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早稲田大学 教師教育研究所 第 3 回スモールフォーラム 報告 「生徒

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早稲田大学 教師教育研究所 第 3 回スモールフォーラム 報告 「生徒
早稲田大学 教師教育研究所 第 3 回スモールフォーラム 報告
「生徒・社会・教師の絆による主体的な学びのプログラム」
講師 谷口 理(客員研
究員・高校教師)
1 日時 2004年11月22日(月) 午後 3 時∼午後 4 時 30 分
2 場所 早稲田大学教育学部大会議室
報告者の勤務先である松蔭高校で実践してきた「チャレンジプログラム」の実践報告を
元に、パワーポイントのスライド約70枚を使い、これからの教育に対して求められてい
ることを話す機会を持ちました。以下、その内容の一部を報告いたします。
チャレンジプログラムとは、いろんなことに好奇心を持ち、考え、新たなことに気づき、
卒業後の人生に向って、生きる力や人間性を高めていくために、高3の後半に感動的な
各種体験活動プログラムを用意する各種体験活動群で、内容は、奉仕・異年齢交流・国
際・社会参加・芸術・文化教養と多方面にわたって実施してきた。1年目は、まずはやっ
てみようと言うことで出発した。『感謝フル清掃』と言うプログラムでは、校内から校外(地
域)へ出て行くことの大切さに気付き、地域の方と触れ合うことで得るところを実感した。
『校内図書館司書体験』では、生徒のアイデアがプログラムをどんどんふくらませていっ
た。2年目は、『ふれあいナース体験』『子供と遊ぼう』と言ったプログラムが新たに生ま
れたが、看護そのもの、保育そのものを学ぶことが目的ではなく、看護や保育体験をし
ていく過程で、ふれあいやコミュニケーションの難しさや重要性に気付き、人と共に生き
ていく力を養いたかった。要するに、プロセスを大切にした。3年目は、『中1英語授業ア
シスタント』『私も憧れの上級生』『キャンプリーダ候補生集まれ』等、異年齢交流の機会
を与えた。同一年齢集団から、異年齢集団、縦割り集団の中に入ることで 、上級生は、
リーダーシップやメンバーシップを発揮し、責任、個性、協調性等を向上し、下級生は、
憧れ具体的目標を持って、その後の学校生活へのモチベーションを向上させる機会に
なった。中高一貫教育としてのメリットとしても意味があった。また、『インターナショナル
スクールで国際交流』、入院患者とのふれあい、幼稚園児との交流、下級生への授業ア
シスタント、京都旅行、生け花、着付け、伝統文化体験等、他者理解と自己理解のため
のプログラムも多く生まれた。これは、多様な世界の中で共存していくには多様な価値
観の理解が必要で、そのためには他者を理解し、自己を理解し、違いを理解する力が
不可欠と考えたからだ。4年目は、素晴らしい生徒達との出会いもあって、一気に規模
が拡大した(1年目は9つのプログラムに延べ103人の参加だったが、4年目には70の
プログラムに延べ2400人の参加になった)が、幾つかの柱となる趣旨が各プログラム
にはあった。
① まずは、スーパープロフェッショナルから学ぶ機会を与えたいということで、「生き方上手」の
著者、日野原重明氏と、報道最前線の熱血キャスター、黒岩祐治氏に会う機会を設けた。
事前学習会として、最低4冊の著書や両氏に関するホームページ内の文章を読み、生きる
意味、夢や希望、幸福感、終末医療、奉仕、介護、死と言った生き方に関することを語りあ
った。事後感想には、<「みんな、最初は素人。失敗してもやり直せる。勇気を持って挑戦し
なさい」と言う言葉が残りました。いつも失敗を恐れていた自分だったけど、これからは、勇
気を持って精一杯生きていこうという気になりました。>という風に、生き方に対する考え方
の変化さえ見られた。生き方を変えるには、教科指導だけでは限界がある。教科を横断し
た総合学習等でも教師を含めた学校の財産には限界がある。人的にも学校の壁を越えて、
スーパープロフェッショナルを活用すべきで、プロフェッショナルと生徒達の出会いやふれあ
いの機会を「コーディネート」することがこれからは必要になっていく。
② 異年齢交流の機会となるプログラムも増やした。例えば、理科実験助手、数学の計算アドバ
イス、親のいない子供達の施設に行ったり、大学のサークル活動に参加等。中でも、小学
校へ行ってスクールアシスタントは得るところが大きかった。少子化の時代、異年齢集団へ
の無理解や交流の機会欠如から、社会的な事件さえ起きている。なんとしても、生徒達の
異年齢交流への意欲を形にしていきたかった。また、国語では読み聞かせをし、算数では
計算のアシストをしたが、受験のためでなく、自分の知識や学びが何のためにどのように生
かされるかが分かった上での、目に見える形での学びを、日常的に学校現場で設けていく
べきだろう。事後アンケートである生徒は書いた。<私には小4の弟がいて、普段は「なぜも
っとしっかりできないのかなぁ」と思っていましたが、今回 40 人の子供達と過ごして、自分が
高3の目で弟を見ていたと気づきました。「小学生なら大体これだけできたら十分」「弟の純
粋な心を大事にしてあげよう。かつて私も持っていたはずなんだから」そんな新しい見方が
できるようになりました。>要するに、他者である異年齢の小学生の純粋さを理解した上で、
その純粋さはかつて自分にもあったと自己を再認識し、それが、他者への理解共存への第
一歩となる機会になった。
③ これからの変動の早い社会でたくましく生きていき、豊かな社会作りに貢献していくには、
「伝えあう力」を育てる必要がある。そこで、教室と言う狭い空間でなく、実際の職場で職業
人と交流する機会として、地元神戸のベビー用品大手メーカー「ファミリア」で新商品の開発
に参加したり、JTBでツアーパンフレットを企画作成するプログラムを設けた。事前に班単
位でアイデアを考えていって、その後、会社内で、プロのデザイナー等のアドバイスを受け
た上で、最後にはプレゼンをした。物作りをさせると、創造性や個性があふれた。 <自分
が言ったことに対して真剣に質問してくれたのが、とてもうれしかった。>お互いの考えを真
剣に聞いた上で、自分の考えたことや言いたいことを伝える。「伝えあう力」の醍醐味と素晴
らしさを学ぶ機会になった。単なる企業体験や職業体験ではなく、感性をフルに生かし、企
画力やプレゼンテーション能力といったコミュニケーヨン能力を磨く。ただ、このためには、企
業や社会や地域が協力連携するという企業の学びへの参画への意識も求められる。5年
目には、神戸の地場産業の真珠会社や、神戸大丸百貨店でのバレンタインデイ展示会の
企画のアイデアを出すなどのプログラムも予定している。
④ 他人のために役立てたということで自分の存在価値が高まる。変化の激しい社会では弱者
と言われる人が生まれてくる。そこで、「伝えあう力」と同時に、「支えあう心」がこれからの変
動の早い社会で求められる。そこで、奉仕・感謝プログラムも増やした。代表的なのは、病
院等に行って歌や演技で入院患者さんを励まそうという「愛のキャラバン隊」と言うグループ
によるプログラム。総勢30人以上で、歌唱指導は元コーラス部の生徒であったり、訪問先
の年齢に応じた選曲、メッセージカード、カンパした金で癒しの造形制作、手作りのポスター、
歌をテープに吹き込んでプレゼント等、アイデアが次々出てきた。すべて生徒主体だった。
愛のキャラバン隊は、まず『震災復興住宅』を訪問した。震災から9年、震災体験が風化。
一方で、街は外見上復興したが、復興住宅など新しい住まいでの孤独等コミュニティーの問
題が山積している。各テーブルで、お茶菓子を食べながら、共に、歌、手品、世間話をし、
「ありがとう」「ありがとう」と口々に言ってもらい、何人もの生徒が涙した。このような交流体
験が、今学校教育では極度に不足しているのではないだろうか。愛のキャラバン隊は、次に、
『幼稚園』に行って、園児と交流した。真剣に聞いてくれたことへのうれしさ、逆に園児達から
歌をプレゼントしてもらい、歌を通して伝えあうすばらしさを実感してここでも涙が流れた。愛
のキャラバン隊が最後に行ったのが『病院コンサート』。「川の流れのように」では、通路に
入っていって、患者さんの横にしゃがんで歌った。自然に患者さんも歌詞カードを力強くか
かげたりして、皆が歌い出した。「ありがとう」の言葉を何度もかけられて、逆に励まされて、
涙、涙の合唱となった。数日後、匿名の手紙が何通も届いた。生徒達は、ボランティアが双
方向になされることや、「支えあう」ことのすばらしさを実感した。地域の方々は、知名度の
高いプロフェッショナルからと同じほど、多くのことを学べる人材でもある。
『国際災害報告を翻訳しよう』(翻訳ボランティア)では、「募金と違い直接自分が国際貢
献出来ました。」というように、国際貢献への第一歩を踏みだし、その後も活動を継続した生
徒もいた。このプログラムでも、教室での学びが社会で生かせることを実感できる機会とな
った。
自分達で活けた花に、メッセージカードと歌を添えて、近隣感謝訪問する『花の天使∼フ
ラワーボランティア』と言うプログラムも生まれた。<お互い制服で、いつもは距離があった。
でも、花とカードを渡し、歌を歌い、感謝の言葉を交わすことで、身近に地域の人と触れ合え
ました。>近くて遠い地域(学校の壁)を超える試みの重要性を痛感した。
他にも、近隣べーカリーの手伝い、スーパー手伝い、介護教室、阪急神戸線の駅清掃等、
地域の人々との交流も増えた。パッチアダムスという医者も言っているが、世界の教育には
「愛のカリキュラム」と言えるものがない。変化の激しい社会で、弱者の立場に置かれた人た
ちが増加する中、「支え合う心」の育成が急がれる。
⑤ 『花と遊ぼう』『すくすく赤ちゃんセミナー』『着物夢体験』『エレガントマナー講習会』『一流ホテ
ルで接客業』「和食マナーレッスン」「訪問マナーレッスン」「結婚式等パーティーマナーレッ
スン」等、マナー・素養をプロから学ぶ機会も増やした。『楽屋見学 of 文楽』『能舞台に立と
う』『南中ソーランダンス』『
that’s ミュージカル』等、芸術分野のプログラムでは、実際に人形
に触れたり、自分で能面をつけて能舞台を歩いたり、神戸の中心街で踊ったり、能動的に自
らも創造、表現する機会を設けた。これから余暇の時間が増加する中、これら主体的な芸
術鑑賞が求められていくだろう。
学びは受験や卒業で終わってはならない。チャレンジプログラムの経験者は、大学生に
なっても、その活動を続けた。『愛のキャラバン隊』は復活したし、高大連携の一貫として、
大学生もチャレンジプログラムに参加できるようになった。各プログラムの受け入れ先団体
や企業との準備や交渉で企画力向上等、大学生活の活性化も目指している。
ここまで、この4年間のチャレンジプログラムの実践例を話してきたが、それを踏まえて、
これからの教育のあり方について短くまとめてみた。
まず、文部科学省でよく言われている生きる力だが、FEEL&THI
NKが重要だと考える。
知識そのものではなく、知識を生かす力として、ものを「考える」力。その根底には「感受性」
が必要だ。ただ、それはあくまでも「個人」の力であり、個人の力も社会の中でこそ生かされ
るべきだ。では、現在の社会はどんな状況なのか。大雑把な見方になるかもしれないが、
「多様性と変化の時代(社会)」と思う。多様な社会を生きて行くには、他者理解も含めて、
「伝えあう力」を伸ばさないといけない。そのためには、企画発表体験等、企業での学習の
場の提供が求められる。変化の激しい時代では弱者が生まれる。その中では、「支えあう
心」を伸ばす必要がある。そのためには、身近な双方向のボランティアの機会を与えるべき
だ。さらに、ネット社 会では、かつての「読み・書き・そろばん」に当たるディア・リテラシーを育
てる必要があろう。そのためには、ネットワークインフラを使って、年齢・職業を超えて、校外
の人と意見交換することも求められる。以上、今、求められている生きていく力として、私は
「感じる」「考える」「伝える」「支える」「表現する」これらの能力を「循環」させることが必要と
考える。
では、生きる力の循環を生むにはどうしたらいいのか。ただ、その際に焦ってはならない
と思う。今すぐにすべてを理解しなくても、何かに「気付く」ことが必要だと思う。知識や情報
が水、肥料とするなら、気づくことは種蒔きとも言える。いかに多くの「気づき」の機会を与え
るか。これが学校教育の使命かもしれない。そして、そういう気付きの種を蒔き、「感じる」
「考える」「伝える」「支える」「表現する」これらの生きる力を、育てていくには「感動」体験が
必要で、そのためには、主体的(生徒主役)に取り組める魅力的な「体験」学習が求められ
る。それに、生徒を主役にすれば、「自尊心、他者への配慮、責任感、支えあう心、伝えあう
心、自信」が復活し、いじめや不登校も減っていく可能性がある。実際、チャレンジプログラ
ムでは、欠席が多く卒業さえ危ぶまれた生徒が毎日のように参加していた。しかし、そのよ
うな、感動を呼ぶ魅力的で多様な体験学習機会を提供するには、社会全体が連携しての大
きな学びの共同体を構築することが求められる。施設・人材・学習期間すべてにおいて、教
育はボーダレスな時代に入ろうとしていて、社会をあげての、「広く社会の人材や場所」の協
力・活用・絆が求められる。教育参画への意識改革が行われる必要がある。
それでは、学校や教師はこれからの教育においてどのような役割を担っていく必要があ
るのだろうか。私自身、進学校で6年間を過ごした。知識教育が重要な側面を持っているこ
ネットワーク
とも否定はしない。ただ、学びの共同体のコーディネートが学校の使命として欠けていること
を指摘したい。教師は、たいていの場合、大学を出て企業などで社会人経験もないまま教
壇に立つ。しかし、教科や限られた指導におけるプロフェッショナルであるにすぎない。社会
に出たときに何が必要かまで教えるのは、限界がある。まず、このことを認めるべきだろう。
その上で、知名度にかかわらず、プロフェッショナルと言える優れた人材との接触や、社会
ネットワーク
を実感しながら「生きる力」を伸ばせる企業での活動等、広く社会全体に学びの 共同体を築
き、学ぶ機会を「コーディネート」する。これこそが今後の学校と教師の大きな使命であろう。
4年間の「チャレンジプログラム」の実践において、生徒の様子を見ていてそのことを痛感し
た。学力向上か、ゆとり教育かと言う二者択一的な考え方は危険だ。これからの教育は、学
校内にとどまらず、社会や時代の中で、議論され、提言されるべきだ。
教育は社会全体でと言う「共育」の意識と姿勢を、社会のすべての人が持って、学びの
ネットワーク
共同体に参画する。学校や教師は、知識を与える一方で、それを生かすための主体的な力
を育む機会や、気づきの種を蒔く機会を、構築「コーディネート」し、提供していく。そして、
「感じる」「考える」「伝える」「支える」「表現する」といった、生きる力の連鎖を社会全体で共
に育てていく。以上を、これからの教育に対して提言したい。
この度、私の教育活動体験を元に、教育に対する提言を早稲田の後輩達に語りかけると
いう貴重な時間を持てたこと、そして、母校早稲田に少しでも恩返しが出来たことは、うれし
い限りです。ここ数年、ひたすら走り続けてきた自らの教育活動を振り返るという意味でも、
とてもいい経験になりました。ただ、チャレンジプログラムがここまでのものになったのは、す
べて、素晴らしい生徒達との出会いのおかげと思っています。今回の資料を準備しながら、
チャレンジプログラムの趣旨を最も理解してくれたのは、前向きに取り組んだ生徒達だと改
めて思いました。感謝をしたいと思います。
なお、「チャレプロ・ネットワーク」(http://www.opinet.jp/blues)では、チャレンジプログラム
に参加した生徒学生、関わった企業やプロフェッショナルな方々が多くの意見交流をしてい
ます。早稲田大学の教師を目指す学生も、どんどん書きこみ参加していただけたらと思いま
す。
ま た 、 松 蔭 高 校 チ ャ レ ン ジ プ ロ グ ラ ム の H P
(http://www.shoin-jhs.ac.jp/nextstage/challenge/index.html)もご覧下さい。
(文責 谷口 理)
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