でも特にネットワーク密度の高 い都心部とした.また事業者は,営団と都営の 2 つの公営地 下鉄事業者とした. 検討は次の手順で行なった.①運賃体系・水準の設定(共 通化) ,②利用者の行動の変化を需要予測モデルを用いて推 計(路線別の輸送人員を推計),③利用者便益および事業者 収入を推計.運賃体系・水準は,両事業者のうち低い方の営 団に合わせて設定し,また,プールされる運賃収入の両事業 者への配分指標には,輸送実績(人キロ) を用いた.なお需要 予測には, 「運政審 18 号答申」策定の際のモデルを利用した. 4.2 検討結果 共通運賃を実施した場合,輸送人員は営団で 0.6 %,都営 で 6.9 %それぞれ増加する結果が得られた.これらは競合す るJR 線および民鉄線からの転換が大半であり,自動車からの 研究報告会 5 ―― 今後の検討課題 今後の検討課題としては,次の 2 つが挙げられる.一つは 事業者の実施インセンティブをいかに確保していくかであり, これについては,今回検討した運賃水準の見直しなど利用 者間で負担の調整を行なう方策と併せて,社会的便益の発 生部分については,公的な支援措置の導入を検討していく 必要があろう.もう一つは,運賃収入の配分方法について, 事業者の効率化インセンティブの確保や反射損益への対応を 考慮した方法の確立が必要であろう. 参考文献 1)斎藤峻彦[1995], “大都市公共輸送における政策的規範,関西鉄道協会都市 交通研究所編「大都市陸上公共交通のシステム −「競争」 「協同」 「公平」の パラダイム−」所収”,pp.1-27. Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 077 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 米国オープンスカイ政策の欧州市場への影響 −米国オープンスカイ政策と日本の国際航空政策− 三輪英生 (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員 MIWA, Hideo ■表―1 1 ―― はじめに 日米エアラインの路線と便数の違い 1952 年に締結された日米航空協定は,日本への制限が一 方的に強い非常に不平等なものだった.長年に渡る協議と 暫定合意の末,1998 年 1 月に拡大均衡する形で協定上平等と なったが,米国の推進するオープンスカイ協定(完全自由化 とも呼ばれる,以下 OSとする) には至らなかった.この暫定 合意の期限は 4 年であるため,既に 2001 年から OS を念頭に 置いた協議が再開されている. 本報告では,OS に対する日本の方策検討に資するため,日 米の現状整理と,既に OS 協定を締結して数年経った欧州の 影響について分析する. 2 ―― 日米市場占有率とオープンスカイへの意向 2.1 日米市場占有率の現状 暫定合意で協定上は平等となったものの,本邦エアライン のシェアは低い値で推移している (表― 1,図― 1).もちろん ■図―1 太平洋線旅客数と本邦エアラインシェア 日米エアラインの規模と競争力の差とも言えるが,長年,米 国乗り入れ空港を一方的に制限されていたことや,協定上の 制約がなくなっても成田空港の発着枠不足により増便が困難 であること,さらにその不足する発着枠を米国エアラインが 3 ―― オープンスカイによる欧米市場への影響 3.1 分析の視点 1/3も既得権として占有していること等も大きな要因となって OS による影響を分析する視点として,①ナショナルフラッ いる.また米国エアラインが広大な米国内市場を独占し,か グキャリア(国営エアライン,または国を代表するエアライン) カボタージュ つ国際線への接続が可能であること (OS 締結後も国内航空は が,米国エアラインに席捲されていないか,②運賃高騰や便 制限される) もシェア不均衡の大きな要因と考えられ,1998 年 数減少など利用者に不利益が生じていないか,③国際流動 当時も今も日本が OS 締結に反対する理由の一つとなっている. や産業・雇用者数に悪影響が生じてないか,の 3 つが挙げら 2.2 米国エアラインのオープンスカイへの意向(推察) れる.ただし,理念や立場によって多種多様な評価が可能で 先発企業であるノースウエストとユナイテッドは,既に先発 あり,全てを評価できる訳ではない. 企業として協定上自由な路線権を持っており,先発としての 本報告では,欧米間の航空直行便に関する旅客数や,座 優位性を失ってしまうOS は望んでいないと考えられる.一 席利用率,便数といった基本的なデータの変化から,エアラ 方,まだ制約の残る後発企業のアメリカンやデルタは,市場の インへの影響分析を試みた.紙面の都合上,特徴的な結果 開放を望んでいると考えられるが,成田の発着枠不足を鑑み についてのみ報告する. ると,協定上自由になっても増便のチャンスは限られるため, 3.2 オランダの場合 OS への意欲は強くないと考えられる.実際,デルタは日本か ら韓国へシフトするというような傾向も見られる. 初めてオランダが OS 締結した 1992 年当時,KLM オランダ 航空は,米国のノースウエスト航空とアライアンス提携を計画 していたが,米国は OS 締結との引き替えに,アライアンスに 反トラスト法(独占禁止法)適用除外の特権を与えるとしてい 078 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 た.この特権により,独禁法に抵触する運賃・スケジュールの 客) は拡大していた.経営破綻の主な原因は,大株主であっ 調整や路線の統合など,密接な提携が可能となるため,OS た SGROUP が経営不振の中,テロ事件で大打撃を受けたた 締結を大きく後押ししたと考えられる.その後,1996 年にス めと考えられている. ターアライアンス (ユナイテッド/ルフトハンザ/SAS)やアトラン 3.6 フィンランドの場合 チックエクセレンス (デルタ/スイスエア/サベナ/オーストリア OSを締結したがアライアンスを提携しなかったフィンエア (フ ン) も独禁法適用除外を受けたが,エアラインの母国である ィンランド) では,対米直行便旅客数は OSを締結した 1995 年 ドイツ/北欧三国や,スイス/ベルギー/オーストリアが米国と から 1999 年までほとんど伸びていない(1.04 倍) .この間,航 OS を締結することが条件となっていた. 空旅客数と強い相関関係があると言われるGDPは年率4.6% OS を締結した 1992 年からの変化を見ると,欧米間(蘭除 (欧州平均の倍以上)伸びており,フィンランドの発着旅客数 く)の直行便旅客数が 1999 年に 1.5 倍となる中,米蘭間の直 (米直行を除く) は比較的大きな伸びを示している (1.25 倍) . 行便旅客数は 2.2 倍となった.もちろん OS のみによる影響と アライアンス提携を行わなかったため,相対的に競争力が低 は言えないが,同期間のオランダの発着旅客数(米直行除く) 下したためと考えられ,OS が需要増加に直結する訳ではな は 1.8 倍しかなく,米蘭間の旅客数が相対的に大きく伸びた いことを示している. ことを示している. このように米蘭間の直行便旅客数は伸びているものの,肝 心の KLM オランダ航空のシェアが減少(51 %→ 39 %) し,ノー スウエストが拡大する (5 %→ 29 %)傾向が見られた (図― 2) . 一見,懸念された米国エアラインの台頭とも取れるが,実は緊 密なアライアンスにより,米蘭間はノースウエストに,オランダ以 遠は KLM にと棲み分けを行っているようである.実際,KLM 全社の取扱旅客数は約 2 倍に伸び,欧州エアラインが機材小 型化を進める中,比較的大型の機材を使用しつつ,高い座席 利用率を維持するという効率の良い運航を行っている. この様な戦略が,直接移転可能ではないだろうが,OS の ■図―2 米蘭間におけるKLMシェアの減少 ■図―3 アライアンスメンバー以外の減便(ドイツ) 波にうまく乗った事例として興味深い. 3.4 ドイツの場合 米国のユナイテッド航空とスターアライアンスを提携しルフ トハンザ(独)では,OS を締結し,アライアンスが独禁法適用 除外となった 1996 年から米独間直行便旅客数は大きく増加 した.1999 年にはルフトハンザのシェアは 36 %から 47 %に 拡大し,座席利用率も50 %から 82 %まで飛躍的に向上して おり,少なくとも米国エアラインによる席捲は見られない. しかし,一方で米独間直行便数はあまり伸びていない.こ れは独禁法適用除外を受けたスターアライアンスのユナイテ ッドとルフトハンザが有利な競争を展開して増便したのに対 し,それ以外のエアラインが減便したせいである (図― 3) .ア ライアンスによる寡占化は,利用者にとっては望ましくなく,運 賃上昇の懸念もあるため,乗り継ぎ便との競合状況などの検 4 ―― 今後の課題 欧州では懸念されたような国際競争力の強い米国エアラ 討が必要である. インに,シェアを大きく奪われたる傾向は特に見られなかっ 3.5 スイス/ベルギーの場合 た.また米国運輸省は OS 締結国の方が運賃低下幅が大きい スイスエアやサベナベルギー航空が経営破綻したことは記 と報じている.今後,日本を含むアジアの事情や特殊条件等 憶に新しいが,1995 年に両母国と米国が OS を締結し,米国 の整理を行い,OS 締結によるエアラインや利用者への影響 のデルタ航空とのアライアンスが 1996 年に独禁法適用除外 予測が必要である. を受けた後,両エアラインのシェア(両国と米国の直行便旅 研究報告会 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 079 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 平成 12 年大都市交通センサス −調査結果と課題− 深山 剛 (財)運輸政策研究機構調査室調査役 FUKAYAMA, Takeshi 大都市交通センサスは,運輸政策研究機構が国土交通省 て少しずつ方法を変えているが,調査様式の骨格は当初と の委託を受け,日本財団の助成のもと,利用者および事業者 変わっていない.昭和 50(1975)年からは定期券だけでなく の協力を得て実施している大規模な交通統計調査のひとつ 普通券の実態も知るべきとするニーズに応えるため,普通券 である.本稿では,過去 40 年にわたり実施されている本調 調査が実施されている.また平成 7(1995)年から利用実態 査の歴史を振り返り,その意義を確認した後,平成 14(2002) 調査ということでアンケートによる質的な調査を開始,あわせ 年 4 月に公表された平成 12(2000)年調査の結果について紹 て新幹線定期券についても利用者が増えているので調査に 介する.続いて最近の調査環境やニーズの変化について整 組み込んでいる注 2).平成 12(2000)年からは輸送力調査と 理し,最後に今後の調査に向けての課題をまとめる. 乗換え施設実態調査を追加した. 次に大都市交通センサスの位置付けを他調査との関連で 1 ―― 大都市交通センサスとは 見てみると,まず国勢調査における通勤,通学に関するデー タ値をコントロールトータルとし,パーソントリップ調査におい 本調査は 3 大都市圏(首都圏,中京圏,近畿圏) における大 て詳細ゾーン単位でデータを取っているのでそれによりOD 量公共輸送機関の利用実態調査を昭和 35(1960)年から 5 年 を把握し,パーソントリップ調査の結果に基づいて機関分担 ごとに実施しているものであり,大都市圏における公共交通政 を行う.その後,公共交通の部分について,大都市交通セン 策の検討に資する資料を提供することをその目的としている. サスのデータで補正を行う.その結果,経路情報,乗換え情 目的をさらに具体的に確認するため,大都市交通センサス 報,断面輸送量といった大都市交通センサスでなくては分か をとりまく歴史を振り返ると,昭和 30 から 40 年代の高度成長 らないデータが得られる.これまでこのような住み分けで各 期,その後のインフレ期,昭和 50 年代に入り円高不況期,そ 種調査が成立しており,例えば運政審での現状再現,将来予 の後平成にかけてのバブルの形成と崩壊といった形で,時 測や新線建設等に当たり大都市交通センサスは有効なデー 代が変遷してきている.その間首都圏の 1日の定期券利用者 タを提供してきた(図― 1). 数は,昭和 30 年代の 500 万人台から昭和 50 年代の 700 万人 台,そして平成期の 900 万人台へと着実に伸びてきた注 1). 国勢調査 パーソントリップ調査 この期間に,都市交通審議会(都交審)や運輸政策審議会 (運政審)の答申によって,交通ネットワークが整備されてく. (通勤・通学) コントロールトータル 詳細ゾーン単位 運政審におけるキーワードは混雑緩和と,通勤時間の短縮で あった.昭和 35(1960)年にはじめての相互直通運転が都営 自動車 徒 歩 公共交通 地下鉄と京成電鉄の間で実施された後,昭和 36(1961)年度 に大手民鉄第 1 次輸送力増強 3 ヵ年計画が策定され,以後, 大都市交通サンセス 8 次計画まで策定されて大手民鉄のネットワーク整備が進ん ・経路情報 ・乗換え情報 ・断面輸送量 … だ.昭和 40( 1965 )年に国鉄の第 3 次長期計画,いわゆる 「5 方面作戦」が策定されたが,昭和 62(1987)年には JR が発 ■図―1 大都市交通センサスの位置付け 足して輸送力の増強が進んだ.平成に入って自動改札機が急 速に普及し,ストアード・フェア (SF) カードも導入されていく. 2 ―― 平成 12(2000)年調査の方法 このような交通の状況に対して,大都市交通センサスは昭 和 35(1960)年から 5 年ごとに実施されている.基本的な調 続いて最新の調査についての方法を解説する. 査の定期券調査は当初から実施されており,時代に合わせ 本調査は鉄道利用者調査(定期券調査および普通券調査) 080 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 とバス・路面電車利用者調査(定期券調査およびバス・路面 3 ―― 平成 12(2000)年調査に見る交通の現状 電車 OD 調査)から成り,実施時期は 1 年間の中で最も需要 が安定しているとされる 10 ∼ 11 月の一定時期に実施される. 次に最近発表された平成 12(2000)年調査結果の内容に 鉄道の定期券調査の概要について見てみると,これはアン ついて紹介する.なお詳しくは本研究誌 111 ページの調査報 ケート調査によるサンプリングとなる.各圏域の全鉄道事業 告及び「平成 12 年大都市交通センサス,首都圏・近畿圏・中 者の協力を得て,例えば首都圏では 29 万枚のアンケート票 京圏報告書総集編」 (運輸政策研究機構) を参照されたい. を回収している.アンケート票には,発着地,発着駅,経路, まず第一に「上限に近づく鉄道総輸送人員」 という点が明 時刻といった情報が記載されている.これらを統計手法を用 らかになった.すなわち鉄道総輸送人員(各路線の延べ乗車 いて,定期券の発売枚数によって拡大して,実績推計値とす 人員)の推移を見ると,首都圏は上限に接近し,近畿圏は平 る.具体的なデータ取得方法としては,従来からの定期券購 成 2(1990)年にはピークを,中京圏は平成 7(1995)年にピー 入者による調査票記入方式,すなわち定期券発売所におい クを迎えている.この原因としては都市圏における人口上昇 て調査員が対面で調査票の記入を依頼する方式に加えて, 率の鈍化と少子化等が原因と考えられる (図― 3). 平成 12(2000)年調査から JR 東日本で実施したように,定期 (百万人/日) 券を利用する旅客に対して調査票を配布し,後日郵送によっ 60 て回収する方法も取られている.後者の方法により手間とコ 50 ストを削減できる (図― 2). 40 ①定期券購入者による調査票 記入方式 (営団地下鉄 新宿駅) ②定期券利用者への調査票配 布方式 (JR 東日本 大宮駅) 49.8 50.3 50.7 21.6 20.4 19.9 首都圏 40.0 30 18.7 20 10 0 近畿圏 3.9 4.5 S60 H2 4.8 H7 4.2 中京圏 H12 注:各路線の延べ輸送人員 出所:大都市交通センサス ■図―3 鉄道総輸送人員の変化 第二に「増加する普通券利用の割合」 という点が明らかに ■図―2 定期券調査の方法 なった.すなわち,定期券と普通券の利用者シェアの変化を 経年で見ると,例えば首都圏では平成 2(1990)年には 27: 次に,鉄道の普通券調査について見てみると,これは全数 73であったが,平成7(1995)年には29:71に,平成12(2000) 調査により,各圏域の全鉄道事業者を対象として例えば首都 年には 30:70 へと変化している.これは週休 2日制の影響も 圏では 1,200 万枚分のデータを集約している.得られる情報 あって,定期券から SF カードや回数券の利用に移っている旅 は乗車駅別,時間帯別データで,普通券には回数券や SF カ 客が多いことや,交通ネットワークの高密化で行きと帰りで異 ード(イオカード,パスネット,するっとカンサイ) も含む.集計 なるルートを取るために定期券から普通券にシフトした通勤 はこれまで乗車券原券による手集計方式として 1 枚ずつ袋に 旅客が増えていることも原因と考えられる. 集めて数えていたが,今は自動改札によって機械的に集計す るようになっている. 以上の調査の他,時代の変化に対応するため新規の調査 も実施している.第一は鉄道輸送サービス実態調査であり, 第三に「はじめて減少に転じた首都圏の定期券利用者数」 ということで,人口トレンドや前述の定期券から普通券への シフトにより,調査開始以来はじめて定期券利用者数が減少 した(図― 4). 路線別輸送力の把握を目的として,事業者からの情報やダイ 第四に「地域差が見られる首都圏内の交通流動の変化」 と ヤ等のデータから輸送力を算出した.第二は鉄道利用実態 いうことで,首都圏の定期券利用者の流動を 5 年前調査と比 調査で,平成 7(1995)年から実施している質的なアンケート 較すると,全体が減少する中で,神奈川方面の交通流動に増 調査であるが,これは将来の調査方式の変更に対応するた 加傾向が見られることが特徴的である.特に横浜から東京 めのプレ調査の意味合いもある.第三は乗換え施設実態調 間といった流動に加えて,町田や相模原から横浜といった業 査で,調査員が実際に歩いてホームからホームまでの乗換え 務核都市間の流動も増加している. 時間や距離を計測した. 研究報告会 第五に「駅アクセス・イグレス時間が増加した通勤時間」 と Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 081 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 別,時間帯別の混雑状況の指標化について現在取り組んで (百万人/日・片道) 9.5 9.5 10 8.0 7.6 8 8.1 2.1 2.3 2.1 5.5 5.7 5.9 2.5 2.2 いるところである. 8.9 2.0 通学定期券 ことで,今回調査ではじめて路線間の乗換え時間および距離 6 4 第八に「改善効果の高い乗換え施設の実態に注目」 という 7.0 7.3 をデータ化した.首都圏においては平均乗換え時間が 4.2 分 6.9 通勤定期券 2 かかり,旅客は水平方向に平均で 244m,垂直方向に平均で 18m 移動していることが分かった.費用対効果が高いと言わ れる乗換え施設改善の促進に資するデータの使い方につい 0 S50 S55 S60 H2 H7 H12 て今後考える必要がある. 注:首都圏の鉄道・バス・路面電車 出所:大都市交通センサス ■図―4 定期券利用者数の推移 4 ―― 今後の課題 いう点が明らかになった.アクセスは鉄道駅までのバス,自 転車,徒歩,自動車等による交通であり,イグレスは鉄道駅か ら職場までの交通を示すが,首都圏の通勤定期利用者のデ 続いて大都市交通センサスの調査方法に関する今後の課 題について整理する. ータを見ると,5 年前調査と比較して通勤時間が平均 66.6 分 まず緊急の課題として,第一に調査環境の変化への対応 から 66.9 分に変化している中で,アクセス時間は平均 10.1 分 がある.回答率やサンプリング誤差によるアンケート方式の から 11.5 分に,イグレス時間は平均 7.6 分から 8.8 分へそれぞ 限界,すなわち回答率がピーク時の 3 分の 1 程度となってい れ大きく増加している注 3).この原因としては居住地やオフィ ることや,サンプルがアンケートに協力してもらいやすい高齢 スの立地傾向の変化や,通勤者の行動の変化等が考えられ 者に偏っている可能性があること等の問題が指摘されてい る (図― 5). る.また定期券利用者中心の調査も,普通券へのシフト傾向 (分) 10.1 H7 48.9 アクセス時間 鉄道利用時間 7.6 計66.6 イグレス時間 が高まる中で,大都市交通センサスのデータで定期券旅客の 乗車経路しか分からないのは片手落ちではないかという指 摘がある.さらに今回調査から導入した自動改札データの有 効活用という点からも,事業者から得られた当該データがま H12 11.5 46.6 8.8 計66.9 注:首都圏の通勤定期利用者 出所:大都市交通センサス ■図―5 通勤時間の推移 だ 100 %活用されておらず,解析は今後の課題となっている. 第二に他の都市交通統計(国勢調査,パーソントリップ調 査,道路交通センサス) との補完性強化についてである.国 土交通省の発足によって旧運輸省系と旧建設省系の調査に 第六に「郊外のターミナルで多い首都圏のバスと鉄道の乗 ついて補完を強化する絶好の機会を迎えており,平成 13 継ぎ」 ということで,端末交通機関としてのバスの利用状況に (2001)年 9 月の土木計画学シンポジウムでも 「総合的な交通 着目して首都圏のバス定期券利用者の鉄道乗継ぎ人数を見 データのあり方について」 と題してディスカッションが行われ ると,川崎,戸塚,鶴見,青葉台,王子といった郊外ターミナ ている. ルで乗継ぎ人数が多くなっている.一番多い川崎駅における 乗継ぎ人数のバス利用者総数に占める割合は 60 %に達して 次に中長期的な課題としては,調査ニーズを把握すること と新技術への適用をすることが必要である. 調査ニーズの把握の前提として,公共交通政策を巡る時 いる. 第七に「きめ細かな混雑状況の把握に注目」 ということで, 代の変化を整理すると,第一に人口,経済の増加トレンドの 今回調査ではじめて路線別,時間帯別輸送力をデータ化し 終焉という点が指摘できる.すでに中京圏の大都市交通セン た.これまでも国土交通省の「都市交通年報」では主要断面 サスの関係者からは「混雑状況はすでに目標を達成した」 と における混雑率をピーク1 時間および終日で示してきたが,各 の意見もある. 区間で時間を追って混雑状況を把握する手法は確立されて 第二に公共事業への批判と政策評価の要請の問題として, いなかった.大都市交通センサスでは従来から取り扱ってい 国土交通白書にも 「公共投資の計画には費用対効果を厳し る輸送量データを,今回得た輸送力データで割ることで路線 く検証した上で実施の当否を判断する」 と記述され,政策評 別,時間帯別の混雑状況が把握できることになる.ただしデ 価により 「国民の視点で必要な政策が行われているかのチェ ータ精度や公表の方法等について議論が必要であり,路線 ックが必要」注 4)とされているが,データによる事実把握の必 082 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 要性がますます高まっていると言える. 第三に規制緩和と利用者への情報提供が必要という観点 量,正確なデータを即時に,常時に,かつ低廉に収集するこ とが可能になると考えられる. からは,例えば国土交通白書には「競争と消費者利益保護」 の重要性が「21 世紀型交通行政」 というキーワードの中で指 5 ―― 課題解決のための方向性 摘され,運政審 18 号答申には具体的に「混雑率,速達性,乗 換え利便性のモニタリングと情報提供が必要」注 5)と記載さ れている. 最後に,これらの問題を解決するための今後の調査実施 に関する方向性を 2 点述べる. 第四に TDM の実現という点で,例えば弾力的な運賃と需 まず「仕様規定から性能規定へ」 という方向性を指摘した 要の変化について分析を試みる研究者にとって,現行の大 い.仕様規定と性能規定という用語は,もともと建築の分野 都市交通センサスのデータでは取得できるデータの範囲が限 で,技術革新に対応する形で一定の基準を満たせば多様な 定されてしまうということが指摘されている. 材料や構造方式を認めるという考え方で,運輸部門でも鉄道 第五に事業者からのマーケティングデータの要求という点 車両や施設の設計,施工について最近になって技術規制緩 でも,競合区間のデータ分析等の利用を考えると,データの 和が進んでいる.統計調査の分野でも新しいニーズ,新しい 質やタイムリー性が不充分との指摘を事業者より受けている. 技術に対処しつつ,どんな「性能」が求められるのかを「継続 第六に情報公開法の施行と事業者の利害顕在化という観 性」には配慮しつつも考えていくべきであろう. 点からは,情報公開法により国のデータは原則公開となって 第二には,多数の関係者の間で目標を共有し,それぞれの おり,このことが既存事業者と新規参入者の利害対立を生む 主体の役割を認識することが必要と考えられる.具体的に 可能性がある.すなわち,多額の費用を負担して調査に協力 は,行政,学界,事業者といった主体を想定すれば,例えば している既存事業者が,そのデータが公開されることによっ 行政の役割は前述の「性能」の規定者であり,学界には方法 て,新規参入者にクリームスキミングの利益を与えるのでは 論を確立することが求められ,事業者はデータ提供として位 ないかと恐れていることが例として挙げられる. 置付けられよう.これらの役割を明確にした上で,各主体が 以上のような前提に立つと,大都市交通センサスのデータ 共通の大きな目標を持ち,また例えば事業者に対しては新技 は,これまで例えば運政審の関係者といった「一部のプロ」 術導入で低コスト化が図れるといったようなインセンティブを だけが扱っていたデータを,今後は都市公共交通のモビリテ 示すことによって,各主体が共存共栄を図りながら調査を実 ィ実態を知りたい人のためのデータとして,位置付けるべき 施していくことが必要と考えられる. ではないだろうか.もしそうであれば,調査ニーズは従来に 比較できない程多様化しているはずである. 次に新技術の適用については,今後は自動改札機の設置 が拡大され,SF カードや IC カードの利用も展開されることか ら,それらから得られるデータの活用を考える必要がある. 注 注 1)大都市交通センサスの首都圏定期券利用者数(1日・片道) .ただし昭和 50 (1975)年より前の調査では圏域全体の合計値が算出されていないため,同 時期の都市交通年報の交通機関別旅客輸送人員(高速鉄道計)の増加率を 当てはめて推計した. 注 2)平成 7(1995)年調査では新幹線定期券利用実態調査として別に調査を実 ただ留意すべきは,これらの技術はもともと旅客流動を捕捉 施し,平成 12(2000)年調査からは調査範囲の中に新幹線も対象に入れて するために開発されたわけではないので,当該の目的に使 いる. 用するためにはプログラムの変更やコスト負担の問題が発生 することである.また旅客流動シミュレーションや携帯機器で の位置追跡等,技術的な信頼性の確立を見て長期的には導 入すべき新技術もある.これら新技術を活用することで,大 研究報告会 注 3) ここで示した時間はあくまでもサンプルの平均値であるため,母集団の平均 値として議論するには誤差を考慮する必要があるが,95 %の信頼区間におい て誤差は± 0.2 分以内であり,当該の分析には影響を与えないと考えられる. 注 4) 「国土交通白書」国土交通省,2002 年 注 5)運輸政策審議会答申 18 号「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網 の整備に関する基本計画」2000 年 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 083 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 ITを活用した貨物輸送 西宮良一 (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所主任研究員 NISHIMIYA, Ryoichi 1 ―― はじめに 整・待機である.貨物車の駐停車により引き起こされる社会 的な問題としては,交通流阻害,交通安全性低下,沿道環境 本日の研究報告は,2001 年 5 月の第 9 回研究報告会におい 悪化等の短期的な影響,駐停車場所へ有限の資源である土 て報告したテーマ「建設工事と ITS」を発展させたものであ 地を割り当てなければならないと長期的な影響がある.輸送 り,他分野への応用についての研究結果,ならびに前回提 を行う当事者にとっても車両の運用効率の低下,運転手の人 案を行った生コンクリートのジャストインタイム搬入システムの 件費増や長時間勤務に伴う健康管理問題,さらには輸送時間 実証実験について報告する. の伸長による荷物の傷み等の経済的な損失がある.本研究で は,このような貨物車の駐停車のうち,後者の時間調整・待 2 ―― ロジスティクスと貨物車交通 2.1 ジャストインタイムの理想と現実 機に起因する路上駐停車に対する解決策の検討を行った. 3 ―― IT を活用した路上待機車両対策 SCM では,輸送に必要なリードタイムを考慮した上で,店 頭で製品が売れる分だけ生産して,生産に必要な量の部 道路上での待機車両の制御に IT(情報通信技術) を活用す 品・材料を発注することにより,店頭在庫,工場・倉庫の在 ることにより,真の意味でのジャストインタイム輸送が可能と 庫,部品・材料の在庫を最小化することを目標にしている. なる.基本的な考え方は,車両の出発前に輸送調整を行う しかしながら,道路を利用して輸送を行う場合には,渋滞 ことであり,そのためには以下の 3 項目が必要条件となる. による輸送時間の変動や目的地における荷捌き場等の混雑 ① 搬入先での生産工程等の計画や作業進捗状況を把握し により輸送に要する時間が正確に予測できないため,時間的 に余裕を持った出発でこれをカバーしている.その結果,ジ ャストインタイム搬入を実現するために,目的地周辺における て,出荷時刻を調整する (= SCM の観点). ② 目的地およびその周辺での混雑状況を把握して,輸送車 両の管理・制御を行う (= TDM の観点) . 道路上での車両の待機が発生し,道路交通へのしわ寄せが ③ 上記の正確な制御を行うために必要な輸送所要時間を走 発生しているうえに,場合によっては工場や店頭の在庫を増 行中の車両からのリアルタイム情報収集にもとづき行う やして対応するなどの方法もとられている. (Probe Car System の応用) . 一 方 , 交 通 の 分 野 で は TDM( Traffic Demand ここで重要な点は,従来連携がなく実施されていた SCM という考え方があり,途中の Management:交通需要管理) とTDM を融合されることにより,目的地周辺の待機状況や道 道路の混雑等に応じて,輸送の頻度,出発時刻,目的地,輸 路混雑状況に応じて出荷を制御できるようになることである. 送手段,輸送経路,積載効率などの調整が行われているが, TDM ではそもそもの輸送需要である「出荷量」自体のコント 4 ―― ケーススタディー ロールはほとんど行われていない. SCMに輸送時間や目的地における混雑を反映することがで IT を活用した路上待機車両の削減システムは,貨物ター きれば,道路の渋滞などの対策として持っている輸送中の余 ミナル,旅客ターミナル等の交通・輸送結節点におけるイン 分な在庫を削減することが可能である.このためには ITS の ターモダル輸送の改善,施設への搬出入車両の制御に応用 技術を活用して輸送時間を正確に予測することが必要となる. することが可能である.以下では,3 つの応用例とそのうち 1 つについての実験例について報告する. 2.2 貨物車と駐停車問題 貨物車の駐停車の主要な目的は,荷物の積み卸しと時間調 084 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 4.1 貨物ターミナルへの応用 空港,港湾,鉄道等の貨物ターミナルにおいては,搬出入 テムが必要となる.このシステムは以下の機能を持つ必要が ある. のトラックに関して現在以下のような問題が発生している. ① 利用者の発生状況のリアルタイムでの把握,情報共有 ・トラックの貨物ターミナルへの到着が特定の時間帯に集中 ② 駅前乗り場での待機台数の把握と情報共有 する. ・早めに貨物ターミナルに到着して待機する車両により周辺 道路が混雑する. このような車両の集中,待機が発生する原因の主なものは ③ これらを組み合わせた需要と待機台数に合わせた待機場 からの配車【SCM + TDM の融合】 具体的には,実車の発生台数,乗り場での待機台数,待 機場での待機台数をカウントして,待機場から乗り場への出 以下のような点である. 発台数をコントロールすることが必要である.さらに将来,何 ・貨物ターミナルの混雑状況が事前にわからない. らかの手段で待ち人数の報告や列車運行状況,イベントの ・道路の走行所要時間が変動する. 終了情報等の需要に関するデータを収集・分析する機能を ・貨物ターミナル到着後に貨物の照合・引き取り手続きが開 付加すれば,さらに緻密な制御が可能となる. 始される. 貨物ターミナルにおける待機車両の削減のためには,以 下の対策が必要である. 4.3 建設現場への応用とシステム開発例 建設工事現場,特に都市内の建築現場においては工事に ① 事前に貨物のデータをやりとりする電子手続きの採用 必要な資材および搬入車両を敷地内でストックしておく場所 ② 車両到着時刻の予約あるいは指示 がない場合が多く,道路上での待機(滞留)が発生しやすい. ③ ターミナル内の混雑状況・待ち台数の情報提供 都市内のオフィスビルやマンションの建設現場は敷地が狭隘 ④ 道路の走行所要時間の計測と提供 であり,現場に到着したミキサー車の待機場所が存在しない ⑤ 上記の情報を組み合わせてトラックの出発時刻を決定 場合が多い.また,周辺の道路が狭く,静穏な住宅地に隣 【SCMとTDM の融合】 接している場合は,路上での待機も困難である.したがっ て,渋滞による輸送時間の不確実性を路上待機により調整 4.2 旅客ターミナルへの応用 する対策,目的地における在庫をバッファーとした輸送を行 待機車両削減システムの考え方は,貨物輸送のみでなく う対策に頼ることが困難である.さらに生コンクリートの場合 旅客輸送にも適用可能である.一例として,駅前広場のタク は,製造後時間とともに品質が低下するため,製造からに荷 シー乗り場での待機車両削減への応用例について述べる. 卸しまでを 90 分以内に行わなければならないという課題も 駅前のタクシー乗り場では多数のタクシーが乗り場で待機 しており,長期的なタクシー需給バランスの問題のほかにも, あり,出荷・配車業務には熟練した要員が必要である. このような問題を解決するために,コンクリート打設計画と 適正な配車という観点からは以下の問題点がある. 輸送所要時間から,出荷タイミングを決定して,生産を指示 ・タクシーの待機台数の把握ができないため,余裕を持った するシステムの開発を行った.このシステムには,プラントか 配車を行わざるを得ず,利用者が少ないときは乗り場での らの出発台数と,現場への到着台数,現場における打設実 待機台数が増加する. 績とをリアルタイムで比較することにより,出荷時期を調整す ・これとは逆に,利用者の待ち行列の人数も把握できない ため,応援の配車ができない. ・利用者数の事前の予測が困難であり,サービス水準を維持 る機能も持たせた(図― 1). 現状では,建設現場,生コン販売店(商社),製造プラン ト,運転手,現場での誘導員との間の連絡は,無線や電話 するためには乗り場での待機車を多めにとらざるを得ない. で行われており,状況の把握のためには多段階の人手を介 さらに,乗り場での待機車両数が多くなることにより,周辺 する必要がある.もちろん,ミキサー車を対象とする運行管 の道路上まで待機車両の待ち行列が伸長し,通行車両の妨 理システムは既に商品化されているが,これはあくまで出荷 げとなる.この対策として計画時に広めの待機場を確保する 元とその管理する輸送手段のみをカバーするものであり,目 ことになり,地価の高い駅前で広い面積の確保が必要という 的地である建設現場との間の情報共有までは実現していな 都市計画・交通計画面での課題も発生する. い.本研究において開発したシステムを用いれば,コンクリ これらの問題に対応するためには,タクシー待機場を駅前 ート打設状況,輸送状況の関係者全員での即時の情報共有 のタクシー乗り場から分離することが根本的な対策となるが, が可能となり,出荷後の無駄な搬入待機を削減することが可 そのためには待機場から乗り場への配車を適切に行うシス 能となる. 研究報告会 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 085 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 ■図―1 ジャストインタイム輸送システム内のデータの流れ 提案した輸送システムの実用性を検証するために,東急建 5 ―― システムの普及に向けての課題 設株式会社と共同でプロトタイプシステムの開発を行い, 2002 年 1 月に 2日間にわたって実証実験を実施した.実験で 今後,本システムが本格的に使用されれば,関係する各 は,①携帯電話を端末としたインターネット上で稼働するASP 主体において以下のように分類される効果が得られることが タイプの出荷・輸送管理システム,②既存の ASP による車両 期待される. 位置情報サービス,③無線 Web カメラ (現場からの静止画伝 1)費用削減効果・・・プラント,建設現場 送) をアプリケーション統合して,プラントと現場に設置した 2)外部効果 計 2 台のノートパソコンからそれぞれ必要な情報へのアクセ a)時間節約・・・建設現場,道路利用者 スができるようにした. b)空間節約・・・建設現場,道路利用者,住民 このシステムにより建設現場の前で搬入車両が待機できな c)環境・エネルギー節約・・・住民 い場合には,不確実性がある無線による音声連絡よりも,迅 システム導入による社会的な便益が大きいが,導入自体は 速な入場指示ができることが確認された.ただし,定量的な 民間企業が中心となって行うべきものであり,普及のために 効果を把握するためのデータを得るためには,さらに実験の は,システム導入企業にとっての便益を認識してもらうことが 積み重ねが必要である. 重要である.そのためには,書類の電子化,電子商取引と の連携をはかり大きな経営改善効果が出るようなパッケージ 化を進めるとともに,車両位置,所要時間等の収集した情報 を企業間で共有する仕組みを整備することや,さらには収集 した道路走行所要時間を道路交通情報提供システムへ有償 で提供することにより,初期コスト,運営コストをシェアする ことにより導入企業の負担を減らすなどの方策も必要となる. 086 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 急激に自動車化する国の環境問題と対策 李 晟源 (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所招聘研究員 LEE, Sungwon 1 ―― 序論 韓国 交通分野を原因とする環境問題は,石油への完全な依存 と,交通需要の派生的性質のため,コントロールすることが困 中国 難なものとして知られている.交通分野における環境問題の タイ Thailand 大部分は,自動車などの道路交通によって生じている.たと え増加率は様々であるにせよ,自動車数は世界中のほぼ全て の国において増加している.中には,非常に急速に自動車所 日本 有者が増加している国もある.交通分野を原因とする環境問 題は,特にこれらの国々において顕著であり,特別な注意が 向けられる必要がある. 本報告では,急速に自動車化が進められる国々( The ■図―1 自動車増加率と収入水準 を特定し,これら Rapidly Motorizing Countries:以下RMC) の国々における環境問題について論じることを目的としてい 速に自動車化が進められる国々と定義することが可能である る.典型的な RMC 国である,韓国とタイの二国を例にとり, (図― 1). 将来予測を行い,さらに,韓国を事例とした環境汚染緩和の ための政策例を取り上げる. 急速な自動車化は,世界の他の地域においても同様に行 われている.5 %以上の自動車増加率を持つ主要地域は,東 ヨーロッパ,旧ソ連,東南アジア,アフリカと南アメリカの数カ 2 ―― 急速に自動車化が進められる国々の定義 国である.これらの国々は,アフリカの国々を例外とし,中所 得国の中でも上位に位置する国々,あるいは発展途上国とし 自動車化は,1920 年代前半にアメリカで開始され,ヨーロ て分類することができる.この分類に属する主要な国々は,ア ッパや世界の他の地域へと広がっていった.これに従い,世 ルバニア,ロシア,ルーマニア,ホンジュラス,コスタリカ,イン 界的な自動車数は,着実に増加してきた.自動車所有は主に ド,マレーシアである. 収入水準に左右されるため,収入水準と自動車所有率との 間には,さまざまな国々において密接な関係が存在する.ヨ 3 ―― RMC 国における自動車所有の概算 ーロッパと北アメリカの先進国では,自動車所有率は大変高 いものとなっている.一方で,これらの国々における自動車化 はすでにほぼ終了し,自動車購入を行うほとんどは買い換え 急速に自動車化が進む国々のうち,二つの典型的なケー スを例にとり,将来的な自動車所有率の試算を行った. である.日本もまたこの分類に属している.しかし,近年,多 くの中所得国の中でも上位に位置する国々では,自動車所有 が急激に増加している.過去 10 年間では,韓国とタイにおけ ここで, る自動車所有率が年間 10 %以上もの伸び率を示しており,フ P= 一人あたりの自動車保有率 ィリピンと中国においても,自動車数が 10 %を越える伸び率 s = 自動車保有率の飽和点 を達成している.一般的にこれらの国々は,急速な経済成長 Y = 一人あたりの GNP(年ドル) (1995 年アメリカを基準とする) と,それに伴う収入増加がみられ,さらに,今後の自動車化 C=自動車購入価格(1995 年通常価格) と年平均燃料コスト を支えうる人口・経済規模を備えている.これらの国々は,急 研究報告会 の合計 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 087 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 T = タイムトレンド,基本年を 1とする 4 ―― RMC 政策事例:韓国 α,β 1,β 2,β 3 =係数 前段落で見てきたように,交通の増加に関する現在の傾向 ケーススタディ1:韓国 が,環境的に持続不可能であることは明確である.韓国では パラメーターの推定結果を表― 1 に示す.自動車総数は, 交通に起因する環境負担の緩和のために,1)排出規制の強 現在の 1,150 万台から 2020 年には 2,440 万台と,20 年間に倍 化,2)環境のためのインフラストラクチャー整備,3)交通需 以上になると予想される (表― 2) .この概算は,年間 4 %の経 要管理,4)燃料税の賦課,5) ロードプライシング,6)駐車対 済成長率と2 %の燃料価格増加という仮定に基づいてなされ 策の実施,7)バス専用車線の設置,8)低公害車に対する経 ている.この感度分析は,自動車総数が収入成長仮定によっ 済的優遇,といった様々な政策が実施されている. て異なることを示している.5 %などの,高い経済成長率の場 合には,自動車総数は 2,660 万台に達しうるし,経済成長率 5 ―― 結論 の低い場合には,総数は 2,110 万台にもなりうる. 自動車化は,世界中のほぼすべての地域において今後も ケーススタディ2:タイ 進展していくであろう.発展途上の国々が顕著な経済成長を タイの場合,操業費に関する確実なデータが不足している とげ,一人当たりの収入水準が高まるとともに,急速な自動車 ため,概算モデルは収入とタイムトレンドのみが用いられた. 化が進行する.自動車化が,自動車使用者に多大な利益をも パラメータの推定結果を表― 3 に示す.自動車総数は,現在 たらすことは明確である.しかし,それは同時に,環境の悪 の 530 万台から 2020 年には 1,550 万台と,20 年間に 3 倍にな 化,交通事故,その他の社会的費用といった副次的な悪影響 ると予想される (表― 4).つまり,韓国よりもタイの方が自動 をももたらすものである.本報告では,RMC を特定し,韓国 車化が急速に進むものと思われる.収入変化による感度解 とタイの事例を用いた試算を行い,韓国における交通起因の 析によると,3 %から 5 %の経済成長率を仮定すると,自動車 環境問題への対策実施事例を紹介した.他の RMC に関して 総数は,1,280 万台から 1,860 万台の範囲となる. も,同様な政策の重要性が今後増すことになるだろう. ■表―1 α β1 β2 β3 R2 調整R2 韓国の事例におけるパラメーター推 定結果 係数 標準偏差 -6.4827 2.5301* -1.8720* -0.2793* 0.993 0.991 9.8451 0.4180 0.6971 0.0988 t値 -0.65 6.05 -2.69 -2.83 ■表―2 自動車保有状況の予測(GNP 成長率 4 %の場合) 人口 (単位1,000人) 一人当たりGNP (単位1,000アメリカドル1995年) 1,000人あたりの 自動車所有数 自動車総数 (単位100万台) ■表―3 α β1 β3 R2 調整R2 タイの事例におけるパラメーター推 定結果 係数 標準偏差 -15.3984* 1.7518* 0.0657 0.952 0.946 1.6169 0.2409 0.1023 t値 -9.52 7.27 0.64 ■表―4 人口 (単位1,000人) 一人当たりGNP (単位1,000アメリカドル1995年) 1,000人あたりの 自動車所有数 自動車総数 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 2005 2010 2015 2020 47,223 48,873 50,184 51,068 51,807 11.9 14.4 17.6 21.4 26.0 243 304 365 422 470 11.5 14.8 18.3 21.6 24.4 自動車所有状況の予測(GNP 成長率 4 %の場合) (単位100万台) 088 2000 2000 2005 2010 2015 2020 62,084 65,395 68,322 71,000 73,387 2.8 3.4 4.1 5.0 6.1 86 112 143 177 211 5.3 7.3 9.8 12.5 15.5 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 第 3 セクター鉄道の現況と将来の方向 末原 純 (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員 SUEHARA, Jun 1 ―― 本研究の背景 モータリゼーションの進展,沿線の過疎化,少子化,経営 安定基金の減少,厳しい自治体の財政事情により第三セクタ ー鉄道(以下,3 セク鉄道とする)の経営は益々悪化している. しかしながら,沿線住民の多くは存続望んでおり,自治体側 も鉄道存続の方針で,バス転換を検討しているところは少な いようである. 本研究では,これまでの対策を検証し,新たな存続の方向 を提案する. なお,3 セク鉄道をとらえる視点として採算面から検討を ※地方民鉄は輸送密度4,000 人以下の鉄道 ■図―1 作業効率の比較 ■図―2 輸送密度と営業収支 行う.また,採算に影響を与える要因のうち増収策,費用削 減,支援といった事柄を中心に検討を進める. 2 ―― 第 3 セクター鉄道の定義と分類 2.1 本研究で対象とする 3 セク鉄道の定義 本研究では“旧国鉄の特定地方交通線の経営又は計画を 継承した” ものを対象とする. 2.2 鉄道の分類 上記定義による鉄道は 37 社あり,これらは都市間高速鉄道 (北越急行,智頭急行),都市圏鉄道(愛知環状鉄道),短絡 3.2 鉄道業収入と副業収入 鉄道(伊勢鉄道),貨物鉄道(神岡鉄道),それ以外のローカ 3 セク鉄道の収入の殆どは鉄道業による収入であり,副業 ル鉄道(32 社) に分類される.本研究では,相対的に経営の 収入は 32 社平均で約 7 %である.副業収入が低い要因とし 厳しい「それ以外のローカル鉄道」を主としてとり上げる. て 1) リスクのある事業に進出できなかった.2)要員に余裕 がない.3)出資者に自治体が入っているため,民業を圧迫 3 ―― 経営の状況 3.1 経営効率の比較 する事業に進出できなかった.といったことが考えられる. 4 ―― 経営改善策と事例 3 セク鉄道の作業効率を地方民鉄と比較すると民鉄並みに 効率的であるといえる. (図― 1) しかし,輸送密度を比較すると (図― 2)民鉄に比べ低い水 準となっており,その結果経営状況も悪いものとなっている. ここでは,経営改善策とその事例について述べる. 費用削減策としては,人件費の削減,設備の近代化による 経費の削減,増収策としては,サービスの改善,需要喚起,副 業の展開,自治体等による支援策としては,財政支援,人的 支援,利用促進が実施されている.以下事例を紹介する. 研究報告会 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 089 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 需要喚起策①:新駅の設置 5.3 関係主体の連携,調整の強化 松浦鉄道ではこれまで 25 駅を設置し,新駅からの利用 鉄道担当以外の部署が鉄道存続の方向と一致しない施策 者は全利用者の 32 %となっている.新駅の佐世保中央駅 を実施している事例があり,鉄道担当部署とその他の部署と は,佐世保市の中心部に位置することもあり同鉄道で 2 番 の調整の強化が必要である. 目に利用者の多い駅となっている. 需要喚起策②:イベント列車 また,情報交換による対策の多様化,効率化を図る上で他 の 3 セク鉄道沿線自治体相互の連携の強化も重要である.具 明知鉄道ではイベント列車を積極的(年間約 150 回) に 体的方法として,沿線自治体が参加した協議会の設置やイン 運行しており,旅客収入に占めるイベント列車の収入は試 ターネット上で情報を公開し,交換するといった方法が考え 算では約 6 %となった. られる. 利用促進策①:マイレール意識の醸成 松浦鉄道沿線の佐世保市の大野地区では沿線協議会の 5.4 経営改善方策の検討,実施 活動資金として地区全世帯(7,600 世帯)から 10 円を徴収 経営改善方策として交通事業者相互の協力が考えられる. し,地区全員のマイレール意識の高揚を図っている. 鉄道事業者との協力では乗入れ,イベントの共催等 利用促進策②:自治体による駐車場の設置 甘木鉄道では沿線自治体により全線 10 駅のうち 7 駅で約 530 台分の駐車場が整備された. 利用促進策③:沿線の植栽 いすみ鉄道ではいすみ鉄道友の会が中心となり沿線に 菜の花を育て,車窓の魅力を高め利用者増加を図る努力 を行っている. が考えられる.乗入れには費用の問題があるが,乗入れに より跨線橋の昇降が解消されるなど,利用者の利便性は大き く改善される場合もある.また,イベントの共催では沿線外 から参加者があれば 3 セク鉄道のみならず,JR 等相手方の鉄 道にも増収となる可能性もある. バス事業者との協力としては,駅からの端末交通手段とし ての協力のみならず,鉄道と並行するバス路線についてもダ イヤ調整等を実施し,補完的にサービスの改善,運行費用の 5 ―― 新たな方向性(提案) 削減の可能性があると思われる. また,鉄道を地域活性化の手段として利用することも考え 各 3 セク鉄道及び沿線自治体の取組みの調査において,い くつか問題点が見いだされた.本章ではこれら指摘し,新た られる.例えば真岡鐵道では,自治体が SL 運行協議会を設 立し,地域活性化の手段として鉄道を活用している. な方向性を提案する. 5.5 公的支援に対する審査の実施 5.1 地域の意志,基本事項の確認 公的支援を漫然としないために,また,事業者の経営効率 沿線では存続を望む声が多い一方でマイレール意識が低 化へのインセンティブを低下させないために審査の実施が必 下している.従って,まず存続決定主体が住民,自治体であ 要である.このためには,まず事業者責任と自治体責任の明 り鉄道事業者ではないということを関係者間で確認しつつ, 確化が必要である.方法として,第三者機関による審査が考 存続の意志決定を行うことが重要である. えられる. また,存続には自治体や住民からの支援が必要不可欠で また,財政支出に対する妥当性の判断も必要である.意識 あり,こうした基本事項を確認しておくことは,存続の原動力 調査や代替交通手段等を比較検討し,妥当性を判断する必 となるものとして極めて重要である. 要がある. 6 ―― まとめ 5.2 県,市町村の責任と役割の明確化 ある 3 セク鉄道沿線では県担当者は沿線市町村の積極的 取組みを期待し,市町村の担当者は複数の市町村に跨る事 新たな方向性として 5 つの提案を行ったが,更に重要なこ 柄であることを理由に県の主導的役割を期待する状況があ とはこれら全てについて総合的に実施することであると考 った.対策を効果的に進める為には,県と市町村の責任と える. 役割の明確化が必要である. 方向性について今回は概要の報告となったが,今後これ からの詳細の検討を進める予定である. 090 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 DBAG における鉄道運行の安全性 −日本とEUにおける国有鉄道改革の効果(その2) − アンドレア・オバーマウア (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所客員研究員 Andrea OBERMAUER 1 ―― 研究の背景と目的 検査を実施することができる.その目的は,鉄道事故と危険 前回の研究は, 「日欧における鉄道改革の主な視点の比 な事象の原因究明とその指摘であり,鉄道運行の安全性を 較」 ,つまり日本とEU の鉄道改革,国有鉄道制度と第三者ア 改善することである.しかし,連邦交通建設住宅省は DBAG クセスに関する共通点と相違点を中心にした.それに対し の所有者と同時に連邦鉄道庁の監督官庁であるということか て,今回の研究はドイツ鉄道(DBAG) に関する「鉄道改革後 ら,連邦鉄道庁は,厳格な制裁処置を実施する権限はない. の安全性の問題」を中心にする. このことから,連邦鉄道庁は「牙のない虎」であるという言わ EU における鉄道改革以降に,いくつかの鉄道事故は上下 れ方もされている. 分離方式の適用により増加したとも言われるようになった.こ 鉄道会社の責務は,鉄道運行,鉄道インフラ,車両などの の研究の目的は,ドイツ鉄道を例にして,鉄道改革前後の事 建設・保有・維持について安全性の確保に努めることであ 故件数と事故に結びつく可能性のある危険な事象を分析す る.鉄道運行責任者の責務は,安全性に配慮した組織運営 ることである. と長期的な視点より安全性の向上を図り,事故とその要因 ここでの論点は,上下分離のもとに鉄道事業の組織変更 についての調査・報告についての責任を担う. が生じることとなるが,特に組織内及び組織間における情報 2001 年における鉄道運行責任者のポストの導入は安全上 交換,協調,コミュニケーションの不足が安全性の問題を誘 の問題点を解決するためには必要な施策であった.なぜな 発するということである. らば,旧西ドイツの DBと旧東ドイツの DRという異なる組織 がドイツ統一のもとに合併された後,その統一された組織は 2 ―― EUとドイツにおける鉄道運行の安全性に関する法的 背景 現在までの EU における鉄道政策は,鉄道会社間の競争 鉄道改革のもとに持株会社と五つの異なる機能を受け持つ 株式会社に分割された.その結果,安全性に関する責任が 不明瞭になり,それら組織内及び組織間の情報交換,協調, 力の改善とオープンアクセスによる新規参入の奨励が主な目 コミュニケーションが不足し,安全性の問題を誘発していた 的であり,安全性の改善に関する措置は少なく,EU 加盟国 からである. の法律と鉄道運行規則は国ごとに相違が多い.また,EU で は統一的な安全基準の制定がなされていない.さらに,鉄 道事故の対策に関する法律・制度も存在しない.鉄道事故 3 ―― 連邦鉄道庁による事故分析 3.1 「危険な事象」と鉄道事故 を未然に防ぐための対策は,各加盟国の規制当局と各々の ドイツでは,鉄道改革以前より統計的なデータ収集が実施 鉄道会社の責任となっている.従って,現在までの EU の鉄 されている.1960 年と1980 年の間に,鉄道事故による死傷 道事故と死傷者の統計データなどの情報も十分整理されて 者数はかなり減少し,1994 年の鉄道改革の開始まで若干増 いなかったが,2002 年(今年)から,加盟国の鉄道事故に関 加したものの,1996 年と1999 年を除いて,死傷者数が前年 する共通統計の導入が予定されている. 度を下回る結果となっている. ドイツにおける法律と指令は「一般鉄道法」 (Allgemeines 鉄道改革開始前後の事故数を比べると,1994 年以降は概 Eisenbahngesetz), 「鉄道建設と鉄道運行」 (Eisenbahnbau- ね低下傾向にあるといえる.1995 年と1996 年には事故数が 「鉄道経営責任者に関する指令」 , und Betriebsordnung), 増えているが,1998 年からは減少傾向にある.しかしなが (Eisenbahn-Betriebsleiterverordnung) などの法律と指令 が鉄道運行の安全基準である. 連邦鉄道庁( Eisenbahn-Bundesamt, EBA)は鉄道事故 や事故に結びつく可能性のある危険な事象について独自な 研究報告会 ら,これらの統計結果は,死傷者数,また事故件数と事故原 因の関係を明らかにしておらず,事故に結びつく危険な事象 がどのようになっているかについては不明だという点に問題 が残っている. Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 091 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 1996 年から,鉄道庁は危険な事象を含める監査結果をデ 4 ―― DBAG の新措置と事故回避措置 ータバンクに記録することとしている.鉄道庁が検査の対象 DBAG の安全性に関する措置は次の通りである. としている危険な事象に関するカテゴリは二つある.第一の 工事現場関係の特別企業規則については,規則作成担当 カテゴリが事故の種類であり,第二のカテゴリは事故を誘発 者への専門教育の改善と,作成にかかわる人員数を増加し, する可能性のある危険な事象である.つまり,信号誤認によ チェック体制を確立することである.そして,一般的には,そ る誤出発や過走,場内への列車の誤進入など事故に結びつ れぞれの役割に対する責任意識を高め,安全性を大事にす く可能性のある危険な事象である. る担当者を育成することが大切であるということである.ま 一般鉄道法では,安全監査に関する明確な位置付けがな た,自動列車制御措置(PZB) を工事期間中作動させること されていなかったため,DBAG の監査実施件数も少なかっ を義務付けた.鉄道運転者に対しては,継続的な専門教育 たが,その必要性や重要性の認識が高まり,DBAG の対応 の実施と,総体的なレベルアップを図るため,DBAG,ドイ も改善されてきた.このようなことから,1998 年までの報告, ツ交通企業同盟,連邦鉄道庁が協力し,鉄道運転者の免許 特に事故にはならなかったものの,その可能性のあった危険 制度の導入を実施した.また,列車運行上の突発事故など な事象に関する監査件数が非常に増えた.しかしながら,こ 様々なケースを想定した,シュミレーターによる訓練も実施す れだけでは潜在的な事故発生要因総てを明らかにしている ることになった. わけではなく,分析を行うのに十分なデータだとは言えない. 安全監査により,鉄道庁から修正命令及び指導が行われ た件数と事故発生件数を年度ごとに比較すると,事故発生 5 ―― 結論 EUレベルでは,将来の安全的なインターオパラビリティを 件数に比べ修正命令,指導の件数が非常に多いのがわかる. 保証するため,安全性の改善に取り組む必要があることか つまり,結果として発生した事故に限らず,その可能性のあ ら,EU 鉄道庁(European Railway Agency) を設立するこ る危険な事象は極めて多く,鉄道運行の安全性確保に関す とが予定されている. る改善ポテンシャルが高いということである. 3.2 事故の「原因の背後要因」- Bruehl 市における DBAG の事故を ドイツにおける事故数は,鉄道改革後には減少したという 結果があった.しかし,事故発生の可能性を含んだ危険な 事象については必ずしも減少したとは言えない.DBAG が 例にして Bruehl 市における DBAG の事故は 2000 年 2 月6日の 0:13 設立され 8 年を経たものの,旧 DBと旧 DR 間の鉄道運行に 時に Amsterdam 市から Basel 市行き急行列車が旅客駅の地 関する企業規則の統一が未だ不完全である.新しい組織と 点で脱線した.被害は 201 人の旅客のうち 9 人が死亡,149 して 5 つの株式会社があり,それぞれの組織間の規則導入と 人が負傷する大事故となった. 情報フローの問題がある上に,現在の企業規則は上下分離 DBAG の報告によると,事故の直接的な原因は,列車運 転者のミスによるものであるということに言及するにとどまっ ていた.しかしながら,鉄道庁の調査から,原因の背後要 に対応した組織ニーズを反映したものとなっていない. しかしながら,安全性に関する問題点は鉄道運行責任者 の責務を明確にすることで改善されるものと考えられる. 因は運転者の技能訓練と専門教育の不足であることが指摘 Bruehl 駅の事故に関する DBAG の見解は,あくまで運転 されている.DBAG は,長距離鉄道運行と企業規則に関す 者の運行ミスを指摘するにとどまっており,その他は事故原 る一週間の補習過程コースの予定があったにもかかわらず, 因とは関連しないという認識である.このことは,鉄道庁の その教育・訓練を実施しなかった.また,信号取扱い担当 見解によると,旧国鉄の考え方とやり方のようであると批判 者は,隣接する線路で行われていた工事現場の状況につい されている. て連絡するという指示がなかったため,列車の運転手にそ しかしながら,改善されたものとして鉄道運転者の免許制 れを伝えておらず,さらに列車無線も作動しなかったことも 度の導入と,安全運転に関するシュミレーターを利用した訓 明らかになった. 練の導入などがあげられる. DBAG の企業規則の様々な欠陥は,旧西ドイツの DBと旧 反面,政治的理由により鉄道庁の DBAG に対する制裁処 東ドイツの DRとの企業規則の統一が不完全であり,多数の 置に厳格性が伴わないということは,今回の改善点として足 新しい規則が導入され,各々の責任体制や安全管理に関す りないものだと考えられる.このことは,DBAG 以外の EU 加 る定義・見解が不明瞭であることに起因しているものと考え 盟国から参入する鉄道会社との間で差別的対応が行われる られる.そして,分割後の 5 つの株式会社の企業規則は,上 可能性を秘めており,安全性向上に求められる要求事項に 下分離に十分適応していないという問題もある. ついては,総ての事業者が公平であることが不可欠である. 092 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 我が国における戦略的港湾運営 長瀬友則 (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員 NAGASE, Tomonori 1 ―― 研究の目的 ンガポール,香港などに大きく水をあけられるようになった. グローバリゼーションの進展,利用者ニーズの多様化・高 もちろん,性格の異なる港湾をこのようなコンテナ取扱量の 度化を背景として,製造業を中心とする産業構造全体が大 みで比較するのは難しい面もあるが,このような取扱量の差 きな変革期を迎えている.本部署はこれらの産業を支える が港湾インフラの利用効率と無関係であるとは言えないと考 物流構造も大きく変化しているこの時期において,アジア主 えられる. 要港湾に対し相対的に地位が低下している我が国の港湾に 2.3 コンテナターミナルの諸元(ハード面)比較 ついて,ハード面ではなく,特に港湾の運営面に着目し,我 図― 2 に示すとおり,これらの主要港湾を,ガントリークレ が国の港湾物流の国際競争力の強化のための諸制度の在り ーン数,ヤード面積などハード面の指標で比較すると,取扱 方を提案することを目的とする. 量の差ほどの大きな差異はないことがわかる.港湾の相対 的地位低下の原因は,施設(ハード)面の劣勢にあるからで 2 ―― コンテナ港湾の重要性と地位低下の現状 2.1 コンテナ港湾と国民生活との関わり はなく,むしろ,運営(ソフト)面に課題が多いからではない かと思われる.タンジュンプルパス港(マレーシア)が,港湾 我が国の食料の海外依存度は,平均 60 %(平成 10 年度) , 使用料をシンガポールの約 7 割に設定し,マースクシーラン 家電製品も例えばカラーテレビが 76 %で増加傾向にある. ドなどの大手船社の貨物を集約する拠点として急成長してい また,国際貿易量の 99.7 %(重量ベース) は海上輸送に依存 ることは,運営面での努力こそが利用率の向上に直結する しており,主要 5 港(東京,横浜,名古屋,大阪,神戸)のコ ことを示す好事例と言える. ンテナ化率は,金額ベースで約 78% という高い率を示して いる.コンテナ港湾の重要性は益々高まっていると言えよう. 2.2 アジアの中での相対的地位の低下 アジア主要港湾のコンテナ取扱量は,図―1 に示すとおり, 80 年にはほぼ拮抗していたものが,2000 年には,日本はシ 3 ―― 相対的な地位低下をめぐる背景 利用者である荷主企業や海運業などは,効率化とサービ ス向上というニーズに合致する港湾のみを選択し,相対的 に日本の港湾を利用する必然性が薄れる傾向にある.この ような状態が今後とも続けば,我が国の物流コストはさらに 上昇し,産業立地競争力が衰え,物価の問題や雇用の問題 まで惹起しかねない. 海事レポート平成 13 年版 国際輸送ハンドブック 2002 等より作成 ■図―1 ■図―2 研究報告会 アジア諸国のコンテナ取扱量推移 コンテナターミナルの諸元比較(横浜=100%) Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 093 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 3.1 荷主企業 れば,即座に貨物の停滞が生じることになる.コンテナ貨物 3.1.1 顧客ニーズへの対応 関連情報システムは,現在のところ,Sea-NACCS,港湾EDI, 製造業者は,不安定で予測不能な顧客ニーズに如何にタ POLINET など当事者ごとにバラバラのシステム整備がなさ イムリーに対応するかと言う点に最も苦慮している.多くの れ,十分にリンクしておらず,標準化されていないため,利 在庫をかかえる手法では利潤が低下することから,顧客の 用者が限定され,重複入力が避けられない不便なものであ 需要を素早くつかみ,それを即座に生産・販売へとつなげ る.最近ようやく,ワンストップサービス推進の動きが出て来 ていくこと−「リードタイムと在庫の削減」−を最も重視して たが,諸外国と比較し遅きに失した感は否めない. いる. ③ 料金の低廉化(安い) 3.1.2 生産・販売拠点の国際化 昨年の白書によれば,日本の港湾諸料金(入港料,トン税, 最近,日本企業の製品がヨーロッパで生産され,アメリカで ターミナル費用,荷役料,パイロット料やタグボート料) は,他 販売されるなど,全ての生産・販売活動が海外に移転され の港湾に比較してまだまだ割高感がある.港湾の利用料金 るケースも普通となってきた.このような企業が国を選ぶ時 が港湾を選択する上で重要なファクターであることは,タンジ 代においては,日本企業の生産・販売活動でありながら,日 ュンプルパスの例によっても示されているところである. 本の物流機能が全く必要とされないケースも生じる. 5 ―― 改善の方向性(論点整理) 3.2 海運業 80 年代のいわゆる盟外船社の参入と運賃競争,90 年代前 上記「うまい」 「早い」 「安い」への直接の対策を縦糸とする 半の共同運航とコンソーシアムの形成,90 年代後半からのい ならば,もっと根本的に改善すべき部分をいわば横糸的な対 わゆるアライアンスへの集約,そして,単位当たりの輸送コ 策案として,以下に論点整理したい. ストを削減するためのコンテナ船の大型化など,船社は経営 5.1 運営(ターミナルオペレーション)主体の課題 面,運営面においてあらゆる効率化の努力を行っており,寄 5.1.1 運営の一元化が可能となる制度の柔軟性 港する港湾についても,これを絞り込む傾向にある. 香港は,8 つのターミナルを 3 社で,シンガポールは,東側 の 3 ターミナル 31 バースを 1 社でオペレートしている.これに 4 ―― 我が国港湾の問題点(ソフト面) 港湾に求められる機能を一言で言うと, 「うまい」 , 「早い」 , 「安い」の 3 拍子が揃うことではないかと思われる.具体的 対し,横浜の本牧埠頭では,例えば,いわゆる公社バース では船社系の港湾運送事業者,公共バースでは,別の港湾 運送事業者,というように 12 のコンテナバースを別々の主体 には,それぞれ以下の①∼③に置き換えられる. がオペレートしている.特に公社バースは,特定船社への専 ① サービスレベルの向上(うまい) 用貸のため他社の船舶は使えない.オペレーターが広域的 港湾の運営時間は,図― 3 のとおりであり,日本でも,よう に,全体として運営を行うことが可能となれば,例えば やく,昨年末の労使合意により,荷役が 24 時間可能となった ・遅れて入港した船舶に対する臨機応変なバースの割り当て ものの,他の主要港湾に比較し,まだまだ改善の余地があ ・長期にバースが空くような場合,空き地を別用途に利用 ると言わざるをえない. といったことが可能となり,さらなる収益性の向上につなが ② リードタイムの短縮(早い) るのではないかと考えられる. コンテナ貨物に関する情報交換がスムーズに行われなけ 5.1.2 ターミナル業の専業化(メガオペレーターの進出) 最近,PSA(シンガポール) ,HPH(香港) ,Eurogate(独) , P&O Ports(英),SSA(米)など,船社から独立して,コン テナターミナルのオペレーションを専門に行うメガオペレータ ーが,その高い収益性を背景に全世界に進出している.上 記 5 社によるコンテナ取扱量は,全世界の 3 割近くに及んで いる.我が国にも,北九州ひびきコンテナターミナル(2003 年供用開始予定) にメガオペレーターが進出(PFI 事業者とし て PSA が 60 %の資本参加)する動きがあり,これを契機とす 海事レポート 2001 等より作成 ■図―3 094 る,我が国の港湾運営の更なる活性化が期待される. 港湾運営時間の国際比較 運輸政策研究 Vol.5 No.2 2002 Summer 研究報告会 運輸政策研究所 第 11 回 研究報告会 5.2 整備主体の課題 子・低利融資など様々なものがあるが,直接負担は,利用 図― 4 のように,アジアではガントリークレーンなどの上物 料の低廉化には寄与するが,逆に整備コストが表面化しに も岸壁などの下物も民間が整備主体となる場合があり,欧 くいという欠点があり,借入は,返済が前提となるので利用 米でも,上物の整備主体は民間であるのが普通であるのに 料金に跳ね返りやすいという欠点がある.このような長所と 対し,我が国においては,これまで,上物も下物も公的主体 短所を踏まえつつ,最適な支援メニューを検証する必要が が整備しており,最近になって,これらの整備主体を分離す ある.また,同じ直接負担でも,国と地方の負担割合の在 る PFI 方式が出現してきた.しかしながら,まだこの方式は り方も大きな論点である.例えば,国際競争力を高めるた 前述の北九州を含め 2 事例にすぎず,こうした経営面を意識 めの港湾には国が,地域経済の活性化に資する港湾は地方 した整備制度を今後如何に展開できるかが今後大きな課題 がというメリハリも必要ではないかと考えられる. である. ■図―4 港湾整備における官民の役割分担 5.3 公的支援の課題 5.3.1 国策による重点化 ■図―5 港湾整備における支援制度 5.4 港湾管理者制度の課題 昭和 25 年に制定された港湾法では,独立採算の公的企業 我が国には,約 1,000 余りの港湾があり,うち国際輸送拠 体である 「港務局」が港湾管理者となることを原則とし,経営 点として重要な「特定重要港湾」が 22 港存在する.欧州やア 面が重視された制度となっているが,現在,港務局が管理 ジアの多くの国において国際貿易港とされる港湾はせいぜ 者となっているのは 1 港にすぎず,そのほかは全て地方公共 い 1 ∼ 2 港であり,面積の小さい我が国で,22もの「特定重 団体が管理者となっている.その結果,港湾整備や運営の 要港湾」が,同様の仕組みで整備されていることを如何に考 コストが表面化しにくく,収支が悪化すれば公的資金をつぎ えるかという問 題 が ある. 港 湾 をインフラの 数 や 規 模 込むという悪循環が起こっていると思われる.これを防ぐた (SCALE)で競争する時代は終わり,輸送ニーズに応えるた めには,例えば,港湾管理者の財務の透明化を図るなど, めいかなる港湾をどのように配置するかという国家的な戦略 経営効率化のインセンティブが働くような努力を行うことが必 やビジョン (SCOPE)がこれから重要であり,例えば,近隣 要である. 諸国(特に中国)の貨物需要の変化への対応,基幹航路等と の関係での地理的特性等を勘案した戦略が今後更に重要と なるのではないかと考えられる. 5.3.2 支援メニューの検証(国と地方の役割分担) 港湾整備の支援メニューについては,図― 5 のとおり,公 6 ―― 今後の研究の進め方 以上の 4 つの提案については,今後,ヒアリングやデータ 分析などを通じ,さらに詳細な検討を行い,提言の修正・追 加を行っていきたいと考えている. 的な直接負担(いわゆる真水)のほかにも,地方債,無利 この号の目次へ http://www.jterc.or.jp/kenkyusyo/product/tpsr/bn/no17.html 研究報告会 Vol.5 No.2 2002 Summer 運輸政策研究 095