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河川事業における地質・土質調査計画の立て方(案)
河川事業における地質・土質調査計画の立て方(案) 平成13年12月 社団法人 建設コンサルタンツ協会 技 術 部 会 土 質・地 質 技 術 委 員 会 専 門 委 員 会 目 次 まえがき 1.河川事業の流れと地質・土質調査の関連・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.河川構造物の各調査段階における調査内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 3.河川構造物の種類と調査・試験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 4.河川堤防の調査・試験内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 5.河川構造物(堰等)の調査・試験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 あとがき まえがき 政府は、全閣僚で構成される関係閣僚会議において、 「公共工事コスト縮減対策に 関する行動指針」 (平成9年4月4日)を決定し、公共事業関係各省をはじめ各発注 機関において、それぞれ行動計画が策定されるところとなりました。一方、 (社)建 設コンサルタンツ協会でもこれに先立ち、建設コンサルタントのコスト縮減行動計 画と提案を内容とする「設計改革宣言」 (平成9年3月18日)を公表し、活動して おります。その活動の一環として、技術部会技術委員会の1つである「土質・地質 専門委員会」では、河川事業及び道路事業の地質・土質調査計画の立て方について 討議し、その結果を小冊子にまとめました。 本小冊子は、設計改革宣言にもあるように、 “公共工事(または建設生産システム) の設計業務においてはその上流段階にある調査・計画・比較設計等で充分に検討し、 総合的な合理性を確認することが重要である”との認識により、その基本となる地 質・土質調査のあり方について河川事業の一部を例に、その概要を示したものです。 本小冊子の構成は、1章で「一般的な河川事業の流れと地質・土質調査の関係」 をフローで示し、2章では「各事業段階での構造物毎の調査内容」を、3章では「構 造物の種類、立地条件等毎の調査・試験方法」を整理して示し、4章以降では、 「各 構造物別の調査の流れと調査・試験方法の詳細」をとりまとめております。 なお河川堤防に関する内容は、建設省河川砂防技術基準(案)同解説を基本として おりますので、これに準拠した記述になっています。可能な限り図表、フローチャー トで表示して、視覚的に理解しやすいようにまとめてあります。 ここに示しましたのは一般的な河川構造物の計画・設計の各段階において必要と考 えられる調査・試験内容であります。実際の地盤は河川の流れの変遷や上流の複雑な 地質の影響を強く受け、下流域の地盤も複雑でかつ不均質であり、限られた調査・試 験では地盤を代表する物性値や設定数が得られない場合が多々あります。調査計画に 当たっては、この小冊子や他の参考書での卓上の計画ではなく、現場毎に現地踏査や 既存資料等を十分検討されるようお願い致します。この小冊子が調査計画時の一参考 資料とされ、河川事業におけるコスト縮減に貢献できれば幸いに思います。 この小冊子が皆様のお役に立つことを願うとともに、皆様のご意見をいただき将来、 適切に、追補・改訂していきたいと考えております。 土質・地質専門委員会委員 ・建守 健委員長 基礎地盤コンサルツンツ株式会社 ○上野繁寛 日本工営株式会社 ・齊藤和春 株式会社建設技術研究所 ・後藤駿介 中央開発株式会社 ・佐々木勉 梶谷エンジニア株式会社 ○佐々木康二 株式会社ダイヤコンサルタント ・出納和基夫 セントラルコンサルタント株式会社 ○徳重隆志 応用地質株式会社 ○長谷川浩夫 株式会社アイ・エヌ・エー ・石川 清 株式会社オリエンタルコンサルタンツ ・真鍋 進 日本技術開発株式会 ・水谷 進 パシフィックコンサルタンツ株式会社 ・吉田 淳 サンコーコンサルタント株式会社 ○ 印は本小冊子をまとめた委員です。 1.河川事業の流れと地質・土質調査の関連 [段階] [計画・設計・施工・維持管理] [土 質 ・ 地 質 調 査] 上 位 計 画 ・国 土 計 画 ・地 域 計 画 事業の必要性の判断 整 機 能 の 確 保 備 ・ ・ ・ ・ 計 治 水 機 能 利 水 機 能 環 境 機 能 その他機能 代 替 案 の 作 成 画 予 備 調 査 段 代 替 案 の 検 討 階 予備設計(or計画設計) ・概算工事費 ・ 文献・資料調査 ・ 現地踏査 ・ 比較現地調査 (ボーリング、サウンディング他) ・ その他 最適構造物案の概要抽出 <事業の決定> ・ 位置・規模・環境 ・ 経済性・施工性 対象構造物に対する対象地域の 問題点の抽出 主要設計条件の決定 基 本 調 査 計 画 立 案 構造物の設計方針 計 本 調 査 ※1 画 段 概略設計(or基本設計) 階 ・ 構造物の主要寸法の決定 ・ 施設と用地の決定 <用地の決定> ・物理探査 ・ボーリング調査 ・原位置試験 ・室内土質試験 ・その他 ・2~3案の比較設計を含む 不 足 資 料 の 検 討 事 業 追 加 調 査 計 (本調査で不足する資料の 収集など) 画 段 詳 細 設 計 階 <詳細図面> ・ 工 事 用 図 面 ・ 工 事 数 量 積 算 施 工 ・ 維 持 管 理 段 階 施 工 管 理 調 査 工 事 施 工 ・地盤の支持力と地盤反力係数の確認 ・盛土の施工状況確認 ・その他 供 用 維 持 管 理 調 査 維 持 管 理 ・点検リストの作成と点検 ・変状発生の場合の原因究明 調査と対策工の検討 ・その他 ※2 (注)※1.堤防の場合は、本調査一次と二次に区分される ※2.既設堤防に漏水や変状が発生した場合 1 2.河川構造物の各調査段階における調査内容 調査段階 基本計画段階 概略調査 予備調査 河道選定のための広範囲 堤防の場合は地盤区分の 調査目的 な大局的な調査 判定のための概略調査 [机上調査][現地調査][机上調査] [現地調査] 主な手法 ①資料収集 ①現地調査 ①資料収集 ①現地調査 ②資料判読 ②資料判読 ②原位置調査 ③地形判読 ③地形判読 ③室内試験 築堤計画のための問題点 ①文献・資料調査:地質資料調査 抽出 災害資料調査、地形図等収集 河 ①文献・資料調査 ②現地調査:地形調査、地質調査 文献、地形図、地質図、 植生調査 川 航空写真、災害資料 ③調査結果の判定 ②現地調査 ・透水性地盤 河 堤 地形、地質、植生 ・軟弱地盤 ・既往地震時に液状化が発生した 防 地盤 川 堤 2 防 ⌒ 築 堤 ) 堤 体 材 料 既 ①文献・資料調査:地質資料調査 地形図等収集 ②現地調査:地形調査、露頭調査 原位置貫入試験、現地踏査 ①既設堤防調査:築堤履歴、災害 履歴、変状状況、堤防構造 ②資料調査:災害、地盤、地下水 ③現地調査:地形、地質 設 堤 防 河 川 調 査 目 的 主 構 な 造 手 物 法 構造物の種別及び位置の比較を 検討する資料を得る。 ① 資料収集整理 (地形図,空中写真,既往災害 資料,土質・地質資料) ② 現地踏査 (地形・地質,既往構造物) ③ 比較現地調査 (ボーリング,サウンディング、他) 事業計画段階 本調査(一次) 本調査(二次) 予備調査の地盤区分によって軟弱地盤 軟弱地盤と透水性地盤の本格的調査を行 と透水性地盤調査の概略的な現地調査、 い、細部構造決定のための本格的調査 室内試験から地盤の判定を行う。 ①現地調査 ②原位置調査(ボーリング調査、サウンディング、弾性波探査等) ③室内試験 ④地下水関連調査 ①ボーリング調査:鉛直ボーリング <軟弱地盤調査> ②原位置試験:サウンディング試験 ①ボーリング調査:鉛直ボーリング ③土質試験:土の判別試験 ②原位置試験:スウェーデン式サウンディング試験 ④調査結果の判定(地盤の判定) オランダ式二重管コーン試験、標準貫入試験 1)軟弱地盤 オートマチックラムサウディング、ベーン試験 ・粘土地盤 ③試料採取:固定式シンウォールサンプラー、サン ・有機質土の地盤 ドサンプラー ・砂地盤(緩い砂N<10、粒径の揃った砂)④土質試験 2)透水性地盤 <透水性地盤> ・表層が砂または砂礫地盤 ①ボーリング調査:鉛直ボーリング ・不透水性の薄い表層の下が砂または砂 ②原位置試験:スウェーデン式サウンディング試験 礫層などの存在する地盤 オランダ式二重管コーン試験、標準貫入試験 ③試料採取:固定式シンウォールサンプラー、サン ドサンプラー ④土質試験 ①ボーリング調査:鉛直ボーリング、オーガボーリング ②原位置試験:静的コーン貫入試験 ③土質試験:物理試験、突き固め、透水、せん断試験、室内コーン貫入試験 ④弾性波探査 <堤体漏水調査(堤体から漏水が認められた場合)> ①資料調査(災害、土質)、聞込み調査(災害) ②ボーリング調査:鉛直ボーリング、試料採取 ③原位置試験:現場透水試験、地下水変動調査 ③土質試験 <堤防地盤漏水調査(既設堤防の基礎地盤から漏水が認められた場合)> ①ボーリング調査:鉛直ボーリング ②原位置試験:スウェーデン式サウンディング試験、オランダ式二重管コーン試験、標準貫入試験 ③試料採取:固定式シンウォールサンプラー、サンドサンプラー ④土質試験 <軟弱地盤調査(既設堤防の嵩上げあるいは地震時による沈下やすべりの恐れがある場合)> ①ボーリング調査:鉛直ボーリング ②原位置試験:スウェーデン式サウンディング試験、オランダ式二重管コーン試験、標準貫入試験 オートマチックラムサウンディング、ベーン試験 ③試料採取:固定式シンウォールサンプラー、サンドサンプラー ④土質試験 設備の配置と基礎形式を含む主要構造の決定に必要な資料を得る。 <深い基礎で軟弱地盤上の築堤と同時に施工する場合> ・地表面から支持層までの強度定数を詳しく調査する。 ・圧密沈下とネガティブ・スキン・フリクションの検討のための試験を実施する。 ① 物理探査(電気探査など) ② ボーリング調査 ③ 原位置試験 (サウンディング,孔内水平載荷試験,平板載荷試験,杭の載荷試験,現場透水試験, 間隙水圧測定、他) ④ 室内土質試験 施工・維持管理段階 追加調査 細部構造検討でまだ 不足するもの、コスト 縮減を図るための調査 左に加え特殊調査・試験 施工管理調査 設計時の調査では不十分 で設計条件の確認及び施 工管理用に用いる調査 左に加え観測、計測調査 維持管理調査 維持管理において必要とされる調査 同左 各種調査:ボーリング調査および 現地調査(変状、堤体漏水、湧水等) サンプリング、動態観測(現場 動態観測(沈下観測、動態観測) 計測、沈下安定管理、その他) ①地下水変動調査 ②試験施工 各種調査:ボーリング調査および 現地調査(変状、堤体漏水、湧水等) 土質試験、地下水位測定 地下水変動調査 地下水変動調査 現場密度測定、自然含水比 試験施工 盛土品質規定調査(締固め度管理 現地調査(変状、堤体漏水、湧水等) 飽和度管理調査) 地下水変動調査 ①地下水変動調査 ②試験施工 各種調査:ボーリング調査および 現地調査(変状、堤体漏水、湧水等) サンプリング、動態観測(現場 地下水変動調査 計測、沈下安定管理、その他) 地下水変動調査 左で不足する資料を得る。 地盤の支持力と地盤反力係数な どの確認。 (左で不足する調査) ① 原位置試験 ① 目視調査(点検リストによる) (基礎位置での平板載荷試験,② 動態観測(沈下計測、他) 杭の支持力試験、他) ③ 変状発生の場合の原因究明調査 ② 動態観測 (と対策検討) (沈下計測、他) ①現地調査 ②原位置調査 ③室内試験 ④観測・計測 維持管理において必要とされる調査。 3.河川構造物の種類と調査・試験方法 孔内検層 電 密 ボ 気 度 ア 検 検 ホ 層 層 ー ル テ レ ビ 標 準 貫 入 試 験 サウンディング オ 簡 オ ス ベ ー 易 ラ ウ ー ト コ ン ェ ン マ ー ダ ー 試 テ ン 式 デ 験 ィ 貫 二 ン ッ 入 重 式 ク 試 管 サ ラ 験 コ ウ ー ン ム サ ン デ ウ 貫 ィ ン 入 ン デ 試 グ ィ 験 ン グ 三 成 分 コ ー ン 貫 入 試 験 地 下 水 変 動 調 査 地下水調査 流 現 水 向 場 質 流 透 試 速 水 験 測 試 定 験 湧 水 圧 試 験 載荷試験 平 孔 杭 板 内 の 載 水 載 荷 平 荷 試 載 試 験 荷 験 試 験 物 理 一 一 試 軸 面 験 圧 せ 縮 ん 試 断 験 試 験 室内試験 土質試験 静 的 試 験 三 圧 突 軸 密 き 圧 試 固 縮 験 め 試 試 験 験 岩 動的試験 石 透 水 試 験 コ ー ン 貫 入 試 験 変 形 特 性 試 験 液 状 化 強 度 試 験 物 理 ・ 力 動 学 的 非 試 三 排 験 軸 水 試 繰 験 返 他 し UU CU CU CD 3 河 川 堤 防 ( 新 堤 ) 堤 体 材 料 既 設 堤 防 河 川 構 造 物 予備調査 ◎ ◎ ◎ 本調査(一次) 軟弱地盤調査(粘性土) 〃 (緩い砂) 透水性地盤調査 予備調査 本調査(土砂) (軟岩) ◎ 堤防弱点個所抽出調査 堤体漏水調査 軟弱地盤漏水調査 軟弱地盤調査(粘性土) 〃 (緩い砂) 予備調査 本調査(浅い基礎) 〃 (深い基礎) 軟弱地盤調査 (粘性土) 〃 (ゆるい砂) 〃 (砂礫) 透水性地盤調査 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ 試 験 ) ボーリング及びサンプリング 機 オ 固 サ ブ 岩 械 ー 定 ン ロ 盤 ボ ガ 式 ド ッ の ー ー シ サ ク コ リ ボ ン ン サ ア ン ー ウ プ ン ボ グ リ ォ リ プ ー ン ー ン リ リ グ ル グ ン ン サ グ グ ン プ リ ン グ ) P S ( 速 度 ) 検 層 ) 物理探査 弾 電 磁 性 気 気 波 探 探 探 査 査 査 ) 現 地 踏 査 ) 聞 き 込 み 調 査 ) 資 料 調 査 ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ 凡例 ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ○ ◎ ○ ○ ○ ◎ …… 特別な場合を除いて実施する。 ○ …… 必要に応じて実施する。 4.河川堤防の調査・試験内容 本章は、1~4章で包括的にまとめた河川堤防に関する調査の進め方及びその内容 を具体的に記述したもので、新築堤防、既設堤防、材料調査について調査段階ごとに 記載してあります。 堤防は原則的に土から構成され、堤内地を洪水時の河川水の浸透、水圧、波浪等か ら守る役目を持った重要構造物であり、わずかな弱点が破堤に繋がり堤内地に多大の 損失を与える可能性もあります。また、既設堤防には築堤の長い歴史があり、その時 代の財政力や技術力に左右され、堤防の断面の様相は様々に変貌している特徴があり ます。このため、新堤の改築と既設堤防の改築とは調査計画も異なるのでそれぞれ区 分しました。 表-1~表-4は河川堤防の新築築堤の調査計画を予備調査、本調査(一次)、本調 査(二次)として示しました。基本計画時の予備調査は机上調査と現地調査の内容を 記載しましたが、この予備調査は今後の調査・設計方針を大きく左右します。堤防の 構造を決定するのは、築堤材料と基礎地盤の透水性であり、文献・資料調査あるいは 現地調査などで地形、地質、災害状況を如何に把握できるかによって、設計や本調査 の流れも変わってくるのでこの時点での調査は重要であります。 堤防下の地盤で問題になるのは透水性地盤と軟弱地盤であります。前者は洪水時の 地盤浸透から堤内の湧水もしくは浸透破壊に至る破堤などに繋がる地盤であって、そ の浸透地盤の土質定数や透水性の把握は重要であります。後者は築堤時の堤防の新規 荷重増分で基礎地盤の沈下やすべり破壊を発生するので、軟弱地盤調査を実施し、地 盤の強度や圧密定数を把握することが重要となります。また表-5には堤防の構造を 左右する堤体材料選定のための調査内容を示しました。 表-6、表-7には既設堤防の調査内容を示しました。既設堤防の拡幅に伴う調査 も基本設計時の予備調査段階で、文献・資料調査、現地調査、災害資料調査等を実施 し、地形、地質、災害、漏水等の状況を把握し、基礎地盤の状況並びに既設堤防のお およその性状と透水性を把握することが設計や調査の流れを左右するので重要となり ます。特に既設堤防が漏水した履歴があるかどうか、基礎地盤からの漏水の履歴があ るかどうかにより、本調査の内容が異なるのでこの時点の調査は重要となります。 河川堤防の調査においては、調査の流れを理解し、問題の所在を的確に把握して全 体を計画することが重要であると考えます。特に計画段階の調査が重要であり、それ が建設コストの縮減に繋がるものと確信します。 4 表-1 河川堤防の予備調査 河川堤防で問題となる地盤は、軟弱地盤と透水性地盤である。また地下水位が高く緩い砂地盤でも砂の液状化が問題 となるので、軟弱地盤の1つとして着目して調査する必要がある。この両方の地盤以外の普通地盤では特に、築堤と して大きな問題とはならないので、予備調査及び現地調査結果で問題となる軟弱地盤及び透水性地盤でないことが明 らかな場合は、河川堤防に対する本調査を省略しても良い。 調査手法 文献・資料調査 内 容 地質資料調査 災害資料調査 地形図等収集 現地調査 地形、地質、 植生調査 既設堤防調査 結果のまとめ 土質縦断図の作成 地質図の作成 解 説 計画路線沿いの近接した既往の土質調査資料ならびに地質調査資料を 収集し、概略の土質柱状図や想定地質断面図が描けることが望ましい。 既往の文献・資料から堤防の災害記録を収集し、堤防の沈下、のりす べり、漏水個所、漏水量、破堤状況等を抽出する。また工事記録や河川 改修等の記録を収集する。 国土地理院の地形図や航空写真を収集し、治水地形分類図、旧版の地 形図や古い地形図を収集する。これらから微地形の分類と堤防の変遷を 調査する。 堤防計画線近傍一帯の地盤の表層状況、特に地形、地質、土質、地下 水、湧水、土地利用、家屋の連担、植生の生育状況等を調査する。現地 状況と資料調査から下記の地盤を特定する。 1.軟弱地盤 ①平坦な湿地帯,湿田地帯 ②台地や山地に平坦な水田が入り込んでいる地域 ③自然堤防や海岸,砂丘等の後背地 ④既往の土質調査資料などから軟弱地盤の存在が知られている地域 ⑤その他軟弱地盤の分布が予想される地域 2.透水性地盤の場合 ①河川の付近で、扇状地地域、自然堤防地域、三角州地域等の名称 で呼ばれている地域 ②旧河道部及び河道の締切個所 ③洪水時の河川水位の上昇により、堤内地に湧水または地下水位の 上昇が認められる個所 ④既往の土質調査資料から透水性地盤(砂礫層、粗砂層)の存在が 認められている地域 3.その他 ①既往の災害調査資料から地震時の液状化が起こったとされている 地域や液状化、流動化の懸念のある地域 堤防一連区間内及び周辺地域における高水敷の有無、堤内地盤高、構 造物の位置とその周辺状況、変状等に着目して現地調査する。 計画線に沿って想定土質縦断図(縮尺1:500~1:100)を作 成する。 地形図(縮尺1:5,000又は1:2,500)に微地形区分、植 生、地質、災害箇所等をまとめ旧河道や旧湖沼等を推定する。 (社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、山海堂、平成9年10月に準拠 5 表-2 河川堤防の本調査(一次) 本調査は一次調査と二次調査からなり、一次調査で軟弱地盤に該当すると評価された地盤の場合は、軟弱地盤調査 (二次)を、透水性地盤に該当すると評価された場合は透水性地盤調査を実施する。一次調査は、地盤を構成してい る土質の種類、層厚、深さ方向の強度変化、支持層の深度ならびに概略の強度等を調べるもので、ボーリングおよび サウンディングを実施する。 調査手法 内 容 解 説 ボーリング調査 鉛直ボーリング 堤防の計画線に沿って200m に1個所の間隔で、ボーリングを実施する。 深さは計画堤防高の3倍程度を標準とする。またボーリング時は標準貫入試 験でN値を求め、乱した試料を用いて土の分類・判別のための試験を実施す る。 原位置試験 サウンディング試験 表層部の比較的軟らかい層を対象に、オランダ式二重管コーン試験または スウェーデン式サウンディング試験により、堤防の計画線に沿って50~ 100m に1個所程度の間隔で実施する。 結果のまとめ 土質縦断図の作成 計画線に沿って縮尺1:100で土質縦断図を作成する。 また、必要に応じ土質横断図を作成する。 1.軟弱地盤調査を実施する該当地盤 1)粘性土地盤の場合 ①標準貫入試験による N 値が3以下の地盤 ②オランダ式コーン貫入試験値が 30kN/m2 以下の地盤 ③スウエーデン式サウンディング試験において 10kN/m2 以下 の荷重で沈下する地盤 ④一軸圧縮強さquが 60kN/m2 以下の地盤 ⑤自然含水比が 40%以上の冲積粘土地盤 2)有機質土の地盤の場合 3)砂地盤の場合 ①標準貫入試験による N 値が10以下の地盤 ②粒径がそろった砂の地盤 2.透水性地盤の判定 1)表層が砂礫または砂の地盤 2)不透水性の薄い表層の下に、連続した砂礫層または砂層が 存在する地盤 軟弱地盤の判定 (社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、山海堂、平成9年10月に準拠 6 表-3 河川堤防の軟弱地盤調査(二次) 本調査では一次調査よりさらに詳細な調査を行い、軟弱層の詳細な構成分布(広がり、深さ)土質、強度、圧密特 性等を明らかにする。 調査は、まずサウンディングを行い、試料採取、土質試験の順序で行う。 調査手法 サウンディング 試料採取 内 容 説 堤防の計画線に沿って50~100m に1個所の間隔で、サウンディン グを行う。 また、横断方向の補足調査は、横断方向に数点、試験間隔を決めて試 験を実施する。砂地盤は、その分布規模が小さい時は代表地点1個所実 施する。なお試験の深さは堤防の沈下ならびに安定の影響を及ぼすと思 われる軟弱地盤の基底深さまでとする。 粘土地盤の場合 オランダ式二重管コーン貫入試験、スウェーデン式サウンディング貫 入試験及びベーン試験のいずれかで行う。粘土層中に砂層や砂質土層が 挟在し、地盤の排水条件が問題となる場合は多成分コーン貫入試験を行 う。 泥炭地で乱さない試料 ベーン試験またはオランダ式二重管コーン貫入試験で行う。 採取が困難 緩い砂地盤の場合 標準貫入試験またはスウェーデン式サウンディング試験で行う。 締まった砂層の挟在す オートマチックラムサウンデング試験もある。 る場合 固定ピストン式シンウ 粘性土の場合計画堤防線沿いに100m に 1 個所、砂質土の場合は ォールサンプラーサン 500m に1個所の間隔で採取する。規模が小さい場合は代表地点で1箇 ドサンプラー 所、採取する。 原則としてボーリング孔を利用し、N 値4~5以下の粘性土を対象に行 う。また深さ方向に2m毎とし、地層の変化毎に実施する。 緩い砂はツイストサンプラーやトリプル(三重管)サンプラ-あるいは 凍結法によって行う。また緩い砂地盤ではN値15以下を試料採取範囲 として良い。 土質試験 データ整理 解 土質縦断図の作成 土質試験結果 深さ1~2m 毎に行い、また土質が変化するごとに行う。 1)粘性土の場合 粒度、自然含水量、比重、単位体積重量、コンシステンシー、 一軸圧縮、三軸圧縮、圧密試験、その他の試験 2)乱さない試料の採取が困難な泥炭 自然含水量、比重、圧密、強熱減量試験、その他の試験 3)緩い砂の場合 粒度、自然含水量、比重、その他の試験(必要な場合は、動的 関連試験) 軟弱地盤の土質、層厚、深さ、水位がわかるように縮尺1/100で 土質縦断図として作成する。 深さと土性が一覧できるように、土性一覧図としてまとめる。 (社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、山海堂、平成9年10月に準拠 7 表-4 河川堤防の透水性地盤調査(二次) 透水性地盤調査では一次調査よりさらに詳細な調査を行い、透水性地盤の詳細な構成分布(広がり、厚さ)土質、透 水性などを明らかにするためにおこなう。試験の順序は試料採取、現位置試験、土質試験、試験施工、調査結果のまと めの順序で行う。引き続き、洪水時の地盤漏水とその対策ならびに浸透水の堤体の安定性に及ぼす影響を調査する必要 性が生じた場合は、必要に応じて浸透流解析あるいは試験施工を行う。 調査手法 試料採取 原位置試験 室内土質試験 試験施工 データ整理 内 容 解 説 透水性地盤の透水性を把握するために、乱した試料で全体状況を把握す る。さらに詳細な試験を行うため、乱さない試料を採取する場合もある。砂 の乱さない試料採取のもう一つの目的は、砂の地震時の液状化強度を求める ためのものである。 試料採取の方法 通常は、ボーリングと併用する標準貫入試験による乱した試料を採取す る。必要に応じてサンドサンプラーによって乱さない試料を採取する。 試料採取の位置 透水性地盤の分布地域で堤防計画線上で100m に1個所、横断方向には 表・裏各のり尻部で1個所づつを標準とする。また一次調査から透水性地盤 で最も透水しやすい地点および透水性地盤を代表する地点で行う。 試料採取の深さ 試料採取の最大深さは、原則として不透水性地盤までとするが、透水層が 厚い場合は、地表面から10~15m(堤防高の約3倍の深さ)とする。ま た原則として2m ごとに土層を代表する試料を採取する。 原位置試験は、必要に応じてサウンディング試験、現場透水試験地下水変 動調査を行う。 サウンディング試験 表層の不透水層の厚さを調べる目的で、上記に定める個所において横断方 向に20~50m 間隔でサウンディング試験を行う。 サウンディング試験はオランダ式二重管コーン試験またはスウェーデン 式サウンディング試験で行う。 現場透水試験 上記に定める地点で、注入法による現場透水試験を透水地盤を構成してい る土層ごとに実施する。また地盤全体の透水性を調べる必要性が認められた 場合は、代表する透水性地盤で揚水試験を実施する。 地下水変動調査 必要に応じ、調査用ボーリング孔、近接した民家の井戸、新たに設置した 観測井などを利用して、地下水変動調査を実施する。調査を行う場合、地下 水の等水位曲線が描ける程度の観測地点を設ける。 観測は自記水位計によって行う。 土質試験は、採取した試料について次の室内試験を実施する。 ①比重試験、②粒度試験、③自然含水量試験、④透水試験 透水試験は、原則として現場の密度に近い状況に突き固めて実施する。ま た、上記、試験は原則として深さ方向に2m ごとに実施する。 漏水対策が必要であると考えられる地盤では、必要に応じて現場で試験施 工を行って対策工法の効果を検討する。 対策工法の効果の判定は、対策工法の施工前、施工後に地下水変動調査を 行い、両者の比較を行う。 土質縦横断図の作成 透水性地盤の透水層の位置、厚さ、広がり、透水性がわかるように縮尺 1/100で土質縦横断図として作成する。 地下水等水位平面図の 地下水変動調査を実施した場合は、原則として観測地点と等水位曲線がわ 作成 かる縮尺1/1,000の平面図を作成する。 また各観測地点の水位-時間曲線もあわせて整理する。 (社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、山海堂、平成9年10月に準拠 8 表-5 河川堤防の堤体材料選定のための調査 河川堤防は一般に道路盛土に比べ勾配が緩い事から、強度の不足によるのり面すべりは少ないが、異常な降雨や洪水 時の浸透水の影響をうけて、のり面すべりを起した過去の災害例等があるので、堤体材料を選定する際は、必要に応じ て予備調査、現場踏査および本調査を行って堤体の安定性について検討を加える。 調査手法 内 容 予備調査および 現地調査 試料採取 原位置試験 現地調査 本調査 試料採取 原位置試験 土質試験 データ整理 地形図の整理 土質横断図の作成 解 説 堤体材料選定のための予備調査ならびに現地踏査は、次に示す項目につ いて重点的に調査を実施するものとする。 土取場予定地の地形、地質および土質などに関する資料の収集 土取場予定地の露頭調査および簡単な原位置貫入試験器を用いてコーン 貫入試験 運搬経路および運搬距離のための現地調査 工事用道路の適否を判定するための現地調査 堤体材料選定のための本調査は、材料の適否、施工機械の施工性締固め の難易および完成した堤防の安定性を検討する資料を得るために実施す る。 土取場予定地の試料を、オーガーボーリング、機械ボーリングまたは手 掘などで各地層から少なくとも1個以上採取するものとする。 また均質な土質であっても掘削範囲が広い場合は500m3 に1個の割合 で採取する。 土取場予定地が土である場合は簡易コーン貫入試験を、軟岩である場合 は弾性波探査を実施する。 また掘削土量が多い場合は、原則として試験施工を実施する。また必要 に応じて試掘竪坑掘削を行い、試料採取、現場密度、自然含水量の測定を 行う。 採取した試料は、必要に応じて次の試験を行う。 ①粒度試験、②自然含水量試験、③比重試験、④コンシステンシー試験、 ⑤突固め試験、⑥透水試験、⑦三軸試験、⑧室内のコーン貫入試験 予備調査、現地調査および本調査の結果は、土取場予定地の土量計算が 可能な図面として整理する。 現位置試験および土質試験結果から縮尺1/100の土質横断図として まとめる。また土質試験結果は、それぞれの土質ごとにまとめる。 (社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、山海堂、平成9年10月に準拠 9 表-6 既設堤防の調査 既設堤防の調査は、①堤防弱点個所抽出のための調査、②堤体漏水調査、③堤防地盤漏水調査、④軟弱地盤地盤調査 からなる。 調査手法 内 容 堤防弱点個所抽出の ための調査 堤体漏水調査 解 説 既設堤防の弱点となる個所を抽出して堤防を強化するため、 ①堤防の築堤・改築・被災の履歴、②堤体と地盤の土質、③高水敷の有無、 ④堤内地地盤高、⑤旧地形、⑥構造物とその周辺の変状等を調べる。 また堤防の変状等を観測し、必要に応じて浸透流解析により降雨や河川 水による堤体内水位の大小を判定し、堤防への影響を判断する。 既設堤防の堤体から漏水が生じた場合は、必要に応じて次の調査を行う。 資料調査、聞き込み 堤体土質に関する資料調査、既往の災害に関する資料調査、既往災害に 調査 関する聞き込み調査を行う。 試料採取および室内 試料は、対象断面の天端、法面中央付近、法尻付近の2~3地点につい 土質試験 て深度1~2m程度の位置から採取する。 室内土質試験は透水性地盤調査に準じて行う。 原位置試験 原位置試験として、現場透水試験および地下水変動調査を透水性地盤調 査に準じて行う。 浸透流解析 降雨や河川水の地盤と堤体への浸透状態を検討するため必要に応じて 数値解析を行う。 堤防地盤漏水調査 既設堤防の基礎地盤からの漏水が生じた場合には、必要に応じて堤防弱 点個所抽出のための調査と同様の調査を行う。この場合、透水層の厚さと ともに堤内地地盤に分布する不透水~難透水層の有無とその厚さの確認 をボーリング調査等により行う。 軟弱地盤調査 軟弱地盤調査は、既設堤防について過大な沈下やすべり破壊などの被害 を実際に生じた場合に、次の調査を実施する。 堤防の基礎地盤土質や既往の堤防沈下に関する資料調査 軟弱地盤からの試料採取は軟弱地盤調査に準じて行うが、試料は堤体下 の地盤、堤体からはずれた地盤(堤敷外)から採取する。 河川堤防の軟弱地盤調査(二次)に準拠して行う。 河川堤防の軟弱地盤調査(二次)に準拠して行う。 場合によっては、地盤の間隙水圧測定を行う。 浸透流解析は、堤体あるいは堤防地盤の漏水の調査、検討の手段として 必要に応じて行う。 資料調査 試料採取 室内土質試験 原位置試験 浸透流解析 (社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、山海堂、平成9年10月に準拠 10 表-7 河川堤防の補足調査及び施工段階調査 補足調査は、詳細設計時での調査で不足した施工計画や細部設計のための補足調査である。また施工段階時の調査は、 軟弱地盤調査では、地盤強度の確認や地盤改良による効果判定等を目的に、ボーリング調査、土質試験あるいは地盤の 動態観測等を行う。また透水性地盤では地盤や堤体の透水性をボーリング調査や地下水変動調査で確認する。 調査手法 補足調査 施工段階調査 内 容 解 説 機械ボーリング 原位置試験 地層構成が複雑な軟弱地盤や透水性地盤の地層の連続性確認等を行う。 オランダ式二重管コーン貫入試験、スウェーデン式サウンディング試験、 及びベーン試験、標準貫入試験等のサウンデングで地層の連続性・締まり具 合等を機械ボーリングと併用して把握する。 試料採取 地層が複雑でかつ詳細調査で把握しえなかった箇所の補完調査として実施 する。 土質試験 同上 地下水変動調査 同上 機械ボーリング及び 施工途中の軟弱地盤の圧密度や強度の確認を目的として試料採取し、土質 試料採取 試験を行う。また透水地盤では対策工の効果判定のため地下水変動調査を行 うが、水位観測孔の設置を目的として機械ボーリングを行う。 安定管理 築堤盛土の施工中及び施工後の地盤変位や周辺地盤の変位を測定し、築堤 の安定管理を行う。 動態観測には目視観察と計器観測がある。計器観測には沈下計、地表面変 位杭観測、地表面伸縮計、間隙水圧計、孔内傾斜計、層別沈下計等がある。 沈下管理 沈下管理は上記の観測結果から盛土の圧密度の推定ならびに沈下予測を行 う。 締固め度管理 築堤時の盛土の締固め管理を行うため、突き固め試験、現場密度測定、施工 含水比の測定を行う。 粘性土の場合は飽和度管理で行う。 地下水変動調査 漏水対策が必要であると考えられる地盤では、必要に応じて現場で試験施 工を行って対策工法の効果を検討する。 対策工法の効果の判定は、対策工法の施工前、施工後に地下水変動調査を 行い、両者の比較を行うものとする。 その他 必要に応じて地下水汚染・水文、環境影響調査等を行う。 (社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、山海堂、平成9年10月に準拠 11 5.河川構造物(堰等)の調査・試験方法 河川構造物は、河川や堤防を横断するものや堤防に付随する構造物であり、樋門、 樋管、水門、堰、排水機場等がある。その構造物は堤防と密接に関連するため、堤防 の透水性や沈下等の諸現象とを考慮に入れた調査や計画・設計が重要となります。特 に堤防を横断する樋門等は構造物と堤防の接合部での堤防の弱点箇所になりやすいた め、堤防の計画や基礎地盤状況を踏まえて構造物の調査計画を立案する必要がありま す。 本章はこれらの河川構造物を計画時の調査計画を立案するための、参考資料として 作成しています。発注者からは目的とする構造物の機能とその規模および地域の与条 件が、設計者からは必要とする地盤条件が、それぞれ示された段階で表―8に示す予 備調査を地域の状況に合わせて計画し、3者の協議を経てこれを実施し、予備設計と 代替案の検討に供することになります。 予備設計を経て事業が決定し構造物の設計方針が決まった段階で予備調査・予備設 計の結果を参考にし、表―9に示す本調査を計画・実施し、概略設計に供します。一 般には、詳細設計に供する調査を本調査とすることが多いですが、ここでは調査を先 行することにより計画・設計の手戻りをなるべく削減することをねらっています。詳 細設計に当たって地盤情報がどうしても不足している場合には、2頁のフローに示す 追加調査を別途、計画・実施することとしています。 構造物の施工段階での確認調査と補足調査を表―10に示しました。これには、調 査段階では概略的な検討が出来ていますが、実際に試験をするには施工時の方が効率 の良い試験、あるいは施工時に新たに明らかになった地盤情報確認のための調査等を 示しています。 全体を通して、構造物の規模と地盤の不均一性によって、調査の数量はかなり変化 すると考えられます。より良い調査とするためには、発注者・設計者・調査者がそれ ぞれの段階で充分に協議して効率的な調査を計画していくことが望まれます。 また、堤防を横断する樋門等の基礎として、従来は杭基礎が多く使われてきていま したが、軟弱地盤の堤体にクラック、ゆるみ、空洞が生じ、堤防の漏水の原因となり、 安全性に大きな問題を与えることが懸念されてきました。このため柔構造樋門で堤防 と基礎が追随する構造にし一体化すること、あるいは地盤改良して構造物と堤防が一 体化することが重要になります。柔構造樋門の調査は堤防の本調査の軟弱地盤調査と 構造物の調査を考慮にいれた調査計画が必要になります。 12 表-8 河川構造物の予備(概略)調査 構造物の種別及び位置の比較を検討・判断するための調査。主として支持層と軟弱層の分布を 把握することを目的とする。 調査手法 文献・資料調査 内 容 地形図・空中写真を収集し、微地形の分布から表層の 地質分布と活断層の分布を推定し、地形・地質上の問題 点を把握する。 既往災害資料 収集整理 既往の地震、活断層、液状化、地盤沈下資料、周辺構 造物の基礎資料を収集し、地震等による影響の可能性と その程度を推定する。 土質地質資料の 収集整理 計画地点近傍の既往ボーリング調査・既往井戸掘削資 料・既往構造物施工資料を収集整理し、地盤の地質分布 の概況と、設計する上での地質的課題を把握する。 既設堤防及び 構造物調査 ボーリング調査 (一次) 比較現地調査 (必要に応じて) 説 地形図等の資料 収集整理 地形・地質踏査 現地踏査 (S=1/5000 ~1/2000) 解 サウンディング 計画地点周辺の微地形、露頭、表流水、湧水等の状況 を調査し、文献・資料調査で得られた地形・地質状況の 予察の確認を行う。また地形の改変部を確認する。 堤内、堤外の地形・表流水の状況、近接構造物の種別 と基礎形式、およびこれらの沈下や傾斜などの変状等を 把握し、調査・設計のポイントを絞る。 計画工種あるいは計画地点の比較と本調査のパイロッ ト孔とすることを目的として 1~2 孔の調査を実施する。 目的は計画地点の支持層の分布深度、中間層の土質と 透水性状、等とする。支持層が数mと浅い場合には、テ ストピット等を実施する。 中間層の締まり具合と支持層の把握を目的として標準 貫入試験を深度 1m 毎に実施する。 浅所に分布する帯水層の透水性の概要を把握する。 現場透水試験 室内土質試験 そ の 他 砂質土の透水性を把握するための粒度試験と粘性土の 基本的性状を把握するためのコンステンシー試験、含水 比試験を数試料実施する。 既設井戸への影響が予測される場合には、周辺の井戸調査を実施する。 データ整理においては、調査検討ヶ所の地質断面を縮尺 1/100~1/200 の土 質想定断面図として作成し、比較地点のある場合は、同程度の精度の図面を作 成することを基本とする。 13 表-9 河川構造物の本(詳細)調査 構造物の種別と概略位置が決定した段階での調査で、設備の配置と基礎形式を含む主要構造の 決定を目的とする。 調査手法 内 容 解 説 電気探査 主として土層と帯水層の概略的な分布把握を目的とする。 電 気 探 査 微地形の区分ごとにそれぞれ数点実施する。 (必要に応じて) 支持層の分布と、中間層の性状把握等を目的とする。また、 調査孔を利用して、サンプリング、現位置試験、等を実施す る。調査位置は、構造物の位置とする。 地形変化、構造物の規模に応じて 50~100m に 1 孔 配置 鉛直ボーリング調査 する。構造物の平面寸法や対象範囲が広い場合 は、グリッ ボーリング調査 (二次) トを組んで規則的な配置とする。 掘削深度は、直接基礎では最小幅の 1.5 倍~3.0 倍(下位 に圧密層が分布する場合)とし、杭又はケーソン基礎では、 支持層を充分に把握できる深度までとする。 中間層の締まり具合と支持層の確認を目的とする。 ボーリング孔を利用した標準貫入試験を基本とするが、N 値 サウンディング 4 以下の軟弱層については、別途オランダ式二重管式コーン 貫入試験などを計画する。標準貫入試験は 1m 毎に 1 回を基 本とする。 玉石を含むなどの理由で適切な N 値が得られない場合、深 い基礎で地盤反力係数が必要な場合、堰などで上部構造物の 孔内水平 変位が制限される場合に実施する。 載荷試験 試験は、1 地層に対し 1 回を原則とする。深い基礎の場合 には根入れ長さの上から 1/3 の深度の所で実施する。 浅い基礎の場合の地盤の支持力を把握することを目的と 原位置試験 する。 平板載荷試験 試験は、1 土層に対して 2~3 点とし、最大荷重は降伏圧を (必要に応じて) 把握するまでとする。 深い基礎の場合で、類似地盤の試験結果がなく、経済的な 設計とする上で必要な場合に実施する。 杭の載荷試験 試験は代表地点を選定し、1 構造物に 1 カ所を基本とする。 (必要に応じて) 鉛直及び水平載荷を実施する。 帯水層の透水性の把握を目的とする。 ボーリング孔を利用した単孔の試験を基本とするが、周辺 現場透水試験 への影響検討等詳細な値を必要とする場合には、別途多孔式 (間隙水圧測定) 揚水試験を計画する。 試験は 1 孔ごとに、1 透水土層 1 回とする。 施工時の設備の検討,地盤の支持力,構造物の圧密沈下の 検討,土圧及び間隙水圧の検討,地盤反力係数の検討,動的特 性の把握・検討等を目的とする。 ボーリング調査時に採取した乱さない試料を利用する。1 土層に対して 3 試料以上を実施する。※1 室内土質試験 室内土質試験 試験項目は、土粒子の密度試験,含水比試験,粒度試験,液 性限界・塑性限界試験(粘性土の場合のみ実施),湿潤密度試 験(粘性土),圧密試験,三軸圧縮試験を原則とし、その他必要 に応じて実施する。 仮設構造物の設計に必要な資料が上記で得られない場合は、別途調査を実施す る。 既設井戸への影響が予測される場合には、ボーリング孔内水・表流水・周辺井 その他 戸水、等を対象として水質分析を実施する。 データ整理は、縮尺 1/100(~1/200)の断面図と 1/500(~1/1000)平面図を 基本として作成し、同時に各土層の特徴と物性値を記載するものとする。 ※1 深い基礎で軟弱地盤上の築堤と同時に施工する場合、地表面から支持層までの軟弱層を数多く採取 し、セン断定数を詳しく把握すること。また圧密沈下とネガティブ・スキン・フリクションに対する 検討資料を得ること。 14 表-10 河川構造物の補足調査および施工管理調査 構造物の施工段階での確認調査と、施工時に新たに出現した土層に対する補足調査からなる。 調査手法 内 容 ボーリング調査 補足調査 (想定外の土層 に対する調査) サウンディング 解 説 対象土層の分布を把握することを目的とし、調査孔 を利用して、サンプリング及び各種孔内試験を実施 する。 対象層の締り具合の把握を目的とする。 標準貫入試験を基本とするが、N 値 4 以下の軟弱層に 対してはオランダ式二重管式コーン貫入試験等を 計画する。 杭頭部の地盤定数(C,φ,E,液状化強度)の修正 が考えられる場合に実施する。 サンプリング及び 室内土質試験 平板載荷試験 施工時確認調査 杭の載荷試験 その他 浅い基礎の場合の地盤の支持力を実際の施工基面に て確認する。 実施点数は、地質の変化に対応して 1 層 2~3 点とす る。 試験結果をもとにして、設計の見直しを行う。 杭の根入れ低減や水平方向地盤反力係数の確認を目 的として、実杭を用いて工事の初期に試験を実施す る。 鉛直及び水平載荷を実施する。 試験結果をもとにして、設計の見直しを行う。 柔構造樋門等、構造物の沈下を想定しているものについては、施工中を 含めて、その沈下が許容値内であるか否かを計測する。完成後も維持管 理調査として計測する。 15 あとがき 河川事業のコスト縮減対策の一つには、地質調査の有意義な活用にあると考え、 この小冊子をまとめることにしました。河川事業は上流から下流まで広範囲にわた っています。この内ダム事業については事業規模が大規模でかつ技術領域も広範囲 に亘ること、技術委員会には「ダム・発電専門委員会」が設置され、地質調査に関 しても活発な活動が行われていることを勘案し、今回の検討範囲から割愛し、ここ では、河川構造物、河川堤防の一部を対象にした地質・土質調査計画の立て方をと りまとめました。 河川堤防の地質調査は、主に新築堤防と既設堤防についてまとめましたが、堤防 には高規格堤防、越流堤、導流堤、背割堤等があって土堰堤であれば地質調査の基 本は同じであると考えます。 また堤防の基本は耐浸透、耐侵食、耐越水、耐地震の機能を持つ必要があります が、地質調査にあたっては、下記に示す参考文献や指針、基準に準拠した調査計画 を立案する必要があります。 河川構造物の調査は、これまでサイト毎に、個別的に行われてきた現状にありま した。適切な調査計画を立案し、実行するためにはより広い視点からの地質・土質 情報の検討が重要と考えます。また地質調査が計画段階の早い時期から、タイムリ ーに有意義な調査が実施できれば、河川事業の計画や工事は円滑に推進し、これが 事業全体の効率化とコスト縮減になるものと確信しています。 この小冊子は、調査段階と調査手法や構造物と調査方法等を図表で表示していま すので、河川堤防と河川構造物の調査計画を立案する上で参考にして戴けるのでは ないかと期待しております。この小冊子が調査の計画時に役立つことができれば幸 いです。 〔 参考文献 〕 ・(社)地盤工学会;地盤調査法、平成7年9月 ・(財)国土開発技術研究センター編;改訂 解説・河川管理施設等構造令、(社)日本河川協会、山海堂、 平成12年1月 ・建設省河川局監修・(社)日本河川協会編;改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、 山海堂、平成9年10月 ・(財)国土開発技術研究センター;河川土工マニュアル、平成5年6月 ・建設省河川局;河川堤防耐震点検マニュアル、平成7年3月 ・建設省土木研究所動土質研究室;河川堤防の液状化対策工法設計施工マニュアル(案) 平成9年10月 ・(財)リバーフロント整備センター;高規格堤防盛土設計施工マニュアル、平成11年2月 ・(財)国土開発技術研究センター;柔構造樋門設計の手引き、平成10年11月