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講義資料
1
共に語ろう 電気のごみ
~もう、無関心ではいられない~
リスクコミュニケーション
平成24年9月29日・30日
東京大学大学院工学系研究科原子力専攻
木村 浩
2
リスクとうまく付き合うために
• 以前は「リスクを回避する」という考え方だった。
– リスク情報の公開
– 信頼できる専門家にお任せ
• その後、「リスクを知る権利」を尊重する社会になった。
– リスクがある以上、
• (市民は)それを知らされるべき
• (事業者等は)それを知らせる努力をするべき
• そして、今は・・・次の段階へ進もうとしている。
3
リスク・コミュニケーションの発展段階
1.
2.
3.
4.
正しい数値を手に入れる。
人々に数値について話す。
その数値が何を意味しているかを説明する。
過去人々が似たようなリスクを受け入れてき
たことを示す。
5. 人 々 に と っ て リ ス ク を 受 け 入 れ る だ け の メ
リットがあるものであることを示す。
6. 人々を適切に扱う。
7. 人々をパートナーにする。
Baruch Fischhoff, Risk Perception and Communication Unplugged:
Twenty Years of Process, Risk Analysis, Vol. 15, No. 2. 137-145, 1995
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リスク・コミュニケーションとは
• リスク管理における要諦
– 質の高い集団(社会的)意思決定には不可欠
– 社会信頼獲得の正攻法のアプローチ
– 組織の活性化を促進
• 人々の権利を尊重しつつ、協力的な関係を生み出すプロ
セスでなくてはならない。
• その目的は、人々にリスクに関する情報を伝え、思慮深
く判断し建設的な意見を述べる人を増やすこと。
– リスクについて教えたり、リスクは小さいと説得したりするこ
とではない。
– 決して、専門家と同じように考える人を増やすことでも、人々
を教育することでもない。
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リスクとは
• リスク=ハザートの発生確率×ハザードの規模
• リスクの三重項 R= <Si, Li, Di>(i=1, 2, 3, ….)
– 望ましくない出来事のシナリオSi、その発生の確からしさLi、
それによる被害Di
• リスクとは、「ある技術の採用とそれに付随する人間の
行為や活動によって、人間の生命の安全や健康、資産な
らびにその環境(システム)に望ましくない結果をもた
らす可能性」
• 同じリスクでも、人によって感じ方が異なる。
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たとえば:リスクと安全
• 安全=リスクが受容できるレベル以下であること
≠ゼロリスク 第11回「原子力の安全管理と社会環境」ワークショップ資料より
• 安全とは「主観」な判断。すなわち、一意に決まらない。
– ある人が「安全」と判断する
=その人がリスクを受容できるかどうか判断する
• たとえば、安全基準の作成とは、個人の主観を総合して、
社会の主観を作るという、社会的合意形成そのもの。
– 安全基準=社会がそのリスクを受容できると判断する「その社
会にとって主観的な」基準
– 安全基準の決定とは、科学技術的根拠のみならず、いわゆる人
文・社会学的根拠をも積み重ねなければならない。
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リスクを知ると・・・
• 不安になる。
– これまで気づかなかったこと、新しいリスクに気づ
かされるため。
• 伝えてくれた人への信頼が高まる。
– 特に利害関係がある人が伝えた場合は、信頼が高く
なる(誠実さ)。
• 自らのリスクセンスを高め、意思決定のパート
ナーとなる。
– さまざまなリスクを知り、判断する能力を高める。
– さまざまなリスクに対処できる人が増える。
– リスクだけでなく、リスク管理の方法も知る。
リスクを管理するための
「パートナー」となるために
• パートナーとして機能するためには、そのリスク管理に
ついて、「コミットする(責任を持って係わる)」こと
が必要。
• 自分の不安の所在やその原因、わからないことを明らか
にする。
– 自分の分かっていることを再確認したり、コミュニティ内の話
し合いによって、自分のことを知る。
• そのリスクについて、どこまでわかっているのか。どう理解してい
るのか。
• 何が不安なのか。何が不満なのか。何がわからないのか。
• どうして欲しいのか。どうしたいのか。
• 自分(達)の「状態」を自分(達)の言葉で伝える。
– 伝えなければ、伝わらない。
– (伝えるための窓口は準備されていなければならない。)
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・・・一般市民がリスク情報を利用し、自らの健康問題や環境問題を、自
らの考えで判断するための心得を述べてきました。・・・今後こういった
問題について、一般市民の発言権はますます大きくなります。「素人だか
ら」と臆する必要はどこにもありません。知りたいことを、関係組織なり
団体なりに積極的に尋ねてください。そして、自分の判断や関心事を積極
的に伝えてみてください。そのプロセスの中であなた自身の判断も形成さ
れていくでしょうし、社会的な意思決定にあなたの意見が反映されること
にもつながるでしょう。
リスク・コミュニケーションとは、環境リスクや健康リスクについて、
関係者間で双方向に情報や意見をやりとりすることです。一般の人々がど
ういった点を懸念しているのか、リスクをどのように認識しているのか、
ということは、専門家による統計的なリスク分析では考慮されないことが
多いものです。そういった、懸念や不満を表現し、行政や企業がどう対応
するか問いかけましょう。そうすることで、あなたの健康や安全の保証は
もちろんのこと、行政や企業にとってもよりよいリスク管理ができるよう
になるのです。
平成14年度原子力安全基盤調査研究(原子力安全基盤調査研究)
原子力技術リスクC3研究:社会との対話と協働のための社会実験
「市民のためのリスク・コミュニケーション・ガイド」より抜粋
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おわりに
• DAD(Decide決定・Announce連絡・
Defend防御)アプローチから、Decide
のためのパートナーを創る「リスク・コ
ミュニケーション」へ。
• 自分自身のことを良く知り、パートナー
となる一歩を踏み出す。
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参考資料:
○コミュニケーション
○信頼
○リスク・コミュニケーション
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コミュニケーションとは
• 人と人とが互いに関わろうとする試みであり、
話しかけ、応じていくツーウェイ。
• コミュニケーション・センスは、相手の存在を
深く意識することによって磨かれる。
福田健著「コミュニケーション・センス」
• コミュニケーション能力とは、分かりやすく伝
える能力だけでなく、相手の意図を正確に読み
取る能力や、手振り身振りなどの非言語的な伝
達能力までを含めたもの。
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「言葉」はそのまま伝わらない
• 言葉だけがメッセージではない。
– あなたの態度、会話の状況もメッセージであ
る。
• 同じ話をしていると思っても違うことを
考えていることがある。
• あなたと相手の理解の方法、信念・価値
観・先入観などの違いが、メッセージの
理解に影響を与える。
コミュニケーションの大前提:
人の話を聴く
• 聞くことを話さないこと
と考えない。
– 自分自身の聞き方の習慣に
気づくこと。
• 聞いているふりをしない。
– 会話は両者の責任。
• 相手の話を途中で遮らな
い。
– 相手が何を話しているかに
集中する。
• すぐ判断しない。
– 感情も含めた全体的な意味
を聞き取る。
• ひとりよがりな議論をし
ない。
– 相手の非言語的な信号を観
察する。
• 「あなたの気持ちはよく
わかります」と簡単に言
わない。
– 意見を聞いているという態
度をとる。
• 感情的な言葉に過剰反応
しない。
– 共感できる理解について示
す。
• 求められていないアドバ
イスはしない。
– 自分自身に耳を傾ける。
• 自分自身を隠すために使
わない。
– 適切な行動をとることで聴
取の輪を閉じる。
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コミュニケーションのポイント
• プロセスについての責任
– プロセスの責任は送り手と受け手双方にある。
– 相手と自分について知り、柔軟に対応する。
• 結果に対する責任
– 「わたしは言ったはずだ」シンドローム
– コミュニケーションの目的は自分自身を防御することではない。
• 倫理
– すべての人には「聞かれる」権利がある。
• 信頼
– 信頼とは受け手が判断することである。
– コミュニケーションを通して、相手が信頼できるかどうかを観
る(観られている)。
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信頼
• 能力:専門的な知識や問題解決能力があ
るか
• 客観性:偏った見方をしていないか
• 誠実さ:正直に話しているか
• 共感:聞き手への配慮をしているか
• ダイナミズム:熱意をもっているか
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能力
• 内容の専門性:あなたが何を知っているか?
• プロセスの能力:何をうまくやれるか?
• 能力の有無の判断にはジェンダーギャップがある。男性
は自分で問題を解決する方が能力があり、女性は援助を
求める方が能力があると判断されやすい。
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客観性
• 複数の側面から課題を考える。
• 様々な視点を支持する理由や見解を探す。
• 他の人の意見を見聞きし、それらを正直に公平
に評価する。
• 誰かとやりとりするときには、彼らの話を受け
入れ、彼らの考えを引き出すような返答をする。
• 多様な考えを聞くまでは判断を留保する。
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誠実さ
• 言っていることに恥じない行動をしているか?約束を守
ると信頼されているか?
• 他の人の自尊心を傷つけていないか?うわさを聞いたと
き、それをやり過ごすか、止めようとしているか?
• 個人的な打ち明け話を聞いたとき、他言しないようにし
ているか?だれかをとまどわせたり、悩ませたりするこ
とを見つけたとき、それを共有したり、だまっているよ
うにしているか?
• 選択をするときには、誠実さや倫理的な行動を弁護しよ
うとしているか?
• 常に最も誠実な情報を伝えようとしているか?ウソをつ
くのが簡単なときでも、正直であろうとしているか?
• コミュニケーションは率直でオープンか?誰かを操ろう
とする行為を避けようとしているか?
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共感
• あなたと相手との共通点(背景、態度、価値観、
信念、目的など)を探す。
• 相手との共感を示す方法を見つける。(共通の
目的と共通の感情)
• 相手を「あなたのようである」と仮定しない。
(互いの文化や背景の違いを理解することが重
要。)
• 異なる経験をもつ他人の考え方を理解し、その
方法であなたの意見や考え方を表現する。
• 注意深く相手の意見を聞く。同意できなくても
共通点を見出す。
• 「いっしょにやっているのだ」という気持ちを
言葉と態度で示す。
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ダイナミズム
• あなたが伝える事柄を信じ、あなたの信念や感
情をこめた熱意でもって話す。
• 受け手と目を合わせたり、体の位置を工夫する
ことによって、受け手との結びつきをつくる。
• 相手の反応に敏感になる。
• 状況に適応する。
• ただし、大きな声や大きな身振り、熱意のこ
もった話し方が常によいとは限らない。
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リスク・コミュニケーションの始まり
• リスクについての、個人、機関、集団間
での情報や意見のやりとりの相互作用的
過程。
– 関係者間の理解のレベル向上を意図する。
– 受け手側:十分に情報を得た。
– 送り手側:十分に情報を提供した。
(US. National Research Council、1989)
リスク・コミュニケーションにおける
7つの原則
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1. 市民団体や地域住民等を正当なパートナーとし
て受け入れ、連携すること
2. コミュニケーション方法を慎重に計画をたて、
そのプロセスを評価すること
3. 人々の声に耳を傾けること
4. 正直に、率直に、開かれた態度で行うこと
5. 他の信頼できる機関と調整し、協力すること
6. メディアの要望を理解して応えること
7. 相手の気持ちを受け止め、明瞭に話すこと
Covello, V. & Allen, F. Seven Cardinal Rules of Risk Communication, U.S.
Environmental Protection Agency, Office of Policy Analysis, Washington, D.C., 1988.
リスク・コミュニケーションを
実践する
良くある言い訳
時間も金もない。
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やるべきこと
最初から住民参加の時間と費用を考慮すればよ
い。
恐怖を喚起する、必要以上に警戒されるだけだ。人々が何に関心があるかがわかれば恐怖感を弱
めることができる。
教育・啓蒙が大切
自分の説明の仕方を反省しよう。
解決策が見つかるまでは伝えるべきでない。
解決策を見つけるために人々と話し合い、共に
考えよう。
人々は到底理解できない。
理解できないことと受容できないことは分けて
考えるべき(理解したからといって受容するわ
けではないし、受容しないからといって理解で
きないわけではない)。
技術的な問題は専門家に任せるべきだ。
情報を提供し、人々の意見に耳を傾けよう。政
策決定には多様な背景があることを認識しよう。
人々の要求には際限がない。だから要求に応じ 一歩譲れば、それ以上求められることはない。
ない。
早い段階から人々を参加させよう。
人々の声に耳をかせば、大した脅威でもないの とるに足らない問題に関わらないためにも早く
に多大な資源を投入することになる。
から人々の意見に耳を傾けよう。
活動家グループは人々の関心を煽るだけだ。
活動家グループは人々の怒りを代弁しているの
だ。対立するより協働しよう。
ATSDR "A Primer on Health Risk Communication: Principles and Practices," U.S. Department of Health and Human Services, 1994.
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