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十九世紀アメリカ女性詩人たちの恋愛詩 下 村 伸 子

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十九世紀アメリカ女性詩人たちの恋愛詩 下 村 伸 子
33
十 九 世 紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ちの恋 愛 詩
一 サ ラ ・ ホ イ ッ トマ ン
、 オ ズ グ ッ ド、 ア リス&フ
ィ ー ビ ー ・ ケ ア リー 一
下 村 伸 子
1
1990年
代 に相 次 い で 出版 され た 十 九 世 紀 ア メ リカの 女 性 詩 人 の ア ン ソロジー
に よ り、 第 一 次 資 料 さえ殆 ど入 手 困 難 で あ った 詩 人 た ち の作 品 及 び伝 記 的事 項
が 明 らか に な り、 十 九 世 紀 ア メ リ カ で い か に 多 くの 女 性 詩 人 た ち が 出 版 し、 読
者 を 獲 得 し て き た か が 窺 い しれ る こ と と な っ た 。1十 九 世 紀 後 半 に 創 作 を 続 け
な が ら生 存 中 に 詩 集 を 出 版 す る こ と が な か っ た 詩 人 エ ミ リ ・デ ィ キ ン ス ン
(Emily Dickinson,1830-1856)と
こ れ ら女 性 詩 人 た ち の テ ク ス トを 女 性 の 創
作 の 規 範 と い う観 点 か ら比 較 す る と い う動 き は 早 く も1982年
が そ の 著 書 、The Nightingale's Burden:Women before 19002で
Poets and A merican Culture
試 み た こ と か ら始 ま っ て い た が 、 当 時 の 女 性 詩 人 た ち の い わ ば
登 竜 門 の 一 っ で あ っ たAtlantic (Thomas 、Cheryl Walker
Wentworth Monthly誌
Higginson)と
に 関 わ るT. W.ヒ
ギ ン ス ン
交 流 が あ った に も拘 わ らず、 詩 人 デ ィキ
ン ス ン が 出 版 に 至 らな か っ た 文 化 的 背 景 へ の 手 掛 か り を こ れ ら の ア ン ソ ロ ジ ー
は 提 供 し て く れ る こ と と な っ た 。 な お か っ これ ら女 性 詩 人 た ち が 、 感 傷 詩 人 と
本 稿 は2000年6月17日
に 開 催 さ れ た 日 本 エ ミ リ ・ デ ィ キ ン ス ン 学 会 第16回
全 国
大 会 の シ ン ポ ジ ウ ム 「デ ィ キ ン ス ン と 同 時 代 の ア メ リ カ 女 性 詩 人 た ち 」 の パ ネ リ ス ト
と して発 表 した 内 容 に加 筆 修 正 した もの で あ る。
1 イ ギ リス女 性詩 人 にっ いて も同 様 に こ の数 年 で 多 くの ア ン ソ ロ ジ ーが 出 版 さ れ た の
は周 知 の通 りで あ る。
2 The Nightingale's (Bloomington:Indiana Burden: Women UP,1982)以
Poets and American 下NBと
略 す る。
Culture before 1900
34 英文学論叢 第44号
して 一 蹴 され る に は あ た らな い文 化 価 値 を もっ こ とが 再 評 価 さ れ始 め る萌 しが
見 え つ つ あ る。1998年 出版 の 圧 巻 、Encyclopedia of American.Poetry:The
1>ineteenth Centuryで
は相 当 数 の 女 性 詩人 個 々 につ い て の 詳 細 に わ た る紹 介
と作 品 の評 価 が 掲 載 され た 。3
しか しな が ら歴 史 的経 緯 の なか で 「感 傷 的 」 と い う形 容 詞 を附 さ れ 、 そ れ故
に 時 代 の な か で 受 容 さ れ た 詩/テ
Walkerが
ク ス トに は 自 ず と 制 限 が あ る。Cheryl
自選 の ア ン ソ ロ ジ ー の序 文 で 、 女 性 詩 人 た ちが 男 性 批 評 家 と読 者 の
期 待 と許 容 の範 囲 内 と した創 作 の テ ー マを 幾 っ か に分 類 して い る の は注 目 に値
す る。 概 観 す る と、 まず 宗 教 的 慰 め や立 派 な行 いや 特 殊 な感 情 に対 して 贈 る も
の、 季 節 の折 々 の 自然 を テ ー マ とす る もの。 女 性 ら しい心 情 を 「宝 石 の言 語 」、
「花 の 言 語 」 で 表 現 す る もの 。 女 性 の 生 活 の 場 面 か ら離 れ て 異 国 の 人 物 、 地 名
を扱 う 「異 国 もの 」 と逆 に ア メ リカ 固有 の歴 史 、 地 理 、 英 雄 な どを 讃 え る 「本
国 もの」。 美 や 自 由 を 象 徴 す る羽 ば た く鳥 に語 りか け る と い う 「自 由な鳥 の詩」、
外 界 か ら保 護 され るべ き個 人 の聖 域 へ の憧 れ を表 現 す る 「聖 域 の 詩 」。 叶 わ ぬ
恋 愛 の挫 折 が語 られ る 「禁 断 の恋 の詩 」、 詩 人 が 禁 断 の 領 域 を 束 の 間 探 索 す る
とい う 「力 の 幻 想 」、 文 字 通 りに 「秘 密 の悲 しみ の詩 」 と い った よ うな 範 疇 を
Walkerは
示 して い る。4こ の分 類 は 「感傷 的」 の文 化 的意 味 を 憶 測 さ せ る に充
分 で あ るが 、 さ らに も う一 人 の ア ン ソ ロ ジー の編 者 、Paula Bennettの
言葉を
借 りて、 これ ら女 性 詩 人 た ち を読 む手 掛 か り と した い。 即 ち 、
こ こで の要 点 は、 多 くの 十 九 世 紀女 性 詩 が 「感 傷 的 」 で あ る と して も、
そ れ は そ う な の で あ るが 、 そ の 言 葉 が 意 味 す る もの と それ が個 々 の テキ ス
3 Eric L. Haralson ed., Encyclopedia Century(Chicago, 下EAPと
4 of American Dearborn Poetry The Nineteenth
Publishers,1998)passim.以
略 す る。
Cheryl Nineteenth xxvi.以
London:Fitzroy Walker, ed., "lntroduction," Century: An Anthology 下CWAと
略 す る 。 WalkerはNBで
American (New Brunswick: Women Rutgers Poets of the
UP, 1992) xxiv-
この範 疇 の幾 っ か を 原型 と した。
十九 世紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ち の恋 愛 詩 35
トあ る い は作 家 の全 作 品 の な か で ど の よ う に作 用 す るか は、 ま と め る に は
極 め て複 雑 、 か っ危 険 で さえ あ る。...十
九 世 紀 女 性 の 文 学 は、 小 説 も
詩 も一 っ の意 味 しか もた な い も ので も、 透 明 な もの で もな い。他 の個 人 的、
社 会 的 経 験 の芸 術 的記 号 化 の 複 雑 な もの と同様 、 ず れ や皮 肉 的逆 転 に然 る
べ き注 意 を払 って読 まれ る必 要 が あ る。5
詩 人 た ち の 個 々 の テ キ ス トの な か で 感 傷 的 で あ る こ と が 何 を 意 味 し、 ど の よ
う に 作 用 し て い る か を 考 察 す る た め に 、 小 論 で は 、 先 のWalkerの
範 疇 の複数
に 跨 が り、 感 傷 性 の 複 雑 さ が 最 も微 妙 に 描 出 して い る と 考 え られ る恋 愛 詩 を 採
り あ げ た い 。 こ の 時 代 ま で の 英 詩 の 伝 統 的 な 一 範 疇 と して ソ ネ ッ トや ソ ン グ の
主 題 と な り、 詩 人 た ち の 意 識 の な か に も読 者 に も 定 着 して い た 恋 愛 詩 は 十 九 世
紀 と い う枠 組 み の な か で 女 性 詩 人 た ち に 踏 襲 さ れ っ っ も一 人 ひ と りの テ ク ス ト
の 中 で 少 しず っ 変 容 さ れ て い る の で は な い か と 憶 測 さ れ る の で あ る。 単 行 本 、
当 時 編 集 さ れ た 女 性 詩 人 の ア ン ソ ロ ジ ー 、 新 聞 、 雑 誌 へ の 掲 載 を 含 め る と150
名 は く だ ら な い と さ れ る 詩 人 た ち をWalkerが
提 唱 す る よ う に 「初 期 国 民 派 」、
「ロ マ ン派 」、 「リア リス ト」、 そ し て 「モ ダ ニ ス ト」 と 分 類 す る こ と はWalker
自身 も認 め て い る よ う に 困 難 で あ ろ う が(CWA)、
最 近 の ア ン ソ ロ ジー を概 観
し て 数 名 の 詩 人 を 抽 出 し、 彼 女 た ち が 活 躍 して い た 時 期 、 詩 人 と して の 生 活 様
式 、 出 版 な ど の 観 点 か ら幾 っ か の グ ル ー プ に 分 け る こ と は 許 容 さ れ る で あ ろ う。
十 九 世 紀 の前 半 か ら中葉 に か け て 恋 愛 詩 を 書 い た最 初 の詩 人 達 と して、 同 時
期 の 文 芸 サ ロ ンで 活 躍 し た 次 の4人
ヘ レ ン ・ホ イ ッ トマ ン(Sarah オ ズ グ ッ ド(Frances Paula 1)oets: B. Bennett, ,1803-1878)と
フ ランシス ・
エ ドガ ー ・ア ラ ン ・ボ ー(Edgar
の 関 係 が 深 い こ とで 知 られ 、 ア リス ・ケ ア リ ー
(Alice Cary,1820-1871)と
5 Helen Whitman
Osgood,1811-1850)は
Allan Poe,1809-1849)と
は ボ ー 、 及 び1849年
の女 性 詩 人 を 挙 げ る こ とが で き る。 サ ラ ・
フ ィ ー ビ ー ・ケ ア リ ー(Phoebe にThe Female Poets of Americaを
"Introduction," An.4nthology(Oxford:Blackwell Nineteenth-Century P,1998)xxxix.以
Cary,1824-1871)
出版 した批 評 家 グ リ
American 下PBAと
Women
略 す る 。
36 英文学論叢 第44号
ス ウ ォ ル ド(Rufus 1893)に
Griswold)や
詩 人 ホ イ ッ テ ィ ア(John G. Whittier,1807-
支 援 さ れ た 。 男 性 批 評 家 の 評 価 、 読 者 か らの 受 容 を 最 重 視 しっ っ 創 作
し な け れ ば な ら な か っ た こ れ ら4人
の詩 人 の恋 愛 詩 を小 論 で は考 察 す る。
2
ロ ー ド ・ア イ ラ ン ド州 、 プ ロ ヴ ィ デ ン ス 出 身 の サ ラ ・ヘ レ ン ・ホ イ ッ トマ ン
は 結 婚 後 ボ ス ト ンで 暮 ら し、1829年
のAmerican Ladies' Magazine誌
に 『ヘ レ ン』 と い う 名 前 でJosepha Hale
に 最 初 の 詩 を 発 表 。 エ マ ソ ン、 ゲ ー テ、 シ ェ
リー 等 ロ マ ン 派 に っ い て の 評 論 も書 き始 あ た が 、1833年
に 夫 を亡 く して の ち
プ ロ ヴ ィ デ ン ス に 戻 り 詩 人 、 ジ ャ ー ナ リス ト と して 本 格 的 な執 筆 生 活 に は い り、
文 芸 サ ロ ンで も 人 気 を 博 して い た 。 ボ ー と は1848年
に 出会 い 、 婚 約 し た が 結
婚 に は 至 らず 、 ボ ー の 死 後 、Edgar A llan Poe and His Critics(1860)を
し て 彼 の 文 学 を 擁 護 し た こ と が 知 ら れ て い る 。 詩 集 は2冊
に 出 版 さ れ た(CWA と1879年
53-54)。
彼 女 の 詩 に は ボ ー に 賞 賛 を こ め て 贈 られ た"The "S
、1853年
出版
cience"や"To-"な
Raven"を
は じめ ソネ ッ ト
ど タ イ トル か ら ボ ー の 詩 を 意 識 し て 書 か れ た こ と が
わ か る も の が あ り、 そ の 影 響 の 多 大 さ も 指 摘 さ れ て き た 。6特 に 恋 愛 詩 の テ キ
ス トに は 模 倣 か 、 パ ロ デ ィ か と見 紛 う ほ ど にPoeの
く な っ た 後 の そ の 人 に 捧 げ ら れ た6篇
言葉 が響 いてい るが、 亡
の ソ ネ ッ ト"To-"は
考 察 に 価 す る。
IV
We met beneath
September's
gorgeous
Long in my house of life thy star
Its mournful
splendor
Nor with the night's
We wandered
6 "The "Morella"
trembled
phantasmal
thoughtfully
Raven"に
、"Ulalume"な
beams:
had reigned; —
through
glories
o'er golden
は ボ ー の "Raven"、"The my dreams,
waned.
meads
House ど へ の 言 及 が あ る 。 Cf. CWA of Usher"、"Ligeia"、
61.
十九世紀 アメ リカ女性詩人 たちの恋愛詩 37
To a lone woodland, lit by starry flowers,
Where a wild, solitary pathway leads
Through mouldering sepulchres and cypress bowers.
A dreamy sadness filled with autumnal air ;—
By a low, nameless grave I stood beside thee,
My heart according to thy murmured prayer
The full, sweet answers that my lips denied thee.
O mournful faith, on that dread altar sealed—
Sad dawn of love in realms of death revealed!
(WDC, 38)7
Lisa Carlは
、 こ の ソ ネ ッ トを ホ イ ッ トマ ンが 婚 約 の 破 棄 に よ り
「ボ ー を 拒
絶 し た こ とへ の 後 悔 」8を 述 べ た も の と 解 説 し て い る 。 冒 頭 の 「華 や か な光 線 」、
「あ な た の 星 」、 「黄 金 色 の 草 原 」、 「星 の よ う な 花 」 と い う こ と ば と
「悲 し み に
み ち た 輝 き」、 「夜 の 幻 の よ う な 栄 光 」、 「寂 し い 森 」、 「荒 れ た 、 寂 し い 道 」、 「朽
ち か け の 墓 」 と い っ た 表 現 に よ り明 暗 の 対 比 を 錯 綜 さ せ な が ら、 詩 の 語 り手 と
相 手 の 出 会 い か ら破 局 、 相 手 の 死 、 そ し て そ れ で も消 え な い 語 り 手 の 想 い が 、
秋 の き ら.一き っ っ は か な げ な 陽 光 の な か で の 二 人 の 散 歩 と い う 場 面 設 定 で 、 ソ
ネ ッ ト形 式 の 起 承 転 結 の 展 開 に 沿 っ て 暗 示 さ れ て い る。 ボ ー の こ と ば の 響 き は、
た と え ばBarbara Ryanが
指 摘 す る よ う に 、4行
目 と8行
目 に 顕 著 で あ る 。9
ボ ー へ の 哀 惜 と オ マ ー ジ ュ が こ の 一 連 の ソ ネ ッ トの 主 題 で あ る こ と は 否 め な い
で あ ろ う。 しか し"To-"と
7 Robert cゾTheir い う タ イ トル は ボ ー を 意 識 し て の み 附 さ れ た も
Bain ed., Whitman's & Dickinson's Verse(Carbondale:Southern 連 作 ソ ネ ッ ト は 以 下 の 書 で"Mrs. れ て い る 。Caroline Publishers, 8 Whitman's Poe'8 Sonnets Helen(New An Anthology
下WDCと
to Poe"と
略 す る。 こ の
い う章 に 掲 載 さ
York:Haskell House
1973) 140-143.
Lisa Car1, "Sarah 9 Barbara Ticknor, Contemporaries: Illinois UP)以
Ryan,"Sarah Helen Whitman," Helen WDC Whitman,"EAP 36.
496. Barbara Ryanは
ボ ー
か ら 影 響 を 受 け た こ と ば と 暗 く神 秘 的 な イ メ ー ジ で 彼 女 の 詩 の 傾 向 が 変 わ っ た こ と を
評 価 して い る 。
38 英文学論叢 第44号
の で あ ろ う か 。 連 作 ソ ネ ッ トの 一 番 目 に 戻 る 。
I
Vainly my heart had with thy sorceries striven:
It had no refuge from thy love,—no Heaven
But in thy fatal presence;—from afar
It owned thy power and trembled
like a star
O'erfraught with light and splendor. Could I deem
How dark a shadow should obscure its beam?—
Could I believe that pain could ever dwell
Where thy bright presence cast its blissful spell?
Thou wert my proud palladium;—could
I fear
The avenging Destinies when thou wert near?—
Thou wert my Destiny ;—thy song, thy fame,
The wild enchantments clustering round thy name,
Were my soul's heritage, its royal dower;
Its glory and its kingdom and its power!
(CWA 60)
ホ イ ッ トマ ンが ボ ー の 呪 縛 か ら逃 れ られ な い か の よ う に、 「私 の 心 は あ な た
の魔 術 に抗 お う と して 叶 わ ず 」 で 始 め られ、 語 り手 は 「あ な たか らの愛 の逃 げ
場 は な く、/あ
な た の 致 命 的 な存 在 に しか天 はな く」、 「私 の守 護 神 」、 「あ な た
の歌 、 あ な た の 名 声 」、 「私 の運 命 」 と相 手 の か っ て の 存 在 の ま ば ゆ い ば か りの
絶 対 性 を 強調 し続 けて い る。 語 り手 自身 は相 手 の輝 き にお い て の み存 在 す る こ
とが誇 示 され るが 、 女 性 に期 待 され た感 傷 的 な 態 度 と解 釈 す る前 に最 終3行
再 考 した い 。 押 韻 す る"dower"と"power"か
を
ら、 恋 人 が もは や不 在 と な っ
た 今、 そ の 「名 前 の ま わ りに群 が る狂 お しい魔 法 」 はす べ て 「遺 産 」 と して語
り手 の 「魂 の 力 」 とな った と述 べ るそ の調 子 は決 して弱 々 しい もの で はな い。
ま た6行 目 と10行
目 の 修 辞 疑 問 文 か ら も、 相 手 の 存 在 に 光 り よ り もむ しろ
「暗 い影 」 や お そ ろ しい 「復 讐 の運 命 の神 」 の気 配 が感 じ られ た こ と が 暗 示 さ
れ て い る ので は な い だ ろ うか 。Barbara Ryanの
評 は そ の点 を考 慮 に い れ て い
十 九世紀 アメ リカ女性詩人た ちの恋愛詩 39
る。
自 らを真 実 の な か の真 実 の 女 性 と描 きっ つ 、 ホ イ ッ トマ ン はそ れ で も読
者 に生 き て い る の は誰 で、 死 ん で い る の は誰 か、 誰 が ボ ー の死 後 の経 歴 の
責 任 を 担 って い る の か を読 者 に思 い 出 させ る。 彼 女 は 当時 の社 会 で通 用 し
て い た 「(男女)別
の領 分(the separate spheres")」 とい うイ デ オ ロ ギ ー
を 再 確 認 はす るれ ど も、 表 面 的 に は悲 しみ を表 現 す る こ とば で、 自 らが 優
位 に立 っ こ とを示 して い る。 (EAP 470)
1860、1870年
代 に ホ イ ッ ト マ ンが 以 前 よ り力 強 い 詩 を 書 き 、 詩 人 と し て も
ボ ー 研 究 家 と し て も評 価 が 高 ま っ た こ と を 鑑 み て も、 こ の テ ク ス ト は 、 ボ ー の
呪 縛 に と ら わ れ て い る の で は な く む し ろ 解 放 を も た らす 生 命 力 を 内 包 し、 そ の
後 の 彼 女 の 創 作 に 方 向 付 け を 与 え た と理 解 して よ い だ ろ う。 こ の 連 作 の6番
の 最 終2行
目
、"My soul shall meet thee and its Heaven forego/tiU God's great
love, on both, one hope, one Heaven bestow"(Tickner 143)か
ら も "To-"
と い う タ イ トル の ダ ッ シ ュ の 部 分 に 省 略 さ れ て い る の は ボ ー だ け で は な く彼 女
の 「魂 」 で も あ る と 考 え られ る 。 彼 女 が 以 後 ボ ー を 忘 れ た わ け で な か っ た こ と
は 、1870年
に も彼 へ の 哀 悼 を"The 年 に は 彼 の"Sonnet-To Science"を
Portrait"と
い う詩 に 書 き 、 さ ら に1877
思 い 出 さ せ る 一 篇 、"Science"を
書 いて
い る こ と か ら も窺 え る が 、 特 に 後 者 で は 彼 か ら の 影 響 を 、 女 性 詩 人 ら し い 感 傷
性 を 超 克 す る 術 に 変 え た と考 え ら れ る 。 サ ラ ・ホ イ ッ トマ ン は ボ ー の 詩 に と り
愚 か れ た よ う に 創 作 に 埋 没 し て い くな か で 、 彼 女 自 身 の 詩 人 と し て の 指 針 を 見
い 出 した の で あ る。
3
ボ ス ト ン に 生 ま れ 、14才
で 当 地 のJuvenile Miscellany誌
に最 初 の 作 品 を 発
表 した フ ラ ン シ ス ・オ ズ グ ッ ドは 、 夫 と イ ギ リス 滞 在 中 に 詩 集 を 出 版 し名 声 を
得 て 、 帰 国 後 ボ ー や グ リ ス ウ ォ ー ル ドに 認 め られ 、 文 芸 サ ロ ンで 活 躍 し、 短 い
人 生 を 閉 じ る前 に4冊
の詩 集 を 出版 した。 画 家 と の結 婚 、 離 婚 、 ボ ー との 関 係
40 英 文学論叢
第44号
な ど 当 時 と して は 自 由 な 女 性 と して 長 い 間 ボ ー 研 究 の 立 場 か ら紹 介 さ れ て き た 。
感 傷 的 な 詩 を 書 く女 性 詩 人 と し て 読 者 に 受 容 さ れ た よ う で あ る が 、Paula
Bennettは
、 彼 女 を 十 九 世 紀 の 女 性 詩 人 の な か で も 最 も捉 え が た い ひ と り で あ
る と解 説 して い る 。1993年
に新 た に草 稿 の 詩 が 見 っ か り、 ジ ェ ン ダ ー関 係 の
テ ー マ の 詩 で 、 控 え め で 従 順 と い う 当 時 の 女 性 像 に ふ さ わ し く な い と危 惧 さ れ
る 作 品 の 発 表 を 本 人 が 意 図 的 に控 え た と い う こ と が 報 告 さ れ て い る(PBA 61-
62)a
ゆ え に オ ズ グ ッ ドの 詩 の テ ー マ の な か で 時 代 の 女 性 詩 人 の 枠 と最 も 拮 抗 し て
い る の が 、Joanna Dobsonが
あ る。DobsonもEmily 表 現 が 以 後1890年
指 摘 して い る よ う に 「愛 と情 熱 の 領 域 」10な の で
Stipes Wattsも
性 的 情 熱 か ら愛 や 結 婚 へ の 絶 望 感 の
代 ま で み ら れ な い ほ ど 大 胆 で あ る と 述 べ て い る が 、11何 よ り
も 辛 辣 さ に 注 目 し た い 。 恋 愛 詩 の な か で も "He Bade Me Be Happy"や
"F
orgive and Forget"な
ど 語 り手 の 女 性 と相 手 の 男 性 と の 軽 妙 な 会 話 体 で 進
行 す る もの で は 、 女 性 は 弱 い 立 場 に い る よ う に み え な が ら、 相 手 の 台 詞 を 素 直
に 繰 り 返 す こ と で 巧 妙 に 反 撃 し、 従 順 さ 、 控 え 目 を 復 讐 の 手 段 と し て い る 。 前
述 の 、1993年
に 見 っ か っ た 原 稿 は、 恋 愛 終 焉 後 の 女 性 が 相 手 に 語 り か け る と
い う設 定 の も の が 多 い が 、 出 版 が は ば か ら れ た の も頷 け る ほ ど に 辛 辣 で あ る。
"Won't You Die&Be A Spirit"で
は 語 り手 は
、 肉 体 を もつ 相 手 を もは や 愛
す る こ と は で きず た だ 相 手 の 死 を 願 う 。
But now I hate to hear
you!
Go Away!
Just
think
how nice 'twould
be
To come & beam
10
Joanne Dobson, Dickinson and the Strategies
of Reticence: The Woman in
Nineteenth-Century
America (Bloomington:
Indiana UP, 1989) 33.
11 Dobson 33. Emily Stipes Watts, The Poetry of American
Women from 1632
to 1945 (Austin: U of Texas P, 1977) 106.
+)Lt*E7
Like a star about it 9 t trttgÃ
tz t opleg
41
my pillow
Or to seem
Avision-Ishould love
To love a dream!
(25-30, PBA 63)
本 心 を包 み 隠 さず 洩 した直 後 に最 終 連 で 「枕 元 に星 の よ うに」、 「幻 」、 「夢 を
愛 す る」 な ど故 意 に 女 性 ら しい言 葉 遣 い で相 手 の この 世 で の不在 を 求 めて い る。
当時 の社 会 な らで は の男 女 関 係 の ドラ マ を オ ズ グ ッ ドは展 開 し て い くが 、
"The Lady's Mistake"で
は語 り手 の 女 性 が 三 人 称 で男 性 の 身 体 上 の虚 偽 性 を
暴 露 しな が らス タ ンザ を追 う ご とに 「心 」 も 「愛 」 も 「財 産 」 も偽 りで あ った
と告 発 す る。4連 中 の最 終 連 を 引 用 す る と、
I had made up my mind to dispense
With a figure, hair, teeth, heart & sense
The calf I'd o'erlook were it ever so small
But to think that he is not — a count after all
That's not to be pardoned offence!
(PBA 64)
最 後 に 「伯 爵 で な い」 と男 性 が社 会 的 地位 を 偽 った こ とを 「許 され な い罪 」
とす る こ とで そ の 人 物 のす べ て を否 定 し たの で あ る が、 こ こで の 皮 肉 の対 象 は
男 性 で は な い 。 男 性 に誠 実 さば か りで な く地 位 も求 あ な け れ ば 自己 の存 在 が 危
う くな る女 性 に こそ 椰 楡 の鉾 先 は 向 け られ て い る の で あ る。1846年
の"The Lily's Delusion"を
A cold,
calm star
And smiled
Where,
look'd
採 りあ げ た い。
out of heaven,
upon a tranquil
pure as angel's
dream
A Lily lay but half awake.
lake,
at even,
の 『詩 集 』
42 英文学論 叢i第44号
The flower
felt that
fatal
smile
And lowlier bow'd her conscious head;
"Why does he gaze on me the while?"
The light,
deluded
Lily said.
Poor dreaming flower! — too soon beguiled,
She cast nor thought nor look elsewhere,
Else she had known the star but smiled
To see himself reflected there.
(PBA 65)
頭 韻 が 顕 著 で 、 第 一 連 は 美 し い 場 面 設 定 に 見 受 け られ る が 、 天 空 か ら 自 分 を
見 下 ろ して い る 「星 」 に 対 して 夢 見 心 地 の 「百 合 」 は 、 実 は 星 が 百 合 で は な く
湖 に写 る 自分 の 姿 を 見 っ め て い た と い う皮 肉 な ア レ ゴ リー に な っ て い る 。
Elizabeth Petrinoは
、 この詩 が 女 性 の詩 の伝 統 で あ る花 の こ と ば を 皮 肉 的 に
使 っ て い る こ と 、 及 び ボ ー の1827年
の"Evening Star"に
形 式 と感情 が近 い
こ と か ら も、 彼 の 裏 切 り へ の 抗 議 の っ も り で 書 か れ た と み な し て い る 。12第 三
連2行
目 の 「彼 女 は 他 の 所 に 考 え も 視 線 も投 げ か け な か っ た 」 に 「夢 見 る百 合 」
と して の 女 性 の 意 識 の な さ と や が て 「冷 た い 、 静 か な 星 」 の 「致 命 的 な 微 笑 み 」
に 破 滅 さ せ ら れ る 「女 性 の 最 終 的 運 命 」(Petrino,139)が
暗 示 さ れ て い る。
恋 愛 詩 と い う範 疇 か ら は 逸 脱 して い る か も しれ な い が 、 女 性 へ の 椰 楡 が 投 げ
か られ て い る テ ク ス ト と し て"The Daisy's Mistake"と
い う60行
の詩 が挙
げ られ る。 デ ィ キ ン ス ン の 「ひ な 菊 」 の ペ ル ソ ナ へ の 影 響 関 係 は 批 評 家 の 指 摘
を 侯 っ ま で も な い 。 「陽 光 」 と 「西 風 」 の 巧 み な 誘 惑 に 負 け て 春 と は い え 時 期
尚 早 に 「ひ な 菊 」 は 咲 き 、 悲 惨 な 最 後 を 迎 え る と い う筋 書 き 。"...Do /You had better be quiet, and wait your hour.,0"(33-35, う 「本 能 」 の 声 に 従 わ ず 、"What 12
a belle 1 shall be!"(38)と
not go!
PBA 66) と い
虚栄心 のままに
Elizabeth A. Petrino, Emily Dickinson and Her Contemporaries:
Women's
Verse in America,
1820-1885 (Hanover: UP of New England, 1998) 139.
十 九 世 紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ち の恋 愛 詩 43
地 上 に で て 、"Ah!had I courageously in my native bower!"(59-60)と
第3連
か ら5連
answer'd `no!'/Ihad now been safe
瀕 死 の 後 悔 の 声 で 幕 を 閉 じ る こ と に な る。
へ の 「ク ロ ッ カ ス 」、 「キ バ ナ ノ ク リ ン ザ ク ラ」、 「キ ン ポ ウ ゲ 」
な ど 成 熟 し た 女 性 を 象 徴 す る 花 々 へ の 競 争 心 を 煽 られ て い た こ と か ら も、 こ の
詩 が 、Petrinoも
指 摘 して い る よ う に 、 初 め て 社 交 界 に 出 る 娘 へ の 教 訓 と し て
母 親 が 聞 か せ る寓 話 で あ る と の 感 は 拭 え な い(Petrino 155)。
しか し テ ク ス ト
の 半 分 以 上 を 占 め る 、 男 性 中 心 社 会 を 象 徴 す る 「陽 光 」 と 「西 風 」 の 誘 惑 の こ
と ば に は 、Petrinoの
(Petrino 155)と
こ と ば を 借 り る と 「十 分 な 勇 敢 さ が な い か 怠 惰 す ぎ る 」
い う 「ひ な 菊 」 の 花 と して の 義 務 感 に も訴 え る もの が あ り 、
そ れ に 抗 う こ と の 困 難 さ も暗 示 さ れ て い る 。 即 ち オ ズ グ ッ ドは 読 者 か ら受 容 さ
れ る範 囲 内 で 、 女 性 の お か れ た 苦 境 を 表 現 して い る の で あ る 。
オ ズ グ ッ ドの ひ な 菊 は デ ィ キ ン ス ンの そ れ の よ う な 「伝 統 的 な 女 性 ら し さ の
概 念 に 反 発 す る 」(Petrino 156)ペ
ル ソ ナで は な いが 、 不 実 の恋 人 に別 れ を 宣
言 す る"Yes, Lower to the Level"(CWA 132-133)な
どの 後年 の詩 で の女 性
の 語 り手 の こ と ば は 、 女 性 ら し さ の 仮 面 を っ け な が ら も 「ほ とん ど 反 抗 して い
る」 とAlicia Ostrikerも
ら書 く よ う に 」(CWA 認 め る 複 雑 さ を 帯 び て く る。13男 性 批 評 家 か ら 「心 か
133)と
の 批 判 を 受 け て 書 か れ た"Ah!Woman Stil1"
で オ ズ グ ッ ドの 反 論 は 静 詫 を 湛 え て い る 。
Ah! woman still
Must veil the shrine,
Where feeling feeds the fire divine,
Nor sing at will,
Untaught by art,
The music prison'd in her heart!
(1-6, CWA 133)
13
Alicia Suskin Ostriker, Stealing the Language:
The Emergency
Poetry in America (Boston: Beacon P, 1986) 37.
of Women's
44 英 文学論叢
第44号
オ ズ グ ッ ドは、 読者 受 容 と 自 らの 内 面 の 「神 聖 な炎 」 の 間 で 葛 藤 しっ っ、 女
性 詩 人 の 表 現 の 可 能 性 を 恋愛 詩 の テ ク ス トに探 り、 そ の 限 界 を 知 る こ と にな っ
た と考 え られ る。
4
ア リス ・ケ ア リー はOhio州Mount Healthyの
と共 に 殆 ど 独 学 で 文 学 に 志 した 。1830年
れ た の が き っ か け で 、1849年
Americaに
農 家 に 生 ま れ 、 妹 フ ィー ビー
代 後 半 に 最 初 の詩 が 地 方 紙 に掲 載 さ
、 グ リ ス ウ ォ ル ド編 集 のThe Female Poets of
若 い 詩 人 と して 掲 載 さ れ る こ と と な っ た 。 そ の う ち の 一 篇 、
"Pictures of Memory"が
ボ ー に認 め られ
、 グ リ ス ウ ォ ル ドや 詩 人 ホ イ ッ テ ィ
ア の 援 助 を 得 て 、 翌 年 ニ ュ ー ヨ ー ク に 移 り 、 妹 と共 に 生 涯 独 身 で 、 万 人 救 済 論
者 、 奴 隷 制 度 廃 止 論 者 、 女 性 解 放 運 動 家 と い っ た 立 場 を 維 持 しな が ら 文 筆 活 動
で 生 計 を 立 て た 。 田 園 生 活 の 物 語 の 作 家 と し て 名 を 残 した が 、 当 時 は感 傷 的 な
詩 を 書 く女 性 詩 人 と して 高 い 人 気 を 博 し、 生 前 に3朋
さ れ た(CWA 、 死 後3冊
の 詩 集 が 出版
168-69)。
姉 妹 の 詩 を 十 九 世 紀 ア メ リカの
置 付 け るSteven Olsonは
「大 草 原 の 詩(prairie verse)」
の伝 統 に 位
ア リスの 関 心 が 大 草 原 の辺 境 で の 現 実 と限 界 に直 面
す る 「女 性 の 姿 」14に あ る と 述 べ て い る が 、 彼 女 の 詩 に は 辺 境 の 地 で 夫 や 恋 人
を 待 っ 女 性 の 悲 し い 運 命 を 語 る バ ラ ッ ドが た し か に 多 い 。 恋 人 へ の 思 い を 女 性
ら し く感 傷 的 に 述 べ る も の も あ る が 、 愛 の 不 在 か ら く る 女 性 に と っ て 悲 し い 状
況 と い う の が こ の 詩 人 の 得 意 と す る と こ ろ で あ ろ う 。Dobsonが
げ て い る"The Bridal Veil"は
既 婚 の 語 り手 が 、 「花 嫁 の ヴ ェ ー ル 」 の 下 の 真
実 を 夫 に 対 し て 告 白 す る と い う場 面 設 定 で あ る(Dobson 14
Steven
(Norman:
Olson,
The Prairie
U of Oklahoma
佳 作 と して あ
in
Nineteenth-Century
P, 1994) 79-82.
39)。
American
Poetry
十 九 世 紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ち の恋 愛 詩 45
Nay, call me not cruel,
I am yours
and fear not to take me,
for my life-time,
To wear my white
to be what
you make me,—
veil for a sign, or a cover,
As you shall be proven
my lord,
A cover for peace that
is dead, or a token
Of bliss that
be written
can never
or my lover;
or spoken.
(第4連
、CWA こ の 厳 し い 口 調 の 最 終 連 に 至 る ま で に 語 り 手 は"Ihave down and hid under my veil:"(13)と
184)
wings flattened
自分 の 心 が 夫 に 全 く支 配 さ れ る こ と の
な い 自 由 な もの で あ る こ と を述 べ て きた 。 愛 の な い結 婚 を 余 儀 無 くせ ざ る をえ
な か っ た 当 時 の 女 性 の ペ ル ソ ナ は 、 「心 か ら ほ と ば し る 悲 し み 以 上 に 、 詩 に お
け る 実 験 の よ う な も の 」(Petrino 28)を
書 い た と ケ ア リー を 非 難 した 男 性 批
評 家 に 対 す る ケ ア リ ー 自 身 の ペ ル ソ ナ で あ る と も 考 え られ な い だ ろ う か 。
1855年
の 『詩 集 』 が 出 版 さ れ た と き 、 女 性 詩 人 に は 厳 し い 批 評 を 差 し 控 え
る と い っ た1840,50年
代 の 傾 向 もあ って、 賞 賛 も受 け た が 、 幾 っ か の 書 評 は
か な り厳 しか っ た と 言 わ れ る 。 例 え ばPutnum誌
の 書 評 は 、 「141篇 の う ち70
篇 近 く が 、 恋 人 の 不 実 の せ い で 死 ぬ と い う終 わ り方 を し て い る か 、 死 へ の 願 望
を 表 現 して 終 わ っ て い る 。 そ して 残 り の 作 品 の 殆 ど す べ て が 憂 諺 な 感 情 を 示 し
て い る」15と い う酷 評 で あ っ た 。 感 情 の 憂 諺 さ が 時 代 の 女 性 の 姿 を 反 映 し て い
る も の な の か 、 詩 人 個 人 の 精 神 の あ り よ うか ら く る も の な の か の 判 断 は 難 し い
が 、 詩 集 の 出 版 を10年
間 控 え る こ と で 、 ア リス ・ケ ア リ ー は 、 よ り成 熟 し た
ペ ル ソ ナ を テ ク ス トに 登 場 さ せ る こ と が で き た 。 厳 密 に は 恋 愛 詩 と は 言 え な い
か も しれ な い が 、 ミ ュ ー ズ や 孤 独 に 恋 人 へ の よ う に 語 り か け る 詩 が 彼 女 に と っ
て の 恋 愛 詩 の 役 割 を 果 た す こ と に な っ た と 考 え ら れ る 。"To The Spirit of
Song"は1865年
の 詩 集 の 巻 頭 に 載 せ られ た もの で"Apology"と
附 され て い る。
15
Jonathan
Hall,
"Alice
Cary,
Phoebe
Cary,"
EAP
66.
い う副 題 が
46 英文学論叢
第44号
O ever true and comfortable
mate,
For whom my love outwore the fleeting red
Of my young cheeks, nor did one jot abate,
I pray thee now, as by a dying bed,
Wait yet a little longer! Hear me tell
How much my will transcends
my feeble powers:
(1-6)"
男 性 の ミュ ー ズ へ の 語 り か け は 女 性 の 詩 の ひ と っ の 伝 統 的 形 式 で あ り、 ケ ア
リ ー は 同 じ タ イ トル の 詩 を1852年
に も発 表 し て い る 。Jonathan Hallの
指摘
の 通 り、 初 期 の そ の 詩 で は 男 性 の ミ ュ ー ズ は 若 くて 、 男 性 的 で 暗 い 恋 人 の よ う
だ っ た の が 、1865年
の 方 で は 冒 頭 数 行 か ら も ミ ュ ー ズ がrよ
よ う な 関 係 に 変 化 し て い る 」(EAP 67)と
思 わ れ る。 全 体 の 表 現 は 感 情 が 抑 制
さ れ て い て 、"Sweet master, mending, as we go along,/My with a thread of song,"((16-17)な
して い る 。 しか し最 後 の2行
homely fortunes
ど女 性 詩 人 に 期 待 さ れ る慎 ま し さ が 表 出
、"...Iknow price I would have thee mine."で
り親 しい、 夫 の
what I resign,/But at that great
は 恋 人 を 獲 得 す る比 喩 で 創 作 意 欲 を 言 明 し
て い る 。 ミュ ー ズ だ け で な く抽 象 観 念 を 擬 人 化 して 語 りか け る と い う の も伝 統
の 一 っ で あ る が 、 「孤 独 」 を 恋 人 と し て 人 生 の 疲 れ を 癒 す こ と を 求 め る"To
Solitude"は
異 形 の 恋 愛 詩 だ と 考 え ら れ る。
1 am weary of the working.
Weary of the long day's heat;
To thy comfortable bosom,
Wilt thou take me, spirit sweet? (1-4)
16 Mary Memoir(ゾ
Clemmer 餓eかLε
ed., The Poetical りεs(New 題 の あ と[Prefacing 1865]と
Clemmer Houghton, York:Hurd of Alice and Phoebe これ に は副
ツr`C8, an(1耳yπLπ8 P召 わZ`Sんε(i in
発 表 の 同 題 の 詩 は 以 下 の 詩 集 参 照 。Mary
and Late Poems Mifflin and Company; Cary, with a
and Houghton,1877)92。
the Volume(≧/BαZZα(1S,五
付 加 さ れ て い る 。 尚1852年
ed., Early Works of Alice and Phoebe Cambridge: The Riverside Cary (Boston:
P, 1887) 186-87.
十 九 世 紀 ア メ リカ女 性詩 人 た ちの 恋 愛詩 47
I am weary of the trusting
Where my trusts but torments
prove:
Wilt thou keep faith with me? Wilt thou
Be my true and tender love? (13-16)
Give thy birds to sing me sonnets?
Give thy winds my cheeks to kiss?
And thy mossy rocks to stand for
The memorials
of our bliss
I in reverence will hold thee,
Never vexed with jealous ills,
Though thy wild and wimpling waters
Wind about a thousand hills.
(21-28, CWA 174-75)
20行 目で"our"と
い うの は もち ろ ん 孤 独 と語 り手 な の で あ るが 、 失 っ た か
っ て の恋 人 を 暗示 して恋 愛 詩 の雰 囲気 を 醸 し出 して い る。 そ して 最後 の2行 が
示 す 孤 独 な世 界 の荒 涼 と した風 景 を 自 ら の も の と して抱 え て い くこ とを、w音
の頭 韻 を響 か せ な が ら、 恋 人 に訴 え か け る よ う に語 りか け る語 り手 は、感 傷 的
で は あ って も成 熟 した ペ ル ソナ とな って い る。
5
フ ィ ー ビ ー ・ケ ア リー は14才
で 最 初 の 詩 集 を 出 版 し、 姉 に一 年 遅 れ て ニ ュ ー
ヨ ー ク に 出 た 。 姉 と 共 に 催 した 「日 曜 日 の 夕 べ 」 の サ ロ ン は 有 名 で 、 作 家 、 詩
人 、 ジ ャ ー ナ リ ス ト、 女 性 解 放 運 動 家 た ち が 集 ま っ た 。 詩 の 傾 向 と して は 、 方
言 や 会 話 体 を 実 験 的 に 用 い た バ ラ ッ ドや 宗 教 詩 、 恋 愛 詩 の 他 、 パ ロ デ ィ を 多 く
書 い た こ と で 知 られ て い る 。 彼 女 の パ ロ デ ィ の 対 象 と な っ た の は シ ェ イ ク ス ピ
ア、 ワ ー ズ ワ ー ス 、 ボ ー 、 ロ ン グ フ ェ ロ ー 、 ウ ィ リア ム ・ブ ラ イ ア ン ト、 フ ェ
リ シ ア ・ ヒ ー マ ン ズ な ど で あ る 。 彼 女 の パ ロ デ ィ へ のGraham誌
の批 評 は、
48 英文学論叢 第44号
「す べ て の 詩 歌 の な か で こ れ ら は 感 傷 的 な 女 性 が ユ ー モ ア の 練 習 に 選 ぶ と は 想
像 しが た い も の 」(EPA 68)と
い う こ とで あ った が、
Jonathan Hallに
よ ると
彼 女 が 問 題 に し た の は ま さ に そ の 「感 傷 的 な 女 性 の 定 義 」(EPA 68)で
あ った 。
ジ ェ ン ダ ー 意 識 は 、 他 の 詩 人 た ち と 同 様 に 恋 愛 詩 の な か に よ り深 く反 映 さ れ て
い る。
"We are face to face, and between us here / ls the love we thought could
never die;/Why has it only lived a year?/Who I?"1?で 始 ま る"Dead Love"は
has murdered it-you or
かっ て の 恋 人 同 士 が 失 っ た愛 を 自分 た ち が 殺
した屍 と して検 死 の うえ、 罪 の意 識 を も って 哀 悼 す る こと を呼 び か け る と い う
辛 辣 な もの。
And, since we cannot
By mourning
Let us draw
lesssen
the sin
over the deed we did,
the winding-sheet
Aye, up till the death-blind
up to the chin,
eyes are hid!
(第9連)
こ の 詩 と、 も う一 篇
「寂 しい 海 辺 に 」 い る 語 り手 が 一 人 で 不 在 の 相 手 を 思 い
な が ら 毅 然 と 立 っ"Alas"(Clemmer Clemmerに
169)は
、 姉 妹 の詩 を死 後 出版 した
よ っ て 「情 熱 、 悲 哀 と や さ し さ が 結 合 し た も の 」(Clemmer 169)
と し て 絶 賛 さ れ た 。 フ ィ ー ビ ー ・ケ ア リ ー の 場 合 も女 性 が 書 い て 受 容 さ れ る 範
囲 の 限 界 の と こ ろ ま で 、 想 定 さ れ う る 感 情 と ド ラ マ を 展 開 さ せ て い る と考 え ら
れ る が 、 恋 愛 の 行 方 を 直 視 しな が ら も 、 「経 帷 子(winding-sheet)」
を目の と
こ ろ ま で 引 き上 げ 、 「あ あ 」 と感 嘆 す る語 り手 は 、 女 性 の 領 域 を 越 え よ う と し
て 躊 躇 す る詩 人 の ペ ル ソ ナ で あ ろ う。
こ の ペ ル ソ ナ が 躊 躇 を 捨 て る 一 篇 が 、"Do You Blame Her?"(Clemmer
17
Mary Clemmer ed., A Memorial
of Alice and Phoebe Cary,
Their Later Poems (Boston: Houghton, Mifflin and Company,
with Some of
1898) 167.
十九世紀 アメ リカ女性詩人 たちの恋愛詩 49
307-308)で
あ ろ う。 こ の 詩 は 恋 人 を 拒 絶 す る 語 り手 の 言 い 訳 が11連
に亘 っ て
述 べ られ る も ので あ る。
Sadly
of absence
And timid
poets
lovers
sing,
fear it;
But an idol has been worshiped
Sometimes
when we came
less
too near it.
(第7連)
自分 自身 を 詩 人 た ち の仲 間 と はみ な さず に、 語 り手 は恋 人 に 「否 」 と言 い、
距 離 を保 っ こ とで 得 られ る か も しれ な い もの、"a queen's obtaining"に
を馳 せ、 遂 に は、"Imight dream like a fond romancer,"と
思い
恋 愛 を拒絶 す る
こと で 「甘 い夢 想 家 」 とな る こ とを 選 択 す る。 これ は詩 人 の ペ ル ソナ の女 性 の
枠 へ の精 一 杯 の挑 戦 で あ った と考 え られ る。
以 上 、 十 九 世 紀 前 半 か ら半 ば に か けて 文 芸 サ ロ ンで 活 躍 した4人 の 女 性 詩 人
の恋 愛 詩 の 片 鱗 を概 観 した が、 各 々 の詩 人 が 、 読 者 及 び批 評 家 の受 容 を求 め、
感 傷 的女 性 詩 人 へ の期 待 に応 え な が らも、 詩 人 と して の別 の可 能 性 を も追 求 し
た こ とが 理 解 され る。 ペ ル ソナ が女 性 と詩 人 の狭 間 で拮 抗 す る と き、 テ クス ト
は感 傷 性 を 湛 えっ っ も、 恋 愛 の拒 絶 、 放 棄 の方 向 に傾 斜 して い くよ うで あ る。
恋 愛 詩 の 範 疇 の な か で恋 愛 放 棄 の詩 、 反 恋 愛 詩 とで も呼 ぶ べ き もの が ア メ リカ
の女 性 詩 人 た ち の 間 で模 索 され続 け た と推 察 さ れて な らな い。 そ れ が デ ィキ ン
ス ンを は じめ と して十 九 世 紀 後 半 か ら現 代 詩 へ と引 き継 が れ て い く女 性 詩 人 た
ち の新 た な 試 み の土 壌 とな った と考 え られ る の で あ る。
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