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若者に対する効果的な消費者啓発に関する調査研究 報告書
若者に対する効果的な消費者啓発に関する調査研究 報告書 ~大学生とともにアンケート調査や事例検討・意見交流を行い 若者に対する効果的な啓発方法を研究しました~ 平成21年3月 京都府消費生活安全センター 目 次 1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.今回の調査研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 3.実施期間 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 4.若者の消費生活相談の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 5.アンケート調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 6.カードによる発想法を使った事例検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 7.消費生活相談員等と学生の意見交流 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 8.大学生が考える消費者啓発について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 9.若者への効果的な啓発についての考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 1 はじめに 京都府消費生活安全センターには、20才代以下の若者から年間約2000件の相談が寄せ られており、その数は全相談件数の約4分の1と年代別では最も多くなっている。また、マル チ商法やキャッチセールス、理美容に関する相談の約半数を若者が占め、特に若者のマルチ商 法に関する相談件数は、毎年100件程度と高水準で推移するなど、若者に対する消費者啓発 は特に重要な課題となっている。 今回は、龍谷大学経済学部松浦さと子准教授にご指導いただきながら、同大学の大学生18 名の協力を得て同じ若者の視点から、契約に至った要因等について分析するとともに、悪質商 法に関する知識や各種情報源の実態を把握し、若者の特質や生活実態にあわせた効果的な啓発 手法について研究した。 2 今回の調査研究の概要 当センターに寄せられた相談事例をもとに、被害者が契約に至った心理的な要因等について 若者の視点で分析するとともに、併せて大学生の消費生活に関する意識や情報収集方法につい てアンケート調査を実施し「なぜ契約してしまったか。」「どうしたら被害を防げるか。 」を中心 に研究。これらの結果を踏まえ若者が受け入れやすく契約の当事者意識を持てる効果的な啓発 方法について検討した。 大学生へのアンケート カードによる発想法を利用した事例分析 調査 悪質商法に関する知識や各 大学生の協力を得て若者の視点から既に寄せ 種情報源、消費生活相談窓 られた相談事例を検討、併せて意見交流を行う 口の認知度等の実態を明ら ことにより契約に関する若者の意識や行動に かにする。 ついて分析・研究する 若者の被害を未然に防ぐため、若者に受け入れやすく 効果的な啓発方法について検討 1 3 実施期間 平成20年10月~平成21年 3 月 4 若者の消費生活相談の現状 (1)平成19年度の概況 平成19年度に当センターに寄せられた若者(契約当事者が20才代以下)の相談は 1,989 件と、前年度(1,724 件)より 15%増加した。若者の相談は、架空・不当請求の相談が多かった平 成16年度をピークに減少していたが、平成19年度は増加に転じた。なお、架空・不当請求 を除く相談件数も平成15年度から減少傾向にあったが平成19年度は増加に転じた。【図1】 若者に多い相談は、1位が架空・不当請求(通信関連・商品一般)(793 件)、2位が不動産貸 借(149 件)、3位がサラ金・ヤミ金(132 件)であった。若者の割合が多い相談は「無料エステの 広告を見て行った店で高額なエステを勧められ契約してしまった。 」などという理美容(68%) の相談、 「英会話教室と解約し返金額についても合意したが、1ヶ月たっても返金がない」など という教室・講座(42%)の相談、 「退去時に敷金が返金されない。 」などという不動産貸借(36%) である。販売購入形態別でみると、通信販売が半数を占めている。これは有料サイトの利用料 等の架空・不当請求の相談が多いためである。次いで、店舗購入、訪問販売、マルチ商法とな っている。 【図2】マルチ商法の全相談件数の 44%を若者が占めており、他の販売方法(通信販 売:32%、店舗購入:21%、訪問販売 16%)と比べ占める割合が高い。【図3】 【図1】若者の相談件数の推移 【図2】若者の販売購入形態別割合(19年度) 件 5,000 ネガティブ その他無店 舗 オプション 1% 電話勧誘 0% 若者の相談件数 4,000 販売 2% 架空・不当請求を除いた件数 不明等 7% 店舗購入 30% マルチ商法 5% 3,000 2,000 訪問販売 6% 1,000 0 平成15年度 平成16年度 平成17年度 平成18年度 平成19年度 2 通信販売 49% 【図3】年代別マルチ商法の相談件数(19年度) 70才以上 6% 不明 2% 60才代 8% 相談事例 20才代 以下 44% 友人に「何もしなくても儲かる」と言われ インターネット端末のマルチ商法の会員と なったが、儲からないので解約したい。 50才代 11% バイト先の友人に「パソコンでクリックす るだけで儲かる」と言われ競馬情報ソフト 40才代 16% のマルチ商法の会員となった。勧誘ができ ず借金だけが残ってしまった。 30才代 13% また、携帯電話関係の相談(1,262 件)のうち 44%を若者の相談が占めた。これは携帯電話を利用 した有料サイトの利用料等の架空・不当請求の相談が多いためである。 【図4】年代別携帯電話が関係する相談(19年度) 60才代 70才以上 1% 3% 相談事例 携帯電話で無料の出会い系サイトに登録し 50才代 9% 40才代 16% 20才代以下 44% たところ、無断で他の出会い系サイトに同 時登録され、利用料を請求されて振り込ん でしまった。追加請求され困っている。 30才代 27% 若者の相談のうち 19%を未成年の相談が占め、前年度に比べて 23%増加した。未成年の相談の 62%が架空・不当請求の相談であった。携帯電話やパソコンのインターネットを利用して出会い 系サイトやアダルトサイトに接触しトラブルに巻き込まれる事例が多い。成人向けサービスを 利用した場合以外にも、占いサイトや無料ゲームなど無料のサービスを利用していてトラブル に巻き込まれるケースも見られる。 (2)若者に特徴的な相談 若者の代表的な消費者トラブルであるキャッチセールス、マルチ商法についてみると、キャ ッチセールスの相談は近年大幅に減少している。一方マルチ商法の相談は年間100件前後と 高水準で推移している。マルチ商法では、友人間の信頼関係を利用して、巧妙な手口で社会経 験の少ない若者を勧誘する事例が多く見られる。 3 【表1】若者に多い相談(過去5年間) *複数集計 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 架空・不当請求 1,643 3,330 990 700 793 サラ金・ヤミ金 236 182 194 172 132 不動産貸借 119 166 136 99 149 理美容 72 56 66 47 58 マルチ商法 97 111 101 89 91 キャッチセールス 69 45 52 24 19 過去5年間に若者から寄せられたマルチ商法の相談は489件と、全年代1,006件の約 半数を占めた。商品・役務別についてみると、パソコン機器等が1位となっておりインターネ ット端末等パソコンやネット関連の商品を扱うマルチ商法に関する相談が最も多くなっている。 続いてカタログ販売の内職などの「内職・副業」、健康食品と続く。なお、30代以上では、健 康食品が最も多くなっており続いてパソコン機器等、化粧品となっている。 【表2】マルチ商法の相談に関する商品・役務(過去5年間計) 若 者 (参考)30代以上 1位 パソコン機器等 健康食品 2位 内職・副業 パソコン機器等 3位 健康食品 化粧品 4位 化粧品 食器・台所用品 5位 洋装下着(補正下着) 内職・副業 契約金額についてみると10万円から50万円が 53%、50万円から100万円が 33%で高 額な契約が多くなっている。【図5】 【図5】契約金額(20才代以下マルチ商法) 五百万円未 満 6% また、支払方法についてみると、クレジットと借 十万円未満 8% 金契約を利用して支払った人が 58%となってい る。これは、マルチ商法の勧誘で、「月に○○円 くらいならすぐに取り戻せる。 」 「ローンで返せば よい。」など簡単に儲かるような説明をして長期 百万円未満 33% ローンを組ませたり、消費者金融に誘導して借金 をさせるなど、収入の少ない若者に安易な契約を 五十万円未 満 53% させる手口が多いことを表していると考えられ る。【図6】 4 【図 6】支払方法(20才代以下マルチ商法) その他信 用販売 2% 個品割賦 44% 借金契約 12% 【図7】支払方法(20才代以下全体) その他信 用販売 1% 無(現金・ 前払) 41% 借金契約 7% 90%はサラ金等の 相談 個品割賦 10% 無(現金・ 前払) 82% 総合割賦 1% (3)まとめ 過去5年間、当センターの相談の 21%~32%を若者が占めている。また、若者に多い相談内 容は、架空・不当請求、サラ金等、不動産貸借で変わっていない。マルチ商法等で社会経験の 乏しい若者を巧妙な手口で勧誘するトラブルが依然として多く、信頼している友人や先輩、高 校や中学の同級生などから勧誘され、また、信じていた人に裏切られたり、誘った知人から責 められるといった経験から、消費者トラブルが解決できても精神的なダメージが残る例が少な くない。さらに、クレジットや借金で契約したことがきっかけで多重債務者の道をたどるケー スもある。 5 5 アンケート調査 悪質商法に関する知識や各種情報源、消費生活相談窓口の認知度について、大学生302 名にアンケート調査を行った。 (1) アンケート調査項目 ①個人の属性 ②消費生活に関する知識 ③日常生活の情報源 ④学校から発信される情報 ⑤悪質商法の体験 ⑥消費者センターの認知 ⑦消費者教育を受ける機会 (2) アンケート実施期間 平成20年10月下旬~11月中旬 (3) アンケート対象 大学1年生~大学院生 302名(授業等で直接配布して回収) (4) ア 内容 回答者の属性 回答者の性別は、男性が45%、女性が53%で若干女性の割合が高い。 回答者の学年は2年生が45%で最も多く、次に1年生が42%となっている。回答者 の住居形態は、家族との同居が67%で3分の2を占め、一人暮らしが28%である。 【図8】性別 【図9】学年 院生等 1% 無回答 2% 無回答 1% 3年生 11% 1年生 42% 男性 45% 女性 53% 2年生 45% 6 【図10】住居形態 その他 2% 無回答 3% 一人暮らし 28% 家族と同居 67% イ 消費生活に関する知識 クーリングオフ、マルチ商法、デート商法、ワンクリック詐欺、キャッチセールス、当 選商法、点検商法について「①言葉を知っているか②内容を知っているか」質問した。 クーリング・オフ クーリング・オフ制度とは、消費者が契約してしまった後で冷静に考え直す時間を与え、一定期間 であれば、無条件で契約を解除できる制度。クーリング・オフできる取引は法律や約款などに定め がある場合に限られる。 マルチ商法 商品等の販売員となり、購入した商品等を販売して、その人を新たに販売員に勧誘し、さらに販売 員をそれぞれが増やすことによってマージンが入るとうたう商法。 ※本調査研究では、大きなコミッション・収入を勧誘時の誘引材料としつつ、高額な商品の購入等 の負担を求めたり、購入する商品やサービスの実態のない連鎖販売取引をさす。 デート商法 出会い系サイトや間違い電話・メールを送りつけ出会いの機会を作り、デートを装って契約させる商 法。異性間の感情を利用し、断りにくい状況で勧誘し、契約を迫る。契約後、クーリング・オフ期間 が過ぎると連絡が取れなくなるケースが多い。 ワンクリック詐欺(ワンクリック不正請求) サイト上で画像表示や申込みのボタン等をクリックすると、画像のかわりに不正な請求書を表示す る。 キャッチセールス 駅や繁華街の路上でアンケート調査などと称して呼び止め、営業所に連れて行き、不安をあおるよ うなことを言って、商品やサービスを契約させる。 当選商法 「当選した」「景品が当たった」「あなただけ選ばれた」など特別扱いであるように思わせて契約させ る。 点検商法 点検をするといって家に上がり込み「布団にダニがいる」「シロアリの被害がある」などと不安をあお って、新品や別の商品やサービスを契約させる。 【2009年版くらしの豆知識(国民生活センター)、国民生活センターホームページより】 7 【図11】消費生活に関する知識 0% 20% 40% 60% 80% 100% クーリングオフ【言葉】 クーリングオフ【内容】 マルチ商法【言葉】 マルチ商法【内容】 デート商法【言葉】 デート商法【内容】 ワンクリック詐欺【言葉】 ワンクリック詐欺【内容】 キャッチセールス【言葉】 キャッチセールス【内容】 当選商法【言葉】 当選商法【内容】 点検商法【言葉】 点検商法【内容】 はい なんとなく いいえ クーリングオフ、マルチ商法、キャッチセールスという言葉は、90%以上の学生が知っている とした。クーリングオフとキャッチセールスは 70%以上の学生が内容も知っているとしたが、 マルチ商法は、内容も知っているとした学生は 54%だった。 ワンクリック詐欺という言葉は 83%が知っており、内容は 64%が知っていた。 デート商法、当選商法、点検商法という言葉は 45~66%の学生が知っていた。内容も知って いるとした学生は 33~48%でありこれらの商法の認知度は比較的低い。 マルチ商法は、「言葉は知っているが内容ははっきりわからない。」学生が比較的多いと言え る。 8 【図12】学年と知識(内容を知っているとした割合) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% クーリングオフ【1年生】 クーリングオフ【2年生】 クーリングオフ【3年生】 マルチ商法【1年生】 マルチ商法【2年生】 マルチ商法【3年生】 デート商法【1年生】 デート商法【2年生】 デート商法【3年生】 ワンクリック詐欺【1年生】 ワンクリック詐欺【2年生】 ワンクリック詐欺【3年生】 キャッチセールス【1年生】 キャッチセールス【2年生】 キャッチセールス【3年生】 当選商法【1年生】 当選商法【2年生】 当選商法【3年生】 点検商法【1年生】 点検商法【2年生】 点検商法【3年生】 はい なんとなく いいえ 学年による消費生活に関する知識の差は少なかった。これは、大学生との意見交流において「高 校の家庭科の授業で学んだことは記憶に残っている。」「大学では消費生活に関する知識を得る 機会があまりない。 」という意見が多かった(p33参照)ことを裏付けるものであり、在学中 における消費者教育の充実が望まれる。 【図13】住居形態と知識(内容を知っているとした割合) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% クーリングオフ【家族と同居】 クーリングオフ【一人暮らし】 マルチ商法【家族と同居】 マルチ商法【一人暮らし】 デート商法【家族と同居】 デート商法【一人暮らし】 ワンクリック詐欺【家族と同居】 ワンクリック詐欺【一人暮らし】 キャッチセールス【家族と同居】 キャッチセールス【一人暮らし】 当選商法【家族と同居】 当選商法【一人暮らし】 点検商法【家族と同居】 点検商法【一人暮らし】 はい なんとなく 9 いいえ 90% 100% 住居形態による消費生活に関する知識の差は少なく、消費生活問題に関しては必ずしも家庭 (家族)が有効な情報源として機能していないと推察される。 ウ 日常生活の情報源 テレビ、雑誌・情報誌、新聞、口コミ、携帯電話、パソコンのうち日常生活の情報源として どのくらい利用する(見る)か質問した。 【図14】日常生活の情報源 0% 20% 40% 60% 80% 100% ① テレビ 雑誌・情報誌 新聞 口コミ(家族) 口コミ(友人等) ② 携帯電話web 携帯電話SNS ③ パソコンweb パソコンSNS 企業や団体からのメール よく利用する 時々利用する あまり利用しない 無回答 よく利用する(見る)のは、テレビ 60%、携帯電話の web55%、パソコンの web49%の割合 が高かった。逆に、あまり利用しない(見ない)のは企業や団体からのメール 74%、携帯電話 やパソコンの SNS※53%:50%、新聞 46%であった。 学生では、テレビや携帯電話、パソコンによる情報収集が新聞や雑誌・情報誌を上回っていた。 大学生との意見交流によると、 「テレビの情報は印象に残りやすい。」 「家にいるときはテレビを つけているときが多い。」という意見がある。一方、必要な情報を得るためにパソコンや携帯の インターネットで検索するという行動が一般的にされている。 (p32参照)さらに、新聞や雑 誌は新たな出費が必要であり、手軽に追加料金なしで情報を得る手段として携帯電話やパソコ ンのインターネットがよく活用されていると考えられる。また、「時々利用する」を含めると、 友人や家族からの口コミは情報源として認識されており人間関係を通じた情報伝達も有効に機 能するものと考えられる。 10 ※SNS(ソーシャルネットワーキングサービス) 友人知人等の社会的ネットワークをオンラインで提供することを目的とするコミュニティ型の インターネットサービス。SNSの特徴としては、(1)会員制(2)登録者の非匿名性 (3)各種コミュニケーションツールの充実、の3点がある。 (総務省情報通信白書平成 18 年版) それぞれの情報源について男女別・住居形態別によく利用するとしていた割合を示す。 【図15】男女別よく利用する情報源 80% 60% 40% 20% 0% 20% 40% 60% テレビ ① 80% ① 雑誌・情報誌 新聞 口コミ(家族) ③ 口コミ(友人等) ③ ② 携帯電話web 携帯電話SNS ② パソコンweb パソコンSNS 企業や団体からのメール 男 女 よく利用する情報源は、男子学生はテレビ、パソコンの web、携帯電話の web で、女子学生は テレビ、携帯電話の web、口コミ(友人)となった。特に女子学生では、雑誌・情報誌や口コ ミ(友人・家族)が男子学生の1.5倍であり、情報内容によって媒体に工夫が必要であると 考えられる。 【図16】住居形態別よく利用する情報源 80% 60% 40% 20% 0% 20% テレビ 雑誌・情報誌 新聞 口コミ(家族) 口コミ(友人等) 携帯電話web 携帯電話SNS パソコンweb パソコンSNS 企業や団体からのメール 家族と同居 一人暮らし 11 40% 60% 80% 家族と同居している学生は、例示した様々な媒体から情報を得ているのに対し、一人暮らしの 学生はテレビ、携帯電話、パソコンの割合が相対的に高くなっている。これは、一人暮らしの 学生の方が、アルバイトや生活用務に追われ時間的な余裕が少ないことなどが影響しているも のと推察される。テレビ、携帯電話、パソコンが住居形態を問わず情報提供に有効な媒体であ ると考えられる。 エ 学校から発信される情報 学校から発信される情報について Web サイト、メール、情報誌、掲示板、チラシ・プリン トをどのくらい見るか質問した。 【図17】学校から発信される情報 0% 20% 40% 60% 80% 100% webサイト メール 情報誌 掲示板 チラシ等 よく見る 時々見る あまり見ない 無回答 よく見るのは、web サイト 20%、メール 13%、掲示板 9%で、時々見るも含めると web サイ ト 71%、掲示板 58%、チラシ・プリント 53%となった。 大学では、在学生は個人専用の web サイトで履修登録を行ったり試験日程や休講を確認する ことが多いため、大学の web サイトは学生の利用が多く、学生が必要とする情報内容であれば、 最も効果的な情報提供媒体になるものと考えられる。 オ 悪質商法の体験 マルチ商法、キャッチセールス、ワンクリック詐欺、点検商法、当選商法について、 (ア) 誘われたり遭ったりしたことがあるかどうか、 (イ)そのときどうしたか(勧誘に応じたか、 契約したか)を質問した。 悪質商法の内容を知らない学生がいるため、実際起こっている消費者被害の内容に基づき具 体的体験について質問する形式とした。 12 設問の形式 <マルチ商法> ① 友人から儲かるビジネスやバイトがあると誘われたことがありますか。 ② 誘われたとき話を聞いたことがありますか。 ③ 話を聞いて商品等の契約をしたことがありますか。 <キャッチセールス> ① 知らない人から街角や学校の近く、就職活動の説明会場の近くなどで商品等の勧誘をされ たことがありますか。 ② 勧誘されて事務所等へ付いて行ったことがありますか。 ③ 事務所で商品等を契約したことがありますか。 <ワンクリック詐欺> ① ネットのサイトやメールで身に覚えのない高額な請求を受けたり裁判を起こすと脅されたこ とがありますか。 ② 請求した相手に連絡したことがありますか。 ③ お金を払ってしまったことがありますか。 <点検商法> ① 水道や布団の点検をするなどといって業者が訪問してきたことがありますか。 ② その時、業者を家に入れてしまったことがありますか。 ③ その業者と商品等の契約をしたことがありますか。 <当選商法> ① 懸賞に当選したので景品を取りに来てといって電話がかかったりメールが来たことがありま すか。 ② その時、景品を取りに行ったことがありますか。 ③ 景品を取りに行ったときに、別の商品やサービスを契約したことがありますか。 13 (ア)誘われたり遭ったりしたことがあるか それぞれの悪質商法について、誘われたり遭ったりしたことがあるか質問した。 【図18】誘われたり遭ったりしたことがあるか(項目別) 0% 20% 40% 60% 無 無回答 80% 100% マルチ商法 キャッチセールス ワンクリック詐欺 点検商法 当選商法 有 誘われたり遭ったりしたことが「ある」としたのは、ワンクリック詐欺 21%、キャッチセ ールス 13%、マルチ商法 12%の割合が高かった。 【図19】誘われたり遭ったりしたことがあるか(合計) 3種類 4% 4種類 1% 無回答 2% 2種類 13% なし 55% 1種類 25% 設問の悪質商法に誘われたり遭ったりしたことがあるかについて、すべて「なし」とした 学生が 55%と最も多かったが、半数近くの学生は何らかの勧誘を受けたことがあると回答し ており、学生に対する啓発や注意喚起が必要であると考えられる。また、18%の学生が2種 類以上の悪質商法に誘われたり遭ったりしていた。 14 (イ)誘われたり遭ったりしたときどうしたか それぞれの悪質商法について、誘われたり遭ったときどうしたか質問した。 【図20】マルチ商法に誘われたときどうしたか マ ル チ 商 法は 話 を 聞く人が多い 無回答 2% 誘われたこと はない 86% 誘われた ことがある 12% 話を聞かなかった 11% 話を聞いたが断った 73% 契約した 11% 無回答 5% マルチ商法に誘われたときは、話を聞いたが断ったが 73%と最も多いが、契約したと答えた者 も 11%あった。これは、他の商法と比較して勧誘者の話を聞いたり契約をした割合が非常に高 く、この背景にはマルチ商法が友人や先輩後輩などの人間関係を利用して勧誘が行われている ことがあり、 「無視しにくい」 「いったん話を聞くと断りにくい。 」ことを表していると考えられ る。 【図21】キャッチセールスに誘われたときどうしたか 無回答 2% 勧誘されたこと はない 85% 勧誘された ことがある 13% キャッチセールスは 付いていかない人が 多い 付いていかな かった 88% 付いていった が断った 5% 契約した 2% 無回答 5% 15 キャッチセールスに誘われたときは、付いていかなかったが 88%と大半を占めた。キャッチ セールスは、学生の認知度が高く危険な勧誘であるとの認識が定着していると思われるが、一 方で契約した者が2%あり、特に新入生等への啓発が引き続き必要と考えられる。 【図22】ワンクリック詐欺に遭ったときどうしたか ワンクリック詐欺は 無回答 2% 請求をうけたり したことがない 77% 無視する人が多い 請求をうけたり したことがある 21% 連絡しなかった 83% 連絡したが請求に 応じなかった 8% 請求に応じた 3% 無回答 6% ワンクリック詐欺に遭ったときの対応としては、 (相手に) 連絡しなかったが 83%と最も多く、 学生の間でも対処方法(無視する)の認知度は高い反面、請求に応じた者もあった。対処法の 理解はあっても、いざ自分が当事者になった場合には理解しているはずの対応(無視する)が とれず、相手側の脅迫的な言動に押し切られ、支払いに応じたものと考えられることから、ワ ンクリック詐欺の実例に則した啓発が一層必要であると考えられる。 16 【図23】点検商法に遭ったときどうしたか 点検商法は家に入れ 無回答 2% 訪問してきた ことはない 87% 訪問してきた ことがある 11% ない人が多い 家に入れなかった 78% 家に入れた が断った 13% 契約した 3% 無回答 6% 点検商法に遭ったときは、家に入れなかったが 78%と最も多いが、契約した者もおり、特に 一人暮らしの学生への注意喚起が必要である。学生との意見交流でも、家族と同居している者 は両親の不在を理由にして断りやすいとの意見があったのに対し、一人暮らしの学生は「家主 や管理会社の依頼を受けた」 「有名な企業の名前を名乗った」場合には、話を聞くときがあると 答えており(p33参照) 「突然業者が訪問してきた場合の対処法」などをケーススタディとし て啓発することが必要と思われる。 【図24】当選商法に遭ったときどうしたか 当選商法は景品を取りに 行かない人が多い 無回答 2% 連絡が来た ことがない 87% 景品を取りに行かな かった 97% 連絡が来た ことがある 11% 景品を取りに行った が別の商品は断った 3% 17 当選商法に遭ったときは、景品を取りに行かなかったが 97%と最も多く、当選商法で契約し た学生はいなかった。当選商法では郵便やメール、電話等様々な手段で当選した旨の通知が行 われるが、住所やメールアドレス、電話番号等の情報は無作為ではなく、何らかの方法で入手 した個人情報が利用される場合が多い。このため、個人情報の管理の重要性についての学生向 けの啓発が引き続き必要と考えらえる。 (ウ)悪質商法の体験と住居形態 【図25】悪質商法の体験と住居形態 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% マルチ商法【家族と同居】 マルチ商法【一人暮らし】 キャッチセールス【家族と同居】 キャッチセールス【一人暮らし】 ワンクリック詐欺【家族と同居】 ワンクリック詐欺【一人暮らし】 点検商法【家族と同居】 点検商法【一人暮らし】 当選商法【家族と同居】 当選商法【一人暮らし】 契約したりお金を払った 話をきいたり相手に連絡した 誘われたり遭ったりした 誘われたり遭ったりしたことはない 悪質商法の体験と住居形態についてみると、一般的に一人暮らしの学生の方が悪質商法に遭い やすいと考えられているが、家族と同居している学生の方が「誘われたり遭ったりしたことが ある」とした割合が高かった。特にマルチ商法では、一人暮らしより家族と同居の方が誘われ たり遭ったりしたことが「ある」とした割合が約2倍と高かった。これは、マルチ商法が学内 での勧誘以外にも中学や高校時代に交友のあった友人などから勧誘される場合もあるため、長 年地元に居住している家族と同居している学生の方が勧誘される機会が多いためと推察される。 点検商法で契約したりお金を払ったと答えた学生は一人暮らしの学生であり、データは少ない が勧誘を受けてしまうと1人では断りにくい実態を示しているものと考えられる。 18 (エ)悪質商法の体験と学年 【図26】悪質商法の体験と学年(誘われたり遭ったりしたことがあるか 合計) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年 2年 3年 あり なし 無回答 悪質商法に誘われたり遭ったりした経験と学年についてみると、学年が上がるほど誘われたり 遭ったりしたと回答した学生の割合が高かった。これは、学年とともに社会との交流が広がる ことや、学生をターゲットにした勧誘が継続して行われていることなどの結果とも考えられる。 しかし、1年生でも3割以上が誘われたり遭ったりしたことがあると回答していることを踏ま え、入学時のガイダンスをはじめ1年生への集中的な啓発が望まれる。 カ 話を聞いたり契約などをした動機 話を聞いたり、契約などをした動機を質問した。 【図27】動機(全体:複数回答) 人 16 12 8 4 0 先輩 しつこ 特に 話の その他 や友 不審 内容 く勧誘 人な ( 不安 に関 され断 どの紹 心( 不 ) に思 れ 介で なかっ 安) が わなか 断れ た あっ た った なか った 19 【図28】動機(項目別:複数回答) 人 12 10 8 6 4 2 0 先輩 しつこ 特に不 話の その他 や友人 内容に く勧誘 審(不 などの 関心 され断 安)に (不安 紹介 れなか 思わ )があ で断れ なかっ った った た なかっ た マルチ商法 点検商法 キャッチ 当選商法 ワンクリック 全体では、話の内容に関心があったが14名と最も多く、次にしつこく勧誘され断れなかった が9名であった。その他の内容としては、断るタイミングを逃がしたなどがあった。 マルチ商法では「話の内容に関心があった」が最も多く、 「特に不審に思わなかった」 「先輩や 友人の紹介で断れなかった」が次いでいる。これらはマルチ商法の勧誘に友人などの交友関係 が何らかの形で介在していることを裏付けるものであり、図11にあるようにマルチ商法は言 葉を知っていても勧誘の実態を知らない学生が多かったこととも符合する。その他、回答数は 少ないがキャッチセールスや点検商法では「話の内容に関心があった」ワンクリック詐欺や当 選商法では「しつこく勧誘されて断れなかった」とするものが多く、巧妙な勧誘や学生の反応 を見て強引な勧誘が行われていることが伺える。 キ 相談先 これらの悪質商法に関して困ったとき誰に相談したか質問した。 【図29】相談先(複数回答) 人 200 困ったときは 家族に相談が 150 多い 100 50 い 困 っ て い な し な い 相 談 タ ー 大 学 ン 消 費 者 セ 警 察 市 役 所 ・町 役 場 友 人 家 族 0 20 誰かに相談する先は、家族が最も多く次いで友人、警察であった。消費者センターは8名であ った。消費者センターに相談した8名のうち2名は既に契約したりお金を払った後に相談して いた。また、契約したりお金を払っているにもかかわらず相談しないとした学生が2名いたこ となどから、行政機関や消費者センター、大学等が相談窓口として十分活用されていないこと が明らかになった。大学生への勧誘が様々な形でひんぱんに行われている実態を踏まえると、 それぞれの機関が身近な相談窓口として認知されるよう積極的な広報等を行うことが望まれる。 ク 消費者センターの認知 居住地の消費者センターのことを知っているかどうか質問した。 【図30】居住地の消費者センターを知っているか 無回答 3% 利用したことがある 3% 知っているが利用し たことはない 32% 知らない 62% 居住地の消費者センターを知らないとした学生が 62%もあり、居住地の消費者センターが大 学と連携してその役割や機能について一層のPRを行うことが必要である。 ケ 消費者教育を受ける機会 消費者問題について授業などを受けたり情報を見聞きしたことがあるかどうか質問した。 【図31】消費者教育を受ける機会 無回答 3% ない 22% ある 75% 21 消費者教育を受ける機会があるとした学生が 75%であった。この結果は「消費者問題」の捉 え方の違いも影響していると考えられるが、実際には中学や高校の家庭科の授業で消費者問題 が取り上げられていることを踏まえると、5人に1人が見聞きしたことがないと回答している ことは消費者問題への関心の低さを表していると考えられる。 コ どこで消費者教育を受けたか どこで消費者問題について学習したり見聞きしたかについて質問した。 【図32】どこで消費者問題について学習したり見聞きしたか(複数回答) 0 50 100 150 200 人 中学校 高等学校 大学 その他講座 テレビ 新聞 雑誌等 口コミ(友人等) 口コミ(家族) 携帯(web等) パソコン(web等) 日常生活でよ 学校とテレビ く用いていた が多い 情報収集方法 その他 消費者問題について学習したり見聞きした場所としては、高等学校が一番多かった。また、中 学・大学を挙げる学生も多く、学校教育での経験が印象深く残っていることが伺えた。次に、 テレビが多かったが、情報収集の手段としてよく利用されていた携帯やパソコンの web、友人 の口コミは、少なかった。これは、Web や友人の口コミなどの情報収集方法が、学生が能動的 に得たい情報の場合に利用され、逆に、消費者問題は学校やテレビから受動的な知識や情報と して伝わっていると考えられる結果となった。 22 6 カードによる発想法を使った事例検討 (1)事例検討 ア 検討方法 カードによる発想法を使ってマルチ商法とデート商法の被害にあった2つのケースを取 り上げ、 「彼(彼女)はなぜ契約してしまったのか」 「どうすれば良かったのか」を検討した。 大学生 18 名が、 男女混合で3~4 名ずつ 5 班に分かれ、 第 1~第 3 班にマルチ商法の事例、 第4~第 5 班にデート商法の事例を検討した。 検討方法 ① 相談者の書いた詳細な経緯を読んだうえで、 「なぜ契約に至ったのか」の要因と思 われる事項をカードに記入する。(1枚に1項目。枚数制限なし) ② 1枚ずつカードを読み上げ類似の意見群に分類していく。 ③ 類似の意見群にタイトルをつける。 ④ 各タイトルの関係性を考慮しながら大きい紙の上にカードを貼り付ける。 ⑤ カードやグループの関係を特に示したい時は、それらの間に関係線を引く。 以上の手順で班ごとに作業を行い、まとめた内容について全体で報告し合った。なお、比 較のため職員班(3 名)でも同様の検討をした。 カード分類の様子 23 イ 検討結果 (ア)マルチ商法 a 事例の概要 相談者の属性;20 歳、男性、学生 契約内容;連鎖販売取引(競馬必勝ソフト) 約 600,000 円 経緯:アルバイト先の友人Aから「パソコン関係の仕事をしているが一緒にやらないか」と 電話があり、その後ファミリーレストランで会うことになった。ファミリーレストランでA と会って10分ほどするとBが来た。Bから「競馬ソフトを使ってお金を増やす」「一緒に やれば間違いなく稼げる」「おまえを成功させてやる」などと言われ、Aからは「俺もやっ て稼いでいる」 「パソコンで土日だけでクリックするだけで稼げる」 「何かあったら責任をと る」と言われ信じてみる気になった。Bから「お金はローンでできるし、競馬ソフトで稼い だら1~2 回ですぐ返済できる」「ローン会社から電話があるからフリーターと答えて」と 指示されたが、その後ローン会社からの確認電話で「職業は?」と聞かれ、嘘をつけず「学 生」と答えた。 その日のうちにAとBから電話があり、違うローンを勧められた。Bとローン会社の窓口 に出かけ、今度は事前に打合せたとおり「バイトは週6日、収入は月 14~15 万円、月々2 万円返済の予定で 50 万円借りたい」と申し込んだ。この 50 万円に貯金を下ろした 10 万円 をあわせて計 60 万円をBに渡した。その後、ホテルなどで催されるセミナーに参加したが ほとんど勧誘は出来ず、ソフトを使って競馬をしても儲からず、やめたくなったがクーリ ングオフ期間も過ぎてしまい、1 年経つとAとも連絡が取れなくなった。ローン会社と思っ たのは消費者金融で借金だけが残ってしまった。 b 結果のまとめ 第 1~第 3 班(学生11名)と職員班(3 名)から出た意見を一覧表にした。類似意見はま とめて( )内に意見数を表示した。 《彼はなぜ契約してしまったのか》 契約に至った要因(学生) A を(友人だから大丈夫)と信頼 (参考)契約に至った要因(職員) 小分類 要因 友人を信頼していた(2) していた(5) Aを信頼 A もやっているので安心(4) 友人が誘った(2) 友人への 信頼 「一緒にやっていこう」と言わ れた(2) A に「何かあったら責任取る」と A が「何かあったら責任取る」 言われた(5) と言ってくれた(2) A が「足りない分を出す」と言 Aの言葉 ってくれた を信頼 24 A が「実際に稼げてる」と言った 「本当に稼げる」という A の体 (3) 験談(2) ローンの返済を軽く考えた (3) ローンや借金の知識がない 借金の軽 借金しても返せばよいと考えた 視 「稼いだらすぐ返せる」と言わ 危機意識 れた マルチの知識がなく簡単に引っ マ ル チ の の欠如 かかった 知識不足 競馬ソフトで簡単に儲かると信 商品の知 じた 識不足 金に困っていた(2) お金がな い 楽して儲けたい(3) お金が儲かる仕事への好奇心 楽して儲けるのは頭のいい人 楽して儲 金儲けへ 間 けたい の関心 もっと楽して儲けたい(バイト 先への不満) ファミレスの雰囲気(2) 場 行き慣れた 所 場所 Bの言葉(5) Bのトークが上手かった Bの言葉 Bの押しの強さ 命令されたら逆らえない雰囲 Bの雰囲 勧誘者の 気 気 Bへのあこがれ 魅力 言うとおりにしたら成功する と思えた 今回の事例検討において、契約に至った要因として出された意見を整理すると上記のとおりで ある。 契約に至った一番大きな要因は「友人への信頼」となった。Aの勧誘トークよりも、アルバイ ト先の友人であるAという人物そのものへの信頼感が多く挙がった。学生に特徴的な意見とし て「Aもやっているので安心」があり、 「友人もやっている」という安心感は重要であると考え られる。次に意見が多かったのは、借金の軽視やマルチや商品の知識がないなどの「危機意識 の欠如」である。学生に特徴的な意見は、 「マルチや商品に対する知識がない」で、学生は知識 がないために被害が起こったと考える傾向がある。危機意識の欠如と並んで多かったのが、 「金 儲けへの関心」である。学生に特徴的な意見として「お金に困っていた」があり、不況下で一 部の学生がお金に困っている現状があると考えられる。これらの要因が重なった上、行き慣れ たファミレスで勧誘されたことや勧誘者の魅力もあり契約に至ったと考えられる。 以上をまとめると、「お金に困っているなど金儲けに関心があったところに、信頼できる友人 から誘われて、行き慣れた場所で魅力のある勧誘者からうまい儲け話を聞かされ、 『友達もやっ 25 ているので安心』と思い、マルチや商品の知識がないなど危機意識の欠如から信用してしまい 契約に至った。 」という人物像が浮かぶ。 契約にまで至った背景となる要素は2段階に分けられると考えられる。 ○1段階 危機意識の欠如と金儲けへの関心という2つの背景があったことに加えて、信頼できる友人 や魅力的な勧誘者から、行きなれたファミレスで勧誘され安心感があった。 ○2段階 Bから上手い儲け話を聞かされ、Aから「実際に稼げてる」 「何かあったら責任取る」と聞 いたことで不安が解消。 c 啓発のポイント ①友人関係とビジネスの話は別のものとして考えるという点を、若者の心にしっかりと根付か せるような啓発が重要。 たとえ信頼できる友人からの勧誘であっても、高額な費用がかかるようなビジネス、特に借金 やローンを組まなければならないような契約は避けることや断り方のノウハウなどを集中的に 啓発していくことが必要である。 ②消費者問題について基本的な知識を身に付けておくための教育が不可欠であり、今後学校教 育とのより一層の連携が必要。 《被害に遭わないために、誰が、どうすれば良かったのか?》 発表後の話し合いで学生各班から出された意見を一覧表にした。 誰が どうすれば被害に遭わなかったのか 知識をつける。マルチ商法についての知識を持っておく。 ひっかかるような手法について知識をつけておくべきだった。 本人が 「儲かる話はない」と知る。うまい話には乗らない。 する仕事の内容を自分で調べてから行う。 断わる勇気を持つ。本人が意思表示をはっきりする。 友達をもっと多く作る 行政が 消費者センターをもっと身近に!! 26 (イ)デート商法 a 事例の概要 相談者の属性;22 歳、女性、給与所得者 契約内容;ダイヤモンドネックレス 約 700,000 円(96 回ローン) 経緯:きっかけは携帯の着信履歴だった。かけ直してみたが、この時は誰も出ず、約 20 分後にAから電話があった。相手が知らない男性だったので切ろうとしたが、Aに「ちょ っと待って、話をしよう」と言われ切れなかった。「年齢は?」「仕事しているの?」「相 談に乗ってあげるよ」と友人のような会話を交わした。2 回目にかかった電話で「ストレ スたまっているやろ」 「大阪は楽しいから観光のつもりで出てこない?」と誘われた。 1 週間後に大阪駅で待ち合わせ、ビルの10Fにある事務所に連れていかれた。約 2 時 間、面白い話をして過ごした後、Aが「見てほしいものがある」とダイヤの原石を出して きた。次にダイヤのついたネックレスを見せられ、商品を売るのが目的と分かった。すで にこの時点で 4 時間ほど経っていて疲れ、頭の中はボーっとしていた。外は暗く,契約す ると言えば帰宅できる、楽になれる、と思えて契約に応じた。白紙のローン用紙に住所・ 名前を記入した後、Aが記入した数字を見て商品価格を知った。「高くて払えない」と言 ったが、Aから「月 6,400 円なら払えるだろう」「社会人だから自分の責任でやっていこ う」などと言われ、親に相談するとは言い出せなくなった。その後も帰り道が分からない のでAに頼るしかなく、「ご飯を食べたら駅まで送る」と誘われるまま食事をし、アンケ ートに記入した。その後も毎日のようにメールか電話があり、「やめる」と言い出せない まま日が経ち、約 1 ヵ月後に商品が届いた。 27 b 結果のまとめ 第4~第5班(学生7名)と職員班(3 名)から出た意見を一覧表にした。類似意見はま とめて( )内に意見数を表示した。 《彼女はなぜ契約してしまったのか》 契約に至った要因(学生) (参考)契約に至った要因(職員) デート商法を知らなかった 知らない人の電話に出た 小分類 要因 知識不足 かけ直しが危険と知らなかっ 真面目 危機意識 の欠如 た 登録漏れの友人ではないかと 思った 初回の電話で年齢、仕事など相 不用心 手の質問に答えた 店に場所を移動して長時間話 不安な気持ち しているうちに不安になった 不安 不安感からペースにのせられ 知らない場所でAに頼るしか た なくなった 家に帰りたい気持ち Aしか頼 帰るためには仕方がない Aに誘われて遊びに行ってし 心細さ れない まったため心細かった 大阪でAと会った時点でもう 断りづらい 断るのが苦手 無難にし 断れない性格 たい 意志が弱かった 決断力のなさ 「とりあえず」という言葉に流 「とりあえず」と押し切られた された Aと争い 「見るだけ見ようよ」という言 「見るだけ見ようよ」と押し切 た く な い 葉に流された (Aへの られた 好意) 相手のペースにあわせるタイプ 時間の管理ができていない 見知らぬ場所で帰り方もわか 投げやり らないので諦めた になった 長時間勧誘され判断力が鈍っ 疲労感で頭がぼーっとなって た(2) いた 28 疲 労 あきらめ 雑誌に掲載してあったり、芸能 店の信用 人と店のスタッフが写ってい 性 場 所 る写真を見て信用した(2) 今回の事例検討において、契約に至った要因として出された意見を整理すると上記のとおりで ある。2班とも全員男子学生だったせいか、当事者意識を持った分析が難しかったことが伺え る。視線が第三者的で、表現には被害女性への非難めいた感情が感じられるなど、全般に厳し い意見が目立った。 契約に至った一番大きな要因は「Aしか頼れない状況になってしまったため」となった。その ような状況に陥った要因として、初めての場所での不安感や心細さに加えて、本人の性格やA と争いたくない気持ちがあると考えられた。次に意見が多かったのは、デート商法の知識や知 らない電話に出たなどの「危機意識の欠如」である。学生に特徴的な意見は、 「デート商法の知 識がない」で、マルチ商法と同じく学生は知識がないために被害が起こったと考える傾向があ る。以上に加えて「あきらめ」があったことと「場所」が重視されている。 以上をまとめると「デート商法や知らない人の電話に出るのが危険ということを知らず、無防 備に着信履歴にかけ直した結果、見知らぬ場所の店で長時間商品の勧誘を受けることになった。 Aしか頼る相手がいない不安・心細さ、Aと争いたくないという状況や店の雰囲気、あきらめ も要因となり、Aに言われるまま契約書面にサインした。」という人物像が浮かぶ。 また、契約に至った原因については、その要素は2段階に分けられると考えられる。 ○1段階 危機意識の欠如から知らない人からの着信にかけ直し、遊びに行く約束をして初めて行った 場所で長時間の勧誘を受けることになった。 ○2段階 Aしか頼る人がいない状況の中、長時間の勧誘で判断力が鈍り、店の雰囲気やあきらめも要 因となり契約に至った。 c 啓発のポイント ①学生の意見が多かったのは危機意識の欠如と本人の性格や気持ちの問題からAしか頼る人 がいなくなってしまってあきらめたという状況である。従ってデート商法については、「知ら ない人からの電話に出ない。 (付いていかない) 」などの基本的な危機管理ができるよう啓発を 繰り返し行うことが重要と思われる。しかしながら、デート商法のきっかけは突然の電話だけ ではなく、出会い系サイトを利用したものやコンサート会場や飲食店で親しくなるなど様々で あり、その全部について警戒するよう啓発することは現実的ではなく、啓発によって全ての被 害を防ぐことは難しいと思われる。 ②デート商法やキャッチセールスで不本意な契約をしてしまったときは、クーリングオフでき ることを知っておくことや、放置せずに家族や消費者センターなどの相談機関に相談すること、 契約書や契約条件をよく読み返すことなど基本的な対処法を啓発することが重要。 29 《誰が、どうすれば良かったのか?》 発表後の話し合いで学生各班から出された意見を一覧表にした。 誰が どうすれば良かったか 知らない番号に電話をかけ直さない、もしくは途中で電話を切ればよかった 本人が 知らない人からの電話に対応しなければよかった 曖昧な返事に本人が納得しなければよかった 不安に思ったことを親などに相談するべき 友人や同僚などに相談すればよかった 適当にでも言い訳して帰ればよかった (2)考察 大学生にマルチ商法とデート商法の2事例について検討してもらった。両事例に共通して学生 に特徴的な意見は、①知識がないため被害にあった②性格や考え方のせいで被害にあった③勧 誘を受けた場所や雰囲気も契約に影響したという意見である。知識不足や性格などのために被 害に遭ったという考え方は、被害に遭ったことが自己責任であるという解釈につながり、万一 悪質商法の被害に遭ったときに相談窓口へ相談することをためらわせる要因になるとも考えら れる。 「悪質商法の被害については騙された側ではなく騙す側に責任があり、相談するのは恥ず かしいことではない。」ことを啓発していく必要があると思われる。また、「場の雰囲気」が契 約に影響したことについては、 「芸能人とスタッフが一緒に写っている写真を見て信用したのか も」等の意見もあり、どのような場所で勧誘されるかを具体的に啓発に盛り込むなど現実感の ある啓発手法を考えていく必要がある。 30 7 消費生活相談員等と学生との意見交流 (1) 意見交流1 消費生活相談員3名と学生18名が自由に意見交流を行った。次のとおりテーマごとに質 問と意見をまとめた。 質 問【学生】 意 見【相談員】 被害と規制について センターが業者を取り締まるこ 法令に基づき業務停止命令等の処分を行っている。また、刑 とはあるのか 事罰が強化され、警察が関係者を逮捕する場合もある。 行政機関の処分を受けたり警察に逮捕されるのは、ごく一部 の業者であり、また処分や逮捕されるまでには時間がかか る。身を守るため、行政や警察が何とかしてくれるではなく 消費者が悪質商法の実態を知り、被害に遭った際の基本的な 対処法を身につけることが重要。 ネットの被害が増えているが新 通信販売に関する規制が強化され、意に反した広告をメール しい法律ができているのか で送ることは禁止されている。被害に遭わなくても、困った ことやおかしいと思うことがあれば消費者センターに情報 提供して欲しい。 相談の中で悪質な業者はどのく 法令違反と断定できなくてもその相談者にとっては悪質と らいいるのか 思われる場合もある。一つひとつの事例について見ていくし かない。センターでは、相談者にいきさつ文等を書いてもら い、具体的な内容で一つひとつ解決している。 実際の相談の様子 話し合いがうまくいかないとき 当事者が話し合いに応じない、譲歩しないなどうまくいかな はあるか い場合はある。あっせんには、お互いの歩み寄りも重要。業 者と連絡が取れない場合もある。 相談してから解決するまで時間 1日2日で解決するものから数ヶ月かかるものもある。特に はどのくらいか 契約から時間が経ったものはあっせん交渉が難しくなる。 例えば数年前の契約で、相談者が契約した経緯等の詳細を覚 えていない場合、相手側が交渉に応じないこともある。 モンスターペアレントが話題に センターには困って相談してきているのであって、その伝え なっているが、センターにもそう 方が混乱していたり、怒っていたり、センターのことを誤解 いう人からの相談があるか していたりで上手く伝えられない相談者はいる。怒鳴ってい たり怒っているのを聞いて困った相談者と決めつけてしま うと、後の話が耳に入らくなってしまう。それは、その人自 身にとっても損なことである。その気持ちを解きほぐしてい 31 き、相談の趣旨を明確にし、適切な助言やあっせんをするの が相談員の仕事である。あっせんでは相談者と事業者の間に 立ち、客観的な立場から合意点を見いだすため事業者や時に は消費者を説得する。 20才代以下の人と高齢者の相 マルチ商法などの場合は、障害を持った人のグループや職場 談が多いというのは、そういう人 の中で広がることもある。また、子育ての時期は家庭教師を がねらわれやすいということか 勧められたり、高齢者は投資話や住宅のリフォームを勧めら れたりと、ライフサイクルや年代毎の特徴がある。高齢者や 若い層に共通するのは将来への不安感ではないか。その不安 感を悪質業者にねらわれることが多いので、回りにいる人た ちの見守りが重要になる。 (2)意見交流2 消費生活相談員等3名と学生5名が意見交流を行った。次のとおりテーマ毎に質問と意見 をまとめた。 質 問【相談員等】 意 見【学生】 アンケート結果ではテレビが最 ・下宿しているので家に帰ったらテレビをつけて、飽きた もよく利用されていた。テレビは ら携帯を見たりしている。 よく見るか ・家族がいる部屋にテレビがあり、いつもついているよう な状態。面白そうなら何となく見る。 アンケート結果では携帯電話の ・携帯電話会社のトップページを開くことが多い。 web をよく利用する学生が多か ・待ち受け画面に新着ニュースや天気予報が出るようにな ったがどのような利用方法か っている。その時、興味があれば見る。 ・忙しくてテレビも新聞も見られないし、パソコンは立ち 上げるのが面倒なのでケータイをよく見る。便利なので、 暇があったらケータイを見ている。 ・無料Q&Aサイトで調べる。 ・コミュニティサイトをやっている。年代、性別、大学名 などを登録する。ウソを入れる人もいるので警戒している。 ・芸能人のブログを見るのがはやっている。ランキングで 上の方のブログを見て、リンクしているブログやおすすめ サイトを次々見たりする。 困ったことや調べたいことがあ ・困ったことがあれば、友達とかに相談してネットで調べ るとき web を活用するか て情報を得てから、必要であれば専門機関に相談する。 ・キーワードを入れて検索していくつかのサイトを見て総 合的に判断する。 32 マルチ商法やキャッチセールス ・電話やメールでいろいろ勧誘されても相手にしない。世 の経験はあるか の中には断れない人がおり、断れないタイプの人がキャッ チなどに引っかかりやすいのではないか。 ・点検商法は家に入れてしまうかもしれない。換気扇フィ ルターを皆つけていると言われればきっと入れる。 ・管理会社から火災報知器を付けに行くという電話があり 承諾した。その時、管理会社に確認しようにも、確認でき る電話番号がすぐに分からなかった。 ・入居時に、困ったときの連絡先を教えてもらえればよい と思う。 よく知らない異性から遊びに誘 ・よく知らない異性でも、知り合って気が合えば誘われた われたらどうするか ら出かけるだろうと思う。 ・行った後に勧誘などをされたら断ればよい。 学校で受けた消費者教育などに ・高校までの家庭科、総合、公民、社会などで悪質商法の ついてどう思うか 話は聞く。大学で選択科目だったらあまり興味は持たない のではないか。 ・高校までに授業は受けていても、自分が遭遇するとは思 えない。クーリングオフ、マルチ商法は印象に残っている。 ・クーリングオフが具体的にどのような場合に使えるか分 からない。 ・クーリングオフは知っていても、仕方をセンターに相談 することを思いつかない。 ・ 「知らない人から声をかけられても無視する、細い路地に は入らない、アンケートには答えるな、もし答えたとして も電話番号などの情報を出さない。」などは小学生くらいの 頃からよく学校や家庭で言われている。 どのような啓発なら大学生に興 ・ドキュメントタッチ。体験をドラマ化っぽくする。みん 味を持ってもらえると思うか な本物が見たい。再現VTRなら見るかも。 ・啓発ビデオは自分からは見ない。教えられる情報は自分 からわざわざ見に行かない。 ・被害者本人の体験談なら聞いてみたい。 ・学校のポータルサイトに困ったときのQ&Aを作りそこ に消費者センターが出ていれば相談する。 ・入学式の時はいろいろな話を一度に聞くので印象に残り にくい。 ・高校の時、キャッチセールスとかマルチ商法とか、クー 33 リングオフなど話を聞く機会はあるので、悪質商法の話と なると「またか」という感じで耳にあまり入らない。 ・行政のホームページは内容が堅苦しく見る気がしない。 簡単にお金が儲かるというセー ・自営業であれば、商売を手伝ったりしているので簡単に ルストークになぜだまされると お金は儲からないことが分かる。お客さんに物を売ってい 思うか。 くらであり、少しのお金でも儲けるのは大変だし、何もし なくては儲からない。 ・お金は労働の対価であることを学んでおくのは大切と思 う。 「楽して儲かる」という話がおかしいことが体験として わかる。 ・就職活動中の大学生なら、時間もないし、でもお金も必 要だし、で引っかかるかもしれない。 (3)まとめ ○「自分は被害には遭わない」被害に遭うのは「その人の性格が弱いから」「仕事をしてい なくて収入が低いから」等自分には当てはまらない原因があると考えている人が多い。 ) (危機管理意識が育ちにくい。 ○自分が悪質商法等の事例について学び身を守るというより、行政や警察が指導したり逮捕 したりしてくれるだろうという期待がある。 (消費者問題への関心が低い。 ) ○テレビやパソコン、携帯の web を利用して情報収集しているが、教育的な内容には興味 を持ちにくい。(実際に起こった出来事には関心がある。 ) ・就労体験により簡単ににお金が儲かるのはおかしいと考える生活実感を養う必要がある。 ・啓発を行うときには、教育的な内容より具体的な実在の人物などを取材したドキュメン タリーやニュースの方が興味を持ってもらえる。 ○大学の在学生向け専用サイトならすべての在学生の目に触れることが多く、Q&Aやニュ ースなど内容を工夫すれば見てもらえるのではないかなど具体的な啓発内容や方法につい て提案があった。 8 大学生が考える消費者啓発について 今回の調査に協力いただいた大学生が5つのチームに別れ、センターを取材し、消費者問題の 啓発映像(5作品)を作成した。完成した作品のテーマを分類すると①消費者センターを知っ てもらう②相談員の仕事について知ってもらう③悪質商法の内容と予防法となった。これらの 映像作品を通じて若者の視点で捉えた啓発すべき(若者に不足しており情報提供する必要があ る)事項がさらに明らかになった。特に悪質商法の内容と予防法をテーマとした作品のなかに、 予防法としてチェックリストをあげたものが多く(悪質商法に遭わないための7カ条等)セン 34 ターから悪質商法について伝えるときは、対処法や手口情報のチェックリスト等を用いて、よ り具体的かつ印象に残りやすい内容にする等の工夫が必要であると思われた。 9 若者への効果的な啓発についての考察 アンケートや意見交流、学生が製作した映像等から消費者問題に対する大学生の認識や勧誘を 受けた際の行動等について行政機関(啓発する側)では気づかなかった様々なことが発見でき た。それぞれの課題への対応の方向性を検討し、それらを踏まえた効果的な啓発方法について 考察した。 若者の意識・行動等・生活等の実態から 1.消費者問題に対する意識の低さ マルチ商法やワンクリック詐欺などの言葉はよく知られて実際に勧誘を受けた学生が多いにもかかわ らず、様々な悪質商法の手口や内容を理解している学生は少なく、消費者トラブルに関する危機管理 意識が不足している。 ⇒悪質商法に関する正しい知識や勧誘時の対処法、被害を受けたときの相談機関など、一連の 情報をしっかりと身に付けられるよう効果的、継続的に啓発を実施する必要がある。 2.様々な情報源から情報収集しているが、消費者問題は有効に伝わっていない 日常生活ではテレビと携帯やパソコンのインターネットがよく利用されている。また、大学から発信され る情報では、web サイトがよく利用されているが、消費者問題に関する情報源とはなっていない。 ⇒アンケートによると日常の情報源としてインターネットがよく利用されているが消費者問題 について知識を得る場とはなっていない実態が明らかになった。一方、大学の web サイトは学 生の利用度や内容への関心が高いことから、大学と連携し消費者問題を伝達するため有効な媒 体として活用する方策の検討が望まれる。 消費者知識は学校時代に得たものが多く、最新の情報はテレビから得ている学生が多いが、知識の 範囲にとどまり、実際に勧誘を受けた際の対処法まで十分に伝わっているとは言いがたい。また、家族 や友人からの口コミも情報源として機能しているが消費者問題の伝達媒体とはなっていない。 ⇒消費者問題に関する知識は学校教育との連携による啓発が適していることが確認された。さ らにマルチ商法や一人暮らしの学生への点検商法による直接勧誘によって契約に至った事例が 報告されており、成長や社会とのかかわりに応じた教育プログラムや家庭への効果的な情報伝 達手法の開発が必要と考えられる。 35 実際に被害に遭っていない学生に消費者問題の内容について関心を持ってもらうのは難しい。 ⇒消費者被害は金銭等の被害でありその実状が「見えにくく」、興味を持ってもらいにくいため、 「見える」内容で情報提供する必要がある。例えば、ドキュメンタリー作品、ニュースなどの 手法が考えられる。また、学生へ映像等を用いて啓発するポイントは「リアル」であることが 重要である。大人の「教育しようとする意図」が見えるものでは受け入れにくいとの意見が多 く、情報を押し付けるのではなく興味のある内容、表現で自立した消費者としての心構えを備 えさせるよう啓発方法に工夫が必要である。例えば、講座においても、一方的に話をするので はなく、学生に作業させ、一緒に考える手法で実施する方が効果的と考えられる。 3.相談窓口の存在を知らず、被害回復の機会を逃している アンケート回答者の3分の2が居住地の消費者センターを知らなかった。悪質商法で困ったときの相 談先は家族が最も多く、消費者センターは5%以下であった。 ⇒本人や家族が居住地の消費者センターを知らないために、被害に遭った場合の相談が遅れ、 解決が困難になるケースも多い。身近な相談窓口として利用を促進するため消費者センターの 存在とその役割について一層の PR を行っていく必要がある。 学生は、被害に遭うのは知識がなかったり、性格や考え方のためと考えやすい。実際に被害に遭っ た場合でも自分の知識不足や性格や考え方のためであると思い相談が遅れる可能性がある。 ⇒事例検討で学生に特徴的な意見は、知識不足や性格のためなどで被害に遭ってしまったと考 えることであった。自分が被害に遭った場合でも自己責任と考え相談しなかったり、相談が遅 れる可能性がある。 「消費者被害は騙す方に問題があり、相談するのは恥ずかしいことではない こと」を伝えていく必要がある。 36 若者の消費者トラブルを防ぐために 消費者問題に対する意識の低さ→消 消費者問題に対して興味を持ってもらう Web 上に悪質商法被害や製品事故のニュース、若者の生活実態に即したQA集 などをまとめた「困ったときにちょっと役に立つ」サイトを開発する。(可能な 限り映像を添付する。) 大学生には、コミュニティサイトや動画投稿サイト、無料Q&Aサービスなどのユーザ 参加型サイトや芸能人ブログが人気であり、啓発サイトには「身近であること」「相手が 見えること」が不可欠な要素である。このため新設するサイトは、できるだけ感覚の近い 大学生などに作成してもらうことが重要。このサイトは将来的には「学生発の情報発信拠 点」 「読者間の交流ができるコミュニティサイト」として発展させることが望ましい。 様々な情報源から情報収集しているが、消費者問題は有効に伝わっていない →消 消費者問題に触れる機会を増やす 上記サイトを大学のポータルサイトや携帯サイトを利用して発信する。 若者への効果的な啓発には、その内容とともに見てもらうための工夫が重要である。ア ンケートや大学生との意見交流の結果からは、大学のポータルサイトが最も効果的な媒体 であったことから、大学との連携を一層促進する必要がある。さらに、携帯の web は、若 者を中心にパソコンの web と同程度の利用があり、今後利用が一層進むと考えられること や、QRコードを用いて宣伝できること、サイト経由で直接電話がかけられることなどの 利点があるため、今後はパソコンサイトに加えて携帯サイトを充実していくことが望まし い。 イメージ 37 相談窓口の存在を知らず、被害回復の機会を逃している →相談窓口のPR 消費者センター等の相談窓口を一層PRする。 身近で頼れる相談機関として京都府や市町村のセンターをPRするため、上記サイトを活 用するほか、携帯サイト「京都府消費生活安全センター」やHP「くらしの情報ひろば」 の充実、学生が参加するプロモーション映像の作成等を進める必要がある。 高校までの知識が印象深く残っている。 →教育機関との連携を図る 教育機関との連携を促進する。 インターネットを利用した啓発は、「悪質商法の類型を知ること」「相談先を知ること」 など必要な情報の伝達手段としては有効に機能するが、生きる力としての「消費者力」を 養うためには、学校で消費者問題に関する教育が充実することが重要と考えられる。行政 と教育機関との連携策の具体例として次のことなどが考えられる。 ① 高等学校まで ・高校生向けの消費者教育資料の共同開発 ・消費生活センターの出前講座の拡充 ・対処法を中心とした実践指導マニュアル等の共同開発 ② 大学 ・新入生及び3年生(新成人)を対象とした消費者教育プログラムの開発・実施 ・eラーニングを利用した(単位を取得できる)授業 ③ PTA等に対する啓発 日常生活の情報源や困ったときの相談先に家族をあげる若者が多いことから、家族に 対する啓発を通じて間接的に若者に情報提供することも有効である。 ・小、中、高等学校のPTAや保護者会等での啓発 ・小、中学校等で実施される親子講座での啓発 38 おわりに 若者への啓発を行うときに難しいのは、「当事者意識を持ってもらいにくいこと」である。悪 質商法被害は、金銭の被害であり身体生命に影響がないことや被害の実情が目で見えないこと から、被害を未然に防ぐための啓発も実感としてとらえにくい。被害に遭った場合でも製品事 故の被害などに比べると自己責任であると解釈され、将来への影響や問題の拡大を恐れるあま り、表ざたにしたくないなどの心理が働く場合が多く問題が表面化しにくい傾向がある。 しかし、悪質商法被害がその人の人生に及ぼす影響は重大である。時には、仕事や住宅、全財 産まで失ってしまうこともある。今回の調査を通じて若者の生活サイクルや消費者問題に対す る理解度、様々な情報利用実態等の一端が明らかにできた。今後は、調査結果をもとに効果的 な啓発の具体化をはかり、若者の被害を少しでも減らしていければと思う。 最後に、本調査研究実施にあたり御指導いただきました龍谷大学経済学部の松浦さと子准教授 をはじめ意見交流やアンケートに御協力いただきました皆様に深謝申し上げます。 39