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詳細 - 公益財団法人 松下幸之助記念財団

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詳細 - 公益財団法人 松下幸之助記念財団
助成番号
11-027
松下幸之助記念財団 研究助成
研究報告
【氏名】河原大輔
【所属】(助成決定時)ロチェスター大学大学院視覚文化研究科
【研究題目】
立体映画の技術実践に関するメディア考古学的研究―コダック・コレクションの発掘調査を中心に―
【研究の目的】
21 世紀を迎えた現在、デジタル映像技術の発達は我々の視覚意識とそれに関するパラダイムに大きな転回をもた
らそうとしている。とりわけ立体(3D)映像技術は、商業映画の興行的成功もあり、現代の映画製作における技術革
新を象徴するものとして、映像の平面性を克服するその革新性が強調されている。しかしながら、現代の立体映画
が 1950 年代に一時的に流行した視覚的見世物装置のノスタルジックな復活であることは指摘されることはあっても、
それが映画前史を含めた 19 世紀末から映画史初期に至るまで頻繁に制作され、現代の視点から考察すると強い
既視感を引き起こすような言説体系を形成していたことは従来の映画史及び映像文化史において十分な検討がな
されていない。本研究は立体映像文化によって形成される現代の大衆の視覚意識を大衆の映像の三次元に対する
欲望とその言説化の歴史的反復と捉え、それを映画史初期の立体映像に関する技術実践及び大衆の技術体験を
めぐる言説、受容形態との比較検討から考察することを目的とする。
【研究の内容・方法】
本研究は、(1)アーカイブ調査による映像一次資料の発掘、閲覧、(2)言説資料の収集、分析、(3)文献資料の精
読から構成され、それぞれ以下のように実施された。
まず、アーカイブ調査に関しては、アメリカ国内および海外のフィルム・アーカイブで映像一次資料の調査・分析を実
施した。2011 年 11 月に、ジョージ・イーストマン・ハウスにおいて、1999 年に修復・保存されたウィリアム・クリスピネ
ルによる立体視映像のテスト・フッテージ(c1921 年)を閲覧し、商業化以前の立体視映像の技術実践においてどの
ような可能性が探られていたのかを分析した。フランスのロブスター・フィルムズからは 1960 年代のソ連で製作され
た Parade of Attraction など立体映像コレクションの一部の提供を受けた。またシネマトグラフの発明者として知られ
るリュミエール兄弟が 1935 年にパリの科学アカデミーで発表した立体視映像がフランス国立映画センター(CNC)に
収蔵されていることを確認した(予算の都合上調査旅行は実施できなかったが、2013 年夏に調査を行う予定であ
る)。2012 年 8 月には、日本の映画製作者の立体視への関心を示す例として、京都市文化博物館の「伊藤大輔文
庫」に収蔵されている映画監督伊藤大輔が撮影、収集したステレオ写真の閲覧を行った。言説資料の収集に関して
は、2004 年にイーストマン・コダック社からロチェスター大学に寄贈された膨大な社内資料および実験報告書などの
オリジナル原稿を収蔵した「コダック・ヒストリカル・コレクション」の調査を継続的に行い、立体視装置の歴史的な受
容に関する社内調査レポートやレンチキュラー方式の写真印刷技術に関する報告書等を収集、分析した。また、立
体映像技術の開発、発表、興行および大衆の受容の諸相を明らかにすべく、ジョージ・イーストマン・ハウス附属図
書館において調査を実施し、業界専門誌、新聞記事等の言説資料を収集した。また、アメリカ芸術科学アカデミー附
属マーガレット・ヘリック・ライブラリーの収蔵資料の確認も行い、複写委託サービスを利用して、その一部を入手す
ることができた。
最後に、これまで行われてきた理論家による立体映像に関する議論を分類・整理し、アーカイブ調査および言説分
析から得られた結果と文献分析による理論的考察との比較検討を行った。
【結論・考察】
1950 年代や 80 年代に散発的に流行したギミックというイメージとは異なり、立体映像に関する技術実践は映画史を
通じて途切れることがなかった。もちろん技術的限界等の原因により、立体映像技術が規範的な映画様式に取り込
まれることはなく、歴史的に周縁的な技術としての他者性を付与されてきた。しかしながら、そのような制度化された
美学からは漏れた他者性、非規範的性格こそがアヴァンギャルドや非主流的な製作者を惹きつけ、映像実践にお
いて政治的に活用され、想像されてきたことが今回の調査によって確認され、立体映像実践の歴史的重要性が明
らかにされた。とりわけ、今回集中的に調査した 1890 年代から 1920 年代の立体視映像の技術的可能性をめぐる言
説空間においては、映像の量感、可塑性、触覚性など、現代映画(とりわけデジタル3D映画)をめぐる議論の中核
をなす諸問題が提起されており、現代の映画文化との歴史的連続性を発見することができた。言説分析の対象を
広げる必要があること、フォト・スカルプチャーなど他技術との影響関係をより注意深く検討すること、およびフィル
ム・アーカイブにおける立体映画および歴史的な立体視装置への限定されたアクセスなどの課題も残ったが、今回
の調査結果は近く学術論文としてまとめられ、発表される予定である。
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