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食品・農産物の表示・認証、安全性確保施策にかかる動向と課題-WTO

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食品・農産物の表示・認証、安全性確保施策にかかる動向と課題-WTO
食品・農産物の表示・認証,安全性確保施策にかかる動向と課題
―― 再交渉のもう一つの争点 ――
〔要 旨〕
1. 新農業基本法での安全性・品質確保,消費者重視にともなって,遺伝子組み換え食品や
有機食品をはじめとする表示・認証,あるいはISOやHACCPに関する動きが急である。
2.こうした背景には狂牛病,O−157等の相次ぐ事件発生による消費者の不安と,加速する
食品・農産物の輸入増大がある。
3.直近の動向をみると,①これまで9品目に限定されていた青果物の原産地表示が本年4
月から全品目に拡充,②有機農産物・加工食品にかかる規格もコーデックス基準に沿った
内容により本年4月から施行,③遺伝子組み換え食品を含有していることが科学的に検証
可能な指定食品30品目について来年4月から表示義務づけ,等となっている。
4.またISOやHACCPの認証を取得する企業も増加しており,環境重視の流れに対応して
ISO14001を取得する農協も現れた。
5.これら表示・認証や安全性については,そのほとんどがコーデックス委員会をはじめと
する国際基準に沿って設定されており,WTOとも密接な関係にあるが,各国の独自の基準
設定はきわめて難しくなっている。
6.表示・認証の拡充にともない非遺伝子組み換え農産物の確保困難化等とあわせて特別栽
培農産物の排除の問題が発生するなど,生産農家に対する影響は大きい。また,安全性に
ついては国際基準の設定にともない安全性レベルの低下を招いていること等も指摘され
ている。
7.しかしながら表示・認証,安全性にかかるシステム導入は既に逃れられない流れとなっ
ていることから,①WTO再交渉におけるハーモニゼーションの持つ重要性認識,②地域性
と国際基準との調和に向けた努力の積み重ね,③食料自給力の向上努力と自給,地場流通
が基本であるとの認識確立,④安全性についての基本哲学の確立,等が急がれる。
‐ 164
38 農林金融2000・3
目 次
1.はじめに
4.最近の動向Ⅱ
2.食料政策の流れと政策体系
――安全性
(1) 新農業基本法における「消費者重視の
(1)
ISO
食料政策の展開」
(2) HACCP
(2) JAS法の改正
5.コーデックス等国際基準とWTOとの関連
3.最近の動向Ⅰ
(1) コーデックス委員会
――表示・認証
(2)
コーデックス基準等国際基準と
(1) 原産地表示
GATT,WTO
(2) 有機農産物・食品
6.問題点と今後の対応
(3) 遺伝子組み換え作物・食品
(1)
表示制度等と国際基準の持つ問題点
(2)
対応課題
るが,事はさほど単純ではなく,政治的要
1.はじめに
素も含めてその動きは多様かつ複雑であ
交渉とも密接に
り,当然のことながら
このところ遺伝子組み換え食品,有機食
絡んでいる。すなわち欧米をはじめとする
品をはじめとして表示・認証に関する動き
食料輸出戦略と裏腹の関係で動いている側
が急である。これは先の1999年通常国会で
面があることは否定しがたい。
成立した食料・農業・農村基本法(以下「新
93年に合意をみたガット・ウルグアイ・
農業基本法」
)での安全性・品質確保,消費
ラウンド 交渉では我が国は米の市場開放問
者重視にともなっての措置である。この背
題に偏重しすぎたきらいがあり,国際基準
景には狂牛病, −157,ダイオキシンをは
と各国基準との調和(調整)の問題,いわゆ
じめとする食品の安全性に関連した相次ぐ
るハーモニゼーションについてはさほどの
事件の発生と,マスコミの過激な報道も手
注目を集めることはなかった。そしてこの
伝って累積した消費者の不安が存在してい
ハーモニゼーションの問題は国際化が一段
る。そし てこれらの足元には加速する食
と進行し,安全性・品質確保がますます求
品・農産物の輸入増大がある。
められるなかで一層重要性を増し加えつつ
表示・認証,安全性・品質の向上にかか
ある。
る動きは,基本的にはこうした不安解消等
本稿は表示・認証等にかかる動向・内容
消費者ニーズへの対応にともなうものであ
等についての整理を第一義としている。あ
‐ 165
39 農林金融2000・3
わせてこれらが我が国農業にどのような影
あげることができる。
交渉とどう関係してくる
新農業基本法は消費者重視の食料政策の
のかについても若干の考察を提示すること
展開について,第2条で「食料は,人間の
をねらいとしている。
生命の維持に欠くことができないものであ
り,かつ,健康で充実した生活の基礎とし
2.食料政策の流れと政策体系
て重要なものであることにかんがみ,将来
にわたって良質な食料が合理的な価格で安
(1) 新農業基本法における
「消費者重視
定的に供給されなければならない」との基
の食料政策の展開」
本精神を踏まえて,同法16,17条で食品の
前段として新農業基本法における食料政
衛生管理・品質管理の高度化ならびに表示
策について確認しておこう。
の適正化等,食生活に関する指針の策定,
新農業基本法の特徴は市場原理の徹底と
食品産業の健全な発展を三つの柱とする取
ともに農業の持つ多面的機能等非経済的価
り組みが必要であるとしている。
値の重視にあるが,あわせて消費者重視の
そして新農業基本法の趣旨を具体的に展
姿勢を明確化したことも特徴の一つとして
開していくために「特定農産加工業経営改
響を及ぼし
(注1)
第1表 表示に関する法律の概要
農林物資について,品質の基準と表示の基準であるJAS規格を定
農林物資の規格化 め,これに合致しているものについてマークを付す「JAS規格制
(任意)
,特に必要があるものについて品質に関する表示の基準を
及び品質表示の適 度」
正化に関する法律 定め,製造業者・販売業者に表示を義務づける
「品質表示基準制度」
について定められている。
食品衛生法
食品一般の容器包装された食品について表示基準が定められてお
り,品名,製造者の住所・氏名,食品添加物名,品質保持期限,乳
等ではさらに,種類別,殺菌温度等の表示が義務づけられている。
また,虚偽・誇大な表示や広告の規制についても定められている。
なお,JAS法の規定により食品衛生法の規定が排除されるもので
はなく,JAS規格の表示の基準及び品質表示基準において,食品衛
生法上の表示が義務づけられているものについても一括して枠内に
表示することを原則としている。
栄養改善法
国民の栄養改善の観点から,販売する食品(特定用途食品を除く)
に栄養成分、熱量に関する表示をしようとする場合は栄養表示基準
にしたがった表示を義務づけている。
不当景品類及び
不当表示防止法
公正な競争を確保し,一般消費者の利益を保護するため,不当な
表示を禁止している。これに基づいて定められる公正競争規約は、
各業界の自主的ルールであり,会員事業者のみに拘束力を有してい
る。
なお,JAS規格の表示の基準及び品質表示基準においては,景表
法の表示事項も的確に表示されるように定められている。
計量法 適正な計量の確保の観点から,計量の基準を定め,食品の計量を
正確に行う努力義務を求めている。
食肉,野菜,魚介類等の消費生活関連物資については,一定の誤
差(量目公差)の範囲内での計量を義務づけるほか,これらのうち
一定の商品については容器包装に密閉して販売する際に正味量の表
示を義務づけている。
資料 農林水産省
‐ 166
40 農林金融2000・3
第1図 食品の安全性確保施策の現状
◎農林水産省の対策 ☆厚生省の対策
国 内 農 産 物 等 (生鮮食品)
輸入食品(生鮮食品,加工食品)
【生産段階】
◎農薬,肥料,飼料,動物用
医薬品等についての製造,
販売,使用等の規制
【輸入段階】
◎動物・植物の検疫
◎☆輸入米麦の検査
☆検疫所での輸入食品の監視
及び検査
☆残留農薬,動物用医薬品に
ついての規格・基準の設定
(原材料)
国
内
加
工
食
品
【製造段階】
◎JASの格付及び認定工場の調査・指導
◎製造流通基準の遵守指導
☆と畜,食鳥処理の
衛生基準
◎☆HACCP手法導入のための施設整備の支援
☆食品製造業の営業許可
☆規格・基準の設定,基準違反の取締
☆食中毒事件の原因究明・調査
☆総合衛生管理製造過程の承認制度
【流通段階】
◎卸売市場,食肉センター等の施設の整備
◎表示・品質等に関するモニタリング・指導
◎☆国内産米麦の安全性に関するモニタリング
☆食品販売(食肉,魚介類)の営業許可
☆食品の規格・基準違反の取締
☆食中毒事件の原因究明・調査
【消費段階】
◎消費者の部屋等における情報の提供
☆食品安全情報相談室における情報の提供
資料
農林水産省
善臨時措置法の一部を改正する法律」
「卸売
であり,
,
等の安全性にかかる
(注2)
市場法及び食品流通構造改善促進法の一部
ものである。
を改正する法律」
「農林物資の規格化及び品
本稿ではこれらの活発化している動きに
質表示の適正化に関する法律の一部を改正
絞ってみていくこととするが,はじめにこ
法」)のいわゆる
れらを含めた表示制度全体を俯瞰しておく
する法律」(以下「改正
流通三法も成立した。
と第1表のとおりである。
これにともなって,このところ具体的措
また,安全性確保施策の全体像は第1図
置が矢継ぎ早に打ち出され頻繁に新聞紙上
のとおりであり,生産,輸入,製造,流通,
等を賑わしているのが,有機食品,遺伝子
消費の各段階で,厚生省,農林水産省によっ
組み換え食品等の表示・認証にかかるもの
て多種多様な対策が措置されていることが
‐ 167
41 農林金融2000・3
理解できよう。
(注1)
新農業基本法関係条文
「 (食料消費に関する施策の充実)
第16条 国は,食料の安全性の確保及び品質の
改善を図るとともに,消費者の合理的な選択に資
するため,食品の衛生管理及び品質管理の高度
化,食品の表示の適正化その他必要な施策を講ず
るものとする。
2.国は,食料消費の改善及び農業資源の有効
利用に資するため,健全な食生活に関する指針の
策定,食料の消費に関する知識の普及及び情報の
提供その他必要な施策を講ずるものとする。
(食品産業の健全な発展)
第17条 国は,食品産業が食料の供給において
果たす役割の重要性にかんがみ,その健全な発展
を図るため,事業活動にともなう環境への負荷の
低減及び資源の有効利用の確保に配慮しつつ,事
業基盤の強化,農業との連携の推進,流通の合理
化その他必要な施策を講ずるものとする。
」
(注2)
厚生省は,そば,小麦,牛乳等アレルギーで
健康を損なう可能性のある原材料について表示
を義務づける方針を固め,2001年4月からの施行
を目指していることが報じられている。(朝日新
聞2000年2月4日夕刊)
3.最近の動向Ⅰ
――表示・認証
どうかは消費者の選択の問題であるとされ
(2) JAS法の改正
ている。
表示・認証等にかかる一連の動きは「農
林物資の規格化及び品質表示の適正化に関
(1)
原産地表示
する法律」
,いわゆる
法の改正として位
先に表示・認証についての最近の動向等
についてみることにするが,表示はあくま
で消費者の判断で商品を選択できるように
措置するものであって,安全性の問題とは
切り離して位置づけされていることにあら
かじめ留意しておく必要がある。すなわち
遺伝子組み換え食品については厚生省から
安全宣言が出されており,有機食品の認証
をうけていない慣行栽培でつくられたもの
も安全性に関しては変わりがない,という
のが行政の基本姿勢である。そのうえで非
遺伝子組み換え食品や有機食品を食べるか
a.経過
置づけられている。これらの具体的な動
青果物についての原産地表示は96年にス
向・内容については第3章以下でみること
タートした。①消費生活上重要な地位を占
制度そのものについては次頁<
め,②輸入品がある程度市場に出回るな
とし,
補論>を参照願いたい。
ど,原産地表示のニーズが高く,③原産地
規格制度の見直しは,5
による品質格差が大きい,等に該当する品
年ごとに既存の規格を見直すことを法定化
目を対象に原産国表示が義務付けられたも
し,不要となった規格の廃止等を積極的に
のでブロッコリー,サトイモ,ニンニク,
すすめるとともに,規格制定等の際に国際
根ショウガ,生シイタケが対象とされた。
規格を考慮しようとするものである。あわ
98年にはゴボウ,アスパラ,サヤエンド
せて事業者自身による格付けの表示のため
ウ,タマネギが追加された。
の仕組みの導入,登録格付機関等への民間
能力の活用を内容とするものである。
なお,今回の
‐ 168
42 農林金融2000・3
〈補論〉JAS制度の概要
1.JAS制度のねらい
制度は「農林物資の規格化及び品質表示の
適正化に関する法律(昭和25年法律第175号)
」にも
とづくもので,農林物資の品質の改善,生産の合
理化,取引の単純公正化及び使用または消費の合
理化を図ることをねらいとしている。
2.体系
農林水産大臣が制定し た品質基準及び表示基
準による格付けに合格し た製品に
マークの
名称
対象
表示事項
制定機関
青果物の一般 青 果 物(野 菜,果 ①品名又は品種
国
品質ガイド
ラ 実,きのこ類)
②産地又は原産国
イン
③生産者,出荷者又
は輸入業者
④内容量
⑤サイズ又は品位
新食品等品質
表示ガイド ラ
イン
規格制度と,一般消費者の選択
に資するため,特定の品目の農林物資についてす
添付を認める
表A 青果物一般等の表示ガイド ライン
べての製造業者等に,農林水産大臣が制定した基
準による品質に関する適正な表示を義務づける
①品名
②原材料名
③内容量
④賞味期限
⑤保存方法
然食 品,コピ ー食 ⑥製造業者等 等
3.JAS規格の内容等
(1)
規格の対象品目
国
品等)
水産物表示ガ
水産物
イドライン
品質表示基準制度の二本立てとなっている。
酒類,医薬品等を除く①すべての飲食料品及び
食品としての性
質,評 価 が 定
まっていない新
しいタイプの食
品(健 康 食 品,自
(財)食品流
①品目
②解凍ものである 通構造改善
場 合 は「解 凍」の 促進機構
表示
③養殖物である場
合は「養殖」
の表示
④産地
資料 農林水産省
油脂,②農産物,林産物,畜産物及び水産物なら
びにこれらを原料または材料として製造し,
又は加
(①を除く)
工した物資
であって政令で定めるもの。
4.品質表示基準制度の内容等
国内で生産されたものだけでなく輸入ものも
(1)
品質表示の義務化
該当する。
あくまで製造業者等の自主性を基本とし てい
(2)
規格の内容
る。
(2)
対象物資
規格において,品位,成分,性能,生産方
法等の品質の表示に関する基準と,品質の表示に
① 一般消費者がその購入に際して,その品質を
関する基準を制定することとされている。
識別することが特に必要と認められるもので,②
品 質 基 準 は 品 質 全 般 に つ い て の 基 準 に 加 え
一般消費者の経済的利益を保護するため品質表
て,特別な生産方法や特色のある原材料に着目
示の適正化が特に必要で,かつ政令で指定された
した規格も制定できるようになっており,これを
ものであること。
「特定
(例 有機農産物,地
規格」としている。
(3)
品質表示基準の設定とその内容
鶏,熟成ハム等)
〈加工食品〉
(3)
JAS規格による格付け
① 品名,②原材料(食品添加物を含む)名,②
当該製品が
規格に適合し ているかどうか
内容量,③賞味期限(品質保持期限)
,④保存方
検査し,適合していると判定されれば格付けの表
法,⑤製造業者又は販売業者の氏名,住所等の主
示(
マーク)をつけることができる。
要事項について,消費者が見やすいように所定の
格付けは,農林物資の原料が動植物で品質の均
様式にしたがって一カ所にまとめて表示すべき
質性が保たれにくいこと,また,製造工程に人為
ことが規定されている。
( 表)
の介入の余地が大きいこと等から第三者による
〈青果物〉
格付けとされており,格付けを的確,円滑に行う
表示義務者は生産,輸入,市場等中間流通を含
のに十分な経理的基礎を有することとされてい
めてすべての販売業者に品質表示基準による表
ること等から,格付けは登録格付け機関,都道府
示が義務付けられており,品名,原産地名(国産
県または農林水産省の機関が行うこととされて
品については都道府県名,輸入品については原産
いる。
国名)を邦文で記載することとされている(
製品の検査は,主に製品を抽出(抜き取り)し,
表)
。
その試料を検査することとされている。また,生
(注)
(社)
日本農林規格協会発行「JAS制度の手引き<
産工程の検査は生産の記録の点検や,定期もしく
平成10年7月版>」をもとに整理した。
は抜き打ちの現場検査の方法による。
‐ 169
43 農林金融2000・3
b.JAS法改正の内容
今回の
法改正により,9品目に限定
されていた青果物の原産地表示をすべての
品目に拡充することとされ,あわせて64品
目であった飲食料品の品質表示基準対象
も,すべての飲食料品に拡充することに
なった。本年4月から施行される見通しで
(注3)
ある。
全品目に表示を義務づけるに先立って二
ついては,原材料原産地の表示のあり方を検討す
る,こととなっている。生鮮水産物の表示につい
ては水産物表示専門委員会で検討が行われてい
るが,国産物は採捕・生産した水域・地域名,輸
入物は輸出国名(地域)を原産地として,一点表
示するとともに,表示項目は名称,原産地,養
殖,解凍の4項目とする方向であることが報じら
れている。(みなと新聞ダイジェスト 99年10月4
日)
(注4) 表示作業を軽減するために,表示をプリン
ト する 機械 導入へ の助 成制 度が設 けら れてい
る。小売段階については98年度から,産地段階に
ついては99年度から開始され,半額が助成され
る。
次にわたって刻みをつけてきたのは,表示
意識の徹底には助走期間が必要であったた
めとされている。
(2)
有機農産物・食品
a.全般的動向
c.国際基準等との関係
有機農業はヨーロッパ,なかでもオース
加工食品についてはコーデックスの「包
ト リア,スイス,スウェーデン等の北∼中
装食品表示一般規格」に準拠して改正され
欧諸国での取り組みが最も進んでいる。
ている。
この地域で有機農業が進展してきた理
由・背景をみると,
d.課題等
①国民の環境に対する意識がきわめて強
価格,品種等の表示に加えて原産地表示
く,農業が環境にやさしい面と負荷を与
も義務づけられたことから,表示作業が増
える面の両面あることについての理解が
加することになるが,原産地表示の徹底を
浸透している。
はかるには,流通段階だけでは対応が難し
②食料品の安全性についての関心が高
く,生産段階,産地側に対応を促す圧力が
く,特に狂牛病, −157等の問題が発生
(注4)
して以来,関心は急速に高まっている。
強まっている。
(注3)
水産物については別途水産庁から水産物ガ
イド ラインが出されており,魚種名,産地,養殖
物,解凍物の表示が定められている。産地につい
ては国産は県名か地名,輸入品は国名か地名が原
則であり,広域回遊魚については漁獲海域を表示
することとされている。ガイドラインが作成され
た94年はサケ,マスのみが対象であったが,98年
にアジ,サバ,貝類(赤貝,アサリ,カキ,シジ
ミ,ハマグリ,ホタテ)が追加されている。今回
法の改正にもとづき,①生鮮水産物について
は,2000年から原則としてすべての品目を対象
として原産地等表示を実施する。②水産加工品に
③国の政策のなかで,環境なり農業の位
置づけが明確化されている。これを推進
していくための実行措置・助成制度が確
立されており,大きな効果を発揮してい
る。
④流通体制が整備されているとともに,
研究・指導体制等も確立している。
⑤気候が冷涼・乾燥しており,病虫害が
‐ 170
44 農林金融2000・3
発生しにくい。
い要望があった。
⑥畑,牧草地が中心であり,有機農業に
こうした動きを受けて農林水産省は(社)
日本農林規格協会に委託して,97年7月有
取り組みやすい。
我が国では60年代から有機農業,90年代
機食品の検査・認証制度検討委員会を設
に入っての環境保全型農業への取り組みが
け,この場をつうじて論議を積み重ねてき
行われてはきたが,高温多湿であることを
た。
はじめとしてヨーロッパとは背景を大きく
有機食品認証基準の法制化にあたっての
異にしており,97年の「環境保全型農業調
最大の論点となったのが,ガイド ラインで
査(耕種部門)」(農林水産省)によれば,環
特別栽培農産物として位置づけられていた
境保全型農業への取組状況は水稲・果樹で
減農薬・減化学肥料によって栽培された農
5%,野菜で1%と低位であり,有機農業
産物の取扱いについてであった。
についてはごくわずかにとどまっている。
結果的には特別栽培農産物を除外した限
一方で,有機農産物市場はおおむね3千
定的な基準とすることとされ,消費者サイ
億円といわれており,有機農産物・食品は
ド からの不当表示排除についての要請に応
けっして珍しい商品ではなくなっており,
えるものとなった。ガイド ラインで含まれ
量販店,外食産業での差別化商品としての
ていた特別栽培農産物が法律化された際に
取扱いが増加している。また,宅配方式に
除外された基本的理由は,我が国基準を
よって家庭での有機農産物の消費も拡大し
コーデックス委員会による国際基準に合わ
ており,目下第三次のブームにあるといわ
せたことによるものである。
れているが,輸入品とともに,
「ニセ有機農
これにともない現状では高温多湿で無農
産物・食品」もかなり混じっているとみら
薬・無化学肥料による有機栽培の一般化が
れている。
困難な我が国にとって,特別栽培農産物,
すなわち減農薬・減化学肥料栽培による農
b.法律的動向
産物が除外され,これまで「特別栽培農産
有機農産物等については,93年に「有機
物」を表示することをつうじて消費者の信
農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイ
頼を獲得し差別化してきたことが不可能に
ド ライン」で定義づけられ,96年,97年と
なるとともに,有機表示農産物の相当部分
改正されてきた。
が輸入ものに代替されることが懸念されて
しかしながらガイド ラインには強制力が
いる。
なく「ニセ有機農産物・食品」も多いこと
一方,92年に打ち出されたいわゆる新政
から,有機農産物・食品についても法律の
策のなかで,
「農業の持つ物質循環機能を活
なかで位置づけを明確にし,これに違反し
かし,生産性との調和などに配慮しつつ,
た場合には罰則が必要等の消費者からの強
土づくり等を通じて化学肥料,農薬の使用
‐ 171
45 農林金融2000・3
等による環境負荷の軽減に配慮した持続可
で特定されこととなった。
能な農業」として環境保全型農業が登場し
また,加工食品は有機農産物の重量割合
た。環境保全型農業は有機農業,特別栽培
が95%以上であることとされ,使用可能な
をも包含する概念であり,用語自体も一般
食品添加物,薬剤リストも定められた。
にもかなりなじみのあるものとなったもの
表示については,
「有機農産物」「有機栽
の,新農業基本法では一切登場せず,あら
培農産物」
「有機○○」などのほか「オーガ
たに成立した法律も「持続性の高い農業生
ニック」と表示することも認められた。転
産方式の導入の促進に関する法律(以下「持
換期間中の場合は,名称の前か後に「転換
続型農業促進法」)」とされた。
期間中」と付記しなければならないとされ
持続型農業促進法は新農業基本法で強調
ている。
されている自然循環機能の維持増進,多面
これら規格は昨年の7月にコーデックス
的機能の発揮等を担うものであり,概念的
委員会で採択された有機食品の国際基準に
にも環境保全型農業とほぼ同一と考えるこ
沿ったものである。
とができる。
持続型農業にかかる栽培基準等について
d.認証
も策定されることになっているものの,具
有機農産物・食品の規格が明示されたの
体的な検討への着手はこれからとなってい
にともない,これらが確かに基準どおりに
る。
栽培されたものであるかどうかについて客
観的に第三者の認定を受け証明することが
c.表示等
必要となった。
法の改正後,農林物資規格調査会
法による有機農産物の認証制度で
調査会)特定部会が重ねられ,有機農
は,農林水産大臣から登録を受けた登録認
規格を決
定機関が,製造業者,生産者(生産工程管理
定し,本年4月から施行される予定であ
者)輸入業者を認定し,その認定を受けた業
る。
者が表示義務を行うことになっている。
有機農産物は,果樹や茶は収穫前の3年
認定機関にかかる基準は,審査または認
間,野菜や稲などは種まき・定植前の2年
定をする者について,有機農産物の生産を
(
産物・加工食品にかかる特定
・
間,農薬や化学肥料を使わないほ 場で栽培
大学で学んだ場合は3年以上,高校の場合
することが条件となる。遺伝子組み換え作
は4年以上,農業生産にかかわる指導,検
物や放射線を照射した作物は対象外として
査,試験研究を経験したものとされ,学歴
いる。
がないものについては5年以上の農産物生
あわせて肥料・土壌改良材,農薬,調整
産にかかる経験が必要とされている。
等資材について許可される資材類がリスト
ところで認証を受けるにあたっては生産
‐ 172
46 農林金融2000・3
者は認証料を支払う必要があり,コスト
アップを余儀なくされるが,これをカバー
できる価格で有機農産物を販売することが
できるかどうかが有機栽培増加のカギにな
る。
e.課題
これまで整理されてきた基準,認証等制
度は野菜,果樹を対象としたものであって
畜産物についての制度創設については検討
(注5)
整したうえで,本年の食品表示部会で検討するこ
ととされている。これにかかる最大の争点が有機
飼料の自給率であるが,牛などの反芻畜で85%以
上とし,地域的に達成が不可能な場合は期限つき
で例外を認める内容となっている。
(注6)
ちなみに林業の世界でも持続可能な森林経
営の進捗状況を評価するための基準・指標づく
りの動きが拡がっている。国際基準の作成と認証
を目的に93年に設立されたNPO組織である森林
管理協議会(FSC,本部メキシコ)は99年7月現
在で世界30か国,170か所1,600万haもの森林を認
証している。認証後は対象森林から伐採された木
材にはFSCのロゴマークが貼られ,住宅や家具な
どの木材製品はエコロジー商品として販売する
ことができる。
(日本経済新聞99年9月27日)
中である。
ところで我が国での有機農業の多くは産
(3)
遺伝子組み換え作物・食品
直による顔と顔の見える関係を重視し,お
a.全般動向
互いの信頼関係によって取引を継続発展さ
現状,遺伝子組み換え作物はアメリカと
せてきたところも多く,基準・認証等の導
カナダを中心に栽培されている。
入については必ずしも前向きではないとこ
アメリカ農務省の発表によれば99年の栽
ろもみられる。基準法定化は基準の例外は
培面積に占める遺伝子組み換え作物の栽培
認めないという原則に立つものであって,
面積に占める割合は,大豆で57%(98 年
今後の対応が注目される。
42%)でそのすべてが 除草剤耐性品種 と
なお,国の制度化に先駆けて県,市町村,
なっている。トウモロコシは除草剤耐性品
生協,経済連,量販店等で独自に自主基準
種が8%(同9%),害虫耐性品種が30%(同
を設けて取り組んできたものも多い。こう
26%)。綿花は除草剤耐性品種で38%(同
したところは特別栽培農産物についても位
33%)
,害虫耐性品種で27%(同23%)。ま
置づけを与え,可能な範囲で減農薬・減化
た,カナダはナタネで98年約38%(97年約
学肥料をはかってきたものが多く,有機基
20%)となっている。
準とは別に,早急に持続型農業促進法に対
我が国でも国の研究機関,大学,民間企
応した基準,表示等の整備を求める声が強
業等で遺伝子組み換え作物についての研究
(注7)
(注8)
(注6)
くなっている。
開発が積極的にすすめられており,一部に
(注5)
我が国およびコーデックスの基準でも畜産
は除外されている。これは畜産の場合,粗飼料,
濃厚飼料を供給しながら飼養管理することから
工程が多く,かつ複雑であることから農産物とは
別途切り離して検討が行われている。コーデック
ス委員会では昨年7月に有機畜産ガイド ライン
をすでにまとめており,各国の意見を踏まえて調
ついては試験栽培も行われているが,商業
生産までには至っていない。
ところで我が国で輸入されている穀物の
内容(遺伝子組み換え品種,非遺伝子組み換え
品種を合わせたもの)をみておくと,97年で
‐ 173
47 農林金融2000・3
大豆506万ト ン(これに対し 国産が15万ト
b.各国の動向とWTO
ン)
,うちアメリカからの輸入が77%を占め
遺伝子組み換え作物についての各国の態
ている。ナタネは206万ト ン(同0.1万トン),
度は,アメリカ,カナダとその他の国とで
うちカナダからが87%となっている。トウ
は鋭く対立する構図となっており,後でみ
モロコシは1,470万トン(同0万トン)で,ア
るように
交渉にも大きな影響をもた
(注9)
メリカからの輸入がやはり87%を占めてい
らしている。
る。
表示についてはアメリカ,カナダは既存
このように穀物の大半を海外に依存して
の食品と比較して著しい成分変化がある場
いることから穀物自給率は98年度(概算)で
合等を除いて,表示の義務づけは必要ない
28%にまで低下しており,おのずと遺伝子
としているのに対し, は97年5月に新食
組み換え作物を消費せざるを得ない構造が
品規則を施行し遺伝子組み換え食品の表示
形成されていることが基本問題として存在
を行うこととした。しかしながら具体的な
しているのである。
実施細目の決定が遅れたこと,表示が不要
こうした構造を背景にして,表示を義務
なネガティブリスト が明らかにされていな
づける方向で国内の議論が展開されるよう
いことから,現状では円滑な実施はみてい
になって以降,食品加工業者,
飼料メーカー
ない(第2表)。
等の非遺伝子組み換え作物へ切り替える動
また,オーストラリア,ニュージーラン
きは顕著である。
ド においても表示を義務づける方針を決定
しかしながら最近では非組み換え作物の
しているとともに,韓国も表示義務づけを
奪い合いからその調達が難しくなってきて
法律で定め,表示対象品目を検討中である
おり,ト ウモロコシや大豆等の使用を避
とされている。
け,小麦など他の穀物で代替する動きも広
遺伝子組み換え技術についての研究開発
がってきている。
では欧米で激し い競争が展開されている
なお,非組み換え作物は組み換え作物に
が,現状アメリカが先行している。
比較して30%以上も価格は高くなるが,最
なお,
加盟国の大半は現状では新たな
終商品として消費者が購入する価
格はほとんど据え置かれているこ
第2表 各国における遺伝子組み換え食品の表示の状況
とから,切り替えにともなうコス
ト アップ分の転嫁が問題化してお
り,経営体力の乏しい中小企業で
の非遺伝子組み換え作物の取扱い
を困難化させている面もみられ
る。
従来と異なる食品
組
成 従来と同じだが、組み換え
・ DNA等が存在する食品
用
途 従来と同じだが、組み換え
DNA等が存在しない食品
日 本
アメリカ
E U
義務表示
義務表示
義務表示
義務表示
任意表示
義務表示
任意表示
任意表示
任意表示
(注)
(注)
資料 農林水産省
(注) 日本は「不分別」の表示を認めているが,EUはこれを認めておらず,
また,組み換えDNA等が存在するかどうかを判断する基準も示されていな
い。
‐ 174
48 農林金融2000・3
生産・販売は認可すべきではないとしてお
あり,遺伝子資源をめぐっての
「南北対立」
り,新規制の承認が見込まれる2002年まで
も存在している。
は認可が事実上凍結されている。
なお,この1月にカナダ・モントリオー
このように各国の利害は複雑に入り組ん
ルで開かれた生物多様性条約特別締約国会
再交渉で遺伝子組み
議で,組み換え動植物が在来種との交配な
換え作物の取扱いが主要な争点の一つにな
どを通じて生態系に悪影響を及ぼすことを
ることは必至であり,対立するアメリカと
防止することをねらいとする「バイオ安全
との間で日本がその調整役をつとめよ
議定書(カルタヘナ議定書)」が採択された。
でいることから,
うとしている。
これは組み換え作物の種子を農家が栽培
では,基準・規格による貿易阻害の
用に購入したり,研究目的で輸入したりす
協定(貿易の技術的障
る場合,輸出業者が事前に安全性をチェッ
協定(衛生植物検疫
クして輸入国政府に通知し,同意を得るこ
の適用に関する協定)とによる対応があり,
とを義務づけようとするものである。一
どちらの協定で規律されるべきであるかと
方,大豆やト ウモロコシ,ナタネなど食品
いう問題もあるが,これまでの議論は主に
や飼料,加工用の組み換え品種は事前通知
問題に対しては
害に関する協定)と
委員会で行われている。
の対象から除外されている。しかしながら
遺伝子組み換え食品の表示については目
輸出国よりも厳しい安全基準を設けている
下,コーデックス委員会の遺伝子組み換え
国にあっては輸入時に再審査できる規定を
食品の表示に関する作業グループでの検討
設け,輸入国が独自に判断することができ
が急がれているが,3月14日から4日間,
るとされている。
日本の幕張で,日本が議長となってコー
これは遺伝子組み換え作物に関する初の
デックス委員会が開催される予定となって
国際規制であり,輸入禁止もあり得るとす
おり,組み換え食品の安全性評価にかかる
るものではあるが,議定書には
基本原則等について議論の詰めが行われる
かの国際協定に影響を及ぼさないことが明
見込みである。
記され,
一方経済協力開発機構(
)は表示や
などほ
に輸入禁止措置を提訴する余
地を残すなど,あらためて
の場で激し
(注10)
販売に関する国際的な指針づくりに乗り出
しており,
シアト ル会議での
等
の抗議が決裂の一因となったこともあっ
て,消費者,環境団体等
等の意見も含
い議論が展開されることは必至の情勢にあ
る。
c.表示
めて整理していくこととしている。
遺伝子組み換え食品の表示については,
また,途上国には種子支配に走る先進国
農林水産省において消費者,
生産者,
生産・
に対して「原種の権利」を主張する動きも
流通関係者,学識経験者からなる食品表示
‐ 175
49 農林金融2000・3
問題懇談会を設置して検討を重ね,昨年の
義務表示の対象となる指定食品の内容
8月10日に最終報告をとりまとめた。結果
は,現時点での食品の分類,流通,検証等
的には安全性に不安を持つ消費者の要望に
の実態,技術的な可能性・制約や,今後の
対応し,遺伝子組み換え食品を含有してい
状況変化等を踏まえて,適宜必要な見直し
ることが科学的に検証可能な指定食品30品
を行っていくこととされている。
目について,食品メーカーや販売業者に表
インターネット による意見集約(パ ブ
示を義務づけることを決定したものである
リックコメント)
の結果等を踏まえて,本年
(第3表)
。
4月に新たな品質表示基準を告示し,来年
第3表 遺伝子組み換え食品の表示の内容及び実施の方法
──「食品表示問題懇談会遺伝子組換え食品部会」報告の骨子──
食 品 の 分 類
品 目
表 示 方 法
組成,栄養素,用途等に関し
て従来の食品と同等でない遺
伝子組み換え農産物及びこれ
を原材料とする加工食品
〈指定食品(予定)〉
高オレイン酸大豆並びに同大豆油及びそ
の製品(現在,安全性評価申請中で確認後指定予
・「大豆(高オレイン酸・遺
伝子組み換え)
」等の義務
表示
従来のものと組成,栄養素,
用途等は同等である遺伝子組
み換え農産物が存在する作目
〈指定食品(予定)〉
豆腐・豆腐加工品
凍豆腐,おから,ゆば
大豆(調理用)
枝豆
大豆もやし
納豆
豆乳
みそ
煮豆
大豆缶詰
きな粉
煎り豆
コーンスナック菓子
コーンスターチ
トウモロコシ(生食用)
ポップコーン
冷凍・缶詰トウモロコシ
―
‐これらを主な原材料とする食品
ジャガイモ(生食用)
大豆粉を主な原材料とする食品
植物タンパクを主な原材料とする食品
コーンフラワーを主な原材料とする食品
コーングリッツを主な原材料とする食品
・遺伝子組み換え農産物
を原材料とする場合
→「大 豆(遺 伝 子 組 み 換
え)
」
,「大豆(遺伝子組み
換えのものを分別)
」等の
義務表示
・遺伝子組み換えが不分
別の農産物を原材料と
する場合
→「大豆(遺伝子組み換え不
分別)」等の義務表示
・生産・流通段階を通じ
て分別された非遺伝子
組み換え農産物を原材
料とする場合
→「大豆(遺伝子組み換えで
ない)」
,
「大豆(遺伝子組
醤油
大豆油
コーンフレーク
水飴
異性化液糖
デキストリン
コーン油
ナタネ油
綿実油
マッシュポテト
ジャガイモ澱粉
ポテトフレーク
冷凍・缶詰・レトルトのジャガイモ製品
これらを主な原材料とする食品
・表示不要
・ただし,生産・流通段階
を通じて分別された非
遺伝子組み換え農産物
を原材料とする加工食
品にあっては,「なたね
(大豆,トウモロコシ,ジャガイ
モ,
(ナタネ,綿実))
に係る農産
物及びこれを原材料とする加
工食品であって、加工工程後も
組み換えられたDNA又はこれ
によって生じたタンパク質が
存在するもの
従来のものと組成,栄養素,
用途等が同等である遺伝子組
み換え農産物が存在する作目
(大豆,ト ウモロコシ,ジャガイ
モ,ナタネ、綿実)に係る農産物
を原材料とする加工食品で
あって,組み換えられたDNA
及びこれによって生じたタン
パク質が加工工程で除去・分
解等されることにより,食品中
に存在していないもの
定)
み換えでないものを分
別)
」等の任意表示又は
表示不要
(遺 伝 子 組 み 換 え で な
い)
」
,「なたね(遺伝子組
み換えでないものを分
別)
」等の任意表示が可
能
資料 農林水産省
(注)
1. 品目欄の食品は,技術的検討のための小委員会報告において,現在,安全性評価確認済みの6作物22品種のうち,
現実に流通している大豆,トウモロコシ,ジャガイモ,ナタネ,綿実を原材料とする食品として整理されたもの。
2. 「主な原材料」とは全原材料中重量が上位3品目で,かつ,食品中に占める重量が5%以上のもの。
3. 酒類
(ビール,ウイスキー,焼酎)は,上記表の3つ目の分類に該当。
‐ 176
50 農林金融2000・3
第2図 輸入穀物の用途と表示区分
ト させたほか,民間では三菱商事が宝酒
(単位 万トン)
造,日商岩井が臨床検査大手のビー・エ
大豆 年間輸入量 約500
ム・エルと組んで共同出資による認証会社
製油・飼料用 約400(対象外)
を設立するほか,その他大手商社も海外を
食品用…………約100
・豆腐・豆腐加工品………約50(表示対象)
もともと大半は 約12(表示対象)
・納豆
… 非組み換え品を
・みそ
約16(表示対象)
使用
・しょうゆ…………………約 3 (対象外)
含めた認証会社への検査委託を具体化する
}
方向にある。
なお,あくまで検査・認証は遺伝子組み
・その他(豆乳など)………………(表示対象)
換え作物であるかどうかを判定するもので
トウモロコシ 年間輸入量 約1600
あり,その安全性審査・確認とは別個のも
飼料用…………約1200(対象外)
のである。安全性審査についてはこれまで
食品・工業用…約400
・菓子用(コーングリッツ) …約20(表示対象)
ガイド ラインに基づいて業者が自主的に審
・ビール・飲料用…………約360(対象外)
査を受ける制度なっていたが,2001年4月
(コーンスターチ)
(ビール業界が
任意表示検討 )
ビール用 約30
資料
から,食品衛生法での「食品・添加物等の
日本経済新聞99年10月13日から作成
規格基準」による審査が義務づけられるこ
ととなり,未承認食品の輸入,製造,販売
4月から実施することとされている。
が法律で禁止され,罰則も適用されること
(注11)
本表示については改正
法に根拠が置
かれている。
なお,表示と輸入穀物用途とを組み合わ
せたものが第2図で,表示対象となるのは
大豆で食品用の約100万ト ンとト ウモロコ
となった 。
(注7)
日本農業新聞99年10月13日
(注8)
農林水産省資料
(注9)
日本経済新聞99年8月27日,その他
(注10)
日本経済新聞2000年1月30日,朝日新聞
2000年1月30日
(注11)
日本経済新聞2000年1月22日
シの食品用のうちスナック菓子に使う約20
万トンにとどまっており,製油用,飼料用,
ビール・飲料用の大量に穀物を消費するも
4.最近の動向Ⅱ
のについては表示対象外とされている。
――安全性 d.検査・認証
続いて安全性確保策のうち,最近急速な
表示の義務化にともなって第三者による
拡がりをみている
認証が必要となるが,これをビジネスチャ
取り上げる。
ンスと受け止め,検査認証団体を設立する
動きも急である。
(1)
ISO
農林水産・運輸両省の認可団体である日
a.動向
本油料検定協会が検査・認証業務をスター
,
について
(注12)
(
‐
‐ 177
51 農林金融2000・3
)自体は国際標準化機構と訳さ
我が国の認証取得済み企業は5千であ
れ,規格の統一化を図るための国際組織で
り,イギリスの3万社とは大きな開きがあ
あり,製品やサービスが流通する際の,各
る。
国の規格の違いからくる貿易障壁を取り除
くことに設立の目的を置いている。
c.ISOの内容②――ISO14000s
第二次世界大戦後,1947年に設立されて
おり,本部はスイスのジュネーブに置か
るものであるのに対して
れ,加盟国・地域の数は118,10万人以上の
マネジメント に関するものである。
専門家からなる200の専門委員会により,8
千以上の規格を定める巨大な組織である。
るのではなく,企業が自主的に環境負荷を
軍需,宇宙,原子力など絶対的な安全性
低減するシステムを構築することそのもの
を要求される産業の興隆にともなって国際
にねらいがあり,これを消費者にも見える
規格を求める声が大きくなり,76年に品質
ように文書化し,第三者が認証するシステ
保証に関する委員会が設置され,87年には
ムとなっている。
9000 が,96年には14000 が制定された。
99年10月1日現在の
は世界全体で約1万2千件,このうち日本
b.ISOの内容①――ISO9000s
は2 ,500件と登録件数では最も多くなって
9000 は品質管理および保証の規格
おり,ド イツ,イギリス,スウェーデン等
である。
製品そのものではなく,
製品やサー
がこれに次いでいるとともに,急速な増加
ビスの質はそれを生み出すプロセスに依存
を示している。
するものであるとすることに特徴をもって
おり,企業の品質保証体制への要求を規定
d.ISOとTQC,JISとの関係
した規格をいう。すなわち徹底したマニュ
我が国産業界は, 9000 が品質管理・品質保証に関す
14000 は環境
14000 は,法的な環境基準を設定す
14001の登録件数
( アル化によって組織と責任の所在を明確化
小集団を組織し,
製品製造,
従業員の心
し業務の手順化をはかることによって,標
構えも含めた全社的品質管理)により戦後高
準・可視化を実現したものである。
度経済成長を実現し,世界経済をリードし
9000 は現在,90か国以上の国で自国
てきた。この
が消費者が要求する品質
の規格とされ,認証を取得した企業は15万
を満たすための企業による自発的活動であ
社で,93年の欧州市場統合にともない,欧
るのに対して,
9000 は,消費者の要求
規格を求め
への対応の前に,消費者が確認可能なシス
るケースが増加しており,このため市場参
テムそのものを構築するところに特徴があ
入を目指して世界中で認定取得が急増し
る。
た。
また,日本企業は
州諸国では輸入品に対して
‐ 178
52 農林金融2000・3
によって自社製品
の品質の維持・向上を果たしてきたが,こ
にもとづいて栽培した農産物について第三
れが共通の物差しである品質保証システム
者の認証を得ることにより消費者の信頼獲
設定の遅れを招来することになった面もあ
得とブランド化を可能にしているものであ
ると言われている。こうしたなかで91年,
る。
(注13)
規格(日本工業規格)の中に
して,
9900 と
9000 がそのまま取り入れられ,
導入の環境整備がはかられてきた。
e.農業とISO14000s
我 が 国 で の
14001 の 審 査 登 録 企 業
は,電気機械,化学工業,機械等が大きな
(注12)
ISO について体系的に紹介した資料が少
なく,湊文社『アクアネット』(1998年12月号)の
「ISO とは何か」を中心に整理した。
(注13)
(株)
農業食品監査システム(AFAS)は,
有機栽培基準に合致しているかどうかを判定す
る「基準認証」方式ではなく,ISO 14000 s の環境
マネジメント手法を取り入れて,栽培農産物の生
産から売り場までの“履歴書”を提示する「シス
テム認証」方式を採用しての認証業務を開始して
いる。山武郡市農協睦岡支所も AFAS の認証を
受けている。
シェアを占めており,農業関連はごくわず
かにとどまっている。
しかしながら,環境重視の時代の流れに
(2)
HACCP
対応して全農営農・技術センターや千葉
a.動向
県・山武郡市農協睦岡支所が
14001を
は一般的には宇宙船の中で食中
取得するなどの先駆的動きがみられるよう
毒を発生させないために考案されたシステ
になってきた。
ムであるとされているが,そもそもは宇宙
ここで山武郡市農協睦岡支所の動きはき
ロケットの部品の履歴・購入先等のチェッ
わめて重要であると考えられることから若
クシステムに源を発しているともいわれて
干補足しておく。有機農産物にかかる認証
いる。
は野菜の場合で2年以上無農薬・無化学肥
先進国で最も早く
料により栽培することが要件となるが,
組んだのがニュージーランド で乳製品を対
14000 は法的な環境基準を遵守するこ
象に85年に法的対応を発効させている。そ
とにではなく,自主的に環境への負荷を軽
の後92,93年にかけてカナダ,オースト ラ
減していくシステムであるところにねらい
リア,ニュージーランド で水産製品,畜産
が置かれたものである。したがって地域の
製品にかかる法的措置をスタートさせてい
気候風土,生産者の技術レベル等に合わせ
る。
た実情に沿った基準(例えば有機栽培に加え
欧米では −157や食中毒が急増し,死者
て,農薬・化学肥料の使用量を慣行栽培の一
も含めて多数の被害者を出したことをきっ
定割合減少)
を設け,
これについて
か け に,新 し い 衛 生 管 理 方 式 と し て
14000
の認証を受けたものである。このように環
境条件等に合った自主基準を作成し,これ
導入に取り
の導入が積極的にすすめられるこ
とになった。すなわち
では95年域内お
‐ 179
53 農林金融2000・3
よび輸入の水産物,食肉製品,乳製品の製
等とよばれている。
)とは文字どおり重要管
方式に基づく新規制を
理点の危害分析のことで,
「食品の原材料の
制定し,
加盟各国は自国の食品衛生規制の中
生産から始まり,製造,加工,保存,流通
造に対して
(注14)
導入を盛り込むことを求めてい
に
を経て最終消費者の手に渡るまでの各段階
る。
で発生するおそれのある微生物危害につい
また,アメリカは97年にクリント ン大統
て調査し,危害を防除するための監視を行
領が21世紀に向けて食品の安全性確保をよ
うことにより,食品の安全性,健全性およ
り強化する声明を発表するとともに,
「農場
び品質を確保するための計画的な監視方
か ら 食 卓 ま で」を ス ロ ー ガ ン に 強 力 に
式」を指す。
の推進をはかっているが,同年,水
具体的には各重要管理点ごとに管理基準
の実施を義務づけ
等を定め,モニタリングを行い,記録を保
る連邦規則が発効しており,続いて食肉,
存するなど,工程管理を中心とするもので
食鶏肉,ジュースが対象とされてきた。
あって,製品検査を中心とするシステムと
ところで我が国は製品の安全性に対する
は異なっている。具体的には特に重要な工
消費者の意識の高まりを背景に,95年,製
程を5か所以内に絞り,ここを徹底的に
品の欠陥により被害が生じた場合の損害賠
チェックすることが多く,いわば関所のシ
償の責任のルールを定めた「製造物責任法
ステムといえるものである 。
産食品に対する
(注15)
(
法)
」が施行された。あわせて食品衛生
法が改正され,
による衛生管理手
c.HACCPの必要性
法を用いた総合衛生管理製造過程の承認制
度が導入され,現在では乳・乳製品,食肉
うになってきた理由について
製品,魚肉ねり製品,容器包装詰加圧加熱
サルタント 加藤光夫氏は以下の3点をあげ
殺菌食品(缶詰,レトルト食品)が対象とさ
ておられる。
れている。
①バクテリアが強くなってきている。
な お,ア メ リ カ,
は強制法により
の導入を義務化しているのに対し
て,我が国を含むその他諸国は自主導入,
自主管理を基本としている。
・
が各国で積極的に導入されるよ
コン
−157は1982年時点では数時間で死
滅したものが,最近は水があれば8週間
生存可能に。
・ サルモネラ・エンティリティディス
が卵の黄身の中に存在するようになっ
た。(すぐに10℃以下に冷やす必要あり)
b.HACCPの内容
(
・ 減塩志向が広がり食品の塩分が低下
‐
我が国では「ハセップ」
「ハシップ」
②取引基準になりつつある。
③企業力(収益性向上)
‐ 180
54 農林金融2000・3
② に関連して言えば,95年4月10日から
f.HACCPとISO
同年12月6日まで,我が国の水産加工場の
指令にもとづく
衛生条件が水産
基準に達していないとの指摘を受け,我
が国水産製品を
に輸出できなかったこ
とをご記憶の方も多いだろう。このように
やアメリカでは他国から輸入される水
産食品等についても
規制の対象と
なることから,日本から欧米へ輸出される
ものについても
対応が必須とされ
はあくまで食品を対象とした衛
生・品質管理であるのに対して,
産業を対象にしており,さらに
品質管理・品質保証を,
は全
9000 は
14000 は環境
マネジメント システムに関するものであ
る。
したがって
いるとともに,
と
とは重畳し て
のほうが対象領域が広
いことから,食品産業の場合には
ることになる。
を優先して導入し,そのうえでこれも含め
た全体で
d.普及状況及び認証
取得するのがのぞまし いとも言われてい
我が国では既にかなりの導入がはかられ
る。
ており,生協,量販店,フード サービス等
では特に熱心な取り組みがみられている。
g.問題点
の認証については現在,日本食
9000 としてシステム認証を
を導入するのにともなって施設
肉加工協会,日本缶詰協会,日本炊飯協会,
投資は必ずしも必要とはしないといわれな
大日本水産会,日本乳業技術協会,全国味
がらも,実際には施設投資を余儀なくされ
噌工業協同組合連合会の6団体が指定認定
ることが多いとされている 。
機関として認定を受けており,これらが認
また徹底的な管理が行われるため塩素消
証を行っている。
毒等による殺菌,滅菌等が頻繁に行われる
(注16)
ため,塩素系の過剰使用傾向が指摘されて
(注17)
e.コーデックス等との関係
いる 。
( 注 14 )
「日 本 型 食 生 活 を 存 続 さ せ る 柔 軟 な
『アクアネット』1999年1月号
HACCPの導入を」
(注15)
HACCPシステムの12手順
手順1:HACCPチームを編成する。
手順2:製品の特徴を確認する。
手順3:製品の使用方法を確認する。
手順4:製造工程一覧図,施設の図面及び標準
作業書の作成
手順5:製造工程一覧図の現場での確認
手順6:危害を分析する。
手順7:重要管理点(CCP)を設定する。
手順8:管理基準を設定する。
手順9:測定方法
(モニタリング)
を設定する。
は工程管理にかかるシステムそ
のものであり,直接的な国際機関等との関
係はない。しかしながら先にもみたように
欧米での積極的な取り組みもあって,コー
デックスでも97年の総会で食品衛生の一般
原則と合わせて
システムとその適
用に関するガイド ラインを採択している。
‐ 181
55 農林金融2000・3
手順10:改善措置を設定する。
手順11:検証方法を設定
手順12:記録の維持管理
(注16)
HACCP導入にともなう施設導入を支援
するため,農林漁業金融公庫式の利用,税制の優
遇措置が設けれている。
(注17)
久慈 力
「アメリカ輸入の新衛生システム・
『農業情報』No.452
HACCPをめぐる問題点」
規格部会は参加国のスポンサー制となって
おり,その規格部会が自国の利害にとって
重要であるとする国が議長国をつとめる仕
組みとなっている。また,各国代表団は政
府関係者と合わせて多数の企業参加者,そ
れに若干のコンサルタント,
によって
(注19)
構成されている 。
5.コーデックス等国際基準と
WTOとの関連 (2)
コーデックス基準等国際基準とと
GATT,WTO
ここまで表示・認証と安全性確保施策と
ここで
に分けて最近の動向を中心にみてきたが,
内容をみると,検疫・衛生措置が貿易障壁
これらの背後にあって度々顔をのぞかせて
とならないよう国際基準に沿った各国の対
きたのが,コーデックス基準を中心とした
応を求めている 。
国際基準であった。そこで次にこのコー
一方コーデックス委員会では,消費者保
デックス委員会とはいかなる組織であり,
護や公正な貿易確保のため,各国が集まっ
コーデックスの基準はどの程度の強制力を
て国際規格等を策定し,各国がその規格等
もっているのかについてみる。
を採用することを奨励するにとどまり,
コーデックス規格そのものは参加国に対し
(1) コーデックス委員会
て強制力は有しないこととされている。し
に先立ってのガット 合意の
(注20)
コ ー デ ッ ク ス 委 員 会 は,
および
により設置された国際機関である食
かしながら,
協定下の「貿易の技術的
障害に関する協定(
協定)
」において,
品規格委員会の通称である。コーデックス
地理的な条件等合理的な理由がない限り
委員会は1962年,消費者の健康の保護およ
は,国際規格を基礎とすることとされてい
び食品の公正な貿易を確保すること,国際
る。
政府機関,国際
により取り組まれてい
また,
協定でも,加盟国は,科学的
るすべての食品規格業務の調整の促進等を
に正当な理由がある場合,国際基準等によ
目的として設置されたものであり,我が国
るよりも高い保護の水準をもたらす
は66年に参加し,
97年現在では156か国が参
措置を導入することができるとされてはい
加している。
るものの,
「ある特定の安全基準が貿易障壁
コーデックス委員会は,基準を決定する
であるとして提訴された場合,訴えられた
規格部会と,その基準を採択する総会とか
国は,科学的な証拠を示して,当該基準が
(注18)
らなっている 。規格部会は多数存在し,各
必要最低限であると同時に,貿易に対する
‐ 182
56 農林金融2000・3
第4表 SPS協定とTBT協定
SPS協定
とともに,
あり,これら基準が食品・農産物全
TBT協定
対 象 安全性
表示の基準(規格)
般にわたってまさにグローバルスタ
関連する 植物検疫・動物検疫,食品衛 JAS・JIS等
国内制度 生等
国際基準 IPPC・OIE・CODEX
策定機関
協
定
の
主
な
内
容
・人,動物又は植物の生命
又は健康の保護に必要な
措置が貿易にもたらす悪
影響を最小限にする
・措置は原則として国際基
準に基づいている
・科学的に正当な理由があ
る場合,国際基準より厳
しい水準での措置が可能
・科学的証拠が不十分な場
合,事後の再検討を条件
に暫定的な措置が可能
・導入する措置に係る内外
無差別取扱い
・導入する措置に係る手続
の平等
・導入する措置に係る通報
義務
等も同様の傾向に
ンダード としての強制力を身につけ
CODEX・ISO
始めているのである。
・産品及び生産工程に関す
る規格が不必要な貿易の
障害をもたらすことを防
止する
・国際規格があれば原則と
してこれを基礎として用
いる
・導入する規格に係る内外
無差別取扱い
・導入する規格に係る手続
の平等
・導入する強制規格に係る
通報義務
資料 農林水産省
(注) 用語説明
IPPC,
「国際植物防疫条約」
OIE
「国際獣疫事務局」
CODEX
「FAO/WHO合同食品規格委員会」
ISO「国際標準化機構」
悪影響が最も少ない措置であることを証
明」
しなくてはならなず,
「食品規格の談判
(注18)
機構としては,執行委員会,全般問
題規格部会,地域調整委員会,専門家委員
会,食品規格部会,及び品目別部会が存在
している。
(嘉田良平『世界の食品安全基
準』農山漁村文化協会)
(注19)
伊庭みか子「ハーモニゼーション
を問う」
『農業と経済』93年臨時増刊号
(注20)
ガット ・ウルグアイ・ラウンド 農
業合意の概要(関連部分のみ)
「4.検疫・衛生
検疫・衛生措置が偽装された貿易制限
となることを防止し,国際基準に基づい
て各国の検疫・衛生措置の調和を図るこ
と等を目的とする。
(1)
国際基準が存在する場合には,自国
の検疫・衛生措置を国際基準み基づかせ
ることを原則とするが,科学的正当性等
がある場合には,国際基準よりも厳しい
措置を採用し,維持することができる。
(2)各国の検疫・衛生措置を通報する
ことにより,透明性を確保する。
」
(農林水産省資料より)
(注21)
(注19)
に同じ
の根拠を科学のみに委ねる限り,そしてそ
の科学の正当性はコーデックス委員会の定
める国際基準の科学的原則と規定する限
り,ガット の国際基準より厳しい基準の設
6.問題点と今後の対応
(注21)
定は限りなく不可能に近く」,実質的には
(1)
表示制度等と国際基準の持つ
コーデックス規格を基礎とすることが半ば
問題点
義務化されている(第4表)。
表示・認証制度については,有機食品基
これまでコーデックス基準は検疫・衛生
準策定で典型的にみられるように,実態的
措置を中心とする安全性確保施策に関する
にはコーデックス基準が各国基準の基礎基
ハーモニゼーションの問題のなかで議論が
準的役割を果たしており,我が国の立場か
なされてきた。
らすればきわめて厳しい基準が策定され,
しかしながら有機食品等にかかる基準を
国内生産による対応を困難化させている。
はじめとしてその影響力を拡大しつつある
一方,検疫・衛生措置についても「各国
‐ 183
57 農林金融2000・3
は国際基準を優先して採用し,国際基準よ
まで排除することになり,健康への悪影
り厳しい基準の採用にあたっては『有効な
響が懸念される。
科学的根拠』
が必要である」
とされており,
各国の自然的・社会的条件等の相違により
(2)
対応課題
より厳しい安全基準を設けることは困難と
以上鏤々述べてきたが,表示・認証制度
なり,相対的に緩やかな基準で統一されざ
や安全性にかかる基準・仕組みは,消費者
るを得ない仕組みとなっている。
ニーズへの対応,我が国の食料自給構造,
に
流通事情からして必要不可欠なもの,避け
ついては93年にコーデックスのガイド ライ
られないものとなってしまっており,その
ンはつくられている以外には直接的な関連
流れを逆転させることはもはや不可能な情
はなく,規制でも法律でもなく,なんら法
勢に至っているというのが筆者の基本認識
的根拠も強制力もないとされているもの
である。真の意味でのハーモニゼーション
の,実態は先にみたようにこれらも国際基
(調和)を確立し,安全性の確保と消費者
準化しつつあり,これへの対応抜きにして
ニーズへの十全な対応をはかっていくため
は円滑な輸出が次第に困難になってきてい
にはいくつかの基本的課題に取り組んでい
るのである。
くことが必要である。
すなわちコーデックス基準を中心とする
まず第一が,表示・認証もふくめてこれ
国際基準がグローバル・スタンダード 化す
ら基準等は,農産物・食品の広域流通を前
ることにより,次のような問題点が指摘さ
提としたものであり,広域流通であるが故
れる。
に表示なり,安全性確保施策が必要とされ
① 国際基準を設けるにあたって,どうし
ているものである。あくまで基本は自給な
ても低位のレベルに合わせざるを得ない
り地場流通であり,これを広域流通が補完
ことによる安全性レベルの低下を招いて
する関係にあることをあらためて明確化し
いる。
ておくことが必要である。
また,安全性確保施策のうち
② 国際基準との調和,ハーモニゼイショ
第二に,地域性を無視した国際基準では
ンにより食品・農産物の貿易・流通は拡
消費者のニーズに十分対応可能な安全性レ
大する一方での,本来食品・農産物が持
ベルを確保していくことは困難であり,一
つ地域性が喪失されつつある。
方で厳格な表示がルール化されるなかでは
③ さらに付け加えれば広域流通,国際貿
有機農産物にみるように国内での生産は困
により徹底的な
難であり,有機表示の大半は輸入ものとい
易を前提にして
衛生管理が行われるためともすれば塩素
うことになりかねない。
消毒等による過剰な殺菌・滅菌処理が行
したがって各国の地域性にも十分配慮し
われがちで人間の体の中に存在する雑菌
た国際基準,あるいはその位置づけ・取扱
‐ 184
58 農林金融2000・3
いが求められるのであって,こうした国際
をもって行っていく等,確固とした地域性
基準と地域性の両立,真の意味での調和=
や安全性についての認識確立なしには毅然
ハーモニゼーションが必要とされているの
とした対応は困難である。
である。
いずれにしても本稿で取り上げてきた問
第三に,農薬,食品添加物にかかる問題
題は消費者ときわめて密接にかかわるもの
にとどまらず,遺伝子組み換え食品,外因
であり,生産者サイド も自らの問題として
性内分泌かく乱物質(=環境ホルモン)等
かかわり,国民全体の問題として取り組ん
次々と新たな問題が提起されている。
でいくべき重要課題である。
こうした状況に対応していくためには,
(注22) 中島康博「EUにおける食品の安全制度
∼その理念と取り組み」
(『農業と経済』1999年8月
号)では,EU 安全制度の背景にあるものとし
て,マーストリヒト条約,補完性の原則,相互承
認の原則(EU内のある加盟国において合法的に
生産・販売されている製品は,他の加盟国におい
ても自 動的 に許可 され 流通 される とい う考え
方)
,SPS協定,コーデックスがあげられてい
る。
(注23)
(注22)
に同じ
創設の基本となるマースト リヒト 条約
の第3条b項の補完の原則(
内の政策は
地域レベルや国レベルを原則に決定されるべ
きであって,より高次の
レベルで実施した
ときに大きな効果を発揮されると判断される
場合においてのみ,
統一の政策で対応して
(注22)
もよい)や,
の遺伝子組み換え作物につ
いての理事会指令90/220における安全審
査で実質的同等性の確保についての評価を
慎重の原則(「不可逆的な変化が懸念されるも
のについては,安易に事態が進むことがない
ように,規制を行ううえで慎重な行動をすべ
きだという原則である。環境政策の取り組み
方針として,単一欧州議定書において,
「予防
措置の原則」,さらにマースト リヒト 条約で
<参考文献> ・神山美智子・伊庭みか子・田坂興亜『ガットの落と
し穴――食品安全基準』家の光協会1992年7月
・嘉田良平『世界の食品安全基準』農山漁村文化協会
1997年7月
・
(財)
食料・農業政策研究センター『食料政策研究』
1999―Ⅳ №100
・同上1999―Ⅱ №98
・富民協会・毎日新聞社『農業と経済』1999年8月号
・同上1993年臨時増刊号
・拙著『持続型農業からの日本農業再編』日本農業新
聞2000年1月
(注23)
「慎重の原則」が加えられることになった。)
(蔦谷栄一・つたやえいいち)
‐ 185
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