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詳細 - 日本心理学会
日心第70回大会(2006) 顔の再認記憶における符号化方略の役割 -保持時間の影響に関する検討- 伊藤令枝 (日本大学大学院文学研究科) key words: 示差特徴処理、配置処理、笑顔と真顔 条件よりも真顔-笑顔条件の方が, また, 笑顔-真顔条件の 緒 言 未知人物の顔の再認記憶において, 顔を個々の物理的特徴 場合は直後よりも一週間後に再認する方が, それぞれ再認成 績が高かった。 のセットとしてとらえる「示差特徴処理」によって符号化し 確信度:同様に分散分析を行った結果, 表情の一致・不一致 ても, 配置処理を行っても, 直立顔に対する有効性は変わら 要因にのみ有意差が認められ(F(1, 46)=11.1, p<.01), 符号化 ない一方で, 検索時に顔を倒立呈示をした場合, 配置処理条 -検索間で表情が一致している方が確信が高いことが示され 件の再認成績は有意に減少することが明らかにされている た。 (McKelvie, 1995) 。 考 察 伊藤(2005)は, 符号化-検索間で表情を変化させた場合, 示差特徴課題は示差特徴処理を, 示差表情課題は配置処理 倒立呈示条件と同様, 全体的な顔の構造が変化するために, をそれぞれ導くと考えられている。すなわち, 本実験の結果 配置処理をした時の方が示差特徴処理をする時よりも再認成 は, 伊藤(2005)同様, 示差特徴処理を行っても, 配置処理を 績が減少すると考えて検討を行った。しかし, 実験の結果は, 行っても, 後の再認記憶は変わらないことが示唆された。ま 表情を変化させても, 直立呈示の場合には再認成績は変わら た, 保持期間の影響についても認められなかった。従って, 顔 ないことを示した。 の特徴情報も全体情報も, 同じように保持される可能性が示 本実験では, この研究の追試を行い, また, 顔をより長い された。 時間, 保持することの影響についても検討した。 また, 笑顔で顔を符号化しても, 真顔で符号化しても, 後 実 験 方 法 実験参加者:日本人学生 48 名(男性 18 名, 女性 30 名, 平均 の記憶成績は変わらず, 笑顔が後の記憶を促進するという笑 年齢 20.6 歳) 。 顔優位性効果(吉川, 1999)は認められなかった。 実験刺激:実験参加者にとって未知の日本人男子大学生 96 本実験では, 直後再認かつ表情不一致条件の場合, 笑顔で 名の白黒の顔写真。 1 名につき, 笑顔と真顔の 2 種類を撮影し 符号化するよりも真顔で符号化する方が再認率が高いことが た。また, 写真のうち半数をターゲット, 残り半数をディスト 示された。すなわち, 真顔を観察することによって記銘され ラクタとして使用した。 た笑顔を思い出すよりも, 笑顔から真顔を想像して思い出す 方が簡単だった可能性も考えられる。ところが, 笑顔-真顔 実験器具:写真は Sony Cyber-shot DSC-F55K で撮影し, Adobe Photoshop 5.0J で 加 工 し た 。 刺 激 の 呈 示 に は Microsoft 条件の場合には, 直後よりも一週間保持した方が再認率が高 PowerPoint 2000 を使用し, ノート型パソコン IBM ThinkPad いことも示された。他の条件では保持時間の差はまったく認 390E Type 2626 のスクリーンを用いた。 められなかったために, 実験条件以外の何らかの要因によっ 実験計画:保持時間(直後又は 1 週間後再認, 2 水準), 符号 てこの条件のみ再認成績が下がり, その結果として交互作用 化課題(示差特徴課題又は示差表情課題, 2 水準), 符号化表 が生じた可能性も考えられ, 今後更なる検討が必要である。 情(笑顔又は真顔, 2 水準), 符号化-検索間の表情の一致・ 引 用 文 献 不一致(2 水準)の 4 要因計画で、保持時間要因のみ被験者 伊藤令枝(2005)顔の表情が再認記憶に与える影響 日本認 間要因であった。実験参加者のうち 22 名が直後再認条件に, 知心理学会第 3 回大会発表論文集, 59 残り 26 名が 1 週間保持条件に割り当てられた。また, 1 条件 McKelvie(1995)Encoding Operations and Recognition Memory につき実験刺激のターゲット人物は 6 名ずつであった。 for Faces. Canadian Journal of Experimental Psychology, 49, 4, 437-458. 手続き:実験は個別に行われた。実験参加者は、パソコンの スクリーンから約 60cm 離れた場所で, 横約 10cm×縦約 13cm 吉川左紀子(1999)顔の再認記憶に関する実証的研究 風間 の刺激を観察した。符号化段階では, 偶発学習手続きを用い 書房 て, 実験参加者に示差特徴課題又は示差表情課題を行っても 100 直後再認/特徴判断 直後再認/表情判断 1週間後再認/特徴判断 1週間後再認/表情判断 らった。前者の課題は, 顔の中の特徴的な部分を 8 つの選択 肢(額, 眉, 目, 鼻, 頬, 口, 顎, その他)から回答させるもの 80 で, 示差特徴処理を導くと考えられる課題であった。後者は, 最も顕著に現れている表情を選択する(普通である, 笑って いる, 驚いている, 恐れている, 怒っている, 嫌悪している, 再 60 悲しんでいる, その他) ものであり, 配置処理を仮定する課題 認 であった。 尚, 刺激の呈示時間は 1 枚につき 3 秒間であった。 率 40 符号化の約 25 分後又は 1 週間後に再認テストが行われた。 結 果 20 再認成績:分散分析を行った結果, 表情の一致・不一致要因 に有意差が認められ(F(1, 46)=123, p<.01), 未知人物の顔を 0 記憶する場合, 表情が一致している方が再認成績が高いこと 笑顔-笑顔 笑顔-真顔 真顔-笑顔 真顔-真顔 が示された。また, 保持×符号化表情×一致性に交互作用が 符号化-検索表情 認められ(F(1, 46)=5.88, p<.05), ライアン法による下位分析 の結果, 直後に再認する場合は笑顔(符号化)-真顔(検索) (ITO Yoshie)