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インド࡮グジャラート州中部における 農業労賃の低位性

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インド࡮グジャラート州中部における 農業労賃の低位性
インド࡮グジャラート州中部における
農業労賃の低位性
農村インフォーマル金融制度との関連に焦点を当てて
岡 通太郎
Ⅰ 問題の所在
近年、インドは目覚しい経済成長を経験している。それは都市部に限られた話ではない。
多くの貧困層が滞留する農村部においても、徐々にではあるが、着実な諸変化がもたらさ
れている。とりわけ大きな変化は、高く安定した賃金をもたらす非農業就業機会の拡大で
あろう。特に、十分な農地を持たない限界農(marginal farmer)や全くの土地なし(landless)
を中心とする多くの貧困層にとって、非農業就業機会の拡大は、主に次の 2 つの点で重要
な意味がある。第 1 の点は、非農業部門から得られる所得そのものである。従来行ってい
た農業労働よりも高く安定した賃金を得ることによって、彼らの所得は劇的に向上するだ
ろう。そして第 2 の点は、非農業部門に就業できなかった貧困層に対しての波及効果であ
る。これは、トリックル࡮ダウン(trickle down: 裨益)効果と呼ばれるもので、農業部門に
居残った農業労働者に対しても利益が「滴り落ちる」のである。なぜなら、非農業就業者
が増え、村内の農業労働者の数が減少すると、労働市場の需給調整メカニズムが働き、最
終的には農業労賃(agricultural wage)の水準が上昇するからである。このように、非農業就
業機会の拡大は、直接そこに就業できた者だけでなく、就業できなかった貧困層に対して
も、一定の波及効果があると考えられ、また実際にもこうした現象は、インド全土におけ
る一般的傾向として確認されているのである(Bhalla, 1993; 佐藤࡮宇佐美、1997)。まさに経
済成長の効果が、市場メカニズムを通じて広く農村貧困層へ裨益しつつあるといえよう。
本稿で事例として取り上げるグジャラート州中部においても、第 1 の点、すなわち農村
部で非農業所得が拡大している点は、既に 1980 年中盤から多くの研究者によって指摘さ
れている。特にバサントらは、非農業就業といっても、都市へ移住する必要がなく、農村
から近隣都市へ毎日通う(commutation)就業形態が新たに出現しつつある点を強調してい
る(Basant and Joshi, 1994)。
ただし第 2 の点については、実は大きな問題がある。図 1 はグジャラート州における農
業労賃の値を示したものである。これをみると、グジャラート州中部及び南部の農業労賃
が、州内の他地域に比べて 2 ∼ 3 分の 1 と低く、また表 1 にあるように、急速な経済成長
1)
を経験した 90 年代に入ってからも、その上昇が著しく緩慢であったことが分かる 。つま
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図 1 グジャラート州中࡮南部の農業労賃の低位性
(注)
ケーダは 2002 年フィールドワーク。
(出所)
GOI(1999)より筆者作成。
りグジャラート州中部及び南部では、トリックル࡮ダウン効果について大きな疑問が残る
のである。
なぜ、中部及び南部ではトリックル࡮ダウン効果が十分に発揮されないのだろうか。本
稿では、グジャラート州中部のアーナンド(Anand)県 G 村における実態調査を通じてこ
の疑問に接近したい。後述するように、G 村にも経済成長の波は確実に押し寄せている。
そこには多くの非農業就業機会が存在し、バサントらが指摘した通いの非農業部門で働く
者も相当数存在する。そこへ就業した場合、賃金は高給のもので 1 日平均 200 ルピー以上、
また低給のものでも約 60 ルピーである。一方で農業労働の賃金は 1 日わずか 24 ルピーに
留まっていた。このような大きな賃金格差がなぜ残存するのか、そのメカニズムを解明す
ることが本稿のねらいとなる。
ここで上記の課題にかかわる 2 つの先行研究を紹介しておこう。まず一つ目は、非農業
部門の参入障壁にかかわる研究である。佐藤࡮宇佐美(1997)は、上記のような賃金格差を、
学歴などによる労働市場の分断(segmentation)によって部分的に説明した。そして非農業
部門といっても一様ではなく、その多様性を考慮することが重要であるとしている。本稿
においても参入障壁や多様性を視野に入れた分析が重要となるであろう。
もうひとつは農業労賃そのものが何か別の要因で低く設定されているとする研究であ
る。例えばバス(Basu, 1983)のインターリンケージ仮説はその代表的考え方であろう。こ
の仮説では、農業労働者が、その雇用主から低い利子率で借金をしている場合、通常の利
子率との差額部分が農業労賃から差し引かれ、そのために賃金が低くなっていると解釈さ
れる。実際、調査村でもカイミ(kaymi)と呼ばれるインフォーマル金融制度が存在し、雇
用主は農業労働者へ低い利子率(実際は無利子)で融資をしている(以下、カイミ制度と呼ぶ)。
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表 1 地域別農業労賃の推移(1990/1 ∼ 1997/98)
県
1991/2 1992/3 1993/4 1994/5 1995/6 1996/7 1997/8
上昇率
91/2–97/8
中࡮南部
ガンディーナガル
ケーダ(アーナンド)
バローダ
スーラト
バルサド
25
15
15
15
12
25
15
15
15
20
25
20
16
15
25
25
20
16
15
25
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
35
n.a
23
15
30
0.40
n.a.
0.53
0.00
1.50
北部
バナスカンタ
サバルカンタ
15
20
27
20
27
20
30
20
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
50
30
2.33
0.50
半島部
ラージコット
ジャムナガル
バウナガル
アムレリ
25
23
25
30
25
35
25
30
25
25
30
30
50
35
30
45
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
50
50
60
60
1.00
1.17
1.40
1.00
砂漠
カッチ
15
35
35
40
n.a.
n.a.
50
2.33
(注)
n.a. はデータ未入手。単位はルピー/日、名目値。
(出所)
GOI(1999)より筆者作成。数値はその他農業労働、男子、1 月のもの。
したがってこれが G 村の農業労賃を低く抑えている可能性がある。
本稿では上記 2 つの点に加え、そこでは十分に吟味できない点、すなわち村の社会関係
の役割にも注目したい。労働者が日々の生活の中で抱えるリスクや、カーストを軸とする
パトロン࡮クライアント関係といった、農村社会の地域的特徴が、かかる農業労賃の低位
性のひとつの要因となっている可能性は大いに考えられよう。
本稿の構成は以下の通りである。まずⅡでは調査村の農村構造を概観し、その後Ⅲにお
いて農業労賃の低位性をもたらす諸要因の考察に入る。Ⅲでは、最初に非農業就業の参入
障壁と多様性が考察され、次にインターリンケージ理論が紹介、援用される。続くⅣでは、
Ⅲで十分に説明しきれない部分について、農業労働者のリスクやパトロン࡮クライアント
関係といった農村社会の側面から考察を加えていく。Ⅴは本稿のまとめである。
Ⅱ 調査村の概況
2)
筆者は、2002 年∼ 2004 年にかけて、グジャラート州中部のアーナンド県 G 村 にて合計
3)
約 4 ヶ月間の農村調査を実施した 。G 村は世帯数 491 戸(2002 年調査時)、面積 266 ヘクター
ル(1991 年センサス)の中規模農村で、タバコを中心にバナナやジャガイモ等の換金作物が
主に栽培されている。作付面積の約 7 割をタバコが占める一方で、肥沃な沖積土壌と豊富
な地下水に恵まれ、小麦と雑穀類の 3 期 2 毛作も可能である。また村から約 5 キロ北上す
ると、人口約 13 万人の都市アーナンドがあり、村からそこへ通って働いている者も少な
からずいる。G 村の農村構造をここで説明し尽くすことはできないが、土地、労働、所得、
およびカーストに関連する重要な特徴を 3 つだけ指摘しておこう。なお以下に挙げる 3 点
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図 2 調査村の居住区とカースト
(注)
インディラ࡮アワスには、ハリジャン、ラジプート、ボイ、ワサワ、ビルなど後進諸階級(OBC)
が雑居。
(出所)
拙稿(2004)
。
をはじめ、本稿の考察は、カースト別にランダム抽出した 120 世帯のサンプルデータを中
4)
心に展開される。カースト別のサンプル戸数は図 2 の通りである 。カーストには、パティ
ダール、ラジプート、ボイ、ハリジャン等があり、またムスリムも村ではカーストの一部
として認識されている。
1 点目の特徴は、農地分配の偏りである。表 2 はサンプル 120 世帯を農地の所有規模別
に分類したものである。まず、中࡮大農は僅か 13 戸(戸数比 11%)であるが、農地の所有
面積をみると、彼らが全体の 69% を所有していることが分かる。一方で、自作地だけでは
生計を維持することができないと思われる土地なし࡮限界農は、合わせて 83 戸(戸数比
69%)に上り、農地の分配は明らかに不平等である5)。さらに表には、13 戸の中࡮大農のう
ち、11 戸がパティダール࡮カーストに属することも示されている。パティダールは、英領
期の農地制度において優遇を受けてきた農耕カーストである。彼らは特にグジャラート州
の中࡮南部に集中して居住し、現在においても同地における政治࡮経済的な最有力カース
トである。パティダールとその他のカーストを比較すると、戸数比で 16% に過ぎないパ
ティダールが農地全体の 70% を所有しており、パティダールの圧倒的優位性が明らかとな
る。一方その他のカーストをみると、中࡮大農の 2 戸、小農の 18 戸を除き、残りの 81 戸
6)
が全て土地なし࡮限界農となっている 。
2 点目の特徴は、農地貸借市場と農業労働市場の特殊性である。G 村における現行の小
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表 2 農地分配
世帯数
カースト分類
農地規模分類
合計
戸数
〈%〉
面積(ビガ)
〈%〉
パティダール
戸数
〈%〉
面積(ビガ)
〈%〉
その他の
カースト
戸数
〈%〉
面積(ビガ)
〈%〉
合計
120
315.7
19
(16)
219.3
土地なし
0
34
限界農
小農
0.1 ∼ 1.5 ビガ 1.6 ∼ 3.0 ビガ
49
24
中࡮大農
3.1 ビガ以上
13
〈28〉
0.0
〈41〉
42.1
〈20〉
55.7
〈11〉
217.9
〈0〉
〈13〉
〈18〉
〈69〉
1
1
6
11
0.0
1.5
13.1
204.7
(70)
101
(84)
96.4
33
0.0
48
18
40.6
42.6
2
13.2
(30)
( )は列の合計に対する百分率を示す。
(注)
〈 〉は行、
(出所)
拙稿(2004)
。
作契約については別稿でやや詳しく論じてあるので繰り返しは避けるが、パティダールが
その他のカーストに対して農地を貸し出すケースが 1 件もないという事実は特筆する必要
7)
があろう 。そのため、農地貸借市場を通じた経営耕地面積の平準化は達成されておらず
8)
(実際は逆小作 によって不平等が拡大すらしている)
、その他カーストの村民は、パティダール
の農地で農業労働者として雇われるか、あるいは非農業を主な生計手段とせざるを得ない
状況となっている。一方で、農業労働市場では、パティダールが雇用主となり、その他の
カーストが農業労働を行う、という明瞭な対照構造が貫徹している点を強調しておく必要
があろう。実際、土地なし࡮限界農あるいは小農のパティダールも存在するが(表 2)、彼
らは農業労働を行っていないし、また逆に、中࡮大農のその他カーストが労働者を雇う
ケースも存在しない。一般にパティダールは農業労働者にならないばかりか、自作地での
農作業をも極力避け、労働者を雇い入れて作業監督のみを行う傾向があるとされているの
である(Pocock, 1972)。
9)
第 3 点目は所得構造である。表 3 は階層別に 1 人当りの平均所得を推計したものである 。
中࡮大農が、農業経営から高い所得を獲得している一方で、土地なし࡮限界農は農業労働
と非農業所得を主要としつつも、中࡮大農の 3 分の 1 程度の所得に留まっていることが分
かる。依然として、農地所有の格差が貧富の格差を決定する度合いが高いといえよう。な
お、土地なし࡮限界農の非農業所得が農業労働所得のほぼ 4 倍となっているが、これは一
人当りの賃金が高いためであり、非農業就業者の人数がそこまで多いことを示すものでは
ない。後述するように、非農業就業者の人数は 4 割強に達しているが、依然として過半数
10)
が農業労働に依存している状況である 。
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表 3 1 人当り所得
所得源別所得額(Rs.)
農地規模分類
世帯数
農業経営
農業労働
酪農
地代
非農業
合計
サンプル合計
120 世帯
2,559
995
1,264
65
4,536
9,419
34 世帯
49 世帯
24 世帯
13 世帯
133
641
2,065
16,058
1,403
1,049
849
77
462
769
1,256
4,967
0
29
55
369
5,052
5,272
3,613
2,157
7,050
7,760
7,839
23,628
土地なし
限界農
小農
中࡮大農
(注)
世帯員数は子供(10 歳以下)に 0.5、女子に 0.7 を乗じて調整してある。
(出所)
拙稿(2004)
。
Ⅲ 参入障壁とインターリンケージ
高い賃金の非農業部門の存在にもかかわらず、なぜ G 村の農業労賃は低いのか。これを
明らかにすることが本稿の課題である。冒頭で述べたように、ここでは以下の 2 つの状況
を検討したい。1 つは、市場が分断され、非農業部門への参入が思ったほど開かれていな
い可能性であり、2 つ目は、雇用主から農業労働者への有利な条件の融資が賃金を押し下
げている可能性である。以下順に検討していこう。
1.ƷⰞ⡕Ꮱ⤴⫨ǽ‫ڹ‬ӱ⭿ॕ
非農業部門と一口にいっても、多様な職種がある。まず、年雇の安定的な雇用(以下、
安定雇用と呼ぶ)と、日雇の不安定な雇用(以下、不安定雇用と呼ぶ)とでは貧困層の所得に
与える影響は相当に異なる。また、安定雇用の中でも賃金の非常に高い職種とさほど高く
ない職種があり、これらは分けて議論したほうが良いだろう(以下、前者を高給安定雇用、
11)
後者を低給安定雇用と呼ぶ) 。さらに、自営業者も少なからず存在する。これに関しても所
得の高い自営業と低い自営業に分けて議論しよう(以下、前者を高所得自営業、後者を低所得
12)
自営業と呼ぶ) 。
上記の分類を整理したのが図 3 である。まずサンプルの全土地なし࡮限界農 83 戸にお
ける就業者 149 名のうち、農業労働者が 84 名、非農業就業者が 65 名となり、土地なし࡮
限界農の非農業就業者比率が 44% に達していることが分かる。そしてその内訳は、高給安
定雇用が 12 名、低給安定雇用が 24 名、不安定雇用が 13 名、高所得自営業が 4 名、低所得
13)
自営業が 12 名となっており、過半数が安定雇用となっている 。こうしてみると、G 村の
14)
貧困層にも、非農業部門への参入がかなり開かれているようにみえる 。
さて、職種ごとの参入障壁をみてみよう。表 4 では、上記の分類別に、年間所得、就業
日数、1 日当りの賃金、さらに学歴と参入障壁の高さが示されている。順に具体的に説明
15)
していこう。まず、高給安定雇用とは、大学の上級事務員や留保制度枠の公務員 などで
ある。これは最も高所得を得られる職種となっている。所得水準は、農業労働の実に 16
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図 3 土地なし࡮限界農の就業状況
(注)
分類基準は本文を参照。
〈 〉は就業人数、
( )は内女性の人数。
(出所)
フィールドワーク 2002/3 年。
倍以上である。しかし同時に、学歴も 13.8 年と高く、高学歴を必要とする職種といえよう。
16)
学歴の内訳は、修士号 4 名、学士号 2 名、HSC2 名、9 年修了 2 名、6 年修了 2 名で 、農
業労働者との格差が歴然としている。6 年修了の 2 名は高学歴ではないが、彼らは G 村全
体で 2 名しかいない留保制度枠の公務員(注 15 参照)で、非常に特殊な事例である。いず
れにしてもこの職種は、教育水準を中心とする障壁によって労働市場が分断しているとい
えよう。2 番目に所得が高いのは、高所得自営業である。村内における雑貨店経営、建設
工事の斡旋、あるいは食肉用の山羊商で、これらは店舗等の資本や特殊な技量(コネや交
渉力を含む)を必要とする自営業である。人数も 4 名と少なく G 村の土地なし࡮限界農の
なかではやや特殊な職種となっている。したがって、学歴は高給安定雇用ほど高くはない
が、農業労働者にとってはやはり参入障壁の高い職種である。残りの 3 つの職種のなかで
は、低給安定雇用の所得が最も高く、農業労働の約 4 倍も高いことが確認できる。彼らは、
主にアーナンドへ毎日通って、商店や企業、または役所などで、掃除や荷物運びなどの雑
役全般を行っており、一般にピオン(peon: 雑役夫)と呼ばれている。全職種のなかで最も
人数が多いのもこの雑役夫であり、さらに学歴も上記 2 つの職種ほど高くない。残りは不
安定雇用と低所得自営業であるが、不安定雇用は主に土木作業員で、年間就業日数が少な
表 4 非農業就業の分類と参入障壁
職種
人数
年間所得
(内女性) (Rs. /人)
年間
就業日数
賃金
学歴
参入障壁
(Rs. /日) (教育年数)
高給安定雇用
高所得自営業
低給安定雇用(雑役夫)
低所得自営業
不安定雇用
12(1)
4(0)
24(0)
12(1)
13(3)
73,500
48,725
17,200
8,168
4,657
250
334
293
147
70
294.0
146.0
58.8
55.7
66.8
13.8 年
9.5 年
8.3 年
5.5 年
7.1 年
高
高
中
低
低
合計
65(5)
25,824
235
109.7
8.4 年
―
84(33)
4,473
182
24.6
6.1 年
―
(参考)農業労働
(注)
賃金は年間所得を就業日数で除した値。参入障壁の高低については本文を参照のこと。
(出所)
フィールドワーク 2002/3 年。
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く、年間所得も最も低くなっている。また低所得自営業は村内における薪集め、笊作り、
ラジオ修理などである。
以上、5 つの職種をみると、確かに高い賃金の高給安定雇用と高所得自営業は、高学歴
や技術といった参入障壁が高く、市場の分断が明らかにみてとれる。しかし一方で、最も
人数の多い雑役夫はどうであろうか。雑役夫の所得は、農業労働より約 4 倍も高いが、教
育水準をみると、それほど決定的な高学歴を必要としているわけではない。また技術に関
しても、24 名の雑役夫を調査した結果、彼らが特別な技術(カーストやコネクションも含めて)
を持っているということはほぼなかった。ただし、雑役夫への参入障壁の一つとして、彼
らの年齢が若かった点は指摘できる。全雑役夫 24 名の平均年齢は 31 歳、さらに新規就職
年齢は 28 歳が最高であり、雑役夫は高齢になってからの新規就職が難しい職種である。
以下、雑役夫が貧困層にどれほど開かれた雇用機会であるか、さらに詳しく検討してみ
よう。実は、雑役夫への就業には、以下に述べるように、
「偶発性」も一つの障壁となっ
ている。例えば R(ラジプート⿉17 歳男性)は、アーナンドの食用油販売店へ雑役夫として
2 年前から勤務しているが、その就職は以下のようにして行ったという。彼は父親、母親、
妻、妹の土地なし 5 人世帯で、父親は過去 25 年間、あるパティダールの農業労働者とし
て働いており、母親は別のパティダールの農地で同じく農業労働を行っていた。妻、妹も
農業労働者であった。R は、通常の農業労働世帯の子供がそうするように、11 歳で学校に
通うのをやめ(6 年修了)、農業労働に従事していた。しかし、13 歳のとき、既に雑役夫を
していた友達と遊んでいるところへ、その友達の雇用主が現れ、気に入られてそのまま雑
役夫となったという。また S(ムスリム⿉20 歳男性)も、アーナンドの製パン会社の雑役夫
として 5 年前から働いているが、その就職も偶発的であった。彼は、1 ビガの農地を所有
する限界農 5 人世帯の次男で、父親はパティダールの農業労働者を 30 年以上続けていた。
母親、兄、兄嫁も農業労働者であった。S は無学歴で、幼い頃から父親の農業を手伝い、
12 歳頃から農業労働者になったが、15 歳のときに、アーナンドで行われた著名なムスリ
ム教徒の結婚式に出席した際、偶然出会った列席者の 1 人にこの就職を斡旋してもらった
という。
上記 2 つの例をはじめ現在の雑役夫の 24 名は全て農業労働世帯の出身で、その就職時
の状況も、系統立った就職活動を経由していないという意味での偶発的な機会に恵まれた
者がほとんどであった。
確かに、雑役夫への就業は若年層に有利であり、またその就業には偶発的要素が強く、
誰もが自由に入退場できる開かれた職種とは言えない。この点が、トリックル࡮ダウン効
17)
果をうまく機能させないひとつの大きな要因となっていることは事実であろう 。しかし
一方では、若い農業労働者が雑役夫となる可能性が大いに残されていることもまた事実で
あり、それは非常に魅力的な職種である。こうした状況下では、農業労働者の雇用主は、
労働力を確保するために、賃金を多少なりとも引き上げざるを得なくなるはずである。し
かし現実にはこの状況下でもなお、農業労賃は約 24 ルピーのままであり、雑役夫の賃金
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との格差は 2.5 倍もついている。こうした大きな賃金格差を、参入障壁だけで説明するの
は難しいと結論付けざるを得ないだろう。
2.ƷȬɻɇʀɲɻȹʀɀ
G 村の農業労賃水準が低いのは、町での非農業就業機会との分断という外的要因の他に、
農村での農業労働の雇用状況という内的要因にも起因している可能性がある。ここでは、
バスのインターリンケージ仮説を検討していくが、そのまえに、まず農業労働の作業内
容と賃金を簡単に説明しておこう。前述のように G 村の作付体型は労働集約的なタバコ作
18)
を中心に展開されている 。作付期間中(8 ∼ 3 月の約 7 ヶ月間)はほぼ毎日、除草(nindaaman)、
間引き(pira: 余分な葉を取り除く)、枯葉採取といった作業が必要となり、1 日約 5 人(10 ∼
15 ビガ当り)の農業労働力を要する。大きな農地を所有するパティダールは、15 人前後の
専属的な労働者(後述)を雇用しているケースもみられる。農業労働者の労働時間は午前
9 時から 12 時までと午後 2 時から 6 時までの計 7 時間であり、これらの作業に対する賃金
19)
は、男女ともに一律 1 日 24 ルピーである(食事等の支給はない) 。またこの賃金水準は、
同村のパティダール間のインフォーマルな協議によって決定されているため、雇用主間の
格差も存在しない。なおグジャラート州の法律では、農業労働に対する最低賃金が 1 日 50
ルピーと定めらており(2003 年 11 月時点)、したがって G 村の 24 ルピーは、これよりも大
幅に低い水準となっている。
さて、バスのインターリンケージ仮説とは以下のようなものである。まず、農業労働者
が、その雇用主から借金をしている場合を想定する。そして、労働者へ支払われる賃金が、
市場賃金水準よりも低い状況を考える。こうした状況は、途上国の農村において、しばし
ば観察されるものである。しかし、これを即座に搾取と言ってしまえばミスリーディング
20)
になりかねない、とバスは言う 。すなわち、労働者は賃金で損失をしている一方で、実
は、有利な金利で融資を受け、そこで賃金の損失分が補填されている可能性があるという
21)
のである(逆に賃金が高く、その分だけ利子率も高いという状況も説明可能) 。
G 村には、これと全く同じ状況が存在する。それがカイミ制度である。カイミ制度とは、
特にグジャラート州の中࡮南部の農村部に集中して観察されるインフォーマル金融制度
22)
で、雇用主が労働者に対して無利子で融資をするものである 。G 村の農業労賃は、1 日
24 ルピーと確かに低い。しかしバスの理論に当てはめて解釈すると、労働者は無利子で融
資を受けているので、本来支払うべき利子の分だけ補填されていることになる。ここで補
填部分を含めた 1 日あたりの実効賃金(W)を考えてみよう。それは賃金 24 ルピーに、本
来徴収されるべき利子額(R)を足したものとなり、
W = 24 + R
と表すことができる。さらに R を推計してみよう。まずカイミ制度の融資金額と返済ター
ムであるが、融資金額はおよそ 1 万ルピー前後で、返済は、通常 1 ヶ月ごとに賃金のなか
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から払い戻すかたちで行われる。例えば 1 ヶ月に 20 日間労働をした場合、1 ヶ月分の賃金
480 ルピー(24 ルピー×20 日)のなかから 100 ルピーを返済する、といった方法である。1
回の返済金額は状況に応じてばらつきはあるが、生活の維持を考えると、100 ルピー前後
が限界である。無利子なので、1 万ルピーを借りて毎月 100 ルピーずつ返済をすれば、
100 ヶ月(8 年 4 ヶ月)で完済できることになる。このように、毎月一定金額ずつ元本の返
済を行っているとすると、本来徴収されるべき利子の総額(I)は、
I = iX + i(X – t) + i(X – 2t) + ... + i[X – {(X/t) – 1}t]
となる。ただし、i は貸し手の機会利子率(月利)、X は融資金額(元本)、t は 1 ヶ月の返済
金額を示す。一方、この利子総額を、借入から完済までの総労働日数で割れば、本来支払
うべき 1 日の労働あたりの利子額(R)が算出できる。式で表せば、
R = I/{d · (X/t)}
となる。ただし d は 1 ヶ月の労働日数(平均) である。ここで、仮に機会利子率 i を月利
8%、融資金額 X を 1 万ルピー、1 ヶ月の返済金額 t を 100 ルピー、1 ヶ月の労働日数 d を
17 日と考えて計算すると、本来徴収されるべき利子総額(I)は 4 万 400 ルピーとなり、1
日の労働あたりの利子額(R)は 23.8 ルピーとなることが分かる(i の 8% はパティダール同
士が村内で貸し出すときの利子率、d の 17 日は 2002 年度の実際の平均労働日数を採用した)
。した
がって、この場合の実効賃金(W = 24 + R)は、47.8 ルピーとなり、これは法定最低賃金の
50 ルピーに非常に近い水準となる。また、雑役夫の賃金 58.8 ルピーにも、10 ルピーほど
23)
の格差は残るが、かなり近い水準となる 。
このようにインターリンケージ仮説を援用し、さらに先に考察した非農業部門の参入障
壁と総合して考えれば、G 村の農業労賃の低位性はかなりの部分が説明されうるのである。
しかし、G 村の農業労賃の低位性には、バスの仮説を援用しても説明しきれない側面が
あることも事実である。それは主に以下の 2 点である。
まず 1 点目は、融資金額と 1 回の返済金額が一定ではないことである。先述したように、
融資金額は大方 1 万ルピー前後、1 回の返済金額もほぼ 100 ルピーが一般的であるが、な
かには 2 万ルピー以上を貸し出したり、1 回に 50 ルピーしか返済できなかったりというよ
うに完全に一定なわけではない。厳密に言えば、その違いによって利子部分 R も異なって
くるので、賃金もそれに合わせて上下させる必要がある。しかし実際の賃金は融資金額や
返済金額にかかわらず一律で 24 ルピーとなっており、この点はインターリンケージ理論
では説明ができない。
2 点目はより重要な点であるが、全ての労働者がカイミ制度を利用しているわけではな
いことである。したがって、カイミ制度を利用していない労働者を含めた全ての労働者が
一律で 24 ルピーという低い賃金を受け入れている事実をインターリンケージ理論では説
明できない。調査時点におけるカイミ制度の利用者(以下、カイミ労働者と呼ぶ)は、サン
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プル世帯の男性農業労働者 51 名のうち 11 名(22%)であり、残りはカイミ制度を利用して
いない労働者である。にもかかわらず、すべての労働者が一律 24 ルピーで働いているの
である。なお、村ではカイミ制度を利用していない労働者をチュタック(cyutakku: 以下、チュ
タック労働者と呼ぶ)と呼んで区別しているが、カーストや居住区などの属性はこの区別と
は一致しない。
Ⅳ 賃金の上方硬直性
状況の違う農業労働者が、なぜ一様に 24 ルピーという低い賃金に甘んじているのであ
ろうか。特に、カイミ制度を利用している農業労働者は、全体の 2 ∼ 3 割に過ぎない(男
性は 22%、女性の正確な比率は不明であるが、聞き取りから判断して男性と同程度の比率と考えら
れる)
。
この問いに答えるためには、カイミ制度が単なる融資制度ではなく、実はそれが同時に
保険的機能も果たしている、という事実に着目する必要がある。土地などの担保用資産を
ほとんど所有していない G 村の農業労働者は、1 万ルピーにおよぶ高額金融源を他に持た
ない。その一方で、病気や事故による入院࡮手術費用や、子弟の結婚費用など、まとまっ
た高額出費が必要となる確率は非常に高く、農業労働者はその費用をいかに確保するかを
常に念頭におきながら日々の生活を営んでいる。カイミ制度は、いざという時にこうした
高額出費を賄うための、唯一の拠り所なのである。したがって、チュタック労働者は、将
来カイミ制度を利用して雇用主から確実に融資を受けられる立場にいなければならない。
そこで彼らは、賃上げ要求をせずに低い賃金で働き、それを将来への保険として甘受して
いると考えられるのである。以下、このことをもう少し詳しく述べよう。
まずカイミ制度が唯一の金融源だという点について、G 村の金融市場を確認しておこう。
インドの農村の多くがそうであるように、G 村においても貧困層への制度金融はほぼ存在
しないと言ってよい。村に一つだけ存在する信用協同組合も、組合員資格を獲得する条件
として、5,000 ルピーの定期預金口座の開設を義務付けており、貧困層の参加は事実上不
可能に等しい。実際に、組合員のほとんどがパティダールであることも表 5 から明らかで
あろう。他の制度金融としては、国営銀行の支店が村に設置されている。しかし、これも
24)
融資条件に土地担保が求められ、貧困層にはほぼ利用できない 。また、カイミ制度以外
のインフォーマル金融(雑貨店主による金貸しや親類間の融通)も若干行われているが、件数
も金額もカイミ制度より遙に小規模となっている。残る金融源は、近隣の町の金貸し業者
25)
が考えられるが、G 村でこれを利用している労働者は一人も存在しなかった 。これも恐
らく担保の欠如が大きな要因であろう。ではカイミ制度の条件はどうか。この点について
は、ほぼ全てのパティダールの共通認識として以下の 3 点が挙げられる。第 1 に、カイミ
制度はカーストなどにかかわらず、基本的には誰にでも利用する権利があり、担保も必要
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表 5 G 村信用協の組合員数(カースト別)
パティダールブラフミン ラジプート ムスリム
組合員数
村内の世帯数
1 世帯当りの組合員数
231
90
2.57
12
6
2.00
40
223
0.18
12
22
0.55
ボイ
ハリジャン
合計
4
69
0.06
1
87
0.01
300
491
0.61
(出所)
フィールドワーク 2002 年 3 月。
でない。第 2 に、しかし怠惰で無責任な労働者、あるいは極端に不健康な労働者には融資
は行わない。第 3 に、カイミ制度を利用した場合、債務を完済するまでの間、労働者は債
権者の農地で専属的に働くことを約束しなければならない(先述した専属的な労働者とは、
実はカイミ労働者のことである)
。また、債権者が要請した日には必ず出勤しなければならず、
その要請に応じるために、労働者は村内で常に待機し、無断で村外へ出てはならない。な
26)
お待機中の賃金は支払われない 、というものである。このように過酷な条件ではあるが、
一方では、覚悟さえ決まってしまえば、ほとんどの労働者に利用する権利があると言うこ
ともできる。いずれにしても、カイミ制度は、G 村の貧困層にとって、ほとんど唯一の高
額金融源なのである。
さて、カイミ制度が唯一の高額金融源であり、その金融源の確保がチュタック労働者に
とって重要であることは間違いない。しかし、なぜ彼らは低い賃金で働く必要があるのだ
ろうか。その答えは、上記の「怠惰で無責任な労働者には融資しない」という点と深くか
かわっている。労働者がカイミ制度を利用するためには、雇用主に「勤勉で責任感がある」
と評価されなければならないが、こうした評価を短期間で獲得することは難しく、長期間
かけて、雇用主との信頼関係を築く必要があろう。以下にみるように、この点が、賃上げ
要求をしづらい環境を作り上げているのである。
例えば土地なし労働者 A(ムスリム⿉30 歳)は、11 年前に自分の結婚費用を捻出するた
27)
めに、Z というパティダールから 7,000 ルピーを借りてカイミ労働者となっている 。別世
帯に住んでいる A の父親(52 歳)も過去 30 年以上 Z のカイミ労働者として働いている。A
は初等教育を 9 年受けた後、チュタック労働者として主に Z のもとで農業労働を行いつつ、
アーナンドでの雑役夫の職探しを行っていた。しかし、結婚するまでに雑役夫へ転職する
ことはできずに、結局 Z から結婚資金を借りるはめになった。また同じく Z のカイミ労働
者である B(ラジプート⿉42 歳)は、7 年前に母親の医療費として 1 万ルピーを Z から借り
ている。借金をする前は、細々と自作を行いながら、主に Z のチュタック労働者として現
金収入を得ていたという。妻もその当時からチュタック労働者として主に Z の農地で働い
ていた。また父親も 15 年前に死亡するまでは Z のカイミ労働者をしていたという。なお、
この 2 つの事例を含め、Z は合計 15 名(男性 7 名、女性 8 名)のカイミ労働者を雇用してい
るが、聞き取りの結果、その他のカイミ労働者もほぼ同じ経緯で借金をしていた。また、
Z 以外のパティダールにも聞き取りを行った結果、サンプルにおける全ての中࡮大農パ
ティダール(11 戸)は、ほぼ同じ経緯でカイミ労働者を雇用していることが判明した。つ
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まり、カイミ制度を利用した労働者は、皆チュタック労働者時代から特定のパティダール
の農地で働いていたのである(A や B のように世代を超えて同じパティダールに雇われている
ケースも多かった)
。このように、カイミ労働者は、融資を受ける以前から、ある特定のパ
ティダールとかなり緊密な雇用関係にあり、雇用主はそこで、彼らが勤勉で責任感のある
ことを認めていたのである。カイミ制度が、こうしたいわば信頼関係に基づく金融制度で
ある以上、チュタック労働者が賃上げ要求をしづらい環境となるのは、至極自然なことで
あろう。実際にも多くのチュタック労働者が、調査期間中、将来カイミ制度を利用するた
めに低い賃金に甘んじていると筆者に語っている。チュタック労働者は、将来の結婚や病
気のための出費が賄えなくなるという大きなリスクを抱えている。彼らはその保険とし
て、パティダールとの信頼関係を築き、いつでもカイミ制度を利用できる状態を維持する
28)
ために、低い賃金に甘んじていると考えられるのである 。
このことは、若く、比較的教育水準の高いチュタック労働者においても同様である。確
かに、彼らはカイミ制度に頼らなくとも町で雑役夫となり、そこで結婚資金などを工面で
きる可能性がある。ただし、そういった若年層であっても、雑役夫に就業する確信は持て
ない。特に A のように、結局カイミ制度に頼って窮地を逃れた事例を目の当たりにすれば、
高い賃金を要求するよりも、リスクの軽減のために低い賃金に甘んじる方を選択すること
は自然であろう。
さて以上ように、カイミ制度を保険として捉え、それがゆえにチュタック労働者も低い
賃金に甘んじているという状況はほぼ間違いない。しかし、ではなぜそれがカイミ労働者
と全く同じ「一律 24 ルピー」になるのかという疑問が依然として残っている。また、前
節で指摘したように、借入れ࡮返済状況が多様なカイミ労働者の賃金が、なぜ一律で 24
ルピーなのかという問題もある。この点においては、実は、ランジョウ=スターン(Lanjouw
and Stern, 1998)が非常に興味深い見解を提示しているので、暫定的ではあるが、それを援
用して考察してみよう。彼らは、インド北部農村の社会経済状況を綿密に調査した結果、
農業労賃の決定方法には、労働者ごとに格差をつける「個人契約(personalized contracts)」と、
格差をつけない「標準契約(standardized contracts)」の 2 種類があるが、よほどの生産性の格
差が生じない限り、通常は後者で行われることが多いという。その理由は「皆がお互いに、
誰がどのような特性をもっているかを熟知している農村経済であるからこそ、かえって個
人別に格差をつけることに対する社会的抵抗が強くなる」(p. 98)からであり、またそこで
無理に格差をつければ、
「差別」と捉えられ、労働者は「自尊心」を、雇用者は「温情的
という評価」を失い、結局は効率的な雇用が達成されないとしている。G 村においても、
ここまで論じてきたように、パティダールと労働者の関係は信頼関係を基礎においてお
り、きわめて補完的である。パティダールは労働力を安定的に確保でき、労働者は高額の
借金ができるという、一種のパトロン࡮クライアント関係にある。こうした関係性を維持
するためには、ランジョウ=スターンが指摘するように、格差をつけない「標準契約」に
よって一律賃金を採用することが望ましいだろう。また、そもそも労働者ごとに賃金格差
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をつけることが技術的に難しいという側面もある。借入期間が長期に及び、負債残高すら
曖昧になるような状況下で、全ての労働者に対して正確な賃金を日々計算するのは技術的
29)
にほぼ不可能に近いのである 。
以上のように、カイミ制度は、カイミ労働者の賃金を低くしているだけではなく、チュ
タック労働者の賃金をも低位に抑え、最終的に G 村の農業労賃全体が上方硬直的になるよ
うに作用しているのである。
Ⅴ 結 論
本稿では、グジャラート州中部の農村における農業労賃の低位性に着目し、なぜ経済成
長のトリックル࡮ダウン効果が農業労賃にスムーズに反映していないのかという問題につ
いて、実態調査を通じた考察を行ってきた。以下、その結果を要約しよう。
まず、そもそも、経済成長に伴う非農業就業機会が農村の貧困層に対して十分開かれて
いるか、という問題があった。仮に非農業部門への参入が困難で、市場が分断されていれ
ば、農業労賃が低位にとどまっていても不思議ではない。しかし、実際に貧困層の就業
データを分析したところ、かなりの人数が、賃金の高い有利な非農業部門、特に雑業夫と
して就業していることが判明した。確かに教育水準や偶発性といった参入障壁は存在して
いたが、それが決定的に市場を分断しているとは言い難い状況であった。つまり、市場の
分断によって農業労賃の低位性を説明することは、部分的にこそ妥当しようが、決して十
分とは言えなかったのである。
そこで本稿では別の説明要因として、カイミ制度という無利子金融制度の存在に注目し
た。カイミ制度は、特にグジャラート州の中࡮南部の農村部に集中して観察されるイン
フォーマル金融制度で、農業労働者がその雇用主から高額の借金を無利子で享受すること
ができるというものである。つまり無利子で借金をする代わりに、本来支払うべき利子部
分があらかじめ賃金から差し引かれており、そのために賃金が低位にとどまっているので
はないかと考えられるわけである。そこで、実際の融資金額や返済タームの一次データを
利用し、本来支払うべき利子額を推計した結果、その金額は非常に高く、利子部分を加味
した実効賃金は、非農業部門の賃金に近い水準に達していることが判明した。つまり、G
村の農業労賃が低い理由は、かなりの部分が農村内に存在するインフォーマル無利子金融
制度に起因していると考えられたわけである。
とはいえ、カイミ制度の無利子金融を利用している労働者(カイミ労働者)は、全体の 2
∼ 3 割に過ぎない。この事実を受け、本稿では最後に、残りの労働者(チュタック労働者)
が低い賃金に甘んじている要因を考察した。その結果は以下の通りである。まずカースト
を軸に展開される極端に偏った農地の分配構造を背景として、農業労働者は将来の医療費
や結婚費用を賄えなくなるというリスクを抱えていた。またそれを軽減する唯一の手段が
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カイミ制度であった。したがってパティダールとの良好な社会関係を築くことが、チュ
タック労働者にとって最も確実な保険であり、こうした状況の中で、労働者は、将来の金
融供給源を確保するために低い賃金に甘んじていたのである。
従来、インドにおける農業労賃の分析は、非農業部門との関連で考察を行うか、あるい
は農村構造(主に農村金融)との関連で考察を行うかに限定され、両者を統一的に考察した
ものはなかった。本稿ではまず、G 村の労働市場をこれら両面から考察し、そのどちらも
が一定程度の説明要因となっている状況を示したわけである。さらに本稿では、従来言及
されることがあまりなかった農村社会関係の側面からの考察も行った。そこではカイミ制
度を軸とする一種のパトロン࡮クライアント関係が農村内に形成されている事実に注目
し、それが農業労賃全体の上方硬直性をもたらしていることを示した。そして全体として、
非農業就業機会、農村インフォーマル金融、村内社会関係という 3 つの要因を総合的に考
察することによって初めて、G 村の低位農業労賃を説明することが可能となることを論じ
たわけである。
インドは近年、目覚しい速度の経済成長を経験している。それがトリックル࡮ダウン効
果によって農村部の貧困層にまで裨益していることは、総論として間違いのない現象であ
ろう。しかし、市場メカニズムを通じたその波及効果は、決して一様に生じるわけではな
く、地域農村の社会関係や経済構造に強い影響を受け、地域ごとに異なる結果をもたらす
のである。本稿で明らかにしたこの事実は、現行の様々な貧困削減政策における地域性の
重要さを指摘すると共に、最低賃金法や農村金融政策といった個別の政策の総合化を訴え
るものとなろう。
(注)
1) データは AWI(Agricultural Wage in India)の各年次レポートに依拠し、比較を可能にするため、数値は
全て 1 月の「その他農業労働(other agricultural labour)
」の男性を採用した。ただし、月、労働内容、性
別を変えても同様の傾向が得られる。
2) 1994 年の行政区分改正前はケーダ(Kheda)県に属していた。
3) 調査は 2002 年 12 月∼ 2003 年 1 月の予備調査、2003 年 11 月∼ 2004 年 1 月の本調査の 2 回に分けて実施
した。なお 2002 年 12 月からの 2 ヶ月間の調査は、平成 14 年度文部科学省基盤研究 B「インドにおける
家畜飼育変動の諸要因に関する研究(代表者⿉中里亜夫)
」のなかで実施した。また現地の研究機関であ
る Institute of Rural Management Anand のスタッフにも便宜を図っていただいた。記して感謝します。
4) 各カーストの詳細は拙稿(2004)を参照されたい。
5) 分類は 0.1 ∼ 1.5 ビガ(biga: 1 ビガは 5 分の 3 エーカー)を限界農、1.6 ∼ 3.0 ビガを小農、3.1 ビガ以上
を中࡮大農とした。1.5 ビガまでを限界農としたのは、生産性を考慮した場合これ以下の規模の農地だけ
では自給が不可能と考えられるためである。1.5 ビガの農地において主食の小麦(冬作)とトウジンビエ
(Bajira: 雨期および夏作)の 3 期 2 毛作を行った場合の収量は、前者が約 1,000 キロ、後者が約 1,500 キロ
であり、自給は難しい。またこれを所得換算しても 2,000 ルピーほどにしかならず、グジャラート州農村
部の貧困線(2000 年)の 4,048 ルピー(Deaton, 2003)を大幅に下回る。
6) 中࡮大農 2 戸と小農 18 戸の内訳は前者がラジプート 1 戸、ボイ 1 戸で、後者がラジプート 8 戸、ボイ 5
戸、ムスリム 5 戸となっており、ハリジャンを除けばその他カースト間での格差は目立たない。
7) ただしパティダールはチョタイ(chothai: 4 分の 1 の意)と呼ばれる一種の分益小作で他のカーストに
農地を貸し出すことがある。しかしチョタイでは、作目や栽培方法に関する決定権が小作に一切なく、
小作といっても実質的にシーズン契約の農業労働のようなものである。ちなみにチョタイは、農地の用
役権を抵当に取ったパティダールが、その農地を元の保有者(主にラジプート)に貸し出すいわゆる質
地小作となるケースが多い。
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8) 所有農地の少ない農家から、所有農地の多い農家への農地の貸し出しを指す。この現象は日本を含む
東アジアでは一般的でなく、逆に南アジアに多いことから、その要因をめぐって多くの議論がなされて
いる。南アジアの農業発展と農地貸借市場の構造について詳しく論じたものとして藤田(1993)を参照
されたい。
9) 所得の推計方法は拙稿(2004)を参照されたい。
10) ちなみに、加納(1994)の中部ジャワの研究では、非農業就業者比率(非農業就業者数 / 全就業者数)
が 60% を超えると土地所有と貧富の間の相関がなくなるとしている。
11) 年間給与 36,000 ルピーを基準とした。なお 36,000 ルピー(月給 3,000 ルピー)はアーナンドの大学新
卒初任給として平均的な金額である。
12) 自営業の分類は、年間所得 3 万ルピーを基準とした。
13) 不安定雇用と低所得自営業にはそれぞれ 4 名ずつ農業労働との兼業者がいたが、ここでは彼らを不安
定雇用と低所得自営業にそれぞれ分類した。また自作地での作業は除外してある。
14) ただし図の括弧内に示された女性の就業者数をみると、農業労働に従事する者が 33 名であるのに対し、
非農業就業者が 5 名となっており、非農業就業では性別が大きな障壁になっている点には注意が必要で
ある。
15) 留保制度とは、指定カースト࡮部族を中心とする後進諸階級や、その他の後進諸階級(OBC)に対し
て一定の比率で、公的雇用のポストを留保しておく政策である。調査村のその他カーストは、ラジプー
トをはじめ、ほとんどが OBC であったが、留保制度の受益者は、ワサワというカーストのうちの 2 世帯
だけであった。
16) HSC は 12 年間の就学後の試験に通ったものに授与される公的な学歴証書である。9 年修了、6 年修了
とはそれぞれ単に 9 年間、6 年間学校に通ったという意味で用いた。
17) また女性の非農業就業が極端に制限されていることも賃金格差の要因である。前述したように、農業
労働には多くの女性が参加しているが、タバコを軸とする作業の性質上、性別による生産性の格差がほ
とんど生じない。このため仮に多くの男性が有利な非農業に就業したとしても、雇用主は女性を代替的
に雇用すれば済んでしまうのである。
18) 作付面積は少ないが、バナナやジャガイモの栽培も行われている。ただしバナナの作付期間中(14 ヶ
月間)に 15 日間、ジャガイモの作付期間中(11 ∼ 2 月の約 3 ヶ月)に 15 日間の集中的な労働を必要とす
るだけである。したがってタバコと比すれば労働節約的である。なお、90 年代以降は、この労働節約的
なバナナやジャガイモの比重が高まっている。この事実は、非農業部門への労働者の流出によって農業
労働力の供給が不十分になっていることの一つの証左である。ただしその背景には、労働力の流出だけ
でなく、急激な地下水灌漑開発とタバコの品種改良による労働力需要の増加や、タバコの市場価格の低
落も要因となっていることにも注意が必要である(村の長老とのグループ࡮ディスカッション⿉2004 年
1 月)
。この他に、パティダールは酷暑期(3 ∼ 6 月)と雨期(6 ∼ 9 月)に唐人ビエ、冬期(10 ∼ 2 月)
に小麦を若干栽培するが、これは日雇い農業労働者を用いずに、主にチョタイと呼ばれる分益小作(注 7
参照)で行われる。
19) ただし例外的に、バナナの収穫とジャガイモの灌漑作業は男性だけが行い、賃金は前者が歩合制(1 束
1 ルピー⿉1 人 1 日約 30 束の収穫が可能)
、後者が 1 日 30 ルピーとなっている。
20) バドゥリ(Bhaduri, 1973)は、村内の地主小作関係や雇用関係に金融関係が結合(interlink あるいは
interlock)している状況を、半封建的(semi-feudal)な搾取と捉えた。これに対し、バスを含め、バルダー
ンら(Bardhan and Rudra, 1978; Srinivasan, 1980)は理論と実証の両面で反論をしている。
21) バスの仮説には、労働と金融が連結されている場合、賃金を労働の、利子を資本の対価と単純にみな
すことができない、という重要な含意がある。極端な場合は調査村のように貸出利子率をゼロとして賃
金をその分低くすることが雇用主の最大化問題の解となるケースも想定され得る(Basu, 1983: 271; 黒崎、
2001)
。
22) パティダールがあまり居住していない北部や半島部では、このカイミ制度はほとんど観察されない。
また中部のアーナンド県のなかでも、パティダールが大きな農地を有していない地域では、カイミ制度
は観察されない(逆に G 村のようにパティダールが大きな農地を有している地域では、広範にカイミ制
度が存在し、農業労賃も低い)
。この要因に関しては、英領期の地税制度やその後の社会経済環境の変化
と密接にかかわっていると考えられる(拙稿 2005: 第 4 章)
。
23) 実効賃金の推計については本論ではこれ以上の考察を行わないが、厳密に言えば利子部分だけでなく、
元本返済の不確実性から生じる債務不履行部分も考慮する必要がある。完済するまで順調にいっても 8
年以上かかり、返済中に病気などの事情で返済が滞ればさらに長引く。返済期間が長引けば、残高勘定
が曖昧になるなど元本の回収における不確実性が高くなる。こうした不確実性を考慮すると、実効賃金
はさらに高くなると考えられよう。なお、ルードラ(Rudra, 1994)はこうしたインド農村のインターリ
ンケージにおいて、利子だけではなく、元本までもが曖昧になってしまう状況が常であることを示し、
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そういった事態が生じる要因を長期の「依存関係」に求め、通常の金融制度と峻別する特徴として鋭く
指摘している。
24) なお IRDP(総合農村開発計画)をはじめ、G 村にはいくつかの貧困層をターゲットにした融資政策が
存在するが、どれも融資目的が水牛購入(酪農用)に限られており、上記の医療費などには対応できない。
25) 町の非農業部門に就業した者がその職場の雇用主から高額の借金をすることはあるが、非農業部門へ
の就業が不確実である状況下で、農業労働者がそれを当てにして生活をすることは考えられない。
26) カイミ(kaymi)とはグジャラート語では「拘束」などを意味する。実は、カイミ制度は 1976 年の債務
奴隷制度廃止法(Bonded Labour System Abolition Act, 1976)で禁止されている雇用形態となっており、調
査地の属する郡役場でもカイミ制度は違法であると一応は認識されていた。ただしインド研究における
「債務奴隷(bonded laborer)
」という用語は、農業労働以外を含めた全ての労働を強制されつつもその生
活全般の保障を受けるといった「隷属的」
(柳沢、1995)な存在を指す言葉として定着しているようであ
るが、カイミ制度は、雇用主の要請に従って農業労働だけを行う契約であり、
「債務奴隷」制度という表
現には若干なじまない。なおグジャラート州ではハリ(hali)と呼ばれるカースト࡮コミュニティーが上
記の「隷属的な債務奴隷」として広く認知され、シャルマ(Sharma, 1981)の全国調査でもかなりの債務
奴隷が残存していることが示されている。また債務奴隷制度廃止法の判例研究でもティワリ(Tiwari,
1997)をはじめ、このハリに関するものが多い。G 村のカイミ制度は、ラジプートのようにハリ࡮カー
ストでないものが債務奴隷禁止法に抵触する状態で雇用されているケースであり、こういったケースの
判例は管見の限り存在しない。
27) G 村では、貧困層であろうとも、はほぼ例外なく結婚式には日常生活では考えられないほど高額の出
費をする。その金額は最低でも 1 ∼ 2 万ルピーで、主に新郎新婦それぞれの家で行われる宴会費用となる。
結婚式ではときに数百名に上る参加者全員に食事等を振舞うのである。また他には、入院࡮手術といっ
た高額な医療費が借入目的であった者も多い。いずれにしてもカイミ制度の高額金融は、あくまでも生
活を維持するためになくてはならない目的に対してのみ供与されている。
28) ただし、チュタック労働者は「拘束」されずに「自由」を享受しているので、その分賃金が低くても
納得しているという側面もある。
29) さらに、実はチュタック労働者も 100 ∼ 300 ルピーといった小額を雇用主から借りることもあり、これ
も労働者ごとの厳密な賃金格差をつけることの困難性を生み出している。なおこの場合は、カイミ労働
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