...

PDF ファイル - 畜産環境技術研究所

by user

on
Category: Documents
21

views

Report

Comments

Transcript

PDF ファイル - 畜産環境技術研究所
第 1 章
作物生産農家が使いたいと思うたい肥とは
(1)たい肥とは何か
稲わら、麦わら、モミガラ、オガクズ、バーク、家庭生ゴミ、家畜ふん尿などを酸素が十分に
ある状態で堆積し、これらの有機質資材を微生物により分解したもの、これがたい肥である。
かつては、わら類、落ち葉、野草などを単独に堆積分解したものを「たい肥」といい、牛ふん
尿、豚ぷん尿、馬ふん尿などの家畜ふん尿を主体にしたものを「きゅう肥」といっていた。しか
し、今では単独資材だけでたい肥化することは少なく、家畜ふんにわら類、モミガラ、オガクズ、
バークを混合するなど、複数の材料で堆肥化するようになっている。したがって、たい肥化した
ものの名称を堆積した材料ごとに区別せず、たい肥化したものを総称して「たい肥」と呼ぶよう
になってきている。「オガクズ豚ぷんたい肥」や「牛ふんバークたい肥」のように、副原料と主原
料を併記して表現することもある。
参考のために、肥料取締法によるたい肥の位置づけを表1−1に示した。
表1−1 肥料取締法におけるたい肥の位置づけ
区 分
対象となる肥料の例
魚かす、米ぬか
特殊肥料
家畜ふんたい肥
汚泥肥料
汚泥発酵肥料
普通肥料
化学肥料
石灰質肥料
生産開始時の手続き
業の開始に係わる届出
公定規格の内容
公定規格なし
表示の内容
表示基準なし
品質表示基準を制定し、①種類
・名称、②含有成分量、③原料
の種類等を表示
保証票の添付を義務付け、①種
生産する肥料の銘柄ご
有害成分の最大量等
類・名称、②含有成分量、③原
との登録
料の種類等を表示
保証票の添付を義務付け、①種
生産する肥料の銘柄ご 主成分の最小量、有害
類・名称、②保証成分、③原料
成分の最大量
との登録
の種類等を表示
業の開始に係わる届出
公定規格なし
注)流通販売されるたい肥は特殊肥料に区分され、含有成分の公定規格は設定されてないが、原料名、窒素、リン酸、
カリなどの成分量の表示が義務づけれている。
(2)なぜたい肥化処理が必要なのか
有機物資材は、土壌に施用したとき作物に生育障害を起こすことなく、地力を高め、作物の生
育を良くするものでなければならない。しかし、有機物資材の個々を取ってみると、わら類は窒
素飢餓を起こしやすく、オガクズのような木質物は生育阻害物質を含み、家畜ふん尿は急激な分
解で濃度障害や還元障害を起こしやすい。このような障害を取り除いて、安全に使うためには、
これらの有機物資材を堆積して、よく腐熟したたい肥にしなければならない。
以下に、たい肥化の目的をまとめてみた。
①悪臭成分を分解し、水分を減らして取り扱いやすくする。②たい肥化過程で発生する発酵熱
で病原菌、寄生虫卵、雑草種子等を死滅させる。 ③生育阻害物質を分解させる。④分解しやすい
有機物の含量を低下させて、土壌中での急激な分解を軽減する。⑤炭素率(C/N比)が高い原料に
3
ついては、これを低減して窒素飢餓を防ぐ。
(3)たい肥には肥料効果がある
たい肥には、窒素、リン酸、カリ、カルシウム(石灰)、マグネシウム(苦土)などの多量要素
のほかに、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ホウ素などの微量要素も含まれ、作物に対する総合的な養
分供給源になる。これらの要素は有機態、あるいは無機態として含まれ、窒素のように主として
有機態として含まれる成分は有機物の分解とともに作物に利用可能な形態に変化し、徐々に作物
に利用される。カリのように主として無機態として含まれる成分は速効的に作物に利用される。
たい肥が土の中で分解するときに発生する炭酸ガスは作物の同化作用を促進する。また、たい
肥には、作物の生育を促進するホルモンのような物質が含まれていると言われているが、その効
果はまだ十分に解明されていない。
(4)たい肥と化学肥料との効果の違いは
化学肥料は、化学的に合成したり、天然に存在する岩石などの原料を化学的に処理してつくっ
た肥料である。化学肥料では製造の方法によって、窒素、リン酸、カリ、微量要素などの成分含
量を変えた製品をつくることができ、作物が育つのに必要な養分量を容易に供給することができ
る。一般に化学肥料は速効性であるが、遅効性、緩効性の肥料も製造されている。化学肥料はた
い肥に比べ含まれる肥料要素の濃度が高いため少量で足り、運搬・貯蔵が容易である。
たい肥も作物に養分を供給するが、その効果が徐々に現れることが化学肥料と大きく異なる。
しかし、たい肥の種類によって養分の供給の速さに差があり、たい肥に含まれる養分量も異なる。
たい肥を連年施用すると、分解されにくい有機物が土壌中に蓄積され、これから供給される養分
量はしだいに高まっていく。このような累積効果は化学肥料には見られない。
(5)たい肥の施用で土壌の団粒化が進む
たい肥を土壌に施用すると、たい肥に含まれている有機物は微生物によって分解されるが、微
生物によっても分解されにくい有機物が土壌中に残り、これが腐植になる。腐植は土壌の粒子と
粒子を結びつけて土壌の団粒化を進める。
土壌の団粒化が進むと、団粒と団粒の間に比較的大きな隙間ができて、土は軟らかくなり、耕
し易くなる。そして、作物の根が伸びやすくなる。また、団粒間にできた隙間は過剰な水を排水
し、通気性を良くして、作物の根からの養分吸収・水分吸収が高まり、作物の生育を良くする。
団粒の内部には微少な隙間もあるので保水性も維持される。
このようなたい肥による土壌の改良効果は化学肥料の施用では得られない。
(6)たい肥の施用は土壌の生物性を改善する
たい肥を施用すると、これを餌にして土壌中にはミミズ、ダニ、トビムシなどの土壌動物の
活動が盛んになり、たい肥は細かくなる。したがって、たい肥は微生物による分解を受けやすく
4
なる。
たい肥が施用されると、たい肥に含まれる有機物が餌になって、土の中の微生物の数が増える。
土の中の微生物が増え、活動が盛んになると、施用したたい肥だけでなく、これまでに蓄積され
ていた有機物の分解も促進される。これをプライミング効果(起爆剤的効果)と呼んでおり、こ
の効果によって窒素、リンなど多くの養分が土の中に放出される。
(7)たい肥の施用によって土壌病虫害の抑制が期待されている
たい肥の施用によって土の中の微生物の多様性が高まり、作物の病虫害が減ったという例が報
告されている。例えば、たい肥の施用でトマト青枯病、キュウリつる割病、ダイコン萎黄病の発
生が抑制され、鶏ふんでつくったたい肥の施用で作物に害を与える線虫の数が減ったという報告
がある。しかし一方では、たい肥の施用でかえって作物の病気が助長されたという報告もあり、
バレイショのそうか病がその例である。このような場合には、まず病害対策を実施した後に、土
壌の改良効果や養分供給効果を目的にして、たい肥を施用することが大切である。
(1)たい肥の施用で土の保肥力が高くなる
たい肥の施用によって土の養分(アンモニウム、カリ、カルシウム、マグネシウムなど)を保
持する力が増える。それは、土壌中に有機物が蓄積するとともに土の陽イオンを保持する力(陽
イオン交換容量=CEC)が増えるためである。このようにCECが高くなると、肥料成分は雨
水によって洗い流されにくくなり、土の保肥力が高まる。
(2)たい肥の施用はリン酸のききめを増大させる
我が国に広く分布している火山灰土壌や酸性土壌には活性のアルミニウムが多く含まれており、
それによって作物の根に障害がでたり、施用したリン酸がアルミニウムと結びついて、リン酸は
難溶性となり作物に吸収されにくくなる。しかし、このときたい肥が施用されれば、たい肥に含
まれている腐植酸、有機酸、糖などが活性のアルミニウムと結びついて、いわゆるキレート化合
物をつくり、活性アルミニウムの害作用を抑える。そのため、たい肥の施用はリン酸肥料のきき
めを増大させる。
一口メモ
キレート化合物:キレートとは化学用語であり、本来の語源はカニの鋏を意味している。鉄、
アルミニウム、マグネシウムなど、いわゆる金属イオンをはさむ形で環を形成する化合物
であり、はさみ状化合物ともいう。自然界にもキレート化合物は多く存在しており、血液
中のヘモグロビン、植物のクロロフィルなどはその例である。
5
(3)たい肥の種類によって肥効特性が異なる
家畜ふんからつくったたい肥には、窒素、リン酸、カリなどの肥料成分が含まれているので、
肥料養分の供給源として使うことができる。しかし、原料によって、たい肥の肥料成分が異なる
ので注意しなければならない。表1−2に示したように、窒素は牛ふんたい肥よりも、豚ぷんた
い肥、鶏ふんたい肥に多く含まれている。これらのたい肥1トン(水分を含んだ現物)に含まれ
る窒素は、牛ふん堆肥で11kg,豚ぷんたい肥で20kg、鶏ふんたい肥で19kgになる。リン酸、カリ
について見ると、鶏ふんたい肥が最も多く含み、ついで豚ぷんたい肥であり、牛ふんたい肥で少
なくなっている。養分の供給効果は、鶏ふんたい肥が最も大きいことになる。しかし、鶏ふんた
い肥には石灰が多く含まれているので、もともと土壌が中性やアルカリ性の場合は施用しないほ
うがよい。養分の多いたい肥は微生物の繁殖にも役に立つので、土壌の生物性改善にも効果的で
ある。
土を軟らかくし、透水性、通気性を高める物理性改良には、バーク、モミガラ、わら類、オガ
クズ、剪定クズなどの粗大有機物や繊維質の材料を混ぜたたい肥が適している。
表 1 − 2 千葉県で生産流通する家畜ふんたい肥の成分特性
水分
(%)
全窒素
(%)
全リン酸
(%)
全カリ
(%)
全石灰
(%)
全苦土
(%)
C/N比
(%)
牛ふんたい肥
平均値
(n = 229)
50.7
2.31
2.55
3.19
3.6
1.46
15.3
豚ぷんたい肥
平均値
(n = 122)
4 0.7
3.45
6.27
2.73
6.05
1.97
11.5
鶏ふんたい肥
平均値
(n = 77)
29.4
2.71
7.22
3.38
18.97
1.6
8.8
注)肥料成分は乾物当たりの値
(牛尾ら 日土肥誌、75 巻第 1 号、2004 年 2 月より)
(4)たい肥や化学肥料の特性を生かした使い方がある
作物は種類によって養分の吸収量や吸収時期に差があり、生育期間中の養分吸収パターンには、
大まかに分けて①連続吸収タイプと②山形吸収タイプがある。
野菜を例にとって説明すると、連続吸収タイプは生育期間中コンスタントに養分を必要とする
野菜で、セルリー、ネギ、オオバなどの葉菜類やトマト、ナス、ピーマン、キュウリ、シシトウ、
イチゴなどの果菜類がこれに含まれる。山形吸収タイプは生育中期に十分な養分供給が必要であ
り、後期には養分が多すぎると収量や品質が悪くなるもので、サツマイモ、バレイショ、ハクサ
イ、レタス、キャベツ、タマネギ、ニンニク、スイートコーン、ブロッコリー、カブなどが含ま
れる。
家畜ふんを原料にしたたい肥では、一般に鶏ふんたい肥が速効的で窒素が多く、山形吸収タイ
プの作物に適し、連続吸収タイプの作物には、速効性の鶏ふんたい肥と養分放出が遅い牛ふんた
い肥の併用が適している。しかし、たい肥だけでは作物が要求する養分を十分に賄うことは難し
い場合も多く、通常の場合、化学肥料との併用が必要である。
6
(5)たい肥の肥料成分を考慮した施肥が大切
たい肥は窒素、リン酸、カリ、苦土などの肥料成分を含んでおり、これらの養分を有効活用す
ることは、有機物資源を再利用して循環型社会を形成していく面から極めて大切なことである。
その反面、たい肥中の肥料成分を考慮しないで施用し続けると、土壌の養分が次第に富化して農
産物の品質・収量の低下や地下水の硝酸態窒素の汚染を招く恐れがある。そこで、土壌の養分状
態を適正に保つために、たい肥中の肥料成分を踏まえた施肥が重要になる。
牛ふん
たい肥化施設(スクープ式撹拌機)
たい肥運搬車(フレコンバック詰め)
袋詰めたい肥
7
たい肥施用について認定農業者や資源循環の先進地のアンケート調査などから水田ではたい肥
を施用していない農家が多い。
一方、たい肥を施用している農家でも現在の施用量に満足していない農家が比較的多く、また、
農林水産省の最近行なった調査では今後、たい肥を利用したいが9割を占めている。
これらのことから地域によっては過剰なところもあると考えられるが、全体として見た場合、
今後ともたい肥の需要はあると推察される。
(1)たい肥施用の現状
平成9年度に(財)日本土壌協会が認定農業者に対して行ったアンケート調査によると、認定農業
者でたい肥を施用している割合が最も高いのは畑作部門(87.4%)で、次いで果樹部門(73.5%)
となっており、耕地面積の約半分を占める水田作では53.8%となっている(表1−3)。
表 1 − 3 認定農業者のたい肥施用状況
たい肥施用状況
たい肥施用農家の10a当たり投入量別農家数割合(%)
施用して
ない
施用して
いる
0.5 t
1.0 t
1.5 t
2.0 t
2.5 t
3.0 t
3.5 t
以上
水 田 作
46.2%
53.8%
14
27
11
25
1
8
14
畑 作
12.6
87.4
6
12
5
25
1
13
38
果 樹
26.5
73.5
11
23
7
32
2
9
16
注)1.平成9年度 ( 財 ) 日本土壌協会「環境保全型農業の推進状況に関する調査」(認定農業者回答 3,097 戸
(調査対象の約 85%))
2.畑作は一年に一回施用の場合の 10a 当たりたい肥投入量別農家数割合である。
一方、たい肥施用量について、地力増進法に基づく地力増進基本指針においては、たい肥の
標準的な施用量として、
稲わらたい肥換算で、▽ 水田においては1∼1.5t/10a、
▽ 普通畑で1.5∼3t/10a
と定めている。
これに基づき都道府県において、主な作物ごとにたい肥の標準的な施用量を施肥基準等の中で
定めているところが多い。
認定農業者のたい肥施用量はほぼそれに近い施用量になっているが、たい肥施用している農家
でも施用標準より下回っている農家が2∼3割いる。
また、平成16年に栃木県高根沢町の水稲農家に対して行なったアンケート調査では、74%の農
家がたい肥を施用しているとの回答があった(図1−1)。
高根沢町は、資源循環の町づくりに積極的に取り組んでおり、他地域より稲作農家のたい肥利
用割合は高い。しかし、たい肥施用面積の割合について聞いてみると1/3の水田面積にたい肥を
施用しているという農家が38.5%と最も多かった(表1−4)。
8
堆肥を利用している。
堆肥を利用してない。
26%
74%
図 1 − 1 水稲農家におけるたい肥施用割合(高根沢町)
表 1 − 4 水稲農家におけるたい肥利用面積の比率(高根沢町)
項 目
比率(%)
① 1/3 以下の水田にたい肥を投入している。
38.5
② 全水田面積にたい肥を施用している。
26.9
③ 2/3 以上の水田にたい肥を投入している。
19.2
④ 1/2 程度の水田にたい肥を投入している。
15.4
合 計
100
資料:平成 16 年高根沢町、(財)日本土壌協会共同調査
このように、たい肥施用について先進的地域でも、特に水田についてはまだたい肥が施用され
ていない農地が多く、全国的に見てもたい肥が施用されていない農地は多いと推察される。
(2)たい肥施用量の満足度
現在、投入しているたい肥施用量の満足度を調査したものとして、水稲については有機栽培米
生産農家と特別栽培米生産農家への全国アンケート調査結果(平成10年(財)日本土壌協会調査)
がある(表1−5)。この結果からは、有機栽培米生産農家で14.9%、特別栽培米生産農家で21.2%
の農家が現在のたい肥施用量に満足していなかった。
表 1 − 5 たい肥投入量の満足度
有機栽培米
特別栽培米
件数
比率
件数
比率
① 十 分 だ
143
73.7%
245
69.4%
② 不 足 だ
29
14.9
75
21.2
③ そ の 他
22
11.3
32
9.3
計
194
100
353
100
資料:(財)日本土壌協会 「平成 10 年産有機栽培米(転換期間中有機栽培米含む)
及び特別栽培米の生産実態調査」
また、ナシの銘柄産地として有名な千葉県白井市において現在たい肥を施用している農家に対
してたい肥施用量の過不足をアンケート調査した(表1−6)。最も多いのが「ほぼ適量である」
9
(54%)で、次いで「不足している」
(46%)となっており、「過剰であり減らす」は0%であった。
全体としてみた場合、たい肥を施用している農家においても施用量が不足している農家が比較
的多いと推察される。
表 1 − 6 たい肥施用量の過不足 ( 白井市 )
全 体(%)
うち 梨農家(%)
①ほぼ適量である
33 戸(54%)
17 戸(63%)
②不足している
28 (46%)
10 (37%)
0 (0%)
0 (0%)
③過剰であり減らす
61
計
(100%) 27
(100%)
資料:平成 14 年 (財)日本土壌協会調査
農林水産省が最近行なった「家畜排せつ物たい肥の利用に関する意識・意向調査結果」(平成17
年1月19日公表)によると、今後、家畜排せつ物たい肥をどの程度利用したいかについての設問に
対して「積極的に利用したい」が51.1%、ある程度利用したいが37.3%となっており、利用したい
が88.4%を占めていた。
このようにたい肥利用の意向がかなりあり、一方、水田を中心としてたい肥施用が不十分な状
況である現状などから、全体的にみた場合、今後ともたい肥の需要はあると考えられる。
水田
特別栽培米
10
平成17年1月19日に公表された農林水産省の「家畜排せつ物たい肥の利用に関する意識・意向調
査結果」によると、家畜排せつ物たい肥を今後どの程度利用したいかは、「積極的に利用したい」
が5割、
「ある程度利用したい」が4割となっており、利用したいが9割を占めている。
利用したい理由は、
「たい肥の利用によって循環型農業(資源を有効に利用できる農業)が可能にな
る」が最も多く51.6%となっており、次いで「作物の品質向上が期待できる」が49.5%、
「化学肥料の
使用量の節減が期待できる」46.2%、「作物生産の安定性の向上が期待できる」41.1%となっている
(図1−2)
。
図 1 − 2 家畜排せつ物たい肥を利用したい理由(複数回答)
これを部門別にみると「たい肥の利用によって循環型農業(資源を有効に利用できる農業)が可能
になる」は畜産関係が高く、酪農が63.5%、肉用牛が62.3%、その他の畜産が68.3%となっている。
畜産関係部門以外の耕種部門では、家畜排せつ物たい肥を利用したい理由として「作物の品質
向上が期待できる」が最も高く、施設園芸(花き)で65.1%、施設野菜で57.9%、果樹で53.8%、稲作で
52.7%となっている。
たい肥を用いる動機について、平成14年に千葉県白井市のナシと野菜農家を主たる対象にして
アンケート調査を行った(表1−7)。
その結果、全体として最も多いのが、「農作物の品質向上」(37%)で、次いで「連作障害が起き
にくくなる」(19%)となっている。特に野菜農家では「連作障害が起きにくくなる」はたい肥を用
いる重要な動機となっている。
11
この他、「収量が向上」(15%)、「農作物が作りやすくなる」(12%)、「消費者が有機農産物を求
めている」(12%)がたい肥を用いる動機として多い。
なお、果樹農家(梨)のみで見てみると最も多いのが、「農作物の品質向上」(50%)で次いで「消
費者が有機農産物を求めている」(17%)、「収量が向上」(13%)の順になっている。梨農家におい
ては、「連作障害が起きにくくなる」を除けばほぼ同様な傾向となっている。
したがって、耕種部門全体として見て、たい肥を用いる動機として最も多いのが「作物の品質
向上が期待できる」であり、野菜・花については農林水産省の設問項目になかったので調査結果
に取り上げられていないが「連作障害が起きにくくなる」が多くなっている。
表 1 − 7 農家のたい肥利用の動機(千葉県白井市)
全 体(%)
うち 梨農家(%)
①農作物の品質が向上
44 戸(37%)
25 戸(50%)
②連作障害が起きにくくなる
22 (19%)
3 ( 6%)
③収量が向上
18 (15%)
7 (13%)
④農作物が作りやすくなる
14 (12%)
4 ( 8%)
⑤消費者が有機農産物を求めている
14 (12%)
9 (17%)
⑥生産物の規格が揃いやすい 3 ( 3%)
1 ( 2%)
⑦その他 2 ( 2%)
2 ( 4%)
117 (100%)
51 (100%)
計 資料:平成 14 年 (財)日本土壌協会調査
施設野菜(コマツナ)
イチゴ園
12
(1)畜種別にみた家畜ふんたい肥の特徴
畜種別に見た家畜ふんたい肥の成分組成を図1−3に示す。たい肥の含水率の平均値は、牛ふん
たい肥が最も高く、次いで豚ぷんたい肥、鶏ふんたい肥では最も低い。これは、原料となる家畜
ふんの含水率の順位と一致するが、畜種によるたい肥化方式の違いも主な原因と考えられる。す
なわち、乾燥能力が最も高いたい肥化方式は密閉式であり、次いで開放式、堆積式では含水率は
低下しにくい。牛ふんのたい肥化は堆積式(たい肥舎、箱型通気発酵槽)によるものが多く、と
くに肉牛の場合はほとんど堆積式である。豚ぷんのたい肥化には堆積式も多いが、開放式(直線
型発酵槽、回行型発酵槽)や密閉式(縦型発酵槽、横型発酵槽)も用いられている。また、鶏ふ
んのたい肥化では堆積式は少なく、開放式と密閉式が多い(第 2 章 2 3)を参照)。
たい肥の成分組成は、原料ふんの成分組成を反映している。たとえば、C/N比については、牛ふ
んたい肥>豚ぷんたい肥>鶏ふんたい肥の順である。いずれも原料ふんのC/N比より多少高いが、
これは敷料や副資材の混入によるためと考えられる。pHはいずれも8.4程度であり、ほとんど違い
60
20
18
16
14
12
50
40
10
8
6
4
2
0
30
20
10
0
牛
豚
牛
豚
鶏
C/N
鶏
含水率
pH
EC
N
成分組成
P2O5
K2O CaO
MgO
図 1 − 3 畜種別にみた家畜ふんたい肥の成分組成(原田・山口)
は見られない。電気伝導率(EC)については、鶏ふんたい肥>豚ぷんたい肥>牛ふんたい肥の順
であり、鶏ふんたい肥が最も塩類濃度が高い。
全窒素(T-N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)については牛ふんたい肥<豚ぷんたい肥<鶏ふん
たい肥の順である。また、石灰(CaO)については、鶏(採卵鶏)でとくに高く、豚や牛の3∼5倍
である。このように、肥料成分の含有率に関しては、鶏ふんたい肥が最も高く、牛ふんたい肥が
低く、豚ぷんたい肥がその中間にある傾向が明らかである。
共同利用のたい肥センターにおいては、複数の畜種のふんを原料として用いることがある。こ
の場合、ふんの混合割合によっても異なるが、牛ふんに豚ぷんや鶏ふんが加わると、含水率やC/N
13
比が低下し、ECや各肥料成分の含有率が増加する傾向が見られる。
(2)敷料・副資材の有無から見た家畜ふんたい肥の成分的な特徴
畜舎・鶏舎の敷料あるいは水分調整のための副資材としてオガクズやモミガラなどを家畜ふん
に添加してたい肥化が行われる。最近では、原料ふんを予備乾燥したり、乾燥ふんやたい肥(戻
したい肥)を生ふんに混合してたい肥化を行う方式が行われるようになり、敷料や副資材が含ま
れないたい肥も多く作られるようになった。このように、敷料・副資材が混合されているかどう
かによって、家畜ふんたい肥の成分組成は変動する。
敷料・副資材の有無から見た鶏ふんたい肥の成分組成を図1−4に示す。たい肥のC/N比は敷料・
副資材入りたい肥の方が無添加たい肥より高いが、これはC/N比の高いオガクズ等が混入するため
当然であろう。また、いずれの畜種においても、含水率は敷料・副資材入りたい肥の方が無添加
たい肥より高い傾向を示した。これは、オガクズ等の有無そのものよりも、たい肥化の方式と関
連が深いようである。すなわち、敷料・副資材入りたい肥は堆積方式で製造される場合が多いが、
無添加たい肥は密閉式や開放式で製造されることが多いために、製品の含水率が低下しているも
のと考えられる。窒素、リン酸、カリ、石灰、苦土などの肥料成分とECについては、オガクズ入
りたい肥の方が低い傾向を示している。これは、オガクズの添加による各種成分の希釈によるも
のと考えられる。
とくに、鶏ふんオガクズたい肥の石灰含有率は敷料・副資材入りたい肥に比べて顕著に高い
(図1−4)。これは、無添加たい肥の多くが採卵鶏によるものであり、敷料・副資材入りたい肥の
多くはブロイラーによるものであるためと考えられる。
40
16
35
14
30
12
25
10
20
8
15
6
10
4
5
2
0
0
水分
C/N比
なし
オガクズ
EC
T-N
P2O5
K2O
CaO
MgO
図 1 − 4 オガクズの有無からみた鶏ふんたい肥の成分組成(原田・山口)
(3)たい肥の成分組成の変化傾向
家畜ふんたい肥の成分分析データの全国的なとりまとめ結果について、オガクズ入り豚ぷんた
い肥の成分分析データの変化傾向を図1−5に示す。草地試験場(現 畜産草地研究所)のデータと
14
60
6
50
5
40
4
30
3
20
2
10
1
0
0
水分
T-C
C/N 比
草地試験場
(1978)
農蚕園芸局
(1982)
農業研究セン
ター(1996)
T-N
P2O5
K2O
CaO
MgO
図 1 − 5 オガクズ入り豚ぷんたい肥の成分組成についての既存データとの比較(原田・山口)
農産園芸局(現 生産局)のデータは、調査年度が近いこともあり、比較的近似した数値であるが、
農業研究センター(現 中央農業総合研究センター)でとりまとめたデータは、これら過去のデー
タと異なる傾向を示している。
まず、含水率は明らかに低い。最近では、開放式や密閉式のようなたい肥化方式がとられたり、
発酵槽に強制通気装置をつけたり、プラスチックハウス内でたい肥化を行うなど、乾燥を促進さ
せるような方式や管理が以前より多く行われているためと思われる。各肥料成分については、農
業研究センターのデータは、いずれも過去のデータに比べて高い傾向が見られる。また、C/N比に
ついては、農業研究センターのデータは低い傾向を示している。これらの原因としては、家畜飼
料の質の変化、敷料・副資材の混合割合の変化などが考えられる。牛ふんたい肥についても、同
様の傾向がみられた。
(4)各成分のバラツキの程度
上述のように、各成分の分析データを平均値で示すと一定の傾向が見られるが、各項目、成分
とも、バラツキの範囲は極めて広い。
含水率
含水率、窒素含有率およびECの階
80%以上
級別分布を図1−6∼1−8に示す。
70∼80%
含水率についてみると、牛ふんた
60∼70%
い肥の平均値は54.8%であるが、階
50∼60%
級別分布で見ると、60∼70%のたい
40∼50%
肥が多いことがわかる(図1−6)。
30∼40%
豚ぷんたい肥については、平均値は
20∼30%
40.2%であるが、含水率の高いもの
10∼20%
(60∼70%)と低いもの(20∼30%)
0∼10%
に分かれるようである。これはたい
肥化方式の違いによるものであろ
う。また、鶏ふんたい肥については、
鶏
豚
牛
0
50
100
150
試料点数
図 1 − 6 家畜ふんたい肥の含水率の階級別分布(原田・山口)
15
平均値25.1%であるが、10∼20%のたい
窒素含有率
肥が多い。
窒素含有率については、牛ふんたい肥
は1∼2%、豚ぷんたい肥と鶏ふんたい肥
は2∼3%のものが多い(図1−7)。また、
牛ふんたい肥では92%、豚ぷんたい肥と
鶏ふんたい肥では98%の試料が窒素含有
率1%以上であった。リン酸とカリの含
有率についても、ほとんどの試料は1%
6%以上
5∼6%
鶏
豚
牛
4∼5%
3∼4%
2∼3%
1∼2%
1%以下
0
50
以上である。有機質肥料としての推奨品
質基準では、窒素・リン酸・カリの含有
率は各1%以上と設定されている。家畜
100
150
200
250
試料点数
図 1 − 7 家畜ふんたい肥の窒素含有率(乾物当たり)
の階級別分布(原田・山口)
ふんたい肥の大部分は、土壌改良材より、
むしろ有機質肥料と見なすべきであろ
う。
ECに関しては、推奨品質基準では、
EC (mS/cm)
10以上
鶏
豚
牛
8∼9
5mS/cm以下と設定されている。しかし、
図1−8から明らかなように、ECの高い
たい肥が多い。今回の解析に用いたたい
6∼7
4∼5
肥試料では、牛ふんたい肥の43%、豚ぷ
んたい肥の76%が基準値以上であった。
最近では、家畜尿の農地施用や浄化処理
が困難なことから、発酵中のたい肥に家
畜尿を散布して発酵熱で水分を蒸散させ
る処理法が多くとられるようになり、こ
のことがたい肥のECを高める原因の一
2∼3
1以下
0
20
40
60
80
試料点数
図 1 − 8 家畜ふんたい肥の EC の階級別分布
(原田・山口)
つになっている。家畜尿はカリ濃度が高いため、尿を散布したたい肥は塩類濃度が高まり、ECが
上昇する。この基準値は、たい肥の幼植物試験の結果を踏まえ、濃度障害の発生を防止する目的
で設定されたものである。ECが高いたい肥を利用する場合には、土壌中のECが高くなりすぎない
よう、施用量に注意する必要がある。
(5)耕種農家で使用されているたい肥の種類
関東地域でのアンケート調査に回答した耕種農家の主な栽培作物としては野菜が最も多く、次
いで水稲、果樹、麦、茶などである。これらの農家は土づくりに熱心であり、99%の農家がたい
肥を使用していた。また、それだけでなく65%の農家が自らたい肥を作って使用していた。これ
らの耕種農家が使用しているたい肥の種類を図1−9に示す。やはり家畜ふんたい肥が最も多く使
16
用されており、次いでわらや落ち葉などのたい肥、バ−クたい肥などであり、汚泥や都市ごみ等
のたい肥はほとんど利用されていない。
その他
バークたい肥
わら・落葉などのたい肥
家畜ふんたい肥
20
0
40
60
80
件数
図 1 − 9 耕種農家で使用しているたい肥の種類(山口・築城・原田)
農家が各作物に施用している家畜ふんたい肥の量を図1−10に示す。水稲については、施用しす
ぎると窒素過多になって倒伏したり食味が落ちることがあるので、あまり多くは施用されていな
い。露地野菜については作物の種類が多く、養分要求量もそれぞれ異なるので、施用量は様々で
ある。施設野菜については、5 t /10 a 以上施用している農家が多い。果樹については、3∼5 t /10 a
以上の農家が多い。
12
10
8
6
露地野菜
施設野菜
水稲
4
2
露地果樹
施設果樹
上
以
t
5t
45
34
t
t
t
23
12
1t
以
下
0
図 1 − 10 各作目に対するたい肥の施用量(山口・築城・原田)
17
(1)作物生産農家が望むたい肥の種類
関東地域でのアンケート調査において、作物生産農家が入手したいと回答したたい肥の種類を
図1−11に示す。畜種別に見ると、まず牛ふんたい肥に対する希望が多く、次いで鶏ふんたい肥、
豚ぷんたい肥の順である。牛ふんたい肥には土壌改良資材的な効果を求め、鶏ふんたい肥には肥
料的効果を求めているもの
と思われる。また、オガク
ズ混合たい肥を使いたいと
思っている農家も少なくな
いようである。
その他
鶏ふん+モミガラ
鶏ふん+オガクズ
豚ふん+モミガラ
こ れ ら の 作 物 生 産 農 家 豚ふん+オガクズ
は、たい肥の品質を気にし
牛+モミガラ
ており、完熟したたい肥を
牛+オガクズ
求めている。とくに、牛ふ
鶏ふん
んたい肥では雑草種子が混
豚ぷん
入していることを問題とし
牛ふん
0
ており、豚ぷんたい肥では
10
15
20
件数
臭気が問題となっている。
また、たい肥の成分が時期
5
図1−11 作物生産農家が入手したいと思っている堆肥の種類
(山口・築城・原田)
によって変動することも問
題と考えている。さらに、たい肥の利用には時間と手間がかかることから、運搬しやすいよう、
たい肥を軽くしてほしい、たい肥センタ−で機械散布できるようにしてほしい等の希望もある。
(2)良質家畜ふんたい肥が備えるべき条件
良質のたい肥とは、取り扱いやすく、衛生的であり、作物の生育にとっても安全で有効なたい
肥のことである。家畜ふんたい肥の品質・成分に関する解析結果を踏まえ、良質たい肥が備える
べき条件について述べる。
①悪臭がないこと
生の家畜ふんや未熟なたい肥は悪臭が大変強いため、使いやすいたい肥にするには、悪臭を除
去しなければならない。主な悪臭成分としては、アンモニア、低級脂肪酸(VFA)、含硫化合物
(硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチルなど)などがあるが、たい肥化によって十分発酵さ
せれば、これらの悪臭成分を分解除去することが出来る。たい肥化の管理を行う場合に最も重要
なことは、たい積物の内部まで空気(酸素)を供給し、好気的な状態に保つことである。たい積
物の内部で酸素が欠乏すると嫌気性微生物の働きでVFAなどの悪臭成分が生産されるが、十分な酸
素を供給すると好気性微生物が働いて悪臭成分を分解するからである。そのためには、原料家畜
18
ふんの含水率を60∼65%程度に調整し、通気性を改善してポンプで強制通気を行い、切り返しを
適度に行うなどの管理が必要であり、これがたい肥化の基本である。
②取り扱い性がよいこと
たい肥製品はできるだけ乾燥していることが望ましい。製品の含水率が高いと、取り扱いにく
いだけでなく、重くて運搬や施用などの作業が困難である。「関東地域の作物生産農家における家
畜ふんたい肥の利用に関するアンケート調査」において、作物生産農家では、たい肥を軽くして
ほしいという要望がある。また、たい肥を貯蔵する場合、含水率が高いと腐敗しやすいので、袋
詰めにして保存するためには、含水率が20%程度になるまで乾燥させておくことが重要である。
上記のアンケート調査でも、高い価格で販売されているたい肥は、一般的に含水率が低く、さら
さらして取り扱いやすいものが多いことが明らかである。
含水率だけでなく、その形状も重要である。たい肥が乾燥して粉状であれば、散布などの作業
の際に粉塵が立つので、あまり好ましくない。また、適度な大きさの粒状であればブロードキャ
スタ等を用いて散布できるので好都合であり、作物生産農家からは粒状のたい肥を望む声が高い。
そこで、エクストルーダやディスクペレッタなどの成型機を用いたペレットたい肥の製造技術
が開発されている。成型処理によって、散布性や貯蔵性(カビの発生防止)が改善されるだけで
なく、乾燥・圧縮により貯蔵容積や輸送コストの削減を図ることが出来る。また、ペレットの大
きさを変えることによって肥効(窒素の無機化率等)を調節することが出来るし、さらに他の有
機質資材や土壌改良材等との混合による成分調整の研究が進行中である。
③病原菌、寄生虫卵、雑草種子などが死滅していること
生の家畜ふん中には病原菌や寄生虫の卵などが含まれることがある。とくに豚ぷんには人畜共
通の寄生虫が多く、最近よく用いられるオガクズ豚舎の敷料は寄生虫などが増殖する温床となり
表1−8 病原菌及び寄生虫の死滅温度
(Golueke)
種 類
チフス菌
サルモネラ菌
赤痢菌
ブドウ状球菌
連鎖球菌
結核菌
ジフテリア菌
ブルセラ菌
アメーバ赤痢
条虫
旋毛虫
アメリカ鉤虫
回虫
温度(℃)
55∼60
56
60
55
50
54
66
55
61
55
55∼60
62∼65
45
60
時間(分)
30
60
15
60
10
10
15∼20
45
3
5
表1−9 牛ふんたい肥に埋設した雑草種子の発芽率
(高林ら)
種 類
メヒシバ
ノビエ
カヤツリグサ
シロザ
オオイヌタデ
スベリヒユ
イヌビユ
エノキグサ
クワクサ
陸稲
大麦
埋設条件
50℃未満
60℃ 2日間
96
72
56
26
8
85
68
7
26
75
16
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
対 照
74
87
30
16
53
91
70
51
19
98
96
50
15∼20
19
やすいので、注意が必要である。最近では、牛ふんについて、大腸菌O-157の存在が危惧されてい
る。また、牛ふんには雑草の種子が含まれることが多く、このようなたい肥を施用すれば畑が雑
草だらけになるので、作物生産農家では嫌がられる。
家畜ふんたい肥を販売するためには、これらを完全に死滅させておくことが極めて重要である
(表1−8、1−9)。そのためには、たい肥化の過程でできるだけ高温になるような管理を行う
ことが重要で、70∼80℃程度の温度になることが望ましい。関東での調査結果によると、たい肥
の温度測定を実施している農家は38%にすぎず、約6割の農家は温度を測っていなかったが、温
度を測定している農家では、かなりの農家が70℃以上の温度を確保していた。これらの温度を測
定している農家は、たい肥製造に熱心だということであろう。このように、作物生産農家へのた
い肥の販売を考えるならば、少なくともたい積物の温度を測定し、高温になるような管理を行う
よう努めるべきである。
④生育阻害物質を含まないこと
生育阻害物質とは、フェノ−ルカルボン酸やVFAなど作物の生育に阻害的な影響を及ぼす物質
のことである。これらは、排せつ直後の新鮮な家畜ふんの中にはそれほど含まれていないが、家
畜ふんが放置されている間に嫌気的条件下で多量に生産される。また、畜舎の敷料あるいはたい
肥の副資材として用いられるオガクズやわら類にもフェノ−ルカルボン酸などが含まれている。
従って、たい肥化の過程で嫌気的な条件にならないよう注意し、発酵を促進することによって、
これらの生育阻害物質を分解することが重要である。牛ふんのたい肥化過程でのVFAの消長を図
1−12に示す。この図は、たい肥化の進行とともにVFAが分解されていく様子を示しているが、た
い積1週間後の堆積物内部にできた嫌気的な部分では、極めて多量のVFAが生産されていることも
示している。
たい肥の生育阻害物質は液体
mg/100g
クロマトグラフやガスクロマト
グラフを用いて同定するが、こ
800
れらの物質が含まれているかど
200
うかを簡易に知りたい場合は、
酢酸
プロピン酸
n- 酪酸
イソ酪酸
2- メチル酪酸
イソ吉草酸
安息香酸
堆積下部
(嫌気部分)
コマツナやハツカダイコンの種
子を用いた発芽試験が有効であ
る。発芽試験は、ろ紙を敷いた
100
シャ−レにたい肥の水抽出液を
入れ種子を蒔いて発芽率を測る
方法と、たい肥と土を混合して
ポットにつめて播種する方法が
10
20
30
40
50
60
70
80
経過日数
あるが、簡易さの点で、前者の
方法がよく用いられる。
20
図1− 12 牛ふんたい肥化過程における VFA の消長
(羽賀・長田・原田)
91
一般的には、堆積の期間が長ければ長いほど腐熟しており、3∼6カ月も堆積したたい肥に生
育阻害物質が多く含まれているとは考えられていない。しかし、重要なのは期間ではなく、適切
な管理が行われたかどうかである。いくら長期間堆積したとしても、堆積物が嫌気的な状態にな
っていたのでは良いたい肥は作れない。むしろ、生育阻害物質が多量に生産され、品質は悪化す
る。良質たい肥を作るには、単に時間だけかけるだけではなく、適正な管理を行うとともに、
時々発芽試験を行って生育阻害物質の有無を確かめておくことも必要である。
⑤塩類濃度が高くないこと
家畜排せつ物には、カリやナトリウムなどの塩類が多く含まれている。たい肥化の際にオガク
ズやわらなどの副資材を混合すれば、それらによって希釈されるために、塩類濃度はそれほど高
くはならない。しかし、最近では、戻したい肥や乾燥ふんを用いて水分調整をする方式が多く用
いられるようになり、これらのたい肥では塩類濃度が高くなる傾向がある。また、尿汚水の処理
手段として、発酵中のたい肥に尿汚水を散布し、発酵熱を利用して水分を蒸散させる方式も行わ
れている。この方式は、尿汚水の処理が簡易であるため、多くの農家で実施されるようになった
が、尿には多くの塩類が含まれており、尿汚水を散布したたい肥の塩類濃度は極めて高くなる。
塩類濃度は、ECの測定によって評価される。家畜ふんたい肥の推奨基準では、ECは5mS/cm以下
とされているが、現在流通しているたい肥の分析値を見ると、牛ふんたい肥の43%、豚ぷんたい
肥の76%が基準値以上の高い値を示している。作物生産にとって土壌のECは重要であり、園芸作
物では0.8∼1.0mS/cm程度が土壌の最適ECと考えられている。すなわち、ECが高いたい肥の場合
は、多量施用すれば土壌の塩類濃度が高まるため、たい肥の施用量はECの値によって制限するこ
とになる。従って、良質たい肥製造のためには、尿の散布はできるだけ行わないほうがよいであ
ろう。
⑥重金属濃度が高くないこと
家畜ふんたい肥の場合は、下水汚泥のようにヒ素やカドミウムなどの重金属が混入することは
考えにくい。家畜ふんたい肥で問題となるのは、銅と亜鉛の濃度である。これらは作物にとって
必要な養分であり、ヒ素やカドミウムなどのように危険な物質ではないため、肥料取締法では規
制されていないが、農用地の管理基準として、表層土乾物1kg当たり亜鉛120mg以下と定められ
ている。たい肥中の銅・亜鉛の濃度は、牛ふんたい肥では低いが、豚ぷんたい肥ではいずれも高
く、鶏ふんたい肥では亜鉛濃度だけ高い(表1−10)。これは、成長促進の目的で飼料中にこれら
が過剰に添加されているためである。銅・亜鉛の添加量は極力下げるよう指導されているが、現
在でもかなり濃度の高いたい肥が見かけられる。良質たい肥の製造並びに利用促進のためには、
銅・亜鉛の添加量を出来るだけ減らすことが重要である。
21
表1−10 たい肥中の重金属(牛尾ら)
ヒ素(As)
牛ふん堆肥
平均値
最大値
最小値
豚ぷん堆肥
平均値
最大値
最小値
鶏ふん堆肥
平均値
最大値
最小値
汚泥堆肥
平均値
最大値
最小値
(乾物中 ppm)
カドミウム
(Cd) 水銀(Hg)
銅(Cu)
亜鉛(Zn)
2.7
13.0
0.3
0.6
2.1
0.2
0.05
0.26
0.02
33
129
3
160
443
312
1.7
4.5
0.1
0.8
2.2
0.3
0.07
0.22
0.02
353
1,170
28
871
2,480
237
2.1
10.1
0.5
0.9
1.9
0.3
0.11
0.93
0.01
55
118
19
435
750
142
4.4
14.0
1.3
1.2
3.1
0.4
0.31
0.82
0.02
150
460
73
664
1,760
195
たい肥化施設(ロータリー式撹拌機)
たい肥化施設(密閉縦型撹拌機)
仕上がりたい肥
22
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★
★★
★★★
★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
(1)水稲生産に求められること
水稲は、良食味米に対する消費者の要望が強く全国で奨励品種だけでも200を超える品種が栽培
されており、品種による差別化の動きとともに産地間競争が激しい。米の食味をコントロールす
る最も重要な肥培管理は窒素施肥であることから、有機物の施用を含めた窒素の施肥管理が重要
である。同時に、米流通の自由化が価格競争を激化させており、一層のコスト低減が求められて
いる。
(2)水稲の栽培特性は
「水稲は地力で作る」と言われるように、水稲は地力窒素依存性の高い作物であり、収穫までに
吸収する窒素量の6∼7割が土壌中の有機物が分解して発現する窒素に依存している。したがって、
たい肥には特に長期的な地力増強効果が期待されるが、たい肥の種類によっては短期的な肥料代
替効果も期待される。
水稲は、湛水した耕地で栽培するという他の作物にない特徴を持ち、主にアンモニア態窒素を
吸収する。湛水条件ではアンモニア態窒素はほとんど硝酸化されず土壌に保持されるため、肥料
だけでなく土壌やたい肥などの有機物が分解して発現する窒素を無駄なく利用できる。一方、窒
素成分の過剰な吸収は、収穫前の倒伏を招き作業性を著しく低下させるだけでなく、米の食味を
低下させる。
水稲の養分吸収量は、10a当たり窒素10∼12kg、リン酸5∼7kg、カリ15∼20kgである。リン酸は
生育前半、カリは生育全体を通じた肥効が期待される。特にカリは稈を強くしたり耐病性を高め
表 1 − 11 水稲の養分吸収量(kg/10a)
リン酸
窒 素
品 種
収量
モミ
わら
合計
505
6.7
3.7
10.4
わら
2.1
合計
6.0
モミ
コシヒカリ
モミ
3.9
カ リ
わら
2.8
15.3
合計
18.1
祭り晴
536
6.4
4.9
11.3
3.8
2.6
6.4
2.4
17
19.4
あいちのかおり
515
6.4
4.9
11.3
3.8
2.6
6.4
2.2
15.4
17.6
全国(平均)
596
6.9
4.2
11.1
3.6
1.9
5.5
2.6
13.1
15.7
23
る効果が期待される。
特に寒冷地の水稲栽培においては、籾数確保のために初期生育が非常に重要であることと、冷
害に対する備えが常に必要であるといった点が特徴的である。したがって、初期生育を阻害する
ような未熟なたい肥を春施用するといったことは避けなければならない。
また、排水の悪い泥炭土や黒泥土等では稲わらも含めて有機物の分解が遅く窒素の発現が遅く
なるので、有機物の腐熟度、施用量に十分気を付ける必要がある。暖地であれば、取り返せる程
度の初期生育の障害や遅れであっても、寒冷地においては籾数不足等の生育量不足を招いてしま
う可能性が高い。
冷害に対しては、初期生育確保に加えて障害不稔(低温等でコメが実らなくなる)に対する対
策が必要である。稲の花粉が作られる時期(減数分裂期)に茎葉の窒素濃度を高い状態にすると、
低温に対しての感受性が高まり、障害不稔(米が実らない)の発生率が高まることが知られてい
る。したがって、稲の花粉が作られる時期(減数分裂期)には窒素濃度を過度に高めないような
たい肥や肥料の施用が必要である。
(3)利用されているたい肥の現状
水稲栽培で利用される有機物は、収穫残渣である稲わらが主体である。また、小麦などとの作
付体系ではこれらの収穫残渣もほ場に供給されることが多い。これら有機物の施用は土壌の易耕
性など土壌物理性の改善や物質代謝を担う微生物活動を良好にすることを通して栽培管理をしや
すくするために行われている。
たい肥の施用量は各県における水稲の施肥基準にも盛り込まれており、牛ふんたい肥で概して
2t/10a以下と家畜ふんたい肥の施用量は案外少ない。これは家畜ふんたい肥が連用された水田にお
ける水稲栽培では、高収量は得られても倒伏の増大や玄米中タンパク含量の上昇など品質低下が
生じるためである。
水稲農家が使用しているたい肥は、例えば愛知県の場合、70%が牛ふんたい肥である。水稲栽
培では施肥量が多くなると、米の品質低下、倒伏による収穫作業への支障が出るため施肥量は少
なく、窒素の供給量が不明確なたい肥利用には元来消極的である。したがって、使用するたい肥
は窒素の肥効が少ない牛ふんたい肥の利用が多い。
一方、たい肥を活用して化学肥料からの窒素量を減らす栽培も注目を集めている。近年各地に
設置されているたい肥センターで製造されるたい肥は、肥料成分が高いものもあり、化学肥料施
用量を減らす栽培に活用する事例が見られる。発酵鶏ふんや乾燥豚ぷん等のC/N比が低く窒素肥効
の高いたい肥については、化学肥料を施用しない栽培にも活用されている。
また、たい肥の施用時期については、水田の無作付け期であり比較的作業が少ない12∼3月の冬
期に集中している。
(4)たい肥に期待されている効果は
古来より、「稲は地力でとり、麦はこやしでとる」と言われてきた。実際水稲が吸収する窒素の
24
多くは地力窒素から供給されており、水稲生産にとって地力が果たす役割は最も重要である。
このため、たい肥施用は水稲が連続して栽培されることによる地力消耗を補完することが期待
される。地力消耗の中では、とりわけ稲わら等の粗大有機物で付加しにくい窒素やケイ酸等の肥
料成分を適度にしかも徐々に供給することがねらいとなる。
最近の土壌調査結果によって水田土壌の有機物含量やケイ酸含量は年々減少する傾向にあるこ
と、さらに水稲作付面積は他の作目に比べて圧倒的に広いことなどから、家畜ふんたい肥等土づ
くり資材を適正に施用することは、家畜ふんの利用促進だけでなく地力に強く依存している水稲
の安定生産を図る上でも有力な手段であると考えられる。
愛知県が行ったアンケート調査によると、水稲農家はたい肥に地力の向上を最も期待している。
この場合の地力は主に窒素肥沃度のことであり、毎年、窒素の肥効が安定して発現するたい肥が
望まれる(図1−13)。
戸数
0
5
10
15
20
25
30
地力の向上
畜ふん処理
化学肥料の削減
品質の向上
有機栽培のため
図 1 − 13 水稲農家のたい肥に期待する項目
資料:平成 11 年 愛知県農業水産部「堆きゅう肥流通利用調査報告書」
なお、たい肥を施用した場合、たい肥から窒素が発現し、化学肥料の削減を行うこととなるの
で、たい肥の窒素含量に関する成分表示は必須である。
また、水田は畑地に比較すると、たい肥の省力的な機械散布を行うには有利な条件を持ってい
る。特に水田土壌は冬季にも湿潤で低温状態が保たれるために、たい肥を稲わら腐熟促進資材と
して秋施用しても、その中の窒素は地力として取り込まれ、硝酸態窒素として水田外に流出する
ことがほとんどない。たい肥の冬季施用は排水の良い圃場であればたい肥の質などに必要以上に
神経質になる必要がなく環境保全面でも良い。
(5)水稲栽培にとって好ましいたい肥とは
稲作で用いられるたい肥で具備すべき条件としては特に「安価であること」が重要で、その他
「土壌改良効果が大きいこと」
、「取扱性が良いこと」などが重要である。
水稲栽培で施用されるたい肥は「腐熟度が高いこと」は望ましいが、絶対の条件ではない。ス
ラリーや未熟たい肥は水稲の生育や収量に対して悪影響を及ぼすが、「中熟」以上の品質であれば、
25
施用時期や施用法を工夫することによって水稲栽培において利用することは可能である。
たい肥施用は前作で消耗した地力を回復させるために必要であるが、土地利用型作物である水
稲の収益性を考慮すれば、価格が高いたい肥よりは安価なたい肥の方がコスト面でのメリットが
大きい。
水稲は地力窒素への依存率が高いことから、施肥管理しやすい地力レベルに維持するためにた
い肥を利用することにより安定した収量が期待できる。この場合のたい肥利用は連用を前提に考
えるべきであるから、毎年、品質の安定したたい肥を供給することが肝要である。
土地利用型作物である水稲では、広い面積にたい肥をできるだけ均一に散布する必要があるこ
とから、取扱性の良いことも求められる。散布は肥料散布機やブロードキャスターに対応できる
ハンドリングの良いものがよく、その点でペレットたい肥のようにハンドリングが良く機械散布
が可能であるものが好ましい。
なお、たい肥の肥料効果については、水田では硝酸態窒素が脱窒されやすく、化学肥料の代替
として期待できるのは窒素濃度の高いとりわけ鶏ふんである。鶏ふんの化学肥料代替量は概ね全
窒素含量から2%を差し引いた分が目安になる。豚ぷんたい肥も、1 t /10 a 施用で窒素約2∼3kgの
肥効が期待できるので、それ相当の化学肥料を削減できるが、肥料効果を期待して利用する場合
は定植前1ヶ月前より近い時期に施用する必要があり、還元障害を起こさないように十分発酵させ
ておくことが望まれる。
水稲
たい肥散布後の水田
26
(1)ダイコン
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★
★★★
★★
★
★★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①ダイコン生産に求められていることは
平成14年のダイコン生産量は、全国で178万トンであり、北海道、千葉県、青森県、宮崎県、神
奈川県が生産量の上位を占めている。露地野菜であることから天候に左右されやすく安定生産が
求められている。また、野菜全般についてであるが、環境に配慮した施肥管理が求められている。
農作業上の問題点としては、間引き作業の軽労化が大きな課題となっており、これに関連した播
種作業の改善も必要とされている。また、重量野菜であるため、収穫に伴う運搬作業の軽労化の
必要性も指摘されている。
②ダイコンの特性と栽培管理
ダイコンは、冷涼な気候に適し、発芽温度は15∼35℃で、5℃以下または40℃以上で発芽は抑制
される。生育適温は17∼20℃で、根部の肥大適温は20∼24℃とされている。耐暑性はあまり強く
なく、高温では病害及び生理障害が発生しやすくなるが、耐寒性は比較的強く、葉は−2℃くらい
までは障害を受けることは少ない。肥大した根部は、−1℃以下になると凍害を受ける。
耕土が深く、膨軟で保水力と排水の良い土壌に良品が生産できる。特に長根種はこの点が重視
され、一般に沖積砂壌土や火山灰土に産地が形成されている。主根は石などの物理的障害を避け
て伸長するが、虫害、湿害とともに、肥料や未熟たい肥との接触などで根端が損なわれると、主
根の再生力や側根に対する優先度の低い品種では岐根になりやすい。
示すとおり播種1ヶ月以降直線的に増大して収
穫期まで継続する。また、ダイコンは、地力窒素の
吸収割合が高いことが特徴であり、施肥量を20%
削減しても収量の低下はほとんどみられない。
また、環境保全に配慮した施肥体系では、た
い肥等有機質資材由来の肥料成分を基肥量から
窒素吸収量(Nkg / 10a)
秋まきダイコンの窒素吸収量は、図1−14に
化成
〃 20%減肥
ロング
〃・20%減肥
無窒素
差し引いて施肥するよう指導されてきつつある。
たい肥由来の成分量を考慮した事例として、三浦
図1− 14 秋まきダイコンの窒素吸収量の推移
市農業協同組合のダイコン(春キャベツ間作)
土壌条件:腐植質黒ボク土、施肥N量(kg/10a);10 + 5
の施肥基準を示すが、表1−12は肥料濃度の高
播種期:97.9.10、収穫期:97.11.18
27
い高度化成主体、表1−13は化学肥料削減のための有機質肥料主体の施肥基準となっている。
高度化成主体の施肥基準は、牛ふんたい肥由来の成分量として、窒素、リン酸、カリをそれぞ
れ1.5、1.8、6.3kgとして、基肥量から減らしている。一方、有機質肥料主体の施肥基準では、たい
肥として発酵鶏ふんを用い、これに由来する成分量として、窒素、リン酸、カリをそれぞれ2.1、
8.3、4.5kg、さらに石灰、苦土をそれぞれ29、1.5kgとして基肥量を減らしている。
③ダイコンにとって好ましいたい肥とは
根菜類のダイコンは、地下部を収穫部位とするため、たい肥の品質が極めて重要となる。未熟
なオガクズや剪定屑が混入したたい肥あるいは菜種油粕等の有機質肥料は、タネバエの発生を助
長して根部品質を低下させる。また、乾燥鶏ふん等の肥料成分の高いたい肥の施用は、ダイコン
の生長点を阻害して岐根等の品質低下の原因となる。
このため、ダイコンに要望されるたい肥の性状は、粗大な原料の混入がない、十分に腐熟した
ものが適するといえる。特に、土壌硬度が高くち密な土壌では、根の伸長や作業性を向上させる
ため、積極的に土壌改良を行う必要があるが、この場合には腐熟が進行したC/N比が20程度の肥料
養分の少ないたい肥が適している。また、ダイコンの単価が安く、1戸当たりの作付面積が多いこ
とから安価であることと施用労力の軽減などの問題からペレット化も求められる。また、施肥設
計のし易さからは、成分バランスのとれた資材が適しているといえる。
なお、たい肥の施用方法に関して 未熟なたい肥を播種直前に施用すると障害が発生しやすい
ので、基肥は播種1∼2週間前までに施肥、耕起して十分砕土する。なお、ダイコンは地力窒素を
吸収する割合が多いことから、たい肥施用に伴う障害を防止するため、当該作ではなく、前作に
十分たい肥を施用して地力を向上させておくという考え方もある。
28
(2)てんさいを含む輪作
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★
★★★
★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①大規模畑作経営におけるてんさいを含む輪作とたい肥施用の現状
北海道では30haを超える経営面積に、主にてんさい、バレイショ、豆類、小麦を作付けする大
規模畑作経営が道東を中心に営まれている。
畑作では輪作は必須であり、主要な4作物を、
てんさい→豆類→バレイショ→秋まき小麦の
順で作付けするのが輪作のモデルとなってい
る。このうち、たい肥の散布について、バレ
イショはそうか病の懸念があるため、秋まき
小麦については播種前に時間的な余裕がない
ことから散布されないことが多い。
したがって、たい肥は主にてんさいと豆類
移植後のてんさい畑(北海道十勝地方)
に散布される。この2作物では多収を得るために生育後期にも窒素の供給が必要であり、たい肥
の施用効果が得られやすい作物とされる。てんさいの多収農家ではたい肥の施用に積極的に取り
組んでいるケ−スが多い。
春には短期間で広大な面積の播種作業をこなす必要があるので、たい肥散布は主に晩秋に行わ
れる。散布量は2∼5 t /10 a程度であり、散布後降雪前にプラウで鋤込まれる。
農家のたい肥は牛ふん尿に廃ロ−ル、麦稈などが主な敷料として混合される。肉牛のたい肥に
はバ−クが敷料に用いられることが多い。バ−クたい肥は、畑作農家のたい肥盤でさらに腐熟期
間を経てから施用されることが多い。
なお、北海道の施肥標準(北海道施肥ガイド(平成14年))では、水稲、畑作、園芸、施設、草
地の作目別にたい肥施用量の基準値を示している。畑作では地力維持のためにてんさい、小麦の
収穫残さを鋤込んだ上で毎年1 t /10 aのたい肥施用が必要とされる。たい肥を施用した場合には化
学肥料の施用量を減らすことが必要となる。たい肥を分析して減肥量を決めることが望ましいが、
分析できない場合はたい肥 1 t 当たり、窒素1kg、カリ4kgを減じる。リン酸は減肥の対象としない。
たい肥を長年多量に施用すると、土壌から供給される窒素量が増える。3 t /10 aを超えるたい肥
を数年間連用したところ、作物が無い時期の地下浸透水中の硝酸態窒素濃度が環境基準の10mg/リ
ットルを超えることがあった。このため、たい肥の連用条件での施用上限値を3 t /10 aとしている。
また、10月初旬以前にたい肥を施用した場合には、まだ地温が高いためたい肥が分解し無機化す
るが、その際に硝酸態窒素が生成する。硝酸態窒素は流亡して水系への負荷源となるので、たい
29
肥の施用を地温が下がる10月中旬以降にすべきとしている。
なお、たい肥の施用量について北海道では大型のマニュアスプッレダーで散布するので、正確
に施用基準に示す1 t /10 aを毎年施用することは実際には困難であり、施用量の振れ幅が大きい。
現実的には輪作体系の中で、1年に平均して1∼3 t /10 aのたい肥施用を目標とすることが、地力
維持のために望ましい姿である。
②たい肥に期待されている効果は
たい肥は、粗大有機物として土壌の粗孔隙を増やす働きをする。また、微生物のエサとなるた
め、土壌団粒の形成が促進される。これらの結果、土壌の物理性が良くなり、根張りが改善され、
肥料分や水分の吸収が円滑になる(図1−15)。このため、施用された肥料の利用効率が高まるば
かりでなく、干ばつなどに対するストレス耐性も高まる。また、砕土性が良好となり、播種精度
や収穫時の作業性の向上をもたらす。こうしたことは、大規模畑作では特に重要であり、たい肥
に期待されるところである。
③てんさいにとって好ましいたい肥とは
てんさいは、生育後期に窒素が過剰に効くと
糖分の蓄積を妨げる。そのため、たい肥の窒素
成分が特別に高いものである必要はなく、標準
的なもので十分である。
大規模畑作ではてんさいと豆類にたい肥を施
用する例が多いが、たい肥は畑作4品を生産する
耕地の地力を維持、向上させるために施用され
る。その前提で望ましいたい肥の特性として特
に強調したい点は以下の通りである。
ア.価格が安い
生産資材であるたい肥は値段が安いほど、使う側にとっては有利であるが、単位面積当たりの
利益の少ない畑作では特に価格の点が重要となる。
たい肥の購入価格を考える上では、たい肥施用による増収効果がポイントとなる。たい肥を連
用とすると、てんさいが増収するとともに物理性の改善効果から輪作に含まれるバレイショ、秋
まき小麦でも増収が得られると想定される。たい肥施用に積極的に取り組む農家の経験からもて
んさい、豆類にたい肥を施用することによって、他の作物の増収や土壌物理性の改善による作業
性の向上効果が得られている。
地域の条件によっても異なるが、たい肥連用時のてんさい、豆類の増収率を10%、小麦、バレ
イショを5%とすると、4年間の単收増による粗収益増は約26,000円/年と見積もられる。たい肥の
価格を1 t 当たり3,000円、6 t で18,000円(てんさい、豆類に3 t /10 aづつ施用)とすると、差額
30
8,000円となり、経費を差し引いても僅かながら利益が出る。また、たい肥3 t /10 a程度の単年度施
用で得られる増収による収益増の場合で見積もると、t 当たり1,500円程度が収支の釣り合う価格と
試算される。
以上から、たい肥施用による増収に伴う収益増に見合うたい肥価格という点からのみ見てみる
と、1 t 当たり1,500∼3,000円が使う側からの妥当なたい肥価格と試算される。(上記の単收などの
試算は「北海道農業技術体系、第2版、平成12年」を参照)
イ.成分が安定
てんさいにたい肥を10 a当たり3 t 施用したとすると、平均的なたい肥であればたい肥無施用に対
して窒素3kg、カリ12kgを減肥できる。土壌の交換性カリが診断基準値程度の場合には、カリ施用
量に多少誤差が生じても収量に大きな影響を及ぼさない。一方、たい肥から供給される窒素が予
測よりも著しく多かったり、少なかったりする場合には、作物の収量、品質に大きな影響を及ぼ
す。10 a当たり1∼2 t /10 a程度のたい肥施用では誤差は大きくないが、たい肥を積極的に活用しよ
うとすれば、たい肥の成分が常に安定していることが求められる。
ウ.そうか病を発生させない
てんさいの前作にたい肥を施用する場合でも、輪作に組み込まれる他の作物への影響を考慮し
なければならない。生食用バレイショは、畑作の中では収益性の高い作物である。しかし、バレ
イショそうか病が多発する場合には生食用として販売できない。そうか病はy1(y1は交換酸度と
も呼ばれ、土壌の活性なアルミの指標である)の低い土壌で多発する。たい肥はアルミの活性を
抑えるのでy1(交換酸度)を低下させる。特にバ−クたい肥はy1(交換酸度)を低下させる程度
が大きく、その影響が数年間継続する。道東の畑作地帯ではy1(交換酸度)が低いことが多いの
で、バ−クなど木質系材料の混入率がなるべく低いたい肥を用いることが望ましい。
31
(1)トマト
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★★
★
★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①トマトの特性と栽培管理
トマトは、キュウリやナスなどと同じ果菜類に属し、生食用、加工用として広く一般消費者に
好まれている野菜である。生育の適温は日中で25∼28℃程度であり、豊富な日射量を必要とし、
日長も長い方が良いため、栽培は比較的暖かい気候の関東や九州地方が中心であるが、ハウス栽
培の普及により現在では全国各地で栽培されている。
トマトは、根の発達が旺盛で、大部分が横60∼90cm、深さ1∼1.2m以内に広く分布している。土
壌条件は、通気性、保水性ともに富む壌土が最適であるが、砂質土から粘質土まで適用性は広い。
作型は、地域によって生育期間に多少違いは見られるが、促成栽培、半促成栽培、抑制栽培に
大きく分けられる。作型によって生育期間中の温度条件や日照時間は大きく異なるため、これに
応じて異なる栽培管理法が組み立てられている。しかし、いずれの作型においても草勢を常に維
持することが栽培のポイントである。
トマトは、長期間にわたる栽培であり、安定した収穫を行うためには草勢を維持することが肝
心である。草勢に最も深く関係する根の状態を気遣いながらの管理こそが決め手である。特に、
最近の高糖度トマト生産の目的で行われる節水栽培等に見られる根を虐めるような栽培法では、
水分や塩類などの各種ストレスに耐えられる強い根を長期間確保する必要がある。
このように、トマト栽培における土づくりの目標は根系を発達させることが技術の基本であり、
土づくり資材としてのたい肥の利用価値は高い。
②トマト栽培で利用されるたい肥の現状
従来トマト栽培では稲わらたい肥やバークたい肥など禾本科植物や木質資材を原料としたたい
肥が好まれている。これは、トマト栽培が上述のとおり草勢を維持するための根域環境を良くす
るための土づくりが中心であることに他ならない。根域を広くし、強い根を作るために深耕と稲
わらたい肥や野草たい肥等の有機物を施用して、高収量のトマトを生産している事例も各地で見
られている。
しかし、最近では家畜ふんに由来するたい肥の利用も多く見られるようになってきている。身
近にある有機性資源であることや安価であることなどがその理由である。
作物生産農家を対象としたたい肥利用に関するアンケート調査(熊本県)によれば、トマトを
はじめとする果菜類栽培農家によるたい肥の利用割合は高く、メロン及びスイカを含めた3品目
32
で全体の作物生産農家の約半数を占める。好まれるたい肥は牛ふんたい肥であり、牛ふんと他の
家畜ふんとの混合利用を合わせると9割近くに達する。混合の理由は、大量に利用する野菜生産
農家からの要望に応じてのものである。鶏ふんたい肥及び豚ぷんたい肥の利用は比較的少ない。
作物生産農家が使用する際の基準は完熟であることが全体の55%と半数以上を占め、価格がこ
れに続く。成分表示や粒状化を求める意見も少なくない。
以上のように、トマト栽培農家で利用される家畜ふんたい肥としては牛ふんたい肥が圧倒的に
多い。副資材としてはオガクズあるいはモミガラが主体である。選択の基準は「完熟」と「安価」
であるが、「成分表示」や「粒状」を求める声も大きい。
③たい肥に期待されている効果
トマトについては特にたい肥の土壌改良効果が期待されている。トマト栽培におけるたい肥の
施用量は地域や作型によって変動するが、2 t ∼5 t /10 aが一般的であり、化学肥料が併用される。
このようにたい肥を土づくり資材として考え、肥料として余り重視されないのはトマトの各生育
段階における養分吸収、特に窒素吸収量を
満足するよう供給させるのは難しいからで
ある。仮に春先に定植して夏にかけて収穫
される半促成トマト栽培において、化学肥
料の代わりに最も利用されている牛ふんた
い肥を生育に必要な量を基肥として施用す
ると、施用量は10 a当たり44 tと莫大な量に
なり、化学肥料に比べて生育初期に多量の
窒素が供給されるパターンとなるため正常
な生育は保証できなくなる。これに対して、
図1− 16 夏秋トマトの窒素吸収とたい肥からの窒素供給
牛ふんたい肥を土づくり資材として10 a当
たり3 t、化学肥料を窒素として15kg基肥施用すると、第2∼3果房の果実が収穫される生育前半に
おいて、トマトの生育にとって好ましい窒素供給が約束される。それ以降は、化学肥料等の追肥
を主体とする施肥管理によって草勢が維持されている。
この例からもわかるように、トマトの健全な生育と安定した収穫を確保するには、牛ふんたい
肥を土づくり資材として施用し、化学肥料で養分供給を補う施用がトマトの安定生産にとって欠
かせない技術となっている。
④トマト栽培にとって好ましいたい肥とは
以上のように、トマト栽培では根の活性を維持向上させるため、たい肥には「土壌改良効果が
大きい」ことが望まれており、それに沿ったものとして牛ふんたい肥が好まれている。この場合、
副資材としてはオガクズやモミガラが主体である。さらに、成分組成に偏りが少なくて「腐熟度
が高いこと」が重要である。
33
トマト栽培農家が求めるたい肥はオガクズ牛ふんたい肥、あるいはモミガラ牛ふんたい肥であ
り、たい肥の品質としては「土壌改良効果が大きいこと」が第1である。これらはいずれもC/
N比が比較的高く、牛ふんとの混合によって製造されたたい肥が土壌を柔らかくしたり水分保持
を良好にしたりする根にやさしい資材である。
もう一つ重要な点は、「腐熟度が高い」ことである。トマトを良好に生育させ安定した収量を実
現するためには、たい肥から窒素を始めとする余分な養分供給が生じない方が好ましい。
また、同じほ場での連作が余儀なくされているトマト栽培においては、たい肥の多投や連用は
土壌中に特定の養分、たとえばカリなどが集積する恐れが高い。これを防止するためにも腐熟度
が高くカリの含有量が多すぎない等成分組成バランスが良いことも重要な条件である。
トマトの栽培
34
(2)メロン
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★★
★
★★
★★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①メロンの特性と栽培管理
メロンは、果菜類の中でもイチゴと同じように果実的野菜と呼ばれるもので、主に生食用とし
て栽培されている野菜である。生育の適温は比較的高く、豊富な日射量を必要としているが、ハ
ウスを利用した加温栽培の普及により全国各地で栽培されている。
メロンは根の発達はやや貧弱で、過湿害を受けやすい。最適な土壌条件は通気性、保水性とも
に富む壌土から埴壌土である。
栽培様式は立体栽培と地這い栽培の2つに分けられるが、作型は温度条件によって促成栽培か
ら抑制栽培まで広く、周年栽培も可能である。作型によって播種から収穫までの栽培期間は4∼
5ヶ月であることから、トマトなどと同様に草勢を常に維持することが重要である。
メロン栽培は光合成を行う茎葉をしっかりと作る前半と果実肥大と糖度アップを図る後半の2つ
の異なる生育ステージからなる。メロンは特に高品質であることが望まれるため、栽培管理のポ
イントは、草勢は後半まで落ちないこと、水分や塩類などの各種ストレスに耐えられる強い根を
確保することである。よって、メロン栽培における土づくりの目標も他の果菜類と同様に根系を
発達させることであることに違いはない。
②メロン栽培で利用されるたい肥の現状
メロン栽培における家畜ふんたい肥の利用は比較的多い。これは、元来メロンの窒素吸収量は
低く、化学肥料のように急激に肥効が現れることがメロン特有の生育特性や養分吸収特性に不適
であることがその理由である。
メロン栽培農家に対するアンケート調査の結果では、牛ふんたい肥の施用割合が高く、施用量
も10a当たり1∼8 t と幅広く施用されている。また、メロン栽培農家がたい肥に求めるものは、
「完
熟」であるが、「肥料効果」や「成分表示」などを要望する生産農家も少なくない。
③たい肥施用に期待する効果
メロン栽培におけるたい肥の施用量は地域や作型によって変動するが、1∼5 t /10 aが一般的で
あり、これに有機質肥料を主体とした施肥が行われる。これはメロンの生育特性と深く関係して
いる。メロンは生育前半で茎葉を作り、交配後果実を肥大させながら糖度など品質を向上させる
栽培を行う果実的な野菜である。施肥のポイントは基肥中心とし、メロン果実の糖度が高まる成
熟期に過剰の窒素を土壌に残存させない養分管理にある。
35
メロンにおけるたい肥施用の意義を明確にするため、9月定植のアールスメロン抑制栽培の例で
メロンの窒素吸収とたい肥施用量との関係をシミュレーションしてみる。この作型におけるメロ
ンの窒素吸収は開花期前から急激に増加し、果実肥大期∼成熟期ではほとんど増加しないパタ−
ンとなる。これに必要な窒素吸収量は21kg/10aであるが、多く用いられている牛ふんたい肥の施
用では24.6t/10aが必要となる。しかし、
この施用量では、土壌に余分な窒素が
残ってほしくない成熟期に5kg/10a以上
の窒素が残存するなど果実品質の低下
が避けられない。これではメロンがい
くら有機物主体の施肥法を好む作物と
いっても適正な施用法とはいい難い。
メロンを健全に生育させ、高品質果
実を生産するためには、牛ふんたい肥
図1− 17 アールスメロンの窒素吸収とたい肥からの窒素供給
と一般的に使用される有機質肥料(菜
種油粕など)を用いて現行の施肥基準に従う施用が最も適している。これにより、窒素供給量と
吸収量は比較的よく一致し、収穫後土壌中に残存する窒素量も低く推移する。
この例からわかるように、メロンの健全な生育と安定した収穫を確保するには、牛ふんたい肥
を土づくり資材として施用し、有機質肥料で養分供給を補うことがメロンの安定生産にとって欠
かせない。この場合の有機質肥料は市販の菜種油粕などに代えて、肥料成分の多い発酵豚ぷんや
発酵鶏ふんを代用することができる。
④メロン栽培にとって好ましいたい肥とは
以上のように、メロンにとって好ましいたい肥の条件としては、「土壌改良効果が大きいこと」
と「腐熟度が高いこと」である。
一つは「土壌改良効果が大きいこと」である。メロン栽培では、生育前半では草勢を落とさな
いような栽培管理、後半は節水栽培など根の活力を高く維持することが重要であり、いわゆる完
熟した牛ふんたい肥の施用による保水性や土壌の柔らかさなどを維持向上させる土づくりを行わ
なければ高品質メロンの生産は不可能である。特に透水性が悪い粘質土壌で求められる条件であ
る。副資材としては、土壌改良効果を高めるためにオガクズやモミガラが適当であるが、これに
代えて地域に豊富にあるC/N比が比較的高い木質系の素材の利用も可能である。いずれも牛ふん
との混合により製造されたたい肥は土壌を柔らかくしたり水分保持を良好にしたりする土壌改良
効果が高いたい肥である。
「腐熟度が高いこと」は、メロンに限らず果菜類に共通して重要な条件である。牛ふんたい肥の
成分的特徴として、窒素含量に比べてカリ含量が高い。このため牛ふんたい肥の多投や連用によ
って土壌中に過剰に集積されたカリは、メロンが品質形成にとって重要なカルシウム等を吸収す
る際にこれらの養分の吸収を阻害しやすい。完熟したものでカリ含量が多すぎない等成分バラン
36
スが良いたい肥であることは高品質メロンの生産にとって重要な条件である。
これに加えて、「肥料効果」を付与したたい肥製造もメロン栽培においては好ましい。メロンは
元来有機主体の施肥体系であり、化学肥料を控える傾向が強い。このため、例えば牛ふんと鶏ふ
んあるいは豚ぷんなどをブレンドしたたい肥は、メロン栽培にとって利用しやすいものであると
考えられる。この場合ブレンド技術のポイントは、窒素含量とカリ含量のバランスを保つことで
ある。
アールスメロン
立体栽培
37
(1)ピーマン
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★
★★★
★
★★★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①ピーマンの特性と栽培管理
ピーマンは、ナス科に属する1年生草本であり、家庭の食卓に身近な緑黄色野菜として広く消費
されている果菜類である。中南米アメリカ原産であるため、果菜類の中ではナスなどと同様に高
温性で、生育適温は高く冬季でも18℃を保つ必要がある。また、35℃以上では品質が極端に低下
する。豊富な日射量を必要とし、日長も長い方が良いため、栽培は暖かい気候の九州南部地方が
中心であるが、ハウス栽培の普及により現在では全国各地で栽培されている。
ピーマンは多くの水分を必要とするが、多すぎると生育阻害、立枯れ性の病害が多発する。こ
のため、土壌条件は通気性、保水性に優れた埴壌土∼壌土が最適である。
作型は、促成栽培、半促成栽培及び夏秋栽培に大きく分けられる。作型によって生育期間中の
温度条件や日照時間は大きく異なるため、これに応じて異なる栽培管理法が組み立てられている。
ピーマンの窒素施肥量は通常30kg/10a以上と他品目に比べて多い。これはピーマンが肥効不足
によって品質及び収量低下が生じやすいためである。旺盛な養分吸収を満たすことが出来る草勢
管理こそが栽培上のポイントである。このため、根の活性が長期にわたって維持できるような土
壌管理を行う必要がある。
このためには、根系を発達させ養分吸収を長期間持続的に維持できる土づくり技術が基本である。
②ピーマン栽培で利用されるたい肥の現状
ピーマン栽培では、根系を発達させるため稲わら等の粗大有機物の施用や深耕による通気性や
透水性を良好にするための土づくりは慣行として行われている。さらに、家畜ふんたい肥の利用
は盛んである。これは、ピーマンの草勢を維持するための根域環境を良くすることや養分供給を
持続的に行う上で家畜ふんたい肥の施用効果が高いことに他ならない。根域を広くするための深
耕と根の活性を促進するための家畜ふんたい肥の施用によって、高収量を維持する事例は多い。
使用されるたい肥は牛ふんたい肥が身近にあるという理由で多いが、養分供給の面から鶏ふんた
い肥及び豚ぷんたい肥を好んで利用する農家も少なくない。施用量は牛ふんたい肥は 3 ∼5 t /10 a
であるが、5 t /10 aを超える施用量も珍しくない。鶏ふんたい肥や豚ぷんたい肥は1 t /10 a以下で
あるが、窒素成分量を考慮した施用が行われている。
以上のように、ピーマン栽培農家では家畜ふんたい肥は広く利用されている。選択の基準は
「完熟」
、「肥料効果」であるが、果実の品質面から肥料成分のバランスを求める声も大きい。
38
③たい肥施用に期待する効果
ピーマンの収量、品質維持のためには養分供給を潤沢に行うことが重要である。これにより、
茎葉が大きくなりながら果実が肥大するピーマンの生育特性を満たすことができる。このため、
ピーマンに対する施肥基準は、いずれの肥料成分とも高く設定されており、生産現場でのたい肥
利用は盛んである。この理由は、ピーマンによって吸収される養分は、化学肥料よりもたい肥や
土壌から供給される割合が非常に高いためである。
たとえば、夏秋ピーマン栽培において、毎作5 t /10 aのモミガラ牛ふんたい肥が施用され、土壌
窒素が高められた黒ボク畑
ほ場では、たい肥が連用さ
300
tha−1
250
れていないほ場に比べて、
化学肥料を施肥基準から大
幅に減肥しても高品質ピー
200
150
マンを安定して収穫できる。 100
これは、ピーマンの健全な
50
生育と安定した収穫を確保
するには、牛ふんたい肥等
家畜ふんたい肥を施用して、
0
標肥
標肥
低地力
土壌地力を増強することが
2割減 5割減
中地力
標肥
標肥
低地力
2割減 5割減
高地力
図1−18 地力の違いとピーマンの収量
安定生産にとって欠かせな
い技術となっていることを意味している。
④ピーマン栽培にとって好ましいたい肥とは
以上のように、ピーマン栽培では根の活性を維持するための「腐熟度が高いこと」と肥料成分
を供給するための「肥料効果が大きいこと」が好ましいたい肥に求められている主な条件である。
ピーマン栽培において牛ふんたい肥の多投や連用によって土壌中に過剰に集積されるカリは、
トマトなどと同様にピーマン果実の尻腐れ果などの発生を助長する。これは蓄積したカリがカル
シウム等の吸収を阻害するためである。「腐熟度が高いこと」は、長期間栽培されるピーマンの根
の活性を持続させる効果が高く、成分組成も絶えず安定した良質たい肥であることを意味してお
り、ピーマン栽培にとって欠かせない条件である。
ピーマンやナスのように生育期間を通して養分吸収が盛んな野菜にとって収量だけでなく品質
を確保する上で、「肥料効果が大きいこと」は重要な条件である。牛ふんをベースとしたたい肥で
は肥料効果は比較的小さいので、ピーマン栽培では豚ぷんや鶏ふんを原料として「肥料効果の高
い」たい肥も生産農家に比較的好まれる条件である
39
(1)ホウレンソウ
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★★
★
★★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①ホウレンソウの特性と栽培管理
ホウレンソウは、緑黄色野菜の王様として家庭の食卓に欠くことができない食材である。ホウ
レンソウはアカザ科の植物で低温を好む野菜である。生育適温は15∼20℃で、10℃くらいまでの
低温でも生育する。しかし、25℃以上の高温になると急に生育は悪くなる。
土壌条件は適度の保水性があれば種類を選ばないが、酸性の土壌には極めて弱い。黒ボク土な
ど酸性が強い土壌では、pHを6.0∼7.0の微酸性になるように矯正する必要がある。
栽培法は、雨よけ栽培と露地栽培の2つに大別される。地域や気象条件によって栽培法は異なる
が、適当な品種をうまく組み合わせることによって、周年栽培がほぼ可能である。ホウレンソウ
の生育期間は、30∼60日と幅はあるものの比較的短く、根部の発達も旺盛で、直根は数10cmにも
及び細根量も多い。高品質ホウレンソウを栽培するポイントは、肥料や水が生育に応じて十分に
吸収させることである。すなわち、根が発達しやすいように作土が深く保水性や排水性を良好に
するため、たい肥を利用した土壌物理性を好適にするための土づくりは欠くことができない要件
となっている。
②ホウレンソウ栽培で利用されるたい肥の現状
ホウレンソウは、比較的根の発達がよい作物であり、収量や品質保持のためたい肥施用は盛ん
に行われている。施用されるたい肥は牛ふんたい肥が多いが、年間施用量は1∼2 t /10 aと案外少
ない。これは1年間を通して栽培されるホウレンソウでは、たい肥の連用や多投は含まれる肥料成
分の土壌集積が生じやすいためである。
生産現場で利用されているたい肥は、主に牛ふんたい肥である。副資材はオガクズやモミガラ、
あるいは近隣で入手可能な粗大有機物などあまり問われない。「完熟」であることが施用に当たっ
て生産農家が評価する点である。さらに、周年で栽培されることが多いホウレンソウ栽培では、
ほ場での肥料成分の集積が最近問題視されてきており、肥効が発現しやすい鶏ふんや豚ぷん等の
たい肥も含めて「成分組成」が安定していることが強く求められている。
③たい肥施用に期待する効果
ホウレンソウは、播種直後においては乾燥によって生育不良が発生しやすく、生育後半におい
て過剰な水分は根活性の衰えによる湿害を受けやすくなる。一方、ホウレンソウは耐肥性が強く
40
比較的多肥を好む作物であるが、土壌のECが1.5mS/cm以上になると発芽障害、生育障害を起こし
やすい。特に、肥料成分のうち、窒素の存在形態はホウレンソウの生育に強く影響し、アンモニ
ア態窒素が硝酸態窒素よりも多い場合生育不良や栄養障害を受ける。
このような生育特性を示すホウレンソウに対するたい肥施用は、土壌の養分保持力、保水性や
排水性など土壌物理性を高め根の生育を良好にすることが第1のねらいである。これに加えて、肥
料成分としてだけでなくたい肥等有機物として施用された窒素が速やかに硝酸態窒素へ変わるよ
うに、土壌中に生息する有用土壌微生物(硝酸化成菌など)の働きを健全化することも施用効果
として期待されている。
④ホウレンソウ栽培にとって好ましいたい肥とは
以上のように、ホウレンソウ栽培にとって好ましいたい肥の条件は、「腐熟度が高いこと」が重
要である。また、「取扱性が良いこと」も望ましい条件と考えられる。
たい肥の「腐熟度が高いこと」は、ホウレンソウの生育にとって望ましい土壌環境を作るため
に最も重要な条件である。土壌に適度な保水性や排水性を与え、肥料成分を流さず保持するため
に適した状態にするためには完熟したたい肥の施用は不可欠である。また、生育前半における養
分の過不足は発芽や発根の阻害だけでなく、生育後半までに強く影響し収量や品質低下を引き起
こすため、肥効が現れにくい完熟であることが好ましい条件である。さらに、窒素の供給源とし
て硝酸態窒素を好むホウレンソウでは、肥料やたい肥として施用された有機態窒素やアンモニア
態窒素を速やかに硝酸態窒素に変換してくれる土壌中の有用微生物群を増やす効果は完熟たい肥
でなければ成し得ないものである。
「取扱性が良いこと」は、栽培面積が比較的広く、また次作との期間が短いため播種期や収穫期
などに労働が集中するホウレンソウ栽培においては、農作業の省力化を図るために必要な条件と
考えられる。
41
(1)キャベツ
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★
★★★
★★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①キャベツ生産に求められていること
キャベツは、代表的な土地利用型の重量野菜であり、生食から加工まで用途が極めて広い野菜
である。年間を通して一定した需要があり、季節によって生産地が移動するリレー生産が行われ
ている。比較的栽培しやすく、1経営体当たりの栽培規模が大きいことや、契約栽培等の形態を
とって栽培されることが多いことも特徴である。他の土地利用型の農産物と同様に、生産過程全
般に亘って省力的で低コストであることが求められる。生食することも多いため、化学合成農薬
や化学肥料の使用量を減らした栽培への要望が強い。また、健康との関係から作物体内の硝酸イ
オン濃度を低くする動きも高まっており、適正施肥による環境に配慮した生産が求められている。
②キャベツの栽培特性
キャベツは、2∼4ヶ月程度の短期間で4∼7 t /10 aもの生育量となり、吸収する養分量も比較的
多い品目である。外葉の大きさによって商品である結球部の大きさや重量、形等が決められるの
で、初期生育が順調に行われて外葉の大きさを確保することが重要である。地力窒素の吸収量は
比較的少なく施肥窒素が不足すると減収程度が大きい品目である。乾燥などある程度の悪条件に
は耐える性質を持っており、比較的栽培しやすい品目である。やや低温を好む特性があり、夏作
の果菜類やダイコンなどとの輪作品目として非常に重要である。一方、高温は苦手な品目であり、
夏期には冷涼な北日本や高冷地での栽培が中心となる。一方、九州など西南暖地におけるキャベ
ツの主な作型は年内どり、年明けどり、春どりが中心である。
キャベツの養分必要量は、面積当たりの作付け株数などにより違うが、最近は収量増をねらい
株数を増やしておりその分必要量も多い。玉重で1∼1.2kg/玉を中心として、栽植密度が5,000∼
6,000本/10aで収量5∼6 t /10 aの場合、窒素吸収量は20∼25kg/10 aとなる。
表 1 − 14 野菜の養分吸収量(速水、松村から抜粋)
作物
42
目標収量
(kg/10a)
養分吸収量(kg/10a)
キャベツ
4,750
窒素
20
ハクサイ
5,650
24
8
25
13
3
タマネギ
4,620
9
4
12
5
2
リン酸
6
カリ
23
石灰
19
苦土
3
また、キャベツは結球開始期以降の土壌の乾燥などで、芯腐れ症と呼ばれるカルシウム欠乏を
引き起こしたり、土壌病害の一つである根こぶ病の被害が発生したりしやすい。従って土壌中に
養分が十分含まれていることはもちろんであるが、養分や水分の供給がスムーズに行われるよう
に作土層が深く、過湿や過乾燥を招きにくいことも求められる。
③キャベツ栽培で利用されるたい肥の現状と期待されている効果
キャベツには根こぶ病以外にはそれほど決定的な土壌病害はないし、地上部を収穫する品目で
あるので、たい肥の腐熟度に対しての要求性はそれほど高くはない。実際の栽培現場においても、
ハンドリングに特段の問題がないものであれば中熟程度のものでも活用されている。
キャベツは前述したように地力窒素からの窒素供給はそれほど大きくない上に生育初期からあ
る程度窒素を効かせて、外葉を順調に生育させることが収量確保に重要である。農家に対するア
ンケート調査結果からも、たい肥に対して期待することは .増収 .土が締まらないため
.品質向上 という順位になっており、総合的な収量の安定効果が期待されていると考えられ
る。
一方、九州など西南暖地の露地畑では有機物の消耗が激しく、痩薄な土壌が多いため、物理性
の改善を主目的にたい肥は有機物の補給資材として長年施用されてきている。
年明けどり以降は低温期に窒素不足が起こると結球部にアントシアンが発生し品質低下を招く。
特に根群域が狭いと生育後半の窒素不足となりやすいので、たい肥施用による根群域の確保と地
力向上が重要となっている。
キャベツの面積当たりの所得は、それほど高くない品目であり、たい肥に充てられる経費とし
ては1万円/10a程度までと考えられる。時間をかけて完熟させた品質の良いたい肥でも、高価で
あればキャベツには施用されにくいことになる。一方、たい肥中の肥料成分を考慮した施肥設計
で1万円/10a程度の肥料費を削減し慣行並の収量・品質が得られた事例も報告されていることか
ら、完熟ではなくとも、安価で肥料成分を豊富に含むたい肥が提供されれば、経営的にもメリッ
トが生まれる可能性がある。事実、神奈川県の三浦市農協などでは、たい肥中の肥料成分を考慮
した施肥設計を取り入れたキャベツ生産が広く行われている。
また、キャベツは消費者からの減化学肥料栽培の要望が強い品目でもある。化学肥料からの窒
素を減じてなおかつ収量を確保するためには、窒素肥効の高い肥料として活用できるたい肥が求
められる。また、キャベツ栽培の多くは露地栽培で無マルチで行われることからたい肥中の雑草
種子が死滅していることも重要である。
④ キャベツ栽培にとって好ましいたい肥とは
圃場に2∼5 t /10 a程度施用する、いわゆる土づくり資材としてキャベツ栽培農家がたい肥を施用
する場合を考えると、望ましいたい肥とは安価でハンドリングに問題がなく、肥料成分を豊富に
含んでいるなどの条件を満たしていることが重要である。また、安価であることが重要であるの
で、必ずしも完熟までの品質は求められることは少ないし、畜種等に特段のこだわりは少ないと
43
考えられる。たい肥の価格はキャベツの単位面積当たりの収益性も高くないので10a当たり1万円以
下であることが望ましい。
雑草種子は死滅している必要があり、65℃以上の発酵温度を経過していることが必要である。
一方、肥料としてたい肥を施用し、化学肥料を減らした栽培を実施する場合には、含まれる窒
素の濃度が出来る限り高く、速効的な性格を持つものが望ましい。現在よりも窒素濃度が高く、
肥効の高い資材が開発普及すれば、相当利用される可能性のある品目であると考えられる。この
場合、ブロードキャスターで散布できるようなペレット状、あるいは粒状の資材で水分が低いこ
とも重要である。
混住地帯等で栽培される場合には、臭いの低減や篩別によって粉塵画分を除くことも求められ
る。特に、九州など西南暖地では物理性の改善を主目的とすることから、稲わらやモミガラなど
を副資材に含む牛ふんたい肥が好まれる。また、夏期に比較的大量に散布するため、風による飛
散や悪臭の原因とならない品質であることが求められる。
キャベツの栽培
44
(1)りんご(寒冷地果樹)
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★★
★★
★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①りんごの特性と栽培管理
りんごは、秋から冬にかけての代表的な果物で、その赤い色と甘さから幅広い年代に好まれて
いる。おいしさとともに、別名「医者いらず」ともいわれるように、高血圧の予防や整腸作用な
ど機能性も注目され、健康志向のブームとともに根強い人気がある。
りんごの栽培適地は、年平均気温が6∼14℃で、4∼10月の平均気温が13∼21℃、夏期の平均気
温が26℃を越えず、冬期の平均気温が−10.5℃以下にならない地域とされ、東北各県や長野県が代
表的産地である。
りんごは、露地での立木仕立てで栽培され、樹齢は普通栽培では30∼50年に達し、中には80年
を越えるものもみられる。長年にわたる栽培で、品質の良い果実を毎年安定的に生産するために
は、充実した花芽の確保と適切に樹勢を維持することが重要である。このため、春の開花、結実
後には、摘果して樹体の着果負担を軽減したり、冬期の整枝、せん定作業で日当たりの良い結果
枝を確保して、良品な果実の生産と良好な花芽形成を促す管理が行われる。
りんご栽培では、根系になる部分に専用品種(台木)が使用され、マルバカイドウや各種のわ
い性台木が利用される。りんごの適応土壌は、台木の特性によるところも大きいが、土壌条件と
しては、通気性、排水性が良好であること、地下水位が1m以下であること、根の分布できる土層
が60cm以上あることなどが上げられる。
②りんご栽培でのたい肥利用の現状
秋田県内のりんご産地の多くのたい肥センターでは、家畜ふんにモミガラやオガクズ等の副資
材を混合したたい肥を製造しており、りんご栽培においても身近にあって入手しやすい上、軽く
て施用しやすいことから一部の園地で利用されている。県内のりんご園で利用例が多いのは、鶏
ふん(乾燥鶏ふん、発酵鶏ふん)で、施用量は10a当たり100∼200kgになっている。窒素肥料とし
ての効果と有機物補給をかねて施用されるが、粒状で撒きやすいことも利用の多い理由と考えら
れる。
一方、オガクズたい肥など原料に木質系の資材を多く含むたい肥は、土壌病害の紋羽病(写真)
の罹病を助長する恐れがあるためりんご園ではあまり利用されない。今のところ、どの程度腐熟
していれば病害に影響がないのか明確な知見がないので、果樹園で利用する資材としては避けた
ほうが無難である。
45
りんご枝に付着した紫紋羽病菌
(秋田県果樹試 佐藤裕氏提供)
(紫紋羽病汚染土壌にりんご枝を半年間埋めた後、枝上に観察された菌糸束 )
③たい肥施用に期待する効果は
りんご園では一般的に草生栽培が行われている。牧草草生では年間に10a当たり500∼600kgの有
機物を供給でき、堆きゅう肥の500kgと同程度の効果がある。たい肥の効果については、青森県の
試験で、樹冠下に10a換算で1,000kg以上の稲わらたい肥を毎年施用すると、土壌中の有機物が増加
したと報告している。りんご園で土壌有機物の年間消耗量は1,000 kg程度とされており、土壌の有
機物水準を維持、または増強するためには、500∼1,000kgのたい肥を毎年施用すればよいことにな
る。
一方、りんご園では、スピードスプレーヤーをはじめ、近年、作業の効率化のため乗用草刈機
や高所作業台車等が導入されており、度重なる機械の踏圧で、土壌がち密化しており、一部の園
地では樹の活力の低下が懸念されている。りんごの根の伸長や活性は、土壌の物理性が大きく影
響するため、団粒化を促進するたい肥の施用と深耕が問題解決のポイントになっている。
また、りんごでは、物理性の改善のために、樹の回りを部分深耕する。成木の場合で、幹から
2m程離れた部分に、幅30cm、深さ40cm程度の穴を数カ所掘ってたい肥を投入する。このような埋
め込み処理でもモミガラたい肥、稲わらたい肥、牛ふんたい肥に改善効果が期待できる。ただし、
施用後に、酸素不足や塩類障害で根の枯死や伸長抑制を招かないようにするためにも、埋め込み
処理に利用する資材は、特に、十分腐熟したもの、また、塩基バランスのよいものを利用する必
要がある。
④りんご栽培にとって好ましいたい肥とは
りんごの施肥管理で最も重要なことは、窒素の過剰な施用をしないことである。夏までの窒素
吸収量が多いと果実成熟が遅れ、地色が青く着色不良な果実の割合が多くなり、生産物の秀品率
が低下する。りんごの年間窒素施肥量は、主要果樹の中でも少ないほうであり、全国平均で10a当
たり12kg程度である。窒素の過剰施用にならないように配慮し、毎年500∼1,000kgの施用する場合
46
には、窒素の肥効が高くないたい肥が適する。県内のたい肥について、肥料分として期待される
窒素の割合を調べたところ、資材により大きな差がみられた。図1−19のように、鶏ふんたい肥
(現物窒素3.5%)は、全窒素分のうち16%は無機態窒素(肥料成分と同じ窒素分)で、土壌中で約
60%まで無機態窒素に変化し、有機質肥料の菜種油かすに近い肥料効果があると推定された。
一方、豚ぷん、牛ふん及びモミガラを原料にしたたい肥(現物窒素1.0%)では、稲わらたい肥、
あるいは牛ふんたい肥などと同様に、比較的C/N比が高く、窒素の肥効が低くて有機物の集積効
果のあるものが適切と考えられる。
りんごは長年同じ場所で栽培を続けることになるので、土壌も長年にわたる管理が要求される。
適切な孔げきがあって空気や水分が通りやすい土壌に、また、養分がバランスよく満たされた状
態に維持し、活性の高い新根の発生を常に促していく必要がある。このため、土づくり効果を期
待したたい肥の利用が求められる。
200
油かす
鶏ふんたい肥
豚ぷん主体のたい肥
牛、豚ぷん+モミガラたい肥
無機態窒素量(mgN/kg乾土)
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
培養日数(日)
図1−19 たい肥の窒素の無機化状況
(2004 年 秋田県果樹試 中澤ら)
(乾土 1kg 当たり窒素 200mg 相当のたい肥を添加し 25℃で培養)
47
(2)ミカン(常緑果樹)
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★
★★
★
★★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①ミカン生産に求められていること
ミカンに対する消費者の嗜好調査結果では、果実の糖度が高いこと(甘いこと)が最も重要な
選択要因の1つである。このため、果実一個一個の糖度を測定して選別する光センサー選果機の産
地の選果場への導入が進められてきた。光センサー選果では出荷物の評価や支払い価格に糖度が
反映されるため、糖度の高いミカンを生産することが、農家経営においても必要不可欠なことと
なっている。
そこで、農家や産地では糖度の高い品種への更新や糖度を高める栽培方法の導入を図ってきた。
温州ミカンにおいては、糖度を高くする技術としてマルチ栽培(写真及び一口メモ参照)が全国
的に増え、平成15年度の導入面積は約6,000haに達した。また、「デコポン」の商品名で有名な“不
知火”(一口メモ)等の味の良い品種の面積も増加している。
また、生産量については、年次変動が大きいことが問題となっている。原因としては、台風等
による短期的な気象要因の影響だけでなく、地球温暖化等の影響も論議されている。しかし、糖
度の高い果実を生産するため樹への負担が大きいことも要因の1つと考えられ、しっかりした樹づ
くりや土づくりも重要であると考えられる。
これらのことから、消費者と農家のニーズを満たすため、高糖度の果実を毎年安定して生産す
る技術の開発や普及が求められている。
傾斜地に開かれた段々畑のミカン園
(段毎に白いシートを敷いたマルチ栽培園地)
不知火(デコポン)の果実
②ミカンの栽培特性は
一口にミカンといっても、品種により特性は異なる。大別すると、年内に収穫する温州ミカン
と花の咲いた翌年の冬から春に収穫する中晩柑類に二分でき、温州ミカンが面積・生産量とも約
80%を占めている。
48
温州ミカンを栽培する土壌としては、痩せて排水の良い方が望ましい。肥料は3月の春肥、6月
の夏肥、10月∼11月の秋肥の3回施用が基本とされているが、収穫時期が早い極早生や早生の品種
では夏肥を行わない産地もある。これは、窒素が遅効きすると、糖度の低下や着色の遅れが心配
されるためである。12月に収穫する普通温州でも秋には窒素肥効がなくなるようにする必要があ
り、夏肥の遅れは禁物である。
中晩柑類は、温州ミカンに比べると肥沃で耕土が深い土壌が適している。着果期間が長いこと
から、温州ミカンの施肥時期に加えて、夏肥と秋肥の間に初秋肥を施用するなど、施肥回数、施
肥量とも多い傾向がある。“不知火”のように樹勢が低下しやすい品種では、年間の窒素施肥量が
30kg/10aを越える事例もみられる。このため、環境負荷を考慮して施肥削減方策が各地で検討さ
れている。
なお、たい肥の施用時期は、温州ミカン、中晩柑類ともにほとんどの産地で2月頃に設定されて
いる。
表 1 − 15 普通温州の施肥基準(園内道設置園)
施肥時期
窒 素
リン酸
カリ
3月下旬
7.0
3.0
4.0
6月中∼下旬
11.0
3.0
10.0
11月上旬
8.0
3.0
6.0
計
26.0
9.0
20.0
たい肥
1,000∼2,000kg/10a
(施用時期2月)
1,000∼2,000kg/10a
注)たい肥を施用する場合には、含まれる肥料成分を施肥量から差し引く
(静岡県土壌肥料ハンドブック第 11 版、鉱質土壌、目標収量 3,000kg)
③利用されているたい肥の現状と期待されている効果は
それぞれの農家や産地では購入が容易なたい肥が用いられている。静岡県ではバークたい肥や
牛ふんオガクズたい肥の利用が多い。
施用目的としては、産地等の施肥基準からみると、土壌への有機物補給による土壌の物理性改
善を図るためであり、施肥代替としての利用は少ない。ミカン園は地表面を裸地化する清耕栽培
が主体であり、中耕等の土壌管理が余り行われないことから、たい肥による土づくりの必要性は
高いと考えられる。しかし、実際のたい肥施用量をみると、多くの施肥基準に掲載されている1∼
2 t /10 aよりも大幅に少ないのが現状である。 静岡県内の21園地を対象に静岡県経済連と共同で行
った調査からは、有機物の年間施用量は平均で110kg/10aと非常に少ない。
施肥の代替えとしてのたい肥施用は、静岡県柑橘試の試験成績でも秋肥代替えであれば温州ミ
カンでも可能と考えられた。しかし、現地での利用は殆ど見られないのが現状である。
④柑橘栽培にとって好ましいたい肥とは
土づくりのためのたい肥施用が中心となることから、土壌改良に効果的なたい肥が好ましい。
もちろん、未熟なたい肥では根を痛め、一度害が出ると回復には何年もかかることから、完熟し
たたい肥であることも必要不可欠な条件である。更に、ミカンは果樹の中では施肥量が多く、環
49
境負荷へ配慮することが望まれていることから、たい肥施用時には肥効を考慮して施肥量を減ら
すことが求められている。そこで、たい肥中の肥料成分の含有率が低く、いつでも安定した含有
率であることが望ましい。
また、実際に農家に用いてもらうには、ハンドリングが良いことも重要である。ミカン園は傾
斜地が多く、重量物であるたい肥の施用は重労働である。傾斜地での運搬には、モノレールを利
用する園地が多いことから、袋詰めされていて運搬や施用に便利な形態でないと、施用しない場
合も多い。袋詰めになると価格が高くなることが難点である。たい肥の重量軽減には乾燥による
水分減量が考えられるが、ミカン園ではたい肥施用後に中耕することがほとんど行われないので、
乾燥し過ぎたたい肥は風や降雨で流れてしまうことがあり、単に乾燥すればよいというわけでは
ない。
温州ミカンでは、窒素の遅効きは果実品質に問題を生ずる。また、土壌分析結果からリン酸や
カリはやや多い傾向にあることから、たい肥の肥料成分は少ない方が好ましい。 実際に柑橘では、
土づくりのためにたい肥を施用する農家が殆どである。このため、オガクズ等の有機物を十分に
含んだたい肥づくりが望まれており、家畜ふん原料としては、牛ふんが最も使いやすいと考えら
れる。豚ぷんを用いる場合には、副資材の割合などたい肥作りを工夫するとともに、肥効の違い
について農家に納得して使ってもらうことが望ましい。
なお、ミカンでは、たい肥の施用時期が限られてくるため、一定品質のたい肥が一時期に集中
して必要となる。また、未熟なたい肥で被害が生じた場合、後年にまで影響が残るため損害は大
きなものとなる。このため、農家や産地との連絡を密にして、たい肥の生産、貯留を計画的に行
う必要がある。
たい肥の製品形状としては、運搬しやすい袋詰めが好まれる。
一口メモ
マルチ栽培:地表面を透湿性のシートなどで覆い雨水を土壌に浸透させない栽培方法。土
壌乾燥により、果実糖度を 1 ∼ 3 度高くできる。被覆期間は主に夏から収穫時期まで。透
湿性の資材は水を通さず水蒸気やガスは通すため、被覆の開閉が不要となることから、導
入面積が多いが、全面に被覆すると 10a 当たりの資材費は 10 万円以上となる(シートは 3
年程度使用可能)。
一口メモ 2
不知火:清見に中野 3 号ポンカンを交配した品種。果実は、特徴的な形から商品名「デコ
ポン」として売られている。糖度が 13 ∼ 14 度と高く食味がよい。着果過多などで樹勢が
低下しやすい。
50
(3)ナシ(多肥型の落葉果樹)
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★★
★★
★
★★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①ニホンナシ栽培の特性と栽培管理
ニホンナシの栽培適地は東北地方から九州地方まで広く分布し、各地に大きな産地が形成され
ている。栽培品種は、代表的な「二十世紀」、「幸水」、「豊水」等に加え、オリジナル品種の育成
も盛んである。
ニホンナシでは棚仕立て栽培が一般的に行われている。ナシ樹の主要根群域は樹冠の広がりに
対応して広く浅く分布しており、水分の要求性が比較的高く、かつ良好な通気性も必要としてい
る。しかし、生産現場では、根群分布域の直上をスピードスプレイヤーなど農作業機械が頻繁に
走行して土壌は固く締まりやすい条件下にある。
そのため、ナシ生産者は主要根群域土壌の保水性や通気性、硬さなど主に物理性を良好に維持
改善することを主要な目的として、たい肥等有機質資材の施用による土づくりを重要視している。
また、最近、農耕地から地下水など環境への窒素負荷が問題となる中で、有機物がいかに有効
な資材であっても無制限に施用して良いというわけにはいかなくなった。化学肥料と同様に有機
物も過剰に施用すれば窒素負荷源となり、余分に出てきた無機態窒素の一部は雨水に溶けて地下
に浸透して地下水を汚染するので環境に配慮した施用が求められてきている。
②ニホンナシで利用されている家畜ふんたい肥の現状
長野県下伊那地域の「幸水」生産農家に対して実施したアンケート調査によると、有機物施用方
法の多くは、「全面雑草草生の園地に、毎年11∼12月頃、2 t /10 a程度の家畜ふんたい肥を園地全
面の表層に施用する」であった。このような有機物施用が行われているナシ園土壌の化学性の実態
は、土壌の種類による違いもあるが全体的な傾向として、石灰及び苦土が少ない一方で、カリが過
剰傾向であった。したがって、塩基相互のバランスが悪く、特に、苦土/カリ比が2未満の低い園地
が多かった。このようなナシ園地では花芽の着生が劣り、苦土欠乏が発生しやすくなっている。
土壌の塩基バランスが悪化した原因の一つとして上げられているのが、施用された家畜ふんた
い肥の品質である。下伊那管内で生産、流通されている家畜ふんたい肥の分析結果の一例を見て
みると腐熟の進み具合を示すC/N比は多くのたい肥でほぼ20以下と問題なかったが、全体にカリ含
量が高めで苦土とのバランスが悪く、苦土/カリ比が低い製品が目立った。
地元JAでは土壌診断に基づいて肥料としてのカリの施用を減らす一方、たい肥については苦
土/カリ比が2となるように不足分の苦土を苦土質肥料で補う指導を行っている。
51
③ナシに求められているたい肥とは
以上述べてきたことを踏まえてナシ栽培で求められている家畜ふんたい肥はどのようなものか
をまとめると、以下のようになる。
ア.まずは、完熟したものであることが求められる。たい肥施用後に2次発酵による還元化やガ
ス発生、土壌中の窒素成分の取り込みなどが起こると、ナシ樹の生育に悪影響が生じる。
また、オガクズやチップなど木質系資材を副資材として含む場合は、腐熟が十分でないと根
に大きなダメージを受ける紋羽病の発生を助長する恐れがある、特にこうした材料のものを施
用する場合には、十分腐熟させたものを用いることが重要である。
イ.次に取扱性の良さも求められる。分解途中の未熟なものでは臭気や不潔感、べとつき感が気
になって、取扱いが煩わしくなる。ニホンナシは棚栽培が主体なので、大型のたい肥散布機の
圃場内導入は困難であり、小型運搬車などで園内にたい肥を持ち込み人力で散布するのが一般
的である。そのため、取扱性の良さも重要である。
ウ.また、たい肥には土壌改良効果が期待される。肥料的な効果よりも主要根群域の物理性や生
物性の維持改善を期待して施用する場合が多いので、肥料成分量は高く過ぎないことが大切で
ある。特に、窒素、カリの成分については、環境負荷や塩基バランスの面から考慮する必要が
ある。
なお、果樹園土壌では、銅、亜鉛などの重金属濃度が上昇傾向にある。これは、果樹園で散
布される農薬起源に加え、主に養豚で飼料に添加された銅や亜鉛がふん中に排泄され、この豚
ぷんを原料にしたたい肥が施用されるためである。したがって、飼料成分についての注意も必
要である。
その他、原料、副資材及び成分量についての表示がなされている品質の製品が、安定的に供
給され、安価であることも重要である。
ナシ園
52
(4)桃(少肥型の落葉果樹)
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★★
★★
★★
★
★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①桃の栽培特性と土づくりの特徴
果樹は一般作物に比べて根域が深
く、長年に亘って同じ場所で栽培す
ることから、改植時や冬季の休眠時
期に深耕(深さ40∼60cm程度)によ
る土壌改良が行われる。特に、桃は
果樹の中でも根の呼吸量が多く、通
気性が低下すると果実品質や生産
量、樹の寿命にも悪影響を及ぼすこ
とから、膨軟で透排水性の良い状態
を保つことが桃園の土づくりの重要
なポイントととなる。最近では作業
機械の走行によって土壌が硬く締ま
り、通気性、排水性が低下すること
が多い。しかし、図1−20に示すよ
うに、バークたい肥やパーライトを
十分に混和した土壌は、作業機械の
踏圧を受けても膨軟な状態が保たれ
る。そこで、桃農家は深耕と同時に
有機物を多量に混和して深耕による
土壌改良の効果が持続するように努
めている。
また、桃は果実肥大期(6、7月)
に窒素が不足すると樹勢が低下して
小果となって生産量が減少し、逆に
過剰に吸収して樹勢が強くなりすぎ
ると枝ばかり伸びて糖度が低下した
り、変形果が多くなったりして果実
品質が低下する。この果実肥大期に
53
供給される窒素の多くは土壌から供給され、図1−21に示すように、地温の上昇に伴って増加し夏
場に最も多くなる。糖度の低い桃園と糖度の高い桃園について土壌由来の窒素量を比較すると、
糖度の低い桃園は夏に多量の窒素が効いており、その結果、徒長枝が林立して果実周囲の日当た
りが悪くなって糖度が上がらないと考えられる。つまり、高品質の果実を安定して収穫するには、
適度な樹勢を保つための適正な地力(土壌の肥沃度)水準を保つことが重要である。
したがって、たい肥の施用は各園地の肥沃度に応じて決定し、あくまで適正な地力水準を守っ
て行う必要がある。
桃栽培における土づくりのポイントを整理すると次のようになる。
ア.根の発達を促す膨軟で通気性・排水性の良い土壌を作ること イ.適正な樹勢を保ち高品質果実を安定生産するための適正な肥沃度を保つこと
②桃園で利用されるたい肥の現状
従来、桃園ではカヤなどの山野草をたい肥化したものが多く使われていた。粗大な山野草たい
肥は、通気性・排水性を向上する効果が高く、しかも窒素成分が少ないため、多量に施用しても
肥沃度を過剰に高めることがない。果樹農家にとって製造に労力がかかるが安心して使えるたい
肥であった。最近は、バークたい肥や木質系牛ふんたい肥を購入する例が増えている。たい肥づ
くりの労力がかからないこと、農道横の果樹園まで運搬してくれることがその理由と思われる。
しかし、山野草たい肥に比べると窒素成分が高いものが多く、多量に施用すると樹が強勢にな
って果実品質が低下する事例が増えている。家畜ふんたい肥の中でも肥料的効果が高いとされる
豚ぷんや鶏ふんたい肥は使われる例が少ない。
果樹農家がたい肥を選定する基準は、ア.土壌を膨軟にする効果が高い木質系たい肥であるこ
と、イ.窒素成分が少なく樹勢への影響が小さいこと、ウ.水分が少なく運搬や土壌混和が容易
であることである。
③たい肥に期待する効果は
桃栽培農家がたい肥に期待する主な効果は、まず土壌を膨軟で保水性が高く、しかも通気性・
排水性の良い状態にすること、次いで地力を適正な水準まで高めることである。
桃樹は、湿害を受けると果実や葉が落下したり果実糖度が低下し、逆に、干害を受けると果実
が小さくなったり渋みが生じて果実品質が低下する。そこで、深耕と同時にたい肥を土壌容量に
対して1割程度混和することにより、図1−20のように膨軟で排水性、通気性が良い状態が保たれ
る。
たい肥の施用による地力増強については、各園地の地力水準に応じて行うことが重要である。
新規造成園や肥沃度が低い園の土壌は、一般に腐植やリン酸などの養分に乏しいため、果実の糖
度は高いが樹勢は弱く生産量も少ない傾向にある。このような桃園は、図1−22の腐植水準0.6%
以下に相当し、地力を強化するためにha当たり(以下同様)20tの堆肥を数年間連用し、適正な地
力水準に高める。また、腐植0.6∼1.8%の適正な地力水準の園地は、高糖度の果実が安定して生産
54
されることが多い。したがって、現在の地力を維持するために、土壌有機物の消耗分をたい肥と
して5∼10t連用する。地力水準が過剰な園地は、図1−22の腐植水準1.8%以上の園地に相当し、
図1−21のように果実の収穫前の6、7月に地力窒素が多量に発現し、徒長枝が林立して結果枝周
辺が暗くなり、果実品質が低下することが多い。このような園地では、地力(腐植)が適正域に
落ち着くまでたい肥の施用を中止する必要がある。
④桃栽培にとって好ましいたい肥とは
桃栽培農家にとって好ましいたい肥とは、通気性、排水性を改良する効果が高いバークたい肥
や木質系牛ふんたい肥で、しかも窒素成分が少ないものである。また、特に木質系たい肥の場合、
十分な堆積期間をかけてタンニンやフェノール類などの生育阻害物質が分解していること、窒素
飢餓や土壌病害の白紋羽病の発生を助長するような未熟な木質系たい肥でないこと、カリウムな
どの塩基類を過剰に含んでいないことが重要な条件である。
桃
桃園
55
(1)キ ク
〈たい肥の品質別重要度〉
土壌改良効果
が大きいこと
腐熟度が高い
こと
安価である
こと
肥料効果が大
きいこと
取扱性が良い
こと
★★
★★★
★
★★★
★★★
★★★ 特に重要性が高い ★★ 重要である ★ 重要性は比較的低い
①キク栽培と管理の特性
キクは短日性の植物といわれているが、電照による日長操作や、日長反応に鈍感な夏秋タイプ
の利用により周年栽培される。1作の期間は、輪ギクでおおよそ100日、スプレイギクで70日くら
いである。そのため、輪ギクでも年に2∼3回作付けされ、基本的には連作である。土づくりの
重要性は理解されているが、作付け間隔が短いので土づくりに割く時間が少ないのが現状である。
キクは多肥性の作物との印象もあるが、最近の品種は必ずしも多肥性とはいえない(図1−23)
。
キクが1作で吸収する養分量は、窒素がおおよそ30∼40g(/m2・実面積)、リン酸が10g前後、
カリで40∼70g程度と見積もられる。多肥によってボリューム感のある切り花を採ることができ
るといわれているが、切り花としてのバランスや日持ち性などで必ずしも良い結果が得られると
は限らない。花は「見た目」が命である。
花き生産の多くは施設の中で行われている。
今日、多くの作目が地床を離れる傾向にあるが、キクは栽植密度が高いことから、隔離ベッド
床の利用が続くと考えられる。施設は、
基本的には閉鎖された空間である。ガス
害を生じる危険性が高いので、未分解の
有機物の施用は禁物である。そして、施
設内は手狭であり、大型の耕作用機械の
利用は制限される。さらに、雨水が入ら
ないことから、吸収されなかった養分が
容易に地下へ流亡せず、土壌内に蓄積さ
20
乾物生 産量( g/本)
や水耕栽培が難しいので、これからも地
15
10
秀芳の力
精興の誠
神馬
岩の白扇
5
0
0
20
40
60
N施肥量(g / m 2)
図 1 − 23 輪ギク主要品種の N 施肥量と乾物生産量
れる。
そのため、キク栽培ほ場の土壌には養分が異常に蓄積された例が多くみられる(表1−16)。生
産基盤の土壌を適正に管理して安定した生産が持続できるようにしていくことが必要である。
もう一つ注意しなければならないのは、花きで栽培されている作目は大変多く、それらのすべ
てについて栄養要求性や生理特性がわかっているわけではない。キクといえども、品種によって
肥料に対する反応が著しく異なるものもあり、施肥による障害発生リスクが高いことに注意が必
要である。
56
表 1 − 16 キク主要産地ほ場の pH と EC
項 目
pH(1:5H2O)
EC(1:5H2O)
最大値
6.9
2.74
最小値
4.6
0.06
平 均
5.9
0.79
(推奨範囲)
5.5 ∼ 6.5
(注)愛知県の普及センターの持ち込み試料分析結果から作表
②キク栽培で利用されるたい肥の現状
現在、キク栽培で利用されているたい肥は、牛ふんたい肥が主である。しかし、愛知県を例に
とれば、家畜ふんたい肥の生産に当たっては、ふん尿混合、三畜種混合、戻したい肥のリサイク
ル利用が日常的に行われている。これらのことが影響して、牛ふんたい肥といえども、成分濃度
は高く(図1−24)、同じ畜種でも大きなバラつきがみられる。さらに、たい肥の成分濃度とキク
が吸収する養分の比率が異なる(図1−25)ので、利用されない部分は残存する。同一たい肥セ
ンターの製品でも、養分の有効化率が異なることもある。栽培農家で施用量が異なるのは、長年
の経験から利用しているたい肥に合わせた使い方をしていることを示す。
濃 度(%)
20
牛ふんたい肥
豚ぷんたい肥
鶏ふんたい肥
混合たい肥
15
10
5
0
N
P 2O5
K2O
CaO
MgO
養 分 名
図 1 − 24 愛知県内で生産された原料畜種別たい肥養分濃度比較
(平成 16 年(財)日本花普及センター技術セミナーより) 養分比
6
「神馬」吸収量比
牛ふんたい肥
豚ぷんたい肥
鶏ふんたい肥
混合たい肥
4
2
0
N
P2O5/N
K2O/N
CaO/N
MgO/N
養分量比
図1−25 愛知県内で生産された家畜ふん尿たい肥の養分濃度比と輪ギク
(神馬)の養分吸収量比比較
(平成16年(財)日本花普及センター技術セミナーより) 57
③たい肥施用に期待する効果は
たい肥の施用理由は、産地によって主たる目的が多少異なるが、主に土壌改良や品質向上、健
全な生育、連作障害防止などを期待している。愛知県で土壌改良の目的が多いのは、産地の土壌
が強粘質で有機物の少ない土壌であることを反映している。一方、肥料代替をいう農家は比較的
少ないものの、関心の高さは土壌改良に対する期待にひけをとらない。
④キク栽培にとって好ましいたい肥とは
キク栽培農家は、たい肥に対して、「撒き易く、直ぐに使えて、肥効が安定して、生育障害が無
く、安価で安定的に供給されるたい肥」を求めている。
たい肥を利用しない主な理由は、散布に手間がかかる、品質が不揃いで効果が安定しない、価
格が高い、効果がはっきりしないことなどである。今後、利用拡大を図るためには、キクに障害
性がなく、散布が容易であることは勿論、さらに、施用と効果から納得できる価格、製品の品質
が表示されており保証されていること、庭先での前処理を必要とせず、直ちに利用できること、
製品が安定して供給されることなどが重要な条件としてあげられる。
以上のように、キク栽培農家の要求は欲張りであるが、キクは連作が常識で、作付け間隔が短
いことから、特に、肥効の安定しない資材の利用は極力避けたい。養分濃度は低いほうが望まし
いのは当然であるが、少々肥料分が多くても、安定した肥効を得られる方が好ましいという事情
がある。
スプレイギク
輪ギク「神馬」の栽培
58
Fly UP