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フライブルグ市役所(ドイツ連邦共和国)(PDF:1303KB)

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フライブルグ市役所(ドイツ連邦共和国)(PDF:1303KB)
フライブルク市役所(ドイツ)
「環境首都」フライブルク市
フライブルク市役所
~フライブルク市の環境政策~
報告者: 山 口
1 概

勝
要
フライブルク市の人口は約 22 万人、面積は約 150 ㎢で、そのうち森林面積が約 40%、
自然景観保護面積が 50%のドイツ南西部、フランスとの国境沿いにある都市である。

フライブルク市は環境政策の先進都市として、しばしばドイツの「環境首都」の呼称で
呼ばれている。

中心市街地における交通政策やフランス軍撤退後の土地を活かしたエコタウンの建設な
ど多岐にわたる環境施策を実施している。
2 説 明 者

フライブルク市 公認講師 前田成子 氏
前田成子氏
3 説 明 内 容
ドイツ連邦共和国フライブルク市は、エコポリス「環境首都」として、環境最優先を実現
した街として世界的に知られている。人口 22 万人のこの街では、長年にわたり、市民と行政
フライブルク市役所(ドイツ)
の協働作業によって、原発建設反対運動から端を発し、無公害都市、省エネ・ソーラーの積
極導入、ごみは燃やさず、ごみゼロを目指し、資源化が可能なもののリサイクル、交通対策
に取り組んできた。

エコタウン ヴォーバン団地
今回の調査では、始めにフライブルク市のエコタウンヴォーバン団地を視察した。住戸 2,000
戸、約 5000 人が居住する団地である。
フライブルク市公認講師の前田成子氏の説明では、この団地は、以前は、NATO 軍 -フランス
軍の駐留地であり、フランス軍撤退後に広大な空き地となった、この土地をフライブルグ市が
国の支援のもと購入し、市が住宅開発を行った。
エネルギー団地としての機能を持つ住宅は、基本的に太陽光パネルを、市の補助金も交え入
居者が設置し、売電も行っている。
団地は分譲住宅、集合住宅があり、一戸建てや、3階建てでワンフロアずつを3軒で所有す
るなど多様である。各々、デザインも自由であり、入居者が自らのライフスタイルにあった住
宅の景観を作り上げている。
団地は、ゾーニングされており、車の各住宅への乗り入れは基本的には出来ない。団地の端
に集合パーキングが設置されている。住宅前の幹線道路には、市民の足となっているフライブ
ルグ市の特徴である路面電車 LRT が走っている。町の中心地までの足となっており、一番、離
れている家からも 500 メートルの距離に電停が計画的に配備されている。
この団地の特徴は、多様なコンセプトがあること。さらに、フライブルク市が緯度では、日
本の北海道より北に位置し、エネルギー消費の約 80%が冬の暖房に使われており、この団地の
居住者の暖房に係る光熱費を、ソーラーパネル、3重窓、気密性の高い住宅資材を使用し、低
く抑えることに成功していることである。
また、団地内には、学校、幼稚園、商店も計画的に配備されており、歩いて日常生活を過ご
せる住環境を作り上げている。近くを走る路面電車も、騒音対策にいろいろ工夫を凝らしてお
り、緑化軌道の採用、継ぎ目のない線路、車輪もゴムタイヤなども使用している。
入居希望者は、多数に上り、今後、新たな開発や路面電車の拡大なども計画されているとの
ことである。
ヴォーバン団地内を走るトラム
フライブルク市役所(ドイツ)

環境首都への契機
次に、市役所でレクチャーを受けた、フライブルク市全般の環境施策、交通対策については、
前田氏から、以下の説明を受けた。フライブルク市が環境首都への道のりを歩み始めた契機と
なったのは、フライブルク市近郊のヴィールというところに、1970 年代初頭に原子力発電所の
建設計画が持ち上がった時の、建設反対の市民の運動に始まる。このヴィールはこの地域の市
民がこよなく愛する黒い森―シュワルツバルトにあり、猛烈な反対運動が起き、原発に依存し
ない生活は、環境を守り、自然を愛するライフスタイルへの変換を伴うものとして、市民意識
が醸成されていったことなどが考えられる。

まちづくりの哲学
~車中心の街からの転換~
フライブルク市の街づくりのフィロソフィ
ーとは、5 本の指の緑の都市計画といわれ、
次のような計画に基づいている。
(都市計画の上で5本指の形に緑地帯、住宅
地を設けることから名付けられた)
フライブルク市の都市計画概念図
(説明者の資料から抜粋)

車への依存を減らす交通政策
交通政策では、トラム優先の交通政策のもと、効率のよいパーキングシステム、自動車道路
の整備、自転車交通の促進、公共交通に促進、公害の少ない住宅地域(前述のエコタウン)な
どである。パークアンドライドが知られるフライブルク市も、かつては、車中心の街となり、
車社会の到来は当然、排気ガスの増加、交通渋滞、騒音などの公害を招いた、オールドタウン
といわれる街の中心は過疎化し、郊外へと人が流出し、町へは車で行くという傾向にあった。
そこで中心市街地の活性化のため、商品の規制をかけ、大型スーパーの規制、町の中心地の商
店の品目の棲み分けを政策的に誘導し、歩いて買い物をするコンパクトシティを目指した。
車からの依存を減らすために、路面電車の拡張、バス路線の整備、自転車専用道路、歩行者
ゾーンの設置、中心地の駐車料金の大幅値上げなどを行うとともに、都市の美観政策として小
フライブルク市役所(ドイツ)
川の整備なども積極的に行った。
中心市街地の美観政策(小川の整備)
(説明者の資料から抜粋)
市電の広報では、「考え直そう
乗り換えよう」
とのスローガンを掲げ、交通文化を考えるきっかけ
を作るなども行った。現在、パークアンドライドの
ための駐車場は 2000 台となり、無料で使える。
公共交通に関するキャンペーン資料
(説明者の資料から抜粋)
パークアンドライドのための駐車場、乗りかえポイントの様子
(説明者の資料から抜粋)
フライブルク市役所(ドイツ)
また、レギオカルテという地域環境定期券
を廉価で販売し、この定期券で、ドイツ鉄道
の利用も可能とし、鉄道利用者の増加対策を
行っている。前述した通り、路面電車の経営
に関しては、企業も協力し、車両購入も国と
州が補助金を拠出している。
環境定期券(レギオカルテ)
(説明者の資料から抜粋)

環境に配慮したエネルギー政策
エネルギー施策では、新しいエネルギーとして、天然ガスを活用したコジェネレーション発
電に力を入れており、地域暖房の市内の消費電力の半分を提供するまでになっている。コジェ
ネレーションによる自家発電を行っている大学病院や、余熱利用で付近の住民に暖房システム
を供給している工場もある。
また、省エネハウス(パッシブハウス)についても力をいれており、ヴォーバン団地などエ
ネルギー効率の良い住宅や、余剰エネルギーの利用システムなども積極的に導入している。
太陽光発電の導入促進は、従来どおり、積極的に推進しており、フライブルク市には、世界
的に有名な太陽物理学研究所とソーラーエネルギー・システム研究所、さらに太陽光エネルギ
ーの国際的組織(ISES)の本部もある。
省エネハウス改築の様子
(説明者の資料から抜粋)
太陽光発電を効率的に活用するため、
太陽の向きに合わせて回転する家
(説明者の資料から抜粋)
フライブルク市役所(ドイツ)
4 主 な 質 疑

トラムは、今後も整備していくのか。
→ まちの中心を南北に並行して走る路線は、乗客でいっぱいである。現在、大きな整
備計画があり、フライブルクの中だけでなく、隣の街まで伸ばすことになっている。

街の中心部の駐車場は料金が高く設定されているとのことだが、障がい者等にはどのよ
うな配慮があるのか。
→ 障がい者用には、特別の駐車場が設定されている。中心部の駐車場を利用している
のは、7割以上が搬入用の車両である。

日本では、コンビニなど 24 時間営業だが、ドイツでは省エネにどのように取り組んでい
るのか。
→ 閉店法令があり、例外はあるが、小売店の営業は平日だけで、土日は休み。この考
え方は宗教から来ており、意識として根付いている。ただし、土曜日に営業ができる
ようになるなど、徐々にではあるが、段階的に緩和されてきている。

大型店の規制はどのようになっているのか。
→ 都市計画のマスタープランで規制している。

トラム整備に際し、車の流入制限などの規制がかかることについて、反対運動はなかっ
たか。
→ まず、1年間をテスト期間とし、
行政と商工会議所、小売店組合が客
の流れなどの変化をチェックした。
加えて、沿線景観の美観を関係部
署が連携してきっちり行い、バス停
には買い物の荷物預かり所を設ける
などした結果、スタートして数ヶ月
でトラム利用客が増え、売り上げが
上がるなどの成果が確認できた。
フライブルク市役所会議室での説明聴取の様子

自転車道の整備はどのように行っているか。
→ 大学の街であり、平らな街の中心地をターゲットに、市ができるだけ安価な方法で整
備している。駐輪場は、都市計画で市が整備することになっている。
フライブルク市役所(ドイツ)
5 所
感
ヴォーバン団地については、総じて、大変、閑静な住宅地を計画的に開発した印象を持った。
LRT も平均8分ほどで次の便が来て、アクセスに負担を感じさせないものとなっている。
これは、ドイツ、フランスの公共交通の基本的な考え方に、公共交通は赤字で当たり前、そ
の赤字を、企業も含んだ税制の中で補てんし、経営していくとの考え方があり、安く多くの車
両を走らせることとしている。因みにフライブルク市の路面電車は約 10%の税金の繰り入れ
経営であり、ドイツ全体では4番目の健全経営になっている。
日本の場合、公共交通においても、赤字経営は許されない状況であり、赤字になるから便数
を減らす、便数が少ないから利用しないなどの悪循環に陥っている公共交通が多い。そして、
光熱費削減、CO2削減に寄与する再生エネルギー活用の術は、太陽光パネルの個人住宅への
設置拡大であり、市民もこの普及拡大に理解を示し、補助金のための税拠出を受け入れている
ところは、今後、京都府での再生可能エネルギー拡大の施策を展開するにあたって参考となっ
た。
フライブルク市の環境政策の説明については、環境首都としての道のりは平たんなものでは
なかったと思うが、日本と比較して、一つは地方自治制度の違いもあり、緑の党の政策が受け
入れられたこと、また、ドイツ人の気質、「決めたことは守る」といういい意味での頑固さな
どが、この街を作り上げてきたと感じる。また、原子力発電に対する考え方も、ドイツは難し
い国際事情の中、原発廃止に踏み切ったことから、環境・エネルギーに対する施策は一定の到
達点を迎えたとの感もある。日本においては、東日本大震災の後、原子力発電に対する考え方
も変化してきている。
いずれにせよ、再生可能エネルギーの利活用を飛躍的に普及させていく方向性は定まりつつ
ある。原発反対から始まり、都市再生、ごみ減量、リサイクル、新エネルギーの導入、交通対
策等、一つ一つが有機的にリンクし、街づくりを行ってきた経過には羨ましく思うところもあ
る。
人口減少社会、超高齢社会を迎え、今後、街づくりを考えるに当たって、様々な課題に対応
するグランドデザインが求められることは間違いないと感じるものである。
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