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次世代ビジネス創造に向けて - 伊藤忠商事繊維カンパニー

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次世代ビジネス創造に向けて - 伊藤忠商事繊維カンパニー
2
vol.610
2011
since 1960
毎月1回発行
■ 発行:伊藤忠商事株式会社 繊維経営企画部
大阪市中央区久太郎町 4-1-3
■ TEL:06-6241-2027 ■ FAX:06-6241-2008
■ URL:http://www.itochu-tex.net
本紙に関するご意見・ご感想をお寄せ下さい。[email protected]
Vol.610 CONTENTS
Special Feature /
─ ITOCHU Mission ─
Committed to the global good
豊
か
さ を
担
う
責
任
繊維カンパニーの人材育成
1-3面
Topics /
マーケットリポート/ニュース・クリッピング
4面
World Report /
アジアのアパレル生産事情 ②
5面
Fashion Report /
時空を超えて日本の美意識を現代のファッションに落とし込む
6面
繊維カンパニーの人材育成
次世代ビジネス創造に向けて
S
pecial
Feature
伊藤忠商事は全社の重点施策として、人材力強化に向けた系統的な取り組みを実施していますが、繊維カンパニーでも人材育
成のための各種研修を独自に取り組んできました。繊維月報 2月号ではこのうち、新規ビジネスを創造するための実践的スキル研
修『ロジカル・プレゼンテーション』と、繊維カンパニーおよびカンパニー内各部門が実践している早朝研鑽『Early Morning
Brush-Up』を紹介します。
件は即実践に生かす。
参加者がそれぞれビジネスプランを競う
“ 個人戦 ”の一方で、所属部門の異なる数
人で構成されたチームでの“団体戦”
も争う。
ロジカル・プレゼンテーション
プランの中身をチームでもみ、プレゼンテー
ションの方法など意見交換しながらスキルを
商売ネタ提案へ
向上させるとともに、部門の垣根を越えた交
アプローチ法訓練
流も狙いだ。
ロジカル・プレゼンテーション研修(プログ
このロジカル・プレゼンテーション研修は
ラムは下図参照)は、実際の商売や業務に
2006年 度から始まり、今回で5回目。毎回
関係する内容を基に、従来のロジカルシンキ
15人前後が受講し、すでに70人余が“卒業”
ングに加え、プレゼンテーションスキルを学ぶ。 した。この研修が始まった背景には、繊維・
いわば商売ネタの提案のためのアプローチ訓
ファッションビジネスの構造変化がある。いわ
練といえる内容で、2010 年度は繊維カンパ
ゆる川上・素材ビジネスから川下・製品ビジ
ニーの4∼10 年目総合職 12 人を対象に実施
ネスへの移行、同時に従来型のアパレル対
した。
応からリテールを視野に入れたビジネスの拡
プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
大という質的な変化に、商社がいかに臨む
代表取締役の高田貴久氏を講師に、
かという命題があった。
〈STEP1〉2010 年 11月12日(東京本社)、
例えばアパレル製品取引の場合、従来型
〈STEP2〉2010 年 12月22日(同)、
のOEM(相手先ブランドによる生産)供給
〈STEP3〉2011 年 1 月20日(大阪本社)
では限界が生じ、より特化された取り組みが
の3日間、開 か れ た。STEP1、STEP2を
望まれ始めていた。商社として、いかにして
通じて、「正しく考える」「正しく伝える」技
イニシアチブを発揮できるかが問われ、次世
術を学び、STEP3で各人の具体的なビジ
代ビジネス創造に向けた人材育成が急務と
ネスプランを自ら発表する形式で、優秀な案
なっていたことが背景にある。
維貿易(中国)などの海外ナショナルスタッ
フを対象に実施している。
11月から3カ月の研修は1月20日、最終プレゼンテーションで幕を閉じた
豊富な独自研修を用意
新入社員から海外N/Sまで
繊維カンパニーには、①新入社員 ②4 年
目社員 ③ロジカル・プレゼンテーション ④指
導社員 OJT 強化プログラム ⑤IFIビジネス
スクールでのマネジメント ⑥中国での語学習
得 ⑦海外ナショナルスタッフの日本国内での
OJT 研修 ─ などの多種多様な研修を用
『ロジカル・プレゼンテーション』プログラム ∼ 商売ネタ提案のためのアプローチ法訓練 ∼
Step
1
Step
2010/11/12(金) 東京本社
考える」実践
「正しく
2011/1/20(木) 大阪本社
伝える」実践
「正しく
「正しく考える」
「ロジカル・プレゼンテーション」
講 座
3
「正しく伝える」
実 践
実 践
講義内容
実践内容
実践内容
■ 「構造化」して説明する
■ 宿題の「主張内容」を発表
■ 宿題を個々人でプレゼン
■ 「ピラミッド構造」で主張する
■ チームで共有化・討議
■ 審査
■ 「ピラミッド構造」を精査する
■ 主張を「図と並べ方」で表す
■ 評価
■ 相手に合う「ストーリー」を作る
■ レポート提出・個別添削
現場で実践
講義
Step
宿 題
論理思考で正しく「考える」
プレゼンスキルで正しく「伝える」
2
2010/12/22(水) 東京本社
宿 題
事前課題
意している。1999 年に全社の人事制度が
改定され、新入社員研修と課長研修の間
の若手・中堅社員クラスの研修が希薄とな
り、それを埋める意 味 合いもあって若 手・
中堅社員研修をカンパニー独自に立案、実
施してきた。
具体的には、4 年目研修では与信、関税、
貿易管理、マーケティングなどの実務を専
門 家から学ぶ。そして若 手・中堅 社 員を
対象に「ビジネス実践」を旨とするロジカル・
プレゼンテーション、若手社員の指導を担
当する指 導 社員の向 上を目指し、課 長や
受渡担当者を交えて3 者一体となって取り
組む指導社員OJT強化プログラムも独自の
ものだ。
マネジメント研修はIFIビジネススクールに
中堅から課長代行クラスを派遣、マネジメ
ントを学ぶ。中国語研修は若手社員を現地
に派遣し、半年間“ 中国語漬け”にすると
いうもので、2011 年度から全社でも実施す
ることが決まった。海外ナショナルスタッフ研
修は、“ 現 地 化 ”に欠 か せ ず、伊 藤 忠 繊
2
2011年2月号
繊維カンパニーの人材育成
優秀プランは事業化へ
M&Aなどで商流構築も
過去のロジカル・プレゼンテーション研修で
高い評価を受けた事例を紹介しよう。
参加者のプレゼンを真剣に聞く審査員
別 表は2007年 度 から2010年 度の4年 間、
上位に入賞したロジカル・プレゼンテーション
研修の優秀テーマのいくつかである。2007年
度の第1位となった「中国レディスインナーア
パレルへの出資に関する提案」(後述)は、
実際のビジネスに生かされた。プランの中身
は変わったがM&Aの実現などで商流を構
築、実際のビジネスにつながっていった。
今回2010年度の第3位に入った「補整下
着のアジア市場展開」は、市場分析などが
若干弱いとされながらも、着眼点の鋭さと、
チャレンジングな発想で票を集めた。この発
想を大切にすることもこのロジプレ・オリンピッ
クの特徴といえる。
2010年度、2007年度の研修で第1位に輝
いたふたりに話を聞いた。
東京本社でのSTEP2ではチーム内でアイデアをブラッシュアップ
ロジカル・プレゼンテーション研修 優秀テーマ
2007年度
・中国レディスインナーアパレルへの
出資に関する提案
2009年度
・異業種小売店への衣料品販売の
提案
・難燃繊維の海外展開
2008年度
・ブランドの免税店ビジネス進出
・中国でのショッピングサイト運営
・EU諸国生産オリジナルブランド商品の
アパレルへの提案
・ペット関連ビジネスにおける
トータル・ブランドビジネスの提案
・WEB展示会システム
2010年度
・海外のファミリー層向け
衣料品ブランドの日本市場展開
・特殊繊維の高機能マスク開発
先輩・同僚のアドバイスに感謝
しだ・ひでとし 2007年入社。ブランドマーケティ
ング第一部第九課でイタリアなどからブランド製品輸
入を担当。26歳。
優勝作品は欧州企業との合弁事業による
日本市場におけるファミリー層向け衣料品およ
2010年度ロジプレ・オリンピック個人戦で金・銀・銅メダル
・補整下着のアジア市場展開
高田講師から祝福される信太さん(左)
2010年度ロジプレ・オリンピックで優勝した び関連製品の展開。「調査分析がしっかりし
ており、プレゼン資料も論理的で理解しやす
く、スマート。5カ年計画による定量計画も具
体的で審査員全員の評価が高かった」
(高
田貴久氏)
入社4年目。ブランドマーケティング第一部
でイタリアからのブランド製品の輸入を手がけ
る。「既に価格競争に陥っているファミリー層
を対象とした衣料品市場に、価格面だけで
なく、ファッション性で差別化されたブランドで
参入するビジネスモデルを」と考えた。しかし、
ビジネスアイデアが得られても、それをどのよ
うに具体的なビジネスにするか、それが壁に
なった。とくに合弁パートナーをどう探すかな
ど情報収集で苦労したという。所属する課の
先輩、部の異なる同期などに相談することも
ビジネスにつながったアイデアも
しばしば。チームメンバーを含めた助言を参
考にビジネスプランをまとめた。「ひとりだけで
は、とてもまとめきれませんでした」と先輩・
同僚の助言に感謝する。
プレゼンテーションは学生時代のインターン
シップで経験。今回の研修に参加する前に
講師の高田氏の著書『ロジカル・プレゼンテー
ション』を精読し、「考える」「伝える」の基
本を学んだ。「商売そのものがグローバル化
している中で、今後ますます増えると思われ
る海外企業との取引においては、今回の研
修のテーマであるロジックが特に役立つので
はないかと思います」
研修に入ってから、顧客のアテンドでイタリ
アへの2週間の出張話が舞い込んだ。結局、
出張を断念し、プランの練り上げに打ち込ん
詰まることなく流暢に話せるか、興味を削ぐこ
となく面白く説明できるか、に腐心しました。
すぐに緊張してしまう性格のため、プレゼン内
容をすべて原稿にまとめ、プレゼンの前日に
は朝5時まで一人で壁に向かい身振り手振りも
含め確認していたのを覚えています。
め、相手先の興味を引くにはちょうどよかった
ようです。わたしが実際に交渉したわけでは
ありませんが、多少なりとも役に立てたことが
うれしいです。
研修を通じて学んだこと
研修がビジネスモデル事業化に
際しどう生かされたか
2009年に中国レディスインナーの大手総合
企業グループである大連雅文内衣有限公司
に東京インナー課として出資しました。当時の
課長、先輩方が2008年から中国インナーア
パレル各社との交渉を進め、最終的に同社
に出資することになったのです。研修時に作
成したプレゼン資料が先輩方の手に渡り、形
このロジカルプレゼンテーション研修は、自
分が現在どのような環境にいて、何ができる
のかを見直すいい機会です。やるときは手
を抜かず、自分の中で温めていたアイデア
や、課内で話題になっている内容を本当に
実現させるつもりで、真摯に取り組むことが
スキルアップにつながります。そのためには、
①一緒に働いている方々も巻き込む ②社内
資 料(各 社 決 算 書など)も含め徹 底 的に
分 析 する ③事 前にプレゼンの練 習をする
を変え、各交渉先へのファーストプレゼンテー
ションには役に立ったと聞いています。課内の
意見を取り入れ、分かりやすくまとめていたた
─など、研修片手間ではなく気合を入れ
て望むのがベストです。(テキスタイル・製
品部東京インナー課、2000年入社)
信 太 英 利 さん
だ。
「大事な出張を断念してまでやる以上、
とことんやって必ず一番を狙え」という課長の
指示を実現できた今、
「今回の研修で学んだ
ロジカル・プレゼンテーション技術をより磨いて
仕事に生かしていきたい」と微笑んだ。
2007年度ロジプレ・オリンピックで優勝した 過去のロジプレ・オリンピックで高い評価を
受け、実際にビジネスにつながったアイデアも
ある。2007年度の優勝プラン「中国レディス
インナーアパレルへの出資に関する提案」が
それだ。このモデルを考えた後藤陽さんに振
り返ってもらった。
ビジネスモデルを考えることに関しては、そ
れほど苦労はしませんでした。研修受講当時
7年目で、ある程度商売が分かり始めていた
こともあったのかもしれませんが、なにより課
内で「中国小売への進出」が叫ばれていた
ため、それをビジネス化することを考え、でき
るだけ分かりやすくまとめればよかったからで
す。実際、資料を作成する際も、課内、中
国の事業会社の方に協力してもらい、詳細
かつ広範にわたり準備することができました。
逆に苦労したのはプレゼンでした。いかに
に輝いた信太さん、中村さん、小八木さん(右から)
大阪本社でのSTEP3で最終プレゼンテーション
後 藤 陽 さんに聞く
後輩へひとこと
プレゼン資料にはメッセージ性も重要
ピラミッドストラクチャーで論理を検証
繊維カンパニーの人材育成
「考える」×「伝える」
=
「提案の技術」
楽しく実践的な研修
いうのは、時代を超えて通用する普遍的な
考え方です。
わたしは座学的な煩わしさを感じさせな
いよう、
「楽しく実践的に」をモットーとした
年々レベルアップ
研修を行っています。
ロジカル・プレゼンテー
ション研修では、2∼3年後に実際に実を結
わたしがロジプレ研修に取り組んで今年
ぶ「商売ネタ」を提案するという実践的な
で5年目となりますが、毎年「過去の優秀
内容を、
「ロジプレ・オリンピック」と称して
答案」を披露して受講者にハッパをかけて
競技仕立てとし、楽しみながら学べるよう
いることもあり、商売としての着眼点、情
工夫をしています。チーム内でお互いが教
報の裏付けの豊富さなど年々最終プレゼン
え合い切磋琢磨するために、個人戦に加
の内容はレベルアップしています。
え団体戦も実施しています。
最終プレゼンでは営業部長・人事担当・
「ロジプレ」のコンセプトは、「ロジ」はよ
講師の3人が審査員となり、オリンピック仕
く考えるという論理思考、「プレ」は分かり
立てで「技術点」
( = 論理力と資料化力)
、
やすく伝えるという説明能力です。この両
「芸術点」
( = プレゼン力と商売化力)を
輪がそろわなければ商売は成立しません。 評価します。
「考える」×「伝える」=「提案の技術」と
ただ最終プレゼンが終われば終わりではあ
りません。ここで学んだスキルや考えた商売
ネタを、今後の実際の仕事に生かしていくこ
とが繊維カンパニーでは求められています。
5年間全員無欠席
団体戦で優勝したチームの皆さん
Early Morning Brush-Up
先輩社員から“現場”伝える
2010年9月から始まった「Early Morning
Brush-Up」研鑽を紹介しよう。始業時刻で
ある午前9時以前の早朝に行う繊維カンパ
ニーの任意選択研修のひとつで、繊維カンパ
ニーのすべての総合職・事務職が対象。①
自由闊達なやる気・やりがいの醸成 ②自己
研鑽による個々の知識・スキルの向上 ③職
場のコミュニケーションのさらなる活性化 ④顧
客対応に資する現場主義の徹底─を目的
に、すべて社員によって自主運営されている。
現在、繊維カンパニーが運営する「早安
中文」
(おはよう中国語)のほか、繊維原料・
これまで研修を担当してきた5年間で、
驚くことに誰1人ただの1日も欠席をしていま
せん。わたしは多くの大手企業で研修を担
当していますが、これは本当に稀有なこと
です。「仕事が忙しくなった」「出張が入っ
テキスタイル、
ファッションアパレル、
ブランドマー
ケティング第一、同第二の営業4部門が独自
に実施する「海外駐在員報告」「ビジネス事
例紹介」などで構成している。先輩社員、
出張者や海外駐在員の経験を通じて現場を
知り、自分を磨くのが狙いだ。
具体的にみると、早安中文は駐在や語学
研修から帰国した社員がせっかく身につけた
中国語をさび付かせないために中国語でフ
リートーキングする場で、テーマは参加したメ
ンバーに任せる。毎月2回、数人規模で大阪
本社、東京本社ごとに開いている。
各部門が独自に開く月に数回の早朝研修
のテーマは多彩。9月以降の事例をみると、
繊維原料・テキスタイル部門の「繊維業界
のインクジェットプリント」、ファッションアパレル
“個の力”強くしチーム力高める
「ロジカル・プレゼンテーション」研修は、2
∼3年後に実現可能な「商売ネタ」を提案す
るという、まさにカンパニーのミッションに気づ
きを与える研修と考えています。一生懸命売
り込んでも、しっかりとした裏づけ=ロジックが
なければ商売は成立しません。また、常にお
客様の視点に立って納得していただくプレゼ
ンテーションが必要です。
「ネタ」は倒語ですが、
「種(シーズ)」が
なければ芽も出ない。芽が出れば積もった雪
を押しのけてでも草木は伸びる。若い社員の
新しい時代の新しい発想やそのエネルギーに
期待し、この研修をきっかけにマーケットの現
場に様々な商売の花が開くと思うとワクワクし
ます。
今回の「ロジプレ・オリンピック」で1位、2
位に入った信太、中村両君は、研修期間内
の海外出張をキャンセルしてでも商売ネタを練
り上げました。彼らの所属長も戦力ダウンを承
知で研修を優先してくれました。若い間に「正
しく考える」「正しく伝える」スキルを身につけ
ることは、将来必ず役立つと判断してくれた
からだと思います。
今回の12件の商売ネタは現在の業務の延
長線上で即ビジネス化が可能なものから、まっ
たく未知のマーケットに挑むものなど様々でし
た。頭でっかちの机上の空論でも駄目ですし、
さりとて手を伸ばせばすぐに届きそうな案件も
夢がない。
「ハードルを高くしてチャレンジする」
気持ちを大切にしています。
一方、
「Early Morning Brush-Up」=「早
朝研鑽」はカンパニーの「任意選択研修」
と位置づけ、勤務時間に含まれない時間とし
て、社員の自由な意思に任せた任意参加型
㈱プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
代表取締役CEO
2011年2月号
3
高田 貴久氏
た」など様々な理由で研修を欠席する受
講者が他社では多いのですが、繊維カン
パニーでは「研修も仕事のうち。仕事では
先約を優先して当然」との考え方に基づき、
徹底して研修を受講させます。これは繊維
カンパニーが人材育成にどれだけ力を入れ
ているかの表れであり、
この美風をぜひ守っ
てほしいと考えています。
古き良き徒弟制度
繊維カンパニーで研修をして感じるのは、
古き良き「徒弟制度」が息づいているとい
うことです。研修の場でどうかだけではなく、
日頃の言動や生活態度までを含め人事か
ら受講者個々人に対して指導が入るほど、
目が行き届いている点は素晴らしいと感じ
ています。
ただ目が行き届いている分「言わなくて
も分かってもらえるだろう」という甘えが生
じる懸念があります。だからこそ「考える」
「伝える」スキルを向上させ、提案の技術
を磨くことが大切なのです。
日常的にネタ作りを
ロジプレ研 修でも全 員 が 悩む点です
が、実際のビジネスでいちばん難しいの
部門は「縫製拠点バングラデシュの現状」
、
ブランドマーケティング第一部門、同第二部
門の「担当ブランドのビジネスモデル紹介」
など、業務知識・ノウハウの相互共有・意
見交換から、海外駐在員の帰国の機会をと
らえ、「海外勤務の日常生活」「海外でのビ
中国語をさび付かせないように…。
日本語禁止の「早安中文」
は商売の着想、ネタ作りです。繊維・ファッ
ションは身近な商 品であるだけに、常日
頃からファッションやマーケットに興味や関
心を持ってネタ作りに挑むことが大 切で
す。しっかりと考え、伝えるスキルがあれ
ば、ちょっとしたアイデアが素晴らしいビ
ジネスとして花開く可能性が高まります。
研修を受講された皆さんのご活躍をお祈
りします。(談)
ジネスマナー」「海外ファッション市場の近況」
などのレクチャーを受け、知識を増やしている。
あくまでも社員の自発的な試みで、早朝の
スッキリした頭でスキルを身につける。1時間
足らずの短い時間だが、ワイワイ・ガヤガヤ
……。今朝も会議室はにぎやかだ。
海外駐在員の一時帰国の際には囲んで現地事情を聞く
繊維カンパニー 人事担当 の研修として運営しています。
「最近の若者
はおとなしい」とか「自己発信が少ない」と
かいわれることがありますが、決してそうでは
なく、向上心に燃えています。それを引き出
す機会や場が少ないだけです。
朝の仕事始めのフレッシュな時間帯に「ニ
イハオ」と中国語であいさつしフリートーキン
グする、海外や第一線で活躍する先輩達の
“武勇伝”
や
“自慢話”
“失敗談”
を聞く。綿が
水を吸うように若い人の頭にはいろんなことが
吸収されます。商社で働く者は、常に視覚と
聴力を鍛えることが大切です。目で見て人の
話を聞いて現場を知ることがすべての仕事の
入り口です。
2つの研修を通じて、繊維カンパニーらしい
野武士集団復活を目指し、多士済々の人材
を育てたいですね。(談)
大穂 康人
4
マーケットリポート/ニュース・クリッピング
2011年2月号
「FILA」生誕100周年
多彩なプロモーション
M
arket
Report
伊藤忠商事が日本におけるマスターライセ
ンス権を有 するイタリアのスポーツブランド
「FILA」は、2011年にブランド生誕100周年
を迎えます。1911年イタリアのビエラで生まれ
たFILAブランドは、今日までイタリアならでは
のスタイル、情熱、創造性、そしてイタリア
人気質を引き継いで参りました。ブランド生誕
100周年となる2011年は、スポーツブランドと
して原点回帰を目指すべく、アイデンティティー
をさらに明確に発信し、ブランドの価値向上
のための様々な取り組みを行います。
まず、100周年記念を象徴するモチーフを
採用し、コレクションとして販売します。また、
新規カテゴリーとしてストリートダンスラインの商
品の開発、販売を予定しています。全国で
ライブ活動を展開するダンスユニット「レッキン
グクルーオーケストラ」への衣装提供やビジュ
アル制作などを通じ、プロモーションを実施し
ます。さらにフォトグラファーの蜷川実花さん、
クリエイティブディレクターの佐野研二郎さんと
のコラボ企画でシューズやカジュアルウエアな
どの限定商品を販売します。
一方、2010年に引き続き「ジャパンオープン
テニス」に協賛し、スタッフユニフォームの供給、
商品展示ブースの設営などのプロモーションを
行います。
「ジャパンオープンテニス」は、ス
ペインのラファエル・ナダルや日本の錦織圭な
ど世界の多くのトッププレーヤーが出場してい
る、日本発の由緒あるオープン大会です。
FILAブランドは、かねてより有名タレントと
のイメージキャラクター契約に積極的に取り組
んでいます。2009年からはモデルの長谷川
潤さんをイメージキャラクターに起用し、明るく
て情熱的なFILAイメージの発信力を強めて
きました。100周年を迎える2011年は、20代、
30代のヤングマーケットにお洒落なスポーツカ
ジュアルブランドというイメージを発信するた
め、長谷川潤さんに加え、新たにメンズのイ
メージキャラクターとして俳優の溝端淳平さん
を起用します。2011年春夏シーズンから、溝
端淳平さん、長谷川潤さんをメンズ・レディス
の二枚看板とし、二人を起用したシーズンビ
ジュアルを販促ツールとして、次世代ファン層
開拓につながるプロモーションに力を入れてい
きます。
溝端淳平さんは、2006年に第19回ジュノ
ン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを
受賞、歴代受賞者の中では最多となる40社
のタレント事務所からオファーを受け芸能界入
りしました。その後テレビや映画に多数出演
し、2008年公開の映画「赤い糸」では日本
アカデミー賞優秀新人賞を獲得。またテレビド
ラマ「新参者」に出演するなど、今後の活
この春から展開するコラボ企画
躍が期待される若手実力派俳優です。
これからもFILAブランドは、イタリア発の
歴史あるブランドとして、様々な100周年記
念の取り組みを通じブランドバリューを高めて
参ります。
溝端 淳平 プロフィール
生年月日:1989年6月14日 出身地:和歌山県
身長:175㎝ 体重:62㎏
公式HP:http://www.mizobatajunpei.com/
WORKS:テレビ「新参者」「誰だって波瀾爆笑」
CM「一平ちゃん/明星」「プチシリーズ/ブルボン」
映画「赤い糸」「君が踊る、夏」「NECK」他多数
本件に関するお問い合わせ先
伊藤忠商事㈱
ブランドマーケティング第四課
課長:若谷 哲也 担当:村岡 敬介
電話:03-3497-2502
「ニューバランス」アースマラソン完結記念
「RUN EARTH PACK」発売
N
ews
Clipping
2008年12月大阪からスタートした間寛平
しく走りたい」などの意向に応え、走りやすさ・
アースマラソンが、2011年1月ついにゴールを
通気性・撥水性などの機能を備えながらも、
迎えました。同氏のマラソン人生の集大成と
従来にはない斬新でカラフルなアイテムを多数
もいえるアースマラソン。北緯35度前後を陸
用意しながら、間寛平アースマラソンをサポー
はマラソン、海はヨットで世界一周(横断) トし続けてきました。2011年1月のアースマラ
するという前人未到の挑戦です。
ソン完結にあたり、間寛平氏のゴールを祝し、
ニューバランスブランドのウエアを取り扱う
今回のチャレンジの最後をダイナミックに飾る
㈱エヌ・エフ・シーは、間寛平氏の「気持 「RUN EARTH PACK」を発売いたします。
ちを高揚させるポップな配色」「パンク」「楽
「RUN EARTH PACK」は、アースマラ
ソンで間寛平氏が着用しトレードマークとして
人気を集めた「カンペリーノハット」をはじめ、
同氏がたどった軌跡をモチーフにしたジャケッ
ト、コンプレギンス、デイパックなどの商品で
構成されています。
これからもエヌ・エフ・シーは、様々な商
品を通じてスポーツを愛する皆さまを応援し、
多くのユーザーに支持されるアパレルメーカー
を目指してまいります。
為替(円/US$)
Data
新しく溝畑淳平さんがイメージキャラクターに
間寛平アースマラソン
2008年12月17日大阪NGK(なんばグランド花月)
出発、千葉県鴨川までの691.9kmを走破した後、翌
2009年1月1日鴨川よりヨット「エオラス号」で日本を
出 航。太 平 洋1万2710km(70日)
、アメリカ大 陸
4830km(118日)
、大西洋6519.4km(35日)
を経て、
2009年8月17日フランス、ル・アーブル港に到着後、
ユーラシア大陸横断をスタート。
2009年12月31日には陸路総移動距離1万kmを達
成したが、直後の精密検査で前立腺ガンが発覚。当
初はホルモン治療でマラソンを続けたが、2010年4月、
サンフランシスコでの放射線治療により約2カ月の中断
を余儀なくされる。
2010年6月19日無事治療を終えトルクメニスタンよ
りマラソンを再開、2010年8月25日より125日かけて
中 国 大 陸4600kmを走 破し12月27日青 島に到 着、
翌2011年1月1日青島港を出航、1月4日、約2年ぶ
りの日本再上陸を経て、1月21日ついに大阪野外音
完結。スタートから766日、最終地点大阪NGKまで、
㈱エヌ・エフ・シー
計18カ国・4万1040kmを走破した。
専務取締役:岡崎 勝彦
電話:03-6847-0016
百貨店衣料品売上高の推移(億円)
80.00
本件に関するお問い合わせ先
楽堂(第一ゴール)
、大阪NGK(最終ゴール)にて
チェーン店衣料品売上高の推移(億円)
3,000
3,000
2,000
2,000
1,000
1,000
85.00
90.00
10/20
11/17
12/1
12/22
2011.1/19
0
2008.12
2009.12
2010.12
0
2008.12
2009.12
2010.12
出所:日本百貨店協会
出所:日本チェーンストア協会
ドル/円は年末年始の薄商いのなか、米長期金利の低下を受け全般的なドル売りと
全体として2カ月連続のマイナスの前年同月比1.5%減。株価回復や円高一
12月は節約志向が続く中で、中旬まで気温が高めに推移したことなどから防
なったことで、年明け1月3日には80円93銭まで下落。その後は株価が堅調に推移するな
服などを背景に消費マインドも改善、特選輸入雑貨や高級時計などの一部高
寒関連の衣料品や鍋物関連の食料品が苦戦し、総販売額の前年同月比は
ど、米経済の回復期待からドルが買い戻され83円68銭まで値を戻したが、米12月雇用統
額商材に動きが見られた。主力の重衣料は中旬までの気温が影響して動きが
1.6%のマイナスだった。衣料品は1271億円で同9.8%減と苦戦した。紳士衣
計が予想比弱かったことや、欧州財政不安が一服しユーロが対ドルで買い戻されたことな
鈍く、
月後半の気温低下に伴い大きく盛り返したものの、前半の不調をカバー
料はブルゾンが好調もコート、
スーツが不調。婦人衣料はフォーマルが好調も
どもあり、
じりじりとドルが売られる展開から82円近辺で上値重く推移している。今後も引き
するまでに至らず、衣料品全体では2039億円と同1.9%減となった。2010年
ジャケット、
コートが不調。その他衣料・洋品は機能性肌着が好調も子供衣料、
続き米景気の先行きを見極める展開に変わりなく比較的狭いレンジでの推移を想定する
年間の衣料品売上高は2兆1965億円で、前年を4.7%下回った。婦人服・洋
パジャマが不調。レイングッズの動きは良かったが帽子、手袋の動きは鈍かっ
が、
ドルの上値が重くなるなか、年初につけた安値を試す展開には注意したい。
( 1/20)
品が1兆4346億円、紳士服・洋品が4319億円で、
それぞれ4.4%減だった。
た。2010年年間の衣料品売上高は1兆3034億円で前年比4.4%減だった。
海外報告
orld
RW
eport
中国
アジアのアパレル生産事情 ② 中国(上海)、ベトナム(ホーチミン)レポート
中国、生産でもグローバル競争 ベトナム、スペース争奪戦が激化
① 人口:約13億4000万人(IMF)
② 一人当たり名目GDP:US$4282(IMF)
③ 最低賃金:沿海部の上海1120元、広州1100元から内陸部では西安760元、成都850元など(2010年各市社会保障局)
アパレル輸出の近況 政府の「十二五計
される状況が続いている。日本勢は早急に
画」で中西部経済改革・沿岸部経済形態
①東北・内陸(いわゆるディープ・チャイナ)
転換が加速、縫製従事者の減少など生産能
への移転 ②高価格・高付加価値商品へ
力が縮小傾向にある。人民元高、人件費高、 の特化 ③ライン契約など有力工場との取り
原材料の高騰もあり輸出企業の採算は悪化、
組み強化・オーダー集約化 ─ などの対策
を打つ必要がある。
また比較的発注ロットが大きく、コスト高を市
生産商品の特徴 百貨店・セレクト系は沿
場価格に転嫁できる中国アパレルの市場が成
岸部でも対応可能だが、主力工場との取り組
長し、輸出用生産スペースはますます減少し
み強化で安定供給を図るほか、一部東北・
ている。さらに納期遅れや品質低下、コスト
内陸部でトライアルオーダーを置くなどの動きも
高による注文キャンセルの頻発などにより、欧
ある。SC系・量販アパレルはベーシック品を
米・日本だけでなく中国アパレルでさえもアセ
中心に東南アジアおよび東北・内陸部へシフ
アン生産シフトが加速している。
トしつつあるが、小ロット・二次加工品は中国
しかし、依然として高い素材・副資材の
生産が主力だ。百貨店・セレクト系、
SC系の
供給能力、リードタイム・小ロットへの対応力
を考えると、今後も中国抜きでは考えられない。 2011春夏物は、二次加工など高付加価値商
品比率を増やし、
中国生産が増加傾向にある。
欧米・中国勢は、この点を早くから認識し、
スポーツアイテムは、一貫工場生産体制
発注時期、ロット、価格面での対応を進めて
(カットソー)
、転写プリント・刺繍などの二次
いるが、日本勢は対応が遅れており、縮小
加工対応力、防寒系副資材・ダウン原料の
する輸出スペースは欧米・中国向けに優先
手配能力の問題から東南アジアへの移転は
衣料品国別輸出
衣料品国内販売
中国
一部にとどまる。スポーツ素材(ラミネーション・
6,000
600
2009年
2009年
億ドル
億元
コーテ
ィング中心)は東南アジアへの移転は
2010年
2010年
5,000
500
なく、日系企業との技術提携を通じて技術向
上を目指す方向だ。副資材は、裏地で表地
4,000
400
など高付加価値品への転換が見られ、加工
3,000
300
場は縮小しているが、引き続き中国生産を軸
2,000
200
とせざるを得ない。
原材料調達の動向 2010年初来の綿・
1,000
100
ポリエステル原料の急騰で生機確保は非常
0
0
に困難な状況が続く。裏地・スレーキは中国
日本
欧州連合
アメリカ
5
2011年2月号
その他
伊藤忠繊維貿易(中国)有限公司 佐
アパレルからの表地発注が急増、機業・染
工場のスペースが表地に取って代わられたこ
ともあり、需給バランスが崩れ価格高騰に拍
車をかけた。表地も高騰著しく、環境問題に
よる染工場の強制閉鎖の影響もあり加工場は
縮小の一途。さらに中国アパレルが先行して
玉の確保を進めており、今年はますます素材
確保が困難になる恐れがある。素材調達先
を一部韓国・タイなどに分散する動きもある。
物流など貿易環境の整備 政府の労働集
約型産業の内陸部移転政策により、政府指
定の移転受入省では優先的にインフラ整備
が進められ、上海・浙江省・江蘇省のメーカー
は安徽省・河南省・山東省などに、大連のメー
カーでも朝陽・阜新・内モンゴルに分工場を
設けるケースが増えてきた。対日輸出では陸
送の経費・時間を考慮してどこまで内陸に入
り込むか、東北部ではどこまで北上するか、
限界線を見極める必要がある。忘れてはなら
ないのが検品・修理工場のセット化で、日本
の品質レベル確保には縫製だけでなく補完す
る機能も必要となる。
◇
日本のアパレルは、日本市場で低価格から
高価格まで欧米勢が入り混じったグローバル競
争にさらされている。
「作り場」においても中国・
東南アジアともにグローバルプレーヤー+中国ア
パレルとの競争の時代に入ってきた。すなわち、
チャイナ・プラスワンやディープ・チャイナへの
シフトは小手先のもので、どこまで行っても欧
伯 泰昌
米、中国との作り場の取り合いは終わらない。
従い、今後日本勢も、それぞれのブランドの立
ち位置を再考し、日本人ならではの「きめ細
かい服作り」の中で、グローバルに戦える「競
争の核」とは何かを分析し、何を残し、何を
省くべきかを真剣に考えていく必要がある。
その上で、今まで享受していた海外生産
のメリットのうち、自社が品質・時間・数量
などの中で最も必要とするもの、優先すべきも
のを明確にし、その対価をきちんと払う、もし
くはモノ作りの発注方法などのプロセスを変え
るなど、海外生産に対する認識を根本から
変えていく必要がある。中国沿岸部で作るも
の、内陸部・東北部、東南アジアへ移転さ
せるものの住み分けも、それらの要因が基準
となり決まっていくだろう。
また、
今の中国生産では
「持つものが強い」
。
生産キャパシティーにしても原料・素材にして
も、いかに早くジャッジして早く持つ(確保する)
か。中国・欧米勢はいち早く取り組みを強め
ている。我々も、リスクを考慮しながら「持つ」
ことも含め、今後もお客様に中国ならではの
便利さを維持できるよう努力していきたい。
出所:中国海関網、中国第一紡績網
ベトナム
① 人口:8579万人(2009年4月国勢調査)
② 一人当たり名目GDP:US$1169(ベトナム統計総局)
③ 最低賃金(外資企業)
:100∼134万ドン(2010年)から110∼155万ドン(2011年)に引き上げ(2010年10月29日政令)(1米ドル=約1万9500ドン)
ホーチミンのクリスマスイブ
(提供:ホーチミン日本商工会)
アパレル輸出の近況 対日アパレル生産
の約8割を占める中国における人件費上昇、
縫製業離れに加え原材料の高騰、内需拡大
の影響を受けベトナム生産へのシフトが急加
速している。ベトナムは、高級婦人アイテム
から量販向け、スポーツウエア、ワーキングウ
エアまで多岐にわたる生産を請け負っている。
ベトナムからのアパレル輸出額は2010年で
推定112億ドル(前年比23.2%増)。米国向
けが55%、EU16%、日本10%と、米国依存
度 が 高い。日本 向けは2009年10月の日越
EPA(経 済 連 携 協 定)発 効も後 押しし、
2010年1∼10月で約9億ドルと前 年 同 期 比
17%増加した。
一方で、中国同様ベトナムでも縫製スペー
ス争奪戦が始まっている。世界景気回復基
調に伴い、欧米勢がスペースを確保。小ロッ
ト、短納期に加え品質基準の厳しい日本向け
オーダーは倦厭される傾向にある。いかにし
て安定したスペースを確保するかが日本企業
にとって最重要課題となってきた。
生産商品の特徴 ベトナムではアウターから
インナー、布帛からカットソー、高級品から廉
価品まで、多種多様な縫製品の生産が可能
だ。以前はドレスシャツ、カジュアルパンツ、デ
ニムパンツ生産が中心だったが、ここ数年は
生産工程数の多いスーツ、スポーツウエア(ス
キーウエア)
、
インナーの生産工場も増えてきた。
一方、中国生産スペースのひっ迫でドレス
シャツ、カジュアルパンツ、ワーキングユニフォー
ムなどの注文の多くがベトナムに流れたため、
これらの大規模工場がホーチミン、ハノイ以外
の地方で増えてきたことも最近の特徴だ。これ
は大都市での縫製業とサービス産業との給与
水準格差などによる労働者確保の困難に起因
している。これらの傾向に伴いホーチミン、ハ
ノイ市内や近郊の小ロット対応が可能な工場
のスペースは、常にタイトな状況が続いている。
原材料調達の動向 他国に対する原材料
依存度は高い。中でも中国素材は金額にし
て5億3000万米ドル(2010年1∼10月)と全
体金額21億2400万ドル(同)の25%、韓国・
台湾を含めた上位3カ国では60%を占める。
日アセアン包括的経済連携協定(AJCEP)
発効後もアセアンからの素材比率は8%程度と
締結前のほぼ同水準だ。ベトナム素材も韓国
系、台湾系を中心に徐々に増えてきたが、
FOBビジネスに不慣れな縫製工場には素材
選定等のハードルが高く急増は見込めない。
韓国系ウールメーカーは欧米小売店向け
や日本のスーツ・ユニフォームアパレル向けの
数量を増やし、台湾系アウター用布帛メーカー
やニッターは欧米の大手スポーツアパレルや
小売店向けに実績を伸ばしているが、その
ほとんどがノンストレッチ。ストレッチの布帛生
地は品質面の不安、生産性から手がけない
工場が大多数で、婦人向け素材などの現地
調達は困難だ。
物流など貿易環境の整備 海上輸送は北
部南部ともに河川港のため大型船の接岸が
困難。フィーダー船(本船が寄港する主要
港から地方港への支線を結ぶ小型船)が中
心のため、各地への直行便数が限られる。
空輸はハノイ、ホーチミンともに便数が限られ、
かつ生鮮食品に多くのスペースが割かれるた
め慢性的にスペース不足である。
陸送は中国華南とハノイを結ぶ南北回廊、
タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムを結ぶ東西
回廊と整備が進みつつあるが、海上輸送と比
較してコスト高の状態が続く。陸海空と物流拠
点は依然課題が多く、原材料の乏しいベトナ
ム縫製業発展のためには物流・貿易環境の
一層の整備が今後の最重要課題の一つだ。
◇
ベトナムには生産スペースの確保、コスト高と
いう問題が横たわるが、生産スペースは機械
投資、技術者の派遣など人とモノを有効活用
して確保している。また、ライン契約など事前
にスペースを確保する手法をとる企業も多い。
コスト高については人件費高騰とFOBビジ
ネス化がある。2011年1月から最低賃金が約
15%引き上げられるなど、各工場はワーカー
の確保のため給与面を非常に重視している。
ベトナムは素材背景が乏しいため、従来日本
企業は来料加工(素材を日本や中国などか
ホーチミン事務所 山
口 大輔
左から3人目が筆者
ら無償支給し、ベトナム工場には加工賃のみ
を払う取引)を行ってきたが、最近FOB条件
での取引を希望する工場が増えてきた。取引
額の増加と生地部分でも利益を確保しようと
いう工場、さらには国の狙いが読み取れる。
ベトナムは、チャイナ・プラスワン候補の中
でもインフラ、縫製技術、生産性に加え、日
本への船足の速さ、識字率96%(アセアン2
位)を誇る民度の高さなど、比較的条件が
整っている。スペースやコスト問題を客先と話
し込みながらうまくマネージできれば、品質で
は日本の百貨店レベルも可能なほど高いベト
ナムは、中国の次のスペースとして、積極的
に有効活用すべき国であるといえよう。
米ドル
ベトナム
一人当たりの名目GDP推移
3,000
2,500
ホーチミン
2,000
1,500
全ベトナム
1,000
500
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009
*出所:ベトナム統計総局、ホーチミン市統計局
6
2011年2月号
F
ashion
Report
No.566
ファッションリポート
matohu(まとふ)「慶長の美」展レポート
時空を超えて日本の美意識を現代のファッションに落とし込む
伊藤忠ファッションシステム㈱ ブランディング第1グループ コミュニケーションプランニング 砂原 朝美
[email protected]
日本に根づく美意識を現代のファッションを通して表現し、国内外で着実に評価が高まって
いるmatohu(まとふ)。ブランドを立ち上げた2005年から5年間、10シーズンかけて展開して
きたテーマ「慶長の美」のシリーズが2010年春夏で完結し、その集大成となる「慶長の美」
展が1月にスパイラル(青山)にて開催された。グローバルで同質化が進み、日本独自のクリ
エイションが問われるなか、一貫して独自のアプローチでファッションの意義を問いかける彼らの
存在感は際立っている。
めまぐるしく変わるファッショントレンドとは一
ズン変わることのないデザインで作られている
線を画し、独自の立ち位置からファッションの 「長着(ながぎ)
」
。各テーマが一番色濃く反
根源的な存在意義を問うmatohu。ブランド
映されているアイテムだ。着物でも洋服でもな
名には日本独自の概念である「纏う」と、性
い、そ れらを 超 えた 新しい 提 案 で あり、
急に消費し捨てるのではなく長いスパンで美
matohuのオリジナルな服として継続して作ら
意識が成熟するのを「待とう」という、ふた
れている。会場では、毎シーズンの長着とテー
つの意が込められている。
マとなった慶長時代の美術作品が展示され、
その名に込めたコンセプトが示すように、 それぞれの製作過程が映像や素材とともに紹
matohuは立ち上げ以後、5年間にまたがる
介された。思い描くイメージが服に落とし込ま
テーマを設定し、10シーズンかけて深掘りす
れるまでには、染め、織り、
プリント…と実に様々
るという手法をとった。桃山時代後期から江
な技法が使われていることが分かる。
戸時代はじめの慶長時代(1596∼1615)に
ファーストコレクションとなった2005年秋冬
フォーカスし、10シーズンにわたって「慶長」 (右上写真)は、慶長時代を代表する陶器、
のトピックスをファッションデザインに落とし込み
織部焼がモチーフ。黒や緑の色味、自由な
展開してきた。その集大成となる「慶長の美」
発想の幾何学的文様、わざとゆがませた形
展では、日本古来の文化が時空を超えて現
など、ユニークなデザイン要素を長着に落と
代と交差することで、その美しさを再発見さ
し込んだ。白の柄は和紙を糊付けして手でち
せられるとともに、ファッションが時を経て積み
ぎり取った特殊なプリント。職人と試行錯誤を
重なった美意識をまとうことでもあることに気づ
繰り返 すことから実 現された確 かなクオリ
かされる。
ティーには定評がある。
展覧会を構成する骨格となるのは、毎シー
5年の「慶長」シリーズが完結した2010年
©Keisuke Akabane
matohu
堀畑裕之は同志社大学
大学院を修了後、関口真
希子は杏林大学を卒業後、
ともに文化服装学院アパレ
ルデザイン科メンズデザイン
コースで学ぶ。1998年に
卒業後、それぞれ別々のデ
ザイナーズブランドでレディスとメンズのパタンナーとして5
年間勤める。退職後の2003年、ともに渡英、ロンドン
のデザイナー、Bora Aksuの04-05A/Wコレクションの
仕事に携わる。帰国後の2005年3月 05-06A/Wより
matohuをスタート。2009年 毎日ファッション大賞新人
賞・資生堂奨励賞を受賞。
©ヤマザキハヤト
秋冬からは、「日本の眼」をテーマに掲げ、
日本古来の美意識である
“かさね”
を現代的
にとらえ直した
「かさね秋冬」
(10年秋冬)、
「か
さね春夏」
(11年春夏)を発表した。現代
の東京の日常的な情景の中で美しいと感じら
れる色を取り出し、新しい“かさね色目”
を服
をキャンバスとして表現することで今を生きる
我々の生活風景とリンクさせていく。服として
美しいだけでなく日常着として着られる服─
matohuの挑戦は第2幕へと進んでいる。
最 終 章 となった
2010年春夏のテー
マはファーストコレク
ションと同じ「織 部
各シーズンのテーマが解説された案
Ⅱ」。matohuのイン
内状を、5年間つなげた「慶長の美
スピレーション源であ
絵巻物」
。グラフィックデザインに凝っ
1月8日∼19日までスパイラルガーデンにて開催された「慶長の美」展
た10mに及ぶ絵巻物は圧巻
Japan Fashion Week in Tokyo
第12回 東京発「日本ファッション・ウィーク」
参加ブランド決定!
日本のクリエイションを国内外に発信し、ファッション産業を活性化させる日本最大の“ファッ
ションの祭典”、Japan Fashion Week in Tokyo。3月に開催される第12回JFW in Tokyo
に参加するブランドがリリースされた。上欄でレポートしたmatohuをはじめ、ファッション業界で
活躍が期待されるブランドが、ランウェイをはじめ様々な表現にチャレンジする場となる。ぜひご
注目いただきたい。
参加ブランド
主催
2011 年3 月18 日
(金)
∼25 日
(金)
一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構
東京コレクション・ウィーク
開催日
会場
ファッションショー、
インスタレーション、映像配信
3 月22 日
(火)
∼25 日
(金)
東京ミッドタウン・ホール Hall A、他会場
★Japan Fashion Weekに関する詳細情報は随時公式サイト(http://www.jfw.jp/)にて更新中。Twitter:@jfw_official
(2011年1月20日現在)
ブランド名
デザイナー名
L/M ブランド名
androgyne
根本 聖則
L
matohu
堀畑 裕之 / 関口 真希子
L/M
araisara
荒井 沙羅
L
mintdesigns
勝井 北斗 / 八木 奈央
L/M
デザイナー名
芦田 多恵
L
森崇
L/M
L
L/M
Aria Company
松永 勇真
L/M MISS ASHIDA
ato
松本 与
M
beautiful people
熊切 秀典
L/M motonari ono
小野 原誠
corazon del alma
小井 庸嗣
L/M Naoshi Sawayanagi
Naoshi
L
Etw.Vonneguet
Olga
L/M Né-net
髙島 一精
L
村松 啓市
L*
PHENOMENON
Takeshi Osumi
M
L
Projecto Mental
Tekasala Ma'at Nzinga /
Shunnoz Fiel
M
SHIDA TATSUYA
信太 達哉
L
everlasting sprout
fur fur
チダコウイチ
(ディレクター名)
MOLFIC
G.V.G.V.
MUG
L
GUT'S DYNAMITE CABARETS
CABARET AKI /
JACKAL KUZU
L/M SOMARTA
HEADL_INER
吉田 狼鐘音
HIROKO KOSHINO
コシノヒロコ
HISUI
伊藤 弘子
L
IN-PROCESS BY HALL OHARA
スティーブン ホール /
大原 由梨佳
L/M THEATRE PRODUCTS
jazzkatze
周布 歩美
Johan Ku
第12 回JFW in Tokyo 概要
会期
りコンセプトそのもの
@Japan Fashion Week Organization
廣川 玉枝
L
support surface
研壁 宣男
L
M
suzuki takayuki
スズキタカユキ
L/M
L
The Dress &
Co. HIDEAKI SAKAGUCHI
坂口 英明
L
武内 昭 / 中西 妙佳
L
TOKUKO 1er VOL
前田 徳子
L
L
yoshio kubo
久保 嘉男
M
Johan Ku
L
YUIMA NAKAZATO
中里 唯馬
M
JUNYA TASHIRO
田代 淳也
L/M Yukiko Hanai
花井 幸子
L
KAMISHIMA CHINAMI
カミシマ チナミ
L
KEITA MARUYAMA TOKYO PARIS 丸山 敬太
L/M
* 映像配信
Fly UP