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留学生レポート
留学生レポート スペイン/教皇立コミージャス大学 内山 俊之(商学部3年) 2 0 1 1 年 1 月 か ら 2 0 1 1 年 1 2 月 ま で ス ペ イ ン ・ マ ド リ ー ド の 教 皇 立 コ ミ ー ジ ャ ス 大 学 (Universidad PontificiaComillas de Madrid)に留学させて頂いた、内山俊之と申します。帰国してから1ヵ月ほど経ちますが、マドリ ードでの生活を振り返りながら、留学について報告させていただきたいと思います。 今回の留学で、一橋大学の制度を通してマドリードを訪れたのは2回目となりました。初めてマドリードを訪れたのは、 春休み中に開講されている「スペイン企業研修」に参加させて頂いたときでした。以前からスペイン語を履修していたこ ともあり、マドリードの雰囲気、人々、街並みにすっかり魅力を感じてしまったことが今回の長期留学のきっかけとなり ました。 ① 派遣先大学と履修について 私の派遣先大学である「教皇立コミージャス大学」は、マドリードの中心部に立地する私立大学です。私がこの大 学を選定した理由は、①留学生に対するサポートが充実している大学でスペイン語力を向上させたかった。②全ての 授業の人数が多くても50人程度で、マドリード市内の公立大学と違い少人数制であるため、現地の学生と混ざって スペイン語で議論に参加するなどのグループワークができそうだ。と思ったからでした。 第一の目標、スペイン語の上達 私のスペイン語力は、出発するまでの数年間一橋大学でスペイン語を履修していた程度でした。たしかに「スペイ ン企業研修」に参加した経験もあり、単純な日常会話ならば意思疎通は可能でしたが、非常に早口なマドリードのス ペイン語には相当苦労しました。語学力もこの程度でしたし、他にもいろんな不安を抱きながらスペインに向かうこ とになりました。 到着した翌日から留学生向けオリエンテーションが始まり、早速大学のスペイン語のプレースメント・テストを受 けました。語学力を試すプレースメント・テストなのですから、リーディング・ライティング・リスニング・スピー キングの全てが試されるかと思いきや、 「空欄を適切な語で埋める」文法の試験だけでした。会話が下手な私でしたが、 文法に力を入れてきたので、高得点を取れてしまい、気付いたら外国人向けのスペイン語クラスの中で最もレベルの 高いクラスに入れられてしまいました。 この授業は、火曜日と木曜日と1週間に2回、1回につき100分の授業でした。火曜日は、ある文法の法則を丁 寧に教え込む「典型的な」語学の教室でした。しかし木曜日になると、その週に習った「理論」を実践するために机 で輪をつくり、会話重視の授業が行われました。クラスメートは主にイタリア人とブラジル人といった、スペイン語 と近い言葉を母国語とする学生が多く、 「自分と違って、あまり考えずに会話ができている」という印象を受けました。 そういうクラスメートと受ける授業の後に、スペイン語会話の能力差に落胆することもよくありました。 また、毎回の課題として、その週に学習した新しい文法構造を利用した2ページ程度のエッセイが出題されていま した。次の授業になると、提出した課題に細かく赤ペンが入れられた状態で返却されました。ミスは毎回ありました が、周りの学生よりは赤くマークされている箇所が少なかったように思います。恐らく、イタリア語やポルトガル語 といった言葉はスペイン語に近いとはいえ、単語には微妙な違いがあり、会話では誤魔化すことができても、紙に書 くと「正しい」スペイン語にはならないためではないかと私は勝手に思いました。それに対して、スペイン語とは全 くベースが異なる言語を母国語としている私やドイツ人の学生は、「型にはまった」スペイン語を使うけれども、 「ラ テン語の感覚」のようなものに頼らないからこそ、しっかりと、丁寧な文章を書き上げられるのだと感じました。 「日本人は文法上手、会話下手」としばしば非難されますが、 「文法上手は捨てたものではない」と思うことができ ました。リスニング・スピーキングの力が少し劣っていたとしても、リーディング・ライティングの強さを「自信」 にすることができました。 「誰にだって弱さがある」と気付いてから、あまり恥ずかしがらずに授業の議論に発言する ようになり、授業の外でも他の留学生にも声をかけられるようになりました。到着して3ヵ月ほど経って漸く自信を 持ってスペイン語で喋れるようになり、 「お前はそんなに大人しいヤツではなかったな」と言われることも少しずつ増 え、 「もっと頑張ろう」と、さらなる語学力の向上を目指しました。 現地の学生と議論 このように、留学生として受ける語学の授業以外に、現地の学生が受ける専門科目を受講しました。留学生をたく さん受け入れている大学でしたが、英語で受けられる授業が少なく、結局1学期目から、全ての授業をスペイン語で 履修することになりました。一橋大学では経営学を専攻していますが、留学中は今まで興味を持っていたが、学習す る機会がなかった分野に飛び込んでみようと思いました。 履修した授業の分野は、多岐に渡りました。スペイン語のライティング・リーディングを強化でき、時事問題に関 して議論をすることを中心とした「ジャーナリズム」、EUの国を留学先として選んだ者として、興味を持っていた「E Uの政策と制度」 、興味本位で履修した「国際関係論」など、スペイン人の学生と一緒に受講できる授業を履修しまし た。授業によって履修人数は変わりますが、現地の学生は多くても50人で、留学生が5人程度でした。法律・経済 学部では日本人が私だけで、留学生の6割ほどはヨーロッパ域内(残りは米国、中南米)の学生でしたので、アジア 人の学生が私1人だけというケースがほとんどでした。そのため、どの授業でも毎回のように「日本ではどうなって いるのか?」 、 「日本人は○○の問題について、どう考えているのか?」と教授に発言を求められました。普段からこ ういった問題意識を持ってこなかった留学当初の私は、ディスカッションに中々貢献できず、自国が抱える問題に対 して自分の意見を主張できる他国の学生を悔しい目で見ていました。 特に印象に残っているのが、 「政治理論」という法学部4年生向けのゼミ形式の授業での経験でした。一橋のゼミナ ールのように毎週2~3人のグループで、 「ナショナリズム」や「スペインにおける多言語・多文化政策」といったテ ーマに関する発表が1時間程度行われ、その後また1時間ほど、発表者が設定する論点に関してディベートが行われ ました。この授業を履修していた留学生は私だけでしたので、必ずテーマに沿って「日本について」説明することが 求められました。そのため、少しでもディスカッションに貢献できるよう、授業前に日本に関する「ネタ」を仕込ん でおくなど、スペインのニュースで話題になっていたことに少しでもコメントをできるようにしていました。最初の うちは「発言するのが恥ずかしい」、 「間違っていたらどうしよう」と心配しました。しかしいざ発言してみると、周 りの学生は関心を示し、さらなる質問でフォローを加えてくれたので、次第に恐れずに授業に参加できるようになっ ていきました。その結果、数少ないクラスメートと自然と仲良くなり、授業の最終日は教授とクリスマスパーティー を開きました。 「周りの目を気にせずに自分の意見を発信する」、 「まずは飛び込む」周りの学生の姿勢を、少しは見習 えたように思えます。 ② スペインでのアパート生活 生活面でも、このように「自分」と「日本」を意識させられる場面が多くありました。私の大学はマドリードの中 心地にあったので、市内のアパートを4人でシェアしていました。ルームメートは途中、何度も入れ替わりましたが、 スペイン人、イタリア人、メキシコ人、ベネズエラ人など、主にヨーロッパと中南米の人でした。また、学生だけで はなく、企業で働いている人や、フリーランスのジャーナリスト…と色んなバックグラウンドを持つ人たちと共同生 活をしました。留学前までは東京で3年間1人暮らしをしていた私にとって、全く異なるライフスタイルや人生観を 持つ人たちとの共同生活は非常に新鮮な体験でした。 アパートのキッチンとリビングは共用であったため、常にコミュニケーションの場になっていました。スペインで は学生でも社会人でも、昼休みは14時から16時までであり、平日は基本的に昼休みになったら帰宅し、家族であ るかのようにルームメート同士で一緒に昼ご飯を作って食べました。ルームメートが職場の仲間を家に連れてきて、 一緒にご飯を食べるということもよくあり、必ずと言ってもいいほど頻繁に、「日本では本当にクジラを食べるの?」 「日本人の学生はどうやって遊ぶんだ?」、 「サクラは本当に、あんなに綺麗なの?」と、質問されました。私が留学 中に発生した東日本大震災の後も、大惨事の中でも取り乱さない日本人の姿が報道され、「日本人は何て冷静なのだ、 我々も見習うべきだ」と賛辞をもらったことも少なくありませんでした。自分の国についてこんなにも質問され、意 識させられたのは、人生で初めてだったかもしれません。 日本人が少ない環境に自分の身を置けたからこそ、 「私は日本人である」と余計に意識し、私から見た「日本」を他 人に語る機会が増えました。そういった過程の中で私は、より日本に対して誇りを持つようになると同時に、今日本 が抱える問題や課題に素直に向き合い、少しずつ変えていく努力を重ねていく大切さを学びました。 ③ 感謝の気持ちを込めて スペイン留学では勉強面に限らず、非常に充実した留学生活を送ることができました。このような機会を与えてく ださった明治産業株式会社、明産株式会社、社団法人如水会の皆様には本当に感謝しております。また、出発前から 留学をサポートしてくださった国際課の方々や、ゼミの指導教官である沼上幹先生、私とマドリードを結び付けた「ス ペイン企業研修」のコーディネーターである阿部仁先生、太田浩先生、マンキューソ先生にも、この場をお借りして お礼を申し上げます。本当に有難うございました。 (2012/02/08)